説明

エンジンの回転制御装置、船舶

【課題】エンジン側ECUに過大な負荷がかかる事態を防ぎ、微速航行時のエンジンの回転数の調整が正確に行えるエンジンの回転制御装置を提供する。
【解決手段】船外機を遠隔操作するため、エンジン側ECU21に加え、リモコン操作装置にリモコン側ECU17を設け、リモコン側ECU17とエンジン側ECU17とは定期的に制御信号を交信する。微速航行時のエンジン回転数を変化させる微速操作部281をゲージ28に設け、エンジン回転数を変えるための命令により微速操作部281が変更命令信号を出力し、変更命令信号に基づき信号出力部171が生成した回転数変更信号は、定期的な制御信号としてエンジン側ECU21に送信される。リモコン側ECU17のリセット部172は、リセット要求部173の要求があると回転数変更信号を初期状態にリセットする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの回転状態を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターボート等の小型船舶においては、ステアリング装置やシフト装置等と船外機等に内蔵されたエンジンを機構的に接続していたが、通信技術を応用して船舶の操船時の操作性を向上させるため、特許文献1、2等に記載された通信技術を応用することが考えられている。具体的には、エンジンを遠隔操作するためのリモートコントロール部を設け、このリモートコントロール部に設けたハンドル装置やギアボックス等をワイヤハーネス等の信号線によってエンジン側に設けた「エンジン側コントロールユニット」としてのエンジン側ECU(Engine Control Unit)に接続し、リモートコントロール部からの遠隔操作によってエンジンの回転数等を制御するエンジンの回転制御装置を設けた船舶が知られている。このような船舶において、所謂トローリングを行う際、魚のいるポイントに釣り糸の先が位置するように船舶を航行させ続ける必要があるため、シフトが前進(又は後進)ギアに入った状態と中立(ニュートラル)ギアに入った状態とを短時間ずつ繰り返しながら船舶をわずかずつ前進(又は後進)させる航行(本明細書においてこの航行のことを「微速航行」と称する。)を行う。微速航行をシフトレバーの操作で行おうとすると、操船者は数秒〜数十秒程度の短時間周期で操船席のリモコンシフトレバーを前進(又は後進)位置と中立(ニュートラル)位置とに切り替える操作を繰り返すことになり、操船者の操作が煩雑になるため、予め前進(又は後進)ギアの入る時間と中立ギアに入る時間をプログラム化し、エンジン等の所定の計測値を表示するゲージに操作ボタンを設け、この操作ボタンの操作で所望のプログラムを呼び出してエンジン側ECUに内蔵されたマイコン等の制御によって所望の微速航行を行うことが考えられる。
【特許文献1】特公平7−22288号公報
【特許文献2】特許第3979049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、エンジン側ECUの処理すべき情報量は非常に多いので、リモートコントロール部からの遠隔操作によってエンジンの回転数等を制御する場合、リモートコントロール部側にも「リモコン側コントロールユニット」としてのリモコン側ECUを設け、このリモコン側ECUにおいてリモートコントロール部に入力された信号を処理し、リモコン側ECUとエンジン側ECUとで定期的に信号を交信することでリモコン側ECUが処理した信号をエンジン側ECUに供給することでエンジン側ECUの負荷分散を図ることが考えられる。しかし、このような場合、操作ボタンが押されたことを伝達する信号がゲージからリモコン側ECUに供給されるタイミングとリモコン側ECUとエンジン側ECUとの間で行われる定期的な交信のタイミングとが一致しない場合や、操作ボタンが押されたことを伝達する信号の持続時間がリモコン側ECUとエンジン側ECUとにおける定期的に信号交信の間隔に比して極端に長かったり短かったりする場合などが生じる可能性が高い。そのため、操作ボタンが押されたにも関わらずリモコン側ECUからエンジン側ECUにその旨の信号が伝達されない事態や、操作ボタンが一回だけ押されたにも関わらずリモコン側ECUからエンジン側ECUには操作ボタンが複数回連続して押されたものとして信号が伝達されるような自体が想定される。このような事態が生じた場合、エンジンの回転数の調節を正確に行うことができなくなる。
【0004】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、エンジン側ECUに過大な負荷がかかる事態を防止しつつ、微速航行時のエンジンの回転数の調整を正確に行うことができるエンジンの回転制御装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、微速航行時の速度を操作するために入力された命令に基づいてエンジンの回転数を変化させる信号としての変更命令信号を出力する微速操作部と、前記エンジンを遠隔操作にて操作するリモートコントロール部に設けられ、前記変更命令信号の受信により前記エンジンの回転数を変化させる信号としての回転数変更信号を出力するリモコン側コントロールユニットと、前記エンジンに設けられて前記リモコン側コントロールユニットと一定間隔で定期的に制御信号を交信し前記回転数変更信号に基づいて前記エンジンの回転数を変化させるエンジン側コントロールユニットとを備えたエンジンの回転制御装置であって、前記リモコン側コントロールユニットには、前記回転数変更信号を出力させる信号出力手段と、該信号出力手段における前記回転数変更信号の出力状態を初期状態にリセットするリセット手段とを備え、前記リセット手段を作動させるリセット要求手段を設けたことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記エンジン側コントロールユニットは、前記回転数変更信号の起ち上がり又は起ち下がりのうち何れかを検知すると前記エンジンの回転数を変化させる制御を行う回転数操作手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの回転制御装置。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記微速操作部は、前記エンジン等の所定の計測値を表示するゲージに設けられたことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の構成に加え、前記リセット要求手段は、前記ゲージ、前記リモコン側コントロールユニット、前記エンジン側コントロールユニットの何れかに設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記リセット要求手段には前記回転数変更信号の出力時間を監視するタイマが設けられ、前記リセット要求手段は前記タイマの計時により前記回転数変更信号の出力時間が前記一定時間経過した時に前記リセットの要求を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一つに記載の構成に加え、前記エンジン側コントロールユニットには前記回転数変更信号を受信したことを連絡する応答信号を発信する応答手段を設け、前記リセット要求手段は前記応答信号を受信した後に前記リセット手段を作動させることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、船舶であって、請求項1乃至6の何れか一つに記載のエンジンの回転制御装置が設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、エンジンを遠隔操作にて操作するリモートコントロール部に、微速操作部から供給されたエンジンの回転数を変化させる信号としての変更命令信号の受信によりエンジンの回転数を変化させる信号としての回転数変更信号を出力するリモコン側コントロールユニットを設け、リモコン側コントロールユニットとエンジン側コントロールユニットとの間で一定間隔で定期的に制御信号を交信してエンジン側コントロールユニットが回転数変更信号に基づいてエンジンの回転数を変化させることにより、エンジンの回転数等を遠隔操作する構成において、微速航行時の信号処理をまずリモコン側コントロールユニット側で行うことでエンジン側コントロールユニットの負荷分散を図ることができる。また、回転数変更信号を出力させる信号出力手段と、信号出力手段における回転数変更信号の出力状態を初期状態にリセットするリセット手段とをリモコン側コントロールユニットに備え、さらに、リセット手段を作動させるリセット要求手段を設けたことにより、回転数変更信号の出力及びリセットをリモコン側コントロールユニットとエンジン側コントロールユニットとの定期的な制御信号の交信のタイミングに合わせて適宜調節することが可能になる。これにより、エンジン側ECUに過大な負荷がかかる事態を防止しつつ、微速航行時のエンジンの回転数の調整を正確に行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、エンジン側コントロールユニットの回転数操作手段において、回転数変更信号の起ち上がり又は起ち下がりのうち何れかを検知するとエンジンの回転数を変化させる制御を行うことにより、回転数操作手段は、リモコン側コントロールユニットから供給される回転数変更信号が変化したタイミングでのみエンジンの回転数を変化させる制御を行う。従って、一の変更命令信号の出力時間がリモコン側コントロールユニットとエンジン側コントロールユニットとの定期的な制御信号の交信間隔の複数間隔にまたがるような場合であっても、回転数操作手段が一の変更命令信号を複数の変更命令信号と認識するような事態は生じない。これにより、微速航行時のエンジンの回転数の調整を一層正確に行うことができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、微速操作部は、エンジン等の所定の計測値を表示するゲージに設けられたことにより、当該エンジンの回転制御装置が設けられた輸送機関の操縦者がエンジンの計測値等を確認しながら微速航行時の速度を操作することが可能になる。これにより、微速航行時のエンジンの回転数の調整を一層正確に行うことができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、ゲージ、リモコン側コントロールユニット、エンジン側コントロールユニットの何れかにリセット要求手段を設けることにより、リセット手段と容易に交信できる構成中にリセット要求手段を設け、作動させるべき時点においてリセット手段を確実に作動させることができる。これにより、微速航行時のエンジンの回転数の調整を一層正確に行うことができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、タイマによって回転数変更信号の出力時間を監視し、リセット要求手段はタイマの計時により回転数変更信号の出力時間が一定時間経過した時にリセットの要求を行うことにより、リモコン側コントロールユニットとエンジン側コントロールユニットとの定期的に制御信号の交信間隔よりもタイマの計時時間を長くするような制御をおこなうことで、微速操作部に命令が入力されたにも関わらずエンジンの回転数が変化しない事態を防止できる。これにより、微速航行時のエンジンの回転数の調整を一層正確に行うことができる。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、エンジン側コントロールユニットに設けられた応答手段が回転数変更信号を受信したことを連絡する応答信号を発信し、リセット要求手段は応答信号を受信した後にリセット手段を作動させることにより、エンジン側コントロールユニットが回転数変更信号を受信したことを回転数変更信号のリセットの条件とすることができる。これにより、微速操作部に命令が入力されたにも関わらずエンジンの回転数が変化しない事態を防止でき、微速航行時のエンジンの回転数の調整を一層正確に行うことができる。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、船舶において、エンジン側ECUに過大な負荷がかかる事態を防止しつつ、微速航行時のエンジンの回転数の調整を正確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1乃至図7には、この発明の実施の形態を示す。
【0021】
まず構成を説明すると、この実施の形態の船舶は、図1及び図2に示すように、船体10の船尾に「船舶推進装置」としての船外機11が取り付けられ、この船外機11が船体10の操船席に配置された「リモートコントロール部」としてのリモコン操作装置12,キースイッチ装置13及びハンドル装置14等により制御されて操船されるようになっている。
【0022】
そのリモコン操作装置12は、リモコン本体16内に、「リモコン側コントロールユニット」としてのリモコン側ECU17が内蔵されると共に、スロットル、シフト操作を行うリモコンシフトレバー18が設けられ、そのリモコンシフトレバー18の操作により、前進、中立、後進の遠隔操作が行われるようになっており、図5に示すように、リモコンシフトレバー18が直立した中央位置が、中立位置(N)であり、前側に所定角度倒した位置が前進位置(F)であり、後側に所定角度倒した位置が後進位置(R)である。このリモコンシフトレバー18の操作速度、角度の操作情報は、ポテンショメータ(図示せず)で検出されてリモコン側ECU17に送信されるようになっている。
【0023】
このリモコン側ECU17からの信号が、船外機11の「エンジン側コントロールユニット」としてのエンジン側ECU21に送信され、このエンジン側ECU21では、リモコンシフトレバー18の操作量に基づき、シフトアクチュエータ(図示せず)のシフトモータ(図示せず)の駆動を制御し、このシフトアクチュエータ(図示せず)により、シフト切替装置(図示せず)が作動されて、前進、中立、後進のシフト切替が行われるようになっている。
【0024】
また、そのリモコン操作装置12のリモコン側ECU17には、図2に示すように、前記キースイッチ装置13が接続されている。このキースイッチ装置13には、図示していないが、始動スイッチ及びメイン/停止スイッチが設けられている。
【0025】
さらに、ハンドル装置14には、図示省略のハンドル側ECUが内蔵されると共に、操舵を行うハンドル27が設けられ、このハンドル位置が位置センサにより検出されるようになっており、この位置センサが信号回路を介してハンドル側ECUに接続されている。
【0026】
そして、このハンドル装置14のハンドル側ECUが、リモコン操作装置12のエンジン側ECU21に信号線としてのDBWCANケーブルを介して接続されている。ここで、DBWとは、Drive-By-Wire、機械的な接続で行っていたものを電気的接続で行う操縦装置を言い、又、CANとは、Controller Area Networkの略である。
【0027】
なお、図2中符号28はゲージである。このゲージ28には各種メータ類やLED等の表示装置が設けられてエンジン30等の所定の計測値を表示すると共に、図4の機能ブロック図に示す微速操作部281が設けられている。この微速操作部281には操船者の手動操作によって命令を入力する手段、この実施の形態では、微速操作部281としてゲージ28の表面側にプッシュ式のボタン(図示せず)が設けられ、このボタンがプッシュされるとエンジン30の回転数を変化させる信号としての変更命令信号を出力する。この実施の形態では、ボタンをプッシュするたびに、エンジン側ECU21のROM(図示せず)に記憶された微速航行時の制御プログラムの選択が切り替えられる態様で変更命令信号が出力される(具体的には後述する)。
【0028】
一方、船外機11には、上部にエンジン30が配置され、このエンジン30の出力は、ドライブシャフト31、シフト装置32を介してプロペラ33が固定されたプロペラシャフト34に伝達されるように構成されている。
【0029】
このシフト装置32の前進、中立、後進のシフト切替が前記シフト切替装置(図示せず)により行われ、このシフト切替装置(図示せず)は、前記シフトアクチュエータ(図示せず)により駆動されるようになっている。
【0030】
図3は、リモコン側ECU17のハードウェア構成図である。同図に示す通り、リモコン側ECU17は、サブマイコン100、メインマイコン200という2つのマイコンを備えており、処理の内容に応じて分散処理を行う機構となっている。サブマイコン100は、プログラムやデータの演算処理を行う少なくとも一のCPU(Central Processing Unit)101、このCPU101の作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)102、必要なプログラムやデータが記憶されるROM(Read Only Memory)103、ゲージ28やメインマイコン200との通信に必要な各種の処理を行うインターフェース(I/F)104a,104bを備えている。メインマイコン200にも、メインマイコンと同様の構成及び機能を有するCPU201、RAM202、ROM203、インターフェース(I/F)204a,204bを備えている。
【0031】
このリモコン側ECU17には、図示せぬハードウェアロジックやROM103,203に記憶されたプログラムの演算処理の結果として、図4の機能ブロック図に示す機能手段、即ち、「信号出力手段」としての信号出力部171、「リセット手段」としてのリセット部172、「リセット要求手段」としてのリセット要求部173、リセット要求部173に設けられたタイマ174、制御信号交信部175が設けられる。
【0032】
信号出力部171は、ゲージ28の微速操作部281からの変更命令信号を受けてエンジン30の回転数を変化させる信号としての回転数変更信号を出力する。この回転数変更信号は、図6にイメージを示すような2値の値を有するものとして形成される(「受信した回転数変更信号の値」のチャート参照)。図6においては、通常時は信号値がローレベル(値が0)、出力される時は信号値がハイレベル(値が1)となるように形成されている。回転数変更信号は、複数の情報を含有させるために2値よりも多い値で形成してもよい(例えば回転数変更信号を2ビットの信号で形成し、ローレベルを0、ハイレベルを1,2,3とする構成が考えられる)が、後述する、回転数操作部における起ち上がりのタイミングに基づくリセット処理を実現するためには、ローレベルからハイレベルへの起ち上がり、ハイレベルからローレベルへの起ち下がりのみが認められる(例えば前述の例においては、0→1,0→2,0→3等は認めるが、1→2,1→3等は認めない。)構成とすることが望ましい。
【0033】
リセット部172は、回転数変更信号の出力状態を初期状態、即ち信号出力部171が変更命令信号を受ける前の状態にリセットする。リセット要求部173は、リセット部172を作動させる(即ち回転数変更信号をリセットさせる)ために必要な処理を行う。タイマ174は計時機能を有し、信号出力部171からの回転数変更信号の出力時間を監視する機能を有する。制御信号交信部175は、エンジン側ECU21に設けられた制御信号交信部(後述)との間で一定間隔で定期的に制御信号を交信する。
【0034】
図示しないが、エンジン側ECU21も少なくとも一のCPU、RAM、ROM、インターフェースを有する。エンジン側ECU21は、リモコン側ECU17と同様に、図4の機能ブロック図に示す機能手段、即ち、「回転数操作手段」としての回転数操作部211、「応答手段」としての応答部212、制御信号交信部213が設けられる。
【0035】
回転数操作部211は、リモコン側ECU17から出力された回転数変更信号を受けて、エンジン30の回転数を変化させる制御を行う。この実施の形態においては、この変化させる制御は、回転数変更信号の起ち上がりが検知された際に行われる(具体的には後述する。)が、起ち下がりが検知された際に行うものとしてもよい。応答部212は回転数変更信号を受信したことをリモコン側ECU17に連絡するための応答信号を発信する。制御信号交信部213は、リモコン側ECU17との間で一定間隔で定期的に制御信号を交信する。
【0036】
図4に図示しないが、エンジン側ECU21のROMには、微速航行の複数のモードをテーブル化した制御プログラムが記憶されている。この制御プログラムは、具体的には、例えばモード1が前進ギア30秒とニュートラルギア10秒との繰返し、モード2が前進ギア25秒とニュートラルギア12秒との繰返し、・・・等、前進(又は後退)ギアの入る時間とニュートラルギアの入る時間の繰返し方をテーブル化したものが記憶されており、微速操作部281のプッシュの度に異なるモードの制御プログラムが選択されるようになっている状態が考えられる。なお、制御プログラムは、具体的な値をテーブル化したものではなく、前進(又は後退)ギアの入る時間とニュートラルギアの入る時間の繰返し方を算出するための数式プログラム等であってもよい。
【0037】
次に、この実施の形態の作用について説明する。
【0038】
図5は、この実施の形態における、リモコン側ECU17の処理の手順を示すフローチャートであり、図6はこの実施の形態におけるゲージ28、リモコン側ECU17、エンジン側ECU21の動作及び交信の状態を示すタイムチャートである。以下、同フローチャート及び同タイムチャートに基づいて処理手順を説明する。
【0039】
まず、操船者がゲージ28の微速操作部281のボタンをプッシュして命令を入力すると、命令の入力時間t1において、微速操作部281からは変更命令信号が出力される。この変更命令信号がリモコン側ECU17に供給されると(ステップS1の“Yes”)、リモコン側ECU17における変更命令信号の受信状態はローレベル(Lo)からハイレベル(Hi)に変わる。この変更命令信号の受信状態の変化を検知すると、信号出力部171は回転数変更信号を出力し、この回転数変更信号は、制御信号交信部175,213同士の定期的(ここでは100msごと)な制御信号の交信時間t2において、エンジン側ECU21に送信される(ステップS2)。このとき、エンジン側ECU21において受信される回転数変更信号の受信状態はローレベル(0)からハイレベル(1)に変わり、この変わる瞬間(t2)の信号受信状態は起ち上がりの状態となる。
【0040】
回転数操作部211はこの回転数変更信号の起ち上がりを検知すると、回転数変更信号を受信したものと認識してエンジン30の回転数を変化させる制御を行う。具体的には、エンジン側ECU21のROM(図示せず)に記憶された制御プログラムの中から当該回転数変更信号に該当する制御プログラムが選択され、この制御プログラムに基づいてエンジン30の回転制御を行う。
【0041】
そして、エンジン側ECU21において回転数変更信号の受信が確認された後の特定の時間t3において、応答部212が回転数変更信号を受信したことを連絡する応答信号を発信する。エンジン側ECU21が回転数変更信号を受信してから応答部212が応答信号を発信するまでの時間はエンジン側ECU21に予め設定されている。リモコン側ECU17は当該特定の時間t3においてこの応答信号を受信する。
【0042】
前述の通り、制御信号交信部175,213同士は定期的に制御信号を交信するので、リモコン側ECU17における変更命令信号の受信状態がハイレベルのままである、制御信号の交信時間t4においてもリモコン側ECU17からエンジン側ECU21に回転数変更信号が送信される。このとき、エンジン側ECU21における回転数変更信号の受信状態はハイレベル(1)の状態が持続していることになる。回転数操作部211はこの回転数変更信号のハイレベルが持続した状態を検知しても、回転数変更信号を受信したものとは認識しない。
【0043】
リモコン側ECU17が変更命令信号を受信した時間t1以降、タイマ174は回転数変更信号の出力時間の監視を行い、この出力時間がタイマ174に予め設定された一定時間経過した時間t5において、リセット要求部173は回転数変更信号のリセットの要求を行う。このリセットの要求があり、応答信号(時間t3参照)の受信が確認できたときは、リセット部172は信号出力部171における回転数変更信号の出力状態を初期状態にリセットする(ステップS3)。具体的には、変更命令信号の受信状態をハイレベル(Hi)からローレベル(Lo)に変える処理を行う。
【0044】
回転数変更信号の出力状態がリセットされた後の制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信時間t6においては、回転数変更信号がローレベル(0)の信号としてリモコン側ECU17からエンジン側ECU21に送信される。このとき、エンジン側ECU21において受信される回転数変更信号の受信状態はハイレベル(1)からローレベル(0)に変わり、この変わる瞬間(時間t6)の信号受信状態は起ち下がりの状態となる。回転数操作部211はこの起ち下がりの状態を検知しても、回転数変更信号を受信したものとは認識しない。
【0045】
なお、回転数変更信号がローレベル(0)の状態が持続している際の制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信時間t7においても、回転数操作部211は回転数変更信号を受信したものとは認識しない。
【0046】
以上の処理手順は、変更命令信号がリモコン側ECU17に供給されなければ(ステップS1の“No”)行われない。そして、ステップS1〜S3に示す手順はエンジン30の駆動が停止するまで繰返し行われる(ステップS4)。
【0047】
ここで、ステップS3におけるリセットの時間t5、即ちタイマ174において監視する時間の設定について考える。図7は、リモコン側ECU17における動作及び交信の状態を示すタイムチャートであり、変更命令信号の入力からリセットまでの一連の処理が示されている。同図においては、上のタイムチャートがリモコン側ECU17を形成するサブマイコン100の処理ルーチン、真ん中のタイムチャートがメインマイコン200の処理ルーチン、下のチャートが制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信をそれぞれ示しており、サブマイコン100の処理ルーチンのチャート、メインマイコン200の処理ルーチンのチャートにおいては、1目盛がルーチンの処理単位(5msec)を示している。
【0048】
図3に示す通り、ゲージ28の微速操作部281から(ハイレベル(Hi)の)変更命令信号がリモコン側ECU17に入力されると、この変更命令信号はインターフェース104aからサブマイコン100に入力される。図7に示す通り、サブマイコン100では、入力された変更命令信号がRAM102に読み込まれるのに1ルーチンを要する。サブマイコン100のRAM102における変更命令信号の読み込みが完了すると、図3に示す通り、当該変更命令信号はインターフェース104b、204bを介してサブマイコン100からメインマイコン200に送信される。図7に示す通り、メインマイコン200においても、RAM202に変更命令信号が読み込まれるのに1ルーチンを要する。メインマイコン200において変更命令信号のRAM202への読み込みが完了すると、メインマイコン200のCPU201はROM203に記憶されたプログラムに基づいて回転数変更信号を生成し、この回転数変更信号をインターフェース204aからエンジン側ECU21に送信する。
【0049】
一方、リセット要求部173によるリセット部172への作動要求があり、リセット部172が作動してリセット処理の命令が形成されると、図7に示す通り、サブマイコン100のRAM102においてリセット処理(具体的には、変更命令信号をハイレベル(Hi)からローレベル(Lo)に変更する処理を行う。)がRAM102に読み込まれるのに1ルーチンを要する。サブマイコン100においてリセット処理のRAM102への読み込みが完了すると、図3に示す通り、リセット処理の命令がサブマイコン100からメインマイコン200に送信され、図7に示す通り、メインマイコン200は1ルーチンを要してリセット処理をRAM202に読み込む。リセット処理のRAM202への読み込みが完了すると、回転数変更信号がハイレベル(1)からローレベル(0)にリセットされ、次の制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信時間において、回転数変更信号がローレベル(0)の信号としてリモコン側ECU17からエンジン側ECU21に送信される。
【0050】
つまり、この実施の形態においては、変更命令信号や回転数変更信号自体の持続時間に加えて、
(時間α)リモコン側ECU17が変更命令信号を受信してからサブマイコン100のRAM102が変更命令信号の読み込みを開始するまでの時間(1ルーチン未満)、
(時間β)サブマイコン100のRAM102において変更命令信号が読み込まれる時間(1ルーチン)
(時間γ)リセット処理の命令がサブマイコン100からメインマイコン200に送信され、メインマイコン200のRAM202が読み込みを開始するまでの時間(1ルーチン未満)
(時間Δ)メインマイコン200のRAM202においてリセット処理が読み込まれる時間(1ルーチン)
を考慮する必要がある。そして、単に変更命令信号の持続時間と制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信時間とを一致させてしまった場合、上記(時間α)〜(時間Δ)によるタイムラグのために、制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信によって回転数変更信号を正しくエンジン側ECU21に送信することができなくなって、操船者が微速操作部281のボタンをプッシュしたのにエンジン回転数が変化しないような事態が生じる恐れがある。即ち、リモコン側ECU17が変更命令信号を受信した時間t1からリセット要求部173に回転数変更信号のリセットの要求を行わせるまでの時間t5までが
・制御信号交信部175,213同士の定期的な制御信号の交信(100msec)+時間α(5msec未満)+時間β(5msec)+時間γ(5msec未満)+時間Δ(5msec)・・・(A)
以下であったとき、上述の事態が生じる恐れがある。
【0051】
このような事態が生ずるのを防ぐため、この実施の形態では、タイマ174に設定する、リモコン側ECU17が変更命令信号を受信した時間t1からリセット要求部173に回転数変更信号のリセットの要求を行わせるまでの時間t5までを、上記(A)を超える時間である120msec以上に設定する。これにより、操船者が微速操作部281のボタンをプッシュしたのにエンジン回転数が変化しないような事態を防止することができる。
【0052】
以上、この実施の形態においては、エンジン30を遠隔操作にて操作するリモコン操作装置12に、微速操作部281から供給された変更命令信号の受信により回転数変更信号を出力するリモコン側ECU17を設け、リモコン側ECU17の制御信号交信部175とエンジン側ECU21の制御信号交信部213との間で一定間隔で定期的に制御信号を交信してエンジン側ECU21の回転数操作部211がコントロールユニットが回転数変更信号に基づいてエンジン30の回転数を変化させることにより、エンジン30の回転数等を遠隔操作する構成において、微速航行時の信号処理をまずリモコン側ECU17側で行うことでエンジン側ECU21の負荷分散を図ることができる。また、回転数変更信号を出力させる信号出力部171と、信号出力部171における回転数変更信号の出力状態を初期状態にリセットするリセット部172とをリモコン側ECU17に備え、さらに、リセット部172を作動させるリセット要求部173を設けたことにより、回転数変更信号の出力及びリセットをリモコン側ECU17とエンジン側ECU21との定期的な制御信号の交信のタイミングに合わせて適宜調節することが可能になる。
【0053】
この実施の形態によれば、エンジン側ECU21の回転数操作部211において、回転数変更信号の起ち上がりを検知するとエンジン30の回転数を変化させる制御を行うことにより、回転数操作部211は、リモコン側ECU17から供給される回転数変更信号が変化したタイミングでのみエンジン30の回転数を変化させる制御を行う。従って、一の変更命令信号の出力時間がリモコン側ECU17とエンジン側ECU21との定期的な制御信号の交信間隔の複数間隔にまたがるような場合であっても、回転数操作部211が一の変更命令信号を複数の変更命令信号と認識するような事態は生じない。
【0054】
この実施の形態によれば、微速操作部281はエンジン30等の所定の計測値を表示するゲージ28に設けられたことにより、この実施の形態に係る船舶の操縦者(操船者)がエンジン30の計測値等を確認しながら微速航行時の速度を操作することが可能になる。
【0055】
この実施の形態によれば、リモコン側コントロールユニット17にリセット要求部173を設けることにより、リセット部172と容易に交信できる構成中にリセット要求部173を設け、作動させるべき時点においてリセット部172を確実に作動させることができる。
【0056】
この実施の形態によれば、タイマ174によって回転数変更信号の出力時間を監視し、リセット要求部173はタイマ174の計時により回転数変更信号の出力時間が一定時間経過した時にリセットの要求を行うことにより、リモコン側ECU17とエンジン側ECU21との定期的に制御信号の交信間隔よりもタイマ174の計時時間を長くするような制御をおこなうことで、微速操作部281に命令が入力されたにも関わらずエンジン30の回転数が変化しない事態を防止できる。
【0057】
この実施の形態によれば、エンジン側ECU21に設けられた応答部212が回転数変更信号を受信したことを連絡する応答信号を発信し、リセット要求部173は応答信号を受信した後にリセット部172を作動させることにより、エンジン側ECU21が回転数変更信号を受信したことを回転数変更信号のリセットの条件とすることができる。これにより、微速操作部281に命令が入力されたにも関わらずエンジン30の回転数が変化しない事態を防止できる。
【0058】
なお、上記実施の形態では、「船舶推進装置」について船外機11を適用したが、これに限らず、船内外機でも良いことは勿論である。
【0059】
また、上記実施の形態においては、微速操作部281はゲージ28に設けたが、これに限定されず、例えば、ハンドル装置14、リモコンシフトレバー18のリモコン操作装置12の構成の一部や、船外機11の一部に「微速操作手段」を設けてもよい。
【0060】
また、上記実施の形態においては、リセット要求部173はリモコン側ECU17に設けたが、これに限らず、ゲージ28、エンジン側ECU21にリセット要求部を設けてもよく、またゲージ28、エンジン側ECU21以外であってもリセット部172と容易に交信できるどのような構成中にリセット要求部を設け、作動させるべき時点においてリセット部172を確実に作動させることができるものとしてもよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、エンジン側ECU21に応答部212を設け、回転数変更信号のリセットの条件に応答部212からリモコン側ECU17側への回転数変更信号の受領応答を含める構成としたが、応答部212を設けず、回転数変更信号のリセットの条件に応答部212からリモコン側ECU17側への回転数変更信号の受領応答を含めずに処理の簡易化と高速化を図っても良い。
【0062】
また、上記実施の形態では、エンジンの回転制御装置は船舶に適用したが、これに限定されず、自動車、航空機、機関車、発電機等、内燃機関としてのエンジンを備えたあらゆる機関に適用可能である。
【0063】
上記実施の形態は例示であり、本発明が上記実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施の形態に係る船舶の側面図である。
【図2】同実施の形態に係る船舶のリモコン操作装置、船外機等の接続状態を示すブロック図である。
【図3】同実施の形態に係る船舶におけるリモコン側ECUのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】同実施の形態に係る船舶におけるゲージ、リモコン側ECU、エンジン側ECUの機能ブロック図である。
【図5】同実施の形態に係る船舶におけるリモコン側ECUの処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】同実施の形態に係る船舶におけるゲージ、リモコン側ECU、エンジン側ECUの動作及び交信の状態を示すタイムチャートである。
【図7】同実施の形態に係る船舶におけるリモコン側ECUの動作及び交信の状態を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0065】
11 船外機(船舶推進装置)
12 リモコン操作装置(リモートコントロール部)
17 リモコン側ECU(リモコン側コントロールユニット)
21 エンジン側ECU(エンジン側コントロールユニット)
28 ゲージ
30 エンジン
171 信号出力部(信号出力手段)
172 リセット部(リセット手段)
173 リセット要求部(リセット要求手段)
174 タイマ
211 回転数操作部(回転数操作手段)
212 応答部(応答手段)
281 微速操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微速航行時の速度を操作するために入力された命令に基づいてエンジンの回転数を変化させる信号としての変更命令信号を出力する微速操作部と、前記エンジンを遠隔操作にて操作するリモートコントロール部に設けられ、前記変更命令信号の受信により前記エンジンの回転数を変化させる信号としての回転数変更信号を出力するリモコン側コントロールユニットと、前記エンジンに設けられて前記リモコン側コントロールユニットと一定間隔で定期的に制御信号を交信し前記回転数変更信号に基づいて前記エンジンの回転数を変化させるエンジン側コントロールユニットとを備えたエンジンの回転制御装置であって、
前記リモコン側コントロールユニットには、前記回転数変更信号を出力させる信号出力手段と、該信号出力手段における前記回転数変更信号の出力状態を初期状態にリセットするリセット手段とを備え、
前記リセット手段を作動させるリセット要求手段を設けたことを特徴とするエンジンの回転制御装置。
【請求項2】
前記エンジン側コントロールユニットは、前記回転数変更信号の起ち上がり又は起ち下がりのうち何れかを検知すると前記エンジンの回転数を変化させる制御を行う回転数操作手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの回転制御装置。
【請求項3】
前記微速操作部は、前記エンジン等の所定の計測値を表示するゲージに設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの回転制御装置。
【請求項4】
前記リセット要求手段は、前記ゲージ、前記リモコン側コントロールユニット、前記エンジン側コントロールユニットの何れかに設けたことを特徴とする請求項1乃至又3の何れか一つに記載のエンジンの回転制御装置。
【請求項5】
前記リセット要求手段には前記回転数変更信号の出力時間を監視するタイマが設けられ、前記リセット要求手段は前記タイマの計時により前記回転数変更信号の出力時間が前記一定時間経過した時に前記リセットの要求を行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載のエンジンの回転制御装置。
【請求項6】
前記エンジン側コントロールユニットには前記回転数変更信号を受信したことを連絡する応答信号を発信する応答手段を設け、前記リセット要求手段は前記応答信号を受信した後に前記リセット手段を作動させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載のエンジンの回転制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一つに記載のエンジンの回転制御装置が設けられたことを特徴とする船舶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−213818(P2008−213818A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240807(P2007−240807)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】