説明

オイルポンプ

【課題】 作動油のリークを防止しつつ装置の構造を簡素化して、製造、組付作業能率の向上とコストの低減化を図る。
【解決手段】 第1、第2ハウジング部材1,2を線膨張係数の大きなアルミニウム合金材によって形成する一方、各カムリング3を線膨張係数の小さな鋳鉄によって形成した。該カムリングは、前記両ハウジング部材の突出部8,11の外周に嵌合されていると共に、内部に駆動軸15によって駆動する内外歯車13、14を回転自在に収容している。熱膨張によって両突出部の第1、第2当接面8a、11aが該両当接面と内外歯車の両側面間のサイドクリアランスを小さくして、該クリアランスからの作動油のリークを阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の各摺動部に潤滑油を供給するオイルポンプや、パワーステアリング装置のアシスト用油圧パワーシリンダに油圧を供給するオイルポンプの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車に用いられるオイルポンプは、装置全体の軽量化と耐久性を図ることを目的として、ポンプハウジングとハウジングカバーを比重の小さなアルミニウム合金材により形成する一方、強度が要求されるカムリングを鉄系金属によって形成したものが提供されている。
【0003】
ところが、このようにポンプハウジングとハウジングカバーを線膨張係数の大きな金属材料で構成し、カムリングを線膨張係数の小さな金属材料によって形成すると、ポンプ内の作動油の温度が上昇するに伴ってそれぞれの熱膨張による変位量が異なり、該各部材間のサイドクリアランスなどが大きくなってしまう。
【0004】
この結果、かかるサイドクリアランスから作動油がリークしてポンプ効率が低下してしまう。
【0005】
そこで、以下の特許文献1に記載されたオイルポンプのように、ハウジングとハウジングカバーにより包囲される包囲空間に、包囲部とポンプ作動部との熱膨張の相違によるサイドクリアランスの増大を補償する熱膨張率を有するスペーサ部材を設け、該スペーサ部材にシール機能をもたせて、ポンプ作動油のリークを防止するように構成したものも提供されている。
【特許文献1】実開昭58−183992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記公報記載の従来のオイルポンプは、包囲空間内に特別なスペーサ部材を設けるようになっていることから、オイルポンプの構造の複雑化が余儀なくされて、製造や組付作業能率の低下を招くと共に、コストの高騰を招いている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記従来のオイルポンプの技術的課題に鑑みて案出されたもので、所定の線膨張係数の材料によってほぼ円筒状に形成され、内側に作動室が形成されたカムリングと、該カムリングの前記作動室内に回転自在に収容されて、軸方向長さが前記カムリングの軸方向の幅長さより小さいポンプ要素と、前記カムリングの軸方向の一側面側に配置され、該カムリングよりも大きな線膨張係数の材料によって形成されていると共に、前記ポンプ要素の軸方向の一側面に対峙した第1当接面と前記カムリングの軸方向の一方側端面に当接する第1段差面とを備えた第1ハウジング部材と、前記カムリングの軸方向の他側面側に配置され、該カムリングよりも大きな線膨張係数の材料によって形成されていると共に、前記ポンプ要素の軸方向の他側面に対峙した第2当接面と前記カムリングの軸方向の他方側端面に当接する第2段差面とを備えた第1ハウジング部材と、前記第1ハウジング部材または第2ハウジング部材に設けられて、前記ポンプ要素の回転に伴って前記ポンプ室に作動油を吸入する吸入ポート及び前記作動室から作動油が吐出される吐出ポートとを備えたことを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、ポンプ駆動により作動油の温度が上昇するに伴って前記カムリング及び第1、第2ハウジング部材がそれぞれ熱膨張すると、第1、第2ハウジング部材は、線膨張係数がカムリングよりも大きいため、該両ハウジング部材が互いにほぼ同一の相対変位量によってカムリングを挟持する方向、つまり前記ポンプ要素の両側面方向へ変位する。
【0009】
このため、前記各ハウジング部材のポンプ要素に臨む第1当接面と第2当接面とポンプ要素の両側面との間の各サイドクリアランスの幅が減少する。同時に各ハウジング部材の第1,第2段差面と、該段差面に対峙するカムリング3の外側面との間の隙間が消失して密着状態になる。
【0010】
この結果、ポンプ室内の高圧な作動油が、各サイドクリアランスから外部へリークするのを十分に防止することができる。
【0011】
また、作動油の粘性抵抗の大きな低温時には、両ハウジング部材のポンプ要素方向への熱膨張変位も小さく、適度な大きさのサイドクリアランス量となるため、ポンプ要素の回転摺動抵抗の発生を防止できる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、とりわけ、カムリングに貫通形成されて、前記複数のポンプ室のうち、最小のポンプ容積を有する噛み合い部に対応する位置に配置された第1軸方向孔と、前記カムリングに貫通形成されて、前記複数のポンプ室のうち、最大のポンプ容積を有する閉じ込み部に対応する位置に配置された第2軸方向孔と、前記少なくとも一方のハウジング部材の前記各第1,第2軸方向孔に対向した位置に穿設された第1、第2圧入用孔と、
前記第1軸方向孔に挿通されつつ端部が前記第1圧入用孔に圧入された第1位置決めピンと、前記第2軸方向孔に挿通されつつ端部が前記第2圧入用孔に圧入された第2位置決めピンと、を備え、前記第1軸方向孔を前記第1位置決めピンの外径とほぼ同一の内径に形成すると共に、前記第2軸方向孔を、前記第2位置決めピンを介して前記カムリングが前記閉じ込み部から噛み合い部方向へ移動案内可能な長孔に形成したことを特徴としている。
【0013】
この発明によれば、ポンプ駆動により作動油の温度が上昇するに伴って前記カムリング及び第1、第2ハウジング部材がそれぞれ熱膨張すると、第1、第2ハウジング部材は、線膨張係数がカムリングよりも大きいため、カムリングの膨張変位より大きく変位する。
【0014】
このとき、第1位置決めピン側の第1,第2ハウジング部材は該第1位置決めピンによってカムリングと一体的に結合された形になっている一方、第2位置決めピン側ではカムリングとは長孔を介して変位移動可能になっている。
【0015】
このため、第1、第2ハウジング部材の比較的大きな膨張変位によって第2位置決めピンが、第2軸方向孔内で第1位置決めピン方向と離れる方向へ移動する。これにより、カムリングを閉じ込み部から噛み合い部方向へ僅かに移動させる。
【0016】
これによって、内歯歯車も同方向へへ僅かに移動して、該内歯の1つの歯頂部が外歯歯車の外歯の1つの歯頂部に押付けられて、閉じ込み部における各内外歯間の噛み合い隙間であるいわゆるチップクリアランスを消失させる。
【0017】
これによって、隣接する吐出ポート側のポンプ室から吸入ポート側のポンプ室への作動油のリークを十分に防止することが可能になる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明に供されるカムリングと第1,第2ハウジング部材との線膨張係数を反対にしたものである。
【0019】
したがって、この発明によれば、ポンプ駆動により作動油の温度が上昇するに伴って前記カムリング及び第1、第2ハウジング部材がそれぞれ熱膨張すると、カムリングは、線膨張係数が第1、第2ハウジング部材よりも大きいため、該両ハウジング部材の膨張変位より大きく変位する。
【0020】
このとき、第1位置決めピン側の第1,第2ハウジング部材は該第1位置決めピンによってカムリングと一体的に結合された形になっている一方、第2位置決めピン側ではカムリングが両ハウジング部材と長孔を介して変位移動可能になっている。
【0021】
このため、カムリングの膨張変位によって第1位置決めピンと第2位置決めピンとの軸間が離れてカムリングを閉じ込み部から噛み合い部方向へ移動させる
これによって、内歯歯車も同方向に移動して、閉じ込み部での内歯歯車の1つの歯頂部が外歯歯車の1つの歯頂部に押付けられて、該各内外歯間のいわゆるチップクリアランスを消失させる。
【0022】
これによって、請求項2の発明と同様な作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1及び図2は請求項1に記載した発明の第1の実施形態を示し、車両のパワーステアリング装置のアシスト用油圧シリンダの両油圧室に選択的に油圧を供給する、いわゆる可逆式オイルポンプ(トロコイドポンプ)に適用したものである。
【0024】
すなわち、このオイルポンプは、肉厚なブロック状に形成された第1ハウジング部材1と、該第1ハウジング部材2に対向配置された同じく肉厚なブロック状に形成された第2ハウジング部材3と、該第1、第2ハウジング部材1,2の間に挟持状態に配置されたほぼ円筒状のカムリング3と、該カムリング3の内側に回転自在に配置されたポンプ要素4と、前記第1ハウジング部材1内に互いに対向して形成されたそれぞれ円弧状の吸入(吐出)ポート5及び吐出(吸入)ポート6とから主として構成されている。
【0025】
前記第1ハウジング部材1は、アルミニウム合金材によって一体に形成され、矩形状の本体7と、該本体7の一端側に設けられたほぼ円柱状の第1突出部8とを備え、この第1突出部8の外周側に第1段差面である第1段差溝面9が形成されている。また、前記第1突出部8は、外径が前記カムリング3の内径よりも若干小さく設定されていると共に、平坦な円形状の端面がポンプ要素4に臨む第1当接面8aになっている。
【0026】
前記第2ハウジング2は、同じくアルミニウム合金材によって一体に形成され、本体10がカムリング3の外径とほぼ等しい円盤状に形成されていると共に、該本体10の一端側に前記第1突出部8と対向するほぼ円盤状の第2突出部11が一体に設けられており、この第2突出部11の外周側に第2段差面である第2段差溝面12が形成されている。また、第2突出部11は、外径が第1突出部8の外径とほぼ同一に設定されて、カムリング3の内径よりも若干小さく設定されていると共に、平坦な円形状の端面がポンプ要素4に臨む第2当接面11aになっている。
【0027】
また、前記第1、第2ハウジング部材1,2は、両本体7,10の互いの対向面に穿設された図外の圧入用孔に両端部が圧入された固定用ピンによって互いに結合されている。
【0028】
前記カムリング3は、前記第1、第2ハウジング部材1,2のアルミニウム合金材よりも線膨張係数が小さい鋳鉄によって形成され、前記第1、第2ハウジング部材1,2の対向する両突出部8,11の外周面及び各段差溝面9,12に嵌合保持されている。また、カムリング3の円周方向所定位置には、前記両ハウジング部材1,2を結合する各固定用ピンが遊嵌状態に挿通する径方向に延びた複数の長孔が軸方向に貫通形成されている。
【0029】
前記ポンプ要素4は、カムリング3の内周面に回転自在に支持された円環状の内歯歯車13と、該内歯歯車13の複数の内歯13a噛合する複数の外歯14aを有する外歯歯車14と、該外歯歯車14の中央に結合されて、図外の電動モータによって回転駆動されるポンプ軸15とを備えている。
【0030】
前記内歯歯車13と外歯歯車14とは、その軸方向の幅が前記カムリング3の軸方向の幅よりも僅かに小さく設定されていると共に、前記各内外歯13a、14aの間にそれぞれポンプ室16が形成されている。
【0031】
このポンプ室16は、内外歯車12,13の回転に伴い容積が変化して前記吸入ポート5の領域で作動油を吸入し、吐出ポート6の領域で圧縮された作動油を吐出するようになっており、前記吸入ポート5と吐出ポート6の一方の境界域が内外歯13a、14aの両歯頂部が接触した閉じ込み部17になり、この域ではポンプ室16が最大容積になっている。
【0032】
また他方の境界域が内外歯13a、14aが噛み合う噛み合い部18になり、この域ではポンプ室16の最小容積になっている。
【0033】
また、前記各突起部8,11の第1、第2当接面8a、11aと前記内歯歯車13及び外歯歯車14の各両側面との間に、微小なサイドクリアランスC、Cが形成されている。
【0034】
したがって、この実施形態によれば、電動モータによりポンプ軸15を介して外歯歯車14と、これに噛み合う内歯歯車13が回転駆動され、ポンプ作動油の温度が上昇するに伴って前記カムリング3及び第1、第2ハウジング部材1,2がそれぞれ熱膨張する。
【0035】
そうすると、第1、第2ハウジング部材1,2は、線膨張係数がカムリング3よりも大きいため、該カムリング3の熱膨張変位量よりも該両ハウジング部材1,2の熱膨張変位量が大きくなって、該両ハウジング部材1,2が互いにほぼ同一の熱膨張変位量によってカムリング3を挟持する方向、つまり各突出部8,11がが前記内外歯車13,14の各両側面方向へ変位する。
【0036】
このため、前記各突出部8,11の第1、第2当接面8a、11aと内外歯車13,14の各両側面との間の前記各サイドクリアランスC、Cの幅が減少する。同時に各ハウジング部材1,2の両段差溝面9,12と、該溝面に対峙するカムリング3の外側面との間の隙間が消失して密着状態になる。
【0037】
したがって、吐出ポート6側のポンプ室16内の高圧な作動油が各サイドクリアランスC、Cから外部へリークするのを十分に防止することができる。この結果、ポンプ効率の低下を防止することができる。
【0038】
また、作動油の粘性抵抗の大きな低温時には、両ハウジング部材1,2のポンプ要素4方向への熱膨張変位も小さく、サイドクリアランスC、Cは適度な大きさのクリアランス量となるため、ポンプ要素4の回転摺動抵抗の発生を防止できる。
【0039】
特に、この実施形態では、前述のように、作動油のリーク防止を、従来のように、スペーサ部材を用いて行うのではなく、各ハウジング部材7,10とカムリング3の異なる熱膨張変位量を利用して行うようになっていることから、装置全体の構造を簡素化でき、これによって製造、組付作業能率の向上と、コストの低減化が図れる。
【0040】
また、比較的体積の大きな第1、第2ハウジング部材1,2を、比重の小さなアルミニウム合金材によって形成し、高い耐久性が要求されるカムリング3を鉄系金属によって形成したことによって、オイルポンプ全体の軽量化と耐久性の両方を満足させることが可能になる。
【0041】
図3及び図4は第2の実施形態を示し、トロコイドポンプに代えてベーンポンプに適用したものであって、ハウジングなどの基本構成は第1の実施形態と同様であるから、共通の構成は同一の符番を付して説明する。
【0042】
すなわち、第1、第2ハウジング部材1、2はアルミニウム合金材によって形成されている一方、カムリング3は鋳鉄によって形成されている。
【0043】
前記第1ハウジング部材1の内部には、円弧状の吸入ポート5及び吐出ポート6が形成されていると共に、前記吸入ポート5に作動油を送出する吸入通路5aと、前記吐出ポート6に吐出された作動油を外部の機器類に供給する吐出通路6aとが形成されている。
【0044】
また、カムリング3の偏心孔3aの内部には、駆動軸15に固定されたベーンロータ30が回転自在に設けられていると共に、該ベーンロータ30の外周部に放射状に形成された複数のスロット内にベーン部31がカムリング3の内周面方向へ出没自在に設けられている。
【0045】
したがって、この実施形態においても、作動油が高温になって、両ハウジング部材1,2が熱膨張変位すると、前記各突出部8,11の第1、第2当接面8a、11aと内外歯車13,14の各両側面との間の前記各サイドクリアランスC、Cの幅が減少する。同時に各ハウジング部材1,2の両段差溝面9,12と、該溝面に対峙するカムリング3の外側面との間の隙間が消失して密着状態になる。
【0046】
したがって、吐出ポート6側のポンプ室16内の高圧な作動油が各サイドクリアランスC、Cから外部へリークするのを十分に防止することができる。この結果、ポンプ効率の低下を防止することができる。
【0047】
図5及び図6は請求項2に記載した発明に係る実施形態を示し、オイルポンプ(トロコイドポンプ)の基本構造は、先の実施形態と同様であるから、共通の構成は同一の符番を付けて具体的な説明は省略する。
【0048】
第1、第2ハウジング部材1,2が、線膨張係数の大きなアルミニウム合金材によって一体に形成され、カムリング3が、線膨張係数の小さな鋳鉄によって形成されていることも前記実施形態と同様である。
【0049】
そして、前記第1、第2ハウジング部材1,2は、両本体7,10の互いの対向面の同一箇所に第1,第2圧入用孔21a、21b、22a、22bが形成されている。この各孔21a、21b、22a、22bは、図5に示すように、後述するカムリング3の第1、第2軸方向孔と同じく、前記ポンプ室16の最大及び最小容積となる内歯歯車13と外歯歯車14による閉じ込み部17と噛み合い部18に径方向線X上の対応した位置に形成されている。また、前記各圧入用孔21a、21b、22a、22bには、第1、第2位置決めピン23,24の各両端部が圧入され、これによって両ハウジング部材1,2が互いに結合されている。
【0050】
一方、カムリング3は、前記閉じ込み部17と噛み合い部18に対応する径方向線X上の両側位置に、前記第1、第2位置決めピン23,24が挿通する第1、第2軸方向孔25,26がそれぞれ形成されている。
【0051】
前記噛み合い部18側の第1軸方向孔25は、その内径が前記第1圧入用孔21a、21bとほぼ同一に設定されて、前記第1位置決めピン23が圧入されている。
【0052】
一方、閉じ込み部17側の第2軸方向孔26は、前記第2位置決めピン24を介してカムリング3が前記閉じ込み部17から噛み合い部18方向(径方向)へ移動案内可能な長孔に形成されている。
【0053】
したがって、この実施形態によれば、前述のように、ポンプ駆動により作動油の温度が上昇するに伴って前記カムリング3及び第1、第2ハウジング部材1,2がそれぞれ熱膨張すると、第1、第2ハウジング部材1,2は、線膨張係数がカムリング3よりも大きいため、カムリング3の膨張変位量より大きく変位する。
【0054】
この時、第1位置決めピン23側の第1,第2ハウジング部材1,2は、該第1位置決めピン23によってカムリング3と一体的に結合された形になっている一方、第2位置決めピン24側ではカムリング3とは長孔の第2軸方向孔26を介して変位移動可能になっているため、第1、第2ハウジング部材1,2の比較的大きな熱膨張変位によって第2位置決めピン24が、第2軸方向孔26内で第1位置決めピン23と反対方向へ移動して両位置決めピン24,25間の軸間距離が大きくなる。
【0055】
したがって、カムリング3が、矢印で示すように、閉じ込み部17側から噛み込み部18側へ僅かに移動する。
【0056】
これによって、内歯歯車13も同方向へ移動して、閉じ込み部17の1つの外歯13aの歯頂部が1つの内歯14aの歯頂部に押付けられて、各内外歯間13a、14aの噛み合い隙間であるいわゆるチップクリアランスC1を消失させることができる。
【0057】
このため、閉じ込み部17での吐出ポート6側のポンプ室16から吸入ポート5のポンプ室16への作動油のリークを十分に防止することが可能になる。
【0058】
図7及び図8は請求項3に記載の発明の実施形態を示し、この実施形態は請求項2の発明の前記実施形態と構造的にはほぼ等しいが、異なる所は、第1、第2ハウジング部材1,2が、線膨張係数の小さな鋳鉄によって一体に形成されている一方、カムリング3が、線膨張係数の大きなアルミニウム合金材によって形成されている。
【0059】
また、最小ポンプ容積となる噛み合い部18側の第1軸方向孔25は、その内径が第1位置決めピン23を介してカムリング3が閉じ込み部17と噛み合い部18方向(径方向)へ移動可能な長孔に形成されている。
【0060】
一方、最大ポンプ容積となる閉じ込み部17側の第2軸方向孔26は、その内径が前記第2圧入用孔22a、22bとほぼ同一に設定されて、前記第2位置決めピン24が圧入されている。
【0061】
したがって、この実施形態によれば、ポンプ駆動により作動油の温度が上昇するに伴って前記カムリング3及び第1、第2ハウジング部材1,2がそれぞれ熱膨張すると、カムリング3は、線膨張係数が第1、第2ハウジング部材1,2よりも大きいため、該両ハウジング部材1,2の膨張変位より大きく変位する。
【0062】
この時、第2位置決めピン24側の第1,第2ハウジング部材は、該第2位置決めピン24によってカムリング3と一体的に結合された形になっている一方、第1位置決めピン23側ではカムリング3が両ハウジング部材1,2と第1軸方向孔25を介して変位移動可能になっている。
【0063】
このため、カムリング3は、熱膨張変位によって第1位置決めピン23と長孔の第1軸方向孔25を介して閉じ込み部17から噛み合い部18方向(矢印方向)へ僅かに移動する。
【0064】
これによって、内歯歯車13も同方向へ僅かに移動して閉じ込み部17における内歯13aの歯頂部が外歯14aの歯頂部に押付けられて、いわゆるチップクリアランスC1を消失させる。
【0065】
このため、閉じ込み部17での吐出ポート6側のポンプ室16から吸入ポート5のポンプ室16への作動油のリークを十分に防止することが可能になる。
【0066】
前記実施形態から把握される前記請求項に記載した発明以外の技術的思想について以下に説明する。
【0067】
請求項(1) 前記第1、第2ハウジング部材を、アルミニウム合金材によって形成する一方、前記カムリングを鉄系金属によって形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のオイルポンプ。
【0068】
比較的体積の大きな第1、第2ハウジング部材を、比重の小さなアルミニウム合金材によって形成し、高い耐久性が要求されるカムリングを鉄系金属によって形成することにより、オイルポンプ全体の軽量化と耐久性の両方を満足させることが可能になる。
【0069】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、第1、第2ハウジング部材を同じ金属材料でも、異なる金属材料であってもよい。
【0070】
また、この発明は、各実施形態のような可逆式(双方向式)ポンプばかりか一方向のポンプにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】請求項1の発明に係るオイルポンプをトロコイドポンプに適用した第1の実施形態を示す概略図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】ベーンポンプに適用した第2の実施形態を示す概略図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】請求項2の発明に係るオイルポンプの実施形態を示す概略図である。
【図6】図5のC−C線断面図である。
【図7】請求項3の発明に係るオイルポンプの実施形態を示す概略図である。
【図8】図7のD−D線断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1…第1ハウジング部材
2…第2ハウジング部材
3…カムリング
4…ポンプ要素
5…吸入ポート
6…吐出ポート
8a…第1当接面
9・12…第1、第2段差溝面(段差面)
11a…第2当接面
13…内歯歯車
13a…内歯
14…外歯歯車
14a…外歯
16…ポンプ室
17…閉じ込み部
18…噛み合い部
21a・22a…第1、第2圧入用孔
23・24…第1、第2位置決めピン
25・26…第1、第2軸方向孔
C・C…サイドクリアランス
C1…チップクリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の線膨張係数の材料によってほぼ円筒状に形成され、内側に作動室が形成されたカムリングと、
該カムリングの前記作動室内に回転自在に収容されて、軸方向長さが前記カムリングの軸方向の幅長さより小さいポンプ要素と、
前記カムリングの軸方向の一側面側に配置され、該カムリングよりも大きな線膨張係数の材料によって形成されていると共に、前記ポンプ要素の軸方向の一側面に対峙した第1当接面と前記カムリングの軸方向の一方側端面に当接する第1段差面とを備えた第1ハウジング部材と、
前記カムリングの軸方向の他側面側に配置され、該カムリングよりも大きな線膨張係数の材料によって形成されていると共に、前記ポンプ要素の軸方向の他側面に対峙した第2当接面と前記カムリングの軸方向の他方側端面に当接する第2段差面とを備えた第1ハウジング部材と、
前記第1ハウジング部材または第2ハウジング部材に設けられて、前記ポンプ要素の回転に伴って前記ポンプ室に作動油を吸入する吸入ポート及び前記作動室から作動油が吐出される吐出ポートと、
を備えたことを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
所定の線膨張係数の材料によってほぼ円筒状に形成され、内側に作動室が形成されたカムリングと、
該カムリングの内周に回転自在に収容された内歯歯車及び内歯歯車の外歯に内歯が噛み合って各内外歯間に複数のポンプ室を形成する外歯歯車とから構成されたポンプ要素と、
前記カムリングの軸方向の一側面側に前記作動室の一端開口を閉塞するように配置されて、該カムリングよりも大きな線膨張係数の材料によって形成された第1ハウジング部材と、
前記カムリングの軸方向の他側面側に前記作動室の他端開口を閉塞するように配置されて、前記第1ハウジング部材とほぼ同一の線膨張係数の材料によって形成された第2ハウジング部材と、
前記第1ハウジング部材または第2ハウジング部材に設けられて、前記各内外歯間の複数のポンプ室のうち、該ポンプ要素の回転に伴って前記ポンプ容積の増大する領域に開口した吸入ポート及びポンプ容積の減少する領域に開口した吐出ポートと、
前記カムリングに貫通形成されて、前記複数のポンプ室のうち、最小のポンプ容積を有する噛み合い部に対応する位置に配置された第1軸方向孔と、
前記カムリングに貫通形成されて、前記複数のポンプ室のうち、最大のポンプ容積を有する閉じ込み部に対応する位置に配置された第2軸方向孔と、
前記少なくとも一方のハウジング部材の前記各第1,第2軸方向孔に対向した位置に穿設された第1、第2圧入用孔と、
前記第1軸方向孔に挿通されつつ端部が前記第1圧入用孔に圧入された第1位置決めピンと、
前記第2軸方向孔に挿通されつつ端部が前記第2圧入用孔に圧入された第2位置決めピンと、を備え、
前記第1軸方向孔を前記第1位置決めピンの外径とほぼ同一の内径に形成すると共に、
前記第2軸方向孔を、前記第2位置決めピンを介して前記カムリングが前記閉じ込み部から噛み合い部方向へ移動案内可能な長孔に形成したことを特徴とするオイルポンプ。
【請求項3】
所定の線膨張係数の材料によってほぼ円筒状に形成され、内側に作動室が形成されたカムリングと、
該カムリングの内周に回転自在に収容された内歯歯車及び内歯歯車の外歯に内歯が噛み合って各内外歯間に複数のポンプ室を形成する外歯歯車とから構成されたポンプ要素と、
前記カムリングの軸方向の一側面側に前記作動室の一端開口を閉塞するように配置されて、該カムリングよりも小さな線膨張係数の材料によって形成された第1ハウジング部材と、
前記カムリングの軸方向の他側面側に前記作動室の他端開口を閉塞するように配置されて、前記第1ハウジング部材とほぼ同一の線膨張係数の材料によって形成された第2ハウジング部材と、
前記第1ハウジング部材または第2ハウジング部材に設けられて、前記各内外歯間の複数のポンプ室のうち、該ポンプ要素の回転に伴って前記ポンプ容積の増大する領域に開口した吸入ポート及びポンプ容積の減少する領域に開口した吐出ポートと、
前記カムリングに貫通形成されて、前記複数のポンプ室のうち、最小のポンプ容積を有する噛み合い部に対応する位置に配置された第1軸方向孔と、
前記カムリングに貫通形成されて、前記複数のポンプ室のうち、最大のポンプ容積を有する閉じ込み部に対応する位置に配置された第2軸方向孔と、
前記少なくとも一方のハウジング部材の前記各第1,第2軸方向孔に対向した位置に穿設された第1、第2圧入用孔と、
前記第1軸方向孔に挿通されつつ端部が前記第1圧入用孔に圧入された第1位置決めピンと、
前記第2軸方向孔に挿通されつつ端部が前記第2圧入用孔に圧入された第2位置決めピンと、を備え、
前記第1軸方向孔を前記第1位置決めピンの外径とほぼ同一の内径に形成すると共に、
前記第2軸方向孔を、前記第2位置決めピンを介して前記カムリングが前記閉じ込み部から噛み合い部方向へ移動案内可能な長孔に形成したことを特徴とするオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−29276(P2006−29276A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212398(P2004−212398)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】