説明

エンジン停止始動制御装置

【課題】ピニオンとリングギヤとの噛み合わせを適正に実施し、かつドライバの始動要求を迅速に満たす。
【解決手段】ECU40は、所定の自動停止条件が成立した場合にエンジン2の燃焼を停止してエンジン自動停止し、自動停止条件の成立後、所定の再始動条件が成立した場合にピニオン14からリングギヤ25に動力伝達してエンジン20を再始動する。また、ECU40は、エンジン自動停止に際してエンジン20の回転降下が生じる回転降下期間において再始動条件が成立したと判定された場合に、リングギヤ25に向けてのピニオン14の移動を開始してから、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が開始されるまでの動力伝達前期間において、エンジン20の燃焼を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン停止始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばアクセル操作やブレーキ操作などといった停車又は発進のための動作等を検知してエンジンの自動停止及び自動再始動を行う、所謂アイドルストップ機能を備えるエンジン制御システムが知られている。このアイドルストップ制御により、エンジンの燃費低減等の効果を図っている。
【0003】
エンジンの再始動要求が生じた場合、ドライバの始動要求を満たすべく、再始動要求があった後できるだけ速やかにエンジンを再始動させるのが望ましく、そのための技術が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、エンジンの燃焼停止に伴うエンジン回転速度の降下中に再始動要求が生じた場合、エンジンの回転が停止するのを待たずにスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動することが開示されている。また、この特許文献1には、再始動要求があった場合、スタータによるクランキングが開始されるまで待機し、クランキングによりエンジン出力軸の共回りが開始された時点で、燃料噴射及び点火を実行してエンジンを再始動させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4214401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のものでは、スタータからエンジン側への動力伝達が開始された後に燃料噴射や点火を実施するため、再始動要求があってから、実際にエンジン燃焼が生じるまでの遅れ時間が長くなると考えられる。この場合、ドライバの始動要求を迅速に満たすことができないことが生じるおそれがある。
【0006】
一方で、できるだけ早いタイミング、例えば再始動要求のタイミングで燃料噴射等を再開することが考えられる。ところが、この場合には、スタータのピニオンと、エンジンの出力軸に取り付けられたリングギヤとが噛み合い状態に移行する前に、意図せずにエンジンの燃焼が再開されることがあると考えられる。また、燃焼再開に伴いエンジン回転速度が上昇した場合、ピニオンとリングギヤとの相対回転速度の差が大きくなり、その結果、ピニオンとリングギヤとを噛み合い状態にできない場合が生じるおそれがある。また、両者が噛み合い状態に移行したとしても、その噛み合いの際に噛み合い音が大きくなったり、ピニオン等の磨耗が生じたりする場合もあると考えられる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ピニオンとリングギヤとの噛み合わせを適正に実施することができ、かつドライバの始動要求を迅速に満たすことができるエンジン停止始動制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0009】
本発明は、エンジン出力軸に連結されたリングギヤに向けてスタータのピニオンを移動させ前記リングギヤと前記ピニオンとの噛み合いを実施するとともに、前記リングギヤに前記ピニオンを噛み合わせた状態での前記スタータのモータの駆動により、前記ピニオンから前記リングギヤに動力伝達されて始動されるエンジンに適用され、所定の自動停止条件が成立した場合にエンジンの燃焼を停止してエンジン自動停止し、前記自動停止条件の成立後、所定の再始動条件が成立した場合に前記ピニオンから前記リングギヤに動力伝達してエンジンを再始動するエンジン停止始動制御装置に関する。そして、請求項1に記載の発明は、エンジン自動停止に際してエンジンの回転降下が生じる回転降下期間において、前記再始動条件が成立したことを判定する条件判定手段と、前記条件判定手段により前記再始動条件が成立したと判定された場合に、前記リングギヤに向けて前記ピニオンを移動させる移動制御手段と、前記移動制御手段による前記ピニオンの移動を開始してから、前記ピニオンから前記リングギヤへの動力伝達が開始されるまでの動力伝達前期間において、エンジンの燃焼を開始する燃焼制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
要するに、エンジン再始動条件が成立した場合には、ドライバの始動要求を満たすべく、できるだけ早期にエンジンの燃料噴射や点火を開始してエンジンを再始動するのが望ましい。その反面、燃料噴射等の開始が早すぎると、その時のエンジン回転速度によっては、ピニオンとリングギヤとが噛み合い状態になる前に、エンジンの燃焼エネルギによって意図せずにエンジン回転速度が急変することがある。この場合、両者が噛み合い状態になる前の両者の相対回転速度の差が大きくなり、ピニオンとリングギヤとの噛み合わせを適正に実施できないことが考えられる。
【0011】
ここで、ピニオンとリングギヤとが噛み合い状態になる前であっても、ピニオンの移動が開始されていれば、その後、直ちに噛み合い状態に移行する。その点に鑑み、上記構成では、ピニオンの移動開始タイミング以降であって、ピニオンからリングギヤへの動力伝達の開始タイミングまでにエンジンの燃焼を再開する。この構成によれば、ピニオンとリングギヤとが噛み合い状態になる際の相対回転速度差が大きくなりすぎず、ピニオンとリングギヤとの噛み合わせを適正に実施することができるとともに、エンジンをいち早くかつ確実に再始動することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、エンジン回転速度を検出する手段と、前記回転降下期間において、現時点以前に検出したエンジン回転速度を用いて、現時点よりも後のエンジン回転速度である予測エンジン回転速度を算出する回転予測手段と、前記回転予測手段により算出した予測エンジン回転速度に基づいて、前記ピニオンの移動の開始タイミングを算出するタイミング算出手段と、を備え、前記移動制御手段は、前記タイミング算出手段により算出した開始タイミングで前記ピニオンの移動を開始する。
【0013】
エンジン再始動に際し、将来のエンジン回転速度の予測値を用いてスタータの駆動制御を実施する構成では、ピニオンの移動開始のタイミングや、ピニオンからリングギヤへの動力伝達が開始されるタイミングを事前にかつ正確に算出しておくことができる。したがって、上記構成によれば、動力伝達前期間を正確に把握することができ、結果として、動力伝達前期間でエンジン燃焼を確実に再開することが可能になる。
【0014】
エンジンの燃焼開始について具体的には以下の態様を挙げることができる。
【0015】
一つの態様としては、請求項3に記載の発明のように、前記移動制御手段による前記ピニオンの移動開始後、前記ピニオンのリングギヤ側端面が前記リングギヤとの接触位置まで移動して接触状態になる時刻を接触時刻として算出する接触時刻算出手段と、前記移動制御手段による前記ピニオンの移動開始後、前記ピニオンと前記リングギヤとが噛み合い状態になる時刻を噛み合い時刻として算出する噛み合い時刻算出手段と、を備え、前記燃焼制御手段は、前記動力伝達前期間のうち、前記接触時刻から前記噛み合い時刻までの間にエンジンの燃焼を開始するものが挙げられる。ピニオンのリングギヤ側端面がリングギヤとの接触位置まで移動していれば、その後、直ちに噛み合い状態に移行する。したがって、上記構成であれば、ピニオンとリングギヤとが噛み合い状態になる前に意図せずにエンジンの燃焼が再開された場合にも、ピニオンとリングギヤとが噛み合い状態になる前において、両者の相対回転速度差を極力小さくすることができる。
【0016】
他の一つの態様としては、請求項4に記載の発明のように、前記移動制御手段による前記ピニオンの移動開始後、前記ピニオンのリングギヤ側端面が前記リングギヤとの接触位置まで移動して接触状態になる時刻を接触時刻として算出する接触時刻算出手段を備え、前記燃焼制御手段は、前記動力伝達前期間のうち、前記ピニオンの移動を開始してから前記接触時刻になるまでの間にエンジンの燃焼を開始するものが挙げられる。この場合、ピニオンの移動開始後にエンジンの燃焼を再開する場合に比べて、いち早くエンジンを再始動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】エンジン制御システムの全体概略構成図。
【図2】ピニオンとリングギヤとの接触状態及び噛み合い状態を説明するための図。
【図3】回転降下中のエンジン再始動の具体的態様を示すタイムチャート。
【図4】エンジン自動停止処理の処理手順を示すフローチャート。
【図5】降下中再始動処理の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、エンジン制御システムのエンジン停止始動制御装置に具体化している。当該制御システムにおいては、電子制御ユニット(以下、ECUという)を中枢として燃料噴射量の制御や点火時期の制御、アイドルストップ制御等を実施する。この制御システムの全体概略を示す構成図を図1に示す。
【0019】
図1において、エンジン20は、例えば4気筒エンジンであり、気筒内への吸入空気量を調整する空気量調整手段としてのスロットルバルブ21や、燃料を噴射供給する燃料噴射手段としてのインジェクタ22、気筒ごとに設けられた点火プラグ23に点火火花を発生させる点火手段としてのイグナイタ(図示略)等を備えている。なお、エンジン20は、インジェクタ22が吸気ポート近傍に設けられた吸気ポート噴射式であってもよいし、各気筒のシリンダヘッド等に設けられた直噴式であってもよい。
【0020】
スタータ10にはモータ11が設けられており、バッテリ12からの電力供給によりモータ11が回転駆動されるようになっている。モータ11の回転軸13には、ピニオン14が回転軸13の軸方向に摺動可能に設けられており、ピニオン14において、回転軸13とピニオン14との間で動力の伝達を断続するワンウエイクラッチ15と一体になっている。
【0021】
また、スタータ10には、コイル18及びプランジャ19により構成される第1ソレノイドSL1が設けられており、コイル18の通電/非通電の切り替えにより、ピニオン14が回転軸13の軸方向に往復動されるようになっている。詳しくは、コイル18の非通電状態では、ピニオン14が、エンジン20の出力軸(クランク軸)24に連結されたリングギヤ25に対して非接触の状態で配置されている。この非接触の状態においてバッテリ12からコイル18に通電されると、プランジャ19がその軸方向に移動してレバー16が作動され、ピニオン14がリングギヤ25に向かって押し出される。これにより、ピニオン14が、リングギヤ25との接触位置まで移動する。また、ピニオン14の移動に伴い、ピニオン14の歯部とリングギヤ25の歯部との噛み合いが生じ、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が可能な状態になる。この噛み合い状態においてモータ11の駆動が開始されることにより、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が開始される。
【0022】
一方、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合い状態においてコイル18の通電が遮断されると、図示しないスプリングの付勢力により、ピニオン14が、リングギヤ25に向かう方向とは反対方向に移動する。これにより、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合いが解除され、両者が非接触の状態になる。
【0023】
スタータ10とバッテリ12との間にはIGスイッチ26が設けられている。ドライバの操作に基づくIGスイッチ26のオンにより、バッテリ12からスタータ10への通電が可能になる。また、コイル18とバッテリ12との間には、制御信号に基づいて第1ソレノイドSL1の通電/非通電を切り替えるSL1駆動リレー27が設けられている。さらに、モータ11とバッテリ12との間には、モータ11の電磁子に接続され接点の開閉により通電/非通電が切り替えられる第2ソレノイドSL2と、制御信号に基づいて第2ソレノイドSL2の通電/非通電を切り替えるSL2駆動リレー28とが設けられている。
【0024】
その他、本システムには、エンジン20の所定クランク角毎に(例えば30°CA周期で)矩形状のクランク角信号を出力するクランク角センサ31や、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温センサ32などの各種センサが設けられている。
【0025】
ECU40は、周知のマイクロコンピュータ等を備えてなる電子制御装置であり、本システムに設けられている各種センサの検出結果等を入力し、それに基づいて燃料噴射量制御や点火時期制御、アイドルストップ制御などの各種エンジン制御や、スタータ10の駆動制御等を実施する。
【0026】
上記のシステム構成において実施されるアイドルストップ制御について詳述する。アイドルストップ制御は、エンジン20のアイドル運転時に所定の自動停止条件が成立すると、燃料噴射及び点火を停止してエンジン20の燃焼を停止することにより、エンジン20を自動停止させる。また、自動停止条件の成立後、所定の再始動条件が成立すると、燃料噴射及び点火を再開してエンジン20を再始動させるものである。自動停止条件としては、例えば、アクセル操作量がゼロになったこと(アイドル状態になったこと)、ブレーキペダルの踏込み操作が行われたこと、車速が所定値以下まで低下したこと等の少なくともいずれかが含まれる。また、再始動条件としては、例えば、アクセルの踏込み操作が行われたこと、ブレーキ操作量がゼロになったこと等が含まれる。
【0027】
次に、スタータ10の駆動制御について説明する。本実施形態において、ECU40は、SL1駆動リレー27のオン/オフ信号を出力する出力ポートP1と、SL2駆動リレー28のオン/オフ信号を出力する出力ポートP2とを備えている。ECU40では、この出力ポートP1,P2からの制御信号により、モータ11及びコイル18の通電状態をそれぞれ個別に切り替え可能になっている。
【0028】
本実施形態では、自動停止条件の成立に伴いエンジン20の燃焼を停止した後のエンジン回転速度の降下が生じる回転降下期間にエンジン再始動条件が成立した場合、クランク軸24の回転が停止するのを待たずに、スタータ10によりエンジン20のクランキングを行うこととしている。その場合のスタータ駆動の一つの態様として、ECU40は、再始動条件の成立後、まず、ピニオン14をリングギヤ25に向かって押し出し、ピニオン14をリングギヤ25に向かって移動させる。また、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態になったと判定された後、モータ11を駆動してピニオン14を回転させる。
【0029】
回転降下期間中のスタータ駆動に際し、ECU40は、クランク角センサ31の検出信号に基づいて算出した現時点以前の実エンジン回転速度を用いて、現時点よりも後のエンジン回転速度(予測エンジン回転速度)の軌道である予測回転軌道を算出する。また、算出した予測回転軌道を用いて、ピニオン14とリングギヤ25との接触が、予め定めた所定の接触許容回転速度(例えば200rpm)で行われるように、ピニオン14の押し出し時刻(SL1駆動リレー27のオン信号の出力タイミング)を算出する。
【0030】
詳しくは、まず、予測回転軌道に基づき、エンジン回転速度が接触許容回転速度になる時刻(接触時刻)を算出する。そして、その接触時刻よりも、コイル18の通電開始からピニオン14がリングギヤ25との接触位置まで移動するのに要する時間(移動所要時間TA)だけ前のタイミングをピニオン14の押し出し時刻とする。また、モータ11については、押し出し時刻よりも、押し出し開始から噛み合い状態に移行するまでに要する時間(噛み合い所要時間TB)だけ後のタイミングをモータ駆動時刻として算出し、そのモータ駆動時刻になったタイミングでSL2駆動リレー28にオン信号を出力する。
【0031】
ところで、再始動条件が成立した場合、ドライバの始動要求を満たすべく、できるだけ早期にエンジン20を運転状態にするのが望ましい。その一方で、エンジン回転降下中のエンジン再始動では、エンジン20の燃料噴射や点火の開始時期が早すぎると、その時のエンジン回転速度によっては、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合い前において、エンジン20の燃焼エネルギによって意図せずにエンジン回転速度が急変することが考えられる。その場合、現時点よりも前に算出した予測回転軌道が適正でなくなり、予測エンジン回転速度に基づいて実施されるスタータ制御において、ピニオン14の押し出しやモータ11の駆動を適正に実施できないおそれがある。
【0032】
具体的には、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合い時において両者の相対回転速度差、換言すれば、ピニオン14とリングギヤ25との各歯部の通過速度差が大きくなることがある。かかる場合、例えば、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行しなかったり、又は、噛み合い状態に移行したとしても、その噛み合い時において噛み合い音が大きくなったり、ピニオン14等の磨耗が生じたりすることが考えられる。
【0033】
そこで、本実施形態では、エンジン20の自動停止の際の回転降下期間中に再始動条件が成立した場合、ピニオン14の押し出しを開始してから、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が開始されるまでの期間(動力伝達前期間)において、エンジン20の燃焼を開始してエンジン20を再始動することとしている。特に、本実施形態では、動力伝達前期間のうち、ピニオン14のリングギヤ側端面とリングギヤ25とが接触状態になってから、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行するまでの期間で燃焼が実施されるように燃料噴射及び点火の時期を制御している。SL1駆動リレー27のオンによりピニオン14が移動し、ピニオン14のリングギヤ側端面がリングギヤ25の端面に押し当てられた状態になれば、その後はピニオン14とリングギヤ25との相対的な回転により、自ずとピニオン14の歯部とリングギヤ25の歯部とが噛み合った状態に移行する。したがって、ピニオン14のリングギヤ側端面とリングギヤ25とが接触状態になった後であれば、エンジン20の燃焼エネルギによってエンジン回転速度が急変した場合にも、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合いタイミングでの相対回転速度差が大きくなるのが抑制される。また、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行するまでにエンジン20の燃焼を行うことにより、エンジン再始動が遅くなりすぎるのが回避される。
【0034】
ここで、ピニオン14とリングギヤ25との「接触状態」及び「噛み合い状態」について図2を用いて説明する。なお、図2中、(a)はピニオン14とリングギヤ25との正面図、(b)は図2(a)におけるA方向からの平面図を示している。
【0035】
図2において、ピニオン14及びリングギヤ25は、各回転軸が同一方向でかつ平行に設けられており、初期状態では互いに離間して設けられている。これらピニオン14及びリングギヤ25には、それぞれ多数の歯部14a,25aが設けられている。ピニオン14がリングギヤ25に向かって移動すると、まず、ピニオン14のリングギヤ25に対向する側の端面14bが、リングギヤ25のピニオン14に対向する側の端面25bと接触し、その後、互いの歯部の噛み合いが行われるようになっている。本実施形態では、この互いの端面14b、25bが接触した状態をピニオン14とリングギヤ25との「接触状態」、互いの歯部が噛み合った状態をピニオン14とリングギヤ25との「噛み合い状態」としている。
【0036】
次に、本実施形態のエンジン再始動制御の具体的態様を、図3を用いて詳しく説明する。図3中、(a)はエンジン回転速度、(b)はエンジン停止要求フラグFisのON/OFF、(c)はエンジン始動要求フラグFstのON/OFF、(d)は点火信号、(e)は燃料カットの有無、(f)はSL1駆動信号のON/OFFの推移をそれぞれ示す。また、実線は実回転速度の推移を示し、一点鎖線は予測回転軌道を示し、破線はエンジン燃焼開始後のエンジン回転速度の推移を示す。
【0037】
図3において、エンジン20の運転中に自動停止条件が成立すると、その成立タイミングt11でエンジン停止要求フラグFisをONするとともに、エンジン20の燃料噴射及び点火を停止する。これにより、エンジン回転速度がゼロに向かって降下する。このエンジン回転速度が降下する回転降下期間では、エンジン回転速度の履歴に基づいて予測回転軌道を都度算出するとともに、算出した予測回転軌道に基づいて、エンジン回転速度が予め定めた接触許容回転速度NEtになる時刻(接触時刻)を算出する。
【0038】
そして、エンジン回転降下中のタイミングt12で再始動条件が成立すると、エンジン停止要求フラグFisをOFFにし、エンジン始動要求フラグFstをONにする。このタイミングt12以降では、算出した接触時刻でピニオン14のリングギヤ側端面がリングギヤ25のピニオン側端面に接触するように、ピニオン14をリングギヤ25に向かって押し出す。例えば、算出した接触時刻がt15の場合、押し出し時刻を、t15よりも移動所要時間TAだけ前のt13として算出する。そして、押し出しタイミングになった時点でSL1駆動リレー27にオン信号を出力する。
【0039】
本実施形態では、ピニオン14の押し出しを開始してから、予め定めた噛み合い所要時間TBが経過した場合に、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行したものとする。そして、接触時刻t15から噛み合い時刻(図中のt16)までの期間でエンジン20の燃焼が再開されるように、接触時刻t15よりも前のタイミングt14でインジェクタ22による燃料噴射及びイグナイタによる点火を許可する。このとき、例えば、ポート式エンジンであれば、初回の燃焼を行う気筒に対し、噛み合い時刻(t16)よりも360℃A(2行程分)前で燃料噴射を開始するとともに、噛み合い時刻になったタイミングで点火を開始する。また、直噴式エンジンであれば、初回の燃焼を行う気筒に対し、噛み合い時刻の直前のタイミングで燃料噴射を開始するとともに、噛み合い時刻になったタイミングで点火を開始する。
【0040】
次に、本実施形態のアイドルストップ制御について図4及び図5のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
まず、図4を用いて、エンジン自動停止処理について説明する。この処理は、ECU40により所定周期毎に実行される。
【0042】
図4において、ステップS101では、エンジン運転中に自動停止条件が成立したか否かを判定する。ステップS101がYESの場合、ステップS102へ進み、エンジン停止要求フラグFisをONにする。また、ステップS103では、インジェクタ22による燃料噴射を停止するとともに点火プラグ23による点火を停止し、本ルーチンを終了する。
【0043】
次に、本実施形態のエンジン再始動制御について説明する。図5は、エンジン回転降下中にエンジン再始動を行う場合の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、ECU40により所定周期毎に実行される。
【0044】
図5において、ステップS201では、エンジン停止要求フラグFisがONか否かを判定する。Fis=ONの場合、ステップS202へ進み、エンジン回転降下中か否かを判定する。ステップS202がYESの場合、ステップS203へ進み、クランク角センサ31により検出した現時点以前の実エンジン回転速度に基づいて、現時点よりも後のエンジン回転速度の軌道である予測回転軌道を算出する。
【0045】
予測回転軌道の算出方法としては、例えば、現在のエンジン20のロスエネルギ、エンジン回転速度及びイナーシャをパラメータとして、現時点よりも後の瞬時回転速度を算出することにより行う。より具体的には、シリンダ容積の増減変化に伴う瞬時回転速度の増減1周期分(4気筒エンジンでは180℃A)を回転脈動周期とし、現時点よりも前の回転脈動周期での瞬時回転速度に基づいて、現時点よりも後の1周期分の瞬時回転速度を算出する。この場合、シリンダ容積の増減変化に伴う瞬時回転速度の増減変化(回転脈動)を考慮して、将来のエンジン回転軌道を算出することができる。なお、瞬時回転速度とは、クランク軸24の所定回転角度(例えば30℃A)の回転に要した時間から算出されるエンジン回転速度である。予測回転軌道の算出方法としては、上記とは異なり、クランク角センサ31で検出したエンジン回転速度に基づいて、現時点以降のエンジン回転速度の減少変化の回転軌道を算出する方法を用いてもよい。
【0046】
さて、ステップS204では、予測回転軌道を用いて、エンジン回転速度が予め定めた接触許容回転速度NEtになる時刻としての接触時刻を算出する。また、ステップS205では、再始動条件の成立タイミングか否かを判定し、ステップS205がYESの場合、ステップS206へ進み、エンジン停止要求フラグFisをOFFにするとともに、エンジン始動要求フラグFstをONにする。
【0047】
ステップS207では、ピニオン14の押し出しを開始する時刻としての押し出し時刻を算出するとともに、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行する時刻として噛み合い時刻を算出する。ここでは、算出した接触時刻よりも移動所要時間TAだけ前のタイミングを押し出し時刻とし、押し出し時刻よりも噛み合い所要時間TBだけ後のタイミングを噛み合い時刻とする。また、ステップS208では、算出した接触時刻から噛み合い時刻までの期間でエンジン20の燃焼が再開されるように、燃料噴射の開始時刻及び点火の開始時刻を算出し、一旦本ルーチンを終了する。
【0048】
さて、エンジン停止要求フラグFisがOFFであると、ステップS201がNOとなり、ステップS209へ進む。ステップS209では、エンジン始動要求フラグFstがONか否かを判定する。Fst=ONの場合、ステップS210へ進み、押し出し時刻になったタイミングか否かを判定する。そして、押し出しタイミングの場合には、ステップS210がYESとなり、ステップS211へ進み、SL1駆動リレー27にオン信号を出力する。
【0049】
現在、ピニオン14の押し出しタイミングでない場合、ステップS210がNOとなり、ステップS212へ進む。ステップS212では、今現在、燃料噴射の開始時刻になったタイミングか否かを判定する。そして、ステップS212がYESの場合、ステップS213へ進み、インジェクタ22に駆動信号を出力する。これにより、エンジン20において燃料噴射が開始される。また、ステップS214では、イグナイタによる点火を開始する。
【0050】
現在、燃料噴射の開始タイミングでない場合には、ステップS215へ進み、モータ11の駆動開始タイミングか否かを判定する。本実施形態では、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行したタイミングをモータ駆動開始タイミングとしており、ピニオン14の押し出しタイミングからの経過時間が噛み合い所要時間TBとなった場合に肯定判定される。
【0051】
なお、噛み合い完了の判定は、押し出しタイミングからの経過時間に基づき行う構成に代えて、例えば、ピニオン14又はリングギヤ25の近傍にセンサを配置し、同センサの検出値を用いて行ってもよい。また、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合った状態において両者のギヤ間で通電可能に構成し、同通電があった場合にピニオン14とリングギヤ25との噛み合い完了と判定する構成としてもよい。
【0052】
モータ駆動の開始タイミングの場合には、ステップS215がYESとなり、ステップS216へ進み、SL2駆動リレー28にオン信号を出力する。これにより、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が行われ、エンジン20のクランキングが開始される。
【0053】
ステップS215がNOの場合、ステップS217へ進む。ステップS217では、SL2駆動リレー28のオン後であるか否かを判定し、ステップS217がYESの場合、ステップS218へ進む。ステップS218では、エンジン回転速度が予め定めた始動回転速度NEf(例えば400〜500rpm)以上であるか否かを判定する。そして、エンジン回転速度が始動回転速度NEf以上であることを条件にステップS219へ進み、SL1駆動リレー27及びSL2駆動リレー28にオフ信号を出力する。これにより、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合わせが解除され、モータ駆動が停止される。また、ステップS219では、エンジン始動要求フラグFstをOFFにし、本ルーチンを終了する。
【0054】
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
【0055】
エンジン20の自動停止の際の回転降下期間中に再始動条件が成立した場合、ピニオン14の押し出しを開始してから、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が開始されるまでの期間、より具体的には、ピニオン14のリングギヤ側端面とリングギヤ25とが接触状態になってから、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行するまでの期間で燃焼が実施されるように燃料噴射及び点火の時期を制御する構成としたため、エンジン20の燃焼エネルギによってエンジン回転速度が急変した場合にも、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合いタイミングでの相対回転速度差が大きくなるのを抑制し、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合いを適正に実施することができるとともに、エンジン20をいち早くかつ確実に再始動することができる。
【0056】
エンジン再始動に際し、将来のエンジン回転速度の予測値を用いてスタータの駆動制御を実施する構成としたため、ピニオンの移動開始のタイミングや、ピニオンからリングギヤへの動力伝達が開始されるタイミングを事前にかつ正確に算出しておくことができる。したがって、ピニオン14のリングギヤ側端面とリングギヤ25とが接触状態になってから、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行するまでの期間を正確に把握することができ、結果として、上記期間でエンジン燃焼を確実に再開することができる。
【0057】
(他の実施形態)
本発明は、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0058】
・回転降下期間中にエンジン再始動する場合のエンジン20の燃焼開始のタイミングは、ピニオン14の押し出しを開始してから、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が開始される前の始動前期間内であれば特に限定しない。
【0059】
具体的には、例えば、回転降下期間中に再始動条件が成立した場合、ピニオン14とリングギヤ25とが接触状態になってから噛み合い状態に移行するまでの期間でエンジン20の燃焼が開始されるよう燃料噴射や点火を制御する構成に代えて、ピニオン14の押し出しを開始してから、ピニオン14とリングギヤ25とが接触状態になるまでの期間でエンジン20の燃焼が開始されるよう燃料噴射等を制御する構成とする。ピニオン14の押し出しが開始されていれば、その後、速やかにピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行するため、仮に、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態に移行する前にエンジン20の燃焼が行われ、エンジン20の燃焼エネルギによって意図せずにエンジン回転速度が変化した場合にも、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合いタイミングにおいて両者の相対回転速度差が大きくなりすぎるのを回避することができる。また、いち早くエンジンを再始動することができる点で好ましい。
【0060】
・上記実施形態では、所定期間内にエンジン20の燃焼が行われるようにエンジン20の燃料噴射や点火の時期を制御したが、上記始動前期間内の所定タイミングでエンジン20の燃焼が開始されるよう燃料噴射等の時期を制御する構成としてもよい。上記所定タイミングとしては、例えば、ピニオン14とリングギヤ25とが接触状態になるタイミングや、ピニオン14とリングギヤ25とが噛み合い状態になるタイミング、ピニオン14の移動開始タイミングとする。
【0061】
・上記実施形態では、予測エンジン回転速度に基づいてスタータ10を駆動したりエンジン20の燃焼を開始したりしたが、予測エンジン回転速度を用いない構成としてもよい。具体的には、例えば、クランク角センサ31で検出した実エンジン回転速度が、予め定めた所定回転速度になったタイミングでピニオン14の押し出しを実施するとともに、その押し出しタイミングから噛み合い所要時間TB又は移動所要時間TAが経過したタイミングでエンジン20の燃焼が開始されるように、燃料噴射及び点火のタイミングを制御する。
【0062】
・上記の図4では、ステップS214でピニオン14とリングギヤ25との噛み合い完了と判定されたタイミングでモータ駆動を開始したが、ピニオン14がリングギヤ25との接触位置まで移動して接触状態になったタイミングでモータ駆動を開始してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、再始動条件が成立した場合、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合い後にモータ駆動してエンジン20を再始動する場合について説明したが、噛み合い前に予めモータ11によりピニオン14を回転した状態とし、その回転状態のピニオン14とリングギヤ25とを噛み合わせてエンジン20を再始動する場合にも適用してもよい。回転状態のピニオン14とリングギヤ25とを噛み合わせる場合、エンジン再始動要求のタイミングからピニオン14の移動開始までに費やす時間は都度異なり、また、移動開始までの時間が都度異なれば、エンジン燃焼についても都度異なるタイミングで開始するのが好ましい。そこで、エンジン燃焼開始の時期について、本構成のように、ピニオン14の移動を開始してから、ピニオン14からリングギヤ25への動力伝達が開始されるまでの期間内とするとよい。この場合、ピニオン14とリングギヤ25との噛み合わせを適正に実施することができ、しかもドライバの始動要求を迅速に満たすことができる。
【0064】
・上記実施形態では、ピニオン14の押し出しとモータ11の駆動とを独立して制御可能なスタータ10を本発明に適用する場合を説明したが、ピニオン14の押し出しを行うことによってモータ11が駆動される従来のスタータを本発明に適用してもよい。
【0065】
・ガソリンエンジンを適用する場合について説明したが、ディーゼルエンジンを本発明に適用する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…スタータ、11…モータ、14…ピニオン、20…エンジン、24…クランク軸、25…リングギヤ、27…SL1駆動リレー、28…SL2駆動リレー、40…ECU(条件判定手段、移動制御手段、燃焼制御手段、回転予測手段、タイミング算出手段、噛み合い時刻算出手段、接触時刻算出手段)、SL1…第1ソレノイド、SL2…第2ソレノイド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン出力軸に連結されたリングギヤに向けてスタータのピニオンを移動させ前記リングギヤと前記ピニオンとの噛み合いを実施するとともに、前記リングギヤに前記ピニオンを噛み合わせた状態での前記スタータのモータの駆動により、前記ピニオンから前記リングギヤに動力伝達されて始動されるエンジンに適用され、
所定の自動停止条件が成立した場合にエンジンの燃焼を停止してエンジン自動停止し、前記自動停止条件の成立後、所定の再始動条件が成立した場合に前記ピニオンから前記リングギヤに動力伝達してエンジンを再始動するエンジン停止始動制御装置であって、
エンジン自動停止に際してエンジンの回転降下が生じる回転降下期間において、前記再始動条件が成立したことを判定する条件判定手段と、
前記条件判定手段により前記再始動条件が成立したと判定された場合に、前記リングギヤに向けて前記ピニオンを移動させる移動制御手段と、
前記移動制御手段による前記ピニオンの移動を開始してから、前記ピニオンから前記リングギヤへの動力伝達が開始されるまでの動力伝達前期間において、エンジンの燃焼を開始する燃焼制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジン停止始動制御装置。
【請求項2】
エンジン回転速度を検出する手段と、
前記回転降下期間において、現時点以前に検出したエンジン回転速度を用いて、現時点よりも後のエンジン回転速度である予測エンジン回転速度を算出する回転予測手段と、
前記回転予測手段により算出した予測エンジン回転速度に基づいて、前記ピニオンの移動の開始タイミングを算出するタイミング算出手段と、を備え、
前記移動制御手段は、前記タイミング算出手段により算出した開始タイミングで前記ピニオンの移動を開始する請求項1に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項3】
前記移動制御手段による前記ピニオンの移動開始後、前記ピニオンのリングギヤ側端面が前記リングギヤとの接触位置まで移動して接触状態になる時刻を接触時刻として算出する接触時刻算出手段と、
前記移動制御手段による前記ピニオンの移動開始後、前記ピニオンと前記リングギヤとが噛み合い状態になる時刻を噛み合い時刻として算出する噛み合い時刻算出手段と、を備え、
前記燃焼制御手段は、前記動力伝達前期間のうち、前記接触時刻から前記噛み合い時刻までの間にエンジンの燃焼を開始する請求項1又は2に記載のエンジン停止始動制御装置。
【請求項4】
前記移動制御手段による前記ピニオンの移動開始後、前記ピニオンのリングギヤ側端面が前記リングギヤとの接触位置まで移動して接触状態になる時刻を接触時刻として算出する接触時刻算出手段を備え、
前記燃焼制御手段は、前記動力伝達前期間のうち、前記ピニオンの移動を開始してから前記接触時刻になるまでの間にエンジンの燃焼を開始する請求項1又は2に記載のエンジン停止始動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154240(P2012−154240A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13697(P2011−13697)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】