説明

ウォータポンプのインペラ軸受構造及び電動ウォータポンプ

【課題】キャビテーション壊食の発生を防止すると共に、粒径数μ〜20μmの砂等が冷却水に混入した場合でもスラリー摩耗を防止し、摺動面の摩耗が抑制された長寿命のウォータポンプのインペラ軸受構造と、かかる軸受構造を用いた信頼性の高い電動ウォータポンプとを提供する。
【解決手段】シャフト27の外周面及びすべり軸受35、36の摺動面を構成する金属表面に、アルミニウムが拡散浸透することによって、アルミナ層B1と金属基材Cの間に、表面からの距離が増すにつれてアルミニウムの濃度が徐々に少なくなるアルミニウム拡散層B2が形成されることから、アルミナ層B1と金属基材Cとの密着力が大幅に向上する。又、拡散浸透法によって得られたアルミナ層B1は表面硬度が高く、例えば、溶射法による被膜よりも亀裂や気孔が少なく、摺動面のスラリー摩耗とキャビテーション壊食を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォータポンプのインペラ軸受構造及び電動ウォータポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、広く普及したハイブリッド車や、実用段階に入った電気自動車では、インバータ、モータ等の電動機器に冷却水を強制循環させるために、電動ウォータポンプが使用されている。この電動ウォータポンプには、シャフトの外周面と、そのシャフトに回転自在に支持される回転体の摺動面との間に隙間を設け、その隙間に冷却水を流通させることによって外周面及び摺動面の冷却や潤滑を実施するものがある。
【0003】
又、車載用の電動ウォータポンプとしては、図7に示されるような、インナーロータ型ブラシレス直流モータを用いた形式のものが開発されている。この電動ウォータポンプは、本出願人によって出願されたものであり、ポンプケース2とケーシング3により筐体を構成し、センサー付きステータ組立体14をケーシング3の側壁部8とキャン21の間に樹脂封止したいわゆるキャンド構造を有している。このキャンド構造は、キャン21とケーシング3の間に第1の弾性密封材47を圧縮状態で水密に配置し、ポンプケース2とケーシング3の間にキャン21と第2の弾性密封材48を水密状態に配置し、ポンプケース2とケーシング3を固着している。そして、インペラ41の回転によって、図8にも示される電動ポンプの入口53から導入された冷却水は、出口54から吐出される。これらの入口53及び出口54は、例えば自動車のエンジン冷却用ラジエターのジャケットに接続されることで、冷却水を循環させることができる。
又、図7、図8に示される、インペラ41を回転させるインナーロータ型ブラシレス直流モータのすべり軸受35、36は、冷却水中に浸積されたとき、潤滑効果を発揮する水中セラミック軸受であり、窒化ケイ素(Si34)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al23)、米ぬかセラミックの内のいずれか1つで円筒形に構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、ハイブリッド車等に搭載されるウォータポンプとして、支持シャフトと、支持シャフトに回転自在に支持されたポンプシャフトとを備えるウォータポンプが発明されている。支持シャフトは、ポンプシャフトの回転時、ポンプシャフトと摺動する外周面を有する。ポンプシャフトと支持シャフトの外周面との間には、ポンプシャフトの回転時に冷却水が流通する隙間が形成され、外周面には、摺動面が摩耗することを抑制するためにダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングが施されている(例えば、特許文献2参照)。
又、上記ウォータポンプに使用可能な、無潤滑滑り軸受用組み合わせ摺動部材として、回転軸スリーブ側摺動部材を、網目状炭素繊維材料を回転軸方向に積層成型させ、摺動面において炭素繊維端面が露出した低熱膨張係数の筒形網目状炭素繊維強化炭素系積層複合材とし、固定軸受側摺動部材の摺動面にセラミックス溶射被膜を用いることにより、水中、土砂等スラリー中に加えて、断続的な無潤滑条件下における摺動を可能とする回転機械用滑り軸受摺動部材の組み合わせが開示されている。セラミックス溶射としては、アルミナ溶射、ジルコニア溶射、クロミア溶射が挙げられている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−282371号公報
【特許文献2】特開2007−211691号公報
【特許文献3】特開2006−170239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、上記特許文献1、2記載の発明における超硬合金やセラミックス等を素材として用いた滑り軸受は、高硬度、高耐食性を有するが、破壊靱性が低いため、一旦微細な亀裂が入ると脆性破壊を起こしやすく、又、急激な温度変化による熱衝撃破壊にも弱いという難点がある。
一方、上記特許文献3記載の発明のごときセラミックス溶射被膜は、金属基材に直接溶射した場合は密着力が弱く、溶射層の剥離が起きる場合がある。又、溶射被膜はコストが高いという難点もある。
【0007】
更に、電動ウォータポンプにおいては、ポンプ内を流れる冷却水の流速の相違によってキャビテーションの問題が発生する場合がある。キャビテーションが発生すると、気泡が短時間で発生と消滅を繰り返すが、気泡が小さくなる過程で、部材の表面近くの泡は表面に激突して分裂する。このときの圧力波によって部材表面にキャビテーション壊食(キャビテーションエロージョン)が生じる。シャフトと軸受の間に設けられた隙間にも気泡を含む冷却水が流入するため、キャビテーション壊食によって摺動面の摩耗が進むおそれがある。
又、不適切なメンテナンスによって冷却水に粒径数μ〜20μmの砂等の固体粒子(SiO2粒子など)が混入し、それらの固体粒子が摺動面に衝突して、スラリー摩耗による摺動面の摩耗が進むおそれがある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、キャビテーション壊食の発生を防止すると共に、粒径数μ〜20μmの砂等が冷却水に混入した場合でもスラリー摩耗を防止し、摺動面の摩耗が抑制された長寿命のウォータポンプのインペラ軸受構造と、かかる軸受構造を用いた信頼性の高い電動ウォータポンプとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0010】
(1)金属製のシャフトと、該シャフトの外周面に対し流体が流れ込む間隙を置いて対向する摺動面を有する金属製のすべり軸受とを備え、前記シャフトの外周面及び前記すべり軸受の摺動面の少なくとも一方に、アルミナ層とアルミニウム拡散層とからなる耐摩耗性被膜が形成されているウォータポンプのインペラ軸受構造(請求項1)。
本項に記載のウォータポンプのインペラ軸受構造は、シャフトの外周面及びすべり軸受の摺動面の少なくとも一方に形成された、アルミナ層とアルミニウム拡散層とからなる耐摩耗性被膜により、かかる摺動面のスラリー磨耗とキャビテーション壊食とを何れも抑制するものである。
【0011】
(2)上記(1)項において、前記耐摩耗性被膜は、前記シャフトの外周面又は前記すべり軸受の摺動面を構成する金属表面に、アルミニウムが拡散浸透することによって構成されているウォータポンプのインペラ軸受構造(請求項2)。
本項に記載のウォータポンプのインペラ軸受構造は、シャフトの外周面又はすべり軸受の摺動面を構成する金属表面に、アルミニウムが拡散浸透することによって、アルミナ層と金属基材の間に、表面からの距離が増すにつれてアルミニウムの濃度が徐々に少なくなるアルミニウム拡散層が形成されることから、アルミナ層と基材との密着力が大幅に向上する。又、拡散浸透法によって得られたアルミナ層は表面硬度が高く、例えば、溶射法による被膜よりも亀裂や気孔が少なく、摺動面のスラリー摩耗とキャビテーション壊食を効果的に抑制することができる。
【0012】
(3)冷却水を循環させるための車載用のウォータポンプであって、上記(1)又は(2)項記載のインペラ軸受構造を備える電動ウォータポンプ(請求項3)。
本項に記載の電動ウォータポンプは、ウォータポンプのインペラ軸受構造の、シャフトの外周面及びすべり軸受の摺動面の少なくとも一方に形成された、アルミナ層とアルミニウム拡散層とからなる耐摩耗性被膜により、かかる摺動面のスラリー磨耗とキャビテーション壊食とを何れも抑制するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明はこのように構成したので、キャビテーション壊食の発生を防止すると共に、粒径数μ〜20μmの砂等が冷却水に混入した場合でもスラリー摩耗を防止し、摺動面の摩耗が抑制された長寿命のウォータポンプのインペラ軸受構造と、かかる軸受構造を用いた信頼性の高い電動ウォータポンプとを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るウォータポンプのインペラ軸受構造を模式的に示す断面図である。
【図2】スラリー摩耗試験に用いられる噴流型試験機を示す模式図である。
【図3】キャビテーション壊食試験に用いられるキャビテーション壊食試験機を示す模式図である。
【図4】スラリー摩耗試験及びキャビテーション壊食試験に供された試験片を一覧にまとめた図表である。
【図5】図4に挙げられた試験片のスラリー摩耗試験結果を示すグラフである。
【図6】図4に挙げられた試験片のキャビテーション壊食試験結果を示すグラフである。
【図7】従来のウォータポンプの部分断面図である。
【図8】図7に示される従来のウォータポンプの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る電動ウォータポンプは、その基本構造を図7、図8に示される従来の電動ウォータポンプと同じくするものであり、センサーとパワー回路を駆使することにより、ステータ磁極の内側で、永久磁石を備えたロータが回転するインナーロータ型式のブラシレス直流(DC)モータを用いるものである。ブラシレス(整流子無し)なので、ブラシ摩耗及び機械損が無くなり、ブラシ粉等の異物の混入を防止でき、従来のブラシが発生する電気的ノイズ及び音響ノイズの発生を回避し、ブラシの摩耗による接触不良を無くしたので、メンテナンス等の作業が容易になる。さらには、ブラシのスペースを省略することができる。
【0016】
又、インナーロータ型なので、アウターロータ型に比べ、冷却水等の流体中で使用する場合、流体との接触面積が比較的小さくなり水損が小さくなり、回転むらが発生しにくく、バランスの良い回転特性を得ることができる。
【0017】
さらに、ブラシレスDCモータなので、永久磁石を設けたロータの回転角を検知するセンサーを組み込み、位置情報によってバイポーラ駆動等により制御するので、DCモータの望ましい特性、即ち、低速から高速までの広い速度範囲を自由自在に変化でき、ノイズ等の発生が抑えられ、しかも制御が容易となる。具体的構造は、以下の通りである。
【0018】
ポンプ筐体は、フランジ部1a、1bで締め付け固定されるように、フランジ部1a、1bで2分割されたポンプケース2とケーシング3からなる。
【0019】
ポンプケース2は、流体を吸い込むためにホース(図示省略)と嵌合する略筒状の入口ノズル部4と、各インペラ41の一端を連結するインペラカバー5に対し隙間を介して対抗する略円環状のインペラカバー覆部6と、前記インペラカバー覆部6の外周に連なり、環状の流路の略半分を形成する環状流路部7と、環状流路部7に連なる出口ノズル部(図示省略)と、前記環状流路部7の外周に連なる環状のフランジ部1aとから構成される。
【0020】
ケーシング3は、環状のフランジ部1bと、フランジ部1bに連設する円筒状の側壁部8と、側壁部8に対して底を構成する環状の底板部9と、底板部9から円錐形に膨出する軸受部10とから構成される。底板部9のケーシング内面側には環状に凸部11が設けられる。軸受部10の凹溝12は、シャフト27を片持ちするために、シャフト27の比較的長い支持軸部13を嵌合固定する。このようにシャフト27を片持ち支持構造としたので、従来のようにポンプケースの入口ノズル部にもう一方の軸受部を設ける必要性を無くし、流体の流線をなめらかにし、ポンプ効率を向上することができる。
【0021】
センサー付ステータ組立体14については、種々の製造方法があるが、例えば、ステータ組立体19と、センサー組立体20を図示のように組立て、冷たいアルミダイカスト製のケーシング3及びキャン21中に配置した後、樹脂をホットメルト(熱した状態で)でポッティングして封止する。このとき、ケーシング3に樹脂の注入口を設けておく。アルミダイカスト製のケーシング3及びキャン21は熱伝導率が良いので放熱が早く、つまり常に冷たい状態に保つことができるので、従来のように樹脂を型枠内で暖めながら固める代わりに、暖めた樹脂をアルミダイカスト製のケーシング3及びキャン21を型として急速に放熱させて冷却し、簡単に型無し製造を行うことができる。このポッティング処理により、ステータ巻線も同時にモールドされる。その際、ポッティング処理により、例えば注入量を増やすことにより、キャンの形状を変えることもできる。
【0022】
ステータ組立体19は、ステータ形状の鋼板を積層した積層鋼板15に、内側ステータ巻線案内部16a、16bと外側ステータ巻線案内部17a、17bを両端に立設し、それら両ステータ巻線案内部16a、16b、17a、17bを案内としてステータ巻線18を設けて構成する。この状態で樹脂封止することもできる。
【0023】
センサー組立体20は、適所に段部45a、45b、46を有する断面略ユ字状の枠体24と、前記段部46に設ける感磁性素子25と、前記段部45a、45bに搭載した回路基板23により構成する。回路基板23には、回路素子22を設け、感磁性素子25を接続する。
【0024】
このように組み立てた状態で型に入れて樹脂封止することもできる。枠体24はステータ組立体19の特別に長く延ばした外側ステータ巻線案内部17bに沿わせて位置決めする。
【0025】
センサー付ステータ組立体14は、ケーシング3の側壁部8に沿い、底板部9の凸部11により位置決めされるかたちで、ケーシング3内に収納される。
【0026】
樹脂封止されたセンサー付ステータ組立体14の外周に沿うように、樹脂材料若しくはステンレス材、或いはその両方を使用した板状成型体のキャン21を配置する。キャン21の両端の内、環状の鍔部52は、Oリング47を介してポンプケース2のフランジ部1aとケーシング3のフランジ部1bにより水密に狭持される。キャン21の他端の押当部26は、底板部9の凸部11に沿って案内される面49と、Oリング48を水密に押圧する面50と、底板部9の内側板面に当接して案内される面51とを順に連設して構成される。この結果、キャンド構造(キャン21とシールドとしてのOリング47、48を用いて水密構造とする)を採用することができる。
【0027】
シャフト27は、一端から、支持軸部13、軸受止め部28、すべり軸部29、ネジ部が一体に連設されて構成される。
【0028】
支持軸部13及びすべり軸部29は円柱状に形成され、軸受止め部28は円板状に形成される。シャフト27のネジ部には、スラストワッシャ31を挿通し、丸ナット32を螺合して、スラストワッシャ31を固定する。頂部がドーム状の丸ナット32を用いることにより、吸い込む流体の流線が滑らかになる。
【0029】
インペラロータ33は、ロータ本体42のシャフト挿通孔34に離間して軸受35、36を備え、ロータ本体42の外側の環状段部37に円筒状のバックヨーク38とこれに嵌合する円筒状のマグネット39を嵌合固定し、それらの間に貫通孔方向のベントホール40を貫通形成し、前記環状段部37の右方端面にインペラ(羽車)41の一側を一体に連設し、インペラ41の他側にインペラカバー5を連設する(クローズド構造)。
なお、インペラカバー5を省略した、いわゆるオープン構造も採り得るものである。
【0030】
インペラ径対ロータ本体径の比(直径比)は約50%〜100%が好ましい。即ち、例えば、前記比をほとんど同じの約100%とすることにより電動ポンプの高さを低くして電動ポンプの占める体積を小さくすることができる。
【0031】
このようにインペラ41とロータ本体42を一体化し、その直径比を前記の範囲としたので、部品点数を削減でき、モータを含むポンプサイズの小型化が図れる。
【0032】
ロータ本体42にベントホール40を設けたことにより、ベントホール40の両開口端における流体の差圧に基づくスラスト荷重を緩和することができる。この差圧は流体の流速の差に基づいて発生する。
【0033】
前記すべり軸部29と前記軸受止め部28にそれぞれの面を摺動させる円筒状の軸受36を設け、前記すべり軸部29と前記スラストワッシャ31にそれぞれの面を摺動させる円筒状の軸受35を設ける。両軸受35、36は、冷却液による潤滑効果を利用した水中すべり軸受として、インペラロータ33にその軸方向に離間して固定する。これにより、軸シールが不要になり、シール漏れ及び機械損が抑制され、長寿命とすることができる。
【0034】
シャフト27を軸受部10によって片持ち状に支持した都合上、両軸受35と36の位置を、従来のようにマグネット39に対し均等に配置することができず、インペラ41方向にオフセットを設けた位置、即ち、ロータ本体42に対し図示右方(インペラ方向)にずらした位置に設ける。
【0035】
全体の構成を通し、流体がラジエターの冷却水の場合、流体と接触する樹脂の材料、例えば、インペラ41やポンプケース2の材料を、耐ロングライフクーラント(耐エチレングリコール)LLC樹脂、やポリフタルアミド(PPA)樹脂とすることにより長寿命とすることができる。
【0036】
ポンプの電動モータは、ブラシレス直流(DC)モータで構成される。電動モータは、ブラシ粉の発生がなく、メンテナンスが容易な、ブラシレスモータが好ましい。又、直流モータは、大きな起動力トルク、リニアな回転特性を有するので、トルク制御が容易になるため、ACモータに比べ好ましい。ブラシレスDCモータ駆動回路は、ホールIC駆動回路、ホール電圧の増幅回路、6相ロジック回路、駆動回路等を必要とする。なお、誘起電圧から回転位置を検出して、センサーレスとすることもできる。
【0037】
次に、以上のように構成されたポンプを駆動させる電源について説明する。エンジン(図示せず)の出力軸に連結される交流発電機(ACG)は、エンジンの回転に同期して3相交流を発生する。この3相交流は、整流器で整流されてバッテリに供給される。本発明の電動ポンプのステータ巻線18には、ACGで作られた3相交流を、整流器を介して直流電源とし、それをバイポーラ駆動回路等を介して給電する。前記直流電源が前記ステータ巻線18に供給されると、ステータ磁極44には回転磁界が生じ、回転子磁石であるマグネット39がこの回転磁界によって回転する。これにより、回転子磁石と一体化されているインペラ(羽車)41が回転する。
なお、電源としては、前記直流電源をインバータを介して3相交流、又、コンバータを介して直流、更に直流をチョッパで制御して直流電源として用いることもできる。
【0038】
更に、本発明の実施の形態では、次のようなインペラ軸受構造が採用されている。
まず、軸受35は、図1に部分断面として示されるように、アルミニウムを金属表面に拡散浸透させることによって摺動面にアルミナ(Al23)層B1と、その下にアルミニウム(Al)拡散層B2とを形成させた耐摩耗性被膜Bを生成したすべり軸受である。
本発明の実施の形態では、拡散浸透法によってアルミナ層とアルミニウム拡散層からなる耐摩耗性被膜を生成するものであり、拡散浸透法によるアルミナ被膜の生成は、アセトン等で脱脂したSUS304材からなる中空円筒形部材をAl23粉末に埋没させ、1000〜1100℃の温度で24時間加熱し、炉内で冷却した。これにより、アルミニウムが表面部から深部へ拡散してAlリッチな層ができ、アルミニウムが選択酸化されて、表面がアルミナ層B1で、その下がアルミニウム拡散層B1である耐磨耗被膜Bが得られた断面構造を有している。
【0039】
又、軸受36も、軸受35と同じすべり軸受であり、アルミニウムを金属表面に拡散浸透させることによって摺動面にアルミナ(Al23)層B1(厚さ:100μm)と、その下にアルミニウム(Al)拡散層B2(厚さ:150μm)とを形成させた、膜厚が約250μmの耐摩耗性被膜Bを生成したものである。
更に、シャフト27についてはSUS303材からなり、その断面構造は、軸受35と同様に、アルミニウムを金属表面に拡散浸透させることによって摺動面にアルミナ(Al23)層B1と、その下にアルミニウム(Al)拡散層B2とを形成させた耐摩耗性被膜Bを生成したものである。そして、支持軸部13、軸受止め部28、すべり軸部29、ネジ部30を順に一体成形して構成する。
なお、本発明の実施の形態では、シャフト27と軸受35、36との双方に耐摩耗性被膜Bが形成されているが、必要に応じその一方にのみこれを採用することとしても良い。
【0040】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、シャフト27の外周面及びすべり軸受35、36の摺動面を構成する金属表面に、アルミニウムが拡散浸透することによって、アルミナ層B1と金属基材Cの間に、表面からの距離が増すにつれてアルミニウムの濃度が徐々に少なくなるアルミニウム拡散層B2が形成されることから、アルミナ層B1と金属基材Cとの密着力が大幅に向上する。又、拡散浸透法によって得られたアルミナ層B1は表面硬度が高く、例えば、溶射法による被膜よりも亀裂や気孔が少なく、摺動面のスラリー摩耗とキャビテーション壊食を効果的に抑制することができる。
従って、本発明の実施の形態に係る電動ウォータポンプは、インペラ軸受構造を構成するシャフト27の外周面及びすべり軸受35、36の摺動面に形成された、アルミナ層B1とアルミニウム拡散層B2とからなる耐摩耗性被膜Bにより、かかる摺動面のスラリー磨耗とキャビテーション壊食とを、何れも効果的に抑制するものとなる。そして、粒径数μ〜20μmの砂が冷却水に混入した場合でも、長寿命を低コストで達成することが可能となる。
【実施例】
【0041】
本発明者らは、図2に示される噴流型試験機100と、図3に示されるキャビテーション壊食試験機200とを用い、図4に挙げた試験片を対象として、スラリー摩耗試験及びキャビテーション壊食試験を行った。
図2の噴流方試験機100は、タンク102内のスラリー104をポンプ106でくみ上げ、ノズル108から試験片110に噴射するものである。図中、符号112はタンク102内のスラリー104を攪拌する攪拌機、符号114はインバータである。
スラリー摩耗試験の具体的条件設定として、平均粒径20μmのJIS9号けい砂を水道水に重量比で1%混ぜたスラリー104を試験液としてタンク102内で撹拌しながらポンプ106で圧送した。スラリー104の温度は25℃に管理された。スラリー104の噴射ノズル106(直径:φ3mm)を、試験片110の表面から25mm離した位置から流速10m/sでスラリー104を試験片110の表面に対して直角に当て、一定時間経過ごとに試験片110の重量を計測し、質量減少量を得た。
【0042】
又、図3のキャビテーション壊食試験機200は、ASTM規格G32−03による磁歪振動装置を持ち手静置試験片法でキャビテーション壊食試験を行うものであり、超音波発振器202に駆動される振動子204の増幅ホーン206先端部に固定された振動ディスク208を、水槽に溜められたイオン交換水210に浸し、振動ディスク208端面よりキャビテーション気泡を発生させるために、振動ディスク208に振動を与え、このキャビテーション気泡によって、試験片110の表面を壊食させ、一定時間経過ごとに試験片110の重量を計測し、質量減少量を得るものである。図中、符号212は電圧計、符号214は水温調節装置、符号216は水準器である。
又、キャビテーション壊食試験の具体的設定条件として、イオン交換水の温度25℃、振動ディスク208と試験片110との隙間1mm、振動子204の共振周波数19.5kHz、振動ディスク208端面の全振幅50μmとした。
【0043】
図4に列記された試験片のうち、実施例1が本実施の形態に係る試験片であり、アルミニウムを表面に拡散浸透させたSUS304板材である。又、比較例1〜7は、実施例1と同寸法のSUS304板材に溶射法によって異なる被膜を生成したものであり、比較例8は、参考として被膜を有しない試験片である。
【0044】
スラリー摩耗試験結果は、図5に示される通りである。図5では、質量減少量が小さいほどスラリー摩耗を抑制できる被膜であることを意味する。
一般的に、炭化タングステン(WC)を金属と混合して溶射した被膜がスラリー摩耗に対して優れているとされている。図5より、拡散浸透法で形成したAl被膜を有する実施例1は、溶射法で形成したWC−27NiCr被膜を有する比較例2と同等の耐スラリー磨耗性を示し、その他の溶射被膜を有する比較例よりも格段に優れていることが分かる。
【0045】
又、キャビテーション壊食試験結果が図6に示されている。ただし、他の比較例と比べて耐スラリー磨耗性が特に低かった比較例6と比較例8についてはキャビテーション壊食試験を行わなかった。
図6では、質量減少量が小さいほどキャビテーション壊食を抑制できる被膜であることを意味する。拡散浸透法で形成したAl被膜を有する実施例1は、溶射法で形成したCo−Cr−C被膜を有する比較例5と同等の耐スラリー磨耗特性を示している。そして、本発明は、その他の成分の溶射被膜を有する比較例よりも格段に優れていることが分かる。一方、高い耐スラリー磨耗性を示したWC−27NiCr被膜を有する比較例2は、キャビテーション壊食試験においては大きな質量減少量を示し、キャビテーション壊食を十分に抑制できないことが分かった。
したがって、拡散浸透法で形成したAl被膜を有する実施例1のみが、優れた耐スラリー磨耗性と耐キャビテーション壊食性を併せ持つことが確認された。
【符号の説明】
【0046】
27:シャフト、 35、36:軸受、B:耐磨耗被膜、:B1アルミナ層、B1:アルミニウム拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のシャフトと、該シャフトの外周面に対し流体が流れ込む間隙を置いて対向する摺動面を有する金属製のすべり軸受とを備え、
前記シャフトの外周面及び前記すべり軸受の摺動面の少なくとも一方に、アルミナ層とアルミニウム拡散層とからなる耐摩耗性被膜が形成されていることを特徴とするウォータポンプのインペラ軸受構造。
【請求項2】
前記耐摩耗性被膜は、前記シャフトの外周面又は前記すべり軸受の摺動面を構成する金属表面に、アルミニウムが拡散浸透することによって構成されていることを特徴とする請求項1記載のウォータポンプのインペラ軸受構造。
【請求項3】
冷却水を循環させるための車載用のウォータポンプであって、請求項1又は2記載のインペラ軸受構造を備えることを特徴とする電動ウォータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−47288(P2011−47288A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194146(P2009−194146)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】