説明

エネルギー吸収ロープ

【課題】強度を保有するとともに、非常に大きなエネルギー吸収能を有し、たとえば、落下防止設備や落石防止設備などにおける設備構成物の落下や転倒を防止したり、構造物が崩壊するのを防いだりする手段などとして著効のあるエネルギー吸収ロープを提供する。
【解決手段】オーステナイトを含有するロープであって、該ロープが、特定の化学的成分組成の鋼素線を伸線し、撚り加工した後、オーステナイト生成熱処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえば落下防止設備や落石防止設備などに好適なエネルギー吸収ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
落下防止設備や落石防止設備に用いられるワイヤロープは強度およびエネルギー吸収性能が要求される。かかる用途のワイヤロープとして、従来、亜鉛メッキやアルミ亜鉛メッキを施したいわゆるGCロープ(3×7構造)を使用し、その弾性伸びによって落下物のエネルギーの吸収を期待して設置されていた。
しかし、このようにロープ弾性域内でエネルギーを吸収する方式では、エネルギー吸収効率の面から、落下物のエネルギーが大きいときは、非常に太いロープを使用するか、多数のロープを使用することになり、定着部としてのアンカーなど付帯設備も大型なものとならざるを得なかった。
【0003】
かかる対策として、出願人は先行文献1を提案した。この先行文献においては、相対的に長さの異なる複数本のワイヤロープを対象物に取り付け、長さの短いロープから順次破断させることにより、長さの短いロープの破断でエネルギーを吸収させ、その後長いロープで短いロープが吸収した残りのエネルギーの吸収を受け持たせるようにしている。
しかし、実際にはロープ素線それぞれにはかなり大きな不均一力がかかり、荷重負担の大きな線材から破断に至るため、十分なエネルギー吸収を行い難い懸念があった。
【0004】
【特許文献1】特開2004−278256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、良好な強度特性を保有しつつしかも非常に大きなエネルギー吸収能を有し、落下防止設備や落石防止設備などにおける設備構成物の落下や転倒を防止する手段や、構造物が崩壊するのを防いだりする手段などとして実用的かつ効果的なエネルギー吸収ロープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のエネルギー吸収ロープは、質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素線を用いたロープであって、前記鋼素線が組織中の体積率で10%以上の残留オーステナイトを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
ロープを組織中の体積率で10%以上のオーステナイトを含む鋼素線で構成しているので、ロープ使用中、特定のロープの一部に他より高い負荷がかかった時に、その部位が加工誘起マルテンサイトの生成によって強化され、他の部分に変形を分散させてロープ全体を均一に変形させることになるので、ロープ破断までの吸収エネルギーを、従来の弾性域吸収ロープの10倍以上、塑性域吸収ロープの3倍以上に著しく高めることができ、これによりロープの小型化が可能となり、また、適用した設備の発生張力が低くなるので、設備構成物たとえば端末構造、中間支柱構造などを簡易化することができる経済性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
好適には、1mあたりのロープの衝撃エネルギー吸収量(Ef)=吸収係数(K)・引張り破断荷重(Ps)(kN・m)において、0.20≦K<1.00である
本発明の前記特性のロープは、次のいずれかの方法で製造されることが好ましい。
1)質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn=0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素線を撚り加工した後、730〜900℃のフェライト−オーステナイト二相域温度に加熱し、15〜180秒保持してから、冷却速度10〜300℃/sで200〜500℃まで急冷して、その温度域で15〜600秒保持してから室温まで冷却する。
2)質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素線を撚り加工した後、730〜900℃のフェライト−オーステナイトニ相域温度に加熱し、15〜180秒保持してから、550〜700℃までを1〜10℃/sで徐冷し、それ以下を10〜300℃/sで200〜500℃まで急冷して、その温度域で15〜600秒保持してから室温まで冷却する。
上記製法によれば、前記特性のロープを工業的に容易に製造することができ、また、ロープが、前記化学的成分組成の鋼素線を伸線し、ロープに燃り加工した後、残留オーステナイト生成のための特殊熱処理がされてなるので、伸びを著しく大きなものにすることができる。
【0009】
好適には、ロープをほぐして鋼素線ごとの強度を求め、それらの総和に対する撚り加工したロープそのままの引張破断荷重の低下率(撚り減り率)が10%未満である。
好適には、ロープの降伏比が0.7以下、ロープをほぐした鋼素線の引張降伏比が0.3〜0.7である。
【実施例1】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は、本発明にかかるエネルギー吸収ロープを高速道路、高速鉄道、橋梁などにおける標識柱のごとき付帯設備の落下防止手段に適用した例を示しており、100は道路、101は対象設備で、支柱102の上部に標識本体103を固定している。前記支柱102は下端部が道路の側面から立ち上がる側壁(高欄)104に固定金具105により固定されている。
【0011】
1は前記側壁からの落下を防止するエネルギー吸収ロープであり、それぞれの端が支柱102の中間部に取り付けた支持金具106に連結され、他端が側壁に固定した左右の固定金具107,107に連結され、道路を走行中の車両が支柱に激突したり、地震が発生したりして支柱が固定金具105ごとあるいは固定金具105から離脱して転倒・落下しようとした場合に、エネルギー吸収ロープ1に張力を発生させ、落下・転倒エネルギーを吸収するものである。
【0012】
前記ロープ1の構造に限定はないが、通常、複数本の鋼素線を撚り合せたストランドを複数本撚り合せて構成されている。図2はそうしたロープの例を示しており、2はストランド、3は鋼素線である。この例では、19本の鋼素線3を撚り合せたストランド2を7本用い、これらを撚り合せた7×19構造となっている。しかし、本発明はこれに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0013】
本発明の前記ロープ1の鋼素線3は、質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、該鋼線が、組織中の体積率で10%以上の残留オーステナイトを含んでいる。
組織に10%の残留オーステナイトを含む理由は、ロープのある部分が荷重を受けて塑性変形したときに、ロープに含まれる残留オーステナイトは、加工誘起マルテンサイトとなって強度が上昇し、その部分に変形が集中するのを防ぐのであるが、それが有効に作用するには、少なくとも10%は必要であるからである。
【0014】
一方、化学的成分としては、質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
限定理由を説明すると、Cは熱処理時にオーステナイト中に濃縮されることによって、室温に冷却されたときにオーステナイトを安定して残留させるのに必要である。この残留オーステナイトが、ロープに外力がかかったときに、加工誘起変態によってマルテンサイトを生じ、それが変形の局所化を防いでロープとしてのエネルギー吸収能向上に寄与する。0.1%未満では本発明の製造法にては残留オーステナイトを10%以上確保できない。また0.40%を超えると延性が低下する。
【0015】
Siは、200〜500℃の温度域でベイナイト変態が起きる時に、オーステナイト中のC濃度を高めるのに有効であるが、0.5%未満では効果は少なく、また2.0%を超えると延性が低下する。
Mnはオーステナイトを安定化させるために0.2%以上含み、一方で、延性低下を防ぐため上限を2.5%とする。
Sol.Alは脱酸ならびに、細粒化のため微量添加するが、延性を損じないよう、上限を0.10%とする。
以上が、本発明が対象とする鋼の基本成分であるが、以上の各元素とFe以外にP、Sなど鋼に不可避的に含まれる不純物を含むものとする。
【0016】
前記本発明のロープを得る方法を説明すると、圧延した上記構成の線材を伸線して得た鋼素線を撚線機でストランドに撚合する。このときの撚りピッチはストランド直径の9〜11倍程度とすることが好ましい。そして、得られたストランドの複数本を撚線機に配して撚合し、目的径の素ロープを得る。このときの撚りピッチはロープ直径の6.0〜7.5倍程度とすることが好ましい。これらは、撚り減り率を1O%未満にし、強度を向上させるために必要である。なお、「撚り減り率」とは、ロープをほぐして鋼素線ごとの強度を求め、それらの総和に対する撚り加工したロープそのままの引張破断荷重の低下率を意味する。
【0017】
そして、素ロープを残留オーステナイト生成熱処理する。これは、素ロープをインラインで連続熱処理してもよいし、あるいは所要長さコイルに巻き、熱処理装置に装入して処理を行ってもよい。
この熱処理の条件は、730〜900℃のフェライトーオーステナイトニ相域温度に加熱し、15〜180秒保持してから、550〜700℃までを1〜10℃/sの徐冷するかあるいは除冷することなく10〜300℃/sで200〜500℃まで急冷し、その温度域で15〜600秒保持してから室温まで冷却する。
かかる条件としたのは、組織中に必要な相を形成せしめるためであり、こうした条件により、引張荷重を受けたときに大きなエネルギー吸収能を示す特性が得られ、ロープの降伏比が0.7以下、ロープをほぐした鋼素線の引張降伏比が0.3〜0.7のものとなる。
【0018】
製造条件の限定理由を詳細に述べると、図4に示すように、ロープの状態で、730〜900℃のフェライトーオーステナイトニ相域温度に加熱し、15〜180秒保持する。この処理によってオーステナイト相のCやMnの濃度が高くなる。730℃未満では炭化物が溶け残る可能性があり、残留オーステナイトを10%以上にするのが困難となる。また、900℃を超えると、ほぼ全体がオーステナイト状態となるため、オーステナイト相の合金元素が薄まって、やはり残留オーステナイトが不足する。加熱時間が15秒未満では炭化物が溶け残るのであり、逆に180秒を超えると延性低下が間題となる。
【0019】
そこから、550〜700℃の温度域までを1〜10℃/sで徐冷し、さらに、10〜300℃/sで200〜500℃まで急冷するのは、Cなどの合金元素をさらにオーステナイト相に濃化させるとともに、ベイナイト変態させて、延性を確保するためである。
550〜700℃までの冷却速度が1℃/s未満ではパーライト変態によって残留オーステナイトが不足するのであり、逆に10℃/sを超えると延性低下が起こる。そして、徐冷後の温度が550℃未満になるとパーライト変態により延性が低下し、逆にそれが700℃を超えるとフェライトが少ないためオーステナイト相への炭素濃化が不十分となる。ただしこの徐冷は他の熱履歴に比べて残留オーステナイト量の確保に、それほど大きくは効かないので、状況応じて省略することもできる。
【0020】
550〜700℃から下への冷却速度が10℃/s未満の時はパーライト変態のために延性が低下し、逆に300℃/sを超えても品質は飽和するので、操業上メリットはない。さらに、この急冷後の温度が200℃未満では、炭化物の析出によりオーステナイトは不安定となる。
さらに、200〜500℃の温度域に保持するのは部分的にベイナイト変態させて、オーステナイト相にCを濃化させ、室温になっても安定した状態とするためである。そしてその温度での保持時間が15秒未満ではベイナイト変態が不十分となる。また保持時間が600秒を超えると炭化物が析出して延性が低下する。
これらの熱処理はバッチ炉でも連続炉でも実現可能である。一定温度の保持は炉中で実施することも、ソルトや流動床などの連続方式を用いることもできる。ロープの酸化が間題である場合には、真空中または非酸化雰囲気とすればよい。
【0021】
本発明者は、既に特願2005−314211号において、オーステナイトを含有したステンレス線を用い、それを伸線して素線とし、さらにそれを撚り合せてストランドを作り、そのストランドの複数本を撚合して目的のステンレスロープとした後に、固溶化熱処理したロープを提案した。
【0022】
かかるロープは、規格破断荷重をPs(kN)としたとき、1mあたりのロープの衝撃エネルギー吸収量Ef=KPs(kN・m)において吸収係数K:0.25以上で、しかも、使用時に素線は、平均強度400〜900MPaの強度が得られるという非常に優れた性能を発揮するのであるが、オーステナイトステンレス鋼という特別に高価な材料を用いているため用途は限られることになる。しかも、強度を付与するにはさらに高価な合金添加が必要となる。
本発明はそうした高価な合金元素を全く用いずに、簡単な熱処理だけでオーステナイトを含有させた高エネルギー吸収ロープを提供することができる。
【0023】
本発明のロープは前記のように熱処理を施して製品とされ、図1、2などのように使用される。図1と2のように、ロープは多数の鋼素線が撚り合わさっているので、これに外力がかかったとき、それら鋼素線に加わる応力は均等ではない。最も高い応力の鋼素線が塑性変形し、塑性伸びを生じるが、通常のスチールロープでは鋼線は加工硬化が大きくないので、他の鋼素線に変形がほとんど分担されないまま、この線が破断に至り、他の線も次々に破断して、エネルギー吸収は小さなものとなる。
【0024】
これを防ぐには最初に塑性変形する鋼素線が大きく加工硬化して強化されることが必要であるが、本発明では前記のように鋼素線としてオーステナイトを含有した鋼線を用いており、ストランドに撚り合せるときに加工硬化され、ロープによるときにまた加工硬化される。それらによって伸びが低下するが、ロープとなった状態で熱処理を施すので、該処理によって伸びが非常に大きくなるのである。
そして、前記した使用状態におき、ロープに引張り荷重が付加されると、鋼素線は塑性変形を起こし、それによって加工誘起マルテンサイトを発生させることにより大きな加工硬化が得られる。そうすれば、或る線のみに変形を集中させず、他の線に分散させることが可能となる。これによってロープ鋼素線全体が均一な力を負担することになり、局所的な破断が起こらないから、全体が非常に大きな変形を受けることが可能となるのである。
【0025】
図5はロープに引張荷重をかけたときの荷重一伸びの関係を示している。
図中、線Aは弾性域でエネルギー吸収させるタイプのロープ(硬鋼線タイプ)であり、線Aの下の荷重一変位を積分した面積SAがエネルギーである。
線Bは塑性域でエネルギー吸収させるタイプのロープ(通常のステンレス線ロープ)であり、線Bの下の荷重一変位を積分した面積SBがエネルギーである。
線Cは本発明の塑性域でエネルギー吸収させるタイプのロープであり、線Cの下の荷重一変位を積分した面積SCがエネルギーとなる。「弾性」に比べて「塑性」はエネルギー吸収は大きいが、伸びはほとんど大きくないためそれほど効果は少ないのに対し、本発明では引張変形時のマルテンサイト変態がロープ各部において線径が細くなっていく部分を強化する作用が顕著であるため、破断が抑制されて著しい変形能を示すのである。
【0026】
薄板構造のように一体となった構造物と違って、ロープの構造は多数の複合体すなわち多数の鋼素線から構成されているため、単にその素材の伸び量が大きいだけでは特定の鋼素線に変形が集中するのを防ぐことが出来ない。その伸び変形過程で大きな強度上昇が伴わなければならないのである。こうした特性を発現するのが残留オーステナイトであり、一般に素材が鋼である場合、多数の鋼素線が撚り込まれているために大幅な延性低下が不可避となる。本発明は、こうした大幅な延性低下を、ロープ状態で熱処理を施すことによってほとんど完全に防ぐことができるのである。
【0027】
〔具体例〕
次に具体例を示すと、表1は、本発明ロープと、通常のステンレスロープと、硬鋼線ロープを試作して、それぞれについて破断強度、伸び、lm当たりの吸収エネルギーおよびエネルギー吸収係数を求めた結果を示している。
本発明ロープの製造条件と、従来ロープの製造条件は下記のとおりである。
【0028】
〔本発明ロープについて〕
構造:7x19、Z撚り、径18.0mm.
化学的成分組成:残留オーステナイト17%含有。
C:0.21%、Si:1.1%、Mn:1.4%、P:0.015%、S:0.004%、sol.Al:0.032%
工程:
1)直径5.5mmの原料線を、線径1.19mmになるまであわせて13回抽して鋼素線を得た。
2)前記工程で得られた19本の鋼素線をZ方向に撚り含わせ、心ストランドを製作し、19本の鋼素線をS方向に撚りあわせ、側ストランドを製作した。
3)心ストランドに6本の側ストランドをZ方向に撚り合せてロープを製作した。
4)巻き取ったロープを焼鈍炉に入れ、820℃に加熱し、60秒保持してから、630℃までを5℃/sの徐冷、それ以下を50℃/sで370℃まで急冷して、その温度域で100秒保持してから室温まで冷却する熱処理を行った。(発明品2)
5)あわせて、ロープ径28.0mmのものも前記と同じ工程で作成し、残留オーステナイトを15%含有させた。(発明品3)
6)一方、ロープ径6.3mmのものは前記の熱処理中820℃から630℃までの徐冷を省略したこと以外は上記と同じ熱処理を施してロープを作成した。残留オーステナイトは13%であった。(発明品1)
【0029】
〔従来ロープ1について〕
構造:7x19、Z撚り、径18.0mm。
化学的成分組成:オーステナイト系ステンレス鋼
本発明ロープと同じ。
工程:
1)において9回抽後、固溶化熱処理し、その後4回抽し、あと2)、3)まで同じ。4)の工程なし。
【0030】
〔従来ロープ2について〕
構造:7x19、Z撚り、径18.0mm。
高炭素鋼ロープ:構造7×19、Z撚り、径18.0mm。
化学的成分組成:硬鋼
C:0.62%、Si:0.20%,Mn:0.48%、P:0.016%、S:0.014%
工程:
1)直径5.5mmの原料線を3.5mmまで冷間にて4回抽し、980℃×1.5分後鉛浴で冷却の条件で熱処理し、次いで、線径1.19mmになるまで9回抽して鋼素線を得た。
2)前記工程で得られた19本の鋼素線をZ方向に撚り合せ、心ストランドを製作し、19本の鋼素線をS方向に撚りあわせ、側ストランドを製作した。
3)心ストランドに6本の側ストランドをZ方向に撚り合わせロープを製作した。
【0031】
あわせて比較ロープを製作した。
〔比較ロープについて〕
1)発明品2と同一の構成のロープの製造工程すなわち820℃に加熱し、60秒保持してから、630℃までを5℃/sの徐冷、それ以下を50℃/sで370℃まで急冷して、その温度域で100秒保持してから室温まで冷却する熱処理において、徐冷工程を省略すると共に、370℃までの急冷速度を7℃/sとした。(比較品1)
2)発明品2と同一の構成のロープの製造工程において、徐冷工程を省略すると共に、370℃の保持温度でなく、160℃とした。(比較品2)
3)発明品2と同一の構成のロープの製造工程において、徐冷工程を省略すると共に、370℃の保持温度でなく、530℃とした。(比較品3)
4)発明品2と同一の構成のロープの製造工程において、徐冷工程を省略すると共に、370℃の保持時間を5sとした。(比較品4)
5)発明品2と同一の構成のロープの製造工程において、徐冷工程を省略すると共に、370℃の保持時間を710sとした。(比較品5)
【0032】
【表1】

【0033】
図6は本発明品1,2,3と従来品1.2の1m当たりの吸収エネルギーとロープ破断荷重の関係を示している。表1は本発明品1,2,3、従来品1.2および比較品1〜5の残留オーステナイト体積率、破断荷重、伸び、1mあたりの吸収エネルギーおよびエネルギー吸収係数を示している。
これら表1と図6から明らかなように、従来品2のロープは、エネルギー吸収性能が著しく劣り、従来品1のロープは、従来品2よりもいくぶんエネルギー吸収性能が高いが、それでもかなり低い。これに対して、本発明ロープはエネルギー吸収性能が著しく高いことがわかる。これは、ロープの状態でオーステナイト生成熱処理して延性を高め、使用時に鋼素線に含まれるオーステナイトが塑性変形によってマルテンサイトに変態して強化されることを利用して、不均一にかかる力を分散させ、破断を抑制してエネルギー一吸収能を著しく高めたからである。
また、本発明で規定した熱処理条件を外れた比較品1〜5は、残留オーステナイト体積率が低く、エネルギー吸収性能が劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明ロープは、落下防止設備や落石防止設備(たとえば落石防止柵,落石防止網)などにおける設備構成物の落下や転倒を防止したり、構造物が崩壊するのを防いだりする犠牲手段、あるいは衝突時の衝撃緩和手段などエネルギー吸収性能が求められる分野のロープなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は本発明にかかるエネルギー吸収ロープの使用例を示す側面図、(b)は同じく正面図である。
【図2】本発明ロープの一例を示す部分的斜視図である。
【図3】本発明ロープの一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明ロープの熱処理法を示す線図である。
【図5】本発明ロープと従来ロープの荷重一伸び線図である。
【図6】本発明ロープと従来ロープのlm当たりの吸収エネルギーとロープ破断荷重の関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0036】
1本発明ロープ
2ストランド
3鋼素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素線を用いたロープであって、前記鋼素線が組織中の体積率で10%以上の残留オーステナイトを含むことを特徴とするエネルギー吸収ロープ。
【請求項2】
1mあたりのロープの衝撃エネルギー吸収量(Ef)=吸収係数(K)・引張り破断荷重(Ps)(kN・m)において、0.20≦K<1.00である請求項1に記載のエネルギー吸収ロープ。
【請求項3】
質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn=0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素線を撚り加工した後、730〜900℃のフェライト−オーステナイト二相域温度に加熱し、15〜180秒保持してから、冷却速度10〜300℃/sで200〜500℃まで急冷して、その温度域で15〜600秒保持してから室温まで冷却することで製造されたものである請求項1または2に記載のエネルギー吸収ロープ。
【請求項4】
質量%でC:0.10〜0.40%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.5%、sol.Al:0.10%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素線を撚り加工した後、730〜900℃のフェライト−オーステナイトニ相域温度に加熱し、15〜180秒保持してから、550〜700℃までを1〜10℃/sで徐冷し、それ以下を10〜300℃/sで200〜500℃まで急冷して、その温度域で15〜600秒保持してから室温まで冷却することで製造されたものである請求項1または2に記載のエネルギー吸収ロープ。
【請求項5】
ロープをほぐして鋼素線ごとの強度を求め、それらの総和に対する撚り加工したロープそのままの引張破断荷重の低下率(撚り減り率)が15%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギー吸収ロープ。
【請求項6】
ロープの降伏比が0.7以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギー吸収ロープ。
【請求項7】
ロープをほぐした鋼素線の引張降伏比が0.3〜0.7であることを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギー吸収ロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−191774(P2007−191774A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13153(P2006−13153)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】