説明

エポキシ系樹脂組成物及びそれを用いた半導体装置

【課題】難燃剤として金属水酸化物を含有するエポキシ系樹脂組成物を半導体素子等の封止材として用いた場合において、耐酸性試験において発生する白化を抑制し、レーザーマーキングの視認性を鮮明にすることができるエポキシ系樹脂組成物及びこれにより封止された半導体装置を提供することを課題とする。
【解決手段】エポキシ系樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、金属水酸化物及びアジン系染料を含有することを特徴とするエポキシ系樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体素子の封止に好適に用いられる難燃性を有するエポキシ系樹脂組成物及びそれにより封止された半導体装置に関し、さらに詳しくは難燃剤として金属水酸化物を含有するエポキシ系樹脂組成物を半導体装置などの封止材として用いた場合に酸性条件下で発生する白化を抑制することができるエポキシ系樹脂組成物及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ系樹脂組成物は、エポキシ系樹脂、硬化剤、硬化促進剤、及び溶融シリカや結晶シリカ等の無機充填材等を主成分とし、これに難燃剤を配合して調製されている。そして、この難燃剤としては従来から臭素化合物などのハロゲン化合物や酸化アンチモンなどのアンチモン化合物が主として使用されているが、これらのハロゲン化合物やアンチモン化合物は環境負荷が大きいため、現在環境負荷の少ない難燃剤への置き換えが進められている。
【0003】
前記ハロゲン化合物等の代替としては、以下の特許文献1及び特許文献2には水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が提案されている。
【特許文献1】特開2003−064185号公報
【特許文献2】特開2002−037978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、難燃剤として金属水酸化物、特に水酸化マグネシウムを含有するエポキシ系樹脂組成物を半導体素子等の封止材(パッケージ)として用いると、信頼性試験である耐酸性試験の際にパッケージに白化が生じ易いという問題がある。詳しくは、半導体素子等の封止後においては、通常、パッケージの信頼性を確認するために酸性水に対する耐薬品性試験(耐酸性試験)が行われるが、この試験において樹脂組成物中に配合された金属水酸化物から金属イオンが溶出し、パッケージに白化が発生し外観を損ねるという問題があった。また、このような白化は、レーザーマーキングの視認性を不鮮明にするという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題を解決すべくなされたものであり、難燃剤として金属水酸化物を含有するエポキシ系樹脂組成物を半導体素子等のパッケージに用いた場合において、耐酸性試験において発生する白化を抑制し、レーザーマーキングの視認性を鮮明にすることができるエポキシ系樹脂組成物及びこれにより封止された半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1はエポキシ系樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、金属水酸化物及びアジン系染料を含有することを特徴とするエポキシ系樹脂組成物の発明である。本発明のエポキシ系樹脂組成物を用いて封止された半導体装置等のパッケージは、難燃剤として金属水酸化物を用いた場合に発生する耐酸性試験時の白化の発生を抑制することができ、外観に優れたものである。また、このようなパッケージ表面にレーザーマーキングをした場合にはレーザーマーキングの視認性を鮮明にすることができる。
【0007】
また、請求項2は前記エポキシ系樹脂組成物全体に対する前記アジン系染料の含有割合が0.001〜10質量%である請求項1に記載のエポキシ系樹脂組成物である。アジン系染料の含有割合が前記範囲である場合には白化を充分に抑制することができる。
【0008】
また、請求項3は前記金属水酸化物がその表面にアルミニウム化合物が被着された金属水酸化物である請求項1又は請求項2に記載のエポキシ系樹脂組成物である。このような金属水酸化物を用いることにより、白化の原因と考えられる金属イオンの金属水酸化物からの溶出を抑制することができる。
【0009】
また、請求項4は前記エポキシ系樹脂組成物全体に対する前記無機充填材と金属水酸化物との合計の含有割合が80〜92質量%である請求項1〜3の何れか1項に記載のエポキシ系樹脂組成物である。前記無機充填材と金属水酸化物との合計の含有割合が前記範囲である場合には難燃性と流動性のバランスに優れたものになる。
【0010】
請求項5は、請求項1〜4の何れか1項に記載のエポキシ系樹脂組成物で封止された半導体装置である。このような半導体装置は、封止後の耐酸性試験においても白化が抑制されるので外観が優れており、また、レーザーマーキングの視認性に優れたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、金属水酸化物を含有するエポキシ系樹脂組成物を半導体素子等の封止材として用いた場合に、耐酸性試験において発生する白化を抑制することができ、外観の優れた半導体装置を得ることができる。また、白化を抑制することにより、レーザーマーキングの視認性を鮮明にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を具体的に説明する。
【0013】
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、エポキシ系樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、金属水酸化物及びアジン系染料を含有することを特徴とするものである。
【0014】
本発明に用いられるエポキシ系樹脂としては、半導体封止用に使用されるものであれば特に限定なく用いることができる。具体的には、例えばo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ブロム含有型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。これらの中では、特に、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂は成形性に優れている点から好ましく用いられる。
【0015】
また本発明に用いられる硬化剤としては、エポキシ系樹脂の硬化剤として用いられるものであれば特に限定なく用いることができる。具体的には、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、各種の多価フェノール樹脂などのフェノール系樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中ではフェノールノボラック樹脂とフェノールアラルキル樹脂との組み合わせは成形性、難燃性に優れている点から好ましく用いられる。
【0016】
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、さらに、硬化反応を促進させるために硬化促進剤を含有する。硬化促進剤としては、特に制限されるものではないが、具体的には、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機ホスフィン類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明においてエポキシ系樹脂組成物全体に対するエポキシ系樹脂と硬化剤との合計の含有割合は8〜40質量%、さらには8〜20質量%程度であることが好ましい。前記含有割合が少なすぎる場合にはエポキシ樹脂組成物の流動性が低下する傾向があり、多すぎる場合には線膨張係数が大きくなりすぎる傾向がある。
【0018】
また、硬化剤の含有割合は適宜調整されるが、エポキシ系樹脂に対して、硬化剤の化学量論上の当量比が0.5〜1.5、特に0.8〜1.2の範囲となるようにすることが好ましい。
【0019】
さらに、硬化促進剤の含有割合も適宜調整されるが、エポキシ系樹脂と硬化剤の合計量に対して、0.1〜5質量%程度であることが好ましい。
【0020】
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、無機充填材を含有する。
【0021】
前記無機充填材の具体例としては、例えば、非晶質シリカ、結晶シリカ、合成シリカ等のシリカや、アルミナ、ガラス、ミルドフアイバーガラス、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、カオリン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の従来から公知の無機充填材が挙げられる。これらの中では、非晶質シリカ、結晶シリカ、合成シリカ等のシリカ類や、球状アルミナが好ましい。
【0022】
本発明のエポキシ系樹脂組成物は、さらに、環境負荷が小さい難燃剤成分として金属水酸化物を含有する。
【0023】
前記金属水酸化物としては、難燃剤として従来から使用されている金属水酸化物、具体的には、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化チタン等が挙げられる。これらの中では水酸化マグネシウムが熱安定性に優れている点から好ましい。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
なお、前記金属水酸化物としては、その表面にアルミニウム化合物が被着された金属水酸化物が、酸性条件下での白化を抑制し、レーザーマーキングを鮮明にすることができる点から特に好ましい。すなわち、金属水酸化物の金属イオンが耐酸性試験において酸性水に接触することによって溶出するため、パッケージに白化が発生しやすい。表面にアルミニウム化合物が被着された金属水酸化物は、このような金属イオンの溶出を抑制することができ、耐酸性試験における白化を抑制することができる。
【0025】
前記金属水酸化物の表面に被着されるアルミニウム化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどの水可溶性塩、およびアルミン酸ナトリウムなどの水可溶性アルミン酸塩あるいは有機アルミニウム化合物などが好適なものとして挙げられ、これらの中でも、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0026】
また、本発明における金属水酸化物は、前記アルミニウム化合物に加えてさらに珪素化合物を被着することにより、さらに金属イオンの溶出を低減することができ、白化を抑制することができる。
【0027】
このような、珪素化合物としては、コロイダルシリカ、エチルシリケート等のシリカ前駆体、オルト珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、種々の組成の水ガラスなどの水溶性珪酸塩などが好適なものとして挙げられ、これらの中でもコロイダルシリカ、珪酸ナトリウム及びエチルシリケート等のシリカ前駆体が好ましい。上記アルミニウム化合物及び珪素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせえもよく、さらに、アルミノシリケートなどの反応物を用いてもよい。
【0028】
なお、前記アルミニウム化合物、珪素化合物の金属水酸化物の表面への被着は、物理的、化学的な被着のいずれであっても良く、表面処理によりこれらの化合物が付着あるいは吸着していれば足りる。
【0029】
前記アルミニウム化合物の処理量としては、金属水酸化物に対して酸化物(Al23)換算で、0.05〜5質量%、好ましくは、1〜4質量%である。また、珪素化合物の処理量としては、金属水酸化物に対して酸化物(SiO2)換算で、0〜5質量%であり、好ましくは、1〜4質量%である。アルミニウム化合物または珪素化合物の処理量を前記範囲にすることにより、さらに耐酸性試験における白化を抑制することができる。
【0030】
また、アルミニウム化合物あるいは珪素化合物の表面処理の合計量としては、金属水酸化物に対して、各酸化物換算で、(Al23+SiO2)を、0.05〜8質量%とすることが好ましい。なお、アルミニウム化合物及び珪素化合物を併用する場合、各処理量の割合は特に制限されず、被着する各化合物の種類に応じて適宜選択できるが、好ましくは各酸化物換算で等量である。
【0031】
また、水酸化マグネシウムを用いる場合、合成水酸化マグネシウムと天然水酸化マグネシウムがあるが、天然物を用いることが好ましい。天然水酸化マグネシウムは、例えば、水酸化マグネシウム(ブルーサイト鉱石)を粉砕して得ることができる。天然物の水酸化マグネシウムは、合成水酸化マグネシウムと比べて、白化の発生が抑制できることも本発明者らは見出している。この理由は明らかではないが、酸性水との接触による白化は水酸
化マグネシウムが炭酸マグネシウムに変化するために生じるものと考えられており、一方、天然水酸化マグネシウムの方が合成水酸化マグネシウムよりも比表面積が小さく、このため天然水酸化マグネシウムの方が酸等と反応しうる面積が小さくなって、炭酸マグネシウムの生成が抑制され、白化が抑制されるものと考えられる。
【0032】
天然水酸化マグネシウムは、合成水酸化マグネシウムのように均一な六角形状や、扁平形状でなく、一定の形状をしていないため、その平均粒径が30μm以下のものを用いることが好ましく、より好ましくは15μm以下である。このような粒径の天然水酸化マグネシウムを用いることにより、樹脂成分との相溶性が高まり、さらに白化の発生が抑制されるという点でも好ましい。粒径の下限は特に限定されないが、成形性を考慮すれば、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上である。
【0033】
前記金属水酸化物をアルミニウム化合物、あるいはこれと珪素化合物で被着処理する方法としては、気相、液相いずれでも可能であるが、製造を考慮すれば液相処理が容易である。例えば、水酸化マグネシウムでは、これを水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液に混合し、180〜200℃で、5〜15時間水熱処理した後、水で洗浄して水酸化マグネシウム溶液を調整する。この溶液に、上記のようなアルミニウム化合物、あるいはアルミニウム化合物と珪素化合物の混合水溶液を常温で添加して被着処理した後、洗浄し、ろ過、乾燥、粉砕して、アルミニウム化合物、珪素化合物が被着した水酸化マグネシウムを得ることができる。なお、アルミニウム化合物、珪素化合物を併用する場合、いずれかを先に投入して処理することも可能であるが、均一な被着を行うためにも、混合液で添加することが好ましい。
【0034】
また、本発明の金属水酸化物は、さらにシランカップリング剤で処理されていることが好ましい。このような表面処理剤により、エポキシ系樹脂との相溶性を向上し、白化をさらに抑制できる。シランカップリング剤としては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのグリシドキシシラン、あるいはアミノシランなどを用いることができる。特に、前述の天然水酸化マグネシウムは、その形状から樹脂と均一に混合することに困難な場合があるが、上記のようなシランカップリング剤による表面処理が施された天然水酸化マグネシウムを用いると、水酸化マグネシウムと樹脂との相溶性が高くなり、組成物中に水酸化マグネシウムを均一に分散させることができるものであり、このためにパッケージ表面に露出する水酸化マグネシウムの表面積が低減されることからパッケージの白化をさらに低減することができる点から好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物における金属水酸化物の含有割合は、半導体装置のパッケージに所望の難燃性を付与することができるように適宜の量に調整することができるが、組成物全体に対して、1〜30質量%、さらには5〜20質量%の範囲であることが好ましい。前記含有割合の場合にはエポキシ樹脂組成物の流動性を維持しながら、高い難燃性を維持することができる。
【0036】
また、樹脂組成物全体に対する前記無機充填材と金属水酸化物との合計の含有割合としては60〜92質量%、さらには80〜92質量%程度であることが好ましい。前記無機充填材と金属水酸化物との合計の含有割合が前記範囲である場合には難燃性と流動性のバランスに優れたものになる。
【0037】
本発明の樹脂組成物には、さらに、アジン系染料が含有される。本発明においては、このようなアジン系染料が含有されることにより金属水酸化物を含有するエポキシ系樹脂組成物を用いて封止して得られる半導体装置等の耐酸性試験で発生する酸性条件下での白化を抑制し、レーザーマーキングの視認性を鮮明にすることができる。なお、前記白化抑制のメカニズムは、染料により白化を視認しにくくする作用と、白化を引き起こす金属イオンの溶出を抑制する作用によるのではないかと考えている。
【0038】
本発明に用いられるアジン系染料としては、プラスチック、皮革等の黒着色剤として知られたアジン系染料が特に限定無く用いられる。その具体例としては、例えば、ソルベントブラック7、NigrosineBase EXBP、NubianComplex BlackG−02、Nubian Black PA−0800、NubianBlack PA−0801、NubianBlack PA−0850、NubianBlack PA−2800、NubianBlack PA−2801、NubianBlack PA−9800、NubianBlack PA−9801、NubianBlack PA−9811,NubianBlack PA−9802、NubianBlack PA−9803、NubianBlack EP−3、NigrosineBaseEE、NigrosineBase EX、Special BlackEB、NigrosineBase SA、NigrosineBase SAP、およびNigrosineBaseNB、Orient Spirit BlackSB(いずれもオリエント化学工業(株)製)、SpiritBlack No.850(住友化学(株)製)、NigrosineBase LK(BASF社製)、NYB27620B(山陽化工(株)製)等の商品名で市販されているものを使用することができる。
【0039】
これらの中では、特にソルベントブラック7等の油溶性のニグロシンが樹脂成分との相溶性に優れている点から好ましく用いられる。
【0040】
前記アジン系染料のエポキシ系樹脂組成物全体に対する含有割合は0.001〜10質量%、さらには0.005〜5質量%であることが好ましい。アジン系染料の含有割合が前記範囲である場合には流動性を維持しながら白化を充分に抑制することができる。
【0041】
また、本発明のエポキシ系樹脂組成物中には、必要に応じて、離型剤、着色剤、シリコーン可とう剤などの種々の添加剤を適宜配合してもよい。例えばシリコーン可とう剤としては、エポキシ/ポリエーテル基含有ポリシロキサンを挙げることができる。
【0042】
前記のような各成分から本発明のエポキシ系樹脂組成物を調整するに当たっては、一般的な製法を適宜採用することができる。例えば、各成分をミキサー、ブレンダーなどで均一に混合した後に、ニーダーやロール等で加熱混練して樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
このようにして得られた本発明のエポキシ系樹脂組成物を用いて半導体を封止するにあたっても、一般的な手法を適宜採用することができる。具体的には、半導体装置を製造する一例を挙げると、先ずリードフレーム上に半導体素子をダイボンディングした後、Au等の細線ワイヤを用いたワイヤボンディング法などでリードフレームと半導体素子を結線する。次に、上記の半導体封止用樹脂組成物を用いて、半導体装置と結線部分とを樹脂封止する。ここで、樹脂封止を行うにあたっては、トランスファー成形等の方法が用いられる。
【0044】
このようにして得られる、本発明のエポキシ系樹脂組成物で封止された半導体装置は、ハロゲン化合物やアンチモン化合物を難燃剤として用いずに金属水酸化物を難燃剤として用いている点から環境負荷が低く、また、金属水酸化物を用いる場合に発生する耐酸試験におけるパッケージの白化が抑制された半導体装置である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0046】
本実施例で用いた原材料の詳細を以下にまとめて示す。
(エポキシ系樹脂)
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:住友化学(株)製、「ESCN195XL」、エポキシ当量195
(硬化剤)
フェノールノボラック樹脂:荒川化学(株)製、「タマノール752」、水酸基当量104
フェノールアラルキル樹脂:住金加工(株)製、「HE・100C−15」
(硬化促進剤)
トリフェニルホスフィン:北興化学工業(株)製「TPP」
(無機充填材)
溶融シリカ:電気化学工業(株)製、品番「FB820」と、(株)アドマテックス製、「SO−25R」とを、重量比率が9:1となるように混合した混合物
(金属水酸化物)
水酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製、「キスマ8」
アルミニウム被着水酸化マグネシウム:以下の製造方法により得られたもの。
合成水酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、「キスマ8」、平均粒径1.7μm)100質量部、水酸化ナトリウム300質量部を水1500質量部に撹拌混合して溶液を調整した。そして、オートクレーブを用い、この溶液を撹拌しながら200℃、5時間水熱処理した後、大量の水で十分洗浄し、水中に投入して混合液を作製した。混合液を常温で撹拌しながら、アルミン酸ナトリウムを添加した。アルミン酸ナトリウムの添加量は、Al23に換算して水酸化マグネシウムに対し3質量部とした。そして、1時間撹拌後、ろ過、水洗、乾燥し、粉砕してアルミニウム化合物被着水酸化マグネシウムを得た。
(アジン系染料)
オリエント化学工業(株)製のソルベントBLACK7
(その他成分)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:信越化学工業(株)製、品番「KBM403」
エポキシ/ポリエーテル基含有ポリシロキサン:東レ・ダウコーニング(株)製、品番「SF8421」
カーボンブラック:三菱化学(株)製、品番「40B」
カルナバワックス:大日化学工業(株)製、品番「Fl−100」
【0047】
<実施例1〜8及び比較例1、2>
下記表1に示す組成となるように、各種成分を配合した。そして、前記配合物をブレンダーで30分間混合して均一化した後、80℃に加熱したニーダーで溶融混練し、得られた組成物を粉砕し、粒状のエポキシ樹脂組成物を得た。
【0048】
以上のようにして作製した各エポキシ樹脂組成物を用い、難燃性、流動性、ゲルタイムを以下の評価方法に従って評価した。
[難燃性]
127×12.7で厚み3.2mm及び0.4mmの2種類の試験片それぞれを用いてUL94の垂直燃焼試験方法に準じて各試験片の難燃性を評価した。
[流動性]
スパイラルフロー評価用金型を用い、トランスファー成型で金型温度170℃、7MPaの条件で成形を行ない、樹脂流動長を測定した。
[ゲルタイム]
キュラストメーター(JSRキュラストメーターIII PS型)を用い、170℃でのゲルタイム(トルクがピークに達した時点までの時間)を求めた。
【0049】
また、各エポキシ樹脂組成物を用い、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件でトランスファー成形を行い、評価用のパッケージ(16DIP)を作製して、白化及びレーザーマーク視認性を以下の評価方法に従って評価した。
[白化試験]
得られたパッケージを、20質量%の硝酸水溶液中に1分間浸漬した後の外観を観察し、初期のパッケージの色(黒色)を10、シリカの色(白色)を0として、11段階で評価した。
[レーザーマーク視認性]
前記白化試験を行なったパッケージ表面に日本電気(株)製のレーザーマーク装置 SL475Kを用いてレーザーマーキングを行ない、レーザーマークの視認性を初期のパッケージの色(黒色)を10、シリカの色(白色)を0として、11段階で評価した。
【0050】
前記各評価の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果より、本発明の樹脂組成物を評価した実施例1〜8においては、白化が少なく、レーザーマークの視認性にも優れていることがわかる。一方、比較例においては白化試験及びレーザーマーク視認性が非常に悪かった。
【0053】
また、実施例においては、表面にアルミニウム化合物を被着した水酸化マグネシウムを用いた実施例4は前記被着処理していない水酸化マグネシウムを用いた実施例1に比べて白化試験及びレーザーマーク視認性の結果が大幅に高くなっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系樹脂、硬化剤、硬化促進剤、無機充填材、金属水酸化物及びアジン系染料を含有することを特徴とするエポキシ系樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ系樹脂組成物全体に対する前記アジン系染料の含有割合が0.001〜10質量%である請求項1に記載のエポキシ系樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属水酸化物がその表面にアルミニウム化合物が被着された金属水酸化物である請求項1又は請求項2に記載のエポキシ系樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ系樹脂組成物全体に対する前記無機充填材と金属水酸化物との合計の含有割合が80〜92質量%である請求項1〜3の何れか1項に記載のエポキシ系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のエポキシ系樹脂組成物で封止された半導体装置。

【公開番号】特開2007−119558(P2007−119558A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311967(P2005−311967)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】