エンジン回転停止制御装置
【課題】エンジン回転停止制御の際に、オルタネータの発電電流が抑制されることを防止して、オルタネータの負荷トルクの制御性を確保できるようにする。
【解決手段】実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するエンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する。この消費電力増加制御によってバッテリ32の電力を消費して、その分、バッテリ32に充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を増加させる。これにより、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越えることを未然に防止して、オルタネータ33の発電電流がレギュレータで抑制されることを防止する。
【解決手段】実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するエンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する。この消費電力増加制御によってバッテリ32の電力を消費して、その分、バッテリ32に充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を増加させる。これにより、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越えることを未然に防止して、オルタネータ33の発電電流がレギュレータで抑制されることを防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転停止位置(停止クランク角)を制御する機能を備えたエンジン回転停止制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、特許文献1(特開2008−215230号公報)に記載されているように、エンジン自動停止・始動システム(アイドルストップシステム)を搭載した車両では、再始動性を向上させるために、エンジン停止時(アイドルストップ時)にエンジン回転停止位置(停止クランク角)を始動に適したクランク角範囲に制御することを目的として、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するまでの回転挙動を目標軌道として算出し、エンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機(オルタネータ)の負荷トルクを制御するエンジン回転停止制御を行うようにしたものがある。具体的には、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機の要求負荷トルクを算出し、発電機の負荷トルク特性(発電指令値とエンジン回転速度と負荷トルクとの関係)を用いて、現在のエンジン回転速度と要求負荷トルクに応じた発電指令値を算出し、この発電指令値で発電機の発電制御電流(フィールド電流)を制御して発電機の負荷トルクを制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン回転停止制御の実行中は、発電機の要求負荷トルクに応じて発電制御電流(フィールド電流)が制御されて発電電流が出力される。この際、発電機の発電電力のうちの車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)を越えた余剰分がバッテリに充電されるようになっている。しかし、車両の消費電力が小さい場合やバッテリに充電可能な電力量が小さい場合には、エンジン回転停止制御の際に、発電機の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリの充電可能電力量)を越えてしまう可能性がある。発電機の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越える場合、発電機の発電電流がレギュレータで抑制されるため、発電機の負荷トルクを精度良く要求負荷トルクに制御することができず、発電機の負荷トルクの制御性が低下して、エンジン回転停止制御の精度が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、エンジン回転停止制御の際に、発電機の発電電流が抑制されることを防止して、発電機の負荷の制御性を確保することができるエンジン回転停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、エンジンで駆動される発電機と、該発電機の発電電力を充電するバッテリとを備えた車両に適用され、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出する目標軌道算出手段と、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機の負荷を制御するエンジン回転停止制御を実行する停止制御手段とを備えたエンジン回転停止制御装置において、エンジン回転停止制御の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する電力制御手段を備えた構成としたものである。
【0007】
この構成では、エンジン回転停止制御の開始前に、消費電力増加制御によってバッテリの電力を消費することができ、その分、バッテリに充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリの充電可能電力量)を増加させることができ、車両の受け入れ可能な電力量をエンジン回転停止制御中の発電機の発電電力量よりも大きくすることができる。これにより、エンジン回転停止制御の際に、発電機の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越えることを未然に防止することができるため、発電機の発電電流がレギュレータで抑制されることを防止することができて、発電機の負荷の制御性を確保することができ、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができる。
【0008】
本発明は、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する際の所定量と所定時間(つまり消費電力増加制御の消費電力増加分と継続時間)を予め設定した固定値として、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を固定値としても良い。
【0009】
ところで、車両の電力消費状態やバッテリ状態によって、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリの充電可能電力量)が変化するため、車両の受け入れ可能な電力量を発電機の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力増加制御の消費電力量も変化する。
【0010】
そこで、請求項2のように、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態に基づいて所定量と所定時間(つまり消費電力増加制御の消費電力増加分と継続時間)のうちの少なくとも一方を設定するようにしても良い。このようにすれば、車両の電力消費状態によって、車両の受け入れ可能な電力量を発電機の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力量が変化するのに対応して、所定量や所定時間を変化させて、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定することができ、消費電力増加制御の消費電力量が必要以上に大きくなることを防止できる。
【0011】
また、請求項3のように、消費電力増加制御の開始前のバッテリ状態に基づいて所定量と所定時間(つまり消費電力増加制御の消費電力増加分と継続時間)のうちの少なくとも一方を設定するようにしても良い。このようにすれば、バッテリ状態によって、車両の受け入れ可能な電力量を発電機の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力量が変化するのに対応して、所定量や所定時間を変化させて、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定することができ、消費電力増加制御の消費電力量が必要以上に大きくなることを防止できる。
【0012】
更に、請求項4のように、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの少なくとも一方に基づいて消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定し、消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定した場合に、消費電力増加制御を禁止するようにしても良い。このようにすれば、消費電力増加制御を実行する必要が無いにも拘らず消費電力増加制御を無駄に実行するといった事態を未然に回避することができる。
【0013】
ところで、本発明は、エンジン停止要求が発生したときに、消費電力増加制御を実行して、この消費電力増加制御を実行した後に、エンジン回転停止制御を実行するようにしても良いが、この場合、エンジン停止要求が発生したときに、速やかにエンジン回転停止制御を開始することができない。
【0014】
そこで、請求項5のように、エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、エンジン停止要求が発生すると予測したときに消費電力増加制御を実行するようにしても良い。このようにすれば、エンジン停止要求が発生する前に、消費電力増加制御を開始することができ、エンジン停止要求が発生したときに、速やかにエンジン回転停止制御を開始することができる。
【0015】
また、請求項6のように、消費電力増加制御の際に、車両に搭載された電気部品のうちのエンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品の消費電力を増加させるようにすると良い。このようにすれば、消費電力増加制御によってエンジン回転速度が変動することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は目標軌道の算出方法を説明する図である。
【図3】図3はオルタネータ負荷特性を説明する図である。
【図4】図4はエンジン回転停止制御時の見掛上のオルタネータ負荷特性を説明する図である。
【図5】図5(a)は基準負荷トルクTref(Ne(i))=0に設定してエンジン回転停止制御を行った比較例を説明するタイムチャートであり、図5(b)は基準負荷トルクTref(Ne(i))を最大負荷の半分に設定してエンジン回転停止制御を行った実施例を説明するタイムチャートである。
【図6】図6はエンジンECUのエンジン回転停止制御機能を説明するブロック図である。
【図7】図7は負荷トルク特性のマップの一例を概略的に示す図である。
【図8】図8はエンジン回転停止制御の際のオルタネータの要求負荷トルクと発電制御電流(フィールド電流)と発電電流の挙動を示すタイムチャートである。
【図9】図9は消費電力増加制御を説明するタイムチャートである。
【図10】図10は目標軌道算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図11】図11は実施例1の消費電力増加制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図12】図12はオルタF/B停止制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図13】図13は実施例2の消費電力増加制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1を図1乃至図12に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の構成を概略的に説明する。
エンジン11の吸気ポート12に接続された吸気管13の途中には、スロットルバルブ14が設けられ、このスロットルバルブ14の開度(スロットル開度)がスロットル開度センサ15によって検出される。また、スロットルバルブ14の下流側には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ18が設けられ、各気筒の吸気ポート12の近傍には、それぞれ吸気ポート12に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0019】
一方、エンジン11の排気ポート20に接続された排気管21の途中には、排気ガス浄化用の触媒22が設置されている。エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ23が設けられている。エンジン11のクランク軸24に取り付けられたシグナルロータ25の外周に対向してクランク角センサ26が設置され、このクランク角センサ26からシグナルロータ25の回転に同期して所定クランク角毎(例えば30℃A毎)にクランクパルス信号が出力される。また、エンジン11のカム軸27に取り付けられたシグナルロータ28の外周に対向してカム角センサ29が設置され、このカム角センサ29からシグナルロータ28の回転に同期して所定のカム角でカムパルス信号が出力される。
【0020】
また、オルタネータ33(発電機)には、クランク軸24に連結されたクランクプーリ34の回転がベルト35を介して伝達される。これにより、エンジン11の動力でオルタネータ33が回転駆動されて発電するようになっている。このオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)をデューティ制御することで、オルタネータ33の負荷を制御することができる。
【0021】
このオルタネータ33の発電電力は、車両に搭載された各種の電気部品(例えば、空調装置、オーディオ装置、ヘッドライト、ブレーキランプ、デフォッガ等)に供給される。その際、オルタネータ33の発電電力が車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)よりも大きいときには、その余剰分の電力がバッテリ32に充電される。一方、オルタネータ33の発電電力が車両の消費電力よりも小さいときには、その不足分の電力がバッテリ32から各種の電気部品に供給される。
【0022】
上述した各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「エンジンECU」と表記する)30に入力される。このエンジンECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、各種センサで検出したエンジン運転状態に応じて、燃料噴射弁19の燃料噴射量や燃料噴射時期、点火プラグ31の点火時期を制御すると共に、エンジン運転中に所定の自動停止条件(例えばアクセル全閉、ブレーキ操作中、アイドル運転中等の条件)が成立してエンジン停止要求が発生したときに、燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン回転を停止させるアイドルストップを実行し、このアイドルストップによるエンジン回転停止中(アイドルストップ中)に運転者が車両発進のための準備操作(ブレーキ解除、シフトレバーのドライブレンジへの操作等)や発進操作(アクセル踏み込み等)が行われたとき、或は車載機器の制御システムからの始動要求が発生したときに、所定の自動始動条件が成立してスタータ(図示せず)に通電してエンジン11をクランキングして再始動させる。
【0023】
更に、エンジンECU30は、後述する図10乃至図12の各ルーチンを実行することで、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出する目標軌道算出手段として機能すると共に、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように制御するエンジン回転停止制御を実行する停止制御手段として機能する。本実施例では、エンジン回転停止制御として、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷をフィードバック制御するオルタF/B停止制御を実行する。更に、エンジン11の燃焼停止前(燃焼中)に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように点火時期をフィードバック制御する点火F/B停止制御を実行するようにしても良い。
【0024】
エンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の際に、エンジン回転速度がオルタネータ33の発電限界回転速度以下に低下すると、オルタネータ33の負荷トルクがほとんど発生しなくなる(図3参照)。このような回転速度領域では、オルタネータ33の負荷トルクの影響をほとんど受けずにエンジン回転速度が低下してエンジン回転が停止するため、所定の基準タイミングを通過する際のエンジン回転速度に応じた停止クランク角でエンジン回転が停止する。ここで、基準タイミングは、エンジン回転速度がオルタネータ33の発電限界回転速度以下の回転速度領域でクランク角が所定位置(例えばTDC)となるタイミングである。
【0025】
このような特性に着目して、本実施例では、基準タイミングのエンジン回転速度(基準タイミングを通過する際のエンジン回転速度)と停止クランク角との関係を用いて、停止クランク角が目標停止クランク角となる基準タイミングのエンジン回転速度を基準回転速度として求め、目標軌道は、この基準回転速度に至るまでのクランク角と目標エンジン回転速度との関係を所定クランク角間隔で算出してテーブル(図示せず)に割り付けたものである。この目標軌道は、例えば、ロストルクを考慮したエネルギ保存則の関係式を用いて、基準回転速度を初期値としてクランク角を溯る方向に所定クランク角Δθ毎(例えばTDC毎)に算出される(図2参照)。
【0026】
エネルギ保存則の関係式は次式で表される。
Ne(i+1)2 =Ne(i)2 +2/J×{Tloss( θ(i) ) −Tref(Ne(i))}×Δθ
ここで、Ne(i+1)は、現時点(i) よりも所定クランク角Δθ前の時点(i+1) のエンジン回転速度であり、Ne(i)は現時点(i) のエンジン回転速度である。また、Jはエンジン11の慣性モーメントである。Tloss( θ(i) )は、現時点(i) のクランク角θ(i) におけるポンピングロスとフリクションロスを合計したロストルクであり、予め設定されたマップ等を用いて現時点(i) のクランク角θ(i) に応じたロストルクTloss( θ(i) )が算出される。Tref(Ne(i))は現時点(i) のエンジン回転速度Ne(i)におけるオルタネータ33の基準負荷トルクである。
【0027】
上記エネルギ保存則の関係式において、「Tloss( θ(i) )−Tref(Ne(i))」は、ポンピングロスとフリクションロスとオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を合計したロストルクに相当する。
【0028】
本実施例では、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))は、図3に示すようにオルタネータ33の制御可能な最大負荷の半分(1/2)に設定されている。このようにすれば、オルタネータ33は、モータジェネレータとは異なり、アシストトルクを出力できないという事情があっても、仮想的にオルタネータ33の負荷トルクを正負両方向に制御することが可能となり(基準負荷Tref 以下の負荷トルクを仮想的に負の負荷トルクとし、基準負荷Tref 以上の負荷トルクを正の負荷トルクとしてオルタネータ33の負荷トルクを制御することが可能となり)、目標軌道へのエンジン回転挙動の追従性を向上することができる。
【0029】
尚、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))は、最大負荷の半分(1/2)に限定されず、例えば、最大負荷の1/3、1/4、2/3、3/4等であっても良く、要は、オルタネータ33の制御可能な最大負荷よりも小さく、0よりも大きい適宜の負荷を基準負荷トルクTref(Ne(i))に設定すれば良い。
0<Tref(Ne(i))<最大負荷
【0030】
図5(a)は、基準負荷トルクTref(Ne(i))=0に設定してエンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)を行った比較例を示している。この比較例では、オルタネータ33の負荷トルクを正方向にしか制御できないため、実エンジン回転挙動がオーバーシュートした場合は、実エンジン回転挙動を目標軌道に一致させることができなくなる。
【0031】
これに対して、本実施例のように、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を最大負荷よりも小さい適宜の負荷に設定すれば、図4に示すように、仮想的にオルタネータ33の負荷トルクを正負両方向に制御することが可能となるため、図5(b)に示すように、実回転挙動がオーバーシュートした場合でも、実回転挙動を目標軌道に一致させることができる。
【0032】
更に、本実施例では、図6に示すように、目標軌道を算出する際に、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))に応じた目標軌道を算出し、エンジン回転停止制御の実行中は、エンジン回転速度Ne(i)に応じた基準負荷トルクTref(Ne(i))を算出すると共に、現時点(i) のクランク角θ(i) における目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度との偏差を小さくするようにフィードバック負荷トルクを算出して、このフィードバック負荷トルクに基準負荷トルクTref(Ne(i))を加算して要求負荷トルクTalt を求める(実際には、この要求負荷トルクTalt にプーリ比Ratioを乗算して要求軸トルクTalt.final に変換する)。
【0033】
この後、図7に示すオルタネータ33の負荷トルク特性を用いて、オルタネータ33の要求負荷トルクTalt (要求軸トルクTalt.final )とエンジン回転速度Ne (又はエンジン回転速度Ne にプーリ比Ratioを乗算して求めたオルタネータ33の回転速度Nalt )に応じた発電指令値(デューティDuty )を算出する。この際、要求負荷トルクTalt とエンジン回転速度Ne (又はオルタネータ33の回転速度Nalt )から発電指令値(デューティDuty )を直接算出するようにしても良いが、要求負荷トルクTalt とエンジン回転速度Ne (又はオルタネータ33の回転速度Nalt )から要求フィールド電流(要求励磁電流)を算出し、この要求フィールド電流から発電指令値(デューティDuty )を算出するようにしても良い。
【0034】
尚、図7に示す負荷トルク特性は、オルタネータ33の出力電圧が所定値(例えば13.5V)で一定の場合の特性であり、出力電圧毎に同様の特性が設定されている。この発電指令値(デューティDuty )に基づいてオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)を制御してオルタネータ33の負荷トルクを制御する。
【0035】
このようなオルタネータ33の負荷トルクの制御を、エンジン回転速度がオルタネータ33の発電限界回転速度Nelow(図3参照)以下に低下するまで所定クランク角間隔で周期的に実行することで、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するエンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)を行う。
【0036】
エンジン回転停止制御の際に、エンジンECU30は、所定クランク角周期で発電指令値を演算し、この発電指令値をCAN(Controller Area Network )通信等により所定時間周期で電源系ECU36(図1参照)に送信する。更に、電源系ECU36は、受信した発電指令値をLIN(Local Interconnect Network)通信等により所定時間周期でオルタネータ33に送信する。
【0037】
ところで、図8に示すように、エンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の実行中は、オルタネータ33の要求負荷トルクに応じて発電制御電流(フィールド電流)が制御されて発電電流が出力される。この際、オルタネータ33の発電電力のうちの車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)を越えた余剰分がバッテリ32に充電されるようになっている。しかし、車両の消費電力が小さい場合やバッテリ32に充電可能な電力量が小さい場合には、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を越えてしまう可能性がある。オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越える場合、オルタネータ33の発電電流がレギュレータで抑制されるため、オルタネータ33の負荷トルクを精度良く要求負荷トルクに制御することができず、オルタネータ33の負荷トルクの制御性が低下して、エンジン回転停止制御の精度が低下するという問題がある。
【0038】
この対策として、本実施例では、エンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する。この消費電力増加制御によってバッテリ32の電力を消費することができ、その分、バッテリ32に充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を増加させることができ、車両の受け入れ可能な電力量をエンジン回転停止制御中のオルタネータ33の発電電力量よりも大きくすることができる。
【0039】
具体的には、図9に示すように、エンジン運転中にエンジン停止要求(アイドルストップ要求)が発生してエンジン停止要求フラグが「1」にセットされた時点t1 で、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態(例えば各種の電気部品の消費電力やオン/オフ状態等)とバッテリ状態(例えばバッテリ32の充電状態や劣化状態等)を検出又は推定し、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する。
【0040】
その結果、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定した場合には、消費電力増加制御実行フラグを「1」にセットして、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する。この際、まず、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を設定する。そして、車両に搭載された電気部品のうちのエンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品(例えば電熱式デフォッガ等)の消費電力を所定量増加させて、車両の消費電力を所定量増加させる。この場合、電気部品への通電をオフからオンに切り換えて消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、或は、既に通電オン中の電気部品の消費電力を更に所定量増加させるようにしても良い。また、1つの電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、2つ以上の電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良い。
【0041】
その後、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過した時点t2 で、消費電力増加制御実行フラグを「0」にリセットして、消費電力増加制御を終了する。更に、燃料カット要求フラグを「1」にセットして、燃料噴射を停止する燃料カットを実行することで、エンジン11の燃焼を停止させると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するオルタF/B停止制御を実行する。尚、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過した後も、暫く消費電力増加制御を継続して実行するようにしても良い。
【0042】
以上説明した本実施例のエンジン回転停止制御は、エンジンECU30によって図10乃至図12の各ルーチンに従って実行される。以下、これら各ルーチンの処理内容を説明する。
【0043】
[目標軌道算出ルーチン]
図10に示す目標軌道算出ルーチンは、エンジンECU30の電源オン中に所定周期(所定クランク角周期)で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、目標軌道算出完了フラグが目標軌道の算出前を意味する「0」にセットされているか否かを判定し、この目標軌道算出完了フラグが目標軌道算出完了を意味する「1」にセットされていれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0044】
一方、このステップ101で、目標軌道算出完了フラグ=0(目標軌道の算出前)と判定されれば、ステップ102に進み、ロストルクTloss( θ(i) )とオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を用いて、次式で表されるエネルギ保存則の関係式を用いて次の時点(i+1) の目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗を算出する。
【0045】
Ne(i+1)2 =Ne(i)2 +2/J×{Tloss( θ(i) )−Tref(Ne(i))}×Δθ
ここで、Jはエンジン11の慣性モーメント、Tloss( θ(i) )は、ポンピングロスとフリクションロスを合計したロストルクであり、予め設定されたマップ等を用いて、現時点(i) のクランク角θ(i) に応じたロストルクTloss( θ(i) )を算出する。
【0046】
上記エネルギ保存則の関係式において、「Tloss( θ(i) )−Tref(Ne(i))」は、ポンピングロスとフリクションロスとオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を合計したロストルクに相当する。
【0047】
初期値は、i=0、θ(0) =基準タイミングのクランク角、Ne(0)=基準回転速度である。この基準回転速度Ne(0)は、停止クランク角が目標停止クランク角となる基準タイミングのエンジン回転速度である。目標軌道は、基準回転速度Ne(0)を初期値としてクランク角を溯る方向に所定クランク角Δθ毎(例えばTDC毎)に算出する。
【0048】
この後、ステップ103に進み、目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗がエンジン回転停止制御を実行可能な最大エンジン回転速度Nemaxの二乗を越えたか否かを判定し、まだ最大エンジン回転速度Nemaxの二乗を越えていなければ、ステップ104に進み、目標軌道算出完了フラグを「0」に維持する(セットし直す)。
【0049】
この後、ステップ106に進み、目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗の平方根を算出して目標エンジン回転速度Ne(i+1)を求め、これを目標軌道のテーブル(図示せず)に割り付けて、本ルーチンを終了する。尚、エンジンECU30の演算負荷を低減するため、エンジン回転速度の二乗をそのままテーブルに割り付けても良い。目標軌道のテーブルは、エンジンECU30のメモリに記憶される。
【0050】
以上のような処理を繰り返して、基準回転速度Ne(0)を初期値としてクランク角を溯る方向に所定クランク角毎(例えばTDC毎)に目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗を算出して目標軌道のテーブルに目標エンジン回転速度Ne(i+1)を割り付ける処理を繰り返す。そして、上記ステップ103で、目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗がエンジン回転停止制御を実行可能な最大エンジン回転速度Nemaxの二乗を越えたと判定された時点で、ステップ105に進み、目標軌道算出完了フラグを目標軌道算出完了を意味する「1」にセットして、ステップ106に進み、最後の目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗の平方根を算出して目標エンジン回転速度Ne(i+1)を求め、これを目標軌道のテーブルに割り付けて、本ルーチンを終了する。
【0051】
[消費電力増加制御ルーチン]
図11に示す消費電力増加制御ルーチンは、エンジンECU30の電源オン中に所定周期(所定クランク角周期)で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう電力制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、エンジン停止要求(アイドルストップ要求)が発生したか否かを判定し、エンジン停止要求が発生していなければ、ステップ208に進み、燃料カット要求フラグを「0」に維持すると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「0」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
【0052】
その後、上記ステップ201で、エンジン停止要求が発生したと判定された時点で、ステップ202に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態(例えば各種の電気部品の消費電力やオン/オフ状態等)と、バッテリ状態(例えばバッテリ32の充電状態や劣化状態等)を検出又は推定した後、ステップ203に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する。
【0053】
この場合、例えば、車両の電力消費状態から求めた車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)が所定値以下で、且つ、バッテリ状態から求めたバッテリ32の充電可能電力量(バッテリ32に充電可能な電力量)が所定値以下の場合には、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定する。尚、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する方法は、これに限定されず、適宜変更しても良い。
【0054】
このステップ203で、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定されれば、ステップ204に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を算出する。
【0055】
この場合、例えば、車両の電力消費状態から求めた車両の消費電力と、バッテリ状態から求めたバッテリ32の充電可能電力量に応じて、所定量と所定時間をそれぞれマップ又は数式等により算出する。これにより、車両の電力消費状態やバッテリ状態によって、車両の受け入れ可能な電力量が変化して、その車両の受け入れ可能な電力量をオルタネータ33の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力量が変化するのに対応して、所定量や所定時間を変化させて、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定する。尚、所定量と所定時間の設定方法は、これに限定されず、適宜変更しても良い。
【0056】
この後、ステップ205に進み、エンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品(例えば電熱式デフォッガ等)の消費電力を所定量増加させて、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を実行する。この場合、電気部品への通電をオフからオンに切り換えて消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、或は、既に通電オン中の電気部品の消費電力を更に所定量増加させるようにしても良い。また、1つの電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、2つ以上の電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良い。
【0057】
この後、ステップ206に進み、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したか否かを判定し、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したと判定された時点で、ステップ207に進み、消費電力増加制御を終了した後、ステップ209に進み、燃料カット要求フラグを「1」にセットすると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、本ルーチンを終了する。
【0058】
一方、上記ステップ203で、消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定された場合には、消費電力増加制御を禁止して、上記ステップ204〜207の処理を実行することなく、ステップ209に進み、燃料カット要求フラグを「1」にセットすると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、本ルーチンを終了する。
【0059】
[オルタF/B停止制御ルーチン]
図12に示すオルタF/B停止制御ルーチンは、エンジンECU30の電源オン中に所定周期(所定クランク角周期)で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、オルタF/B停止制御許可フラグがオルタF/B停止制御の許可を意味する「1」にセットされているか否かを判定し、オルタF/B停止制御許可フラグが「0」であれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0060】
その後、上記ステップ301で、オルタF/B停止制御許可フラグ=1と判定された時点で、ステップ302に進み、現在のクランク角θとエンジン回転速度Ne を算出する。この後、ステップ303に進み、現在のクランク角θがオルタネータ33の負荷トルクの制御タイミング(例えばTDC)であるか否かを判定し、オルタネータ33の負荷トルクの制御タイミングでなければ、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0061】
上記ステップ303で、現在のクランク角θがオルタネータ33の負荷トルクの制御タイミングであると判定されれば、ステップ304に進み、現在のエンジン回転速度Ne がエンジン回転停止制御を実行可能な最大エンジン回転速度Nemaxよりも低いか否かを判定し、現在のエンジン回転速度Ne が最大エンジン回転速度Nemax以上であれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0062】
その後、上記ステップ304で、現在のエンジン回転速度Ne が最大エンジン回転速度Nemaxよりも低いと判定されれば、ステップ305に進み、エンジン11が燃焼中であるか否かを判定する。このステップ305で、エンジン停止要求が発生した直後でエンジン11がまだ燃焼中であると判定されれば、ステップ306に進み、エンジン回転停止制御を開始する際のオルタネータ33の要求負荷トルクTalt を初期値(例えば基準負荷トルクTref(Ne) )に設定する。
Talt =Tref(Ne)
【0063】
その後、上記ステップ305で、エンジン11の燃焼が停止したと判定された場合には、ステップ307に進み、目標軌道のテーブルを参照して、今回の制御タイミングに対応した目標エンジン回転速度Netg を求める。
【0064】
この後、ステップ308に進み、現在のエンジン回転速度Ne と目標エンジン回転速度Netg とのエネルギ差分ΔEを次式により算出する。
ΔE=J/2×(Ne 2 −Netg 2 )
ここで、Jはエンジン11の慣性モーメントである。
【0065】
この後、ステップ309に進み、エネルギ差分ΔEとオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne) を用いて、次式により要求負荷トルクTalt を算出する。
Talt =K×ΔE/Δθ+Tref(Ne)
ここで、「K×ΔE/Δθ」はフィードバック負荷トルクであり、Kはフィードバックゲイン、Δθはクランク角変化量である。
【0066】
この後、ステップ310に進み、要求負荷トルクTalt にプーリ比Ratioを乗算して、オルタネータ33の要求軸トルクTalt.final に変換する。
この後、ステップ311に進み、バッテリ電圧を検出した後、ステップ312に進み、バッテリ電圧毎に作成された複数の負荷トルク特性マップ(図7参照)の中から、現在のバッテリ電圧に対応する負荷トルク特性マップを選択して、現在の要求負荷トルクTalt (要求軸トルクTalt.final )とエンジン回転速度Ne (又はオルタネータ33の回転速度Nalt )に応じた発電指令値(デューティDuty )を算出する。
【0067】
この発電指令値(デューティDuty )に基づいてオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)を制御してオルタネータ33の負荷トルクを制御することで、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するオルタF/B停止制御を行う。
【0068】
以上説明した本実施例1では、エンジン回転停止制御の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行するようにしたので、エンジン回転停止制御の開始前に、消費電力増加制御によってバッテリ32の電力を消費することができ、その分、バッテリ32に充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を増加させることができ、車両の受け入れ可能な電力量をエンジン回転停止制御中のオルタネータ33の発電電力量よりも大きくすることができる。これにより、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越えることを未然に防止することができるため、オルタネータ33の発電電流がレギュレータで抑制されることを防止することができて、オルタネータ33の負荷の制御性を確保することができ、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができる。
【0069】
また、本実施例1では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を算出するようにしたので、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定することができ、消費電力増加制御の消費電力量が必要以上に大きくなることを防止できる。
【0070】
更に、本実施例1では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定し、消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定した場合に、消費電力増加制御を禁止するようにしたので、消費電力増加制御を実行する必要が無いにも拘らず消費電力増加制御を無駄に実行するといった事態を未然に回避することができる。
【0071】
また、本実施例1では、消費電力増加制御の際に、エンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品の消費電力を増加させるようにしたので、消費電力増加制御によってエンジン回転速度が変動することを防止できる。
【実施例2】
【0072】
次に、図13を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0073】
前記実施例1では、エンジン停止要求が発生したときに消費電力増加制御を実行するようにしたが、本実施例2では、エンジンECU30により後述する図13の消費電力増加制御ルーチンを実行することで、エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、エンジン停止要求が発生すると予測したときに消費電力増加制御を実行するようにしている。
【0074】
図13に示す消費電力増加制御ルーチンでは、まず、ステップ401で、エンジン停止要求が発生する可能性が高いか否かによって、エンジン停止要求が発生するか否かを予測する。この場合、例えば、エンジン自動停止条件が成立する一歩手前の状態になったとき(例えばアクセル開度が所定値以下になったとき、車速が所定値以下になったとき、エンジン回転速度が所定値以下になったとき等)に、エンジン停止要求が発生する可能性が高いと判定する。尚、エンジン停止要求が発生する可能性が高いか否かを判定する方法は、これに限定されず、適宜変更しても良い。
【0075】
このステップ401で、エンジン停止要求が発生する可能性が高くない(低い)と判定された場合には、エンジン停止要求が発生しないと予測して、ステップ410に進み、燃料カット要求フラグを「0」に維持すると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「0」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
【0076】
一方、上記ステップ401で、エンジン停止要求が発生する可能性が高いと判定された場合には、エンジン停止要求が発生すると予測して、ステップ402に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態バッテリ状態を検出又は推定した後、ステップ403に進み、車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する。
【0077】
このステップ403で、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定されれば、ステップ404に進み、車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を算出した後、ステップ405に進み、エンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品(例えば電熱式デフォッガ等)の消費電力を所定量増加させて、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を実行する。
【0078】
この後、ステップ406に進み、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したか否かを判定し、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したと判定された時点で、ステップ407に進み、消費電力増加制御を終了する。
【0079】
この後、テップ408に進み、エンジン停止要求が発生すると予測してから所定期間内にエンジン停止要求が発生したか否かを判定し、所定期間内にエンジン停止要求が発生しなければ、ステップ409に進み、燃料カット要求フラグを「0」に維持すると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「0」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
【0080】
一方、上記ステップ408で、エンジン停止要求が発生すると予測してから所定期間内にエンジン停止要求が発生すれば、ステップ410に進み、燃料カット要求フラグを「1」にセットすると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、本ルーチンを終了する。
【0081】
以上説明した本実施例2では、エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、エンジン停止要求が発生すると予測したときに消費電力増加制御を実行するようにしたので、エンジン停止要求が発生する前に、消費電力増加制御を開始することができ、エンジン停止要求が発生したときに、速やかにエンジン回転停止制御を開始することができる。
【0082】
尚、上記各実施例1,2では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態の両方に基づいて消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定するようにしたが、これに限定されず、車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの一方のみに基づいて消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定するようしても良い。例えば、車両の電力消費状態から求めた車両の消費電力が所定値以下の場合に、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定する。或は、バッテリ状態から求めたバッテリ32の充電可能電力量が所定値以下の場合に、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定する。
【0083】
また、上記各実施例1,2では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態の両方に応じて所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を設定するようにしたが、これに限定されず、車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの一方のみに応じて所定量と所定時間を設定するようにしても良い。
【0084】
また、本発明は、所定量を予め設定した固定値として、所定時間のみを車両の電力消費状態やバッテリ状態に応じて設定するようにしたり、或は、所定時間を予め設定した固定値として、所定量のみを車両の電力消費状態やバッテリ状態に応じて設定するようにしても良い。更に、所定量と所定時間を両方とも予め設定した固定値として、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を固定値としても良い。
【0085】
また、本発明は、消費電力増加制御を実行するための専用の電気部品を車両に搭載して、その電気部品の消費電力を増加させて消費電力増加制御を実行するようにしても良い。
【0086】
また、本発明は、図1に示すような吸気ポート噴射式エンジンに限定されず、筒内噴射式エンジンや、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンにも適用して実施できる。
【0087】
更に、本発明の適用範囲は、車両の動力源としてエンジンのみを備えた一般的な車両に限定されず、車両の動力源としてエンジンとモータを備えたハイブリッド車に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0088】
11…エンジン(内燃機関)、13…吸気管、14…スロットルバルブ、18…吸気管圧力センサ、19…燃料噴射弁、21…排気管、30…エンジンECU(目標軌道算出手段,停止制御手段,電力制御手段)、32…バッテリ、33…オルタネータ(発電機)
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転停止位置(停止クランク角)を制御する機能を備えたエンジン回転停止制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、特許文献1(特開2008−215230号公報)に記載されているように、エンジン自動停止・始動システム(アイドルストップシステム)を搭載した車両では、再始動性を向上させるために、エンジン停止時(アイドルストップ時)にエンジン回転停止位置(停止クランク角)を始動に適したクランク角範囲に制御することを目的として、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するまでの回転挙動を目標軌道として算出し、エンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機(オルタネータ)の負荷トルクを制御するエンジン回転停止制御を行うようにしたものがある。具体的には、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機の要求負荷トルクを算出し、発電機の負荷トルク特性(発電指令値とエンジン回転速度と負荷トルクとの関係)を用いて、現在のエンジン回転速度と要求負荷トルクに応じた発電指令値を算出し、この発電指令値で発電機の発電制御電流(フィールド電流)を制御して発電機の負荷トルクを制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジン回転停止制御の実行中は、発電機の要求負荷トルクに応じて発電制御電流(フィールド電流)が制御されて発電電流が出力される。この際、発電機の発電電力のうちの車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)を越えた余剰分がバッテリに充電されるようになっている。しかし、車両の消費電力が小さい場合やバッテリに充電可能な電力量が小さい場合には、エンジン回転停止制御の際に、発電機の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリの充電可能電力量)を越えてしまう可能性がある。発電機の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越える場合、発電機の発電電流がレギュレータで抑制されるため、発電機の負荷トルクを精度良く要求負荷トルクに制御することができず、発電機の負荷トルクの制御性が低下して、エンジン回転停止制御の精度が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、エンジン回転停止制御の際に、発電機の発電電流が抑制されることを防止して、発電機の負荷の制御性を確保することができるエンジン回転停止制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、エンジンで駆動される発電機と、該発電機の発電電力を充電するバッテリとを備えた車両に適用され、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出する目標軌道算出手段と、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように発電機の負荷を制御するエンジン回転停止制御を実行する停止制御手段とを備えたエンジン回転停止制御装置において、エンジン回転停止制御の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する電力制御手段を備えた構成としたものである。
【0007】
この構成では、エンジン回転停止制御の開始前に、消費電力増加制御によってバッテリの電力を消費することができ、その分、バッテリに充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリの充電可能電力量)を増加させることができ、車両の受け入れ可能な電力量をエンジン回転停止制御中の発電機の発電電力量よりも大きくすることができる。これにより、エンジン回転停止制御の際に、発電機の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越えることを未然に防止することができるため、発電機の発電電流がレギュレータで抑制されることを防止することができて、発電機の負荷の制御性を確保することができ、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができる。
【0008】
本発明は、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する際の所定量と所定時間(つまり消費電力増加制御の消費電力増加分と継続時間)を予め設定した固定値として、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を固定値としても良い。
【0009】
ところで、車両の電力消費状態やバッテリ状態によって、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリの充電可能電力量)が変化するため、車両の受け入れ可能な電力量を発電機の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力増加制御の消費電力量も変化する。
【0010】
そこで、請求項2のように、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態に基づいて所定量と所定時間(つまり消費電力増加制御の消費電力増加分と継続時間)のうちの少なくとも一方を設定するようにしても良い。このようにすれば、車両の電力消費状態によって、車両の受け入れ可能な電力量を発電機の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力量が変化するのに対応して、所定量や所定時間を変化させて、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定することができ、消費電力増加制御の消費電力量が必要以上に大きくなることを防止できる。
【0011】
また、請求項3のように、消費電力増加制御の開始前のバッテリ状態に基づいて所定量と所定時間(つまり消費電力増加制御の消費電力増加分と継続時間)のうちの少なくとも一方を設定するようにしても良い。このようにすれば、バッテリ状態によって、車両の受け入れ可能な電力量を発電機の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力量が変化するのに対応して、所定量や所定時間を変化させて、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定することができ、消費電力増加制御の消費電力量が必要以上に大きくなることを防止できる。
【0012】
更に、請求項4のように、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの少なくとも一方に基づいて消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定し、消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定した場合に、消費電力増加制御を禁止するようにしても良い。このようにすれば、消費電力増加制御を実行する必要が無いにも拘らず消費電力増加制御を無駄に実行するといった事態を未然に回避することができる。
【0013】
ところで、本発明は、エンジン停止要求が発生したときに、消費電力増加制御を実行して、この消費電力増加制御を実行した後に、エンジン回転停止制御を実行するようにしても良いが、この場合、エンジン停止要求が発生したときに、速やかにエンジン回転停止制御を開始することができない。
【0014】
そこで、請求項5のように、エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、エンジン停止要求が発生すると予測したときに消費電力増加制御を実行するようにしても良い。このようにすれば、エンジン停止要求が発生する前に、消費電力増加制御を開始することができ、エンジン停止要求が発生したときに、速やかにエンジン回転停止制御を開始することができる。
【0015】
また、請求項6のように、消費電力増加制御の際に、車両に搭載された電気部品のうちのエンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品の消費電力を増加させるようにすると良い。このようにすれば、消費電力増加制御によってエンジン回転速度が変動することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるエンジン制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】図2は目標軌道の算出方法を説明する図である。
【図3】図3はオルタネータ負荷特性を説明する図である。
【図4】図4はエンジン回転停止制御時の見掛上のオルタネータ負荷特性を説明する図である。
【図5】図5(a)は基準負荷トルクTref(Ne(i))=0に設定してエンジン回転停止制御を行った比較例を説明するタイムチャートであり、図5(b)は基準負荷トルクTref(Ne(i))を最大負荷の半分に設定してエンジン回転停止制御を行った実施例を説明するタイムチャートである。
【図6】図6はエンジンECUのエンジン回転停止制御機能を説明するブロック図である。
【図7】図7は負荷トルク特性のマップの一例を概略的に示す図である。
【図8】図8はエンジン回転停止制御の際のオルタネータの要求負荷トルクと発電制御電流(フィールド電流)と発電電流の挙動を示すタイムチャートである。
【図9】図9は消費電力増加制御を説明するタイムチャートである。
【図10】図10は目標軌道算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図11】図11は実施例1の消費電力増加制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図12】図12はオルタF/B停止制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図13】図13は実施例2の消費電力増加制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例1を図1乃至図12に基づいて説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の構成を概略的に説明する。
エンジン11の吸気ポート12に接続された吸気管13の途中には、スロットルバルブ14が設けられ、このスロットルバルブ14の開度(スロットル開度)がスロットル開度センサ15によって検出される。また、スロットルバルブ14の下流側には、吸気管圧力を検出する吸気管圧力センサ18が設けられ、各気筒の吸気ポート12の近傍には、それぞれ吸気ポート12に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁19が取り付けられている。
【0019】
一方、エンジン11の排気ポート20に接続された排気管21の途中には、排気ガス浄化用の触媒22が設置されている。エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ23が設けられている。エンジン11のクランク軸24に取り付けられたシグナルロータ25の外周に対向してクランク角センサ26が設置され、このクランク角センサ26からシグナルロータ25の回転に同期して所定クランク角毎(例えば30℃A毎)にクランクパルス信号が出力される。また、エンジン11のカム軸27に取り付けられたシグナルロータ28の外周に対向してカム角センサ29が設置され、このカム角センサ29からシグナルロータ28の回転に同期して所定のカム角でカムパルス信号が出力される。
【0020】
また、オルタネータ33(発電機)には、クランク軸24に連結されたクランクプーリ34の回転がベルト35を介して伝達される。これにより、エンジン11の動力でオルタネータ33が回転駆動されて発電するようになっている。このオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)をデューティ制御することで、オルタネータ33の負荷を制御することができる。
【0021】
このオルタネータ33の発電電力は、車両に搭載された各種の電気部品(例えば、空調装置、オーディオ装置、ヘッドライト、ブレーキランプ、デフォッガ等)に供給される。その際、オルタネータ33の発電電力が車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)よりも大きいときには、その余剰分の電力がバッテリ32に充電される。一方、オルタネータ33の発電電力が車両の消費電力よりも小さいときには、その不足分の電力がバッテリ32から各種の電気部品に供給される。
【0022】
上述した各種センサの出力は、エンジン制御回路(以下「エンジンECU」と表記する)30に入力される。このエンジンECU30は、マイクロコンピュータを主体として構成され、各種センサで検出したエンジン運転状態に応じて、燃料噴射弁19の燃料噴射量や燃料噴射時期、点火プラグ31の点火時期を制御すると共に、エンジン運転中に所定の自動停止条件(例えばアクセル全閉、ブレーキ操作中、アイドル運転中等の条件)が成立してエンジン停止要求が発生したときに、燃焼(燃料噴射及び/又は点火)を停止させてエンジン回転を停止させるアイドルストップを実行し、このアイドルストップによるエンジン回転停止中(アイドルストップ中)に運転者が車両発進のための準備操作(ブレーキ解除、シフトレバーのドライブレンジへの操作等)や発進操作(アクセル踏み込み等)が行われたとき、或は車載機器の制御システムからの始動要求が発生したときに、所定の自動始動条件が成立してスタータ(図示せず)に通電してエンジン11をクランキングして再始動させる。
【0023】
更に、エンジンECU30は、後述する図10乃至図12の各ルーチンを実行することで、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出する目標軌道算出手段として機能すると共に、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように制御するエンジン回転停止制御を実行する停止制御手段として機能する。本実施例では、エンジン回転停止制御として、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷をフィードバック制御するオルタF/B停止制御を実行する。更に、エンジン11の燃焼停止前(燃焼中)に実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるように点火時期をフィードバック制御する点火F/B停止制御を実行するようにしても良い。
【0024】
エンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の際に、エンジン回転速度がオルタネータ33の発電限界回転速度以下に低下すると、オルタネータ33の負荷トルクがほとんど発生しなくなる(図3参照)。このような回転速度領域では、オルタネータ33の負荷トルクの影響をほとんど受けずにエンジン回転速度が低下してエンジン回転が停止するため、所定の基準タイミングを通過する際のエンジン回転速度に応じた停止クランク角でエンジン回転が停止する。ここで、基準タイミングは、エンジン回転速度がオルタネータ33の発電限界回転速度以下の回転速度領域でクランク角が所定位置(例えばTDC)となるタイミングである。
【0025】
このような特性に着目して、本実施例では、基準タイミングのエンジン回転速度(基準タイミングを通過する際のエンジン回転速度)と停止クランク角との関係を用いて、停止クランク角が目標停止クランク角となる基準タイミングのエンジン回転速度を基準回転速度として求め、目標軌道は、この基準回転速度に至るまでのクランク角と目標エンジン回転速度との関係を所定クランク角間隔で算出してテーブル(図示せず)に割り付けたものである。この目標軌道は、例えば、ロストルクを考慮したエネルギ保存則の関係式を用いて、基準回転速度を初期値としてクランク角を溯る方向に所定クランク角Δθ毎(例えばTDC毎)に算出される(図2参照)。
【0026】
エネルギ保存則の関係式は次式で表される。
Ne(i+1)2 =Ne(i)2 +2/J×{Tloss( θ(i) ) −Tref(Ne(i))}×Δθ
ここで、Ne(i+1)は、現時点(i) よりも所定クランク角Δθ前の時点(i+1) のエンジン回転速度であり、Ne(i)は現時点(i) のエンジン回転速度である。また、Jはエンジン11の慣性モーメントである。Tloss( θ(i) )は、現時点(i) のクランク角θ(i) におけるポンピングロスとフリクションロスを合計したロストルクであり、予め設定されたマップ等を用いて現時点(i) のクランク角θ(i) に応じたロストルクTloss( θ(i) )が算出される。Tref(Ne(i))は現時点(i) のエンジン回転速度Ne(i)におけるオルタネータ33の基準負荷トルクである。
【0027】
上記エネルギ保存則の関係式において、「Tloss( θ(i) )−Tref(Ne(i))」は、ポンピングロスとフリクションロスとオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を合計したロストルクに相当する。
【0028】
本実施例では、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))は、図3に示すようにオルタネータ33の制御可能な最大負荷の半分(1/2)に設定されている。このようにすれば、オルタネータ33は、モータジェネレータとは異なり、アシストトルクを出力できないという事情があっても、仮想的にオルタネータ33の負荷トルクを正負両方向に制御することが可能となり(基準負荷Tref 以下の負荷トルクを仮想的に負の負荷トルクとし、基準負荷Tref 以上の負荷トルクを正の負荷トルクとしてオルタネータ33の負荷トルクを制御することが可能となり)、目標軌道へのエンジン回転挙動の追従性を向上することができる。
【0029】
尚、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))は、最大負荷の半分(1/2)に限定されず、例えば、最大負荷の1/3、1/4、2/3、3/4等であっても良く、要は、オルタネータ33の制御可能な最大負荷よりも小さく、0よりも大きい適宜の負荷を基準負荷トルクTref(Ne(i))に設定すれば良い。
0<Tref(Ne(i))<最大負荷
【0030】
図5(a)は、基準負荷トルクTref(Ne(i))=0に設定してエンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)を行った比較例を示している。この比較例では、オルタネータ33の負荷トルクを正方向にしか制御できないため、実エンジン回転挙動がオーバーシュートした場合は、実エンジン回転挙動を目標軌道に一致させることができなくなる。
【0031】
これに対して、本実施例のように、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を最大負荷よりも小さい適宜の負荷に設定すれば、図4に示すように、仮想的にオルタネータ33の負荷トルクを正負両方向に制御することが可能となるため、図5(b)に示すように、実回転挙動がオーバーシュートした場合でも、実回転挙動を目標軌道に一致させることができる。
【0032】
更に、本実施例では、図6に示すように、目標軌道を算出する際に、オルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))に応じた目標軌道を算出し、エンジン回転停止制御の実行中は、エンジン回転速度Ne(i)に応じた基準負荷トルクTref(Ne(i))を算出すると共に、現時点(i) のクランク角θ(i) における目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度との偏差を小さくするようにフィードバック負荷トルクを算出して、このフィードバック負荷トルクに基準負荷トルクTref(Ne(i))を加算して要求負荷トルクTalt を求める(実際には、この要求負荷トルクTalt にプーリ比Ratioを乗算して要求軸トルクTalt.final に変換する)。
【0033】
この後、図7に示すオルタネータ33の負荷トルク特性を用いて、オルタネータ33の要求負荷トルクTalt (要求軸トルクTalt.final )とエンジン回転速度Ne (又はエンジン回転速度Ne にプーリ比Ratioを乗算して求めたオルタネータ33の回転速度Nalt )に応じた発電指令値(デューティDuty )を算出する。この際、要求負荷トルクTalt とエンジン回転速度Ne (又はオルタネータ33の回転速度Nalt )から発電指令値(デューティDuty )を直接算出するようにしても良いが、要求負荷トルクTalt とエンジン回転速度Ne (又はオルタネータ33の回転速度Nalt )から要求フィールド電流(要求励磁電流)を算出し、この要求フィールド電流から発電指令値(デューティDuty )を算出するようにしても良い。
【0034】
尚、図7に示す負荷トルク特性は、オルタネータ33の出力電圧が所定値(例えば13.5V)で一定の場合の特性であり、出力電圧毎に同様の特性が設定されている。この発電指令値(デューティDuty )に基づいてオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)を制御してオルタネータ33の負荷トルクを制御する。
【0035】
このようなオルタネータ33の負荷トルクの制御を、エンジン回転速度がオルタネータ33の発電限界回転速度Nelow(図3参照)以下に低下するまで所定クランク角間隔で周期的に実行することで、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するエンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)を行う。
【0036】
エンジン回転停止制御の際に、エンジンECU30は、所定クランク角周期で発電指令値を演算し、この発電指令値をCAN(Controller Area Network )通信等により所定時間周期で電源系ECU36(図1参照)に送信する。更に、電源系ECU36は、受信した発電指令値をLIN(Local Interconnect Network)通信等により所定時間周期でオルタネータ33に送信する。
【0037】
ところで、図8に示すように、エンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の実行中は、オルタネータ33の要求負荷トルクに応じて発電制御電流(フィールド電流)が制御されて発電電流が出力される。この際、オルタネータ33の発電電力のうちの車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)を越えた余剰分がバッテリ32に充電されるようになっている。しかし、車両の消費電力が小さい場合やバッテリ32に充電可能な電力量が小さい場合には、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を越えてしまう可能性がある。オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越える場合、オルタネータ33の発電電流がレギュレータで抑制されるため、オルタネータ33の負荷トルクを精度良く要求負荷トルクに制御することができず、オルタネータ33の負荷トルクの制御性が低下して、エンジン回転停止制御の精度が低下するという問題がある。
【0038】
この対策として、本実施例では、エンジン回転停止制御(オルタF/B停止制御)の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する。この消費電力増加制御によってバッテリ32の電力を消費することができ、その分、バッテリ32に充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を増加させることができ、車両の受け入れ可能な電力量をエンジン回転停止制御中のオルタネータ33の発電電力量よりも大きくすることができる。
【0039】
具体的には、図9に示すように、エンジン運転中にエンジン停止要求(アイドルストップ要求)が発生してエンジン停止要求フラグが「1」にセットされた時点t1 で、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態(例えば各種の電気部品の消費電力やオン/オフ状態等)とバッテリ状態(例えばバッテリ32の充電状態や劣化状態等)を検出又は推定し、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する。
【0040】
その結果、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定した場合には、消費電力増加制御実行フラグを「1」にセットして、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する。この際、まず、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を設定する。そして、車両に搭載された電気部品のうちのエンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品(例えば電熱式デフォッガ等)の消費電力を所定量増加させて、車両の消費電力を所定量増加させる。この場合、電気部品への通電をオフからオンに切り換えて消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、或は、既に通電オン中の電気部品の消費電力を更に所定量増加させるようにしても良い。また、1つの電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、2つ以上の電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良い。
【0041】
その後、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過した時点t2 で、消費電力増加制御実行フラグを「0」にリセットして、消費電力増加制御を終了する。更に、燃料カット要求フラグを「1」にセットして、燃料噴射を停止する燃料カットを実行することで、エンジン11の燃焼を停止させると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するオルタF/B停止制御を実行する。尚、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過した後も、暫く消費電力増加制御を継続して実行するようにしても良い。
【0042】
以上説明した本実施例のエンジン回転停止制御は、エンジンECU30によって図10乃至図12の各ルーチンに従って実行される。以下、これら各ルーチンの処理内容を説明する。
【0043】
[目標軌道算出ルーチン]
図10に示す目標軌道算出ルーチンは、エンジンECU30の電源オン中に所定周期(所定クランク角周期)で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、目標軌道算出完了フラグが目標軌道の算出前を意味する「0」にセットされているか否かを判定し、この目標軌道算出完了フラグが目標軌道算出完了を意味する「1」にセットされていれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0044】
一方、このステップ101で、目標軌道算出完了フラグ=0(目標軌道の算出前)と判定されれば、ステップ102に進み、ロストルクTloss( θ(i) )とオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を用いて、次式で表されるエネルギ保存則の関係式を用いて次の時点(i+1) の目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗を算出する。
【0045】
Ne(i+1)2 =Ne(i)2 +2/J×{Tloss( θ(i) )−Tref(Ne(i))}×Δθ
ここで、Jはエンジン11の慣性モーメント、Tloss( θ(i) )は、ポンピングロスとフリクションロスを合計したロストルクであり、予め設定されたマップ等を用いて、現時点(i) のクランク角θ(i) に応じたロストルクTloss( θ(i) )を算出する。
【0046】
上記エネルギ保存則の関係式において、「Tloss( θ(i) )−Tref(Ne(i))」は、ポンピングロスとフリクションロスとオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne(i))を合計したロストルクに相当する。
【0047】
初期値は、i=0、θ(0) =基準タイミングのクランク角、Ne(0)=基準回転速度である。この基準回転速度Ne(0)は、停止クランク角が目標停止クランク角となる基準タイミングのエンジン回転速度である。目標軌道は、基準回転速度Ne(0)を初期値としてクランク角を溯る方向に所定クランク角Δθ毎(例えばTDC毎)に算出する。
【0048】
この後、ステップ103に進み、目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗がエンジン回転停止制御を実行可能な最大エンジン回転速度Nemaxの二乗を越えたか否かを判定し、まだ最大エンジン回転速度Nemaxの二乗を越えていなければ、ステップ104に進み、目標軌道算出完了フラグを「0」に維持する(セットし直す)。
【0049】
この後、ステップ106に進み、目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗の平方根を算出して目標エンジン回転速度Ne(i+1)を求め、これを目標軌道のテーブル(図示せず)に割り付けて、本ルーチンを終了する。尚、エンジンECU30の演算負荷を低減するため、エンジン回転速度の二乗をそのままテーブルに割り付けても良い。目標軌道のテーブルは、エンジンECU30のメモリに記憶される。
【0050】
以上のような処理を繰り返して、基準回転速度Ne(0)を初期値としてクランク角を溯る方向に所定クランク角毎(例えばTDC毎)に目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗を算出して目標軌道のテーブルに目標エンジン回転速度Ne(i+1)を割り付ける処理を繰り返す。そして、上記ステップ103で、目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗がエンジン回転停止制御を実行可能な最大エンジン回転速度Nemaxの二乗を越えたと判定された時点で、ステップ105に進み、目標軌道算出完了フラグを目標軌道算出完了を意味する「1」にセットして、ステップ106に進み、最後の目標エンジン回転速度Ne(i+1)の二乗の平方根を算出して目標エンジン回転速度Ne(i+1)を求め、これを目標軌道のテーブルに割り付けて、本ルーチンを終了する。
【0051】
[消費電力増加制御ルーチン]
図11に示す消費電力増加制御ルーチンは、エンジンECU30の電源オン中に所定周期(所定クランク角周期)で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいう電力制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、エンジン停止要求(アイドルストップ要求)が発生したか否かを判定し、エンジン停止要求が発生していなければ、ステップ208に進み、燃料カット要求フラグを「0」に維持すると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「0」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
【0052】
その後、上記ステップ201で、エンジン停止要求が発生したと判定された時点で、ステップ202に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態(例えば各種の電気部品の消費電力やオン/オフ状態等)と、バッテリ状態(例えばバッテリ32の充電状態や劣化状態等)を検出又は推定した後、ステップ203に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する。
【0053】
この場合、例えば、車両の電力消費状態から求めた車両の消費電力(車両に搭載された電気部品の合計消費電力)が所定値以下で、且つ、バッテリ状態から求めたバッテリ32の充電可能電力量(バッテリ32に充電可能な電力量)が所定値以下の場合には、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定する。尚、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する方法は、これに限定されず、適宜変更しても良い。
【0054】
このステップ203で、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定されれば、ステップ204に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を算出する。
【0055】
この場合、例えば、車両の電力消費状態から求めた車両の消費電力と、バッテリ状態から求めたバッテリ32の充電可能電力量に応じて、所定量と所定時間をそれぞれマップ又は数式等により算出する。これにより、車両の電力消費状態やバッテリ状態によって、車両の受け入れ可能な電力量が変化して、その車両の受け入れ可能な電力量をオルタネータ33の発電電力量よりも大きくするのに必要な消費電力量が変化するのに対応して、所定量や所定時間を変化させて、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定する。尚、所定量と所定時間の設定方法は、これに限定されず、適宜変更しても良い。
【0056】
この後、ステップ205に進み、エンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品(例えば電熱式デフォッガ等)の消費電力を所定量増加させて、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を実行する。この場合、電気部品への通電をオフからオンに切り換えて消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、或は、既に通電オン中の電気部品の消費電力を更に所定量増加させるようにしても良い。また、1つの電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良いし、2つ以上の電気部品で消費電力を所定量増加させるようにしても良い。
【0057】
この後、ステップ206に進み、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したか否かを判定し、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したと判定された時点で、ステップ207に進み、消費電力増加制御を終了した後、ステップ209に進み、燃料カット要求フラグを「1」にセットすると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、本ルーチンを終了する。
【0058】
一方、上記ステップ203で、消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定された場合には、消費電力増加制御を禁止して、上記ステップ204〜207の処理を実行することなく、ステップ209に進み、燃料カット要求フラグを「1」にセットすると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、本ルーチンを終了する。
【0059】
[オルタF/B停止制御ルーチン]
図12に示すオルタF/B停止制御ルーチンは、エンジンECU30の電源オン中に所定周期(所定クランク角周期)で繰り返し実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、オルタF/B停止制御許可フラグがオルタF/B停止制御の許可を意味する「1」にセットされているか否かを判定し、オルタF/B停止制御許可フラグが「0」であれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0060】
その後、上記ステップ301で、オルタF/B停止制御許可フラグ=1と判定された時点で、ステップ302に進み、現在のクランク角θとエンジン回転速度Ne を算出する。この後、ステップ303に進み、現在のクランク角θがオルタネータ33の負荷トルクの制御タイミング(例えばTDC)であるか否かを判定し、オルタネータ33の負荷トルクの制御タイミングでなければ、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0061】
上記ステップ303で、現在のクランク角θがオルタネータ33の負荷トルクの制御タイミングであると判定されれば、ステップ304に進み、現在のエンジン回転速度Ne がエンジン回転停止制御を実行可能な最大エンジン回転速度Nemaxよりも低いか否かを判定し、現在のエンジン回転速度Ne が最大エンジン回転速度Nemax以上であれば、以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0062】
その後、上記ステップ304で、現在のエンジン回転速度Ne が最大エンジン回転速度Nemaxよりも低いと判定されれば、ステップ305に進み、エンジン11が燃焼中であるか否かを判定する。このステップ305で、エンジン停止要求が発生した直後でエンジン11がまだ燃焼中であると判定されれば、ステップ306に進み、エンジン回転停止制御を開始する際のオルタネータ33の要求負荷トルクTalt を初期値(例えば基準負荷トルクTref(Ne) )に設定する。
Talt =Tref(Ne)
【0063】
その後、上記ステップ305で、エンジン11の燃焼が停止したと判定された場合には、ステップ307に進み、目標軌道のテーブルを参照して、今回の制御タイミングに対応した目標エンジン回転速度Netg を求める。
【0064】
この後、ステップ308に進み、現在のエンジン回転速度Ne と目標エンジン回転速度Netg とのエネルギ差分ΔEを次式により算出する。
ΔE=J/2×(Ne 2 −Netg 2 )
ここで、Jはエンジン11の慣性モーメントである。
【0065】
この後、ステップ309に進み、エネルギ差分ΔEとオルタネータ33の基準負荷トルクTref(Ne) を用いて、次式により要求負荷トルクTalt を算出する。
Talt =K×ΔE/Δθ+Tref(Ne)
ここで、「K×ΔE/Δθ」はフィードバック負荷トルクであり、Kはフィードバックゲイン、Δθはクランク角変化量である。
【0066】
この後、ステップ310に進み、要求負荷トルクTalt にプーリ比Ratioを乗算して、オルタネータ33の要求軸トルクTalt.final に変換する。
この後、ステップ311に進み、バッテリ電圧を検出した後、ステップ312に進み、バッテリ電圧毎に作成された複数の負荷トルク特性マップ(図7参照)の中から、現在のバッテリ電圧に対応する負荷トルク特性マップを選択して、現在の要求負荷トルクTalt (要求軸トルクTalt.final )とエンジン回転速度Ne (又はオルタネータ33の回転速度Nalt )に応じた発電指令値(デューティDuty )を算出する。
【0067】
この発電指令値(デューティDuty )に基づいてオルタネータ33の発電制御電流(フィールド電流)を制御してオルタネータ33の負荷トルクを制御することで、実エンジン回転挙動を目標軌道に合わせるようにオルタネータ33の負荷トルクをフィードバック制御するオルタF/B停止制御を行う。
【0068】
以上説明した本実施例1では、エンジン回転停止制御の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行するようにしたので、エンジン回転停止制御の開始前に、消費電力増加制御によってバッテリ32の電力を消費することができ、その分、バッテリ32に充電可能な電力量を増加させて、車両の受け入れ可能な電力量(=車両の消費電力量+バッテリ32の充電可能電力量)を増加させることができ、車両の受け入れ可能な電力量をエンジン回転停止制御中のオルタネータ33の発電電力量よりも大きくすることができる。これにより、エンジン回転停止制御の際に、オルタネータ33の発電電力量が車両の受け入れ可能な電力量を越えることを未然に防止することができるため、オルタネータ33の発電電流がレギュレータで抑制されることを防止することができて、オルタネータ33の負荷の制御性を確保することができ、エンジン回転停止制御の精度を向上させることができる。
【0069】
また、本実施例1では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を算出するようにしたので、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を適正値に設定することができ、消費電力増加制御の消費電力量が必要以上に大きくなることを防止できる。
【0070】
更に、本実施例1では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定し、消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定した場合に、消費電力増加制御を禁止するようにしたので、消費電力増加制御を実行する必要が無いにも拘らず消費電力増加制御を無駄に実行するといった事態を未然に回避することができる。
【0071】
また、本実施例1では、消費電力増加制御の際に、エンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品の消費電力を増加させるようにしたので、消費電力増加制御によってエンジン回転速度が変動することを防止できる。
【実施例2】
【0072】
次に、図13を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0073】
前記実施例1では、エンジン停止要求が発生したときに消費電力増加制御を実行するようにしたが、本実施例2では、エンジンECU30により後述する図13の消費電力増加制御ルーチンを実行することで、エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、エンジン停止要求が発生すると予測したときに消費電力増加制御を実行するようにしている。
【0074】
図13に示す消費電力増加制御ルーチンでは、まず、ステップ401で、エンジン停止要求が発生する可能性が高いか否かによって、エンジン停止要求が発生するか否かを予測する。この場合、例えば、エンジン自動停止条件が成立する一歩手前の状態になったとき(例えばアクセル開度が所定値以下になったとき、車速が所定値以下になったとき、エンジン回転速度が所定値以下になったとき等)に、エンジン停止要求が発生する可能性が高いと判定する。尚、エンジン停止要求が発生する可能性が高いか否かを判定する方法は、これに限定されず、適宜変更しても良い。
【0075】
このステップ401で、エンジン停止要求が発生する可能性が高くない(低い)と判定された場合には、エンジン停止要求が発生しないと予測して、ステップ410に進み、燃料カット要求フラグを「0」に維持すると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「0」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
【0076】
一方、上記ステップ401で、エンジン停止要求が発生する可能性が高いと判定された場合には、エンジン停止要求が発生すると予測して、ステップ402に進み、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態バッテリ状態を検出又は推定した後、ステップ403に進み、車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定する。
【0077】
このステップ403で、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定されれば、ステップ404に進み、車両の電力消費状態とバッテリ状態に基づいて、所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を算出した後、ステップ405に進み、エンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品(例えば電熱式デフォッガ等)の消費電力を所定量増加させて、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を実行する。
【0078】
この後、ステップ406に進み、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したか否かを判定し、消費電力増加制御を開始してから所定時間が経過したと判定された時点で、ステップ407に進み、消費電力増加制御を終了する。
【0079】
この後、テップ408に進み、エンジン停止要求が発生すると予測してから所定期間内にエンジン停止要求が発生したか否かを判定し、所定期間内にエンジン停止要求が発生しなければ、ステップ409に進み、燃料カット要求フラグを「0」に維持すると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「0」に維持したまま、本ルーチンを終了する。
【0080】
一方、上記ステップ408で、エンジン停止要求が発生すると予測してから所定期間内にエンジン停止要求が発生すれば、ステップ410に進み、燃料カット要求フラグを「1」にセットすると共に、オルタF/B停止制御許可フラグを「1」にセットして、本ルーチンを終了する。
【0081】
以上説明した本実施例2では、エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、エンジン停止要求が発生すると予測したときに消費電力増加制御を実行するようにしたので、エンジン停止要求が発生する前に、消費電力増加制御を開始することができ、エンジン停止要求が発生したときに、速やかにエンジン回転停止制御を開始することができる。
【0082】
尚、上記各実施例1,2では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態の両方に基づいて消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定するようにしたが、これに限定されず、車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの一方のみに基づいて消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定するようしても良い。例えば、車両の電力消費状態から求めた車両の消費電力が所定値以下の場合に、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定する。或は、バッテリ状態から求めたバッテリ32の充電可能電力量が所定値以下の場合に、消費電力増加制御を実行する必要が有ると判定する。
【0083】
また、上記各実施例1,2では、消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態の両方に応じて所定量(消費電力増加制御の消費電力増加分)と所定時間(消費電力増加制御の継続時間)を設定するようにしたが、これに限定されず、車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの一方のみに応じて所定量と所定時間を設定するようにしても良い。
【0084】
また、本発明は、所定量を予め設定した固定値として、所定時間のみを車両の電力消費状態やバッテリ状態に応じて設定するようにしたり、或は、所定時間を予め設定した固定値として、所定量のみを車両の電力消費状態やバッテリ状態に応じて設定するようにしても良い。更に、所定量と所定時間を両方とも予め設定した固定値として、消費電力増加制御の消費電力量(=所定量×所定時間)を固定値としても良い。
【0085】
また、本発明は、消費電力増加制御を実行するための専用の電気部品を車両に搭載して、その電気部品の消費電力を増加させて消費電力増加制御を実行するようにしても良い。
【0086】
また、本発明は、図1に示すような吸気ポート噴射式エンジンに限定されず、筒内噴射式エンジンや、吸気ポート噴射用の燃料噴射弁と筒内噴射用の燃料噴射弁の両方を備えたデュアル噴射式のエンジンにも適用して実施できる。
【0087】
更に、本発明の適用範囲は、車両の動力源としてエンジンのみを備えた一般的な車両に限定されず、車両の動力源としてエンジンとモータを備えたハイブリッド車に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0088】
11…エンジン(内燃機関)、13…吸気管、14…スロットルバルブ、18…吸気管圧力センサ、19…燃料噴射弁、21…排気管、30…エンジンECU(目標軌道算出手段,停止制御手段,電力制御手段)、32…バッテリ、33…オルタネータ(発電機)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンで駆動される発電機と、該発電機の発電電力を充電するバッテリとを備えた車両に適用され、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出する目標軌道算出手段と、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を前記目標軌道に合わせるように前記発電機の負荷を制御するエンジン回転停止制御を実行する停止制御手段とを備えたエンジン回転停止制御装置において、
前記エンジン回転停止制御の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する電力制御手段を備えていることを特徴とするエンジン回転停止制御装置。
【請求項2】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態に基づいて前記所定量と前記所定時間のうちの少なくとも一方を設定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項3】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の開始前のバッテリ状態に基づいて前記所定量と前記所定時間のうちの少なくとも一方を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項4】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの少なくとも一方に基づいて前記消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定し、前記消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定した場合に、前記消費電力増加制御を禁止することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項5】
前記電力制御手段は、前記エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、前記エンジン停止要求が発生すると予測したときに前記消費電力増加制御を実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項6】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の際に、車両に搭載された電気部品のうちのエンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品の消費電力を増加させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項1】
エンジンで駆動される発電機と、該発電機の発電電力を充電するバッテリとを備えた車両に適用され、エンジン回転が目標停止クランク角で停止するようにエンジン回転挙動の目標軌道を算出する目標軌道算出手段と、エンジン停止要求に応じてエンジン回転を停止させる際に実エンジン回転挙動を前記目標軌道に合わせるように前記発電機の負荷を制御するエンジン回転停止制御を実行する停止制御手段とを備えたエンジン回転停止制御装置において、
前記エンジン回転停止制御の開始前に、車両の消費電力を所定量増加させる消費電力増加制御を所定時間実行する電力制御手段を備えていることを特徴とするエンジン回転停止制御装置。
【請求項2】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態に基づいて前記所定量と前記所定時間のうちの少なくとも一方を設定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項3】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の開始前のバッテリ状態に基づいて前記所定量と前記所定時間のうちの少なくとも一方を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項4】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の開始前の車両の電力消費状態とバッテリ状態のうちの少なくとも一方に基づいて前記消費電力増加制御を実行する必要が有るか否かを判定し、前記消費電力増加制御を実行する必要が無いと判定した場合に、前記消費電力増加制御を禁止することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項5】
前記電力制御手段は、前記エンジン停止要求が発生するか否かを予測し、前記エンジン停止要求が発生すると予測したときに前記消費電力増加制御を実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。
【請求項6】
前記電力制御手段は、前記消費電力増加制御の際に、車両に搭載された電気部品のうちのエンジン回転速度に影響を及ぼさない電気部品の消費電力を増加させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のエンジン回転停止制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−82697(P2012−82697A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227066(P2010−227066)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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