説明

クラスター製造装置及びクラスター製造方法

【課題】所望のサイズのクラスターを効率良く得ると共に得られたクラスターを基材へ効率良く堆積させることができるクラスター製造装置及びクラスター製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るクラスター製造装置及びクラスター製造方法は、一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向すると共に下流側に向いて傾斜するように対向配置し、複数のガス供給用毛細管が間隔をおいて同一平面上に配置されると共に、その径dmmと長さLmmとの比L/dが500≦L/dとなるように構成されるプラズマ源ガス供給手段によって、プラズマ源ガスを前記一対のターゲット間にシート状気流にして供給し、該供プラズマ源ガスをプラズマ状態にしつつ、前記一対のターゲットから蒸気を発生させ、クラスター発生部とクラスター成長部とが連通する連通部に配設されると共に、軸芯方向において、径が漸減する中空筒状の捕集筒によって、前記蒸気を捕集してクラスター成長部へ導入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットをスパッタリングして得たスパッタ粒子からクラスターを製造するためのクラスター製造装置及びクラスター製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材(基板)上に所望する金属その他の原材料(ターゲット)の蒸気(スパッタ粒子)を堆積させて薄膜を形成するために、種々のスパッタリング装置が用いられている。例えば、容器内にプラズマ源ガス(プラズマ状態化されるガス)としてアルゴン(Ar)ガスを導入し、その中で放電を行ってアルゴンガスをプラズマ化する。そして、プラズマ化したアルゴンがターゲットに(金属材料等)に衝突するとターゲットを構成する原子が飛び出す。かかるスパッタリングによってターゲットから飛び出したスパッタ粒子(ターゲット原子)を例えば102Pa程度又はそれ以下の低圧雰囲気中で凝縮させることにより粒径数nmのクラスターとし、それを所定の位置に配置された基材上に堆積する。このようにして、基材上に飛散粒子(スパッタ粒子)と同成分のクラスターが堆積して薄膜が形成される。
【0003】
しかし、上述のようなクラスター製造装置では、単位時間あたり或いはプラズマ源ガス単位供給量あたりのクラスター生産効率が十分に高いものではなかった。
【0004】
そこで、金属で構成される一対のターゲットを平行に配置した、平行型対向ターゲット式スパッタリング装置を備え、該スパッタリング装置の平行ターゲット式スパッタカソード間にプラズマ源ガスを供給しつつスパッタリングを行い、該スパッタリングによってスパッタ粒子(以下、「金属蒸気」と言うことがある。)を発生させ、該スパッタ粒子をキャリアガスと共に流通させつつ加熱してエネルギーを与え、その平均粒径(サイズ)を制御して所望するサイズのクラスターを効率良く得ることができるクラスター製造装置及び製造方法が提供されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−120411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようなクラスター製造装置においては、所望するサイズのクラスターを効率良く得ることができるが、平行型対向ターゲット式スパッタカソードによるスパッタリングでは、スパッタ粒子が全方位(360°)に向かって飛散するため、クラスターを堆積させるための基材を設置しているクラスター堆積部方向へ飛散するスパッタ粒子が少なく、クラスターを基材上に堆積させて必要な膜厚を得るのに時間がかかるため、より効率良く必要な膜厚を得るためのクラスター製造装置及び製造方法が求められた。
【0007】
そこで、本発明は、所望のサイズのクラスターを効率良く得ると共に得られたクラスターを基材へ効率良く堆積させることができるクラスター製造装置及びクラスター製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明に係るクラスター製造装置は、内部が減圧可能なケーシング内に、一対のターゲットと、該一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向するように保持するターゲット保持手段と、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスを供給するためのプラズマ源ガス供給手段と、前記一対のターゲット間に供給されたプラズマ源ガスをプラズマ状態にするためのプラズマ発生手段とを備えるクラスター発生部と、前記クラスター発生部と連通部で連通し、前記クラスター発生部において発生するクラスターをキャリアガスと共に流通させるためのクラスター流路を備えるクラスター成長部とを有するクラスター製造装置において、中空筒状の捕集筒が前記連通部に配設され、該捕集筒は、軸芯方向において、クラスター発生部側の少なくともその一部をクラスター発生部からクラスター成長部に向かって径が漸減するように形成されることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、軸芯方向において、クラスター発生部側の少なくとも一部がクラスター発生部からクラスター成長部に向かって(クラスターの流れに対して上流側から下流側に向かって)径が漸減するように形成されている中空筒状の捕集筒がクラスター発生部とクラスター成長部との連通部に配設されているため、クラスター発生部で発生するクラスターを、より多く下流側のクラスター成長部へ導入(案内)することができる。
【0010】
即ち、クラスター発生部内の一対のターゲットからスパッタリングによって発生したスパッタ粒子は、全方位に向かって飛散するが、下流側へ向かって少なくともその一部の径が漸減する捕集筒を前記連通部に設けることで、該捕集筒が漏斗のように働き、ターゲットから全方位に向かって飛散するスパッタ粒子(金属蒸気)を、より多くクラスター成長部(下流側)へ導入することができるようになる。
【0011】
尚、本発明において、「プラズマ状態のガス」とは、当該ガス分子の少なくとも一部が放電等により励起分子、ラジカル、イオン等の形態で存在している状態を言う。また、「クラスター」とは、複数の原子、イオン等が凝集している集合物を言い、個々のクラスターの形状や質量を限定するものではない。例えば、粒径が50nm程度又はそれ以下の金属微粒子等を言う。
【0012】
また、前記捕集筒は、クラスター発生部側に設けられる円錐筒である構成とすることが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、捕集筒は、その一端から他端(クラスター発生部側(上流側)端部からクラスター成長部側(下流側)端部)へ向かって、一定の割合で縮径するような形状であるため、軸芯方向において、その一部だけが下流側に向かって縮径(径が漸減)するものに比べ、より多くのスパッタ粒子をクラスター成長部へ導入することができる。
【0014】
このようにしてクラスター成長部へ導入されるスパッタ粒子は、クラスター成長部内のクラスター流路をキャリアガスと共に流通する間に凝縮され、所望のサイズのクラスターに成長(集合している原子数が増加)し、基材の被成膜面に向けて流通する。
【0015】
従って、クラスター成長部を流通するクラスター(スパッタ粒子)の数(量)が多くなり、それに伴って、基材へ到達するクラスターの数も多くなる。その結果、クラスター成長部で所望のサイズに成長したクラスターを基材へ効率良く堆積することができるようになる。
【0016】
また、前記一対のターゲットは、それぞれの対向面が前記クラスター成長部側に向いて傾斜するように配置されている構成とすることが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、前記連通部からクラスター成長部へ導入されるスパッタ粒子の量を多くすることができる。
【0018】
即ち、ターゲットの対向面からスパッタされるスパッタ粒子の密度は、ターゲットの法線方向(ターゲットの対向面と直交する方向)で最大となるため、対向面をクラスター成長部側(前記連通部側)に向いて傾斜するように配置することによって、連通部方向のスパッタ粒子の密度を大きくすることができ、より多くのスパッタ粒子をクラスター成長部へ導入することができる。
【0019】
その結果、前述の如く、クラスター成長部で所望のサイズに成長したクラスターを基材へ効率良く堆積することができるようになる。
【0020】
また、内部が減圧可能なケーシング内に、一対のターゲットと、該一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向するように保持するターゲット保持手段と、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスを供給するためのプラズマ源ガス供給手段と、前記一対のターゲット間に供給されたプラズマ源ガスをプラズマ状態にするためのプラズマ発生手段とを備えるクラスター発生部と、前記クラスター発生部と連通部で連通し、前記クラスター発生部において発生するクラスターをキャリアガスと共に流通させるためのクラスター流路を備えるクラスター成長部とを有するクラスター製造装置において、前記一対のターゲットは、それぞれの対向面が前記クラスター成長部側に向いて傾斜するように配置されている構成としても良い。
【0021】
かかる構成によっても、一対のターゲットの対向面がクラスター成長部側に向いて傾斜するように配置されていることから、前述の如く、より多くのスパッタ粒子をクラスター成長部へ送ることができる。
【0022】
また、前記プラズマ源ガス供給手段は、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスによるシート状気流を形成すべく、複数のガス供給用毛細管が間隔をおいて同一平面上に配置される構成としても良い。
【0023】
かかる構成によれば、間隔をおいて同一平面上に配置される複数のガス供給用毛細管によって、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスをシート状気流(面状の気流)にして供給することにより、該プラズマ源ガスを均一にターゲット近傍に拡散させることができる。
【0024】
そのため、より効率的且つ高速にスパッタリングを行うことができ、飛散するスパッタ粒子をより効率的且つより多く発生させることができる。
【0025】
その結果、クラスター成長部を経て所望のサイズに成長し、基材へ到達するクラスターの量が増加し、効率良く基材へ堆積できるようになる。
【0026】
また、前記ガス供給用毛細管は、その径dmmと長さLmmとの比L/dが、500≦L/dとなるように形成されていると共に、前記シート状気流が前記連結部方向に向かって形成されるように配置される構成とすることが好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、前記ガス供給用毛細管の径dmmと長さLmmとの比(アスペクト比)L/dを500以上とすることで、該ガス供給用毛細管から供給されるプラズマ源ガスの指向性が高くなる。さらに、ガス供給用毛細管は、該プラズマ源ガスが前記連通部へ向けて供給されるように配置されている。そのため、スパッタリングによって発生した飛散粒子(スパッタ粒子)が該プラズマ源ガスによって前記連結部へ搬送され、クラスター成長部へ導入されるスパッタ粒子の量が増加する。
【0028】
その結果、上述の如く、クラスター成長部を経て所望のサイズに成長し、基材へ到達するクラスターの量が増加し、効率良く基材へ堆積できるようになる。
【0029】
また、前記プラズマ発生手段は、前記一対のターゲット間に磁場空間を発生させる磁場発生手段を備える構成としても良い。
【0030】
かかる構成によれば、一対のターゲット間に磁場空間を発生させることにより、ターゲットの対向面周辺のプラズマ密度(例えば、イオン化したガス分子密度)を上げることができる。そのため、より効率良く且つ高速にスパッタリングを行うことができるようになる。さらに、ターゲットが磁性材によって形成されていても、安定してスパッタリングを行うことができるようになる。
【0031】
従って、ターゲットからのスパッタ粒子の量が増加し、それに伴って、クラスター成長部へ導入されるスパッタ粒子の量も増加する。そのため、上述の如く、基材の成膜面に効率良くクラスターを堆積することができるようになる。
【0032】
また、前記クラスター成長部は、内部をキャリアガスと共に流通するクラスターを加熱すべく、クラスター加熱手段を備える構成としても良い。
【0033】
かかる構成によれば、内部を流通するクラスター(又はスパッタ粒子)がクラスター加熱手段によって加熱されることで、該クラスター(又はスパッタ粒子)にエネルギーが供給され、そのサイズ(平均粒径)を制御することができる。即ち、クラスター加熱手段を備えることによって、所望するサイズ(粒径)のクラスターを得ることが、より容易になる。
【0034】
また、基材を配置するための基材配置部を備え、該基材配置部に配置される基材に前記クラスター発生部からのクラスターを堆積すべく、クラスター成長部と連通するよう配設されているクラスター堆積部を更に有する構成としても良い。
【0035】
かかる構成によれば、クラスター堆積部の基材配置部に基材を配置することで、基材の被成膜面に効率良くクラスターを堆積することができるようになる。
【0036】
即ち、クラスターを堆積すべくクラスター発生部からクラスター成長部を経てクラスター堆積部へ流通するクラスターの流通経路上に基材配置部を備え、該基材配置部に基材を配置することで、前記クラスターが効率良く基材の被成膜面に衝突する。その結果、効率良くクラスターが基材に堆積し所望の厚さの薄膜が形成される。
【0037】
また、前記クラスター堆積部は、前記クラスター発生部とクラスター成長部とで構成されるクラスター製造部が複数連接される構成としても良い。
【0038】
かかる構成によれば、各クラスター製造部で異なる組成のクラスターを同時に製造する(発生及び成長させる)ことができ、該異なる組成のクラスターを同時に基材に流通させることで、複数の成分を含むクラスターで構成されるクラスター集合体(薄膜)を基材に堆積することができる。
【0039】
即ち、各クラスター発生部にそれぞれ異なる組成からなるターゲットを配置し、同時にスパッタリングすることで、各クラスター発生部ごとにターゲットを組成する原子からなるスパッタ粒子が発生し、該スパッタ粒子がクラスター成長部を流通する間に所望のサイズのクラスターに成長する。そのため、各クラスター製造部毎に異なる組成のクラスターが同時に製造される(発生及び成長する)。
【0040】
従って、同時に異なる組成のクラスターがクラスター堆積部に流入し、上述の如く、複数の成分を含むクラスターで構成される薄膜が基材の被成膜面上に形成される。
【0041】
また、本発明は、減圧可能なケーシング内に、一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向すると共に下流側に向いて傾斜するように対向配置する工程と、前記ケーシング内を減圧する工程と、複数のガス供給用毛細管が間隔をおいて同一平面上に配置されると共に、その径dmmと長さLmmとの比L/dが500≦L/dとなるように構成されるプラズマ源ガス供給手段によって、プラズマ源ガスを前記一対のターゲット間にシート状気流にして供給する工程と、該プラズマ源ガスをプラズマ状態にしつつ、該プラズマ状態のプラズマ源ガスによって、前記一対のターゲットから蒸気を発生させる工程と、クラスター発生部とクラスター成長部とが連通する連通部に配設されると共に、軸芯方向において、クラスター発生部側の少なくともその一部は、下流側に向かって径が漸減する中空筒状の捕集筒によって、前記蒸気を捕集してクラスター成長部へ導入する工程と、前記クラスター成長部へ導入される蒸気からクラスターを生成する工程と、を備えることを特徴とするクラスター製造方法を提供する。
【0042】
かかる方法によれば、プラズマ源ガスを均一にターゲット近傍に拡散させることができることからより効率的且つ高速にスパッタリングを行うことができ、飛散するスパッタ粒子(金属蒸気)をより効率的且つより多く発生させることができる。
【0043】
そして、発生したスパッタ粒子は、一対のターゲットの対向面がスパッタ粒子を流通させる方向(下流側方向)、即ち、製造されるクラスターの流通する方向に向いて傾斜するように対向配置されることで、下流側に飛散するスパッタ粒子が増加する。
【0044】
また、前記ガス供給用毛細管のアスペクト比を500以上とすることで、該ガス供給用毛細管から供給されるプラズマ源ガスの指向性が高くなると共に、ガス供給用毛細管は、該プラズマ源ガスが前記連通部へ向けて供給されるように配置されているため、該プラズマ源ガスによって下流側へ搬送されるスパッタ粒子の量が増加する。
【0045】
さらに、下流側に向かって少なくともその一部の径が漸減する捕集筒を設けることで、該捕集筒が漏斗のように働き、ターゲットから全方位に向かって飛散するスパッタ粒子をより多く下流側のクラスター成長部へ導入することができるようになる。
【0046】
その結果、クラスターを効率良く得ると共に得られたクラスターを基材へ効率良く堆積させることができるようになる。
【発明の効果】
【0047】
以上より、本発明によれば、所望のサイズのクラスターを効率良く得ると共に得られたクラスターを基材へ効率良く堆積させることができるクラスター製造装置及びクラスター製造方法を提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0049】
図1に示すように、本実施形態に係るクラスター製造装置1は、クラスター発生部10及びクラスター成長部30(以下、クラスター発生部10とクラスター成長部30とをまとめて、単に「クラスター製造部50」と言うことがある。)とクラスター堆積部40とを有している。
【0050】
クラスター発生部10は、減圧可能なケーシング11内部にプラズマ源ガスを供給するためのプラズマ源ガス供給手段12と、供給されたプラズマ源ガスをプラズマ状態にするためのプラズマ発生手段13と、後述するスパッタリングによって発生したスパッタ粒子(金属蒸気)を捕集するための捕集筒14と、ケーシング11内部の予備排気をするために外部ポンプ(真空ポンプ:図示しない)に連通する排気管15が設けられ、該排気管15には、バルブ16が設けられている。
【0051】
プラズマ源ガス供給手段12は、プラズマ源ガス導入管(以下、単に「ガス導入管」と言うことがある。)12Aとプラズマ源ガス供給用毛細管(以下、単に「ガス供給用毛細管」と言うことがある。)12Bとを備える。ガス導入管12Aは、ケーシング11の外部に設けられるプラズマ源ガス供給源(図示せず)と接続され、該プラズマ源ガス供給源から供給されるプラズマ源ガスを、その先端部に備えられるプラズマ源ガス供給用毛細管群(以下、単に「ガス供給用毛細管群」と言うことがある。)12B’(図2参照)へ流通させる中空筒状の管である。
【0052】
図2に示すように、ガス供給用毛細管群12B’は、平面視、複数の毛細管状のガス供給用毛細管12Bが並列することで構成されている。ガス供給用毛細管12Bの先端は、対向する金属材料(ターゲット)20A,20B間のほぼ中央に向かって伸びている(図1参照)。そして、その先端には、開口が設けられており、該開口からプラズマ源ガスを吹き出すことでターゲット20A,20B間にプラズマ源ガスが供給される。該供給されたプラズマ源ガスは、並列しているガス供給用毛細管12Bの先端からそれぞれ吹き出されることから、ターゲット20A,20B間には、シート状の気流(面上の気流)として供給される。
【0053】
図1に戻って、プラズマ発生手段13は、直流電源17に接続されると共にケーシング11内に対向するように配置された一対のカソード18A,18B及びターゲットシールドカバー19A,19Bを備えている。尚、本実施形態においては、ターゲットシールドカバー19A,19Bは、アノードとして機能する。
【0054】
カソード18A,18Bは、その間にプラズマ源ガスが導入される空間が形成されるように配置されている。そして、カソード18A,18Bの互いに対向する位置には、ターゲットとなる金属材料20A,20Bを対向して固定することができるターゲットホルダー21A,21Bがそれぞれ設けられている。また、カソード18A,18Bの内部(ターゲットホルダー21A,21Bの近傍)には、磁場発生手段22A,22Bが設けられている。
【0055】
ターゲットホルダー21A,21Bに固定された、一対のターゲット20A,20Bは、前記ターゲットホルダー21A,21Bによって、両対向面20A’,20B’がいずれもクラスター発生部10とクラスター成長部30とが連通している部分(連通部)に向くよう、傾斜して配置されている。
【0056】
具体的には、図3にも示すように、両対向面20A’,20B’のなす角α、さらに言えば、両対向面20A’,20B’に沿う方向に伸びる面のなす角度αが0°よりも大きく且つ90°以下である。尚、本実施形態においては、前記なす角度αは、20°〜30°である。このように、両対向面20A’,20B’が略V字状になる配置のターゲット20A,20Bを「V型対向ターゲット」と呼ぶことにする。
【0057】
磁場発生手段22A,22Bは、ここではいずれも永久磁石であり、それぞれターゲット20A,20Bの外側(対向面20A’,20B’の反対側)に配置されている。該永久磁石22A,22Bは、それぞれN極とS極とが互いに対向するようにカソード18A,18Bに内蔵され、ターゲット20A,20B間に磁場を発生可能としている。
【0058】
カソード18A,18Bには、モータやソレノイド等の位置変更手段23が設けられており、位置変更手段23を作動させることにより、カソード18A,18Bとターゲットシールドカバー19A、19Bとの間の距離(間隙)及びターゲット20A,20Bの距離(ターゲット20A,20Bの中心間の間隔)Lを適宜調節することができる。
【0059】
尚、本実施形態において、プラズマ発生手段13は、電極間に適当な電圧を印加することによって、カソード18A,18B周辺において好適なグロー放電を形成することができる。また、永久磁石22A,22Bにより、ターゲット20A,20B間の中央部20Cにおける磁場の強さを調節可能としている。
【0060】
また、本実施形態においては、ターゲットホルダー21A,21Bによって、ターゲット20A,20Bの対向面20A’,20B’は、互いに傾斜するように固定されているが、これに限定される必要もなく、カソード18A,18B自体を互いに傾斜するように配置することで、ターゲット20A,20Bの対向面20A’,20B’が互いに傾斜するように配置しても良い。
【0061】
捕集筒14は、クラスター発生部10とクラスター成長部30とが連通している部分(連通部)に設けられた筒状体である。該捕集筒14は、上流側から下流側に向かって(クラスター発生部10からクラスター成長部30へ向かって)径が漸減している筒状体である。より具体的には、上流側端部から下流側端部に向かって一定の割合で縮径している筒状体、即ち、円錐筒形状に形成されている。尚、ケーシング11の内径やターゲット20A,20Bから連通部までの距離によって異なるが、円錐筒の対向する側壁(周側面)のなす角βは、75°〜120°(本実施形態においては、図3に示すように、75°)が好ましい。
【0062】
また、捕集筒14は、電気的にアース電位(ケーシング11壁等の電位)よりフローティングでなければならない。従って、捕集筒14は、テフロン(登録商標)等の絶縁物、または金属の表面をテフロン(登録商標)等の絶縁物でコーティングしたもので形成されている。
【0063】
クラスター成長部30は、クラスター発生部10と連通するように隣接すると共に筒状に形成され、その中心部を貫通するようにクラスター発生部10とクラスター堆積部40とを連通するクラスター流路31が設けられている。
【0064】
また、クラスター成長部30内のガスを排出して該成長部30内をクラスター発生部10よりも陰圧にするための外部ポンプ(真空ポンプ:図示しない)に連通する排気管32A,32Bが設けられ、該排気管32A,32Bには、バルブ33A,33Bがそれぞれ設けられている。また、クラスター堆積部40との境界部分には、クラスター成長部30からクラスター堆積部40へのガス流路を規制するためのバルブ34が設けられている。
【0065】
クラスター成長部30には、本実施形態においては、透明石英硝子製の円筒管35(或いは金属製の導波管)と、スキマー36,37が設けられている。スキマー36,37は、クラスター流路31の上流から下流(クラスター発生部10からクラスター堆積部40へ向かう方向)に向かって設けられている。
【0066】
円筒管35は、その外周に高周波印加コイル38が巻回されている。該高周波印加コイル38は、高周波マッチングボックス38Aと高周波電源38Bとに接続されている。該高周波マッチングボックス38A及び高周波電源38Bによって、高周波印加コイル38(或いは導波管)に高周波(或いはマイクロ波)を印加することにより、円筒管35内を加熱することができる。その結果、熱交換により、成長部30を流通するクラスターの加熱を行うことができる。
【0067】
尚、加熱手段としては、高周波印加コイル38に限定される必要はなく、他の手段であっても良い。また、高周波印加コイル38の少なくともその一部周辺に、冷却水供給口38Cから供給された冷却水を循環させることにより、円筒管35を冷却して、所望の温度に調節することができる。
【0068】
円筒管35の下流方向先端部には、円筒管35の本体部分の開口面積よりも小さなノズル35Aが設けられている。該ノズル35Aとスキマー36,37の開口部36A,37Aの形成位置とがクラスター製造装置1の軸芯方向に沿って一致するように配設されることによって、クラスター流路31を流通する(流れる)クラスターをビーム状にして後述する基材に供給することができるようになる。
【0069】
さらに、クラスター成長部30には、外部の反応性ガス供給源(図示せず)と接続し、例えば、酸素(O2)ガス、空気、アンモニア(NH3)ガス、炭化水素ガス(HC)ガス等の反応性ガスを供給するための反応性ガス供給管39が、前記円筒管35よりも下流側に設けられている。
【0070】
反応性ガス供給管39は、クラスター流路31を挟んで互いに対向するように二箇所に設けられている。図1及び図4に示すように、反応性ガス供給管39の先端部には、それぞれクラスター流路31内を流通するクラスターの進行方向に延びる複数の反応性ガス供給用毛細管39Aが、クラスター流路31の幅方向に並列するように形成されている。本実施形態においては、同一平面上に一定の距離をおいて並列するように形成されている。
【0071】
該反応性ガス供給用毛細管39Aは、その先端開口部39Bから反応性ガスgを放出する。このことにより、反応性ガスgより構成されるシート状気流をクラスター流路31内に形成することができる。即ち、互いに対向する反応性ガス供給管39からクラスター流路31に気流を供給することによって、クラスター流路31の少なくとも一部に高濃度の反応性ガスで充たされたガス帯が形成される。
【0072】
また、反応性ガス供給管39から供給される反応性ガスgは、クラスターをクラスター体積部40に移送するキャリアガスとして利用することができる。即ち、所定のガス圧で反応性ガス供給管39から所望の反応性ガスgをクラスター流路31に供給することによって、クラスター流路31を流れるクラスター表面を改変しつつ(例えば、酸化被膜の形成)、該クラスターを迅速にクラスター堆積部40へ移送することができる。
【0073】
クラスター体積部40は、基材を保持するためのホルダー41がケーシング42内に配置されている。本実施形態において、ホルダー41は、板状基材(基板)を保持するように構成されているが、これに限定される必要はない。
【0074】
ホルダー41は、クラスター供給方向、即ち、クラスター成長部30からビーム状クラスターが供給される方向と基材の被成膜面とが直交するように配置されている。このように配置されることでホルダー41に保持された基材の被成膜面に効率良くクラスターが堆積される。
【0075】
ホルダー41には、モータやソレノイド等の位置変更手段43が取り付けられている。該位置変更手段43を作動することによって、ホルダーを動かすことができ、供給されるクラスター、即ち、成長部30から供給されてくるビーム状のクラスターに対し、基材を相対移動させることができる。その結果、クラスター成長部30のスキマー36,37を通ってビーム状に供給されるクラスターの基材上(被成膜面)における衝突位置を適宜調節することができるようになる(図1の矢印A参照)。
【0076】
さらに、クラスター堆積部40には、ケーシング42内のガスを排出して該ケーシング42内をクラスター成長部30よりも陰圧とするための外部ポンプ(真空ポンプ:図示せず)に連通する排気管43が設けられ、該排気管43にはバルブ44が設けられている。
【0077】
また、ケーシング42内には、可動式の水晶振動子45が配置されている。該水晶振動子45によって、基材の被成膜面(表面)に堆積するクラスターによって構成される薄膜の膜厚をモニタリングすることができる。
【0078】
また、図5に示すように、クラスター製造装置1’は、一つのクラスター堆積部40に、クラスター発生部10とクラスター成長部30とで構成されるクラスター製造部50,50,…が複数接続されても良い。かかる実施形態においては、クラスター堆積部40に、二つのクラスター製造部50,50が、平面視、V字状となるように接続されているが、これに限定される必要はない。
【0079】
このように、一つのクラスター堆積部40に複数のクラスター製造部50,50,…が接続されたクラスター製造装置1においては、それぞれのクラスター発生部10に設けられたターゲット20A,20Bの材質を相互に異ならせることによって、複数のクラスター発生部10,10,…ではそれぞれ異なる性状(組成)のクラスターを発生させることができる。これら性状の異なるクラスターを同時に一つのクラスター堆積部40に導入することによって、複数種のクラスターから構成される薄膜を、基材の被成膜面上に堆積することができるようになる。
【0080】
本実施形態に係るクラスター製造装置は、以上の構成からなり、次に、クラスター製造装置の使用状態について図1乃至図4を参照しつつ説明する。
【0081】
クラスター発生部10内に設けられたカソード18A,18Bのターゲットホルダー21A,21Bに、ターゲット20A,20Bをその対向面20A’,20B’が下流側に向かって傾斜するように配置する。本実施形態の場合、両対向面20A’,20B’のなす角α、さらに言えば、両対向面20A’,20B’に沿う方向に伸びる面のなす角度αが20°〜30°となるように配置する。
【0082】
磁性クラスター(又は該クラスターの堆積物である薄膜状の磁性材料)を製造する場合、ターゲット20A,20Bは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の金属材料であることが好ましい。
【0083】
尚、使用する金属材料は、上記金属材料に限定される必要はなく、クラスター源として金属蒸気(スパッタ粒子)を発生させ得るものであれば良い。例えば、FeとCo、又はFeとNiの合金であっても良い。
【0084】
また、合金クラスターを製造する場合には、2種類以上の金属材料を使用する。例えば、FeとCo及び/又はNiとを使用し、Fe蒸気(スパッタ粒子)とCo蒸気(スパッタ粒子)及び/又はNi蒸気(スパッタ粒子)とを発生させ、これら蒸気(スパッタ粒子)よりFeとCoとの合金クラスター、FeとNiとの合金クラスター又はFeとCoとNiとの合金クラスターを製造することができる。即ち、一対のターゲット20A,20Bは、共に同一の金属材料であっても良く、それぞれが異なる金属材料であっても良い。
【0085】
また、使用する材料の形状は、特に限定されず、スパッタ粒子を発生させる種々の条件や使用する装置に応じて適宜変更しても良い。
【0086】
ターゲット20A,20Bをターゲットホルダー21A,21Bに配置後、バルブ16を開け、外部の真空ポンプ(メカニカルブースターポンプ等:図示せず)を作動させて、1×10-5Pa程度までケーシング11内を減圧する(予備排気)。
【0087】
次に、Arガス、He/Ar混合ガス、或いはAr以外の希ガス(Neガス、Xeガス等)等のプラズマ源ガス(本実施形態においてはArガス)をクラスター発生部10内において、ターゲット20A,20B間にシート状気流として供給する。尚、ケーシング11の一部に別のガス導入口(図示せず)を設け、キャリアガス(He、Ar等)を低圧で導入しても良い。この場合、スパッタリングによって生じたスパッタ粒子(金属蒸気)は、その周囲にあるキャリアガスによってエネルギーを奪われ凝縮、即ち、クラスター生成が促進される。
【0088】
次に、クラスター成長部30のバルブ33A,33Bを開け、外部の真空ポンプを作動させると共に前記バルブ16を閉める。これにより、ガス導入管12Aからクラスター発生部10に導入されたプラズマ源ガスは、金属材料(ターゲット)20A,20B間にシート状に拡散して集中的に、即ち、高濃度で金属材料20A,20B周辺に存在する。そして、クラスター成長部30へと所定の流速で流通する。
【0089】
好ましくは、クラスター発生部10内における平均プラズマ源ガス圧がおよそ1×10-2〜1×103Pa程度となるようにプラズマ源ガス供給量及び真空ポンプの仕事量を調節する。
【0090】
このような条件下で、例えば300〜400W程度の電力をプラズマ発生用電極(カソード)18A,18Bに印加し、生じたグロー放電によってプラズマ源ガス(Ar等)をプラズマ状態とし(Ar等をイオン化し)、金属材料(ターゲット)20A,20Bの表面をスパッタリングする。これによって、スパッタ粒子(金属蒸気)を発生させることができる。即ち、金属材料20A,20B周辺をプラズマ状態とし、該雰囲気中に含まれるArイオン等によって金属材料20A,20Bをスパッタリングすることができる。
【0091】
この方法では、プラズマ放電に投入する電力、プラズマ源ガスの種類又は濃度、ガス圧、或いは処理温度を適宜調節することによって、スパッタ粒子の発生量や発生したスパッタ粒子のイオン化の程度を制御することができ、その結果、クラスターの生成効率及びイオン化効率を容易に制御することができる。
【0092】
発生したスパッタ粒子は、プラズマ源ガスとして導入されたArガスと共に(導入されたHe等のキャリアガスと共にであっても良い)流通して成長室30のクラスター流路31に導入される。
【0093】
その際、クラスター発生部10とクラスター成長部30との連通部には円錐筒状の捕集筒14が、径の大きい方の端部をターゲット20A,20B側に向けると共に、径の小さい方の端部をクラスター成長部30側に向くように設けられている。そのため、該捕集筒14は、漏斗のように働き、より多くのスパッタ粒子がクラスター成長部30へ導入(案内)される。
【0094】
スパッタ粒子(金属蒸気或いは気化原子)は、クラスター成長部30内で流通する際にキャリアガス種(He、Ar等)と衝突し、運動エネルギーを失い、即ち、冷却され、相互の衝突を繰り返す結果、凝集してクラスターの核生成及び成長が行われる。
【0095】
このとき、高周波印加コイル38(或いは前記導波管)に高周波(或いはマイクロ波)を印加することによって、円筒管35の内壁に接触するキャリアガス及びクラスターをより効率良く加熱することができる。
【0096】
印加する高周波の周波数、投入電力を変化させることにより、クラスターの粒子サイズ、構造、組成及び表面改変の程度(例えば酸化度、窒化度)を制御することができる。特に限定するものではないが、好適に使用可能な印加高周波の周波数は、10〜100MHz(或いは周波数1〜10GHzのマイクロ波)である。
【0097】
以上のようにクラスターを加熱することによって、クラスターの成長速度及び最終的なクラスターのサイズを調整することができる。このようにして、単分散性の比較的粒径の小さいナノレベルのクラスターが生成される。
【0098】
生成(粒成長を含む。)されるクラスターのサイズ(即ちスパッタ粒子の集合化の程度)は、クラスター流路31の長さ、クラスター生成空間のガス圧、スパッタ粒子の発生量等を制御することによって適宜調整することができる。例えば平均粒径(顕微鏡観察に基づく粒径)1〜50nm、好ましくは2nm〜30nm、より好ましくは3〜20nm、特に好ましくは5nm〜15nmのクラスターを効率よく生成することができる。
【0099】
このような粒径範囲のクラスター(前記いずれかの粒径範囲内に平均粒径の値が含まれる単分散系クラスター)を使用することにより、クラスターの崩壊を防止すると共に充填率の向上した緻密な金属薄膜を製造することができる。
【0100】
また、所望する場合は、反応性ガス供給管39から反応性ガス、例えば酸素ガス若しくは酸化剤として作用し得る所定の流量のガスを導入する。これにより、クラスター堆積部40に導入される前のクラスターの表面の改変処理(例えば酸化被膜形成)を容易に行うことができる。例えば、かかる処理によってクラスターの電気抵抗を高くすることにより、該クラスターが堆積(集合)して構成される高電気抵抗と低保磁力(高透磁率)及び/又は高飽和磁束密度とを備えた、高周波領域での使用に優れる軟磁性材料を製造することができる。
【0101】
反応性ガスによる処理は、クラスターの機能、特に電気抵抗を高め得るものが好適である。例えばクラスターの表面を酸化物或いは非磁性体によって被覆する処理が好ましい。或いは、クラスターの表面を酸化物、窒化物、炭化物等の化合物で被覆することが好適である。特に好ましい処理は、クラスターの表面に酸化物から成る膜(酸化被膜)を形成する処理である。酸化被膜が形成されたクラスター(好ましくは単分散系クラスター)をその形状を破壊することなく緻密に堆積(集合)させることによって、酸化被膜が形成されていないクラスターを用いた場合よりも高い電気抵抗値を有するクラスター集合体(軟磁性材料)を得ることができる。
【0102】
反応性ガスによる処理は、クラスターの機能、特に電気抵抗を高め得るものが好適である。例えばクラスターの表面を酸化物或いは非磁性体によって被覆する処理が好ましい。或いは、クラスターの表面を酸化物,窒化物,炭化物等の化合物で被覆することが好適である。特に好ましい処理は、クラスターの表面に酸化物から成る膜(酸化被膜)を形成する処理である。酸化被膜が形成されたクラスター(好ましくは単分散系クラスター)をその形状を破壊することなく緻密に堆積(集合)させることによって、酸化被膜が形成されていないクラスターを用いた場合よりも高い電気抵抗値を有するクラスター集合体(軟磁性材料)を得ることができる。
【0103】
例えば、適当な温度条件下(好ましくは酸化は常温又は高温域、窒化及び炭化は高温域で行う)、ケーシング11及びクラスター流路31内の減圧状態(例えば10-4〜10-1Pa程度)を維持しつつ、O2ガス、NH3ガス、HCガス等を反応性ガス供給管39から導入する。これにより、クラスター表面の金属原子と導入ガス種とが反応し、反応生成物である酸化物、窒化物、炭化物等の化合物でクラスター表面が被覆された状態となる。
【0104】
このようにして得られたクラスター(イオンを含む)は、円筒管35(或いは導波管)のノズル35A及びスキマー36,37の開口部36A、37Aを通過しつつ、クラスター堆積部40に供給される。このとき、バルブ47を開けて真空ポンプによってクラスター堆積部40(ケーシング42)内をクラスター成長部30よりも真空度の高い雰囲気(好ましくは1×10−3〜1×10−5Pa)にしておくことによって、クラスターを含むキャリアガスをスキマー37からホルダー41方向にビーム状に噴出させることができる。例えば、1〜50m/s程度の流速(好ましくは5〜20m/s)で、クラスターが分散しているキャリアガスをノズルから基材に向けて噴出させることによって、クラスターをビーム状にして基材に供給することを実現することができる。
【0105】
また、カーボン、異種金属、半導体等でクラスターの表面を修飾する場合には、クラスター堆積部40に別のスパッタリング装置を付設し、所定の材料(ターゲット)をスパッタリングし、得られたカーボン、異種金属、半導体等のスパッタ粒子をクラスターと反応させても良い。このことによって、クラスター表面をカーボン、異種金属、半導体等によって被覆することができる。
【0106】
尚、これら材料をスパッタリングする方法は、従来より公知の方法で良い。例えば高周波電源を備えたプラズマ発生装置を使用してスパッタリングを行うことができる。さらに、図5に示すように、クラスター発生部50,50,…を複数設けても良い。かかる実施形態の場合は2つである。この場合、性状(組成)の異なる2種以上のクラスターから成る複合クラスター集合体(堆積物)を基材に堆積させることができる。
【0107】
基材としては、用途に応じて適宜その材料を選択することができる。例えば、シリコン基板、金属基板、セラミック基板、ガラス基板等を用いることができる。基材は、ホルダー41の位置変更手段43を作動させてクラスター供給方向(クラスター流路31)に対して相対位置を移動させる。このことによって、基材におけるクラスターの衝突位置を変化させることができる。この結果、基材上の全体に亘って均質で緻密なクラスター堆積層(薄膜状にクラスターが堆積して構成される軟磁性材料)を形成することができる。
【0108】
以上より、本実施形態にかかるクラスター製造装置1によれば、捕集筒14がクラスター発生部10とクラスター成長部30との連通部に配設されているため、クラスター発生部10で発生するクラスターを、より多く下流側のクラスター成長部30へ導入(案内)することができる。
【0109】
また、クラスター発生部10のターゲット20A,20Bの対向面20A’,20B’をクラスター成長部30側に傾斜するように配置されることから、連通部方向のスパッタ粒子の密度を大きくすることができ、より多くのスパッタ粒子をクラスター成長部30へ導入することができる。
【0110】
また、ガス供給用毛細管12Bのアスペクト比を500以上とすることで、該ガス供給用毛細管12Bから供給されるプラズマ源ガスの指向性が高くなる。さらに、ガス供給用毛細管12Bは、該プラズマ源ガスが連通部へ向けて供給されるように配置されている。そのため、スパッタリングによって発生したスパッタ粒子が該プラズマ源ガスによって前記連通部へ搬送され、クラスター成長部30へ導入されるスパッタ粒子の量が増加する。
【0111】
このように、クラスター成長部30へ導入されるスパッタ粒子の量が増加するのに伴い、クラスター成長部30を経て(流通し)基材へ到達するクラスターの量も増加し、基材へのクラスターの堆積効率が向上する。
【0112】
尚、本発明のクラスター製造装置及びクラスター製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0113】
例えば、本実施形態において、捕集筒14は、円錐筒形状に形成されているが、これに限定される必要はなく、径が一端から他端に向かって縮径する角筒形状であっても良い。
【0114】
また、クラスター発生部10に、捕集筒14の内周面に沿ってクラスター発生部10側からクラスター成長部30側へ反応性ガスを供給するための反応性ガス供給手段を、さらに設けても良い。このようにすることで、該反応性ガスがキャリアガスとしてスパッタリングによって発生したスパッタ粒子を、より多く下流側のクラスター成長部30へ移送(導入)することができるようになる。
【実施例】
【0115】
以下に、本実施形態に係るクラスター製造装置1を用い、各種条件を変更して基材上にクラスター薄膜を成膜した結果を示す。
【0116】
まず、第一に、V型対向ターゲット(α=20°)、ターゲットの材質はタングステン、ターゲットの大きさは、直径80mm、厚さ5.0mmの円盤形状で、中心部間の距離を120mmとし、プラズマ源ガス供給用毛細管のアスペクト比は500、捕集筒の角度β=120°とし、放電条件として、スパッタ室(クラスター発生部のケーシング内)は400Pa、ターゲットへの印加は0.5〜1.5Aとし、
1)第一比較例としてターゲットを平行型対向ターゲット(α=0°)とし、捕集筒 を設けないもの、
2)第一実施例としてV型対向ターゲット(α=20°)とし、捕集筒を設けないも の、
3)第二実施例としてV型対向ターゲット(α=20°)とし、捕集筒を設けたものとした場合にプラズマ源ガスの供給量を変化させてクラスター堆積速度を測定し(水晶振動式膜厚計で測定した換算膜厚)、得られた結果を図6に示す。
【0117】
図6から、第一比較例と比べ、第一実施例では、プラズマ源ガスの流量が400sccm,600sccmの場合において、堆積速度が大きくなっている。また、第二実施例では、全ての流量において、第一比較例と比べて大きくなっており、さらに、第一実施例よりも堆積速度が大きくなっている。
【0118】
従って、ターゲットが平行に配置された平行型対向ターゲットよりもV型対向ターゲットの方がより堆積速度が大きくなっていることから、V型対向ターゲットを備えることによって、クラスター製造装置は、クラスター発生部で発生したクラスターがより多く、クラスター成長部へ(被成膜対象である基材へ)導入されていることが推測される。
【0119】
また、第一実施例に対し第二実施例の方が、全ての流量において、堆積速度が大きくなっていることから、クラスター発生部とクラスター成長部との連通部に捕集筒を備えることによって、クラスター製造装置は、クラスター発生部で発生したクラスターがより多く、クラスター成長部へ導入されていることが推測される。
【0120】
第二に、上記同様、V型対向ターゲット(α=20°)、ターゲットの材質はタングステン、ターゲットの大きさは、直径80mm、厚さ5.0mmの円盤形状で、中心部間の距離を120mmとし、捕集筒の角度β=120°とし、放電条件として、ターゲットへの印加は1.5Aとし、さらに、スパッタ室の気圧を変化させてクラスター堆積速度を測定し、得られた結果を図7に示す。
【0121】
図7から、第一比較例に対し、第一及び第二実施例の方が、クラスター堆積速度が大きくなっていることから、V型対向ターゲットを備えることによって、クラスター製造装置は、クラスター発生部で発生したクラスターがより多く、クラスター成長部へ導入されていることが推測される。
【0122】
また、図7においても、第一実施例に対し第二実施例の方が、全てのスパッタ室の気圧において、堆積速度が大きくなっていることから、クラスター発生部とクラスター成長部との連通部に捕集筒を備えることによって、クラスター製造装置は、より多くのクラスター発生部で発生したクラスターがクラスター成長部へ導入されていることが推測される。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本実施形態に係るクラスター製造装置の概略構成図を示す。
【図2】同実施形態に係るクラスター製造装置における、プラズマ源ガス供給管の構成の概略平面図を示す。
【図3】同実施形態に係るクラスター製造装置の概略構成図におけるプラズマ発生手段及び捕集筒部分の一部拡大図を示す。
【図4】同実施形態に係るクラスター製造装置における、反応性ガス供給管の構成の概略平面図を示す。
【図5】複数のクラスター製造部を備えるクラスター製造装置の平面方向からのブロック図を示す。
【図6】プラズマ源ガスの供給量を変化させて測定した、基材へのクラスター堆積速度の比較図を示す。
【図7】スパッタ室の気圧を変化させて測定した、基材へのクラスター堆積速度の比較図を示す。
【符号の説明】
【0124】
1…クラスター製造装置、10…クラスター発生部、11…ケーシング、12…プラズマ源ガス供給手段、13…プラズマ発生手段、14…捕集筒、18A、18B…カソード、19A、19B…ターゲットシールドカバー、20A、20B…ターゲット、20A’、20B’…対向面、20C…一対のターゲット間の中央部、21A、21B…ターゲットホルダー、22A、22B…永久磁石(磁場発生手段)、30…クラスター成長部、31…クラスター流路、35…円筒管(金属製の導波管)、36…スキマー、37…スキマー、38…高周波印加コイル、39…反応性ガス供給管、39A…反応性ガス供給用毛細管、40…クラスター堆積部、41…ホルダー、42…ケーシング、45…水晶振動子、α…一対のターゲットの対向面のなす角度、β…捕集筒の対向する周側面のなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が減圧可能なケーシング内に、一対のターゲットと、該一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向するように保持するターゲット保持手段と、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスを供給するためのプラズマ源ガス供給手段と、前記一対のターゲット間に供給されたプラズマ源ガスをプラズマ状態にするためのプラズマ発生手段とを備えるクラスター発生部と、
前記クラスター発生部と連通部で連通し、前記クラスター発生部において発生するクラスターをキャリアガスと共に流通させるためのクラスター流路を備えるクラスター成長部とを有するクラスター製造装置において、
中空筒状の捕集筒が前記連通部に配設され、該捕集筒は、軸芯方向において、クラスター発生部側の少なくともその一部をクラスター発生部からクラスター成長部に向かって径が漸減するように形成されることを特徴とするクラスター製造装置。
【請求項2】
前記捕集筒は、クラスター発生部側に設けられる円錐筒である請求項1に記載のクラスター製造装置。
【請求項3】
前記一対のターゲットは、それぞれの対向面が前記クラスター成長部側に向いて傾斜するように配置されている請求項1又は2に記載のクラスター製造装置。
【請求項4】
内部が減圧可能なケーシング内に、一対のターゲットと、該一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向するように保持するターゲット保持手段と、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスを供給するためのプラズマ源ガス供給手段と、前記一対のターゲット間に供給されたプラズマ源ガスをプラズマ状態にするためのプラズマ発生手段とを備えるクラスター発生部と、
前記クラスター発生部と連通部で連通し、前記クラスター発生部において発生するクラスターをキャリアガスと共に流通させるためのクラスター流路を備えるクラスター成長部とを有するクラスター製造装置において、
前記一対のターゲットは、それぞれの対向面が前記クラスター成長部側に向いて傾斜するように配置されていることを特徴とするクラスター製造装置。
【請求項5】
前記プラズマ源ガス供給手段は、前記一対のターゲット間にプラズマ源ガスによるシート状気流を形成すべく、複数のガス供給用毛細管が間隔をおいて同一平面上に配置される請求項1乃至4の何れか一項に記載のクラスター製造装置。
【請求項6】
前記ガス供給用毛細管は、その径dmmと長さLmmとの比L/dが、500≦L/dとなるように形成されていると共に、前記シート状気流が前記連結部方向に向かって形成されるように配置される請求項5に記載のクラスター製造装置。
【請求項7】
前記プラズマ発生手段は、前記一対のターゲット間に磁場空間を発生させる磁場発生手段を備える請求項1乃至6の何れか一項に記載のクラスター製造装置。
【請求項8】
前記クラスター成長部は、内部をキャリアガスと共に流通するクラスターを加熱すべく、クラスター加熱手段を備える請求項1乃至7の何れか一項に記載のクラスター製造装置。
【請求項9】
基材を配置するための基材配置部を備え、該基材配置部に配置される基材に前記クラスター発生部からのクラスターを堆積すべく、クラスター成長部と連通するよう配設されているクラスター堆積部を更に有する請求項1乃至8の何れか一項に記載のクラスター製造装置。
【請求項10】
前記クラスター堆積部は、前記クラスター発生部とクラスター成長部とで構成されるクラスター製造部が複数連接される請求項1乃至9の何れか一項に記載のクラスター製造装置。
【請求項11】
減圧可能なケーシング内に、一対のターゲットを間隔をおいて互いに対向すると共に下流側に向いて傾斜するように対向配置する工程と、
前記ケーシング内を減圧する工程と、
複数のガス供給用毛細管が間隔をおいて同一平面上に配置されると共に、その径dmmと長さLmmとの比L/dが500≦L/dとなるように構成されるプラズマ源ガス供給手段によって、プラズマ源ガスを前記一対のターゲット間にシート状気流にして供給する工程と、
該プラズマ源ガスをプラズマ状態にしつつ、該プラズマ状態のプラズマ源ガスによって、前記一対のターゲットから蒸気を発生させる工程と、
クラスター発生部とクラスター成長部とが連通する連通部に配設されると共に、軸芯方向において、クラスター発生部側の少なくともその一部は、下流側に向かって径が漸減する中空筒状の捕集筒によって、前記蒸気を捕集してクラスター成長部へ導入する工程と、
前記クラスター成長部へ導入される蒸気からクラスターを生成する工程と、
を備えることを特徴とするクラスター製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−332405(P2007−332405A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163284(P2006−163284)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000149170)株式会社大阪真空機器製作所 (38)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】