説明

エアバッグ装置

【課題】第1、第2バッグによる乗員拘束時の荷重に対する第1、第2バッグの接合強度が確保されるエアバッグ装置を得る。
【解決手段】助手席用エアバッグ装置10は、膨張、展開されることで、乗員Pの上体Uを車両前側から拘束するメインバッグ26と、メインバッグ26よりも小容量とされ膨張、展開されることで乗員Pの膝Kを車両前側から拘束するサブバッグ28とが、接合部Jにおいて接合されて成るエアバッグ20を備える。メインバッグ26を構成する基布30の後面における乗員の頭部Hが接触する部分26Hと接合部Jとの間には、基布30に所定値以上の上下方向の張力が作用すると該基布30が上下方向に展開されるように設けられた折り返し部46を含む張力緩和構造45が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の上体を拘束する第1バッグと膝を拘束する第2バッグとを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の上体を拘束するためのエアバッグに膝を拘束するためのエアバッグを連設したエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、乗員の上体を拘束するためのエアバッグと、膝を拘束するためのエアバッグとを、共通の蓄圧器からのガス供給によって同時に膨張展開させるエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7−17662号公報
【特許文献2】特開昭51−23917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上体を拘束するためのエアバッグと膝を拘束するためのエアバッグとを一体的に構成した場合、乗員の頭部からの入力と膝からの入力とによって、上体を拘束するためのエアバッグと膝を拘束するためのエアバッグとを上下に引き離す方向の荷重が作用する。
【0005】
本発明は、第1、第2バッグによる乗員拘束時の荷重に対する第1、第2バッグの接合強度が確保されるエアバッグ装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係るエアバッグ装置は、ガス供給を受けて膨張、展開されることで、車両乗員の上体を車両前後方向の前側から拘束する第1バッグと、前記第1バッグよりも小容量とされると共に該第1バッグに接合され、ガス供給を受けて膨張、展開されることで前記乗員の膝を車両前後方向の前側から拘束する第2バッグと、前記第1バッグを構成する基布の前記乗員側を向く部分における該乗員の頭部が接触する部分と第2バッグとの接合部分との間に、前記基布に所定値以上の上下方向の張力が作用すると該基布が上下方向に展開されるように設けられた張力緩和構造と、を備えている。
【0007】
請求項1記載のエアバッグ装置では、例えば車両の前面衝突の際にガスが供給されると、第1バッグが乗員の上体に対する車両前方で展開されると共に、第2バッグが乗員の膝に対する車両前方で展開される。これにより、展開された第1バッグは乗員の上体を拘束し、展開された第2バッグは乗員の膝を拘束することとなる。この際、第1バッグが乗員側の面(背面)における頭部との接触(拘束)部分で車両上方に引っ張られ、第2バッグが乗員側の面(背面)における膝との接触(拘束)部分で車両下方に引っ張られることで、第1、第2エアバッグには上下に引き離す方向の荷重(張力)が作用する。
【0008】
ここで、本エアバッグ装置では、第1、第2エアバッグを上下に引き離す方向の荷重により第1バッグの基布における頭部の接触部分と第2バッグとの接合部との間に所定値以上の張力が作用すると、該基布が張力緩和構造において上下方向に展開される。これにより、第1、第2エアバッグを上下に引き離す方向の張力が緩和(低減)され、第1バッグと第2バッグとの接合部位に大きな荷重(応力)が作用することが抑制される。
【0009】
このように、請求項1記載のエアバッグ装置では、第1、第2バッグによる乗員拘束時の荷重に対する第1、第2バッグの接合強度が確保される。
【0010】
請求項2記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1記載のエアバッグ装置において、前記張力緩和構造は、前記基布の前記乗員側を向く部分における該乗員の頭部が接触する部分と第2バッグとの接合部分との間に、上下方向に展開可能に形成された折り部と、前記折り部の折り状態を縫製により維持し、前記基布における前記折り部を含む部分に作用する所定値以上の上下方向の張力によって破断されるティアシームと、を含んで構成されている。
【0011】
請求項2記載のエアバッグ装置では、第1、第2エアバッグを上下に引き離す方向の所定値以上の張力が作用すると、ティアシームが破断されて第1バッグの基布に形成された折り部の縫製(拘束)状態が開放され、基布が上下に展開される。これにより、第1、第2エアバッグを上下に引き離す方向の張力が緩和(低減)され、第1バッグと第2バッグとの接合部位に大きな荷重(応力)が作用することが効果的に抑制される。
【0012】
請求項3記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置において、前記張力緩和構造は、前記第1バッグの基布における前記乗員の頭部が接触する部分よりも該基布における第2バッグとの接合部分に近接して設けられている。
【0013】
請求項3記載のエアバッグ装置では、張力緩和構造(折り部及びティアシーム)が第1バッグにおける乗員からの荷重入力部よりも第2バッグとの接合部側に近接して配置されている。このため、本エアバッグ装置では、張力緩和構造により基布が上下に展開されることで、第1バッグと第2バッグとの接合部位に大きな荷重(応力)が作用することが一層効果的に抑制される。
【0014】
請求項4記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載のエアバッグ装置において、前記第2バッグは、織り目からガスが漏れることを抑制する織り目シール構造を有する基布にて構成されており、展開完了状態での内圧が前記第1バッグの展開完了状態での内圧よりも高くなる設定とされている。
【0015】
請求項4記載のエアバッグ装置では、第1バッグよりも高い内圧で展開される第2バッグを構成する基布は、織り目シール構造を有するので、高い内圧に起因して第2バッグの基布の織り目からガスが漏れることが効果的に抑制される。この基布より成る第2バッグは、縫製等により第1バッグに接合されるが、上記の張力緩和構造によってこの接合部が効果的に保護される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明に係るエアバッグ装置は、第1、第2バッグによる乗員拘束時の荷重に対する第1、第2バッグの接合強度が確保されるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るエアバッグ装置におけるエアバッグの展開状態を示す側断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエアバッグ装置を構成するエアバッグを拡大して示す側断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るエアバッグ装置におけるエアバッグの展開状態を示す一部切り欠いた背面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るエアバッグ装置を構成するエネルギ吸収の第1変形例を示す側断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るエアバッグ装置を構成するエネルギ吸収の第2変形例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係るエアバッグ装置としての助手席用エアバッグ装置10について、図1〜図3に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印Wは、それぞれ助手席用エアバッグ装置10が適用された自動車V、助手席12の車両前方向(進行方向)、上方向、車幅方向を示している。また、以下の説明でエアバッグ20(その構成部分)の形状等を説明する場合、特に断りのない場合は膨張展開状態における形状等をいうものとする。
【0019】
図1には、助手席用エアバッグ装置10の作動状態における自動車Vの車室C内の前部が模式的な側断面図にて示されている。この図に示される如く、車室C内前部には、車両用シートとしての助手席12が配置されている。助手席12は、乗員Pが車両前向きに着座するためのシートクッション12Aと、シートクッション12Aの着座乗員Pを車両後方から支持するシートバック12Bとを有する。
【0020】
助手席12に対する車両前方には、車室Cの車両前端を規定するウインドシールドガラス14が配置されている。また、ウインドシールドガラス14に対する車両下方には、インストルメントパネル16が設けられている。インストルメントパネル16は助手席12側に突出しており、助手席12の着座乗員Pはインストルメントパネル16の下方に足を入れるようになっている。したがって、助手席12の着座乗員Pが、その膝Kをインストルメントパネル16に近接させる構成とされている。
【0021】
助手席用エアバッグ装置10は、インストルメントパネル16内に配置されたエアバッグモジュール18を備えている。エアバッグモジュール18は、後述するエアバッグ20と、エアバッグ20にガスを供給するためのインフレータ22と、エアバッグ20及びインフレータ22を保持(一部収容)したエアバッグケース24とを主要部として構成されている。エアバッグモジュール18は、エアバッグケース24においてインストルメントパネル16に設けられた取付部16Aに保持されている。
【0022】
この実施形態では、図1に示される如くエアバッグ20が着座乗員Pの頭部Hを含む上体Uの保護用の第1バッグとしてのメインバッグ26と、膝Kの保護用の第2バッグとしてのサブバッグ28とを有する。このため、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグモジュール18は、インストルメントパネル16における車両最後部近傍に、車両後向きでかつ上向きに設けられている。具体的には、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグモジュール18のエアバッグケース24が車両後方でかつ車両上方に向けて開口する姿勢で、インストルメントパネル16の取付部16Aに保持されている。
【0023】
このエアバッグケース24は、図1に二点鎖線にて示される如く折り畳み状態のエアバッグ20を保持(一部収容)している。エアバッグ20は、図示しない保持シート等に包まれることで、折り畳み状態が維持されている。インフレータ22は、ガス噴出口22Aを含む一部がエアバッグ20内に挿入された状態で、エアバッグケース24に固定的に保持されている。この実施形態では、インフレータ22は、所謂ディスクタイプのインフレータとされ、上記の通りメインバッグ26とサブバッグ28とを有するエアバッグ20に対し十分なガス容量が確保されている。
【0024】
エアバッグ20のメインバッグ26は、ウインドシールドガラス14及びインストルメントパネル16と着座乗員Pの上体Uとの間で膨張展開され、該上体Uの車両前方への相対移動を拘束するようになっている。この実施形態では、メインバッグ26には、内圧調整用のベントホール25が形成されている。サブバッグ28は、インストルメントパネル16と膝Kとの間で膨張展開され、該膝Kの車両前方への相対移動を拘束するようになっている。これらエアバッグ20のメインバッグ26とサブバッグ28とは、図2及び図3に示される如く、一体的に構成されている。
【0025】
具体的には、メインバッグ26は、エアバッグ20における車両上下方向の上部及び中間部を構成する第1基布30により袋状に膨張展開するように形成されている。この実施形態では、メインバッグ26は、図3に示される如く車幅方向に隣接された左右のバッグを連結した如き所謂ツインチャンバ構造のエアバッグとされている。このメインバッグ26は、左右のバッグ(チャンバ)の車両後端がそれぞれ着座乗員Pの左右別の肩部(又はその近傍)を拘束するように形成されている。
【0026】
サブバッグ28は、第2基布32にてメインバッグ26よりも全体に薄く展開される車両上向きに開口する袋状に形成されており、該開口縁がメインバッグ26の車両下側開口縁に対し縫製等により接合されている(図1〜図3に示される第1基布30と第2基布32との接合部J参照)。これにより、エアバッグ20は、全体として大きな袋状を成している。第2基布32は、表面にシリコンコート等の織り目シール構造として織り目シール加工が施されている点で第1基布30とは異なり、その織り目を経由したサブバッグ28内からのガス漏れが防止(第1基布30に対し抑制)されるようになっている。サブバッグ28の内圧保持用のシリコンコートは、ガス漏れ防止の観点からは第2基布32におけるサブバッグ28の内面となる側に施すことが好ましい。
【0027】
上記の通り全体として大きな袋状に展開されるエアバッグ20は、内部をメインバッグ26のチャンバとサブバッグ28のチャンバとに区画(分離)するための布状材としてのテザー34を有する。テザー34は、布状を成しており、図1及び図2に示される如くサブバッグ28の車両前後方向の膨張を規制するようになっている。また、サブバッグ28内における展開状態で車両上下方向の略中間部となる部分にも、サブバッグ28の車両前後方向の膨張(厚み)を規制するためのテザーやストラップを設けても良い。
【0028】
そして、助手席用エアバッグ装置10を構成するエアバッグ20は、インフレータ22のガスをメインバッグ26、サブバッグ28に導く可撓性のガス流路部材としてのインナチューブ35を備えている。インナチューブ35は、第1基布30と同様の織物である第3基布36にて、メインバッグ26、サブバッグ28とは独立して、図1に示される如く車両前方でかつ車両下方に向けて開口される略「U」字状に膨張展開される袋体として構成されている。具体的には、インナチューブ35は、上記の通り車両後方でかつ車両上方に向けて開口するエアバッグケース24から該開口方向に延びる上部38と、該上部38から車両前方でかつ車両下方側に折り返されるように展開される下部40とを主要部として構成されている。
【0029】
このインナチューブ35の下部40は、テザー34を貫通しており、その先端にはサブバッグ28にガスを供給するためのガス供給口40Aが形成されている。一方、インナチューブ35の上部38における下部40の折り返し部の近傍、すなわちテザー34に対するメインバッグ26側には、該メインバッグ26にガスを供給するためのガス供給口38Aが形成されている。この実施形態では、図3に示される如く、ガス供給口38Aは、インナチューブ35の上部38における車幅方向両側に、それぞれ第3基布36を貫通した貫通孔として形成されている。これにより、助手席用エアバッグ装置10では、インナチューブ35の上部38から車幅方向の両側に向けてメインバッグ26内にガスが供給される構成とされている。
【0030】
また、助手席用エアバッグ装置10では、インナチューブ35の下部40におけるガス供給口40Aの周りには、ガス排出抑制手段としての逆止弁(一方向弁)42が形成されている。逆止弁42は、サブバッグ28内からガス供給口38Aを覆う布片42Aを有し、上部38からのガス供給口38Aを通じたサブバッグ28へのガス供給を許容するようになっている。一方、逆止弁42は、サブバッグ28の内圧(動圧)が上部38の内圧よりも高くなると、該内圧によって布片42Aがガス供給口38Aを閉止する構成とされている。なお、逆止弁42の構成を理解し易くするために、図3では逆止弁42の非作動状態であるガス供給口40Aの開放状態、図2では逆止弁42によるガス供給口40Aの閉止状態を図示している。
【0031】
この逆止弁42、ベントホール25等の設定によって、助手席用エアバッグ装置10では、展開完了状態(乗員拘束状態)でサブバッグ28の内圧がメインバッグ26の内圧よりも高くなる構成とされている。また、メインバッグ26は、膝Kの拘束に伴い内圧が高くなるが、上記の通り第2基布32に織り目シール加工が施されることで高い内圧が保持される(ガスの漏れが防止又は著しく抑制される)ようになっている。
【0032】
そして、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグ20のメインバッグ26とサブバッグ28とを上下に引き離す方向の荷重(張力)を緩和するための張力緩和構造(エネルギ吸収部)45を備える。図2に示される如く、張力緩和構造45は、メインバッグ26を構成する第1基布30における乗員P側を向く後面の一部を上下に折り返して成る折り部としての折り返し部46と、該折り返し部46を縫製して成るティアシーム48とを主要部として構成されている。
【0033】
折り返し部46を折り返し状態に維持(拘束)するティアシーム48は、第1基布30における張力緩和構造45を含む部分に所定値以上の上下方向の張力が作用すると破断されるように構成されている。張力緩和構造45は、ティアシーム48が破断されると該ティアシームによる拘束状態から開放され、折り返し部46が上下に展開され、この折り返し部46の展開によって第1基布30に作用する張力が緩和(低減)されるようになっている。なお、折り返し部46の展開方向は、メインバッグ26における乗員の頭部Hが接触する部分26Hとサブバッグ28との接合部Jとの間展開形状に沿った方向であって、張力緩和構造45が接合部Jに近接して配置された構成においては前後方向と捉えることも可能である。この助手席用エアバッグ装置10における張力緩和構造45の折り返し部46は、所定値以上の張力による第1基布30の伸び代部として捉えることも可能である。
【0034】
以上説明した張力緩和構造45は、側面視で図1に示す範囲A内に設定されている。ここで、範囲Aは、エアバッグ20における乗員の頭部Hが接触する部分26Hと、メインバッグ26とサブバッグ28との接合部Jとの間に設定されている。張力緩和構造45は、範囲A内で上記部分26Hよりも接合部Jに近接して配置されることが望ましく、この実施形態では、接合部Jに極力(制約の範囲内で)近接するように配置されている。
【0035】
また、図1に示される如く、インストルメントパネル16におけるエアバッグモジュール18を取り付けた部分には、エアバッグ20の膨張展開圧によって破断され開口するエアバッグドア44が形成されている。この実施形態に係るエアバッグドア44は、インストルメントパネル16がその内面側に形成した溝状のティアラインにおいて開裂されることでヒンジ部を中心に上下に展開され、インストルメントパネル16に開口を形成するようになっている。この開口を通じて、エアバッグ20のインストルメントパネル16外すなわち車室Cへの膨張展開が許容される構成である。
【0036】
以上説明した助手席用エアバッグ装置10では、例えば図示しない衝突センサの出力に基づいて自動車Vの前面衝突を検出又は前面衝突が不可避であることを予測した場合、図示しない制御装置としてのエアバッグECUがインフレータ22を作動させるようになっている。
【0037】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0038】
上記構成の助手席用エアバッグ装置10では、衝突センサからの信号に基づいて自動車Vの前面衝突が検出又は予測されると、エアバッグECUは、インフレータ22を作動(着火)させる。すると、インフレータ22からガス供給を受けたエアバッグ20は、インストルメントパネル16内で膨張され、その展開圧でエアバッグドア44を展開させて形成された開口を通じて車室Cで膨張展開される。
【0039】
この際、インフレータ22のガスが供給されたインナチューブ35が先ず膨張展開される。インフレータ22からのガスは、インナチューブ35の上部38に形成されたガス供給口38Aを通じてメインバッグ26に供給されると共に、下部40に形成されたガス供給口40Aを通じてサブバッグ28に供給される。
【0040】
すると、サブバッグ28は、ガス供給口40Aを通じたガス供給によって、インストルメントパネル16と乗員Pの両膝Kとの間で膨張展開される。一方、相対的に容量の大きいメインバッグ26は、サブバッグ28の展開完了後に乗員Pの上体Uに対する車両前方で展開が完了される。
【0041】
このように、助手席用エアバッグ装置10では、メインバッグ26及びサブバッグ28を備えたエアバッグ20にインナチューブ35が設けられているため、助手席用エアバッグ装置10では、インフレータ22からのガスがメインバッグ26及びサブバッグ28のそれぞれに直接的に(独立して)供給される。これにより、助手席用エアバッグ装置10では、相対的に小容量であるサブバッグ28がインフレータ22の作動から短時間で膨張展開される。したがって、助手席用エアバッグ装置10では、車両前後方向のスペース(ストローク)が小さい着座乗員Pの膝Kに対する車両前方に、前面衝突の検知から短時間でサブバッグ28を膨張展開させることができる。
【0042】
このサブバッグ28によって、膝Kが拘束され、インストルメントパネル16側から膝Kに作用する荷重が軽減される。すなわち、着座乗員Pの膝Kが保護される。特に、助手席用エアバッグ装置10では、インナチューブ35の下部40におけるガス供給口40A側に逆止弁42が設けられているため、膝Kの拘束に伴ってサブバッグ28の内圧が上昇すると逆止弁42がガス供給口40Aを閉止する。このため、膝Kの拘束に伴うサブバッグ28の内圧低下(ガス排出)が抑制され、着座乗員Pの膝Kが一層良好に保護される。
【0043】
一方、乗員Pの頭部H及び上体Uは、膨張展開されたメインバッグ26によって拘束され、衝撃吸収が果たされる。これらにより、乗員Pは助手席用エアバッグ装置10によって良好に保護される。特に、助手席用エアバッグ装置10では、左右のガス供給口38Aを通じてメインバッグ26内で車幅方向両側に向けてガスが供給される。このため、車両後向きにガスが供給される構成と比較して、メインバッグ26の車両後方への展開力(展開速度)が抑制され、着座乗員Pの頭部H及び上体Uを拘束する際に荷重が軽減される。
【0044】
ところで、乗員Pの頭部Hを拘束しているメインバッグ26における頭部Hの接触部分26Hには、第1基布30を車両前向きかつ上向きに引っ張る荷重が作用する。一方、乗員Pの膝Kを拘束しているサブバッグ28における膝Kが接触される部分には、第2基布32を車両前向きかつ下向きに引っ張る荷重が作用する。すなわち、乗員Pの頭部H、膝Kの拘束過程のエアバッグ20には、メインバッグ26とサブバッグ28とを上下に引き離そうとする荷重(張力)が作用する。そして、張力緩和構造45を備えない比較例の場合、エアバッグ20の後面側における第1基布30と第2基布32との縫製による接合部J(膝Kの接触部位)には大きな荷重(応力)が作用することとなる。補足すると、膝Kの拘束のために相対的に内圧が高くなるサブバッグ28は、その内圧保持のために、織り目シール加工が施された第2基布32にて構成され、第1基布30より成るメインバッグ26に接合部Jにおいて縫製により接合される。この構造を採るため、張力緩和構造45を備えない比較例の場合、エアバッグ20は接合部Jに応力が集中しやすい形態とされ、この対策として縫製部位の補強(縫いの多重化等)が必要になる。
【0045】
ここで、助手席用エアバッグ装置10では、メインバッグ26の乗員P側を向く後面における乗員の頭部が接触する部分26Hと、接合部Jとの間に張力緩和構造45が設定されている。このため、上記の通り乗員Pの頭部H、膝Kの拘束過程のエアバッグ20にメインバッグ26とサブバッグ28とを上下に引き離そうとする荷重によって第1基布30に所定値以上の張力が作用すると、ティアシーム48が破断されて折り返し部46が展開される。これにより、第1基布30に作用する張力が緩和され、メインバッグ26とサブバッグ28との接合部Jに作用する荷重(応力)が緩和される。すなわち、助手席用エアバッグ装置10では、メインバッグ26(第1基布30)とサブバッグ28(第2基布32)との縫製による接合部Jを補強する補強構造に頼ることなく、該メインバッグ26とサブバッグ28との所要の接合強度を得ることができる。
【0046】
特に、助手席用エアバッグ装置10では、張力緩和構造45がメインバッグ26における頭部Hとの接触部分26Hよりも接合部Jに近接して配置されているので、接合部Jに作用する荷重(応力)を一層効果的に緩和することができる。
【0047】
また、助手席用エアバッグ装置10では、折り返し部46とティアシーム48とを主要部とする簡単な構造の張力緩和構造45によって、上記の通り接合部Jに作用する荷重(応力)を効果的に緩和することができる。
【0048】
このように、本発明の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置10では、接合部Jを補強する補強構造に頼ることなく、メインバッグ26及びサブバッグ28によって乗員Pの頭部H及び膝Kを拘束する際に作用する荷重に対するメインバッグ26及びサブバッグ28の接合強度が確保される。
【0049】
(張力緩和構造の変形例)
次に、変形例に係る張力緩和構造50、60について説明する。
【0050】
図4には、第1変形例に係る張力緩和構造50が側断面図にて示されている。この図に示される如く、張力緩和構造50は、メインバッグ26を構成する第1基布30における乗員P側を向く後面の一部をメインバッグ26の内方に折り込んで成る折り部としての凹状の折り込み部52と、折り込み部52の開口側(展開した折り込み部52の上下端となる部分)を縫製して成るティアシーム48とを主要部として構成されている。張力緩和構造50は、ティアシーム48が破断されると、折り込み部52が上下に展開され、この折り込み部52の展開によって第1基布30に作用する張力が緩和されるようになっている。
【0051】
図5には、第2変形例に係る張力緩和構造60が側断面図にて示されている。この図に示される如く、張力緩和構造60は、折り返し部46と、該折り返し部46の上下両側で第1基布30に縫製された保持布62とを主要部として構成されている。保持布62の第1基布30に対する少なくとも一方の縫製部位は、ティアシーム48により縫製されて構成されている。この実施形態では、保持布62は、折り返し部46に対する上側部分がティアシーム48にて第1基布30に縫製されている。また、この実施形態では、保持布62は、折り返し部46に対する下側においては、接合部Jにて第1基布30に縫製(共縫い)されている。
【0052】
以上説明した張力緩和構造60は、ティアシーム48が破断されると、折り返し部46(が設定された第1基布30)が上下に展開され、この折り返し部46の展開によって第1基布30に作用する張力が緩和されるようになっている。この張力緩和構造60は、接合部Jとティアシーム48との間において、保持布62の上下方向の長さが、折り返し部46を含む第1基布30の上下方向の長さよりも短く設定されたものと把握することができる。
【0053】
すなわち、張力緩和構造60においては、折り返し部46の折り返し状態が維持されない構成としても良い。また、張力緩和構造60では、保持布62の下端が接合部Jよりも上側に接合されても良く、保持布62を第2基布32から延設して(一体に)形成しても良い。前者の場合、ティアシーム48を折り返し部46の下側に配置しても良い。
【0054】
なお、上記した実施形態では、メインバッグ26及びサブバッグ28は、それぞれインナチューブ35を通じて直接的にインフレータ22からのガスが供給される例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、エアバッグケース24内に設けたガス分配構造(ディフューザ等によって)メインバッグ26とサブバッグ28とにガスを分配する構成としても良い。
【0055】
また、上記した実施形態では、サブバッグ28の内圧保持(ガス排出抑制)手段として逆止弁42を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、内圧保持手段として、メインバッグ26やサブバッグ28の膨張展開に伴ってインナチューブ35の下部40を閉じてしまう絞り紐等を採用しても良い。
【0056】
さらに、上記した実施形態では、それぞれインフレータ22からのガスが直接的に供給されるサブバッグ28とメインバッグ26との容量差によってサブバッグ28がメインバッグ26に先行して展開される例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、所定値以上のガス圧によって破断されるティアシーム等にてガス供給口38Aを閉止しておき、インナチューブ35の内圧上昇後(サブバッグ28の展開過程又は展開完了後)にメインバッグ26の展開が開始される展開遅延構造を設けても良い。
【0057】
またさらに、上記した実施形態では、メインバッグ26が左右のバッグを連結した如き所謂ツインチャンバ構造のエアバッグである例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、メインバッグ26が単一のチャンバを有する所謂シングルチャンバ構造のエアバッグである構成としても良い。
【0058】
さらに、上記した各実施形態では、本発明に係るエアバッグ装置が助手席用エアバッグ装置10に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、本発明に係るエアバッグ装置は、車幅方向に3人の乗員が着座し得るシートのうち車幅方向中央のシート等に適用することができる。また、このような中央座席が本発明においては助手席に含まれると捉えることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 助手席用エアバッグ装置
26 メインバッグ(第1バッグ)
26H 乗員の頭部が接触する部分
30 第1基布(基布)
45 張力緩和構造
46 折り返し部(折り部)
48 ティアシーム
50・60 張力緩和構造
52 折り込み部(折り部)
J 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給を受けて膨張、展開されることで、車両乗員の上体を車両前後方向の前側から拘束する第1バッグと、
前記第1バッグよりも小容量とされると共に該第1バッグに接合され、ガス供給を受けて膨張、展開されることで前記乗員の膝を車両前後方向の前側から拘束する第2バッグと、
前記第1バッグを構成する基布の前記乗員側を向く部分における該乗員の頭部が接触する部分と第2バッグとの接合部分との間に、前記基布に所定値以上の上下方向の張力が作用すると該基布が上下方向に展開されるように設けられた張力緩和構造と、
を備えたエアバッグ装置。
【請求項2】
前記張力緩和構造は、
前記基布の前記乗員側を向く部分における該乗員の頭部が接触する部分と第2バッグとの接合部分との間に、上下方向に展開可能に形成された折り部と、
前記折り部の折り状態を縫製により維持し、前記基布における前記折り部を含む部分に作用する所定値以上の上下方向の張力によって破断されるティアシームと、
を含んで構成されている請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記張力緩和構造は、前記第1バッグの基布における前記乗員の頭部が接触する部分よりも該基布における第2バッグとの接合部分に近接して設けられている請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記第2バッグは、織り目からガスが漏れることを抑制する織り目シール構造を有する基布にて構成されており、展開完了状態での内圧が前記第1バッグの展開完了状態での内圧よりも高くなる設定とされている請求項1〜請求項3の何れか1項記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−79450(P2011−79450A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234171(P2009−234171)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】