説明

インプリントリソグラフィ装置およびインプリントリソグラフィ方法

【課題】インプリントリソグラフィ装置のスループットを改善することができる、インプリントリソグラフィ装置用の振動絶縁システムを提供する。
【解決手段】インプリントリソグラフィ装置100は、基板ホルダ120に対してインプリントテンプレートホルダ110を変位させるアクチュエータ130を備える。インプリントテンプレートホルダ110および/または基板ホルダ120の支持構造140は、基部160に取り付けられた振動絶縁システム150に取り付けられる。振動絶縁システム150は、基部160に対する支持構造140の振動を絶縁する。インプリント過程中にアクチュエータ130を制御する制御ユニットは、振動絶縁システム150の調節部材を制御して、インプリント過程の少なくとも一部の間、振動絶縁システム150の動特性を調節し、支持構造140に作用する力による、基部160に対する支持構造140の変位を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインプリントリソグラフィに関し、特にインプリントリソグラフィ装置に適用可能である振動絶縁システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィにおいて、所与の基板領域上のフィーチャ密度を増大するために、リソグラフィパターンにおけるフィーチャのサイズを低減するという要望が継続して存在する。フォトリソグラフィにおいて、より小さいフィーチャを求める圧力の結果、液浸リソグラフィおよび極端紫外線(EUV)リソグラフィなどの技術の発展が生み出されたが、これらはかなりコストがかかる。
【0003】
興味が増大しつつある、より小さなフィーチャを実現する潜在的に低コストである手法は、いわゆるインプリントリソグラフィである。これは、一般に、「スタンプ」(インプリントテンプレートと呼ばれることも多い)を用いて基板上にパターンを転写することを含む。インプリントリソグラフィの潜在的な利点は、フィーチャの解像度が、例えば放射源の発射波長または投影システムの開口数によって制限されないことである。代わりに、解像度はインプリントテンプレート上のパターン密度に主に制限される。
【0004】
インプリントリソグラフィは、パターンを与える基板の表面にインプリント可能媒体をパターニングすることを含む。パターニングは、インプリントテンプレートのパターン付与された面とインプリント可能媒体の層とを押し付けて、インプリント可能媒体がパターン付与された面の凹部に流れ込み、パターン付与された面上の突起によって押しのけられるようにすることを含む。インプリントテンプレートのパターン付与された表面のパターンフィーチャを凹部が規定する。典型的に、パターン付与された面とインプリント可能媒体とが押し付けられるときに、インプリント可能媒体は流動性を有する。インプリント可能媒体のパターニングの後に、インプリント可能媒体は、流動性のない状態すなわち固体状態に適切に変化され、インプリントテンプレートのパターンが付与された面とパターン付与されたインプリント可能媒体とが分離される。続いて、基板およびパターン付与されたインプリント可能媒体は、基板のパターン付与またはさらなるパターン付与のためにさらに処理される。典型的に、インプリント可能媒体は、パターン付与される基板の表面にレジスト液で形成される。
【0005】
従来のリソグラフィと比較して、インプリントリソグラフィは、精度およびスループットすなわち生産量について同様の問題に直面する。すなわち、インプリントテンプレートをインプリント可能媒体に押し付ける前に、インプリントテンプレートと基板とを正確に位置合わせすることが望ましい(従来のリソグラフィにおける、マスクまたはレチクルとのウェハとの位置合わせ要件に対応する)。このような正確な位置合わせを実現するために、外部擾乱から実質的に影響を受けずにインプリントテンプレートと基板を正確に位置決めする必要がある。これを実現するために、インプリントテンプレートおよび基板の両方を振動絶縁システム(vibration isolation system)上に搭載して、床の振動などの振動から実質的に影響を受けない絶縁環境を作り出すことができる。このような振動絶縁システムは、例えば1Hz以下のカットオフ周波数を生み出す、比較的低い剛性および減衰によって特徴づけられることが多い。
【0006】
従来のリソグラフィと同様に、インプリントリソグラフィ装置は、経済的な理由から、精度または産出量を妥協することなく、単位時間当たり十分な数のウェハまたは基板を処理することが可能でなければならない。このような十分なスループット(例えば、一時間当たりに処理されるウェハ数で表される)を達成するために、二つの連続するインプリントステップ間の時間をできるだけ短く維持しなければならない。
【0007】
インプリントリソグラフィ装置で実装されるような振動絶縁システムが従来のリソグラフィ装置において使用される場合、十分なスループットを実現するのは困難であろう。これは、基板およびインプリントテンプレートに作用する比較的高い力を使用するという、インプリント過程の特殊な性質に起因するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この観点から、インプリント過程の精度に悪影響を実質的に及ぼすことなくインプリントリソグラフィ装置のスループットを改善することができる、インプリントリソグラフィ装置用の振動絶縁システムを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、インプリントテンプレートを保持するように構成されたインプリントテンプレートホルダと、基板を保持するように構成された基板ホルダと、基板ホルダに対してインプリントテンプレートホルダを変位させてインプリント過程を実行するように構成されたアクチュエータと、を備えるインプリントリソグラフィ装置が提供される。インプリントテンプレートホルダおよび/または基板ホルダは、支持構造上に支持される。支持構造は、装置の基部に取り付けられた振動絶縁システムに取り付けられる。振動絶縁システムは、基部に対する支持構造の振動絶縁を提供するように構成される。制御ユニットは、インプリント過程中にアクチュエータを制御するように構成される。制御ユニットは、振動絶縁システムの調節可能部材を制御してインプリント過程の少なくとも一部の間に振動絶縁システムの動特性を調節し、インプリント過程中に支持構造に作用する力による基部に対する支持構造の変位を低減するように構成される。
【0010】
本発明の一態様によると、インプリントテンプレートおよび基板を提供し、基板上にインプリント可能媒体を提供し、インプリントテンプレートを保持するインプリントテンプレートホルダおよび/または基板を保持する基板ホルダを支持構造上に支持し、振動絶縁システムによって基部に対して支持構造を振動絶縁することを含む、インプリントリソグラフィ方法が提供される。この方法は、アクチュエータによって基板とインプリントテンプレートとを位置合わせし、基板ホルダに対してインプリントテンプレートホルダを変位させてインプリント過程を実行し、振動絶縁システムの調節可能部材を制御してインプリント過程の少なくとも一部の間の振動絶縁システムの動特性を調節し、インプリント過程中に支持構造に作用する力による基部に対する支持構造の変位を低減することを含む。
【0011】
添付の図面を参照して、本発明の特定の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1a】熱インプリントリソグラフィの例の模式図である。
【図1b】UVインプリントリソグラフィの例の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインプリントリソグラフィ装置に適用可能である振動絶縁システムの一実施形態の模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るインプリントリソグラフィ装置に適用可能である振動絶縁システムの一実施形態の模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る装置に適用可能である磁性流体ダンパーの一実施形態の模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る装置に適用可能である磁性流体ダンパーを備える振動絶縁システムの一実施形態の模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る装置に適用可能であるアクチュエータを備える振動絶縁システムの一実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
インプリントリソグラフィの手法の例を、図1a、図1bに模式的に示す。
【0014】
図1aは、いわゆる熱インプリントリソグラフィ(または熱エンボス加工)の一例を示す。典型的な熱インプリント過程では、熱硬化性または熱可塑性のインプリント可能媒体4にテンプレート2がインプリントされる。インプリント可能媒体4は、基板6の表面に成型されている。インプリント可能媒体4は、例えば樹脂である。樹脂は、基板表面上に、または図示の例のように基板6の平坦化および転写層8上に、例えばスピンコーティングされるかまたはベーキングされてもよい。熱硬化性ポリマー樹脂が使用される場合、テンプレートとの接触時にテンプレート上に画成されたパターンフィーチャ内に樹脂が流れるほど十分な流動性を有するような温度に、樹脂が加熱される。続いて、樹脂が熱硬化(架橋)するまで樹脂の温度を高める。その結果、樹脂が固まり不可逆的に所望のパターンとなる。続いてテンプレート2が取り除かれ、パターン付与された樹脂が冷却されてもよい。熱可塑性ポリマー樹脂の層を採用する熱インプリントリソグラフィでは、熱可塑性樹脂が加熱され、テンプレート2を用いてインプリントする直前に、樹脂が自由に流動する状態にされる。樹脂のガラス転移温度をかなり上回る温度まで熱可塑性樹脂を加熱する必要があることもある。流動性を有する樹脂にテンプレートが押し付けられ、その後、パターンを固めるために、テンプレート2とともにガラス転移温度を下回るまで冷却される。その後、テンプレート2が取り除かれる。パターンは、樹脂の残留層から浮き彫りになったフィーチャから構成される。適切なエッチング過程によって樹脂の残留層を取り除き、パターンフィーチャのみを残すことができる。熱インプリントリソグラフィ過程で使用される熱可塑性ポリマー樹脂の例は、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ(メタクリル酸ベンジル)、またはポリ(メタクリル酸シクロヘキシル)である。熱インプリントリソグラフィについてのさらなる情報は、例えば米国特許第4,731,255号および第5,772,905号を参照のこと。
【0015】
図1bは、UVインプリントリソグラフィの例を示す。UVインプリントリソグラフィは、UVが透過する透明または半透明のテンプレートと、インプリント可能な媒体としてのUV硬化性液体とを使用することを含む(「UV」という用語を便宜上本明細書で用いるが、インプリント可能媒体を硬化するための任意の適切な化学線を含むものとして解釈されなければならない)。UV硬化性液体は、熱インプリントリソグラフィで使用される熱硬化性または熱可塑性樹脂よりも粘性が低いことが多く、そのためテンプレートのパターンフィーチャを充填するためにかなり速く移動することができる。図1aの過程と同様の態様で、UV硬化性樹脂12にクオーツテンプレート10が適用される。しかしながら、熱インプリントにおける熱サイクルまたは温度サイクルを使用する代わりに、クオーツテンプレート10を通してインプリント可能媒体12に適用されるUV放射14を用いてインプリント可能媒体12を硬化することによって、パターンが固定される。テンプレート10を取り除いた後、インプリント可能媒体12がエッチングされる。UVインプリントリソグラフィにより基板にパターン付与する特定の方法は、いわゆるステップ・アンド・フラッシュ・インプリント・リソグラフィ(SFIL)である。これを使用すると、IC製造で従来から使用される光学ステッパーと同様の態様で、わずかなステップで基板にパターン付与することができる。UVインプリントリソグラフィについてのさらなる情報は、例えば米国特許出願公開第2004−0134566号、米国特許第6,334,960号、国際公開WO 02/067055号、およびJ. Haismaによる論文「Mold-assisted nanolithography: A process for reliable pattern replication」、J. Vac. Sci. Technol. B24(6)、 Nov/Dec 1996を参照のこと。
【0016】
上述のインプリント技術を組み合わせることも可能である。例えば、インプリント可能媒体の熱硬化およびUV硬化の組み合わせについて述べている、米国特許出願公開第2005−0274693号を参照のこと。
【0017】
図2は、本発明に係るインプリントリソグラフィ装置100の一実施形態の模式図である。
【0018】
本発明の一実施形態に係るインプリントリソグラフィ装置100には、インプリントテンプレートホルダ110および基板ホルダ120が設けられる。この種のインプリントテンプレートホルダは、使用時に、単一のインプリントテンプレート(またはスタンプ)または複数のインプリントテンプレートを保持してもよい。代替的に、リソグラフィ装置に複数のテンプレートホルダが設けられ、それぞれが単一のインプリントテンプレートを保持するように構成されてもよい。同様に、基板ホルダ、例えば基板テーブルは、単一の基板または複数の基板を収容するように構成されてもよい。
【0019】
装置100は、インプリント過程を実行可能とするアクチュエータ機構またはアクチュエータ130をさらに備える。一般に、アクチュエータ機構は、インプリント過程中にインプリントテンプレートホルダおよび/または基板テーブルを変位させるための複数のアクチュエータ(例えば、電磁アクチュエータまたは圧電アクチュエータ)またはモータを備えてもよい。図2では、アクチュエータ機構130は基板ホルダを変位させるように構成される一方、図3では、アクチュエータ機構はインプリントテンプレートホルダを変位させるように構成される。当業者には理解されるように、基板ホルダおよびインプリントテンプレートホルダの両方を変位させるようにリソグラフィ装置のアクチュエータ機構130を構成することも、同様に実現可能である。本発明に係るアクチュエータ機構130は、装置の制御ユニット190によって制御される。このような制御ユニット(例えばマイクロプロセッサまたはマイクロコンピュータとして実装される)は、例えば、基板および相対位置の設定点に対するインプリントテンプレートの相対位置を表す入力信号を受け取り、上記信号および設定点に基づき、アクチュエータ機構への適切な制御信号を決定することができる。本発明の一実施形態に係るインプリントリソグラフィ装置によって実行されるインプリント過程は、以下のように進めることができる。
【0020】
始めに、インプリントテンプレートに与えられたパターンが基板上の適切な位置に確実に適用されるようにするため、インプリントテンプレートおよび基板の適切な位置合わせが行われる。上述のようなアクチュエータ機構は、インプリントテンプレートホルダおよび基板ホルダの所望の変位を与えて、この位置合わせを行うことができる。本発明の一実施形態に係る装置では、インプリントテンプレートホルダおよび/または基板ホルダが、環境から加えられる振動から実質的に絶縁されている支持構造140に搭載される。図示の実施形態では、インプリントテンプレートホルダ110が支持構造140に搭載されている。インプリントテンプレートホルダおよび/または基板ホルダを支持するこのような支持構造には、インプリントテンプレートおよび基板の相対位置を定めるための測定システム(図示せず)がさらに設けられていてもよい。この種のシステムは、例えば一つ以上の干渉計および/またはエンコーダ測定システムを備えてもよい。インプリントテンプレートと基板の相対位置は、例えば、支持構造に対するテンプレートホルダの位置測定と、支持構造に対する基板ホルダの位置測定(それぞれ矢印142および144によって示される)とから、求めることができる。正確な位置合わせを達成するために、基板に対するインプリントテンプレートの位置決めは、床の振動などの外部擾乱の影響が実質的にない状態で実行されなければならない。したがって、本発明の一実施形態に係る装置は、装置の基部160上に配置され、インプリントテンプレートホルダおよび/または基板ホルダを支持する支持構造の振動を絶縁するように構成された振動絶縁システム150を備える。この種の振動絶縁システムは、例えば1Hz以下のカットオフ周波数または固有周波数を有する低剛性の支持で特徴づけられる、いわゆる空気マウントを一つまたは複数備えてもよい。この種の振動絶縁システムは、インプリントテンプレートホルダまたは基板ホルダを支持する支持構造への床振動などの振動の伝達を軽減するフィルタとして機能することができる。この種の振動の伝達を軽減することで、インプリントテンプレートおよび基板の正確な位置合わせが容易になる。
【0021】
一旦位置合わせが行われると、基板上のインプリント可能媒体にインプリントテンプレートを接触させて、続いてインプリントテンプレートをインプリント媒体に押し付けることができる。例えば、アクチュエータ機構によって基板ホルダに対してインプリントテンプレートホルダを適切に変位させることによって、このような変位を実現することができる。インプリント可能媒体(例えば、樹脂またはUV硬化性液体であってもよい)にインプリントテンプレートを押し付けるために、基板に向けてインプリントテンプレートが変位される(例えば、アクチュエータ機構のアクチュエータによって)。その結果、比較的大きな力(例えば、約100N)が基板に作用し、したがって基板ホルダにも作用する。基板ホルダが支持構造によって支持されている場合、振動絶縁システム上に支持構造が取り付けられているために、基板にかかる力は支持構造の位置に影響を与える。同様に、図2に示すように、インプリントテンプレートホルダ110が支持構造140に取り付けられている場合、(インプリントテンプレートによる)基板への力170の行使は、同じ大きさで反対向きの反力180を支持構造上に生み出し、これが支持構造を変位させる。一般に、比較的剛性の低い振動絶縁システムを用いる場合、支持構造に作用する力は、インプリントテンプレートホルダまたは基板ホルダの何れかを介して、支持構造140を顕著に変位させうる。このような支持構造の変位は、一般に装置または基板に対して有害なものではないが、装置のスループットに影響を与えることがある。これは、以下のように理解することができる。
【0022】
インプリントテンプレートがインプリント可能媒体に押し付けられた後、例えば冷却によってまたはUV硬化によってインプリント可能媒体が固められ、インプリントテンプレートを基板から遠ざけることができる。その結果、支持構造には上述した力がもはや及ばず、支持構造は公称位置(nominal position)に復帰する。基板からインプリントテンプレートを取り外すために、インプリント可能媒体の硬化による解放力(上述の力の方向とは実質的に逆向きの方向に作用する)が必要である場合もあることに注意する。振動絶縁システムの動特性(例えば、低い固有周波数を得るための比較的低い剛性、および/または比較的低い減衰)のために、支持構造が再び公称位置に達する前に長時間がかかることがある。振動絶縁システムの特性に応じて、この時間は数秒または数分にさえなることがある。このアイドル時間の間、リソグラフィ装置は、基板の異なる場所にインプリントテンプレートを適用する後続のインプリント過程を進めることができない。
【0023】
このアイドル時間を削減するために、本発明の一実施形態に係る装置に以下の手段が適用される。すなわち、インプリント過程の少なくとも一部の間、振動絶縁システムの動特性の調節を可能にする調節部材が、リソグラフィ装置の振動絶縁システムに設けられる。
【0024】
一実施形態では、基部と支持構造との間に力を及ぼすように制御されるアクチュエータを調節部材が備えていてもよく、これによって支持構造に与えられた力を効率的に補償することができる。リソグラフィ装置の制御ユニットによって制御されるこのようなアクチュエータを適用することで、(例えば、基板へのインプリント力の付与による)支持構造の変位に対抗し、または支持構造の変位を少なくとも部分的に補償することが可能になる。
【0025】
一実施形態では、調節部材は、調節可能ダンパー、例えば磁性流体ダンパーを備えてもよい。このようなダンパーによって与えられる減衰を増加させることで、(例えば、基板へのインプリント力の付与による)支持構造の変位を軽減することができる。
【0026】
特に、スタンプ過程、すなわちインプリント可能媒体にインプリントテンプレートが押し付けられるインプリント過程の一部の間基部への実質的な固定連結が実現されるレベルまで、基部に対する減衰が増大されてもよい。そうすることによって、支持構造の位置を実質的に維持することができる。このような磁性流体ダンパーについての詳細が、以下で説明される。
【0027】
結果として、上述のような調節部材を備える振動絶縁システムの適用によって、インプリント過程中に支持構造に及ぼされる力による、基部に対する支持構造の変位を軽減することができる。そうすることで、アイドル時間、すなわち基板への二回の連続的なインプリントの間にかかる時間を低減することができる。
【0028】
リソグラフィ装置の制御ユニット190による振動絶縁システムの調節部材の制御(上記制御ユニットは、例えばマイクロプロセッサまたはマイクロコンピュータとして実装可能である)は、例えば、インプリント過程中にインプリントテンプレートにより与えられる力に基づき行われてもよい。こうして、調節部材を制御するための制御信号(例えば、調節部材のアクチュエータに付与される電流、または調節部材の磁性流体ダンパーのコイルに付与される電流を制御する)は、リソグラフィ装置のアクチュエータ機構を制御する制御信号から導出することができる。
【0029】
一例として、調節部材を制御する制御信号は、インプリントテンプレートによって基板に及ぼされる力と比例してもよい。代替的に、アクチュエータ機構により付与される力が一定のしきい値を越える場合、制御信号は、振動絶縁システムの動特性(例えば、剛性および/または減衰特性)における特定の変化、例えば所定の変化を可能にしてもよい。このようなしきい値は、例えば、インプリント可能媒体にインプリントテンプレートを押し付けるために必要な力に基づいてもよい。こうして、インプリント可能媒体を介してインプリントテンプレートと基板とが接触しているときに、振動絶縁システムの動特性の調節のみが適用される。インプリントテンプレートと基板とが接触しているとき、インプリントテンプレートと基板の相対位置が接触そのものによって少なくとも部分的に規定されるので、絶縁装置の振動絶縁の仕様の厳密さが小さくなることに注意する。したがって、プロセスのこの段階において、振動絶縁システムの剛性および/または減衰を増大させることができる。
【0030】
図3に、本発明に係るインプリントリソグラフィ装置の一実施形態が模式的に示されており、同一の要素を指し示すために同一の参照符号が使用されている。図3では、振動絶縁システム150によって基部160から絶縁されている支持構造140を使用して、基板ホルダ120、例えば基板テーブルを支持する。図示の実施形態では、アクチュエータ機構130は、比較的長距離にわたりインプリントテンプレートホルダ110を変位させるためのいわゆる長ストロークアクチュエータ130.1と、比較的短距離にわたりインプリントテンプレートホルダ110を変位させるための短ストロークアクチュエータ130.2とを備える。図示の実施形態では、(インプリントテンプレートホルダにより保持された)インプリントテンプレートにより与えられる力により、基板ホルダを支持する支持構造140の比較的大きな変位が生じることがある。一旦このような力が取り除かれると、支持構造が自身の公称位置の周辺で振動を始めることがある。支持構造が公称位置で安定する前に、このような振動が数秒または数分の間継続することがある。振動絶縁システムの動特性を変更可能にする調節部材を導入することで、このような振動を軽減し、あるいは実質的に回避することさえ可能になる。
【0031】
図4に、振動絶縁システムの調節部材として適用可能である磁性流体ダンパーが模式的に示されている。ダンパーは、例えば基部に取り付け可能である第1部分400と、支持構造に取り付け可能である第2部分410とを備える。ダンパーは、第1部分と第2部分との間に与えられる磁性流体430をさらに備える。ダンパーは、コイルに電流が与えられたときに磁性流体内に磁界を発生させるように構成されたコイル440をさらに備える。この磁界のために、流体の粘性が変化する。このように、コイルを流れる電流が磁性流体の粘性を決定する。電流がゼロのとき、磁性流体は低粘度の流体のように振る舞う。電流が高いとき、磁性流体は粘弾性(visco-elastic)材料のように振る舞う。ゼロ電流と高電流の間では、減衰は磁界に応じて決まる。図示の磁性流体ダンパーは、例えば、図5に示すような振動絶縁システムに統合されてもよい。
【0032】
図5には、低剛性の支持部、特に空気マウントを備える振動絶縁システムが模式的に示されている。図示の空気マウントは、例えば実質的に円筒形状であってもよく例えば基部505に取り付けられる第1部分500と、第1部分の内側に取り付けられ、支持構造515を支持するために使用できる第2部分510とを備える。第1部分および第2部分によって画成される容積520の内側に加圧ガス(例えば空気)が供給され、支持構造に支持力530を与えることを可能にする。このような構造は、比較的低い剛性によって特徴づけられ、基部505に生じる振動のフィルタとして作用する支持を与えることができる。図5にさらに示すように、図4に示したような磁性流体ダンパーが設けられる。ダンパーの第1部分400が空気マウントの第1部分500に接続され、ダンパーの第2部分410が支持構造515に取り付けられる。本発明に係るインプリントリソグラフィ装置にこのような振動絶縁システムを適用する場合、例えば絶縁システムの減衰をインプリント過程の一部の間に調節(例えば増大)することができる。位置合わせ段階の後に、比較的大きな電流を磁性流体ダンパーのコイルに印加することによって、支持構造を床面にしっかりと結合させることができる。こうして、インプリント過程の間、構造に付与される力による支持構造の変位を実質的に防ぐことができる。調節可能ダンパー、例えば磁性流体ダンパーは、図5に示すように低剛性の支持部と一体化される必要はない。このようなダンパー(単数または複数)を、基部と支持構造の間の別の異なる位置に適用してもよい。
【0033】
図4および図5に模式的に示した磁性流体ダンパーは、応答時間を速くできることにさらに注意すべきである。数ミリ秒内に、磁性流体の粘性(したがって減衰)を調節することができる。このように、(インプリント可能媒体の硬化後に)基板からインプリントテンプレートが解放されると、速やかに粘性を低下させて、新たなインプリントサイクルを開始することができる。こうして、連続するインプリントサイクル間のアイドル時間を低減することができる。
【0034】
調節可能ダンパーを適用する代わりに、支持構造の変位が少なくとも部分的に反対向きになるように、基部と支持構造との間に力を及ぼすように構成されたアクチュエータを適用してもよい。このような構成が図6に模式的に示されている。図示の構成は、空気マウントの第1部分500に接続された第1部分600と支持構造515に取り付けられた第2部分610とを備えるアクチュエータと組み合わされた、図5に示した低剛性の支持部を備える。アクチュエータは、例えば空気マウントの支持力530を支持して、支持構造に力630を及ぼすことができる。そうすることによって、支持構造に対するインプリント力の影響、すなわち支持構造の変位を軽減するか、または実質的に回避することができる。アクチュエータによって与えられる力は、振動絶縁システムを備えるインプリントリソグラフィ装置の制御ユニット190(例えば図2または図3を参照)によって制御することができる。一例として、インプリント過程のインプリント段階および/または解放段階の間に、基部に対する支持構造の変位に比例する力を与えることによって、1Hzまたは0.5Hzの代わりに例えば10Hzの増加した固有周波数で振動絶縁システムが一時的に動作するように、振動絶縁システムの動作を調節することができる。このように、インプリント力に等しい反作用力を選択することによって、剛性は変化しない。この場合、力の平衡によって、剛性を低く維持したまま変位を実質的になくすことができる。これを一般化すると、図6に例示したアクチュエータは、インプリント過程の少なくとも一部の間に支持構造に調節可能な力を与えて、インプリント過程の間に基部に対する支持構造の変位を低減することができる。このような力が付与される場合、振動絶縁システムは一時的に修正された特性、例えば異なる固有周波数または異なる支持力を有する。
【0035】
インプリント過程の少なくとも一部の間に振動絶縁システムの動特性を修正する調節部可能部材の適用により、支持構造の並進方向と回転方向の両方の変位を軽減し、または実質的に回避できることは、注目に値する。インプリント可能媒体が硬化されたとき、支持構造の回転によりインプリントされたパターンに損傷を与えることがあるので、回転方向の変位を回避することが特に望ましい。
【0036】
本発明の実施形態は、インプリントリソグラフィ装置および方法に関する。本装置および/または本方法を、電子デバイスおよび集積回路などのデバイスの製造、または集積光学システム、磁区メモリ用案内パターンおよび検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッド、有機発光ダイオードなどの製造といった他の応用形態にも使用することができる。
【0037】
本明細書において、「基板」という用語は、平坦化層または反射防止コーティング層などの、基板の一部を形成する任意の表面層、または別の基板上に設けられる任意の表面層を含むものとして意図されている。
【0038】
上述の実施形態では、単一のインプリントテンプレート、単一のインプリントテンプレートホルダ、単一の基板ホルダおよび単一の基板が、装置の単一のチャンバ内に設けられるように図示されている。他の実施形態では、より効率的にまたは迅速にインプリントを(例えば、並列で)行うために、二つ以上のインプリントテンプレート、二つ以上のインプリントテンプレートホルダ、二つ以上の基板ホルダ、および/または二つ以上の基板が一つ以上のチャンバ内に設けられていてもよい。例えば、一実施形態では、複数(例えば二つ、三つまたは四つ)の基板ホルダを備える装置が提供される。一実施形態では、複数(例えば二つ、三つまたは四つ)のインプリントテンプレート構成を備える装置が提供される。一実施形態では、基板ホルダ毎に一つのテンプレートホルダ構成を使用するように構成された装置が提供される。一実施形態では、基板ホルダ毎に二つ以上のインプリントテンプレートホルダ構成を使用するように構成された装置が提供される。この場合、各インプリントテンプレートホルダに対して位置合わせ装置を設けてもよい。一実施形態では、複数(例えば二つ、三つまたは四つ)のインプリント可能媒体ディスペンサを備える装置が提供される。一実施形態では、基板ホルダ毎に一つのインプリント可能媒体ディスペンサを使用するように構成された装置が提供される。一実施形態では、インプリントテンプレート構成毎に一つのインプリント可能媒体ディスペンサを使用するように構成された装置が提供される。一実施形態では、複数の基板ホルダを備える装置が提供される場合に、基板ホルダが装置内で機能を共有してもよい。例えば、基板ホルダは、基板ハンドラ、基板カセット、(例えばインプリント中にヘリウム環境を作り出すための)ガス供給システム、インプリント可能媒体ディスペンサ、および/または(例えば、インプリント可能媒体を硬化させるための)放射源を共有してもよい。一実施形態では、二つ以上の基板ホルダ(例えば、三つまたは四つ)が装置の一つ以上の機能(例えば、一つ、二つ、三つ、四つまたは五つの機能)を共有する。一実施形態では、装置の一つ以上の機能(例えば、一つ、二つ、三つ、四つまたは五つ)が全ての基板ホルダの間で共有される。
【0039】
説明し図解した実施形態は例示として解釈されるべきであり、特徴の限定として解釈されるべきではない。好適な実施形態のみが図示され説明されており、請求項で規定する本発明の範囲内に含まれるあらゆる変更および修正が保護されるよう望まれることが理解される。詳細な説明における「好ましい」「好ましくは」「好適な」または「さらに好適な」などの語の使用は、そのように述べられた特徴が望ましいことがあることを提案するものであり、それにもかかわらず、そのような特徴は必須ではなく、そのような特徴を欠く実施形態も添付の請求項で規定される発明の範囲内にあるとして考慮される。請求項に関して、「a」「an」「少なくとも一つ」または「少なくとも一つの部分」などの語が特徴の前で使用されるとき、請求項において反対のことが特に述べられていない限り、請求項をそのような一つの特徴のみに限定する意図はない。「少なくとも一部」および/または「一部」という用語が使われるとき、反対のことが特に述べられていない限り、要素は一部および/または全体の要素を含むことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリントテンプレートを保持するように構成されたインプリントテンプレートホルダと、
基板を保持するように構成された基板ホルダと、
前記基板ホルダに対して前記インプリントテンプレートホルダを変位させてインプリント過程を実行するように構成されたアクチュエータと、を備え、
前記インプリントテンプレートホルダおよび/または前記基板ホルダは支持構造上に支持され、該支持構造は、インプリントリソグラフィ装置の基部に取り付けられた振動絶縁システムに取り付けられ、該振動絶縁システムは、前記基部に対する前記支持構造の振動を絶縁するように構成され、
前記インプリント過程中に前記アクチュエータを制御するように構成された制御ユニットをさらに備え、該制御ユニットは、前記振動絶縁システムの調節部材を制御して、前記インプリント過程の少なくとも一部の間、前記振動絶縁システムの動特性を調節し、前記インプリント過程の間、前記支持構造に作用する力による前記基部に対する前記支持構造の変位を低減させるように構成されることを特徴とするインプリントリソグラフィ装置。
【請求項2】
前記動特性は剛性を含み、前記制御ユニットは、前記インプリント過程の少なくとも一部の間、前記調節部材を制御して前記振動絶縁システムの剛性を増大させるように構成されることを特徴とする請求項1に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項3】
前記動特性は減衰を含み、前記制御ユニットは、前記インプリント過程の少なくとも一部の間、前記調節部材を制御して前記振動絶縁システムの減衰を増大させるように構成されることを特徴とする請求項1に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項4】
前記振動絶縁システムは、前記支持構造を支持するように構成された空気マウントを備え、
前記調節部材は、前記支持構造にアクチュエータ力を作用させる第2アクチュエータを備え、
前記制御ユニットは、前記アクチュエータ力を制御して前記支持構造の変位を低減するように構成されることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項5】
前記振動絶縁システムの前記調節部材は、前記基部と前記支持構造の間に配置された調節可能ダンパーを備え、
該調節可能ダンパーは、前記減衰の少なくとも一部を提供するように構成され、
前記制御ユニットは、前記調節可能ダンパーを制御するように構成されることを特徴とする請求項3に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項6】
前記調節可能ダンパーが磁性流体ダンパーであることを特徴とする請求項5に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項7】
前記磁性流体ダンパーは、該磁性流体ダンパーの磁性流体内に磁界を発生するように構成されたコイルを備えることを特徴とする請求項6に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項8】
前記制御ユニットは、前記コイルを流れる電流を制御して、前記磁性流体ダンパーの減衰特性を制御するように構成されることを特徴とする請求項7に記載のインプリントリソグラフィ装置。
【請求項9】
インプリントテンプレートを保持するインプリントテンプレートホルダおよび/または支持構造上にインプリント可能な媒体を有する基板を保持する基板ホルダを支持し、
振動絶縁システムによって、基板に対する前記支持構造の振動絶縁を提供し、
アクチュエータを用いて前記基板および前記インプリントテンプレートを位置合わせし、
前記基板ホルダに対して前記インプリントテンプレートホルダを変位させてインプリント過程を実行し、
前記インプリント過程の少なくとも一部の間、前記振動絶縁システムの調節部材を制御して前記振動絶縁システムの動特性を調節し、前記インプリント過程の間に前記支持構造に作用する力による基部に対する前記支持構造の変位を低減させることを含むインプリントリソグラフィ方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−135077(P2011−135077A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−282942(P2010−282942)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(504151804)エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ. (1,856)
【Fターム(参考)】