インホイールモータ駆動装置
【課題】 モータおよび減速機を含むインホイールモータユニットの過負荷状態を簡易に判断できて、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できるインホイールモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】 車輪用軸受A、モータB、およびこのモータBと車輪用軸受Aとの間に介在した減速機Cを有し、上記モータBの駆動を制御するコントローラ51を設けたインホイールモータ駆動装置とする。上記車輪用軸受A、モータB、および減速機CからなるインホイールモータユニットUの振動を検出する振動センサ58を設ける。この振動センサ58で測定された振動情報に応じて、上記モータBの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段59を設ける。
【解決手段】 車輪用軸受A、モータB、およびこのモータBと車輪用軸受Aとの間に介在した減速機Cを有し、上記モータBの駆動を制御するコントローラ51を設けたインホイールモータ駆動装置とする。上記車輪用軸受A、モータB、および減速機CからなるインホイールモータユニットUの振動を検出する振動センサ58を設ける。この振動センサ58で測定された振動情報に応じて、上記モータBの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段59を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車に搭載されるモータ、減速機、および車輪用軸受が連結されたインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車で使用されるインホイールモータユニット形式のインホイールモータ駆動装置は、ハブベアリングと減速機、モータが連結され、モータの駆動トルクを、減速機で倍増(回転数では減速)し、ハブベアリングを介してタイヤに伝達する構成である。
この減速機には、遊星歯車を使用したものが用いられたりするが、乗り心地を確保するため、車体のばね下重量を極力軽くする構成が採られ、サイクロイド減速機が使用される(例えば、特許文献1)。またモータにおいても同様に、そのサイズは極力コンパクトに設計され、モータのパワー密度は大きくならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−258289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようにコンパクト化を図る結果、減速機およびモータの信頼性確保が重要な課題となる。特にユニットの冷却性能は課題のひとつであり、小さなサイズ内、すなわち小さな表面積での冷却が必要となり、付随する冷却ユニットのサイズが大きくなると同時に、この冷却のための消費エネルギは大きくなってしまう。
また、コンパクトな減速機を使った場合には、異常な過大トルクの印加は極力回避したい。
【0005】
この発明の目的は、モータおよび減速機を含むインホイールモータユニットの過負荷状態を簡易に判断できて、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できるインホイールモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のインホイールモータ駆動装置は、車輪用軸受、モータ、およびこのモータと車輪用軸受との間に介在した減速機を有し、上記モータの駆動を制御するコントローラを設けたインホイールモータ駆動装置において、上記車輪用軸受、モータ、および減速機からなるインホイールモータユニットの振動を検出する振動センサを設け、この振動センサで測定された振動情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段を上記コントローラに設けても良い。
インホイールモータユニットにおけるモータや減速機の過負荷が生じたときは、振動を発生する。このため、インホイールモータユニットの振動を検出することによっても、インホイールモータユニットのモータや減速機の過負荷を検出することができる。この振動情報の判断で過負荷を検出する場合も、上記の温度情報による過負荷検出の場合と同様に、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できる。
【発明の効果】
【0007】
この発明のインホイールモータ駆動装置は、インホイールモータユニットの振動を検出する振動センサを設け、この振動センサで測定された振動情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段を上記コントローラに設けたため、インホイールモータユニットの過負荷状態を簡易に判断できて、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の第1の提案例にかかるインホイールモータ駆動装置の全体の構成を示す説明図である。
【図2】同インホイールモータ駆動装置の車輪用軸受、減速機、およびモータを示す破断側面図である。
【図3】(A)は図2のIII-III 線に沿う断面図、(B)は同図(A)の部分拡大断面図である。
【図4】同インホイールモータ駆動装置のコントローラの一例の概念構成とモータのブロック線図とを組み合わせて示す説明図である。
【図5】図1のインホイールモータ駆動装置につき温度センサの配置を異ならせた例の説明図である。
【図6】図1のインホイールモータ駆動装置につき温度センサの配置をさらに異ならせた例の説明図である。
【図7】第1の提案例における温度対応モータ制御手段の処理の一例を示す流れ図である。
【図8】同温度対応モータ制御手段の処理の他の例を示す流れ図である。
【図9】同温度対応モータ制御手段の処理のさらに他の例を示す流れ図である。
【図10】同温度対応モータ制御手段の処理のさらに他の例を示す流れ図である。
【図11】さらに他の提案例にかかるインホイールモータ駆動装置の全体の構成を示す説明図である。
【図12】同実施形態における温度対応モータ制御手段の処理の一例を示す流れ図である。
【図13】温度対応モータ制御手段の処理の他の例を示す流れ図である。
【図14】この発明の一実施形態にかかるインホイールモータ駆動装置の全体の構成を示す説明図である。
【図15】同インホイールモータ駆動装置のコントローラの一例の概念構成とモータのブロック線図とを組み合わせて示す説明図である。
【図16】同実施形態における振動対応モータ制御手段の処理の一例を示す流れ図である。
【図17】振動対応モータ制御手段の処理の他の例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
第1の提案例を図1ないし図4および図9と共に説明する。図1に、車両の車輪用軸受Aと電動式のモータBとの間に減速機Cを介在させ、車輪用軸受Aで支持されるハブとモータBの出力軸24とを同軸心上で連結したインホイールモータ駆動装置を示す。これら車輪用軸受A、モータB、および減速機Cは、互いに一つの組立部品としてユニット化されたインホイールモータユニットUを構成する。減速機Cは、サイクロイド減速機であって、モータBの出力軸24に同軸に連結される入力軸32に偏心部32a,32bを形成し、偏心部32a,32bにそれぞれ軸受35を介して曲線板34a,34bを装着し、曲線板34a,34bの偏心運動を車輪軸受へ回転運動として伝達する構成である。
【0010】
すなわち、減速機Cにつき、モータBの回転を曲線板34a,34bの偏心運動とし、この偏心運動を回転運動としてハブに伝達するサイクロイド減速機とすることにより、コンパクトで大きな減速比が得られる減速機Cとこの減速機Cのコンパクトな配置構造を有するインホイールモータ駆動装置である。上記サイクロイド減速機Cは、部品点数が少なくコンパクトに設計でき、1段で1/10以上の大きな減速比を得ることができる。
【0011】
モータBは、外部のコントローラ51によって駆動され、その電流源はバッテリ52によって供給される。コントローラ51は、外部のアクセル54から出力されるアクセル信号に従い、モータBの駆動電流を制御するものである。また、コントローラ51は、モータBの回転数を回転センサ53で検出し、モータBの回転制御に利用する構成である。アクセル54は、車両のアクセルペダル(図示せず)と、このアクセルペダルの踏み込み量を電気信号であるアクセル信号に変換するアクセル信号生成手段(図示せず)とで構成される。
【0012】
図2,図3は、インホイールモータ駆動装置の機械部分の具体的構成例を示す。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。車輪用軸受Aは、軸受の転走面を形成した内方部材2がハブを構成する第3世代型の内輪回転タイプのハブベアリングとされている。
【0013】
この車輪用軸受Aは、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1およびハブ2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。内方部材2は、車両の車輪を取付けるハブを兼用する。この車輪用軸受Aは、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が外向きとなるように形成されている。外方部材1とハブ2との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材7でシールされている。
【0014】
外方部材1は静止側軌道輪となるものであって、減速機Cのアウトボード側のハウジング33bに取付けるフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔14が設けられている。また、ハウジング33bには、ボルト挿通孔14に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔44が設けられている。ボルト挿通孔14に挿通した取付ボルト15をボルト螺着孔44に螺着させることにより、外方部材1がハウジング33bに取付けられる。
【0015】
内方部材2は、車輪取付用のハブフランジ9aを有するアウトボード側材9と、このアウトボード側材9の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材9に一体化されたインボード側材10とでなる。これらアウトボード側材9およびインボード側材10に、前記各列の転走面4が形成されている。インボード側材10の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト16の挿入孔17が設けられている。アウトボード側材9のハブフランジ9aの根元部付近には、ホイールおよび制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。このパイロット部13の内周には、前記貫通孔11のアウトボード側端を塞ぐキャップ18が取付けられている。
【0016】
モータBは、筒状のハウジング22に固定したステータ23と出力軸24に取付けたロータ25との間にアキシアルギャップを設けたアキシアルギャップ型のものである。出力軸24は、減速機Cのインボード側のハウジング33aの筒部に2つの軸受26で片持ち支持されている。出力軸24とハウジング33a間の隙間のインボード側端は、シール部材27でシールされている。また、ハウジング22のインボード側の開口にはキャップ28が装着され、ハウジング22の周壁部には冷却媒体流路29が設けられている。冷却媒体流路29には、ポンプ等の供給駆動源(図示せず)により、油または水溶性の冷却剤等からなる冷却媒体が、循環させられる。
【0017】
減速機Cは、上記のようにサイクロイド減速機であり、図3のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板34a,34bが、それぞれ軸受35を介して入力軸32の各偏心部32a,32bに装着してある。これら各曲線板34a,34bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン36を、それぞれハウジング33bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材10に取付けた複数の内ピン38を、各曲線板34a,34bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔39に挿入状態に係合させてある。入力軸32は、モータBの出力軸24とスプライン結合されて一体に回転する。なお、入力軸32はインボード側のハウジング33aと内方部材2のインボード側材10の内径面とに2つの軸受40で両持ち支持されている。
【0018】
モータBの出力軸24が回転すると、これと一体回転する入力軸32に取付けられた各曲線板34a,34bが偏心運動を行う。この各曲線板34a,34bの偏心運動が、内ピン38と貫通孔39との係合によって、内方部材2に回転運動として伝達される。出力軸24の回転に対して内方部材2の回転は減速されたものとなる。
【0019】
前記2枚の曲線板34a,34bは、互いに偏心運動による振動が打ち消されるように180°位相をずらして入力軸32の各偏心部32a,32bに装着され、各偏心部32a,32bの両側には、各曲線板34a,34bの偏心運動によって発生する回転軸に直交する軸回りの慣性偶力よる振動を打ち消すように、各偏心部32a,32bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト41が装着されている。
【0020】
図3(B)に拡大して示すように、前記各外ピン36と内ピン38には軸受42,43が装着され、これらの軸受42,43の外輪42a,43aが、それぞれ各曲線板34a,34bの外周と各貫通孔39の内周とに転接する。したがって、外ピン36と各曲線板34a,34bの外周との接触抵抗、および内ピン38と各貫通孔39の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板34a,34bの偏心運動をスムーズに内方部材2に回転運動として伝達することができる。
【0021】
この車輪用軸受装置は、減速機Cのハウジング33bまたはモータBのハウジング22の外周部で、ナックル等の懸架装置(図示せず)を介して車体に固定される。
【0022】
図4は、コントローラ51の構成例を示す。コントローラ51は、アクセル信号に応じてモータBの駆動を制御するものであり、上記アクセル信号により生成されるモータ駆動力指令値rに応じてモータBに流す電流を生成するモータ駆動用コントローラ回路55を有している。この回路55で生成された電流がモータBに流され、モータBは回転トルクを発生する。モータ駆動用コントローラ回路55は、例えば、モータ駆動力指令値rに比例したモータ電流を生成する。
【0023】
このコントローラ51に、温度センサで測定された温度情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる温度対応モータ制御手段57が設けられている。
【0024】
温度センサ56は、図1の提案例では、モータBのハウジング22における端面部に設けられ、ステータ23の温度を測定する。
温度センサ56は、この他に、例えば図5に示すように、減速機Cのハウジング33bに設けられて減速機Cの温度を測定するものとしても良い。
また、温度センサ56は、図6のようにモータロータ25の温度を検出する輻射式の温度センサとし、モータBのハウジング22の内面に設けても良い。
さらに、温度センサ56は、これら各図の例以外の部位に配置しても良い。例えば、インホイールモータユニットUのケースとなるモータハウジング22や減速機ハウジング33a,33bの任意の箇所に設けられて、これら各ハウジング22,33a,33bの温度を検出するものであっても良い。
【0025】
図7ないし図10は、図4の温度対応モータ制御手段57の行う処理の別々の具体例をそれぞれ示す。これらの具体例は、図1,図5,図6等の各温度センサ56の配置例の場合のいずれにも適用することができる。
図7の例は、温度センサ56で検出する温度情報のうちの温度を用い、モータBの駆動電流を制限する例である。この例では、温度対応モータ制御手段57は、モータ駆動トルクを入力した後(M1)、温度センサ56により温度を検出し(M2)、検出温度が規定値以上になるか否かを判定する。検出温度が規定値未満のときは、再度の温度検出(M2
)を行う。この温度検出(M2)、判定(M3)の処理による温度の監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(M4)、モータ駆動トルクの入力ステップM1に戻る。モータ駆動トルクの入力(M1)は、例えば、図4のモータ駆動用コントローラ回路55の出力する電流の電流値等を用いて行う。また、モータBの駆動電流の減少(M4)は、モータ駆動用コントローラ回路55に対して電流低下の指令を与えることで行う。
【0026】
このように、温度センサ56で測定されたインホイールモータユニットUの温度に応じて、モータBの駆動電流を制限するため、インホイールモータユニットUの過負荷状態を温度の判断で簡易に判断できて、インホイールモータユニットUの最適な状態で車両を駆動することができる。そのため、モータBや減速機Cの信頼性が確保できる。すなわち、インホイールモータユニットUでは、モータBおよび減速機Cのコンパクト化が図られるため、過負荷の防止が課題となるが、その負荷状態を上記のように温度情報で監視することで、信頼性を高められる。過負荷状態を温度で判断するため、センサとして温度センサ56を設ければ良く、簡易な構成でできる。また、温度センサ56を図1や図6の例のようにモータBに設ける場合は、モータBの過負荷が適切に検出でき、モータBの過負荷が防止できる。温度センサ56を図5の例のように減速機Cに設ける場合は、減速機Cの過負荷を検出でき、減速機Cの過負荷を防止することができる。
なお、いずれの場合も、温度センサ56で検出した温度等の温度情報は、コントローラ51の温度対応モータ制御手段57に入力することに加えて、車両の運転室のコンソール等に伝達して表示手段(図示せず)で表示させるようにしても良い。その場合、運転者が温度情報を見て、運転者の判断に基づく運転操作で、インホイールモータユニットUの過負荷が生じない最適な状態で、車両を運転駆動することができる。
【0027】
図8の例は、温度センサ56で検出する温度情報のうちの温度の時間微分を用い、モータBの駆動電流を制限する例である。この例では、温度対応モータ制御手段57は、モータ駆動トルクを入力した後(N1)、温度センサ56により検出される温度の時間微分を検出し(N2)、時間微分が規定値以上になるか否かを判定する。検出温度が規定値未満のときは、再度の温度の時間微分検出(N2)を行う。この時間微分検出(N2)、判定(N3)の処理による温度の時間微分監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(N4)、モータ駆動トルクの入力ステップN1に戻る。
過負荷時は、正常時よりも温度上昇が急激となるため、上記のように温度変化の時間微分で判断する場合は、温度が異常高温になる前に過負荷を判断できて、迅速な過負荷の判断により、過負荷をより一層確実に防止することができる。
【0028】
図9の例は、図7の例において、温度が規制値以上の場合にモータ駆動電流を低下させる処理(M4)に代えて、モータBの速度指令を減少する処理(M4′)を設けたものである。この速度指令の減少は、例えばモータ駆動力指令値rを減少させる処理としても良い。
図10の例は、図8の例において、温度の時間微分が規制値以上の場合にモータ駆動電流を低下させる処理(N4)に代えて、モータBの速度指令を減少する処理(N4′)を設けたものである。
これら図9,図10の例のように、モータBの速度指令を減少させることによっても、モータBの過負荷を防止することができる。
【0029】
図11および図13は、他の提案例を示す。このインホイールモータ駆動装置は、図1ないし図4と共に説明した第1の提案例において、ハウジング22に設けた温度センサ56の代わりに、モータBのハウジング22に設けられた冷却媒体流路29の冷却媒体の入口温度を測定する温度センサ56Aと、出口温度を測定する温度センサ56Bとを設けたものである。冷却媒体流路29は、ハウジング22の周壁部内に、入口29aから出口29bに螺旋状に続く経路として形成され、入口29aおよび出口29bは、ハウジング22に対する外部に設けられたポンプ等の冷却媒体供給源(図示せず)に配管で接続されている。
上記入口温度は、冷却媒体流路22に注入される前の冷却媒体の温度であり、その測定用の温度センサ56Aは、冷却媒体流路22における入口29aの近傍部分、または入口29aに接続された配管に設けられる。出口温度は冷却媒体流路22から排出された後の冷却媒体の温度であり、その測定用の温度センサ56Bは、冷却媒体流路22における出口29bの近傍部分、または出口29bに接続された配管に設けられる。
【0030】
この提案例では、図4の温度対応モータ制御手段57は、各温度センサ56A,56Bで測定した入口温度,出口温度の測定結果、冷却媒体の流量、および比熱から推定されるモータの発熱量または冷却媒体による放熱量を推定し、その推定値から上記モータBの駆動電流を制限するものとされる。冷却媒体の流量は、冷却媒体流路29に接続した配管経路または冷却媒体供給源(図示せず)に設けられた流量測定手段(図示せず)から温度対応モータ制御手段57に入力される。
【0031】
図12は、温度対応モータ制御手段57の制御の具体例を示す。この例では、モータ駆動トルクを入力した後(P1)、温度センサ56A,56Bにより入口温度(注入温度)および出口温度(排出温度)を測定し、かつ上記流量測定手段により流量を測定し(P2)、各温度の測定結果、流量、および比熱からモータBの発熱量(または放熱量)を推定する(P3)。この推定した発熱量(または放熱量)が規定値以上になるか否かを判定する(P4)。推定量が規定値未満のときは、再度の温度・流量測定(P2)および発熱量(または放熱量)の推定を行う。この各測定(P2)、推定(P3)、判定(M4)の処理による発熱量(または放熱量)の推定量の監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(P5)、モータ駆動トルクの入力ステップP1に戻る。
モータBの駆動電流を減少させる処理(P5)の代わりに、図13のステップP5′のように、モータBの速度指令を減少させても良い。
【0032】
このようにモータステータ22の冷却媒体の入口温度および出口温度を測定するようにすれば、モータBの異常をより一層正確に検出することができ、より適切なモータ過負荷防止のモータ制御が行える。
【0033】
なお、図11ないし図13に示す提案例では、モータBのハウジング22に設けられた冷却媒体流路29の入口温度および出口温度を検出するようにしたが、減速機Cのハウジング33a,33bに冷却媒体流路(図示せず)を設けた場合に、この減速機Cの冷却媒体流路の入口温度および出口温度を、温度センサで検出するようにしても良い。その場合、温度対応モータ制御手段57(図4)は、各温度センサで測定した入口温度,出口温度の測定結果、冷却媒体の流量、および比熱から推定される減速機Cの発熱量または冷却媒体による放熱量を推定し、その推定値から上記モータBの駆動電流を制限するものとされる。この場合に、推定対象がモータBであるか減速機Cであるかが異なる他は、図12,図13の処理と同様な処理がなされる。
【0034】
このように減速機Cの冷却媒体の入口温度および出口温度を測定するようにすれば、減速機Cの異常をより一層正確に検出することができ、より適切な減速機負荷防止のモータ制御が行える。
【0035】
図14〜図16は、この発明一実施形態を示す。この実施形態は、振動検出によりモータ制御を行うものである。この実施形態は、図1〜図4と共に説明した第1の提案例において、温度センサ56を設ける代わりに、インホイールモータユニットUの振動を検出する振動センサ58を設ける。この振動センサで測定された振動情報に応じて
、モータBの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段59を上記コントローラ51に設ける。
振動センサ58は、この実施形態では減速機Cのハウジング33bに設置したが、その配置位置は、インホイールモータユニットUのどの部位としても良い。
【0036】
振動対応モータ制御手段59は、例えば図16に示す制御を行う。この例では、振動対応モータ制御手段59は、モータ駆動トルクを入力した後(Q1)、振動センサ59により振動レベルを検出し(Q2)、振動レベルが規定値以上になるか否かを判定する。検出温度が規定値未満のときは、再度の振動レベルの検出(Q2)を行う。この振動レベル検出(Q2)、判定(Q3)の処理による振動レベルの監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(Q4)、モータ駆動トルクの入力ステップN1に戻る。
【0037】
モータBの駆動電流を減少させる処理(Q5)の代わりに、図17のステップQ5′のように、モータBの速度指令を減少させても良い。
【0038】
インホイールモータユニットUにおけるモータBや減速機Cの過負荷が生じたときは、振動を発生する。このため、インホイールモータユニットUの振動を検出することによっても、インホイールモータユニットUのモータBや減速機Cの過負荷を検出することができる。この振動情報の判断で過負荷を検出する場合も、上記の温度情報による過負荷検出の場合と同様に、インホイールモータユニットUの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できる。
この実施形態におけるその他の構成は、図1ないし図4に示す第1の提案例と同様である。
【0039】
なお、上記実施形態および各提案例は、一つの車輪におけるインホイールモータ駆動装置について説明したが、車両の各車輪を駆動するモータに対して、上記実施形態または各提案例で述べたインホイールモータ駆動装置が適用される。
また、上記各提案例は、減速機Cがサイクロイド型である場合につき説明したが、この発明は、減速機Cを他の各種構成のものとした場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…外方部材
2…内方部材(ハブ)
5…転動体
24…出力軸
32…入力軸
32a,32b…偏心部
34a,34b…曲線板
51…コントローラ
54…アクセル
55…モータ駆動用コントローラ回路
56,56A,56B…温度センサ
57…温度対応モータ制御手段
58…振動センサ
59…振動対応モータ制御手段
A…車輪用軸受
B…モータ
C…減速機
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車に搭載されるモータ、減速機、および車輪用軸受が連結されたインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車で使用されるインホイールモータユニット形式のインホイールモータ駆動装置は、ハブベアリングと減速機、モータが連結され、モータの駆動トルクを、減速機で倍増(回転数では減速)し、ハブベアリングを介してタイヤに伝達する構成である。
この減速機には、遊星歯車を使用したものが用いられたりするが、乗り心地を確保するため、車体のばね下重量を極力軽くする構成が採られ、サイクロイド減速機が使用される(例えば、特許文献1)。またモータにおいても同様に、そのサイズは極力コンパクトに設計され、モータのパワー密度は大きくならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−258289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このようにコンパクト化を図る結果、減速機およびモータの信頼性確保が重要な課題となる。特にユニットの冷却性能は課題のひとつであり、小さなサイズ内、すなわち小さな表面積での冷却が必要となり、付随する冷却ユニットのサイズが大きくなると同時に、この冷却のための消費エネルギは大きくなってしまう。
また、コンパクトな減速機を使った場合には、異常な過大トルクの印加は極力回避したい。
【0005】
この発明の目的は、モータおよび減速機を含むインホイールモータユニットの過負荷状態を簡易に判断できて、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できるインホイールモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のインホイールモータ駆動装置は、車輪用軸受、モータ、およびこのモータと車輪用軸受との間に介在した減速機を有し、上記モータの駆動を制御するコントローラを設けたインホイールモータ駆動装置において、上記車輪用軸受、モータ、および減速機からなるインホイールモータユニットの振動を検出する振動センサを設け、この振動センサで測定された振動情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段を上記コントローラに設けても良い。
インホイールモータユニットにおけるモータや減速機の過負荷が生じたときは、振動を発生する。このため、インホイールモータユニットの振動を検出することによっても、インホイールモータユニットのモータや減速機の過負荷を検出することができる。この振動情報の判断で過負荷を検出する場合も、上記の温度情報による過負荷検出の場合と同様に、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できる。
【発明の効果】
【0007】
この発明のインホイールモータ駆動装置は、インホイールモータユニットの振動を検出する振動センサを設け、この振動センサで測定された振動情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段を上記コントローラに設けたため、インホイールモータユニットの過負荷状態を簡易に判断できて、インホイールモータユニットの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の第1の提案例にかかるインホイールモータ駆動装置の全体の構成を示す説明図である。
【図2】同インホイールモータ駆動装置の車輪用軸受、減速機、およびモータを示す破断側面図である。
【図3】(A)は図2のIII-III 線に沿う断面図、(B)は同図(A)の部分拡大断面図である。
【図4】同インホイールモータ駆動装置のコントローラの一例の概念構成とモータのブロック線図とを組み合わせて示す説明図である。
【図5】図1のインホイールモータ駆動装置につき温度センサの配置を異ならせた例の説明図である。
【図6】図1のインホイールモータ駆動装置につき温度センサの配置をさらに異ならせた例の説明図である。
【図7】第1の提案例における温度対応モータ制御手段の処理の一例を示す流れ図である。
【図8】同温度対応モータ制御手段の処理の他の例を示す流れ図である。
【図9】同温度対応モータ制御手段の処理のさらに他の例を示す流れ図である。
【図10】同温度対応モータ制御手段の処理のさらに他の例を示す流れ図である。
【図11】さらに他の提案例にかかるインホイールモータ駆動装置の全体の構成を示す説明図である。
【図12】同実施形態における温度対応モータ制御手段の処理の一例を示す流れ図である。
【図13】温度対応モータ制御手段の処理の他の例を示す流れ図である。
【図14】この発明の一実施形態にかかるインホイールモータ駆動装置の全体の構成を示す説明図である。
【図15】同インホイールモータ駆動装置のコントローラの一例の概念構成とモータのブロック線図とを組み合わせて示す説明図である。
【図16】同実施形態における振動対応モータ制御手段の処理の一例を示す流れ図である。
【図17】振動対応モータ制御手段の処理の他の例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
第1の提案例を図1ないし図4および図9と共に説明する。図1に、車両の車輪用軸受Aと電動式のモータBとの間に減速機Cを介在させ、車輪用軸受Aで支持されるハブとモータBの出力軸24とを同軸心上で連結したインホイールモータ駆動装置を示す。これら車輪用軸受A、モータB、および減速機Cは、互いに一つの組立部品としてユニット化されたインホイールモータユニットUを構成する。減速機Cは、サイクロイド減速機であって、モータBの出力軸24に同軸に連結される入力軸32に偏心部32a,32bを形成し、偏心部32a,32bにそれぞれ軸受35を介して曲線板34a,34bを装着し、曲線板34a,34bの偏心運動を車輪軸受へ回転運動として伝達する構成である。
【0010】
すなわち、減速機Cにつき、モータBの回転を曲線板34a,34bの偏心運動とし、この偏心運動を回転運動としてハブに伝達するサイクロイド減速機とすることにより、コンパクトで大きな減速比が得られる減速機Cとこの減速機Cのコンパクトな配置構造を有するインホイールモータ駆動装置である。上記サイクロイド減速機Cは、部品点数が少なくコンパクトに設計でき、1段で1/10以上の大きな減速比を得ることができる。
【0011】
モータBは、外部のコントローラ51によって駆動され、その電流源はバッテリ52によって供給される。コントローラ51は、外部のアクセル54から出力されるアクセル信号に従い、モータBの駆動電流を制御するものである。また、コントローラ51は、モータBの回転数を回転センサ53で検出し、モータBの回転制御に利用する構成である。アクセル54は、車両のアクセルペダル(図示せず)と、このアクセルペダルの踏み込み量を電気信号であるアクセル信号に変換するアクセル信号生成手段(図示せず)とで構成される。
【0012】
図2,図3は、インホイールモータ駆動装置の機械部分の具体的構成例を示す。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。車輪用軸受Aは、軸受の転走面を形成した内方部材2がハブを構成する第3世代型の内輪回転タイプのハブベアリングとされている。
【0013】
この車輪用軸受Aは、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1およびハブ2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。内方部材2は、車両の車輪を取付けるハブを兼用する。この車輪用軸受Aは、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、各転走面3,4は接触角が外向きとなるように形成されている。外方部材1とハブ2との間の軸受空間のアウトボード側端は、シール部材7でシールされている。
【0014】
外方部材1は静止側軌道輪となるものであって、減速機Cのアウトボード側のハウジング33bに取付けるフランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔14が設けられている。また、ハウジング33bには、ボルト挿通孔14に対応する位置に、内周にねじが切られたボルト螺着孔44が設けられている。ボルト挿通孔14に挿通した取付ボルト15をボルト螺着孔44に螺着させることにより、外方部材1がハウジング33bに取付けられる。
【0015】
内方部材2は、車輪取付用のハブフランジ9aを有するアウトボード側材9と、このアウトボード側材9の内周にアウトボード側が嵌合して加締めによってアウトボード側材9に一体化されたインボード側材10とでなる。これらアウトボード側材9およびインボード側材10に、前記各列の転走面4が形成されている。インボード側材10の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト16の挿入孔17が設けられている。アウトボード側材9のハブフランジ9aの根元部付近には、ホイールおよび制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。このパイロット部13の内周には、前記貫通孔11のアウトボード側端を塞ぐキャップ18が取付けられている。
【0016】
モータBは、筒状のハウジング22に固定したステータ23と出力軸24に取付けたロータ25との間にアキシアルギャップを設けたアキシアルギャップ型のものである。出力軸24は、減速機Cのインボード側のハウジング33aの筒部に2つの軸受26で片持ち支持されている。出力軸24とハウジング33a間の隙間のインボード側端は、シール部材27でシールされている。また、ハウジング22のインボード側の開口にはキャップ28が装着され、ハウジング22の周壁部には冷却媒体流路29が設けられている。冷却媒体流路29には、ポンプ等の供給駆動源(図示せず)により、油または水溶性の冷却剤等からなる冷却媒体が、循環させられる。
【0017】
減速機Cは、上記のようにサイクロイド減速機であり、図3のように外形がなだらかな波状のトロコイド曲線で形成された2枚の曲線板34a,34bが、それぞれ軸受35を介して入力軸32の各偏心部32a,32bに装着してある。これら各曲線板34a,34bの偏心運動を外周側で案内する複数の外ピン36を、それぞれハウジング33bに差し渡して設け、内方部材2のインボード側材10に取付けた複数の内ピン38を、各曲線板34a,34bの内部に設けられた複数の円形の貫通孔39に挿入状態に係合させてある。入力軸32は、モータBの出力軸24とスプライン結合されて一体に回転する。なお、入力軸32はインボード側のハウジング33aと内方部材2のインボード側材10の内径面とに2つの軸受40で両持ち支持されている。
【0018】
モータBの出力軸24が回転すると、これと一体回転する入力軸32に取付けられた各曲線板34a,34bが偏心運動を行う。この各曲線板34a,34bの偏心運動が、内ピン38と貫通孔39との係合によって、内方部材2に回転運動として伝達される。出力軸24の回転に対して内方部材2の回転は減速されたものとなる。
【0019】
前記2枚の曲線板34a,34bは、互いに偏心運動による振動が打ち消されるように180°位相をずらして入力軸32の各偏心部32a,32bに装着され、各偏心部32a,32bの両側には、各曲線板34a,34bの偏心運動によって発生する回転軸に直交する軸回りの慣性偶力よる振動を打ち消すように、各偏心部32a,32bの偏心方向と逆方向へ偏心させたカウンターウエイト41が装着されている。
【0020】
図3(B)に拡大して示すように、前記各外ピン36と内ピン38には軸受42,43が装着され、これらの軸受42,43の外輪42a,43aが、それぞれ各曲線板34a,34bの外周と各貫通孔39の内周とに転接する。したがって、外ピン36と各曲線板34a,34bの外周との接触抵抗、および内ピン38と各貫通孔39の内周との接触抵抗を低減し、各曲線板34a,34bの偏心運動をスムーズに内方部材2に回転運動として伝達することができる。
【0021】
この車輪用軸受装置は、減速機Cのハウジング33bまたはモータBのハウジング22の外周部で、ナックル等の懸架装置(図示せず)を介して車体に固定される。
【0022】
図4は、コントローラ51の構成例を示す。コントローラ51は、アクセル信号に応じてモータBの駆動を制御するものであり、上記アクセル信号により生成されるモータ駆動力指令値rに応じてモータBに流す電流を生成するモータ駆動用コントローラ回路55を有している。この回路55で生成された電流がモータBに流され、モータBは回転トルクを発生する。モータ駆動用コントローラ回路55は、例えば、モータ駆動力指令値rに比例したモータ電流を生成する。
【0023】
このコントローラ51に、温度センサで測定された温度情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる温度対応モータ制御手段57が設けられている。
【0024】
温度センサ56は、図1の提案例では、モータBのハウジング22における端面部に設けられ、ステータ23の温度を測定する。
温度センサ56は、この他に、例えば図5に示すように、減速機Cのハウジング33bに設けられて減速機Cの温度を測定するものとしても良い。
また、温度センサ56は、図6のようにモータロータ25の温度を検出する輻射式の温度センサとし、モータBのハウジング22の内面に設けても良い。
さらに、温度センサ56は、これら各図の例以外の部位に配置しても良い。例えば、インホイールモータユニットUのケースとなるモータハウジング22や減速機ハウジング33a,33bの任意の箇所に設けられて、これら各ハウジング22,33a,33bの温度を検出するものであっても良い。
【0025】
図7ないし図10は、図4の温度対応モータ制御手段57の行う処理の別々の具体例をそれぞれ示す。これらの具体例は、図1,図5,図6等の各温度センサ56の配置例の場合のいずれにも適用することができる。
図7の例は、温度センサ56で検出する温度情報のうちの温度を用い、モータBの駆動電流を制限する例である。この例では、温度対応モータ制御手段57は、モータ駆動トルクを入力した後(M1)、温度センサ56により温度を検出し(M2)、検出温度が規定値以上になるか否かを判定する。検出温度が規定値未満のときは、再度の温度検出(M2
)を行う。この温度検出(M2)、判定(M3)の処理による温度の監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(M4)、モータ駆動トルクの入力ステップM1に戻る。モータ駆動トルクの入力(M1)は、例えば、図4のモータ駆動用コントローラ回路55の出力する電流の電流値等を用いて行う。また、モータBの駆動電流の減少(M4)は、モータ駆動用コントローラ回路55に対して電流低下の指令を与えることで行う。
【0026】
このように、温度センサ56で測定されたインホイールモータユニットUの温度に応じて、モータBの駆動電流を制限するため、インホイールモータユニットUの過負荷状態を温度の判断で簡易に判断できて、インホイールモータユニットUの最適な状態で車両を駆動することができる。そのため、モータBや減速機Cの信頼性が確保できる。すなわち、インホイールモータユニットUでは、モータBおよび減速機Cのコンパクト化が図られるため、過負荷の防止が課題となるが、その負荷状態を上記のように温度情報で監視することで、信頼性を高められる。過負荷状態を温度で判断するため、センサとして温度センサ56を設ければ良く、簡易な構成でできる。また、温度センサ56を図1や図6の例のようにモータBに設ける場合は、モータBの過負荷が適切に検出でき、モータBの過負荷が防止できる。温度センサ56を図5の例のように減速機Cに設ける場合は、減速機Cの過負荷を検出でき、減速機Cの過負荷を防止することができる。
なお、いずれの場合も、温度センサ56で検出した温度等の温度情報は、コントローラ51の温度対応モータ制御手段57に入力することに加えて、車両の運転室のコンソール等に伝達して表示手段(図示せず)で表示させるようにしても良い。その場合、運転者が温度情報を見て、運転者の判断に基づく運転操作で、インホイールモータユニットUの過負荷が生じない最適な状態で、車両を運転駆動することができる。
【0027】
図8の例は、温度センサ56で検出する温度情報のうちの温度の時間微分を用い、モータBの駆動電流を制限する例である。この例では、温度対応モータ制御手段57は、モータ駆動トルクを入力した後(N1)、温度センサ56により検出される温度の時間微分を検出し(N2)、時間微分が規定値以上になるか否かを判定する。検出温度が規定値未満のときは、再度の温度の時間微分検出(N2)を行う。この時間微分検出(N2)、判定(N3)の処理による温度の時間微分監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(N4)、モータ駆動トルクの入力ステップN1に戻る。
過負荷時は、正常時よりも温度上昇が急激となるため、上記のように温度変化の時間微分で判断する場合は、温度が異常高温になる前に過負荷を判断できて、迅速な過負荷の判断により、過負荷をより一層確実に防止することができる。
【0028】
図9の例は、図7の例において、温度が規制値以上の場合にモータ駆動電流を低下させる処理(M4)に代えて、モータBの速度指令を減少する処理(M4′)を設けたものである。この速度指令の減少は、例えばモータ駆動力指令値rを減少させる処理としても良い。
図10の例は、図8の例において、温度の時間微分が規制値以上の場合にモータ駆動電流を低下させる処理(N4)に代えて、モータBの速度指令を減少する処理(N4′)を設けたものである。
これら図9,図10の例のように、モータBの速度指令を減少させることによっても、モータBの過負荷を防止することができる。
【0029】
図11および図13は、他の提案例を示す。このインホイールモータ駆動装置は、図1ないし図4と共に説明した第1の提案例において、ハウジング22に設けた温度センサ56の代わりに、モータBのハウジング22に設けられた冷却媒体流路29の冷却媒体の入口温度を測定する温度センサ56Aと、出口温度を測定する温度センサ56Bとを設けたものである。冷却媒体流路29は、ハウジング22の周壁部内に、入口29aから出口29bに螺旋状に続く経路として形成され、入口29aおよび出口29bは、ハウジング22に対する外部に設けられたポンプ等の冷却媒体供給源(図示せず)に配管で接続されている。
上記入口温度は、冷却媒体流路22に注入される前の冷却媒体の温度であり、その測定用の温度センサ56Aは、冷却媒体流路22における入口29aの近傍部分、または入口29aに接続された配管に設けられる。出口温度は冷却媒体流路22から排出された後の冷却媒体の温度であり、その測定用の温度センサ56Bは、冷却媒体流路22における出口29bの近傍部分、または出口29bに接続された配管に設けられる。
【0030】
この提案例では、図4の温度対応モータ制御手段57は、各温度センサ56A,56Bで測定した入口温度,出口温度の測定結果、冷却媒体の流量、および比熱から推定されるモータの発熱量または冷却媒体による放熱量を推定し、その推定値から上記モータBの駆動電流を制限するものとされる。冷却媒体の流量は、冷却媒体流路29に接続した配管経路または冷却媒体供給源(図示せず)に設けられた流量測定手段(図示せず)から温度対応モータ制御手段57に入力される。
【0031】
図12は、温度対応モータ制御手段57の制御の具体例を示す。この例では、モータ駆動トルクを入力した後(P1)、温度センサ56A,56Bにより入口温度(注入温度)および出口温度(排出温度)を測定し、かつ上記流量測定手段により流量を測定し(P2)、各温度の測定結果、流量、および比熱からモータBの発熱量(または放熱量)を推定する(P3)。この推定した発熱量(または放熱量)が規定値以上になるか否かを判定する(P4)。推定量が規定値未満のときは、再度の温度・流量測定(P2)および発熱量(または放熱量)の推定を行う。この各測定(P2)、推定(P3)、判定(M4)の処理による発熱量(または放熱量)の推定量の監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(P5)、モータ駆動トルクの入力ステップP1に戻る。
モータBの駆動電流を減少させる処理(P5)の代わりに、図13のステップP5′のように、モータBの速度指令を減少させても良い。
【0032】
このようにモータステータ22の冷却媒体の入口温度および出口温度を測定するようにすれば、モータBの異常をより一層正確に検出することができ、より適切なモータ過負荷防止のモータ制御が行える。
【0033】
なお、図11ないし図13に示す提案例では、モータBのハウジング22に設けられた冷却媒体流路29の入口温度および出口温度を検出するようにしたが、減速機Cのハウジング33a,33bに冷却媒体流路(図示せず)を設けた場合に、この減速機Cの冷却媒体流路の入口温度および出口温度を、温度センサで検出するようにしても良い。その場合、温度対応モータ制御手段57(図4)は、各温度センサで測定した入口温度,出口温度の測定結果、冷却媒体の流量、および比熱から推定される減速機Cの発熱量または冷却媒体による放熱量を推定し、その推定値から上記モータBの駆動電流を制限するものとされる。この場合に、推定対象がモータBであるか減速機Cであるかが異なる他は、図12,図13の処理と同様な処理がなされる。
【0034】
このように減速機Cの冷却媒体の入口温度および出口温度を測定するようにすれば、減速機Cの異常をより一層正確に検出することができ、より適切な減速機負荷防止のモータ制御が行える。
【0035】
図14〜図16は、この発明一実施形態を示す。この実施形態は、振動検出によりモータ制御を行うものである。この実施形態は、図1〜図4と共に説明した第1の提案例において、温度センサ56を設ける代わりに、インホイールモータユニットUの振動を検出する振動センサ58を設ける。この振動センサで測定された振動情報に応じて
、モータBの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段59を上記コントローラ51に設ける。
振動センサ58は、この実施形態では減速機Cのハウジング33bに設置したが、その配置位置は、インホイールモータユニットUのどの部位としても良い。
【0036】
振動対応モータ制御手段59は、例えば図16に示す制御を行う。この例では、振動対応モータ制御手段59は、モータ駆動トルクを入力した後(Q1)、振動センサ59により振動レベルを検出し(Q2)、振動レベルが規定値以上になるか否かを判定する。検出温度が規定値未満のときは、再度の振動レベルの検出(Q2)を行う。この振動レベル検出(Q2)、判定(Q3)の処理による振動レベルの監視を繰り返し、規定値以上になると、モータBの駆動電流を減少させ(Q4)、モータ駆動トルクの入力ステップN1に戻る。
【0037】
モータBの駆動電流を減少させる処理(Q5)の代わりに、図17のステップQ5′のように、モータBの速度指令を減少させても良い。
【0038】
インホイールモータユニットUにおけるモータBや減速機Cの過負荷が生じたときは、振動を発生する。このため、インホイールモータユニットUの振動を検出することによっても、インホイールモータユニットUのモータBや減速機Cの過負荷を検出することができる。この振動情報の判断で過負荷を検出する場合も、上記の温度情報による過負荷検出の場合と同様に、インホイールモータユニットUの最適な状態で車両を駆動することができ、モータや減速機の信頼性が確保できる。
この実施形態におけるその他の構成は、図1ないし図4に示す第1の提案例と同様である。
【0039】
なお、上記実施形態および各提案例は、一つの車輪におけるインホイールモータ駆動装置について説明したが、車両の各車輪を駆動するモータに対して、上記実施形態または各提案例で述べたインホイールモータ駆動装置が適用される。
また、上記各提案例は、減速機Cがサイクロイド型である場合につき説明したが、この発明は、減速機Cを他の各種構成のものとした場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…外方部材
2…内方部材(ハブ)
5…転動体
24…出力軸
32…入力軸
32a,32b…偏心部
34a,34b…曲線板
51…コントローラ
54…アクセル
55…モータ駆動用コントローラ回路
56,56A,56B…温度センサ
57…温度対応モータ制御手段
58…振動センサ
59…振動対応モータ制御手段
A…車輪用軸受
B…モータ
C…減速機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪用軸受、モータ、およびこのモータと上記車輪用軸受との間に介在した減速機を有し、上記モータの駆動を制御するコントローラを設けたインホイールモータ駆動装置において、上記車輪用軸受、モータ、および減速機からなるインホイールモータユニットの振動を検出する振動センサを設け、この振動センサで測定された振動情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段を上記コントローラに設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項1】
車輪用軸受、モータ、およびこのモータと上記車輪用軸受との間に介在した減速機を有し、上記モータの駆動を制御するコントローラを設けたインホイールモータ駆動装置において、上記車輪用軸受、モータ、および減速機からなるインホイールモータユニットの振動を検出する振動センサを設け、この振動センサで測定された振動情報に応じて、上記モータの駆動電流を制限し、またはモータ回転数を低下させる振動対応モータ制御手段を上記コントローラに設けたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−178973(P2012−178973A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83492(P2012−83492)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2007−3998(P2007−3998)の分割
【原出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2007−3998(P2007−3998)の分割
【原出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]