説明

エポキシ樹脂組成物、半導体封止充てん用樹脂組成物及び半導体装置

【課題】微粒子やポリマーを配合することなく、強靭化されたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂の硬化剤、(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤を含むエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物が、(a)エポキシ樹脂と(b)エポキシ樹脂の硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物よりも強靭化されている、エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、半導体封止充てん用樹脂組成物及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は成形材料や接着材料として広く用いられているが、さらなる特性向上を目的に、硬化物の脆さを改善し、強度を向上させる強靭化に関する研究が数多く報告されている。
特に、近年、半導体装置の高信頼性化を実現するために樹脂材料の強靭化に対する要求が高まっている。例えば、半導体チップと基板がフリップチップ接続された半導体装置では、半導体チップと基板の熱膨張係数差に由来する熱応力を分散して接続信頼性を高めるために、半導体チップと基板の間の空隙をエポキシ樹脂組成物で封止充てんする必要があるが、半導体装置の高機能化に伴って半導体チップが大型化する傾向にあり、発生する熱応力が増大している(例えば特許文献1〜2参照)。このために、封止充てん用のエポキシ樹脂組成物の強度を上回る熱応力が作用してクラックが発生し、信頼性が低下する場合があることから、封止充てん用樹脂組成物の強靭化が強く求められている。また、半導体チップと基板の間の空隙を封止充てんするには、半導体チップと基板を接続した後、液状エポキシ樹脂組成物を、毛細管現象を利用して注入する方式が広く採用されており、この方式に用いる半導体封止充てん用液状樹脂組成物の開発が盛んに行われ、強靭化に関する提案もなされている(例えば非特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−183351号公報
【特許文献2】特開2004−99810号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】越智 光一 エポキシ樹脂硬化物の高強靭化 日本接着学会誌 pp9−13 Vol.43 No.11 (2007)
【非特許文献2】岸 肇 微粒子添加によるエポキシ樹脂強靭化のメカニズム 日本接着学会誌 pp14−21 Vol.43 No.11 (2007)
【非特許文献3】飯島 孝雄 友井 正男 マレイミド系コポリマーによる熱硬化性樹脂の改質 ネットワークポリマー pp27−37 Vol.18 No.2 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体封止充てん用液状樹脂は、液状エポキシ、液状硬化剤、無機フィラーを主成分としているが、強靭化のために固形のエポキシやポリマーを配合する場合、樹脂組成物の粘度が増大するために、配合量に制限があり強靭化効果が十分に発現しなかったり、半導体チップと基板の間の空隙に封止充てんする時間が長くなって作業性が低下する場合があった。また、ゴム微粒子などを配合する場合、微粒子とエポキシ樹脂との密着力が十分に高くないと強靭化の効果が発現しない場合があった。また、アクリル基を含有する改質剤の効果については、明らかになっていなかった。
本発明の目的は、微粒子やポリマーを配合することなく、強靭化されたエポキシ樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エポキシ樹脂組成物の強靭化に関する検討を行った結果、分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する化合物を用いることによってエポキシ樹脂組成物の強靭化が可能であることを見出し、前記課題を解決できるエポキシ樹脂組成物及び該エポキシ樹脂組成物を含む半導体封止充てん用樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
本発明は以下に関する。
(1) (a)エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂の硬化剤、(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤を含むエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物が、(a)エポキシ樹脂と(b)エポキシ樹脂の硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物よりも強靭化されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
(2) さらに(d)有機過酸化物を含有していることを特徴とする(1)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(3) (b)エポキシ樹脂の硬化剤が、分子内に少なくとも一つ以上の1級または2級アミノ基を有している芳香族アミン化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のエポキシ樹脂組成物。
(4) 25℃において液状であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を含む半導体封止充てん用樹脂組成物。
(6) (5)に記載の半導体封止充てん用樹脂組成物を用いて半導体チップを封止してなる半導体装置。
【発明の効果】
【0008】
以上に説明したとおり、本発明によって微粒子やポリマーを配合することなく、強靭化されたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。さらに、このエポキシ樹脂組成物を用いることによって強靭化された半導体封止充てん用樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の樹脂組成物を用いて製造された半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(a)エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂の硬化剤、(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤を含む。
【0011】
本発明で用いる(a)エポキシ樹脂は、2官能以上であれば特に限定されず、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド骨格含有エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型多官能エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有多官能エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有多官能エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格含有多官能エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、その他各種多官能エポキシ樹脂などを用いることができる。これらの中でも、低粘度化、低吸水率、高耐熱性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有多官能エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有多官能エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格含有多官能エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂などを用いることが望ましい。また、これらのエポキシ樹脂の性状としては25℃で液状でも固形でも構わないが、低粘度化及び成形性や加工性の観点から液状のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、これらのエポキシ樹脂は単独または2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
本発明で用いる(b)エポキシ樹脂の硬化剤としては、イミダゾール類、酸無水物類、アミン類、フェノール類、ヒドラジド類、ポリメルカプタン類、ルイス酸−アミン錯体などを用いることができる。その中でも、低粘度化、保存安定性、硬化物の耐熱性などの観点から、イミダゾール類、酸無水物類、アミン類、フェノール類を用いることが望ましく、耐湿信頼性の観点からイミダゾール類、アミン類、フェノール類を用いることがさらに望ましい。またこれらの硬化剤の性状としては25℃で液状でも固形でも構わないが、低粘度化や配合時及び加工時の作業性の観点から液状であることが好ましい。
【0013】
イミダゾール類としては、例えば、2MZ、C11Z、2PZ、2E4MZ、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ−CN、2E4MZ−CN、2PZ−CN、C11Z−CN、2PZ−CNS、C11Z−CNS、2MZ−A、C11Z−A、2E4MZ−A、2P4MHZ、2PHZ、2MA−OK、2PZ−OK(四国化成工業株式会社製、製品名)などや、これらのイミダゾール類をエポキシ樹脂と付加させた化合物が挙げられる。また、これら硬化剤をポリウレタン系、ポリエステル系の高分子物質等で被覆してマイクロカプセル化したものは可使時間が延長されるために好ましい。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。
【0014】
イミダゾール類の配合量としては、エポキシ樹脂組成物に対して0.1〜10質量%配合することが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。0.1質量%より少ないと、十分に硬化しない恐れがあり、10質量%を超えると保存安定性が低下する恐れがある。
【0015】
酸無水物類としては、例えば、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、1−イソプロピル−4−メチル−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物などを用いることができる。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。
【0016】
酸無水物の配合量としては、エポキシ基の数と酸無水物基から発生するカルボン酸の数の比(エポキシ基の数/カルボン酸の数)が0.5〜1.5となるように配合することが好ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。0.5より小さい場合、カルボン酸基が過剰に残存し、耐湿信頼性が低下する恐れがあり、1.5より大きい場合、硬化が十分進行しない恐れがある。
【0017】
アミン類としては、1級または2級アミノ基を分子内に少なくとも一つ以上有している化合物であれば特に限定されないが、保存安定性及び硬化物の耐熱性の観点から芳香族アミン類が望ましい。芳香族アミン類としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルスルフィド、メタキシレンジアミン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルトルエンジアミン、アニリン類、アルキル化アニリン類、N−アルキル化アニリン類、などを用いることができる。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。
【0018】
アミン類の配合量としては、エポキシ基の数と活性水素の数の比(エポキシ基の数/活性水素の数)が0.5〜1.5になるように配合することが望ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。0.5より小さい場合にはアミン類が過剰に残存し、耐湿信頼性が低下する恐れがあり、1.5より大きい場合には、硬化が十分に進行しない恐れがある。
【0019】
フェノール類としては、ビスフェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アリル化フェノールノボラック樹脂、ビフェノール樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールナフトールホルムアルデヒド重縮合物、トリフェニルメタン型多官能フェノール樹脂、キシリレン変性フェノールノボラック樹脂、キシリレン変性ナフトールノボラック樹脂、各種多官能フェノール樹脂等を使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上の混合体として使用することができる。
【0020】
フェノール類の配合量としては、エポキシ基の数とフェノール性水酸基の数の比(エポキシ基の数/フェノール性水酸基の数)が0.5〜1.5になるように配合することが望ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。0.5より小さい場合にはフェノール類が過剰に残存し、耐湿信頼性が低下する恐れがあり、1.5より大きい場合には硬化が十分進行しない恐れがある。
【0021】
酸無水物類、アミン類、フェノール類を硬化剤として用いる場合、硬化促進剤を併用してもよい。硬化促進剤としては前記イミダゾール類を用いることができる。配合量は硬化に要する時間や保存安定性を考慮して適宜設定される。
【0022】
本発明で用いる(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤としては、例えば、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、などが挙げられる。また、直鎖状の構造をした化合物だけでなく、高度に分岐した構造を有する末端アクリレート変性デンドリマーを用いてもよく、大阪有機化学工業株式会社製V#1000、V#1020、V#1080などが入手可能である。これらの改質剤は1種を単独で又は2種以上の混合体として使用することができる。改質剤の性状としては25℃で固形でも液状でも構わないが、低粘度化及び配合時及び加工時の作業性の観点から液状であることが好ましい。
【0023】
(c)改質剤の配合量としては、(a)エポキシ樹脂と(b)エポキシ樹脂の硬化剤の総量100質量部に対して、0.5〜20質量部とすることが好ましく、0.5〜15質量部とすることがより好ましく、1〜10質量部とすることがさらに好ましい。この配合量が0.5質量部より少ないと、強靭化の効果が十分発現されない恐れがあり、20質量部を超えると耐熱性が低下する恐れがある。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、その硬化物が、(a)エポキシ樹脂と(b)エポキシ樹脂の硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物よりも強靭化されていることを特徴とする。すなわち、(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤を含む本発明のエポキシ樹脂組成物は、(c)改質剤を含まない樹脂組成物よりも、強靭化されている。なお、強靭化されているとは、破壊靭性値KIC(単位MPa・m1/2)が、より大きくなっている状態であり、破壊靭性値は、例えば、インストロン社製マイクロテスター5548を用いて3点曲げ試験で荷重−変位曲線を測定し、破断時の荷重P(単位N)を求め、これより得ることできる。
【0024】
さらに、加熱によってラジカルを発生する(d)有機過酸化物を配合してもよい。(d)有機化酸化物としては、例えば、パーヘキシルD、パーヘキシルZ、パークミルD、パーブチルDなど(日本油脂株式会社製、製品名)が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上の混合体として使用することができる。配合量については、強靭化の効果や保存安定性を考慮して適宜設定される。
【0025】
強靭化が発現する機構については明らかになっていないが、エポキシ樹脂とその硬化剤が形成する硬化物ネットワークと改質剤が形成する硬化物ネットワークが互いに絡み合った構造となる、いわゆるIPN(Inter−Penetrating Network)が構築されていることが一因と考えられる。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、作業性や加工性の観点から25℃で液状であることが好ましい。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組成物は(a)エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂の硬化剤、(c)改質剤をプラネタリーミキサー、らいかい機、ボールミル、自動乳鉢などを用いて攪拌混合することによって作製することができる。また、固形成分を配合する際は、液状成分にあらかじめ均一に溶解した後に用いることが好ましい。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、熱膨張係数を調整するために無機フィラーを含んでいてもよく、特に、半導体封止充てん用樹脂組成物として用いる場合には無機フィラーを配合することによって低熱膨張化するので好ましい。無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、ガラス、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン(チタニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、カーボンブラック、マイカ、硫酸バリウムなどが挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用してもよい。また、2種類以上の金属酸化物を含む複合酸化物(2種類以上の金属酸化物が単に混合されてなるものではなく、金属酸化物同士が化学的に結合して分離不能な状態となっているもの)であってもよく、例えば、二酸化ケイ素と酸化チタン、二酸化ケイ素と酸化アルミニウム、酸化ホウ素と酸化アルミニウム、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化マグネシウムなどからなる複合酸化物が挙げられる。また、フィラーの粒径は、通常、半導体チップと基板の間の空隙が100μm以下と狭いために、樹脂組成物を注入する際の良好な封止充てん性を実現するために平均粒径は10μm以下であることが望ましい。さらに、粘度や硬化物の物性を調整するために、粒径の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止充てん用樹脂組成物として用いる場合、ガラス転移温度以下の熱膨張係数は、60×10−6/℃以下であることが好ましく、55×10−6/℃以下であることがより好ましく、50×10−6/℃以下であることがさらに好ましい。熱膨張係数が60×10−6/℃より大きい場合、冷熱サイクル試験において、樹脂の膨張と収縮によって発生する応力が大きくなり、接続不良が発生する場合がある。
【0030】
さらに、樹脂とフィラーの密着力を向上させ、さらなる接続信頼性の向上を可能とするために、無機フィラーの表面をあらかじめシランカップリング剤、チタンカップリング剤などのカップリング剤で処理したものを用いることがより好ましい。
【0031】
無機フィラーの配合量は、樹脂組成物の粘度や硬化物の熱膨張係数を調整するために適宜設定されるが、封止充てん用樹脂組成物とする場合、樹脂組成物中の25〜75質量%であることが望ましい。25質量%より少ないと熱膨張係数が大きくなり、接続信頼性が低下する恐れがあり、75質量%を超えると粘度が高くなりすぎて作業性が低下する恐れがある。また、無機フィラーを配合する場合、3本ロールを用いて混練し、無機フィラーをエポキシ樹脂組成物中に分散させる。
【0032】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物には、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸化防止剤、レベリング剤、イオントラップ剤などの添加剤を配合してもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。配合量については、各添加剤の効果が発現するように調整すればよい。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物を含む半導体封止充てん用樹脂組成物の粘度は25℃において、100Pa・s以下が好ましく、80Pa・s以下がより好ましく、さらに好ましくは70Pa・s以下である。100Pa・sを超える場合、注入を行う際の作業性が低下する恐れがある。
【0034】
図1に本発明の封止充てん用フィルム状樹脂組成物を用いて製造される半導体装置の一例を示す。図1に示すように、半導体チップと基板が複数のバンプと呼ばれる導電性突起によって電気的に接続され、半導体チップと基板の間に本発明の封止充てん用樹脂組成物が配置された構造をしている。
半導体チップとしては、特に限定はなく、シリコン、ゲルマニウムなどの元素半導体、ガリウムヒ素、インジウムリンなどの化合物半導体等、各種半導体を用いることができる。
基板としては、通常の回路基板でもよく、また、半導体チップでもよい。回路基板の場合、ガラスエポキシ、ポリイミド、ポリエステル、セラミックなどの絶縁基板表面に形成された銅などの金属層の不要な個所をエッチング除去して配線パターンが形成されたもの、絶縁基板表面に銅めっきなどによって配線パターンを形成したもの、絶縁基板表面に導電性物質を印刷して配線パターンを形成したものなどを用いることができる。配線パターンの表面には、低融点はんだ、高融点はんだ、スズ、インジウム、金、ニッケル、銀、銅、パラジウムなどからなる金属層が形成されていてもよく、この金属層は単一の成分のみで構成されていても、複数の成分から構成されていてもよい。また、複数の金属層が積層された構造をしていてもよい。
バンプと呼ばれる導電性突起の材質としては、低融点はんだ、高融点はんだ、スズ、インジウム、金、銀、銅などからなるものが用いられ、単一の成分のみで構成されていても、複数の成分から構成されていてもよい。また、これらの金属が積層された構造をなすように形成されていてもよい。バンプは半導体チップに形成されていてもよいし、基板に形成されていてもよいし、半導体チップと基板の両方に形成されていてもよい。
半導体パッケージとしては、インターポーザーと呼ばれる基板上に半導体チップが搭載され、樹脂封止されたものとして、例えばCSP(チップサイズパッケージ)やBGA(ボールグリッドアレイ)などが挙げられる。また、半導体チップの電極部を半導体チップ表面上で再配線することによって、インターポーザーを用いないで基板に搭載可能とした半導体パッケージとして、例えば、ウエハーレベルパッケージと呼ばれるものが挙げられる。半導体パッケージを搭載する基板としては、通常の回路基板でよく、インターポーザーに対して、マザーボードと呼ばれるものを指す。
【0035】
次に、本発明における半導体装置は以下に示す方法で製造可能であるが、この方法に限定されるわけではない。はんだバンプが形成された半導体チップを用いた一例に基づいて以下に示す。
(1)ロジン系フラックスを半導体チップに形成されたはんだバンプ表面に、フラックス塗布装置を用いて塗布した後、チップマウンターを用いて半導体チップと基板を位置合わせして、圧着することによって半導体チップを基板上の所定の位置に配置する。
(2)リフロー装置を用いて、所定の加熱プロファイルにて加熱処理を行い、はんだバンプを溶解させて半導体チップと基板をフリップチップ接続する。
(3)フラックスの残渣を溶剤で洗浄した後、100〜120℃に加熱した状態で、封止充てん用樹脂組成物を滴下し、半導体チップと基板の間の空隙に毛細管現象を利用して注入する。
(4)注入完了後、封止充てん用樹脂組成物を硬化させるため、150〜175℃に加熱した加熱オーブン中で0.5〜2h加熱処理を行う。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
(実施例1〜8、及び比較例1〜3)
表1に示す組成に基づいて、各種成分を、らいかい機にて混合した後、真空脱泡することによってエポキシ樹脂組成物を作製した(各種成分の配合単位は質量部)。改質剤A〜Eは全て液状であるため、そのまま使用した。改質剤F及び改質剤Gはあらかじめエポキシ樹脂Aとともに80℃で加熱攪拌することによって均一に溶解させて使用した。有機過酸化物はカップリング剤に溶解して添加した。
【0038】
(実施例9、10及び比較例4)
表2に示す組成に基づいて、各種成分を、三本ロールを用いて混練分散した後、真空脱泡することによって無機フィラーを含むエポキシ樹脂組成物を作製した(各種成分の配合単位は質量部)。
【0039】
各種成分
エポキシ樹脂A:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂 YDF−8170C(東都化成株式会社製 製品名、エポキシ当量159)
エポキシ樹脂B:アミノフェノール型液状エポキシ樹脂 E630LSD(ジャパンエポキシレジン株式会社製 製品名、エポキシ当量95)
硬化剤:3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン KAYAHARD−AA(日本化薬株式会社製 製品名、活性水素当量63)
硬化促進剤:2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール 2P4MHZ(四国化成工業株式会社製 製品名)
改質剤A:ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート FA−512AS(日立化成工業株式会社製 製品名)
改質剤B:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート A−DCP(新中村化学株式会社製 製品名)
改質剤C:トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート及びビス(2−アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートの混合物 M313(東亜合成株式会社製 製品名)
改質剤D:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート A−DPH(新中村化学株式会社製 製品名)
改質剤E:デンドリチックアクリレート V#1020(大阪有機化学株式会社製 製品名)
改質剤F:インデンオリゴマー エスクロンIP−100(日塗化学株式会社製 製品名)
改質剤G:トリフェニルメタン骨格含有多官能固形エポキシ樹脂 EP1032H60(ジャパンエポキシレジン株式会社製 製品名)
有機過酸化物:パークミルD(日本油脂株式会社製、製品名)
カップリング剤:KBM403(信越化学株式会社製、製品名)
無機フィラーA:球状シリカ SE2050(アドマテックス株式会社製 製品名、平均粒径0.5μm)
無機フィラーB:球状シリカ SE5050(アドマテックス株式会社 製品名、平均粒径1.5μm)
【0040】
(破壊靭性値KICの測定)
強靭化の指標となる破壊靭性値KICの算出は以下の手順で行った。
前記エポキシ樹脂組成物を長さ60mm、厚みT=12.5mm、幅W=4mm、ノッチ深さD=2mmの形状に硬化成形し、支点間距離L=50mm、クロスヘッド速度0.5mm/分、測定温度25℃でインストロン社製マイクロテスター5548を用いて3点曲げ試験で荷重−変位曲線を測定し、破断時の荷重P(単位N)を記録した。なお、硬化は175℃で1時間処理することによって行った。破壊靭性値KIC(単位MPa・m1/2)は次式によって計算される。
IC=σ×(π×D)1/2×F(D/T)
σ=3×L×(P/W)/(2×T
D/T=ξとして、L/T=4の場合
F(ξ)≒1.090−1.735ξ+8.20ξ−14.18ξ+14.57ξ
【0041】
(粘度の測定)
E型粘度計(株式会社東京計器製)を用いて、25℃における粘度を回転数5rpmで測定した。
【0042】
(弾性率およびガラス転移温度(Tg)の測定)
前記エポキシ樹脂組成物を165℃で2時間加熱処理して得た硬化物を幅3mm、厚み0.6mm、長さ40mmの大きさに成形加工したものを準備し、セイコーインスツルメンツ社製DMS6100(製品名)を用いて、チャック間距離20mm、周波数1Hz、測定温度範囲−50〜300℃、昇温速度5.0℃/minの条件で、貯蔵弾性率、損失弾性率、及びtanδの測定を行い、25℃及び260℃の貯蔵弾性率およびガラス転移温度(Tg)としてtanδのピーク温度を読み取った。
【0043】
(熱膨張係数の測定)
前記エポキシ樹脂組成物を165℃で2時間加熱処理して得た硬化物を幅2mm、厚み0.4mm、長さ40mmの大きさに成形加工したものを準備し、セイコーインスツルメンツ社製TMA/SS6000(製品名)を用いて、チャック間距離20mm、測定温度範囲−50〜300℃、昇温速度5℃/min、フィルム断面積に対して0.5MPaとなる引っ張り荷重の条件で測定を行ない、ガラス転移温度以下の平均線膨張係数(α1)及びガラス転移温度以上の平均線膨張係数(α2)を読み取った。
【0044】
(接着力の測定)
ポリイミドがコーティングされた縦10mm×横10mm×厚み0.55mmのシリコンチップのポリイミドコート面に、縦10mm×横10mm×厚み1mmで中心部に直径3mmの穴を開けたシリコーンゴム板を貼り合わせたものを125℃に設定したホットプレート上に配置し、前記エポキシ樹脂組成物をシリコーンゴム板の穴内を満たすように充てんした。さらに165℃で2時間加熱処理することによって硬化させた後、シリコーンゴム板を剥がすことによって接着力測定用サンプルを作製した。この測定用サンプルを用いて、Dagy社製ボンドテスター4000でシェア速度0.05mm/秒、シェア高さ0.05mm、測定温度260℃の条件でシェア試験を行い、初期の接着力を測定した。また、測定サンプルを85℃、相対湿度85%に設定した恒温恒湿槽に48時間放置した後に、同様のシェア試験を行い、吸湿後の接着力を測定した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
実施例1〜5の結果から、(c)アクリル基を含有する改質剤を配合することによって破壊靭性値KICが向上しており、強靭化されていることが分かる。また、実施例6〜8の結果から有機過酸化物を併用することによってさらに破壊靭性値KICが向上することが分かる。さらに、実施例9、10の結果から改質剤Eを配合した場合、無機フィラーを配合することによって、十分に低熱膨張化することが可能であり、粘度、弾性率、熱膨張係数、接着力については比較例4とほぼ同等であり悪影響を及ぼしていないが、ガラス転移温度と破壊靭性値KICを向上させる効果が発現しており、耐熱性及び強靭性に優れたエポキシ樹脂組成物となっていることが分かる。
それに対し、改質剤を配合しない、比較例1の破壊靭性値KICは、実施例1〜8の破壊靭性値KICより小さく、また、改質剤を配合しない、比較例4の破壊靭性値KICは、実施例9〜10の破壊靭性値KICより小さいことがわかる。また、(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤以外の改質剤F、Gを配合した比較例2〜3の破壊靭性値KICも、実施例1〜8の破壊靭性値KICより小さいことがわかる。
【0048】
以上に説明したとおり、本発明によって微粒子やポリマーを配合することなく、強靭化されたエポキシ樹脂組成物を得ることができる。さらに、このエポキシ樹脂組成物を用いることによって強靭化された半導体封止充てん用樹脂組成物を得ることができる。
【符号の説明】
【0049】
1.はんだボール、2.電極パッド、3.はんだバンプ、4.配線、5.半導体チップ、6.半導体封止充てん用樹脂組成物、7.インターポーザー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エポキシ樹脂、(b)エポキシ樹脂の硬化剤、(c)分子内に少なくとも一つ以上のアクリル基を有する改質剤を含むエポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物が、(a)エポキシ樹脂と(b)エポキシ樹脂の硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物よりも強靭化されていることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
さらに(d)有機過酸化物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(b)エポキシ樹脂の硬化剤が、分子内に少なくとも一つ以上の1級または2級アミノ基を有している芳香族アミン化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
25℃において液状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を含む半導体封止充てん用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体封止充てん用樹脂組成物を用いて半導体チップを封止してなる半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−116979(P2012−116979A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269236(P2010−269236)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】