説明

アルミニウム素線、被覆電線、およびアルミニウム素線の製造方法

【課題】耐屈曲性を向上させた、信頼性の高いアルミニウム素線およびこれを備えた被覆電線を提供することにある。
【解決手段】複数本撚り合わせることにより、アルミニウム撚り線15として用いるアルミニウム素線10である。アルミニウム素線10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム線材11の表面に、非晶質炭素被膜12が被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム素線およびその製造方法に係り、特に、複数本撚り合わせることにより、アルミニウム撚り線として用いるに好適なアルミニウム素線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や飛行機などの搬送機器、ロボットなどの産業機器の配線構造として、導電性を有した金属素線を、複数本撚り合わせることにより、金属撚り線とし、この金属撚り線の外周に絶縁層を被覆した被覆電線が用いられている。
【0003】
昨今、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められてきており、車載される各種電気機器、制御機器などの増加に伴い、これらの機器に使用される被覆電線も増加傾向にある。一方、近年、環境保全のため、自動車や飛行機などの燃費の向上が望まれている。
【0004】
そこで、このような点を鑑みて、被覆電線を構成する金属素線の素材として、アルミニウム素線が用いられている。具体的には、図4(a)に示すように、被覆電線4は、複数本のアルミニウムおよびアルミニウム合金からなるアルミニウム素線41を撚り合わせたアルミニウム撚り線41を備えており、アルミニウム撚り線41の外周には、高分子樹脂などからなる絶縁層42が被覆されている。このように、アルミニウム素線にアルミニウムを用いたことにより、アルミニウムはたとえば銅などの他の金属に比べて軽量であるので、このような被覆電線4を自動車などに搭載した場合には、その燃費を向上させることができる。
【0005】
ところで、アルミニウム素線41は、屈曲による疲労強度を素線径、素線数、撚りピッチ数等により確保している。そのため、素材としてアルミニウムまたはアルミニウム合金で軽量化を図ったとしても、素線数の増量、素線径の増大により、所望の重量となるように、被覆電線の軽量化を図ることができないことがあった。これにより、被覆電線の高コスト化、配線設計の自由度の低下等を招くおそれがあった。
【0006】
そこで、このような被覆電線に対して、アルミニウム素線の耐屈曲性等の疲労強度を高めるべく、アルミニウム合金の組成を選定したり、熱処理温度の適正な範囲を求めたりすることがなされている(例えば特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−96505号公報
【特許文献2】特開2006−4752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した素線は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線であるため、たとえ、無酸化雰囲気下で熱処理等をしたとしても、少なくとも絶縁層を被覆する際には、素線表面に酸化アルミニウム(アルミナ)の薄膜が形成される。この酸化アルミニウムには潤滑性がなく、薄くて剥離しやすい。
【0009】
したがって、被覆電線4を繰り返し屈曲させた場合、図4(b)に示すように、内部のアルミニウム素線41,41同士が摺り合わさって凝着し、アルミニウム素線41,41同士の間に凝着部41aが生成されることがある。これによりアルミニウム素線41,41同士が拘束され、滑りがなくなってしまう。この結果、局部的に引っ張り荷重が他の部分に比べて大きく作用し、図4(c)に示すようにアルミニウム素線41は部分的に断線し、被覆電線4の信頼性が低下するおそれがあった。
【0010】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐屈曲性を向上させた、信頼性の高いアルミニウム素線およびこれを備えた被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、鋭意検討を重ねた結果、被覆電線を繰り返し屈曲したときに、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム素線(線材)同士の凝着を抑制するには、これらのアルミニウム素線同士の表面が滑りやすい状態にすることが重要であると考えた。そこで、発明者は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム線材の表面に、非晶質炭素被膜を被覆することでアルミニウム素線とすれば、この被膜を構成する非晶質炭素材料が固体潤滑材として作用し、アルミニウム素線の凝着を抑制することができるとの新たな知見を得た。
【0012】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明に係るアルミニウム素線は、複数本撚り合わせることにより、アルミニウム撚り線として用いるアルミニウム素線であって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム線材の表面に、非晶質炭素被膜が被覆されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るアルミニウム素線は、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなるアルミニウム線材の表面に非晶質炭素被膜が被覆されているため、このアルミニウム素線を複数本撚り合わせたアルミニウム撚り線において、アルミニウム素線同士の滑動性を向上させることができる。これにより、アルミニウム素線を撚り合わせたアルミニウム撚り線を繰り返し屈曲させたとしても、アルミニウム素線同士の凝着を抑制し、居部的に引っ張り荷重が他の部分に比べて作用することを回避することができる。
【0014】
ここで本発明でいう「アルミニウム線材」とは、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の圧延材から伸線加工された線材であり、「アルミニウム素線」とは、撚り線のもととなる素線のことをいい、ここでは、アルミニウム線材の表面(外周面)に、非晶質炭素被膜が被覆されたものをいう。
【0015】
また、アルミニウム線材の表面に被覆される非晶質炭素被膜は、アルミニウム素線同士の凝着を抑制しつつ、アルミニウム線材の表面から非晶質炭素被膜が剥離しなければ、特にその膜厚は限定されるものではないが、より好ましい態様としては、前記非晶質炭素被膜の膜厚は、1.0〜5.0μmである。
【0016】
この態様によれば、非晶質炭素被膜の膜厚を、このような範囲とすることにより、アルミニウム素線同士の凝着を抑制しやすく、さらには、各アルミニウム素線の表面からの非晶質炭素被膜の剥離を抑制することができる。ここで、非晶質炭素被膜の膜厚が、1.0μm未満の場合には、アルミニウム素線同士の凝着が生じるおそれがあり、その膜厚が、5.0μmを超えた場合には、非晶質炭素被膜が剥離するおそれがある。
【0017】
そして、本発明に係る被覆電線は、このようなアルミニウム素線を、複数本撚り合わせたアルミニウム撚り線を備え、該アルミニウム撚り線の外周に絶縁層を被覆させることにより得られるものである。このような被覆電線は、各アルミニウム線材の表面に非晶質炭素被膜を被覆したアルミニウム素線を撚り線に備えるので、被覆電線の耐屈曲性は向上し、その信頼性が向上される。
【0018】
また、本発明として、上述したアルミニウム素線を好適に製造することができる製造方法をも開示する。本発明に係るアルミニウム素線の製造方法は、複数本撚り合わせることにより、アルミニウム撚り線として用いるアルミニウム素線の製造方法であって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるコイル状のアルミニウム線材の表面に、CVD法により非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、コイル状のアルミニウム線材を準備し、これに対してCVD法により、非晶質炭素被膜を成膜するので、直線状のアルミニウム線材に非晶質炭素被膜を成膜するのに対し、一度により長い線長のアルミニウム線材に、非晶質炭素被膜を被覆することができる。また、CVD法により被覆するので、アルミニウム線材の表面には、均質かつ均一の膜厚を有した非晶質炭素被膜を被覆することができる。
【0020】
また、アルミニウム線材のアルミニウムは、非晶質炭素被膜を被覆前に、予め焼鈍し処理を行なってもよいが、より好ましい態様としては、前記アルミニウム素線の製造方法において、前記非晶質炭素被膜の成膜しながら、前記アルミニウム線材に焼鈍し処理を行なう。この態様によれば、アルミニウム線材の表面に非晶質炭素被膜を成膜しながら、焼鈍し処理を行うので、2つの処理を同時に行なえる。
【0021】
さらに好ましい態様としては、前記非晶質炭素被膜の成膜を、炭化水素系ガスを用いて行う。本発明によれば、炭化水素系ガスを用いることにより、アルミニウム線材の表面に酸化アルミニウム(アルミナ)薄膜が生成されることを抑制することができる。
【0022】
特に、通常、アルミニウム線材に焼鈍し処理をする際には、その表面に酸化アルミニウム薄膜が生成されやすいところ、炭化水素系ガスを用いて、非晶質炭素被膜の成膜およびアルミニウム線材の焼鈍し処理を行なった場合には、非酸化性雰囲気下での処理となる。したがって、焼鈍し処理において、アルミニウム線材の表面への酸化アルミニウム(アルミナ)薄膜の生成が抑制されるので、得られたアルミニウム素線の非晶質炭素被膜の密着性を高め、非晶質炭素被膜の低摩擦効果(凝着し難い効果)により、屈曲時のアルミニウム素線の凝着を防ぐため、耐屈曲性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、アルミニウム素線同士の凝着を抑制し、これにより、アルミニウム素線の耐屈曲性を向上させて、被覆電線の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るアルミニウム素線と被覆電線の模式的概念図であり、(a)はアルミニウム素線の径方向の断面図、(b)は被覆電線の径方向の断面図。
【図2】図1(a)に示す、アルミニウム線材に非晶質炭素被膜を成膜する装置を説明するための模式的概念図。
【図3】実施例1および2、比較例1〜4の屈曲試験の結果を示した図。
【図4】従来の被覆電線を説明するための模式的概念図であり、(a)は、被覆電線の径方向の模式的概念図、(b)は、アルミニウム素線同士の凝着を説明するための模式図、(c)は、(b)に示す凝着後のアルミニウム素線の断線を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るアルミニウム素線と被覆電線の模式的概念図であり、(a)はアルミニウム素線の径方向の断面図、(b)は被覆電線の径方向の断面図である。
【0026】
図1(a)に示すように、本実施形態に係るアルミニウム素線10は、アルミニウム線材11の表面(外周面)に、非晶質炭素被膜12を被覆した素線である。ここで、アルミニウム線材11は、アルミニウム(純アルミ)またはアルミニウム合金からなる線材である。アルミニウム合金の場合には、Alに、Mg,Si,Cuなどの元素が添加されており、その他にも、Fe,Mn,Ti,B等がさらに添加されていてもよい。
【0027】
このようなアルミニウム線材11は、鋳造工程、圧延工程、伸線工程の工程を順次経て得ることができる。鋳造工程では、アルミニウムの溶湯、さらに、これに添加元素を加えた溶湯を鋳造して鋳造材を成形する。鋳造は、可動鋳型又は枠状の固定鋳型を用いる連続鋳造、箱状の固定鋳型を用いる金型鋳造のいずれも利用することができる。連続鋳造は、溶湯を急冷凝固できるため、微細な結晶組織を有する鋳造材が得られる。
【0028】
得られた鋳造材に、熱間圧延を施し、圧延材を形成する。特に、上述したMg,Siの添加元素を含むアルミニウム合金からなる鋳造材を用いた場合、鋳造後圧延前に溶体化処理および時効処理を行うと、MgSiといった析出物を析出させることができ、析出強化(時効硬化)により強度を向上することができる。
【0029】
なお、このような時効処理は、圧延後伸線加工前の圧延材や、後述する伸線加工途中の線材(伸線材)に施してもよい。さらには、後述するように、非晶質炭素被膜を被覆する際に、アルミニウム線材に対して、時効処理を行なってもよい。さらに、後述するように、アルミニウム素線を撚り合わせた撚り線に対して時効処理を施してもよい。
【0030】
次に、圧延材に対して冷間伸線加工を施し、アルミニウム線材11(伸線材)を形成する。伸線加工度は、所望の線径に応じて適宜選択することができる。なお、この伸線加工の段階で、得られるアルミニウム線材11に対して、焼鈍し処理を行なってもよい。しかしながら、本実施形態では、後述するように、アルミニウム線材11の表面に、非晶質炭素被膜12の成膜する際に、アルミニウム線材11の焼鈍し処理を行なう。
【0031】
次に、図1(a)に示すように、アルミニウム線材11の表面に、非晶質炭素被膜12を成膜する。具体的には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム線材11として、コイル状のアルミニウム線材11を準備し、このコイル状のアルミニウム線材11の表面に、図2に示すCVD成膜装置30を用いて、非晶質炭素被膜12を成膜する。
【0032】
成膜炉31内には、4本の導電性を有した支持柱33が設けられており、この支持柱33は、成膜炉31を介して接地されている。ここで、4本の支持柱33を巻くように、コイル状のアルミニウム線材11を4本の支持柱33の上方から挿入し、コイル状のアルミニウム線材11を4本の支持柱33で保持する。
【0033】
次に、パルス電源35に接続され、成膜炉31内に配置された電極36に、バイアス電圧を作用させ、これと同時に、炭化水素系ガス(たとえば、メタンガス)を、成膜炉31内に供給する。これにより、電極36と支持柱33との間において、炭化水素系ガスがプラズマ化され、炭化水素系ガスを構成する少なくとも炭素が、コイル状のアルミニウム線材11の表面に付着して成長し、非晶質炭素被膜が成膜される。このように、CVD法(化学気相成長法)を利用することにより、コイル状のアルミニウム線材11の表面(外周面)に、非晶質炭素被膜が均一に成膜される。
【0034】
コイル状のアルミニウム線材11の表面に被覆される非晶質炭素被膜12は、図1(b)に示すような被覆電線1として用いたときに、アルミニウム素線10、10同士の凝着を抑制しつつ、アルミニウム線材11の表面から非晶質炭素被膜12が剥離しなければ、特にその膜厚は限定されるものではない。
【0035】
本実施形態では、非晶質炭素被膜12の膜厚は、1.0〜5.0μmである。非晶質炭素被膜12の膜厚は、成膜時間に応じて調整することができる。また、成膜される非晶質炭素被膜12の硬さは、Hv1000〜2000程度が好ましく、バイアス電圧を調整することにより、この硬さを調整することができる。
【0036】
なお、後述する発明者の実験によれば、非晶質炭素被膜12の膜厚が、1.0μm未満の場合には、アルミニウム素線10,10同士の凝着が生じるおそれがあり、その膜厚が、5.0μmを超えた場合には、非晶質炭素被膜12が、アルミニウム線材11の表面から剥離するおそれがある。
【0037】
また、非晶質炭素被膜12の硬さが、Hv1000未満の場合には、非晶質炭素被膜12の硬さが柔らか過ぎるため、繰り返しの屈曲時にアルミニウム素線10,10同士が摺り合わさった際に、その部分の非晶質炭素被膜12が摩滅するおそれがある。一方、非晶質炭素被膜12の硬さがHv2000を超えた場合には、繰り返しの屈曲時に、非晶質炭素被膜12が、アルミニウム線材11から剥離するおそれがある。
【0038】
ここで、本実施形態では、非晶質炭素被膜12を成膜しながら、アルミニウム線材11のアルミニウムまたはアルミニウム合金に対して焼鈍し処理を行なっている。焼き戻し温度および時間は、例えば、アルミニウム(純アルミ)の場合、一般的には、350℃程度で少なくとも1時間程度であり、Al−Cu系、Al−Mg系のアルミニウム合金の場合、溶体化処理および時効処理後の焼き戻し温度は、410℃程度で少なくとも2〜3時間程度である。
【0039】
したがって、コイル状のアルミニウム線材11が、このような焼き戻し温度となるように、成膜炉31内の温度およびバイアス電圧を調整しながら、上述した焼き戻し時間内において、非晶質炭素被膜が所望の膜厚となるように、非晶質炭素被膜を、アルミニウム線材11の表面に被覆することが好ましい。なお、成膜炉31内の温度を上述の如く調整をすべく、加熱装置または冷却装置を別途設けてもよい。
【0040】
従来では、焼き戻し処理は、連続処理またはバッチ処理などを利用して、アルミニウム線材11の表面が酸化しないように、非酸化性雰囲気下(例えば、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、または還元性ガス雰囲気下)で、伸線加工されたアルミニウム線材11に対して行われていた。
【0041】
しかしながら、本実施形態では、焼鈍し処理時に、メタンガスなどの炭化水素系ガス(非酸化性ガス)の雰囲気下であるため、非晶質炭素被膜を成膜しながら、コイル状のアルミニウム線材11の表面に、酸化アルミニウム(アルミナ)薄膜が生成されることを抑制することができる。
【0042】
このような結果、焼鈍し処理において、アルミニウム線材の表面への酸化アルミニウム(アルミナ)薄膜の生成が抑制されるので、得られたアルミニウム素線の非晶質炭素被膜の密着性を高め、アルミニウム素線10の耐屈曲性を向上させることができる。
【0043】
このようにして得られたアルミニウム素線10を用いて、図1(b)に示すように、中心に、アルミニウム素線10を配置し、その周囲に同径のアルミニウム素線10を6本配置して撚り合わせて、2層構造に形成されたアルミニウム撚り線15を得ることができる。
【0044】
特に、同一線径のアルミニウム素線10を撚り合わせる場合、複数本のアルミニウム素線10を相互に撚るよりも、中心線である1本のアルミニウム素線10の周りに他のアルミニウム素線10を撚る同心撚りが低張力で安定して撚ることができる。また、同心撚りにおいてもアルミニウム素線10を隙間無く最密充填することが電線の細径化に好適である。
【0045】
さらに、図1(b)に示すように、得られたアルミニウム撚り線15の外周に絶縁層20を被覆して、被覆電線1とする。絶縁層20は、電気的な絶縁材料からなり、例えば、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、カプトン、ゴム状重合体、シリコーン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ノンハロゲン樹脂、などが挙げることができる。絶縁層の厚さは、所望の絶縁強度を考慮して適宜選択することができ、特に限定されるものではない。
【0046】
このようにして、アルミニウム素線10を、複数本撚り合わせたアルミニウム撚り線15を備え、アルミニウム撚り線15の外周に絶縁層20が被覆された被覆電線1を得ることができる。
【0047】
アルミニウム素線10は、アルミニウム線材11の表面に非晶質炭素被膜12が被覆されているため、このアルミニウム素線10を複数本撚り合わせたアルミニウム撚り線15において、アルミニウム素線10,10同士の滑動性を向上させることができる。
【0048】
これにより、アルミニウム撚り線15を備えた被覆電線1を繰り返し屈曲させたとしても、内部のアルミニウム素線10,10同士の凝着は抑制され、居部的に引っ張り荷重が他の部分に比べて作用することを回避することができる。これにより、被覆電線1の信頼性を向上させることができる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例により説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定的に解釈するものではない。
【0050】
<実施例1>
表1に示すようにして、被覆電線を作製した。素線径0.4mm純アルミニウムからなるコイル状のアルミニウム線材を準備した。このアルミニウム線材を上述した図2に示すCVD成膜装置の成膜炉内に配置した。次に、成膜炉内にメタンガスを導入した。次に、バイアス電圧0.1〜5kV印加して、成膜炉内の温度を350℃に調整し、純アルミニウムの焼鈍し温度に相当する温度(350℃)となるように、3時間、アルミニウム線材に焼鈍し処理を行いながら、その表面に、膜厚1.0μm、硬さHv1000の非晶質炭素被膜を成膜して、アルミニウム素線を作製した。
【0051】
次に、得られたアルミニウム素線の芯数が16本となるように、これらを撚り合わせて、アルミニウム撚り線(線断面積2mm)を作製した。得られたアルミニウム撚り線の外周に、ポリ塩化ビニル(PVC)を被覆して被覆電線を作製した。
【0052】
<実施例2>
実施例1と同じように、被覆電線を作製した。実施例1と相違する点は、成膜時間を調整して、アルミニウム線材の表面の非晶質炭素被膜の膜厚を5μmにした点である。
【0053】
<比較例1>
実施例1と同じように、被覆電線を作製した。実施例1と相違する点は、アルミニウム線材の表面に非晶質炭素被膜を被覆していない点である。すなわち、比較例1の場合は、アルミニウム線材そのものがアルミニウム素線となっている。
【0054】
<比較例2>
実施例1と同じように、被覆電線を作製した。実施例1と相違する点は、成膜時間を調整して、アルミニウム線材の表面の非晶質炭素被膜の膜厚を0.1μmにした点である。なお、比較例2は、本願発明に含まれるものである。
【0055】
<比較例3>
実施例1と同じように、被覆電線を作製した。実施例1と相違する点は、成膜時間を調整して、アルミニウム線材の表面の非晶質炭素被膜の膜厚を10.0μmにした点である。なお、比較例3は、本願発明に含まれるものである。
【0056】
<比較例4>
実施例1と同じように、被覆電線を作製した。実施例1と相違する点は、アルミニウム線材の表面に非晶質炭素被膜を被覆していない(アルミニウム線材そのものをアルミニウム素線とした)点と、芯数を19本にしてアルミニウム素線を撚り合わせた点である。
【0057】
【表1】

【0058】
〔素線破断寿命試験〕
実施例1、2および比較例1〜4の被覆電線を、折り返し試験機を用いて、素線破断寿命試験を行った。具体的には、角度±90°、半径:2.5mm、速度30回/分、荷重500gを作用させて、繰り返し折り曲げを行った。折り曲げ途中の被覆電線のアルミニウム撚り線の電気抵抗値が、初期電気抵抗値に対して所定の割合で低下した時点で、素線が破断し寿命になったとみなし、そのときの折り曲げ回数(屈曲回数)を破断寿命とした。この結果を、図3に示す。なお、図3は、比較例1の被覆電線の折り曲げ回数(破断寿命)を1として、その他の疲労電線の折り曲げ回数を正規化している。
【0059】
(結果)
実施例1および2の被覆電線の屈曲回数のほうが、比較例1、2、および3のものよりも多く、比較例1、2および3に比べて、実施例1および2のほうが、折り曲げに対して被覆電線(撚り線)の寿命が長いといえる。また、実施例1および2の被覆電線は、比較例4の如く、芯数が多いものと同程度の寿命であるといえる。なお、図3からは明確ではないが、比較例2の被覆電線の屈曲回数ほうが、比較例1のものよりも、若干多かった。
【0060】
以上の結果から、アルミニウム線材の表面に非晶質炭素被膜を被覆することにより、被覆電線の曲げに対する素線寿命が向上しているといえる。これは、繰り返し曲げる際に、アルミニウム素線同士の凝着を、非晶質炭素被膜により抑制したからであると考えられる。
【0061】
そして、非晶質炭素被膜の膜厚を、1.0〜5.0μmの範囲に選定した場合には、素線の寿命をより効果的に向上させることができると考えられる。非晶質炭素被膜の膜厚が、1.0μm未満の場合には、アルミニウム素線同士の凝着が生じるおそれがあると考えられ、その膜厚が、5.0μmを超えた場合には、非晶質炭素被膜が剥離するおそれがあると考えられる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0063】
本実施例では、炭化水素系ガスとしてメタンガスを用いたが、CVD法により非晶質炭素被膜を成膜することができるのであれば、炭化水素系ガスとして、エチレンガス、メチレンガス、アセチレンガス等の炭化水素系ガスを用いてもよい。さらに、成膜時に、アルミニウム線材の表面の酸化を抑制することができるのであれば、水素ガスまたは、アルゴンガス等の不活性ガスを混合した混合ガスを用いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1:被覆電線、10:アルミニウム素線、11:アルミニウム線材、12:非晶質炭素被膜、15:アルミニウム撚り線、20:絶縁層、30:CVD成膜装置、31:成膜炉、33:支持柱、35:パルス電源、36:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本撚り合わせることにより、アルミニウム撚り線として用いるアルミニウム素線であって、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム線材の表面に、非晶質炭素被膜が被覆されていることを特徴とするアルミニウム素線。
【請求項2】
前記非晶質炭素被膜の膜厚は、1.0〜5.0μmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム素線。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム素線を、複数本撚り合わせたアルミニウム撚り線を備え、
該アルミニウム撚り線の外周に絶縁層が被覆されたことを特徴とする被覆電線。
【請求項4】
複数本撚り合わせることにより、アルミニウム撚り線として用いるアルミニウム素線の製造方法であって、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるコイル状のアルミニウム線材の表面に、CVD法により非晶質炭素被膜を成膜することを特徴とするアルミニウム素線の製造方法。
【請求項5】
前記非晶質炭素被膜を成膜しながら、前記アルミニウム線材に焼鈍し処理を行なうことを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム素線の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質炭素被膜の成膜を、炭化水素系ガスを用いて行うことを特徴とする請求項4または5に記載のアルミニウム素線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−89418(P2013−89418A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228067(P2011−228067)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】