説明

エアバッグ装置

【課題】展開前に乗員の膝よりも上側に配置された膝保護用バッグを、インストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開させることができるエアバッグ装置を得る。
【解決手段】助手席用エアバッグ装置10は、インフレータ22と、ガス供給を受けてインストルメントパネル16に対する車室C側で膨張、展開されることで車両乗員Pの両膝Kを前側から拘束する膝拘束部36と、膝拘束部36に対する車幅方向の両端部にそれぞれ一体に設けられた左右一対の下向展開部38とを備えている。下向展開部38は、インフレータ22からガス供給を受けて車両乗員Pの膝Kに対する上側から下向きに展開されると共に、インフレータ22からのガスを膝拘束部36に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の膝を保護するための膝拘束部を備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の上体を拘束するためのエアバッグに膝を拘束するためのエアバッグを連設したエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、乗員の上体を拘束するためのエアバッグと、膝を拘束するためのエアバッグとを、共通の蓄圧器からのガス供給によって同時に膨張展開させるエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7−17662号公報
【特許文献2】特開昭51−23917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膝拘束用のエアバッグが上体拘束用のエアバッグに一体に設けられた構成では、インフレータから車両後向きにガスが供給される上体拘束用のエアバッグ経由で膝拘束用のエアバッグにインフレータからのガスが供給されることになるので、膝拘束用のエアバッグをインストルメントパネルに沿って展開させることが難しい。
【0005】
本発明は、展開前に乗員の膝よりも上側に配置された膝保護用のエアバッグを、インストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開させることができるエアバッグ装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係るエアバッグ装置は、ガス発生手段と、ガス供給を受けてインストルメントパネルに対する車室側で膨張、展開されることで、車両乗員の両膝を車両前後方向の前側から拘束する膝拘束部と、前記膝拘束部に対する車幅方向の両端部にそれぞれ一体に設けられ、前記ガス発生手段からガス供給を受けて車両乗員の膝に対する車両上下方向の上側から下向きに展開されると共に、前記ガス発生手段からのガスを前記膝拘束部に供給する左右一対の下向展開部と、を備えている。
【0007】
請求項1記載のエアバッグ装置では、例えば車両の前面衝突の際に、ガス供給手段からガスによって左右一対の下向展開部がそれぞれインストルメントパネルに対する車室側で膨張、展開される。すると、左右一対の下向展開部に一体に設けられた膝拘束部が該左右一対の下向展開部間で、膨張完了前に展開される。そして、左右一対の下向展開部を通じてガスが供給された膝拘束部は、左右一対の下向展開部の間で膨張されて展開が完了される。この膝拘束部によって乗員の両膝が車両前側から拘束される。
【0008】
すなわち、先ず下向展開部が車両下向きに展開されることで、膝拘束部が膝よりも上側から膝下まで予備的に展開され、次いで膝拘束部が下向展開部からのガス供給によって膨張されることで、該膝拘束部がインストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開される。
【0009】
このように、請求項1記載のエアバッグ装置では、展開前に乗員の膝よりも上側に配置された膝保護用のエアバッグを、インストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明に係るエアバッグ装置は、ガス発生手段と、前記ガス発生手段からガス供給を受けて、車両乗員の膝に対する車両上下方向の上側でかつ膝中心に対する左右方向の外側から、車両上下方向の下向きに展開される左右一対の下向展開部と、前記一対の下向展開部を通じてガス発生手段からのガス供給を受けて、インストルメントパネルに対する車室側で前記一対の下向展開部間を架け渡すように膨張、展開されることで、車両乗員の両膝を車両前後方向の前側から拘束する膝拘束部と、を備えている。
【0011】
請求項2記載のエアバッグ装置では、例えば車両の前面衝突の際に、ガス供給手段からガスによって左右一対の下向展開部がそれぞれインストルメントパネルに対する車室側で膨張、展開される。すると、左右一対の下向展開部間が膨張完了前の膝拘束部によって架け渡される。そして、左右一対の下向展開部を通じてガスが供給された膝拘束部は、左右一対の下向展開部の間で膨張されて展開が完了される。この膝拘束部によって乗員の両膝が車両前側から拘束される。
【0012】
すなわち、先ず下向展開部が車両下向きに展開されることで、膝拘束部が膝よりも上側から膝下まで予備的に展開され、次いで膝拘束部が下向展開部からのガス供給によって膨張されることで、該膝拘束部がインストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開される。
【0013】
このように、請求項2記載のエアバッグ装置では、展開前に乗員の膝よりも上側に配置された膝保護用バッグを、インストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開させることができる。
【0014】
請求項3記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置において、前記一対の下向展開部と前記膝拘束部とは、共通の基布にて一体に形成されると共に、前記膝拘束部に作用する所定値以上の内圧によって破断されるティアシームにて仕切られている。
【0015】
請求項3記載のエアバッグ装置では、一対の下向展開部がガス発生手段からのガスによって展開され、下向展開部を経由してガスが供給された膝拘束部の内圧が所定値以上になると、ティアシームが破断される。これにより、一対の下向展開部からティアシームの破断部分を通じて、膝拘束部へのガス供給が開始又は促進される。
【0016】
請求項4記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置において、前記一対の下向展開部は、前記膝拘束部とは独立した袋体として構成されている。
【0017】
請求項4記載のエアバッグ装置では、一対の下向展開部がガス発生手段からのガスによって展開され、これら下向展開部を通じて該下向展開部から膝拘束部へガスが供給される。
【0018】
請求項5記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1〜請求項4の何れか1項記載のエアバッグ装置において、前記一対の下向展開部及び膝拘束部と共にインストルメントパネル内で折り畳まれ、ガス供給を受けて前記インストルメントパネルに対する車室側で膨張、展開されることで、車両乗員の上体を車両前後方向の前側から拘束する上体拘束部をさらに備えている。
【0019】
請求項5記載のエアバッグ装置では、例えば車両の前面衝突の際にガス供給装置からガスが供給されると、膝拘束部、上体拘束部がそれぞれ膨張、展開される。上体拘束部と共に折り畳まれた膝保護部は、乗員の膝よりも上側から下向きに展開されることとなる。ここで、上記の通り下向展開部の膨張展開に伴い膝の上側から膝下まで予備的に展開された膝拘束部がガス供給により膨張される構成であるため、膝拘束部はインストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開(完了)される。すなわち、本エアバッグ装置では、上体拘束部と一体に形成された膝拘束部を、インストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開させることができる。
【0020】
請求項6記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項5記載のエアバッグ装置において、前記ガス発生手段からガス供給を受けて前記一対の下向展開部及び膝拘束部と前記上体拘束部との間で膨張、展開されて、前記上体拘束部に前記ガス発生手段からのガスを供給すると共に、前記一対の下向展開部のそれぞれに車両上下方向の下向に前記ガス発生手段からのガスを供給する中間膨張部をさらに備えている。
【0021】
請求項6記載のエアバッグ装置では、中間膨張部がガス発生手段からのガス供給により展開されると、該中間膨張部から左右一対の下向展開部、上体拘束部にガス発生手段からのガスが供給される。中間膨張部を設けることで、ガス発生手段からのガスが下向展開部に対し車両下向きに供給され、上体拘束部が一体に形成された構成において、一対の下向展開部を良好に車両下向に展開させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明に係るエアバッグ装置は、展開前に乗員の膝よりも上側に配置された膝保護用のエアバッグを、インストルメントパネルと乗員の膝との間で良好に展開させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置を構成する膝拘束用のサブバッグを示す図であって、(A)は予備展開状態を模式的に示す平面断面図、(B)は膝拘束状態を模式的に示す平面断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置を構成するエアバッグの背面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置におけるエアバッグの展開状態を示す側断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置におけるエアバッグの展開中のガス流れを説明するための模式的な斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置を構成する膝拘束用のサブバッグを示す図であって、(A)は予備展開状態を模式的に示す平面断面図、(B)は膝拘束状態を模式的に示す平面断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置を構成するエアバッグ背面断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置におけるエアバッグの展開状態を示す側断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置を構成するエアバッグ背面断面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置におけるエアバッグの展開状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1の実施形態に係るエアバッグ装置としての助手席用エアバッグ装置10について、図1〜図4に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印Wは、それぞれ助手席用エアバッグ装置10が適用された自動車V、助手席12の車両前方向(進行方向)、上方向、車幅(左右)方向を示している。また、以下の説明でエアバッグ20(その構成部分)の形状等を説明する場合、特に断りのない場合は膨張、展開状態における形状等をいうものとする。
【0025】
図3には、助手席用エアバッグ装置10の作動状態における自動車Vの車室C内の前部が模式的な側断面図にて示されている。この図に示される如く、車室C内前部には、座席である車両用シートとしての助手席12が配置されている。助手席12は、乗員Pが車両前向きに着座するためのシートクッション12Aと、シートクッション12Aに着座した乗員Pを車両後方から支持するシートバック12Bとを有する。
【0026】
助手席12に対する車両前方には、車室Cの車両前端を規定するウインドシールドガラス14が配置されている。また、ウインドシールドガラス14に対する車両下方には、インストルメントパネル16が設けられている。インストルメントパネル16は、側面視で助手席12側に突出しており、助手席12に着座した乗員Pはインストルメントパネル16の下方空間に足を入れるようになっている。したがって、助手席12に着座した乗員Pは、その着座姿勢で、膝Kをインストルメントパネル16に近接させるようになっている。
【0027】
そして、助手席用エアバッグ装置10は、インストルメントパネル16内に配置されたエアバッグモジュール18を備えている。エアバッグモジュール18は、後に詳述するエアバッグ20と、エアバッグ20にガスを供給するためのガス発生手段としてのインフレータ22と、エアバッグ20及びインフレータ22を保持(一部収容)したエアバッグケース24とを主要部として構成されている。エアバッグモジュール18は、エアバッグケース24においてインストルメントパネル16に設けられた取付部16Aに保持されている。
【0028】
この実施形態では、図1及び図3に示される如くエアバッグ20は、乗員Pの上体Uを保護するための上体拘束部としてのメインバッグ26と、両膝Kを保護するための膝保護用バッグとしてのサブバッグ28とを有する。このため、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグモジュール18は、インストルメントパネル16における両膝Kよりも車両上下方向の上側部分である車両最後部近傍に、車両後向きでかつ上向きに設けられている。具体的には、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグモジュール18のエアバッグケース24が車両後方でかつ車両上方に向けて開口する姿勢で、インストルメントパネル16の取付部16Aに保持されている。
【0029】
このエアバッグケース24は、図3に二点鎖線にて示される如く折り畳み状態のエアバッグ20を保持(一部収容)している。エアバッグ20は、図示しない保持シート等に包まれることで、折り畳み状態が維持されている。インフレータ22は、ガス噴出口22Aを含む一部がエアバッグ20内に挿入された状態で、エアバッグケース24に固定的に保持されている。この実施形態では、インフレータ22は、所謂ディスクタイプのインフレータとされ、上記の通りメインバッグ26とサブバッグ28とを有するエアバッグ20に対し十分なガス容量が確保されている。
【0030】
エアバッグ20のメインバッグ26は、ウインドシールドガラス14及びインストルメントパネル16と乗員Pの上体Uとの間で膨張、展開され、該上体Uの車両前方への相対移動を拘束するようになっている。この実施形態では、メインバッグ26には、内圧調整用のベントホール25が形成されている。サブバッグ28は、インストルメントパネル16と膝Kとの間で膨張、展開され、該膝Kの車両前方への相対移動を拘束するようになっている。これらエアバッグ20のメインバッグ26とサブバッグ28とは、図2に示される如く、一体的に構成されている。
【0031】
サブバッグ28は、基布32にて車両上向きに開口する袋状に形成されており、該開口縁がメインバッグ26の車両下側開口縁に対し縫製等により接合されている。これにより、エアバッグ20は、全体として大きな袋状を成している。基布32は、表面にシリコンコート等の織り目シール加工が施されている点でメインバッグ26の基布30とは異なり、その織り目を経由したメインバッグ26内からのガス漏れが防止(基布30に対し抑制)されるようになっている。サブバッグ28の内圧保持用のシリコンコートは、ガス漏れ防止の観点からはサブバッグ28の内面に施すことが好ましい。
【0032】
上記の通り全体として大きな袋状に展開されるエアバッグ20は、布状材としてのテザー34及び後述する中間膨張部としてのインナバッグ(小バッグ)35とによって、その内部がメインバッグ26のチャンバとサブバッグ28のチャンバとに区画(分離)されている。これらテザー34及びインナバッグ35は、図3に示される如くサブバッグ28の車両前後方向の膨張を規制する機能も果たすようになっている。
【0033】
そして、図1に示される如く、この実施形態に係るサブバッグ28は、乗員Pの両膝Kを拘束するための膝拘束部36と、該膝拘束部36に対する車幅方向両側に設けられた下向展開部38とを主要部として構成されている。下向展開部38は、インフレータ22からのガス供給を受けて、図1(A)に示される如く両膝Kのそれぞれの膝中心Ckに対する車幅(左右)方向に一致するエアバッグ幅方向の外側で、上記の通り両膝Kよりも車両上下方向の上側に配置されたエアバッグケース24から下向きに膨張、展開されるように構成されている。
【0034】
この一対の下向展開部38の膨張、展開に伴って、膝拘束部36は、その膨張完了前にインストルメントパネル16の後方で予備的に展開されるようになっている。そして、膝拘束部36は、エアバッグ20の展開過程のガス流れを矢印Gにて示す図2、図4に示される如く、膨張、展開された左右の下向展開部38を通じてガス供給を受けることで、両膝Kに対する車両前方で膨張されて展開が完了されるように構成されている。この実施形態では、サブバッグ28を構成する基布32の前後の壁部32F、32R(図1(A)参照)同士が車両上下方向に沿ったティアシーム40(図1(A)及び図4参照)にて縫製されることで、サブバッグ28が左右一対の下向展開部38と膝拘束部36とに分割されている。
【0035】
左右のティアシーム40は、サブバッグ28の下端側を除くほぼ全高さに亘り形成されている。これにより、下向展開部38に供給されたガスは、図2、図4に示される如く、下向展開部38の下端部を経由して膝拘束部36に供給されるようになっている。ティアシーム40は、膝拘束部36の内圧が所定の圧力以上になると、破断されるようになっている。このティアシーム40の破断により膝拘束部36が一気に展開される構成とされている。
【0036】
また、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグ20内に、メインバッグ26及びサブバッグ28にガスを供給するためのインナバッグ35が設けられている。インナバッグ35は、基布30と同様の織物である基布42にて、車幅方向に長手の楕円筒状を成すメインバッグ26及び28とは独立した袋体とされており、メインバッグ26とサブバッグ28との間に配置されている。具体的には、インナバッグ35は、そのガス流入口35Aを通じたインフレータ22からのガス供給によってエアバッグケース24から車両後方に向けて膨張、展開され、メインバッグ26及びサブバッグ28の根元部分に位置するようになっている。
【0037】
そして、インナバッグ35には、メインバッグ26にガスを供給するための上側供給口35Bと、サブバッグ28の各下向展開部38にそれぞれガスを供給するための左右一対の下側供給口35Cとが形成されている。上側供給口35Bは、インナバッグ35の膨張、展開状態で略上向きにガスを噴き出すように配置されている。一方、各下側供給口35Cは、インナバッグ35の膨張、展開状態でインストルメントパネル16の表面に略沿って下向きにガスを噴き出すように配置されている。具体的には、図3及び図4に示される如く、側断面視で略楕円状を成すインナバッグ35における車両前方及び下方を共に向く前下端近傍の部分に、下側供給口35Cが形成(配置)されている。
【0038】
さらに、この実施形態では、テザー34に連通孔34Aが形成されており、相対的に小容量であり先行して展開されるサブバッグ28経由でもメインバッグ26にガスが供給されるようになっている。
【0039】
また、図3に示される如く、インストルメントパネル16におけるエアバッグモジュール18を取り付けた部分には、エアバッグ20の膨張、展開圧によって破断され開口するエアバッグドア44が形成されている。この実施形態に係るエアバッグドア44は、インストルメントパネル16がその内面側に形成した溝状のティアラインにおいて開裂されることでヒンジ部を中心に上側に展開され、インストルメントパネル16に開口を形成するようになっている。この開口を通じて、エアバッグ20のインストルメントパネル16外すなわち車室Cへの膨張、展開が許容される構成である。なお、上下に展開されるエアバッグドアを採用しても良い。
【0040】
以上説明した助手席用エアバッグ装置10では、例えば図示しない衝突センサの出力に基づいて自動車Vの前面衝突を検出又は前面衝突が不可避であることを予測した場合、図示しない制御装置としてのエアバッグECUがインフレータ22を作動させるようになっている。
【0041】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0042】
上記構成の助手席用エアバッグ装置10では、衝突センサからの信号に基づいて自動車Vの前面衝突が検出又は予測されると、エアバッグECUは、インフレータ22を作動(着火)させる。すると、インフレータ22からガス供給を受けたエアバッグ20は、インストルメントパネル16内で膨張され、その展開圧でエアバッグドア44を展開させて形成された開口を通じて車室Cで膨張、展開される。
【0043】
この際、インフレータ22のガスが供給されたインナバッグ35が先ず膨張、展開される。インフレータ22からのガスは、インナバッグ35の上側供給口35Bを通じてメインバッグ26に供給されると共に、該インナバッグ35の下側供給口35Cを通じてサブバッグ28を構成する一対の下向展開部38に供給される。すると、サブバッグ28は、後述する如くインストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間で膨張、展開される。また、相対的に容量の大きいメインバッグ26は、サブバッグ28の展開完了後に乗員Pの上体Uに対する車両前方で展開が完了される。
【0044】
このサブバッグ28によって、助手席12に着座した乗員Pの膝Kが拘束され、インストルメントパネル16側から膝Kに作用する荷重が軽減される。すなわち、乗員Pの膝Kが保護される。一方、乗員Pの上体Uは、膨張、展開されたメインバッグ26によって拘束され、衝撃吸収が果たされる。これらにより、乗員Pは助手席用エアバッグ装置10によって良好に保護される。
【0045】
ここで、助手席用エアバッグ装置10では、サブバッグ28におけるバッグ幅方向の両端に設けられた下向展開部38にインフレータ22からのガスが供給される。このため、サブバッグ28は、図1(A)及び図4に示される如く、下向展開部38がエアバッグ幅方向における両膝K(膝中心)に対するエアバッグ幅方向の両外側で膨張、展開するのに伴って、膝拘束部36がその膨張完了前に両膝Kに対する上側から下向きに予備的に展開される(以下、この展開を予備展開という)。
【0046】
これにより、サブバッグ28の膝拘束部36は、インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間の隙が小さい場合でも、該インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間の隙に予備展開される。そして、この膝拘束部36は、下向展開部38を経由してインフレータ22からのガスが供給されることで、インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間で膨張されて展開が完了される。すなわち、乗員Pの両膝Kを拘束可能な状態になる。
【0047】
このように、第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置10では、インストルメントパネル16内における両膝Kよりも上側に配置されたサブバッグ28を、該インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間で良好に展開(予備展開、及びその後の膨張、展開)させることができる。すなわち、メインバッグ26と一体にエアバッグケース24に収容されるために着座乗員Pの膝Kに対する車両上方から下向きに展開されるサブバッグ28を、インストルメントパネル16と乗員Pの膝Kとの間で良好に展開させることができる。
【0048】
このため、図1(B)に示される如く衝突に伴い前方に移動される両膝Kは、膝拘束部36によって車両前側から拘束される。
【0049】
また、助手席用エアバッグ装置10では、サブバッグ28を構成する基布32の前後の壁部32F、32R同士がティアシーム40にて縫製されることで膝拘束部36と下向展開部38とが形成されている。このため、簡単な構造で膝拘束部36と下向展開部38とを得ることができる。また、ティアシーム40(の破断強度)によって下向展開部38からのガス供給による膝拘束部36の展開タイミングを設定(車種等に応じて調整)することができる。すなわち、膝拘束部36をインストルメントパネル16と両膝Kとの間で予備展開させやすい。しかも、この予備展開直後にティアシーム40が破断される設定とすることで、短時間で膝拘束部36(サブバッグ28)の展開を完了させることができる。
【0050】
さらに、インナバッグ35の下側供給口35Cを通じて左右の下向展開部38にインフレータ22からのガスが前下向に供給される構成であるため、下向展開部38すなわちサブバッグ28がインストルメントパネル16に沿って予備展開される。このため、サブバッグ28は、膝拘束部36をインストルメントパネル16と両膝Kとの間で良好に予備展開させることができる。
【0051】
次いで、本発明の他の実施形態について説明する。なお、上記第1の実施形態の構成又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については、上記第1の実施形態又は前出の構成と同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
(第2の実施形態)
図6には、本発明の第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置50を構成するエアバッグ52が、図2に対応する背面断面図にて示されており、図7には、助手席用エアバッグ装置50の全体構成が図3に対応する側断面図にて示されている。これらの図に示される如く、助手席用エアバッグ装置50を構成するエアバッグ52は、壁部32Fと壁部32Rとをティアシーム40にて縫製して成る膝拘束部36、下向展開部38に代えて、膝拘束部54、下向展開部56を備える点で、第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置10とは異なる。
【0053】
左右一対の下向展開部56は、サブバッグ28を構成する基布32とは独立した筒状の袋体とされ、インナバッグ35のバッグ幅方向両端から垂下される如き姿勢で膨張、展開されるように、上端側が該インナバッグ35に接続(一体化)されている。各下向展開部56の下端は開放端56Aとされている。また、各下向展開部56における開放端56Aの近傍部分は、縫製等によって基布32に固定されている。
【0054】
膝拘束部54は、サブバッグ28(基布32)における左右の下向展開部56間で膨張、展開される部分とされている。この膝拘束部54は、各下向展開部56の開放端56Aを通じて供給されるガスによって膨張、展開される構成とされている。また、この実施形態では、膝拘束部54の前後方向の展開厚みを規制するためのテザー58が、該膝拘束部54の上下方向略中間部に設けられている。テザー58には、その上下(膝拘束部54の上下チャンバ間)を連通する連通孔58Aが形成されている。助手席用エアバッグ装置50における他の構成は、図示しない部分を含め助手席用エアバッグ装置10の対応する構成と同じである。
【0055】
したがって、第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置50によっても、基本的に助手席用エアバッグ装置10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。すなわち、助手席用エアバッグ装置50においては、図5(A)に示される如く、下向展開部56がエアバッグ幅方向における両膝K(膝中心)の外側で膨張、展開するのに伴って、膝拘束部54がインストルメントパネル16と両膝Kとの間で予備展開される。
【0056】
これにより、サブバッグ28の膝拘束部54は、インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間の隙が小さい場合でも、該インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間の隙に予備展開される。そして、この膝拘束部54は、下向展開部56を経由してインフレータ22からのガスが供給されることで、インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間で膨張されて展開が完了される。すなわち、乗員Pの両膝Kを拘束可能な状態になる。
【0057】
このように、第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置50では、インストルメントパネル16内における両膝Kよりも上側に配置されたサブバッグ28を、該インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間で良好に展開(予備展開、及びその後の膨張、展開)させることができる。すなわち、メインバッグ26と一体にエアバッグケース24に収容されるために着座乗員Pの膝Kに対する車両上方から下向きに展開されるサブバッグ28を、インストルメントパネル16と乗員Pの膝Kとの間で良好に展開させることができる。
【0058】
このため、衝突に伴い前方に移動される両膝Kは、図5(B)に想像線にて示される如く膝拘束部54によって車両前側から拘束される。また、助手席用エアバッグ装置50では、下向展開部56が膝拘束部54とは独立した袋体として構成されているので、ティアシーム40を破断させることなく膝拘束部54を膨張、展開させることができる。
【0059】
(第3の実施形態)
図8には、本発明の第3の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置60を構成するエアバッグ52が、図2に対応する背面断面図にて示されており、図9には、助手席用エアバッグ装置60の全体構成が図3に対応する側断面図にて示されている。これらの図に示される如く、助手席用エアバッグ装置60を構成するエアバッグ52は、テザー34に連通孔34Aが形成されず、各下向展開部56にそれぞれ逆止弁(一方向弁)62が設けられている点で、第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置50とは異なる。
【0060】
助手席用エアバッグ装置60では、テザー34に連通孔34Aが形成されていないことにより、メインバッグ26にはインナバッグ35の上側供給口35Bを通じてのみインフレータ22からガスが供給されるようになっている。なお、テザー34を設けず、メインバッグ26とサブバッグ28とがインナバッグ35のみによって区画される構成としても良い。
【0061】
逆止弁62は、漏斗状を成す布片を主要部として構成され、インナバッグ35側から開放端56A側へのガス流を、ガス流通口62Aを有する漏斗状に展開されることで許容するようになっている。一方、逆止弁62は、膝拘束部54の内圧(動圧)がインナバッグ35側の内圧よりも高くなると、該内圧によって布片が重ね合わされてガス流通口62Aが閉止される構成(図示省略)とされている。助手席用エアバッグ装置60における他の構成は、図示しない部分を含め助手席用エアバッグ装置10の対応する構成と同じである。
【0062】
したがって、第3の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置60によっても、基本的に助手席用エアバッグ装置50(助手席用エアバッグ装置10)と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。また、助手席用エアバッグ装置60では、乗員Pの両膝Kを拘束することで内圧が所定値以上になると逆止弁62が閉じるので、該膝拘束部54からのガスの流出が抑制される。したがって、両膝Kの拘束に伴う膝拘束部54(サブバッグ28)の内圧低下が抑制され、乗員Pの膝Kが一層良好に保護される。
【0063】
なお、第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置10において、例えば、下側供給口35Cに逆止弁62を設けると共に連通孔34Aを廃止することで、両膝Kの拘束に伴う膝拘束部36の内圧低下(ガス流出)を抑制する構成としても良い。
【0064】
また、上記した各実施形態では、膝拘束用のサブバッグ28が上体拘束用のメインバッグ26に一体に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、上体拘束用のエアバッグとは独立して収納され、独立して膨張、展開される膝拘束用のエアバッグ(ニーエアバッグ)に、膝拘束部36、54の幅方向両側に一対の下向展開部38を設けた構成としても良い。
【符号の説明】
【0065】
10 助手席用エアバッグ装置
16 インストルメントパネル
22 インフレータ(ガス発生手段)
26 メインバッグ(上体拘束部)
32 基布(共通の基布)
35 インナバッグ(中間膨張部)
36 膝拘束部
38 下向展開部
40 ティアシーム
50・60 助手席用エアバッグ装置
54 膝拘束部
56 下向展開部
K 膝
U 上体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生手段と、
ガス供給を受けてインストルメントパネルに対する車室側で膨張、展開されることで、車両乗員の両膝を車両前後方向の前側から拘束する膝拘束部と、
前記膝拘束部に対する車幅方向の両端部にそれぞれ一体に設けられ、前記ガス発生手段からガス供給を受けて車両乗員の膝に対する車両上下方向の上側から下向きに展開されると共に、前記ガス発生手段からのガスを前記膝拘束部に供給する左右一対の下向展開部と、
を備えたエアバッグ装置。
【請求項2】
ガス発生手段と、
前記ガス発生手段からガス供給を受けて、車両乗員の膝に対する車両上下方向の上側でかつ膝中心に対する左右方向の外側から、車両上下方向の下向きに展開される左右一対の下向展開部と、
前記一対の下向展開部を通じてガス発生手段からのガス供給を受けて、インストルメントパネルに対する車室側で前記一対の下向展開部間を架け渡すように膨張、展開されることで、車両乗員の両膝を車両前後方向の前側から拘束する膝拘束部と、
を備えたエアバッグ装置。
【請求項3】
前記一対の下向展開部と前記膝拘束部とは、共通の基布にて一体に形成されると共に、前記膝拘束部に作用する所定値以上の内圧によって破断されるティアシームにて仕切られている請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記一対の下向展開部は、前記膝拘束部とは独立した袋体として構成されている請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記一対の下向展開部及び膝拘束部と共にインストルメントパネル内で折り畳まれ、ガス供給を受けて前記インストルメントパネルに対する車室側で膨張、展開されることで、車両乗員の上体を車両前後方向の前側から拘束する上体拘束部をさらに備えた請求項1〜請求項4の何れか1項記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記ガス発生手段からガス供給を受けて前記一対の下向展開部及び膝拘束部と前記上体拘束部との間で膨張、展開されて、前記上体拘束部に前記ガス発生手段からのガスを供給すると共に、前記一対の下向展開部のそれぞれに車両上下方向の下向に前記ガス発生手段からのガスを供給する中間膨張部をさらに備えた請求項5記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−143805(P2011−143805A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5573(P2010−5573)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】