説明

エアゾール剤

【課題】ミノキシジル配合剤をエアゾール剤として提供するためにエアゾール缶容器の内面にポリアミドイミド樹脂塗料をコーティングした容器を用いて一般的な方法でエアゾール剤を製造した。しかしながら得られたエアゾール剤は経時的に白濁したり、析出物が生じたりすることがわかった。本発明は、ミノキシジルを配合した、安定なエアゾール剤を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)ミノキシジルを含む原液とジメチルエーテルを含む噴射剤からなる内容物、並びに(2)内容物との接触面がポリアミドイミドでコーティングされているか、もしくはポリエチレンテレフタレートでラミネート加工されている金属製のマウンテンカップに、ポリオキシメチレン製もしくはナイロン製のハウジングを接続したバルブを装着し、容器の内面が樹脂で被覆されている金属製のエアゾール容器、からなるエアゾール剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミノキシジルを含有する経時的に安定なエアゾール剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミノキシジルは、化学名を6−(1−ピペリジニル)−2,4−ピリミジンジアミン−3−オキサイドと称し、日本においてもミノキシジル含有の外用発毛剤が販売されている。
【0003】
ミノキシジルは熱、光などにより着色しやすく、遮光容器の使用が必要など取り扱いにくいものであった。そのような欠点を改善するため特定の成分を配合することにより着色を防止する技術が開示されている(特許文献1、2)。
【0004】
一方、エアゾール剤は遮光性に優れ成分を安定に保存するためには優れた剤形であるが、高圧下で保存することになるため通常の容器とは成分の動態が異なることがある。
【0005】
内容物にミノキシジルを含むエアゾール剤としては特定の噴射性状にすることによりミノキシジルを頭皮に確実に到達させるエアゾール剤に関する技術(特許文献3)などが知られている。その他にもミノキシジルを配合したエアゾール剤については報告があるが、経時的な安定性については報告されていない。
【0006】
また、エアゾール缶容器の内面にポリアミドイミド樹脂塗料をコーティングする容器についても開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-263727
【特許文献2】WO02/092092
【特許文献3】特開平11-12136
【特許文献4】特開平2-67374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ミノキシジル配合剤をエアゾール剤として提供するためにエアゾール缶容器の内面にポリアミドイミド樹脂塗料をコーティングした容器を用いて一般的な方法でエアゾール剤を製造した。
【0009】
しかしながら得られたエアゾール剤は経時的に白濁したり、析出物が生じたりすることがわかった。
【0010】
本発明は、ミノキシジルを配合した、安定なエアゾール剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、析出物が発生しないミノキシジル配合エアゾール剤を提供するため種々検討したところ、ミノキシジルを含む原液とジメチルエーテルを含む噴射剤からなる内容物を、特定のコーティング剤により被覆したマウンテンカップおよび特定の材質からなるハウジングを有する特定のコーティングがなされたエアゾール剤容器に封入することにより、原液の白濁や析出を生じない安定なミノキシジル配合エアゾール剤となることを見出し本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、
1.(1)ミノキシジルを含む原液とジメチルエーテルを含む噴射剤からなる内容物、並びに(2)内容物との接触面がポリアミドイミドでコーティングされているか、もしくはポリエチレンテレフタレートでラミネート加工されている金属製のマウンテンカップに、ポリオキシメチレン製もしくはナイロン製のハウジングを接続したバルブを装着し、容器の内面が樹脂で被覆されている金属製のエアゾール容器、からなるエアゾール剤。
2.容器の内面を被覆する樹脂がポリアミドイミドまたはポリエチレンテレフタレートである1記載のエアゾール剤。
3.ミノキシジルを含む原液が水およびアルコール類の混液からなる溶媒に溶解している1または2に記載のエアゾール剤。
4.原液とジメチルエーテルの配合比率が容積比で1:0.25〜1:2である1〜3のいずれかに記載のエアゾール剤。
5.エアゾール容器がアルミニウム製である1〜4のいずれかに記載のエアゾール剤。
6.ハウジングがポリオキシメチレン製である1記載のエアゾール剤。
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエアゾール剤では、ミノキシジル含有組成物をエアゾール剤としても白濁や析出物の発生が無く安定であったうえ、使用感にも優れたものであった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のエアゾール内容物の組成物(以下に述べる組成物中の配合量はジメチルエーテルを除いた原液中の配合比率を示している。)において、ミノキシジルの濃度は組成物全体の1〜5W/V%である。本発明の組成物のpHは5.5〜9.5が好ましく、8.0〜8.4がさらに好ましい。pHがそれらの範囲から外れると、塗布した際に皮膚刺激が生じることがあるからである。
【0015】
本発明の組成物のpH調整は、通常使用されるpH調整剤を使用することができ、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸やその塩、リン酸、硫酸などの無機酸やその塩、水酸化ナトリウムなどの塩基などをあげることができる。
【0016】
本発明でエアゾール内容物の組成物の溶媒は、使用感、ミノキシジルの溶解性および安定性の点から、アルコール類と水との混合物が好ましい。アルコール類の配合量は、組成物全体の40〜80V/V%であることが好ましい。アルコール類としてはエタノールや多価アルコールを単独または組み合わせて使用することができる。エタノールは40〜70V/V%の配合が好ましい。多価アルコールとしては、外用液剤に使用することができるものを使用することができ、好ましいものとしてプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなどがあげられ、さらに好ましいものとして、1,3-ブチレングリコールおよびグリセリンをあげることができる。多価アルコールの配合量は、組成物全体の5〜20W/V%が好ましく、5〜10W/V%が使用感上、より好ましい。20W/V%を超えて配合するとベタツキなど使用感の低下を招くからである。なお、本発明で用いるグリセリンは含量98%以上の濃グリセリンのことであり、通常用いられる含量約85%のものを用いる場合にはその含有する水分量を考慮して配合量を決定する必要がある。水の配合量は、組成物全体の30%以下であることが好ましい。
【0017】
噴射剤としてはジメチルエーテルを使用することが、原液との相溶性、安定性および使用感の点から好ましい。原液とジメチルエーテルの配合比率は容積比で1:0.25〜1:2が好ましく、さらに好ましくは1:0.5〜1:1である。容積比が1:0.25を下回ると冷感が得られなくなり、1:2を上回ると使用時の噴射剤臭が強く良好な使用感が損なわれるためである。また、安定性、使用感を損なわない範囲でジメチルエーテルの一部を液化石油ガスに変更することができる。
【0018】
缶の下地となる材質は鉄およびアルミニウムなど一般的なものが使用できるが、アルミニウムのものがより好ましい。ミノキシジルは鉄に接触すると着色するためである。そのため純度99%以上のアルミニウムが最も好ましい。腐食防止のため下地材には樹脂による表面処理が必要であり、ポリアミドイミド樹脂によるコートまたはポリエチレンテレフタレートラミネートが好ましいが、加工性の点からポリアミドイミド樹脂によるコートがさらに好ましい。
【0019】
バルブは金属製のマウンテンカップ部と樹脂製のハウジング部より構成されており、マウンテンカップ部の金属は一般的なものが使用できるが、缶同様アルミニウムが好ましい。マウンテンカップ部はポリアミドイミドのコーティングまたはポリエチレンテレフタレートのラミネートにより、被覆されている必要がある。また、ハウジング部の樹脂材質としてはナイロンおよびポリオキシメチレンを用いることができるが、成型性、耐久性および安定性の観点からポリオキシメチレンが好ましい。
【0020】
本発明のミノキシジルを含む原液には、一般の外用剤に使用される種々の成分、例えば、賦形剤、血管拡張剤(塩化カルプロニウム、ニコチン酸ベンジル、センブリ抽出液、オタネニンジンエキス、トウガラシチンキ、アデノシンなど)、抗ヒスタミン剤(塩酸イソチペンジルなど)、抗炎症剤(グアイアズレンなど)、角質溶解剤(尿素、サリチル酸など)、殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、第4級アンモニウム塩、ピロクトンオラミンなど)、保湿剤(ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸など)、各種動植物(イチイ、ボタンピ、カンゾウ、オトギリソウ、附子、ビワ、カワラヨモギ、コンフリー、アシタバ、サフラン、サンシシ、ローズマリ―、セージ、カミツレ、モッコウ、セイモッコウ、ホップ、プラセンタなど)の抽出物、ビタミン類(酢酸トコフェロール、パントテニールエチルエーテル、パンテノール、酢酸レチノール、アスコルビン酸、硝酸チアミン、シアノコバラミン、ビオチンなど)、抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ピロ亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソプロピルガレートなど)、溶解補助剤(アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、各種動植物油、炭化水素類など)、代謝賦活剤(パンテノールなど)、ゲル化剤(水溶性高分子など)、粘着剤、香料、清涼化剤(メントール、ハッカ油、カンフルなど)、染料などの通常使用される成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0021】
以下に、本発明を実施例および試験例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
表1に示した組成の原液を常法にて調製し、この原液と噴射剤のジメチルエーテルを表2で示した条件で各々充填し、実施例1〜11、比較例1〜6を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
試験例1
実施例1〜11及び比較例1〜6を、各条件にて保存後、噴射剤であるDMEを十分揮散させ原液を回収した。この原液の外観(白濁及び析出)及び容器(缶およびバルブ)の変化の確認した。
【0026】
この結果、マウンテンカップのコート剤がエポキシユリア若しくはエポキシフェノールであるときは回収原液に白濁が生じるが、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリアミドイミドにすることにより白濁が回避できることが分かった。
【0027】
またマウンテンカップ部のエポキシフェノールコートについては、本製剤によって経時的に剥離してしまうことが判明した。ポリエチレンテレフタレートコート及びポリアミドイミドコートは変化が無く問題なかった。またいずれのサンプルについても、その他のパーツ及び缶コート剤に変化は無かった。
【0028】
また、ハウジングの材質がポリブチレンテレフタレートである場合、回収原液に沈殿が生じるが、ポリオキシメチレン若しくはナイロンにすることにより沈殿物の析出が回避できることが分かった。
【0029】
試験例2
原液/ジメチルエーテルの噴射剤溶液比率の異なる実施例8(1/2)、実施例9(1/1)、実施例10(1/0.5)、実施例11(1/0.25)について、使用感の評価を行った。評価は、液だれ、頭皮・髪の爽快感、ジメチルエーテルの噴射剤臭の3項目について以下の3段階で官能的に評価した。
評価基準
○:全く気にならない若しくは爽快感に優れている。
△:気になる若しくは爽快感はあまり良くないが許容範囲である。
×:非常に気になる若しくは爽快感が悪い。
【0030】
また、総合判定は以下の4段階で評価した。
◎:極めて良い使用感
○:良い使用感
△:やや良い使用感
×:悪い使用感
結果を表3に示した。
【0031】
【表3】

【0032】
この結果から、原液/ジメチルエーテルの噴射剤容積比が1/0.5〜1/1である時、使用感に特に優れることが明らかとなった。
実施例
内面がポリアミドイミド樹脂塗料でコーティングされたアルミニウム製のエアゾール容器にバルブ(A)を装着し、内部に原液(B)および噴射剤(C)を収納した育毛剤(実施例12〜21)を調製した。
A.バルブ
A−1:アルミニウム生地にポリアミドイミド樹脂塗料をコーティングしたマウンテンカップ、ポリオキシメチレン製のハウジングおよびステム、ブチルゴム製ガスケットおよびステンレス製スプリングにて構成される倒立使用型定量バルブ。
A−2:アルミニウム生地にポリエチレンテレフタレートをラミネートしたマウンテンカップ、ポリオキシメチレン製のハウジングおよびステム、ブチルゴム製ガスケットおよびステンレス製スプリングにて構成される倒立使用型バルブ。
【0033】
B.原液
組成物B−1
(成分) (配合量)
ミノキシジル 2g
ペンタデカン酸グリセリド 0.1g
酢酸トコフェロール 0.08g
パントテニールエチルエーテル 1g
カミツレ油 0.001g
L−アルギニン 0.1g
トウガラシチンキ 0.1g
グリチルレチン酸 0.1g
l−メントール 0.3g
乳酸メンチル 0.1g
1,3-ブチレングリコール 10g
エタノール 60.05g
クエン酸 適量(原液pHを8に調整)
精製水 残部
合計 100mL
【0034】
組成物B−2
(成分) (配合量)
ミノキシジル 1g
ペンタデカン酸グリセリド 0.2g
酢酸トコフェロール 0.05g
パントテニールエチルエーテル 1g
カシュウチンキ 3mL
チクセツニンジンエキス 3mL
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
ヒノキチオール 0.05g
l−メントール 1g
1,3-ブチレングリコール 5g
グリセリン 5g
エタノール 60.05g
乳酸 適量(原液pHを8に調整)
精製水 残部
合計 100mL
【0035】
組成物B−3
(成分) (配合量)
ミノキシジル 3g
酢酸トコフェロール 0.05g
パントテノール 1g
l−メントール 1g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.1g
マクロゴール400 5g
1,3-ブチレングリコール 5g
グリセリン 5g
エタノール 55.76g
乳酸 適量(原液pHを8に調整)
精製水 残部
合計 100mL
【0036】
組成物B−4
(成分) (配合量)
ミノキシジル 5g
l−メントール 1g
マクロゴール400 10g
エタノール 60.05g
乳酸 適量(原液pHを5.4に調整)
精製水 残部
合計 100mL
【0037】
組成物B−5
(成分) (配合量)
ミノキシジル 1g
アデノシン 0.5g
ペンタデカン酸グリセリド 1g
酢酸トコフェロール 0.1g
パントテニールエチルエーテル 1g
チクセツニンジンエキス 2mL
グリチルレチン酸 0.1g
l−メントール 0.3g
1,3-ブチレングリコール 10g
イソプロピルアルコール 12g
エタノール 55.76g
乳酸 適量(原液pHを8に調整)
精製水 残部
合計 100mL
【0038】
C.噴射剤
C−1:ジメチルエーテル
C−2:ジメチルエーテルおよびLPG(容積比1:1)
【0039】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、ミノキシジル含有組成物をエアゾール剤としても白濁や析出物の発生が無く安定であったうえ、使用感にも優れたものであったので、医薬品などに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ミノキシジルを含む原液とジメチルエーテルを含む噴射剤からなる内容物、並びに(2)内容物との接触面がポリアミドイミドでコーティングされているか、もしくはポリエチレンテレフタレートでラミネート加工されている金属製のマウンテンカップに、ポリオキシメチレン製もしくはナイロン製のハウジングを接続したバルブを装着し、容器の内面が樹脂で被覆されている金属製のエアゾール容器、からなるエアゾール剤。

【公開番号】特開2013−56882(P2013−56882A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−215927(P2012−215927)
【出願日】平成24年9月28日(2012.9.28)
【分割の表示】特願2005−168617(P2005−168617)の分割
【原出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】