説明

カーボンナノチューブ複合体、カーボンナノチューブ複合体の製造方法、ペースト、電界放出素子、発光デバイス、および照明装置

【課題】耐久性および耐燃焼性に優れ、低コストで製造でき、かつ、カーボンナノチューブ分子の分散性に優れたカーボンナノチューブ複合体を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブ分子集合体と、球状グラファイト分子集合体とを含み、
前記カーボンナノチューブ分子は、チューブ状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子は、球殻状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子集合体は、前記球殻状のグラファイト層内に炭化ホウ素を内包している炭化ホウ素内包球状グラファイト分子の集合体と、炭化ホウ素を内包していない炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子の集合体とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ複合体、カーボンナノチューブ複合体の製造方法、ペースト、電界放出素子、発光デバイス、および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略すことがある)は、円筒状のグラファイト層(グラフェンシート)により形成されている。カーボンナノチューブには、単層ナノチューブと多層ナノチューブとがある。単層ナノチューブは、1つの円筒状のグラファイト層から形成されている。単層ナノチューブの分子は、例えば、直径が1〜2ナノメートル、長さが数マイクロメートルである。多層ナノチューブは、複数の円筒状のグラファイト層が、ほぼ同心円状に重なって形成されている。多層ナノチューブの分子は、例えば、外径が数十ナノメートル、内径が1〜10ナノメートルである。カーボンナノチューブは、高いアスペクト比をもち、化学的に安定で、機械的にも強靭である。これらの特徴から、カーボンナノチューブは、新規材料として、様々な分野で産業への応用が期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブの合成法は、多数報告されており、例えば、化学気相成長(CVD)法、アーク放電法、レーザ蒸発(レーザアブレーション)法等がある。CVD法は、純度が高いカーボンナノチューブが得られる。CVD法には、大きく分けて、基板から成長させる方法(特許文献1)と、基板を用いずに流動する気相中で成長させる気相流動法(特許文献2)との2種類がある。気相流動法は、連続的に、しかも基板なしで合成することが可能であり、大量合成に適していることから、多くの産業分野で利用されている。アーク放電法およびレーザアブレーション法は、CNTの成長温度が高いため、結晶性が高いCNTを生成できる。特に炭酸ガスレーザアブレーション法は、連続照射および連続回収機構と組み合わせることで大量合成が可能になる(特許文献3)。
【0004】
一方、カーボンナノチューブは、電界放出素子(電界電子放出素子、または電界放出発光素子ともいうことがある)用材料として大きな期待が持たれ、鋭意研究されてきた(特許文献4および5)。
【0005】
電界放出素子のエミッタとしてカーボンナノチューブを使用する場合、印刷法でのエミッタ作製は、量産性に優れるだけでなく、大面積化も容易なため、電界放出ディスプレイだけでなく、平面型照明などへの応用も期待できる。
【0006】
電界放出素子では、エミッタのカーボンナノチューブ分子の間隔がある程度離れているほうが均一発光が容易である。このため、カーボンナノチューブ分子の間に入り、発光にはほとんど影響しないカーボンの複合材をカーボンナノチューブに添加することが行われている(特許文献6)。具体的には、特許文献6には、エミッタであるカーボンナノチューブに球状グラファイトなどの球状物質を加えることで発光特性を上げる技術と、カーボンナノチューブに前記球状物質を混ぜた後、スプレーで塗布する技術とが開示されている。
【0007】
また、ホウ素を含むカーボンターゲットにNd:YAGレーザを照射するレーザアブレーション法により、2〜3層のナノチューブとホウ素内包球状グラファイトとを主に生成させることが可能である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3866692号
【特許文献2】特許第4115637号
【特許文献3】WO2007/125816
【特許文献4】特開2001−143645号公報
【特許文献5】特開2000−86219号公報
【特許文献6】特許第3481578号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chem. Phys. Lett. 324(2000)224.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
産業の分野でカーボンナノチューブ材料を用いる場合、前記カーボンナノチューブ材料には、耐久性および耐燃焼性が必要であり、さらに、低コストで製造できることが要求される。特に、電界放出素子用材料としてカーボンナノチューブを使用する場合、高い耐久性および耐燃焼性が必要である。
【0011】
しかしながら、気相流動法は、カーボンナノチューブの成長温度が800〜1,300℃程度と低く、電界放出素子用材料等に要求される高い耐久性を有するカーボンナノチューブの製造は困難である。また、他の製造方法により製造したカーボンナノチューブも、電界放出素子用材料等に用いるためには、さらに高い耐久性および耐燃焼性が要求される。
【0012】
均一発光性等のためにカーボンナノチューブ分子の分散性を向上させ、分子間の間隔を離す観点からも、従来技術には問題がある。すなわち、まず、特許文献6の方法のように、カーボンナノチューブと球状物質とを単に混合するのみでは、前記カーボンナノチューブの分散性を向上させて分子どうしの凝集および絡み合いを解消し、前記カーボンナノチューブ分子間の間隔を制御することが困難である。
【0013】
また、非特許文献1では、生成物中に、くもの巣状の析出物が含まれ、これがカーボンナノチューブ分子の分散性を低下させる。また、非特許文献1では、使用しているNd:YAGレーザの出力が低いため、ターゲットの蒸発量が少なく、製造効率が低い。
【0014】
そこで、本発明は、耐久性および耐燃焼性に優れ、低コストで製造でき、かつ、カーボンナノチューブ分子の分散性に優れたカーボンナノチューブ複合体、カーボンナノチューブ複合体の製造方法、ペースト、電界放出素子、発光デバイス、および照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明のカーボンナノチューブ複合体は、
カーボンナノチューブ分子集合体と、球状グラファイト分子集合体とを含み、
前記カーボンナノチューブ分子は、チューブ状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子は、球殻状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子集合体は、前記球殻状のグラファイト層内に炭化ホウ素を内包している炭化ホウ素内包球状グラファイト分子の集合体と、炭化ホウ素を内包していない炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子の集合体とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明による、カーボンナノチューブ複合体の製造方法は、ホウ素含有カーボンターゲットに対し炭酸ガスレーザアブレーションすることで、カーボンナノチューブ複合体を生成させることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明は、前記製造方法により製造されることを特徴とするカーボンナノチューブ複合体を提供する。
【0018】
本発明のペーストは、前記本発明のカーボンナノチューブ複合体を、溶媒中に溶解させ、または分散媒中に分散させて製造されることを特徴とする。
【0019】
本発明の電界放出素子は、前記本発明のペーストを基板に塗布し、さらに焼成して製造されることを特徴とする。
【0020】
本発明の発光デバイスは、前記本発明の電界放出素子を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の照明装置は、前記本発明の電界放出素子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐久性および耐燃焼性に優れ、低コストで製造でき、かつ、カーボンナノチューブ分子の分散性に優れたカーボンナノチューブ複合体、カーボンナノチューブ複合体の製造方法、ペースト、電界放出素子、発光デバイス、および照明装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例のカーボンナノチューブ複合体の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)像および透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)像を示す写真である。
【図2】実施例のカーボンナノチューブ複合体の熱重量分析(ThermoGravimetric Analysis、TGA)結果を示すグラフであり、TG(ThermoGravimetry)曲線および微分TG曲線を示す。
【図3】実施例のカーボンナノチューブ複合体における電界放出特性の測定結果示すグラフである。
【図4】実施例のカーボンナノチューブ複合体における電界放出特性の経時変化の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例の発光デバイスにおけるアノード側蛍光体の発光状態の測定結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0025】
[1.カーボンナノチューブ複合体]
本発明のカーボンナノチューブ複合体は、前述のとおり、前記カーボンナノチューブ分子集合体を構成する分子相互の間に、前記球状グラファイト分子が存在する。これにより、前記カーボンナノチューブ分子が分散され、前記カーボンナノチューブ分子どうしの凝集および絡まりが防止されている。前記炭化水素内包球状グラファイト分子集合体を構成する分子、および、前記炭化水素非内包球状グラファイト分子集合体を構成する分子は、それぞれ、分散していてもよいし、凝集していてもよい。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体は、前記カーボンナノチューブと前記球状グラファイトとの混合物でもよいし、前記カーボンナノチューブと前記球状グラファイトとが共有結合等により結合したものでもよい。
【0026】
本発明において、「球状グラファイト」は、その分子が、球殻状のグラファイト層から形成された球状の分子であるグラファイトをいう。前記球状グラファイトは、単層のものは、例えば、単層フラーレンまたは単にフラーレンなどといわれることがあり、多層のものは、例えば、多層フラーレンなどといわれることがある。フラーレンとは、狭義には、C60のみを、または、C60およびその類似体であるC70などのみをいうことがあるが、本発明における前記球状グラファイトは、それらに限定されない。前記球状グラファイトにおいて、「球状」は、完全な球形でもよいが、ほぼ完全な球形に近い形状であってもよく、または、長球、扁平な球形等の形状であってもよい。前記球状グラファイト分子における、最も長い径と、最も短い径との長さの比は、特に限定されないが、前記最も長い径の長さが、前記最も短い径の長さに対し、例えば、1.0〜10(1,000)倍、好ましくは、1.0〜10(100)倍、より好ましくは、1.0〜10倍、さらに好ましくは、1.0〜5.0倍である。また、本発明において、前記カーボンナノチューブ分子の径と長さとの比は、特に限定されないが、例えば、長さが、長径に対し、例えば、1.0〜10倍、10〜10(100)倍、10(100)〜10(1,000)倍、10(1,000)〜10(10,000)倍、または10(10,000)〜10(100,000)倍である。
【0027】
図1に、本発明のカーボンナノチューブ複合体の一例の構造を示す。同図は、後述の実施例1において製造したカーボンナノチューブ複合体の写真である。同図(a)は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて撮影した像を示す。同図(b)および(c)は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)を用いて撮影した像を示す。同図(a)に示すとおり、このカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ、炭化ホウ素内包球状グラファイト、および炭化ホウ素非内包球状グラファイトを含み、それらがある程度均一に混合されている。
【0028】
同図(b)に示すとおり、このカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ(CNT)分子のチューブ外側面に、炭化ホウ素内包球状グラファイト分子が接している。また、同図(c)に示すとおり、このカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ(CNT)分子のチューブ外側面に、炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子が接している。なお、図1(a)〜(c)に示すカーボンナノチューブ複合体において、球状グラファイト分子は、例えば、ファン・デル・ワールス力により、または、共有結合等により、カーボンナノチューブ分子に接していると推測される。ただし、この推測は、可能性の一つを示すに過ぎず、本発明について、および図1(a)〜(c)に示すカーボンナノチューブ複合体について、なんら限定しない。
【0029】
本発明のカーボンナノチューブ複合体は、前記カーボンナノチューブ分子集合体を構成する分子相互の間に、前記球状グラファイト分子が存在する。これにより、前記カーボンナノチューブ分子が均一に分散され、前記カーボンナノチューブ分子どうしの凝集および絡まりが防止される。具体的には、例えば、図1(a)に示したとおりである。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体は、前記カーボンナノチューブの分子のチューブ外側面に、前記球状グラファイト分子が接していることが好ましい。具体的には、例えば、図1(b)および(c)に示したとおりである。前記カーボンナノチューブの分子のチューブ外側面に、前記球状グラファイト分子が接していることで、さらに、前記カーボンナノチューブ分子どうしの凝集および絡まりが防止されやすく、前記カーボンナノチューブ分子どうしが分散された状態が保たれやすい。本発明において、前記カーボンナノチューブの分子のチューブ外側面に、前記球状グラファイト分子が接しているとは、例えば、吸着により接していてもよいし、結合により接していてもよい。前記結合は、特に限定されないが、例えば、共有結合、イオン結合、ファン・デル・ワールス力による結合等があげられる。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体中のすべての前記カーボンナノチューブ分子に前記球状グラファイト分子が結合していてもよいが、一部の前記カーボンナノチューブ分子のみに前記球状グラファイト分子が結合していてもよい。前記球状グラファイト分子が結合した各カーボンナノチューブ分子において、前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子および前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子の一方のみが結合していてもよいし、両方が結合していてもよい。各カーボンナノチューブ分子に結合する前記球状グラファイト分子の数も、特に限定されない。なお、本発明において、カーボンナノチューブ分子の「チューブ外側面」は、カーボンナノチューブ分子外面において、チューブ両端以外の面をいう。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体において、前記カーボンナノチューブ分子の両端は、それぞれ、開いていてもよいし、前記グラファイト層中の原子間の共有結合により閉じていてもよい。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体において、前記カーボンナノチューブ分子は、前記グラファイト層(グラフェンシート)内に、ホウ素を内包していてもよいし、内包していなくてもよい。
【0030】
本発明のカーボンナノチューブ複合体において、前記カーボンナノチューブ分子、前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子、および前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子は、前記のとおり、グラファイト層から形成されている。前記カーボンナノチューブ分子、前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子、および前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子は、それぞれ、単層のグラファイトから形成されていてもよいし、二層以上のグラファイトが重なった多層構造でもよい。前記カーボンナノチューブ分子において、前記チューブ状のグラファイト層の層数は、特に限定されないが、例えば、1〜30である。前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子において、前記球殻状のグラファイト層の層数は、特に限定されないが、例えば、1〜30である。前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子において、前記球殻状のグラファイト層の層数は、特に限定されないが、例えば、3〜1,000である。なお、本発明において、前記カーボンナノチューブ分子および前記炭化水素非内包球状グラファイト分子は、前記グラファイト層以外の他の原子または分子を、含んでいても含んでいなくてもよい。前記炭化水素内包球状グラファイト分子は、前記グラファイト層および前記炭化ホウ素以外の他の原子または分子を、含んでいても含んでいなくてもよい。前記他の原子または分子は、例えば、前記グラファイト層に内包または結合等されていてもよい。また、前記カーボンナノチューブ分子および前記球状グラファイト分子における前記グラファイト層は、その骨格に、炭素以外の原子を含んでいても含んでいなくてもよい。
【0031】
本発明のカーボンナノチューブ複合体は、耐燃焼性に優れ、酸素雰囲気下などでも燃焼反応が起こりにくい。前記耐燃焼性は、特に限定されないが、酸素雰囲気下における発火最低温度が500℃以上であることが好ましい。また、この観点から、炭化ホウ素を内包する球殻状グラファイト層(グラフェンシート)の構造に欠陥がないことが好ましい。
【0032】
本発明のカーボンナノチューブ複合体は、前記のとおり、カーボンナノチューブ分子どうしが分散し、凝集していないが、カーボンナノチューブ複合体全体としては、凝集していても、分散していてもよい。例えば、全体として凝集している本発明のカーボンナノチューブ複合体を、溶媒に溶解させ、または分散媒に分散させることで、全体として分散した状態としてもよい。
【0033】
[2.カーボンナノチューブ複合体の製造方法]
以下、前記本発明の製造方法について説明する。本発明のカーボンナノチューブ複合体の製造方法は特に限定されないが、本発明の製造方法により製造することが好ましい。本発明の製造方法によれば、製造効率が高いことにより、耐久性および耐燃焼性に優れた本発明のカーボンナノチューブ複合体を、低コストで製造することができる。また、本発明の製造方法は、どのようなカーボンナノチューブ複合体の製造に用いてもよいが、本発明のカーボンナノチューブ複合体の製造に用いることが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法は、前記のとおり、ホウ素含有カーボンターゲットに対し炭酸ガスレーザアブレーションすることで、カーボンナノチューブ複合体を生成させることを特徴とする。YAGレーザ、エキシマレーザ等を用いて本発明のカーボンナノチューブ複合体を製造できるのであれば用いてもよいが、本発明の製造方法では、炭酸ガスレーザを用いる。炭酸ガスレーザは、高出力である、連続照射が容易である等の利点がある。
【0035】
レーザ光を照射する前記ホウ素含有カーボンターゲットは、特に限定されない。例えば、前記ホウ素含有カーボンターゲットは、単体の炭素と単体のホウ素との混合物でも、炭素とホウ素との化合物でも、炭素化合物と単体のホウ素との混合物でも、単体の炭素とホウ素化合物との混合物でも、炭素化合物とホウ素化合物との混合物でもよい。前記単体の炭素としては、黒鉛が、コスト、反応性等の観点から好ましい。前記炭素化合物としては、例えば、炭化水素、金属炭化物、炭化ケイ素、炭酸塩、炭酸水素塩、シアン化物等があげられる。前記金属炭化物としては、例えば、炭化カルシウムがあげられる。また、前記金属炭化物における金属は、カルシウム(Ca)に限定されず、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)等があげられる。前記炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウムがあげられる。さらに、前記炭酸塩または前記炭酸水素塩における金属イオンは、カルシウムに限定されず、例えば、前記金属炭化物における金属と同様の金属のイオンがあげられる。前記シアン化物としては、例えば、シアン化カリウムがあげられる。さらに、前記シアン化物における金属イオンは、カリウムに限定されず、例えば、前記金属炭化物、前記炭酸塩および前記炭酸水素塩における金属と同様の金属のイオンがあげられる。前記単体の炭素または前記炭素化合物に混合する前記ホウ素化合物としては、例えば、窒化ホウ素、炭化ホウ素、酸化ホウ素等があげられる。前記ホウ素含有カーボンターゲットにおいて、ホウ素含有量は、特に限定されないが、炭素の含有量に対し、質量比で0.1〜30%であることが好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。前記ホウ素含有量が、前記炭素含有量に対し、質量比で0.1%以上あれば、カーボンナノチューブ分子の成長が起こりやすい。カーボンナノチューブ分子の成長反応においては、前記ホウ素が触媒作用をすると考えられるが、この考察は、本発明を限定しない。また、前記ホウ素含有量が、前記炭素含有量に対し、質量比で0.1%以下であれば、グラファイト層(グラフェンシート)内に内包されない単体ホウ素またはホウ素化合物が、生成物のカーボンナノチューブ複合体に混入するおそれが少ない。
【0036】
前記炭酸ガスレーザアブレーションは、例えば、前記ホウ素含有カーボンターゲットを容器内に入れ、レーザ光をZeSeレンズなどにより集光させ、照射させて行うことができる。レーザアブレーション時の雰囲気温度、雰囲気ガス、雰囲気圧力、照射エネルギー密度等の各種反応条件は、特に限定されず、適宜設定できる。また、前記各種反応条件を適宜設定することで、生成物であるカーボンナノチューブ複合体の分子構造、成分比等を制御してもよい。例えば、前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気温度、雰囲気ガス、雰囲気圧力、および照射エネルギー密度からなる群から選択される少なくとも一つの条件の制御によりカーボンナノチューブの層数を制御してもよい。また、前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気温度、雰囲気ガス、雰囲気圧力、および照射エネルギー密度からなる群から選択される少なくとも一つの条件の制御により、生成するカーボンナノチューブの分子数と、炭化ホウ素内包球状グラファイトの分子数と、炭化ホウ素非内包球状グラファイトの分子数の比率を制御してもよい。
【0037】
前記レーザ照射時の雰囲気温度は、特に限定されないが、例えば、室温から1,400℃の範囲である。前記雰囲気温度が高いほど、生成物のカーボンナノチューブ複合体中に含まれるカーボンナノチューブ分子の分子数の割合が増加する傾向があるが、この限りではない。また、前記雰囲気温度は、室温とすることが、大量合成や低コスト化の観点から特に好ましい。なお、本発明において、「室温」は、反応系に対し、外部から加熱および冷却をしない状態における前記反応系の雰囲気温度をいい、反応熱によって前記反応系の温度が外部の温度と異なる温度となる場合も、室温での反応とする。本発明において、前記「室温」は、特に限定されないが、例えば、0〜50℃、好ましくは、10〜40℃である。
【0038】
前記雰囲気ガスは、特に限定されず、例えば、不活性ガス、水素、空気、一酸化炭素、および二酸化炭素からなる群から選択される少なくとも一つを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。また、前記以外の他のガスを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。例えば、前記反応容器内に前記雰囲気ガスを流通させながらレーザアブレーションを行うとともに、前記雰囲気ガスを前記反応容器から導出し、生成物のカーボンナノチューブ複合体を、導出した前記雰囲気ガスとともに回収してもよい。また、前記反応容器内に前記雰囲気ガスを導入後、前記反応容器を密閉し、閉鎖雰囲気下でレーザアブレーションを行ってもよい。前記雰囲気ガスを流通させながらレーザアブレーションを行う場合、前記雰囲気ガスの流量は、特に限定されず、任意であるが、0.5L/min〜100L/minの範囲が好ましい。
【0039】
また、前記雰囲気ガスにより、生成物のカーボンナノチューブ複合体における、カーボンナノチューブ分子数、炭化ホウ素内包球状グラファイト分子数、および、炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子数の比率を制御してもよい。例えば、他の反応条件が同じであれば、重い(分子量が大きい)ガスを用いるほど、カーボンナノチューブ分子に対する球状グラファイト分子の割合が大きくなる傾向があるが、この限りではない。例えば、前記雰囲気ガスが不活性ガスである場合、He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rnの順序で分子量が大きくなる。これらの比率を変えることで、生成物のカーボンナノチューブ複合体における、カーボンナノチューブ分子数、炭化ホウ素内包球状グラファイト分子数、および、炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子数の比率を制御することができる。
【0040】
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気圧力は、特に限定されないが、例えば、1.3Pa〜1,013hPa(0.01Torr〜760Torr)の範囲である。前記雰囲気圧力は、生成物のカーボンナノチューブ複合体における結晶性向上の観点からは、667〜1,013hPa(500〜760Torr)の範囲が好ましい。また、前記雰囲気圧力により、前記カーボンナノチューブ複合体中のカーボンナノチューブ(CNT)分子のグラファイト層(グラフェンシート)の層数を制御してもよい。室温でのレーザ照射(レーザアブレーション)においては、前記雰囲気圧力が1.3Pa〜133hPa(0.01〜100Torr)の範囲では、1〜5層のCNTが主に生成し、133〜1,013hPa(100〜760Torr)の範囲では、5〜20層のCNTが優先的に生成する傾向があるが、この限りではない。
【0041】
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおける、出力すなわち照射エネルギー密度は、特に限定されないが、例えば、20〜1,000kW/cmであり、好ましくは、20〜70kW/cmである。照射方法も特に限定されず、連続照射(連続発振モードによる照射)でもパルス照射でもよいが、量産性などの観点から、連続照射が好ましい。レーザ光は、ホウ素含有カーボンターゲットの表面に対し、ほぼ垂直に、または前記表面に対する垂線から90度未満の角度まで傾斜した方向から照射することができる。
【0042】
前記炭酸ガスレーザアブレーションは、前記ホウ素含有カーボンターゲットを回転させながら行ってもよい。これにより、前記カーボンナノチューブ複合体を連続的に合成することができる。前記ホウ素含有カーボンターゲットの回転数は、特に限定されないが、例えば、0.5〜10rpmである。前記回転数の制御により、生成物であるカーボンナノチューブ複合体の生成量、分子構造、成分比等を制御してもよい。例えば、前記回転数が3〜8rpmであり、レーザ出力(照射エネルギー密度)が、20〜70kW/cmであることが特に好ましい。具体的には、カーボンナノチューブ複合体の製造効率の観点から、前記ホウ素含有カーボンターゲットの蒸発量を低くしすぎないために、前記レーザ出力は、20kW/cm以上が好ましい。また、アモルファスカーボンなどの副生抑制の観点から、前記レーザ出力は、70kW/cm以下が好ましい。前記ホウ素含有カーボンターゲットに対する前記レーザ光の照射面積も、特に限定されないが、例えば、0.01〜1cmである。前記照射面積は、例えば、レーザ出力とレンズでの集光の度合いにより制御できる。
【0043】
前記炭酸ガスレーザアブレーションにより生成したカーボンナノチューブ複合体を回収する方法は、特に限定されない。例えば、前記のように、導出した雰囲気ガスとともに回収してもよいし、前記カーボンナノチューブ複合体が器壁に付着している場合は、スパッタ等により削り落としてもよい。回収した前記カーボンナノチューブ複合体は、そのまま用いてもよいし、必要に応じ、分離精製等をしてもよい。
【0044】
本発明の製造方法によれば、結晶性および耐燃焼性に優れたカーボンナノチューブ複合体を製造可能であり、また、量産性にも優れる。
【0045】
[3.ペースト、電界放出素子、発光デバイス、および照明装置]
本発明のカーボンナノチューブ複合体の用途は特に限定されないが、前記本発明のペースト、電界放出素子、発光デバイス、または照明装置に用いることが好ましい。
【0046】
本発明のペーストの用途は特に限定されないが、前記本発明の電界放出素子、発光デバイス、または照明装置に用いることが好ましい。本発明のペーストは、前記本発明のカーボンナノチューブ複合体を、溶媒中に溶解させ、または分散媒中に分散させて製造することができる。それ以外は特に限定されず、例えば、公知の電界放出素子製造用ペーストの製造方法等を参考にしてもよい。必要に応じ、ガラスフリット、有機バインダー等の他の成分を添加してもよい。
【0047】
本発明の電界放出素子(エミッタ電極ともいうことがある)は、前記本発明のペーストを基板に塗布し、さらに焼成して製造することができる。前記塗布の方法は、特に限定されないが、印刷法が、量産性に優れる、電界放出素子の大面積化が可能等の観点から好ましい。前記基板も特に限定されず、例えば、ガラス基板上にITO(酸化インジウムスズ)電極を設けた基板等でもよい。焼成時間、焼成温度等も特に限定されず、適宜設定可能である。なお、本発明の電界放出素子は、例えば、冷陰極電子源でも熱陰極電子源でもよいが、冷陰極電子源であることが好ましい。
【0048】
本発明の発光デバイスおよび照明装置は、本発明の電界放出素子を含むことを特徴とする。本発明の発光デバイスとしては、特に限定されないが、例えば、フィールドエミッションディスプレイ等があげられる。本発明の照明装置としては、特に限定されないが、例えば、自動車用ランプ、室内照明、室外照明等があげられる。
【0049】
前記のとおり、本発明のカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ分子どうしの凝集および絡まりが防止されている。本発明のペーストは、前記本発明のカーボンナノチューブ複合体を用いて製造するため、基板上に、電子放出源(エミッタ)であるカーボンナノチューブ分子を均一に塗布することができる。本発明の電界放出素子は、本発明のペーストを基板に塗布し、さらに焼成して製造されるため、電子放出源(エミッタ)であるカーボンナノチューブ分子が均一に配置され、電界集中しやすい構造とすることができる。したがって、本発明の電界放出素子を用いた本発明の発光デバイスおよび本発明の照明装置は、均一な発光が可能である。
【0050】
本発明のカーボンナノチューブ複合体は、耐燃焼性に優れるため、これを用いて製造する本発明のペーストおよび電界放出素子は、大気中での焼成などを行っても、前記カーボンナノチューブの燃焼等による品質の劣化が起こりにくい。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体は、耐久性に優れるため、これを用いて製造する本発明の発光デバイスおよび本発明の照明装置は、長時間の使用後においても特性が劣化しにくい。
【実施例】
【0051】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により、なんら限定されない。
【0052】
[実施例1]
以下のようにして、本発明のカーボンナノチューブ複合体を製造した。
【0053】
まず、反応容器を準備した。前記反応容器の内部は、レーザ光により連続照射できるようにターゲット回転機構を取り付け、連続照射時にターゲット表面がきれいな表面になるように調整した。つぎに、前記反応容器内に直径2.5cm、長さ10cmのホウ素含有カーボンターゲットを入れた。前記ホウ素含有カーボンターゲットは、炭素とホウ素の質量比が9:1のものを用いた。その後、前記反応容器内を、不活性ガスであるArで満たし、前記反応容器内のガス圧(雰囲気圧力)が933hPa(700Torr)となるように制御した。前記反応容器内は室温に保ち、Ar流量は10L/minにした。さらに、前記ターゲット回転機構を、回転数6rpmで回転させ、炭酸ガスレーザを、出力(照射エネルギー密度)50kW/cmで照射してレーザアブレーションを行った。生成したカーボンナノチューブ複合体は、粉末状態で前記反応容器内部に堆積し、または前記反応容器の器壁に付着した。器壁に付着したものは、スパチュラなどで削り落として回収した。以上のようにして、本実施例のカーボンナノチューブ複合体を製造した。なお、得られたカーボンナノチューブ複合体は、精製せずにそのまま用いた。
【0054】
[電子顕微鏡による観察]
実施例1で製造したカーボンナノチューブ複合体を電子顕微鏡で観察し、写真を撮影した。図1に、その結果を示す。図1(a)は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)像を示す写真である。図1(b)および(c)は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)像を示す写真である。
【0055】
図1(a)に示すとおり、実施例1のカーボンナノチューブ複合体は、分散した複数の前記カーボンナノチューブ分子間に、複数の前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子および複数の前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子が分散されていた。このように、実施例1のカーボンナノチューブ複合体では、各カーボンナノチューブ分子の絡まりおよび凝集が防止されていた。また、同図(b)に示すとおり、実施例1のカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ(CNT)分子のチューブ外側面に、炭化ホウ素内包球状グラファイト分子が結合していた。さらに、同図(c)に示すとおり、実施例1のカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ(CNT)分子のチューブ外側面に、炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子が結合していた。図1(b)および(c)によれば、カーボンナノチューブ分子どうしの間隔がある程度離れており、凝集していないことも確認できる。
【0056】
さらに、前記電子顕微鏡観察により、カーボンナノチューブ分子に、曲がりや欠陥などが観察されないことを確認した。また、前記電子顕微鏡観察によれば、各分子のグラファイト層(グラフェンシート)の層数は、カーボンナノチューブ分子および炭化ホウ素内包球状グラファイト分子では、それぞれ、1〜30の範囲内であり、炭化ホウ素非内包球状グラファイトの分子では、3〜1,000の範囲内であった。
【0057】
[実施例2〜4]
反応容器内のArガス圧(雰囲気圧力)を、67hPa(50Torr)(実施例2)、200hPa(150Torr)(実施例3)、または533hPa(400Torr)(実施例4)とする以外は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合体を製造した。
【0058】
[熱重量分析(1)]
雰囲気圧力を67hPa(50Torr)、200hPa(150Torr)、533hPa(400Torr)、または933hPa(700Torr)と変化させて製造した実施例1〜4のカーボンナノチューブ複合体について、酸素雰囲気中で熱重量分析(TGA)を行い、TG曲線および微分TG曲線をプロットした。図2(a)のグラフに、その結果を示す。同図において、横軸は、温度(℃)であり、縦軸は、前記カーボンナノチューブ複合体の重量変化量(測定前重量に対する変化量、%)または微分重量変化量(前記重量変化量を温度で微分した数値、%/℃)である。なお、同図中、実施例1〜4のカーボンナノチューブ複合体製造時の雰囲気圧力を、Torrで示しているが、hPaで表した数値は、前記のとおりである。
【0059】
図2(a)の微分TG曲線から分かるとおり、カーボンナノチューブ複合体製造時の雰囲気圧力が増加するほど発火最低温度が高くなり、耐燃焼性が向上したことを示している。製造時の雰囲気圧が933hPa(700Torr)である実施例1において、酸素雰囲気中での発火最低温度が最も高く、680℃であった。なお、耐燃焼性向上の原因は、必ずしも明らかではないが、カーボンナノチューブ複合体の結晶性向上、および、炭化ホウ素が球殻状グラファイト層内に内包されているためと考えられる。また、図2(a)によれば、カーボンナノチューブ複合体製造時の雰囲気圧力が200hPa(150Torr)以上のとき、発火最低温度が500℃以上であった。カーボンナノチューブ複合体の発火最低温度が500℃以上であれば、電界放出素子用エミッタを作製する際の焼成プロセスにおいて、燃焼しにくく好ましい。
【0060】
[実施例5〜6]
炭酸ガスレーザの出力(照射エネルギー密度)を、30kW/cm(実施例5)、または70kW/cm(実施例6)とする以外は実施例1と同様にして、カーボンナノチューブ複合体を製造した。
【0061】
[熱重量分析(2)]
炭酸ガスレーザの出力(照射エネルギー密度)を、30kW/cm(実施例5)、50kW/cm(実施例1)、または70kW/cm(実施例6)と変化させて製造した各実施例のカーボンナノチューブ複合体について、酸素雰囲気中で熱重量分析(TGA)を行い、TG曲線および微分TG曲線をプロットした。図2(b)のグラフに、その結果を示す。同図において、横軸は、温度(℃)であり、縦軸は、前記カーボンナノチューブ複合体の重量変化量(測定前重量に対する変化量、%)または微分重量変化量(前記重量変化量を温度で微分した数値、%/℃)である。図示のとおり、実施例1、5および6の各実施例において、TG曲線および微分TG曲線には、炭酸ガスレーザの出力(照射エネルギー密度)に対する依存性がほとんど見られなかった。すなわち、実施例1、5および6の条件では、炭酸ガスレーザの出力(照射エネルギー密度)が30〜70kW/cmの範囲において、いずれも耐燃焼性に優れたカーボンナノチューブ複合体を製造できた。
【0062】
[実施例7]
実施例1で製造したカーボンナノチューブ複合体(200mg)、エチルセルロース(200mg)、テルピネオール(15ml)、およびガラスフリット(400mg)を混合してペーストを製造した。なお、テルピネオールは分散媒であり、エチルセルロースは有機バインダーである。
【0063】
次に、ガラス基板上にITO電極が形成された基板を準備した。この基板上に、前記ペーストを、スクリーン印刷により塗布し、さらに、500℃でバインダー除去のための焼成を行い、電界放出素子であるエミッタ電極(CNT/ITO/ガラス)を作製した。
【0064】
さらに、前記エミッタ電極と、蛍光体を有するアノード(蛍光体/ITO/ガラス)とを用いて、ランプを製造した。
【0065】
前記ランプを、アノードとカソードとの間の印加電圧3.9kV、アノードとカソードとの間に流れる電流100μAで20時間連続点灯させ、その間、連続して発光特性を測定した。図3〜5に、前記測定の結果を示す。図3は、電場と放出電流との相関を示すグラフである。同図において、横軸は、電場(kV/mm)であり、縦軸は、放出電流(mA/cm)である。■は、前記ランプの、使用前(0時間点灯時)の測定結果のプロットを示し、●は、前記ランプの、20時間点灯時における測定結果のプロットを示す。図4は、前記20時間連続点灯中における、点灯時間と放出電流との相関を示すグラフである。同図において、横軸は、点灯時間(hours)であり、縦軸は、放出電流(mA/cm)である。図5は、前記20時間連続点灯試験前後の、前記アノードの発光写真である。図5左側は、0時間点灯時の写真であり、右側は、20時間点灯時の写真である。
【0066】
図3〜5に示すとおり、本実施例のランプは、3.9kV−100μAで20時間という長時間連続点灯しても、発光特性がほとんど変化せず、かつ、電流低下や輝点減少がみられなかった。これは、本実施例のランプに用いたカーボンナノチューブ複合体(実施例1)の結晶性が高く、耐久性に優れていたためと考えられる。また、前記カーボンナノチューブ複合体の耐燃焼性が優れていたため、前記エミッタ電極製造時の焼成工程において、カーボンナノチューブ分子へのダメージがなかったか、または、きわめて小さかったことも一因と考えられる。さらに、図5の発光写真において、全体的に輝点が均一であったことから、前記エミッタ電極上において、エミッタであるカーボンナノチューブ分子が均一に分散していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上、説明したとおり、本発明によれば、耐久性および耐燃焼性に優れ、低コストで製造でき、かつ、カーボンナノチューブ分子の分散性に優れたカーボンナノチューブ複合体、カーボンナノチューブ複合体の製造方法、ペースト、電界放出素子、発光デバイス、および照明装置を提供することができる。また、本発明のカーボンナノチューブ複合体の用途は、これら電界放出素子、発光デバイス、および照明装置に限定されず、どのような分野に用いてもよい。
【0068】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載しうるが、以下には限定されない。
【0069】
(付記1)
カーボンナノチューブ分子集合体と、球状グラファイト分子集合体とを含み、
前記カーボンナノチューブ分子は、チューブ状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子は、球殻状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子集合体は、前記球殻状のグラファイト層内に炭化ホウ素を内包している炭化ホウ素内包球状グラファイト分子の集合体と、炭化ホウ素を内包していない炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子の集合体とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ複合体。
【0070】
(付記2)
前記カーボンナノチューブ分子において、前記チューブ状のグラファイト層の層数が、1〜30であり、前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子において、前記球殻状のグラファイト層の層数が、1〜30であり、前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子において、前記球殻状のグラファイト層の層数が、3〜1,000であることを特徴とする付記1記載のカーボンナノチューブ複合体。
【0071】
(付記3)
前記カーボンナノチューブ分子のチューブ外側面に、前記球状グラファイト分子が接していることを特徴とする付記1または2記載のカーボンナノチューブ複合体。
【0072】
(付記4)
酸素雰囲気下における発火最低温度が500℃以上であることを特徴とする付記1から3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ複合体。
【0073】
(付記5)
ホウ素含有カーボンターゲットに対し炭酸ガスレーザアブレーションすることで、カーボンナノチューブ複合体を生成させることを特徴とする、前記カーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【0074】
(付記6)
前記炭酸ガスレーザアブレーションを、連続発振モードで行うことを特徴とする付記5記載の製造方法。
【0075】
(付記7)
前記ホウ素含有カーボンターゲットにおいて、ホウ素含有量が、炭素の含有量に対し、質量比で0.1〜30%であることを特徴とする付記5または6記載の製造方法。
【0076】
(付記8)
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気温度、雰囲気ガス、雰囲気圧力、および照射エネルギー密度からなる群から選択される少なくとも一つの条件の制御によりカーボンナノチューブの層数を制御することを特徴とする付記5から7のいずれかに記載の製造方法。
【0077】
(付記9)
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気温度、雰囲気ガス、雰囲気圧力、および照射エネルギー密度からなる群から選択される少なくとも一つの条件の制御により、生成するカーボンナノチューブの分子数と、炭化ホウ素内包球状グラファイトの分子数と、炭化ホウ素非内包球状グラファイトの分子数の比率を制御することを特徴とする付記5から8のいずれかに記載の製造方法。
【0078】
(付記10)
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気温度が、室温から1,400℃の範囲であることを特徴とする付記5から9のいずれかに記載の製造方法。
【0079】
(付記11)
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気ガスが、不活性ガス、水素、空気、一酸化炭素、および二酸化炭素からなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする付記5から10のいずれかに記載の製造方法。
【0080】
(付記12)
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、雰囲気圧力が、1.3Pa〜1,013hPaの範囲であることを特徴とする付記5から11のいずれかに記載の製造方法。
【0081】
(付記13)
前記炭酸ガスレーザアブレーションにおいて、照射エネルギー密度が、20〜70kW/cmの範囲であることを特徴とする付記5から12のいずれかに記載の製造方法。
【0082】
(付記14)
付記5から13のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とするカーボンナノチューブ複合体。
【0083】
(付記15)
付記1から4および14のいずれかに記載のカーボンナノチューブ複合体を、溶媒中に溶解させ、または分散媒中に分散させて製造されることを特徴とするペースト。
【0084】
(付記16)
付記15記載のペーストを基板に塗布し、さらに焼成して製造されることを特徴とする電界放出素子。
【0085】
(付記17)
前記塗布が、印刷法による塗布であることを特徴とする付記16記載の電界放出素子。
【0086】
(付記18)
付記16または17記載の電界放出素子を含むことを特徴とする発光デバイス。
【0087】
(付記19)
付記16または17記載の電界放出素子を含むことを特徴とする照明装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ分子集合体と、球状グラファイト分子集合体とを含み、
前記カーボンナノチューブ分子は、チューブ状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子は、球殻状のグラファイト層から形成され、
前記球状グラファイト分子集合体は、前記球殻状のグラファイト層内に炭化ホウ素を内包している炭化ホウ素内包球状グラファイト分子の集合体と、炭化ホウ素を内包していない炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子の集合体とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ複合体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ分子において、前記チューブ状のグラファイト層の層数が、1〜30であり、前記炭化ホウ素内包球状グラファイト分子において、前記球殻状のグラファイト層の層数が、1〜30であり、前記炭化ホウ素非内包球状グラファイト分子において、前記球殻状のグラファイト層の層数が、3〜1,000であることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ分子のチューブ外側面に、前記球状グラファイト分子が接していることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
酸素雰囲気下における発火最低温度が500℃以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項5】
ホウ素含有カーボンターゲットに対し炭酸ガスレーザアブレーションすることで、カーボンナノチューブ複合体を生成させることを特徴とする、前記カーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により製造されることを特徴とするカーボンナノチューブ複合体。
【請求項7】
請求項1から4および6のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ複合体を、溶媒中に溶解させ、または分散媒中に分散させて製造されることを特徴とするペースト。
【請求項8】
請求項7記載のペーストを基板に塗布し、さらに焼成して製造されることを特徴とする電界放出素子。
【請求項9】
請求項8記載の電界放出素子を含むことを特徴とする発光デバイス。
【請求項10】
請求項8記載の電界放出素子を含むことを特徴とする照明装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−62209(P2012−62209A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206364(P2010−206364)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】