説明

ガス検知方法及びガス検知装置

【課題】燃料ガスと不完全燃焼ガスとを、メタンガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを用い、燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを有効に活用できるガス検知装置を提供する。
【解決手段】COガスセンサ2が故障の場合には、メタンガスセンサ1がメタンガス検知に適した状態に達するタイミングでメタンガス検知値を取得するとともにCOガス検知に適した状態に達するタイミングでガス検知値をCOガス検知値として燃料ガス検知値取得部44aに取得させる第1検知制御部43aと、メタンガスセンサが故障の場合には、COガスセンサがCOガス検知に適した状態に達するタイミングでCOガス検知値を取得するとともにメタンガス検知に適した状態に達するタイミングでガス検知値をメタンガス検知値として不完全燃焼ガス検知値取得部42bに取得させる第2検知制御部43bとからなるガス検知装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定温度域で不完全燃焼ガスを検知可能な燃料ガスセンサと、特定温度域で燃料ガスを検知可能な不完全燃焼ガスセンサとを用いたガス検知方法、及びこの方法を実施するガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のガス検知に関する従来技術の1つに、センサ感応部として主に酸化スズよりなる酸化物半導体を備えた低熱容量の熱線型半導体式ガスセンサがある。このセンサでは、原子価制御された酸化スズSnO2を主成分とするとともに燃焼不活性の耐熱性のある4価の金属酸化物を担持したセンサ感応部を備えている。さらに、このセンサはセンサ感応部の温度を、燃料ガスを検知するための燃料ガス検知温度と、燃料ガス検知温度とは異なる不完全燃焼ガスを検知するための不完全燃焼ガス検知温度とに交互に切替える切替え手段を備えてある。これにより、メタンを主成分とする燃料ガスと一酸化炭素を主成分とする不完全燃焼ガスとを識別検知する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−174725号公報(段落番号0005−0007、0018、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1によるガス検知装置は、センサ感応部の温度を低温と高温の間で繰り返し変化させ、燃料ガスを検知するために適した温度域で燃料ガスを検知し、不完全燃焼ガスを検知するために適した温度域で不完全燃焼ガスを検知する。これにより、1つのガスセンサで燃料ガスと不完全燃焼ガスとを識別検知することを実現している。しかしながら、1つのガスセンサ、つまり1つのガス感応部で燃料ガスと不完全燃焼ガスとを識別検知する構成を採用しているため、そのガス感応部の検知能力を、それぞれのガスに対して最適にすることは困難である。
【0005】
この問題を解消するため、燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを備えたガス検知装置によって、燃料ガスと不完全燃焼とを識別検知することが考えられる。しかしながら、単純に2つのガスセンサ、つまり燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを備えることは経済的な問題から、単に燃料ガスと不完全燃焼とを識別検知できるという利点以外の付加的な利点がないと、その実用化は難しい。
上記実状に鑑み、本発明の課題は、燃料ガスと不完全燃焼ガスとを、燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを用いて識別検知するガス検知技術において、燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを有効に活用できるガス検知技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、特定温度域で不完全燃焼ガスを検知可能な燃料ガスセンサと、特定温度域で燃料ガスを検知可能な不完全燃焼ガスセンサとを用いた、本発明によるガス検知方法は、前記燃料ガスセンサを燃料ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第1加熱電流印加ステップと、前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として取得するステップと、前記不完全燃焼ガスセンサを不完全燃焼ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第2加熱電流印加ステップと、前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として取得するステップと、前記燃料ガスセンサ及び前記不完全燃焼ガスセンサの故障を判定するステップと、前記燃料ガスセンサが故障と判定された場合には、前記不完全燃焼ガスセンサが前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として取得するステップと、前記不完全燃焼ガスセンサが故障と判定された場合には、前記燃料ガスセンサが前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として取得するステップとからなる。
【0007】
この特徴構成では、どちらか一方のガスセンサが故障した場合でも、燃料ガスと不完全燃焼ガスの両方を識別検知することが可能となる。つまり、燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサのうちどちらかのガスセンサの故障が判定された場合、故障と判定された方のガスセンサが検知するべき種類のガスを故障でない方のガスセンサが検知するように設定することで、燃料ガスと不完全燃焼ガスの両方を検知可能な状態が維持される。これは、ここで使用されている不完全燃焼ガスセンサが燃料ガスの検知に適した状態に変態することが可能であり、その状態に達するタイミングで取得されたガス検知値が燃料ガス検知値として利用できること、及びここで使用されている燃料ガスセンサが不完全燃焼ガスの検知に適した状態に変態することが可能であり、その状態に達するタイミングで取得されたガス検知値が不完全燃焼ガス検知値として利用できることに基づいている。
【0008】
上記課題を解決するため、特定温度域で不完全燃焼ガスを検知可能な燃料ガスセンサと、特定温度域で燃料ガスを検知可能な不完全燃焼ガスセンサとを用いた、本発明によるガス検知装置は、前記燃料ガスセンサを燃料ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第1加熱電流印加部と、前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として取得する燃料ガス検知値取得部と、前記不完全燃焼ガスセンサを不完全燃焼ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第2加熱電流印加部と、前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として取得する不完全燃焼ガス検知値取得部と、前記燃料ガスセンサ及び前記不完全燃焼ガスセンサの故障を判定するセンサ故障判定部と、前記不完全燃焼ガスセンサが故障と判定された場合には、前記燃料ガスセンサが前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として前記燃料ガス検知値取得部に取得させる第1検知制御部と、前記燃料ガスセンサが故障と判定された場合には、前記不完全燃焼ガスセンサが前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として前記不完全燃焼ガス検知値取得部に取得させる第2検知制御部とからなる。当然ながら、このガス検知装置も上記ガス検知方法で述べたすべての作用効果を得ることができる。
【0009】
一酸化炭素などの不完全燃焼ガスの検知に先立って500℃程度のパージ加熱のために加熱電流が印加される熱線型半導体式不完全燃焼ガスセンサが知られている。このパージ加熱のために昇温されたタイミングが不完全燃焼ガスセンサにおけるメタンなどの燃料ガス検知にとって好適となる。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記不完全燃焼ガスセンサが熱線型半導体式であり、当該不完全燃焼ガスセンサが前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングが、前記第1加熱電流印加部における加熱電流の印加終了時(ここでの、印加終了時には印加終了時近傍の概念も含まれている)に設定されている。
【0010】
また、加熱電流の印加を通じてそのガス感応部をメタンガスなどの燃料ガスの検知適正状態にするために500℃程度の温度域に昇温させる熱線型半導体式燃料ガスセンサが知られている。そのガス感応部が500℃程度に昇温するまでには一酸化炭素などの不完全燃焼ガス検知にとって適した200〜300℃程度の温度域を経過することになるので、この燃料ガスセンサは不完全燃焼ガス検知にも用いることができる。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記燃料ガスセンサが熱線型半導体式であり、当該前記燃料ガスセンサが前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングが、前記第2加熱電流印加部における加熱電流の印加直後、例えば、印加後1秒程度に設定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態では、ガス検知装置は、メタンを主成分とする燃料ガスと、不完全燃焼により発生し、主として一酸化炭素(水素ガスを含む場合もある)である不完全燃焼ガスとを識別検知するように構成されている。図1に、このガス検知装置の機能ブロック図が示されている。メタンガスと一酸化炭素(以後、COガスと呼ぶ)とを検知するため、メタンガスセンサ1とCOガスセンサ2、及びメタンガスセンサ1による信号値を処理する第1測定処理系とCOガスセンサ2によるガス信号値を処理する第2測定処理系とが備えられている。
【0012】
この実施形態におけるメタンガスセンサ1は、熱線型半導体式メタンガスセンサであり、図2に示すように、貴金属線材11に対して金属酸化物半導体層12が球状に被覆され、金属酸化物半導体層12の外表面に粗粒層13が形成された構造を有している。貴金属線材11として白金線コイルが用いられている。金属酸化物半導体として、スズ塩を加水分解して生成されたコロイド状の白色沈殿物を乾燥することによって得られた酸化スズが用いられている。この酸化スズは破砕され微粒子化された後、水や有機溶媒の分散媒でペースト状にして白金線コイル1に球状に塗布された形態となっている。この酸化スズ(金属酸化物半導体層12)に、金属或いは金属酸化物の少なくとも一方を含む粗粒を付着させることで粗粒層13が形成されている。
【0013】
このメタンガスセンサ1は、常温と高温(500℃程度)との間を繰り返すパターンで動作し、その高温時においてメタンガスが適切に検知される。このメタンガスセンサ1は、常温と高温の間で繰り返し熱負荷を受けるが、粗粒層13が金属酸化物半導体層12の表面を均一な状態で被覆しており、ガス感応部である金属酸化物半導体層12と粗粒層13がそれぞれ一体となっているため、繰り返し熱負荷による粗粒層3のひび割れや剥離が生じにくくなっている。
【0014】
この実施形態におけるCOガスセンサ2は、熱線型半導体式COガスセンサであり、図3に示すように、貴金属線材としての約30μm径の白金線コイル21を覆うように酸化インジウムを0.5mm径に設けるとともにその酸化インジウムを600℃で1時間焼成することでガス感応部22が形成され、さらにガス感応部22にパラジウムが0.05mol%添加されたものである。このCOガスセンサ2は常温でCOガスを最適に検知することができる常温作動型であるが、パージのために、ガス検知が終える毎に高温(500℃程度)に加熱される。
【0015】
上述したように、メタンガスセンサ1は極小に構成されており、センサの熱制御が容易なので、センサを容易にメタンガス検知に適した高温域(500℃近傍)に昇温することができ、さらに高温でのメタンの吸脱着が速いため、センサ温度が高温域に達してからすぐに(数秒以内)メタンガス検知を行うことができる。同様にCOガスセンサ2も極小に構成されており、昇降温時の熱平衡が非常に速く、吸着脱離平衡も速いので、COガスの検知はパージ加熱完了後10秒以内で低温域(常温)でのCOガス検知を行うことができる。
【0016】
ここで用いられているメタンガスセンサ1の、センサ温度とセンサ感度(抵抗値変化)との関係が図4のグラフに示されている。図4から、このメタンガスセンサ1が200℃付近の温度域ではCOガスの選択性をもった検知が可能であり、約500℃以上の温度域ではメタンガスの選択性をもった検知が可能であることが理解できる。さらに、ここで用いられているCOガスセンサ2の、センサ温度とセンサ感度(抵抗値変化)との関係が図5のグラフに示されている。図5から、このCOガスセンサ2が、常温付近の温度域ではCOガスの選択性をもった検知が可能であり、400℃付近の温度域ではメタンガスの選択性をもった検知が可能であることが理解できる。
【0017】
図6のグラフには、メタンガスセンサ1のメタンガス検知温度域におけるメタンガス濃度の上昇に伴ってセンサ感度が上昇していく関係が示されている(COガスに対してはその濃度上昇にかかわらず実質的にセンサ感度は変化しない)。この図からメタンガスセンサ1がメタンガス濃度を適正に検知できることが理解できる。さらに、図7のグラフには、COガスセンサ2のCOガス検知温度域におけるCOガス濃度の上昇に伴ってセンサ感度が上昇していく関係が示されている(メタンガスに対してはその濃度上昇にかかわらず実質的にセンサ感度は変化しない)。この図からCOガスセンサ2がCOガス濃度を適正に検知できることが理解できる。
【0018】
また、図8のグラフには、メタンガスセンサ1のCOガス検知温度域におけるCOガスのガス濃度の上昇に伴ってセンサ感度が上昇していく関係が示されている(メタンガスに対してはその濃度上昇にかかわらず実質的にセンサ感度は変化しない)。この図からこのメタンガスセンサ1が特定温度域でCOガス濃度をも適正に検知できることが理解できる。さらに、図9のグラフには、COガスセンサ2のメタンガス検知温度域におけるメタンガスのガス濃度の上昇に伴ってセンサ感度が上昇していく関係が示されている(COガスに対してはその濃度上昇にかかわらず実質的にセンサ感度は変化しない)。この図からこのCOガスセンサ2が特定温度域でメタンガス濃度をも適正に検知できることが理解できる。
【0019】
さらに図1を用いて、上記のようなメタンガスセンサ1とCOガスセンサ2とを用いたガス検知装置を詳説する。メタンガスセンサ1と接続している第1検出回路部31と、COガスセンサ2と接続している第2検出回路部32との構造は実質的に同じである。即ち、白金線コイル11又は21をホーイストンブリッジ内の一抵抗として組み込み、その合成抵抗値の変化をガス検知値として検出してメタンガス又はCOガスの検知を行う仕組みを有する。
【0020】
メタンガスセンサ1に対してその白金線コイル11にパルス状の加熱電流を印加することでメタンガスセンサ1をメタンガス検知に適した状態である高温度域(500℃程度)とする第1加熱電流印加部33が備えられている。この第1加熱電流印加部33は第1検出回路部31に接続されており、第1検出回路部31の回路を利用して、メタンガスセンサ1の白金線コイル11に加熱電流印加パルスを送り込む。同様に、COガスセンサ2に対してその白金線コイル21にパルス状の加熱電流を印加することでパージに適した高温度域(500℃程度)に昇温する第2加熱電流印加部34が備えられている。この第2加熱電流印加部34は第2検出回路部32に接続されており、第2検出回路部32の回路を利用して、メタンガスセンサ1の白金線コイル11に加熱電流印加パルスを送り込む。
【0021】
このガス検知装置のコントローラ4には、メタンガスセンサ1による信号値を処理する第1測定制御系と、COガスセンサ2による信号値を処理する第2測定制御系と、共通の測定評価系が組み込まれている。コントローラ4によって危険レベルを超えるメタンガスやCOガスの検知が確認された場合、ブザー5やランプ6などの機器を通じて警報が報知される。
【0022】
コントローラ4の第1測定制御系には、第1加熱電流印加部33に対して所定繰り返し周波数で加熱電流印加パルスをメタンガスセンサ1に送り出すための制御信号を付与する加熱制御部41aと、メタンガスの検知に適した状態のメタンガスセンサ1によるガス検知値をメタンガス検知値として第1検出回路部31から取得する燃料ガス検知値取得部42aと、この燃料ガス検知値取得部42aとに対してメタンガスセンサ1がメタンガスの検知に適した状態に達したタイミングを指示する第1検知制御部43aと、メタンガスセンサ1からのガス検知値などを評価してメタンガスセンサ1の断線などの故障を判定する燃料ガスセンサ故障判定部44aが含まれている。
【0023】
図10には、第1加熱電流印加部33がメタンガスセンサ1へ送り出す加熱電流印加パルスと、この加熱電流印加パルスによるメタンガスセンサ1の温度変化の様子、燃料ガス検知値取得部42aに対してメタンガスセンサ1によるガス検知値をメタンガス検知値として取得するタイミングを指示するために第1検知制御部43aが送出するメタンガス検知パルスとの関係を示すタイミングチャートが示されている。
【0024】
このタイミングチャートから明らかなように、メタンガスセンサ1は、所定時間間隔(例えば10秒程度)で送り出される加熱電流印加パルスによってその都度常温から約500℃に昇温され、メタンガスセンサ1が約500℃に昇温されたタイミング、つまり加熱電流印加パルスの立ち下がり点の少し手前からほぼ立ち下がり点の間で、メタンガス検知パルスが送出され、メタンガス検知値が取得される。
【0025】
コントローラ4の第2測定制御系には、第2加熱電流印加部34に対して所定繰り返し周波数でパージ用の加熱電流印加パルスをCOガスセンサ2に送り出すための制御信号を付与する加熱制御部41bと、COガスの検知に適した状態のメタンガスセンサ1によるガス検知値をCOガス検知値として第2検出回路部32から取得する不完全燃焼ガス検知値取得部42bと、この燃料ガス検知値取得部42bに対してCOガスセンサ2がCOガスの検知に適した状態に達したタイミングを指示する第2検知制御部43bと、COガスセンサ2からのガス検知値などを評価してCOガスセンサ2の断線などの故障を判定する不完全燃焼ガスセンサ故障判定部44bが含まれている。
【0026】
図11には、第2加熱電流印加部34がパージ目的でメタンガスセンサ1へ送り出す加熱電流印加パルスと、この加熱電流印加パルスによるメタンガスセンサ1の温度変化の様子、不完全燃焼ガス検知値取得部42bに対してCOガスセンサ2によるガス検知値をCOガス検知値として取得するタイミングを指示するために第2検知制御部43bが送出するCOガス検知パルスとの関係を示すタイミングチャートが示されている。
【0027】
このタイミングチャートから明らかなように、COガスセンサ2は、所定時間間隔(例えば10秒程度)で送り出される加熱電流印加パルスによってその都度常温から約500℃に昇温され、パージされるとともに、COガスセンサ2が常温に戻されたタイミング、つまり加熱電流印加パルスのほぼ立ち上がり点で、COガス検知パルスが送出され、COガス検知値が取得される。
【0028】
本発明によるガス検知装置では、燃料ガスセンサとしてのメタンガスセンサ1と不完全燃焼ガスセンサとしてのCOガスセンサ2とのうちどちらかのガスセンサの故障が判定された場合、故障と判定された方のガスセンサが検知するべき種類のガスを故障でない方のガスセンサが検知するように設定することできる。つまり、不完全燃焼ガスセンサ故障判定部44bによってCOガスセンサ2が故障と判定された場合には、メタンガスセンサ1がCOガスの検知に適した状態に達するタイミングで、第1検知制御部43aがメタンガスセンサ1によるガス検知値をCOガス検知値として燃料ガス検知値取得部42aに取得させる。この実施形態では、メタンガスセンサ1がCOガスの検知に適した状態に達するタイミングは、図12で示しているように、メタンガスセンサ1へ送り出された加熱電流印加パルスの立ち上がり点から約1秒後の時点である。この時点で、メタンガスセンサ1の温度は約250℃となり、COガスを検知できる状態となる。図12から明らかなように、加熱電流印加パルスの各パルス繰り返し間隔において、第1検知制御部43aがCOガス検知パルスを燃料ガス検知値取得部42aに送ることでCOガス検知値が取得され、メタンガス検知パルスを燃料ガス検知値取得部42aに送ることでメタンガス検知値が取得される。
【0029】
また、燃料ガスセンサ故障判定部44aによってメタンガスセンサ1が故障と判定された場合にはCOガスセンサ2がメタンガスの検知に適した状態に達するタイミングで、第2検知制御部43bがCOガスセンサ2によるガス検知値をメタンガス検知値として不完全燃焼ガス検知値取得部42bに取得させる。この実施形態では、COガスセンサ2がメタンガスの検知に適した状態に達するタイミングは、図5から理解できるようにCOガスセンサ2の温度が400℃前後となっている時であるので、図13で示しているように、COガスセンサ2へ送り出された加熱電流印加パルスの立ち下がり点の少し手前からほぼ立ち下がり点の間となる。この時点では、COガスセンサ2の温度は400℃前後となっており、メタンガスを検知できる状態となる。図13から明らかなように、加熱電流印加パルスの各パルス繰り返し間隔において、第2検知制御部43bがCOガス検知パルスを不完全燃焼ガス検知値取得部42bに送ることでCOガス検知値が取得され、メタンガス検知パルスを不完全燃焼ガス検知値取得部42bに送ることでメタンガス検知値が取得される。
【0030】
コントローラ4の測定評価系には、燃料ガス検知値取得部42aによって取得されたメタンガス検知値と不完全燃焼ガス検知値取得部42bによって取得されたCOガス検知値を所定の測定間隔で順次受け取り、それぞれの判定条件に基づいて評価することにより危険レベルのメタンガス発生やCOガス発生あるいは火災発生を判定する検知値評価部45と、この検知値評価部45の判定結果に基づいてメタンガス発生警報情報やCOガス発生警報情報や火災発生警報情報を生成して、ブザー5やランプ6を通じて警報報知する警報処理部46が含まれている。
【0031】
上述したように構成されたガス検知装置におけるガス検知制御の一例を図14と図15のフローチャートを用いて説明する。
メタンガス検知とCOガス検知の繰り返し検知間隔が異なる場合、まず、どちらのガスセンサによるガス検知を行うかどうかがチェックされる(#01)。このチェックは内部クロックと予め設定された各ガス検知の繰り返し検知間隔とに基づいて決定することができる。ステップ#01のチェックでメタンガス検知のタイミングである場合、第1加熱電流印加パルスがメタンガスセンサ1に印加される(#02)。図12から理解できるように、第1加熱電流印加パルスの立ち下がりの立ち下がり点の少し手前からほぼ立ち下がり点の間の時点でメタンガスセンサ1の温度はメタンガス検知に適した高温度域(約500℃)に達するので、第1加熱電流印加パルスの少し手前であるかどうかがチェックされる(#03)。第1加熱電流印加パルスの立ち下がりの少し手前の時点が検出されると(#03Yes分岐)、メタンガス検知パルス(信号)が燃料ガス検知値取得部42aに送出される(#04)。これにより、燃料ガス検知値取得部42aが第1検出回路部31を介してメタンガスセンサ1におけるガス検知値をメタンガス検知値として取得し、検知値評価部45に転送する(#05)。さらに、検知評価部45は、受け取ったメタンガス検知値を、必要の場合、蓄積されている過去の検知値をも含めて評価する(#06)。
【0032】
ステップ#01のチェックでCOガス検知のタイミングである場合、第2加熱電流印加部34を介して第2加熱電流印加パルスがCOガスセンサ2に印加される(#07)。同時に、又はその直前にCOガス検知パルス(信号)が不完全燃焼ガス検知値取得部42aに送出される(#08)。これにより、不完全燃焼ガス検知値取得部42bが第2検出回路部32を介してCOガスセンサ2におけるガス検知値をCOガス検知値として取得し、検知値評価部45に転送する(#09)。さらに、検知評価部45は、受け取ったCOガス検知値を、必要の場合、蓄積されている過去の検知値をも含めて評価する(#10)。
【0033】
検知評価部45でのメタンガス検知値の評価(#06)又はCOガス検知値の評価(#10)が終わると、メタンガス又はCOガスの検知評価値がガス漏れ警報レベルであるかどうかが判定される(#11)。警報レベルであれば(#11Yes分岐)、警報処理(#12)を行った後、警報レベルでなければ(#11No分岐)、そのまま次の故障判定処理に進む(#14)。故障判定処理には、燃料ガスセンサ故障判定部44aがメタンガスセンサ1からのガス検知値などを評価してメタンガスセンサ1の断線などの故障を判定する処理と、不完全燃焼ガスセンサ故障判定部44bがCOガスセンサ2からのガス検知値などを評価してCOガスセンサ2の断線などの故障を判定する処理とが含まれている。この故障判定処理において、どちらかのガスセンサの故障も判定されなければ(#14No分岐)、ステップ#01に戻り、これまでのステップを繰り返す。どちらかのガスセンサの故障が判定されると(#14Yes分岐)、故障判定されたガスセンサがチェックされる(#13)。COガスセンサ2が故障している場合、故障フラッグに"1"がセットされ、メタンガスセンサ1が故障している場合、故障フラッグに"2"がセットされ、該当するガスセンサが故障していることが報知される(#19)。その後、故障していないガスセンサによってメタンガスとCOガスが検知されるリカバリルーチンに入る(#20)。なお、メタンガスセンサ1とCOガスセンサ2とが故障している場合、このガス検知装置の作動はもはや不可能となるので、その旨の報知が行われる(#18)。
【0034】
次に、リカバリルーチンの説明を図15のフローチャートを用いて説明する。
最初に、故障しているガスセンサを特定するため、故障フラッグがチェックされる(#21)。
[COガスセンサが故障の場合]
故障フラッグに"1"がセットされており、COガスセンサが故障していると見なされた場合、メタンガスセンサ1によるメタンガスとCOガスの検知が行われる。
まず、第1加熱電流印加パルスがメタンガスセンサ1に印加される(#30)。図12から理解できるように、第1加熱電流印加パルスの立ち上がり直後、立ち上がりから約1秒後にメタンガスセンサ1の温度は約250℃に達しCOガスを検知するに適した状態となる。このため、ここでは、第1加熱電流印加パルスの立ち上がりから1秒経過するまで待機し、1秒経過すると(#31Yes分岐)、COガス検知パルス(信号)が不完全燃焼ガス検知値取得部42aに送出される(#32)。これにより、燃料ガス検知値取得部42aが第12検出回路部31を介してメタンガスセンサ1におけるガス検知値をCOガス検知値として取得し、検知値評価部45に転送する(#33)。続いて、第1加熱電流印加パルスの立ち下がりの少し手前であるかどうかがチェックされる(#34)。第1加熱電流印加パルスの立ち下がりの少し手前の時点が検出されると(#34Yes分岐)、メタンガス検知パルス(信号)が燃料ガス検知値取得部42aに送出される(#35)。これにより、燃料ガス検知値取得部42aが第1検出回路部31を介してメタンガスセンサ1におけるガス検知値をメタンガス検知値として取得し、検知値評価部45に転送する(#36)。検知評価部45は、受け取ったメタンガス検知値とCOガス検知値とを、必要の場合、蓄積されている過去の検知値をも含めて評価し(#37)、ガス漏れ警報レベルであるかどうかを判定する(#38)。警報レベルであれば(#38Yes分岐)、警報処理(#39)を行った後、警報レベルでなければ(#38No分岐)、そのまま故障判定処理に入る(#50)。この故障判定処理において、メタンガスセンサ1の故障が判定されなければ(#51No分岐)、ステップ#30に戻り、これまでのステップを繰り返す。但し、メタンガスセンサ1の故障が判定されると(#51Yes分岐)、メタンガスセンサ1とCOガスセンサ2とが故障したことになるので、このガス検知装置の作動はもはや不可能として、その旨の報知が行われる(#52)。
【0035】
[メタンガスセンサが故障の場合]
故障フラッグに"2"がセットされており、メタンガスセンサが故障していると見なされた場合、COガスセンサ2によるメタンガスとCOガスの検知が行われる。
まず、第2加熱電流印加部34を介して第2加熱電流印加パルスがCOガスセンサ2に印加される(#40)。同時に、又はその直前にCOガス検知パルス(信号)が不完全燃焼ガス検知値取得部42aに送出される(#42)。これにより、不完全燃焼ガス検知値取得部42bが第2検出回路部32を介してCOガスセンサ2におけるガス検知値をCOガス検知値として取得し、検知値評価部45に転送する(#43)。続いて、第2加熱電流印加パルスの立ち下がりの少し手前であるかどうかがチェックされる(#44)。第2加熱電流印加パルスの立ち下がりの少し手前の時点が検出されると(#44Yes分岐)、メタンガス検知パルス(信号)が不完全燃焼ガス検知値取得部42bに送出される(#45)。これにより、不完全燃焼ガス検知値取得部42bが第2検出回路部32を介してCOガスセンサ2におけるガス検知値をメタンガス検知値として取得し、検知値評価部45に転送する(#46)。検知評価部45は、受け取ったメタンガス検知値とCOガス検知値とを、必要の場合、蓄積されている過去の検知値をも含めて評価し(#37)、ガス漏れ警報レベルであるかどうかを判定する(#48)。警報レベルであれば(#38Yes分岐)、警報処理(#39)を行った後、警報レベルでなければ(#38No分岐)、そのまま故障判定処理に入る(#60)。この故障判定処理において、COガスセンサ2の故障が判定されなければ(#61No分岐)、ステップ#40に戻り、これまでのステップを繰り返す。但し、COガスセンサ2の故障が判定されると(#61Yes分岐)、メタンガスセンサ1とCOガスセンサ2とが故障したことになるので、このガス検知装置の作動はもはや不可能として、その旨の報知が行われる(#62)。
【0036】
上述した実施形態の説明では、メタンガスとCOガスとが取り扱われていた。しかしながら、上述したメタンガスセンサ1及びCOガスセンサ2は、水素ガスに対しても実質的にCOガスと同様な挙動を示すので、COガスと同様に水素ガスを検知することも可能であり、このようなガス検知装置も本発明の範囲に入る。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、燃料ガスセンサと不完全燃焼ガスセンサとを用いて燃料ガスと不完全燃焼ガスとを検知するガス検知技術に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明によるガス検知装置の一例を示す機能部ロック図
【図2】メタンガスセンサの一例を示す模式図
【図3】COガスセンサの一例を示す模式図
【図4】メタンガスセンサのセンサ温度とセンサ感度の関係を示すグラフ
【図5】COガスセンサのセンサ温度とセンサ感度との関係を示すグラフ
【図6】メタンガスセンサのメタンガス検知温度域におけるメタンガス濃度とセンサ感度との関係を示すグラフ
【図7】COガスセンサのCOガス検知温度域におけるCOガス濃度とセンサ感度との関係を示すグラフ
【図8】メタンガスセンサのCOガス検知温度域におけるCOガス濃度とセンサ感度との関係を示すグラフ
【図9】COガスセンサのメタンガス検知温度域におけるメタンガス濃度とセンサ感度との関係を示すグラフ
【図10】メタンガスセンサへ送り出す加熱電流印加パルスと、その時のメタンガスセンサの温度変化の様子と、メタンガス検知パルスとの関係を説明するタイミングチャート
【図11】COガスセンサへ送り出す加熱電流印加パルスと、その時のCOガスセンサの温度変化の様子と、COガス検知パルスとの関係を説明するタイミングチャート
【図12】メタンガスセンサによるCOガス検知を説明するタイミングチャート
【図13】COガスセンサによるメタンガス検知を説明するタイミングチャート
【図14】ガス検知装置におけるガス検知制御の一例を示すフローチャート
【図15】リカバリルーチンを示すフローチャート
【符号の説明】
【0039】
1:メタンガスセンサ(燃料センサ)
2:COガスセンサ(燃料センサ)
31:第1検出回路部
32:第2検出回路部
33:第1加熱電流印加部
34:第2加熱電流印加部
41a:加熱制御部
41b:加熱制御部
42a:燃料ガス検知値取得部
42b:不完全燃焼ガス検知値取得部
43a:第1検知制御部
43b:第2検知制御部
44a:燃料ガスセンサ故障判定部
44b:不完全燃焼ガス故障判定部
45:検知値評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定温度域で不完全燃焼ガスを検知可能な燃料ガスセンサと、特定温度域で燃料ガスを検知可能な不完全燃焼ガスセンサとを用いたガス検知方法であって、
前記燃料ガスセンサを燃料ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第1加熱電流印加ステップと、
前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として取得するステップと、
前記不完全燃焼ガスセンサを不完全燃焼ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第2加熱電流印加ステップと、
前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として取得するステップと、
前記燃料ガスセンサ及び前記不完全燃焼ガスセンサの故障を判定するステップと、
前記燃料ガスセンサが故障と判定された場合には、前記不完全燃焼ガスセンサが前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として取得するステップと、
前記不完全燃焼ガスセンサが故障と判定された場合には、前記燃料ガスセンサが前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として取得するステップと、
からなるガス検知方法。
【請求項2】
特定温度域で不完全燃焼ガスを検知可能な燃料ガスセンサと、特定温度域で燃料ガスを検知可能な不完全燃焼ガスセンサとを備えたガス検知装置であって、
前記燃料ガスセンサを燃料ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第1加熱電流印加部と、
前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として取得する燃料ガス検知値取得部と、
前記不完全燃焼ガスセンサを不完全燃焼ガスの検知に適した状態にするための加熱電流を印加する第2加熱電流印加部と、
前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として取得する不完全燃焼ガス検知値取得部と、
前記燃料ガスセンサ及び前記不完全燃焼ガスセンサの故障を判定するセンサ故障判定部と、
前記不完全燃焼ガスセンサが故障と判定された場合には、前記燃料ガスセンサが前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記燃料ガスセンサによるガス検知値を不完全燃焼ガス検知値として前記燃料ガス検知値取得部に取得させる第1検知制御部と、
前記燃料ガスセンサが故障と判定された場合には、前記不完全燃焼ガスセンサが前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングで前記不完全燃焼ガスセンサによるガス検知値を燃料ガス検知値として前記不完全燃焼ガス検知値取得部に取得させる第2検知制御部と、
からなるガス検知装置。
【請求項3】
前記不完全燃焼ガスセンサが熱線型半導体式であり、当該不完全燃焼ガスセンサが前記燃料ガスの検知に適した状態に達するタイミングが、前記第1加熱電流印加部における加熱電流の印加終了時である請求項2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記燃料ガスセンサが熱線型半導体式であり、当該前記燃料ガスセンサが前記不完全燃焼ガスの検知に適した状態に達するタイミングが、前記第2加熱電流印加部における加熱電流の印加直後である請求項2又は3に記載のガス検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−168463(P2009−168463A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3503(P2008−3503)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】