説明

エアバッグ装置及びエアバッグ装置におけるエアバッグの折り畳み方法

【課題】製作が容易でかつスムーズに展開可能なエアバッグ装置を得る。
【解決手段】
エアバッグ装置1は、エアバッグ10と、インフレータ30と、ガス整流部材12と、エアバッグ10の外周側面方向の膨張・展開を抑制する保持部材14と、を備える。エアバッグ10を構成する乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bは、乗員側パネル10aがインフレータ側パネル10bの外側を覆うようにしてそれぞれエアバッグの中心軸線に沿って別々に折り畳まれている。前記保持部材14は中心に開口部14hを備え、エアバッグ10の膨張・展開時には、乗員側パネル10aを前記開口部14hを通して展開し、その後、インフレータ側パネル10bを展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置及びエアバッグ装置におけるエアバッグの折り畳み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
折り畳み装置で折り畳まれたエアバッグを保持部材で覆い、エアバッグ装置の作動初期において、インフレータからのガスによるエアバッグの側面方向への膨張・展開を規制して、まず乗員側に展開させるようにしたエアバッグ装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図10は、前記従来のエアバッグ装置100の断面図である。
図中、110はエアバッグ、111はエアバッグ110の膨張・展開時にその延び出し長さを規制する筒状テザーベルトである。エアバッグ110は、エアバッグ110の外周側面を押さえてその初期の膨張・展開時において、エアバッグ側面方向の膨張・展開を抑制する保持部材114に収納されている。
エアバッグ110は、その乗員側パネルとインフレータ側パネルが保持部材114内において一緒にそれぞれエアバッグ110の中心を通る垂直線(ここではエアバッグの中心軸線という)方向にシュリンク折りされており、保持部材114と共にエアバッグ110内に挿入されたクッションリング122を介してベースプレート124に固定されている。エアバッグカバー116は保持部材114を収納した状態でベースプレート124に固定されている。
【0004】
一方、筒状テザーベルト111の端部は、エアバッグカバー116の乗員側の面に形成された凹部116aの背面側と連結部材120間に挟持され、ボルト140aとナット140bで固定されている。また連結部材120の端部は、クッションリング122とベースプレート124との間に挟持されている。なお、符号112はガス整流部材で、符号111cは前記エアバッグ110に筒状テザーベルト111を縫い合わされた縫合部である。
【0005】
次に、以上で概略説明した従来のエアバッグ装置におけるエアバッグ110の折り畳み装置及びエアバッグ110の折り畳み方法について、図11を参照して説明する。
図11において、160は従来の折り畳み装置を示す。この折り畳み装置は、図11Aに示すように、円柱状の筒状テザーベルト111を支持する支持具162と、この支持具162と同軸でかつ外側にエアバッグ110を収納する外筒シリンダ163を有するテーブル161と、前記支持具162の垂直上方位置に前記支持具162と等しい外径を有し、筒状テザーベルト111の上端を支持具162との間に挟持する円柱状の挟持具164(図11C参照)と、挟持具164を支持する支持部(図示せず)とから成っている。
このエアバッグ装置における前記支持具162の外径は、クッションリング122のインフレータ(図示せず)の挿入孔122hを挿通して上昇することができるように、その径より小さく形成されている。
【0006】
次に、前記従来の折り畳み装置160を用いて行うエアバッグ110の折り畳みについて説明する。
まず、図11Aに示すように、エアバッグ110のインフレータ取付孔の周辺部に形成された小孔に、クッションリング122のボルト122dを挿通させ、そのボルト122dをテーブル161の支持具162の外周上端面に設けた孔に固定する。
また、前記クッションリング122のインフレータ取付孔に挿通した支持具162の頭部を筒状テザーベルト111の筒中に挿入させ、エアバッグ110を、筒状テザーベルト111の周りを平らにしてテーブル161上に配置する。
【0007】
続いて、図11Bに示すように、支持具162を上昇させて筒状テザーベルト111を押し上げ、エアバッグ110をこれにより上昇させる。
この場合、前記筒状テザーベルト111の長さは、エアバッグ110の長さの略半分に等しいので、支持具162をテーブル161から筒状テザーベルト111の長さの最大限約3倍の高さの位置まで上昇させてその位置で停止させる。
【0008】
続いて、図11Cに示すように、挟持具164を下降させて筒状テザーベルト111を支持具162及び挟持具164で挟持し、その挟持状態を維持して支持具162及び挟持具164を下降させ、支持具162及び挟持具164が筒状テザーベルト111の半分の長さの位置まで下降したところで動作を一旦停止する。
次に、図11Dに示すように、手作業で外側のエアバッグ110を上方向に引き上げ、筒状テザーベルト111をその略中間の位置で折り畳む。
【0009】
その状態で、図11Eに示すように、外筒シリンダ163をテーブル161から筒状テザーベルト111の上端の挟持位置まで上昇させ、エアバッグ110を外筒シリンダ163と支持具162との間に収納する。
続いて、図11Fに示すように、左右対称で半円形の穴を有する2枚のプレート165を、外筒シリンダ163の上端上で左右方向から摺動して、挟持具164の下端部に設けた嵌合溝(図示せず)に嵌合させる。
【0010】
続いて、図11Gに示すように、支持具162、挟持具164及び外筒シリンダ163を同時に下降することで、折り畳まれた筒状テザーベルト111は自身が重なった状態でエアバッグ110と一緒に圧縮されながら、図11Hに示すようにシュリンク折りされる。
ここで、図11には示していないが、実際には、クッションリング122のインフレータ取付孔の周りにはガス整流部材がエアバッグ110と一体に取り付けられており、エアバッグ110の折り畳み時に、このガス整流部材112(図10参照)も折り重ねられたエアバッグ110の間に入り込んでエアバッグ110と共に折り畳まれる。
【0011】
従来技術のエアバッグ110は以上のように折り畳まれるが、図11Fの状態から図11Gの状態への折り畳み過程では、支持具162、挟持具164、外筒シリンダ163及び2枚のプレート165を同時に下降させて折り畳み(シュリンク折り)が行われる(但し、実際には、図11Hのように綺麗な蛇腹状態にはならない)。折り畳み過程におけるエアバッグ110は、図11Dの状態では、乗員側パネル110aとインフレータ側パネル110bとがテーブル161から上向きに一直線に引っ張られた状態であって、図11F、Gの状態では下降するプレート165に押された状態で、折り畳まれたインフレータ側パネル110bと乗員側パネル110aとが直列状に並んで配置されている。
【0012】
この状態でエアバッグ110が図11Gから11Hの状態に折り畳まれると、インフレータ側パネル110bの内側に配置されたガス整流部材112(図10)は、上記折り畳み作業によってインフレータ側パネル110bと共に折り畳まれる(つまり、折り込まれる)。その結果、ガス整流部材112の上端は乗員側パネル110aの折り畳み部分にまで到達せず、折り畳んだ乗員側パネル110aの内周壁はガス整流部材112でカバーされず露出した状態になる。
【0013】
従って、図11Hのように折り畳んだエアバッグ110をそのままエアバッグ装置に組み込み、作動時にインフレータ130(図10)からガスが供給されると、保持部材114の開口114a(図10)に対向する乗員側パネル110aの部分はその開口114aを通して乗員側に展開するが、ガス整流部材112に覆われず、内周壁が露出した乗員側パネル110aの折り畳み部分は、インフレータ130から噴射するガスが直接当たるので、その折り畳まれた状態のまま保持部材114の開口114aから乗員側へ展開してしまう。つまり、折り畳み部分が塊となって、そのまま開口114aを通って乗員側に出ていってしまい、エアバッグ110は保持部材114の開口114aから順に引き出されなくなり、エアバッグ110の側面方向の膨張・展開を抑制する効果を得ることができない。
【0014】
そのため、従来のエアバッグ110は、折り畳み作業が終了した後、インフレータ側パネル110bに折り込まれたガス整流部材112を引き出し、そのガス整流部材112を折り畳まれた乗員側パネル110aの内周壁に沿って手作業で配置しなくてはならず、組み立て作業に手間が掛かるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−341715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、エアバッグを自動で折り畳んだとき、従来のように折り畳まれたエアバッグからガス整流部材を引き出す等の煩雑な作業をなくし、かつ、エアバッグの膨張・展開に当たっては、保持部材の開口部を通して乗員側パネルからスムーズに展開させて安定した動作を可能にし、乗員の安全を確保することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明はエアバッグ装置であって、インフレータと、インフレータから発生するガスにより膨張する乗員側パネル及びインフレータ側パネルで構成されるエアバッグと、エアバッグを折り畳み収納状態に保持し、少なくともエアバッグの展開初期にインフレータから発生するガスによるエアバッグの側面方向の膨張・展開を抑制する保持部材と、インフレータから発生するガスを前記展開初期に膨張する前記乗員側パネルの部分に導くガス整流部材と、を備え、前記保持部材には前記展開初期に前記乗員側パネルが膨張する部分に対応する位置に開口部が設けられ、前記インフレータ側パネルはエアバッグの中心軸線に沿って折り畳まれ、かつ前記乗員側パネルは前記インフレータ側パネルの外側を覆うように、エアバッグの中心軸線に沿って折り畳まれていることを特徴とする。
(2)本発明は、前記(1)に記載されたエアバッグ装置におけるエアバッグの折り畳み方法であって、前記インフレータ側パネルの中央部を折り畳みテーブルに固定した状態で乗員側パネル中央部を所定量上昇させる工程と、前記乗員側パネルを前記インフレータ側パネルの周りで山折りして前記インフレータ側パネルの外側に配置する工程と、前記山折りした乗員側パネルとインフレータ側パネルとをそれぞれ前記折り畳みテーブルに向けて圧縮させ、エアバッグの中心軸線に沿って折り畳む工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エアバッグを構成する乗員側パネルとインフレータ側パネルとを別々に、つまり、それぞれ別個に折り畳んだ乗員側パネルをインフレータ側パネルの外側を覆うように配置したため、従来のように折り畳まれたエアバッグからガス整流部材を引き出す等の煩雑な作業をなくし、かつ、エアバッグの膨張・展開に当たっては、保持部材の開口部を通して乗員側パネルからスムーズに展開するため、安定した動作が可能であり乗員の安全を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るエアバッグ装置のステアリングホイールに対する装着状態を示す正面図である。
【図2】図1のI−I線に沿った横断面図である。
【図3】図2に示すベースプレートの裏面を示す斜視図である。
【図4】図4Aはクッションリングの正面図、図4Bはその一部を断面で示した側面図を示す。
【図5】図5Aは膨張状態のエアバッグの内部を示す透視斜視図であり、図5Bは非膨張状態のエアバッグを裏側からみた斜視図である。
【図6】本実施形態で使用する保持部材の一例を示し、図6Aは、エアバッグを覆う前の展開図である。図6Bは、エアバッグを覆う前の保持部材と、折り畳まれたエアバッグの裏側の斜視図である。図6Cはエアバッグを保持部材で覆った状態を乗員側からみた斜視図である。図6Dは、図6Cの保持部材で覆ったエアバッグの裏面からみた斜視図である。
【図7AB】本エアバッグの折り畳み装置及び折り畳み方法を説明する図である。
【図7CD】本エアバッグの折り畳み装置及び折り畳み方法を説明する図である。
【図7EF】本エアバッグの折り畳み装置及び折り畳み方法を説明する図である。
【図8ABC】保持部材に収納した状態にあるエアバッグがエアバッグ装置の作動時において膨張・展開する様子を示す断面図である。
【図8DE】保持部材に収納した状態にあるエアバッグがエアバッグ装置の作動時において膨張・展開する様子を示す断面図である。
【図9A】本実施形態に係るエアバッグにおいて、膨張・展開を開始した段階におけるエアバッグと乗員をその側方から見た図である。
【図9B】エアバッグの膨張・展開が更に進んだ状態を示す図9Aと同様の図である。
【図10】従来のエアバッグ装置の断面図である。
【図11】従来のエアバッグ装置におけるエアバッグの折り畳み装置及びエアバッグの折り畳み方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係るエアバッグ装置のステアリングホイールに対する装着状態を示す正面図であり、図2は、図1のI−I線に沿った横断面図である。
本実施形態に係るエアバッグ装置1は、従来と同様にエアバッグ10、及びエアバッグ10を保持してエアバッグ側面方向の膨張・展開を抑制する保持部材14を備えている。エアバッグ10は、図示のようにエアバッグの中心軸線CLに沿ってシュリンク折りされた状態で、保持部材14内に収納されており、保持部材14は折り畳まれたエアバッグ10を収納した状態で、エアバッグ10内に挿入されたクッションリング22を介してベースプレート24に固定されている。ベースプレート24は、保持部材14を収納したエアバッグカバー16に連結されている。
ここで、エアバッグ10の折り畳みの状態は、既に説明した従来のものと相違して、エアバッグ10を構成する乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bについて、乗員側パネル10aがインフレータ側パネル10bの外側を覆うようにして、エアバッグ10の中心軸線に沿って別々に折り畳まれている。
なお、図中Sは乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bとの接合部(又はエアバッグの外周縁部)を示す。
【0021】
次に、以上で説明した本エアバッグ装置1を構成する各構成要素について概略説明する。
(ベースプレート)
図3は、図2に示すベースプレート24の裏面(乗員側と反対側の面)を示す斜視図である。
ベースプレート24は、インフレータ30(図2)とエアバッグ10を一体的に固定するものであって、従来のものと同様に略円板状に形成されている。
ベースプレート24はその中央部にインフレ一タ取付孔24hが、またその周縁部には複数、例えば4個のエアバッグカバー用取付片24aと、ベースプレート24をステアリングホイール40(図1)に固定するための一対の取付片24bが、それぞれ前記円板面から切り起こして形成されている。
【0022】
(インフレータ)
インフレータ30(図2)は、ベースプレート24のインフレ一タ取付孔24hを介してその表側に突出配置された状態で固定され、エアバッグ装置1の作動時に、インフレータ30のガスが、ベースプレート24の表側(乗員側)で噴射するようになっている。
【0023】
(クッションリング)
図4Aはクッションリング22の正面図、図4Bはその一部を断面で示した側面図を示す。
クッションリング22は、図4Aに示すように略矩形状をなし、その中央部にはインフレータ挿入孔22hが設けられ、且つこのインフレータ挿入孔22hの周りの各隅部には、クッションリング22をベースプレート24に取り付けるためのボルト22dを挿通するボルト挿通孔22aが設けられている。また、その裏面には、ベースプレート24の表面側にエアバッグ10を介して当接可能な当接面22bが形成されている。
【0024】
(エアバッグ)
図5A及び5Bを参照してエアバッグ10を説明する。
図5Aは膨張状態のエアバッグ10の内部を示す透視斜視図であり、図5Bは非膨張状態のエアバッグ10を裏側からみた斜視図である。
エアバッグ10は、2枚の略円形状の基布(つまり、乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10b)の外周縁部同士を縫い合わせ、扁平な球状(楕円体状)に展開可能な袋状に形成されている。エアバッグ10の裏側つまりインフレータ側パネル10bの中央部には、インフレータ取付孔10ahが形成されると共に、そのインフレータ取付孔10ahの周辺部10dにクッションリング22のボルト22d(図4B参照)を通すための複数、例えば4個の小孔10cが形成されている。
【0025】
エアバッグ10の乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bは、後述するように上下に圧縮するように別々にエアバッグの中心軸線に沿ってシュリンク折りされてエアバッグカバー16内に収納されている。
【0026】
(ガス整流部材)
図5Aに示すように、このエアバッグ10のインフレータ側パネル10bのインフレータ取付孔10ah周縁には、既に述べたようにガス整流部材12が取り付けられている。このガス整流部材12は、エアバッグ10の展開初期に膨張する部分(保持部材14の円形の開口部14h(図6)から最初に展開する乗員側パネル10aの中央部)の近傍までガスを案内する。
【0027】
ガス整流部材12は、図5Aに示すように、例えば織布製で円形に形成されており、その形状は中心が円形のインフレータ取付孔12aで、その中心のインフレータ取付孔12aの直径は、インフレータ側パネル10bのインフレータ取付孔10ahの直径と同じである。また、ガス整流部材12の長さは、エアバッグ10の展開初期に膨張する部分の近傍に届く長さである。
【0028】
このガス整流部材12をインフレータ側パネル10bのインフレータ取付孔10ahの周りに取り付けるには、前記ガス整流部材12の中心のインフレータ取付孔12aとインフレータ側パネル10bのインフレータ取付孔10ahとを位置整合させ、それぞれのインフレータ取付孔12a、10ahの周縁を縫合する。このガス整流部材12は、熱やガス圧の衝撃を保護する保護機能とエアバッグ10の折り畳み収納後にガスを整流する整流機能を有している。
【0029】
(保持部材)
図6は本実施形態で使用する保持部材の一例を示す。
図6Aは、エアバッグ10を覆う前の保持部材の展開図である。この保持部材14は織布製で略正方形の形状であり、その中央には円形の開口部14hが設けられ、略正方形の4辺の中心と対角線上の端辺に前記クッションリング22のボルト22dに係合する8個の小孔14ah、14bhが設けられている。前記略円形の開口部14hは、エアバッグ10の膨張・展開初期に乗員側パネル10aが通り抜けるのに必要な大きさを有する。
【0030】
図6Bは、エアバッグ10を覆う前の保持部材14と、後述するエアバッグ折り畳み装置50(図7)で折り畳まれたエアバッグ10の裏側の斜視図である。折り畳まれたエアバッグ10から突出するクッションリング22の4つのボルト22dに、前記エアバッグ10の4個の小孔14ahをそれぞれ1つずつ係合する。その後に対角線上に位置する4個の小孔14bhを対角位置で対向する2カ所のボルト22dに各2つずつ嵌合する。
【0031】
図6Cは折り畳まれたエアバッグ10を保持部材14で覆った状態を乗員側からみた斜視図である。開口部14hからは乗員側パネル10aが露出している。
図6Dは、図6Cの保持部材14で覆ったエアバッグ10の裏面からみた斜視図である。エアバッグ10の折り畳み時に予めインフレータ側パネル10bに挿入しておいたクッションリング22のボルト22dが、インフレータ取付孔10ahの周辺部10dから突出した状態になっている。また、ガス整流部材12は、折り畳まれたインフレータ側パネル10bの内周に折り込まれて配置されており、インフレータ30(図2)からのガスがエアバッグ10内に噴射されると、折り畳まれたエアバッグ10の内壁に沿うように乗員側パネル10a中央部に向かって延出する。
【0032】
保持部材14は、折り畳まれたエアバッグ10(インフレータ側パネル10b)の側面等を覆い、エアバッグ10の展開初期において、インフレータ30から発生するガスによるエアバッグ10の側面方向への膨張・展開を抑制する。
【0033】
次に、本発明の実施形態に係るエアバッグの折り畳み装置及び折り畳み方法について説明する。
図7A〜7Eは、前記折り畳み装置及び折り畳み方法を説明する図である。
まず折り畳み装置50について説明する。
本エアバッグ10の折り畳み装置50は、基台52側に設置される基台側部材と、基台52から上方に所定の間隔を隔てて配置された天井支持体側部材とからなっている。
基台側部材は、基台52に図示しない支持手段で固定された折り畳みテーブル51と、基台52上で所定径の円周に沿って設置され、前記折り畳みテーブル51の貫通孔を通して伸縮自在、即ち上下動自在に配置された円筒状のヘッド部54aを有する複数の下部シリンダ機構53aと、前記下部シリンダ機構53aの前記円周の中心位置で基台52上に配置され、折り畳みテーブル51の中心に形成された貫通孔を通して伸縮自在、即ち上下動自在な円筒状のヘッド部54bを備えた下部中央シリンダ機構53bと、から成っている。
【0034】
天井支持体側部材は、前記下部シリンダ機構53aに対応して天井支持体55に設置された複数の上部シリンダ機構56aと、前記下部中央シリンダ機構53bに対応して設置された上部中央シリンダ機構56bから成っている。ここで、複数の上部シリンダ機構56aは、下部シリンダ機構53aが配置された円周よりも大径の円周に沿って設置されており、その円周の中心には、上部中央シリンダ機構56bが設置されている。また、前記複数の上部シリンダ機構56aのそれぞれその伸縮端にも円筒状のヘッド部57aが取り付けられている。また、前記上部中央シリンダ機構56bの伸縮端には、例えば円板状の上部プレート57bが取り付けられている。前記上部シリンダ機構56aのヘッド部57aは、前記上部プレート57bの周りでこれに対して相対移動可能に配置されている。
【0035】
次に、以上で説明した折り畳み装置50を用いて行うエアバッグの折り畳み方法について説明する。
まず、最初に、エアバッグ10を折り畳みテーブル51上に置き、そのインフレータ側パネル10b及びそのインフレータ取付孔10ahの周縁に取り付けたガス整流部材12を、折り畳みテーブル51に固定する。即ち、エアバッグ10のインフレータ取付孔10ahの周辺部10d(図5)に形成された、例えば4個の小孔10c(図5A)、及びガス整流部材12の同様の小孔(図示せず)に、エアバッグ10内に配置したクッションリング22のボルト22d(図4B)を挿通し、そのボルト22dを前記折り畳みテーブル51の前記貫通孔の周縁に設けた4個の孔(図示せず)に挿入してナット(図示せず)で固定する。
【0036】
図7Aは、エアバッグの折り畳み装置50の折り畳みテーブル51上にエアバッグ10を固定して載置した状態を示している。
この状態では、エアバッグ10の乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bは上(表側)、下(裏側)になっている。また、前記下部中央シリンダ機構53bの円筒状のヘッド部54bは、折り畳みテーブル51の貫通孔内で、かつ折り畳みテーブル51に取り付けたエアバッグ10のインフレータ側パネル10bのインフレータ取付孔10ah内で待機している。
【0037】
次に、下部中央シリンダ機構53bを作動させて、図7Bに示すようにそのヘッド部54bの上端で、エアバッグ10の乗員側パネル10aを、静止した上部中央シリンダ機構56bの上部プレート57bの下面に当接するまで押し上げる。
続いて、円周状に配置された各下部シリンダ機構53aの前記ヘッド部54aを上昇させて、そのヘッド部54aの先端を下部のインフレータ側パネル10bの裏側に当接させる。下部シリンダ機構53aのヘッド部54aをさらに上昇させると、それに伴ってヘッド部54aとインフレータ側パネル10bとの接触点は、インフレータ側パネル10bと乗員側パネル10aとの接合部つまり境界部に向かってずれていく。そして、図7Cに示すように、前記境界部でヘッド部54aの上昇を停止させる。
【0038】
この状態では、前記境界部近傍から外側のパネル部分、即ち乗員側パネル10aは、上端側は上部プレート57bで抑えられている一方、下端側はヘッド部54aで押し上げられる結果その中間部分で二つ折りされる。つまり、エアバッグ10は、図7Cに示すように、前記ヘッド部54aとの当接部分を境に、二つ折りされた乗員側パネル10aが外側に、また前記境界部が引き上げられたインフレータ側パネル10bが内側に配置された状態になる。
【0039】
続いて、上部プレート57bはそのまま、つまり静止状態を維持しつつ、上部シリンダ機構56aの伸縮端のヘッド部57aを下降させる。既に述べたように、上部シリンダ機構56aが配置された円周の径は、下部シリンダ機構53aが配置された円周の径よりも大径であるから、上部シリンダ機構56aのヘッド部57aは乗員側パネル10aの表側表面に当接し、その先端部で前記乗員側パネル10aを下部シリンダ機構53aのヘッド部54aの先端部の周りで回転させるように下方に押し込んで屈曲させる。
【0040】
図7Dは、このように屈曲された乗員側パネルの形状を示している。
ここでは、エアバッグ10の乗員側パネル10aは、外側の上部シリンダ機構56aのヘッド部57aと、内側の下部シリンダ機構53aのヘッド部54aの間に挟み込まれて二つ折りされている。
【0041】
続いて、全てのシリンダ機構53a、53b、56a、56bの各ヘッド部54a、54b、57a及び上部プレート57bを一斉に等速で下降させる。これにより、折り畳みテーブル51に固定されたエアバッグ10、即ち、乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bは、それぞれ上部プレート57bにより押し潰されるように、つまりシュリンク折りにてエアバッグの中心軸線に沿って折り畳まれていき、図7Eに示す状態になる。
【0042】
その際、乗員側パネル10aは、上部シリンダ機構56aのヘッド部57aと下部シリンダ機構53aのヘッド部54b間に配置されているので、上部プレート57bの下降に伴って前記上部及び下部シリンダ機構56a、53a間の領域内において折り畳まれ、また、インフレータ側パネル10b及びガス整流部材12は、下部シリンダ機構53aのヘッド部54aと下部中央シリンダ機構53bのヘッド部54bで囲まれた中央領域内において折り畳まれる。
【0043】
図7Fは、このように、乗員側パネル10aとインフレータ側パネル10bがそれぞれ別々に折り畳まれたエアバッグ10を、保持部材14で保持した状態を示す断面図である。
図示のように、乗員側パネル10aは、折り畳まれたインフレータ側パネル10bを覆うようにその外側で折り畳まれており、インフレータ側パネル10bは、インフレータ30の周囲を取り囲むように折り畳み配置され、また、ガス整流部材12は既に述べたようにインフレータ側パネル10bに取り付けられているので、ガス整流部材12も同時にインフレータ30の周りに折り畳み配置される。
【0044】
次に、以上のように折り畳まれたエアバッグ10の膨張・展開について図8を参照して説明する。
図8A〜Eは、保持部材14に収納した状態にあるエアバッグ10がエアバッグ装置の作動時において膨張・展開する様子を示す断面図である。
本エアバッグ装置においては、インフレータ側パネル10bの外側を乗員側パネル10aが覆うようにそれぞれ別個に折り畳まれているため、エアバッグ装置の作動時に、インフレータ30から噴射されたガスは、ガス整流部材12に案内されて折り畳まれたインフレータ側パネル10bの内周に形成される空間の天井面を覆う乗員側パネル10aに当たる。
【0045】
即ち、図8Aの状態でエアバッグ装置が作動すると、インフレータ30から収納状態にあるエアバッグ10内にガスが噴射され、噴射されたガスは折り畳まれたガス整流部材12を引き延ばしながらそれに案内されて、保持部材14の中央の円形の開口部14hに位置する乗員側パネル10aの中央部分に当たる。これにより、図8Bに示すように乗員側パネル10aの中央部分は開口部14hから外へ押し出されて展開する。
【0046】
乗員側パネル10aが開口部14hの外に最初に展開した後は、保持部材14により側面方向への展開が抑制されているため、外に展開した乗員側パネル10aがインフレータ30からのガス圧を受けて、その周りの残りの乗員側パネル10aを開口部14hから引き出すように、エアバッグの外周部(乗員側パネル10a)を順に展開させていく。また、その過程で、図8Cに示すように、乗員側パネル10aは開口部14hを反転させながら外方及び側方にスムーズに展開する。
図8Dは、このようにして膨張・展開した乗員側パネル10aを示す。
【0047】
乗員側パネル10aが展開し終わると、続いてインフレータ側パネル10bが外方及び側方へ展開し、最終的には図8Eに示すように、エアバッグ10(乗員側パネル10a、インフレータ側パネル10b)は完全に展開する。
【0048】
次に、展開するエアバッグ10と乗員との関係について説明する。
本エアバッグは、正規着座した乗員については、作動時にその乗員側パネル10aから以上で説明したようにスムーズに膨張展開して乗員を保護することができるが、とくに、乗員が正規着座でなく、ステアリングホイール40に近接して着座している場合であっても、スムーズに膨張展開すると共に、乗員を安全に保護することができる。
次に、このような場合におけるエアバッグ10の展開について説明する。
図9Aは、本実施形態に係るエアバッグ10において、膨張・展開の比較的初期の段階におけるエアバッグ10と正規着座でない乗員Oをその側方から見た図である。
既に述べたように、本実施形態に係るエアバッグ10は、まず乗員側パネル10aが膨張・展開する。その際、乗員Oがエアバッグ10に覆い被さるようにエアバッグ10に近接している場合、乗員側パネル10aは乗員の身体の表面形状に沿って展開して乗員の身体を保護する。
この場合、インフレータ側パネル10bは保持部材14から引き出されている段階であり、その接合部(外周縁部)Sは、乗員側パネル10aよりも反乗員方向に位置し、その乗員側パネル10aの展開する先端側は、ステアリングホイール40の12時側リムの下に入り込んでいる。
【0049】
図9Bはエアバッグの膨張・展開が更に進んだ状態を示す図9Aと同様の図である。
乗員Oの顎の下部から外側に掛けての膨張が一層顕著になっている。即ち、図9Bに示すように、乗員側パネル10aよりも反乗員側に位置する接合部(外周縁部)Sは、インフレータ側パネル10bが保持部材14から引き出されるに伴い、反乗員側に向けて膨張・展開する。即ち、ステアリングホイール40の12時側リム下には比較的大きな空間があるため、エアバッグはステアリングホイール40の12時側リムの下に潜り込み膨張展開していく。したがって、乗員の顎を下から直撃することはない。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、エアバッグ10(乗員側パネル10a、インフレータ側パネル10b)を折り畳むときに、乗員側パネル10aは、インフレータ側パネル10bの外側でそれを覆うように折り畳まれるため、エアバッグの展開は、保持部材14の開口部14hを通して、必ず乗員側パネル10aの中央部の乗員側への展開から始まり、その後は外側へ展開した乗員側パネル10aの中央部がそれに続く(そこから放射状に拡がる)乗員側パネル10aの側面を引き出すようにスムーズに展開していく。
【0051】
なお、本実施形態においても、既に述べたように従来と同様にエアバッグ10の折り畳み時に、ガス整流部材12は、エアバッグ10のインフレータ側パネル10bと共に折り畳まれ、インフレータ側パネルに折り込まれる。
しかし、本実施形態においては、その折り畳み過程において、従来の図11Fに示すように乗員側パネル110aとインフレータ側パネル110bとが直線上(直列)に配置されるのとは異なり、図7C、Dに示すように折り畳まれた乗員側パネル10aは折り畳まれたインフレータ側パネル10bの外側に配置される(並列に並んで配置)。そのため、ガス整流部材12がインフレータ側パネル10bに折り込まれていても、インフレータ30からガスが供給された場合、乗員側パネル10aの折り畳み部分には、ガスは直接作用しない。即ち、保持部材14の開口14hに対向する乗員側パネル10aの部分からその開口14hを通じて展開が始まり、乗員側パネル10aの折り畳み部分は徐々に引き出されながらその開口14hを通って展開する(図8B〜図8D:つまり、乗員側パネル10aはその折り畳み部分の塊が解放されてから、開口14hを通って乗員側に出ていく)。
【0052】
また、インフレータ30から供給されたガスは、インフレータ側パネル10bの内側に作用して外方へ押し広げようとする。この時、インフレータ側パネル10bに折り込まれたガス整流部材12はインフレータ側パネル10bより引き出され、そのガス整流部材12の乗員側端部が保持部材14の開口14hの近傍に位置付けられる。従って、ガス整流部材14はインフレータ30から噴射されるガスを整流する機能を維持することができるので、従来のように、折り畳み作業終了後に、インフレータ側パネルに折り込まれたガス整流部材を手作業で引き出す必要はない。
【符号の説明】
【0053】
1・・・エアバッグ装置、10・・・エアバッグ、10a・・・乗員側パネル、10b・・・インフレータ側パネル、12・・・ガス整流部材、14・・・保持部材、16・・・エアバッグカバー、22・・・クッションリング、24・・・ベースプレート、30・・・インフレータ、40・・・ステアリングホイール、50・・・折り畳み装置、51・・・折り畳みテーブル、52・・・基台、53a・・・下部シリンダ機構、53b・・下部中央シリンダ機構、54a、54b・・・ヘッド部、55・・・天井支持体、56a・・・上部シリンダ機構、56b・・・上部中央シリンダ機構、57a・・・ヘッド部、57b・・・上部プレート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータと、インフレータから発生するガスにより膨張する乗員側パネル及びインフレータ側パネルで構成されるエアバッグと、エアバッグを折り畳み収納状態に保持し、少なくともエアバッグの展開初期にインフレータから発生するガスによるエアバッグの側面方向の膨張・展開を抑制する保持部材と、インフレータから発生するガスを前記展開初期に膨張する前記乗員側パネルの部分に導くガス整流部材と、
を備え、
前記保持部材には前記展開初期に前記乗員側パネルが膨張する部分に対応する位置に開口部が設けられ、
前記インフレータ側パネルはエアバッグの中心軸線に沿って折り畳まれ、かつ前記乗員側パネルは前記インフレータ側パネルの外側を覆うように、エアバッグの中心軸線に沿って折り畳まれていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたエアバッグ装置であって、
前記開口部は前記乗員側パネルの中央部に対向して配置され、前記保持部材の裏面にエアバッグの乗員側パネルの外周縁部が配置されていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたエアバッグ装置において、
前記インフレータ側パネル及び前記ガス整流部材は、前記インフレータの周りで折り畳まれていることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1に記載されたエアバッグ装置におけるエアバッグの折り畳み方法であって、
前記インフレータ側パネルの中央部を折り畳みテーブルに固定した状態で乗員側パネル中央部を所定量上昇させる工程と、
前記乗員側パネルを前記インフレータ側パネルの周りで山折りして前記インフレータ側パネルの外側に配置する工程と、
前記山折りした乗員側パネルとインフレータ側パネルとをそれぞれ前記折り畳みテーブルに向けて圧縮させ、エアバッグの中心軸線に沿って折り畳む工程と、
を有することを特徴とするエアバッグの折り畳み方法。
【請求項5】
請求項4に記載されたエアバッグの折り畳み方法であって、
前記山折り位置を、乗員側パネルとインフレータ側パネルとの接合部にしたことを特徴とするエアバッグの折り畳み方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載されたエアバッグの折り畳み方法であって、
前記ガス整流部材と前記インフレータ側パネルとを前記インフレータの周りでエアバッグの中心軸線に沿って折り畳むことを特徴とするエアバッグの折り畳み方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7AB】
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【図7CD】
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【図7EF】
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【図8ABC】
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【図8DE】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−103661(P2013−103661A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250034(P2011−250034)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】