説明

エネルギー線硬化型重合体、エネルギー線硬化型粘着剤組成物、粘着シートおよび半導体ウエハの加工方法

【課題】 エネルギー線硬化型重合体を含む粘着性組成物、粘着シートにおいて、組成物中に含まれる低分子量化合物の揮発に伴う諸問題を解消すること。
【解決手段】 本発明に係るエネルギー線硬化型重合体は、主鎖または側鎖に、エネルギー線による励起下で重合反応を開始させるラジカル発生基、およびエネルギー線重合性基が結合されてなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー線硬化型重合体、粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートに関する。また、本発明は半導体ウエハの加工方法に関し、特に半導体ウエハの裏面加工や半導体ウエハのダイシング加工に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハは表面に回路が形成された後、ウエハの裏面側に研削加工を施し、ウエハの厚さを調整する裏面研削工程やウエハを所定のチップサイズに固片化するダイシング工程が行われる。また裏面研削工程に続いて、さらに裏面にエッチング処理などの発熱を伴う加工処理が施されることがある。
【0003】
裏面の研削におけるエッチング時では、回路を保護するためにウエハの回路表面にはバックグラインドテープと呼ばれる粘着シートが貼付される。またウエハのダイシング時には、ダイシングより形成されるチップの飛散を防止するため、ウエハ裏面側にダイシングテープと呼ばれる粘着シートが貼付される(以下、このような粘着シートを総称して、「半導体ウエハ加工用粘着シート」または「ウエハ加工用粘着シート」と記載することがある)。
【0004】
これらのウエハ加工用粘着シート、特にバックグラインドテープにおいては、
回路やウエハ本体へのダメージを防止すること、
剥離後の回路上に粘着剤が残留(糊残り)しないこと、
裏面研削時に発生する研削屑の洗い流しや研削時に発生する熱を除去するための研削水が回路面に浸入することを防止すること、
研削後のウエハの厚み精度を充分に保つこと、などが要求される。
【0005】
さらに裏面に発熱や加熱を伴う加工処理を施す際には、粘着剤層から揮発成分が発生しないことが求められる。
【0006】
またダイシングテープにおいては、
ダイシング時にはウエハを充分な接着力で保持できること、
チップのピックアップ時には、チップをダイシングテープから容易に剥離できること、
ピックアップされたチップ裏面に粘着剤が残留しないこと、
ダイシング時の切削水によって、粘着剤層に含まれる低分子量化合物が流失しないこと、などが要求される。
【0007】
このようなウエハ加工用粘着シートとしては、樹脂フィルムからなる基材上に紫外線などのエネルギー線により硬化するエネルギー線硬化型粘着剤層が設けられた粘着シートが広く用いられている。エネルギー線硬化型の粘着シートによれば、ウエハの裏面研削時、ダイシング時には強い接着力でウエハ(チップ)を保持できるため、回路面への切削水の浸入やチップの飛散を防止できる。また裏面研削終了後あるいはダイシング終了後には、粘着剤層にエネルギー線を照射することで粘着剤層が硬化して接着力が低減されるため、糊残りすることなくウエハ(チップ)を粘着シートから剥離できる。
【0008】
エネルギー線硬化型粘着剤としては、アクリル系の粘着ポリマーに比較的低分子量のエネルギー線硬化性樹脂および光重合開始剤を配合してなる粘着剤が知られている。しかし、かかる粘着剤においては各成分の混合が必ずしも均一ではなく、また低分子量物質を含むためエネルギー線硬化を行っても粘着剤の硬化不全が起きたり、低分子量物質が未反応で残留することがある。このため、ウエハ(チップ)に粘着剤が残留したり、低分子量物質によりウエハ(チップ)が汚染されることがあった。
【0009】
このような問題を解消するため、アクリル系の粘着ポリマーにエネルギー線重合性基を含む化合物を反応させ、粘着ポリマーの分子内にエネルギー線重合性基を導入したエネルギー線重合性粘着ポリマー(以下、「重合性基アダクト型粘着剤」と記載することがある)と、光重合開始剤とからなるエネルギー線硬化型粘着剤層を有するウエハ加工用粘着シートが提案されている(特許文献1)。このような重合性基アダクト型粘着剤によれば、重合性基が粘着剤層内に均一に分散し、また低分子量物質も少ないため硬化不全や低分子量物質による汚染が低減される。
【0010】
また同様に、エネルギー線照射後の粘着剤の硬化不全を防止するために粘着ポリマー鎖にエネルギーによる励起下で重合反応を開始させる遊離基を形成する基を結合させたポリマー(特許文献2)、あるいは粘着ポリマー鎖に光重合開始剤を結合させたポリマー(特許文献3)が提案されている(以下、これらを「ラジカル発生基アダクト型粘着剤」と記載することがある)。これらのラジカル発生基アダクト型粘着剤は、それ自体は重合性を有しないため、前述したような比較的低分子量のエネルギー線硬化性樹脂とともに用いられる。
【特許文献1】特開平9-298173号公報
【特許文献2】特開平8-333555号公報
【特許文献3】特開平9-111200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1に記載の重合性基アダクト型粘着剤を使用するエネルギー線硬化型粘着剤においては、重合性基アダクト型粘着剤とともに光重合開始剤が配合される。また特許文献2および3のラジカル発生基アダクト型粘着剤はエネルギー線硬化性樹脂と併用される。光重合開始剤およびエネルギー線硬化性樹脂はいずれも比較的低分子量の化合物である。
【0012】
エネルギー線硬化型粘着剤層は、上記の成分を溶剤で希釈した後に基材や剥離フィルム上に塗工、乾燥して得られる。ところがエネルギー線硬化型粘着剤中に低分子量化合物が含まれている場合には乾燥時に低分子量化合物が揮発してしまい、設計した組成の粘着剤層が得られない場合があった。
【0013】
例えば低分子量の光重合開始剤を使用する場合、塗工、乾燥時に光重合開始剤が揮発している。これが過剰に起こるとエネルギー線照射による粘着剤層の硬化が不十分となり、これによる硬化後の粘着力の上昇や被着体に対する糊残りを引き起こす問題がある。
【0014】
またウエハ加工用粘着シートを用いてウエハ加工を行う際には、半導体ウエハに加熱処理を施す場合や、ドライエッチングのような加熱工程もしくは発熱を伴う加工を行う場合、減圧下や真空空間で加工を行う場合がある。この際に硬化後の粘着剤層中に残留する低分子量化合物が揮発して前記と同様の問題を引き起こしたり、発生したアウトガス成分により半導体装置を汚染する可能性がある。
【0015】
さらにウエハ加工用として用いる場合、ウエハの裏面研削やダイシング時に発生する熱や切屑を除去するために水を噴霧する。この際に粘着剤層に含まれる低分子量化合物が流失する可能性がある。
【0016】
したがって本発明は、ウエハ加工用粘着シートに用いられるエネルギー線硬化型粘着剤組成物において、該組成物に含まれる低分子量化合物の揮発に伴う諸問題を解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
【0018】
(1)主鎖または側鎖に、エネルギー線による励起下で重合反応を開始させるラジカル発生基、およびエネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型重合体。
【0019】
(2)前記ラジカル発生基が、芳香環に置換基を有してもよいフェニルカルボニル基を含む基である(1)に記載のエネルギー線硬化型重合体。
【0020】
(3)前記ラジカル発生基が、ヒドロキシ基を有する光重合開始剤のヒドロキシ基に、重合性の二重結合を有する化合物を付加して得られるモノマーに由来してなる(1)〜(2)に記載のエネルギー線硬化型重合体。
【0021】
(4)重量平均分子量が30万〜160万である(1)〜(3)のいずれかに記載のエネルギー線硬化型重合体。
【0022】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のエネルギー線硬化型重合体を含有するエネルギー線硬化型粘着剤組成物。
【0023】
(6)基材とその上に形成されたエネルギー線硬化型粘着剤層とからなり、前記エネルギー線硬化型粘着剤層が、(5)に記載のエネルギー線硬化型粘着剤組成物からなる粘着シート。
【0024】
(7)半導体ウエハの加工に用いる(6)に記載の粘着シート。
【0025】
(8)前記(7)に記載の粘着シートのエネルギー線硬化型粘着剤層に、表面に回路が形成された半導体ウエハの回路表面を貼付し、該ウエハの裏面加工を行う半導体ウエハの加工方法。
【0026】
(9)前記半導体ウエハの裏面加工が、裏面研削である(8)に記載の半導体ウエハの加工方法。
【0027】
(10)前記(7)に記載の粘着シートのエネルギー線硬化型粘着剤層に、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面を貼付し、該ウエハのダイシングを行う半導体ウエハの加工方法。
【0028】
(11)加熱または発熱を伴う工程をさらに含む(8)〜(10)のいずれかに記載の半導体ウエハの加工方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、粘着シートにおいてエネルギー線による硬化前および硬化後の粘着剤に含まれる低分子量化合物量が著しく低減されるため、低分子量化合物の揮発に伴う組成変化、アウトガス発生等の諸問題を解消することができる。さらに半導体ウエハ加工用として用いる場合、ウエハの裏面研削やダイシング時に発生する熱や切屑を除去するために水を噴霧するが、粘着剤に含まれる低分子量化合物量が著しく低減されるため、低分子量化合物の流失による粘着剤層の組成変化もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下本発明の好ましい態様について、その最良の形態も含めてさらに具体的に説明する。
【0031】
本発明のエネルギー線硬化型重合体(A)は、主鎖または側鎖に、エネルギー線による励起下で重合反応を開始させるラジカル発生基、およびエネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型重合体である。好ましい態様として、ラジカル発生基含有モノマー単位、官能基含有モノマー単位、必要に応じてその他のモノマー単位、を有するラジカル発生基含有重合体(a1)と、該官能基と反応する置換基を有するエネルギー線重合性基含有化合物(a2)とを反応させることによって得られる。
【0032】
[ラジカル発生基含有モノマー]
本発明に用いられるラジカル発生基含有モノマーは、本発明のエネルギー線硬化型重合体のラジカル発生基を誘導するモノマーとなる。該モノマーは、重合性の二重結合と、エネルギー線による励起下で重合反応を開始させる遊離基(ラジカル)を発生する基(ラジカル発生基)を有する。ラジカル発生基としては、例えば下記一般式で示されるような芳香環に置換基を有していてもよいフェニルカルボニル基を含む基が使用できる。
【化1】

【0033】
(R1 は水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基であり、R1 中にエーテル結合およびヒドロキシ基を有してもよい)
このようなラジカル発生基含有モノマーは、例えばラジカル発生基を有する化合物と、重合性の二重結合を有する化合物との付加反応によって得られる。
【0034】
ラジカル発生基を有する化合物としては、例えばヒドロキシ基を有する光重合開始剤があげられる。具体的には、
【化2】

などが挙げられる。
【0035】
このようなラジカル発生基を有する化合物と重合性の二重結合を有する化合物の付加反応により得られるモノマーが、ラジカル発生基含有モノマーとして好ましい。
【0036】
重合性の二重結合を有する化合物としては、ヒドロキシ基と反応する官能基を有する重合性の二重結合を有する化合物が好ましく、例えばメタクリロイルオキシエチルイソシアナート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアナート、メタクリロイルイソシアナート、アリルイソシアナート、グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また、ジイソシアナート化合物またはポリイソシアナート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアナート化合物、ジイソシアナート化合物またはポリイソシアナート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアナート化合物などがあげられる。
【0037】
前述のヒドロキシ基とラジカル発生基を有する化合物と、前述の重合性の二重結合を有する化合物(たとえば、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート)とを反応させると、ラジカル発生基を有する化合物のヒドロキシ基と重合性の二重結合を有する化合物の官能基(たとえばイソシアナート基)とが反応し、重合性の二重結合を有するラジカル発生基含有モノマーが得られる。
【0038】
モノマーの他の具体例として、o−アクリロイルベンゾフェノン、p−アクリロイルベンゾフェノン、o−メタクリロイルベンゾフェノン、p−メタクリロイルベンゾフェノン、p−(メタ)アクリロイルエトキシベンゾフェノン、下記一般式に示されるベンゾフェノンカルボン酸から誘導される2〜12のメチレン基を持つモノヒドロキシアルキルアクリレートあるいはモノヒドロキシメタククリレートのベンゾフェノンカルボン酸エステル
【化3】

(R1 ,R2 はそれぞれ水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R3 は水素原子またはメチル基、mは2〜12)、および下記一般式に示す化合物
【化4】

(R1 ,R2 はそれぞれ水素原子または炭素数1〜4のアルキル基、R3 ,R4はそれぞれ水素原子またはメチル基を示す)等が挙げられる。
【0039】
[ラジカル発生基含有重合体(a1)]
ラジカル発生基含有重合体(a1)は、前述したラジカル発生基含有モノマーと、エネルギー線重合性基を導入するための官能基含有モノマーと、必要に応じてその他のモノマーを重合してなる。
【0040】
[官能基含有モノマー]
ラジカル発生基含有重合体(a1)を構成する官能基含有モノマーは、本発明のエネルギー線硬化型重合体にエネルギー線重合性基を導入するためのモノマーであり、重合性の二重結合と、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するモノマーであり、好ましくはヒドロキシ基含有不飽和化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物が用いられる。
【0041】
このような官能基含有モノマーのさらに具体的な例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート等のヒドロキシ基含有アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有化合物があげられる。上記の官能基含有モノマーは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
[その他のモノマー]
ラジカル発生基含有重合体(a1)を構成するその他のモノマーとしては特に限定はされないが、重合体としては例えばアクリル系モノマーを主体として用いたアクリル系共重合体や、オレフィン系モノマーを主体として用いたオレフィン系共重合体などが考えられる。本発明のエネルギー線硬化型重合体を粘着剤として用いるのであれば、比較的粘着力の制御が容易な各種のアクリル系共重合体が好ましく、種々のアクリル系モノマーが構成単位として用いられる。
【0043】
アクリル系モノマーとしてはアルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの誘導体としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0044】
さらに前述のエステル単量体と共重合可能なビニル系単量体を共重合させてもよい。共重合可能なビニル系単量体として、スチレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0045】
[ラジカル発生基含有重合体(a1)の作成]
ラジカル発生基含有重合体(a1)は、前述したラジカル発生基含有モノマーと、官能基含有モノマーと、必要に応じてその他のモノマーを重合してなる。
【0046】
ラジカル発生基含有重合体(a1)は、前述のラジカル発生基含有モノマーから導かれる構成単位を通常0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜5重量%の割合で含有し、前述の官能基含有モノマーから導かれる構成単位を通常1〜70重量%、好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは10〜30重量%の割合で含有し、前述のその他のモノマーから導かれる構成単位を通常0〜99重量%、好ましくは35〜90重量%、特に好ましくは50〜80重量%の割合で含有してなる。
【0047】
ラジカル発生基含有重合体(a1)は、上記のようなラジカル発生基含有モノマーと、官能基含有モノマーと、その他のモノマーを常法にて共重合することにより得られるが、ラジカル発生基含有重合体(a1)の製造方法については、特に限定されるものではなく、例えば溶剤、連鎖移動剤、重合開始剤等の存在下で溶液重合する方法や、乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤、分散剤等の存在下の水系でエマルション重合する方法にて製造される。
【0048】
なお重合時のモノマーの濃度は、通常30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%程度が適当である。また、重合の際に使用される重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等の過酸化物、過硫酸アンモニウムと亜硫酸ソーダ、酸性亜硫酸ソーダ等との組み合わせからなる、所謂レドックス系の重合開始剤等が挙げられる。前述の重合開始剤の使用量は、通常重合に供するモノマー全量に対して、0.2〜2重量%、より好ましくは、0.3〜1重量%の範囲で調節される。
【0049】
さらに共重合に際して添加する連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸−2−エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1−メチル−4−イソプロピリデン−1−シクロヘキセン等を挙げることができる。特にチオグリコール酸エステル類、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、1−メチル−4−イソプロピリデン−1−シクロヘキセンを使用した場合には、得られる共重合体が低臭気となり好ましい。なお連鎖移動剤の使用量は、重合させる全モノマーの0.001〜3重量%程度の範囲で調節される。また重合反応は、通常60〜100℃の温度条件下、2〜8時間かけて行われる。さらに増粘剤、濡れ剤、レベリング剤、消泡剤等を適宜添加することができる。
【0050】
[エネルギー線硬化型重合体(A)]
本発明のエネルギー線硬化型重合体(A)は、前述のラジカル発生基含有重合体(a1)の官能基含有モノマー由来の官能基に、エネルギー線重合性基含有化合物(a2)を反応させて得られる。
【0051】
[エネルギー線重合性基含有化合物(a2)]
エネルギー線重合性基含有化合物(a2)には、ラジカル発生基含有重合体(a1)中の官能基と反応しうる置換基が含まれている。この置換基は前記官能基の種類により様々である。たとえば、官能基がヒドロキシ基またはカルボキシル基の場合、置換基としてはイソシアナート基、エポキシ基等が好ましく、官能基がカルボキシル基の場合、置換基としてはイソシアナート基、エポキシ基等が好ましく、官能基がアミノ基または置換アミノ基の場合、置換基としてはイソシアナート基等が好ましく、官能基がエポキシ基の場合、置換基としてはカルボキシル基が好ましい。このような置換基は、エネルギー線重合性基含有化合物(a2)1分子毎に一つずつ含まれている。
【0052】
またエネルギー線重合性基含有化合物(a2)には、エネルギー線重合性基である炭素−炭素二重結合が1分子毎に1〜5個、好ましくは1〜2個含まれている。このようなエネルギー線重合性基含有化合物(a2)の具体例としては、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート、メタ−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアナート、メタクリロイルイソシアナート、アリルイソシアナート、グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また、ジイソシアナート化合物またはポリイソシアナート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアナート化合物;ジイソシアナート化合物またはポリイソシアナート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアナート化合物などがあげられる。
【0053】
またエネルギー線重合性基含有化合物(a2)としては、下記のようなエネルギー線重合性基含有ポリアルキレンオキシ化合物も使用することができる。
【化5】

【0054】
式中、Rは水素またはメチル基、好ましくはメチル基であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは水素であり、またnは2以上の整数であり、好ましくは2〜4である。複数存在するR〜Rは互いに同一であっても異なっていてもよい。すなわち、nが2以上であるため、上記式で表される重合性基含有ポリアルキレンオキシ基には、Rが2以上含まれる。この際、2以上存在するRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。R〜Rについても同様である。NCOはイソシアナート基を示す。
【0055】
[エネルギー線硬化型重合体(A)の製造]
本発明のエネルギー線硬化型重合体(A)は、上記ラジカル発生基含有重合体(a1)と、該ラジカル発生基含有重合体(a1)に含まれる官能基に反応する置換基を有するエネルギー線重合性基含有化合物(a2)とを反応させることによって得られる。以下、エネルギー線硬化型重合体(A)の製法について特にアクリル系共重合体を主骨格とする例について詳述するが、本発明のエネルギー線硬化型重合体(A)は下記製法により得られるものに限定はされない。
【0056】
エネルギー線硬化型重合体(A)を製造するにあたり、エネルギー線重合性基含有化合物(a2)は、ラジカル発生基含有重合体(a1)の官能基含有モノマー100当量当たり、通常100〜5当量、好ましくは70〜10当量、特に好ましくは40〜15当量の割合で用いられる。
【0057】
ラジカル発生基含有重合体(a1)とエネルギー線重合性基含有化合物(a2)との反応は、通常は室温程度の温度で常圧にて24時間程度行なわれる。この反応は例えば酢酸エチル等の溶液中で、ジブチル錫ラウレート等の触媒を用いて行なうことが好ましい。
【0058】
この結果、ラジカル発生基含有重合体(a1)中の側鎖に存在する官能基と、エネルギー線重合性基含有化合物(a2)中の置換基とが反応し、エネルギー線重合性基含有基がラジカル発生基含有重合体(a1)中の側鎖に導入されアクリル系のエネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。この反応における官能基と置換基との反応率は、通常70%以上、好ましくは80%以上であり、未反応の官能基がエネルギー線硬化型重合体(A)中に残留しないものが好ましい。
【0059】
またエネルギー線重合性基含有ポリアルキレンオキシ化合物を使用した場合には、エネルギー線重合性基がポリアルキレンオキシ基を介して結合したアクリル系のエネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0060】
エネルギー線重合性基およびラジカル発生基が結合されたエネルギー線硬化型重合体(A)の重量平均分子量は、好ましくは300,000〜1,600,000であり、さらに好ましくは400,000〜900,000である。また、エネルギー線硬化型重合体(A)中には、100g当たり、通常1×1021〜1×1024個、好ましくは5×1021〜8×1023個、特に好ましくは1×1022〜5×1023個の重合性基が含有されている。また、エネルギー線硬化型重合体(A)中には、100g当たり、通常1×1020〜1×1024個、好ましくは2×1020〜5×1023個、特に好ましくは5×1020〜2×1023個のラジカル発生基が含有されている。
【0061】
[エネルギー線硬化型粘着剤組成物]
本発明のエネルギー線硬化型重合体に、必要に応じて適当な添加剤を配合することにより、エネルギー線硬化型の粘着剤組成物が得られる。
【0062】
添加剤としては例えば、架橋剤(B)、粘着付与剤、顔料、染料、フィラーが挙げられるが、これらの配合無しにエネルギー線硬化型重合体のみで粘着剤組成物としてもよい。
【0063】
[(B)架橋剤]
架橋剤(B)としては例えば、有機多価イソシアナート化合物、有機多価エポキシ化合物、有機多価イミン化合物等があげられる。
【0064】
上記有機多価イソシアナート化合物としては、芳香族多価イソシアナート化合物、脂肪族多価イソシアナート化合物、脂環族多価イソシアナート化合物が挙げられる。有機多価イソシアナート化合物のさらに具体的な例としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシレンジイソシアナート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアナート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアナート、リジンイソシアナートなどが挙げられる。これらの多価イソシアナート化合物の三量体、ならびにこれら多価イソシアナート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマー等も使用することができる。
【0065】
上記有機多価エポキシ化合物の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)トルエン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-4,4-ジアミノジフェニルメタン等を挙げることができる。
【0066】
上記有機多価イミン化合物の具体例としては、N,N'-ジフェニルメタン-4,4'-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオナート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオナート、N,N'-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0067】
[エネルギー線硬化型粘着剤組成物の作成]
上記のような架橋剤(B)の使用量は、エネルギー線硬化型重合体(A)100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、特に好ましくは0.1〜10重量部程度である。
【0068】
このようにして作成したエネルギー線硬化型粘着剤組成物は、エネルギー線硬化型重合体(A)自体が、光重合開始剤としての機能と、エネルギー線重合性化合物としての機能を有するため、エネルギー線硬化型重合体(A)にさらに、光重合開始剤やエネルギー線重合性化合物などの低分子量化合物を添加する必要がない。このため本発明のエネルギー線硬化型粘着剤組成物によれば、粘着剤組成物中に含まれる低分子量化合物量が著しく低減され、低分子量化合物の揮発に伴う組成変化、アウトガス発生等の諸問題を解消することができる。
【0069】
しかしながら、本発明の目的を損なわない範囲で、該粘着剤には、光重合開始剤、エネルギー線重合性低分子量化合物、顔料、染料、フィラー等が含まれていても良い。これらのうち、分子量が1000以下の低分子量化合物は、粘着剤中に3重量%以下の割合で含まれていても良い。
【0070】
[粘着シート]
本発明の粘着剤組成物より得られる粘着剤層が基材に塗布されることにより、本発明の粘着シートが得られる。また必要に応じて、粘着剤層を保護するために剥離フィルムを使用してもよい。
【0071】
[基材]
本発明の粘着シートに用いられる基材としては、特に限定はされないが例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢ビフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、フッ素樹脂フィルム、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、およびその水添加物または変性物等からなるフィルムが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。上記の基材は1種単独でもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた複合フィルムであってもよい。
【0072】
また基材の厚さは用途によって様々であるが、通常は20〜500μm、好ましくは50〜300μm程度である。
【0073】
たとえば後述するように、粘着剤を硬化するために照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、これらのうち紫外線に対して透明である基材が好ましい。またエネルギー線として電子線を用いる場合には透明である必要はないので、上記のフィルムの他、これらを着色した不透明フィルム等を用いることができる。
【0074】
[剥離フィルム]
剥離フィルムとしては、剥離性の表面を有する種々のフィルムが用いられる。このような剥離フィルムとしては、具体的には、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢ビフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、フッ素樹脂フィルム、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、およびその水添加物または変性物等からなるフィルムなどが用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。上記の基材は1種単独でもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた複合フィルムであってもよい。
【0075】
剥離フィルムとしては、上記したようなフィルムの一方の表面に剥離処理を施したフィルムが好ましい。剥離処理に用いられる剥離剤としては、特に限定はないが、シリコーン系、フッ素系、アルキッド系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系等が用いられる。特にシリコーン系の剥離剤が低剥離力を実現しやすいので好ましい。剥離フィルムに用いるフィルムがポリオレフィンフィルムのようにそれ自身の表面張力が低く、粘着層に対し低剥離力を示すものであれば、剥離処理を行わなくてもよい。
【0076】
剥離処理の方法としては、剥離剤をそのまま無溶剤で、または溶剤希釈やエマルション化して、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーター等により該フィルムに塗布し、加熱または紫外線あるいは電子線の照射により硬化させて剥離層を形成する。
【0077】
上記の剥離フィルムの厚さは、好ましくは12μm以上であり、さらに好ましくは15〜1000μm、特に好ましくは50〜200μmである。剥離フィルムが薄すぎると、粘着シートを構成する各層を積層する工程や、粘着シートを巻き取る工程において蓄積されるストレスに対する、粘着シート自体の寸法安定性が不足する。剥離フィルムが厚すぎると粘着シートの総厚が過大となるため取り扱いが困難になる。
【0078】
[粘着シートの製造]
本発明の粘着シートは、前述のエネルギー線硬化型粘着剤組成物と基材とからなる。本粘着シートは、該エネルギー線硬化型粘着剤をロールナイフコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーターなど一般に公知の方法にしたがって各種の基材上に適宜の厚さで塗工して乾燥させて粘着剤層を形成し、次いで必要に応じ粘着剤層上に剥離フィルムを貼り合わせることによって得られる。また粘着剤層を剥離フィルム上に設け、これを上記基材に転写することで製造してもよい。
【0079】
粘着剤層の厚さは、用途によって様々であるが、通常は5〜100μm、好ましくは10〜40μm程度である。粘着剤層の厚さが薄くなると粘着性や表面保護機能が低下するおそれがある。
【0080】
本発明にかかる粘着シートはエネルギー線照射により粘着力を低下することが出来るが、エネルギー線としては、具体的には紫外線、電子線等が用いられる。また、その照射量は、エネルギー線の種類によって様々であり、たとえば紫外線を用いる場合には紫外線強度は50〜300mW/cm、紫外線照射量は100〜1200mJ/cm程度が好ましい。
【0081】
本発明において用いられるエネルギー線硬化型粘着剤層は、エネルギー線照射前には充分な接着力を有するため、例えば裏面研削やダイシングなどの半導体ウエハ加工工程において、半導体ウエハを確実に保持することができる。
【0082】
前記エネルギー線硬化型粘着剤層はエネルギー線の照射により硬化し、接着力が激減する。例えば半導体ウエハ鏡面に対する接着力は、エネルギー線の照射前には、好ましくは2000〜15000mN/25mm、さらに好ましくは5000〜10000mN/25mm程度であるのに対し、照射後には、照射前の1〜50%程度にコントロールできる。
【0083】
[半導体ウエハの加工方法]
本発明の粘着シートは、下記に示すように半導体ウエハの加工に用いることが出来る。
【0084】
(ウエハ裏面研削方法)
ウエハの裏面研削においては、表面に回路が形成された半導体ウエハの回路面にウエハ加工用粘着シートを貼付して回路面を保護しつつウエハの裏面を研削し、所定厚みのウエハとする。
【0085】
半導体ウエハはシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。ウエハ表面への回路の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。半導体ウエハの回路形成工程において、所定の回路が形成される。このようなウエハの研削前の厚みは特に限定はされないが、通常は500〜1000μm程度である。
【0086】
ついで裏面研削時には、表面の回路を保護するために回路面に本発明の粘着シートを貼付する。裏面研削は粘着シートが貼付されたままグラインダーおよびウエハ固定のための吸着テーブル等を用いた公知の手法により行われる。裏面研削工程の後、研削によって生成した破砕層を除去する処理が行われてもよい。
【0087】
裏面研削工程後、粘着シートにエネルギー線を照射し、粘着剤を硬化させて粘着力を低減した後、回路面から粘着シートを剥離する。本発明の粘着シートによれば、エネルギー線照射前には充分な接着力を有するため、ウエハの裏面研削時にはウエハを確実に保持し、また切削水の回路面への浸入を防止できる。またエネルギー線照射による硬化後の粘着剤は接着力が著しく低減されるため、回路面から容易に剥離でき、回路面への糊残りを低減することができる。
【0088】
さらに本発明のエネルギー線硬化型粘着剤によれば粘着剤に含まれる低分子量化合物量が著しく低減されるため、切削水による低分子量化合物の流失がない。
【0089】
(ウエハ裏面加工方法)
また上記の裏面研削工程に続いて、ウエハ裏面に種々の加工が施されることがある。
【0090】
例えばウエハ裏面にさらに回路パターンを形成するため、エッチング処理等の発熱を伴う処理を行うことがある。またウエハ裏面にダイボンドフィルムを加熱圧着することもある。これらの工程時においても本発明の粘着シートを貼付することにより回路パターンを保護することができるが、高温条件下に曝されることになる。しかし、本発明の粘着シートの粘着剤層には低分子量化合物が実質的に含まれていないため、加工中の発熱、加熱による低分子量化合物の揮発も防止される。
【0091】
(ウエハダイシング方法)
本発明の粘着シートはエネルギー線照射により接着力が激減する性質を有するため、ダイシングシートとして使用することもできる。
【0092】
ダイシングシートとして使用する場合には、ウエハの裏面に本発明の粘着シートを貼付する。ダイシングシートの貼付は、マウンターと呼ばれる装置により行われるのが一般的だが特に限定はされない。
【0093】
半導体ウエハのダイシング方法は特に限定はされない。一例としてウエハのダイシング時にはダイシングテープの周辺部をリングフレームにより固定した後、ダイサーなどの回転丸刃を用いるなどの公知の手法によりウエハのチップ化を行う方法などが挙げられる。またレーザー光を用いたダイシング法であってもよい。本発明の粘着シートによれば粘着剤に含まれる低分子量化合物量が著しく低減されるため、切削水による低分子量化合物の流失がない。
【0094】
次いで粘着シートにエネルギー線を照射し、粘着剤を硬化させて粘着力を低減した後、チップを粘着シートからピックアップする。ピックアップされたチップはその後、常法によりダイボンド、樹脂封止がされ半導体装置が製造される。本発明の粘着シートによればチップ裏面への糊残りや低分子量化合物による汚染が低減され、チップ裏面の残留物による悪影響は生じない。
【0095】
以上、本発明のエネルギー線硬化型重合体について、特にウエハ加工用粘着シートにおける粘着剤層の主成分として使用する場合を例にとって説明したが、本発明のエネルギー線硬化型重合体は、上記の他にも例えば、揮発成分の発生で悪影響が懸念されるエネルギー線硬化型の成形樹脂、接着剤、塗料、インキにも使用することができる。
【実施例】
【0096】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実施例1)
(ラジカル発生基含有モノマーの合成)
1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア2959)と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナートとを等モル比で混合し、反応させてラジカル発生基含有モノマーを得た。
【0098】
(ラジカル発生基含有重合体の合成)
ブチルアクリレート57重量部、メチルメタクリレート10重量部、官能基含有モノマーとして2−ヒドロキシエチルアクリレート28重量部および上記で調製したラジカル発生基含有重合性モノマー5重量部を用いて酢酸エチル溶媒中で溶液重合し、アクリル系のラジカル発生基含有重合体を合成した。重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを用いた。(以下、特に記載が無ければ、ラジカル発生基含有重合体合成時の重合開始剤と連鎖移動剤は上記のものを使用)。
【0099】
(エネルギー線硬化型重合体の作成)
このアクリル系のラジカル発生基含有重合体固形分100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート30重量部(アクリル系のラジカル発生基含有重合体の官能基であるヒドロキシ基100当量に対して80当量)とを反応させ、重合性基およびラジカル発生基が結合してなる重量平均分子量630,000のアクリル系のエネルギー線硬化型重合体の酢酸エチル溶液(30%溶液)を得た。
【0100】
(エネルギー線硬化型粘着性組成物の作成)
このアクリル系のエネルギー線硬化型重合体100重量部に対し、架橋剤として多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.625重量部(固形分)とを混合し、架橋されたアクリル系の粘着剤組成物を得た。
【0101】
(粘着シートの作成)
アクリル系の粘着剤組成物を、ロールナイフコーターを用いて、乾燥後の塗布厚が40μmとなるように、剥離シートとしてシリコーン剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)の剥離処理面に塗布し、100℃および120℃で2分間乾燥した後、得られた粘着剤層に、基材として厚さ110μmのポリエチレンフィルムを積層し、粘着シートを得た。粘着力の安定化のために23℃50%RHの雰囲気下に7日放置した後、下記の物性、および性能を評価した。
【0102】
「粘着力」
得られた粘着シートの粘着力を以下のように測定した。
【0103】
被着体をシリコンウエハの鏡面とした以外は、JIS Z0237に準じて、万能型引張試験機(株式会社オリエンテック製、TENSILON/UTM−4−100)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°にて粘着シートの粘着力を測定し、エネルギー線硬化前の粘着力とした。
【0104】
また、粘着シートをシリコンウエハの鏡面に貼付してから、23℃、50%RHの雰囲気下に20分間放置した後、粘着シートの基材側より、紫外線照射装置(リンテック株式会社製、RAD−2000)を用いて、紫外線照射(照射条件:照度350mW/cm,光量200mJ/cm)を行った。紫外線照射後の粘着シートにつき、上記と同様にして粘着力を測定し、エネルギー線硬化後の粘着力とした。
【0105】
「表面汚染性」
上記粘着シートを、半導体ウエハの裏面研削時の表面保護シートとして用いた際の表面汚染性を以下のように評価した。
【0106】
テープラミネーター(リンテック株式会社製、RAD−3510)を用いて、シリコンダミーウエハ(厚さ:725μm、表面状態:最大の段差が20μmとなる回路パターンを有する)に上記粘着シートを貼付した。その後、ウエハ裏面研削装置(株式会社ディスコ製、DGP−8760)を用いてウエハ厚を100μmまで研削した。次に粘着シートの基材側より、紫外線照射装置(リンテック株式会社製、RAD−2000)を用いて、紫外線照射(照射条件:照度350mW/cm,光量200mJ/cm)を行った。次いで、テープマウンター(リンテック株式会社製、RAD−2000F/12)を用いて、研削面にダイシングテープ(リンテック株式会社製、D−185)を貼付し、前記粘着シートを回路面から剥離した。
【0107】
次いでシリコンダミーウエハの回路面をデジタル顕微鏡(キーエンス社製、デジタルマイクロスコープVHX−200)を用いて倍率2000倍で観察し、粘着剤残渣が観察されなかった場合を、表面汚染性「良好」とし、残渣が観察された場合を「不良」と評価した。
【0108】
「加熱後の重量減少率(アウトガス量)」
加熱後の重量減少率は、示差熱・熱重量同時測定装置(島津製作所(株)製、DTG−60)を用いて重量減少にて測定した。上記粘着シートの小片(0.01g、剥離フィルムは除去)を10℃/分で120℃まで昇温後、120℃、60分間加熱した後、常温に戻し、加熱前後での重量変化率により求めた。
【0109】
(実施例2)
ブチルアクリレート68.2重量部、ジメチルメタクリレート10重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート16.8重量部および実施例1で調製したラジカル発生基含有モノマー5重量部を用いて酢酸エチル溶媒中で溶液重合しアクリル系のラジカル発生基含有重合体を生成した。このラジカル発生基含有重合体の固形分100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート18.7重量部(ラジカル発生基含有重合体の官能基であるヒドロキシ基100当量に対して83.3当量)とを反応させ、重合性基およびラジカル発生基が結合してなる重量平均分子量680,000のエネルギー線硬化型重合体の酢酸エチル溶液(30%溶液)を得た。
【0110】
エネルギー線硬化型重合体100重量部に対し、架橋剤として多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.625重量部(固形分)とを混合し、架橋された粘着剤組成物を得た。
【0111】
上記粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例3)
ブチルアクリレート68.2重量部、メチルメタクリレート10重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート16.8重量部および実施例1で調製したラジカル発生基含有モノマー1重量部を用いて酢酸エチル溶媒中で溶液重合しアクリル系のラジカル発生基含有重合体を生成した。このラジカル発生基含有重合体の固形分100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート18.7重量部(ラジカル発生基含有重合体の官能基であるヒドロキシ基100当量に対して83.3当量)とを反応させ、重合性基およびラジカル発生基が結合してなる重量平均分子量680,000のアクリル系のエネルギー線硬化型重合体の酢酸エチル溶液(30%溶液)を得た。
【0113】
エネルギー線硬化型重合体100重量部に対し、架橋剤として多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.625重量部(固形分)とを混合し、架橋された粘着剤組成物を得た。
【0114】
上記粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(比較例1)
(エネルギー線硬化型粘着剤組成物の作成)
ブチルアクリレート62重量部、メチルメタクリレート10重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート28重量部を用いて酢酸エチル溶媒中で溶液重合しアクリル系共重合体を生成した。このアクリル系共重合体の固形分100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート30重量部(アクリル系共重合体の官能基であるヒドロキシ基100当量に対して80当量)とを反応させ、アルキレンオキシ基を介して重合性基が結合してなる重量平均分子量600,000のアクリル系粘着性重合体を得た。
【0116】
アクリル系粘着性重合体100重量部に対し、架橋剤として多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.625重量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)3.3重量部(固形分)を混合し、粘着剤組成物を得た。
【0117】
上記粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(比較例2)
ブチルアクリレート73.2重量部、ジメチルメタクリレート10重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート16.8重量部を用いて酢酸エチル溶媒中で溶液重合しアクリル系共重合体を生成した。このアクリル系共重合体の固形分100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート18.7重量部(アクリル系共重合体の官能基であるヒドロキシ基100当量に対して83.3当量)とを反応させ、アルキレンオキシ基を介して重合性基が結合してなる重量平均分子量600,000のアクリル系粘着性重合体を得た。
【0119】
アクリル系粘着性重合体100重量部に対し、架橋剤として多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.625重量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)3.3重量部(固形分)を混合し、粘着剤組成物を得た。
【0120】
粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(比較例3)
ブチルアクリレート73.2重量部、メチルメタクリレート10重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート16.8重量部を用いて酢酸エチル溶媒中で溶液重合し、重量平均分子量600,000のアクリル系共重合体を生成した。このアクリル系共重合体の固形分100重量部と、メタクリロイルオキシエチルイソシアナート18.7重量部(アクリル系共重合体の官能基であるヒドロキシ基100当量に対して83.3当量)とを反応させ、アルキレンオキシ基を介して重合性基が結合してなるアクリル系粘着性重合体を得た。
【0122】
アクリル系粘着性重合体100重量部に対し、架橋剤として多価イソシアナート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネートL)0.625重量部(固形分)と、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)3.3重量部(固形分)を混合し、粘着剤組成物を得た。
【0123】
上記粘着剤組成物を用いて粘着剤層を形成したこと以外は実施例2と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖または側鎖に、エネルギー線による励起下で重合反応を開始させるラジカル発生基、およびエネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型重合体。
【請求項2】
前記ラジカル発生基が、芳香環に置換基を有してもよいフェニルカルボニル基を含む基である請求項1に記載のエネルギー線硬化型重合体。
【請求項3】
前記ラジカル発生基が、ヒドロキシ基を有する光重合開始剤のヒドロキシ基に、重合性の二重結合を有する化合物を付加して得られるモノマーに由来してなる請求項1または2に記載のエネルギー線硬化型重合体。
【請求項4】
重量平均分子量が30万〜160万である請求項1〜3のいずれかに記載のエネルギー線硬化型重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエネルギー線硬化型重合体を含有するエネルギー線硬化型粘着剤組成物。
【請求項6】
基材とその上に形成されたエネルギー線硬化型粘着剤層とからなり、前記エネルギー線硬化型粘着剤層が、請求項5に記載のエネルギー線硬化型粘着剤組成物からなる粘着シート。
【請求項7】
半導体ウエハの加工に用いる請求項6に記載の粘着シート。
【請求項8】
請求項7に記載の粘着シートのエネルギー線硬化型粘着剤層に、表面に回路が形成された半導体ウエハの回路表面を貼付し、該ウエハの裏面加工を行う半導体ウエハの加工方法。
【請求項9】
前記半導体ウエハの裏面加工が、裏面研削である請求項8に記載の半導体ウエハの加工方法。
【請求項10】
請求項7に記載の粘着シートのエネルギー線硬化型粘着剤層に、表面に回路が形成された半導体ウエハの裏面を貼付し、該ウエハのダイシングを行う半導体ウエハの加工方法。
【請求項11】
加熱または発熱を伴う工程をさらに含む請求項8〜10のいずれかに記載の半導体ウエハの加工方法。


【公開番号】特開2009−242733(P2009−242733A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93897(P2008−93897)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】