説明

アルミニウム及びその合金用変色防止剤及び該変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤。

【課題】 アルミニウム及びその合金は、アルカリ領域においては、腐食・変色を受け易い素材であり、アルカリ領域でも良好な変色防止性を示すと共に、油剤や洗浄剤への良好な溶解性を示し、製品安定性のよい変色防止剤を提供する。
【解決手段】 分子量500〜2000のポリブチレングリコールと酸無水物のジアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、又は、アミン塩、炭素数18以上の不飽和アルコールと酸無水物とのモノアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、又は、アミン塩並びにHLBが8以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと酸無水物とのモノアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、又は、アミン塩を含有するアルミニウム及びその合金用変色防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム及びその合金の変色防止剤及び該変色防止剤を含有したアルミニウム及びその合金用の水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤に関する。更に詳しくは、アルミニウム及びその合金の加工時や加工後の放置期間に発生する被削材の変色を防止する水溶性加工油剤、加工後の被削材洗浄後の放置期間に発生する変色を防止する水溶性洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは両性金属であり、酸にもアルカリにも腐食を受け易い素材である。水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤は、通常、防錆性や防腐性を持たせるために、アルカリ性領域pH=9〜13程度に設定されているため、アルミニウムやその合金は、腐食され黒色に変色を起こしてしまう。
【0003】
従来から、アルミニウムやアルミニウム合金の変色や腐食防止のための対策が種々提案されてきた。例えば、1)pHを中性領域をpH=7.5〜8.5まで下げて変色を抑制する方法、2)変色防止剤としてメタ珪酸ソーダ等の無機塩を添加する方法、3)フェノール、リン酸エステルあるいは油溶性のアミド化合物等の有機の変色防止剤を用いる方法が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、1)pHを中性領域まで下げた場合では防錆性、防腐性などが低下し、発錆、腐敗の問題が生じ、2)メタ珪酸ソーダ等の無機塩の変色防止剤は、長期の腐食防止性がなく、又原液中でこれらの無機塩の安定性が非常に悪く、析出するという欠点があり現在では使用が少ない。また、3)有機系のフェノールは、消防法の指定可燃物、可燃性固体類、毒劇物取締法の劇物や薬事法の劇薬指定医薬品等に該当し、環境への影響及び作業者に対する安全性の点で問題がある。りん酸エステル等のりん系付加反応化合物は、液のpHが9以上になると効果が低下すること、りんが栄養源となり液が腐敗するという問題がある。また、油溶性のアミド付加反応化合物は、水への可溶化に界面活性剤等を必要とし発泡の危険性がある等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、良好なアルミニウム及びその合金の変色防止性能を持つ化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、アルミニウム及びその合金用変色防止剤及び該変色防止剤を含有したアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤及び水溶性洗浄剤に関する。
1.分子量500〜2000のポリブチレングリコールと酸無水物とのジアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤を提供する。
2.炭素数18以上の不飽和アルコールと酸無水物とのモノアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤を提供する。
3.HLBが8以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと酸無水物とのモノアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤を提供する。
4.酸無水物が、無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸である上記項1、2及び3に記載のアルミニウム及びその合金用変色防止剤を提供する。
5.上記項1、2、3及び4に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤を提供する。
6.上記項1、2、3及び4に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性洗浄剤を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるアルミニウム及びその合金の変色防止剤は、アルカリ性領域pH8.5〜11において良好な変色防止性能を示し、水溶性加工油剤や水溶性洗浄剤への調合においても、良好な溶解性能を示し、安定に配合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いるポリブチレングリコールの分子量は、一般的に500〜2000が好ましい。より好ましくは、分子量600〜1500である。特に好ましくは、分子量650〜1000である。ポリブチレングリコールの分子量が500よりも小さいとアルミ変色防止性能を示さず、また、2000よりも大きいと十分なアルミ防食性能が得られない。
【0009】
本発明に用いる炭素数18以上(好ましくは炭素数18〜22である)の不飽和アルコールとは、脂肪族系あるいは芳香族系不飽和アルコールである。また、不飽和結合の数は特に問わない。一般的には、オレイルアルコール、リノールアルコール、ベヘニルアルコールなどを挙げることができる。
【0010】
本発明に用いるHLBが8以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、ポリオキシアルキレンとは、炭素数1〜5のオキシアルキレンのポリマーであり、異なるオキシアルキレンのブロックまたはランダムのポリマーであってもよい。例示すると、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エチレンオキサイド1〜2モル)、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル(プロピレンオキサイド1〜4モル)、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(エチレンオキサイド1〜3モル)、ポリオキシプロピレントリデシルエーテル(プロピレンオキサイド1〜4モル)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(1〜4モル)などを挙げることができる。
【0011】
酸無水物とは、無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及び無水フタル酸である。
【0012】
一般的な本発明によるアシル化反応物の合成法を示す。
合成法1
分子量500〜2000のポリブチレングリコールと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のジアシル化反応は、常圧下で120〜150℃に5〜12時間加熱攪拌して無溶媒で行う。分子量500〜2000のポリブチレングリコールと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)の反応比率は、酸無水物を2当量以上、通常は2.2当量から3当量の過剰使用し、反応終了後、過剰分は昇華除去あるいは留去させて除去してもよく、あるいは、クロマトグラフィー等で精製してもよい。あるいは、そのまま後の中和工程で中和してもよい。
【0013】
合成法2
炭素数18以上の不飽和アルコールと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のモノアシル化反応は、常圧下で120〜150℃に2〜8時間加熱攪拌して無溶媒で行う。炭素数18以上の不飽和アルコールと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)の反応比率は、酸無水物を当量以上、通常は1.1当量から2当量の過剰使用し、反応終了後、過剰分は昇華除去あるいは留去させて除去してもよく、あるいは、クロマトグラフィー等で精製してもよい。あるいは、そのまま後の中和工程で中和してもよい。
【0014】
合成法3
HLBが8以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)のモノアシル化反応は、常圧下で120〜150℃に2〜8時間加熱攪拌して無溶媒で行う。HLBが8以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと酸無水物(無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸)の反応比率は、酸無水物を当量以上、通常は1.1当量から2当量の過剰使用し、反応終了後、過剰分は昇華除去あるいは留去させて除去してもよく、あるいは、クロマトグラフィー等で精製してもよい。あるいは、そのまま後の中和工程で中和してもよい。
【0015】
各々の反応の終点は、FT−IRを用いアシル化反応により酸無水物に由来する2つの吸収ピーク(1779cm−1,1848cm−1)が消滅[反応が進行することによって強いエステル基由来の吸収(1728cm−1)が現れる]する時点をもって反応の終点とした。
【0016】
上記反応物は、定法の方法でアルカリ金属、アンモニアまたはアミンで中和すればよい。
【0017】
アルカリ金属としては、ナトリウムおよびカリウムが特に好ましく、また、これらは所望により適宜併用してもよい。
【0018】
アミンとしては、炭素原子数1〜5のアルキルアミン(例えば、エチルアミン、プロピルアミン等)、炭素原子数2〜10のアルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン等)、モルホリン、炭素原子数5〜20のシクロアルキルアミン(例えば、ジシクロヘキシルアミン等)、3,3−ジメチルプロパンジアミン等から調製される上記二塩基酸のアミン塩が例示されるが、特に好ましくは、アルカノールアミンである。これらのアミン塩は所望により2種以上適宜併用してもよい。
【0019】
本発明による変色防止剤は、単独で用いてもよいが、好ましくは、中和に用いるアルカリ金属、アンモニア及び/又はアミンと併用して用いるとよい。特にアルカノールアミンが好ましい。本発明によるアシル化反応物とアルカリ金属、アンモニア又はアミンとの比率(モル比)は、好ましくは1:2〜1:20、特に好ましくは1:5〜1:10になるように配合する。該モル比が1:2よりも大きくなると可溶化が困難となって十分な変色防止性能が発揮されず、また、該モル比が1:20よりも小さくなると、水性変色防止剤のpHが過度に高くなり、アルミニウムまたはその合金の腐食がもたらされるだけでなく、作業衛生上の問題(例えば、呼吸器系等の刺激や肌荒れ等)がでてくる。
【0020】
本発明のアシル化反応物の塩の使用時の濃度は、一般的に0.01〜10重量%が好ましい。より好ましくは、0.03〜5重量%である。特に好ましくは、0.05〜2重量%である。0.01重量%より低いと十分なアルミ変色防止性能が見られず、また、10重量%を超えるとアルミ変色防止性能および潤滑性の効果は増大せず、経済的に好ましくない。
【0021】
本発明による変色防止剤を水溶性加工油剤或いは水溶性洗浄剤に配合して用いるときは、通常、剤全体の1〜80重量%、好ましくは2〜60重量%である。尚、通常これら水溶性加工油剤或いは水溶性洗浄剤は、一般的には水に希釈して使用される。希釈倍率は、一般には5〜100倍に希釈して使用されるが、被削材の材質等に応じて適宜選定すればよいが、希釈時の本発明のアシル化反応物の濃度は、0.01〜10重量%に調製するとよい。より好ましくは、0.03〜5重量%である。特に好ましくは、0.05〜2重量%である。0.01重量%より低いと十分なアルミ変色防止性能が見られず、また、10重量%を超えるとアルミ変色防止性能および潤滑性の効果は増大せず、経済的に好ましくない。
【0022】
また、使用時の液のpHを8.5〜11、特に、8.5〜10に調整するのが好ましく、pHが8.5よりも小さくなると、酸が析出しやすくなり、また、pHが11よりも高くなると、アルミ変色防止性能が低下する。
【0023】
尚、水溶性加工油剤には、所望により鉱物油、動植物油、脂肪酸、脂肪酸エステル、極圧添加剤、防錆剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等の添加剤を適宜配合することができる。また、水溶性洗浄剤には、所望により脂肪酸、防錆剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1〜36]
表1に実施例に用いたアシル化反応物を示した。
【0026】
【表1】

【0027】
表3、4及び5に示した配合組成の試験液を調製し、以下に示す評価方法によりアルミ変色防止性能を評価した。結果を表3〜表5に示した。
【0028】
[評価方法]
表3〜表5に示した試験液に、試験片ADC−12(アルミダイカスト合金をアセトン脱脂後、耐水ペーパーで研磨し、再度、アセトン脱脂したもの)を試験液に室温下で半浸漬し、24時間後の試験片の変色状態を目視で観察した。
判定基準
◎:変化なし
○:微変色
△:淡灰変
×:黒変
【0029】
[比較例1〜24]
表2には表1と同じように比較例に用いたアシル化反応物を示した。表6と7に示した配合組成の試験液を用いて実施例と同様に評価試験を行った。結果を表6と7に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
【表6】

【0035】
【表7】

【0036】
[実施例37〜56]
表8、9に示した配合組成のケミカルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表8、9に示した。
【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
[実施例57〜76]
表10、11に示した配合組成のソルブルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表10、11に示した。
【0040】
【表10】

【0041】
【表11】

【0042】
[比較例25〜40]
表12、13に示した配合組成のケミカルタイプ加工油剤を調整し、実施例と同様に試験を行い評価した。結果を表12、13に示した。
【0043】
【表12】

【0044】
【表13】

【0045】
[比較例41〜56]
表14、15に示した配合組成のソルブルタイプの加工油剤を調製し、上記の実施例と同様に評価試験を行った。結果を表6に示した。
【0046】
【表14】

【0047】
【表15】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金のアルカリ領域における変色を防止するのに有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量500〜2000のポリブチレングリコールと酸無水物とのジアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
【請求項2】
炭素数18以上の不飽和アルコールと酸無水物とのモノアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
【請求項3】
HLBが8以下のポリオキシアルキレンアルキルエーテルと酸無水物とのモノアシル化反応物のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または、アミン塩を含有することを特徴とするアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
【請求項4】
酸無水物が、無水コハク酸、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水フタル酸である請求項1、2及び3に記載のアルミニウム及びその合金用変色防止剤。
【請求項5】
請求項1、2、3及び4に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性加工油剤。
【請求項6】
請求項1、2、3及び4に記載の変色防止剤を含有するアルミニウム及びその合金用水溶性洗浄剤。

【公開番号】特開2006−213982(P2006−213982A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29906(P2005−29906)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】