説明

インナーフィン

【課題】排気ガスと冷却水との熱交換を促進するとともに、煤の目詰まりによる性能低下を起こしにくく、かつ、製造時の組み付けが容易なEGRクーラのチューブ用インナーフィンを提供する。
【解決手段】排気ガスを冷却するEGRクーラに内装され、排気ガスを通過させる扁平なチューブに用いられるインナーフィン1であって、板材を、幅方向に凹凸を繰り返す形状に形成するとともにこの繰り返しをガス流れ方向の所定長さごとに交互に左右にずらしたオフセット形状に形成し、一対の左右側壁で囲まれたセグメント10ごとに、上面部または下面部のいずれか一方を切り起こして、ガス流れ方向上流側に傾斜させた第一突起11と、この第一突起11の下流側に配置され、第一突起11の傾斜角と等しい角度でガス流れ方向下流側に傾斜させた第二突起12とを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にEGRクーラに内装されて排気ガスを通過させるチューブに収容され、排気ガスの熱交換を促進するインナーフィンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガスの一部を還流してエンジンの吸気系に戻すことで窒素酸化物(NOx)の発生を低減させるEGR装置において、排気ガスを冷却するために車両に搭載されるEGRクーラは、エンジンの排気系と吸気系との間に取り付けられる。
【0003】
従来のEGRクーラは、図1に示すように、大径筒状のシェル2の内部に複数本の扁平なチューブ3を積層してコア部4を形成し、チューブ3内に高温の排気ガスを流し、チューブ3とシェル2との間には冷却水を流して、排気ガスと冷却水との熱交換を行っていた。
シェル2の長手方向両端には、それぞれ入口ヘッダー5と出口ヘッダー6とが取り付けられ、排気ガスは入口ヘッダー5から多数のチューブ3へ分岐して流れ、出口ヘッダー6から排出される。
また、シェル2の下面部に冷却水入口パイプ7が取り付けられるとともに、シェル2の上面部には冷却水出口パイプ8が取り付けられ、冷却水は冷却水入口パイプ7から冷却水出口パイプ8へとシェル2内を通過する。
【0004】
このチューブ3内にはインナーフィン9を収容して、排気ガスとの熱交換面積を増大させていた。
インナーフィンとしては、図5に示すように、板材を幅方向に凹凸を繰り返す矩形波状の波板状にプレス加工するとともに、この繰り返しをガス流れ方向の所定長さごとに交互に左右にずらしたオフセット形状のインナーフィン9が使用されていた。
【0005】
従来のインナーフィン9には、チューブの放熱性能を向上させるために、インナーフィン9の幅方向の凹凸(以下、フィンピッチという)を細かくすることで熱交換面積を拡大したものがあった(特許文献1)。
しかし、フィンピッチを細かくしすぎた場合には、放熱性能が向上する代わりに、チューブ3の断面積においてインナーフィン9が占める割合が大きくなり、チューブ3の通気抵抗が大きくなるという問題があった。
また、チューブ3の断面積においてインナーフィン9の占める割合が大きくなるため、排気ガスに含まれる煤、PM(パティキュレートマター)等が堆積しやすくなり、チューブに詰まりが発生し、熱交換器としての機能を失ってしまうおそれがあった。
さらに、フィンピッチを細かくすると、インナーフィン9の展開長が長くなり、材料が増えるため、材料コストが増加してしまった。
【0006】
そこで、放熱性能の向上のため、オフセットタイプのインナーフィンの上下面からガス流路内へ突出する突起を形成し、この突起によって排気ガスに乱流を発生させるインナーフィンがあった(特許文献2)。
しかし、このような突起はガス流れ方向(前後方向)に方向性を持つ形状に形成されたものが多く、製造時にインナーフィンをチューブに対して前後逆に組み付けてしまうと、所定の性能を発揮することができなかった。
また、一つ一つの突起が乱流促進のために直立しているため、長期の使用に伴って排気ガスに含まれる煤やPMが突起に堆積しやすく、乱流促進機能の低下や熱伝達率の低下が生じるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−39380号公報
【特許文献2】特開2010−96456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、排気ガスと冷却水との熱交換を促進するとともに、煤の目詰まりによる性能低下を起こしにくく、かつ、製造時の組み付けが容易なEGRクーラのチューブ用インナーフィンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、上記課題が解決される手段は以下の通りである。
第1の発明は、排気ガスを冷却するEGRクーラに内装され、排気ガスを通過させる扁平なチューブに用いられるインナーフィンであって、板材を、幅方向に凹凸を繰り返す形状に形成するとともにこの繰り返しをガス流れ方向の所定長さごとに交互に左右にずらしたオフセット形状に形成し、一対の左右側壁で囲まれたセグメントごとに、上面部または下面部のいずれか一方を切り起こして、ガス流れ方向上流側に傾斜させた第一突起と、この第一突起の下流側に配置され、第一突起の傾斜角と等しい角度でガス流れ方向下流側に傾斜させた第二突起とを形成したことを特徴とする。
なお、第一突起が「ガス流れ方向上流側に傾斜している」とは、上流方向から左右のいずれかに90度未満の大きさで傾いている場合を含み、第二突起が「ガス流れ方向下流側に傾斜している」とは、下流方向から左右のいずれかに90度未満の大きさで傾いている場合を含むものとする。
【0010】
第2の発明は、上記第一突起と上記第二突起との距離Lcが、上記第一突起および上記第二突起の高さLhの0.5倍以上1.5倍以下であることを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、上記セグメントの中心位置に対し、上記第一突起と上記第二突起とが対称に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、板材を、幅方向に凹凸を繰り返す形状に形成するとともにこの繰り返しをガス流れ方向の所定長さごとに交互に左右にずらしたオフセット形状に形成し、一対の左右側壁で囲まれたセグメントごとに、上面部または下面部のいずれか一方を切り起こして、ガス流れ方向上流側に傾斜させた第一突起と、この第一突起の下流側に配置され、第一突起の傾斜角と等しい角度でガス流れ方向下流側に傾斜させた第二突起とを形成したことにより、セグメントに流入した排気ガスが第一突起で積極的に乱流化を促進され、第二突起で円滑に下流側のセグメントに拡散されるため、フィンピッチを細かくすることなく、チューブの放熱性能を向上させることができる。
また、EGRクーラの使用に伴って、排気ガスに含まれる煤が、上流側に傾斜した第一突起の上流側に溜まっても、下流側に傾斜した第二突起にはほとんど堆積しないため、チューブの放熱性能の低下を抑え、製品寿命を長期化することができる。
【0013】
第2の発明によれば、上記第一突起と上記第二突起との距離Lcが、上記第一突起および上記第二突起の高さLhの0.5倍以上1.5倍以下であることにより、第一突起で乱流化を促進した排気ガスを第二突起で円滑に拡散する相乗作用によってチューブの放熱性能を向上させるとともに、インナーフィンの成形容易性を両立することができる。
【0014】
第3の発明によれば、上記セグメントの中心位置に対し、上記第一突起と上記第二突起とが対称に形成されていることにより、チューブの組み立ての際にインナーフィンを前後逆に配置してしまっても、チューブの放熱性能が低下することがなく、製造時の誤組み付けのおそれがなく、チューブの品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るインナーフィンを用いたEGRクーラを示す斜視図である。
【図2】(a)は同インナーフィンの部分斜視図であり、(b)は同インナーフィンの部分平面図である。
【図3】(a)は同インナーフィンのセグメント内を示す側方説明図であり、(b)は同インナーフィンの使用状態の説明図である。
【図4】同インナーフィンと従来のインナーフィンとの放熱性能の比較試験の結果を示すグラフである。
【図5】従来のインナーフィンの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るEGRクーラのチューブ用インナーフィンについて説明する。
このインナーフィン1が用いられるEGRクーラは、図1に示すように、一対の断面コ字状のSUS(ステンレス鋼)製の部材を組み合わせてなる大径筒状のシェル2の内部に、多数の扁平なSUS製のチューブ3を所定の間隔を設けて積層し、コア部4を形成している。
【0017】
チューブ3が開口しているコア部4の両端には、チューブ3に排気ガスを供給するSUS製の入口ヘッダー5と、チューブから排気ガスを導出するSUS製の出口ヘッダー6とがそれぞれ取り付けられている。
また、シェル2の入口側下面部には冷却水を供給する冷却水入口パイプ7が接続され、シェルの出口側上面部には冷却水を導出する冷却水出口パイプ8が接続されている。
このEGRクーラのコア部4では、排気ガスが多数のチューブ3に分岐して通過するとともに、冷却水がチューブ3とシェル2との間の冷却水流路を流れて、排気ガスが冷却水と熱交換によって冷却される。
【0018】
チューブ3は、略平坦な平板部の両側端に内側壁を立設してなるチューブインナーと、略平坦な平板部の両側端に上記内側壁に外接する外側壁を立設してなるチューブアウターとを組み付けてなる中空の扁平管状に形成されている。チューブインナーとチューブアウターとは、ろう付けによって接合される。
このチューブ3では、チューブインナーおよびチューブアウターの長手方向両端において、平板部を厚さ方向に膨出させた膨出部を形成している。このため、多数のチューブ3を積層すると、この膨出部が他のチューブ3に当接することによって、チューブ2相互の間に冷却水流路となる所定の間隙が設けられる。
【0019】
各チューブ3は、オフセット形状のインナーフィン1を収容することにより、内部を通過する排気ガスの乱流化を促進するとともに、排気ガスと冷却水との熱交換面積を増加させ、熱交換を促進している。
インナーフィン1は、チューブインナーおよびチューブアウターを組み立てる際に両者の間に配置され、上面部および下面部でチューブインナーおよびチューブアウターの平板部にろう付けされる。
【0020】
このインナーフィン1は、図2(a)に示すように、SUS製の板材を幅方向(左右方向)に凹凸を繰り返すとともにこの繰り返しをガス流れ方向(前後方向)の所定長さごとに交互に左右にずらしたオフセット形状に形成されている。左右のずらし量はフィンピッチFpの約4分の1(幅方向の凹または凸の半分)に設定している。
これにより、インナーフィンには、一対の左右側壁で囲まれるセグメント10が長手方向および幅方向に多数設けられる。
【0021】
図2(a)(b)に示すように、インナーフィン1には、一つのセグメント10ごとに、上面部または下面部の一部を切り起こし、ガス通路内へ突出する第一突起11と第二突起12とを形成している。
第一突起11および第二突起12はともに台形状に切り起こされ、ガス流れ方向上流側に配置される第一突起11は上流側へ傾斜し、ガス流れ方向下流側に配置される第二突起12は第一突起の反対方向、すなわち下流側へ傾斜している。図3(a)に示すように、第一突起11と第二突起12とは、反対方向に同じ大きさの角度で切り起こしているため、側面視で逆さハの字状に配置されている。
また、図2(b)に示すように、第一突起11は、ガス流れ方向(前後方向)に対して左右のいずれかに傾斜しており、その下流側の第二突起12は、この第一突起11と左右の反対方向に同じ角度で傾斜している。
【0022】
図2(b)に示すように、特定のセグメント10aで下面部に形成された第一突起11が上流左側へ傾斜し、第二突起12が下流右側へ傾斜しているとき、その左右に隣接するセグメント10bでは上面部に形成された第一突起11が同じ角度で上流左側へ傾斜し、第二突起12が同じ角度で下流右側へ傾斜している。
他方、上記特定のセグメント10aの上流側または下流側に隣接するセグメント10c、10dでは、第一突起11が上流右側へ傾斜し、第二突起12が下流左側へ傾斜している。なお、上記特定のセグメント10aの第一突起11がガス流れ方向に対して左側へ傾斜する角度の大きさと、その上流側または下流側に隣接するセグメント10c、10dの第一突起11がガス流れ方向に対して右側へ傾斜する角度の大きさは等しく、上記特定のセグメント10aの第二突起12がガス流れ方向に対して右側へ傾斜する角度の大きさと、その上流側または下流側に隣接するセグメント10c、10dの第二突起12がガス流れ方向に対して左側へ傾斜する角度の大きさも等しい。
第一突起11および第二突起12の左右への傾きの角度および高さ方向の切り起こしの角度は、使用されるEGRクーラの通気抵抗や排気ガスの単位時間あたりの流量に応じて、最適となるように調整する。
【0023】
図3(a)(b)中の破線矢印は、排気ガスの流れを示している。
第一突起11は、ガス流れ方向上流側に傾斜しており、セグメント10に流入する排気ガスに積極的に乱流を起こす形状になっている。
第二突起12は、ガス流れ方向下流側に傾斜しているため、第一突起11で乱流化を促進された排気ガスを下流側の左右2つのセグメント10へ拡散して円滑に流すようになっている。
【0024】
また、図3(a)に示すように、第一突起11と第二突起12との距離Lcは、第一突起11および第二突起12の高さLhの0.5倍以上1.5倍以下に設定するのが好ましい。
LcをLhの1.5倍より大きくすると、第一突起11と第二突起12とが相乗的に機能せず、第一突起11で乱流化を促進された排気ガスを第二突起12で円滑に拡散するという効果が得られなくなってしまう。
また、LcをLhの0.5倍よりも小さくすると、インナーフィン1に第一突起11および第二突起12を形成する際に、金型強度の影響により成形できなくなるおそれがある。
Lhの0.5〜1.5倍の範囲内でLcを小さく設定するほどチューブ3の放熱性能を向上させることができる。
【0025】
図2(b)に示すように、第一突起11と第二突起12との中央は、セグメント10の中心と一致しており、第一突起11と第二突起12とは、セグメント10の中心に対して対称に形成されている。そのため、インナーフィン1を水平方向に180度回転させても、各セグメント10では第一突起11と第二突起12との位置が互いに入れ替わるだけで、排気ガスの流れに対するセグメント10の内部構造は変わらない。
【0026】
このようなインナーフィン1を収容したチューブ3では、分散されて各セグメント10に流入した排気ガスは、上流側に傾斜した第一突起11によって乱流を起こされ、次いで下流側に傾斜した第二突起12により下流側のセグメント10へ円滑に拡散されるため、排気ガスと冷却水との熱交換が促進され、チューブ3の放熱性能を向上させることができる。
【0027】
また、図3(b)に示すように、EGRクーラの使用に伴って、排気ガスに含まれる煤13が、上流側に傾斜した第一突起11の上流面に堆積しても、下流側に傾斜した第二突起12にはほとんど堆積しない。そのため、チューブ3の放熱性能の低下を抑え、製品寿命を長期化することができる。
【0028】
また、第一突起11と第二突起12との距離Lcを、第一突起11および第二突起12の高さLhの0.5倍以上1.5倍以下に設定したことにより、第一突起11と第二突起12との相乗作用による放熱性能の向上とインナーフィン1の成形容易性とを両立することができる。
【0029】
さらに、第一突起11と第二突起12とがセグメント10の中心に対して対称に形成され、水平方向に180度回転させても排気ガスの流れに対するセグメント10の内部構造が変わらないため、チューブ3の組み立ての際にインナーフィン1を前後逆に配置してしまっても、チューブ3の放熱性能が低下することがなく、製造時の誤組み付けのおそれがなく、チューブ3の品質を安定させることができる。
【0030】
<試験>
本発明の実施形態に係るインナーフィン(実施例)を収容したチューブと、図5のように第一突起も第二突起も設けないインナーフィン(比較例1)を収容したチューブと、各セグメントに第一突起のみを設けて第二突起を設けないインナーフィン(比較例2)を収容したチューブとについて、排気ガスを流速15m/sで流した場合の流体解析を行い、放熱性能を比較したところ、図4のような結果となった。
【0031】
比較例1の放熱量を100%とすると、比較例2の放熱量は117.4%となり、実施例の放熱量は121.9%となった。
したがって、第一突起11および第二突起12を設けた実施例では、第一突起および第二突起を設けない比較例1に対し放熱性能が21.9%向上し、第一突起のみを設けた比較例2に対しても、放熱性能が約3.8%向上することがわかった。
【符号の説明】
【0032】
1 インナーフィン
2 シェル
3 チューブ
4 コア部
5 入口ヘッダー
6 出口ヘッダー
7 冷却水入口パイプ
8 冷却水出口パイプ
9 (従来の)インナーフィン
10(10a、10b、10c、10d) セグメント
11 第一突起
12 第二突起
13 煤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスを冷却するEGRクーラに内装され、排気ガスを通過させる扁平なチューブに用いられるインナーフィンであって、
板材を、幅方向に凹凸を繰り返す形状に形成するとともにこの繰り返しをガス流れ方向の所定長さごとに交互に左右にずらしたオフセット形状に形成し、
一対の左右側壁で囲まれたセグメントごとに、上面部または下面部のいずれか一方を切り起こして、ガス流れ方向上流側に傾斜させた第一突起と、この第一突起の下流側に配置され、第一突起の傾斜角と等しい角度でガス流れ方向下流側に傾斜させた第二突起とを形成したことを特徴とするインナーフィン。
【請求項2】
上記第一突起と上記第二突起との距離Lcが、上記第一突起および上記第二突起の高さLhの0.5倍以上1.5倍以下であることを特徴とする請求項1記載のインナーフィン。
【請求項3】
上記セグメントの中心位置に対し、上記第一突起と上記第二突起とが対称に形成されていることを特徴とする請求項1記載のインナーフィン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−113523(P2013−113523A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261325(P2011−261325)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000220217)東京ラヂエーター製造株式会社 (71)
【Fターム(参考)】