説明

オイルポンプのリリーフ弁

【課題】オイルポンプの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができ、しかも異物の噛み込みを抑制することができるようにする。
【解決手段】吐出室9とバイパス室12とを連通するリリーフ孔21・22が側壁に開設された筒状の弁収容部23と、この弁収容部の軸方向に進退してリリーフ孔を開閉する弁体24と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばね25とを備え、弁収容部に第1リリーフ孔21と第2リリーフ孔22とが弁収容部の軸方向に離間して形成されて、弁体のリフト動作に応じて第1リリーフ孔と第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたリリーフ弁11において、第1リリーフ孔が、円形状をなし、同一の径を有するものが弁収容部の周方向に複数並んで形成されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの各部に潤滑・冷却用のオイルを供給するオイルポンプにおいて、オイルの吐出圧の過度な上昇を抑えるために設けられるリリーフ弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンでは、オイル貯留部のオイルを吸い込んでエンジンの各部に供給するオイルポンプが設けられている。このオイルポンプは、クランクシャフトの動力により駆動され、エンジン回転数が高くなるのに応じてオイルの吐出圧が高くなり、またオイルの流動性が低下する低温状態でもオイルの吐出圧が高くなる。
【0003】
このオイルポンプにおいて、オイルの吐出圧が必要以上に高くなった状態では、クランクシャフトの動力が無駄に消費されていることになる。そこで、オイルの吐出圧が高くなると、オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔を開放するようにしたリリーフ弁が設けられており、これによりオイルの加圧によってクランクシャフトの動力が無駄に消費されることを抑制することができる。
【0004】
このようなオイルポンプのリリーフ弁では、リリーフ孔が弁体のリフト方向に離間して2つ形成されて、弁体のリフト動作に応じて2つのリリーフ孔が順次開放されるようにした二段式のリリーフ機構を備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、楕円形状をなすリリーフ孔が設けられたものが知られている(特許文献2参照)。この構成では、同一の開口面積となる真円形状をなすリリーフ孔と比較すると、弁体のリフト量が小さい段階でリリーフ孔を全開させることができ、またリフト量が同一の状態では開口面積が大きくなるため、オイルの流量を早期に増大させることができ、オイルポンプの吐出圧の上昇を応答良く抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実登第2587580号公報
【特許文献2】特開平8−158842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、二段式のリリーフ機構を備えたリリーフ弁においても、リリーフ孔の形状を工夫して、オイルポンプの吐出圧の上昇を応答良く抑制することが望まれるが、前記のようなリリーフ孔を楕円形状に形成した構成では、弁体がリリーフ弁を全閉する直前の状態でも、開口面積が大きいため、オイルの流速が低くなり、これに応じてオイル内の異物の通過速度も低くなるため、異物の噛み込みが発生する可能性が高くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、オイルポンプの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができ、しかも異物の噛み込みを抑制することができるように構成されたオイルポンプのリリーフ弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するためになされた第1の発明は、オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔が側壁に開設された筒状の弁収容部(23)と、その軸方向に進退して前記リリーフ孔を開閉する弁体(24)と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばね(25)とを備え、前記弁収容部に第1リリーフ孔(21)と第2リリーフ孔(22)とが軸方向に離間して形成されて、前記弁体のリフト動作に応じて前記第1リリーフ孔と前記第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたオイルポンプのリリーフ弁(11)であって、前記第1リリーフ孔は、円形状をなし、同一の径を有するものが前記弁収容部の周方向に複数並んで形成された構成とする。
【0010】
前記課題を解決するためになされた第2の発明は、オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔が側壁に開設された筒状の弁収容部と、その軸方向に進退して前記リリーフ孔を開閉する弁体と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばねとを備え、前記弁収容部に第1リリーフ孔と第2リリーフ孔とが軸方向に離間して形成されて、前記弁体のリフト動作に応じて前記第1リリーフ孔と前記第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたオイルポンプのリリーフ弁(61)であって、前記第1リリーフ孔(62)は、略三角形状をなし、その頂角部(63)が閉側に位置すると共に軸方向の寸法が周方向の寸法より短くなるように形成された構成とする。
【0011】
前記課題を解決するためになされた第3の発明は、オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔が側壁に開設された筒状の弁収容部と、その軸方向に進退して前記リリーフ孔を開閉する弁体と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばねとを備え、前記弁収容部に第1リリーフ孔と第2リリーフ孔とが軸方向に離間して形成されて、前記弁体のリフト動作に応じて前記第1リリーフ孔と前記第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたオイルポンプのリリーフ弁(71)であって、前記第1リリーフ孔(72)は、略へ字形状をなし、その屈曲した中心部(73)が端部(74)より閉側に位置すると共に軸方向の寸法が周方向の寸法より短くなるように形成された構成とする。
【0012】
これによると、円形状をなす第1リリーフ孔が1つ設けられた構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合と比較すると、第1リリーフ孔の軸方向の寸法が短くなることから、第1リリーフ孔を全開させるのに要する弁体のリフト量が短縮される。そして、同一のリフト量での開口面積が大きくなり、オイルの流量を急速に増大させることができる。さらに、第1リリーフ孔を全開させるまでのばねの撓み量も小さくなり、ばね力が弱い領域で第1リリーフ孔を全開させることができるため、弁体のリフト速度も高くなる。このため、オイルの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができる。
【0013】
また、楕円形状をなす第1リリーフ孔が1つ設けられた構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合と比較すると、全閉位置の近傍で弁体のリフト量が小さい状態では、同一のリフト量でも開口面積を小さくすることができる。このため、弁体が閉じる際に、弁体が第1リリーフ孔を全閉する直前の状態で、オイルの流速が高くなり、これに応じてオイル内の異物の通過速度も高くなるため、異物の噛み込みを抑制することができる。
【0014】
特に、第1の発明のように第1リリーフ孔が円形状をなす構成では、ドリルによる穿孔で容易に且つ高い精度で第1リリーフ孔を形成することができる。また、第2の発明のように第1リリーフ孔が略三角形状をなす構成や、第3の発明のように第1リリーフ孔が略へ字形状をなす構成でも、ドリルによる穿孔などの加工で精度良く第1リリーフ孔を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、第1リリーフ孔を全開させるのに要する弁体のリフト量が短縮され、しかも同一のリフト量での開口面積が大きくなると共に、第1リリーフ孔を全開させるまでのばねの撓み量が小さくなるため、オイルポンプの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができ、さらに、弁体が閉じる際に、弁体がリリーフ孔を全閉する直前の状態で、オイルの流速が高くなるため、異物の噛み込みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明によるリリーフ弁が適用されたオイルポンプの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示したリリーフ弁の正面図である。
【図3】図2に示したリリーフ弁の動作状況を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るリリーフ弁を示す要部正面図である。
【図5】図4に示した第1リリーフ孔及び従来構成による第1リリーフ孔の開口状況を示す正面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るリリーフ弁を示す要部正面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るリリーフ弁を示す要部正面図である。
【図8】エンジン回転数に応じた油圧及びフリクションの変化状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明が適用されるオイルポンプ1は、トロコイド型のポンプであり、アウタロータ2とインナロータ3とを備え、アウタロータ2の内歯とインナロータ3の外歯との間にポンプ室4が画成される。ハウジング5内には、吸入ポート6から流入したオイルをポンプ室4に導く吸入室7と、ポンプ室4から吐出されるオイルを吐出ポート8に導く吐出室9とが形成されている。
【0019】
このオイルポンプ1は、クランクシャフトの動力により駆動され、具体的にはインナロータ3に図示しないクランクシャフトの回転力が入力される。したがって、エンジン回転数が高くなるのに応じてオイルの吐出圧が高くなり、また、オイルの流動性が低下する低温状態でもオイルの吐出圧が高くなる。
【0020】
さらに、このオイルポンプ1は、オイルの吐出圧が必要以上に高くなった場合に、オイルの加圧によりクランクシャフトの動力が無駄に消費されることを避けるため、本発明によるリリーフ弁11が設けられており、このリリーフ弁11が開くと、吐出室9のオイルがバイパス室12を介して吸入室7に戻される。
【0021】
なお、ハウジング5は、エンジン側との締結面を有する図示するエンジン側ハウジング分割体と、アウタロータ2及びインナロータ3を保持する図示しないハウジング分割体とで構成され、両分割体を結合することで、アウタロータ2及びインナロータ3の収容室、並びに吐出室9、吸入室7及びバイパス室12が密閉されるようになっている。
【0022】
図2に示すように、リリーフ弁11は、吐出室9とバイパス室12とを連通するリリーフ孔21・22が側壁に開設された円筒状の弁収容部23と、その軸方向に進退してリリーフ孔21・22を開閉する弁体24と、この弁体24を全閉位置に向けて付勢するばね25とを備えている。
【0023】
弁収容部23の内部は、導入孔26を介して吐出室9と連通されており、弁体24の受圧面24aに吐出室9の圧力が作用し、吐出室9の圧力が過度に上昇すると、弁体24がばね25の付勢力に抗して弁座28から離れるリフト動作を行ってリリーフ孔21・22が開放され、これにより吐出室9のオイルが、導入孔26から弁収容部23の内部を通ってリリーフ孔21・22から排出されてバイパス室12に流入する。
【0024】
特にここでは、弁収容部23の側壁に第1リリーフ孔21と第2リリーフ孔22とが軸方向に離間して形成されて、弁体24がリフト動作するのにしたがって第1リリーフ孔21と第2リリーフ孔22とが順次開放される二段式のリリーフ機構となっており、これにより吐出室9の圧力の高さに応じてオイルの流量が段階的に調節される。
【0025】
すなわち、吐出室9の圧力が比較的低い領域では、図3(A)に示すように、第1リリーフ孔21と第2リリーフ孔22とが共に全閉された状態にあり、吐出室9の圧力が高くなると、図3(B)に示すように、第1リリーフ孔が全開されると共に第2リリーフ孔が全閉された状態となり、さらに吐出室9の圧力が高くなると、図3(C)に示すように、第1リリーフ孔21と第2リリーフ孔22とが共に全開された状態となる。
【0026】
第1リリーフ孔21と第2リリーフ孔22とは全開口面積が異なり、第1リリーフ孔21の全開口面積が第2リリーフ孔22より小さくなるように設定されており、エンジン回転数が高く、吐出室9の圧力が高い状態で、第2リリーフ孔22からオイルを大量に排出させて、オイルの吐出圧の過度な上昇を抑える一方で、エンジン回転数が低く、吐出室9の圧力が比較的低い状態でも、第1リリーフ孔21からオイルを小量排出させて、オイルの吐出圧を適正な範囲に収めると共に、クランクシャフトの動力が無駄に消費されることを抑制するようにしている。
【0027】
図2に示したように、弁収容部23の側壁における第2リリーフ孔22の下方には、弁収容部23の内部とバイパス室12とを連通するエア抜き孔27が形成されている。これにより、弁収容部23の内部に溜まった空気が弁体24のリフト動作を阻害することを防ぐことができ、またオイルがエア抜き孔27から弁収容部23の内部に進入することで、ばね25にオイルを供給することができる。
【0028】
<第1の実施形態>
図4に示すように、本発明の第1の実施形態に係るリリーフ弁11では、第1リリーフ孔21が、円形状をなし、同一の径を有するものが弁収容部23の周方向、すなわち弁体24の進退方向(軸方向)に対して直交する向きに複数(ここでは2つ)並んで形成されている。
【0029】
このリリーフ弁11では、弁体24がリフト動作を行うのに伴って、図5(A−1)に示す全閉状態から、図5(A−2)に示す中間の開度を経て、図5(A−3)に示す全開状態になり、図5(A−2)に示す中間の開度では、第1リリーフ孔21が弁体24で一部閉鎖されて割円状の開口部が画成される。
【0030】
ここで、この本発明による構成と、図5(B−1)・(B−2)・(B−3)に示すように、円形状をなす第1リリーフ孔51が1つ設けられた従来構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合とを比較する。
【0031】
まず、本発明による第1リリーフ孔21では、径が第1リリーフ孔51より小さくなり、さらに複数の第1リリーフ孔21が弁収容部23の周方向に並んでいることから、図5(A−3)・(B−3)に示すように、第1リリーフ孔21を全開させるのに要する弁体24のリフト量a1が、第1リリーフ孔51の場合のリフト量a2より短縮される。そして、図5(A−2)・(B−2)に示すように、本発明による第1リリーフ孔21では、同一のリフト量bでの開口面積が第1リリーフ孔51の場合より大きくなり、オイルの流量を急速に増大させることができる。さらに、本発明による第1リリーフ孔21では、全開させるまでのばね25の撓み量が第1リリーフ孔51の場合より小さくなり、ばね力が弱い領域で第1リリーフ孔21を全開させることができるため、弁体24のリフト速度も高くなる。このため、オイルの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができる。
【0032】
次に、本発明による構成と、図5(C−1)・(C−2)・(C−3)に示すように、楕円形状をなす第1リリーフ孔52が1つ設けられた従来構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合とを比較する。
【0033】
本発明による第1リリーフ孔21では、図5(A−2)・(C−2)に示すように、全閉位置の近傍で弁体24のリフト量が小さい状態では、同一のリフト量bでも開口面積を第1リリーフ孔52の場合より小さくすることができる。このため、弁体24が閉じる際に、弁体24が第1リリーフ孔21を全閉する直前の状態で、オイルの流速が高くなり、これに応じてオイル内の異物の通過速度も高くなるため、異物の噛み込みを抑制することができる。
【0034】
なお、第1リリーフ孔21は、図1に示したように、ハウジング5における図示するエンジン側ハウジング分割体に設けられ、図示しないハウジング分割体(図中で手前側に配置される)との合わせ面側(図中正面)を向くように設けられており、これにより、ドリルによる穿孔などにより第1リリーフ孔21を形成する際の加工性を向上させることができる。これは、後述する第2・第3の実施形態においても同様である。
【0035】
また、第1リリーフ孔21は、真円形状の他に、楕円形状とすることも可能である。この場合、扁平率の大きな楕円形状とすると、弁体24が閉じる際の異物の噛み込みを抑制する効果が小さくなるため、扁平率の小さな真円形状に近い楕円形状とすると良い。ちなみに、弁収容部23の側壁が円筒状をなすため、弁収容部23の軸線と交差する方向からドリルによる穿孔を行った場合には、真円形状となるが、弁収容部23の軸線と交差しない方向からドリルによる穿孔を行った場合には、楕円形状となる。このため、作業性を考慮して、複数の第1リリーフ孔21を同一方向からドリルによる穿孔を行う場合、複数の第1リリーフ孔21をできるだけ近接させて、ドリルの穿孔方向を弁収容部23の軸線に近付けるようにすると、真円形状に近い第1リリーフ孔21を開設することができる。
【0036】
また、第2リリーフ孔22は、弁収容部23の周方向に複数(ここでは2つ)並んで形成されている。この第2リリーフ孔22は、上端部が鋭角となる略台形状をなし、2つの第2リリーフ孔22は、ハウジング5の分割体の合わせ面側(図中正面)から見て、その中心線に関して対称となる形状に形成されている。
【0037】
<第2の実施形態>
図6に示すように、本発明の第2の実施形態に係るリリーフ弁61では、第1リリーフ孔62が、略三角形状をなし、その頂角部63が閉側、すなわち全閉位置にある弁体24の受圧面24a側に位置すると共に軸方向の寸法L1が周方向の寸法L2より短くなるように形成されている。
【0038】
特にここでは、第1リリーフ孔62が、ハウジング5の分割体の合わせ面側(図中正面)から見て、その軸方向の中心線に関して対称な二等辺三角形状をなし、頂角部63が周方向の中心位置に配置されている。頂角部63の開口縁部は円弧状に形成されており、弁体24のリフト量が小さい状態では、円弧状をなす頂角部63の開口縁部で割円状の開口部が画成される。底角部64の開口縁部も円弧状に形成されている。
【0039】
この構成でも、図5に示した第1の実施形態と同様に、円形状をなす第1リリーフ孔51が1つ設けられた構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合と比較すると、本発明による第1リリーフ孔62では、軸方向の寸法を短くすることができるため、第1リリーフ孔62を全開させるのに要する弁体24のリフト量が短縮される。そして、同一のリフト量での開口面積が大きくなり、オイルの流量を急速に増大させることができる。さらに、第1リリーフ孔62を全開させるまでのばね25の撓み量も小さくなり、ばね力が弱い領域で第1リリーフ孔62を全開させることができるため、弁体24のリフト速度も高くなる。このため、オイルの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができる。
【0040】
また、楕円形状をなす第1リリーフ孔52が1つ設けられた構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合と比較すると、本発明による第1リリーフ孔62では、全閉位置の近傍で弁体24のリフト量が小さい状態では、同一のリフト量でも開口面積を小さくすることができる。このため、弁体24が閉じる際に、弁体24が第1リリーフ孔62を全閉する直前の状態で、オイルの流速が高くなり、これに応じてオイル内の異物の通過速度も高くなるため、異物の噛み込みを抑制することができる。
【0041】
<第3の実施形態>
図7に示すように、本発明の第3の実施形態に係るリリーフ弁71では、第1リリーフ孔72が、略へ字形状をなし、その屈曲した中心部73が端部74より閉側、すなわち全閉位置にある弁体24の受圧面24a側に位置すると共に軸方向の寸法L1が周方向の寸法L2より短くなるように形成されている。
【0042】
特にここでは、第1リリーフ孔72が、ハウジング5の分割体の合わせ面側(図中正面)から見て、その軸方向の中心線に関して対称な形状をなしており、中心部73が周方向の中心位置に配置されると共に、周方向に対して傾斜した向きに真直に延びた一対のスリット状部分75が軸方向の中心線に関して対称に形成されている。中心部73の閉側の開口縁部は円弧状に形成されており、弁体24のリフト量が小さい状態では、円弧状をなす中心部73の開口縁部で割円状の開口部が画成される。端部74の開口縁部も円弧状に形成されている。スリット状部分75は幅(延在方向に直交する方向の寸法)L3が一定となっている。
【0043】
この構成でも、図5に示した第1の実施形態と同様に、円形状をなす第1リリーフ孔51が1つ設けられた構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合と比較すると、本発明による第1リリーフ孔72では、軸方向の寸法を短くすることができるため、第1リリーフ孔72を全開させるのに要する弁体24のリフト量が短縮される。そして、同一のリフト量での開口面積が大きくなり、オイルの流量を急速に増大させることができる。さらに、第1リリーフ孔72を全開させるまでのばね25の撓み量も小さくなり、ばね力が弱い領域で第1リリーフ孔72を全開させることができるため、弁体24のリフト速度も高くなる。このため、オイルの吐出圧が過度に上昇することを応答良く抑制することができる。
【0044】
また、楕円形状をなす第1リリーフ孔52が1つ設けられた構成で、全開口面積が同一となるように大きさを設定した場合と比較すると、本発明による第1リリーフ孔72では、全閉位置の近傍で弁体24のリフト量が小さい状態では、同一のリフト量でも開口面積を小さくすることができる。このため、弁体24が閉じる際に、弁体24が第1リリーフ孔72を全閉する直前の状態で、オイルの流速が高くなり、これに応じてオイル内の異物の通過速度も高くなるため、異物の噛み込みを抑制することができる。
【0045】
ところで、第1の実施形態、すなわち図4に示したように、2段リリーフ機構で円形状をなす第1リリーフ孔21が2つ設けられた構成(実施例1)と、リリーフ孔が1つ設けられた1段リリーフ機構による構成(比較例1)と、図5に示したように、2段リリーフ機構で円形状をなす第1リリーフ孔51が1つ設けられた構成(比較例2)とについて、図8に示すように、オイルポンプの吐出圧及びフリクションダウン効果を測定する実験を行った。
【0046】
実施例1では、図8(A)に示すように、エンジン回転数が低〜中回転の領域で、比較例1はもとより、比較例2と比較しても、油圧の上昇が効果的に抑えられており、また、図8(B)に示すように、比較例2と比較して、オイルの加圧によるクランクシャフトの動力の消費量の目安となるフリクション(負荷)が大きく低下しており、本発明の有効性が実証された。
【0047】
なお、第2の実施形態、すなわち図6に示したように、2段リリーフ機構で略三角形状をなす第1リリーフ孔62が1つ設けられた構成や、第3の実施形態、すなわち図7に示したように、2段リリーフ機構で略へ字形状をなす第1リリーフ孔72が1つ設けられた構成についても、同様の実験を行ったところ、実施例1(第1の実施形態)と同様の特性を示し、本発明の有効性が実証された。
【符号の説明】
【0048】
1 オイルポンプ
5 ハウジング
7 吸入室
9 吐出室
11 リリーフ弁
12 バイパス室
21 第1リリーフ孔
22 第2リリーフ孔
23 弁収容部
24 弁体、24a 受圧面
25 ばね
26 導入孔
61 リリーフ弁
62 第1リリーフ孔
63 頂角部
64 底角部
71 リリーフ弁
72 第1リリーフ孔
73 中心部
74 端部
75 スリット状部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔が側壁に開設された筒状の弁収容部と、その軸方向に進退して前記リリーフ孔を開閉する弁体と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばねとを備え、前記弁収容部に第1リリーフ孔と第2リリーフ孔とが軸方向に離間して形成されて、前記弁体のリフト動作に応じて前記第1リリーフ孔と前記第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたオイルポンプのリリーフ弁であって、
前記第1リリーフ孔は、円形状をなし、同一の径を有するものが前記弁収容部の周方向に複数並んで形成されたことを特徴とするオイルポンプのリリーフ弁。
【請求項2】
オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔が側壁に開設された筒状の弁収容部と、その軸方向に進退して前記リリーフ孔を開閉する弁体と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばねとを備え、前記弁収容部に第1リリーフ孔と第2リリーフ孔とが軸方向に離間して形成されて、前記弁体のリフト動作に応じて前記第1リリーフ孔と前記第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたオイルポンプのリリーフ弁であって、
前記第1リリーフ孔は、略三角形状をなし、その頂角部が閉側に位置すると共に軸方向の寸法が周方向の寸法より短くなるように形成されたことを特徴とするオイルポンプのリリーフ弁。
【請求項3】
オイルポンプの吐出側と吸入側とを連通するリリーフ孔が側壁に開設された筒状の弁収容部と、その軸方向に進退して前記リリーフ孔を開閉する弁体と、この弁体を全閉位置に向けて付勢するばねとを備え、前記弁収容部に第1リリーフ孔と第2リリーフ孔とが軸方向に離間して形成されて、前記弁体のリフト動作に応じて前記第1リリーフ孔と前記第2リリーフ孔とが順次開放されるようにしたオイルポンプのリリーフ弁であって、
前記第1リリーフ孔は、略へ字形状をなし、その屈曲した中心部が端部より閉側に位置すると共に軸方向の寸法が周方向の寸法より短くなるように形成されたことを特徴とするオイルポンプのリリーフ弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−38403(P2011−38403A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183276(P2009−183276)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】