説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】サイクロイド減速機構になる減速部にて、外ピンと曲線板との接触面に十分な潤滑油を供給することができるインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】減速部入力軸25の回転に伴って軸線Oを中心とする公転運動を行う1対の曲線板26a,26bと、曲線板26a,26bの外周部に係合して曲線板26a,26bの自転運動を生じさせる外ピン27と、車輪側回転部材28と結合し、外ピン27よりも内径側で曲線板26a,26bの自転運動を取り出す内ピン31と、外ピン27よりも内径側かつ内ピン31よりも外径側の位置で減速部入力軸25を包囲する環状体であって、1対の曲線板26a,26bの間に介挿されるカラー部材29とを有する。そして、カラー部材29は、カラー部材29の外周と内周とを連絡する溝を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インホイールモータ駆動装置の内部潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータ駆動装置は、例えば、特開2006−258289号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1のインホイールモータ駆動装置は、駆動モータと、この駆動モータから駆動力を入力されて回転数を減速して車輪側に出力する減速機と、減速機の出力軸と結合する車輪のハブ部材とが同軸かつ直列に配列されている。この減速機はサイクロイド減速機構であることから、従来の減速機として一般的な遊星歯車式減速機構と比較して高減速比が得られる。したがって、駆動モータの要求トルクを小さくすることができ、インホイールモータ駆動装置のサイズおよび重量を低減することができるという点で頗る有利である。また、このインホイールモータ駆動装置は、外ピンおよび内ピンには軸受が嵌着され、軸受の外輪がそれぞれ曲線板の外周と貫通孔の内周とに転接するようになっている。したがって、外ピンと曲線板の外周との接触抵抗、および内ピンと貫通孔の内周との接触抵抗を低減することができ、減速機のトルク損失を防止することができる点で頗る有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−258289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このサイクロイド減速機構を潤滑するにあたり、サイクロイド減速機構の回転要素を潤滑油に浸しておく油浴潤滑方式を採用すれば、回転要素の回転による遠心力で潤滑油が半径方向外方へ飛ばされ、回転中心付近で潤滑油が不足する傾向にあり、高回転時には軸受の焼付き等、早期損傷の虞がある。そこで、ポンプで潤滑油を回転中心に圧送することにより回転要素を潤滑する軸心給油方式を採用することが考えられる。また、曲線板に環状のカラー部材を設け、曲線板の傾きを防止することが好ましい。しかしながら、曲線板が複数の場合、曲線板と曲線板との間にカラー部材が介挿されるため、径方向外方へ向かう潤滑油の流れがカラー部材により遮断されてしまう。このため、カラー部材よりも径方向外方に位置する外ピンと曲線板との接触面は潤滑油が十分に供給されず、接触面が高温になって寿命が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、曲線板が複数の場合であっても、外ピンと曲線板との接触面に十分な潤滑油を供給することができるインホイールモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明によるインホイールモータ駆動装置は、モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとを備え、減速部は、2個の円盤形状であって、モータ側回転部材にモータ側回転部材の軸線から偏心して結合した1対の偏心部材と、軸線方向に離隔して相互に対向する2個の板状体であって、内周が偏心部材の外周に相対回転可能にそれぞれ取り付けられ、モータ側回転部材の回転に伴って軸線を中心とする公転運動を行う1対の公転部材と、公転部材の外周部に係合して公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、車輪側回転部材と結合し、外周係合部材よりも内径側で公転部材の自転運動を取り出す内側係合部材と、外周係合部材よりも内径側かつ内側係合部材よりも外径側の位置でモータ側回転部材を包囲する環状体であって、1対の公転部材の間に介挿されるカラー部材とを有し、カラー部材は、該カラー部材の外周と内周とを連絡する油路を備える。
【0007】
かかる本発明によれば、2個の公転部材同士の間に介挿されるカラー部材が、カラー部材の外周と内周とを連絡する油路を備えることから、潤滑油がカラー部材の油路を通過して径方向外方へ流れることが可能になり、外ピンと曲線板との接触面に十分な潤滑油を供給することができる。
【0008】
油路はカラー部材に1箇所形成されてもよいが、好ましくはカラー部材の周方向に間隔を開けて複数形成される。周方向で隣り合う油路の間隔は、すべて等しくてもよく、あるいは不等間隔であってもよい。かかる実施形態によれば、カラー部材の全周に亘って潤滑油を流すことができる。
【0009】
本発明は一実施形態に限定されるものでないが、油路はカラー部材の一方端面および他方端面の少なくとも一方に形成された溝であってもよい。溝は、一方端面のみ形成されてもよく、あるいは、両方の端面に形成されてもよい。
【0010】
好ましくは、溝は一方端面および他方端面の両方に周方向等間隔に複数形成され、一方端面に形成された溝と他方端面に形成された溝とが、周方向にずれた位置で交互に配列される。かかる実施形態によれば、カラー部材の一方端面および他方端面の両方に潤滑油を均等に流すことができる。
【0011】
本発明は一実施形態に限定されるものでないが、油路は、カラー部材に形成された貫通孔であってもよい。油路はカラー部材の内周と外周とを接続することから、径方向に直線状に延在するものであってもよいこと勿論である。
【0012】
好ましくは、カラー部材は樹脂製である。かかる実施形態によれば、油路の加工が容易になる。
【0013】
好ましくは、内側係合部材は、軸線を中心とする仮想円上で周方向に間隔を開いて配設され、軸線と平行に延在する複数の内ピンを含み、内ピンは、内ピンの外周を包囲する内ピン外輪と、内ピン外輪の内周と内ピンの外周との間に介在する複数の転動体とを含み、カラー部材の内周が、内ピンと転がり接触する。かかる実施形態によれば、カラー部材の内周が、これら複数の内ピンと外接することから、カラー部材を軸線と同軸に位置決めすることが可能になる。しかも、内ピンの外周に転がり軸受がそれぞれ設けられることから、カラー部材と内ピンとの摩擦抵抗を解消することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明は、2個の公転部材同士の間に介挿されるカラー部材が、カラー部材の外周と内周とを連絡する油路を備えることから、潤滑油がカラー部材の油路を通過して径方向外方へ流れることが可能になり、外ピンと曲線板との接触面に十分な潤滑油を供給することができる。したがって、接触面を好適な温度に維持することが可能になり、インホイールモータ駆動装置の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
【図2】図1のII−IIにおける減速部の断面図である。
【図3】同実施例のポンプケーシングを軸線方向からみた状態を模式的に示す説明図である。
【図4】同実施例のカラー部材を取り出して軸線方向からみた状態を示す正面図である。
【図5】図4に示すカラー部材の縦断面図である。
【図6】他の実施例になるカラー部材を取り出して軸線方向からみた状態を示す正面図である。
【図7】図6に示すカラー部材の縦断面図である。
【図8】本発明の実施例になるインホイールモータ駆動装置の配置レイアウトを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。図1は、本実施例のモータ駆動装置を備えたインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。図2は、図1のII−IIにおける横断面図である。
【0017】
インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ駆動装置としてのモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を図示しない駆動輪に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備える。モータ部Aはモータ部の外郭を形成するモータケーシング22a、ポンプケーシング22p、およびモータカバー22tに収納され、減速部Bは減速部の外郭を形成する減速部ケーシング22bに収納され、車輪ハブ軸受部Cは減速部ケーシング22bに固定された軸受部ケーシング22cに回転自在に支持されて、例えば電気自動車のホイールハウジング内に取り付けられる。あるいは鉄道車両の台車に取り付けられる。これらモータカバー22t、モータケーシング22a、ポンプケーシング22p、減速部ケーシング22b、および軸受部ケーシング22cは軸線O方向に順次配列されるとともに相互に結合して1個のケーシング22を構成する。
【0018】
モータ部Aは、円筒形状のモータケーシング22aの内周に固定されるステータ23と、ステータ23の内径側に径方向に開いた隙間を介して対面する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の中心に固定連結されてロータ24と一体回転する回転軸35とを備えるラジアルギャップモータである。
【0019】
回転軸35は軸線Oに沿って延在し、回転軸35の一端は、転がり軸受63を介してモータカバー22tに回転自在に支持される。また回転軸35の他端は、転がり軸受62を介してポンプケーシング22pに回転自在に支持されて減速部入力軸25の一端と結合する。モータカバー22tはモータケーシング22aの一方端の開口を閉塞する円盤形状の部材であり、モータ部Aの端部であるとともに、インホイールモータ駆動装置21の端部でもある。ポンプケーシング22pはモータケーシング22aの他方端の開口を閉塞する円盤形状の部材であり、後述するオイルポンプ51を備える。
【0020】
減速部Bは、回転軸35と結合する減速部入力軸25と、減速部入力軸25に結合した2個1対の偏心部材25a,25bと、偏心部材25a,25bそれぞれに回転自在に保持される2個1対の公転部材としての曲線板26a,26bと、曲線板26a,26bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン27と、外ピン27の両端を支持する円筒形状の外ピン保持部45と、外ピン保持部45の外周を支持する減速部ケーシング22bと、曲線板26a,26bの自転運動を取り出す内側係合部材としての内ピン31と、内ピン31と結合する車輪側回転部材28と、曲線板26a,26b同士の隙間に取り付けられてこれら曲線板26a,26bの端面に当接して曲線板の傾きを防止するカラー部材29と、内ピン31の撓みを防止する補強部材61とを有する。
【0021】
モータ部Aから遠い側にある減速部入力軸25の一端は、軸受64を介して、後述する車輪側回転部材28の端部に回転自在に支持される。またモータ部Aに近い側にある減速部入力軸25の他端は回転軸35の一端と結合する。これら両端間の中程で、減速部入力軸25の外周には、偏心部材25a,25bが形成される。円盤形状の偏心部材25aは、減速部入力軸25の軸線Oから偏心して減速部入力軸25と結合する。円盤形状の偏心部材25bも、減速部入力軸25の軸線Oから偏心して減速部入力軸25と結合する。さらに、2個の円盤形状の偏心部材25aと偏心部材25bとは軸線O方向に離隔して設けられるとともに、偏心運動による遠心力で発生する振動を互いに打ち消し合うために、周方向180°位相を変えて設けられている。回転軸35および減速部入力軸25は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するモータ側回転部材を構成する。
【0022】
曲線板26a,26bは軸線O方向に離隔して相互に対向する2個の板状体である。曲線板26aの内周は偏心部材25aの外周に相対回転可能に取り付けられる。同様に、曲線板26bの内周は偏心部材25bの外周に相対回転可能に取り付けられる。
【0023】
図2を参照して、偏心部材25bの外周には曲線板26bが同軸に取り付けられている。曲線板26bは、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成されて径方向に窪んだ複数の曲線凹部を有し、これら曲線凹部が後述する外ピン27と係合する。また曲線板26bは一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30a,30bを有する。
【0024】
上述したように円盤形状の偏心部材25bの中心Xは、曲線板26bの自転軸心でもあり、軸線Oから偏心する。なお図2中、軸線Oは、後述する軸線油路57の中心と一致する。
【0025】
貫通孔30aは、曲線板26bの自転軸心Xを中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、内側係合部材としての複数の内ピン31をそれぞれ受入れる。
【0026】
内ピン31の外周には円筒形状の内ピン外輪31bが同軸に取り付けられ、内ピン外輪31bは針状ころ軸受31aを介して内ピン31に回転自在に支持される。これにより、内ピン外輪31bは貫通孔30aの孔壁面を転走して、内側係合部材が貫通孔30aの内周を転がり接触する。また、貫通孔30bは、曲線板26bの中心Xに設けられており、曲線板26bの内周になる。曲線板26bは、転がり軸受41を介して、偏心部材25bの外周に相対回転可能に取り付けられる。
【0027】
この転がり軸受41は、偏心部材25bの外周面に嵌合する内輪部材42と、複数のころ44と、周方向で隣り合うころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備え、貫通孔30bの孔壁面を外側軌道面とする円筒ころ軸受である。あるいは深溝玉軸受であってもよい。内輪部材42は、ころ44が転走する内輪部材42の内側軌道面42aを挟んで向かい合う1対の鍔部をさらに有し、ころ44を1対の鍔部間に保持する。曲線板26aについても同様である。
【0028】
複数の内ピン31は、軸線Oと平行に延び、モータ部Aから遠い側にある基端で車輪側回転部材28に共通に支持される。車輪側回転部材28は、軸線Oに沿って延びる軸部28bと、軸部28bの端部に形成されて内ピン31の基端と結合するフランジ部28aとを有する。フランジ部28aの端面には、車輪側回転部材28の回転軸線Oを中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。軸部28bの外周面には、後述する車輪ハブ軸受部Cの車輪ハブ32が固定されている。
【0029】
フランジ部28aから離れた側にある内ピン31の先端には、補強部材61が設けられている。補強部材61は、複数の内ピン31先端と結合するフランジ形状の円環部61bと、円環部61bの内径部分から軸線O方向にモータ部Aへ延びる円筒部61cとを含む。曲線板26a、26bから一部の内ピン31に負荷される荷重は円環部61bを介して全ての内ピン31によって支持されるため、内ピン31に作用する応力を低減させ耐久性を向上させることができる。円筒部61cの先端は、オイルポンプ51と駆動結合する。
【0030】
曲線板26a,26bの外周と係合する外ピン27は、減速部入力軸25の回転軸線Oを中心とする円周軌道上に等間隔に複数設けられる。そして、曲線板26a,26bが偏心部材25a,25bに連れ回されて公転運動すると、曲線板26a,26b外周の曲線凹部と外ピン27とが係合して、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。
【0031】
なお、減速部ケーシング22b内部に配設された外ピン27は、減速部ケーシング22bに直接保持されていてもよいが、好ましくは減速部ケーシング22bの内壁に嵌合固定されている外ピン保持部45に保持されている。より具体的には、外ピン27の軸線方向両端部を外ピン保持部45に取り付けられた針状ころ軸受27aによって回転自在に支持されている。このように、外ピン27を外ピン保持部45に回転自在に取り付けることにより、曲線板26a,26bとの係合による接触抵抗を低減することができる。
【0032】
インホイールモータ駆動装置21の軽量化の観点から、ケーシング22は、アルミ合金やマグネシウム合金等の軽金属で形成する。一方、高い強度が求められる外ピン保持部45は、炭素鋼で形成するのが望ましい。
【0033】
車輪ハブ軸受部Cは、車輪側回転部材28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を回転自在に保持する車輪ハブ軸受33と、車輪ハブ軸受33を支持する軸受部ケーシング22cとを備える。車輪ハブ軸受33は複列アンギュラ玉軸受であって、その外輪が円筒形状の軸受部ケーシング22cの内周に嵌合固定され、その内輪が車輪ハブ32の外径面に嵌合固定される。車輪ハブ32は、車輪側回転部材28の軸部28bを受け入れる円筒形状の中空部32aと、中空部32aの減速部Bから遠い側の軸線O方向端に形成されたフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによって図示しない駆動輪のロードホイールが連結固定される。
【0034】
上記構成のインホイールモータ駆動装置21の作動原理を詳しく説明する。
【0035】
モータ部Aは、例えば、ステータ23に交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、磁性体または永久磁石を含むロータ24が回転する。これにより、ロータ24に接続された回転軸35が回転すると、回転軸35とともに減速部入力軸25が回転し、減速部入力軸25と結合する偏心部材25a,25bが軸線Oを中心として偏心運動する。
【0036】
そうすると曲線板26a,26bはモータ側回転部材の回転軸線Oを中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a,26bの外周に形成された曲線凹部と転がり接触しつつ係合して、曲線板26a,26bをモータ側回転部材の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0037】
貫通孔30aに挿通される内ピン外輪31b外周は、貫通孔30aの内径よりも十分に細く、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの孔壁面と当接する。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが車輪側回転部材28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。
【0038】
このとき、軸線Oと同軸に配置された車輪側回転部材28は、減速部Bの出力軸として曲線板26a,26bの自転を取り出す。減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZ、曲線板26a,26bの波形の数をZとすると、(Z−Z)/Zで算出される。図2に示す実施形態では、Z=12、Z=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。これにより、減速部入力軸25の回転が減速部Bによって減速されて車輪側回転部材28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、駆動輪に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0039】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27を外ピン保持部45に対して回転自在とし、内ピン31の曲線板26a,26bに当接する位置に針状ころ軸受31aを設けたことにより、摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0040】
本実施例に係るインホイールモータ駆動装置21を電気自動車に採用することにより、ばね下重量を抑えることができる。その結果、走行安定性に優れた電気自動車を得ることができる。
【0041】
また、本実施例においては、減速部Bの曲線板26a,26bを180°位相を変えて2個設けたが、この曲線板の個数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3個設ける場合は、120°位相を変えて設けるとよい。
【0042】
また、本実施例においては、車輪側回転部材28に固定された内ピン31と、曲線板26a,26bに設けられた貫通孔30aとで構成される例を示したが、これに限ることなく、減速部Bの回転を車輪ハブ32に伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板に固定された内ピンと、車輪側回転部材に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
【0043】
なお、本実施例における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから駆動輪に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0044】
また、本実施例における作動の説明では、モータ部Aに電力を供給してモータ部Aを駆動させ、モータ部Aからの動力を駆動輪に伝達させたが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、駆動輪側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電しても良い。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させてもよいし、車両に備えられた他の電動機器等の作動に用いてもよい。
【0045】
次に減速部Bの潤滑構造につき、詳しく説明する。
【0046】
ポンプケーシング22pに設けられて上下方向に延びる吸入油路52は、オイルポンプ51の吸入口と減速部Bの下部に設けられたオイル溜まり53とを接続する。ポンプケーシング22pに設けられて上下方向に延びる吐出油路54は、下端でオイルポンプ51の吐出口と接続し、上端でモータケーシング22aに設けられた冷却油路55の一端と接続する。冷却油路55は、モータケーシング22aに設けられたウォータージャケット65と交差する。ウォータージャケット65は冷却水入口65iと、冷却水入出口65oと、モータ部Aを周回するよう配設された冷却水路65wを備える。ウォータージャケット65は軸線油路57と接続するオイルクーラとして機能し、冷却水入口65iから流入した冷却水は、冷却水路65wを流れる過程でモータ部Aおよび冷却油路55を流れる潤滑油を冷却し、冷却水入出口65oから流出する。
【0047】
冷却油路55の他端は、モータカバー22tに設けられた連絡油路56の一端と接続する。連絡油路56の他端は、管状の回転軸35および減速部入力軸25の内部に設けられて軸線Oに沿って延びる軸線油路57と接続する。軸線油路57は、軸線Oから偏心部材25a内を径方向外側に向かって延びる潤滑油路58aと、軸線Oから偏心部材25b内を径方向外側に向かって延びる潤滑油路58bとに分岐する。潤滑油路58a,58bの径方向外側端は、転がり軸受41の内輪部材42を貫通するよう内側軌道面42aに設けられた孔43と接続する。
【0048】
図3は、ポンプケーシング22pを軸線O方向からみた状態を模式的に示す説明図である。ポンプケーシング22pの中央に取り付けられ、補強部材61の円筒部61cによって駆動されるオイルポンプ51は、例えばサイクロイドポンプで構成され、オイル溜まり53に貯留した潤滑油を吸入油路52下端の入口52iから吸入し、吐出油路54に潤滑油を吐出する。ポンプケーシング22pの下部には、モータケーシング22aの内部空間とオイル溜まり53とを連通する孔53iが設けられる。潤滑油が孔53iからオイル溜まり53へ流下するよう、孔53iは入口52iよりも上方に設けられている。
【0049】
潤滑油は、吐出油路54と冷却油路55とを順次通過し、冷却油路55で冷却される。次に潤滑油は、連絡油路56と、軸線油路57とを順次通過し、減速部Bで潤滑油路58a、58bにそれぞれ分岐して径方向外方へ流れ、偏心部材25aに設けられた転がり軸受41と、偏心部材25bに設けられた転がり軸受41とをそれぞれ潤滑する。また、潤滑油は遠心力の作用によって径方向外方へ流れるため、曲線板26a、26bと、外ピン27とをそれぞれ潤滑する。その後、潤滑油は落下して、減速部Bの下部に設けられたオイル溜まり53に貯留する。潤滑油の循環経路は以上のように構成される。
【0050】
図4はカラー部材29を取り出して軸線O方向からみた状態を示す正面図である。図5は図4のV−Vにおける縦断面図である。カラー部材29は環状であり、モータ側回転部材になる減速部入力軸25の一端を包囲する。また、カラー部材29は、公転部材になる2個の曲線板26a,26b同士の間に介挿されて、これら2個の曲線板26a,26b同士を離隔するスペーサになる。したがって、カラー部材29の一方側端面は曲線板26aの端面と接触し、カラー部材29の他方側端面は曲線板26bの端面と接触する。
【0051】
カラー部材29の一方端面には溝29gが形成される。溝29gは、径方向に延在し、カラー部材29の外周と内周とを連絡する油路を構成する。また溝29gは、周方向等間隔に複数形成される。なお、ここでいう一方端面とは、曲線板26aと接触する端面であってもよいし、あるいは曲線板26bと接触する端面であってもよい。
【0052】
曲線板26aは硬質プラスチィックなどの樹脂製であるが、金属製であってもよい。
【0053】
潤滑油は遠心力の作用によって径方向外方へ流れるため、曲線板26aと曲線板26bとの間に流入した潤滑油は、カラー部材29により遮断されることなく、溝29gを通過して外ピン27および曲線板26a,26bの外周を潤滑する。
【0054】
本実施例によれば、減速部入力軸25の一端を包囲する環状のカラー部材29が、2個1対の曲線板26a,26b同士の間に介挿され、カラー部材29の外周と内周とを連絡する溝29gを備えることから、溝29gが油路となり、潤滑油が溝29gを径方向外方へ流れる。これにより、潤滑油の径方向外方への流れがカラー部材29によって遮断されず、曲線板26a,26bの外周においてトロコイド系曲線で構成される曲線凹部と外ピン27との接触面に潤滑油を十分に供給することができる。したがって、かかる接触面を好適な温度に維持することが可能になり、インホイールモータ駆動装置21の寿命を長くすることができる。
【0055】
また、油路になる溝29gは、カラー部材29の周方向に間隔を開けて複数形成されることから、曲線板26a,26bと外ピン27との接触面に潤滑油を好適に供給することができる。具体的には図4および図5に示すように、溝29gは、カラー部材29の一方端面および他方端面の少なくとも一方に形成される。溝29gは、径方向に直線状に延在する。
【0056】
また本実施例によれば、内側係合部材になる複数の内ピン31は、軸線Oを中心とする仮想円上で周方向に離隔して配設され、それぞれの内ピン31は、軸線Oと平行に延在する。そして内ピン31はそれぞれ、内ピン31の外周を包囲する内ピン外輪31bと、内ピン外輪31bの内周と内ピン31の外周との間に介在する針状ころ軸受31aを含む。針状ころ軸受31aは複数のころを含む。これにより、カラー部材29を軸線Oと同軸に位置決めすることが可能になる。しかも、内ピン31の外周に針状ころ軸受31aがそれぞれ設けられることから、カラー部材29の内周が、内ピン31と転がり接触することが可能となり、カラー部材29と内ピン31との摩擦抵抗を解消することができる。
【0057】
次に本発明の他の実施例になるカラー部材を説明する。図6は他の実施例になるカラー部材を示す正面図であり、図7は、図6のVII−VIIにおける縦断面図である。かかる他の実施例につき、上述した実施例と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。他の実施例において溝29gは、カラー部材29の一方端面および他方端面の両方に複数形成される。一方端面において溝29gは周方向等間隔に設けられ、他方端面においても溝29gは周方向等間隔に設けられる。そして一方端面に形成された溝29gと他方端面に形成された溝29gとが、周方向で交互に配列される。なお図6に示すように、実線で示される一方端面に形成された溝29gと破線で示される他方端面に形成された溝29gとの周方向間隔はすべて等しい。
【0058】
かかる他の実施例によれば、カラー部材29の一方端面および他方端面の両方に潤滑油を均等に流すことができる。
【0059】
カラー部材に形成される油路は、上述した溝29gに限られない。図には示さなかったが、溝29gに代えてカラー部材29に、径方向に延びる貫通孔を形成してもよい。これにより潤滑油はカラー部材29に形成された貫通孔を通過することが可能となり、曲線板26a,26bの外周と外ピン27との接触面に潤滑油を十分に供給することができる。
【0060】
また本実施例のカラー部材29は樹脂製であることから、溝29gまたは貫通孔の加工が容易になる。
【0061】
図8はインホイールモータ駆動装置21の配置レイアウトを示す平面図である。車両の車体11は、前後左右に4個の車輪を具備する。このうち左輪12Lおよび右輪12Rは駆動輪である。左輪12Lは車両左側に配置されたインホイールモータ駆動装置21Lの車輪ハブ32と結合する。インホイールモータ駆動装置21Lは図示しないサスペンション装置で車体11の床下に懸架されている。同様に右輪12Rも車両右側に配置されたインホイールモータ駆動装置21Rの車輪ハブ32と結合する。インホイールモータ駆動装置21Rも図示しないサスペンション装置で車体11の床下に懸架されている。インホイールモータ駆動装置21L,21Rはいずれも上述したインホイールモータ駆動装置21であり、車両前後方向に延びる車体11の中心線に関して対称に配置される。
【0062】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明になるインホイールモータ駆動装置は、電気自動車およびハイブリッド車両において有利に利用される。
【符号の説明】
【0064】
21 インホイールモータ駆動装置、22 ケーシング、22a モータケーシング、22b 減速部ケーシング、22c 軸受部ケーシング、22p ポンプケーシング、22t モータカバー、23 ステータ、24 ロータ、25 減速部入力軸、25a,25b 偏心部材、26a,26b 曲線板、27 外ピン、28 車輪側回転部材、29 カラー部材、29g 溝(油路)、31 内ピン、32 車輪ハブ、33 車輪ハブ軸受、35 回転軸、41 転がり軸受、42 内輪部材、42a 内側軌道面、43 孔、44 ころ、51 オイルポンプ、52 吸入油路、53 オイル溜まり、54 吐出油路、55 冷却油路、56 連絡油路、57 軸線油路、58a,58b 潤滑油路、61 補強部材、65 ウォータージャケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとを備え、
前記減速部は、2個の円盤形状であって、モータ側回転部材に該モータ側回転部材の軸線から偏心して結合した1対の偏心部材と、
軸線方向に離隔して相互に対向する2個の板状体であって、内周が前記偏心部材の外周に相対回転可能にそれぞれ取り付けられ、前記モータ側回転部材の回転に伴って前記軸線を中心とする公転運動を行う1対の公転部材と、
前記公転部材の外周部に係合して前記公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、
前記車輪側回転部材と結合し、前記外周係合部材よりも内径側で前記公転部材の自転運動を取り出す内側係合部材と、
前記外周係合部材よりも内径側かつ前記内側係合部材よりも外径側の位置でモータ側回転部材を包囲する環状体であって、前記1対の公転部材の間に介挿されるカラー部材とを有し、
前記カラー部材は、該カラー部材の外周と内周とを連絡する油路を備える、インホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記油路は、前記カラー部材の周方向に間隔を開けて複数形成される、請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記油路は、前記カラー部材の一方端面および他方端面の少なくとも一方に形成された溝である、請求項2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記溝は、一方端面および他方端面の両方に、周方向等間隔に複数形成され、
一方端面に形成された溝と他方端面に形成された溝とが、周方向にずれた位置で交互に配列される、請求項3に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記油路は、前記カラー部材に形成された貫通孔である、請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記油路は、径方向に直線状に延在する、請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記カラー部材は樹脂製である、請求項1〜6のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記内側係合部材は、前記軸線を中心とする仮想円上で周方向に離隔して配設され、前記軸線と平行に延在する複数の内ピンを含み、
前記内ピンは、内ピンの外周を包囲する内ピン外輪と、前記内ピン外輪の内周と内ピンの外周との間に介在する複数の転動体とを含み、
前記カラー部材の内周が、前記内ピンと転がり接触する、請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−221964(P2010−221964A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74370(P2009−74370)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】