説明

ウェーハ用洗浄剤

【課題】油性汚染物質と無機汚染物質とを簡便に効率よく洗浄でき、火気安全性と環境保全性とに優れた簡易な組成のウェーハ用洗浄剤を提供する。
【解決手段】ウェーハ用洗浄剤は、引火点を90〜150℃とする飽和又は不飽和の炭化水素の5〜25重量%と、
-O-(-C2p-O-)-H(式中、R-は炭素数6〜10のアルキル基、pは2〜3の数、qは1〜2の数を示す。)で表わされるグリコールのモノエーテルの5〜65重量%と、
-O-(-R-O-)-H(式中、R-は炭素数8〜18のアルキル基、又は炭素数8〜18のアルケニル基、-R-は炭素数2〜3のアルキレン基、rは4〜20の数を示す。)で表わされるポリオキシアルキレンのモノエーテルの5〜30重量%と、
水の5〜25重量%とからなり、40℃における動粘度が10mm/S以下のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハを切出してから洗浄する際に使用される洗浄剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等に用いられるシリコンウェーハ、発振器・フィルタ等に用いられる水晶ウェーハ、太陽電池等に用いられるIII・V族化合物半導体やII・VI族化合物半導体のウェーハ、磁気抵抗ヘッド等に用いられるセラミックスウェーハは、電子部品の重要な材料である。
【0003】
このようなウェーハは、高純度のシリコンの単結晶を円柱状に成長させたインゴット、水晶や化合物半導体やセラミックスの柱状体を、高速走行する細線のワイヤソーに押し付け、そこに砥粒と切削油とが含まれたスラリーを注ぎながら、薄く円板状に切出すことによって、製造される。
【0004】
切出された直後のウェーハの表面には、スラリー中の砥粒や切削油、切り粉のような汚染物質が、多く付着している。このような汚染物質がウェーハに僅かでも付着したままであると、半導体デバイス等の電気特性のような物性に著しい悪影響をもたらす。そこで、ウェーハ表面の汚染物質は、洗浄剤を用いて、洗浄して除去される。
【0005】
このような洗浄剤として、切削油等の油性汚染物質を洗浄する灯油と、砥粒や切り粉等の無機汚染物質を洗浄するアルカリ洗浄剤とが、汎用されている。この洗浄剤による洗浄方法は、灯油で洗浄後、アルカリ洗浄剤で洗浄し、水で濯ぐというもので、煩雑である。しかも、灯油が、引火性であって危険なうえ、洗浄後に発生するアルカリ廃液や灯油廃液の廃棄処理が、面倒である。一方、特許文献1に、炭化水素と、アルキレンオキサイドのモノアルキルエーテル化合物と、アルキレンオキサイドのジアルキルエーテル化合物と、非イオン性界面活性剤と、水とを含有するウェーハ洗浄剤組成物が開示されている。
【0006】
従来のウェーハ用洗浄剤よりも一層簡便な組成で、油性汚染物質と無機汚染物質との洗浄効果が一層優れた洗浄剤が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−223679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、油性汚染物質と無機汚染物質とを簡便に効率よく洗浄でき、火気安全性と環境保全性とに優れた簡易な組成のウェーハ用洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のウェーハ用洗浄剤は、引火点を90〜150℃とする飽和又は不飽和の炭化水素の5〜25重量%と、
下記化学式(1)
-O-(-C2p-O-)-H ・・・(1)
(式(1)中、R-は炭素数6〜10のアルキル基、pは2〜3の数、qは1〜2の数を示す。)で表わされるグリコールのモノエーテルの5〜65重量%と、
下記化学式(2)
-O-(-R-O-)-H ・・・(2)
(式(2)中、R-は炭素数8〜18のアルキル基、又は炭素数8〜18のアルケニル基、-R-は炭素数2〜3のアルキレン基、rは4〜20の数を示す。)で表わされるポリオキシアルキレンのモノエーテルの5〜30重量%と、
水の5〜25重量%とからなり、
40℃における動粘度が10mm/S以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のウェーハ用洗浄剤は、請求項1に記載されたもので、前記炭化水素が、炭素数10〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素、脂環若しくは芳香環を有する環含有炭化水素であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のウェーハの洗浄方法は、請求項1に記載のウェーハ用洗浄剤に、洗浄すべきウェーハを浸した後、該ウェーハを水で濯ぐことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のウェーハ用洗浄剤は、ウェーハ表面に付着した切削油のような油性汚染物質と、砥粒や切り粉のような粒子状の無機汚染物質との除去洗浄性に優れている。そのため、僅かな量を用いるだけで、汚染物質を除去・洗浄できる。
【0013】
また、ウェーハ用洗浄剤は、灯油のように引火点が比較的低い可燃性成分を含んでいないから、引火の危険がなく、安全である。しかも、簡易な組成であるので、生産性が高く、安価である。
【0014】
このウェーハ用洗浄剤を用いた洗浄方法によれば、ウェーハの電気特性等の物性に悪影響を及ぼしたりその表面を傷つけたりすることなく、油性汚染物質や無機汚染物質を簡便かつ確実に効率良く、洗浄・除去できる。しかも、この洗浄剤が簡易な組成であるので、それの廃液処理が簡便で済む。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明のウェーハ用洗浄剤の好ましい一例は、引火点100℃の炭化水素であるn−テトラデカンの20重量%と、グリコールのモノエーテルであるエチレングリコールモノオクチルエーテルの50重量%と、ポリオキシアルキレンのモノエーテルであるポリオキシエチレンラウリルエーテルの20重量%と、水10重量%とを20〜40℃で均一に混合したものである。
【0017】
なお、ウェーハ用洗浄剤中、炭化水素は、飽和又は不飽和で炭素数10〜18の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素であることが好ましく、例えば、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカンのような直鎖状飽和脂肪族炭化水素、それらの異性体である分岐鎖状飽和脂肪族炭化水素;1−ウンデセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセンのような直鎖状不飽和脂肪族炭化水素、それらの異性体である分岐鎖状不飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。
【0018】
炭化水素は、シクロデカンのような脂環含有飽和炭化水素、シクロドデセンのような脂環含有不飽和炭化水素、それらの異性体である脂環含有の炭化水素であってもよく、アルキルベンゼンやアルキルナフタレンのような芳香環含有炭化水素であってもよい。
【0019】
グリコールのモノエーテルは、前記式(1)を満たすものであればよく、例えばエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘプチルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノノニルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノノニルエーテル、ジエチレングリコールモノデシルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノヘプチルエーテル、プロピレングリコールモノオクチルエーテル、プロピレングリコールモノノニルエーテル、プロピレングリコールモノデシルエーテルであってもよい。
【0020】
ポリオキシアルキレンのモノエーテルは、前記式(2)を満たす非イオン界面活性剤であればよく、例えばポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンパルミチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルであってもよい。
【0021】
水は、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水、逆浸透膜処理水(RO水)のいずれであってもよい。
【0022】
ウェーハ用洗浄剤は、炭化水素の5〜25重量%と、グリコールのモノエーテルの5〜65重量%と、ポリオキシアルキレンのモノエーテルの5〜30重量%と、水の5〜25重量%のみからなることが好ましいが、この洗浄成分以外に、その洗浄効果を損なわない範囲で、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。ウェーハ用洗浄剤は、その洗浄成分がこの範囲から外れると、油性汚染物質と無機汚染物質との洗浄効果が不十分となってしまう。
【0023】
ウェーハ用洗浄剤は、40℃における動粘度が10mm/S以下である。これを上回ると、粘度が高すぎて、油性汚染物質と無機汚染物質との洗浄性能が低下してしまう。
【0024】
次に本発明のウェーハの洗浄方法について、詳細に説明する。
【0025】
ワイヤソーで切出された薄い円板状のウェーハを、ウェーハ用洗浄剤に浸けた後、ウェーハを取り出して、水で濯ぐと、油性汚染物質と無機汚染物質とが洗浄・除去された清浄なウェーハが得られる。
【0026】
その水は、ウェーハ用洗浄剤に用いられるものと同様なものが好ましい。ウェーハは、ウェーハ用洗浄剤に、浸漬させたまま静置して洗浄されてもよく、浸漬後に超音波照射されながら洗浄されてもよく、ウェーハ用洗浄剤を噴霧して洗浄されてもよい。
【実施例】
【0027】
本発明を適用するウェーハ用洗浄剤を調製しウェーハ洗浄を行った実施例を、調製実施例1〜6に示す。
【0028】
(調製実施例1)
引火点136℃であるn−ヘキサデカンの20重量%と、エチレングリコールモノヘキシルエーテルの50重量%と、親水親油バランス(HLB)13であるポリオキシエチレンラウリルエーテルの20重量%と、水10重量%とを、20〜40℃で均一に混合し、ウェーハ用洗浄剤を得た。
【0029】
(調製実施例2〜6)
表1に示した成分としたこと以外は調製実施例1と同様にして、ウェーハ用洗浄剤を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
(動粘度測定)
調製実施例1〜6で得られたウェーハ用洗浄剤の40℃における動粘度を、JIS K2283に準じて粘度計により測定し算出した。測定結果を表1に示す。
【0032】
(ウェーハ洗浄試験)
まず、清浄なシリコンウェーハをスラリーに浸漬した。次いでシリコンウェーハをスラリーから引き上げて5分間室内に吊るして乾燥し、スラリーで汚染した汚染シリコンウェーハを調製した。
【0033】
調製実施例1〜6で得られた各ウェーハ用洗浄剤に前記汚染シリコンウェーハを浸漬し、室温で1分間超音波処理を施してシリコンウェーハを洗浄した。1分後、洗浄剤からシリコンウェーハを取り出して水に浸漬し、室温で1分間超音波処理を施してシリコンウェーハを水洗した。1分後、水からシリコンウェーハを取り出してその表面を流水でリンスし、洗浄を完了した。
【0034】
洗浄後のシリコンウェーハの表面を目視で観察した。スラリーが全く認められず極めてきれいに洗浄されているものを◎、スラリーがほとんど認められずきれいに洗浄されているものを○、スラリーや洗浄剤がはっきり認められきれいに洗浄し得なかったものを×とする三段階で評価した。その結果を表1に示す。
【0035】
表1から明らかなように、調製実施例のウェーハ用洗浄剤は、優れたスラリー洗浄除去性能を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のウェーハ用洗浄剤は、シリコンウェーハ、水晶ウェーハ、化合物半導体ウェーハ、セラミックスウェーハ等の各種ウェーハを、インゴット等の原材からワイヤソーで切出した後、洗浄する際に、用いられる。
【0037】
この洗浄剤で洗浄されたウェーハは、油性汚染物質や無機汚染物質が完全に洗浄・除去されているから、半導体デバイス、発振器・フィルタ、太陽電池、磁気抵抗ヘッド等の電子部品の材料として、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点を90〜150℃とする飽和又は不飽和の炭化水素の5〜25重量%と、
下記化学式(1)
-O-(-C2p-O-)-H ・・・(1)
(式(1)中、R-は炭素数6〜10のアルキル基、pは2〜3の数、qは1〜2の数を示す。)で表わされるグリコールのモノエーテルの5〜65重量%と、
下記化学式(2)
-O-(-R-O-)-H ・・・(2)
(式(2)中、R-は炭素数8〜18のアルキル基、又は炭素数8〜18のアルケニル基、-R-は炭素数2〜3のアルキレン基、rは4〜20の数を示す。)で表わされるポリオキシアルキレンのモノエーテルの5〜30重量%と、
水の5〜25重量%とからなり、
40℃における動粘度が10mm/S以下であることを特徴とするウェーハ用洗浄剤。
【請求項2】
前記炭化水素が、炭素数10〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素、脂環若しくは芳香環を有する環含有炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載のウェーハ用洗浄剤。
【請求項3】
請求項1に記載のウェーハ用洗浄剤に、洗浄すべきウェーハを浸した後、該ウェーハを水で濯ぐことを特徴とするウェーハの洗浄方法。

【公開番号】特開2008−235675(P2008−235675A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74818(P2007−74818)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】