説明

ウォータポンプ軸受

【課題】軸受内部への冷却水や水分の侵入及び、軸受内部からのグリースの流出を防止するウォータポンプ軸受。
【解決手段】補強環と弾性体とからなり基端側が外輪側に固定され先端側がポンプ軸の方向に延びる外輪側シール環と、ポンプ軸に嵌合固定されてポンプ軸と共に回転する回転円筒部と、回転円筒部の軸方向内側において回転円筒部から半径方向外側に延びるフランジ部とからなる軸側シール環とで構成される。外輪側シール環の弾性体の第一のリップ部が軸方向外側に向かって斜めに延びて軸側シール環の回転円筒部の外周面と摺接し、第二のリップ部が軸方向外側に向かって斜めに延びて第一のリップ部が回転円筒部の外周面と摺接している位置よりも軸方向内側において軸側シール環の回転円筒部の外周面と摺接し、第三のリップ部が軸方向内側に向かって斜めに延びて軸側シール環のフランジ部の軸方向外側面と摺接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の水冷エンジン等に用いられるウォータポンプ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の水冷エンジン等に用いられるウォータポンプとしては、図6図示のように、ポンプ軸63の一端部にインペラ61を、他端部にプーリ62をそれぞれ取り付け、プーリ62を回転することによりインペラ61を回転させて、冷却水を循環させるものが知られている。このウォータポンプは、例えば、図6図示のように、エンジン本体に固定されるポンプハウジング60にウォータポンプ軸受が圧入されているのが一般的である。ウォータポンプ軸受は、一端部にインペラ61が、他端部にプーリ62がそれぞれ備えられているポンプ軸63が、転動体65を介して軸受の外輪64に回動自在に取り付けられている。
【0003】
外輪64と、インペラ61との間には、ポンプハウジング60とポンプ軸63との間の空間をシールする目的でメカニカルシール67が設けられている。
【0004】
また、外輪64の両端部には軸受内部をシールする目的でシール体が設けられている。このシール体のうち、インペラ側のシール体66は金属製の補強環と、この補強環に補強された弾性部材とで形成されているのが一般的である。
【0005】
このような従来公知のウォータポンプにおいて、メカニカルシール67の密封性が経時変化等により劣化した場合、冷却水がインペラ61側からポンプハウジング60とポンプ軸63との間の空間68に入ってくることがある。
【0006】
一方、前述したインペラ側のシール体66は、エンジンの運転、停止が繰り返されることにより、加熱あるいは冷却されて膨脹、収縮等を繰り返し、シール機能が損なわれやすい。
【0007】
そこで、前記のように、ポンプハウジング60とポンプ軸63との間の空間68に侵入した冷却水、あるいは、冷却水が加熱されて発生した水蒸気が、シール体66の部分を通過して軸受内に侵入することがある。
【0008】
こうして軸受内に水分が侵入すると、軸受内部に充填されているグリースが劣化したり、軸受内部に錆が生じたりしてウォータポンプ軸受が故障し、ウォータポンプの寿命が短くなるという問題があった。
【0009】
また、前記のように、シール機能が損なわれたシール体66の部分を通過して軸受内部からグリースが流出することもある。このようになると、転動体65とポンプ軸63との間の摩擦が大きくなり、ウォータポンプ軸受が破損して、同じく、ウォータポンプの寿命が短くなるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、前述した従来の問題点に鑑み、ウォータポンプ軸受の軸受内部への冷却水や水分の侵入を防止でき、また、軸受内部からのグリースの流出を防止できるウォータポンプ軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、この発明が提案するウォータポンプ軸受は、以下の構造からなるものである。
【0012】
まず、このウォータポンプ軸受は、従来公知のように、一端部にインペラ61が、他端部にプーリ62がそれぞれ備えられているポンプ軸63が、転動体65を介して軸受の外輪64に回動自在に取り付けられていると共に、外輪64の両端部に、軸受内部をシールするシール体が設けられているものである。
【0013】
そして、本発明のウォータポンプ軸受は、外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体66が、以下のような特徴的な構造からなるものである。
【0014】
第一のシール体は、外輪側シール環3と、軸側シール環6とから構成されている。ここで、外輪側シール環3は、補強環1と補強環1によって補強された弾性体2とからなり、一端部側が外輪64の内周側に固定され、他端側がポンプ軸63側に延びているものである。また、軸側シール環6は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部4と、回転円筒部4の軸方向内側において、回転円筒部4から半径方向外側に延びるフランジ部5とから構成されている。
【0015】
そして、外輪側シール環3を構成する弾性体2は、補強環1のポンプ軸63側に延びている先端側から、更に、ポンプ軸63側に向かって延びる3個のリップ部7、8、9を備えている。この3個のリップ部の中の第一のリップ部7は、軸方向外側に向かって斜めに延びて軸側シール環6の回転円筒部4の外周面と摺接し、第二のリップ部8は軸方向外側に向かって斜めに延びて、第一のリップ部7が軸側シール環6の回転円筒部4の外周面と摺接している位置よりも軸方向内側において、軸側シール環6の回転円筒部4の外周面と摺接し、第三のリップ部9は、軸方向内側に向かって斜めに延びて軸側シール環6のフランジ部5の軸方向外側面と摺接するものである。
【0016】
第二のシール体は、外輪側シール環13と、軸側シール環16とから構成されている。ここで、外輪側シール環13は、外輪64の内周側に固定される第一の円筒部11aと、第一の円筒部11aの軸方向外側において、第一の円筒部11aからポンプ軸63側に延びる中間部11bと、中間部11bのポンプ軸63側に延びる終端部側において、中間部11bから軸方向内側に延びる第二の円筒部11cとから構成されている。また、軸側シール環16は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部14と、回転円筒部14の軸方向内側において、回転円筒部14から半径方向外側に延びるフランジ部15と、回転円筒部14及びフランジ部15とに補強されて半径方向外側に延びる弾性体12とから構成されている。
【0017】
そして、軸側シール環16を構成する弾性体12は、半径方向外側に向かって延びる3個のリップ部17、18、19を備えている。この3個のリップ部の中の、第一のリップ部17は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第二の円筒部11cの内周面と摺接している。また、第二のリップ部18は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面又は外輪64の内周側と摺接している。更に、第三のリップ部19は軸方向内側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面又は外輪64の内周側と摺接しているものである。
【0018】
第三のシール体は、外輪側シール環33と、軸側シール環36とから構成されている。ここで、外輪側シール環33は、外輪64の内周側に固定される第一の円筒部31aと、第一の円筒部31aの軸方向外側において、第一の円筒部31aからポンプ軸63側に延びる中間部31bと、中間部31bのポンプ軸63側に延びる終端部側において、中間部31bから軸方向外側に延びる第二の円筒部31cとから構成されている。また、軸側シール環36は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部34と、回転円筒部34の軸方向内側において、回転円筒部34から半径方向外側に延びるフランジ部35と、回転円筒部34及びフランジ部35とに補強されて半径方向外側に延びる弾性体32とから構成されている。
【0019】
そして、軸側シール環36を構成する弾性体32は、半径方向外側に向かって延びる3個のリップ部37、38、39を備えている。この3個のリップ部のうち、第一のリップ部37は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環33の第二の円筒部31cの内周面と摺接している。また、第二のリップ部38は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環33の第一の円筒部31aの内周面と摺接している。更に、第三のリップ部39は、軸方向内側に向かって斜めに延びて外輪側シール環33の第一の円筒部31aの内周面又は外輪64の内周側と摺接している。
【0020】
前述したいずれのシール体を採用している本発明のウォータポンプ軸受においても、第一のリップ部7、17、37は、軸方向外側に向かいつつ、ポンプ軸63側あるいは半径方向外側に向かって斜めに延びてシール部を形成する構造になっている。そして、第一のリップ部7、17、37によってシール部が形成される位置よりも軸方向内側においてシール部を形成する第二のリップ部8、18、28、38も、第一のリップ部7、17、37と同様に、軸方向外側に向かいつつ、ポンプ軸63側あるいは半径方向外側に向かって斜めに延びてシール部を形成する構造になっている。そこで、このような形態によって形成された二重のシール構造によって、軸受内部への冷却水や、水蒸気等の水分の侵入を効果的に防止することができる。
【0021】
また、軸側シール環6、16、36は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部4、14、34の軸方向内側において、回転円筒部4、14、34から半径方向外側に延びるフランジ部5、15、35を備えているので、軸方向内側に向かいつつ、半径方向外側あるいはポンプ軸63側に向かって斜めに延びてシール部を形成する第三のリップ部9、19、29、39の働きとあいまって、軸受内部からのグリースの流出を効果的に防止することができる。
【0022】
なお、前述した第二のシール体、第三のシール体を採用するウォータポンプ軸受において、外輪側シール環13、33の第一の円筒部11a、31aの軸方向外側の一部が、外輪64の軸方向外側端面64aよりも軸方向外側に突出している構造を採用することもできる。このような構造にすれば、ウォータポンプハウジングに水抜き穴70が設けられている場合に、当該水抜き穴70からの排水を助けることができるので有利である。
【0023】
また、このような構造にすれば、外輪側シール環13、33の第一の円筒部11a、31aが広いスペースを必要としていても、外輪64の延長が必要でなくなるので、既存の構造をそのまま使用することができて有利である。
【0024】
前述した本発明のウォータポンプ軸受に採用されているいずれのシール体においても、補強環1、外輪側シール環13、33、軸側シール環の回転円筒部4、14、34及びフランジ部5、15、35は、耐蝕性を有する部材、例えば、ステンレスで形成しておくことが望ましい。これらの部分に錆が生じないようにするためである。そこで、耐蝕性を有する部材でこれらの部分が形成されていればその材質に特に限定があるものではない。例えば、鋼材に耐蝕性を有する金属をメッキしたものを用いることもできる。
【0025】
また、弾性体2、12、32としては、ゴム、合成樹脂など、この技術分野で従来公知のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、ウォータポンプ軸受の軸受内部への冷却水や水分の侵入を効果的に防止できると共に、軸受内部からのグリースの流出を効果的に防止できるウォータポンプ軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明のウォータポンプ軸受に採用され、本発明のウォータポンプ軸受の特徴をなす、外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体66として採用されるシール体の好ましい実施形態を説明する。以下で説明するシール体以外の他の部分の構造は、図6を用いて説明した従来のものと同一であるので、その説明は省略する。また、従来例を説明した図6において用いた構成要素と同一の構成要素には図6において用いられているものと同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0028】
また、以下の好ましい実施例において添付図面を用いて説明する各構成、形状及び配置関係は、本発明が理解できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、以下の実施例にて説明した形態に限定されず、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明のウォータポンプ軸受の外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体の第一の実施形態を説明するものである。
【0030】
図1図示のシール体は、外輪側シール環3と、軸側シール環6とから構成されている。
【0031】
外輪側シール環3は、金属製の補強環1と補強環1によって補強され、ゴムなどの弾性体によって形成されている弾性体2とから構成されている。外輪側シール環3の一端部側は、図1図示のように、外輪64の内周側の嵌合溝64bに固定され、他端側がポンプ軸63側に延びている。
【0032】
金属製の軸側シール環6は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部4と、回転円筒部4の軸方向内側において、回転円筒部4から半径方向外側に延びるフランジ部5とから構成されている。
【0033】
外輪側シール環3を構成する弾性体2は、図1図示のように、補強環1のポンプ軸63側に延びている先端1a部分から、更に、ポンプ軸63側に向かって延びる3個のリップ部7、8、9を備えている。
【0034】
この3個のリップ部の中の第一のリップ部7は軸方向外側に向かって斜めに延びて軸側シール環6の回転円筒部4の外周面と摺接している。また、第二のリップ部8も軸方向外側に向かって斜めに延びて軸側シール環6の回転円筒部4の外周面と摺接している。ただし、第二のリップ部8が回転円筒部4の外周面と摺接する位置は、図1図示のように、第一のリップ部7が回転円筒部4の外周面と摺接している位置よりも軸方向内側になっている。そこで、回転円筒部4の外周面と、第一のリップ部7と、第二のリップ部8との間に第一の密閉空間部20が形成されている。
【0035】
第三のリップ部9は、軸方向内側に向かって斜めに延びて、軸側シール環6のフランジ部5の軸方向外側面と摺接している。そこで、回転円筒部4の外周面とフランジ部5の軸方向外側面と、第三のリップ部9との間に第二の密閉空間部21が形成されている。
【0036】
第一〜第三のリップ部7、8、9は、図1図示のように、基端側が外輪64の内周側の嵌合溝64bに固定されている補強環1の先端1a部分から、ポンプ軸63側の方向に向かって延びている。そこで、第一〜第三のリップ部7、8、9の先端側は、補強環1及びその先端1aに強く支持されて、回転円筒部4の外周面及びフランジ部5の軸方向外側面に接触することができる。これによって、ウォータポンプ軸受の軸受内部への冷却水や水分の侵入を効果的に防止できると共に、軸受内部からのグリースの流出を効果的に防止できるシール構造となっている。
【0037】
また、前述した第一の密閉空間部20を形成する第一のリップ部7と、第二のリップ部8とは、共に、軸方向外側に向かいつつポンプ軸63側に向かって斜めに延びてシール部を形成している。そこで、このような形態によって形成された二重のシール構造によって、軸受内部への冷却水や、水蒸気等の水分の侵入を効果的に防止することができる。
【0038】
更に、軸側シール環6の回転円筒部4の軸方向内側において、すなわち、図1図示のように、第二のリップ部8が回転円筒部4の外周面と摺接している位置よりも軸方向内側において、回転円筒部4から半径方向外側に延びるフランジ部5が立上がり、更に、このフランジ部5の軸方向外側面に第三のリップ部9が接触して前述した第二の密閉空間部21が形成されているので、前述した第一のリップ部7と第二のリップ部8とによる第一の密閉空間部20を介在させた二重のシール構造とあいまって、軸受内部への冷却水や、水蒸気等の水分の侵入を一層効果的に防止することができる。
【0039】
また、軸側シール環6は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部4の軸方向内側において、回転円筒部4から半径方向外側に延びるフランジ部5を備えているので、軸受内部からのグリースの流出を効果的に防止することができる。たとえ、フランジ部5を越えて流出しようとするグリースがあっても、外輪側シール環3の補強環1の先端1a部分から、軸方向内側に向かいつつポンプ軸63側に向かって延びる第三のリップ部9が、フランジ部5の軸方向外側面に摺接しているので、軸受内部からのグリースの流出を確実に防止することが可能になる。
【0040】
なお、この実施例における補強環1の形態は図1図示のものに限られない。外輪側シール環3の一端部側を外輪64の内周面側に固定し、他端側をポンプ軸63方向に延ばして弾性体2を補強すると共に、補強環1の先端1a部分からポンプ軸63側の方向に向かって延る第一〜第三のリップ部7、8、9の先端側が、補強環1及びその先端1aに強く支持されて、回転円筒部4の外周面及びフランジ部5の軸方向外側面に接触することを可能とする形態であれば、種々の形状、形態とすることができる。
【0041】
また、フランジ部5が、回転円筒部4から半径方向外側に延びる位置も、図1図示のものに限られない。第二のリップ部8が回転円筒部4の外周面と摺接している位置よりも軸方向内側において回転円筒部4から半径方向外側に延び、その軸方向外側面に第三のリップ部9が接触できる位置であれば、軸側シール環6の回転円筒部4の軸方向内側の位置のどこから半径方向外側に向けて立ち上がっている形態も採用可能である。
【実施例2】
【0042】
図2は、本発明のウォータポンプ軸受の外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体の第二の実施形態を説明するものである。
【0043】
図2図示のシール体は、外輪側シール環13と、軸側シール環16とから構成されている。
【0044】
金属製の外輪側シール環13は、外輪64の内周側に固定される第一の円筒部11aと、第一の円筒部11aの軸方向外側において、第一の円筒部11aからポンプ軸63側に延びる中間部11bと、中間部11bのポンプ軸63側に延びる終端部側において、中間部11bから軸方向内側に延びる第二の円筒部11cとから構成されている。
【0045】
軸側シール環16は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する金属製の回転円筒部14と、回転円筒部14の軸方向内側において、回転円筒部14から半径方向外側に延びる金属製のフランジ部15と、回転円筒部14及びフランジ部15とに補強されて半径方向外側に延びるゴムなどの弾性材からなる弾性体12とから構成されている。
【0046】
軸側シール環16を構成する弾性体12は、半径方向外側に向かって延びる3個のリップ部17、18、19を備えている。
【0047】
第一のリップ部17は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第二の円筒部11cの内周面と摺接している。また、第二のリップ部18は軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面と摺接している。ただし、第二のリップ部18が第一の円筒部11aの内周面と摺接する位置は、図2図示のように、第一のリップ部17が第二の円筒部11cの内周面と摺接している位置よりも軸方向内側になっている。そこで、第一のリップ部17と、第一の円筒部11aと、中間部11bと、第二の円筒部11cと、第二のリップ部18とで囲まれる部分に第一の密閉空間部22が形成されている。
【0048】
また、第三のリップ部19は、軸方向内側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面と摺接している。
【0049】
このように、第二のリップ部18が軸方向内側に向かって斜めに延び、第三のリップ部19が軸方向外側に向かって斜めに延びて、それぞれ、外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面に摺接しているので、第二のリップ部18と第三のリップ部19と、第一の円筒部11aの内周面との間に、第二の密閉空間部23が形成されている。
【0050】
第一のリップ部17は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環13の第二の円筒部11cの内周面と摺接しているので、回転時には遠心力を受けて、第二の円筒部11cの内周面により強く接触する。そこで、シール性能が高められ、軸受内部への冷却水や、水蒸気等の水分の侵入を効果的に防止することができる。たとえ、第一のリップ部17と第二の円筒部11cの内周面との間のシールを破って、第一の密閉空間部22に侵入できる水分があっても、そのような水分は、軸方向外側に向かって斜めに延び、フランジ15の先端15a部分に支持されて外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面に緊密に接触できる第二のリップ部18が、同じく、回転による遠心力を受けて、第一の円筒部11aの内周面により強く接触してシールしている第一の密閉空間部22内に止められるので、軸受内部への冷却水や、水蒸気等の水分の侵入を一層効果的に防止することができる。
【0051】
また、軸側シール環16は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する回転円筒部14の軸方向内側において、回転円筒部14から半径方向外側に延びるフランジ部15を備えているので、軸受内部からのグリースの流出を効果的に防止することができる。外輪側においても、軸方向内側に向かって斜めに延び、フランジ15の先端15a部分に支持されて外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面に緊密に接触できる第三のリップ部19が、同じく回転による遠心力を受けて、第一の円筒部11aの内周面により強く接触してシールが図られるので、軸受内部からのグリースの流出を効果的に防止することができる。更に、たとえ、この第三のリップ部19によるシールが破られたとしても、第二の密閉空間部23が存在しているので、軸受内部からのグリースの流出は一層効果的に防止される。
【0052】
なお、この実施例における外輪側シール環13の形状、軸側シール環16のフランジ部が回転円筒部14から半径方向外側に延びる位置は、図2図示のものに限られない。前述した第一のリップ部17、第二のリップ部18、第三のリップ部19によってシール部が形成される軸方向の位置が確保され、前記のように第一の密閉空間部22、第二の密閉空間部23が形成されるものであれば、種々の形状、形態を採用することが可能である。
【実施例3】
【0053】
図3は、本発明のウォータポンプ軸受の外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体の第三の実施形態を説明するものである。
【0054】
図3図示のシール体は、軸側シール環16を構成する弾性体12から半径方向外側に向かって延びている第二のリップ部28と、第三のリップ部29とが外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面に摺接しているのではなく、外輪64の内周面に摺接している点が、図2図示の第2の実施形態と相違しているのみである。その他は、同一であるので、図2図示の第2の実施形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を付けてその説明を省略する。
【0055】
また、基本的な作用、効果も図2図示の第2の実施形態の場合と同一である。なお、図2図示の実施形態と、図3図示の実施形態とを組み合わせた変形例として、第三のリップ部29を図3図示の実施形態のように、外輪64の内周面に摺接させ、第二のリップ部28を図3図示の実施形態のように、外輪側シール環13の第一の円筒部11aの内周面に摺接させる形態とすることもできる。このようにしても、図2図示の第2の実施形態の場合と同等の作用、効果を発揮させることができる。
【実施例4】
【0056】
図4は、本発明のウォータポンプ軸受の外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体の第四の実施形態を説明するものである。
【0057】
図4図示のシール体は、外輪側シール環33と、軸側シール環36とから構成されている。
【0058】
金属製の外輪側シール環33は、外輪64の内周側に固定される第一の円筒部31aと、第一の円筒部31aの軸方向外側において、第一の円筒部31aからポンプ軸63側に延びる中間部31bと、中間部31bのポンプ軸63側に延びる終端部側において、中間部31bから軸方向外側に延びる第二の円筒部31cとから構成されている。
【0059】
軸側シール環36は、ポンプ軸63に嵌合固定されて、ポンプ軸63と共に回転する金属製の回転円筒部34と、回転円筒部34の軸方向内側において、回転円筒部34から半径方向外側に延びる金属製のフランジ部35と、回転円筒部34及びフランジ部35とに補強されて半径方向外側に延びるゴム等の弾性材からなる弾性体32とから構成されている。
【0060】
軸側シール環36を構成する弾性体32は、半径方向外側に向かって延びる3個のリップ部37、38、39を備えている。
【0061】
第一のリップ部37は、軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環33の第二の円筒部31cの内周面と摺接している。また、第二のリップ部38は軸方向外側に向かって斜めに延びて外輪側シール環33の第一の円筒部31aの内周面と摺接している。更に、第三のリップ部39は、軸方向内側に向かって斜めに延びて外輪側シール環33の第一の円筒部31aの内周面と摺接している。この図4図示の第四の実施形態におけるシール体は、図2図示の第2の実施形態において軸方向内側に延びていた外輪側シール環の第二の円筒部が、軸方向外側に延びるように変更されたものである。第一のリップ部37と、第一の円筒部31aと、中間部31bと、第二の円筒部31cと、第二のリップ部38とで囲まれる部分に第一の密閉空間部22が形成され、第二のリップ部38と、第三のリップ部39と、第一の円筒部31aの内周面との間に、第二の密閉空間部23が形成されるのは、図2図示の第2の実施形態の場合と同一である。
【0062】
この図4図示の第四の実施形態のシール体を採用した場合に奏される作用、効果も図2図示の第2の実施形態の場合と同一である。
【0063】
なお、この実施例における外輪側シール環33の形状、軸側シール環36のフランジ部が回転円筒34から半径方向外側に延びる位置は、図4図示のものに限られない。第一のリップ部37、第二のリップ部38、第三のリップ部39によってシール部が形成される軸方向の位置が図4図示の形態となり、第一の密閉空間部22、第二の密閉空間部23が形成されるものであれば、種々の形状、形態を採用することが可能である。
【0064】
なお、図示していないが、第三のリップ部39が外輪側シール環33の第一の円筒部31aの内周面と摺接する形態に換えて、第三のリップ部39が軸方向内側に向かって斜めに延び、外輪64の内周側と摺接する形態とすることも可能である。すなわち、第二の密閉空間部23が、第二のリップ部38と、第三のリップ部39と、第一の円筒部31aの内周面と、外輪64の内周側面との間に形成されるものである。
【0065】
このようにしても、図2図示の第2の実施形態の場合と同等の作用、効果を発揮させることができる。
【実施例5】
【0066】
図5は、本発明のウォータポンプ軸受の外輪64の両端部に設けられている軸受内部をシールするシール体のうち、インペラ61側のシール体の第五の実施形態を説明するものである。
【0067】
図5図示の実施形態は、前述した図2、図3図示のシール体を採用するウォータポンプ軸受において、外輪側シール環13の第一の円筒部11aの軸方向外側の一部が、外輪64の軸方向外側端面64aよりも軸方向外側に突出している構造になっているものである。
【0068】
基本的な形状、構造は、図2、図3を用いて説明した実施形態におけるものと同一であるので、共通する構成要素には同一の参照符号を付け、その説明を省略する。
【0069】
図5図示の実施形態を採用することによって、図2、図3図示の前記実施例で説明した作用、効果に加えて、ウォータポンプハウジングに水抜き穴70が設けられている場合に、水抜き穴70からの排水を助けることができるので有利である。また、かかる構造にすれば、第一の円筒部11aが広いスペースを必要としていても外輪64の延長が必要でなくなるので、既存の構造をそのまま使用することができて有利である。
【0070】
なお、図示していないが、図4図示のシール体を採用するウォータポンプ軸受において、外輪側シール環33の第一の円筒部31aの軸方向外側の一部が、外輪64の軸方向外側端面64aよりも軸方向外側に突出している構造を採用することもできる。この構造とすれば、第一の円筒部31aが広いスペースを必要としていても外輪64の延長が必要でなくなるので、既存の構造をそのまま使用できるという効果が一層顕著に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のウォータポンプ軸受におけるインペラ側のシール体の第一の実施形態を拡大して表した一部断面図。
【図2】本発明のウォータポンプ軸受におけるインペラ側のシール体の第二の実施形態を拡大して表した一部断面図。
【図3】本発明のウォータポンプ軸受におけるインペラ側のシール体の第三の実施形態を拡大して表した一部断面図。
【図4】本発明のウォータポンプ軸受におけるインペラ側のシール体の第四の実施形態を拡大して表した一部断面図。
【図5】本発明のウォータポンプ軸受におけるインペラ側のシール体の第五の実施形態を拡大して表した一部断面図。
【図6】従来のウォータポンプ軸受が採用されているウォータポンプの一例を説明する一部断面図。
【符号の説明】
【0072】
1 補強環
2、12、32 弾性体
3、13、33 外輪側シール環
4、14、34 回転円筒部
5、15、35 フランジ部
6、16、36 軸側シール環
7、17、37 第一のリップ部
8、18、28、38 第二のリップ部
9、19、29、39 第三のリップ部
11a、31a 第一の円筒部
11b、31b 中間部
11c、31c 第二の円筒部
20、22 第一の密閉空間部
21、23 第二の密閉空間部
61 インペラ
62 プーリ
63 ポンプ軸
64 外輪
65 転動体
66 インペラ側のシール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部にインペラが、他端部にプーリがそれぞれ備えられているポンプ軸が、転動体を介して軸受の外輪に回動自在に取り付けられていると共に、当該外輪の両端部に、軸受内部をシールするシール体が設けられているウォータポンプ軸受であって、前記シール体のうち、インペラ側のシール体は、
補強環と当該補強環によって補強された弾性体とからなり、一端部側が外輪の内周側に固定され、他端側がポンプ軸側に延びる外輪側シール環と、
ポンプ軸に嵌合固定されて、ポンプ軸と共に回転する回転円筒部と、当該回転円筒部の軸方向内側において、当該回転円筒部から半径方向外側に延びるフランジ部とからなる軸側シール環とで構成され、
前記外輪側シール環を構成する弾性体は、前記補強環のポンプ軸側に延びている先端側から更にポンプ軸側に向かって延びる3個のリップ部を備えており、当該3個のリップ部の中の第一のリップ部は軸方向外側に向かって斜めに延びて前記軸側シール環の回転円筒部の外周面と摺接し、第二のリップ部は軸方向外側に向かって斜めに延びて、前記第一のリップ部が前記軸側シール環の回転円筒部の外周面と摺接している位置よりも軸方向内側において、前記軸側シール環の回転円筒部の外周面と摺接し、第三のリップ部は、軸方向内側に向かって斜めに延びて前記軸側シール環のフランジ部の軸方向外側面と摺接することを特徴とするウォータポンプ軸受。
【請求項2】
一端部にインペラが、他端部にプーリがそれぞれ備えられているポンプ軸が、転動体を介して軸受の外輪に回動自在に取り付けられていると共に、当該外輪の両端部に、軸受内部をシールするシール体が設けられているウォータポンプ軸受であって、前記シール体のうち、インペラ側のシール体は、
外輪の内周側に固定される第一の円筒部と、当該第一の円筒部の軸方向外側において、当該第一の円筒部からポンプ軸側に延びる中間部と、当該中間部のポンプ軸側に延びる終端部側において、当該中間部から軸方向内側に延びる第二の円筒部とからなる外輪側シール環と、
ポンプ軸に嵌合固定されて、ポンプ軸と共に回転する回転円筒部と、当該回転円筒部の軸方向内側において、当該回転円筒部から半径方向外側に延びるフランジ部と、当該回転円筒部及びフランジ部とに補強されて半径方向外側に延びる弾性体とからなる軸側シール環とで構成され、
前記軸側シール環を構成する弾性体は、半径方向外側に向かって延びる3個のリップ部を備えており、
第一のリップ部は、軸方向外側に向かって斜めに延びて前記外輪側シール環の第二の円筒部の内周面と摺接し、
第二のリップ部は、軸方向外側に向かって斜めに延びて前記外輪側シール環の第一の円筒部の内周面又は外輪の内周側と摺接し、
第三のリップ部は、軸方向内側に向かって斜めに延びて前記外輪側シール環の第一の円筒部の内周面又は外輪の内周側と摺接する
ことを特徴とするウォータポンプ軸受。
【請求項3】
外輪側シール環の第一の円筒部の軸方向外側の一部が、外輪の軸方向外側端面よりも、軸方向外側に突出していることを特徴するする請求項2記載のウォータポンプ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−240733(P2008−240733A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110029(P2008−110029)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【分割の表示】特願2001−353856(P2001−353856)の分割
【原出願日】平成13年11月19日(2001.11.19)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】