インターホン装置
【課題】 スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができるインターホン装置を提供する。
【解決手段】 信号処理部85は、マイクロホンM2の音声信号のA/D変換タイミングを遅らせて、マイクロホンM1,M2の各音声信号の位相を所定周波数において一致させるA/D変換回路85c,85dと、スピーカ音に対するマイクロホンM1,M2の各出力レベルを一致させる適応フィルタ91を用いた振幅調整手段と、A/D変換回路85c,85d,適応フィルタ91を通過したマイクロホンM1,M2の各音声信号の差であるn個の音声信号を出力する演算部92と、n個の音声信号から最小の信号を選択して出力する信号選択部93とを備える。
【解決手段】 信号処理部85は、マイクロホンM2の音声信号のA/D変換タイミングを遅らせて、マイクロホンM1,M2の各音声信号の位相を所定周波数において一致させるA/D変換回路85c,85dと、スピーカ音に対するマイクロホンM1,M2の各出力レベルを一致させる適応フィルタ91を用いた振幅調整手段と、A/D変換回路85c,85d,適応フィルタ91を通過したマイクロホンM1,M2の各音声信号の差であるn個の音声信号を出力する演算部92と、n個の音声信号から最小の信号を選択して出力する信号選択部93とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターホン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内に設置されるインターホン装置があり、他の場所に設置されたインターホン装置からの音声を出力するスピーカや、他のインターホン装置へ伝達する音声を入力するマイクロホン等を備えている。
【0003】
そして、スピーカから発生した音声がマイクロホンに回り込むとハウリングが生じることになるから、様々なハウリング防止対策が採られている。例えば、スピーカと一対のマイクロホンとを備えて、両マイクロホンとスピーカとの距離の差に相当する音波の遅延時間だけスピーカに近いほうのマイクロホンの出力を遅延させる遅延回路と、スピーカからの音声に対する両マイクロホンの出力レベルを一致させるレベル調整増幅回路と、遅延回路とレベル調整増幅回路とを通った両マイクロホンの出力を両入力とする差動増幅回路とを設け、差動増幅回路の出力を送話信号とするインターホン装置が提案された。
【0004】
このインターホン装置では、両マイクロホンでスピーカからの音声を拾った後、遅延およびレベル調整を行なって両マイクロホンに入力されるスピーカからの音声成分を差動増幅回路で相殺することで、スピーカからの音声成分のみを除去して(キャンセル処理)、ハウリングを防止しようとしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許3226121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スピーカから発せられた音声はマイクロホンに伝達されて音声信号に変換されるが、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数は周波数特性を有しており、マイクロホンで集音される音声の位相、振幅は、周波数に依存している。このことが、スピーカ音のキャンセル処理性能を劣化させる原因となっていた。
【0006】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができるインターホン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、伝達された音声情報を出力するスピーカと、音声を集音して音声信号を出力する第1のマイクロホンと、スピーカからの距離が第1のマイクロホンより遠い位置に配置されるとともに音声を集音して音声信号を出力する第2のマイクロホンと、第1,第2のマイクロホンが出力する各音声信号を信号処理して伝達する信号処理部とを備えて、第1,第2のマイクロホンとスピーカとの各距離の差に相当する所定周波数の音波の伝達時間を遅延時間とし、信号処理部は、前記遅延時間に応じてスピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相を前記所定周波数において一致させる遅延時間調整手段と、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を調整する適応フィルタを用いた振幅調整手段と、遅延時間調整手段,振幅調整手段を通過した第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を出力する演算手段とを備え、振幅調整手段は、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を、当該演算結果が最小となる振幅比に設定する逐次最適調整を行うことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各出力レベルを一致させる振幅調整手段に適応フィルタを用いることによって、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記スピーカからの音声に対する第1のマイクロホンの音声信号を第2のマイクロホンの音声信号で除した振幅比が第1の所定値以上であり、当該振幅比が周波数に対して変動する幅を当該変動幅の中心値で除した値が第2の所定値以下となるように、スピーカと第1,第2のマイクロホンとを配置したことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、信号処理部が出力する音声信号に含まれる話者音の劣化を抑制するとともに、良好なS/N比(前方からの話者音のみの音声成分をS、第1,第2のマイクロホンの各出力の振幅比を逐次最適調整することによって発生する雑音成分をNとする)を維持することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記遅延時間調整手段は、第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、第1のA/D変換手段が第1のマイクロホンからの音声信号をA/D変換したタイミングから前記遅延時間経過したときに、第2のA/D変換手段が第2のマイクロホンからの音声信号をA/D変換することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、第1,第2のA/D変換手段に低サンプリング周波数のA/D変換手段を用いたとしても、正確な遅延時間の調整が可能となる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1乃至3いずれかにおいて、前記信号処理部は、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を、当該演算結果が最小となる位相差に設定する逐次最適調整を行う位相調整手段を備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、第1,第2のマイクロホンが集音する音声信号の振幅の周波数特性だけでなく、遅延時間の周波数特性も考慮して、音声信号の振幅補正、遅れ時間補正を行うので、さらにスピーカ音のキャンセル効果がさらに向上し、ハウリング防止効果がさらに向上する。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4において、第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、前記位相調整手段は、第1,第2のA/D変換手段のうち少なくとも一方のA/D変換手段が連続して出力した2つのデジタル値を結ぶ直線に沿って音声信号が連続して推移していると判断し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算する際には、少なくとも一方のA/D変換手段の音声信号として当該直線上の値を用いることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、音声信号の振幅を直線近似によって推測するので、簡易な構成で位相調整を容易に行うことができる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1乃至5いずれかにおいて、前記信号処理部は、前記スピーカに入力される信号が所定の閾値以下の場合は、少なくとも前記遅延時間調整手段、振幅調整手段、演算手段によるスピーカ音のキャンセル処理を行わないことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、スピーカ音のレベルが所定の閾値以下であると判定すれば、スピーカ音のキャンセル処理を停止し、不要なキャンセル処理による話者音の劣化を防止できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明では、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態のインターホン装置Jは図8〜図10に示され、本装置の外郭を形成する装置本体J1と、装置本体J1に取り付けられるスピーカモジュールJ2、音声処理モジュールJ3、マイクロホンM1(第1のマイクロホン),マイクロホンM2(第2のマイクロホン)、各種ボタンスイッチSW1〜SW3とで構成されており、建物内の適所において埋め込み配設されたボックスBXの前面に取り付けられる。そして、ボックスBXを介して配線された情報線Lsが接続され、部屋間で情報線Lsを介した双方向の通話機能を有する。インターホン装置Jの電源は、設置場所の近傍に設けたコンセントから供給されるか、あるいは情報線Lsを介して供給されてもよい。なお、図9において、後述するスピーカSPの構成要件の一部(ヨーク20や永久磁石22等)は省略している。
【0022】
装置本体J1は、ABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene resin)またはPC−ABS(PolyCarbonate−Acrylonitrile-Butadiene-Styreneresin)を成形して、後面および上下面を開放した略函状に形成され、その側面下部から後方に延設されて外側に係止爪を具備する係止片101がボックスBXの図示しない係止突起に係止し、さらに上下端略中央に形成された切欠部102を介して、図示しない取付ねじをボックスBXの図示しないねじ孔に螺合させることで、装置本体J1がボックスBXに取り付けられる。そして、装置本体J1は、その上下端に取付孔103を設けており、取付孔103にねじを挿通させることで壁面等の構造物に固定される。
【0023】
また、装置本体J1の側面上部から後方へ延設されて内側に係止爪を具備する係止片104,105によって函状のスピーカモジュールJ2の後面が係止されることによって、スピーカモジュールJ2が装置本体J1の内側に取り付けられ、スピーカモジュールJ2が対向する装置本体J1の前面には、スピーカモジュールJ2が具備するスピーカSPからの音を通過させるための複数の音孔7が設けられている。この音孔7は、装置本体J1の前面上部の略中央に、複数の音孔7が略円状に形成されており、さらにその周囲にはディンプル加工による複数の凹部7aが形成されている。
【0024】
また、装置本体J1の側面下部から後方へ延設されて内側に係止爪を具備する係止片106によって函状の音声処理モジュールJ3の後面が係止されることによって、音声処理モジュールJ3が装置本体J1の内側に取り付けられる。音声処理モジュールJ3が対向する装置本体J1の前面には開口部110,111,112が設けられており、通話ボタンSW1、警報停止ボタンSW2、室内呼び出しボタンSW3の裏面に各々形成された突起が各開口部110,111,112に前方から挿通し、音声処理モジュールJ3の前面に取り付けられ、装置本体J1の下部に形成された一対の取付孔103が通話ボタンSW1によって覆われる。
【0025】
また、装置本体J1の上部には、複数の凹部7aが形成されたプレートJ4が前方から係止によって取り付けられ、装置本体J1の上部に形成された一対の取付孔103がプレートJ4によって覆われる。
【0026】
さらに、図11(a)〜(c)に示すように(なお、図11(b)のZ1−Z1断面が図11(a)に示され、図11(b)のZ2−Z2断面が図11(c)に示される)、スピーカモジュールJ2が対向する装置本体J1の内面において、略円状に複数形成された音孔7の略中央に1つ目の円柱型のボス71が突設され、音孔7の側方(音孔7に対向しない箇所)に2つ目の円柱型のボス72が突設されており、ボス71の軸方向の端面に形成された円状の凹部71aにマイクロホンM1が取り付けられ、ボス72の軸方向の端面に形成された円状の凹部72aにマイクロホンM2が取り付けられており(図8参照)、マイクロホンM1,M2の位置決めを容易に行うことができる。ここで、マイクロホンM1,M2は円盤状の外郭を有し、その外周面にゴムキャップGを設けており、マイクロホンM1,M2を凹部71a,72aに圧入すれば、ゴムキャップGの弾性によって凹部71a,72a内に固定されるので、接着剤等の固定手段を用いることなく、組み立てが容易になる。または、凹部71a,72aの内側面に弾性を有するエラストマを形成すれば、マイクロホンM1,M2にゴムキャップGを設ける必要がなく、マイクロホンM1,M2を凹部71a,72a内に容易に固定することができる。さらには、ボス71,72全体が弾性を有するエラストマで形成されてもよい。
【0027】
さらに、マイクロホンM1,M2からは音声信号を出力する一対の配線W1,W2を各々導出しており、配線W1,W2は、凹部71a,72aから下方へ形成された溝部71b,72b内に配設されて、音声処理モジュールJ3に引き込まれており、スピーカモジュールJ2との干渉を防止するとともに、配線経路を確保している。また、マイクロホンM1,M2は、バックエレクトレット型のエレクトレットコンデンサマイクロホンで構成されている。
【0028】
而して、装置本体J1の内面には、スピーカモジュールJ2、音声処理モジュールJ3、マイクロホンM1,M2が取り付けられており、ボックスBX内に設けた図示しない電源回路が、外部から供給される商用電源を安定した直流電圧からなる内部回路の動作電源に変換して、各部へ供給している。
【0029】
スピーカモジュールJ2は、音孔7に対向して装置本体J1の内面に取り付けられており、図12〜図14に示すように、後面に開口を設けて樹脂成形されたボディJ21と、ボディJ21の開口に覆設する平面状に樹脂成形されたカバーJ22とで幅40mm×高さ30mm×厚さ8mmのモジュール本体J20を構成し、モジュール本体J20内にスピーカSPを備える。
【0030】
スピーカSPは、図8に示すように、ボディJ21の前面に設けた円形の凹部11の底面に形成された冷間圧延鋼板(SPCC,SPCEN)、電磁軟鉄(SUY)等の厚み0.8mm程度の鉄系材料で形成された円環状のヨーク20と、ヨーク20の外周縁から前方に向かって延設された円筒状の支持体21とが、ボディJ21の凹部11内に一体形成されている。
【0031】
ヨーク20の円環内の開口20aにはNdFeBで形成された円柱型永久磁石22(例えば、残留磁束密度1.39T〜1.43T)を配置し、ドーム型の振動板23の外周側の縁部が支持体21の段差面21aに接着されている。
【0032】
振動板23は、PET(PolyEthyleneTerephthalate)またはPEI(Polyetherimide)等の熱可塑性プラスチック(例えば、厚み12μm〜50μm)で形成される。振動板23の背面には筒状のボビン24が固定されており、このボビン24の後端にはクラフト紙の紙管にポリウレタン銅線(例えば、φ0.05mm)を巻回することによって形成されたボイスコイル25が設けられている。ボビン24およびボイスコイル25は、内側に円柱型永久磁石22を配置し、ヨーク20に対向して設けられており、ヨーク20の近傍を前後方向に自在に移動する。
【0033】
ボイスコイル25は、一対のリード線W3を介して音声信号が入力されており(図12参照)、このリード線Wは、ボイスコイル25に接続される一端側を円状の振動板23の背面に沿って半径方向に樹脂で固定され、振動板23と支持体21の段差面21aとの間を通って他端側がモジュール本体J20外に導出される。
【0034】
またボディJ21の前面において、図12〜図14に示すように、スピーカSPを配置した凹部11の側方に設けた凹部12の底面には端子板30が配置され、この端子板30上に設けた一対の端子部30a,30bに一対のリード線W3の各他端が半田付けで接続され、音声処理モジュールJ3からの出力配線も一対の端子部30a,30bに半田付けで接続される。したがって、リード線W3を音声処理モジュールJ3からの出力配線に接続する処理や、断線時のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0035】
そして、リード線W3を介してボイスコイル25のポリウレタン銅線に音声信号を入力すると、この音声信号の電流と永久磁石22の磁界とにより、ボイスコイル25に電磁力が発生するため、ボビン24が振動板23を伴なって前後方向に振動させられる。このとき、振動板23から音声信号に応じた音が発せられる。すなわち、動電型のスピーカSPが構成される。
【0036】
モジュール本体J20にスピーカSPが取り付けられると、モジュール本体J20の後面内側および側面内側とスピーカSPの裏面側(ヨーク20側)とで囲まれた空間である後気室Brが形成される。後気室Brは、スピーカSPの振動板23と支持体21の段差面21aとが密着し、さらにモジュール本体J20のボディJ21とカバーJ22とが密着することによって、モジュール本体J20外と絶縁した空間になる。
【0037】
さらに、モジュール本体J20の内面には、図14(a)に示すように、スピーカSP裏面の後気室Brを包囲するボディJ21の内壁面に沿って、一端を内壁面から離し、他端を内壁面に連続させた壁部41が立設されており、この壁部41の端面51がカバーJ22の裏面に当接することで、この壁部41とボディJ21の内壁面とカバーJ22の裏面とで中空の音響管40が形成され、この音響管40が小容量の後気室Br内に配置されている。音響管40は、後気室Brの内壁面に沿って屈曲した矩形の断面形状を有する中空の閉管で、一端を開口し(開口端40a)、他端を閉塞して(閉塞端40b)形成され、管内は開口端40aを介して後気室Br内に連通している。音響管とは、閉管の共振周波数(管の全長が略1/4波長の奇数倍に一致する周波数)で入力インピーダンスが極めて小さくなることを利用したもので、共振周波数の音波が入射すると、その反射波は入射波に対して位相が反転した波形となり、入射波と反射波とが互いに打ち消しあうことで、開口端40aから外部へ伝播する音波を低減させている。
【0038】
このような音響管40は、スピーカSPの最低共振周波数を低周波数側に移行させ、さらにはスピーカSPの音圧レベルを増加させるために設けられており、音響管40の全長を、音圧レベルを増大させたい低周波数(本実施形態では700〜800Hz付近)の略1/4波長に設定することで、後気室Brが小容量であってもスピーカSPの音質および効率が向上する。
【0039】
また、ボディJ21の後面において外周を構成する接合面50の四隅にはリブ52を突設し(図14(a)(b)参照)、カバーJ22がボディJ21の後面開口に覆設する際には、カバーJ22の面取りされた四隅62(図13参照)がリブ52の内側に当接する。
【0040】
このスピーカモジュールJ2を装置本体J1に取り付けると、図8に示すように、装置本体J1の内面とスピーカSPの表面側(振動板23側)とで囲まれて、後気室Brとは絶縁された空間である前気室Bfが形成され、装置本体J1裏面のボス71に取り付けられたマイクロホンM1は、その集音面が振動板23の略中心に対向して前気室Bf内に配置され、スピーカSPからの音声に対して高い指向性を有する。
【0041】
また、装置本体J1裏面のボス72は、スピーカモジュールJ2のボディJ21前面に設けた凹部31内に嵌まり、ボス72が凹部31に嵌合することで、スピーカモジュールJ2を装置本体J1に組み付ける際に位置決めを容易に行うことができ、組み付け作業をスムーズに行うことができる。さらに、ボス72に取り付けられたマイクロホンM2は、その集音面を装置本体J1の前面に穿設された集音孔8を介して外部に連通しているので、集音孔8を介して伝達される、インターホン装置Jの前方に位置する話者からの音声に対して高い指向性を有している。
【0042】
次に、音声処理モジュールJ3は、図15に示すように、通信部81、音声スイッチ部82,83、増幅部84、信号処理部85を備えたICで構成され、他の部屋等に設置されているインターホン装置Jから情報線Lsを介して送信された音声信号は、通信部81で受信され、音声スイッチ部82を介して増幅部84で増幅された後、スピーカSPから出力される。また、通話ボタンSW1を操作することで通話可能状態となり、マイクロホンM1,マイクロホンM2から入力された各音声信号は信号処理部85で後述する信号処理を施された後、音声スイッチ部83を通過し、通信部81から情報線Lsを介して他の部屋等に設置されているインターホン装置Jへ送信される。また、警報停止ボタンSW2は他の端末装置から情報線Lsを介して受信した警報信号による発報を停止する際に操作し、室内呼び出しボタンSW3は他の部屋に設置したインターホン装置Jを呼び出す際に操作する。
【0043】
そして、スピーカSPの振動板23の中心から各マイクロホンM1,M2の集音面の中心までの距離をそれぞれX1,X2とすると、X1<X2となり、本実施形態では、スピーカSPの音声出力をマイクロホンM1,M2が拾うことで発生するハウリングを防止するために、以下の構成を備えている。
【0044】
音声処理モジュールJ3に収納されている信号処理部85は、図1に示すように、増幅回路85a,85bと、A/D変換回路85c,85dと、タイミング制御部85eと、音声処理回路85fとで構成される。A/D変換回路85c,85dの各動作は、タイミング制御部85eによって制御されており、以下、各回路の動作について説明する。
【0045】
まず、増幅回路85a,85bは、マイクロホンM1,M2が出力する各音声信号を所定の増幅率で増幅して、増幅したマイクロホンM1からの音声信号Y11(t)、増幅したマイクロホンM2からの音声信号Y21(t)を出力する。
【0046】
ここで、マイクロホンM1は、集音面がスピーカSPに向かって実装されており、インターホン装置Jの前方に位置する話者H(図8参照)が発する音声(話者音)よりも、スピーカSPが発する音声を感度よく集音する。一方、マイクロホンM2は、集音面が前方に向かって配置されており、スピーカSPが発する音声よりも、インターホン装置Jの前方に位置する話者Hが発する音声を感度よく集音する。
【0047】
すなわち、マイクロホンM1からの音声信号Y11(t)は、スピーカSPが発する音声に対しては感度が高く振幅が大きくなるが、話者Hが発する音声に対しては感度が低く振幅が小さくなる。また、マイクロホンM2からの音声信号Y21(t)は、話者Hが発する音声に対しては感度が高く振幅が大きくなるが、スピーカSPが発する音声に対しては感度が低く振幅が小さくなる。
【0048】
さらに、送話時には、話者Hが発する音声とスピーカSPが発する音声との両方がマイクロホンM1,M2にて集音されるが、スピーカSPの中心から各マイクロホンM1,M2の中心までの距離X1,X2はX1<X2であるので、スピーカSPからの音声に対しては、マイクロホンM1からの音声信号Y11(t)とマイクロホンM2からの音声信号Y21(t)との間に位相差が生じ、両マイクロホンM1,M2とスピーカSPとの距離の差(X2−X1)に相当する音波の遅延時間[Td=(X2−X1)/Vs](Vsは音速)だけ、マイクロホンM1の音声信号Y11(t)に比べてマイクロホンM2の音声信号Y21(t)の位相が遅れる(図2(a)(b)参照)。この遅延時間Tdは、理想的な条件下(例えば、点音源、ハウジング密閉構造、回路構成のCRのバラツキがない等)では、スピーカSPが発する音声の周波数に依存せず周波数に対して一定であるが、実際には理想的な条件下ではないのでスピーカSPが発する音声の周波数に依存している。
【0049】
また、スピーカSPからの音声に対する音声信号Y11(t),Y21(t)の振幅も上記同様に、理想的な条件下では、スピーカSPが発する音声の周波数に依存せず周波数に対して一定であるが、実際には理想的な条件下ではないのでスピーカSPが発する音声の周波数に依存している。
【0050】
一方、マイクロホンM1,M2と話者Hとの各距離は等しいとみなせるので、話者Hが発する音声に対しては、両マイクロホンM1,M2の各音声信号Y11(t),Y21(t)は、略同一位相となる。
【0051】
そして、A/D変換回路85cは、増幅されたマイクロホンM1のアナログの音声信号Y11(t)をデジタル信号に変換し、A/D変換回路85dは、増幅されたマイクロホンM2のアナログの音声信号Y21(t)をデジタル信号に変換する。A/D変換回路85cのA/D変換動作は、タイミング制御部85eが出力する制御信号Si1の立ち上がりに同期して行われ、A/D変換回路85dのA/D変換動作は、タイミング制御部85eが出力する制御信号Si2の立ち上がりに同期して行われる。さらに、スピーカSPが発する周波数f1(基準周波数)の音声に対して、マイクロホンM2の音声信号Y21(t)の位相がマイクロホンM1の音声信号Y11(t)に比べて遅延時間Td1だけ遅れていることから、クロック信号Si2をクロック信号Si1に対して遅延時間Td1遅れて発生させるようにタイミング制御部85eの動作を予め設定しておくことで、増幅されたマイクロホンM1,M2の各音声信号Y11(t),Y21(t)が周波数f1で同一位相となる箇所をA/D変換している(図2(c)(d))。
【0052】
したがって、低サンプリング周波数のA/D変換回路85c,85dであっても、正確な遅延時間の調整が可能となり、周波数f1におけるマイクロホンM1,M2の各音声信号Y11(t),Y21(t)の位相を精度よく一致させることができる。
【0053】
そして、A/D変換回路85cからは、マイクロホンM1の音声信号をA/D変換したデジタル値a1,b1,c1,d1,e1,………で構成される音声信号Y12(t)が出力され(図2(e)参照)、A/D変換回路85dからは、マイクロホンM2の音声信号をA/D変換したデジタル値a2,b2,c2,d2,e2,………で構成される音声信号Y22(t)が出力されており(図2(f)参照)、マイクロホンM1のデジタル値a1とマイクロホンM2のデジタル値a2、マイクロホンM1のデジタル値b1とマイクロホンM2のデジタル値b2、マイクロホンM1のデジタル値c1とマイクロホンM2のデジタル値c2、………を各々対応させることで、マイクロホンM1,M2の各音声信号が周波数f1で同一位相となっている。
【0054】
しかし、前述のように、スピーカSPからの音声に対する音声信号Y11(t),Y21(t)の振幅は、スピーカSPが発する音声の周波数に依存しており、スピーカSPから発せられた音声がマイクロホンM1に伝わる伝達関数をHs1(ω)とし、スピーカSPから発せられた音声がマイクロホンM2に伝わる伝達関数をHs2(ω)とすると、音声信号Y11(t),Y21(t)の振幅比A(ω)(以降、音声信号振幅比A(ω)と称す)は、
A(ω)=|Hs1(ω)|/|Hs2(ω)| ……… (1)
と表される。
【0055】
図3は、本実施形態の音声信号振幅比A(ω)の周波数特性を示しており、音声信号振幅比A(ω)は、500〜3500(Hz)の間において振幅比変動幅ΔL内で変動している。この振幅比変動幅ΔLは、音声信号振幅比A(ω)の最大値をmax[A(ω)]、最小値をmin[A(ω)]とすると、
ΔL=max[A(ω)]−min[A(ω)] ……… (2)
と表される。
【0056】
そして、本実施形態の音声処理回路85fは、スピーカSPからの音声に対するマイクロホンM1,M2の各出力レベルを一致させる適応フィルタを用いた振幅調整手段を具備しており、その具体的なアルゴリズムは、min[A(ω)]〜max[A(ω)]の範囲をn段階に分割して(例えば、n段階に等間隔で分割する)、各段階での音声信号振幅比の逆数[A(ω)]−1である振幅補正係数Bi(但し、i=1,2,...,n)を用意し、振幅逐次最適調整型の適応フィルタ部91が、マイクロホンM1からの音声信号Y12(t)に対して各振幅補正係数Biを乗じた音声信号Y13i(t)(但し、i=1,2,...,n)を生成する。なお、適応フィルタ部91は、遅れ時間要素91aと増幅部91bとで構成されている。
【0057】
振幅補正係数Biは、
B^i=[min[A(ω)]+{ΔL/n}(i−1)]−1 ……… (3)
(但し、i=1,2,...,n)
で表される。ここで、遅延時間Tdが周波数に依らず一定であれば、振幅補正誤差は、上記(3)式の右辺第2項の{ΔL/n}の値の範囲内となり、この値を小さくすることで、スピーカ音のキャンセル処理能力を向上させることができる。
【0058】
次に、演算部92は、マイクロホンM1の音声信号Y13i(t)からマイクロホンM2の音声信号Y22(t)を減算することで、スピーカSPからの音声成分が打ち消された音声信号Yai(t)(但し、i=1,2,...,n)を生成する。
【0059】
そして、信号選択部93は、n個の音声信号Yai(t)から最小の信号を選択し、選択した最小の音声信号Yai(t)を、出力信号Yo(t)として出力する。すなわち、出力信号Yo(t)は、適応フィルタ部91がn個の振幅補正係数Biのうち最適な振幅補正係数Biを用いてマイクロホンM1の音声信号の振幅を調整することで、スピーカSPからの音声成分が最も打ち消された音声信号となる。
【0060】
一方、マイクロホンM1,M2前方の話者Hが発する音声に対しては、集音面を話者Hに向かって配置したマイクロホンM2の音声信号Y21の振幅が、集音面をスピーカSPに向かって配置したマイクロホンM1の音声信号Y11の振幅よりも大きくなる。さらに、マイクロホンM1からの信号は適応フィルタ部91で減衰するので、音声信号Y22(t)に含まれる話者Hからの音声成分は、音声信号Y13i(t)に含まれる話者Hからの音声成分よりさらに大きくなる。すなわち、音声信号Y22(t)に含まれる話者Hからの音声成分と、音声信号Y13i(t)に含まれる話者Hからの音声成分との振幅差は大きくなり、演算部92で上記減算処理を施しても、音声信号Yai(t)には、話者Hが発する音声に応じた信号が十分な振幅を維持した状態で残っている。
【0061】
以上のようにして信号処理部85が出力する音声信号YoではスピーカSPからの音声成分が低減され、一方、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声成分は残っており、音声信号Yoでは、残したい話者Hからの音声成分と、低減したいスピーカSPからの音声成分との相対的な差が広い周波数帯域に亘って大きくなり、スピーカSPの音声出力をマイクロホンM1,M2が拾うことで発生するハウリングを防止することができる。
【0062】
さらには、スピーカSPからの音声に対するマイクロホンM1,M2の各出力レベルを一致させる振幅調整手段に適応フィルタ部91を用いることによって、スピーカSPからマイクロホンM1,M2へ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能を簡易に向上させることができ、優れたハウリング防止効果を得ることができる。
【0063】
次に、本実施形態において音声処理回路85fがスピーカ音をキャンセルする上記アルゴリズムによるハウリング防止効果をより効果的にするための条件について説明する。
【0064】
まず、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声(話者音)が、マイクロホンM1,M2に同タイミング、且つ同レベルで入力しているとすると、信号処理部85において、Y11(t)=Y21(t)=Ys(t)となり、話者音のみがマイクロホンM1,M2に入力されているときに信号処理部85から出力される音声信号Yo(t)は、
Yo(t)=Ys(t)−Ys(t)・exp(−jω(Td1))・(Ao−1+Rm)
=Ys(t){1−Ao−1・exp(−jω(Td1))−Rm・exp(−jω(Td1))} ……… (4)
となる。
【0065】
ここで上記Aoは、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅の中心値であり(以降、変動幅中心値Aoと称す)、
Ao={max[A(ω)]+min[A(ω)]}/2 ……… (5)
(但し、Ao>1)
で表される。
【0066】
上記Rmは、話者音の実効値を1とした場合に、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅によって生じるノイズの実効値であり(以降、ノイズ実効値Rmと称す)、
Rm=ΔL/Ao ……… (6)
で表される。
【0067】
上記(4)式において、[Ao−1・exp(−jω(Td1))]は、話者音の劣化要因であり、[Rm・exp(−jω(Td1))]は、雑音成分の増加分であると捉えることができる。
【0068】
そして、最悪条件として、A/D変換回路85c,85dのA/D変換タイミングによって補正される遅延時間Td1=0の場合、本来欲しい前方からの話者音のみの音声成分S、およびマイクロホンM1,M2の各出力の振幅比を逐次最適調整することによって発生する雑音成分Nの各信号レベルは、
S=20・Log(1−Ao−1)
N=20・Log(Rm) ……… (7)
となる。したがって、本実施形態において音声処理回路85fの上記アルゴリズムによる信号処理後のS/N比は、
S/N=20・Log{(1−Ao−1)/(Rm)} ……… (8)
となる。
【0069】
図4は、音声信号振幅比A(ω)と話者音劣化量との関係を示しており、例えば、話者音劣化量を3dB以下にするためには、音声信号振幅比A(ω)は3.42以上必要である。
【0070】
図5は、min[A(ω)]=3.42に固定した場合において、振幅比変動幅ΔLと変動幅中心値Aoとの関係を示し、図6は、図5におけるRm(=ΔL/Ao)とS/N比との関係を示しており、例えば、S/N比を6dB以上確保するためには、Rmは0.38以下を維持する必要がある。
【0071】
而して、上記(4)〜(6)式より、所望の話者音の劣化量、および話者音のS/N比を得るためには、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅の中心値:Ao、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅によって生じるノイズの実効値:Rmを、図7のように設定すればよい。すなわち、Ao、Rmの各値を満足するように、スピーカSP、マイクロホンM1,M2を配置すればよいのである(相対位置、絶対位置ともに)。
【0072】
図7では、Ao、Rmの具体的数値を挙げているが、Aoをより大きく、Rmをより小さくすることで、本アルゴリズムによるスピーカ音のキャンセル効果が増大する。逆に言うと、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声(話者音)が、マイクロホンM1,M2に同タイミング、且つ同レベルで入力している場合においては、Aoが大きく、Rmが小さければ、スピーカ音だけでなく話者音も大幅にキャンセルされ、且つ雑音レベルが大幅に上がるということであり、つまりは図7に示すような各条件を満足するようにAo、Rmを設定することによって、本アルゴリズムは効果的なものとなる。
【0073】
次に、音声スイッチ部82,83(図15参照)では、以下の処理を行うことでさらなるハウリング防止を図っている。音声スイッチ部82は受信した信号の伝送線路上に配置され、音声スイッチ部83は送信する信号の伝送線路上に配置されて、音声スイッチ処理部86を構成しており、音声スイッチ部82,83は互いの入力信号のレベルを比較し、入力信号のレベルが小さいほうの音声スイッチ部は、内部に具備した可変損失手段によって伝送線路上の伝送損失を大きくする。したがって、受信した信号と送信される信号とのうち、いずれかレベルの小さい信号は減衰し、ハウリングマージンがさらに増加するので、一層のハウリング防止が図られている。
【0074】
なお、図4〜図7では、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声(話者音)が、マイクロホンM1,M2に同タイミング、且つ同レベルで入力していることを前提としているが、本発明はこの前提条件の有無に関わらず同様の効果を得ることができる。
【0075】
(実施形態2)
実施形態1において、スピーカSPが発した音声がマイクロホンM1に到達してからマイクロホンM2に到達するまでの時間差である遅延時間Tdは、図16に示すように周波数に対して一定ではない。周波数に対する遅延時間をTd(ω)、スピーカSPが発する音声がマイクロホンM1に伝わる伝達関数をHs1(ω)、スピーカSPが発する音声がマイクロホンM2に伝わる伝達関数をHs2(ω)とすると、
Td(ω)=(2π/ω)・{tan−1[Hs2(ω)]−tan−1[Hs1(ω)]}/360 ……… (9)
で表される。なお、図16では、この周波数に対する遅延時間Td(ω)の最大値max[Td(ω)]と最小値min[Td(ω)]との間の変動幅をΔTdで表している(以降、遅延時間変動幅ΔTdと称す)。
【0076】
ここで、基準遅延時間Toは、
To={max[Td(ω)]+min[Td(ω)]}/2 ……… (10)
で表される。
【0077】
そして、信号処理部85の音声処理回路85fは、マイクロホンM1,M2の各音声信号の位相差を基準遅延時間Toを中心に変化させながらマイクロホンM1,M2の各音声信号の差を演算し、マイクロホンM1,M2の各音声信号の位相差を、当該演算結果が最小となる位相差に設定する逐次最適調整を行う位相調整手段を具備しており、具体的に位相調整手段は、図17に示すように、音声処理回路85fに位相逐次最適調整型の適応フィルタ部94を付加することで構成されている。なお、適応フィルタ部94は、線形予測のFIRフィルタであり、増幅部94aと、遅れ時間要素94bおよび増幅部94cと、遅れ時間要素94dおよび増幅部94eとで構成されている。
【0078】
マイクロホンM2の音声信号Y22(t)は、図2(f)に示すように、アナログ値をA/D変換したデジタル値a2,b2,c2,d2,e2,………で構成されるが、適応フィルタ部94の動作について、図18に示すデジタル値a2,b2,c2を用いて説明する。
【0079】
まず、適応フィルタ部94は、マイクロホンM2のデジタル値a2−b2間における音声信号Y22(t)の振幅を直線K1で近似し、デジタル値b2−c2間における音声信号Y22(t)の振幅を直線K2で近似する。そして、遅延時間変動幅ΔTdをm段階[...To−2,To−1,To,To+1,To+2,...]に分割し(例えばΔTdを等間隔にm段階に分割する)、そのm段階の中心である基準遅延時間Toをデジタル値b2に対応させて、デジタル値b2の進み側および遅れ側に設定された合計m段階の遅延時間Tj(但し、j=1,2,...,m)における音声信号の振幅を、直線近似された直線K1,K2上から推測して、マイクロホンM2の音声信号Y23ij(t)(但し、i=1,2,...,n、j=1,2,...,m)を生成する。このとき、増幅部94a、増幅部94c、増幅部94eにおける位相補正係数は、それぞれC1ij、C2ij、C3ijとなる。
【0080】
そして、演算部92は、マイクロホンM1の音声信号Y13i(t)からマイクロホンM2の音声信号Y23ij(t)を減算することで、スピーカSPからの音声成分が打ち消された音声信号Yaij(t)を生成する。
【0081】
そして、信号選択部93は、n×m個の音声信号Yaij(t)から最小の信号を選択し、選択した最小の音声信号Yaij(t)を、出力信号Yo(t)として出力する。すなわち、出力信号Yo(t)は、n個の振幅補正係数Biとm個の遅延時間Tjとの組み合わせから、最適な振幅補正係数Biおよび遅延時間Tjを用いて、スピーカSPからの音声成分が最も打ち消された音声信号となる。
【0082】
したがって、マイクロホンM1,M2が集音する音声信号の振幅の周波数特性だけでなく、遅延時間の周波数特性も考慮して、音声信号の振幅補正、遅れ時間補正を行うので、さらにスピーカ音のキャンセル効果がさらに向上し、ハウリング防止効果がさらに向上する。また、マイクロホンM2の音声信号の振幅を直線近似によって推測するので、簡易な構成で位相調整を容易に行うことができる。
【0083】
本実施形態では、音声処理回路85fが処理するパラメータの数がn×m個となり、多くの演算処理を行う必要があることから、音声処理回路85fの回路規模が大きくなる虞があるが、n、mだけでなく、例えば、変動幅中心値Ao、基準遅延時間To、振幅比変動幅ΔL、遅延時間変動幅ΔTdを併せた計6個のパラメータを用いて演算を工夫すれば、小さな回路規模で、低負荷での実現が可能となる。例えば、CPUを用いない場合は、簡易なデジタル回路で音声処理回路85fを構成することができ、CPUを用いる場合は、低負荷な演算処理によって音声処理回路85fを実現できる。
【0084】
(実施形態3)
図19は、実施形態1または2における音声スイッチ処理部86(図15参照)の具体構成を示しており、音声スイッチ部82が受信した信号の伝送線路上に配置され、音声スイッチ部83が送信する信号の伝送線路上に配置されており、比較器86aが音声スイッチ部82,83の各入力信号のレベルを比較し、入力信号のレベルが小さいほうの音声スイッチ部は、内部に具備した可変損失手段によって伝送線路上の伝送損失を大きくしている。したがって、受信した信号と送信される信号とのうち、いずれかレベルの小さい信号は減衰し、ハウリングマージンがさらに増加するので、一層のハウリング防止が図られている。
【0085】
本実施形態では、さらに比較器86aの比較結果を信号処理部85に出力し、信号処理部85は、比較結果からスピーカ音のレベルが所定の閾値以下であると判定すれば、音声処理回路85f(振幅逐次最適調整型の適応フィルタ部91、演算部92、信号選択部93、位相逐次最適調整型の適応フィルタ部94)によるスピーカ音のキャンセル処理を停止し、不要なキャンセル処理による話者音の劣化を防止している。
【0086】
なお、本実施形態では、情報線Lsを介した有線通信方式を用いて、インターホン装置J間における音声信号の授受を行っているが、インターホン装置Jに周知の無線通信手段を設けることで、無線通信方式による音声信号の授受を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施形態1のインターホン装置の信号処理部の構成図である。
【図2】(a)〜(f)同上の信号処理部の各部の波形図である。
【図3】同上の音声信号振幅比の周波数特性を示す図である。
【図4】同上の音声信号振幅比と話者音劣化量との関係を示す図である。
【図5】同上の振幅比変動幅と振幅比との関係を示す図である。
【図6】同上のノイズ実効値とS/N比との関係を示す図である。
【図7】同上の各パラメータの設定を示す図である。
【図8】同上のインターホン装置を示す断面図である。
【図9】同上のインターホン装置の一部を示す分解斜視図である。
【図10】同上のインターホン装置をボックスに取り付けた斜視図である。
【図11】同上の装置本体の一部拡大した裏面図である。
【図12】同上のスピーカモジュールを示す斜視図である。
【図13】同上のスピーカモジュールを示す分解斜視図である。
【図14】(a)(b)同上のボディを示す平面図である。
【図15】同上の音声処理モジュールの構成図である。
【図16】実施形態2の遅延時間の周波数特性を示す図である。
【図17】同上の信号処理部の構成図である。
【図18】同上の音声信号の線形予測を示す図である。
【図19】実施形態3の音声スイッチ処理部周辺の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
J インターホン装置
SP スピーカ
M1,M2 マイクロホン
85 信号処理部
85c,85d A/D変換回路
85f 音声処理回路
91 適応フィルタ
92 演算部
93 信号選択部
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターホン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内に設置されるインターホン装置があり、他の場所に設置されたインターホン装置からの音声を出力するスピーカや、他のインターホン装置へ伝達する音声を入力するマイクロホン等を備えている。
【0003】
そして、スピーカから発生した音声がマイクロホンに回り込むとハウリングが生じることになるから、様々なハウリング防止対策が採られている。例えば、スピーカと一対のマイクロホンとを備えて、両マイクロホンとスピーカとの距離の差に相当する音波の遅延時間だけスピーカに近いほうのマイクロホンの出力を遅延させる遅延回路と、スピーカからの音声に対する両マイクロホンの出力レベルを一致させるレベル調整増幅回路と、遅延回路とレベル調整増幅回路とを通った両マイクロホンの出力を両入力とする差動増幅回路とを設け、差動増幅回路の出力を送話信号とするインターホン装置が提案された。
【0004】
このインターホン装置では、両マイクロホンでスピーカからの音声を拾った後、遅延およびレベル調整を行なって両マイクロホンに入力されるスピーカからの音声成分を差動増幅回路で相殺することで、スピーカからの音声成分のみを除去して(キャンセル処理)、ハウリングを防止しようとしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許3226121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スピーカから発せられた音声はマイクロホンに伝達されて音声信号に変換されるが、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数は周波数特性を有しており、マイクロホンで集音される音声の位相、振幅は、周波数に依存している。このことが、スピーカ音のキャンセル処理性能を劣化させる原因となっていた。
【0006】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができるインターホン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、伝達された音声情報を出力するスピーカと、音声を集音して音声信号を出力する第1のマイクロホンと、スピーカからの距離が第1のマイクロホンより遠い位置に配置されるとともに音声を集音して音声信号を出力する第2のマイクロホンと、第1,第2のマイクロホンが出力する各音声信号を信号処理して伝達する信号処理部とを備えて、第1,第2のマイクロホンとスピーカとの各距離の差に相当する所定周波数の音波の伝達時間を遅延時間とし、信号処理部は、前記遅延時間に応じてスピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相を前記所定周波数において一致させる遅延時間調整手段と、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を調整する適応フィルタを用いた振幅調整手段と、遅延時間調整手段,振幅調整手段を通過した第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を出力する演算手段とを備え、振幅調整手段は、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を、当該演算結果が最小となる振幅比に設定する逐次最適調整を行うことを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各出力レベルを一致させる振幅調整手段に適応フィルタを用いることによって、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記スピーカからの音声に対する第1のマイクロホンの音声信号を第2のマイクロホンの音声信号で除した振幅比が第1の所定値以上であり、当該振幅比が周波数に対して変動する幅を当該変動幅の中心値で除した値が第2の所定値以下となるように、スピーカと第1,第2のマイクロホンとを配置したことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、信号処理部が出力する音声信号に含まれる話者音の劣化を抑制するとともに、良好なS/N比(前方からの話者音のみの音声成分をS、第1,第2のマイクロホンの各出力の振幅比を逐次最適調整することによって発生する雑音成分をNとする)を維持することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記遅延時間調整手段は、第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、第1のA/D変換手段が第1のマイクロホンからの音声信号をA/D変換したタイミングから前記遅延時間経過したときに、第2のA/D変換手段が第2のマイクロホンからの音声信号をA/D変換することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、第1,第2のA/D変換手段に低サンプリング周波数のA/D変換手段を用いたとしても、正確な遅延時間の調整が可能となる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1乃至3いずれかにおいて、前記信号処理部は、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を、当該演算結果が最小となる位相差に設定する逐次最適調整を行う位相調整手段を備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、第1,第2のマイクロホンが集音する音声信号の振幅の周波数特性だけでなく、遅延時間の周波数特性も考慮して、音声信号の振幅補正、遅れ時間補正を行うので、さらにスピーカ音のキャンセル効果がさらに向上し、ハウリング防止効果がさらに向上する。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4において、第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、前記位相調整手段は、第1,第2のA/D変換手段のうち少なくとも一方のA/D変換手段が連続して出力した2つのデジタル値を結ぶ直線に沿って音声信号が連続して推移していると判断し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算する際には、少なくとも一方のA/D変換手段の音声信号として当該直線上の値を用いることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、音声信号の振幅を直線近似によって推測するので、簡易な構成で位相調整を容易に行うことができる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1乃至5いずれかにおいて、前記信号処理部は、前記スピーカに入力される信号が所定の閾値以下の場合は、少なくとも前記遅延時間調整手段、振幅調整手段、演算手段によるスピーカ音のキャンセル処理を行わないことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、スピーカ音のレベルが所定の閾値以下であると判定すれば、スピーカ音のキャンセル処理を停止し、不要なキャンセル処理による話者音の劣化を防止できる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明では、スピーカからマイクロホンへ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能が簡易に向上し、ハウリングを防止することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態のインターホン装置Jは図8〜図10に示され、本装置の外郭を形成する装置本体J1と、装置本体J1に取り付けられるスピーカモジュールJ2、音声処理モジュールJ3、マイクロホンM1(第1のマイクロホン),マイクロホンM2(第2のマイクロホン)、各種ボタンスイッチSW1〜SW3とで構成されており、建物内の適所において埋め込み配設されたボックスBXの前面に取り付けられる。そして、ボックスBXを介して配線された情報線Lsが接続され、部屋間で情報線Lsを介した双方向の通話機能を有する。インターホン装置Jの電源は、設置場所の近傍に設けたコンセントから供給されるか、あるいは情報線Lsを介して供給されてもよい。なお、図9において、後述するスピーカSPの構成要件の一部(ヨーク20や永久磁石22等)は省略している。
【0022】
装置本体J1は、ABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene resin)またはPC−ABS(PolyCarbonate−Acrylonitrile-Butadiene-Styreneresin)を成形して、後面および上下面を開放した略函状に形成され、その側面下部から後方に延設されて外側に係止爪を具備する係止片101がボックスBXの図示しない係止突起に係止し、さらに上下端略中央に形成された切欠部102を介して、図示しない取付ねじをボックスBXの図示しないねじ孔に螺合させることで、装置本体J1がボックスBXに取り付けられる。そして、装置本体J1は、その上下端に取付孔103を設けており、取付孔103にねじを挿通させることで壁面等の構造物に固定される。
【0023】
また、装置本体J1の側面上部から後方へ延設されて内側に係止爪を具備する係止片104,105によって函状のスピーカモジュールJ2の後面が係止されることによって、スピーカモジュールJ2が装置本体J1の内側に取り付けられ、スピーカモジュールJ2が対向する装置本体J1の前面には、スピーカモジュールJ2が具備するスピーカSPからの音を通過させるための複数の音孔7が設けられている。この音孔7は、装置本体J1の前面上部の略中央に、複数の音孔7が略円状に形成されており、さらにその周囲にはディンプル加工による複数の凹部7aが形成されている。
【0024】
また、装置本体J1の側面下部から後方へ延設されて内側に係止爪を具備する係止片106によって函状の音声処理モジュールJ3の後面が係止されることによって、音声処理モジュールJ3が装置本体J1の内側に取り付けられる。音声処理モジュールJ3が対向する装置本体J1の前面には開口部110,111,112が設けられており、通話ボタンSW1、警報停止ボタンSW2、室内呼び出しボタンSW3の裏面に各々形成された突起が各開口部110,111,112に前方から挿通し、音声処理モジュールJ3の前面に取り付けられ、装置本体J1の下部に形成された一対の取付孔103が通話ボタンSW1によって覆われる。
【0025】
また、装置本体J1の上部には、複数の凹部7aが形成されたプレートJ4が前方から係止によって取り付けられ、装置本体J1の上部に形成された一対の取付孔103がプレートJ4によって覆われる。
【0026】
さらに、図11(a)〜(c)に示すように(なお、図11(b)のZ1−Z1断面が図11(a)に示され、図11(b)のZ2−Z2断面が図11(c)に示される)、スピーカモジュールJ2が対向する装置本体J1の内面において、略円状に複数形成された音孔7の略中央に1つ目の円柱型のボス71が突設され、音孔7の側方(音孔7に対向しない箇所)に2つ目の円柱型のボス72が突設されており、ボス71の軸方向の端面に形成された円状の凹部71aにマイクロホンM1が取り付けられ、ボス72の軸方向の端面に形成された円状の凹部72aにマイクロホンM2が取り付けられており(図8参照)、マイクロホンM1,M2の位置決めを容易に行うことができる。ここで、マイクロホンM1,M2は円盤状の外郭を有し、その外周面にゴムキャップGを設けており、マイクロホンM1,M2を凹部71a,72aに圧入すれば、ゴムキャップGの弾性によって凹部71a,72a内に固定されるので、接着剤等の固定手段を用いることなく、組み立てが容易になる。または、凹部71a,72aの内側面に弾性を有するエラストマを形成すれば、マイクロホンM1,M2にゴムキャップGを設ける必要がなく、マイクロホンM1,M2を凹部71a,72a内に容易に固定することができる。さらには、ボス71,72全体が弾性を有するエラストマで形成されてもよい。
【0027】
さらに、マイクロホンM1,M2からは音声信号を出力する一対の配線W1,W2を各々導出しており、配線W1,W2は、凹部71a,72aから下方へ形成された溝部71b,72b内に配設されて、音声処理モジュールJ3に引き込まれており、スピーカモジュールJ2との干渉を防止するとともに、配線経路を確保している。また、マイクロホンM1,M2は、バックエレクトレット型のエレクトレットコンデンサマイクロホンで構成されている。
【0028】
而して、装置本体J1の内面には、スピーカモジュールJ2、音声処理モジュールJ3、マイクロホンM1,M2が取り付けられており、ボックスBX内に設けた図示しない電源回路が、外部から供給される商用電源を安定した直流電圧からなる内部回路の動作電源に変換して、各部へ供給している。
【0029】
スピーカモジュールJ2は、音孔7に対向して装置本体J1の内面に取り付けられており、図12〜図14に示すように、後面に開口を設けて樹脂成形されたボディJ21と、ボディJ21の開口に覆設する平面状に樹脂成形されたカバーJ22とで幅40mm×高さ30mm×厚さ8mmのモジュール本体J20を構成し、モジュール本体J20内にスピーカSPを備える。
【0030】
スピーカSPは、図8に示すように、ボディJ21の前面に設けた円形の凹部11の底面に形成された冷間圧延鋼板(SPCC,SPCEN)、電磁軟鉄(SUY)等の厚み0.8mm程度の鉄系材料で形成された円環状のヨーク20と、ヨーク20の外周縁から前方に向かって延設された円筒状の支持体21とが、ボディJ21の凹部11内に一体形成されている。
【0031】
ヨーク20の円環内の開口20aにはNdFeBで形成された円柱型永久磁石22(例えば、残留磁束密度1.39T〜1.43T)を配置し、ドーム型の振動板23の外周側の縁部が支持体21の段差面21aに接着されている。
【0032】
振動板23は、PET(PolyEthyleneTerephthalate)またはPEI(Polyetherimide)等の熱可塑性プラスチック(例えば、厚み12μm〜50μm)で形成される。振動板23の背面には筒状のボビン24が固定されており、このボビン24の後端にはクラフト紙の紙管にポリウレタン銅線(例えば、φ0.05mm)を巻回することによって形成されたボイスコイル25が設けられている。ボビン24およびボイスコイル25は、内側に円柱型永久磁石22を配置し、ヨーク20に対向して設けられており、ヨーク20の近傍を前後方向に自在に移動する。
【0033】
ボイスコイル25は、一対のリード線W3を介して音声信号が入力されており(図12参照)、このリード線Wは、ボイスコイル25に接続される一端側を円状の振動板23の背面に沿って半径方向に樹脂で固定され、振動板23と支持体21の段差面21aとの間を通って他端側がモジュール本体J20外に導出される。
【0034】
またボディJ21の前面において、図12〜図14に示すように、スピーカSPを配置した凹部11の側方に設けた凹部12の底面には端子板30が配置され、この端子板30上に設けた一対の端子部30a,30bに一対のリード線W3の各他端が半田付けで接続され、音声処理モジュールJ3からの出力配線も一対の端子部30a,30bに半田付けで接続される。したがって、リード線W3を音声処理モジュールJ3からの出力配線に接続する処理や、断線時のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0035】
そして、リード線W3を介してボイスコイル25のポリウレタン銅線に音声信号を入力すると、この音声信号の電流と永久磁石22の磁界とにより、ボイスコイル25に電磁力が発生するため、ボビン24が振動板23を伴なって前後方向に振動させられる。このとき、振動板23から音声信号に応じた音が発せられる。すなわち、動電型のスピーカSPが構成される。
【0036】
モジュール本体J20にスピーカSPが取り付けられると、モジュール本体J20の後面内側および側面内側とスピーカSPの裏面側(ヨーク20側)とで囲まれた空間である後気室Brが形成される。後気室Brは、スピーカSPの振動板23と支持体21の段差面21aとが密着し、さらにモジュール本体J20のボディJ21とカバーJ22とが密着することによって、モジュール本体J20外と絶縁した空間になる。
【0037】
さらに、モジュール本体J20の内面には、図14(a)に示すように、スピーカSP裏面の後気室Brを包囲するボディJ21の内壁面に沿って、一端を内壁面から離し、他端を内壁面に連続させた壁部41が立設されており、この壁部41の端面51がカバーJ22の裏面に当接することで、この壁部41とボディJ21の内壁面とカバーJ22の裏面とで中空の音響管40が形成され、この音響管40が小容量の後気室Br内に配置されている。音響管40は、後気室Brの内壁面に沿って屈曲した矩形の断面形状を有する中空の閉管で、一端を開口し(開口端40a)、他端を閉塞して(閉塞端40b)形成され、管内は開口端40aを介して後気室Br内に連通している。音響管とは、閉管の共振周波数(管の全長が略1/4波長の奇数倍に一致する周波数)で入力インピーダンスが極めて小さくなることを利用したもので、共振周波数の音波が入射すると、その反射波は入射波に対して位相が反転した波形となり、入射波と反射波とが互いに打ち消しあうことで、開口端40aから外部へ伝播する音波を低減させている。
【0038】
このような音響管40は、スピーカSPの最低共振周波数を低周波数側に移行させ、さらにはスピーカSPの音圧レベルを増加させるために設けられており、音響管40の全長を、音圧レベルを増大させたい低周波数(本実施形態では700〜800Hz付近)の略1/4波長に設定することで、後気室Brが小容量であってもスピーカSPの音質および効率が向上する。
【0039】
また、ボディJ21の後面において外周を構成する接合面50の四隅にはリブ52を突設し(図14(a)(b)参照)、カバーJ22がボディJ21の後面開口に覆設する際には、カバーJ22の面取りされた四隅62(図13参照)がリブ52の内側に当接する。
【0040】
このスピーカモジュールJ2を装置本体J1に取り付けると、図8に示すように、装置本体J1の内面とスピーカSPの表面側(振動板23側)とで囲まれて、後気室Brとは絶縁された空間である前気室Bfが形成され、装置本体J1裏面のボス71に取り付けられたマイクロホンM1は、その集音面が振動板23の略中心に対向して前気室Bf内に配置され、スピーカSPからの音声に対して高い指向性を有する。
【0041】
また、装置本体J1裏面のボス72は、スピーカモジュールJ2のボディJ21前面に設けた凹部31内に嵌まり、ボス72が凹部31に嵌合することで、スピーカモジュールJ2を装置本体J1に組み付ける際に位置決めを容易に行うことができ、組み付け作業をスムーズに行うことができる。さらに、ボス72に取り付けられたマイクロホンM2は、その集音面を装置本体J1の前面に穿設された集音孔8を介して外部に連通しているので、集音孔8を介して伝達される、インターホン装置Jの前方に位置する話者からの音声に対して高い指向性を有している。
【0042】
次に、音声処理モジュールJ3は、図15に示すように、通信部81、音声スイッチ部82,83、増幅部84、信号処理部85を備えたICで構成され、他の部屋等に設置されているインターホン装置Jから情報線Lsを介して送信された音声信号は、通信部81で受信され、音声スイッチ部82を介して増幅部84で増幅された後、スピーカSPから出力される。また、通話ボタンSW1を操作することで通話可能状態となり、マイクロホンM1,マイクロホンM2から入力された各音声信号は信号処理部85で後述する信号処理を施された後、音声スイッチ部83を通過し、通信部81から情報線Lsを介して他の部屋等に設置されているインターホン装置Jへ送信される。また、警報停止ボタンSW2は他の端末装置から情報線Lsを介して受信した警報信号による発報を停止する際に操作し、室内呼び出しボタンSW3は他の部屋に設置したインターホン装置Jを呼び出す際に操作する。
【0043】
そして、スピーカSPの振動板23の中心から各マイクロホンM1,M2の集音面の中心までの距離をそれぞれX1,X2とすると、X1<X2となり、本実施形態では、スピーカSPの音声出力をマイクロホンM1,M2が拾うことで発生するハウリングを防止するために、以下の構成を備えている。
【0044】
音声処理モジュールJ3に収納されている信号処理部85は、図1に示すように、増幅回路85a,85bと、A/D変換回路85c,85dと、タイミング制御部85eと、音声処理回路85fとで構成される。A/D変換回路85c,85dの各動作は、タイミング制御部85eによって制御されており、以下、各回路の動作について説明する。
【0045】
まず、増幅回路85a,85bは、マイクロホンM1,M2が出力する各音声信号を所定の増幅率で増幅して、増幅したマイクロホンM1からの音声信号Y11(t)、増幅したマイクロホンM2からの音声信号Y21(t)を出力する。
【0046】
ここで、マイクロホンM1は、集音面がスピーカSPに向かって実装されており、インターホン装置Jの前方に位置する話者H(図8参照)が発する音声(話者音)よりも、スピーカSPが発する音声を感度よく集音する。一方、マイクロホンM2は、集音面が前方に向かって配置されており、スピーカSPが発する音声よりも、インターホン装置Jの前方に位置する話者Hが発する音声を感度よく集音する。
【0047】
すなわち、マイクロホンM1からの音声信号Y11(t)は、スピーカSPが発する音声に対しては感度が高く振幅が大きくなるが、話者Hが発する音声に対しては感度が低く振幅が小さくなる。また、マイクロホンM2からの音声信号Y21(t)は、話者Hが発する音声に対しては感度が高く振幅が大きくなるが、スピーカSPが発する音声に対しては感度が低く振幅が小さくなる。
【0048】
さらに、送話時には、話者Hが発する音声とスピーカSPが発する音声との両方がマイクロホンM1,M2にて集音されるが、スピーカSPの中心から各マイクロホンM1,M2の中心までの距離X1,X2はX1<X2であるので、スピーカSPからの音声に対しては、マイクロホンM1からの音声信号Y11(t)とマイクロホンM2からの音声信号Y21(t)との間に位相差が生じ、両マイクロホンM1,M2とスピーカSPとの距離の差(X2−X1)に相当する音波の遅延時間[Td=(X2−X1)/Vs](Vsは音速)だけ、マイクロホンM1の音声信号Y11(t)に比べてマイクロホンM2の音声信号Y21(t)の位相が遅れる(図2(a)(b)参照)。この遅延時間Tdは、理想的な条件下(例えば、点音源、ハウジング密閉構造、回路構成のCRのバラツキがない等)では、スピーカSPが発する音声の周波数に依存せず周波数に対して一定であるが、実際には理想的な条件下ではないのでスピーカSPが発する音声の周波数に依存している。
【0049】
また、スピーカSPからの音声に対する音声信号Y11(t),Y21(t)の振幅も上記同様に、理想的な条件下では、スピーカSPが発する音声の周波数に依存せず周波数に対して一定であるが、実際には理想的な条件下ではないのでスピーカSPが発する音声の周波数に依存している。
【0050】
一方、マイクロホンM1,M2と話者Hとの各距離は等しいとみなせるので、話者Hが発する音声に対しては、両マイクロホンM1,M2の各音声信号Y11(t),Y21(t)は、略同一位相となる。
【0051】
そして、A/D変換回路85cは、増幅されたマイクロホンM1のアナログの音声信号Y11(t)をデジタル信号に変換し、A/D変換回路85dは、増幅されたマイクロホンM2のアナログの音声信号Y21(t)をデジタル信号に変換する。A/D変換回路85cのA/D変換動作は、タイミング制御部85eが出力する制御信号Si1の立ち上がりに同期して行われ、A/D変換回路85dのA/D変換動作は、タイミング制御部85eが出力する制御信号Si2の立ち上がりに同期して行われる。さらに、スピーカSPが発する周波数f1(基準周波数)の音声に対して、マイクロホンM2の音声信号Y21(t)の位相がマイクロホンM1の音声信号Y11(t)に比べて遅延時間Td1だけ遅れていることから、クロック信号Si2をクロック信号Si1に対して遅延時間Td1遅れて発生させるようにタイミング制御部85eの動作を予め設定しておくことで、増幅されたマイクロホンM1,M2の各音声信号Y11(t),Y21(t)が周波数f1で同一位相となる箇所をA/D変換している(図2(c)(d))。
【0052】
したがって、低サンプリング周波数のA/D変換回路85c,85dであっても、正確な遅延時間の調整が可能となり、周波数f1におけるマイクロホンM1,M2の各音声信号Y11(t),Y21(t)の位相を精度よく一致させることができる。
【0053】
そして、A/D変換回路85cからは、マイクロホンM1の音声信号をA/D変換したデジタル値a1,b1,c1,d1,e1,………で構成される音声信号Y12(t)が出力され(図2(e)参照)、A/D変換回路85dからは、マイクロホンM2の音声信号をA/D変換したデジタル値a2,b2,c2,d2,e2,………で構成される音声信号Y22(t)が出力されており(図2(f)参照)、マイクロホンM1のデジタル値a1とマイクロホンM2のデジタル値a2、マイクロホンM1のデジタル値b1とマイクロホンM2のデジタル値b2、マイクロホンM1のデジタル値c1とマイクロホンM2のデジタル値c2、………を各々対応させることで、マイクロホンM1,M2の各音声信号が周波数f1で同一位相となっている。
【0054】
しかし、前述のように、スピーカSPからの音声に対する音声信号Y11(t),Y21(t)の振幅は、スピーカSPが発する音声の周波数に依存しており、スピーカSPから発せられた音声がマイクロホンM1に伝わる伝達関数をHs1(ω)とし、スピーカSPから発せられた音声がマイクロホンM2に伝わる伝達関数をHs2(ω)とすると、音声信号Y11(t),Y21(t)の振幅比A(ω)(以降、音声信号振幅比A(ω)と称す)は、
A(ω)=|Hs1(ω)|/|Hs2(ω)| ……… (1)
と表される。
【0055】
図3は、本実施形態の音声信号振幅比A(ω)の周波数特性を示しており、音声信号振幅比A(ω)は、500〜3500(Hz)の間において振幅比変動幅ΔL内で変動している。この振幅比変動幅ΔLは、音声信号振幅比A(ω)の最大値をmax[A(ω)]、最小値をmin[A(ω)]とすると、
ΔL=max[A(ω)]−min[A(ω)] ……… (2)
と表される。
【0056】
そして、本実施形態の音声処理回路85fは、スピーカSPからの音声に対するマイクロホンM1,M2の各出力レベルを一致させる適応フィルタを用いた振幅調整手段を具備しており、その具体的なアルゴリズムは、min[A(ω)]〜max[A(ω)]の範囲をn段階に分割して(例えば、n段階に等間隔で分割する)、各段階での音声信号振幅比の逆数[A(ω)]−1である振幅補正係数Bi(但し、i=1,2,...,n)を用意し、振幅逐次最適調整型の適応フィルタ部91が、マイクロホンM1からの音声信号Y12(t)に対して各振幅補正係数Biを乗じた音声信号Y13i(t)(但し、i=1,2,...,n)を生成する。なお、適応フィルタ部91は、遅れ時間要素91aと増幅部91bとで構成されている。
【0057】
振幅補正係数Biは、
B^i=[min[A(ω)]+{ΔL/n}(i−1)]−1 ……… (3)
(但し、i=1,2,...,n)
で表される。ここで、遅延時間Tdが周波数に依らず一定であれば、振幅補正誤差は、上記(3)式の右辺第2項の{ΔL/n}の値の範囲内となり、この値を小さくすることで、スピーカ音のキャンセル処理能力を向上させることができる。
【0058】
次に、演算部92は、マイクロホンM1の音声信号Y13i(t)からマイクロホンM2の音声信号Y22(t)を減算することで、スピーカSPからの音声成分が打ち消された音声信号Yai(t)(但し、i=1,2,...,n)を生成する。
【0059】
そして、信号選択部93は、n個の音声信号Yai(t)から最小の信号を選択し、選択した最小の音声信号Yai(t)を、出力信号Yo(t)として出力する。すなわち、出力信号Yo(t)は、適応フィルタ部91がn個の振幅補正係数Biのうち最適な振幅補正係数Biを用いてマイクロホンM1の音声信号の振幅を調整することで、スピーカSPからの音声成分が最も打ち消された音声信号となる。
【0060】
一方、マイクロホンM1,M2前方の話者Hが発する音声に対しては、集音面を話者Hに向かって配置したマイクロホンM2の音声信号Y21の振幅が、集音面をスピーカSPに向かって配置したマイクロホンM1の音声信号Y11の振幅よりも大きくなる。さらに、マイクロホンM1からの信号は適応フィルタ部91で減衰するので、音声信号Y22(t)に含まれる話者Hからの音声成分は、音声信号Y13i(t)に含まれる話者Hからの音声成分よりさらに大きくなる。すなわち、音声信号Y22(t)に含まれる話者Hからの音声成分と、音声信号Y13i(t)に含まれる話者Hからの音声成分との振幅差は大きくなり、演算部92で上記減算処理を施しても、音声信号Yai(t)には、話者Hが発する音声に応じた信号が十分な振幅を維持した状態で残っている。
【0061】
以上のようにして信号処理部85が出力する音声信号YoではスピーカSPからの音声成分が低減され、一方、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声成分は残っており、音声信号Yoでは、残したい話者Hからの音声成分と、低減したいスピーカSPからの音声成分との相対的な差が広い周波数帯域に亘って大きくなり、スピーカSPの音声出力をマイクロホンM1,M2が拾うことで発生するハウリングを防止することができる。
【0062】
さらには、スピーカSPからの音声に対するマイクロホンM1,M2の各出力レベルを一致させる振幅調整手段に適応フィルタ部91を用いることによって、スピーカSPからマイクロホンM1,M2へ伝わる音波の伝達関数が周波数特性を有していても、スピーカ音のキャンセル処理性能を簡易に向上させることができ、優れたハウリング防止効果を得ることができる。
【0063】
次に、本実施形態において音声処理回路85fがスピーカ音をキャンセルする上記アルゴリズムによるハウリング防止効果をより効果的にするための条件について説明する。
【0064】
まず、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声(話者音)が、マイクロホンM1,M2に同タイミング、且つ同レベルで入力しているとすると、信号処理部85において、Y11(t)=Y21(t)=Ys(t)となり、話者音のみがマイクロホンM1,M2に入力されているときに信号処理部85から出力される音声信号Yo(t)は、
Yo(t)=Ys(t)−Ys(t)・exp(−jω(Td1))・(Ao−1+Rm)
=Ys(t){1−Ao−1・exp(−jω(Td1))−Rm・exp(−jω(Td1))} ……… (4)
となる。
【0065】
ここで上記Aoは、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅の中心値であり(以降、変動幅中心値Aoと称す)、
Ao={max[A(ω)]+min[A(ω)]}/2 ……… (5)
(但し、Ao>1)
で表される。
【0066】
上記Rmは、話者音の実効値を1とした場合に、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅によって生じるノイズの実効値であり(以降、ノイズ実効値Rmと称す)、
Rm=ΔL/Ao ……… (6)
で表される。
【0067】
上記(4)式において、[Ao−1・exp(−jω(Td1))]は、話者音の劣化要因であり、[Rm・exp(−jω(Td1))]は、雑音成分の増加分であると捉えることができる。
【0068】
そして、最悪条件として、A/D変換回路85c,85dのA/D変換タイミングによって補正される遅延時間Td1=0の場合、本来欲しい前方からの話者音のみの音声成分S、およびマイクロホンM1,M2の各出力の振幅比を逐次最適調整することによって発生する雑音成分Nの各信号レベルは、
S=20・Log(1−Ao−1)
N=20・Log(Rm) ……… (7)
となる。したがって、本実施形態において音声処理回路85fの上記アルゴリズムによる信号処理後のS/N比は、
S/N=20・Log{(1−Ao−1)/(Rm)} ……… (8)
となる。
【0069】
図4は、音声信号振幅比A(ω)と話者音劣化量との関係を示しており、例えば、話者音劣化量を3dB以下にするためには、音声信号振幅比A(ω)は3.42以上必要である。
【0070】
図5は、min[A(ω)]=3.42に固定した場合において、振幅比変動幅ΔLと変動幅中心値Aoとの関係を示し、図6は、図5におけるRm(=ΔL/Ao)とS/N比との関係を示しており、例えば、S/N比を6dB以上確保するためには、Rmは0.38以下を維持する必要がある。
【0071】
而して、上記(4)〜(6)式より、所望の話者音の劣化量、および話者音のS/N比を得るためには、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅の中心値:Ao、音声信号振幅比A(ω)の周波数に対する変動幅によって生じるノイズの実効値:Rmを、図7のように設定すればよい。すなわち、Ao、Rmの各値を満足するように、スピーカSP、マイクロホンM1,M2を配置すればよいのである(相対位置、絶対位置ともに)。
【0072】
図7では、Ao、Rmの具体的数値を挙げているが、Aoをより大きく、Rmをより小さくすることで、本アルゴリズムによるスピーカ音のキャンセル効果が増大する。逆に言うと、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声(話者音)が、マイクロホンM1,M2に同タイミング、且つ同レベルで入力している場合においては、Aoが大きく、Rmが小さければ、スピーカ音だけでなく話者音も大幅にキャンセルされ、且つ雑音レベルが大幅に上がるということであり、つまりは図7に示すような各条件を満足するようにAo、Rmを設定することによって、本アルゴリズムは効果的なものとなる。
【0073】
次に、音声スイッチ部82,83(図15参照)では、以下の処理を行うことでさらなるハウリング防止を図っている。音声スイッチ部82は受信した信号の伝送線路上に配置され、音声スイッチ部83は送信する信号の伝送線路上に配置されて、音声スイッチ処理部86を構成しており、音声スイッチ部82,83は互いの入力信号のレベルを比較し、入力信号のレベルが小さいほうの音声スイッチ部は、内部に具備した可変損失手段によって伝送線路上の伝送損失を大きくする。したがって、受信した信号と送信される信号とのうち、いずれかレベルの小さい信号は減衰し、ハウリングマージンがさらに増加するので、一層のハウリング防止が図られている。
【0074】
なお、図4〜図7では、インターホン装置J前方の話者HからマイクロホンM1,M2に向って発した音声(話者音)が、マイクロホンM1,M2に同タイミング、且つ同レベルで入力していることを前提としているが、本発明はこの前提条件の有無に関わらず同様の効果を得ることができる。
【0075】
(実施形態2)
実施形態1において、スピーカSPが発した音声がマイクロホンM1に到達してからマイクロホンM2に到達するまでの時間差である遅延時間Tdは、図16に示すように周波数に対して一定ではない。周波数に対する遅延時間をTd(ω)、スピーカSPが発する音声がマイクロホンM1に伝わる伝達関数をHs1(ω)、スピーカSPが発する音声がマイクロホンM2に伝わる伝達関数をHs2(ω)とすると、
Td(ω)=(2π/ω)・{tan−1[Hs2(ω)]−tan−1[Hs1(ω)]}/360 ……… (9)
で表される。なお、図16では、この周波数に対する遅延時間Td(ω)の最大値max[Td(ω)]と最小値min[Td(ω)]との間の変動幅をΔTdで表している(以降、遅延時間変動幅ΔTdと称す)。
【0076】
ここで、基準遅延時間Toは、
To={max[Td(ω)]+min[Td(ω)]}/2 ……… (10)
で表される。
【0077】
そして、信号処理部85の音声処理回路85fは、マイクロホンM1,M2の各音声信号の位相差を基準遅延時間Toを中心に変化させながらマイクロホンM1,M2の各音声信号の差を演算し、マイクロホンM1,M2の各音声信号の位相差を、当該演算結果が最小となる位相差に設定する逐次最適調整を行う位相調整手段を具備しており、具体的に位相調整手段は、図17に示すように、音声処理回路85fに位相逐次最適調整型の適応フィルタ部94を付加することで構成されている。なお、適応フィルタ部94は、線形予測のFIRフィルタであり、増幅部94aと、遅れ時間要素94bおよび増幅部94cと、遅れ時間要素94dおよび増幅部94eとで構成されている。
【0078】
マイクロホンM2の音声信号Y22(t)は、図2(f)に示すように、アナログ値をA/D変換したデジタル値a2,b2,c2,d2,e2,………で構成されるが、適応フィルタ部94の動作について、図18に示すデジタル値a2,b2,c2を用いて説明する。
【0079】
まず、適応フィルタ部94は、マイクロホンM2のデジタル値a2−b2間における音声信号Y22(t)の振幅を直線K1で近似し、デジタル値b2−c2間における音声信号Y22(t)の振幅を直線K2で近似する。そして、遅延時間変動幅ΔTdをm段階[...To−2,To−1,To,To+1,To+2,...]に分割し(例えばΔTdを等間隔にm段階に分割する)、そのm段階の中心である基準遅延時間Toをデジタル値b2に対応させて、デジタル値b2の進み側および遅れ側に設定された合計m段階の遅延時間Tj(但し、j=1,2,...,m)における音声信号の振幅を、直線近似された直線K1,K2上から推測して、マイクロホンM2の音声信号Y23ij(t)(但し、i=1,2,...,n、j=1,2,...,m)を生成する。このとき、増幅部94a、増幅部94c、増幅部94eにおける位相補正係数は、それぞれC1ij、C2ij、C3ijとなる。
【0080】
そして、演算部92は、マイクロホンM1の音声信号Y13i(t)からマイクロホンM2の音声信号Y23ij(t)を減算することで、スピーカSPからの音声成分が打ち消された音声信号Yaij(t)を生成する。
【0081】
そして、信号選択部93は、n×m個の音声信号Yaij(t)から最小の信号を選択し、選択した最小の音声信号Yaij(t)を、出力信号Yo(t)として出力する。すなわち、出力信号Yo(t)は、n個の振幅補正係数Biとm個の遅延時間Tjとの組み合わせから、最適な振幅補正係数Biおよび遅延時間Tjを用いて、スピーカSPからの音声成分が最も打ち消された音声信号となる。
【0082】
したがって、マイクロホンM1,M2が集音する音声信号の振幅の周波数特性だけでなく、遅延時間の周波数特性も考慮して、音声信号の振幅補正、遅れ時間補正を行うので、さらにスピーカ音のキャンセル効果がさらに向上し、ハウリング防止効果がさらに向上する。また、マイクロホンM2の音声信号の振幅を直線近似によって推測するので、簡易な構成で位相調整を容易に行うことができる。
【0083】
本実施形態では、音声処理回路85fが処理するパラメータの数がn×m個となり、多くの演算処理を行う必要があることから、音声処理回路85fの回路規模が大きくなる虞があるが、n、mだけでなく、例えば、変動幅中心値Ao、基準遅延時間To、振幅比変動幅ΔL、遅延時間変動幅ΔTdを併せた計6個のパラメータを用いて演算を工夫すれば、小さな回路規模で、低負荷での実現が可能となる。例えば、CPUを用いない場合は、簡易なデジタル回路で音声処理回路85fを構成することができ、CPUを用いる場合は、低負荷な演算処理によって音声処理回路85fを実現できる。
【0084】
(実施形態3)
図19は、実施形態1または2における音声スイッチ処理部86(図15参照)の具体構成を示しており、音声スイッチ部82が受信した信号の伝送線路上に配置され、音声スイッチ部83が送信する信号の伝送線路上に配置されており、比較器86aが音声スイッチ部82,83の各入力信号のレベルを比較し、入力信号のレベルが小さいほうの音声スイッチ部は、内部に具備した可変損失手段によって伝送線路上の伝送損失を大きくしている。したがって、受信した信号と送信される信号とのうち、いずれかレベルの小さい信号は減衰し、ハウリングマージンがさらに増加するので、一層のハウリング防止が図られている。
【0085】
本実施形態では、さらに比較器86aの比較結果を信号処理部85に出力し、信号処理部85は、比較結果からスピーカ音のレベルが所定の閾値以下であると判定すれば、音声処理回路85f(振幅逐次最適調整型の適応フィルタ部91、演算部92、信号選択部93、位相逐次最適調整型の適応フィルタ部94)によるスピーカ音のキャンセル処理を停止し、不要なキャンセル処理による話者音の劣化を防止している。
【0086】
なお、本実施形態では、情報線Lsを介した有線通信方式を用いて、インターホン装置J間における音声信号の授受を行っているが、インターホン装置Jに周知の無線通信手段を設けることで、無線通信方式による音声信号の授受を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実施形態1のインターホン装置の信号処理部の構成図である。
【図2】(a)〜(f)同上の信号処理部の各部の波形図である。
【図3】同上の音声信号振幅比の周波数特性を示す図である。
【図4】同上の音声信号振幅比と話者音劣化量との関係を示す図である。
【図5】同上の振幅比変動幅と振幅比との関係を示す図である。
【図6】同上のノイズ実効値とS/N比との関係を示す図である。
【図7】同上の各パラメータの設定を示す図である。
【図8】同上のインターホン装置を示す断面図である。
【図9】同上のインターホン装置の一部を示す分解斜視図である。
【図10】同上のインターホン装置をボックスに取り付けた斜視図である。
【図11】同上の装置本体の一部拡大した裏面図である。
【図12】同上のスピーカモジュールを示す斜視図である。
【図13】同上のスピーカモジュールを示す分解斜視図である。
【図14】(a)(b)同上のボディを示す平面図である。
【図15】同上の音声処理モジュールの構成図である。
【図16】実施形態2の遅延時間の周波数特性を示す図である。
【図17】同上の信号処理部の構成図である。
【図18】同上の音声信号の線形予測を示す図である。
【図19】実施形態3の音声スイッチ処理部周辺の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
J インターホン装置
SP スピーカ
M1,M2 マイクロホン
85 信号処理部
85c,85d A/D変換回路
85f 音声処理回路
91 適応フィルタ
92 演算部
93 信号選択部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達された音声情報を出力するスピーカと、音声を集音して音声信号を出力する第1のマイクロホンと、スピーカからの距離が第1のマイクロホンより遠い位置に配置されるとともに音声を集音して音声信号を出力する第2のマイクロホンと、第1,第2のマイクロホンが出力する各音声信号を信号処理して伝達する信号処理部とを備えて、第1,第2のマイクロホンとスピーカとの各距離の差に相当する所定周波数の音波の伝達時間を遅延時間とし、
信号処理部は、
前記遅延時間に応じてスピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相を前記所定周波数において一致させる遅延時間調整手段と、
スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を調整する適応フィルタを用いた振幅調整手段と、
遅延時間調整手段,振幅調整手段を通過した第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を出力する演算手段と
を備え、
振幅調整手段は、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を、当該演算結果が最小となる振幅比に設定する逐次最適調整を行う
ことを特徴とするインターホン装置。
【請求項2】
前記スピーカからの音声に対する第1のマイクロホンの音声信号を第2のマイクロホンの音声信号で除した振幅比が第1の所定値以上であり、当該振幅比が周波数に対して変動する幅を当該変動幅の中心値で除した値が第2の所定値以下となるように、スピーカと第1,第2のマイクロホンとを配置したことを特徴とする請求項1記載のインターホン装置。
【請求項3】
前記遅延時間調整手段は、第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、第1のA/D変換手段が第1のマイクロホンからの音声信号をA/D変換したタイミングから前記遅延時間経過したときに、第2のA/D変換手段が第2のマイクロホンからの音声信号をA/D変換することを特徴とする請求項1または2記載のインターホン装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を、当該演算結果が最小となる位相差に設定する逐次最適調整を行う位相調整手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のインターホン装置。
【請求項5】
第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、前記位相調整手段は、第1,第2のA/D変換手段のうち少なくとも一方のA/D変換手段が連続して出力した2つのデジタル値を結ぶ直線に沿って音声信号が連続して推移していると判断し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算する際には、少なくとも一方のA/D変換手段の音声信号として当該直線上の値を用いることを特徴とする請求項4記載のインターホン装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記スピーカに入力される信号が所定の閾値以下の場合は、少なくとも前記遅延時間調整手段、振幅調整手段、演算手段によるスピーカ音のキャンセル処理を行わないことを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のインターホン装置。
【請求項1】
伝達された音声情報を出力するスピーカと、音声を集音して音声信号を出力する第1のマイクロホンと、スピーカからの距離が第1のマイクロホンより遠い位置に配置されるとともに音声を集音して音声信号を出力する第2のマイクロホンと、第1,第2のマイクロホンが出力する各音声信号を信号処理して伝達する信号処理部とを備えて、第1,第2のマイクロホンとスピーカとの各距離の差に相当する所定周波数の音波の伝達時間を遅延時間とし、
信号処理部は、
前記遅延時間に応じてスピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相を前記所定周波数において一致させる遅延時間調整手段と、
スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を調整する適応フィルタを用いた振幅調整手段と、
遅延時間調整手段,振幅調整手段を通過した第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を出力する演算手段と
を備え、
振幅調整手段は、スピーカからの音声に対する第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の振幅比を、当該演算結果が最小となる振幅比に設定する逐次最適調整を行う
ことを特徴とするインターホン装置。
【請求項2】
前記スピーカからの音声に対する第1のマイクロホンの音声信号を第2のマイクロホンの音声信号で除した振幅比が第1の所定値以上であり、当該振幅比が周波数に対して変動する幅を当該変動幅の中心値で除した値が第2の所定値以下となるように、スピーカと第1,第2のマイクロホンとを配置したことを特徴とする請求項1記載のインターホン装置。
【請求項3】
前記遅延時間調整手段は、第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、第1のA/D変換手段が第1のマイクロホンからの音声信号をA/D変換したタイミングから前記遅延時間経過したときに、第2のA/D変換手段が第2のマイクロホンからの音声信号をA/D変換することを特徴とする請求項1または2記載のインターホン装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら、前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を、当該演算結果が最小となる位相差に設定する逐次最適調整を行う位相調整手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のインターホン装置。
【請求項5】
第1のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第1のA/D変換手段と、第2のマイクロホンが出力する音声信号をA/D変換する第2のA/D変換手段とを備え、前記位相調整手段は、第1,第2のA/D変換手段のうち少なくとも一方のA/D変換手段が連続して出力した2つのデジタル値を結ぶ直線に沿って音声信号が連続して推移していると判断し、第1,第2のマイクロホンの各音声信号の位相差を変化させながら前記演算部によって第1,第2のマイクロホンの各音声信号の差を演算する際には、少なくとも一方のA/D変換手段の音声信号として当該直線上の値を用いることを特徴とする請求項4記載のインターホン装置。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記スピーカに入力される信号が所定の閾値以下の場合は、少なくとも前記遅延時間調整手段、振幅調整手段、演算手段によるスピーカ音のキャンセル処理を行わないことを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のインターホン装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−74541(P2010−74541A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239813(P2008−239813)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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