説明

エンジンの過給システム

【課題】加速時における過給レスポンスの向上とNOx排出量の抑制とを同時に実現し得るエンジンの過給システムを提供する。
【解決手段】ターボチャージャ2を搭載し且つそのタービン2bより上流の排気管10から排気ガス8の一部を抜き出してコンプレッサ2aより下流の吸気管4に再循環するEGR流路11を備えたディーゼルエンジン1の過給システムに関し、タービン2bより上流で且つEGR流路11の排気分流部11aより下流の排気管10と、コンプレッサ2aより下流で且つEGR流路11の排気合流部11bより上流の吸気管4との間に、排気の圧力波により吸気3を直接加圧するプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14を設け、これに対し排気ガス8及び吸気3を低速軽負荷域で経由させて流し且つそれ以外の運転領域では迂回させて流し得るよう流路切替手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの過給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のディーゼルエンジンにおいては、排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気ガスでエンジン内での燃料の燃焼を抑制させて燃焼温度を下げることによりNOx(窒素酸化物)の発生を低減するようにした、いわゆる排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が行われている。
【0003】
例えば、ターボチャージャを搭載したディーゼルエンジンの場合には、ターボチャージャのタービンより上流の排気系路と、ターボチャージャのコンプレッサより下流の吸気管との間をEGR流路により接続し、該EGR流路を通して排気ガスの一部を再循環するようになっている。
【0004】
ただし、ターボチャージャによる過給はレスポンスが悪いという難点があり、加速時には良好な発進性能を得るべくEGRバルブを閉じて排気ガスの再循環を停止するのが一般的であるため、加速時に排気ガスの再循環によるNOxの抑制効果が十分に得られなくなってNOxの排出量が一時的に増加してしまう虞れがあった。
【0005】
一方、前記ターボチャージャとは異なる原理で過給を行う既存システムとして、エンジンのクランクシャフトからギアやベルトを介しコンプレッサを機械的に駆動して過給を行うルーツ式スーパーチャージャが知られているが、この種のルーツ式スーパーチャージャをターボチャージャと組み合わせて併用すると、ターボチャージャの単独使用時よりも過給レスポンスを向上させることができ、加速時にEGRバルブを閉じなくて済むことが判っている。
【0006】
尚、この種のターボチャージャとルーツ式スーパーチャージャ(機械式スーパーチャージャ)とを組み合わせる技術に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平6−22118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ターボチャージャにルーツ式スーパーチャージャを組み合わせて併用すると、加速時にEGRバルブを閉じなくて済むというメリットがある反面、ターボチャージャの単独使用時よりも吸気側と排気側との差圧が小さくなってしまうというデメリットがあり、いくら加速時にEGRバルブを開けたままにできても排気ガスが再循環し難い状態となってしまい、NOxの抑制効果を改善するまでには至らなかった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、加速時における過給レスポンスの向上とNOx排出量の抑制とを同時に実現し得るエンジンの過給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ターボチャージャを搭載し且つ該ターボチャージャのタービンより上流の排気系路から排気ガスの一部を抜き出して前記ターボチャージャのコンプレッサより下流の吸気系路に再循環するEGR流路を備えたエンジンの過給システムであって、前記タービンより上流で且つ前記EGR流路の排気分流部より下流の排気系路と、前記コンプレッサより下流で且つ前記EGR流路の排気合流部より上流の吸気系路との間に、排気の圧力波により吸気を直接加圧するプレッシャーウェーブスーパーチャージャを設けると共に、該プレッシャーウェーブスーパーチャージャに対し排気ガス及び吸気を低速軽負荷域で経由させて流し且つそれ以外の運転領域では迂回させて流し得るよう流路切替手段を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
而して、過給レスポンスが重要な低速軽負荷域で流路切替手段により排気ガス及び吸気をプレッシャーウェーブスーパーチャージャを経由させて流すと、該プレッシャーウェーブスーパーチャージャを主体とした過給が行われる結果、過給レスポンスがターボチャージャの単独使用時よりも大幅に向上すると共に、ターボチャージャの単独使用時と同程度に吸気側と排気側との十分な差圧が生じて排気ガスが良好に再循環されることになる。
【0012】
即ち、前記プレッシャーウェーブスーパーチャージャでは、排気の圧力波を利用して吸気を直接加圧する方式が採られており、エンジンのクランクシャフトからベルト駆動されるハニカム状の円筒形ロータの一端側から排気入口を介して入った排気ガスが、前記円筒形ロータのセル内に吸入されている吸気を加圧して他端側の吸気出口から押し出し、その後に排気ガスも前記排気入口と位相の異なる一端側の排気出口を介し円筒形ロータから出て、この時に生じた負圧により前記吸気出口と位相の異なる他端側の吸気入口から新たな吸気を吸入するというサイクルを繰り返して過給を行うようになっている。
【0013】
この際、円筒形ロータは、回転運動するのみでルーツ式スーパーチャージャの如き機械的な圧縮は行わず、単に吸気系路と排気系路とをタイミングを合わせて連通させるロータリーバルブとして機能し、排気の圧力波を吸気系路側へ伝えることで吸気の密度を高めているにすぎないため、タイムラグを生じることなく加速操作に即応して過給圧を高めることが可能となり、しかも、同じ過給圧を得るに当たり排気圧をルーツ式スーパーチャージャよりも高く維持することが可能となる。
【0014】
また、本発明においては、プレッシャーウェーブスーパーチャージャの排気流路に対する排気入口と排気出口とを短絡する排気側バイパス流路と、前記プレッシャーウェーブスーパーチャージャの吸気流路に対する吸気入口と吸気出口とを短絡する吸気側バイパス流路と、これら排気側バイパス流路と吸気側バイパス流路の夫々に設けられて流路を開閉するバイパスバルブとにより流路切替手段を構成することが可能である。
【0015】
このようにすれば、排気側バイパス流路と吸気側バイパス流路のバイパスバルブを閉じた際に、排気ガス及び吸気がプレッシャーウェーブスーパーチャージャを経由して流れることになり、排気側バイパス流路と吸気側バイパス流路のバイパスバルブを開けた際に、排気ガス及び吸気がプレッシャーウェーブスーパーチャージャを迂回して流れることになる。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明のエンジンの過給システムによれば、過給レスポンスが重要な低速軽負荷域で流路切替手段により排気ガス及び吸気をプレッシャーウェーブスーパーチャージャを経由させて流すことができ、これによりプレッシャーウェーブスーパーチャージャを主体とした過給を行うことができるので、過給レスポンスをターボチャージャの単独使用時よりも大幅に向上し且つターボチャージャの単独使用時と同程度に吸気側と排気側との十分な差圧を生じさせて排気ガスを良好に再循環させることができ、加速時における過給レスポンスの向上とNOx排出量の抑制とを同時に実現することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】流路切替手段の操作領域を説明したグラフである。
【図3】過給レスポンスの向上について説明したグラフである。
【図4】吸気側と排気側との差圧について説明したグラフである。
【図5】NOx排出量の抑制について説明したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1〜図5は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図1中における符号の1はタービンノズル部に角度調整可能な多数のノズルベーンを環状に備えてノズル開度を任意に変更することが可能なマルチベーンタイプのターボチャージャ2を装備したディーゼルエンジン(バリアブルジオメトリーターボチャージャ)を示しており、図示しないエアクリーナから導かれた吸気3が吸気管4を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへと送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気3がインタークーラ5へと送られて冷却され、該インタークーラ5から更に吸気マニホールド6へと吸気3が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒7(図1では直列6気筒の場合を例示している)に分配されるようになっている。
【0020】
また、前記ディーゼルエンジン1の各気筒7から排出された排気ガス8は、排気マニホールド9を介しターボチャージャ2のタービン2bへと送られ、該タービン2bを駆動した排気ガス8が排気管10を介し車外へ排出されるようになっていると共に、前記ターボチャージャ2のタービン2bより上流の排気管10(排気系路)と、前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aより下流の吸気管4(吸気系路)との間がEGR流路11で接続されており、排気マニホールド9直後の排気管10から抜き出した排気ガス8の一部が水冷式のEGRクーラ12で冷却されてEGRバルブ13を介し吸気管4に再循環されるようになっている。
【0021】
更に、前記タービン2bより上流で且つ前記EGR流路11の排気分流部11aより下流の排気管10と、前記コンプレッサ2aより下流で且つ前記EGR流路11の排気合流部11bより上流の吸気管4との間に、排気の圧力波により吸気3を直接加圧するプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14が設けられている。
【0022】
前記プレッシャーウェーブスーパーチャージャ14は、排気の圧力波を利用して吸気3を直接加圧する方式を採用した過給機として従来より知られているもので、ディーゼルエンジン1のクランクシャフト19から駆動ベルト20を介して駆動されるハニカム状の円筒形ロータ21を主構成として備え、該円筒形ロータ21の一端側から排気入口10aを介して入った排気ガス8が、前記円筒形ロータ21のセル内に吸入されている吸気3を加圧して他端側の吸気出口4bから押し出し、その後に排気ガス8も前記排気入口10aと位相の異なる一端側の排気出口10bを介し円筒形ロータ21から出て、この時に生じた負圧により前記吸気出口4bと位相の異なる他端側の吸気入口4aから新たな吸気3を吸入するというサイクルを繰り返して過給を行うようになっている。
【0023】
また、プレッシャーウェーブスーパーチャージャ14の排気管10に対する排気入口10aと排気出口10bとを短絡する排気側バイパス流路15と、前記プレッシャーウェーブスーパーチャージャ14の吸気管4に対する吸気入口4aと吸気出口4bとを短絡する吸気側バイパス流路16とが設けられており、これら排気側バイパス流路15と吸気側バイパス流路16の夫々に流路を開閉するバイパスバルブ17,18によって、プレッシャーウェーブスーパーチャージャ14に対し排気ガス8及び吸気3を低速軽負荷域(図2のハッチング部分を参照)で経由させて流し且つそれ以外の運転領域(図2のドット部分を参照)では迂回させて流す流路切替手段が構成されている。
【0024】
而して、過給レスポンスが重要な低速軽負荷域でバイパスバルブ17,18を閉じて排気側バイパス流路15と吸気側バイパス流路16を遮断し、排気ガス8及び吸気3をプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14を経由させて流すと、該プレッシャーウェーブスーパーチャージャ14を主体とした過給が行われる結果、過給レスポンスがターボチャージャ2の単独使用時よりも大幅に向上すると共に(図3のグラフを参照:t0は加速開始時間を示す)、ターボチャージャ2の単独使用時と同程度に吸気側と排気側との十分な差圧が生じて排気ガス8が良好に再循環されることになる(図4のグラフを参照:Aはターボチャージャ2の単独使用、Bはルーツ式スーパーチャージャ併用、Cはプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14併用、P2は吸気マニホールド圧、P3は排気マニホールド圧を夫々示す)。
【0025】
即ち、前記プレッシャーウェーブスーパーチャージャ14では、円筒形ロータ21が回転運動するのみでルーツ式スーパーチャージャの如き機械的な圧縮は行われず、単に吸気管4と排気管10とをタイミングを合わせて連通させるロータリーバルブとして機能し、排気の圧力波を吸気管4側へ伝えることで吸気3の密度を高めているにすぎないため、タイムラグを生じることなく加速操作に即応して過給圧を高めることが可能となり、しかも、同じ過給圧を得るに当たり排気圧をルーツ式スーパーチャージャよりも高く維持することが可能となる。
【0026】
尚、低速軽負荷域以外の運転領域(図2のドット部分を参照)では、排気側バイパス流路15と吸気側バイパス流路16のバイパスバルブ17,18を開け、排気ガス8及び吸気3がプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14を迂回して排気側バイパス流路15と吸気側バイパス流路16を流れるようにすれば良い。
【0027】
従って、上記形態例によれば、過給レスポンスが重要な低速軽負荷域で流路切替手段により排気ガス8及び吸気3をプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14を経由させて流すことができ、これによりプレッシャーウェーブスーパーチャージャ14を主体とした過給を行うことができるので、過給レスポンスをターボチャージャ2の単独使用時よりも大幅に向上し且つターボチャージャ2の単独使用時と同程度に吸気側と排気側との十分な差圧を生じさせて排気ガス8を良好に再循環させることができ、加速時における過給レスポンスの向上とNOx排出量の抑制(図5のグラフを参照)とを同時に実現することができる。
【0028】
尚、本発明のエンジンの過給システムは、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 ディーゼルエンジン(エンジン)
2 ターボチャージャ
2a コンプレッサ
2b タービン
3 吸気
4 吸気管(吸気系路)
4a 吸気入口
4b 吸気出口
8 排気ガス
10 排気管(排気系路)
10a 排気入口
10b 排気出口
11 EGR流路
11a 排気分流部
11b 排気合流部
14 プレッシャーウェーブスーパーチャージャ
15 排気側バイパス流路(流路切替手段)
16 吸気側バイパス流路(流路切替手段)
17 バイパスバルブ(流路切替手段)
18 バイパスバルブ(流路切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャを搭載し且つ該ターボチャージャのタービンより上流の排気系路から排気ガスの一部を抜き出して前記ターボチャージャのコンプレッサより下流の吸気系路に再循環するEGR流路を備えたエンジンの過給システムであって、前記タービンより上流で且つ前記EGR流路の排気分流部より下流の排気系路と、前記コンプレッサより下流で且つ前記EGR流路の排気合流部より上流の吸気系路との間に、排気の圧力波により吸気を直接加圧するプレッシャーウェーブスーパーチャージャを設けると共に、該プレッシャーウェーブスーパーチャージャに対し排気ガス及び吸気を低速軽負荷域で経由させて流し且つそれ以外の運転領域では迂回させて流し得るよう流路切替手段を設けたことを特徴とするエンジンの過給システム。
【請求項2】
プレッシャーウェーブスーパーチャージャの排気流路に対する排気入口と排気出口とを短絡する排気側バイパス流路と、前記プレッシャーウェーブスーパーチャージャの吸気流路に対する吸気入口と吸気出口とを短絡する吸気側バイパス流路と、これら排気側バイパス流路と吸気側バイパス流路の夫々に設けられて流路を開閉するバイパスバルブとにより流路切替手段を構成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの過給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−80406(P2011−80406A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233015(P2009−233015)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】