説明

ガスバリア性シート、ガスバリア性シートの製造方法、封止体、及び装置

【課題】ガスバリア吸湿膜の分離がしにくく、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シート、このガスバリア性シートの製造方法、このガスバリア性シートを用いた封止体、及びこの封止体を用いた装置を提供する。
【解決手段】基材2と、基材2の上に設けられたガスバリア吸湿膜3とを有し、ガスバリア吸湿膜3が、基材2側から順番に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域A、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域B、及びアルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cより形成されるガスバリア性シート1Aを用いることにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性シート、このガスバリア性シートの製造方法、このガスバリア性シートを用いた封止体、及びこの封止体を用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Organic Electro−Luminescence)素子等のディスプレイの封止構造についての検討は従来から行われている。例えば、フレキシブルディスプレイや電子デバイスの実現のためには、水蒸気に対して高いガスバリア性能を持ったガスバリア性シートの開発が求められている。また、高いガスバリア性能を実現しても、封止材料や基材からの脱ガス(主に水蒸気)もあり、このガスを吸収する機能を有するガスバリア性シートの開発も求められている。
【0003】
特許文献1には、ポリアルキレンナフタレート樹脂基材フィルム上に少なくとも一層の無機ガスバリア層を有する水蒸気バリアフィルムにおいて、ポリアルキレンナフタレート樹脂のガラス転移点(Tg)を所定の範囲とし、所定の抵抗を有する導電性層を少なくとも一層有する水蒸気バリアフィルムが記載されている。そして、上記水蒸気バリアフィルムが少なくとも二層の無機ガスバリア層を有し、かつ無機ガスバリア層の間に少なくとも一層の2属金属一酸化物からなる吸湿性層を有する旨が記載されている。
【0004】
そして、無機ガスバリア層に含まれる成分は、特にSi、Al、Sn、Tiから選ばれる金属酸化物が好ましい、とのことである。また、吸湿性層は、2属金属一酸化物から構成される層を挙げることができ、コスト、高純度材料の入手性、実用性を考慮すると、Mg、Ca、Sr、Baが好適であり、吸湿能や安全性の観点からはCa、Srが好ましく、Srが最も好ましい、とのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−239883号公報(請求項1,7、第0017段落、第0021段落、第0027段落、第0113段落、第0114段落、及び第0131段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、上述のとおり、無機ガスバリア層と吸湿性層とをそれぞれ別の層としている。ここで、吸湿性層は、封止材料や基材からの脱ガス(主に水蒸気)を吸収して膨張する。このため、吸湿性層は無機ガスバリア層から剥がれやすくなるという課題がある。
【0007】
特許文献1においては、無機ガスバリア層や吸湿性層の脆性を向上させるために、無機ガスバリア層や吸湿性層に隣接するように隣接有機層を設けることができる旨が記載されている。そして、実施例では、吸湿性層に隣接してアクリル系の紫外線硬化性樹脂で構成される隣接有機層が設けられている。
【0008】
しかしながら、無機ガスバリア層(以下、単にガスバリア膜という。)と吸湿性層(以下、単に吸湿膜という。)との間に、ガスバリア性や吸湿性への寄与の少ない隣接有機層を設けることは、その技術的な意義が低いとともに、製造工程上も工程数が増えることになり生産効率やコストの面からも不利となりやすい課題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、ガスバリア膜と吸湿膜との分離がしにくく、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シートを提供することにある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第2の目的は、上記のガスバリア性シートの製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その第3の目的は、上記のガスバリア性シートを用いた封止体を提供することにある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、上記の封止体を用いた装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ガスバリア膜と吸湿膜との接着性を改善するために鋭意検討したところ、上記2層構造で設けるという発想を転換して、ガスバリア膜と吸湿膜との界面を存在させないようにこれら2つの膜を一体的に形成することにより、上記課題を解決できることを見出した。そして、こうしたガスバリア性シートを被封止物の封止に適用することにより、より高いガスバリア性を有する構造の封止体、装置が得られることを見出した。
【0014】
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性シートは、基材と、該基材の上に設けられたガスバリア吸湿膜とを有し、該ガスバリア吸湿膜が、前記基材側から順番に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域A、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域B、及びアルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cより形成されることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、ガスバリア性シートが、基材と、基材の上に設けられたガスバリア吸湿膜とを有し、ガスバリア吸湿膜が、基材側から順番に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域A、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域B、及びアルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cより形成されるので、ケイ素が含有されガスバリア性に主に寄与する領域Aと、アルカリ土類金属が含有され吸湿性に主に寄与する領域Cと、が領域Bにより界面を有することなく一体的に形成されることになり、その結果、ガスバリア吸湿膜が分離しにくくなり、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シートを提供することができる。
【0016】
本発明のガスバリア性シートの好ましい態様においては、前記基材と前記ガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設ける。
【0017】
この発明によれば、基材とガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設けるので、ガスバリア吸湿膜の平坦性が向上し、その結果、ガスバリア性シートのガスバリア性をより向上させやすくなる。
【0018】
本発明のガスバリア性シートの好ましい態様においては、基板上に配置された被封止物の少なくとも上面及び側面を封止するために前記ガスバリア性シートが用いられる場合に、前記ガスバリア吸湿膜が前記被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成されている。
【0019】
この発明によれば、基板上に配置された被封止物の少なくとも上面及び側面を封止するためにガスバリア性シートが用いられる場合に、ガスバリア吸湿膜が被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成されているので、ガスバリア吸湿膜の側面からの水蒸気の侵入が遮断されやすくなり、その結果、ガスバリア吸湿膜の利点を損なうことなく、より高いガスバリア性を有する構造のガスバリア性シートを提供することができる。
【0020】
本発明のガスバリア性シートの好ましい態様においては、前記ガスバリア吸湿膜の上にガスバリア膜を設ける。
【0021】
この発明によれば、ガスバリア吸湿膜の上にガスバリア膜を設けるので、ガスバリア性を発揮する2つの膜の積層となり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造のガスバリア性シートを提供することができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明のガスバリア性シートの製造方法は、基材上にガスバリア吸湿膜を有するガスバリア性シートの製造方法であって、前記ガスバリア吸湿膜を形成するガスバリア吸湿膜形成工程が、前記基材上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域Aを成膜する第1成膜工程と、前記領域A上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域Bを成膜する第2成膜工程と、前記領域B上に、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cを成膜する第3成膜工程と、を備えることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、ガスバリア吸湿膜を形成するガスバリア吸湿膜形成工程が、基材上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域Aを成膜する第1成膜工程と、領域A上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域Bを成膜する第2成膜工程と、領域B上に、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cを成膜する第3成膜工程と、を備えるので、ケイ素を多く含有する領域A、ケイ素とアルカリ土類金属との両方をバランスよく含有する領域B、及びアルカリ土類金属を多く含有する領域Cから形成されるガスバリア吸湿膜を工業的に生産することが可能となり、その結果、ガスバリア吸湿膜が分離しにくくなり、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シートの製造方法を提供することができる。
【0024】
本発明のガスバリア性シートの製造方法の好ましい態様においては、前記第1成膜工程、前記第2成膜工程、及び前記第3成膜工程が、スパッタリング法で行われる。
【0025】
この発明によれば、第1成膜工程、第2成膜工程、及び第3成膜工程が、スパッタリング法で行われるので、ガスバリア吸湿膜を工業的に一体的に成膜することが可能となり、その結果、ガスバリア吸湿膜をより良好に得やすくなる。
【0026】
本発明のガスバリア性シートの製造方法の好ましい態様においては、前記基材と前記ガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設ける平坦化膜形成工程を有する。
【0027】
この発明によれば、基材とガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設ける平坦化膜形成工程を有するので、ガスバリア吸湿膜の平坦性が向上し、その結果、ガスバリア性シートのガスバリア性をより向上させやすくなる。
【0028】
上記課題を解決するための本発明の封止体は、基板と、該基板上に配置された被封止物と、該被封止物上に配置された本発明の好ましい態様のガスバリア性シートと、を有する封止体であって、前記ガスバリア性シートのガスバリア吸湿膜が、前記被封止物の上面及び側面を被覆していることを特徴とする。
【0029】
この発明によれば、ガスバリア吸湿膜が被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成されたガスバリア性シートや、ガスバリア吸湿膜の上にガスバリア膜を設けたガスバリア性シート等の本発明の好ましい態様のガスバリア性シートを用い、ガスバリア性シートのガスバリア吸湿膜又はガスバリア膜が、被封止物の上面及び側面を被覆しているので、ガスバリア吸湿膜が分離しにくくなるとともに、被封止物内へ水蒸気や酸素等のガスが侵入しにくくなり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造の封止体を提供することができる。
【0030】
本発明の封止体の好ましい態様においては、前記ガスバリア性シートの基材と前記ガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜が設けられている。
【0031】
この発明によれば、ガスバリア性シートの基材とガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜が設けられているので、ガスバリア吸湿膜の平坦性が向上し、その結果、封止体のガスバリア性をより向上させやすくなる。
【0032】
本発明の封止体の好ましい態様においては、前記被封止物が、有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、又は太陽電池素子である。
【0033】
この発明によれば、被封止物が、有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、又は太陽電池素子であるので、高いガスバリア性を必要とする被封止物を採用することになり、その結果、本発明を適用する意義が大きくなる。
【0034】
上記課題を解決するための本発明の装置は、本発明の封止体を有することを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、本発明の装置が本発明の封止体を有するので、被封止物内に侵入する水蒸気や酸素等のガスが侵入しにくくなり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造の装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のガスバリア性シートによれば、ガスバリア吸湿膜が分離しにくく、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シートを提供することができる。
【0037】
本発明のガスバリア性シートの製造方法によれば、ガスバリア吸湿膜が分離しにくく、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シートの製造方法を提供することができる。
【0038】
本発明の封止体によれば、より高いガスバリア性を有する構造の封止体を提供することができる。
【0039】
本発明の装置によれば、より高いガスバリア性を有する構造の装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のガスバリア性シートの一例を示す模式的な断面図である。
【図2】ガスバリア吸湿膜の厚さ方向におけるケイ素とアルカリ土類金属との組成比の理想的な一例を示す模式的なグラフである。
【図3】本発明のガスバリア性シートの他の一例を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
【図6】ガスバリア吸湿膜の作製装置の一例を示す模式的な構成図である。
【図7】本発明の封止体の一例を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の封止体の他の一例を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の封止体の他の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0042】
(ガスバリア性シート)
図1は本発明のガスバリア性シートの一例を示す模式的な断面図である。
【0043】
ガスバリア性シート1Aは、基材2と、基材2の上に設けられたガスバリア吸湿膜3とを有し、ガスバリア吸湿膜3が、基材2側から順番に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域A、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域B、及びアルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cより形成される。これにより、ケイ素が含有されガスバリア性に主に寄与する領域Aと、アルカリ土類金属が含有され吸湿性に主に寄与する領域Cと、が領域Bにより界面を有することなく一体的に形成されることになり、その結果、ガスバリア吸湿膜3が分離しにくくなり、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シート1Aを提供することができる。
【0044】
ガスバリア性シート1Aのガスバリア吸湿膜3においては、主にガスバリア性に寄与するのが、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下であり、ケイ素がリッチな領域Aであり、主に吸湿性に寄与するのが、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となり、アルカリ土類金属がリッチな領域Cである。そして、中間に位置し、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域Bは、主に領域Aと領域Cとが分離しないように接着領域としての機能を有する。具体的には、領域Cは、アルカリ土類金属又はその化合物の作用によって水分を吸収して相対的に大きく体積膨張をする一方で、領域Aは、ケイ素又はその化合物がガスバリア機能を有する一方でアルカリ土類金属又はその化合物の含有量が少ないので、相対的に体積変化がしにくくなる。このため、領域Aと領域Cとは層分離がしやすくなる傾向に向かうところ、中間に位置する領域Bが領域Cほどではないにせよアルカリ土類金属(例えば、アルカリ土類金属の酸化物)を含有するので、一定の体積膨張を起こして領域Cの体積膨張に追従しつつも、この体積膨張は領域Cよりも少ないので領域Aとの接着性も確保することができる。このように、ガスバリア吸湿膜3内の組成を制御することにより、ガスバリア性、吸湿性、及び接着性の確保(分離性の抑制)が可能となる。以下、ガスバリア性シート1Aの各構成要素について説明する。
【0045】
基材2としては、各種の基材を用いることができ、主にはシート状やフィルム状、巻き取りロール状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることができる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよいし、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、シクロポリオレフィン(CPO)、ポリアリレート(PAR)、ポリプロピレン(PP)、及びポリアミド(PA)等のフレキシブル基板を用いてもよい。基材2が樹脂製である場合、高分子基材であれば特に制限はない。これらのうち、例えば、ディスプレイ用途では透明である程度の耐熱性が必要とされるので、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーポネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、透明ポリイミド(PI)、シクロポリオレフィン(CPO)、及びポリアリレート(PAR)を用いることが好ましい。基材2が樹脂製である場合、用いる樹脂としては上記例示した樹脂を適宜混合して用いてもよい。また、基材2が樹脂製である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
【0046】
こうした樹脂製の基材2としては、具体的には、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルム(例えば、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)やゼオノア(登録商標)、JSR株式会社のARTON等)、ポリカーボネートフィルム(例えば、帝人化成株式会社のピュアエース等)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(例えば、東洋紡績株式会社製のA4100、帝人化成株式会社製のもの等)、ポリエチレンナフタレートフィルム(例えば、帝人デュポンフィルム株式会社のテオネックス(登録商標)等)の市販品を挙げることができる。
【0047】
基材2の厚さは、可撓性及び形態保持性の観点から、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下とする。
【0048】
基材2を含むガスバリア性シート1Aを、例えば、有機ELディスプレイ素子等のディスプレイ装置の発光面や映像面側に設ける場合には、基材2は透明であることが好ましい。基材2とともにガスバリア吸湿膜3等の他の膜を透明とすることにより、ガスバリア性シート1Aを透明とすることが可能となる。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内での基材2の平均光透過度が80%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度は基材2の材質と厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
【0049】
基材2の表面は、所定の平滑性を有することが好ましい。具体的には、基材2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常0.3nm以上とする。この範囲とすれば、基材2に適度な表面粗さを付与することができ、基材2を巻き取りロールとした際に互いに接触する基材2同士の接触面に滑りが生じにくくなる。また、基材2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下とする。この範囲とすれば、基材2の平滑性が向上し、有機ELディスプレイ等の表示素子を作製する際に発生することのある短絡を抑制できる利点が発揮されやすくなる。なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)に従って測定すればよい。また、基材2の表面が上記のような算術平均粗さ(Ra)を有する場合においても、ガスバリア性と吸湿性とを兼ね備え、一定の厚さを有するガスバリア吸湿膜3で基材2の表面を十分に被覆できるので、ガスバリア性シート1Aのガスバリア性を確保しやすくなる。
【0050】
基材2は、熱に対して変形しにくいことが好ましい。ガスバリア性シート1Aが有機ELディスプレイ素子に適用される場合には、ヒートサイクル試験のような加熱・冷却のストレスに対してもガスバリア性シート1Aが変形しないことが求められるからである。具体的には、基材2の線膨張係数は、通常5ppm/℃以上、また、通常80ppm/℃以下、好ましくは50ppm/℃以下とする。線膨張係数の測定は、従来公知の方法を用いて行えばよく、例えばTMA法(熱機械分析法)を挙げることができる。TMA法に用いる測定装置としては、例えば、示差膨張方式熱機械分析装置であるリガク 製 CN8098F1を用いることができる。
【0051】
基材2として樹脂製のものを用いる場合には、その製造方法も従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。また、樹脂製の基材2を用いる場合には、延伸フィルムを用いてもよい。延伸の方法も従来公知の一般的な方法を用いればよい。延伸倍率は、基材2の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍とすることが好ましい。
【0052】
基材2の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、易接着処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。
【0053】
ガスバリア吸湿膜3は、基材2側から順番に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域A、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域B、及びアルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cより形成される。
【0054】
ガスバリア吸湿膜3の領域Aは、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる。ガスバリア性を最大限に確保するという見地からは、領域Aは、アルカリ土類金属を含有しないこと、すなわち原子数比でケイ素1に対してアルカリ土類金属は0となることが好ましい。もっとも、製造に用いる装置、製造条件、分析の条件、精度その他の要因により一定量のアルカリ土類金属が含有される場合があり、この場合には、原子数比でケイ素1に対してアルカリ土類金属が0.1以下となるように組成を制御すれば、ガスバリア性を確保することができる。
【0055】
ガスバリア吸湿膜3の領域Aに含有されるケイ素は、通常、ケイ素を含むガスバリア性を発揮できる材料を用いる。こうした材料としては特に制限はないが、例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素、及び酸窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。これにより、領域Aのガスバリア性をより高くしやすくなる。なお、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素の組成は、それぞれ化学量論比である必要はない。あくまでケイ素を酸化、窒化、酸窒化したものであり、その組成は化学量論比からずれていてもよい。例えば、有機ELディスプレイ素子においては、水蒸気透過率で10−6g/m/day程度のガスバリア性が求められる場合があるが、領域Aの材料に、窒化ケイ素、酸化ケイ素、及び酸窒化ケイ素のいずれを用いることにより、上記高度なガスバリア性を得やすくなる。
【0056】
ガスバリア吸湿膜3の領域Aに用いる、窒化ケイ素はSiNで表される組成であり、aは通常0.7以上、1.4以下とする。また、酸化ケイ素はSiOで表される組成であり、bは通常1.5以上、1.8以下とする。さらに、酸窒化ケイ素はSiNで表される組成であり、cは通常0.7以上、1.2以下、dは通常0.1以上、0.5以下とする。
【0057】
ガスバリア吸湿膜3の領域Aに含有されることのあるアルカリ土類金属は、特に制限はないが、通常、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の酸化物を用いる。アルカリ土類金属としては、好ましくは、Mg、Ca、Sr、及びBaを挙げることができるが、より好ましくはMg、Ca又はSrであり、さらに好ましくはCa又はSrである。また、アルカリ土類金属の酸化物として好ましくは、Mg酸化物、Ca酸化物、Sr酸化物、及びBa酸化物を挙げることができるが、より好ましくはMg酸化物、Ca酸化物又はSr酸化物であり、さらに好ましくはCa酸化物又はSr酸化物である。Ca、Sr、及びこれら元素の酸化物は、一度水分を吸収すると加熱しても当該水分が外に出てきにくく、水分の保持力が高いので、ガスバリア性フィルム1Aに用いるのに適している。この傾向は、Ca酸化物、Sr酸化物を用いた場合により顕著となる。これは、おそらく、Ca酸化物及びSr酸化物が水と吸着して水酸化物に変化するためではないかと推測される。
【0058】
ガスバリア吸湿膜3の領域Aには、上記例示した材料の他、不純物や添加剤を含有してもよい。例えば、成膜中に基材2を樹脂製とした場合における基材成分、又はその他の有機物である炭素が領域Aに含まれていてもよい。
【0059】
ガスバリア吸湿膜3の領域Aでは、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比は0.1以下となる。換言すると、ケイ素100原子%(at%)に対して、アルカリ土類金属の含有量は10原子%以下となる。この範囲とすれば、ガスバリア性を確保しやすくなる。
【0060】
ガスバリア吸湿膜3の領域Bは、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さくなる。領域Bは、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の酸化物と、酸化ケイ素、窒化ケイ素、又は酸窒化ケイ素と、の混合領域となる。こうした混合領域とすることにより、水分を吸着して体積膨張を起こす領域Cと領域Aとの分離・剥がれを抑制しやすくなる。
【0061】
ガスバリア吸湿膜3の領域Bに含有されるケイ素は、通常、ケイ素を含むガスバリア性を発揮できる材料を用いる。こうした材料としては、領域Aで説明したものと同様のものを用いればよい。また、領域Bに含有されるアルカリ土類金属は、特に制限はないが、通常、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の酸化物を用いる。こうした材料としては、領域Aで説明したものと同様のものを用いればよい。また、領域Aと同様に、領域Bには、上記例示した材料の他、不純物や添加剤を含有してもよい。
【0062】
ガスバリア吸湿膜3の領域Bでは、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比は、0.1より大きく10より小さくなる。換言すると、ケイ素100原子%(at%)に対して、アルカリ土類金属の含有量を、10原子%より大きく1000原子%よりも小さくする。これを、アルカリ土類金属を基準とすると、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比は、10より小さく0.1より大きくなる。同様に、アルカリ土類金属を基準とすると、アルカリ土類金属100原子%に対して、ケイ素の含有量を、1000原子%より小さく10原子%大きくする。上記範囲とすれば、領域Aと領域Cとの分離・剥がれをより良好に抑制しやすくなる。
【0063】
ガスバリア吸湿膜3の領域Cは、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下とする。吸湿性を最大限に確保するという見地からは、領域Cは、ケイ素を含有しないこと、すなわち原子数比でアルカリ土類金属1に対してケイ素は0となることが好ましい。もっとも、製造に用いる装置、製造条件、分析の条件、精度その他の要因により一定量のケイ素が含有される場合があり、この場合には、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となるように組成を制御すれば、吸湿性を確保することができる。
【0064】
ガスバリア吸湿膜3の領域Cに含有されることのあるケイ素は、通常、ケイ素を含むガスバリア性を発揮できる材料を用いる。こうした材料としては、領域Aで説明したものと同様のものを用いればよい。また、領域Cに含有されるアルカリ土類金属は、特に制限はないが、通常、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の酸化物を用いる。こうした材料としては、領域Aで説明したものと同様のものを用いればよい。また、領域Aと同様に、領域Cには、上記例示した材料の他、不純物や添加剤を含有してもよい。
【0065】
ガスバリア吸湿膜3の領域Cでは、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比を0.1以下とする。換言すると、アルカリ土類金属100原子%(at%)に対して、ケイ素の含有量を10原子%以下とする。この範囲とすれば、吸湿性を確保しやすくなる。
【0066】
ガスバリア吸湿膜3の厚さは、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、また、通常20μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下とする。上記範囲とすれば、ガスバリア性を確保しつつ、透明性が高く、クラックが入りにくくするとともに生産性を高くしやすくなる。
【0067】
ガスバリア吸湿膜3における領域A、領域B、及び領域Cの厚さの比は、領域Aの厚さを1とした場合に、通常、領域Aの厚さ:領域Bの厚さ:領域Cの厚さ=1:0.01〜10:0.1〜1000とし、好ましくは、領域Aの厚さ:領域Bの厚さ:領域Cの厚さ=1:0.1〜1.5:0.7〜1000とする。この範囲とすれば、領域Aのガスバリア性を確保しつつ、領域Cでの吸湿性を確保でき、さらに、領域Bが接着領域としての機能を果たしやすくなる。
【0068】
ガスバリア吸湿膜3における領域Bの厚さの下限は、ガスバリア吸湿膜3の厚さを1とし、領域Aの基材2側の端部(下面35)を0、反対側の領域Cの端部(上面36)を1とした場合に、通常0.25以上の領域、好ましくは0.3以上の領域、より好ましくは0.35以上の領域、さらに好ましくは0.4以上の領域に形成される。また、領域Bの厚さの上限は、通常0.85以下の領域、好ましくは0.7以下の領域、より好ましくは0.65以下の領域、さらに好ましくは0.6以下の領域に形成される。領域Bは、ガスバリア吸湿膜3に所望されるガスバリア性及び吸水性の程度を考慮して、適宜その形成領域や位置を制御すればよい。
【0069】
ガスバリア吸湿膜3の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常、1nm以上、10nm以下とする。この範囲とすれば、水の吸着の作用が発揮されやすくなる。算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)に従って測定すればよい。
【0070】
ガスバリア吸湿膜3における、領域A、領域B、及び領域Cの組成の分析は、例えば、ケイ素、アルカリ土類金属、炭素、窒素、及び酸素の組成比を分析することによって求めることができる。具体的には、Si、アルカリ土類金属、C、N、Oの原子数比を求めることにより確認することができる。こうした原子数比を求める方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、XPS(X線光電子分析装置)等の分析装置で得られた結果で評価できる。本発明においては、XPSの測定は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL)により測定している。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用している。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行っている。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、アルカリ土類金属(Mg:2p、Ca:2p、Sr:3d、Ba:3d)、C:1s、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行っている。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させる。そして、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、アルカリ土類金属(Mg=0.36、Ca=5.07、Sr=5.05、Ba=43.76)、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めている。得られた原子数比について、Siの原子数を1とし、他の成分であるアルカリ土類金属、C,N,Oの原子数を算出して成分割合としている。但し、Mgを含むガスバリア吸湿膜3を測定する場合は、X線源のMgKα線を検出する場合があるので、X線源としてAlKα線を用いるのが好ましい。このように、アルカリ土類金属は、X線源としてAlKα線を用いた場合の値とする。
【0071】
ガスバリア吸湿膜3において、領域Aの基材2側の端面(下面35)から領域Cの端面(上面36)までの単位厚さあたりの組成比(例えばケイ素とアルカリ土類金属)の変化は、ガスバリア吸湿膜3の厚さ(深さ)方向の組成比の分析を行うことによって見積もることができる。こうした方法としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、ガスバリア吸湿膜3の上面36にスパッタリングを施してガスバリア吸湿膜3を徐々に削っていき、削りながら経時的に削り出されたガスバリア吸湿膜3の表面の組成を上記XPS等によって測定することによって行うことができる。より具体的には、XPSにて深さ方向の分析を行えばよい。測定試料の表面を極薄に削るイオン銃としては、一般には電子衝撃型が用いられる。こうしたイオン銃を用いる場合、フィラメントから発生した熱電子をアルゴン気体中(0.01〜0.001Paレベル)に導入することによってアルゴンをイオン化し、これを数keVに加速して試料表面に照射する。この衝撃によって、試料の表面はエッチングされることになるので、所定時間後にイオン銃を停止する。その後、X線を照射し、X線により励起された薄膜中の光電子を光電子倍増管にて検出する(通常のXPS分析を行う)。なお、分光器には同心静電型分析器や円筒鏡型分析器が用いられる。イオン銃の照射と削り出された表面のXPS分析を繰り返すという工程を繰り返すことで、深さ方向の分析が可能となる。ここで、イオン銃の照射やXPS分析の条件は、エッチング時間が60秒、エッチング前後の待機時間が20秒とすればよい。そして、測定試料の定量分析及びエッチングの繰り返し回数は、ガスバリア吸湿膜3の組成及び膜厚に依存するために、適宜、最適値を選択すればよい。
【0072】
図2は、ガスバリア吸湿膜の厚さ方向におけるケイ素とアルカリ土類金属との組成比の理想的な一例を示す模式的なグラフである。図2の縦軸は、Si及びアルカリ土類金属の量比の相対的な値を示している。図2に示すように、ガスバリア吸湿膜3中のケイ素とアルカリ土類金属との分布に着目した場合に、領域Aの基材2側の端面(下面35)から領域Bまでは、原子数比でケイ素を1としたときに、アルカリ土類金属は0.1以下検出される。次いで、領域B中では、上面36に向かうにつれ、徐々にケイ素の含有量が減少する一方でアルカリ土類金属の含有量が増加する。そして、領域C中では、原子数比でアルカリ土類金属を1としたときに、ケイ素は0.1以下検出される。こうしたガスバリア吸湿膜3の組成分布が理想的である。
【0073】
図3は、本発明のガスバリア性シートの他の一例を示す模式的な断面図である。ガスバリア性シート1Bは、基材2の上に平坦化膜15が設けられ、平坦化膜15の上にガスバリア吸湿膜3が設けられている。これにより、ガスバリア吸湿膜3の平坦性が向上し、その結果、ガスバリア性シート1Bのガスバリア性をより向上させやすくなる。また、平坦化膜15により、応力緩和の機能を付与することもできる。
【0074】
ガスバリア性シート1Bは、基材2とガスバリア吸湿膜3との間に平坦化膜15を設けること以外は、ガスバリア性シート1Aと同様の構成を採用している。そこで、説明の重複を避けるため、以下では相違点である平坦化膜15についてのみ説明する。
【0075】
平坦化膜15に用いる材料としては、所定の平坦性を得ることができるものであれば特に制限はなく、例えば、アクリレートを含む高分子化合物(アクリル樹脂)を挙げることができる。より具体的には、例えば、スチレン、フェノール、エポキシ、ニトリル、アクリル、アミン、エチレンイミン、エステル、シリコーン、アルキルチタネート化合物、イオン高分子錯体等、光硬化あるいは熱硬化性の樹脂を用いることができる。また、平坦化膜15の材料としては、高分子化合物と金属アルコキシドの加水分解生成物の混合物等を含む、高分子化合物を適宜使用することもできる。
【0076】
平坦化膜15の厚さは、通常10nm以上、好ましくは100nm以上、また、通常50μm以下、好ましくは20μm以下とする。この範囲とすれば、所望の平坦性と応力緩和の機能が付与されやすくなる。
【0077】
図4は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。ガスバリア性シート1C,1C’は、基材2の上にガスバリア吸湿膜3が図4には図示しない被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成されている。これにより、ガスバリア吸湿膜3の側面からの水蒸気の侵入が遮断されやすくなり、その結果、ガスバリア吸湿膜3の利点を損なうことなく、より高いガスバリア性を有する構造のガスバリア性シート1Cを提供することができる。
【0078】
ガスバリア性シート1Cは、図4(a)には図示しない基板上に配置された被封止物の少なくとも上面及び側面を封止するために用いられ、ガスバリア吸湿膜3が被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成されていること以外は、ガスバリア性シート1Aと同様の構成を採用している。また、図4(b)に示すガスバリア性シート1C’は、ガスバリア性シート1Cにおいてガスバリア吸湿膜3と基材2との間に平坦化膜15を設けたものである。そして、ガスバリア性シート1Aや平坦化層15についてはすでに説明したとおりであり、ガスバリア吸湿膜3を被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成する意義や、ガスバリア吸湿膜3の側面からの水蒸気の侵入の遮断についての詳細は後述する。そこで、説明の重複を避けるためにここではこれ以上の説明は控える。
【0079】
図5は、本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。ガスバリア性シート1Dは、基材2の上にガスバリア吸湿膜3が全面に設けられ、ガスバリア吸湿膜3の上にガスバリア膜4が全面に設けられている。これにより、ガスバリア性を発揮する2つの膜の積層となり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造のガスバリア性シート1Dを提供することができる。
【0080】
ガスバリア性シート1Dは、ガスバリア吸湿膜3の上にガスバリア膜4を設けること以外は、ガスバリア性シート1Aと同様の構成を採用している。そこで、説明の重複を避けるため、以下では相違点であるガスバリア膜4についてのみ説明する。
【0081】
ガスバリア膜4は、特に制限はないが、ガスバリア吸湿膜3に含有されるケイ素又はその化合物と同様の材料で形成すればよい。すなわち、ガスバリア膜4は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、及び酸窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。これにより、ガスバリア膜4のガスバリア性をより高くしやすくなる。窒化ケイ素、酸化ケイ素、及び酸窒化ケイ素が化学量論比である必要はないこと、それぞれの組成比、及び不純物を含有してもよい点等についてはガスバリア吸湿膜3で説明したものと同様とすればよい。
【0082】
ガスバリア膜4の厚さは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは150nm以下とする。上記範囲とすれば、ガスバリア性を確保しつつ、透明性が高く、クラックが入りにくくするとともに生産性を高くしやすくなる。
【0083】
ガスバリア膜4の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常、5nm以上、1000nm以下とする。この範囲とすれば、水の表面吸着の作用が発揮されやすくなる。算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)に従って測定すればよい。
【0084】
ガスバリア性シート1Dは、ガスバリア性シート1Aにさらにガスバリア膜4を設けたものであるが、ガスバリア膜4を用いたガスバリア性シートはこうした態様に限られるものではない。例えば、ガスバリア性シート1B,1Cのガスバリア吸湿膜の上にもガスバリア膜を設けてもよい。ガスバリア性シート1Cの場合は、ガスバリア吸湿膜3と、このガスバリア吸湿膜の周囲の基材2の表面をガスバリア膜が覆うことになる。
【0085】
以上、本発明のガスバリア性シートについて説明したが、ガスバリア性シートの層構成は、上記例示に限られるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々のバリエーションを採用することができる。例えば、ガスバリア性シートの少なくとも片面にハードコート膜を設けることもできる。ハードコート膜は、通常、基材において、ガスバリア膜が設けられた側とは反対側の面に設けられる。また、基材とガスバリア膜との間にアンカーコート剤膜を設けてもよい。この他、必要に応じて、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、及びカラーフィルタを適宜用いることもできる。こうした、ハードコート膜、平滑化膜、アンカーコート剤膜、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、及びカラーフィルタ等の各層は、特に説明したもの以外は従来公知のものを適宜用いればよい。こうした層は、いずれもハードコート膜の表面に形成されることが多いが、反射防止機能や視野角制御機能をハードコート膜に付随することもできる。これらのうち、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、カラーフィルタは、光学粘着剤を介して本発明のガスバリア性シートと貼り合わせることで、所望の機能を得てもよい。
【0086】
(ガスバリア性シートの製造方法)
本発明のガスバリア性シートの製造方法は、基材上にガスバリア吸湿膜を有するガスバリア性シートの製造方法であって、ガスバリア吸湿膜を形成するガスバリア吸湿膜形成工程が、基材上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域Aを成膜する第1成膜工程と、領域A上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域Bを成膜する第2成膜工程と、領域B上に、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cを成膜する第3成膜工程と、を備える。これにより、ケイ素を多く含有する領域A、ケイ素とアルカリ土類金属との両方をバランスよく含有する領域B、及びアルカリ土類金属を多く含有する領域Cから形成されるガスバリア吸湿膜を工業的に生産することが可能となり、その結果、ガスバリア吸湿膜が分離しにくくなり、生産効率やコスト面からも有利な構造のガスバリア性シートの製造方法を提供することができる。
【0087】
ガスバリア吸湿膜形成工程では、基材上にガスバリア吸湿膜を形成する。基材の材料や製法等、またガスバリア吸湿膜に用いる材料についてはガスバリア性シートで説明したとおりであるので、重複を避けるためここでの説明は省略する。
【0088】
ガスバリア吸湿膜形成工程におけるガスバリア吸湿膜の形成方法は、特に制限はないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、Cat−CVD法、プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法等を用いればよい。こうした形成方法は、成膜材料の種類、成膜のしやすさ、工程効率等を考慮して選択すればよい。これら形成方法のうち好ましくはスパッタリング法を用いる。すなわち、ガスバリア吸湿膜形成工程を構成する、第1成膜工程、第2成膜工程、及び第3成膜工程が、スパッタリング法で行われることが好ましい。これにより、ガスバリア吸湿膜を工業的に一体的に成膜することが可能となり、その結果、ガスバリア吸湿膜をより良好に得やすくなる。より好ましくは、第1成膜工程、第2成膜工程、及び第3成膜工程が、スパッタリング法で連続的に行われる。これにより、工業生産性をより向上させやすくなる。
【0089】
スパッタリング法は、真空チャンバー内にターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴン)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、基材に付着させ、ガスバリア吸湿膜を得る方法である。このとき、チャンバー内に窒素ガスや酸素ガスを流すことにより、アルゴンガスによってターゲットからはじき出された元素と、窒素や酸素とを反応させてガスバリア吸湿膜を形成する、反応性スパッタリング法を用いてもよい。スパッタリング法としては、例えば、DC2極スパッタリング、RF2極スパッタリング、3極・4極スパッタリング、ECRスパッタリング、イオンビームスパッタリング、及びマグネトロンスパッタリング等を挙げることができるが、工業的にはマグネトロンスパッタリングを用いることが好ましい。
【0090】
図6は、ガスバリア吸湿膜の作製装置の一例を示す模式的な構成図である。ガスバリア吸湿膜の作製装置40は、ガスバリア吸湿膜形成工程を構成する、第1成膜工程、第2成膜工程、及び第3成膜工程を、スパッタリング法で行うための作製装置である。具体的には、作製装置40は、長尺の基材フィルム41の移動方向にケイ素を含有する第1の成膜用ターゲット42Aと、アルカリ土類金属を含有する第2の成膜用ターゲット42Bと、を近づけて並列に設置し、成膜用ターゲット42Aと成膜用ターゲット42Bとからはじき出されるそれぞれ原子が一部重複して堆積する領域ができるようになっている。
【0091】
作製装置40は、基材フィルム42を供給する供給装置43と、ガスバリア吸湿膜3を形成した後の基材フィルム41’を巻き取る巻取装置44と、供給装置43と巻取装置44との間に設けられてガスバリア吸湿膜3を形成する成膜装置45とを有している。
【0092】
供給装置43は、長尺の基材フィルム41を供給する装置であり、例えば芯材46上に巻かれたロール状フィルム47を両側から回転可能に保持するクランプ部材(図示しない)等を有している。この供給装置43は、一定の速度で基材フィルム41を送り出すことができるように制御可能な駆動モータ(図示しない)を備えている。駆動モータによる送り出しの制御は、例えば、いずれかのガイドローラ48に設けられたロータリーエンコーダ(図示しない)の回転信号を受信して行うことができる。また、この供給装置43から送り出された基材フィルム41を成膜室(成膜装置45)に一定の張力下で安定して供給するために、供給装置43と成膜装置45との間のガイドローラ48が設けられている領域に、張力調製のためのダンパー(図示しない)を設けてもよい。
【0093】
巻取装置44は、基材フィルム41上にガスバリア吸湿膜を作製したもの(基材フィルム41’ともいう。)を芯材46上に巻き取る装置である。この巻取装置44も上記の供給装置43と同様、一定の速度で基材フィルム41’を巻き取ることができるように制御可能な駆動モータ(図示しない)を備えている。駆動モータによる巻き取り制御は、例えば、いずれかのガイドローラ48に設けられたロータリーエンコーダ(図示しない)の回転信号を受信して行うことができる。また、基材フィルム41’を一定の張力下で安定して巻き取るために、巻取装置44には可変可能なトルク装置を設けることが好ましい。
【0094】
供給装置43と巻取装置44が配置される領域には、1又は2以上の排気ポンプ90が圧力調整バルブ91を介して接続され、内部の圧力を調整している。なお、供給装置43と仕切板92との間で、成膜前の基材フィルム41を脱ガスしてもよく、例えば加熱ロール(図示しない)を設置してもよい。また、同様に、基材フィルム41を表面処理してガスバリア膜との密着を高める等の目的のため、プラズマ処理装置による表面処理を行ってもよい。
【0095】
成膜装置45は、成膜用ターゲット42A,42Bを有し、酸素及び/又は窒素等を含んだ組成の異なるガスを供給することが可能な供給配管49A,49Bが設けられている。具体的には、成膜装置45は、1つのドラム50の外周面上に2つの成膜用ターゲット42A,42Bを回転方向に近づけて並列に配置した装置であり、全体としてチャンバー51内に収容されている。チャンバー51には内部を減圧するための排気ポンプ90が圧力調整バルブ91を介して接続されている。また、成膜用ターゲット42A,42B毎に、成膜用電源52が接続されている。以上の構成により、ドラム50上を搬送される基材フィルム41上へのスパッタリング成膜が可能となる。
【0096】
成膜装置45においては、上述のとおり、成膜用ターゲット42Aがケイ素を含有する材料で構成されており、成膜用ターゲット42Bがアルカリ土類金属を含有する材料で構成されている。そして、成膜用ターゲット42Aと成膜用ターゲット43Bとを近づけて並列に配置することにより、スパッタリング成膜により、成膜用ターゲット42Aからはじき出されるケイ素を含む材料と、成膜用ターゲット42Bからはじき出されるアルカリ土類金属を含む材料とが重複して堆積される領域が作り出されるようになっている。
【0097】
成膜装置45において以上の構成を採用することにより、ガスバリア吸湿膜形成工程の第1成膜工程、第2成膜工程、及び第3成膜工程の実現が可能となる。すなわち、成膜用ターゲット42Aからケイ素を含有する材料がはじき出されて基材フィルム41上に成膜されることにより、ガスバリア吸湿膜の領域Aが形成される。このとき、製造条件によっては、成膜用ターゲット42Bからはじき出されたアルカリ土類金属を含む材料が領域Aに含有されることがある。以上が第1成膜工程である。次に、成膜用ターゲット42Aからはじき出されるケイ素を含む材料と、成膜用ターゲット42Bとからはじき出されるアルカリ土類金属を含む材料とを同時に堆積させて成膜することにより、ガスバリア吸湿膜の領域Bが形成される。これが第2成膜工程にあたる。最後に、成膜用ターゲット42Bからアルカリ土類金属を含む材料がはじき出されて基材フィルム41上に成膜されることにより、ガスバリア吸湿膜の領域Cが形成される。このとき、製造条件によっては、成膜用ターゲット42Aからはじき出されたケイ素を含有する材料が領域Cに含有されることがある。以上が第3成膜工程である。
【0098】
なお、成膜装置40は、成膜用電源52と成膜用ターゲット42A,42Bとを設けているので、スパッタリング法による成膜装置となっているが、特に制限はなく、イオンプレーティング成膜装置、イオンビームアシスト成膜装置、クラスターイオンビーム成膜装置、プラズマCVD成膜装置、プラズマ重合成膜装置、熱CVD成膜装置、触媒反応型CVD成膜装置等に適宜改良することもできる。なお、プラズマの種類は特に限定なく、CCPプラズマ、ICPプラズマ、マイクロ波プラズマ、リモートプラズマ、等各種のプラズマを使用できる。また、成膜装置40のドラム50には、基材フィルム41を加熱又は冷却するための温度制御手段が付加されていてもよい。
【0099】
本発明のガスバリア性シートの製造方法においては、基材とガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設ける平坦化膜形成工程をさらに設けることが好ましい。これにより、ガスバリア吸湿膜の平坦性が向上し、その結果、ガスバリア性シートのガスバリア性をより向上させやすくなる。
【0100】
平坦化膜に用いる材料については、ガスバリア性シートで説明したとおりであるので、重複を避けるためここでの説明は省略する。
【0101】
平坦化膜の形成方法は、用いる材料によって適宜選択すればよい。例えば、アクリレートを含む高分子化合物(アクリル樹脂)のような硬化性樹脂で平坦化膜を形成する場合には、液体状の硬化性樹脂の材料等に必要に応じて所定の溶媒や添加剤を配合し、これを、例えば基材上に塗布・硬化させることによって得ることができる。塗布の方法は、例えば、グラビア印刷法、グラビアリバース法、ダイコート法、3本ロール法、コンマコート法、及びスライドコート法等を適宜用いればよい。また、硬化の方法は、熱硬化、光硬化の方法を適宜用いることができる。
【0102】
(封止体)
図7は、本発明の封止体の一例を示す模式的な断面図である。
【0103】
封止体10Aは、基板7と、基板7上に配置された被封止物5と、被封止物5上に配置された、ガスバリア性シート1Cと、を有し、ガスバリア性シート1Cのガスバリア吸湿膜3が、被封止物5の上面及び側面を被覆している。これにより、ガスバリア吸湿膜3が分離しにくくなるとともに、被封止物5内へ水蒸気や酸素等のガスが侵入しにくくなり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造の封止体10Aを提供することができる。
【0104】
封止体10Aにおける、ガスバリア吸湿膜3の側面から侵入する水蒸気の遮断のメカニズムについてより詳しく説明する。水蒸気は、図7の矢印に示すように、基板7とガスバリア性シート1Cとが接触する界面に存在する接着剤膜6から、水蒸気を積極的に吸着する領域Cを有するガスバリア吸湿膜3へと侵入しようとする。しかしながら、接着剤膜6は薄く形成され、また後述するように、アルカリ土類金属やアルカリ土類金属の酸化物の粒子等の吸湿材料が含まれていないので、相対的に水蒸気が侵入しにくくなっている。このため、水蒸気が接着剤膜6でブロックされる結果、ガスバリア吸湿膜3の側面からの水蒸気の侵入が相対的に阻止されやすくなるとともに、ガスバリア吸湿膜3は、基材2を通過して被封止物5に侵入しようとする水蒸気を主に吸着することができるようになる。
【0105】
封止体10Aを構成する各要素につき以下に説明する。
【0106】
基板7は、被封止物5を支持しつつ、所定のガスバリア性を有すればよく、特に制限はない。こうした基板7としては、例えば、ガラス基板、ガスバリア性シート等を挙げることができる。ガスバリア性シートを用いる場合には、本発明において用いるガスバリア性シートを適宜用いてもよいし、通常のガスバリア性シートを用いてもよい。なお、ガスバリア吸湿膜が所定の大きさに形成されたガスバリア性シートを用いる場合には、ガスバリア吸湿膜の大きさを被封止物5の下面の大きさと同程度とすればよい。こうすることで、基板7においてもガスバリア吸湿膜の側面からの水蒸気の侵入が抑制されてガスバリア性をより確保しやすくなる。
【0107】
基板7は、陽極11を透明電極としてその上に形成する場合には、透明であることが好ましい。具体的には、例えば可視光の範囲内での基板7の全光線透過度が80%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。
【0108】
基板7の厚さは、通常25μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下とする。この範囲とすれば、被封止物5を支持できる程度の機械的強度を保持することができる。
【0109】
被封止物5は、有機ELディスプレイ素子である。被封止物5を有機ELディスプレイ素子とすると、高いガスバリア性を必要とする被封止物5を採用することになり、その結果本発明を適用する意義が大きくなる。但し、被封止物5は、有機ELディスプレイ素子に限られない。すなわち、高いガスバリア性を必要とするものであれば特に制限はなく、被封止物として液晶ディスプレイ素子や太陽電池素子を用いることも好ましい。液晶ディスプレイ素子や太陽電池素子も高いガスバリア性を必要とする被封止物となるので、本発明のガスバリア性シートを適用する意義が大きくなる。
【0110】
被封止物5は、有機ELディスプレイ素子の通常の構成を有し、陽極11、正孔輸送層12、発光層13、及び陰極14からなる。こうした各層の構成は従来公知のものを適宜用いればよい。
【0111】
陽極11は、正孔輸送層12に正孔を供給する電極としての機能を有していればよい。このため、陽極11の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、有機ELディスプレイ素子の用途、目的に応じて、従来公知の材料を適宜用いればよい。ディスプレイの視認性のために、陽極11を透明電極とすることが多いので、陽極11の材料としては、通常ITO又はIZOが使用される。陽極11は、上記の材料を、スパッタリング法等により基板7上の所定位置に成膜することによって形成することができる。また、必要に応じて、エッチングによるパターニングを行ってもよい。陽極11の厚さは、透明性と導電性とを兼ね備えるために、薄膜の光学干渉を考慮して、通常140nm以上、160nm以下とする。
【0112】
正孔輸送層12は、陽極11から正孔を受け取り発光層13へと輸送する機能を有する。こうした正孔輸送層12は、従来公知の正孔輸送機能を有する材料を含有させればよい。こうした材料としては、例えば、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体等の各種の誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、有機シラン誘導体、カーボン等を挙げることができる。これら材料のうち、工業的な点から好ましいのは、フェニレンジアミン誘導体であり、より具体的には、α−ナフチルフェニルジアミン(α−NPD)である。こうした正孔輸送層12は、例えば、真空蒸着法等の従来公知の製法により陽極11上に成膜することによって形成することができる。正孔輸送層12の厚さは、通常1nm以上、100nm以下とする。
【0113】
発光層13は、電界印加時に、陽極11及び正孔輸送層12から正孔を受け取り、陰極14から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する。発光層13は、従来公知の材料から構成することができる。例えば、発光層13は、発光材料のみで構成されていてもよく、発光材料とホスト材料との混合層とした構成でもよい。発光材料は蛍光発光材料でも燐光発光材料でもよいが、ホスト材料は電荷輸送材料であることが好ましい。ホスト材料は1種であっても2種以上であってもよく、2種類以上用いる場合は、例えば、電子輸送性のホスト材料とホール輸送性のホスト材料を混合した構成が挙げることができる。さらに、発光層13中に電荷輸送性を有さず、発光しない材料を含んでいてもよい。また、発光層13は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0114】
発光材料に用いる蛍光発光材料としては、例えば、ベンゾオキサゾール誘導体等の各種の誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体やピロメテン誘導体の金属錯体に代表される各種金属錯体等、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン誘導体などの化合物等が挙げられる。これら材料のうち、工業的な点から好ましいのは、8−キノリノール誘導体の金属錯体であり、より具体的には、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)である。
【0115】
発光材料に用いる燐光発光材料は、例えば、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体が挙げられる。また、ホスト材料としては、例えば、カルバゾール骨格を有するもの、ジアリールアミン骨格を有するもの、ピリジン骨格を有するもの、ピラジン骨格を有するもの、トリアジン骨格を有するもの及びアリールシラン骨格を有するもの等を挙げることができる。
【0116】
発光層13は、例えば、真空蒸着法等により正孔輸送層12上に成膜することによって形成することができる。発光層13の厚さは、通常1nm以上、100nm以下とする。
【0117】
陰極14は、発光層13に電子を注入する電極としての機能を有していればよい。このため、陰極14の形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、有機ELディスプレイ素子の用途、目的に応じて、公知の材料を適宜用いればよい。
【0118】
陰極14は、通常金属電極として用いられる。こうした陰極14を構成する材料としては、例えば、金属、合金等を挙げることができる。より具体的には、MgやCa等の第2族元素の金属、金、銀、鉛、アルミニウム、インジウム、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、イッテルビウム等の希土類金属等を挙げることができる。これら材料のうち、アルミニウムを用いることが好ましい。また、安定性や電子注入性を考慮して、上記の材料を2種類以上併用して用いてもよく、この場合、好ましくはカルシウム及び銀を用いる。
【0119】
陰極14の厚さは、陰極14を構成する材料により適宜選択することができ、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、また、通常5μm以下、好ましくは1μm以下とする。陰極14は、透明でも不透明であってもよいが、陰極14を透明とする場合、厚さを1nm以上10nm以下と薄くするか、ITOやIZO等の透明な導電性材料を用いればよい。陰極14は、真空蒸着法等を用いて発光層13上に成膜することによって形成することができる。
【0120】
被封止物5の有機ELディスプレイ素子には、以上説明した各層の他、有機ELディスプレイ素子に求められる機能により、さらに他の層を付加することもできる。こうした層としては、例えば、電子輸送層、電荷ブロック層、及び電子注入層を挙げることができる。さらに、有機ELディスプレイ素子上に封止膜を設けてもよい。封止膜としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び酸窒化ケイ素等の無機薄膜を用いることが好ましく、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素の無機薄膜を用いることがより好ましい。これは、ガラスや金属を用いるよりも、軽量で安価に封止することが可能となるからである。
【0121】
ガスバリア性シート1Cは、基板7上に配置された被封止物5の少なくとも上面及び側面を封止するために用いられ、ガスバリア吸湿膜3が被封止物5の上面及び側面を被覆する大きさに形成されているものである。より具体的には、ガスバリア吸湿膜3が被封止物5の上面及び側面を覆うようにして、ガスバリア性シート1Cが被封止物5を封止している。こうしたガスバリア性シート1Cについては既に説明したとおりであるので、説明の重複を避けるためにここでの説明は省略する。
【0122】
接着剤膜6は、ガスバリア性シート1Cと、被封止物5周辺の基板7表面とを接着するために用いられるものである。より詳しくは、接着剤膜6は、ガスバリア性シート1Cのガスバリア吸湿膜3が形成されていない領域と、基材7とを接着するために用いられるものであればよく、特に制限はない。こうした接着剤膜6に用いる材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、瞬間接着剤等を挙げることができる。より具体的には、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、及びポリエステル樹脂等を挙げることができる。これら材料のうち、透湿度が低く、耐熱性が良好となる観点から、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びアクリロニトリル樹脂を用いることが好ましい。
【0123】
接着剤膜6は、通常、所定の粘度を有する接着剤をスピンコート法、ダイコート法等で、基板7の表面のうち、被封止物5の周辺に塗布した後、ガスバリア性シート1Aを被覆して、硬化させることによって形成できる。接着剤膜6の厚さは、通常100nm以上、また、通常1μm以下、好ましくは500nm以下とする。
【0124】
図8は、本発明の封止体の他の一例を示す模式的な断面図である。
【0125】
封止体10Bは、基板7と、基板7上に配置された被封止物5と、被封止物5上に配置された、ガスバリア性シート1Dと、を有し、ガスバリア性シート1Dのガスバリア吸湿膜3が、被封止物5の上面及び側面を被覆している。これにより、ガスバリア吸湿膜3が分離しにくくなるとともに、被封止物5内へ水蒸気や酸素等のガスが侵入しにくくなり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造の封止体10Bを提供することができる。
【0126】
封止体10Bは、封止体10Aにおいてガスバリア性シート1Cの代わりにガスバリア性シート1Dを用いたものである。すなわち、封止体10Bにおいては、ガスバリア吸湿膜3の上にガスバリア膜4が設けられたガスバリア性シート1Dを用いている。ここで、基材2の上にガスバリア吸湿膜3が全面に設けられ、ガスバリア吸湿膜3の上にガスバリア膜4が全面に設けられたガスバリア性シート1Dを用いる場合は、水蒸気や酸素がガスバリア吸湿膜3の側面から侵入して、領域Cの体積が膨張する傾向が強くなる。しかしながら、領域Bの追従によって領域Cと領域Aとの分離が抑制されるとともに、ガスバリア吸湿膜3上の全面にガスバリア膜4が設けられているので、被封止物5にも水蒸気が侵入しにくくなっている。
【0127】
なお、封止体10Bでは、ガスバリア性シートとして、ガスバリア性シート1Aにガスバリア膜4を付与したガスバリア性シート1Dを用いている。しかし、ガスバリア性シートはこうした態様に限られるものではなく、例えば、ガスバリア性シート1B,1Cのガスバリア吸湿膜3の上にガスバリア膜を設けたものを用いてもよい。例えば、ガスバリア性シート1Cにガスバリア膜を付与したガスバリア性シートを用いる場合には、ガスバリア吸湿膜3と、このガスバリア吸湿膜3の周囲の基材2の表面をガスバリア膜が覆うことになる。
【0128】
封止体10Bを構成する各要素や、ガスバリア性シート1Dについてはすでに説明したとおりであるから、説明の重複を避けるため、ここでの説明は省略する。
【0129】
図9は、本発明の封止体の他の一例を示す模式的な断面図である。
【0130】
封止体10Cは、基板7と、基板7上に配置された被封止物5と、被封止物5上に配置された、ガスバリア性シート1C’と、を有し、ガスバリア性シート1C’のガスバリア吸湿膜3が、被封止物5の上面及び側面を被覆している。ガスバリア性シート1C’では平坦化膜15を用いているので、これにより、ガスバリア吸湿膜3の平坦性が向上し、その結果、封止体10Cのガスバリア性をより向上させやすくなる。
【0131】
封止体10Cは、基材2とガスバリア吸湿膜3との間に平坦化膜15が設けられているガスバリア性シート1C’を用いていること以外は、封止体10Aと同様とすればよく、ガスバリア性シート1C’についてもすでに説明したとおりである。そこで、説明の重複をさけるため、ここでの説明は省略する。
【0132】
(装置)
本発明の装置は、本発明の封止体を有する。これにより、被封止物内に侵入する水蒸気や酸素等のガスが侵入しにくくなり、その結果、より高いガスバリア性を有する構造の装置を提供することができる。こうした装置としては、例えば、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、又は太陽電池を挙げることができる。これら装置は、吸湿により被封止物たる有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、及び太陽電池素子が劣化しやすい性質を有するので、本発明の封止体を用いる意義が大きい。
【0133】
上記装置のうち、有機ELディスプレイは、上記説明した本発明の封止体を用いる以外は、従来公知の部材、部品等を用いればよい。また製造方法についても従来公知の方法を適宜用いることができる。また、液晶ディスプレイや太陽電池についても、上記説明した本発明の封止体を用いる以外は、従来公知の部材、部品等を用いればよい。また製造方法についても従来公知の方法を適宜用いることができる。
【実施例】
【0134】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0135】
(実施例1)
(ガスバリア性シート、封止体の製造)
基板として厚さ0.7mmのガラス基板を用い、被封止物として有機ELディスプレイ素子を用いた。具体的には、上記のガラス基板上に、ITOをスパッタリング法で成膜した後、エッチングによりパターンニングして透明電極(陽極)を形成した。そして、陽極上に蒸着法により正孔輸送層、発光層、及び金属電極(陰極)を順次形成した。ここで、正孔輸送層の材料としてはα−ナフチルフェニルジアミン(α−NPD)を、発光層の材料としてはトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq3)を、金属電極(陰極)の材料としてカルシウム及び銀を用いた。
【0136】
ガスバリア性シートは、基材、平坦化膜、ガスバリア吸湿膜、及びガスバリア膜の4層構造のものを用いた。
【0137】
基材としては、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(A4100、東洋紡績株式会社製)を用いた。このポリエチレンテレフタレートフィルムは、巻取り成膜機構を有する製造装置を用いることとの関係で、製造時は長尺の基材フィルムとしての形態で用い、平坦化膜、ガスバリア吸湿膜等を形成後、最終的には1つ1つのガスバリア性シートの形状に切り出すことによって実験に用いた。
【0138】
平坦化膜形成工程においては、巻取り成膜機構を有するダイコート装置を用い、ダイコート法により液体状のアクリル樹脂の材料(OELV3、ザ・インクテック株式会社製)を基材上に塗布した後、ヒュージョン Hバルブ 300mJの条件下で硬化させることにより、厚さ2μmの平坦化膜を形成した。
【0139】
ガスバリア吸湿膜形成工程においては、図6に示す作製装置40を用い、平坦化膜が形成された基材フィルムを供給装置43と巻取装置44に装着して、第1の成膜用ターゲット42AにSiNで構成されるターゲットを用い、第2の成膜用ターゲット42BにMgOで構成されるターゲットを用いて、スパッタリング法でガスバリア吸湿膜を形成した。すなわち、第1の材料として窒化ケイ素を用い、第2の材料として酸化マグネシウムを用いている。
【0140】
第1成膜工程は、平坦化膜が形成された基材フィルム上に窒化ケイ素をスパッタリング法により成膜することにより、所定の厚さの領域A(SiNの組成でc=1、d=0.2)を形成した。ここで、スパッタリング法の条件は、成膜圧力:0.2Pa、Ar:40sccm、N:30sccm、印加周波数:13.56MHz、印加電力:1.47kWとした。
【0141】
第2成膜工程は、第1の成膜用ターゲット42Aからはじき出される元素(ケイ素、窒素)と、第2の成膜用ターゲット42Bからはじき出される元素(マグネシウム、酸素)と、を同時に領域A上に堆積させて所定の厚さの領域Bを形成した。
【0142】
そして、第3成膜工程は、領域B上に酸化マグネシウム(MgO)をスパッタリング法により成膜することにより、所定の厚さの領域C(MgOの組成でe=0.9)を形成した。ここで、スパッタリング法の条件は、成膜圧力:0.2Pa、Ar:40sccm、印加周波数:13.56MHz、印加電力:2kWとした。
【0143】
次いで、ガスバリア吸湿膜の全面に、酸窒化ケイ素をスパッタリング法により成膜することにより、厚さ70nmのガスバリア膜(SiNの組成でc=1、d=0.2)を形成した。ここで、スパッタリング法の条件は、成膜圧力:0.2Pa、Ar:40sccm、N:30sccm、印加周波数:13.56MHz、印加電力:1.47kWとした。以上を経てガスバリア性シートを製造した。
【0144】
次いで、基板上に形成された有機ELディスプレイ素子の周辺の基板表面に、接着剤をスピンコート法で塗布した。そして、有機ELディスプレイ素子の上面、すなわち金属電極(陰極)の表面と、側面とがガスバリア吸湿膜(ガスバリア膜)で覆われるようにして、有機ELディスプレイ素子全体にガスバリア性シートをかぶせた。そして、接着剤を硬化させることにより、ガスバリア性シートと、有機ELディスプレイ素子の周辺の基板表面と、を接着した。ここで、接着剤としては、UV硬化型エポキシ樹脂を用いた。以上を経て封止体を製造した。
【0145】
(組成の分析)
ガスバリア吸湿膜やガスバリア膜の組成、より具体的にはSi,C,N,O,アルカリ土類金属(Mg)の原子数比は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL)により測定した。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるAlKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1s、N:1s、O:1s、Mg:2pのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、N=1.77、O=2.85、Mg=0.36)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を1とし、他の成分であるC,N,O,Mgの原子数を算出して成分割合とした。
【0146】
ガスバリア吸湿膜の下面から上面までの厚さ方向の組成分析は、ガスバリア膜を形成する前の段階の平坦化膜上にガスバリア吸湿膜のみが形成されたサンプルを用意し、ガスバリア吸湿膜の上面にArイオンによるエッチングを施してガスバリア膜を徐々に削っていき、削りながら経時的に削り出されたガスバリア吸湿膜の表面の組成を上記XPSによって測定することによって行った。より具体的には、エッチング時間を60秒とし、エッチング前後の待機時間を20秒とし、X線源をAlKα線とし、測定元素はSiとMgとし、測定の繰り返し回数は10回とした。厚さ方向におけるSiの原子数比を1としてガスバリア吸湿膜の厚さ方向に対する組成の変化を分析した。得られたデータを、表−1に示す。表−1には、厚さ方向におけるMgの原子数比を1とした場合における、ガスバリア吸湿膜の厚さ方向に対する組成の変化も示した。
【0147】
【表1】

【0148】
表−1の結果からわかるように、0(領域Aの端部)〜0.3の厚さの部分は領域Aとみることができ、0.3〜0.7の厚さの部分は領域Bとみることができ、0.8〜1の厚さの部分は領域Cとみることができる。
【0149】
(発光特性の評価)
封止体の発光特性は以下のように評価した。すなわち、封止体を常温/常湿の環境下で5日間保存した後、有機ELディスプレイ素子の発光特性を確認したところ、水蒸気の侵入によるダークスポットは発生せず、良好な発光特性が得られた。
【0150】
(ガスバリア吸湿膜の分離性の評価)
ガスバリア膜を形成する前の段階の平坦化膜上にガスバリア吸湿膜のみが形成されたサンプルを用意し、以下の評価を行うことにより、ガスバリア吸湿膜の領域Aと領域Cとの状態を観察した。すなわち、上記サンプルを、40℃/90%RHの環境下に5日保存した後に、ガスバリア吸湿膜の様子を観察した。その結果、特に外観上の変化はなく、領域Aと領域Cとの分離は観察されなかった。
【0151】
(実施例2)
ガスバリア性シートの製造のガスバリア吸湿膜形成工程において、酸化マグネシウムを酸化カルシウムとしたことや成膜条件を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様にして封止体を製造した。なお、XPS測定は、Ca:2pのバインディングエネルギーに相当するピークを用い、感度係数補正はCa=5.07とした。その結果、領域Cの組成は、CaOの組成でe=0.9であった。また、厚さ方向におけるSiの原子数比を1としてガスバリア吸湿膜の厚さ方向に対する組成の変化を実施例1と同様にして分析した。得られたデータを、表−2に示す。
【0152】
【表2】

【0153】
表−2の結果からわかるように、0(領域Aの端部)〜0.3の厚さの部分は領域Aとみることができ、0.4〜0.6の厚さの部分は領域Bとみることができ、0.7〜1の厚さの部分は領域Cとみることができる。
【0154】
また、封止体に対し、実施例1同様の発光特性を評価したところ、水蒸気の侵入によるダークスポットは発生せず、良好な発光特性が得られた。さらに、ガスバリア膜を形成する前の段階の平坦化膜上にガスバリア吸湿膜のみが形成されたサンプルを用意して、実施例1と同様にしてガスバリア吸湿膜の分離性の評価を行った。その結果、領域Aと領域Cとの分離は観察されなかった。
【0155】
(比較例1)
ガスバリア性シートの製造のガスバリア吸湿膜形成工程において、スパッタリング法で酸窒化ケイ素と、酸化マグネシウムとを別々に成膜したこと及び成膜条件を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様にして封止体を製造した。具体的には、平坦化膜が形成された基材フィルム上に酸窒化ケイ素をスパッタリング成膜してガスバリア膜(SiNの組成でc=1、d=0.2)を形成した。その後、酸窒化ケイ素のガスバリア膜の上に酸化マグネシウムをスパッタリング成膜して吸湿膜(MgOの組成でe=0.9)を形成した。
【0156】
こうして得た封止体に対し、実施例1同様の発光特性を評価したところ、発光特性は良好であった。しかし、平坦化膜上にガスバリア膜及び吸湿膜のみが形成されたサンプルを用意して、実施例1と同様にしてガスバリア膜と吸湿膜との分離性の評価を行ったところ、吸湿膜が体積膨張によりガスバリア膜から剥がれる現象が観察された。
【0157】
(比較例2)
ガスバリア性シートの製造のガスバリア吸湿膜形成工程において、酸化マグネシウムを酸化カルシウムとしたこと及び成膜条件を適宜調整したこと以外は、比較例1と同様にして封止体を製造した。吸湿膜の組成は、CaOの組成でe=0.9であった。
【0158】
こうして得た封止体に対し、実施例1同様の発光特性を評価したところ、発光特性は良好であった。しかし、平坦化膜上にガスバリア膜及び吸湿膜のみが形成されたサンプルを用意して、実施例1と同様にしてガスバリア膜と吸湿膜との分離性の評価を行ったところ、吸湿膜が体積膨張によりガスバリア膜から剥がれる現象が観察された。
【0159】
(比較例3)
ガスバリア性シートの製造のガスバリア吸湿膜形成工程において、吸湿膜を設けなかったこと以外は、比較例1と同様にして封止体を製造した。
【0160】
こうして得た封止体に対し、実施例1同様の発光特性を評価したところ、水蒸気の侵入によるダークスポットが多発して、発光特性は不良であった。
【符号の説明】
【0161】
1A,1B,1C,1C’,1D ガスバリア性シート
2 基材
3 ガスバリア吸湿膜
4 ガスバリア膜
5 被封止物(有機ELディスプレイ素子)
6 接着剤膜
7 基板
10A,10B,10C 封止体
11 陽極
12 正孔輸送層
13 発光層
14 陰極
15 平坦化膜
35 下面
36 上面
40 作製装置
41,41’ 基材フィルム
42A,42B 成膜用ターゲット
43 供給装置
44 巻取装置
45 成膜装置
46 芯材
47 ロール状フィルム
48 ガイドローラ
49A,49B 供給配管
50 ドラム
51 チャンバー
52 成膜用電源
90 排気ポンプ
91 圧力調整バルブ
92 仕切板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の上に設けられたガスバリア吸湿膜とを有し、
該ガスバリア吸湿膜が、前記基材側から順番に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域A、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域B、及びアルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cより形成されることを特徴とするガスバリア性シート。
【請求項2】
前記基材と前記ガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設ける、請求項1に記載のガスバリア性シート。
【請求項3】
基板上に配置された被封止物の少なくとも上面及び側面を封止するために前記ガスバリア性シートが用いられる場合に、前記ガスバリア吸湿膜が前記被封止物の上面及び側面を被覆する大きさに形成されている、請求項1又は2に記載のガスバリア性シート。
【請求項4】
前記ガスバリア吸湿膜の上にガスバリア膜を設ける、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性シート。
【請求項5】
基材上にガスバリア吸湿膜を有するガスバリア性シートの製造方法であって、前記ガスバリア吸湿膜を形成するガスバリア吸湿膜形成工程が、
前記基材上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1以下となる領域Aを成膜する第1成膜工程と、
前記領域A上に、ケイ素1に対するアルカリ土類金属の原子数比が0.1より大きく10より小さい領域Bを成膜する第2成膜工程と、
前記領域B上に、アルカリ土類金属1に対するケイ素の原子数比が0.1以下となる領域Cを成膜する第3成膜工程と、
を備えることを特徴とするガスバリア性シートの製造方法。
【請求項6】
前記第1成膜工程、前記第2成膜工程、及び前記第3成膜工程が、スパッタリング法で行われる、請求項5に記載のガスバリア性シートの製造方法。
【請求項7】
前記基材と前記ガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜を設ける平坦化膜形成工程を有する、請求項5又は6に記載のガスバリア性シートの製造方法。
【請求項8】
基板と、該基板上に配置された被封止物と、該被封止物上に配置された請求項3又は4に記載のガスバリア性シートと、を有する封止体であって、
前記ガスバリア性シートのガスバリア吸湿膜が、前記被封止物の上面及び側面を被覆していることを特徴とする封止体。
【請求項9】
前記ガスバリア性シートの基材と前記ガスバリア吸湿膜との間に平坦化膜が設けられている、請求項8に記載の封止体。
【請求項10】
前記被封止物が、有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、又は太陽電池素子である、請求項8又は9に記載の封止体。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の封止体を有することを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−20334(P2011−20334A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166805(P2009−166805)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】