説明

エアベルト装置

【課題】簡単な構成によって衝突の態様に適応した乗員拘束が可能なエアベルト装置を提供する。
【解決手段】シートベルト20の一部に設けられ展開用ガスの圧力によって展開膨張するバッグ60と、衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出装置と、衝突検出装置の検出結果に応じてバッグに前記展開用ガスを供給するガス供給装置90と、バッグが折り畳まれた状態で挿入されるメッシュウェビング70とを備えるエアベルト装置1を、バッグは展開膨張前にメッシュウェビング内に挿入される際にガス供給装置との連通箇所を含む部分に対して折り曲げられた部分に設けられ展開用ガスを外部へ放出するベントホール65を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトの一部に展開膨張するバッグ部が設けられたエアベルト装置に関し、簡単な構成によって前面衝突、側面衝突等の異なった衝突の態様に適合した乗員拘束が可能なものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両において、衝突又はその前兆を検出した際に、展開用ガスが吹込まれ展開膨張するバッグによって乗員を拘束するエアバッグ装置が広く用いられている。
近年では、このようなエアバッグ装置の一種であり、シートベルトの一部にバッグ部を設けて乗員拘束をより良好とするエアベルト装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動車用の3点式シートベルトにおいて、乗員の腰部を拘束するラップベルト部分にバッグ部(ラップバッグ)を配置し、車両のピラーに取り付けられるアンカー部にインフレータを配置したエアベルト装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−161203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したようなエアベルト装置においては、車両の前面衝突時にはバッグ部の内圧を高めてシートベルトの張力を高め、乗員の前方への移動を抑制することが求められる。
一方、車両の側面衝突時には、前面衝突時よりはバッグ部の内圧を低くして、乗員を柔らかく拘束することが求められる。
このように衝突の態様に応じてバッグ部の最適な内圧が異なることへの対応として、例えば、可変式のインフレータによって展開用ガスの圧力を変化させたり、アクチュエータによって開閉される可変ベントホールを用いて、側面衝突時には展開用ガスを抜くようにすることも考えられるが、この場合装置の部品点数が多くなって構造が複雑となることが懸念される。
上述した問題点に鑑み、本発明の課題は、簡単な構成によって衝突の態様に適応した乗員拘束が可能なエアベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、本発明のエアベルト装置は、シートに着座した乗員を拘束するシートベルトと、前記シートベルトの一部に設けられ展開用ガスの圧力によって展開膨張するバッグと、衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出装置と、前記衝突検出装置の検出結果に応じて前記バッグに前記展開用ガスを供給するガス供給装置と、前記バッグが折り畳まれた状態で挿入されるメッシュウェビングとを備えるエアベルト装置であって、前記バッグは、展開膨張前に前記メッシュウェビング内に挿入される際に、前記ガス供給装置との連通箇所を含む部分に対して折り曲げられた部分に設けられ前記展開用ガスを外部へ放出するベントホールを有することを特徴とするエアベルト装置である。
これによれば、例えば乗員の前方への移動等によってシートベルトが引張られ、メッシュウェビングの張力が大きい前面衝突時には、メッシュウェビングがバッグのベントホール部分の展開を妨げて展開用ガスのベントホールへの到達を防止するため、ベントホールを実質的に閉塞してバッグ内圧を高くすることができる。これによって前面衝突時に要求される高い乗員拘束性能が確保される。
一方、乗員の前方への移動量が少なくメッシュウェビングの張力が小さい側面衝突時には、メッシュウェビングによるバッグへの締め付けが弱く、バッグがベントホール部分まで展開し、展開用ガスがベントホールまで到達して排出されることから、バッグ内圧を低下させることが可能となり良好な衝撃緩和性能を得ることができる。
【0007】
本発明において、衝突による衝撃の入力方向と大きさとの少なくとも一方を判別する衝突形態判別装置を備え、前記衝突形態判別装置の判別結果に応じて前記ベントホールの開閉を制御する構成とすることができる。
これによれば、衝撃の入力方向、大きさに応じてベントホールの開閉を制御することによって、衝突の態様に応じた最適な拘束性能を得ることができる。
【0008】
本発明において、衝突による衝撃入力方向を判定する衝突方向判定装置を備え、前記衝突方向判定装置が判定した前記衝撃入力方向の車両前後方向成分の増加に応じて前記ガス供給装置の作動時期を遅らせる構成とすることができる。
これによれば、前面衝突時等にメッシュウェビングの張力が十分高まった後にバッグの展開膨張を開始させることによって、上述した効果を確実に得ることができる。
【0009】
本発明において、衝突による衝撃入力方向を判定する衝突方向判定装置と、前記シートベルトに張力を付与する張力付与装置とを備え、前記衝突方向判定装置が判定した前記衝撃入力方向の車両前後方向成分の増加に応じて前記張力付与装置の作動時期を前記ガス供給装置の作動時期に対して早める構成とすることができる。
これによれば、前面衝突時や車両前後方向の衝撃が主である斜め衝突時等において、張力付与装置によりメッシュウェビングを牽引した後にガス供給装置を作動させることによって、上述した効果をより確実に得ることができる。
【0010】
本発明において、衝突による車両前後方向の衝撃の大きさを判定する衝撃判定装置を備え、前記衝撃判定装置が判定した衝撃の大きさの増加に応じて前記ガス供給装置の作動時期を遅らせる構成とすることができる。
これによれば、強力な拘束力が必要な大衝撃の入力時にはガス供給装置の作動時期を遅らせてベントホールを確実に閉塞し、バッグの内圧を高めることができる。
一方、衝撃が小さく拘束力が比較的低くても足りる場合には、ガス供給装置の作動時期を早めて展開中期以降ベントホールを開き、バッグの内圧を低下させて衝撃緩和性能を得ることができる。
【0011】
本発明において、衝突による車両前後方向の衝撃の大きさを判定する衝撃判定装置と、前記シートベルトに張力を付与する張力付与装置とを備え、前記衝撃判定装置が判定した衝撃の大きさの増加に応じて前記張力付与装置の作動時期を前記ガス供給装置の作動時期に対して早める構成とすることができる。
これによれば、張力付与装置によりメッシュウェビングを牽引した後にガス供給装置を作動させることによって、上述した効果をより確実に得ることができる。
【0012】
本発明において、前記バッグは、前記メッシュウェビング内への挿入時における折れ線からの法線方向距離が異なった位置に設けられた複数の前記ベントホールを有する構成とすることができる。
また、本発明において、前記バッグは、前記ガス供給装置との連通箇所からの折り返し回数が異なった箇所に設けられた複数の前記ベントホールを有する構成とすることができる。
これらによれば、複数のベントホールに展開用ガスが順次到達し、排出を開始されることによって、バッグの内圧低下速度の推移をチューニングすることが可能となり、衝撃緩和性能の最適化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、簡単な構成によって衝突の態様に適応した乗員拘束が可能なエアベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用したエアベルト装置の第1実施形態の構成を示す模式的斜視図である。
【図2】第1実施形態のエアベルト装置の展開膨張後の状態を示す模式的前面図である。
【図3】第1実施形態のエアベルト装置のラップバッグ部の構造を示す模式的部分切断斜視図である。
【図4】第1実施形態のエアベルト装置におけるバッグの平面図であって、図4(a)はメッシュウェビング内に挿入される際の折り畳まれた状態を示し、図4(b)は展開された状態を示している。
【図5】図4(a)のV−V部矢視模式的断面図である。
【図6】第1実施形態のエアベルト装置におけるインフレータ及びプリテンショナの制御の概要を示す図である。
【図7】第1実施形態のエアベルト装置におけるバッグの展開状態を示す模式図であって、図7(a)及び図7(b)はラップベルト張力が大きい場合、小さい場合の側面視図であり、図7(c)及び図7(d)は図7(a)及び図7(b)のc−c部及びd−d部矢視断面図である。
【図8】本発明を適用したエアベルト装置の第2及び第3実施形態におけるバッグの平面図であって、図8(a)は第2実施形態、図8(b)は第3実施形態を示している。
【図9】第1乃至第3実施形態のエアベルト装置における側面衝突時のバッグ内圧の履歴を模式的に示すグラフである。
【図10】本発明を適用したエアベルト装置の第4実施形態におけるバッグの平面図である。
【図11】本発明を適用したエアベルト装置の第5実施形態におけるバッグの平面図である。
【図12】本発明を適用したエアベルト装置の第6実施形態におけるバッグの平面図である。
【図13】第4乃至第6実施形態のエアベルト装置における側面衝突時のバッグ内圧の履歴を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用したエアベルト装置の第1乃至第6実施形態について説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態のエアベルト装置は、例えば、乗用車等の自動車の前席用3点式シートベルトとして構成されている。
エアベルト装置1は、図1、図2に示すシート2に着座した搭乗者を拘束するものである。
シート2は、シートレール3を介して車両のフロアF(図2参照)に固定されている。
エアベルト装置1は、ショルダーベルト10、ラップベルト20、トング30、バックル40、アンカ50等を備えて構成されている。
【0016】
ショルダーベルト10は、乗員の左右一方の肩部から、他方の腰部まで斜行して配置された部分である。ショルダーベルト10の上端部は、ピラーP(図2参照)に取り付けられた図示しないアンカで下方に折り返され、ピラーPに内蔵された図示しないリトラクタによって不使用時には巻き取られる。
また、このリトラクタには、車両の衝突又はその前兆が検出された際に、火薬を用いてショルダーベルト10を巻き上げて張力を高めるプリテンショナが設けられている。
【0017】
ラップベルト20は、車幅方向に配置されて乗員の腰部を拘束する部分である。ラップベルト20の一方の端部はショルダーベルト10の端部と連続しており、トング30において折り返されている。ラップベルト20の他方の端部は、ピラーPの下端部に設けられたアンカ50に固定されている。
また、ラップベルト20の中央部近傍からアンカ50にかけた領域(図示しないドア側の半部)には、ラップバッグ部21が設けられている。ラップバッグ部21は、図2に示すように、車両の衝突又は衝突の前兆が検出された場合に、展開膨張して乗員を拘束する。また、ラップバッグ部21は、側面衝突時にはドア内装材等から乗員を保護する衝撃緩和部材としても機能する。このラップバッグ部21の詳細な構成は後に説明する。
ショルダーベルト10及びラップバッグ部21を除いたラップベルト20は、非膨張式の通常のウェビングによって構成されている。
【0018】
トング30は、ショルダーベルト10とラップベルト20との境界部に設けられ、ウェビングを通過可能な状態で折り返す金具である。
バックル40は、トング30が着脱可能に取り付けられる金具であって、ステーを介して車両のフロアに固定されている。
アンカ50は、ピラーPの下端部に設けられ、ラップベルト20のラップバッグ部21側の端部が固定される金具である。
【0019】
次に、ラップバッグ部21及びアンカ50周辺の詳細な構成について説明する。
図3に示すように、ラップバッグ部21は、バッグ60、メッシュウェビング70、カバー80等を備えて構成されている。
また、アンカ50には、インフレータ90が設けられている。
【0020】
バッグ60は、例えば図5に示すように2枚の基布パネル61,62を重ねて周辺部を縫合して袋状としたものである。
図4(b)に示すように、バッグ60は、平面形がほぼ円形とされた本体部63を有する。図4(b)において、上下方向はラップベルト20の長手方向となっている。本体部63の周縁部は、複数本(例えば3本)が平行して設けられたステッチSによって縫合されている。また、この縫合箇所には、展開用ガスのリークを防止するシール剤が塗布されている。
バッグ60のアンカ50側の端部には、本体部63から径方向に突きだした展開用ガス流路である吹込口64が形成されている。
【0021】
また、本体部63の周縁部には、ベントホール65が形成されている。ベントホール65は、本体部63の周縁部上の一部において、基布パネル61,62を縫合及びシールしないことによって形成されている。ベントホール65の両端部においては、ステッチSは本体部63の外周縁部側にRをつけて曲げられている。
第1実施形態において、ベントホール65は、ラップベルト20の長手方向と直交する本体部63の直径上(図4(b)における左右両端部)に例えば2つ形成されている。
【0022】
さらに、本体部63の吹込口64と反対側の端部には、ラップベルト20の長手方向に延び、ウェビングとの連結に用いられるタブ状の連結部66が形成されている。
【0023】
バッグ60は、展開膨張前においては、図4(a)及び図5に示すように、ベントホール65が設けられた両端部を、ラップベルト20の長手方向と平行な折れ線FLにおいて、吹込口64が設けられた部分に対して折り曲げた状態で折り畳まれている。
【0024】
メッシュウェビング70は、バッグ60が挿入されるスリーブ状の部材である。
メッシュウェビング70は、ラップベルト20に負荷される張力が増加してもラップベルト20の長手方向の寸法が増加しない特性を有している。
カバー80は、メッシュウェビング70のさらに外側に設けられるスリーブ状の部材である。カバー80は、ラップバッグ部21におけるラップベルト20の外表面を構成する。カバー80は、バッグ60の展開膨張等に伴うバッグ60及びメッシュウェビング70の変形を妨げないよう伸縮性を有する素材によって形成されている。
また、カバー80はこのような伸縮性を有するものに代えて、カバー80に形成された破断部を破断させることで、バッグ60及びメッシュウェビング70を展開膨張させる構成としてもよい。
【0025】
インフレータ90は、例えば火薬等を用いてバッグ60に展開用ガスを供給するものである。
インフレータ90及びショルダーベルト10のプリテンショナは、図示しないエアベルト制御ユニットの制御に応じて火薬に点火され、展開用ガスの供給及びショルダーベルト10の牽引を開始する。
エアベルト制御ユニットには、例えば加速度ピックアップ等を有する複数の衝突センサが接続され、衝突の検出及び衝撃の大きさ、衝撃入力方向の判定が可能となっている。
衝撃入力方向は、例えば車両の前面衝突時にはほぼ車両の前後方向となり、側面衝突ではほぼ車幅方向となる。また、斜め衝突のように衝撃入力方向が車両前後方向成分及び車幅方向成分をともに有する場合もありうる。この場合には前面衝突と側面衝突との中間的な制御が行われ、車両前後方向成分の増加に応じて前面衝突寄りの制御とされる。
【0026】
エアベルト制御ユニットは、衝撃入力方向に応じて、インフレータ90の展開用ガス供給開始タイミング(点火タイミング)、及び、プリテンショナの牽引開始タイミング(点火タイミング)を、図6に示すように制御している。
図6において、表の上方は前方からの衝撃が大きい場合を示し、表の下方は側方からの衝撃が大きい場合を示している。
本実施形態においては、前方からの衝撃が大きい場合(前面衝突であり衝撃が大きい場合)にはラップベルト20の張力を比較的大きくしかつバッグ60の内圧を比較的高くしている。
また、側方からの衝撃が大きい場合(側面衝突であり衝撃が大きい場合)にはラップベルト20の張力を比較的大きくしかつバッグ60の内圧を比較的低くしている。
また、前面衝突であるが衝撃が比較的小さい場合や、斜め前方からの衝突で車両前後方向及び車幅方向の衝撃をともに受けた場合には、これらの中間的な制御を行っている。
【0027】
具体的には、乗員の移動方向が主に前方となる前面衝突であって、所定の閾値以上の衝撃を判定した場合には、プリテンショナを先行して点火(作動)させ、その後時間差をおいてインフレータ90を点火(作動)させている。
また、前面衝突で衝撃が所定の閾値未満である場合には、インフレータ90とプリテンショナとを同時に点火させている。
【0028】
また、乗員の移動方向が主に側方となる側面衝突であって、所定の閾値以上の衝撃を判定した場合には、プリテンショナは点火せず、インフレータ90のみを点火させている。
また、側方からの衝撃が所定の閾値未満でありかつ前方からの衝撃が所定の閾値以上である斜め衝突の場合には、インフレータ90を先行して点火させ、その後時間差をおいてプリテンショナを点火させている。
【0029】
以上説明した制御において、前面衝突で衝撃が大きい場合のように、プリテンショナを先行して点火し、その後インフレータ90を点火した場合には、図7(a)及び図7(c)に示すように、メッシュウェビング70が牽引された状態でバッグ60内に展開用ガスが吹き込まれる。このとき、バッグ60の折り畳まれた部分は、張力のかかったメッシュウェビング70に押さえられて展開しない。このため、バッグ60のベントホール65は実質的に閉塞され、バッグ60内の圧力は、後述するようにインフレータ90を先行点火した場合に対して高圧となる。
これによれば、乗員の腰部の拘束力を高めて、乗員の前方への移動を防止することができる。
【0030】
一方、側面衝突で衝撃が大きい場合のように、インフレータ90を先行して点火し、その後プリテンショナを点火した場合には、図7(b)及び図7(d)に示すように、バッグ60内に展開用ガスGが吹き込まれる。この場合、メッシュウェビング70への張力が比較的小さいため、バッグ60は折り畳まれた部分が展開しつつ膨張することから、展開用ガスGがベントホール65に達し、ここから徐々に排出される。このため、バッグ60内の圧力は前面衝突の場合よりも比較的小さくなり、さらにバッグ60に外力が作用した場合には、さらに展開用ガスの排出が促進されて内圧増加が防止される。
これによれば、乗員を柔らかく拘束することができる。
【0031】
また、前面衝突であっても衝撃が小さい場合や、衝撃が車両前後方向成分及び車幅方向成分をともに有する斜め衝突のような場合には、これらの中間的な特性とすることによって、適切な乗員拘束を行うことができる。
【0032】
以上説明した第1実施形態によれば、例えば可変式のインフレータやアクチュエータによって開閉するベントホール等を用いることなく、簡単な構成によって衝突方向、衝撃の大きさ等の衝突の態様に応じてラップベルト20のバッグ60の内圧を調整することが可能となり、良好な乗員拘束性能を得ることができる。
【0033】
<第2、第3実施形態>
次に、本発明を適用したエアベルト装置の第2実施形態及び第3実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態においては、従前の実施形態と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図8(a)は、第2実施形態におけるバッグ60Aの平面図である。
バッグ60Aは、第1実施形態のバッグ60に対して、ベントホール65の大きさ(平面図における非縫合部分の幅)を小さくしたものである。
図8(b)は、第3実施形態におけるバッグ60Bの平面図である。
バッグ60Bは、第1実施形態のバッグ60に対して、ベントホール65の大きさを大きくしたものである。
【0034】
図9は、第1乃至第3実施形態における側面衝突時のバッグ60,60A,60Bの内圧の推移を模式的に示すグラフであって、横軸は時間を示し、縦軸は内圧を示している。なお、各実施形態において、インフレータ90を出力可変式のものとすることが可能であり、図9においては出力大、出力小の場合をそれぞれ図示している。(以上について後述する図13も同様)
図9に示すように、バッグ内圧は、展開膨張後、例えばドア内張り等が車室内に入り込んでバッグ60を押圧し始めるまではほぼ一定であり、その後、ベントホール65から展開用ガスが流出することによって低下する。
なお、前面衝突時(ベントホール65が閉じた状態)においては、図9に三点鎖線で示すように、バッグ60,60A,60Bの内圧は実質的にほとんど低下しない。
ここで、第2実施形態及び第3実施形態のようにベントホール65の大きさを縮小又は拡大すると、内圧の低下速さを変化させることができ、バッグの衝撃緩和性能を適切にチューニングすることができる。
【0035】
<第4実施形態>
次に、本発明を適用したエアベルト装置の第4実施形態について説明する。
図10に示すように、第4実施形態のバッグ60Cは、第1実施形態のバッグ60のベントホール65の、本体部63の周方向における両側に、サブベントホール65aを形成したものである。サブベントホール65aは、バッグ60Cを折り畳む際の折れ線FLからの法線方向距離(図中の横方向寸法)がベントホール65よりも小さく、バッグ60Cの展開膨張時に、ベントホール65よりも先に展開用ガスが到達するように配置されている。
【0036】
<第5実施形態>
次に、本発明を適用したエアベルト装置の第5実施形態について説明する。
図11に示すように、第5実施形態のバッグ60Dは、本体部63の平面形を、ラップベルト20の長手方向(図中上下方向)と直交する長軸方向を有する長円形に形成するとともに、吹込口64及び連結部66を長軸方向における一方にオフセットして配置している。
【0037】
バッグ60Dには、吹込口64に近い側の側端部及び遠い側の側端部に、それぞれベントホール65b,65cが設けられる。
ベントホール65bは、バッグ60Dの折り畳み時に、吹込口64が設けられた部分から1回折り曲げられる箇所に設けられている。
これに対し、ベントホール65cは、バッグ60Dの折り畳み時に、吹込口64が設けられた部分から2回折り曲げられる箇所に設けられている。
このような構成により、第5実施形態のバッグ60Dでは、展開膨張時におけるベントホール65cへの展開用ガスの到達は、ベントホール65bよりも遅くなる。
【0038】
<第6実施形態>
次に、本発明を適用したエアベルト装置の第6実施形態について説明する。
図12に示すように、第6実施形態のバッグ60Eは、本端部63のラップベルト20の長手方向と直交する方向(図中左右方向)における両端部のうち一方にトング側からベントホール651、653を設け、他方にトング側から順にベントホール652,654を設けている。
ここで、吹込口64を通りかつラップベルト20の長手方向と平行な直線CLからの各ベントホール651,652,653,654までの法線方向距離L1,L2,L3,L4は、この順に順次長くなるようになっている。
このような構成により、第6実施形態のバッグ60Eでは、展開膨張時に展開用ガスがベントホール651,652,653,654の順に順次到達するようになっている。
【0039】
図13に示すように、上述した第4乃至第6実施形態においては、ベントホールに展開用ガスが到達した後のバッグ内圧の低下速さを、複数のベントホールが機能し始めるタイミングをずらすことによって多段階的に変化させることが可能となり、きめ細かい衝撃吸収特性のチューニングが可能となる。
なお、前面衝突時(ベントホール65が閉じた状態)においては、図13に三点鎖線で示すように、バッグ60C,60D,60Eの内圧は実質的にほとんど低下しない。
【0040】
なお、本発明の技術的範囲は、上述した各実施形態によって限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。このような変更の一例として例えば以下のようなものがあり、これらも本発明の技術的範囲内である。
(1)各実施形態では車両の衝突を検出した場合にインフレータ90、プリテンショナの点火等を行っているが、車両の衝突の前兆であるプリクラッシュの検出に応じてこれらを点火するようにしてもよい。
(2)各実施形態では火薬式のプリテンショナによってメッシュウェビングに張力を付与しているが、本発明はこれに限らず、例えば電動巻上式のリトラクタ等の他の手段を用いてもよい。さらに、前面衝突時の乗員の前方移動によるシートベルトの張力増加を利用してメッシュウェビングを牽引し、ベントホール部の展開を防止するようにしてもよい。この場合には、プリテンショナ等の牽引手段は必ずしも必要ではない。さらに、プリテンショナ使用時には、一度巻き上げられたシートベルトが再び引き出されることを防止するいわゆるワンウェイトングを設けることが好ましい。
(3)バッグを含めたエアベルトの構成も適宜変更することができる。各実施形態のエアベルト装置は、ラップベルトの一部にバッグを設けた構成であるが、例えばショルダーベルト等にバッグを設けた構成であってもよい。
(4)各実施形態において、バッグは例えば2枚の基布パネルを重ね合わせて端部を縫合して構成しているが、異なった基布パネル構成としてもよい。また、接合方法も縫合に限らず、接着等適宜変更することができる。また、折り畳み方法も特に限定されない。
(5)各実施形態において、ベントホールは例えば2枚の基布パネル間を接合しないことによって形成しているが、これに限らず、例えばバッグの吹込口に対して折り曲げられる箇所の基布パネルに開口やスリットを形成することによってベントホールを設けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 エアベルト装置 2 シート
3 シートレール
P ピラー F フロア
10 ショルダーベルト 20 ラップベルト
21 ラップバッグ部 30 トング
40 バックル 50 アンカ
60 バッグ(第1実施形態) 60A バッグ(第2実施形態)
60B バッグ(第3実施形態) 60C バッグ(第4実施形態)
60D バッグ(第5実施形態) 60E バッグ(第6実施形態)
61,62 基布パネル 63 本体部
64 吹込口 65 ベントホール
65a サブベントホール 65b,65c ベントホール
651,652,653,654 ベントホール
66 連結部 70 メッシュウェビング
80 カバー 90 インフレータ
FL 折線 S ステッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した乗員を拘束するシートベルトと、
前記シートベルトの一部に設けられ展開用ガスの圧力によって展開膨張するバッグと、
衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出装置と、
前記衝突検出装置の検出結果に応じて前記バッグに前記展開用ガスを供給するガス供給装置と、
前記バッグが折り畳まれた状態で挿入されるメッシュウェビングと
を備えるエアベルト装置であって、
前記バッグは、展開膨張前に前記メッシュウェビング内に挿入される際に、前記ガス供給装置との連通箇所を含む部分に対して折り曲げられた部分に設けられ前記展開用ガスを外部へ放出するベントホールを有すること
を特徴とするエアベルト装置。
【請求項2】
衝突による衝撃の入力方向と大きさとの少なくとも一方を判別する衝突形態判別装置を備え、
前記衝突形態判別装置の判別結果に応じて前記ベントホールの開閉を制御すること
を特徴とする請求項1に記載のエアベルト装置。
【請求項3】
衝突による衝撃入力方向を判定する衝突方向判定装置を備え、
前記衝突方向判定装置が判定した前記衝撃入力方向の車両前後方向成分の増加に応じて前記ガス供給装置の作動時期を遅らせること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアベルト装置。
【請求項4】
衝突による衝撃入力方向を判定する衝突方向判定装置と、
前記シートベルトに張力を付与する張力付与装置とを備え、
前記衝突方向判定装置が判定した前記衝撃入力方向の車両前後方向成分の増加に応じて前記張力付与装置の作動時期を前記ガス供給装置の作動時期に対して早めること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエアベルト装置。
【請求項5】
衝突による車両前後方向の衝撃の大きさを判定する衝撃判定装置を備え、
前記衝撃判定装置が判定した衝撃の大きさの増加に応じて前記ガス供給装置の作動時期を遅らせること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエアベルト装置。
【請求項6】
衝突による車両前後方向の衝撃の大きさを判定する衝撃判定装置と、
前記シートベルトに張力を付与する張力付与装置とを備え、
前記衝撃判定装置が判定した衝撃の大きさの増加に応じて前記張力付与装置の作動時期を前記ガス供給装置の作動時期に対して早めること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のエアベルト装置。
【請求項7】
前記バッグは、前記メッシュウェビング内への挿入時における折れ線からの法線方向距離が異なった位置に設けられた複数の前記ベントホールを有すること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のエアベルト装置。
【請求項8】
前記バッグは、前記ガス供給装置との連通箇所からの折り返し回数が異なった箇所に設けられた複数の前記ベントホールを有すること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のエアベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−213331(P2011−213331A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86078(P2010−86078)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】