説明

ガラス板の製造方法

【課題】無アルカリガラスのリサイクルを促進するとともに、ガラスバッチの溶解性に優れたガラス板の製造方法を創案し、無アルカリガラスのリサイクル率を高めつつ、高歪点のガラス板の生産コストを低廉化すること。
【解決手段】本発明のガラス板の製造方法は、ガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した後、該ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融し、ガラス板に成形するガラス板の製造方法において、ガラス原料の一部に無アルカリガラスを用いるとともに、ガラス板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜75%、Al 1〜18%、B 0.1〜12%、RO 5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、NaO+KO 0〜25%を含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造方法に関し、特にプラズマディスプレイパネル(PDP)用ガラス板や太陽電池パネル用ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境的観点から、太陽電池の需要が高まっている。特に、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン太陽電池等は、主に家庭用発電、商業用発電等に利用されている。また、カルコパイライト系薄膜多結晶太陽電池、CdTe太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池等の太陽電池も実用化されつつある。
【0003】
一般的に、太陽電池は、ガラス板の表面に電極膜、光吸収層、電極膜を備え、その上に保護用のガラス板を備えた構造を有している。太陽電池用ガラス板は、熱処理工程により電極膜や光吸収層が形成されるため、耐熱性が要求される。このため、現在では、高歪点ガラスが本用途に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第08/098968号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境的観点から、資源のリサイクルが推進されており、ガラス製品もその例外ではない。しかし、ガラス製品全体で見ると、リサイクル率が高いとは言えず、環境的要請を満たしているとは言い難い。また、ガラス製品を製造する過程において、相当量の廃ガラスが発生するが、環境的観点から、この廃ガラスもリサイクルし、ガラス製品に還元する必要性が高い。特に、液晶ディスプレイに用いられる無アルカリガラスは、流通量や生産量が多いため、リサイクルを推進する必要性が高い。
【0006】
また、従来の高歪点ガラスは、汎用品のソーダ石灰ガラスと比較して、ガラスバッチの溶解性が低いため、生産性に劣り、結果として、製造コストの高騰を招いていた。
【0007】
そこで、本発明は、無アルカリガラスのリサイクルを促進するとともに、ガラスバッチの溶解性に優れたガラス板の製造方法を創案し、無アルカリガラスのリサイクル率を高めつつ、高歪点のガラス板の製造コストを低廉化することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討の結果、無アルカリガラスの廃ガラスをガラス原料の一部に用いて、高歪点のガラス板を作製することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラス板の製造方法は、ガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した後、該ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融し、ガラス板に成形するガラス板の製造方法において、ガラス原料の一部に無アルカリガラスを用いるとともに、ガラス板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜75%、Al 1〜18%、B 0.1〜12%、RO(MgO+CaO+SrO+BaO、つまりMgO、CaO、SrO、BaOの合量) 5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、NaO+KO(NaO、KOの合量) 0〜25%を含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とする。
【0009】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラス原料の一部に無アルカリガラスを用いることを特徴とする。ガラス原料の一部に無アルカリガラスを用いると、その他のガラス原料(炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩等)中のアルカリ金属酸化物等の含有比率が上昇する。無アルカリガラス以外のガラス原料中のアルカリ金属酸化物等の含有比率を高めると、ガラスバッチの溶解性が向上するため、高歪点のガラス板の生産性を飛躍的に高めることができる。また、無アルカリガラスは、一旦、ガラス化されているため、ガラスバッチの溶解性を大幅に低下させることはない。なお、本発明のガラス板の製造方法は、無アルカリガラス以外の廃ガラスをガラス原料の一部に用いる態様を排除するものではない。
【0010】
さらに、ガラス原料の一部に無アルカリガラスを用いると、無アルカリガラスのリサイクルを促進できるため、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0011】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラス板が、上記のようなガラス組成になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする。このようにすれば、ガラス板の歪点や熱膨張係数を適正な範囲(例えば、歪点:560℃以上625℃未満、30〜380℃における熱膨張係数:60〜90×10−7/℃)に規制しやすくなり、結果として、PDPや太陽電池に適用しやすくなる。特に、本発明のガラス板の製造方法は、ガラス板が、ガラス組成中にBを0.1質量%以上含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とする。このようにすれば、溶融温度や成形温度が低下するため、つまり溶融性や成形性が向上するため、ガラス板の生産性が向上し、結果として、ガラス板の製造コストを低廉化することができる。
【0012】
第二に、本発明のガラス板の製造方法は、ガラスバッチ中の無アルカリガラスの含有量が1〜90質量%になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする。
【0013】
第三に、本発明のガラス板の製造方法は、無アルカリガラスが、板厚0.7mm以下の板状体を粉砕したものであることを特徴とする。
【0014】
第四に、本発明のガラス板の製造方法は、ガラス板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、As+Sb+SnO+SO(As、Sb、SnO、SOの合量)を0.02〜5%含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とする。
【0015】
第五に、本発明のガラス板の製造方法は、104.0dPa・sにおける温度が1200℃未満になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする。ここで、「10dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。なお、10dPa・sにおける温度は、ガラス板に成形する際に目安になる温度、つまり成形温度に相当する温度であり、この温度が低い程、ガラス板を成形しやすくなる。
【0016】

第六に、本発明のガラス板の製造方法は、歪点が560℃以上になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする。ここで、「歪点」は、ASTM C336−71に基づいて測定した値を指す。
【0017】
第七に、本発明のガラス板の製造方法は、無アルカリガラスが、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 55〜75%、Al 2〜20%、B 1〜12%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜15%、ZnO 0〜1%、As 0〜1%、Sb 0〜1%、SnO 0〜1%、SO 0〜0.5%を含有することを特徴とする。
【0018】
第八に、本発明のガラス板の製造方法は、フロート法でガラス板を成形することを特徴とする。
【0019】
第九に、本発明のガラス板の製造方法は、ガラス板が、プラズマディスプレイ用ガラス板または太陽電池用ガラス板であることを特徴とする。なお、太陽電池用ガラス板には、基板とカバーガラスの双方が含まれる。
【0020】
第十に、本発明のガラス板は、上記の方法で作製されてなることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の太陽電池用ガラス板の製造方法において、ガラス板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜75%、Al 1〜18%、B 0.1〜12%、RO 5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、NaO+KO 0〜25%を含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とする。本発明のガラス板の製造方法において、上記のようにガラス板のガラス組成範囲を限定した理由を以下に説明する。なお、以下の%表示は、特に断りがない限り、質量%を指す。
【0022】
SiOは、ガラスネットワークを形成する成分であるとともに、歪点を高める成分であり、その含有量は40〜75%、好ましくは43〜60%、より好ましくは45〜55%未満である。SiOの含有量が少なくなると、高温粘度が低くなり過ぎ、液相粘度が低下しやすくなるとともに、無アルカリガラスのリサイクルを促進し難くなる。一方、SiOの含有量が多くなると、高温粘度が高くなり過ぎ、溶融性や成形性が低下しやすくなる。
【0023】
は、融剤として働き、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0.1〜12%、好ましくは1〜8%である。Bの含有量が少なくなると、溶融性や成形性が低下し、ガラス板の生産性が低下しやすくなることに加えて、無アルカリガラスのリサイクルを促進し難くなる。一方、Bの含有量が多くなると、高温粘度が低くなり過ぎ、液相粘度が低下しやすくなるとともに、歪点が低下しやすくなる。
【0024】
Alは、歪点を高める成分であり、その含有量は1〜18%、好ましくは4〜15%、より好ましくは5〜13%である。Alの含有量が少なくなると、歪点が低下しやすくなり、また無アルカリガラスのリサイクルを促進し難くなる。一方、Alの含有量が多くなると、高温粘度が高くなり過ぎ、溶融性や成形性が低下しやすくなる。
【0025】
ROは、104.0dPa・sにおける温度や溶融温度を低下させる成分であり、その含有量は5〜30%、好ましくは10〜25%、より好ましくは15〜25%である。ROの含有量が少なくなると、歪点が低下する傾向にあり、高温粘度104.0dPa・sにおける温度や溶融温度が上昇する傾向にある。一方、ROの含有量が多くなると、ガラスが失透しやすくなり、ガラス板に成形し難くなる。
【0026】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは1〜8%である。MgOの含有量が多くなると、歪点が上昇する傾向があるものの、高温粘度が低くなり過ぎ、またガラスが失透しやすくなるため、液相温度が上昇し、液相粘度が低下しやすくなる。
【0027】
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは2〜10%である。CaOの含有量が少なくなると、無アルカリガラスのリサイクルを促進し難くなる。一方、CaOの含有量が多くなると、歪点が上昇する傾向があるものの、高温粘度が低くなり過ぎ、またガラスが失透しやすくなるため、液相温度が上昇し、液相粘度が低下しやすくなる。
【0028】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは2〜12%である。SrOの含有量が多くなると、歪点が上昇する傾向があるものの、高温粘度が低くなり過ぎ、またガラスが失透しやすくなるため、液相温度が上昇し、液相粘度が低下しやすくなる。
【0029】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは1〜12%、より好ましくは4〜10%である。BaOの含有量が多くなると、歪点が上昇する傾向があるものの、高温粘度が低くなり過ぎ、またガラスが失透しやすくなるため、液相温度が上昇し、液相粘度が低下しやすくなる。
【0030】
NaO+KOは、高温粘度を大幅に低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜25%、0.1〜20%、特に2〜15%が好ましい。NaO+KOの含有量が多くなると、高温粘度が低くなり過ぎ、液相粘度が低下しやすくなるとともに、歪点が低下しやすくなる。
【0031】
NaOは、高温粘度を大幅に低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜20%、0.5〜10%、特に2〜8%が好ましい。NaOの含有量が多くなると、高温粘度が低くなり過ぎ、液相粘度が低下しやすくなるとともに、歪点が低下しやすくなる。
【0032】
Oは、高温粘度を大幅に低下させて、溶融性や成形性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、1〜13%、特に2〜12%が好ましい。KOの含有量が多くなると、高温粘度や液相粘度が低下しやすくなることに加えて、歪点が低下しやすくなる。
【0033】
上記成分以外に、下記の成分を添加してもよい。
【0034】
ZrOは、歪点を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に1〜8%が好ましい。ZrOの含有量が多くなると、高温粘度が高くなり過ぎ、溶融性や成形性が低下しやすくなる。
【0035】
As+Sb+SnO+SOは、清澄剤として作用する成分であり、ガス放出により溶融ガラスを均質化させる成分である。As+Sb+SnO+SOの含有量は0〜5%、0.02〜5%、特に0.1〜1%が好ましい。As+Sb+SnO+SOの含有量が少なくなると、清澄効果が乏しくなり、脱泡し難くなるとともに、溶融ガラスを均質化し難くなる。一方、As+Sb+SnO+SOの含有量が多くなると、ガスが発生し過ぎて、溶解中の溶融ガラスの表面に泡層が生じ、結果として、溶融ガラスを均質に加熱し難くなったり、泡層に起因した泡がガラス板に流出しやすくなる。なお、Asは、清澄剤として作用する成分であるが、環境的観点から、実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス組成中のAsの含有量が1000ppm以下の場合を指す。また、Sbも環境的観点から実質的に含有しないことが望ましい場合がある。ここで、「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス組成中のSbの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0036】
TiOの含有量は0〜7%、特に0〜5%が好ましい。TiOの含有量が多くなると、高温粘度が高くなり過ぎ、溶融性や成形性が低下しやすくなる。なお、太陽電池用カバーガラス等に用いる場合、TiOの含有量は0.1%以上が好ましい。このようにすれば、紫外線着色を防止することができる。
【0037】
なお、上記成分以外にも他の成分(例えば、Fe、TiO、CeO、NiO、CoO等)を10%まで添加することができる。
【0038】
本発明のガラス板の製造方法において、ガラスバッチ中の無アルカリガラスの含有量は1〜90質量%、10〜85質量%、特に30〜75質量%が好ましい。無アルカリガラスの含有量が少なくなると、ガラスバッチの溶解性を高め難くなるとともに、無アルカリガラスのリサイクルを促進し難くなる。一方、無アルカリガラスの含有量が多くなると、ガラス板のガラス組成の調整幅が小さくなるとともに、溶融時にガスを発生させる炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、清澄剤等をガラス原料中に導入し難くなり、このことに起因して、溶融ガラスの均質性が低下したり、脱泡し難くなる等の不具合が発生しやすくなる。なお、不均質なガラス板は、熱処理により、ガラス板に歪みが入りやすく、これが割れ等の原因になるおそれがある。また、泡がガラス板表面に露出すると、電極膜を均一に成膜し難くなる。
【0039】
本発明のガラス板の製造方法において、無アルカリガラスは、板厚0.7mm以下の板状体を粉砕したものであることが好ましい。板厚0.7mm以下の板状体を粉砕すれば、無アルカリガラスの粒度が小さくなり、溶融ガラスの均質性やガラスバッチの溶解性を高めやすくなる。
【0040】
本発明のガラス板の製造方法において、粒度が10mm以下、特に5mm以下になるように、無アルカリガラスを粉砕することが好ましい。無アルカリガラスの粒度が大きくなると、溶融ガラスの均質性やガラスバッチの溶解性が低下しやすくなる。ここで、「10mm以下の粒度」とは、目開き10mmの篩を通過する粒度を指す。
【0041】
本発明のガラス板の製造方法において、104.0dPa・sにおける温度が1200℃未満、1170℃以下、特に1150℃未満になるように、ガラス原料を調合することが好ましい。このようにすれば、フロート法、オーバーフローダウンドロー法、ロールアウト法等でガラス板を成形しやすくなる。104.0dPa・sにおける温度が1200℃より高いと、成形の際に成分揮発によって溶融ガラスが変質しやすく、また成形温度が高温になるため、成形装置への負荷が大きくなり、結果として、成形装置のライフが短くなり、ガラス板の製造コストが高騰しやすくなる。一方、104.0dPa・sにおける温度が低過ぎると、歪点が低下する傾向があるため、104.0dPa・sにおける温度は1050℃以上が好ましい。
【0042】
本発明のガラス板の製造方法において、歪点が560℃以上、570℃以上、575℃以上、特に580℃以上625℃未満になるように、ガラス原料を調合することが好ましい。歪点が560℃より低いと、高温の熱処理工程でガラス板が熱変形しやすくなる。
【0043】
本発明のガラス板の製造方法において、熱膨張係数が75〜95×10−7/℃、特に80〜90×10−7/℃になるように、ガラス原料を調合することが好ましい。このようにすれば、フリット、誘電体材料、隔壁材料、CIS等の光吸収層、酸化チタン等の酸化物半導体多孔質膜等の熱膨張係数に整合しやすくなるため、材料間の残留応力が小さくなり、結果として、これらの材料の剥離やクラックを防止しやすくなる。ここで、「熱膨張係数」は、直径5.0mm、長さ20mmの円柱を測定試料とし、ディラトメーターで30〜380℃の温度範囲における線熱膨張係数の平均値を指す。
【0044】
本発明のガラス板の製造方法において、液相粘度が104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上になるように、ガラス原料を調合することが好ましい。液相粘度が104.0dPa・sより低いと、成形時にガラスに結晶が析出しやすくなり、ガラス板の生産性が低下する。ここで、「液相粘度」とは、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。また、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中で24時間保持した後、結晶が析出する最低温度(初相の析出温度)を指す。
【0045】
本発明のガラス板の製造方法において、無アルカリガラスは、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 55〜75%、Al 2〜20%、B 1〜12%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜15%、ZnO 0〜1%、As 0〜1%、Sb 0〜1%、SnO 0〜1%、SO 0〜0.5%を含有することが好ましい。上記ガラス組成を有する無アルカリガラスは、流通量や生産量が多いため、リサイクルの必要性が高い。また、無アルカリガラスは、ガラス組成として、実質的にAs、Sbを含有していないことが好ましい。このようにすれば、ガラス板中のAs、Sbの含有量を低減できるため、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0046】
本発明の太陽電池用ガラス板の製造方法において、フロート法、スロットダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法、リドロー法、ロールアウト法等でガラス板を成形することができる。特に、フロート法は、大型のガラス板を安価に成形できるため、好適である。
【0047】
本発明の本発明のガラス板の製造方法において、板厚が4mm以下、3mm以下、特に2mm未満になるように、ガラス板を成形することが好ましい。ガラス板の板厚が小さい程、PDPや太陽電池の薄型化、軽量化を図ることができる。
【0048】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融し、PDP用ガラス板に成形することが好ましい。PDPは、前面ガラス板と背面ガラス板を対向させて、電極等の位置合わせを行った後、その周囲を約500〜600℃でフリットシールすることにより作製される。前面ガラス板の表面には、ITO膜やネサ膜等からなる透明電極が成膜されており、透明電極上には、誘電体層が形成されている。また、背面ガラス板の表面には、Al、Ag、Ni等からなる電極が形成されており、その電極上には、誘電体層と隔壁が形成されている。なお、誘電体層と隔壁は、それぞれ約500〜600℃の熱処理工程により、形成されている。従来、PDP用ガラス板として、フロート法等で板厚1.5〜3.0mmに成形されたソーダ石灰ガラスが用いられてきた。しかし、ソーダ石灰ガラスは、歪点が低いため、PDPの熱処理工程により、熱変形や熱収縮しやすい課題を有していた。このため、現在では、熱処理による熱変形や熱収縮を抑制するために、高歪点のガラス板が広く使用されている。以上の点を考慮すると、本発明のガラス板の製造方法は、高歪点のガラス板の製造コストを低廉化できるため、本用途のガラス板の製造方法として好適である。
【0049】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融し、カルコパイライト系薄膜多結晶太陽電池用ガラス板に成形することが好ましい。カルコパイライト系薄膜多結晶太陽電池は、ガラス板上に、光吸収層としてCu、In、Ga、Se等からなるカルコパイライト型化合物半導体、Cu(IN,Ga)Se等が形成されている。カルコパイライト型化合物半導体は、セレン化法等で作製されるが、その際の熱処理温度は約500〜600℃である。また、ガラス板の歪点が高い程、高温で熱処理してもガラス板が変形し難く、ガラス板上に光吸収層を安定して成膜することができ、結果として、カルコパイライト系薄膜多結晶太陽電池の特性を高めることができる。以上の点を考慮すると、本発明のガラス板の製造方法は、高歪点のガラス板の製造コストを低廉化できるため、本用途のガラス板の製造方法として好適である。
【0050】
本発明のガラス板の製造方法は、ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融し、色素増感型太陽電池用ガラス板に成形することが好ましい。色素増感型太陽電池は、まずガラス板上に透明導電膜(例えばITO、FTO、ATO)をスパッタリング法等で成膜した後、酸化物半導体微粒子をガラス板上に塗布し、熱処理することにより、酸化物半導体多孔質膜を成膜する。ここで、酸化物半導体多孔質膜を成膜する際の熱処理温度は600℃を超える場合もある。次に、酸化物半導体多孔質膜に色素を吸着させた後、酸化物半導体多孔質膜を成膜したガラス板と透明導電膜を成膜したガラス板により、セルを作製し、ヨウ素レドックス等の酸化還元対を含む電解質溶液でセル内を満たす。また、ガラス板の歪点が高い程、高温で熱処理温度してもガラス板が変形し難く、ガラス板上に酸化物半導体多孔質膜を安定して成膜することができ、結果として、色素増感型太陽電池の特性を高めることができる。以上の点を考慮すると、本発明のガラス板の製造方法は、高歪点のガラス板の製造コストを低廉化できるため、本用途のガラス板の製造方法として好適である。
【0051】
本発明のガラス板の製造方法において、ガラス板の機械的強度を高めるために、ガラス板を成形した後に、ガラス板の表面を強化処理(物理強化処理または化学強化処理)することもできる。
【実施例】
【0052】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
表1は、廃ガラスのガラス組成を示している。表2は、本発明の実施例(試料No.1〜4)および比較例(試料No.5〜7)を示している。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
次のようにして、表2に記載の各試料を調製した。まず表1に記載の試料A、Bの廃ガラス(板厚0.7mmの板状体)を5mm以下の粒度に粉砕し、ガラス原料とした。また、表1に記載の試料C、Dの廃ガラスを5mm以下の粒度に粉砕し、ガラス原料とした。さらに、各種酸化物をガラス原料とした。次に、表2に記載のガラス組成になるように、各種のガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した。なお、表中に記載の割合で各種の廃ガラスを添加した。続いて、得られたガラスバッチを連続溶融炉で溶融した後、フロート法で1.8mm厚のガラス板に成形した。最後に、得られたガラス板を200mm×200mmの大きさに切断加工し、各試料を得た。
【0057】
得られた各試料につき、歪点、104.0dPa・sにおける温度、液相温度、液相粘度、均質性を評価した。
【0058】
歪点は、ASTM C336−71に記載の方法で測定した値である。
【0059】
104.0dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0060】
液相温度は、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値である。
【0061】
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
【0062】
各試料を10mm×40mmの大きさに切断し、光路長40mmにおける透過光を目視観察することにより、均質性を評価した。均質性が良いものを「○」、悪いものを「×」として評価した。
【0063】
各試料につき、ガラスバッチが完全に溶解するまでの時間を観察することにより、溶解性を評価した。試料No.7より溶解性が悪いものを「×」、試料No.7と同等の溶解性を示すものを「△」、試料No.7より溶解性が僅かに良好であるものを「○」、試料No.7より溶解性が良好であるものを「◎」として評価した。
【0064】
表2から明らかなように、試料No.1〜4は、無アルカリガラスのリサイクル率が40%以上、歪点が585℃以上、104.0dPa・sにおける温度が1190℃以下、液相温度が1070℃以下、液相粘度が105.2dPa・sであり、均質性や溶解性の評価も良好であった。
【0065】
一方、試料No.5は、無アルカリガラスのみでガラスバッチを構成したため、均質性や溶解性の評価が不良であった。また、試料No.6、7は、ガラスバッチ中に無アルカリガラスを含んでいないため、無アルカリガラスのリサイクルを促進することができず、また溶解性も劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のガラス板の製造方法は、PDP用ガラス板の製造方法として好適であり、またカルコパイライト系薄膜多結晶太陽電池、色素増感型太陽電池、シリコン太陽電池(単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、微結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池を含む)、CdTe太陽電池、有機薄膜太陽電池等の太陽電池用ガラス板の製造方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した後、該ガラスバッチをガラス溶融窯で溶融し、ガラス板に成形するガラス板の製造方法において、
ガラス原料の一部に無アルカリガラスを用いるとともに、
ガラス板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 40〜75%、Al 1〜18%、B 0.1〜12%、RO(MgO+CaO+SrO+BaO) 5〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜20%、SrO 0〜15%、BaO 0〜15%、NaO+KO 0〜25%を含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
ガラスバッチ中の無アルカリガラスの含有量が1〜90質量%になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
無アルカリガラスが、板厚0.7mm以下の板状体を粉砕したものであることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
ガラス板が、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、As+Sb+SnO+SOを0.02〜5%含有するように、ガラス原料を調合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
104.0dPa・sにおける温度が1200℃未満になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
歪点が560℃以上になるように、ガラス原料を調合することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項7】
無アルカリガラスが、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、SiO 55〜75%、Al 2〜20%、B 1〜12%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜15%、ZnO 0〜1%、As 0〜1%、Sb 0〜1%、SnO 0〜1%、SO 0〜0.5%を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
フロート法でガラス板を成形することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
ガラス板が、プラズマディスプレイ用ガラス板または太陽電池用ガラス板であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法で作製されてなることを特徴とするガラス板。


【公開番号】特開2011−121841(P2011−121841A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282722(P2009−282722)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】