説明

アルミニウム−炭化珪素質複合体及び伝熱部材

【課題】熱が伝わった際に安定的に反りが発生するアルミニウム−炭化珪素質複合体、及びこれからなる伝熱部材を提供する。
【解決手段】Al−SiC複合体1は、SiC多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸したものであり、50℃〜150℃における熱膨張係数が6ppm〜9ppm/Kである第1の層2と50℃〜150℃における熱膨張係数が層2よりも4ppm/K〜8.5ppm/Kだけ大きい第2の層3とを備える多層構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム−炭化珪素質複合体、及びこれからなる伝熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車両、電気自動車、鉄道車両などには、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの電力用半導体素子(パワーデバイス)を実装したパワーモジュールが搭載されている。半導体素子が発生する熱を放熱拡散させる放熱部材と、半導体素子が搭載されるセラミックス基板との間には、通常、熱を速やかに放熱部材に伝熱する伝熱部材を介在させている。セラミックス基板と伝熱部材とははんだ付けやろう付けで接合される。
【0003】
半導体素子の動作に伴う繰り返しの熱サイクルによって接合部でクラックが発生することを防止するために、セラミックス基板との熱膨張率差が小さいアルミニウム−炭化珪素質複合体からなる伝熱部材を用いることが多い。アルミニウム−炭化珪素質複合体は軽量である点も利点である。
【0004】
ところで、放熱部材と伝熱部材とは、通常、複数のボルトで取り付けられている。しかし、放熱部材と伝熱部材との間に隙間が生じた場合、伝熱効率は著しく低下する。そこで、伝熱部材の放熱部材側の面に予め凸状の反りを付け、その反発力を利用して、隙間が生じることを防止することが提案されている。
【0005】
この反りは、所定の形状を有する治具を用いて、加熱下、伝熱部材を加圧することによって形成している(例えば、特許文献1参照)。また、伝熱部材の表面をダイヤモンドなどからなる切削工具で切削加工して反りを形成することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3792180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、治具を用いて高温高圧化で反りを形成する場合、反り量を調整することは困難であり、且つ反り形状が一定せず反り面に凹凸が生じるので、放熱部材と伝熱部材との間に隙間が生じるおそれがあるという問題がある。
【0008】
また、切削加工で反りを形成する場合、アルミニウム−炭化珪素質複合体は非常に硬いため、切削コストが非常に高くなるという問題がある。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、熱が伝わった際に安定的に反りが発生するアルミニウム−炭化珪素質複合体、及びこれからなる伝熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体は、炭化珪素多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸したアルミニウム−炭化珪素質複合体であって、50℃〜150℃における熱膨張係数が6ppm/K〜9ppm/Kである第1の層と、50℃〜150℃における熱膨張係数が前記第1の層よりも4ppm/K〜8.5ppm/Kだけ大きい第2の層とを備える多層構造であることを特徴とする。
【0011】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体によれば、第1の層と第2の層との熱膨張係数との間に所定の差があるので、温度上昇したとき、温度に応じた反りが安定的に発生し、常温では反りが発生しない。
【0012】
本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体において、前記第1の層の炭化珪素充填率が65%〜85%であり、前記第2の層の炭化珪素充填率が前記第1の層よりも10%〜50%だけ小さいことが好ましい。この場合、前記熱膨張係数を有する第1の層及び第2の層を確実且つ容易に形成することができる。
【0013】
また、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体において、前記第1の層は多粒度配合の炭化珪素粉末を原料粉末とする型成形体を焼成した焼結体からなり、前記第2の層は一粒度配合の炭化珪素粉末及び金属粉末又はカーボン粉末を原料粉末とする型成形体を焼成した焼結体からなることが好ましい。この場合、前記炭化珪素充填率を有する第1の層及び第2の層を容易に形成することができる。
【0014】
また、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体において、前記第1の層と前記第2の層との間に、80重量%を超える金属を含む金属層が介在しないことが好ましい。この場合、金属層によって熱伝導が阻害されないので、伝熱性能が優れたものとなる。
【0015】
本発明の伝熱部材は、第1の主面がセラミックス基板と接合され、前記第1の主面と反対側に位置する第2の主面が当該伝熱部材に複数の固定部位で固定される固定部材と接触し、本発明のアルミニウム−炭化珪素質複合体からなる伝熱部材であって、前記第1の層の表面に機械加工を施して前記第1の主面とする共に、前記第2の層の表面を表面粗さRaが3μm以下になるように機械加工を施して前記第2の主面とすることを特徴とする。
【0016】
本発明の伝熱部材によれば、第1の層と第2の層との熱膨張係数の相違によって、伝熱部材に熱が伝わったとき、固定部材側に凸となる反りが温度上昇に応じて安定的に発生する。そして、伝熱部材は複数の固定部位で固定部材と固定されている。そのため、固定部位間で第2の主面と固定部材の密着は高く且つ温度が高くなるにつれて強くなり、伝熱部材と固定部材とが確実に接触する。さらに、第2の主面の表面粗さRaが3μm以下であるので、反りによる伝熱部材と固定部材との密着がより良好となる。
【0017】
また、本発明の伝熱部材において、前記第1の主面を加熱したとき、前記第2の主面に100℃−200mm当り3μm〜8μmの反りが発生することが好ましい。反りが3μm未満では、伝熱部材と固定部材とのと良好な密着が得られない。また、反りが8μmを超えると、伝熱部材とセラミックス基板との接合部に影響を及ぼし、剥離が生じるおそれがある。
【0018】
また、本発明の伝熱部材において、前記第1の主面を300℃に加熱したとき、前記第2の主面の温度が250℃以上であることが好ましい。この場合、伝熱部材の伝熱性能が優れていることが確保される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るAl−SiC複合材の概念縦断面図。
【図2】Al−SiC複合材の作製方法を説明するための概念縦断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る伝熱部材の使用状態を説明するための概念縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るアルミニウム−炭化珪素質複合体1(以下、「Al−SiC複合体1」という)について説明する。
【0021】
図1に示すように、Al−SiC複合体1は、炭化珪素(SiC)多孔体にアルミニウム(Al)を主成分とする金属を含浸した多層構造であり、50℃〜150℃における熱膨張係数が6ppm/K〜9ppm/K、好ましくは6.5ppm/K〜9ppm/K、より好ましくは7.1ppm/K〜8.8ppm/Kである第1の層2と、50℃〜150℃における熱膨張係数が層2よりも4ppm/K〜8.5ppm/K、好ましくは4.5ppm/K〜8ppm/K、より好ましくは4.9ppm/K〜7.7ppm/Kだけ大きい第2の層3とを備えている。
【0022】
アルミニウムを主成分とする金属とは、アルミニウムを80重量%以上、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上含む金属であって、極端に特性が変化しない範囲であれば含まれる金属成分は特に限定されず、鉄や銅等が含まれていてもよい。
【0023】
アルミニウムとSiCとの複合材では、SiCの充填率が10%増えると複合材の熱膨張係数が2ppm/K〜3ppm/K低下する。そこで、層2のSiC充填率を65%〜85%、好ましくは67%〜81%、より好ましくは70%〜80%とし、層3のSiC充填率を層2よりも10%〜50%、好ましくは15%〜40%、より好ましくは18%〜37%だけ小さくすれば、各層2,3の熱膨張係数を上記のようにすることができる。
【0024】
SiCの高充填化は、SiC成形体(プリフォーム)の成形時に粗い粒子と細かい粒子とを混合した多粒度配合のSiC粉末を使用することにより調整できる。一方、SiCの低充填化は、成形時に粒度が単粒のみ、即ち一粒度配合のSiC粉末を使用して、さらにアルミニウム粉末やカーボン粉末を添加することにより調整できる。
【0025】
通常、多層構造のAl−SiC複合材を作製する場合、SiCの充填率が異なるSiC成形体を別個に作製し、これらのSiC成形体を積み重ねた状態でアルミニウムを主成分とする金属を含浸させることが考えられる。しかし、この方法では、SiC成形体の間に金属層が形成され、熱伝導の阻害や、熱膨張係数差により発生した反りによってクラックが発生するおそれがあるなどの問題が生じる。
【0026】
そこで、Al−SiC複合体1は、振動成形法を用いて、高充填率の層2と低充填率の層3とを一体的に成形して作製することが好ましい。これによれば、SiC充填率の異なる層2,3の境界で金属層が形成されず、前記問題が生じない。
【0027】
具体的には、図2を参照して、高充填率の層2の原料粉末として、二粒度配合したSiC粉末を用いる。二粒度配合したSiC粉末は、平均粒径5μm〜40μm、好ましくは5μm〜30μm、より好ましくは10μm〜25μmのSiC細粉と、平均粒径50μm〜120μm、好ましくは50μm〜100μm、より好ましくは60μm〜80μmのSiC粗粉とからなり、SiC細粉が10重量%〜50重量%、好ましくは20重量%〜40重量%、より好ましくは25重量%〜35重量%を占めるものである。なお、高充填率の層2の原料粉末として、三粒度配合など二粒度配合を超える多粒度配合したSiC粉末を用いてもよい。
【0028】
この原料粉末に水とシリカバインダーを添加して混合してスラリー化して型4に流し込み、所定時間、例えば60分浸透振動成形する。
【0029】
一方、低充填率の層3の原料粉末として、一粒度配合のSiC粉末にアルミニウム粉末又はカーボン粉末を混合したものを用いる。一粒度配合したSiC粉末は、平均粒径10μm〜150μm、好ましくは20μm〜100μm、より好ましくは30μm〜70μmのSiC粉末からなるものである。そして、原料粉末には、平均粒径15μm〜45μm、好ましくは20μm〜40μm、より好ましくは25μm〜35μmのアルミニウム粉末が1重量%〜5重量%、好ましくは1.5重量%〜4重量%、より好ましくは2重量%〜3.5重量%を占めるか、平均粒径0.5μm〜5μm、好ましくは1μm〜3.5μm、より好ましくは1μm〜2.5μmのカーボン粉末が0.5重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜3.5重量%、より好ましくは1重量%〜2.5重量%を占めるものである。
【0030】
この原料粉末に水とシリカバインダーを添加して混合してスラリー化して、前記スラリーの上から型4に流し込み、所定時間、例えば20分浸透振動成形する。
【0031】
その後、水分を除去した後、80℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃、より好ましくは150℃〜200℃で乾燥し、700℃〜1300℃、好ましくは800℃〜1250℃、より好ましくは1000℃〜1150℃で、大気雰囲気下又は窒素雰囲気下で焼成する。なお、焼成時間は、SiC成形体の大きさ、焼成炉への投入量、焼成雰囲気等の条件に合わせて、適宜決められる。仮焼する際に、カーボン粉末は焼き飛び、アルミニウムは溶解してもよい。
【0032】
これにより、SiCの初期充填率が高い層と、SiCの初期充填率が低い層とが積層したSiC成形体が作製される。その後、必要に応じて、SiC成形体を所望の形状に生加工する。
【0033】
次に、5MPa〜90MPa、好ましくは10MPa〜50MPa、より好ましくは10MPa〜30MPaの浸透圧で、700℃〜900℃、好ましくは700℃〜850℃、より好ましくは750℃〜850℃の温度に溶解したアルミニウムを主成分に含む金属をSiC成形体に含浸させる。なお、アルミニウムを主成分に含む金属は、前述した金属からなる合金であって、具体的には、純アルミニウム合金である1000系のアルミニウム合金、例えばA1050、A1070、A1080、A1085、A1100であることが最も好ましい。また、2000系や3000系のアルミニウム合金であってもよい。
【0034】
含浸方法は、特に限定されないが、例えば、金型4にSiC成形体をセットし、その金型4を予熱し、別に溶融した金属を金型4内に注入し、高圧鋳造するものであってもよい。
【0035】
これにより、SiC充填率が高い層2と、SiC充填率が低い層3とが積層したAl−SiC複合体1が作製される。
【0036】
以下、本発明の実施形態に係る伝熱部材11について説明する。
【0037】
図3を参照して、伝熱部材11は前述したAl−SiC複合体1を素材として用いて、これを加工してなるものである。具体的には、層2の表面に機械加工を施して、2mm〜6mm、好ましくは3mm〜5mm、より好ましくは3mm〜4mmの厚さとすると共に層3の表面に機械加工を施して、2mm〜6mm、好ましくは3mm〜5mm、より好ましくは3mm〜4mmの厚さとする。
【0038】
これにより、伝熱部材11は、50℃〜150℃における熱膨張係数が6ppm/K〜9ppm/Kである第1の層12と、50℃〜150℃における熱膨張係数が層2より4ppm/K〜8.5ppm/Kだけ大きな第2の層13とを備えた平板状の多層構造となる。なお、層12が伝熱部材11の全厚に占める割合は、40%〜60%、好ましくは45%〜55%であり、より好ましくは48%〜52%である。伝熱部材11の厚さが薄すぎると、衝撃などにより破損するおそれがあり、厚さが厚すぎると、伝熱性能が低下するおそれがある。
【0039】
層13の表面13aは、表面粗さRaが1μm〜3μm、好ましくは1.5μm〜3μm、より好ましくは1.8μm〜2.7μmとなるように機械加工が施され、セラミックス基板5と接合される第1の主面である上面13aとなる。層12の表面12aは、表面粗さRaが1μm〜3μm、好ましくは1.5μm〜3μm、より好ましくは1.8μm〜2.7μmとなるように砥石などの研磨具を用いて機械加工が施され、固定部材6と接触し、第1の主面13aと反対側に位置する第2の主面である下面12aとなる。なお、上面13a及び下面12aは共に、室温で平らとなるように、平面度を4μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.7μm以下とする。
【0040】
そして、伝熱部材11の複数の隅部には、伝熱部材11を固定部材6に固定するために、ボルトなどの締結具7が挿通される貫通穴11aが切削加工により形成される。なお、伝熱部材11は、放熱フィンなどの放熱部材である固定部材6とセラミックス基板5との間に介在する部材であり、熱伝導体ベースや単にベースとも呼称される。
【0041】
セラミックス基板5は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素などのセラミックスから形成されている。セラミックス基板5の上面には、図示しないが、回路層が形成されており、回路層上に半導体素子が接合されている。半導体素子は、例えばIGBTなど発熱量が大きな半導体素子であるが、これに限定されない。
【0042】
伝熱部材11の上面13aには、図示しないが、メッキ被膜が形成される。このメッキ被膜は、ニッケル(Ni)を主成分したものからなり、ニッケル合金や純ニッケルを用いて、無電界メッキや電界メッキにより形成される。
【0043】
セラミックス基板5の下面5aと伝熱部材11のメッキ被膜が形成された上面13aとの間に、熱伝導性が優れた材料からなるはんだ材やろう材を介在させて、セラミックス基板5と伝熱部材11とははんだ付けやろう付けにより接合される。
【0044】
そして、セラミックス基板5が接合された伝熱部材11は、アルミニウムや鋼等の金属などからなる固定部材6に複数の締結具7を用いて固定される。ここでは、伝熱部材11の四隅に貫通穴11aが形成されており、これら貫通穴11aをそれぞれ挿通するボルト7により、伝熱部材11と固定部材6とが締結される。
【0045】
伝熱部材11は、半導体素子が発生した熱を固定部材6に伝熱する。伝熱部材11は、上面13aを300℃に加熱したとき、下面12aの温度が250℃以上、好ましくは280℃以上、より好ましくは295℃以上であり、伝熱性能が優れている。
【0046】
熱が伝熱部材11に伝わると、セラミックス基板5及び伝熱部材11は温度が上昇して、熱膨張をする。一方、半導体素子からの発熱が停止すると、セラミックス基板5及び伝熱部材11は温度が低下して、熱収縮する。
【0047】
セラミックス基板5と伝熱部材11のセラミックス基板5と接合された層13との熱膨張係数の相違が小さいので、上述した熱膨張及び熱収縮の熱サイクルにおいて、これらの差に起因してセラミックス基板5と層13との間に発生する熱応力は小さい。よって、これらの間の接合部にクラックなどが発生して破損することが防止される。
【0048】
また、層12と層13との間に熱膨張係数の所定の相違があり、且つ層12より層13のほうが熱膨張係数が大きいので、伝熱部材11に熱が伝わったとき、固定部材6側に、即ち下方に凸となる反り(以下、「下凸の反り」という)が発生する。そして、その反り量は、100℃−200mm当り3μm〜8μm、好ましくは3.5μm〜7.5μm、より好ましくは4μm〜7μmとなる。
【0049】
伝熱部材11は、室温で下面12aが平らであり、且つ四隅がボルト7で固定部材6に固定されているので、下凸の反りにより、下面12aと固定部材6の密着は高く温度が高くなるにつれて強くなる。よって、伝熱部材11と固定部材6とが確実に接触する。さらに、下面12aの表面粗さRaが3μm以下であるので、反りによる伝熱部材11と固定部材6の上面6aとの密着がより良好となる。
【0050】
なお、反り量が3μm未満では、伝熱部材11と固定部材6との良好な密着が得られない。また、反り量が8μmを超えると、伝熱部材11とセラミックス基板5との接合部に影響を及ぼし、剥離が生じるおそれがある。
【0051】
なお、以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、Al−SiC複合体1及び伝熱部材11は、熱膨張係数が異なる2層2,3、12,13からなる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、これら2層2,3、12,13の間に、これらの中間値の熱膨張係数を有する1又は複数の層を備えていてもよい、また、この場合、熱膨張係数は、下面12aから上面13aに向って実質的に断続的に又は連続的に大きくなっていればよい。
【0052】
〔実施例及び比較例〕
以下、実施例及び比較例を説明する。表1に実施例1−10をまとめた。
【0053】
【表1】

【0054】
〔実施例1−10〕
二粒度配合(粒度#90番/粒度#800番=7/3(実施例1−4)、粒度#180番/粒度#1000番=7/3(実施例5−8)、粒度#90番/粒度#500番=3/7(実施例9,10))したSiC粉末(太平洋ランダム株式会社製又は信濃電気製錬株式会社製)からなる原料粉末にイオン交換水とシリカバインダー(日産化学工業株式会社製)を添加して混合したSiCスラリーを型4に流し込み60分浸透振動成形した。
【0055】
その後、その上に、単粒(粒度#240番(実施例1,5,9)、粒度#320番(実施例2,6,10)、粒度#500番(実施例3,4,7,8)のSiC粉末(信濃電気製錬株式会社製)に粒度#500番のアルミニウム粉末(ミナルコ株式会社製)(実施例1,2,4−7,9,10)又は粒径2.5μmのカーボン粉末(昭和電工株式会社製)(実施例3,8)を混合した原料粉末にイオン交換水とシリカバインダー(日産化学工業株式会社製)を添加したSiCスラリーを型4に流し込み20分浸透振動成形した。なお、アルミニウム粉末はSiC粉末に対して3重量%、カーボン粉末はSiC粉末に対して2重量%添加した。また、共に外割でシリカバインダーを10重量%、イオン交換水を25重量%添加してスラリー化した。
【0056】
その後、水分を除去した後、200℃で乾燥し、1100℃で16時間焼成した。これにより、200mm×100mm×15mmのSiC成形体を作製した。そして、各層の厚さがそれぞれ3.5mm、総厚さが7mmになるように、SiC成形体を生加工した。
【0057】
その後、80MPaの浸透圧で800℃の温度に溶解した純アルミニウム系合金(A1050)をSiC成形体に含浸させて、Al−SiC複合体1を作製した。
【0058】
その後、Al−SiC複合体1の上下面をそれぞれ1mmずつ切削加工した。伝熱部材11の下面12aは表面粗さRaが3μm以下となるように粒度#800番以下の砥石で研磨加工した。そして、伝熱部材11の四隅にボルト用として直径8mmの貫通穴11aを切削加工により形成して、伝熱部材11を作製した。なお、貫通穴11aは端面より15mmに位置に穴の中心が来るように加工した。
【0059】
その後、伝熱部材11の上面13aにニッケルの無電界メッキを施し、この上面13aと窒化アルミニウムからなるセラミックス基板5の下面5aとの間に鉛と錫の重量比が37:63からなる共晶はんだを介在させて、接合した。その後、伝熱部材11を厚さ7mmのアルミニウム板からなる固定部材6に4本のボルト7で固定した。
【0060】
そして、伝熱部材11にヒーターを載置して上面13aを300℃まで加熱させ、その際の下面12aの温度をサーモグラフィカメラで測定して、上下面の温度差を求めた。全実施例1−10において、上下面の温度差は21℃〜46℃であり、伝熱部材11の伝熱性能は良好であった。これから、伝熱部材11は熱が伝わったとき、固定部材6に良好に密着していることが分かった。また、伝熱部材11とセラミックス基板5との接合部にはクラックなどの不具合は生じなかった。
【0061】
表2に比較例1−5をまとめた。
【0062】
【表2】

【0063】
〔比較例1〕
実施例1と同じ粒度配合で高充填率と低充填率のSiC成形体を別々に成形した。そして、これを積み重ねて実施例1と同じ条件でA1005を含浸させた。Al−SiC複合体のSiC充填率の異なる境界面に幅約100μmのアルミニウム層が形成されていた。上下面の温度差は61℃であり、伝熱部材の伝熱性能が劣っていることが分かった。これは、伝熱部材の境界面に形成されたアルミニウム層によって熱伝導が阻害されたためであると考えられる。
【0064】
〔比較例2〕
SiC粉末の粒度配合を粒度#180番/粒度#1000番の二粒度配合のみとし、各層のSiC充填率を同じとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で伝熱部材を作製した。上下面の温度差は69℃であり、伝熱部材の伝熱性能が劣っていることが分かった。これは、反りが発生せず、伝熱部材と固定部材との間に隙間が発生したためであると考えられる。
【0065】
〔比較例3〕
実施例5と同じ粒度配合のSiC粉末であるが、低充填率側のSiC粉末に粒度#240番のアルミニウム粉末を実施例1の1.3倍添加して、SiC成形体の低充填率層のSiC充填率25%とした。そして、これ以外は実施例1と同様の方法で伝熱部材を作製した。伝熱部材の上面を300℃まで昇温させたところ、セラミックス基板と伝熱部材との接合部のはんだにクラックが生じた。これは、SiC充填率の差に起因する層間の熱膨張係数の差によって、大きな反りが発生したためであると考えられる。
【0066】
〔比較例4〕
高充填率側のSiC粉末の粒度配合を粒度#90番/粒度#500番(充填率67%)に、低充填率側のSiC粉末の粒度配合を粒度#90番/粒度#320番(充填率63%)として、SiC充填率の差を小さくした。これ以外は実施例1と同様の方法で伝熱部材を作製した。上下面の温度差は68℃であり、伝熱部材の伝熱性能が劣っていることが分かった。これは、伝熱部材の層間での熱膨張係数の差が小さく、十分な量の反りが発生しなかったためであると考えられる。
【0067】
〔比較例5〕
下面の表面粗さRaを6.89μmとした以外は実施例1と同様の方法で伝熱部材を作製した。上下面の温度差は64℃であり、伝熱部材の伝熱性能が劣っていることが分かった。これは、伝熱部材の固定部材への接触面である下面が粗かったので、伝熱部材と固定部材とが良好に密着しなかったためであると考えられる。
【符号の説明】
【0068】
1…アルミニウム−炭化珪素質複合体(Al−SiC複合体)、 2…第1の層(SiC低充填率層)、 3…第2の層(SiC高充填率層)、 4…型、 5…セラミックス基板、 6…固定部材(放熱部材)、 7…締結具(ボルト)、 11…伝熱部材、 12…第1の層(SiC低充填率層)、 12a…第2の主面(下面)、 13…第2の層(SiC高充填率層)、 13a…第1の主面(上面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素多孔体にアルミニウムを主成分とする金属を含浸したアルミニウム−炭化珪素質複合体であって、
50℃〜150℃における熱膨張係数が6ppm/K〜9ppm/Kである第1の層と、50℃〜150℃における熱膨張係数が前記第1の層よりも4ppm/K〜8.5ppm/Kだけ大きい第2の層とを備える多層構造であることを特徴とするアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項2】
前記第1の層の炭化珪素充填率が65%〜85%であり、前記第2の層の炭化珪素充填率が前記第1の層よりも10%〜50%だけ小さいことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項3】
前記第1の層は多粒度配合の炭化珪素粉末を原料粉末とする型成形体を焼成した焼結体からなり、前記第2の層は一粒度配合の炭化珪素粉末及び金属粉末又はカーボン粉末を原料粉末とする型成形体を焼成した焼結体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項4】
前記第1の層と前記第2の層との間に、80重量%を超える金属を含む金属層が介在しないことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体。
【請求項5】
第1の主面がセラミックス基板と接合され、前記第1の主面と反対側に位置する第2の主面が当該伝熱部材に複数の固定部位で固定される固定部材と接触し、請求項1から4の何れか1項に記載のアルミニウム−炭化珪素質複合体からなる伝熱部材であって、
前記第1の層の表面に機械加工を施して前記第1の主面とする共に、前記第2の層の表面を表面粗さRaが3μm以下になるように機械加工を施して前記第2の主面とすることを特徴とする伝熱部材。
【請求項6】
前記第1の主面を加熱したとき、前記第2の主面に100℃−200mm当り3μm〜8μmの反りが発生することを特徴とする請求項5に記載の伝熱部材。
【請求項7】
前記第1の主面を300℃に加熱したとき、前記第2の主面の温度が250℃以上であることを特徴とする請求項5又は6に記載の伝熱部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−77323(P2012−77323A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221435(P2010−221435)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】