説明

エポキシ樹脂組成物を用いた電子部品装置の製造方法及びその電子部品装置

【課題】ファインピッチ配線半導体素子を封止成形する際に、金線変形や断線、リーク不良といった、電気特性不良の少ないエポキシ樹脂組成物を用いた電子部品装置の製造方法及びその電子部品装置を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤を含有し、かつスリット式粘度測定装置にて測定温度175℃、せん断速度300s−1における見かけ最低溶融粘度が7.0Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を用いて、キャビティ内気圧が0.2MPa以上の状態にて半導体素子7を封止する電子部品装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にファインピッチ配線の半導体素子を封止した場合に、電気特性不良発生が少ない封止用エポキシ樹脂組成物及びそれを用いて得られる電子部品装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高密度実装化に伴って配線数が増加し、半導体素子表面のアルミ配線及び金線間のピッチは狭くなる傾向にある。そのため、隣接する金線との間隔が非常に狭くなり、少しの変形でショートする可能性が大きくなる。そして、これらの問題に対応するために、金線はより細線化する傾向にある。一方、電子部品装置の薄型化による成形時のチップシフトを低減するために、低せん断領域での粘度の上限を規定した封止用エポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。また、キャビティ内気圧を加減圧する製造方法は、ボイド低減を目的として、ゲートを越えるまでは大気圧未満にし、ゲートを越えてからは大気圧以上で、かつ樹脂充填圧力未満の加圧状態にする方法が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−114890号公報
【特許文献2】特許第3305842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような低粘度の封止用エポキシ樹脂組成物を用いても、細線化した金線で配線されたファインピッチ配線半導体素子を封止成形する場合、金線変形や断線といった成形性不良が発生する。一方、キャビティ内気圧を減圧した場合、金線変形は悪化する傾向にある。このため、細線化した金線で配線されたファインピッチ配線半導体素子において、成形時に金線変形や断線を防止し、かつ金線変形によるリーク不良が発生しない封止用エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置が望まれている。
【0004】
本発明は、ファインピッチ配線半導体素子を封止成形する際に、金線変形や断線、金線変形によるリーク不良といった、電気特性不良のないエポキシ樹脂組成物を用いた電子部品装置の製造方法及びその電子部品装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に関する。
【0006】
1. (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤を含有し、かつスリット式粘度測定装置にて測定温度175℃、せん断速度300s−1における見かけ最低溶融粘度が7.0Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を用いて、キャビティ内気圧が0.2MPa以上の状態にて素子を封止する電子部品装置の製造方法。
【0007】
2. 前項1.に記載の電子部品装置の製造方法を用いて製造した電子部品装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエポキシ樹脂組成物と成形時キャビティ内気圧条件の組み合わせを使用することにより、ファインピッチ配線半導体素子を封止成形する際に、金線変形や断線、リーク不良といった、電気特性不良の発生の少ない半導体装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤を含有し、スリット式粘度測定装置で測定した粘度が、せん断速度300s−1において7.0Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を使用した電子部品装置の製造方法である。更に、そのエポキシ樹脂組成物を用いて、キャビティ内気圧が0.2MPa以上の状態にて半導体素子を封止する電子部品装置の製造方法に関するものである。また、それを用いて封止した素子を備えた電子部品装置に関するものである。
【0011】
エポキシ樹脂組成物はさらに(C)硬化促進剤、及び(D)無機充填材を含むのが好ましく、特に(C)硬化促進剤がホスフィン化合物とキノン化合物との付加物を含有する前記エポキシ樹脂組成物でもよい。また、(D)無機充填材が球状もしくは磨砕処理したものを全無機充填材中50質量%以上含有するのが好ましい。
【0012】
本発明に用いられる(A)エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限はなく、そのようなエポキシ樹脂としては、これらに限定されるものではないが、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したノボラック型エポキシ樹脂;
ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール、スチルベン系フェノール類等のジグリシジルエーテル(ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂);
ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;
フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸類のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;
アニリン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したもの等のグリシジル型またはメチルグリシジル型のエポキシ樹脂;
分子内のオレフィン結合をエポキシ化して得られるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシ)シクロヘキシル−5,5−スピロ(3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;
パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル;
ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;
ハイドロキノン型エポキシ樹脂;
トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;
オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;
ジフェニルメタン型エポキシ樹脂;
フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物;
硫黄原子含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0013】
特に、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が好ましい。
【0014】
これらは、単独で又は2種以上併用することができる。
【0015】
本発明に用いられる(B)硬化剤としてはエポキシ樹脂を硬化させることができる化合物であれば、特に限定されるものではないが、例えば、フェノール樹脂等のフェノール化合物、ジアミン、ポリアミン等のアミン化合物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の無水有機酸、ジカルボン酸、ポリカルボン酸等のカルボン酸化合物等が挙げられ、これらのうち1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもかまわない。中でも、中でも(C)硬化促進剤の効果が十分に発揮されるという観点からは、フェノール樹脂が好ましい。
【0016】
エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノール樹脂としては特に制限はないが、例えば、一般に使用されている1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール樹脂で、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物;
フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;
フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレンやビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;
パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂;
メラミン変性フェノール樹脂;
テルペン変性フェノール樹脂;
フェノール類及び/又はナフトール類とジシクロペンタジエンから共重合により合成される、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;
シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;
多環芳香環変性フェノール樹脂;
ビフェニル型フェノール樹脂;
トリフェニルメタン型フェノール樹脂;
これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂などが挙げられる。
【0017】
特に、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、アルキル変性ノボラック樹脂、一般式(I)及び(II)で表されるフェノール樹脂等が好ましい。これらは、単独又は2種以上併用することができる。
【0018】
これらの硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ基数と硬化剤の水酸基数の比が好ましくは0.6〜1.4、より好ましくは0.8〜1.2となるように配合する。
【化1】

【0019】
(ただし、一般式(I)中、l、m、nは0以上の整数である。)
【化2】

【0020】
(ただし、一般式(II)中、m、nは0以上の整数である。)
本発明に用いられる(C)硬化促進剤としてはエポキシ樹脂組成物で一般に使用されている、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との硬化反応を促進するものであれば、特に制限はない。たとえば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のシクロアミジン化合物及びこれらの化合物に無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン類及びこれらの誘導体、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類及びこれらの誘導体、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類などのホスフィン化合物、及びこれらのホスフィン化合物に上記キノン化合物、無水マレイン酸、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムエチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウムテトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩及びこれらの誘導体などが挙げられ、これらの1種を単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
なかでも、本発明における粘度特性を得るためには、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物を硬化促進剤に含むのが特に好ましい。ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物を硬化促進剤に含む場合、同一組成において見かけ最低溶融粘度が低減したり、ゲル化時間を短縮したりすることができる。
【0022】
ホスフィン化合物としては、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ブチルジフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、オクチルジフェニルホスフィン、ジオクチルフェニルホスフィン等のリン原子に少なくとも一つのアルキル基が結合したホスフィン化合物、トリス−(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス−(o−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、ビス−(p−メトキシフェニル)フェニルホスフィン、ビス−(o−メトキシフェニル)フェニルホスフィン、ジ−p−トリルフェニルホスフィン、ジ−o−トリルフェニルホスフィン、ジ−m−トリルフェニルホスフィン、ジフェニル(p−メトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル(o−メトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル−p−トリルホスフィン、ジフェニル−o−トリルホスフィン、ジフェニル−m−トリルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のトリアリールホスフィン化合物などが挙げられる。
【0023】
キノン化合物として、ホスフィン化合物との反応性の観点からは1,4−ベンゾキノン及びメチル−1,4−ベンゾキノンが好ましく、吸湿時の硬化性の観点からは、2,3−ジメトキシ−1,4ベンゾキノン、2,5−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン、メトキシ−1,4−ベンゾキノン等のアルコキシ基置換1,4−ベンゾキノン、及び2,3−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、メチル−1,4−ベンゾキノン等のアルキル基置換1,4−ベンゾキノンが好ましく、保存安定性の観点からは、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、tert−ブチル−1,4−ベンゾキノン、フェニル−1,4−ベンゾキノンが好ましい。
【0024】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては特に制限はないが、例えば、原料として用いられるホスフィン化合物とキノン化合物とを両者が溶解する有機溶媒中で付加反応させて単離する方法、(B)硬化剤中で付加反応させる方法等が挙げられ、後者の方法においては単離せずにそのまま硬化剤中に溶解した状態で、エポキシ樹脂組成物の配合成分として用いることができる。ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
これらホスフィン化合物とキノン化合物との付加物のうち、総合的に、トリブチルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物、トリシクロヘキシルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物、ジフェニルシクロヘキシルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物、トリ−p−トリルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物及びトリフェニルホスフィンと1,4−ベンゾキノンの付加物が好ましい。ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物を単独で配合する場合、その配合量は(A)エポキシ樹脂及び(B)硬化剤の総量に対して0.2〜10質量%が好ましい。0.2質量%未満では硬化性が不十分となる傾向があり、10質量%を超えると流動性が不足する傾向がある。
【0026】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物以外の好ましい硬化促進剤は、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等の有機リン系化合物、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等のアミン系硬化促進剤、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリエチレンアミン等の第3級アミン化合物などが挙げられる。
【0027】
硬化促進効果が得られるならば、併用した場合の(C)硬化促進剤の配合量に特に制限はないが、(A)エポキシ樹脂及び(B)硬化剤の総量に対して0.2〜10質量%が好ましい。0.2質量%未満では短時間で硬化させることが困難であり、10質量%を超えると未充填が発生する傾向がある。ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の(C)硬化促進剤に対する配合比に制限はないが、その性能を発揮するために(C)硬化促進剤に対して30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0028】
本発明に用いられる(D)無機充填材の配合量は55〜95質量%が好ましく、70〜90質量%がより好ましい。55質量%未満では耐リフロー性が不十分となる傾向があり、95質量%を超えると流動性が不足する傾向にある。(D)無機充填材としては特に限定するものはなく、例えば溶融シリカ粉末や結晶シリカ粉末等のシリカ粉末、アルミナ粉末等で、破砕状、球状、あるいは磨砕処理したもの等いずれでも単独又は2種以上併用することができるが、スリット式粘度測定装置で測定した樹脂組成物粘度が、せん断速度300s−1において7.0Pa・s以下であることを実現するために、球状もしくは磨砕処理済のものが(D)無機充填材に対して50質量%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物には、その他の添加物として、カーボンブラックや有機染料等の着色剤、天然ワックスや合成ワックス、高級脂肪酸等の離型剤、エポキシシランやアミノシラン等のシラン系カップリング剤、シリコーンポリマーや熱可塑性樹脂等の低応力化剤、界面活性剤、更には臭化エポキシ樹脂、アンチモン化合物等の難燃剤などを、本発明の目的を損なわない範囲で添加配合することができる。
【0030】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および必要に応じて(C)硬化促進剤、(D)無機質充填材、その他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール又はニーダ等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して成形材料とする。
【0031】
図1に、スリット式粘度測定装置の構造を断面図で示す。本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、図1に示すスリット式粘度測定装置により測定した粘度が、下記の特性を備えていなければならない。図2に図1のスリット式粘度測定装置で使用するスリット4の外形を示し、2W、2H、Lはそれぞれスリット4の幅、深さ、長さである。
【0032】
通常の成形金型温度である175℃の温度条件下において、スリット式粘度測定装置により測定された見かけ最低溶融粘度は、せん断速度が300s−1の場合7.0Pa・s以下でなければならない。7.0Pa・sを超える場合、金線にかかる抵抗が大きくなり、ファインピッチ半導体素子において金線が変形してリーク不良が発生する傾向にある。
【0033】
上記特性は、測定温度175℃、所定のせん断速度での条件下にて、図1のスリット式粘度測定装置を用いて測定する。測定せん断速度は、下記(1)式から求めることができる。
【数1】

【0034】
ここで、Qは流量、f(W/H)はスリット形状で定まる定数を表す。所定のせん断速度とするためのプランジャー速度Vpは、(2)式より算出する。
【数2】

【0035】
(ここでrはプランジャー1の半径である。)
スリット式粘度測定装置は、円柱状タブレットに成形したエポキシ樹脂組成物を約70℃に予熱してプランジャーポット2に投入し、プランジャー1を速度Vpで作動させて、リザーバ3を通過した溶融樹脂6をスリット4から押出した際に、圧力センサ5で計測される圧力値から、(3)式により見かけ溶融粘度ηおよびその最低値を求める。
【数3】

【0036】
(ここで、ΔPはスリットにおける圧力損失である。)
本発明で得られるエポキシ樹脂組成物は、半導体等の素子を封止する封止用の樹脂組成物として用いられるのが好ましい。本発明の電子部品装置の製造方法により素子を封止して得られる電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等の支持部材に、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子等の素子を搭載し、必要な部分を本発明の製造方法により封止した、電子部品装置などが挙げられる。このような電子部品装置としては、例えば、リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部をワイヤボンディングやバンプで接続した後、本発明の製造方法を用いてトランスファ成形等により封止してなる、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J−lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC、テープキャリアにバンプで接続した半導体チップを、本発明の製造方法で封止したTCP(Tape Carrier Package)、配線板やガラス上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子及び/又はコンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子を、本発明の製造方法で封止したCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール、裏面に配線板接続用の端子を形成した有機基板の表面に素子を搭載し、バンプまたはワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、本発明の製造方法で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)などが挙げられる。また、プリント回路板にも本発明は有効に使用できる。
【0037】
特に本発明は、エポキシ樹脂組成物を用いて、キャビティ内気圧が0.2MPa以上の状態にて半導体素子を封止する電子部品装置の製造方法を特徴とする。また、キャビティ内気圧が0.4MPa以上の場合は、金線変形に対して更に良い結果が得られる。キャビティ内気圧が0.2MPaより高い状態での成形は、例えばトランスファー成形の場合、金型が閉じた状態において、エアベント等からコンプレッサー等を用いて圧縮空気を注入することにより実施できる。キャビティ内気圧が0.2MPaより低い場合、溶融樹脂が発泡して金線変形が大きくなる傾向にある。
【0038】
このようなエポキシ樹脂組成物を用いての半導体素子の封止形式は、特に限定するものではなく、通常のトランスファー成形、インジェクション成形法、圧縮成形法等の、公知の成形方法により行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0040】
[エポキシ樹脂組成物1〜7]
(A)エポキシ樹脂として、ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂1:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名YX−4000)、スチルベン型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂2:東都化成株式会社製商品名YSLV−120TE)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂3:住友化学工業株式会社製商品名ECSN−190−2)を用意した。また、臭化エピビス型エポキシ樹脂(難燃剤:東都化成株式会社商品名YDB−400)を用意した。
【0041】
(B)硬化剤として、一般式(I)で表されるフェノール樹脂(硬化剤1)、フェノールアラルキル樹脂(硬化剤2:三井化学株式会社製商品名ミレックスXL−225−3L)、フェノールノボラック樹脂(硬化剤3:明和化成株式会社製商品名H−1)を用意した。
【0042】
(C)硬化促進剤として、トリフェニルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物(硬化促進剤1)、トリパラトリルホスフィンと1,4−ベンゾキノンとの付加物(硬化促進剤2)を用意した。
【0043】
(D)無機充填材として、平均粒径30μmの球状溶融シリカ(無機充填材1)、カップリング剤としてエポキシシラン(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を用意した。
【0044】
離型剤として、ポリエチレンワックス(離型剤1:クラリアントジャパン株式会社製商品名PED−522)、高級脂肪酸エステルワックス(離型剤2:株式会社セラリカ野田製商品名精製カルナバワックスNo.1)、モンタン酸エステルワックス(離型剤3:クラリアントジャパン株式会社製商品名HW−E)、着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製商品名MA−600)、難燃助剤として三酸化アンチモン(東湖産業株式会社製商品名HTT−200)、添加剤としてハイドロタルサイド(添加剤1:協和化学工業株式会社製商品名DHT−4A)、フェノール系抗酸化剤(添加剤2:旭電化工業株式会社製商品名アデカスタブAO−60)、インデンとベンゾチオフェンの共重合物(添加剤3:新日鐵化学株式会社製製品名IS−100)を用意した。
【0045】
これらを表1に示す割合で配合し、ミキシングロール機で混練して冷却した後、粉砕機で微粒化することにより目的とする粉末状のエポキシ樹脂組成物1〜7を得た。
【表1】

【0046】
このようにして得られた各エポキシ樹脂組成物1〜7を用いて、下記の方法に従って特性評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【表2】

【0047】
[見かけ最低溶融粘度]
上記で得られたエポキシ樹脂組成物を用い、前述の方法に従って測定した。すなわち、スリット式粘度測定装置(図1参照)を用いて圧力値を測定し、この圧力値から(1)式〜(3)式を用いて見かけ最低溶融粘度を算出した。条件は、ポット径18.6mm、円柱状タブレットは直径18mm×高さ17.5mm、冷間成形の圧力は約40Mpa、測定温度175℃であった。せん断速度は50s−1及び300s−1であり、せん断速度が50s−1の場合、スリット形状は幅8.0mm×深さ0.8mm×長さ12.5mm、プランジャー速度Vpは0.162mm/sであった。また、300s−1の場合、スリット形状は幅4.0mm×深さ0.4mm×長さ12.5mm、プランジャー速度Vpは0.122mm/sであった。これらのスリットではW/H=10であり、(1)式及び(3)式に用いるスリット形状定数は、f(W/H)=5.0であった。
【0048】
[金線変形率]
図3に、金線変形量を測定するために用いる電子部品装置の一例の斜視模式図(一部断面)を示す。図4は、図3に示すBall Gird Allay(以下、「BGA」と略す。)パッケージのうち、封止前の基板8の正面図である。使用した基板8の厚さは0.54mm、基板8に搭載されている半導体素子7(□5.1×0.4mm(厚み))には、直径15μm、長さ6.1及び2.0mmの金線9がチップ配線ピッチ35μmで交互に張られている。
【0049】
上記封止用エポキシ樹脂組成物を用いて、トランスファー成形にて以下のように封止成形した。すなわち、図4のBGA基板を図5のように金型に固定して、キャビティ内充填時間15s、温度175℃、キャビティ内気圧をゲージ圧表示でそれぞれ−0.1、0.1、0.2、0.4MPaの成形条件でトランスファー成形機による樹脂封止成形を行って図3に示すようなBGAパッケージ(□28×1.4mm(厚み))を得た。
【0050】
図5は電子部品装置の封止成形時における金型断面の構造の一例を示す。図4中の矢印方向よりゲート10を経て充填された溶融樹脂は、図4中の位置Aからコーナー部の位置Bまたは位置Cを通過して、エアベント11方向の位置Dに至った後充填を完了した。
【0051】
ついで、作製したBGAパッケージの金線9の状態を軟X線装置で観察し、長さが6.1mmの金線9の最大変位量を測定した。図6は金線変形量の測定方法を示す説明図である。図6において、dは金線9の最大変形量、Lwは金線9の長さである。測定は、金線9を選定し、パッケージの真上(図4の正面方向)からの金線の最大変形量を測定し、金線変形率(%)を[d(mm)/Lw(mm)]×100を算出した。金線変形率が最大となるコーナー部(図4中位置B及び位置C)において金線同士の接触が発生する、金線変形率2.0%以上のものを不良パッケージとした。
【0052】
表2の結果から、スリット式粘度測定装置にてせん断速度300s−1における見かけ最低溶融粘度が7.0Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物1および2において、封止成形時のキャビティ内気圧が0.2MPaより高い条件において、金線変形率は2.0%よりも小さくなった。キャビティ内気圧により、溶融樹脂中の気泡が圧縮されて金線との接触・作用が低減された、あるいは、位置B及び位置Cから位置Dへの溶融樹脂の流れが位置Aから位置Dへの流れより遅延したためと思われ、その効果は半導体封止用エポキシ樹脂組成物の組成に関係なく、パッケージ内の金線全体に及ぶことを別途、確認した。また、このような金線変形率の低減は、せん断速度が例えば50s−1における見かけ最低溶融粘度の値には依存しないことが表2からわかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】スリット式粘度測定装置の構造を示す説明図である。
【図2】スリット式粘度測定装置で使用するスリットの外形図である。
【図3】本発明の実施例で金線変形量を測定するために用いる半導体装置(BGA)の一例の斜視模式図(一部断面)である。
【図4】図3の半導体装置に使用するBGA基板の正面図である。
【図5】電子部品装置封止成形時における金型断面の構造の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例における金線変形量の測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1…プランジャー
2…プランジャーポット
3…リザーバ
4…スリット
5…圧力センサ
6…溶融樹脂
7…半導体素子
8…BGA基板
9…金線
10…ゲート
11…エアベント
2W…スリット4の幅
2H…スリット4の深さ
L…スリット4の長さ
Lw…金線長さ
d…金線の最大変形量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤を含有し、かつスリット式粘度測定装置にて測定温度175℃、せん断速度300s−1における見かけ最低溶融粘度が7.0Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物を用いて、キャビティ内気圧が0.2MPa以上の状態にて素子を封止する電子部品装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品装置の製造方法を用いて製造した電子部品装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−118113(P2008−118113A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239772(P2007−239772)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】