説明

ガス検出システム

【課題】ガスセンサによる検出の信頼性を向上できるガス検出システムを課題とする。
【解決手段】ガス空間に存在し得る検出対象ガスを検出するガス検出システムであって、ガス空間に配置され、互いに異なる検出方式で検出対象ガスを検出する少なくとも二つのガスセンサと、少なくとも二つのガスセンサの出力に基づいて、少なくとも二つのガスセンサの劣化状態を判断する判断部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス空間に存在し得る検出対象ガスを検出するガス検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスセンサや、これを用いたガス検出方法は広く知られている(特許文献1ないし5参照。)。例えば、燃料電池システムの水素ガスの漏れ検出等に用いられる接触燃焼式のガスセンサは、触媒が付着された検出素子と、触媒が付着されていない温度補償素子と、を備える。このガスセンサは、設置される機器やシステムに用いられる部品から流出するシリコンによって、触媒が被毒して、検出素子の感度が低下するという問題がある。この問題は、接触燃焼式以外の他のガスセンサでも起こる。また、シリコン被毒以外にも、硫黄被毒や水分の吸着によってガスセンサが劣化するといった問題もある。
【0003】
特許文献1に記載のガス検出システムは、ガスセンサのシリコン被毒を防止しようとするものである。このガス検出システムは、ガスセンサが配置されたガス検出室の上流側にシリコントラップを配置することで、検査対象ガスに含まれるシリコンをガス検出室の上流側で除去するように構成されている。
【特許文献1】特開2003−329631号公報
【特許文献2】特開2004−20377号公報
【特許文献3】特開2004−22299号公報
【特許文献4】特開2004−20330号公報
【特許文献5】特開平9−166567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のガス検出システムでは、シリコントラップが経時的に耐久劣化してしまう。このため、ガスセンサの検出感度が次第に低下してしまい、検出漏れなどの誤検出が生じるおそれがあった。また、ガスセンサの劣化がどの程度まで進行しているのか分からなかった。
【0005】
本発明は、ガスセンサの劣化状態を把握でき、ガスセンサによる検出の信頼性を向上できるガス検出システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、本発明のガス検出システムは、ガス空間に存在し得る検出対象ガスを検出するガス検出システムであって、ガス空間に配置されて互いに異なる検出方式で検出対象ガスを検出する少なくとも二つのガスセンサと、少なくとも二つのガスセンサの出力に基づいて、少なくとも二つのガスセンサの劣化状態を判断する判断部と、を備えたものである。
【0007】
かかる構成によれば、ガスセンサが劣化した場合、その劣化がどの程度まで進行しているのかについて、少なくとも二つのガスセンサの出力に基づいて判断される。これにより、ガスセンサの劣化状態を容易に把握できる。しかも、ガスセンサが少なくとも二つあり、その検出方式が互いに異なるため、劣化時には、互いに異なる出力となり得る。これにより、一つのガスセンサで構成したり、同一の検出方式で構成したりする場合に比べて、ガスセンサの劣化状態を適切に判断できるようになる。一方で、検出対象ガスを検出するという観点においても、互いに異なる検出方式のガスセンサを用いていることで、検出対象ガスの検出精度も高めることができる。
【0008】
好ましくは、判断部は、少なくとも二つのガスセンサの出力差が閾値を超える場合には、少なくとも二つのガスセンサが劣化していると判断する。
【0009】
より好ましくは、少なくとも二つのガスセンサの一つは、劣化したときの出力が正常時よりも上がるように構成されており、もう一つは、劣化したときの出力が正常時よりも下がるように構成されている。
【0010】
かかる構成によれば、劣化時の二つのガスセンサの出力の変化が一方向である場合に比べて、劣化時の出力差が大きくなる。これにより、出力差に基づいた劣化状態の判断をより一層適切に行えるようになる。
【0011】
ここで、劣化したときの出力が正常時よりも上がるガスセンサとしては半導体式センサが好ましく、また、劣化したときの出力が正常時よりも下がるガスセンサとしては接触燃焼式センサが好ましい。
【0012】
好ましくは、検出対象ガスは水素ガスである。また、好ましくは、ガス空間は、燃料電池を収容するケース内の空間、燃料電池システムを搭載した車両の空間、燃料電池システムにおけるガス配管内の空間、及びガス配管の近傍の空間の少なくとも一つである。
【0013】
このような構成によれば、例えば、燃料電池や燃料電池システムの配管からの水素ガスの漏れを、少なくとも二つのガスセンサで検出できる。
【0014】
好ましくは、本発明のガス検出システムは、少なくとも二つのガスセンサの出力値を劣化前の初期出力値に補正する補正部を、更に備える。
【0015】
より好ましくは、判断部は、補正部により補正された初期出力値に基づいて、ガス空間中の前記検出対象ガスの濃度を判定する。
【0016】
かかる構成によれば、ガスセンサが劣化した場合であっても、ガスセンサの検出結果については信頼性を確保できる。これにより、検出の信頼性が高まり、ガスセンサの交換周期を長くできる。
【0017】
好ましくは、本発明のガス検出システムは、判断部により少なくとも二つのガスセンサが劣化していると判断された場合に、その旨を報知する報知手段を更に備える。
【0018】
かかる構成によれば、劣化したガスセンサの交換の必要性をユーザやオペレータに認識させることができる。ここで、報知手段としては、ランプなどによる表示、又はブザーなどによる音でもって、視聴覚的にユーザやオペレータに報知するものが挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガス検出システムによれば、ガスセンサの劣化状態を把握でき、検出の信頼性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るガス検出システムを燃料電池システムに適用した例について説明する。燃料電池システムは、燃料電池自動車(FCHV)、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両に搭載することができ、もちろん車両のみならず各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置型電源に適用できるものである。ここでは、燃料電池自動車に搭載した燃料電池システムを一例に説明する。
【0021】
図1は、ガス検出システムを具備する燃料電池自動車100を模式的に示す図である。
燃料電池自動車100は、車体に燃料電池システム1を搭載している。燃料電池システム1の燃料電池2が図外のインバータを介して図外の駆動モータに連結されており、駆動モータが車軸を回転させる。燃料電池自動車100及び燃料電池システム1は、制御装置200によって制御される。
【0022】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造を備えている。燃料電池2は、ケース(いわゆるスタックケース)3に収容されている。単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有している。酸化ガスとしての空気(酸素)は、コンプレッサ14により圧送され、供給配管11から燃料電池2に供給される。酸化ガスは、セパレータのガス流路2aを流れて発電に供された後、酸化オフガスとして排出配管12から排出される。
【0023】
燃料ガスとしての水素ガスは、水素供給源21から供給配管22へと流れて燃料電池2に供給される。水素供給源21は、例えば水素ガスを35MPa又は70MPaで貯留する高圧タンクで構成される。水素ガスは、セパレータのガス流路2bを流れて発電に供された後、水素オフガスとして循環配管23に流出し、再び燃料電池2に供給される。循環配管23にはパージ配管25が分岐接続されており、パージ弁26が開くことで、パージ配管25の下流の水素希釈器27に水素オフガスが排出される。水素オフガスは、水素希釈器27で水素濃度を低減された後、排ガスとして排ガス配管28から外部に放出される。
【0024】
燃料電池自動車100には、二つのガスセンサ40,50からなるセンサユニット60が複数配置されている。各センサユニット60において、二つのガスセンサ40,50は、近接して又は互いに近くに配置され、同じガス空間に存在し得る水素ガスを検出対象ガスとして検出する。それらの検出結果は、制御装置200に出力される。
【0025】
複数のセンサユニット60は、それぞれ、検出対象となるガス空間が異なっている。例えば、第1のセンサユニット60は、排出配管12に設けられ、排出配管12内のガス空間を対象とする。第2のセンサユニット60は、排ガス配管28に設けられ、排ガス配管28内のガス空間を対象とする。第3のセンサユニット60は、供給配管22の近傍の外部空間に設けられ、供給配管22外に漏れ得る水素ガスを検出する。第4のセンサユニット60は、ケース3の重力方向の上部に設けられ、ケース3内に存在し得る水素ガスを検出する。第5のセンサユニット60は、燃料電池自動車100の客室101(好ましくは客室101の重力方向の上部)に設けられ、客室101内に存在し得る水素ガスを検出する。なお、ガス空間の場所やセンサユニット60の配置は上記に限るものではない。
【0026】
第1〜第5のいずれのセンサユニット60も同じ構成であり、二つのガスセンサ40,50は制御装置200に接続されている。ただし、図1は、簡略化されているため、客室101を対象とするセンサユニット60の出力信号のみが示されている。以下では、一つのセンサユニット60について説明する。なお、任意の一つのセンサユニット60と制御装置200とにより、本発明の「ガス検出システム」が構成される。
【0027】
二つのガスセンサ40,50は、互いに異なる検出方式で水素ガスの濃度を検出する。例えば、二つのガスセンサ40,50は、半導体式センサ、接触燃焼式センサ、気体熱伝導式センサ、電流測定式センサ、及び超音波方式センサのいずれかで構成され、且つ、互いに異なる種類のもので構成される。
【0028】
半導体式センサは、例えば、酸化物半導体(酸化スズ)の表面に吸着された酸素と、ガス空間の水素とが反応することで、酸化物半導体の電気抵抗の変化から水素濃度を検出する。接触燃焼式センサは、触媒が付着された検出素子と、触媒が付着されていない温度補償素子と、を備えた構造を有する。ガス空間の水素が触媒に接触すると触媒が燃焼して熱を発生する。このとき、相対的に高温の検出素子と相対的に低温の温度補償素子との間に生じる電気抵抗を基に、水素濃度が検出される。気体熱伝導式センサは、ガス空間の水素により温度低下する検出素子と、ガス空間の水素とは隔絶されている一定温度の温度補償素子とを備えた構造を有し、検出素子と温度補償素子との間に生じる電気抵抗を基に水素ガス濃度を検出する。電流測定式センサは、例えば、ナフィオンを電解質として用いたものである。超音波方式センサは、圧電素子を利用して超音波を発生する方式のものである。
【0029】
本実施形態では、ガスセンサ40は公知の半導体式センサで構成され、ガスセンサ50は公知の接触燃焼式センサで構成されている。以下、ガスセンサ40を「半導体式センサ40」と記載し、ガスセンサ50を「接触燃焼式センサ50」と記載する。
【0030】
図2及び図3は、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒による出力値の変化を示すグラフである。両図において、横軸は時間(及び使用状況)であり、縦軸はある一定水素濃度に対する出力値である。
【0031】
図2の曲線L1に示すように、半導体式センサ40は、シリコンによって被毒されるにつれて、出力値が上がる被毒傾向を有している。つまり、半導体式センサ40の出力値は、ある一定水素濃度に対して、正常時(すなわち、被毒前)であれば初期値V0であるが、被毒されるほど初期値V0よりも次第に大きいものとなる。なお、この水素濃度よりも高い水濃度では、曲線L1は図2に示す位置よりも上方に平行移動するようになる(図6のL1´参照)。
【0032】
図3の曲線L2に示すように、接触燃焼式センサ50は、シリコンによって被毒されるにつれて、出力値が下がる被毒傾向を有している。つまり、接触燃焼式センサ50の出力値は、図2と同じある一定水素濃度に対して、正常時であれば初期値V0であるが、被毒されるほど初期値V0よりも次第に小さいものとなる。なお、この水素濃度よりも高い水濃度では、曲線L2は図2に示す位置よりも上方に平行移動するようになる(図6のL2´参照)。
【0033】
このように、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50は、出力値に関して互いに逆の被毒傾向を示す。被毒は、一方のガスセンサが他方のガスセンサに優先して起きる場合もあるが、通常は両方のガスセンサ(40及び50)で同時に起きる。なお、ある一定水素濃度に対して、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の初期値を同じ値に設定しているが、もちろん違う値に設定してもよい。
【0034】
再び、図1に戻って、制御装置200について説明する。
制御装置200は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、ガス漏れ判断やガスセンサの劣化判断など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0035】
制御装置200は、センサユニット60の半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50のほか、燃料電池システム1の図示省略した温度センサや燃料電池車両のアクセル開度を検出するアクセル開度センサ等からの検出信号を入力する。また、制御装置200は、これらの検出信号等に基づいて、RAM内の各種データ等を処理して、燃料電池システム1及び燃料電池車両100の各構成要素を制御する。
【0036】
制御装置200は、センサユニット60に関連する機能処理部として、判断部210と補正部220とを備えている。判断部210は、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力に基づいて、検出対象である各ガス空間で水素ガスが漏れているか否かを判断する。また、判断部210は、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力に基づいて、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50が被毒しているか否かを判断する(詳細は後述する。)。補正部220は、被毒で変化した半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を劣化前の初期出力値に補正する。
【0037】
報知装置300は、判断部210による判断結果を、車両の乗員、ユーザ又はオペレータに報知可能に構成されている。報知装置300は、ランプなどの表示装置で構成されてもよいし、ブザーなどの音声装置で構成されてもよい。あるいは、報知装置300は、微振動などにより乗員等に判断結果を伝達するものであってもよい。
【0038】
具体的には、水素ガスの漏洩が生じている旨が判断部210により判断された場合、報知装置300はその旨を乗員等に報知する。また、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50が被毒により劣化している(つまり、劣化状態である)旨が判断部210により判断された場合、報知装置300はその旨を乗員等に報知する。この場合、報知装置300は、劣化状態のレベルに応じた報知をしてもよい。例えば、劣化状態が初期レベルから末期レベルになるにつれて、点灯又は点滅させるランプの色を変えても良い。
【0039】
ここで、図4及び図5を参照して、本発明のガス検出システムの被毒探知方法について説明する。
【0040】
図4は、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒による出力値の変化を示すグラフであり、横軸が時間(及び使用状況)であり、縦軸がある一定水素濃度に対する出力値である。
【0041】
曲線L1は、図2に示したように、被毒により変化する半導体式センサ40の出力値を示す。曲線L2は、図3に示したように、被毒により変化する接触燃焼式センサ50の出力値を示す。いずれも、ある一定水素濃度での初期出力値はV0に設定される。ある一定水素濃度に対し、半導体式センサ40の出力値が出力値Vyを超える場合には、半導体式センサ40は交換を要するほどの劣化状態にある。同様に、ある一定水素濃度に対し、接触燃焼式センサ50の出力値が出力値Vxを下回る場合には、接触燃焼式センサ50は交換を要するほどの劣化状態にある。
【0042】
ここで、例えば半導体式センサ40の出力値が出力値Vyを超えることだけを基に、半導体式センサ40が劣化しているとは判断できない。なぜなら、より高い水素濃度では、半導体式センサ40の出力値が更に大きくなり、ガス漏れであるのか、半導体式センサ40の劣化であるのかが区別し難いからである。なお、接触燃焼式センサ50の出力値が出力値Vxを下回る場合についても同様である。
【0043】
そこで、判断部210は、ある時間における半導体式センサ40の出力値と接触燃焼式センサ50の出力値との差、すなわち出力差△Vを基準に、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の劣化状態を判断する。図5をも参照して具体的に説明する。
【0044】
出力差△Vが第1の閾値△V1よりも小さい場合には、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50は正常であると判断される。ここで、閾値△V1では、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50は実際には僅かに被毒しているが、その交換までは要求されない。閾値△V1は△V0-1よりも僅かに小さい値であり、△V0-1と△V0-2の間には、次式(1)が成り立つ関係がある。
△V0-1=△V0-2×Sf ・・・(1)
ここで、△V0-2は、被毒劣化に対する最大の許容幅であり、VyからVxを減算した値である。Sfは、安全率であり、例えば0.7〜0.8に設定される。
【0045】
出力差△Vが第1の閾値△V1よりも大きく第2の閾値△V2よりも小さい場合には、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50は、劣化状態が初期レベルと判断され、要交換であると判断される。この劣化状態では、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒が無視できず、交換が望まれる。この場合、報知装置300は、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の交換周期が到来した旨を、乗員等に報知する。
【0046】
第2の閾値△V2に関しては、次のような式(2)が成り立っている。
△V1<△V0-1<△V2<△V0-2 ・・・(2)
本実施形態では、第2の閾値△V2は、接触燃焼式センサ50が交換を要するほどの劣化状態にあるときの出力差に設定されている。
【0047】
出力差△Vが第2の閾値△V2よりも大きい場合には、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50は、劣化状態が末期レベルと判断され、早期に交換を要すると判断される。この劣化状態では、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒は許容値を超えており、早期に交換される必要がある。この場合、報知装置300は、上記同様に、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の交換を乗員等に報知すると共に、燃料電池システム1又は燃料電池車両100の運転を停止するべき旨を乗員等に警報してもよい。また、制御装置200は、燃料電池車両100を退避走行させるようにしてもよい。
【0048】
このように、本実施形態のガス検出システムは、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力、特に両者の出力差を閾値と比較することで、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の劣化状態を判断している。したがって、劣化がどの程度まで進行しているのかが分かると共に、比較的早い段階でしかも容易に、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50が劣化状態であることを探知できる。
【0049】
特に、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒傾向が逆であるため、被毒時には大きな出力差となり、劣化状態の判断がし易くなる。また、劣化している場合にはセンサ交換が必要な旨が報知等されるため、ガスセンサ(40,50)による検出の信頼性を向上でき、車両100の安全性を大きく向上できる。
【0050】
次に、図6ないし図8を参照して、被毒で変化した半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を補正する方法について説明する。
【0051】
図6は、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒による出力値の変化を示すグラフである。横軸が時間(及び使用状況)であり、縦軸が出力値である。
曲線L1及び曲線L2は、上記の図2ないし図4に示したように、第1の水素濃度に対する半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値の変化を示す。曲線L1´及び曲線L2´は、第1の水素濃度よりも高い第2の水素濃度に対する半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値の変化を示す。曲線L1´及び曲線L2´は、曲線L1及び曲線L2を縦軸の上方に平行移動したような曲線である。
【0052】
ある時間t1において、第1の水素濃度では出力差△Vとなり、第2の水素濃度では出力差△V´となる。この場合、以下の式(3)を満たす。
△V≒△V´ ・・・(3)
つまり、水素濃度の大きさによる出力差の変化は無視できるほど小さく、出力差は、主に時間(使用時間及び使用状況)に起因して変化することがわかる。
【0053】
図7は、図4と同様の図であり、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の被毒による出力値の変化を示すグラフであり、横軸が時間(及び使用状況)であり、縦軸が第1の水素濃度に対する出力値である。被毒前の正常の半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50は、第1の水素濃度のとき、同じ初期出力値V0となる。
【0054】
図7から分かるように、時間t1における出力差△V、接触燃焼式センサ50の出力値Vs、接触燃焼式センサ50の出力値Vc、被毒による半導体式センサ40の出力変化分△Vs、及び被毒による接触燃焼式センサ50の出力変化分△Vcについては、以下の関係式(4)〜(7)が成立する。
△V=Vs−Vc ・・・(4)
△V=△Vs+△Vc ・・・(5)
△Vs=Vs−V0 ・・・(6)
△Vc=V0−Vc ・・・(7)
【0055】
補正部220が、被毒で変化した半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を補正する一連の流れについて説明する。先ず、これらのセンサ40及び50が被毒し、その出力値がVs及びVcとなると、出力差△Vが発生する。出力差△Vが発生したとき、制御装置200は、図8に示すグラフを参照し、出力差△Vから出力変化分△Vs及び△Vcを求める。
【0056】
具体的には、制御装置200は、図8に示す直線M1を参照して、出力差△Vから出力変化分△Vsを求め、図8に示す直線M2を参照して、出力差△Vから出力変化分△Vcを求める。なお、直線M1及びM2は、図2及び図3に示す半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の特性から得られるものであり、それぞれ、出力差と半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力変化分との関係を示しており、上記の制御装置200のROMにデータとして格納されている。
【0057】
出力変化分△Vs及び△Vcの算出後、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の補正出力値V0S及びV0Cをそれぞれ求める。この算出式は、下記に示す式(8)及び(9)である。
Vs−△Vs=V0S ・・・(8)
Vc+△Vc=V0C ・・・(9)
【0058】
その後、補正出力値V0S及びV0Cを平均することで、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の平均出力値Vaveを求める。この算出式は、下記の式(10)である。
ave=(V0S+V0C)/2 ・・・(10)
【0059】
ここで、平均出力値Vaveは、初期出力値V0に等しい。なぜなら、上記式(6)〜(8)を変形することによって、式(11)が成り立つからである。
0=(V0S+V0C)/2 ・・・(11)
【0060】
このように、補正部220は、上記の流れに従って計算することで、被毒した半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を被毒前の初期出力値V0(=平均出力値Vave)に補正することができる。判断部210は、補正部220による補正後の出力値をもとに、水素ガスの濃度を判断し、水素ガスが漏洩しているか否かを判断する。
【0061】
したがって、本実施形態のガス検出システムによれば、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50が被毒した場合であっても、水素ガスの濃度を確実に判断でき、水素ガスの漏洩の有無を適切に判断できる。つまり、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50による検出精度は被毒後も良好に維持できるので、その検出の信頼性を確保できる。このことを違う観点からみれば、被毒後も出力値を補正しながら用いることで、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の交換周期を長くできることを意味する。
【0062】
なお、補正部220は、出力差△Vが0よりも大きいときに、半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を補正すれば良い。したがって、出力差△Vが第1の閾値△V1よりも小さい場合にも、つまり被毒した半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50が正常であると判断される場合にも、補正部220は半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を補正すればよい。好ましくは、出力差△Vが第1の閾値△V1以上の場合に、補正部220は半導体式センサ40及び接触燃焼式センサ50の出力値を補正すればよい。
【0063】
<変形例>
センサユニット60を構成するガスセンサは、3つ以上であってもよく、互いに異なる3つ以上の検出方式で構成してもよい。例えば、半導体式センサ、接触燃焼式センサ及び気体熱伝導式センサからなる3つのガスセンサでセンサユニット60を構成しても良い。この場合、各ガスセンサの劣化判定では、任意の二つのガスセンサの出力差を用いればよい。もっとも、ガスセンサの数を増やすと部品点数が増えるので、センサユニット60を構成するガスセンサは上記した二つが好ましい。
【0064】
二つのガスセンサでセンサユニット60を構成する場合、上記のように、被毒傾向が反対となるものを用いることが好ましい。ただし、本発明の一態様では、被毒傾向が同じガスセンサを二つ用いてセンサユニット60を構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記では、本発明のガス検出システムは、燃料電池システム1のみならず、特に可燃性の燃料ガスを用いるシステムにも有用である。可能性の燃料ガスとしては、水素ガス以外に例えば圧縮天然ガスが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施形態に係るガス検出システムを具備する燃料電池自動車を模式的に示す図である。
【図2】実施形態に係る半導体式センサの被毒による出力値の変化を示すグラフである。
【図3】実施形態に係る接触燃焼式センサの被毒による出力値の変化を示すグラフである。
【図4】実施形態に係る半導体式センサ及び接触燃焼式センサの被毒による出力値の変化を示すグラフであり、劣化状態を判断するのに用いられるグラフである。
【図5】実施形態に係る半導体式センサと接触燃焼式センサとの出力差と、被毒判断との関係を示す表である。
【図6】実施形態に係る半導体式センサ及び接触燃焼式センサの被毒による出力値の変化を示すグラフであり、水素濃度が変化した場合の出力値の変化を示すグラフである。
【図7】実施形態に係る半導体式センサ及び接触燃焼式センサの被毒による出力値の変化を示すグラフであり、出力値の補正方法の説明に用いられるグラフである。
【図8】実施形態に係る半導体式センサと接触燃焼式センサとの出力差と、半導体式センサ及び接触燃焼式センサの出力変化分との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1:燃料電池システム、2:燃料電池、3:ケース、12:排出配管(ガス配管)、22:供給配管(ガス配管)、23:循環配管(ガス配管)、25:パージ配管(ガス配管)、28:排ガス配管(ガス配管)、40:半導体式センサ(ガスセンサ)、50:接触燃焼式センサ(ガスセンサ)、60:センサユニット、100:燃料電池自動車、200:制御装置、210:判断部、220:補正部、300:報知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス空間に存在し得る検出対象ガスを検出するガス検出システムであって、
前記ガス空間に配置され、互いに異なる検出方式で前記検出対象ガスを検出する少なくとも二つのガスセンサと、
前記少なくとも二つのガスセンサの出力に基づいて、当該少なくとも二つのガスセンサの劣化状態を判断する判断部と、を備えたガス検出システム。
【請求項2】
前記判断部は、前記少なくとも二つのガスセンサの出力差が閾値を超える場合には、当該少なくとも二つのガスセンサが劣化していると判断する、請求項1に記載のガス検出システム。
【請求項3】
前記少なくとも二つのガスセンサの一つは、劣化したときの出力が正常時よりも上がるように構成されており、もう一つは、劣化したときの出力が正常時よりも下がるように構成されている、請求項2に記載のガス検出システム。
【請求項4】
前記少なくとも二つのガスセンサには、半導体式センサと接触燃焼式センサとが含まれる、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のガス検出システム。
【請求項5】
前記検出対象ガスは、水素ガスである、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のガス検出システム。
【請求項6】
前記ガス空間は、燃料電池を収容するケース内の空間、燃料電池車両の空間、燃料電池システムにおけるガス配管内の空間、及び当該ガス配管の近傍の空間の少なくとも一つである、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のガス検出システム。
【請求項7】
前記少なくとも二つのガスセンサの出力値を劣化前の初期出力値に補正する補正部を、更に備えた、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のガス検出システム。
【請求項8】
前記判断部は、前記補正部により補正された初期出力値に基づいて、前記ガス空間中の前記検出対象ガスの濃度を判定する、請求項7に記載のガス検出システム。
【請求項9】
前記判断部により前記少なくとも二つのガスセンサが劣化していると判断された場合に、その旨を報知する報知手段を更に備えた、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のガス検出システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−327926(P2007−327926A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161479(P2006−161479)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】