説明

ガスバリア膜の製造方法

【課題】 ガスバリア性のみならず、耐酸化性および透明性にも優れるガスバリア膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 Si−H結合を有する原料と、N−H結合を有する原料と、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とを用い、414nmの発光強度A、336nmの発光強度B、337nmの発光強度Cおよび656nmの発光強度Dが、『2<[B/A]<20』、『C/B]』、および『0.5<[D/B]<50』を満たすプラズマによるプラズマCVDでガスバリア膜を成膜することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVDを用いるガスバリア膜の製造方法に関し、詳しくは、優れたガスバリア性のみならず、優れた耐酸化性を有し、さらに、透明性も高いガスバリア膜を成膜することができるガスバリア膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、ガスバリア膜(水蒸気バリア膜)が形成されている。
ガスバリア膜としては、酸化硅素、酸窒化硅素、酸化アルミニウム等の各種の物質からなる膜が知られている。これらのガスバリア膜の1つとして、窒化硅素(窒化シリコン)からなるガスバリア膜が知られている。また、窒化硅素からなるガスバリア膜の製造方法としては、プラズマCVDが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シランガスおよびアンモニアガスと、キャリアガスとを用いて、プラズマCVDによって基板表面に窒化硅素膜からなるガスバリア膜を成膜するに際し、基板温度を200℃以下に保つと共に、シランガスに対するアンモニアガスの流量比を調整することにより、Si/N比組成比が異なる窒化硅素膜を2層以上成膜する、ガスバリア膜の製造方法が記載されている。
特許文献1に記載される製造方法によれば、高温高湿環境における耐酸化性が高く、ピンホールが少なく、かつ透明性(光学透過率)も高いガスバリア膜を得ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−214677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスバリア膜が酸化されば、ガスバリア性が低下し、必要なガスバリア性を発現できなくなる。また、ディスプレイやレンズなど光学的な用途では、素子の性能を妨げないように、十分な透明性が要求される。
そのため、特許文献1にも記載されるように、ガスバリア膜には、用途によって、ガスバリア性のみならず、透明性や耐酸化性にも優れることが要求され、各種のガスバリア膜や、ガスバリア膜の製造方法が提案されている。しかしながら、近年、ガスバリア膜へのこれらの特性に対する要求は、益々、厳しくなっており、現状のガスバリア膜では、要求性能を十分に満たせない場合も有る。例えば、特許文献1に記載されるガスバリア膜は、ガスバリア膜を2層とし、1層を耐酸化性に優れるシリコン含有量が多いガスバリア膜とすることにより、優れた耐酸化性を得ることができるものの、シリコン含有量が多いガスバリア膜を有するがために、透明性の点では、十分な性能が得られない場合が有る。
そのため、ガスバリア性のみならず、透明性や耐酸化性にもより優れたガスバリア膜を、安定して製造できる製造方法の出現が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、単層でも優れたガスバリア性を発現することでき、しかも、ガスバリア性のみならず、透明性や耐酸化性にも優れたガスバリア膜を、安定して成膜することができるガスバリア膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のガスバリア膜の製造方法は、Si−H結合を少なくとも1つ有する原料と、N−H結合を少なくとも1つ有する原料と、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とを用い、414nmの発光の発光強度A、336nmの発光の発光強度B、337nmの発光の発光強度C、および、656nmの発光の発光強度Dが、下記式a〜cを満たすプラズマによるプラズマCVDによって、ガスバリア膜を成膜することを特徴とするガスバリア膜の製造方法を提供する。
式a 2<[B/A]<20
式b [C/B]<2
式c 0.5<[D/B]<50
【0008】
このような本発明のガスバリア膜の製造方法において、前記発光強度A〜Dを測定し、その測定結果に応じて、前記式a〜cを満たすように、プラズマ励起電力、圧力制御手段、および、原料供給量の少なくとも1つをフィードバック制御するのが好ましい。また、基板に交流もしくは直流のバイアス電流を印加する場合には、この基板バイアス電力もフィードバック制御するのが好ましい。
また、長尺な基板を長手方向に搬送しつつ、この基板に前記ガスバリア膜を成膜するのが好ましく、この際において、前記式a〜cの少なくとも1つから外れた状態が1秒以上連続したら、その際にガスバリア膜を成膜された領域を検出するのが好ましく、また、前記式a〜cの少なくとも1つから外れた状態が1秒以上連続した状態でガスバリア膜を成膜された領域に、マーキングを行なうのが好ましく、また、目視可能な前記マーキングを行なうのが好ましく、さらに、前記マーキングを、製品領域外に行なうのが好ましい。
また、有機物からなる基板、もしくは、有機物を基材とする基板に前記ガスバリア膜を成膜するのが好ましく、また、基板の温度を120℃以下に保ちつつ、前記ガスバリア膜を成膜するのが好ましく、さらに、先に前記製造方法によるガスバリア膜が成膜された基板に、さらに、前記製造方法によるガスバリア膜を成膜するのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
このような本発明は、Si−H結合を有する原料、N−H結合を有する原料、および、窒素/水素/希ガスの1以上を原料として用い、ラジカルの生成による所定波長の発光に応じてプラズマの状態を制御してガスバリア膜を製造することにより、単層でも優れたガスバリア性を発現し、しかも、ガスバリア性のみならず、高温高湿環境下における耐酸化性、さらには、可視光領域での透明性にも優れたガスバリア膜を安定して製造できる。また、単層でも優れたガスバリア性を有するので、ガスバリア膜の多層化による透明性の低下も抑制でき、かつ、生産性も向上できる。
従って、このような本発明は、例えば有機ELや液晶等を用いた各種のディスプレイや照明の製造や、太陽電池の製造のように、高いガスバリア性のみならず、高い透明性および耐酸化性を有するガスバリア膜が要求される各種の用途に、好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のガスバリア膜の製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の製造方法で利用する基板の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のガスバリア膜の製造方法について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0012】
図1に、本発明のガスバリア膜の製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す。
図示例のガズバリア膜の製造装置10は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基板Zの表面にプラズマCVDによってガスバリア膜を成膜(製造/形成)して、ガスバリアフィルムを製造するものである。
また、この製造装置10は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール20から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつガスバリア膜を成膜して、ガスバリア膜を成膜した基板Z(すなわち、ガスバリアフィルム)をロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0013】
なお、本発明の製造方法において、基板(成膜基板)は、図示例のような長尺なシート状物が好適に例示されるが、それ以外にも、所定長に切断されたシート状物(カットシート)、レンズや光学フィルタなどの光学素子、有機ELや太陽電池などの光電変換素子、液晶ディスプレイや電子ペーパーなどのディスプレイパネル等、各種の物品(部材/基材)も、基板として好適に利用可能である。
【0014】
また、基板の材料にも、特に限定はなく、プラズマCVDによるガスバリア膜の形成が可能なものであれば、各種の材料が利用可能であり、プラスチックフィルム(樹脂フィルム)等の有機物からなる基板でも、金属やセラミック等の無機物からなる基板でもよい。
ここで、後に詳述するが、本発明の製造方法で成膜されたガスバリア膜は、非常に耐酸化性に優れるので、シリコンウェハ基板や金属基板等に比べて、窒化珪素との化学的・物理的相性が悪いために、高いバリア性や高い耐酸化性を得にくいプラスチックフィルム等の材料を基板(基材)として用いる用途には、特に好適に利用可能である。具体的には、本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなる基板を用いるのが、好適である。
【0015】
また、本発明においては、プラスチックフィルムやレンズ等を基材として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されている物を基板として用いてもよい。
この際においては、基材の上に1層のみの層が形成された物を基板として用いてもよく、あるいは、図2に概念的に示すように、基材Bの上に、層a〜層fのような複数の膜を形成した物を基板として用いてもよい。また、基材Bの上に1層もしくは複数層の膜が形成されている基板においては、その層の中の1以上の層(図2であれば、層a〜層fの何れか1層以上)が、本発明の製造方法で形成したガスバリア膜であってもよい。また、本発明によるガスバリア膜と、それ以外の膜とを交互に形成してなる基板も好適に利用可能であり、この際には、前記それ以外の層は、同じ材料からなる層でも、異なる材料からなる層でもよい。
さらに、その中の1層以上の層(図2であれば、層a〜層fの何れか1層以上)が、パターニングされていてもよい。
【0016】
なお、基板の表面に、ガスバリア膜の膜厚を大きく上回るサイズの凹凸や異物があると、ガスバリア性が劣化し、高い耐酸化性が得られても、目的のバリア性が得られない可能性が生じる。
そのため、用いる基板は、表面が十分に平滑で異物の付着が少ないものが好ましい。
【0017】
前述のように、図1に示す製造装置10は、長尺な基板Zを巻回してなる基板ロール20から基板Zを送り出し、基板Zを長手方向に搬送しつつガスバリア膜を成膜して、再度、ロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロールによる成膜を行なう装置である。この製造装置10は、供給室12と、成膜室14と、巻取り室16とを有する。
なお、製造装置10は、図示した部材以外にも、各種のセンサ、搬送ローラ対や基板Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基板Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)等、ロール・ツー・ロールによってプラズマCVDによる成膜を行なう装置が有する各種の部材を有してもよい。加えて、プラズマCVDによる成膜室が複数あってもよいし、プラズマCVD以外の蒸着やフラッシュ蒸着、スパッタ等の何らかの成膜を行う成膜室やプラズマ処理等の表面処理室が1つ以上連結されていてもよい。
【0018】
供給室12は、回転軸24と、ガイドローラ26と、真空排気手段28とを有する。
長尺な基板Zを巻回した基板ロール20は、供給室12の回転軸24に装填される。
回転軸24に基板ロール20が装填されると、基板Zは、供給室12から、成膜室14を通り、巻取り室16の巻取り軸30に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。
製造装置10においては、基板ロール20からの基板Zの送り出しと、巻取り室16の巻取り軸30における基板Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室14において、基板Zに、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜を連続的に行なう。
【0019】
供給室12は、図示しない駆動源によって回転軸24を図中時計方向に回転して、基板ロール20から基板Zを送り出し、ガイドローラ26によって所定の経路を案内して、基板Zを、隔壁32に設けられたスリット32aから、成膜室14に送る。
【0020】
図示例の製造装置10においては、好ましい態様として、供給室12に真空排気手段28を、巻取り室16に真空排気手段60を、それぞれ設けている。これらの室に真空排気手段を設け、成膜中は、後述する成膜室14と同じ真空度(圧力)とすることにより、隣接する室の圧力が、成膜室14の真空度(ガスバリア膜の成膜)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段28には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ドライポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段50および60も同様である。
【0021】
なお、本発明においては、全ての室に真空排気手段を設けるのに限定はされず、処理として真空排気が不要な供給室12および巻取り室18には、真空排気手段は設けなくてもよい。但し、これらの室の圧力が成膜室14の真空度に与える影響を小さくするために、スリット32a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくし、あるいは、室と室との間にサブチャンバを設け、このサブチャンバ内を減圧してもよい。
また、全室に真空排気手段を有する図示例の製造装置10においても、スリット32a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくするのが好ましい。
【0022】
前述のように、基板Zは、ガイドローラ26によって案内され、成膜室14に搬送される。
成膜室14は、基板Zの表面に、CCP(Capacitively Coupled Plasma 容量結合プラズマ)−CVDによって、ガスバリア膜を成膜(形成)するものである。
なお、本発明において、プラズマCVDは、図示例のようなCCP−CVDに限定はされず、ICP(Inductively Coupled Plasma 誘導結合プラズマ)−CVD、マイクロ波CVD、ECR(Electron Cyclotron Resonance)−CVD、大気圧バリア放電CVD等、各種のプラズマCVDが、全て利用可能である。また、Cat(Catalytic 触媒)−CVDにおいても、本発明に記載の波長の発光があれば、同様の原理によって効果を得ることができる。
【0023】
図示例において、成膜室14は、ドラム36と、シャワー電極38と、ガイドローラ40および42と、ガス供給手段46と、高周波電源48と、真空排気手段50と、プラズマ発光測定手段52と、マーキング手段54と、制御手段56と、を有する。
【0024】
成膜室14のドラム36は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zを、周面の所定領域に掛け回して、基板Zを後述するシャワー電極38に対面する所定位置に保持しつつ、長手方向に搬送する。
【0025】
このドラム36は、CCP−CVDにおける対向電極としても作用(ドラム36とシャワー電極とで電極対を形成)する。
そのため、ドラム36には、バイアス電源が接続され、あるいは、接地(アース)されている(共に、図示省略)。もしくは、ドラム36は、バイアス電源の接続と、接地とが切り換え可能であってもよい。
【0026】
ここで、本発明の製造方法においては、基板の温度を120℃以下にして、ガスバリア膜を成膜するのが好ましい。特に、基板の温度を80℃以下にして、ガスバリア膜を成膜するのが、より好ましい。
基板温度を120℃以下にしてガスバリア膜を成膜することにより、耐熱性の低いPEN等のプラスチックフィルム基板や、耐熱性の低い有機材料を基材として用いる基板にも、好適に高いガスバリア性および高耐酸化性を有するガスバリア膜を成膜することができ、また、低応力のガスバリア膜を成膜できる等の点で好ましい結果を得る。さらに、基板温度を80℃以下にしてガスバリア膜を成膜することにより、より耐熱性の低いPET等のプラスチックフィルム基板にも、好適に高いガスバリア性で高耐酸化性を有するガスバリア膜を成膜することができ、また、低応力のガスバリア膜を成膜できる等の点で好ましい結果を得る。
【0027】
図示例の製造装置10においては、この120℃以下でのガスバリア膜の成膜を行なうために、ドラム36は、基板Zの温度を120℃以下に保つ温度調節手段を兼ねるのが好ましく、すなわち、温度調節手段を内蔵するのが好ましい。
ドラム36の温度調節手段には、特に限定はなく、冷媒等を循環する温度調節手段、ピエゾ素子等を用いる冷却手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0028】
シャワー電極38は、CCP−CVDによる成膜に利用される、公知のシャワー電極である。
図示例において、シャワー電極38は、一例として、中空の直方体であり、1つの最大面をドラム36の周面に対面して、この最大面の中心からの垂線がドラム36の法線と一致するように配置される。また、シャワー電極38のドラム36との対向面には、多数の貫通穴が全面的に形成される。
【0029】
なお、図示例の製造装置10において、成膜室14には、図示例においては、シャワー電極(CCP−CVDによる成膜手段)が、1個、配置されているが、本発明は、これに限定はされず、基板Zの搬送方向に、複数のシャワー電極を配列してもよい。この点に関しては、CCP−CVD以外のプラズマCVDを利用する際も同様であり、例えば、ICP−CVDによってガスバリア膜を成膜(製造)する際には、誘導電界(誘導磁場)を形成するため(誘導)コイルを、基板Zの搬送方向に、複数、配置してもよい。
また、本発明は、シャワー電極を用いてガスバリア膜を成膜するのにも限定はされず、通常の板状の電極と、ガス供給ノズルとを用いるものであってもよい。
【0030】
ガズ供給手段46は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給手段であり、シャワー電極38の内部に、原料ガスを供給する。
前述のように、シャワー電極38のドラム36との対向面には、多数の貫通穴が供給されている。従って、シャワー電極38に供給された原料ガスは、この貫通穴から、シャワー電極38とドラム36との間に導入される。
【0031】
ここで、本発明の製造方法を実施する製造装置10は、原料ガスとして、Si−H結合を少なくとも1つ有する原料と、N−H結合を少なくとも1つ有する原料と、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とを用いる。すなわち、本発明は、ガスバリア膜として窒化硅素膜を成膜するものである。
なお、本発明の製造方法で製造するガスバリア膜には、窒化硅素以外にも、水素等の不可避的に混入してしまう各種の物質が混在してもよいのは、もちろんである。また、本発明の製造方法で製造するガスバリア膜は、結晶構造を有しても、アモルファスでもよく、あるいは、両者が混在してもよい。
【0032】
Si−H結合を少なくとも1つ有する原料としては、Si−H結合を少なくとも1つ有する化合物が全て利用可能である。
具体的には、シラン、ジシラン、TMS(トリメチルシラン)等が例示される。中でも、シランおよびジシランは好適に例示される。
また、Si−H結合を少なくとも1つ有する原料を、複数、併用してもよい。
【0033】
また、N−H結合を少なくとも1つ有する原料としては、N−H結合を少なくとも1つ有する化合物が全て利用可能である。
一例として、アンモニア、ヒドラジン等が例示される。中でも、アンモニアは好適に例示される。
また、N−H結合を少なくとも1つ有する原料を、複数、併用してもよい。
【0034】
本発明においては、これらの原料に加え、さらに、窒素ガス、水素ガス、および、希ガスの1以上を、原料として用いる。
この原料ガスは、いずれを単体あるいは組み合わせて用いてもよいが、中でも、窒素ガスと水素ガスの組み合わせ、窒素ガスとヘリウムガスの組み合わせ、窒素ガスとアルゴンガスとの組み合わせ等は好適に例示される。
【0035】
なお、本発明の製造方法は、ガスバリア膜の原料として、ガス(気体状の原料)を使用するのに限定はされず、液体状の原料を用い、液体の原料を気化してガスバリア膜を成膜してもよい。あるいは、ガス状の原料と、液体状の原料との両者を併用して、ガスバリア膜を成膜してもよい。
【0036】
高周波電源48は、シャワー電極38に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源48も、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
さらに、真空排気手段50は、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜のために、成膜室内を排気して、所定の成膜圧力に保つものであり、前述のように、真空成膜装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0037】
このガス供給手段46、高周波電源48、および、真空排気手段50は、共に、制御手段56によって、その動作を制御される。制御手段56に関しては、後に詳述する。
【0038】
プラズマ発光測定手段52は、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜中に、414nmの発光の発光強度(発光強度A)、336nmの発光の発光強度(発光強度B)、337nmの発光の発光強度(発光強度C)、および、656nmの発光の発光強度(発光強度D)を測定し、制御手段56に供給する部位である。
なお、プラズマ発光測定手段32による各波長の発光強度の測定位置は、プラズマの発光を検出できる位置であれば良いが、本発明の効果をより発現させるためには、プラズマに外乱を与えず、かつ、十分な信号S/Nが得られる距離が好ましく、放電体積の中心付近の均一な放電領域の発光を検出できる位置であることが好ましい。
また、本発明における前記各発光強度は、プラズマの発光を測定した信号強度から、バックグラウンド(プラズマがoffの時の信号強度)を差し引いた値であるのが、好ましい。
【0039】
前述のように、本発明の製造方法では、原料として、Si−H結合を有する原料と、N−H結合を有する原料と、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とを用い、プラズマCVDによってガスバリア膜を成膜する。
このような原料を用いるガスバリア膜(窒化硅素膜)の成膜系においては、414nmの発光(発光強度A)は、主にSiHラジカルに由来する発光であり、336nmの発光(発光強度B)は、主にNHラジカルに由来する発光であり、337nmの発光(発光強度C)は、主にN2ラジカルに由来する発光であり、さらに、656nmの発光(発光強度D)は、主にHラジカルに由来する発光である。
本発明の製造方法は、この4種の発光強度A〜Dが、後述する式a〜cを満たすプラズマによって、ガスバリア膜を成膜することにより、ガスバリア性のみならず、高温高湿下における耐酸化性および透明性にも優れるガスバリア膜を、安定して製造することを可能にしたものである。
【0040】
本発明の製造方法において、プラズマ発光測定手段32には、特に限定は無く、前記4種の波長を分光して、発光強度を測定可能な、各種の分光器や分光光度計が全て利用可能であり、この性能を有する市販の分光器や分光光度計を利用すればよい。
【0041】
マーキング手段54は、制御手段56の指示に応じて、1秒以上、プラズマの状態が後述する式a〜cのいずれかを外れた際に、その領域に、目印となるマーキング(印付け)をするものである。このマーキングに関しては、後に詳述する。
【0042】
マーキング手段54によるマーキングの方法には、特に限定は無く、ガスバリア膜の成膜後に検出可能なマーキングを行なう方法が、全て利用可能である。
例えば、ガスバリアフィルム(本発明の製造方法を利用する製品)が透明である場合には、レーザ光による焼き付け(レーザマーキング)や各種の記録ヘッドを利用する着色のように、目視可能な印を形成するマーキングを施すのが好ましい。
あるいは、赤外線や紫外線等によって検出可能なマーキングであってもよい。さらには、レーザ光や機械的な手段による穿孔によって、マーキングを行なってもよい。
【0043】
マーキングの位置にも、特に限定はないが、ガスバリア膜を成膜した基板において、製品となる領域外に行なうのが好ましい。例えば、図示例のような長尺な基板Zであれば、幅方向(長手方向と直交する方向)の端部近傍に、マーキングを行なうのが好ましい。
また、マーキングは、ガスバリア膜に行なってもよく、あるいは、基板Zの裏面(ガスバリア膜の非成膜面)に行なってもよい。ガスバリア膜の強度や、マーキングによる衝撃の大きさ等によっては、ガスバリア膜にマーキングを行なうと、膜に、ヒビや割れを生じてしまう可能性が有る。そのため、このような点を加味すると、裏面にマーキングを行なう方が、有利である。
さらに、マーキングは、プラズマの状態が前記式a〜cを外れた領域の全域に連続的に行なってもよく、あるいは、プラズマの状態が前記式a〜cを外れた領域の先端部と後端部とに、先端/後端が識別可能なようにマーキングを行なってもよい。
【0044】
制御手段56は、プラズマ発光測定手段32による発光強度A〜Dの測定結果を受けて、前記原料ガスを用いるプラズマCVDによるガスバリア膜の成膜を行なうプラズマが、前記発光強度A〜Dが、
式a; 2<[B/A]<20
式b; [C/B]<2
式c; 0.5<[D/B]<50
の3式を満たすプラズマとなるように、ガス供給手段46による原料ガス(1種以上)の供給量、高周波電源48によるプラズマ励起電力、および、真空排気手段50による成膜室14の排気量を、制御するものである。また、ドラム36によって、基板Zに交流もしくは直流のバイアス電力を印加する場合には、これらに変えて、もしくは加えて、上記3式を満たすように、基板バイアス電力を制御してもよい。
【0045】
プラズマCVDにおける各種の成膜においては、成膜系に存在するラジカルに由来する発光を測定して、その発光強度に応じて成膜を制御することが知られている。
本発明者は、原料として、シラン等のSi−H結合を有する原料と、アンモニア等のN−H結合を有する原料と、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とを原料として用いる、プラズマCVDによるガスバリア膜の製造において、ガスバリア性はもとより、高温高湿下での耐酸化性、および、透明性(可視光領域での光透過性)も優れるガスバリア膜を得るために、成膜系に存在するラジカルに由来する発光を利用する成膜の制御に関して、鋭意検討を重ねた。
【0046】
その結果、SiHラジカルに由来する発光の内の414nmの発光の発光強度A、NHラジカルに由来する発光の内の336nmの発光の発光強度B、N2ラジカルに由来する発光の内の337nmの発光の発光強度C、および、Hラジカルに由来する発光の内の656nmの発光の発光強度Dの強度比が、ガスバリア膜のガスバリア性、耐酸化性、および透明性の好適な指標になることを見出した。
さらに、これらのラジカルに由来する前記各波長の発光強度のB/A、C/B、および、D/Bが適正な範囲となるプラズマによってガスバリア膜を成膜することにより、ガスバリア性、耐酸化性、および、透明性のいずれもが優れた特性を有するガスバリア膜が得られることを見出した。
【0047】
前述のように式aは、『2<[B/A]<20』である。
すなわち、式aは、SiHラジカルに由来する414nmの発光強度Aと、NHラジカルに由来する336nmの発光強度Bとの関係を示す式である。
上記原料ガスを用いるプラズマCVDによるガスバリア膜の成膜においては、シリコン源に対して、窒素源が少なすぎると、透明性が低下し、逆に多くなると、耐酸化性が低下する傾向にある。そのため、[B/A]が2以下のプラズマでは、十分な透明性を確保することが出来なくなってしまう。逆に、[B/A]が20以上となるプラズマでは、十分な耐酸化性を得ることができない。
好ましくは、『3<[B/A]<12』である。[B/A]をこの範囲とすることにより、より優れた透明性と耐酸化性とを確保できる、より優れたガスバリア性を得られる、原料コストを低減できる等の点で、より好ましい結果を得ることができる。
【0048】
式bは、『[C/B]<2』である。
すなわち、式bは、N2ラジカルに由来する337nmの発光強度Cと、NHラジカルに由来する336nmの発光強度Bとの関係を示す式である。
上記原料ガスを用いるプラズマCVDによるガスバリア膜の成膜において、窒素源が多すぎると、ガスバリア膜の耐酸化性が低下するが、特に、N−HよりもN2の方が、強い悪影響を及ぼす傾向にある。これは、主に、N−Hを含むガスから生成されるNHラジカルよりも、N2ガスから生成されるN2ラジカルの方が耐酸化性に悪影響を及ぼす効果が大きいためと考えられる。そのため、[C/B]が2以上となるプラズマでは、十分な耐酸化性を得ることができなくなってしまう。
好ましくは、『0.1<[C/B]<1.7』である。[C/B]をこの範囲とすることにより、より高い耐酸化性を得られる、原料コストを低減できる等の点で、より好ましい結果を得ることができる。
【0049】
式cは、『0.5<[D/B]<50』である。
すなわち、式cは、Hラジカルに由来する656nmの発光強度をDと、NHラジカルに由来する336nmの発光強度Bとの関係を示す式である。
この式cは、すなわち、N−H結合を有する原料と、Si−H結合を有する原料の分解度を示す指標となる式である。[D/B]が0.5以下のプラズマでは、N−H結合を有する原料の分解が少なすぎ、十分なガスバリア性および耐酸化性を得ることができない。逆に、[D/B]が50以上となるプラズマでは、成膜系内に存在するHラジカルの量が多すぎ、ガスバリアフィルムの可撓性が劣化する、成膜レート(生産性)が低下する等の不都合が生じ、また、窒素源が少ないために、透明性も低下してしまう。
好ましくは、『1<[D/B]<20』である。[D/B]をこの範囲とすることにより、より優れたガスバリア性および耐酸化性を得ることができる、十分な可撓性が得られる、十分な透明性が得られる、成膜条件や他の発光強度がばらついても安定して優れたガスバリア性および耐酸化性を得ることができる、原料コストを低減できる(成膜レートを向上できる)等の点で、より好ましい結果を得ることができる。
加えて、式aと式cを組み合わせれば、[D/A]の好ましい範囲も規定することができ、Si−H結合を有する原料の好ましい分解度を得られる。
【0050】
前述のように、このような本発明の製造方法で製造したガスバリア膜は、優れたガスバリア性のみならず、優れた耐酸化性および透明性を有する。
一例として、太陽電池に利用されるガスバリアフィルムには、3×10-3[g/(m2・day)]以下の水蒸気透過率と、85℃で85%RHの環境下(例えば、千時間放置)でも、前記ガスバリア性を保持できることが要求される。また、有機EL等の各種のディスプレイに利用されるガスバリアフィルムには、さらに高い1×10-5[g/(m2・day)]以下の水蒸気透過率と、60℃で90%RHの環境下(同前)でも、前記ガスバリア性を保持できることが要求される。
本発明の製造方法によれば、いずれの要求も満たすガスバリアフィルムを、安定して製造できる。また、本発明によれば、優れた耐酸化性を有するため、耐酸化性を確保するための無機膜を、別途、積層する必要も無くせる。加えて、本発明の製造方法によれば、単層でも、優れたガスバリア性を有するガスバリア膜を成膜できる。すなわち、本発明によれば、他の層の積層に起因する透明性の低下も抑制でき、また、膜を増加することに起因する生産性の低下も抑制できる。
【0051】
また、図示例の製造装置10のように、長尺な基板Zにガスバリア膜を成膜してガスバリアフィルムを製造する際に、基板Z(あるいは基板Zの基材)として、PETフィルム、ポリアクリレートフィルム、ポリメタクリレートフィルム等のガスバリア性が低い有機物を用いると、ガスバリア膜の基板側も酸化してしまう場合が有る。
すなわち、基板Zのガスバリア性が低い場合には、基板Zにガスバリア膜を成膜してガスバリアフィルムを製造した後、倉庫等での保管中や搬送時等に酸化し易い環境に晒されると、環境下に存在する水分が基板Zを透過してガスバリア膜に達してしまい、ガスバリア膜を酸化してしまう。その結果、大気と接しているガスバリア膜の表面のみならず、基板Zとの界面でもガスバリア膜が酸化されてしまう。これにより、表面の酸化に加え、基板Z側面の酸化によってもガスバリア性が低下する。
【0052】
これに対して、本発明の製造方法によるガスバリア膜は、非常に耐酸化性に優れるので、大気と接している表面のみならず、基板Zを透過してガスバリア膜に至る水分による酸化も防止することができる。
すなわち、本発明のガスバリア膜の製造方法は、PETフィルム、PENフィルム、ポリアクリレートフィルム、ポリメタクリレートフィルムなど、ガスバリア性が低い有機物からなる基板(基材)へのガスバリア膜の製造(成膜)に、特に好適に利用可能である。
【0053】
また、前述のように、本発明によれば、透明性にも優れるガスバリア膜を製造することができる。
本発明によれば、可視光の透過率(400〜700nmの平均)が88%以上のガスバリア膜を、安定して製造することができる。従って、本発明は、各種のディスプレイ用のガスバリアフィルムや、太陽電池用のガスバリアフィルムの製造など、透明性を要求される用途に、より好適に利用可能である。
また、基板として透過率が89%のPETフィルムを用いる場合には、ガスバリアフィルムの透過率88%以上を達成するためには、ガスバリア膜自身の透過率は98%以上であることが要求される。耐酸化性に優れるシリコン含有量の多いガスバリア膜では、このような透明性を確保することは非常に困難であるが、本発明の製造方法であれば、安定かつ容易に、このようなガスバリア膜を製造できる。
【0054】
なお、本発明のガスバリア膜の製造方法においては、前記発光強度A〜Dが、前記式a〜cを満たすプラズマによってガスバリア膜の成膜を行なう以外には、成膜条件には、特に限定は無い。
従って、原料ガスの流量、成膜圧力、プラズマ励起電力、プラズマ励起電力の周波数等の成膜条件は、通常のプラズマCVDによるガスバリア膜としての窒化硅素膜の成膜と同様に、目的とする成膜速度、目的とするガスバリア膜の厚さ、使用する原料ガスの種類、成膜室の構成や大きさ、基板Z(基板Zを構成する基材)の物性等に応じて、上記式を満たすように、適宜、設定すればよい。
さらに、ガスバリア膜の膜厚にも、特に限定はなく、用途や要求されるガスバリア性等に応じて、十分なガスバリア性を発現できる膜厚を、適宜、設定すればよい。但し、ガスバリア膜の膜厚が5nm未満であると、ガスバリア膜の殆どが表面自然酸化状態となってしまう可能性が有るので、ガスバリア膜の膜厚は、5nm以上とするのが好ましい。
また、成膜速度が、基板Zの搬送を停止した状態(静止成膜速度)で、300nm/minを超えると、耐酸化性が低い膜が形成され易い。従って、これ以上の成膜速度でガスバリア膜を成膜することにより、ガスバリア性に加え、耐酸化性にも優れるガスバリア膜を製造できるという本発明の効果を、より好適に発現できる。
【0055】
以下、成膜室14におけるガスバリア膜の成膜の作用を説明することにより、制御手段56およびマーキング手段54、ならびに、本発明のガスバリア膜の製造方法について、より詳細に説明する。
前述のように、回転軸24に基板ロール20が装填されると、基板Zは、供給室12からガイドローラ26によって案内されて成膜室14に至り、成膜室14において、ガイドローラ40に案内されて、ドラム36の周面の所定領域に掛け回され、ガイドローラ42によって案内されて、巻取り室16の巻取り軸30に至る所定の搬送経路を通される。
【0056】
供給室12から供給され、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zはドラム36に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送される。なお、成膜室14内は、真空排気手段50によって所定の真空度に減圧され、また、供給室12は真空排気手段28によって、巻取り室16は真空排気手段60によって、それぞれ所定の真空度に減圧されている。
さらに、シャワー電極38には、ガス供給手段46から原料ガス、すなわち、Si−H結合を有する原料ガスと、N−H結合を有する原料ガスと、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とが供給される。これにより、シャワー電極38から、シャワー電極38と基板Z(ドラム36)との間に、原料ガスが供給される。
【0057】
原料ガスの供給量および成膜室14の真空度が安定したら、シャワー電極38には、高周波電源48から、プラズマ励起電力が供給される。
なお、図示例の製造装置10においては、ドラム36が対向電極となり、ドラム36とシャワー電極38とで、CCP−CVDにおける電極対を構成するのは、前述のとおりである。
【0058】
シャワー電極38へのプラズマ励起電力の供給によって、シャワー電極38とドラム36との間でプラズマが励起され、原料ガスからラジカルが生成されて、ドラム36によって支持されつつ搬送される基板Zの表面に、CCP−CVDによってガスバリア膜が成膜される。
【0059】
ここで、成膜室14においては、このガスバリア膜の成膜中に、プラズマ発光測定手段52が、414nmの発光強度A、336nmの発光強度B、337nmの発光強度C、および、656nmの発光強度Dを測定して、制御手段56に送る。
【0060】
プラズマ発光強度の測定結果を受けた制御手段56は、前記[B/A]、[C/B]、および[D/B]を算出して、それぞれが、式a〜cに規定される所定の範囲に入っているか否かを判断する。
発光強度A〜Dが、式a〜cの1つでも外れる場合には、制御手段56は、発光強度A〜Dが式a〜cの全てを満たすプラズマとなるように、高周波電源48からシャワー電極38に供給するプラズマ励起電力、ガス供給手段46からシャワー電極38に供給する原料ガス(その少なくとも1つ)の流量、および、真空排気手段50による排気量のうちの1以上を調節する。
【0061】
すなわち、制御手段56は、SiHラジカルに由来する414nmの発光の発光強度A、NHラジカルに由来する336nmの発光の発光強度B、N2ラジカルに由来する337nmの発光の発光強度C、および、Hラジカルに由来する656nmの発光の発光強度Dを測定し、これらの発光強度A〜Dが式a〜cの全てを満たすプラズマとなるように、プラズマ発光測定手段52による発光強度の測定結果に応じて、プラズマ励起電力、原料ガス供給量(原料供給量)および成膜圧力の1以上をフィードバック制御する。また、基板にバイアス電力を印加する場合には、制御手段56は、発光強度A〜Dが式a〜cの全てを満たすプラズマとなるように、基板バイアス電力をフィードバック制御してもよい。なお、基板バイアス電力のフィードバック制御は、プラズマ励起電力等の制御に変えて行なってもよく、プラズマ励起電力等の制御に加えて行なってもよい。
このように、本発明は、装置パラメータではなく、成膜中のプラズマ状態に応じた制御を行なうことにより、長時間にわたって、かつ、安定して、ガスバリア性、耐酸化性、および、透明性に優れるガスバリア膜を製造することができる。
なお、実際に、これらのラジカルに起因する波長の発光強度を計る際には、プラズマ発光測定手段52(分光器)によって、波長オフセット(初期ズレ)が異なる場合が有る。このような場合には、使用するプラズマ発光測定手段52の波長オフセット等の特性に応じて、適宜、測定する波長の変更、測定手段の調整や校正等を行い、SiHラジカル、NHラジカル、N2ラジカル、および、Hラジカルに由来する前記各波長の発光強度を、測定すればよい。
また、発光強度B(336nm)と発光強度C(337nm)は、波長が近いために、互いに重なることも有るが、両波長の発光強度を分離して測定することができれば、情報処理によるピーク分離は、不要である。
【0062】
また、制御手段56は、発光強度A〜Dが式a〜cを1つでも満たさない状態(以下、不適正状態ともいう)が1秒以上連続した場合には、この不適正状態でガスバリア膜を形成された領域(以下、不適正領域ともいう)にマーキングをするように、マーキング手段54に指示を出す。一例として、制御手段56は、不適正状態が1秒以上連続した場合には、この不適正状態が始まった時点から、不適正状態が終了して適正になった時点まで、シャワー電極38と対面していた基板Zの全領域を検出し、この検出した全領域を不適正領域としてマーキングをするように、マーキング手段54に指示を出す。
これに応じて、マーキング手段54は、ガスバリア膜の表面にマーキング、例えば、レーザ光による焼き付け(レーザマーキング)を行なう。
【0063】
不適正状態が1秒以上連続した状態でガスバリア膜を成膜された不適正領域は、所望の性能を有さないので、取り除くのが好ましい。
従って、このようなマーキングを行なうことにより、ガスバリア膜を成膜した後に、不適正領域を検出することが容易となる。
【0064】
ところで、本発明の製造方法は、図2に示されるように、基材Bの上に多数の層(膜)を形成した物を基板として用いてもよい。また、ガスバリア膜はピンホールによるガスバリア性の低下を低減するために、異なる層を介して、複数層が形成される場合も多い。
例えば、図2に示される例であれば、層b、dおよびfとしてガスバリア膜を成膜し、それ以外の層a,cおよびeは、他の機能を有する層を形成することも有る。
【0065】
ここで、基板Zの搬送速度は、当然、既知である。従って、不適正領域を、時間管理によって検出することは、可能である。しかしながら、前述のように多数層のガスバリア膜を成膜する場合には、回転軸24に基板ロール20が装填され、巻取り軸30まで挿通されることにより、時間で管理した不適正領域の位置に、誤差が生じる可能性も高い。
これに対し、レーザ光による焼付けのような目視(可視光による検出)可能なマーキングや、赤外線等によって検出可能なマーキングを行なうことにより、多数層のガスバリア膜を成膜する際にも、確実に、不適正領域を検出することができる。
従って、不適正領域に、マーキングを行なうことにより、このように多数層のガスバリア膜を成膜した場合であっても、各層のガスバリア膜における不適正領域を確実に検出して、不適正な製品を提供することを、防止できる。
【0066】
ガスバリア膜を成膜された基板Z(すなわち、ガスバリアフィルム)は、ドラム36からガイドローラ42に搬送され、ガイドローラ42によって案内されて、成膜室14と巻取り室16とを隔離する隔壁56に形成されたスリット56aから、巻取り室16に搬送される。
【0067】
図示例において、巻取り室16は、ガイドローラ58と、巻取り軸30と、真空排気手段60とを有する。
巻取り室16に搬送された基板Z(ガスバリアフィルム)は、ガイドローラ58に案内されて巻取り軸30に搬送され、巻取り軸30によってロール状に巻回されガスバリアフィルムロールとして、次の工程に供される。
また、先の供給室12と同様、巻取り室16にも真空排気手段30が配置され、成膜中は、巻取り室16も、成膜室14における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。
【0068】
図示例の製造装置10の成膜室14では、制御手段56は、プラズマ発光測定手段52による発光強度A〜Dの測定結果に応じて、高周波電源48によるプラズマ励起電力、ガス供給手段46による原料ガス供給量、および、真空排気手段50による排気量をフィードバック制御可能な構成を有する。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、プラズマ励起電力、原料ガス供給量、および、真空度(圧力)制御の1つのみを制御(制御可能な装置で実施)してもよく、あるいは、プラズマ励起電力、原料ガス供給量、および、真空度制御の2以上を制御(制御可能な装置で実施)してもよい。また、基板バイアス電力を制御(励起電力等と併用もしくは単独)してもよい。
好ましくは、少なくともプラズマ励起電力を制御して、発光強度A〜Dが式a〜cを満たすプラズマとして、ガスバリア膜を製造する。
【0069】
以上、本発明のガスバリア膜の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
例えば、図1に示す製造装置10は、ロール・ツー・ロールによってガスバリア膜を製造する装置であるが、本発明は、これに限定はされず、いわゆるバッチ式の製造装置でも利用可能である。
【実施例】
【0070】
CCP−CVD法による成膜を行なう一般的なCVD装置を用いて、基板に、ガスバリア膜を形成した。
【0071】
基板は、厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製 ルミラーT60 全光透過率89%)を用いた。なお、基板の面積は300cm2とした。
また、原料ガスとして、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、窒素ガス(N2)、および水素ガス(H2)を用いた。
さらに、電源として、周波数13.56MHzの高周波電源を用いた。
【0072】
基板をCVD装置の真空チャンバ内の基板ホルダにセットして、真空チャンバを閉塞した。次いで、真空チャンバ内を排気して、圧力が0.01Paとなった時点で、原料ガスを導入した。
真空チャンバ内の圧力が安定したら、高周波電源から電極にプラズマ励起電力を供給して、基板の表面にガスバリア膜を成膜し、PETフィルムを基板とするガスバリアフィルム作製した。なお、ガスバリア膜の膜厚は50nmとした。膜厚は、予め行なった実験で制御した。また、成膜中は、基板ホルダが内蔵する温度調節手段によって、基板温度が80℃以下となるように調節した。
また、ガスバリア膜の成膜中は、プラズマ発光モニタ装置(Ocean Optics社製 HR4000分光器)を用いて、414nm(主にSi−Hラジカルに由来)の発光の発光強度A、336nm(主にNHラジカルに由来)の発光の発光強度B、337nm(主にN2ラジカルに由来)の発光の発光強度C、および656nm(主にH2ラジカルに由来)の発光の発光強度Dを測定した。
【0073】
このようなガスバリアフィルムの作製を、成膜圧力を20〜250Paの間で変更(排気量および原料ガス流量で調整)し、また、プラズマ励起電力を200〜1000Wの間で変更することにより、発光強度A〜Dを、適宜、変更して行い、実施例1〜4、ならびに、比較例1〜6の合計で10種のガスバリアフィルムを作製した。
なお、実施例3および4、比較例6は、成膜圧力と原料ガスの総流量(導入した原料ガスの流量の総和)は、同一とした。この原料ガスの総流量は、使用したCVD装置において、真空排気手段が、この成膜圧力を圧力を維持できる最大流量である。
各ガスバリアフィルムおける発光強度のB/A、C/B、および、D/Bは、下記表1および表2に記す。なお、実施例1および2、比較例1〜5は表1に、実施例3および4、比較例6は表2に、それぞれ記す。また、実施例3および4、比較例6については、表2に成膜速度(静止成膜速度)[nm/min]も記す。
【0074】
作製した各ガスバリアフィルムについて、水蒸気透過率、耐酸化性、および全透過率を測定した。また、実施例3および4、比較例6に関しては、さらに、可撓性も測定した。
【0075】
[水蒸気透過率]
モコン法によって水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。なお、水蒸気透過率がモコン法の測定限界を超えたサンプルについては、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、水蒸気透過率を測定した。
【0076】
[耐酸化性]
85℃で85%RHの環境に1000時間保管する試験を行なった。すなわち、保管前後における膜組成を、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy アルバック・ファイ社製 Quantera SXM)によって測定し、耐酸化性を評価した。評価は、膜全体の組成のうち、保管前に酸化している表面や界面を除いた領域(膜厚で5〜45nmの領域)の酸素と窒素の比(O/N値)について、
保管前後の差が±3%以内(実質的に変化なし)を○;
保管前から保管後での増加が10%未満を△;
保管前から保管後での増加が10%以上を×; とした。
【0077】
[全光透過率]
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 U−4100)を用いて、波長400〜700nmでの平均透過率(基板のPETを含む)を測定した。
【0078】
[可撓性]
作製したガスバリアフィルムを、Φ10mmの円柱状の棒に100回巻きつけ、その後、光学顕微鏡やSEMで割れの有無を観察した。
割れが確認できなかったものを○;
割れが確認できたものを×; とした。
【0079】
[総合評価]
水蒸気透過率は3×10-3[g/(m2・day)]以下、耐酸化性は「○」、透明性は88%以上、を評価の指標として、
前記評価指標の3つを全て満たすものを○;
前記評価指標のうち、水蒸気透過率と、もう一つの基準を満たすものを△;
水蒸気透過率の評価指標を満たさないものを×; とした。
結果を下記表1および表2に併記する。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
上記表1および表2より明らかなように、発光強度A〜Dの全てが式a〜cを満たすプラスマで成膜した本発明の製造方法によるガスバリア膜は、ガスバリア性、高温高湿での耐酸化性、および透明性の全てが優れている。また、実施例3および4に示されるように、本発明の製造方法によるガスバリア膜は、可撓性にも優れる。ここで、実施例4は、D/Bが好ましい範囲である20未満を超えているので、成膜速度で実施例3に劣るものの、300nm/minを超える成膜速度で、ガスバリア性、高温高湿での耐酸化性、および透明性が、共に優れたガスバリア膜が得られている。
これに対して、B/Aが2以下の比較例1は、十分な透過率を得ることが出来ず、また、B/Aが20以上の比較例2は、十分な耐酸化性が得られていない。また、C/Bが2以上である比較例3は、十分な耐酸化性が得られていない。さらに、D/Bが0.5以下である比較例4は、および、B/Aが20以上で、かつ、D/Bが0.5以下である比較例5は、共に、ガスバリア性および耐酸化性が不十分である。加えて、D/Bが50を超える比較例6は、ガスバリア性および透過率が低く、しかも、成膜速度も遅いため、生産性の点でも不利である。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
液晶ディスプレイ等の各種のディスプレイや太陽電池の製造のように、高いガスバリア性のみならず、優れた透明性および耐酸化性を有するガスバリア膜が要求される各種の製品の生産に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
10 製造装置
12 供給室
14 成膜室
16 巻取り室
20 基板ロール
24 回転軸
26,40,42,58 ガイドローラ
28,50,60 真空排気手段
30 巻取り軸
32,56 隔壁
36 ドラム
38 シャワー電極
46 ガス供給手段
48 高周波電源
52 プラズマ発光測定手段
54 マーキング手段
56 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−H結合を少なくとも1つ有する原料と、N−H結合を少なくとも1つ有する原料と、窒素ガス、水素ガスおよび希ガスの少なくとも1以上とを用い、
414nmの発光の発光強度A、336nmの発光の発光強度B、337nmの発光の発光強度C、および、656nmの発光の発光強度Dが、下記式a〜cを満たすプラズマによるプラズマCVDによって、ガスバリア膜を成膜することを特徴とするガスバリア膜の製造方法。
式a 2<[B/A]<20
式b [C/B]<2
式c 0.5<[D/B]<50
【請求項2】
前記発光強度A〜Dを測定し、その測定結果に応じて、前記式a〜cを満たすように、プラズマ励起電力、圧力制御手段、および、原料供給量の少なくとも1つをフィードバック制御する請求項1に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項3】
長尺な基板を長手方向に搬送しつつ、この基板に前記ガスバリア膜を成膜する請求項1または2に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項4】
前記式a〜cの少なくとも1つから外れた状態が1秒以上連続したら、その際にガスバリア膜を成膜された領域を検出する請求項3に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項5】
前記式a〜cの少なくとも1つから外れた状態が1秒以上連続した状態でガスバリア膜を成膜された領域に、マーキングを行なう請求項4に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項6】
目視可能な前記マーキングを行なう請求項5に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項7】
前記マーキングを、製品領域外に行なう請求項5または6に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項8】
有機物からなる基板、もしくは、有機物を基材とする基板に前記ガスバリア膜を成膜する請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項9】
基板の温度を120℃以下に保ちつつ、前記ガスバリア膜を成膜する請求項1〜8のいずれかに記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項10】
先に請求項1〜9のいずれかによるガスバリア膜が成膜された基板に、さらに、ガスバリア膜を成膜する請求項1〜9のいずれかに記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項11】
基板に交流もしくは直流のバイアス電力を印加しつつ、前記ガスバリア膜を成膜するものであり、前記発光強度A〜Dを測定し、その測定結果に応じて、前記式a〜cを満たすように、前記基板に印可するバイアス電力をフィードバック制御する請求項1〜10のいずれかに記載のガスバリア膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222690(P2010−222690A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74172(P2009−74172)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】