カーボンナノチューブ構造体製造方法及びそれを利用した電子放出源
【課題】カーボンナノチューブ(CNT)を用いた電子源を製造する場合、CNTを成長させたままの状態では、電子源として作動するCNTの先端の密度が高すぎて良好な電子源特性が得られない。先端の密度を下げるためにCNTを成長させた基板を溶液に浸して乾燥させる技術は既知であるが、さらにこの密度を低下させる方法を提供する。
【解決手段】DC放電を用いるプラズマCVD法によって、先端に金属触媒を保持したCNTを基盤上に成長させ、その後、溶剤に浸して乾燥させ、CNT構造体を作製する。さらに、その後、このCNT構造体の先端に、同様なプラズマCVD法を施して再度CNTを成長させ、再度、溶剤に浸して乾燥させてCNT構造体を製造する。
【解決手段】DC放電を用いるプラズマCVD法によって、先端に金属触媒を保持したCNTを基盤上に成長させ、その後、溶剤に浸して乾燥させ、CNT構造体を作製する。さらに、その後、このCNT構造体の先端に、同様なプラズマCVD法を施して再度CNTを成長させ、再度、溶剤に浸して乾燥させてCNT構造体を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ構造体製造方法とそれを利用した電子放出源に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube,以後CNTと記す)は1991年に日本の飯島澄男によってフラーレン合成の副産物として発見されたもので、これは炭素原子が結合して出来たグラフェンが筒状に丸まった形状をしている。このカーボンナノチューブは微細であり、機械的強度に優れしかも電気伝導率が良好なことから新しい素材として幅広い注目を集めてきた。特に、カーボンナノチューブが微細であることを利用して、電子放出源への応用が盛んに研究され、特にこれを用いた電界放出型平面ディスプレイ(Field Emission Display,FED)などへの応用が期待されている。
【0003】
CNTを用いたFEDを作製する方法としては、粉末状のCNTを溶液に分散させて、この溶液を基板に塗布して乾燥させた後、一定方向にCNTを配向させるための配向処理する方法が一般的に用いられてきた。このようにして配向させたCNTに電圧を印加すると、この先端に電界が集中し、電子が放出される。しかし、この方法では広い範囲に亘って均一にCNTを配向させることが難しく、これが一つの課題となっている。
【0004】
この課題は、触媒金属を堆積させた基板上にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition,化学気相成長法)を用いて、直接CNTを配向成長させる方法を採用すれば避けることが出来る。これによって作製されたCNTの基板上における成長密度は109本/cm2程度である。(ちなみにCNT作製のために最も良く用いられる熱CVD法で作製されたCNTの基板上における成長密度は1010本/cm2程度とされる。)
【0005】
一方、一般的に、基板上に成長させたCNTについて最大の電子放出電流密度を得るには、電子放出源となるCNT同士の間隔が、配向成長したCNTの高さ程度に空いている必要があることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。上記CNTの高さ(長さ)が数ミクロン程度であることを考慮すると、電子放出源となるCNTの間隔も数ミクロン程度にすることが望ましい。つまり、通常の熱CVDやプラズマCVDで作製したCNTの基板上における成長密度は、電子放出源となるCNTに充分に強く電界を集中させるには高すぎる。CNTの密度が高いとその先端への電界の集中がそれだけ妨げられるからである。
【0006】
従って、電子放出源となるCNT同士の間隔が、配向成長したCNTの高さ程度に空いている状態にするには成長密度を107本/cm2程度にまで下げなければならない。これを実現するために、従来は、基板上にパターニングした触媒金属を堆積させ、その上にCNTを配向成長させたり(非特許文献4参照)、CNT成長後にイオン照射して電子放出源の密度を低下させたりすることが行われてきた(特許文献1参照)。
【0007】
一方、基板上に配向成長させたCNTを溶液に浸した後、これを乾燥させるとその過程で隣り合ったCNTが寄り添うように集合して先端部のみが束ねられ、完全に乾燥した後になっても分子間力によって複数のCNTの先端部が集合したままの状態(円錐状ないしは略ピラミッド状)を保つことが知られている。この現象を利用すれば電子放出源となるCNT同士の間隔を大きくし、その密度を低下させることが出来る(非特許文献5、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−247758
【特許文献2】特開2006−196364
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.S.Suh,et.al.,Appl.Phys.Lett.80(2002)2392
【非特許文献2】L.Nilsson,et.al.,Appl.Phys.Lett.76(2000)2071
【非特許文献3】G.C.Kokkoratis,et.al.,J.Appl.Phys.76(2002)4580
【非特許文献4】K.B.K.Teo,et.al.,Appl.Phys.Lett.80(2002)2011
【非特許文献5】H.Busta,et.al.,Tech. Digest 17th International Vac. Microelectronics Conf.,2004,pp.30−31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の従来技術には幾つかの課題が存在する。例えば、非特許文献4記載の方法では、電子放出源の先端を尖鋭にすることが出来ないので、CNTの細さという電子放出源に好適な利点をうまく活用できない。また特許文献1記載の方法では、イオン照射のためにCNTが損傷し、その結晶性が損なわれるうえ、ディスプレイ用などの大面積基板に一様なイオン照射行うのは難しい。
【0011】
また、基板上に配向成長させたCNTを溶液に浸した後、これを乾燥させる工程を用いて作られたカーボンナノチューブ構造体に関しては、非特許文献5記載の方法で作製した場合、束ねられるCNTの本数が十本程度であるため、電子放出源の間隔が100nm以下であり、さらにこの間隔を大きくする必要があった。特許文献2記載の方法では電子放出源の間隔を確保するために触媒膜(触媒金属)のパターニングが必要であり、その分工程が煩雑になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する手段として、本発明のカーボンナノチューブ構造体の製造方法は、先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、前記複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
さらに本発明のもう一つのカーボンナノチューブ構造体の製造方法は、上記の課題を解決する手段として、先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、前記複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程と、前記乾燥された複数のカーボンナノチューブの先端に再度複数のカーボンナノチューブを成長させる工程と、前記再度成長させた複数のカーボンナノチューブを含む前記複数のカーボンナノチューブを再度溶剤に浸す工程と、前記再度溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを再度乾燥させる工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
また、本発明の電子放出源は、上記課題を解決するために、上記二つのいずれかの製造方法によって作製されたカーボンナノチューブ構造体を用いて構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るCNT構造体の製造方法は上記のような工程を含んでいるので、DC放電プラズマによって基板から真っ直ぐ立ち上がる非常に配向性の良いCNTを成長させることが出来る。そのため、溶剤に浸して乾燥させる処理を行うと極めて尖鋭な先端を持つCNT構造体を作製することが出来る。これによって電子放出源となるCNT構造物の先端に充分に強く電界を集中させることが出来る。従ってそれだけ低い電圧で電子を放出させることが可能となる。また、本CNTの構造物を用いれば良好な性能をもつ電子放出源を作製することが出来る。
【0016】
また、本発明に係るもう一つのCNT構造体の製造方法は、上記の工程によって先端を束ねたCNTの上にさらにCNTを配向成長させるので、電子放出源となるCNT構造体の先端をさらに尖鋭にし、しかもその密度を下げることが出来る。従って電子放出源としてさらに好適なCNT構造体を製造することが出来る。また、このCNT構造体を用いれば一層良好な性能をもつ電子放出源を作製することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明の第一実施例に係るCNT構造体の製造方法に従って作製されたCNT構造体と比較例の電子顕微鏡写真である。
【図2】図1の(a)、(b)、(c)、(d)の形態のそれぞれのCNT構造体について測定された電子放出特性を示すグラフである。
【図3】本発明によるCNT構造体の製造に用いたプラズマCVD装置の概略を示す図である。
【図4】本発明によるCNT構造体の電子放出特性を測定するために作製された電子放出源の概略を示す図である。
【図5】本願発明の第二実施例に係るCNT構造体の製造方法によって製造されるCNT構造体の製造途中の形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】本願発明の第二実施例に係るCNT構造体の製造方法によって製造されたCNT構造体の形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】本願発明の第二実施例に係るCNT構造体の成長の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るCNT構造体の製造方法とこれを利用した電子放出源の作製工程、およびその特性測定について適宜図を用いながら、以下に詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
《第一実施例》
1.基板の準備
まず、CNTを成長させる基板(触媒金属)となる鉄板(厚さ0.2mm、1cm角)を準備しこの基板を、アセトンを入れたビーカーに入れ、超音波洗浄した。超音波洗浄を終了すると、アセトンから基板を取り出して窒素ブロワで乾燥させた。
【0020】
2.前処理工程
この基板30を図3に示すプラズマCVD装置の内部に設置し、真空ポンプ31によって内部を真空にした。その後、水素を流量調整器(MFC)32で流量を調整しながらチャンバー内に導入し、真空ポンプ31に繋がるバルブを操作して、チャンバー内部の圧力が1000Paから2000Paになるように調節した。その後、RF電源33を起動し、マッチングボックス(図示せず)によってRFの反射を0Wに調整しながら、RF電源出力を300Wから500Wに調整した。RFの周波数は13.56MHzである。
【0021】
RFプラズマが安定した後、DC電源34を起動し、300Vから600VのDCバイアスを基板30に印加し、15分間、一定の放電電流値に調整しながら、基板を水素プラズマに曝した。
【0022】
3.成長工程
前工程が終了後、チャンバー内に水素に加えて、原料物質となるメタンを流量20ccmで導入し、CNTの成長工程を開始した。チャンバー内にメタンを導入するとチャンバー内の圧力、RFの反射、DC電源の電圧、温度が急変するので運転諸元を適宜調整した。チャンバー内のプラズマが安定していることを確認しながら、また基板の温度を監視しながらDC電源の電圧を調整した。基板温度は670度とした。この状態で、上記諸元を適宜調整しながらプラズマを安定に保って15分間CNTを成長させた。
【0023】
4.終了工程
成長工程が終わると、メタンと水素の導入を停止し、真空ポンプ31へ繋がるバルブを全開にして、チャンバー内に残留した水素とメタンを完全に排出し、プラズマCVD装置が室温程度まで冷えるのを待った。プラズマCVD装置が充分冷えた後、チャンバーを大気開放し、基板を取り出した。なお、前工程と成長工程に用いたプラズマCVD装置は本発明の発明者のうち二名が発明したものであり、特許文献特開2006−57122に開示されたものと実質的に同一のものである。
【0024】
鉄を基板すなわち触媒とし、本成長工程によって成長させたCNTは、先端に触媒である鉄粒子を保持したまま成長し、長さが3μmから5μm、密度は109本/cm2、CNTの平均間隔は0.3μmであった。よって次の工程に移る前の状態ではCNTの高さと距離の比(高さを距離で除した値、即ちアスペクト比)は10から20であった。先端に鉄粒子を保持したまま成長するのは、本発明ではDC放電によるプラズマを用いているので、プラズマと基板の間のプラズマシースに生ずる強い電界で鉄粒子(触媒金属微粒子)が持ち上げられるためではないかと考えられている。先端に金属触媒を保持したCNTの成長は、R.S.Wagner and W.C.Ellis,Appl.Phys.Lett.,4(1964)89に記載の理論を用いて解析しうる。
【0025】
5.浸漬/乾燥工程
以上の工程によって基板を作製した後、以下の三通りの溶剤への浸漬と乾燥の処理を行って、三種の異なるCNT構造体を製造した。
(1)蒸留水に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造物。
(2)エタノール(通常の洗浄に用いる純度99.5%のもの)に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造体。
(3)蒸留水と上記エタノールを等量混合した溶剤に五分間浸漬し、常温乾燥して出来たCNT構造体。
また、この浸漬/乾燥工程を行わない基板(即ち生のCNT構造体)も比較例として準備した。この四種類のCNT構造物の電子顕微鏡写真を図1に示す。写真内のスケールは6μmである。
【0026】
これら四つの異なるCNT構造体の電子顕微鏡写真を図1に示す。図中の写真について、(a)は浸漬/乾燥工程を行わない状態のCNT構造体、(b)は上記(1)の浸漬と乾燥の処理によって出来たCNT構造体、(c)は上記(2)の処理によって出来たCNT構造体、(d)は上記(3)の処理によって出来たCNT構造体である。図1の写真から判るように、溶剤への浸漬と乾燥の工程を経たもののほうが、乾燥の際に分子間力によってCNTの先端がくっついて束ねられてゆくため、尖った先端の密度が低くなっている。これは電子源として好適に用いることの出来る構造である。なお、溶剤としてはエタノールよりも蒸発速度の速いイソプロピルアルコールなどは、より多くのCNTを束ねる効果があると予想され、溶剤としてより好適に用いることが出来ると考えられる。電子放出源として作用する尖った先端の密度は(a)が4.4×108本/cm2程度、(c)が2.5×107本/cm2程度になっており、ほぼ望ましい程度にまで密度を低下させることが出来た。一方、(b)についてはCNTが横方向に繋がってウォール状に変形しており、(d)は先端の曲率半径が大きいことがわかる。また(c)についてアスペクト比は4.6であった。
【0027】
6.電子放出源作製工程
本発明に係るCNT構造体の電子放出源としての特性を測定するために作製された電子放出源の断面図を図4に示す。前記5.の浸漬/乾燥工程を経たCNT構造体を電子源に加工するためには、通常知られている半導体デバイスの工程やプロセスを用いれば良い。
【0028】
図4に示すように、前記4.の工程までの処理によってCNT構造体を成長させた基板30上に、中央に直径10mmの孔を持つ、厚さ200μmの雲母板40をスペーサー(絶縁物)として載せた。基板30は陰極(カソード)として機能する。これとは別に、陽極(アノード)として機能する透明導電膜41(ITO、Indium Tin Oxide)を堆積させたガラス42(石英ガラス)を準備し、図4に示すように、透明導電膜41と基板30で雲母板40を挟みつけた。これによって同じ構造を持つ電子放出源を、上記4.の浸漬/乾燥工程を経た四つの異なるCNT構造体、即ち(a)前記の浸漬/乾燥工程を行わないCNT構造体,(b)蒸留水に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造物、(c)エタノール(通常の洗浄に用いる純度99.5%のもの)に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造体、(d)蒸留水と上記エタノールを等量混合した溶剤に五分間浸漬し、常温乾燥して出来たCNT構造体のそれぞれについて作製した。
【0029】
7.電子放出源の特性測定
これらの四つの電子放出源を、ステンレス製の真空容器内に設置し、この真空容器内をターボ分子ポンプによって1×10−5Pa程度の真空度まで排気した。この電子放出源に印加した電圧は最大で1500Vであった。これら四種類の電子放出源の電子放出特性を図2に示す。図2中の(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ図1中の写真のCNT構造体に対応する。
【0030】
図2から判るように電子放出源としての電界放出の起こりやすさについて(a)が最も起こりにくく、(c)が最も起こりやすくなっている。(b)と(d)は(c)ほどではないが、(a)よりは電界放出を起こしやすくなっており、4.浸漬/乾燥工程によって先端を束ねて電子源となる尖った先端の密度を低下させた効果は明らかである。電子顕微鏡写真に見られるCNT構造体の形状と図2に見られる電子放出特性は良い対応をしめしていると言える。
【0031】
《第二実施例》
次に第二実施例について述べる。第二実施例では、第一実施例の5.浸漬/乾燥工程で作製した四つのCNT構造体のうち、(c)のエタノールに五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造体にさらに、第一実施例中の2.前処理工程、3.成長工程および4.終了工程を施した。ただし、2.前処理工程の水素プラズマに曝す時間は10分間とした。第二実施例中のここまでの工程を二段階成長法と呼ぶことにする。
【0032】
第一実施例で述べた工程によって作製したCNT構造体は先端に金属触媒を保持したまま成長しているので、2.前処理工程によって先端の金属触媒が活性化し、二段階成長法によってCNT構造体の先端にさらに、一本乃至は数本のCNTを成長させることが出来た。これの電子顕微鏡写真を図5に示している。二段階成長法を経たCNT構造体は尖った先端の密度が図1の(c)よりも低下していることが判る。さらに、第二実施例においては、二段階成長法の後にさらにエタノールによる浸漬/乾燥工程を実施した。この浸漬/乾燥工程は第一実施例の工程と同じである。その結果作製されたCNT構造体の電子顕微鏡写真を図6に示す。これによると尖った先端の密度はさらに低下していることが判る。なお、図6中のスケールは6μmである。
【0033】
第一実施例の3.成長工程を終了した段階におけるCNTの成長密度は、上にも述べた通り、109本/cm2程度であり、平均のCNTの間隔は0.3μm、CNTの高さと距離の比は10から20であったが、第一実施例の4.浸漬/乾燥工程を経た段階では、4.6であった。第二実施例におけるCNT構造体においては、二段階成長法を施した段階で、高さと距離の比は2.2、その後の浸漬/乾燥工程を経たものは2であった。これは第一実施例よりもCNT構造体の先端の密度が低下していることを意味する。これは電子放出源として好適に用いることの出来る形状のCNT構造体であり、これを用いた電子放出源はより低い電圧で電子を放出することが出来る。また、基板(鉄)のパターニング等の工程を行わなくとも、充分に先端の密度を下げることが出来る。
【0034】
第二実施例に従う工程によって作製した、CNT構造体の成長の様子を示す模式的に示したのが図7である。第二実施例の工程によって、基板30(鉄)の上に成長したCNT構造体の先端に保持された金属触媒(鉄)から、CNTが再成長している。ここで第二実施例において、何本のCNTを束ねることが出来るかについて考えてみる。成長密度が109本/cm2のCNTは、それらの間隔が0.3μmである。これらが100本束ねられた場合、CNTの平均距離が十分の一となるので、CNT構造体の高さと距離の比は2以下になるはずである。この値を第二実施例で作製したCNT構造体と比較すると、100本程度あるいはそれ以上の本数のCNTを束ねることが出来たということが判る。
【0035】
なお、本発明の主旨から逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、本発明に係る電子源にさらに加工を行う場合にこれを容易にしたり、その強度を増すために、本発明の工程で作製した電子源の間を絶縁性の材料で満たし、その後、電子源の先端を切り落とすなどの加工を行ったものも本願発明の範囲に入ることになる。本発明はCNTから電子源として用いることのできる構造体を製造する方法として優れており、当該分野の発展に資するところ大である。
【符号の説明】
【0036】
30.基板
31.真空ポンプ
32.流量調節器
33.RF電源
34.DC電源
40.雲母板
41.透明導電膜
42.ガラス
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ構造体製造方法とそれを利用した電子放出源に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube,以後CNTと記す)は1991年に日本の飯島澄男によってフラーレン合成の副産物として発見されたもので、これは炭素原子が結合して出来たグラフェンが筒状に丸まった形状をしている。このカーボンナノチューブは微細であり、機械的強度に優れしかも電気伝導率が良好なことから新しい素材として幅広い注目を集めてきた。特に、カーボンナノチューブが微細であることを利用して、電子放出源への応用が盛んに研究され、特にこれを用いた電界放出型平面ディスプレイ(Field Emission Display,FED)などへの応用が期待されている。
【0003】
CNTを用いたFEDを作製する方法としては、粉末状のCNTを溶液に分散させて、この溶液を基板に塗布して乾燥させた後、一定方向にCNTを配向させるための配向処理する方法が一般的に用いられてきた。このようにして配向させたCNTに電圧を印加すると、この先端に電界が集中し、電子が放出される。しかし、この方法では広い範囲に亘って均一にCNTを配向させることが難しく、これが一つの課題となっている。
【0004】
この課題は、触媒金属を堆積させた基板上にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition,化学気相成長法)を用いて、直接CNTを配向成長させる方法を採用すれば避けることが出来る。これによって作製されたCNTの基板上における成長密度は109本/cm2程度である。(ちなみにCNT作製のために最も良く用いられる熱CVD法で作製されたCNTの基板上における成長密度は1010本/cm2程度とされる。)
【0005】
一方、一般的に、基板上に成長させたCNTについて最大の電子放出電流密度を得るには、電子放出源となるCNT同士の間隔が、配向成長したCNTの高さ程度に空いている必要があることが報告されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。上記CNTの高さ(長さ)が数ミクロン程度であることを考慮すると、電子放出源となるCNTの間隔も数ミクロン程度にすることが望ましい。つまり、通常の熱CVDやプラズマCVDで作製したCNTの基板上における成長密度は、電子放出源となるCNTに充分に強く電界を集中させるには高すぎる。CNTの密度が高いとその先端への電界の集中がそれだけ妨げられるからである。
【0006】
従って、電子放出源となるCNT同士の間隔が、配向成長したCNTの高さ程度に空いている状態にするには成長密度を107本/cm2程度にまで下げなければならない。これを実現するために、従来は、基板上にパターニングした触媒金属を堆積させ、その上にCNTを配向成長させたり(非特許文献4参照)、CNT成長後にイオン照射して電子放出源の密度を低下させたりすることが行われてきた(特許文献1参照)。
【0007】
一方、基板上に配向成長させたCNTを溶液に浸した後、これを乾燥させるとその過程で隣り合ったCNTが寄り添うように集合して先端部のみが束ねられ、完全に乾燥した後になっても分子間力によって複数のCNTの先端部が集合したままの状態(円錐状ないしは略ピラミッド状)を保つことが知られている。この現象を利用すれば電子放出源となるCNT同士の間隔を大きくし、その密度を低下させることが出来る(非特許文献5、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−247758
【特許文献2】特開2006−196364
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.S.Suh,et.al.,Appl.Phys.Lett.80(2002)2392
【非特許文献2】L.Nilsson,et.al.,Appl.Phys.Lett.76(2000)2071
【非特許文献3】G.C.Kokkoratis,et.al.,J.Appl.Phys.76(2002)4580
【非特許文献4】K.B.K.Teo,et.al.,Appl.Phys.Lett.80(2002)2011
【非特許文献5】H.Busta,et.al.,Tech. Digest 17th International Vac. Microelectronics Conf.,2004,pp.30−31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の従来技術には幾つかの課題が存在する。例えば、非特許文献4記載の方法では、電子放出源の先端を尖鋭にすることが出来ないので、CNTの細さという電子放出源に好適な利点をうまく活用できない。また特許文献1記載の方法では、イオン照射のためにCNTが損傷し、その結晶性が損なわれるうえ、ディスプレイ用などの大面積基板に一様なイオン照射行うのは難しい。
【0011】
また、基板上に配向成長させたCNTを溶液に浸した後、これを乾燥させる工程を用いて作られたカーボンナノチューブ構造体に関しては、非特許文献5記載の方法で作製した場合、束ねられるCNTの本数が十本程度であるため、電子放出源の間隔が100nm以下であり、さらにこの間隔を大きくする必要があった。特許文献2記載の方法では電子放出源の間隔を確保するために触媒膜(触媒金属)のパターニングが必要であり、その分工程が煩雑になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する手段として、本発明のカーボンナノチューブ構造体の製造方法は、先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、前記複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程とを含むことを特徴としている。
【0013】
さらに本発明のもう一つのカーボンナノチューブ構造体の製造方法は、上記の課題を解決する手段として、先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、前記複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程と、前記乾燥された複数のカーボンナノチューブの先端に再度複数のカーボンナノチューブを成長させる工程と、前記再度成長させた複数のカーボンナノチューブを含む前記複数のカーボンナノチューブを再度溶剤に浸す工程と、前記再度溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを再度乾燥させる工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
また、本発明の電子放出源は、上記課題を解決するために、上記二つのいずれかの製造方法によって作製されたカーボンナノチューブ構造体を用いて構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るCNT構造体の製造方法は上記のような工程を含んでいるので、DC放電プラズマによって基板から真っ直ぐ立ち上がる非常に配向性の良いCNTを成長させることが出来る。そのため、溶剤に浸して乾燥させる処理を行うと極めて尖鋭な先端を持つCNT構造体を作製することが出来る。これによって電子放出源となるCNT構造物の先端に充分に強く電界を集中させることが出来る。従ってそれだけ低い電圧で電子を放出させることが可能となる。また、本CNTの構造物を用いれば良好な性能をもつ電子放出源を作製することが出来る。
【0016】
また、本発明に係るもう一つのCNT構造体の製造方法は、上記の工程によって先端を束ねたCNTの上にさらにCNTを配向成長させるので、電子放出源となるCNT構造体の先端をさらに尖鋭にし、しかもその密度を下げることが出来る。従って電子放出源としてさらに好適なCNT構造体を製造することが出来る。また、このCNT構造体を用いれば一層良好な性能をもつ電子放出源を作製することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明の第一実施例に係るCNT構造体の製造方法に従って作製されたCNT構造体と比較例の電子顕微鏡写真である。
【図2】図1の(a)、(b)、(c)、(d)の形態のそれぞれのCNT構造体について測定された電子放出特性を示すグラフである。
【図3】本発明によるCNT構造体の製造に用いたプラズマCVD装置の概略を示す図である。
【図4】本発明によるCNT構造体の電子放出特性を測定するために作製された電子放出源の概略を示す図である。
【図5】本願発明の第二実施例に係るCNT構造体の製造方法によって製造されるCNT構造体の製造途中の形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】本願発明の第二実施例に係るCNT構造体の製造方法によって製造されたCNT構造体の形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】本願発明の第二実施例に係るCNT構造体の成長の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るCNT構造体の製造方法とこれを利用した電子放出源の作製工程、およびその特性測定について適宜図を用いながら、以下に詳細に説明する。
【実施例】
【0019】
《第一実施例》
1.基板の準備
まず、CNTを成長させる基板(触媒金属)となる鉄板(厚さ0.2mm、1cm角)を準備しこの基板を、アセトンを入れたビーカーに入れ、超音波洗浄した。超音波洗浄を終了すると、アセトンから基板を取り出して窒素ブロワで乾燥させた。
【0020】
2.前処理工程
この基板30を図3に示すプラズマCVD装置の内部に設置し、真空ポンプ31によって内部を真空にした。その後、水素を流量調整器(MFC)32で流量を調整しながらチャンバー内に導入し、真空ポンプ31に繋がるバルブを操作して、チャンバー内部の圧力が1000Paから2000Paになるように調節した。その後、RF電源33を起動し、マッチングボックス(図示せず)によってRFの反射を0Wに調整しながら、RF電源出力を300Wから500Wに調整した。RFの周波数は13.56MHzである。
【0021】
RFプラズマが安定した後、DC電源34を起動し、300Vから600VのDCバイアスを基板30に印加し、15分間、一定の放電電流値に調整しながら、基板を水素プラズマに曝した。
【0022】
3.成長工程
前工程が終了後、チャンバー内に水素に加えて、原料物質となるメタンを流量20ccmで導入し、CNTの成長工程を開始した。チャンバー内にメタンを導入するとチャンバー内の圧力、RFの反射、DC電源の電圧、温度が急変するので運転諸元を適宜調整した。チャンバー内のプラズマが安定していることを確認しながら、また基板の温度を監視しながらDC電源の電圧を調整した。基板温度は670度とした。この状態で、上記諸元を適宜調整しながらプラズマを安定に保って15分間CNTを成長させた。
【0023】
4.終了工程
成長工程が終わると、メタンと水素の導入を停止し、真空ポンプ31へ繋がるバルブを全開にして、チャンバー内に残留した水素とメタンを完全に排出し、プラズマCVD装置が室温程度まで冷えるのを待った。プラズマCVD装置が充分冷えた後、チャンバーを大気開放し、基板を取り出した。なお、前工程と成長工程に用いたプラズマCVD装置は本発明の発明者のうち二名が発明したものであり、特許文献特開2006−57122に開示されたものと実質的に同一のものである。
【0024】
鉄を基板すなわち触媒とし、本成長工程によって成長させたCNTは、先端に触媒である鉄粒子を保持したまま成長し、長さが3μmから5μm、密度は109本/cm2、CNTの平均間隔は0.3μmであった。よって次の工程に移る前の状態ではCNTの高さと距離の比(高さを距離で除した値、即ちアスペクト比)は10から20であった。先端に鉄粒子を保持したまま成長するのは、本発明ではDC放電によるプラズマを用いているので、プラズマと基板の間のプラズマシースに生ずる強い電界で鉄粒子(触媒金属微粒子)が持ち上げられるためではないかと考えられている。先端に金属触媒を保持したCNTの成長は、R.S.Wagner and W.C.Ellis,Appl.Phys.Lett.,4(1964)89に記載の理論を用いて解析しうる。
【0025】
5.浸漬/乾燥工程
以上の工程によって基板を作製した後、以下の三通りの溶剤への浸漬と乾燥の処理を行って、三種の異なるCNT構造体を製造した。
(1)蒸留水に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造物。
(2)エタノール(通常の洗浄に用いる純度99.5%のもの)に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造体。
(3)蒸留水と上記エタノールを等量混合した溶剤に五分間浸漬し、常温乾燥して出来たCNT構造体。
また、この浸漬/乾燥工程を行わない基板(即ち生のCNT構造体)も比較例として準備した。この四種類のCNT構造物の電子顕微鏡写真を図1に示す。写真内のスケールは6μmである。
【0026】
これら四つの異なるCNT構造体の電子顕微鏡写真を図1に示す。図中の写真について、(a)は浸漬/乾燥工程を行わない状態のCNT構造体、(b)は上記(1)の浸漬と乾燥の処理によって出来たCNT構造体、(c)は上記(2)の処理によって出来たCNT構造体、(d)は上記(3)の処理によって出来たCNT構造体である。図1の写真から判るように、溶剤への浸漬と乾燥の工程を経たもののほうが、乾燥の際に分子間力によってCNTの先端がくっついて束ねられてゆくため、尖った先端の密度が低くなっている。これは電子源として好適に用いることの出来る構造である。なお、溶剤としてはエタノールよりも蒸発速度の速いイソプロピルアルコールなどは、より多くのCNTを束ねる効果があると予想され、溶剤としてより好適に用いることが出来ると考えられる。電子放出源として作用する尖った先端の密度は(a)が4.4×108本/cm2程度、(c)が2.5×107本/cm2程度になっており、ほぼ望ましい程度にまで密度を低下させることが出来た。一方、(b)についてはCNTが横方向に繋がってウォール状に変形しており、(d)は先端の曲率半径が大きいことがわかる。また(c)についてアスペクト比は4.6であった。
【0027】
6.電子放出源作製工程
本発明に係るCNT構造体の電子放出源としての特性を測定するために作製された電子放出源の断面図を図4に示す。前記5.の浸漬/乾燥工程を経たCNT構造体を電子源に加工するためには、通常知られている半導体デバイスの工程やプロセスを用いれば良い。
【0028】
図4に示すように、前記4.の工程までの処理によってCNT構造体を成長させた基板30上に、中央に直径10mmの孔を持つ、厚さ200μmの雲母板40をスペーサー(絶縁物)として載せた。基板30は陰極(カソード)として機能する。これとは別に、陽極(アノード)として機能する透明導電膜41(ITO、Indium Tin Oxide)を堆積させたガラス42(石英ガラス)を準備し、図4に示すように、透明導電膜41と基板30で雲母板40を挟みつけた。これによって同じ構造を持つ電子放出源を、上記4.の浸漬/乾燥工程を経た四つの異なるCNT構造体、即ち(a)前記の浸漬/乾燥工程を行わないCNT構造体,(b)蒸留水に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造物、(c)エタノール(通常の洗浄に用いる純度99.5%のもの)に五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造体、(d)蒸留水と上記エタノールを等量混合した溶剤に五分間浸漬し、常温乾燥して出来たCNT構造体のそれぞれについて作製した。
【0029】
7.電子放出源の特性測定
これらの四つの電子放出源を、ステンレス製の真空容器内に設置し、この真空容器内をターボ分子ポンプによって1×10−5Pa程度の真空度まで排気した。この電子放出源に印加した電圧は最大で1500Vであった。これら四種類の電子放出源の電子放出特性を図2に示す。図2中の(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ図1中の写真のCNT構造体に対応する。
【0030】
図2から判るように電子放出源としての電界放出の起こりやすさについて(a)が最も起こりにくく、(c)が最も起こりやすくなっている。(b)と(d)は(c)ほどではないが、(a)よりは電界放出を起こしやすくなっており、4.浸漬/乾燥工程によって先端を束ねて電子源となる尖った先端の密度を低下させた効果は明らかである。電子顕微鏡写真に見られるCNT構造体の形状と図2に見られる電子放出特性は良い対応をしめしていると言える。
【0031】
《第二実施例》
次に第二実施例について述べる。第二実施例では、第一実施例の5.浸漬/乾燥工程で作製した四つのCNT構造体のうち、(c)のエタノールに五分間浸漬した後、常温乾燥して出来たCNT構造体にさらに、第一実施例中の2.前処理工程、3.成長工程および4.終了工程を施した。ただし、2.前処理工程の水素プラズマに曝す時間は10分間とした。第二実施例中のここまでの工程を二段階成長法と呼ぶことにする。
【0032】
第一実施例で述べた工程によって作製したCNT構造体は先端に金属触媒を保持したまま成長しているので、2.前処理工程によって先端の金属触媒が活性化し、二段階成長法によってCNT構造体の先端にさらに、一本乃至は数本のCNTを成長させることが出来た。これの電子顕微鏡写真を図5に示している。二段階成長法を経たCNT構造体は尖った先端の密度が図1の(c)よりも低下していることが判る。さらに、第二実施例においては、二段階成長法の後にさらにエタノールによる浸漬/乾燥工程を実施した。この浸漬/乾燥工程は第一実施例の工程と同じである。その結果作製されたCNT構造体の電子顕微鏡写真を図6に示す。これによると尖った先端の密度はさらに低下していることが判る。なお、図6中のスケールは6μmである。
【0033】
第一実施例の3.成長工程を終了した段階におけるCNTの成長密度は、上にも述べた通り、109本/cm2程度であり、平均のCNTの間隔は0.3μm、CNTの高さと距離の比は10から20であったが、第一実施例の4.浸漬/乾燥工程を経た段階では、4.6であった。第二実施例におけるCNT構造体においては、二段階成長法を施した段階で、高さと距離の比は2.2、その後の浸漬/乾燥工程を経たものは2であった。これは第一実施例よりもCNT構造体の先端の密度が低下していることを意味する。これは電子放出源として好適に用いることの出来る形状のCNT構造体であり、これを用いた電子放出源はより低い電圧で電子を放出することが出来る。また、基板(鉄)のパターニング等の工程を行わなくとも、充分に先端の密度を下げることが出来る。
【0034】
第二実施例に従う工程によって作製した、CNT構造体の成長の様子を示す模式的に示したのが図7である。第二実施例の工程によって、基板30(鉄)の上に成長したCNT構造体の先端に保持された金属触媒(鉄)から、CNTが再成長している。ここで第二実施例において、何本のCNTを束ねることが出来るかについて考えてみる。成長密度が109本/cm2のCNTは、それらの間隔が0.3μmである。これらが100本束ねられた場合、CNTの平均距離が十分の一となるので、CNT構造体の高さと距離の比は2以下になるはずである。この値を第二実施例で作製したCNT構造体と比較すると、100本程度あるいはそれ以上の本数のCNTを束ねることが出来たということが判る。
【0035】
なお、本発明の主旨から逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、本発明に係る電子源にさらに加工を行う場合にこれを容易にしたり、その強度を増すために、本発明の工程で作製した電子源の間を絶縁性の材料で満たし、その後、電子源の先端を切り落とすなどの加工を行ったものも本願発明の範囲に入ることになる。本発明はCNTから電子源として用いることのできる構造体を製造する方法として優れており、当該分野の発展に資するところ大である。
【符号の説明】
【0036】
30.基板
31.真空ポンプ
32.流量調節器
33.RF電源
34.DC電源
40.雲母板
41.透明導電膜
42.ガラス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ構造体の製造方法であって、
先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、
前記複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、
前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブ構造体の製造方法であって、
先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、
配向成長させた複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、
前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程と、
前記乾燥した複数のカーボンナノチューブの先端に再度複数のカーボンナノチューブを成長させる工程と、
前記再度成長させた複数のカーボンナノチューブを含む前記複数のカーボンナノチューブを再度溶剤に浸す工程と、
前記再度溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを再度乾燥させる工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の製造方法によって作製されたカーボンナノチューブ構造体を用いた電子放出源。
【請求項1】
カーボンナノチューブ構造体の製造方法であって、
先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、
前記複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、
前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブ構造体の製造方法であって、
先端に金属触媒を保持した複数のカーボンナノチューブを、DC放電を用いるプラズマCVD法によって基板の上に配向成長させる工程と、
配向成長させた複数のカーボンナノチューブを溶剤に浸す工程と、
前記溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを乾燥させる工程と、
前記乾燥した複数のカーボンナノチューブの先端に再度複数のカーボンナノチューブを成長させる工程と、
前記再度成長させた複数のカーボンナノチューブを含む前記複数のカーボンナノチューブを再度溶剤に浸す工程と、
前記再度溶剤に浸した前記複数のカーボンナノチューブを再度乾燥させる工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の製造方法によって作製されたカーボンナノチューブ構造体を用いた電子放出源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−178605(P2011−178605A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44824(P2010−44824)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人 応用物理学会 第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集 No.0,No.1 平成21年9月8日 (2)京都工芸繊維大学創造連携センター 地域共同研究センター平成20年度年報インキュベーションだより No.4 平成21年11月16日
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人 応用物理学会 第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集 No.0,No.1 平成21年9月8日 (2)京都工芸繊維大学創造連携センター 地域共同研究センター平成20年度年報インキュベーションだより No.4 平成21年11月16日
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】
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