説明

オムニホイル及び全方向移動装置

【課題】
ホイル径を大きくすることなく、容積が嵩まないコンパクトなものとしてモーターイン機構を達成するオムニホイル及び全方向移動装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
この発明のオムニホイルは、第一の回動軸で回動可能なローラーフレーム1を一個又は複数個具備してなるものであって、前記ローラーフレーム1は、それ自体の周縁に沿って複数のフリーローラー2を保持すると共に、それ自体の内部に、ローラーフレーム自体を第一の回動軸回りに回動させるフレーム回動手段4を収容してなることを特徴とする。また前記オムニホイルにおいて、フレーム回動手段4は、ローラーフレーム1をアウトローターとするアウトローター式駆動機構としても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、全方向移動装置の駆動輪としてのオムニホイル及びそれを備えた全方向移動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、全方向移動体に備えられる全方向ホイル(オムニホイル)として、ローラーフレームの周方向に3個のローラーが回動自在に設けられてホイル構成体が形成され、該ホイル構成体が2個互いのローラーの位相をずらして固定されたものが存在する(例えば、特許文献1参照)。このように固定されたホイル構成体は、全方向移動体に水平の回動軸にて回動可能に設けられる。また、全方向移動体の平面視略中心で交差した複数の車軸のそれぞれ両端に、それぞれの側面が平面視略中心を向くようにして複数輪が設けられる。
【0003】
しかしながら、前記従来のオムニホイルでは、モーターをホイルの外部へ外装しなければならない。全方向移動のためにはホイルごとに独立駆動モーターが必要なため、全方向移動装置全体として複数のモーターや駆動力伝達機構が必要であり、容積がかさむものであった。
【0004】
また、このような従来のオムニホイルでは、周囲に複数のローラーを支持し、また構成体が互いの位相をずらして固定されるという構造上、ホイル径を大きくしなければホイルインモーターとすることが出来ないものであった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−249769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、ホイル径を大きくすることなく、容積が嵩まないコンパクトなものとしてモーターイン機構を達成するオムニホイル及び全方向移動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、下記(1)ないし(5)の手段を採用する。
【0008】
(1)この発明のオムニホイルは、第一の回動軸で回動(すなわち、正逆方向へ回転)可能なローラーフレーム1を一個又は複数個具備してなるものであって、前記ローラーフレーム1は、それ(ローラーフレーム)自体の周縁に沿って複数のフリーローラー2を保持すると共に、それ(ローラーフレーム)自体の内部に、ローラーフレーム自体を第一の回動軸回りに回動させるフレーム回動手段4を収容してなることを特徴とする。
【0009】
(2)また前記オムニホイルにおいて、フレーム回動手段4は、ローラーフレーム1をアウトローターとするアウトローター式駆動機構としても良い。
【0010】
この様なものであれば、ローラーフレーム1自体がアウトローターの回動部として高速回動する。周囲のホイルとなるローラーフレームをハウジング型の回動部として一体化しているため、軸回動の伝達機構が不要となる。例えば、内軸回動モーターのように、軸回動力をホイルボックスで外周ホイルに伝えたり、軸及びホイル間の、振動等による軸ズレの吸収を行うことが不要となる。また、内軸回動モーターのようにハウジングされた回動機構を収容するものではなく、ローラーフレーム1を直接回動させるため、回動のための機構(例えば、電磁誘導体であるコイル)に比較的大きなスペースを確保できる。そして、例えば電磁誘導体として比較的大きな径のコイルを使用した場合には、ギヤ等の機械構造を組み込まなくても高トルクを得ることができる。機械式のギヤが不要となり簡易な構成で回動手段が成立するため、これらによって、簡易な機構で耐久性に優れ、安全性の高いオムニホイルとなる。
【0011】
(3)また前記いずれかのオムニホイルは、ローラーフレーム1の第一の回動軸A方向に沿う内部収容空間3を設け、この内部収容空間3に、アクチュエーター41を備えた(略円柱状の)フレーム回動手段4を収容してなり、前記アクチュエーター41は、それ自体の回動駆動軸がローラーフレーム1の第一の回動軸A方向を向くように配設された回動アクチュエーター41としても良い。
【0012】
この様なものであれば、それ自体の回動駆動軸がローラーフレーム1の第一の回動軸A方向を向くため、回動駆動力をローラーフレーム1へ安定して伝えることができる。
【0013】
(4)また、前記いずれかのオムニホイルは、フレーム回動手段4が、遊星ギヤ422構造を含む回動ギヤ群(421〜423)を具備すると共に、遊星ギヤ422のギヤ軸422sの軸位置がホイルボックス44に固定されてなることを特徴とする。
【0014】
この様なものであれば、遊星ギヤ422構造のギヤ回動によって、遊星ギヤ422の軸位置が移動し、そのギヤ力がホイルボックス44に出力される。これにより、安定したギヤ伝達と耐久性に優れたギヤを構成することができる。例えば、ホイルボックスがローラーフレームに固定されてローラーフレームと一体化してなることで、回動ギヤ群(421〜423)の軸力が、ローラーフレームに伝達される。
【0015】
(5)また、本発明の全方向移動装置は、前記いずれかのオムニホイルが、移動装置への固定手段5を、各フレーム回動手段4に固定されたものとして具備すると共に、この固定手段5によって移動装置に複数輪固定されてなることを特徴とする。
【0016】
この様な全方向移動装置は、各オムニホイルが内部にフレーム回動手段を収容し、それ自体で回動するため、駆動機構のスペースが不要であり、コンパクトものとなる。また比較的大きな足下重量となり、走行の安定したものとなる。特に、例えば振動の少ない滑らかな全方向移動を必要とする精密部品運搬用装置或いは歩行訓練用全方向移動体に好ましく利用できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のオムニホイルは、上述のような構成を有しており、フレーム回動手段を収容したモーターイン機構を達成することで、ホイル径を大きくすることなく、容積が嵩まないコンパクトなものとしてなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の好適な実施形態を、各実施形態を示す図面を参照して説明する。図1及び図2は、本発明の実施例1のオムニホイルのそれぞれ正面図及び側断面説明図を示し、図3及び図4は実施例1のオムニホイルを備えた本発明の全方向移動装置の形態例について、それぞれ底面図及び側面図を示す。図5及び図6は、本発明の実施例2のオムニホイルのそれぞれ正面図及び側断面説明図を示す。図7及び図8は、本発明の実施例3のオムニホイルのそれぞれ正面図及び側断面説明図を示す。
【0019】
この発明のオムニホイルは、略水平方向の第一の回動軸A回りで回動(すなわち、正逆方向へ回転)可能なローラーフレーム1を、一個又は複数個、第一の回動軸Aを共通させて具備してなる。ローラーフレーム1は、第一の回動軸Aを中心としたローラーフレーム1自体の周縁に沿って、複数のフリーローラー2を自由回動可能に保持する。またローラーフレーム1はその内部に、第一の回動軸A方向に沿う内部収容空間3を設け、この内部収容空間3に、ローラーフレーム1自体を第一の回動軸A回りに回動させるフレーム回動手段4を収容してなる。
【0020】
また、本発明の全方向移動装置は、前記いずれかのオムニホイルを複数輪、各フレーム回動手段4を装置本体に固定してなることを特徴とする。このとき、各オムニホイルの車軸すなわち第一の回動軸Aが可変しないものとして固定され、フレーム回動手段4による回動速度の調整によって任意の方向に移動する。以下、各構成を詳述する。
【実施例1】
【0021】
(ローラーフレーム1)
ローラーフレーム1は、第一の回動軸Aを中心として後述のフレーム回動手段4によって回動し、接地面上を転回可能である。このとき第一の回動軸Aは、接地面に対して略水平である。
【0022】
ローラーフレーム1が複数の場合、共通する第一の回動軸Aを中心として互いに位相をずらして各列が列設固定される。また、それ自体の周縁に沿って、複数のフリーローラー2を同一平面上で保持してなる。ローラーフレーム1は、本実施例では第一のローラーフレーム11及び第二のローラーフレーム12のふたつである。この2枚が、2列、略水平軸方向の第一の回動軸Aを共通軸とし、互いに位相をずらして列設固定してなる。2列の場合、ずらす位相の量は、ローラーフレームの正面視にてフリーローラー2の取り付け間隔の位相の半分である(図1の点線、或いは実施例2を示す図5参照)。ここで、全方向移動装置に固定した場合の平面視外側(図3にて略円形のフレームFの円周外側)の列を第一のローラーフレーム11とし、平面視内側(図3にて略円形のパイプフレームFの中心側)の列を第二のローラーフレーム12とする。第一及び第二それぞれのローラーフレーム1は略同一形状であり、それぞれ5個のフリーローラー2を同一平面上に等間隔に保持する。
【0023】
((第一及び第二の)ローラーフレーム11、12(1))
第一及び第二のローラーフレーム12は、それ自体が共通の第一の回動軸Aで転回する薄型の転回体からなる。第一の回動軸Aを法線とする面を正面としたとき、図1に示すように、少なくとも5個のフリーローラー2を一平面内で等間隔に放射状に保持する。このときフリーローラー2の軸が、ローラーフレーム1の転回面内で正多角形を形成してなる。
【0024】
第一のローラーフレーム11と第二のローラーフレーム12とは、第一の回動軸Aを中心としたフリーローラー2の配置角度の半分だけ位相がずれて、列設される。実施例では第一及び第二のローラーフレーム11、12による2列の列設とすることで、厚さ方向(列を重ねる方向)にコンパクトなものとしているが、一つのオムニホイルを構成すべき列の数すなわちローラーフレーム1の枚数は3枚或いは4枚でもよい。
【0025】
(フリーローラー2)
フリーローラー2は、各列のローラーフレーム1の周縁に沿って、複数個が同一平面上で自由回動可能に保持される。この同一平面は、接地面及び第一の回動軸Aに対してそれぞれ垂直な面である。複数のフリーローラー2は、それぞれのローラーフレーム1において、第二ないし第六の回動軸(A〜A)で正逆方向に自由回動可能なローラーである。第二ないし第六の回動軸(A〜A)は、前記垂直な面内で第一の回動軸Aを中心とする或る半径の円を書いた場合、この円の接線となる。複数のフリーローラー2は、各列のローラーフレーム1に於いて等間隔に保持されることが好ましい。また位相をずらして複数列のローラーフレーム1が列設固定される場合には、側面視にてローラーフレーム1が第一の回動軸Aを中心として等間隔に配置されることが好ましい。このとき、複数のフリーローラー2は、各列のローラーフレームの周囲にて少なくともいずれかが接地する。各列のローラーフレーム1が同一平面上に保持するフリーローラー2の数は、少なくとも5個であると、後述する内部収容空間3を比較的大きなものとすることができる。
【0026】
フリーローラー2は、図1に示すように、回動軸の両端から中央にかけて回動径が大きくなる軸対称かつ両軸方向対称の樽形のローラーである。実施例では5個のフリーローラー2が、ローラーフレーム1によって自由回動可能に軸支されて略垂直な一平面上に備えられる。フリーローラー2の軸は、第二ないし第六の回動軸A、A、A、A、Aの五つであり、正面視にて第一の回動軸を中心とした多角形である正五角形として形成される(図2参照)。第二ないし第六の回動軸A、A、A、A、Aのそれぞれを中心軸とする樽形のローラーが、ローラーフレーム1に自由回動可能に保持されたの両端面中央に軸穴22を有し、この軸穴に略円柱型の軸体21を自由回動可能に収容してなる。
【0027】
前記の通り、複数列のローラーフレーム1が位相を変えて列設固定されることによって。図1に示すように、正面視にて一の列のフリーローラー2間の隙間を他の列のフリーローラー2間で補完しあうように配設され、正面視円形の接地部分を形成する。
【0028】
フリーローラー2の数は、実施例では5個であるが、それ以上であれば6個、7個或いは8個以上でもよい。このようにフリーローラー2の数を5個以上としたことで、内部に第一の回動軸Aを中心とする内部収容空間3を確保することが出来る。また各列のフリーローラー2の数が5個以上であって、かつ複数のローラーフレーム1を位相をずらして列設固定してなるものとすれば、ローラーフレーム1が第一の回動軸A回りに回動したとき、接地するフリーローラー間の距離L(図4参照)をより短いものとすることができる。このため振動が少なく走行安定性に優れたものとなる。
【0029】
(内部収容空間3)
内部収容空間3は、ローラーフレーム1の第一の回動軸Aを中心軸とする円柱孔状の空間である。この内部収容空間3は、フレーム回動手段4の駆動機構の少なくとも一部を収容する空間である。複数のローラーフレーム1の場合、各列が列設固定されたうえでオムニホイル全体の第一の回動軸A付近にひとつの内部収容空間3が設けられる。内部収容空間3は、列設固定されたローラーフレーム1の第一の回動軸Aを中心として、複数列のローラーフレーム1によって、駆動装置等の機械構造の一部が両側面いずれからも極端に突出することなく、(好ましくは全く突出せずに完全に収容されている状態として)後述のフレーム回動手段4を内部収容するように設けられる。実施例ではローラーフレーム1の第一の回動軸Aを中心軸とする円柱孔状の空間であり、内部収容空間3自体よりも一回り小さい円柱状のフレーム回動手段4を、ベアリング、ホイルボックス等によって回動可能に収容する。
【0030】
(フレーム回動手段4)
フレーム回動手段4は、略円柱状のアクチュエーター41を備える。また、ローラーフレーム1の内部たる第一の回動軸A付近に、第一の回動軸A方向に沿う内部収容空間3を設け、この内部収容空間3に、アクチュエーター41を備えた略円柱状のフレーム回動手段4を収容してなる。
【0031】
アクチュエーター41は、ローラーフレーム1の内部である内部収容空間に収容される。それ自体の回動駆動軸が第一の回動軸A方向を向くようにして配設された回動アクチュエーターであることが好ましい。この様なものであれば、それ自体の回動駆動軸がローラーフレーム1の第一の回動軸A方向を向くため、回動駆動力をローラーフレーム1へ安定して伝えることができる。
【0032】
フレーム回動手段4は、アクチュエーター41たる電動モーターと、第一の回動軸Aを中心としてローラーフレーム1の内外の両側面或いはいずれか一側面に設けられて電動モーターの駆動力を伝達する(と共に、ローラーフレーム1の振動や衝撃を緩衝する)ホイルボックス44と、フレーム回動手段4の側部にてローラーフレーム1を周転可能に支承する側部ベアリング43とを具備する。
【0033】
具体的には、内軸回動電動モーターと回動ギヤ42とが、円柱状のアクチュエーターユニット40内に配設される。そして、このアクチュエーターユニット40が、側周面に設けた複数列の側部ベアリング43と、頂面中心に設けたホイルボックスとを介して、内部収容空間3内に収容される。
【0034】
(アクチュエーター41)
アクチュエーター41は、それ自体の回動駆動軸がローラーフレーム1の第一の回動軸A方向を向くように配設された回動駆動装置たる回動式電動モーターである。電動モーターの回動軸は、ローラーフレーム1の第一の回動軸Aと同方向を向き、第一の回動軸Aより鉛直下方へ僅かに偏心する。この偏心によってローラーフレーム1の転回駆動に必要なトルクを容易に確保する。また鉛直下方へ偏心することで、重心位置を中心下方とし、安定した走行を可能とする。
【0035】
具体的に使用可能なアクチュエーターたる内軸回動式電動モーターは、例えば16極の永久磁石、及び4つの磁極片の三相巻線を具備した、出力30W、無負荷回動数4400rpm、停動トルク260mNm、スラストプリロード5N以上の、ブラシレス、ホールセンサ内蔵タイプのものである。
【0036】
(回動ギヤ42)
本実施例の回動ギヤ42は、ホイルボックスの中央内部に連結される。電動モーターの駆動回動軸41sを入力側とし、ギヤ出力軸42sを出力側としてギヤ変換を行う。ギヤ軸41sは側部外方向に突出し、ローラーフレーム1の第一の回動軸Aと共通する(図2)。
【0037】
具体的に使用可能な回動ギヤ42は、例えば連続及び断続それぞれの最大トルク2.0及び2.5Nm、直線歯ギヤヘッド、減速比111:1のものである。
【0038】
(側部ベアリング43)
側部ベアリング43は、アクチュエーターユニット40の側周面に、側周囲を亘るように複数列設けられる。実施例では転がり軸受けとしている。列数は、ローラーフレーム1の列数と共通することが好ましい。
【0039】
(ホイルボックス44)
ホイルボックス44は、内部収容空間3内、及びローラーフレーム1の最外面上(図2の側面視にて向って右側の面上)に設けられて、アクチュエーター41たる電動モーターの駆動力をローラーフレーム1に伝達すると共に、ローラーフレーム1の振動や衝撃を緩衝する。具体的には、最外列のローラーフレーム1たる第一のローラーフレーム11の内部に収容されたカップリング機構と、このカップリング機構および第一のローラーフレーム11の外側の略垂直面を覆うホイルキャップ44cとを備えてなる。
【0040】
カップリング機構は、ギヤ出力軸42sに連結され、第一の回動軸Aを軸とする略円柱体が、円形板を介してホイルキャップ44cの内側に嵌入されてなり、カップリング構造の弾性機能により振動や衝撃を吸収する(図2)。ホイルキャップ44cは、部分球冠の外側面を有し、その内側周縁が第一のローラーフレームの側面(図2の側面視にて向って右側の鉛直線部分)にボルト固定されてなる。
【0041】
(全方向移動装置の形態例)
本発明のオムニホイルは、各フレーム回動手段4に固定された移動装置への固定手段を具備すると共に、前記固定手段によって、装置本体の下部に複数輪固定されてなる。すなわち、本発明のオムニホイルは、図3及び図4の全方向移動装置の形態例に示されるように、装置本体のフレームの下部に複数輪、平面視等間隔に配置固定することで、全方向移動装置に具備される。実施例1のオムニホイルを4輪、それぞれの第一の回動軸がいずれも略水平且つ等間隔となるようにフレームに固定されてなる、全方向移動装置である。具体的には、略円形の水平フレーム歩行訓練者用全方向移動体であり、図2に示されるように、本体への固定手段5たるL型アングルによって固定されるる。
【0042】
図3及び図4の全方向移動装置は、理学療法等で使用される歩行訓練器である。その構成は主に、訓練者が後方の段差昇降部F1Gから入ることのできる、平面視略円形に曲がった下部パイプフレームFと、下部パイプフレームの前方から立設した前方パイプフレームFと、前方パイプフレームF上端付近に設置された操作盤Oと、前方パイプフレームF上端から平面視内側へ略水平方向に伸びた上肢支持部Hとからなる(図3、図4)。
【0043】
前方パイプフレームFの上部は具体的には、平面視内側に湾曲して2方向に伸び、平面視にて略T字の水平板を構成する。この水平板上面に操作板Oが固定され、支持部師支承ピンHpによって上肢支持部Hが水平位置調節可能に設けられる。
【0044】
下部パイプフレームFの両側部には、複数輪分のオムニホイルのフレーム回動手段4の駆動源たるバッテリーBを備える。本発明はアクチュエーターユニット40を内蔵したコンパクトなオムニホイルであるため、このように歩行訓練器に使用することで訓練者のための広いスペースが確保される。このことは安全性や歩行訓練の自由度を高める。また、実施例ではフリーローラー2数が一輪当り10個と比較的多く、接地ローラー間の距離L(図4参照)が比較的短いため、従来のオムニホイルと比べて走行時の振動(ガタツキ)が少なく、歩行訓練器として適した滑らかな走行が可能になる。
【0045】
本発明のオムニホイルのみを車輪として複数輪備えた全方向移動装置は、訓練者の向きをほぼ一定としたまま移動方向のみを適宜方向へかつ適宜速度で自走できる。このため、従来にない効果的な歩行訓練ができる。すなわち、全方向への複合的訓練により、歩行やバランス保持に重要な働きをする大殿筋、中殿筋、小殿筋等を効果的に訓練できる。その結果、早期回復や転倒予防の効果が期待できる。さらに、訓練者自身の方向指示で、訓練者の状態に合わせた速度制御ができるため、転倒防止効果がある。しかも、フレーム回動手段4によって駆動機構を内蔵しているため、訓練者(看者)の歩行スペースが確保でき、安全な歩行訓練をしうる。
【実施例2】
【0046】
実施例2のオムニホイルを図5、図6に示す。実施例2のフレーム回動手段4は、ローラーフレーム1をアウトローターとするアウトローター式駆動機構(アウトローター型モーター)であることを特徴とする。具体的には、アクチュエーター4が、フレームF1に(固定手段5を介して)固定されるアクチュエーターユニット40と、アクチュエーターユニット40の周囲に固定された非回動コア部45と、非回動コア部45の周囲を回動するローターとしてのローラーフレーム1と、これら非回動コア部45及びローラーフレーム1のいずれか片方ずつに内蔵される磁性体46及び電磁誘導体47と、を具備して構成される。アクチュエーターユニット40、非回動コア部45、及び非回動コア部45に内蔵された磁性体46と電磁誘導体47のいずれかが、固定された非回動部として内部収容空間3内に配置される。
【0047】
実施例では、磁性体46が、S極、N極を交互に連続させて円環状に連なると共に、ローラーフレーム1内の内部収容空間3周りに軸対称位置に内蔵され、一組の電磁コイルからなる電磁誘導体47が非回動コア部45の両端にてドーナツ状に巻回されて内蔵される。なお電磁誘導体47は、図示しないコミテーターにより磁性が切り替わる。
【0048】
磁性体は、電磁誘導体の電磁気に反応する例えば永久磁性体をいい、実施例ではSN両極を有する永久磁石である。S極の磁性体、N極の磁性体それぞれが、固定された電磁誘導体の周囲を取り囲むようにして断面視対称位置に配置される。
【0049】
本実施例とは別の実施例として、S極、N極の一組の磁性体46が非回動コア部45に内蔵されると共に、一組の電磁コイルからなる電磁誘導体47がローラーフレーム1内に内蔵されるものとしてもよい。例えばS極、N極それぞれの部分円柱型の磁性体46が組み合わされて非回動コア部45内へ略円筒状に配置され、また、電磁誘導体47がローラーフレーム1内で内部収容空間3の内円筒面に沿って巻回されるものとしてもよい。
【0050】
このような構造であれば、コイルの巻き数を確保することができるため、高トルクを発生するアクチュエーター4となる。またローラーフレーム1をハウジング型の回動部として一体化しているため、軸回動の伝達機構が不要となる。例えば、実施例1の内軸回動モーターのように、軸回動力をホイルボックスで外周ホイルに伝えたり、軸及びホイル間の、振動等による軸ズレの吸収を行うことが不要となる。また、実施例1の内軸回動モーターのようにハウジングされた回動機構を収容するものではなく、ローラーフレーム1を直接回動させるため、直接回動力を発生させる電磁誘導体や磁性体に比較的大きなスペースを確保できる。そして、例えば本実施例のように、電磁誘導体として比較的大きな径のコイルを使用した場合には、ギヤ等の機械構造を組み込まなくても十分なトルクを得ることができる。機械式のギヤが不要となり簡易な構成で回動手段が成立するため、これらによって、簡易な機構で耐久性に優れ、安全性の高いオムニホイルとなる。
【0051】
さらに、比較的大型の側部ベアリング43で外力の変動を吸収し支持する構造であるから、実施例1のアクチュエーター41のような内軸回動型のモーターと比べて、モーター専用のベアリング構造が不要となる。
【0052】
またアウトローター式駆動機構は、慣性モーメントの発生等により起動時・停止時の反応速度が内軸回動モーターと比べて一般的に遅いものとなるが、歩行訓練機器として本機構を採用した場合には、危険な急発進、急制動を機構上確実に抑えることができるため、理学療法上も好ましいものとなる。
【0053】
本実施例の固定手段5はいわゆる片持ちタイプであり、L型アングル50が、第一の回動軸A周りの複数の固定ボルト51によって、アクチュエーターユニット40に連結固定されると共に、固定ボルト52によって下部パイプフレームF1の下面に螺止される。ホイルボックス44は、固定ボルト53によってアクチュエーターユニット40の側面視外側に固定され、ホイルキャップ44cとしての機能を果たす。このホイルボックス44及びアクチュエーターユニット40のそれぞれの側部周囲に、ローラーフレーム1を回動させる側部ベアリング43が設けられる(図6)。アクチュエーターユニット40は、第一の回動軸Aを中心とする中空アクチュエーターシャフト40pを有する(図6)。この中空シャフト40pとともに、ボックス44も中空ボックスシャフト44pを有し、これらによりフレーム回動手段から発生する熱の放熱機能を果たす。その他構成は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0054】
実施例3のオムニホイルを図7、図8に示す。実施例3のオムニホイルは、実施例2のアウトローラー型モーターを備えたオムニホイルにおいて、移動装置本体への固定手段が両持ちタイプとなっていることを特徴とする。具体的には、固定手段5が、側面視にて倒U型の両持ちアングルからなる。すなわち、ブラケット40の内側及び外側の両側から上方に延び、それぞれがオムニホイルの上方で折れ曲がり、つながってなる。これにより捩り強度等が大きくなり、比較的大きな荷重のかかる場合に走行安定性や耐久性能による安全性を確保することができる。また、側面視にて厚さ方向(図8の左右方向)中央に荷重がかかるため、より安定した走行が可能となる。特に複数列のフレームを複数列固定してなるものであれば、各列間でローラーの接地力を均一化することができるため好ましい。その他構成は実施例2と同様である。
【実施例4】
【0055】
実施例4のオムニホイルを図9、図10に示す。実施例4のオムニホイルは、遊星ギヤ構造を含む回動ギヤ群によって、ギヤボックスがローラーフレームと一体となっていることを特徴とする。
【0056】
具体的には、フレーム回動手段4が、内部収容空間3に収容されるアクチュエーター41たる内軸回動式モーターと、このモーターの駆動回動力をローラーフレーム1に伝達する回動ギヤ群(421〜423)とから構成される。この回動ギヤ群は、ホイルボックス44に回動力を出力する遊星ギヤ構造を含むことを特徴とする。
【0057】
回動ギヤ群を詳述するに、内軸回動式モーターの駆動回動軸41sの外周に固定され駆動回動軸41sと共に回動(すなわち正逆回動)する太陽ギヤ421と、この太陽ギヤ421に噛合する複数個の遊星ギヤ422と、固定部であるアクチュエーターユニット40の外側部付近に内円柱状に設けられて前記遊星ギヤ422に噛合するインターナルギヤ423とから構成される(図9)。
【0058】
複数個(実施例では3つ)の遊星ギヤ422はこの太陽ギヤ421の回りに第一の回動軸Aを軸として互いに一定の等距離を開けて配される。そして、内軸回動式モーターが駆動し、太陽ギヤ421が駆動回動軸41sと共通する第一の回動軸Aを軸として回動することで、遊星ギヤ422は、太陽ギヤ421とインターナルギヤ423との間で太陽ギヤ421周りを自転しながら周回する。
【0059】
ここでホイルボックス44は、全ての遊星ギヤ422のギヤ軸422sにその軸位置を(実施例では正三角形の頂点位置に)固定されると共に、最外列のローラーフレーム11に固定されてなる。よって、遊星ギヤ422構造のギヤ回動によって、ホイルボックスと一体化されたローラーフレーム11にギヤ力が出力される。これにより、例えば実施例1のような単独のギヤ出力軸42sが不要となり、安定したギヤ伝達と耐久性に優れたギヤを構成することができる。
【0060】
本実施例では、実施例1のようなギヤボックス42を使用せず、出力部自体をローラーフレームと一体化させている。このため、例えば実施例1における回動ギヤ42のキャリア機能が、ローラーフレーム11と一体化したホイルボックス44として達成され、安定したギヤ力伝達を果たす。
【0061】
また、回動ギヤ群は実施例1のようなユニット型の回動ギヤ42と比較して、大型のギヤ連結である。これによりギヤ噛合部の遊びが比較的大きいものとすることができ、ローラーフレーム11への外力による振動等を吸収するものとしている。
【0062】
また、側面視にて両端寄りにそれぞれ設けられた比較的大型の側部ベアリング43によって、ローラーフレーム1全体の荷重を受けることとしている。これは、たとえば実施例1のユニット型の回動ギヤ42内に通常用いられる複数の内部ベアリング群の機能をも果たすものであり、必要なベアリング機能を大型の側部ベアリング43に集約することで、安定した走行を可能としている。その他構成は実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
架台を具備する全方向移動装置として利用でき、その中でも例えば、方向を変えずに全方向に移動する精密部品運搬用或いは歩行訓練用全方向移動体として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明の実施例1のオムニホイルの正面説明図。
【図2】図1に示す実施例1のオムニホイルの側面視中央断面説明図。
【図3】図1に示す実施例1のオムニホイルを備えた全方向移動装置の形態例の底面説明図。
【図4】図3に示す実施例1のオムニホイルを備えた全方向移動装置の形態例の側面図。
【図5】この発明の実施例2のオムニホイルの正面説明図。
【図6】図5に示す実施例2のオムニホイルの側面視中央断面説明図。
【図7】この発明の実施例3のオムニホイルの正面説明図。
【図8】図7に示す実施例3のオムニホイルの側面視中央断面説明図。
【図9】この発明の実施例4のオムニホイルの正面説明図。
【図10】図8に示す実施例4のオムニホイルの側面視中央断面説明図。
【符号の説明】
【0065】
1 ローラーフレーム
11 第一のローラーフレーム
12 第二のローラーフレーム
2 フリーローラー
21 軸体
22 軸穴
3 内部収容空間
4 フレーム回動手段
41 アクチュエーター
41s 駆動回動軸
42 回動ギヤ
42s ギヤ出力軸
43 側部ベアリング
40 アクチュエーターユニット
44 ホイルボックス
44c ホイルキャップ
5 固定手段
第一の回動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の回動軸で回動可能なローラーフレームを一個又は複数個具備してなるものであって、前記ローラーフレームは、それ自体の周縁に沿って複数のフリーローラーを保持すると共に、それ自体の内部に、ローラーフレームを第一の回動軸回りに回動させるフレーム回動手段を収容してなることを特徴とするオムニホイル。
【請求項2】
フレーム回動手段は、ローラーフレームをアウトローターとするアウトローター式駆動機構である請求項1記載のオムニホイル。
【請求項3】
ローラーフレームの第一の回動軸方向に沿う内部収容空間を設け、この内部収容空間に、アクチュエーターを備えたフレーム回動手段を収容してなり、前記アクチュエーターは、それ自体の回動駆動軸がローラーフレームの第一の回動軸方向を向くように配設された回動アクチュエーターであることを特徴とする請求項1又は2記載のオムニホイル。
【請求項4】
フレーム回動手段が、遊星ギヤ構造を含む回動ギヤ群を具備すると共に、遊星ギヤのギヤ軸の軸位置がホイルボックスに固定されてなることを特徴とする請求項1、2又は3のいずれか記載のオムニホイル。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4のいずれか記載のオムニホイルが、移動装置への固定手段を、各フレーム回動手段に固定されたものとして具備すると共に、この固定手段によって移動装置に複数輪固定されてなることを特徴とする全方向移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−22342(P2007−22342A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207901(P2005−207901)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(304045077)株式会社相愛 (11)
【Fターム(参考)】