説明

ガスタービンの制御方法及びガスタービンの制御装置

【課題】本発明では、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルにおける利点を享受しつつ、部分負荷領域での煤塵発生量を抑制することを目的としたものである。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明は、燃焼器には圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、ガスタービンの部分負荷領域で圧縮機の性能が最も高くなるように設定された圧縮機の作動流体流量に対し、圧縮機の作動流体流量を減少させることを特徴とする。
【効果】本発明によれば、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルにおける利点を享受しつつ、部分負荷領域での煤塵発生量を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの制御方法及びガスタービンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液体燃料焚きの燃焼器では、燃料ノズルで液体燃料を微粒化し、燃焼室で小径の燃料液滴群と圧縮空気との混合を促進して燃焼させる。液体燃料を微粒化する燃料ノズルには、液体燃料以外の媒体、例えば、高圧空気などのせん断力を利用して微粒化する空気噴霧方式ノズルと、液体燃料の供給圧力で液体燃料を微粒化する圧力噴霧方式ノズルがある。
【0003】
このうち、空気噴霧方式燃料ノズルは、微粒化の過程で燃料と高圧空気の混合を図る必要があるため、空気を供給するための空気源やそれに付随する補機も必要となり、設置スペースが限られた都市部にガスタービンを設置する場合に問題となる。
【0004】
そこで、高圧空気などを必要としない燃料ノズルとして、特許文献1に記載された圧力噴霧方式の液体燃料のみを用いた一流体燃料ノズルがある。この燃料ノズルは、液体燃料の供給圧力を高くして液体燃料の噴射速度を上げて微粒化させる燃料ノズルである。この方式の燃料ノズルを用いると、高圧空気を供給するための空気源やそれに付随する補機が不要となるため初期コストや運転コストを低減できる利点がある。更に、ガスタービンの設置スペースを減少させることも可能である。
【0005】
【特許文献1】特公平7−62522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルでは、液体燃料の供給圧力を高くすることで液体燃料の噴射速度を上げて液体燃料を微粒化させる必要がある。そのため、部分負荷領域のように燃料供給圧力が低く燃料流量の少ない条件で、燃料液滴径が大きくなることが問題となる。燃焼室に供給される燃料液滴が大きい場合、燃料と空気の混合が損なわれて、酸化反応に遅れを生じ、煤の発生を促してしまうためである。また、燃料液滴径が大きいことで、発生する煤粒子も肥大化することとなり、燃焼器からガスタービンに排出される燃焼ガス中に含まれる煤塵量が増加する。
【0007】
そこで、本発明では、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルにおける利点を享受しつつ、部分負荷領域での煤塵発生量を抑制することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、燃焼器に圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、ガスタービンの部分負荷領域で圧縮機の性能が最も高くなるように設定された圧縮機の作動流体流量に対し、圧縮機の作動流体流量を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルにおける利点を享受しつつ、部分負荷領域での煤塵発生量を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を適用したガスタービンシステムは、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備えた燃焼器を有する既存のシステムにおいて、新規な設備を設けずに部分負荷領域での煤塵発生量の抑制を図るものである。
【0011】
以下、本発明のガスタービンプラントの実施形態について図面を参照し説明する。
【実施例1】
【0012】
実施例1を図1乃至図3を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、ガスタービンプラントの全体構成を示す概略構成図である。ガスタービンプラントは、主として、作動流体である空気を圧縮して高圧の圧縮空気を生成する圧縮機1と、この圧縮機1から導入される圧縮空気13と燃料とを混合して燃焼ガス14を生成する燃焼器3と、この燃焼器3で生成された燃焼ガス14が導入されるタービン2とから構成されている。なお、圧縮機1とタービン2の軸は連結されている。
【0014】
上記圧縮機1の入口には、入口案内翼17が設けられている。この入口案内翼17の開度を調節することにより、圧縮機1への吸い込み空気量が調節される。また、圧縮機1に設けられた主流路の途中には、作動流体の一部を抽気してタービン2の高温部に導くための冷却空気配管21が設けられており、抽気した作動流体(圧縮途中の圧縮空気13)はタービン翼などの冷却として使われる。さらに、冷却空気配管21の途中から分岐し、圧縮機1によって生成された作動流体を燃焼器3,タービン2を介さずに、タービン2の排気ディフューザ18へ逃がすための抽気管19、抽気管19で排気ディフューザ18に抽気する空気量を調整する抽気弁20を備えた抽気系統が設けられている。この抽気系統は、プラント異常などによって緊急の負荷遮断が行われた際、圧縮機1,タービン2を保護する目的で設けられている。通常、負荷遮断が発生した場合は、この抽気弁20を開放することで、燃焼器3に供給される圧縮空気13の流量を減らし、さらに燃料流量を減らすことで、タービン2への駆動力を急速に弱めることができ、無負荷状態となったタービン2の過回転を防止することが可能となる。なお、通常の運転時において抽気弁20は閉塞されている。そして、排気ディフューザ18を通じて排出された排気ガスは煙突を通じて外部の大気中に排出される。
【0015】
一方、前記燃焼器3は、内部で燃焼ガスを生成する内筒7と、燃料を微粒化するための燃料ノズル9と、圧縮空気13に旋回を付与する旋回器10と、燃焼器3を点火させるための点火栓11を、外筒5とエンドカバー6とで密閉した圧力容器である。そして、内筒7の内部に燃焼室を形成する。内筒7の上流側であって軸中心位置には、燃料を噴射する圧力噴霧式の燃料ノズル9が配置され、その周囲には、拡散火炎16を保持するための旋回器10が設けられており、その外周には内筒キャップ12が設けられている。
【0016】
このような構成により、圧縮機1から供給された圧縮空気13は、外筒5と内筒7で構成される環状の空気流路を流れ、内筒7の壁面や内筒キャップ12に設けられた燃焼孔や冷却孔、及び旋回器10から内筒7の内部に導入される。
【0017】
燃料の供給系統は、燃料タンク22,主ポンプ23,圧力調節弁24,燃料遮断弁26,流量調節弁25,燃料流量計27,燃料供給系統28を備える。液体燃料は、主ポンプ23によって昇圧され、主ポンプ23のバイパスラインに設置されている圧力調節弁24で所定の圧力に設定される。昇圧された液体燃料は所定の弁開度に調整された流量調節弁25,燃料遮断弁26,燃料流量計27を通過して圧力噴霧式の燃料ノズル9に供給される。
【0018】
燃料ノズル9に供給された燃料は、微細な燃料液滴群となって内筒7の内部に噴射される。内筒7に供給された圧縮空気13と燃料は混合し、この混合ガスが内筒7の内部で点火栓11により点火されて燃焼する。燃焼によって生成した燃焼ガス14はトランジションピース8を介してタービン2に供給されてタービン2を駆動する。これにより、タービン2に連結された発電機4を駆動して発電する。
【0019】
次に本実施例のガスタービンプラントにおける制御方法について説明する。
【0020】
図3は、ガスタービンプラントの起動から定格負荷条件までにおける、ガスタービンの制御経過の一例を示す。横軸には、ガスタービンの運転状態である回転数、ガスタービン負荷を示す。縦軸には、入口案内翼17における開度の経過、及びそれに伴う燃焼器入口空気流量,燃料と空気の流量比である燃空比,燃焼器が排出する燃焼ガス温度を示す。ここで、図3における破線は、本実施例の理解を助けるための比較例を示す。そして、実線が本実施例における制御経過を示す。
【0021】
まず、比較例について説明する。ガスタービンを起動し、発電機4から負荷を取り始めるまでの運転状態が昇速域である。この昇速域では、タービン回転数が所定回転数に達する前は、入口案内翼17の開度は一定である。そのため、燃焼器への燃料供給量を増加させることで、燃空比が増加し、燃焼ガス温度は増加する。昇速域の途中であって、タービン回転数が所定回転数に達した後は、入口案内翼17の開度が規定開度V0となるように入口案内翼17の開度を増加させる。ここで、規定開度V0は、部分負荷領域において圧縮機1にサージング・アイシングが発生しないように規定されるとともに、圧縮機1の翼型性能も考慮して圧縮機1の性能が最も高くなるようにした開度である。なお、サージングとは圧縮機1の圧力比を増加することで、任意の圧力比において急激に強い音響を伴う圧力変動と、空気流の激しい脈動と、機械の振動とを引き起こし、圧縮機1の運転が不安定になる現象である。また、アイシングとは、大気温度の低い条件で入口案内翼17の開度を絞った場合、入口案内翼17の出口速度(マッハ数)が増加するために流体の温度が低下し、大気中に含まれる水分が氷結する現象をいう。アイシングが生じると、固体化された水分(氷塊)が圧縮機1の翼に衝突し、翼を損傷するおそれがあるため、アイシングが生じないように入口案内翼17の開度を設定する必要がある。そして、本実施例において、部分負荷領域とは負荷上昇域のうち定格負荷状態(100%)を除いた領域をいう。
【0022】
ガスタービンは、発電機4から負荷を取り始めることで、負荷上昇域となる。その後、0〜80%の負荷領域では規定開度V0を保ちながら負荷上昇を行う。そして、排気温度などの制御設定により、ガスタービン負荷が約70〜80%近傍から再度、入口案内翼
17の開度を開く動作が行われ、定格負荷(100%)条件で全開となる。
【0023】
これに対し、本発明を適用した実施例1では、0%負荷での入口案内翼17の開度を規定開度V0よりも低い開度となるように開度設定を変更し、0〜50%の負荷条件において一定開度で保持する。その後、50%負荷から再度、入口案内翼17の開度を開く動作を行い、定格負荷条件で全開となるように運転する。従って、昇速域の途中から50%負荷までの条件で、圧縮機1から供給される圧縮空気量は入口案内翼17の開度推移と同様に規定開度V0で得られる空気量よりも減少することとなり、燃焼器3に流入する燃焼器入口空気流量も減少する。燃焼器入口空気流量が減少することで、液体燃料流量と圧縮空気量の流量比である燃空比は比較例に比べ高くなり、燃焼器で生成される燃焼ガスの温度も高くなる。図3の斜線部は、燃焼ガスの温度上昇分となる。
【0024】
このようにガスタービンの部分負荷領域において燃焼ガスを高温化させることで、液体燃料の燃焼によって生成した微小な煤粒子は煤の燃焼反応によって消滅する。また、肥大な煤粒子についても燃焼反応により微小化することとなり、煤塵の排出量を抑制することが可能となる。
【0025】
本実施例では、燃焼器に圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、ガスタービンの部分負荷領域で圧縮機の性能が最も高くなるように設定された圧縮機の作動流体流量に対し、圧縮機の作動流体流量を減少させる制御を行っている。
【0026】
ここで、圧力噴霧式の燃料ノズル9の特徴について説明する。圧力噴霧式の燃料ノズル9は燃料の供給圧力を高めることで、燃料の噴出速度を増加させて微粒化を促進する燃料ノズルである。空気噴霧式のように空気系統を別途設ける必要が無いため、ノズル構造がシンプルであるという点、微粒化の際に燃料以外の媒体を必要としないことから、初期コストや運転コストを低減できるという点が利点として挙げられる。
【0027】
しかしながら、液体燃料の供給圧力が低い条件(昇速域や部分負荷領域)では、液体燃料の噴出速度も低下するため微粒化が損なわれてしまうという問題がある。ガスタービンに適用される圧力噴霧式の燃料ノズルは、燃料の供給量が最も多い定格負荷条件において所定の最高圧力で燃料を噴射できるように設計されるためである。従って、部分負荷条件のような燃料流量の少ない条件では、燃料の供給圧力が低下し微粒化が損なわれてしまう。燃焼室に噴射される燃料液滴が大きくなると、燃料と空気の混合も損なわれるため、燃料の酸化反応に遅れが生じることとなり、煤の発生を促すこととなる。また、燃料液滴径が大きいことで、発生する煤粒子も肥大化することとなり、燃焼ガス中に含まれる煤塵の排出量が増加する。
【0028】
図2は、圧力噴霧式の燃料ノズル9を搭載した燃焼器3のガスタービン負荷に対する煤塵排出量の特性の一例を示したものである。横軸にガスタービン負荷を示し、縦軸に煤塵排出量を示す。図2のように、圧力噴霧式の燃料ノズル9を搭載した燃焼器では、部分負荷領域では煤塵の排出量が多く、負荷上昇に伴い煤塵の排出量は減少する傾向を示す。
【0029】
高負荷領域で煤塵の排出量が減少する第1の理由としては、燃料流量が増加することで燃料の供給圧力が高くなることが挙げられる。液体燃料の供給圧力が増加し、微粒化が促進されることで空気との混合が促進され、酸化反応が効率よく行われるためである。さらには、燃料液滴が小さくなることで、生成される煤粒子も微小化するためである。
【0030】
さらに第2の理由として、ガスタービン負荷の上昇に伴い、燃焼器で生成される燃焼ガスの温度も上昇することが挙げられる。燃焼反応によって微小な煤粒子を生成しても、高温の燃焼ガスにさらされることで燃え尽きて消滅するためである。また、肥大な煤粒子の場合、燃え尽きることはできなくても煤粒子が微小化するため、煤塵の排出量が抑制されるためである。
【0031】
これに対して、昇速域や部分負荷領域では、燃料の供給圧力が低いため、前述の第1の理由によって煤塵の排出量を抑制することは困難である。そこで、本実施例では、第2の理由(即ち、燃焼器で生成される燃焼ガスの温度を上昇させること)によって煤塵の発生量を抑制するように制御している。具体的には、ガスタービンの部分負荷領域で圧縮機1の性能が最も高くなるように設定された作動流体流量に対し、圧縮機1の作動流体流量を減少させることで、燃焼室における燃空比を増加させ、燃焼ガス温度の上昇を図っている。そのため、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルにおける利点を享受しつつ、部分負荷領域での煤塵発生量を抑制することが可能となる。
【0032】
また、本実施例ではガスタービンの昇速域や負荷上昇域である部分負荷領域において、圧縮機1にサージング・アイシングが発生しないように規定されるとともに、圧縮機1の翼型性能も考慮して圧縮機1の性能が最も高くなるように設定された作動流体流量が得られる入口案内翼17の規定開度V0よりも低い開度となるように制御することで、圧縮機1の作動流体流量を減少させている。従って、燃焼器入口空気流量は減少するため、燃焼器内の燃空比が増加し、燃焼ガス温度が上昇する。このように、圧縮機1の作動流体流量を減少させる手段として入口案内翼17を使用することで、液体燃料の供給圧力が低くても煤塵の排出量を抑制することが可能となる。また、既存のガスタービンシステムに新たな設備を追加する必要がないため、圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備えた既存のガスタービンについて低コストで煤塵量を抑制することができるとともに、設置スペースが限られる都市部でも新たな設備を追加せずに本発明の効果を得られる。
【0033】
なお、本実施例における入口案内翼17の開度設定は部分負荷領域で煤塵排出量を抑制させるための一設定例である。そのため、入口案内翼17の開度及び圧縮空気量を減少させる負荷領域についてはこの限りではなく、圧縮機1やタービン2の健全性を保てる範囲で設定可能であることは言うまでもない。
【実施例2】
【0034】
実施例2では、図1において、圧縮機1の中間段に設けられた抽気管19,抽気弁20からなる抽気系統を制御することが実施例1と異なる。その他のガスタービンプラントの構成機器は、実施例1と同様である。
【0035】
具体的には、煤塵の排出量が増加する昇速域や部分負荷領域において、抽気弁20を開放し圧縮機1から抽気される作動流体(圧縮空気)の一部をタービン2の出口に設けられている排気ディフューザ18へ逃がすように作動させる。これにより、燃焼器3へ供給される圧縮空気13の流量が減少することとなり、実施例1と同様の理由で煤塵排出量を抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0036】
次に、実施例3について、図4を参照して説明する。実施例3では、圧縮機1における主流路の途中から抽気するように設けられている冷却空気配管21に空気量を制御できる制御弁29を設置することで、タービン2の高温部に導く冷却空気量を制御するようにしたことである。
【0037】
一般に、圧縮機1の主流路から抽気し、タービン2の高温部へ供給する冷却空気は、タービン翼が部材の耐熱温度を超えないようにするため、所定の空気配分量で常時通気している。そのため、冷却空気配管21にはオリフィスなどを設置して流量を管理するケースが多い。
【0038】
そこで本実施例では、冷却空気配管21にオリフィスを設置した場合に得られる冷却空気量よりも更に多くの冷却空気をタービン高温部に分配できるように、オリフィスを設置した場合に比べ冷却空気配管21の口径を大きくしている。さらに、冷却空気配管21の途中にオリフィスの代わりに制御弁29を設置した。これにより、煤塵の排出量が増加する昇速域や部分負荷領域においては、オリフィスを設置した場合に比べタービン高温部に多くの冷却空気を供給するため、燃焼器3へ供給される圧縮空気13の流量が更に減少することとなり、実施例1と同様の理由から煤塵排出量を抑制することが可能となる。
【0039】
また、本実施例に依れば、上記の方法によって燃焼器3で生成される燃焼ガスの温度が上昇しても、燃焼器3へ供給される圧縮空気13の流量が減少した分、タービン2への冷却空気量が増加する。従って、タービン2の冷却が強化されることとなり、タービン2の信頼性を向上できる利点もある。
【実施例4】
【0040】
次に、実施例4について図5及び図6を参照して説明する。実施例4では、ガスタービンの作動状態を把握するために各部に温度等の測定手段を設け、当該測定手段により得られた測定値を制御装置に入力することで圧縮機1の作動流体流量を減少させている。なお、本実施例では入口案内翼開度を制御する方法について説明する。
【0041】
本実施例のガスタービンプラントでは、圧縮機1の空気圧力Pを測定する圧力計32と、タービン2の回転数Nを測定する回転数計33と、ガスタービン負荷Lを測定する負荷測定機34と、燃料流量Gfを測定する燃料流量計27と、燃焼ガス温度Tを測定する熱電対30が設置されている。圧力計32は、圧縮機1と燃焼器3との間の流路に設けられる。回転数計33はタービン2の回転軸に設けられるとともに、負荷測定機34は発電機4に設置される。燃料流量計27は燃料ノズル9に燃料を供給する燃料供給系統28に設けられる。そして、熱電対30は、燃焼器3から排出された燃焼ガスがタービン2に供給される流路に設けられている。
【0042】
図6に制御装置31の計算アルゴリズムを示す。入口案内翼開度設定手段102では、タービン回転数Nと、ガスタービン負荷Lと、事前に定められた入口案内翼開度108に基づき、入口案内翼の開度V0を設定する。次に、燃焼器入口空気流量計算手段100では、圧縮機1の空気圧力Pと入口案内翼の開度V0に基づき、燃焼器入口空気流量Gaを算出する。そして、燃空比計算手段101では、燃料流量Gfと燃焼器入口空気流量Gaとの比である燃空比rFAを算出する。
【0043】
一方、入口案内翼開度補正判定手段103では、燃焼器3から排出された燃焼ガスの燃焼ガス温度Tと、煤塵発生温度T0及び煤塵消滅温度T1とを比較することで、現在の時刻tにおける入口案内翼17の開度を補正する必要があるかどうか、判定を行う。ここで、煤塵発生温度T0とは、ガスタービンの昇速域や部分負荷領域において煤塵の発生量が問題となるときの温度である。また、煤塵消滅温度T1とは、燃焼ガスが当該温度になることで煤塵の発生量が問題とならないレベルに達するときの温度をいう。そして、
T<T0 (数1)
の場合には、燃焼ガス温度Tが煤塵の発生量が問題となる温度(T0)に達していないため、入口案内翼17の開度を補正する必要はないと判定する。また、
T1≧T≧T0 (数2)
の場合には、燃焼ガス温度Tが煤塵の発生量が問題となる温度(T0)には達しているが、微細な煤塵であれば消滅できる温度(T1)に達していない。そのため、数2では入口案内翼17の開度を補正する必要があると判定する。また、
T1<T (数3)
の場合には、燃焼ガス温度Tが昇速域や部分負荷領域において煤塵の発生量が問題となる温度(T0)に達しているが、微細な煤塵であれば消滅できる温度(T1)にも達しているため、入口案内翼17の開度を補正する必要はないと判定する。入口案内翼17の開度を補正しなくとも、煤塵の排出量が問題とならない程度まで減少しているためである。
【0044】
以上の判定により、現在の時刻tにおいて入口案内翼17の開度を補正する必要がないと判断された場合、判断結果ΔV0を入口案内翼開度差分算出手段104に送信する。なお、記憶手段109は現在時刻tより一単位時間だけ早い時刻t−1における判断結果
ΔV0′を格納する手段である。そのため、入口案内翼開度補正判定手段103では、現在時刻tより一単位時間だけ早い時刻t−1における判断結果ΔV0′との対比を行うことで、現在時刻tにおける補正の要否を判断する。入口案内翼開度差分算出手段104では、燃空比rFAに基づき入口案内翼開度の補正量ΔVを算出する。ここで、入口案内翼開度補正判定手段103において開度の補正が必要と判断された場合には、燃空比rFAを増加させることで煤塵量が減少するように適切な補正量ΔVが求められる。また、入口案内翼開度補正判定手段103において開度の補正が不要と判断された場合には、補正量ΔV=0とする。
【0045】
そして、入口案内翼開度補正手段105では、現在の入口案内翼17の開度V0とその補正量ΔVに基づき、数4によって最終的な入口案内翼開度Vが算出される。
【0046】
V=V0−ΔV (数4)
但し、入口案内翼開度補正手段105では、開度を極端に減少させることで圧縮機1にサージング等の問題が発生することを回避するために、入口案内翼限界開度Vmaxも考慮して最終的な開度が算出される。
【0047】
このように、熱電対30からの燃焼ガス温度Tに基づき入口案内翼開度Vを制御することで、煤塵の排出量を抑制できる燃焼ガス温度Tとなるように圧縮空気13の流量を制御することが可能となる。従って、より効果的に煤塵を抑制することが可能である。
【0048】
本実施例の制御装置では、燃焼器に圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、ガスタービンの昇速域及び部分負荷領域で煤塵発生量が問題になる温度(T0)と、煤塵の発生量が問題とならない程度に達したときの温度(T1)と、燃焼器3が排出する燃焼ガス温度Tに基づいて、圧縮機1の作動流体流量を補正する必要性を判定する手段を備える。煤塵発生温度(T0)と煤塵消滅温度(T1)に対する燃焼ガス温度の関係を前述の数1乃至数3で判定することにより、煤塵量を直接測定しなくとも、燃焼ガスの温度のみで簡易に圧縮機の作動流体流量を補正する必要性を判定することが可能である。なお、煤塵発生温度(T0)と煤塵消滅温度(T1)は燃料の種類によって異なるため、燃料の種類ごとに事前にデータベースに蓄積しておけば、燃料の種類を変えても本実施例を適用可能である。
【0049】
また、本実施例の制御装置では、燃焼器3に圧力噴霧方式の液体燃料ノズル9を備え、燃焼器入口空気流量Gaを、圧縮機1の空気圧力Pと、タービン2の回転数N又はガスタービンの負荷Lに基づいて計算する手段と、燃焼器3における燃空比rFAを、燃焼器入口空気流量Gaと、燃料流量Gfに基づいて計算する手段と、現在の入口案内翼17の開度を補正する必要性があると判断された場合に、燃焼器3から排出される燃焼ガスの温度Tと燃空比rFAに基づき、燃空比rFAを増加させるように入口案内翼17の開度を補正する手段を備えている。このように、空気圧力P,回転数N,ガスタービン負荷L,燃料流量Gfに基づき計算された燃空比rFAを算出することで、現在の入口案内翼17の開度を補正する場合に、煤塵の生成・消滅に密接に関係する燃空比rFAを考慮して開度の補正量を的確に求めることが可能となる。
【0050】
また、本実施例では、燃焼器3には圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、燃焼器入口空気流量Gaを、圧縮機1の空気圧力Pと、タービン2の回転数N又はガスタービンの負荷Lに基づいて計算する手段と、燃焼器3における燃空比rFAを、燃焼器入口空気流量Gaと、燃料流量Gfに基づいて計算する手段と、燃焼器3が排出する燃焼ガスの温度Tと、ガスタービンの昇速域及び部分負荷領域で煤塵発生量が問題になる温度(T0)と、煤塵の発生量が問題にならない程度に達したときの温度(T1)に基づき、現在の入口案内翼17の開度を補正する必要性があると判断された場合に、燃焼器3から排出される燃焼ガスの温度Tと燃空比rFAに基づき、燃空比rFAを増加させるように入口案内翼
17の開度を補正する手段を備える。このように、煤塵発生温度(T0)と煤塵消滅温度(T1)に対する燃焼ガス温度の関係を前述の数1乃至数3で判定することにより、煤塵量を直接測定しなくとも、燃焼ガスの温度のみで簡易に圧縮機の作動流体流量を補正する必要性を判定することが可能である。
【0051】
なお、本実施例では燃焼器出口に設けた熱電対30で制御したが、タービン2から排出された排気ガスを排気ディフューザ18に供給する流路に設けた熱電対で制御することも可能である。この場合には、燃焼器出口の熱電対30から得られる温度とタービン出口
(タービン2と排気ディフューザ18との間の流路)に設けた熱電対から得られる温度との相関関係を事前に求めておくことにより、タービン出口の熱電対から得られる温度で制御することができる。熱電対を燃焼器出口に設けた場合は非常に高温の燃焼ガスにさらされるため熱で損傷するおそれがあるが、タービン出口に設けることで熱による損傷を抑制することができるという効果がある。
【0052】
また、本実施例では入口案内翼開度Vを制御したが、実施例2,3における制御方法にも同様に適用することが可能である。
【0053】
更に、本実施例では入口案内翼開度補正判定手段103において、燃焼器3から排出された燃焼ガス温度Tに基づき、開度補正の要否を判定した。しかし、タービン2から排出された排気ガスを外部に排出するための排気ディフューザ18や煙突に設けられた煤塵量計測装置によって直接的に測定された煤塵量に基づき、開度補正の要否を判定することも可能である。
【0054】
以上のように、実施例1乃至4によって、燃焼器3に流入する圧縮空気流量を制御することで煤塵排出量の抑制を図ることが可能となる。なお、これらの実施例と合わせて燃焼器に水や蒸気などを噴射すると、さらなる煤塵抑制効果も期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
圧力噴霧式の液体燃料ノズルを備えた燃焼装置に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1及び2のガスタービンの全体構成を表す図である。
【図2】圧力噴霧式の燃料ノズルを搭載した燃焼器の、ガスタービン負荷に対する煤塵排出量の特性の一例を示した図である。
【図3】ガスタービンプラントの起動から定格負荷条件における、ガスタービンの制御経過の一例を示す。
【図4】実施例3のガスタービンの全体構成を表す図である。
【図5】実施例4のガスタービンの全体構成を表す図である。
【図6】制御装置の計算アルゴリズムを示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1…圧縮機、2…タービン、3…燃焼器、4…発電機、5…外筒、6…エンドカバー、7…内筒、8…トランジションピース、9…燃料ノズル、10…旋回器、11…点火栓、12…内筒キャップ、13…圧縮空気、14…燃焼ガス、16…拡散火炎、17…入口案内翼、18…排気ディフューザ、19…抽気管、20…抽気弁、21…冷却空気配管、
22…燃料タンク、23…主ポンプ、24…圧力調節弁、25…流量調節弁、26…燃料遮断弁、27…燃料流量計、28…燃料供給系統、29…制御弁、30…熱電対、31…制御装置、32…圧力計、33…回転数計、34…負荷測定機、100…燃焼器入口空気流量計算手段、101…燃空比計算手段、102…入口案内翼開度設定手段、103…入口案内翼開度補正判定手段、104…入口案内翼開度差分算出手段、105…入口案内翼開度補正手段、108…入口案内翼開度(設定)、109…記憶手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体である空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機と、該圧縮機からの圧縮空気と液体燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器が排出する燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えたガスタービンの制御方法であって、
前記燃焼器に圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、
該ガスタービンの部分負荷領域で前記圧縮機の性能が最も高くなるように設定された前記圧縮機の作動流体流量に対し、前記圧縮機の作動流体流量を減少させることを特徴とするガスタービンの制御方法。
【請求項2】
請求項1記載のガスタービンの制御方法であって、
前記圧縮機の作動流体流量を減少させるために、前記圧縮機の入口に設置され、吸い込み空気量を制御する入口案内翼の開度を制御することを特徴とするガスタービンの制御方法。
【請求項3】
請求項1記載のガスタービンの制御方法であって、
前記圧縮機の作動流体流量を減少させるために、
前記圧縮機に作動流体の一部を大気中へ導くための抽気管と抽気弁からなる抽気系統を設置し、該抽気弁の開度を制御することを特徴とするガスタービンの制御方法。
【請求項4】
請求項1記載のガスタービンの制御方法であって、
前記圧縮機の作動流体流量を減少させるために、
前記圧縮機に、作動流体の一部を抽気しタービン翼を冷却するための冷却空気として使用する冷却空気配管が設置され、該冷却空気配管に設けられた制御弁の開度を制御することを特徴とするガスタービンの制御方法。
【請求項5】
作動流体である空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機と、該圧縮機からの圧縮空気と液体燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器が排出する燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えたガスタービンの制御装置であって、
前記燃焼器には圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、
前記ガスタービンの昇速域及び部分負荷領域で煤塵発生量が問題になる温度と、
煤塵の発生量が問題とならない程度に達したときの温度と、
前記燃焼器が排出する燃焼ガス温度とに基づいて、
前記圧縮機の作動流体流量を補正する必要性を判定する手段を備えたことを特徴とするガスタービンの制御装置。
【請求項6】
空気を取り入れる入口に設けられた入口案内翼で流量を調整された空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機と、該圧縮機からの圧縮空気と液体燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器が排出する燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えたガスタービンの制御装置であって、
前記燃焼器には圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、
燃焼器入口空気流量を、前記圧縮機の空気圧力と、前記タービンの回転数又は前記ガスタービンの負荷に基づいて計算する手段と、
前記燃焼器における燃空比を、該燃焼器入口空気流量と、燃料流量に基づいて計算する手段と、
現在の前記入口案内翼の開度を補正する必要性があると判断された場合に、前記燃焼器から排出される燃焼ガスの温度と前記燃空比に基づき、前記燃空比を増加させるように前記入口案内翼の開度を補正する手段を備えたことを特徴とするガスタービンの制御装置。
【請求項7】
空気を取り入れる入口に設けられた入口案内翼で流量を調整された空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機と、該圧縮機からの圧縮空気と液体燃料とを燃焼させる燃焼器と、該燃焼器が排出する燃焼ガスにより駆動されるタービンとを備えたガスタービンの制御装置であって、
前記燃焼器には圧力噴霧方式の液体燃料ノズルを備え、
燃焼器入口空気流量を、前記圧縮機の空気圧力と、前記タービンの回転数又は前記ガスタービンの負荷に基づいて計算する手段と、
前記燃焼器における燃空比を、該燃焼器入口空気流量と、燃料流量に基づいて計算する手段と、
前記燃焼器が排出する燃焼ガスの温度と、前記ガスタービンの昇速域及び部分負荷領域で煤塵発生量が問題になる温度と、煤塵の発生量が問題にならない程度に達したときの温度に基づき、現在の前記入口案内翼の開度を補正する必要性があると判断された場合に、前記燃焼器から排出される燃焼ガスの温度と前記燃空比に基づき、前記燃空比を増加させるように前記入口案内翼の開度を補正する手段を備えたことを特徴とするガスタービンの制御装置。
【請求項8】
請求項7記載の制御装置であって、
前記入口案内翼の開度を補正する手段として、現在の前記入口案内翼の開度を減少させることを特徴とするガスタービンの制御装置。
【請求項9】
請求項5記載のガスタービンの制御装置であって、
前記圧縮機の作動流体流量を補正する必要性を判定する手段として、
前記圧縮機には作動流体の一部を大気中へ導くための抽気管と抽気弁からなる抽気系統が設置されており、該抽気弁の開度を制御することを特徴とするガスタービンの制御装置。
【請求項10】
請求項5記載のガスタービンの制御装置であって、
前記圧縮機の作動流体流量を補正する必要性を判定する手段として、
前記圧縮機には作動流体の一部を抽気し、タービン翼を冷却するための冷却空気として使用する冷却空気配管が設置されており、該冷却空気配管に制御弁を設け、該制御弁の開度を制御することを特徴とするガスタービンの制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−205215(P2007−205215A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24048(P2006−24048)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】