説明

クラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置

【課題】使用時間の影響を受けることなく、クラッチのよりよい応答性を確保するクラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】クラッチ23は、インプットシャフト51に形成された第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛合する第1ピニオンギヤP1と、第1ピニオンギヤP1を支承する第1キャリアC1と、ハウジング21に固定され第1ピニオンギヤP1に噛合する第1リングギヤR1と、からなる第1遊星歯車装置53と、クラッチドラム52に形成された第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛合する第2ピニオンギヤP2と、第2ピニオンギヤP2を支承するとともに第1キャリアC1と一体的に自転する第2キャリアC2と、第2ピニオンギヤP2に噛合するとともにハウジング21に解除可能に固定される第2リングギヤR2と、からなる第2遊星歯車装置54と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置の一形式として、特許文献1に示されているものが知られている。特許文献1の図1に示されているように、クラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置においては、ハウジングに回転可能に支承されかつ車両に搭載されたエンジンで発生された駆動力を入力するインプットシャフト9(入力回転体)と、インプットシャフト9と同軸にハウジングに回転可能に支承されかつ車両の駆動輪に駆動力を出力するとともに発電機としても使用可能である電動モータ5(電動機)のロータ6が取り付けられているクラッチドラム8(出力回転体)との間において動力を伝達あるいは遮断する湿式クラッチ2(クラッチ)が備えられている。
【0003】
湿式クラッチ2は、入力側のクラッチプレートと出力側のクラッチプレートが交互に配置されて構成されている。油圧式のピストンが加圧されていない場合(またはピストンが減圧された場合)には、付勢部材によって両クラッチプレートが押圧され当接されて、クラッチが係合状態となるように構成されている。一方、油圧式のピストンが加圧されている場合には、付勢部材の付勢力に抗してピストンが両クラッチプレートを押圧して当接が解除されて、クラッチが解放状態となるように構成されている。すなわち、湿式クラッチ2は、ノーマルクローズ型のクラッチである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−052516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のクラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置において、使用時間が長くなるなどによりクラッチプレートが磨耗すると、磨耗する前と比較して、油圧がかかっていない状態(係合状態)においてピストンに係る油圧室の容積が減少するため、クラッチの応答性が遅くなるおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、使用時間の影響を受けることなく、クラッチのよりよい応答性を確保するクラッチおよびハイブリッドモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ハウジングに回転可能に支承されかつ車両に搭載されたエンジンで発生された駆動力を入力する入力回転体と、入力回転体と同軸にハウジングに回転可能に支承されかつ車両の駆動輪に駆動力を出力するとともに発電機としても使用可能である電動機のロータが取り付けられている出力回転体との間において動力を伝達あるいは遮断するクラッチであって、入力回転体にその回転軸と同軸に形成された第1サンギヤと、第1サンギヤに噛合する第1ピニオンギヤと、第1ピニオンギヤを回転可能に支承する第1キャリアと、ハウジングに固定され第1ピニオンギヤに噛合する第1リングギヤと、からなる第1遊星歯車装置と、出力回転体にその回転軸に同軸に形成された第2サンギヤと、第2サンギヤに噛合する第2ピニオンギヤと、第2ピニオンギヤを回転可能に支承するとともに第1キャリアと一体的に自転する第2キャリアと、第2ピニオンギヤに噛合するとともにハウジングに解除可能に固定される第2リングギヤと、からなる第2遊星歯車装置と、を備えて構成されたことである。
【0008】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、第2リングギヤをハウジングに解除可能に固定するための回転規制装置をさらに備え、回転規制装置は、第2リングギヤの外周に同軸に形成された第1ドグ歯列と、第1ドグ歯列と互いに噛合可能な第2ドグ歯列が内周に形成されるとともに両ドグ歯列が噛合する噛合位置と該噛合が解除される噛合解除位置との間を回転軸方向に沿って移動可能でありかつハウジングに対して回転が規制されているシンクロリングと、を備え、シンクロリングを噛合位置に向けて移動させて両ドグ歯列を同期させて噛合させることで第2リングギヤの回転を規制し、一方、シンクロリングを噛合解除位置に向けて移動させて両ドグ歯列を噛合解除させることで第2リングギヤの回転を許容することである。
【0009】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、回転規制装置は、ハウジングに固定されシンクロリングを噛合位置と噛合解除位置との間を往復動させるためのソレノイドをさらに備え、ソレノイドは、通電されると磁界を発生させるコイルと、コイルの内側に軸方向に沿って往復動可能に配設された可動子と、一端が可動子の端部に取り付けられるとともに他端がシンクロリングに取り付けられたピンと、を含んで構成され、コイルが通電されると可動子がコイルの内側に向けて吸引されることにより、シンクロリングが噛合位置に移動され、一方、コイルへの通電が解除されると可動子がコイルの外側に向けて移動されることにより、シンクロリングが噛合解除位置に移動されることである。
【0010】
また請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のクラッチおよび電動機を備えたことである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、クラッチは、入力回転体にその回転軸と同軸に形成された第1サンギヤと、第1サンギヤに噛合する第1ピニオンギヤと、第1ピニオンギヤを回転可能に支承する第1キャリアと、ハウジングに固定され第1ピニオンギヤに噛合する第1リングギヤと、からなる第1遊星歯車装置と、出力回転体にその回転軸に同軸に形成された第2サンギヤと、第2サンギヤに噛合する第2ピニオンギヤと、第2ピニオンギヤを回転可能に支承するとともに第1キャリアと一体的に自転する第2キャリアと、第2ピニオンギヤに噛合するとともにハウジングに解除可能に固定される第2リングギヤと、からなる第2遊星歯車装置と、を備えて構成されている。
【0012】
第2リングギヤがハウジングに固定されていない場合には、クラッチは動力が伝達されていない状態(動力遮断状態)である。詳述すると、第1遊星歯車装置においては、エンジンから駆動力が入力回転体に入力されている場合には、入力回転体が駆動力に応じて回転するとともに第1サンギヤも回転する。第1リングギヤはハウジングに固定されているため、第1サンギヤの回転に応じて第1ピニオンギヤが第1サンギヤ周りを自転しながら公転する。すなわち、第1キャリアが自転する。このとき、第2遊星歯車装置においては、第1キャリアとともに第2キャリアが自転する。すなわち、第2ピニオンが第1ピニオンギヤと一体的に公転する。しかし、第2リングギヤが固定されておらず自由に回転可能であるため、第2キャリアの自転すなわち第2ピニオンの公転が第2サンギヤひいては出力回転体には伝達されていない(クラッチは解放されている)。
【0013】
一方、第2リングギヤがハウジングに対して固定されている場合には、クラッチは動力が伝達される状態(動力伝達状態)である。詳述すると、第1遊星歯車装置においては前述した動力遮断状態と同様である。第2遊星歯車装置においては、第1キャリアの自転に伴って第2キャリアが自転するが、第2リングギヤは固定されているため、固定されている第2リングギヤの内周に沿って第2ピニオンギヤが公転する。このとき、第2ピニオンギヤは第2リングギヤに対する反力(反発力)により自転しており、この自転により第2サンギヤが回転される。よって、第2キャリアの自転すなわち第2ピニオンの公転が第2サンギヤひいては出力回転体に伝達されている(クラッチは係合されている)。
【0014】
このように、第2リングギヤを固定するとクラッチは係合され、一方、第2リングギヤの固定を解放するとクラッチは解放される。したがって、このようなクラッチプレートを使用しないクラッチを採用することで、クラッチプレートの磨耗に起因するクラッチの応答性が遅くなることを防止することができる。これにより、使用時間の影響を受けることなく、クラッチのよりよい応答性を確保するクラッチを提供することができる。
【0015】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1において、第2リングギヤをハウジングに解除可能に固定するための回転規制装置をさらに備え、回転規制装置は、第2リングギヤの外周に同軸に形成された第1ドグ歯列と、第1ドグ歯列と互いに噛合可能な第2ドグ歯列が内周に形成されるとともに両ドグ歯列が噛合する噛合位置と該噛合が解除される噛合解除位置との間を回転軸方向に沿って移動可能でありかつハウジングに対して回転が規制されているシンクロリングと、を備え、シンクロリングを噛合位置に向けて移動させて両ドグ歯列を同期させて噛合させることで第2リングギヤの回転を規制し、一方、シンクロリングを噛合解除位置に向けて移動させて両ドグ歯列を噛合解除させることで第2リングギヤの回転を許容する。これにより、シンクロリングを噛合位置に移動させ、第1ドグ歯列と第2ドグ歯列とを噛合させることで、ハウジングに対して回転が規制されているシンクロリングにより第2リングギヤの回転を規制させることができる。また、シンクロリングによれば、第1ドグ歯列と第2ドグ歯列との同期係合を確実に行うことができる。
【0016】
ところで、湿式クラッチにおいては、油液が遠心力の影響を受けるため、クラッチの係合・遮断動作にかかる時間のばらつきが大きくなり応答性が悪化するおそれがあった。また、ノーマルクローズ型の湿式クラッチにおいては、クラッチを解放状態に維持するためには(またノーマルオープン型のクラッチについては、クラッチを係合状態に維持するためには)、油圧を供給し続ける必要があり、エネルギーロスが大きくなるおそれがある。
【0017】
これに対して、上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項2において、回転規制装置は、ハウジングに固定されシンクロリングを噛合位置と噛合解除位置との間を往復動させるためのソレノイドをさらに備え、ソレノイドは、通電されると磁界を発生させるコイルと、コイルの内側に軸方向に沿って往復動可能に配設された可動子と、一端が可動子の端部に取り付けられるとともに他端がシンクロリングに取り付けられたピンと、を含んで構成され、コイルが通電されると可動子がコイルの内側に向けて吸引されることにより、シンクロリングが噛合位置に移動され、一方、コイルへの通電が解除されると可動子がコイルの外側に向けて移動されることにより、シンクロリングが噛合解除位置に移動される。
【0018】
これによれば、ソレノイドが通電されるとクラッチは遮断され、非通電されると係合される。よって、湿式クラッチのように遠心力に起因するクラッチの係合・遮断動作にかかる時間のばらつきを招くことはなく応答性を向上させることができる。
【0019】
また、ノーマルオープン型のクラッチについては、クラッチを係合状態に維持するために(ノーマルクローズ型のクラッチにおいては、クラッチを解放状態に維持するために)、湿式クラッチのように油圧を供給し続ける必要はなく、そのためのエネルギーロスを抑制することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のクラッチおよび電動機を備えたハイブリッドモータ駆動装置は、上述した各作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明によるクラッチ(ハイブリッドモータ駆動装置)を適用したハイブリッド車の一実施形態の概要を示す概要図である。
【図2】図1に示したハイブリッドモータ駆動装置の断面図である。
【図3】図1に示したクラッチの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるクラッチ(およびハイブリッドモータ駆動装置)をハイブリッド車に適用した一実施形態について図面を参照して説明する。図1はそのハイブリッド車の構成を示す概要図である。
【0023】
ハイブリッド車Mは、図1に示すように、ハイブリッドシステムによって駆動輪例えば左右後輪Wrl,Wrrを駆動させる車両である。ハイブリッドシステムは、エンジン11および電動モータ22(電動機)の2種類の動力源を組み合わせて使用するパワートレーンである。本実施形態の場合、エンジン11および電動モータ22の少なくとも何れか一方で車輪を直接駆動する方式であるパラレルハイブリッドシステムである。
【0024】
ハイブリッド車Mは、エンジン11、ハイブリッドモータ駆動装置20、トランスミッション12、プロペラシャフト13、ディファレンシャル装置14、駆動輪(左右後輪)Wrl,Wrrおよび従動輪(操舵輪;左右前輪)Wfl,Wfrを備えている。ハイブリッドモータ駆動装置20、トランスミッション12、プロペラシャフト13、およびディファレンシャル装置14は、エンジン11とエンジン11の駆動力によって駆動される駆動輪Wrl,Wrrとの間の駆動経路にその駆動経路に沿って直列に設けられている。駆動経路とは、エンジン11から駆動輪Wrl,Wrrまでの間の経路であって両者間で動力が伝達する経路である。
【0025】
エンジン11は、燃料の燃焼によって駆動力を発生させるものである。エンジン11の駆動力は、ハイブリッドモータ駆動装置20、トランスミッション12、プロペラシャフト13、およびディファレンシャル装置14を介して駆動輪Wrl,Wrrに伝達されるように構成されている。トランスミッション12は、一般的な自動変速機であり、トルクコンバータ12a、プラネタリギヤユニット(図示省略)、および油圧制御装置(図示省略)を含んで構成されている。
【0026】
ハイブリッドモータ駆動装置20は、電動モータ22およびクラッチ23を含んで構成されている。
【0027】
電動モータ22は、車輪駆動用の同期モータである。電動モータ22は、エンジン11とエンジン11の駆動力によって駆動される駆動輪Wrl,Wrrとの間の駆動経路に設けられている。電動モータ22の駆動力は、トランスミッション12、プロペラシャフト13、およびディファレンシャル装置14を介して駆動輪Wrl,Wrrに伝達されるように構成されている。
【0028】
電動モータ22は、車両の加速時にはエンジン11の出力を補助し駆動力を高めるものであり、一方車両の制動時には発電を行って回生制動力を駆動輪に発生させるものである。また電動モータ22は、エンジン11の出力により発電を行うものであり、エンジン始動時のスタータの機能としても使える。なお、電動モータ22は、車輪駆動用の同期モータに限定されるものではない。
【0029】
クラッチ23は、エンジン11と電動モータ22との間の前記駆動経路上に直列に設けられ、係合時にエンジン11と電動モータ22との間の動力が伝達可能であり一方解放時に前記動力を遮断するクラッチである。クラッチ23は、作動(制御)時は係合状態とされエンジン11と電動モータ22との間の動力伝達を可能とし、一方非作動(非制御)時は解放状態とされ動力伝達を遮断するノーマルオープン型のクラッチである。非作動時とは、平常時のことであり、クラッチ23が作動されていないことをいう。これに対して、作動時とは、クラッチ23が作動されていることをいう。
【0030】
ハイブリッド車Mにおいては、図1に示すように、エンジン11はエンジンECU31に電気的に接続され、トランスミッション12は自動変速機ECU32に電気的に接続されている。また、電動モータ22は、バッテリ16に接続されているインバータ15を介してモータECU33に電気的に接続されている。さらに、クラッチ23はクラッチECU34に電気的に接続されている。エンジンECU31、自動変速機ECU32、クラッチECU34およびモータECU33は互いに通信可能に接続されるとともに、これらECU31〜34はハイブリッドECU35とも互いに通信可能に接続されている。
【0031】
エンジンECU31は、エンジン11を制御するECU(エレクトロニックコントロール ユニット:電子制御装置。以下同様。)であり、エンジン11の回転数をエンジン11に設けられた回転数センサ(図示省略)から入力している。回転数センサはエンジン11のクランク軸の回転数(すなわちエンジン回転数)を検出するものである。
【0032】
自動変速機ECU32は、トランスミッション12を制御するECUである。また、モータECU33は、インバータ15を介して電動モータ22を上述した各駆動となるように制御するECUである。インバータ15は、直流電源としてのバッテリ16に電気的に接続されており、電動モータ22から入力した交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ16に供給したり、逆にバッテリ16からの直流電圧を交流電圧に変換して電動モータ22へ出力したりするものである。さらに、クラッチECU34は、クラッチ23を制御するECUであり、クラッチ23を構成するソレノイド55dに制御指令を送信してクラッチ23を選択的に係合・解放するものである。
【0033】
ハイブリッドECU35は、各ECU31〜34を統合的に制御するECUである。例えば、ハイブリッドECU35は、車両発進時には、電動モータ22でエンジン11をスタートさせ、車両加速時には、エンジン11の駆動力を電動モータ22の駆動力でアシストさせ、高速クルージング時には、電動モータ22のアシストなしでエンジン11の駆動力のみで駆動させるようにエンジン11、電動モータ22、クラッチ23などを制御することができる。また、電動モータ22の駆動力のみで走行させるように制御することができる。また、ハイブリッドECU35は、減速時(制動時)には、電動モータ22を発電させて回生制動力を駆動輪に発生させるように制御(回生制御)する。
【0034】
次に、ハイブリッドモータ駆動装置20について図2を参照して詳述する。ハイブリッドモータ駆動装置20は、ハウジング21、電動モータ22、およびクラッチ23を含んで構成されている。
【0035】
図2に示すように、ハウジング21は、略円筒状に形成された本体ハウジング21aと、本体ハウジング21aの前方開口部を覆うカバーハウジング21bとを備えている。本体ハウジング21aの軸方向ほぼ中央には、本体ハウジング21a内を軸方向に区画する隔壁部21a1が形成されている。軸方向が前後方向である。また、エンジン11が縦置きである場合には、軸方向は車両前後方向である。図示左方向が前方向であり右方向が後方向である。
【0036】
本体ハウジング21aの前部空間とカバーハウジング21bとで形成される空間内に、電動モータ22およびクラッチ23が収納されるようになっている。
【0037】
電動モータ22について詳述する。電動モータ22(40)は、本体ハウジング21aに固定されたステータ41と、ステータ41の径方向内側に同軸回転可能に配設されたロータ42とを備えている。
【0038】
ステータ41は、円筒状に形成された円筒部41aと、円筒部41aの内壁面から径方向内側に向けて突設された複数の突出部41bとから構成されている。このステータ41は、珪素鋼板(図示せず)を円筒部41aの軸方向に積層して構成されている。各突出部41bには、ロータ42を回転させる磁界を形成するためのコイル41cがそれぞれ巻回されている。コイル41cは、バスリング41dを介してインバータ15に接続されている。
【0039】
このステータ41は、本体ハウジング21a内にその内周壁に沿うように配設されている。具体的には、ステータ41は、略円筒状に形成されたステータホルダ41e内に同軸に挿入され保持固定されている。ステータホルダ41eは、本体ハウジング21a内に同軸に挿入されねじ止め固定されている。
【0040】
ロータ42は、ステータ41の径方向内側に回転可能に配置されている。ロータ42は、ステータ41と所定のギャップを保持しながら対向するように設けられている。
【0041】
具体的には、ロータ42は、円筒状に形成されたロータ本体42aを備えている。ロータ本体42aは、複数の鋼板を軸方向に積層して構成されている。ロータ本体42aは、一対の保持プレート42b1,42b2により軸方向に挟まれた状態で複数の固定ピン42cにより固定されている。一対の保持プレート42b1,42b2は、環状板状に形成されており、ロータ本体42aと同一形状に形成されている。固定ピン42cは、保持プレート42b1、ロータ本体42aおよび保持プレート42b2を貫通するものであり、固定ピン42cの両端部がかしめ加工されて一対の保持プレート42b1,42b2を抜け止め固定している。ロータ本体42aには、複数の界磁用磁石42dが周方向に沿って設けられている。
【0042】
一対の保持プレート42b1,42b2のうちいずれか一方は、電動モータ22の回転軸としても機能しているクラッチドラム52にねじ止め固定されている。本実施形態では、保持プレート42b2の内周端から径方向内側に向かって突設された複数の固定部42b3が、クラッチドラム52の外側環状板部52eにねじ止め固定されている。
【0043】
クラッチドラム52は、内筒部52a、外筒部52b、中間筒部52c、内側環状板部52dおよび外側環状板部52eを含んで構成されている。内筒部52aは、円筒状に形成され、内筒部52aの外周壁面と隔壁部21a1に形成された支承部21a2との間に介装された軸受24を介して隔壁部21a1に回転自在に支承されている。支承部21a2は、隔壁部21a1の中心に形成された貫通穴21a3の周縁から前方に向けて突設された円筒部である。外筒部52bは、内筒部52aの径方向外側に内筒部52aと同軸に配設されている。外筒部52bの外周壁面には、ロータ42の内周壁面が当接している。中間筒部52cは、外筒部52bと内筒部52aとの径方向の間に内筒部52aと同軸に配設されている。内側環状板部52dは、その内周端縁が内筒部52aの前端と接続されその外周端縁が中間筒部52cの前端と接続されている。外側環状板部52eは、その内周端縁が中間筒部52cの後端と接続されその外周端縁が外筒部52bの後端と接続されている。
【0044】
このように構成されたクラッチドラム52は、ロータ42が回転されると回転軸Cを中心に一体的に回転するので、ロータ42の回転を外部に伝える電動モータ22の出力回転体を構成している。
【0045】
電動モータ22は、ロータ42の回転位置を検出する回転位置検出センサ43をさらに備えている。回転位置検出センサ43は、いわゆるレゾルバタイプのセンサであり、レゾルバロータ43aとレゾルバステータ43bとを含んで構成されている。回転位置検出センサ43は、その検出信号をモータECU33に出力するようになっている。
【0046】
レゾルバロータ43aは、例えば、複数枚の薄板形状の電磁鋼板を積層して形成されるが、特にこれに限定されるものではない。レゾルバロータ43aは、例えば、磁性材で形成される薄板形状を有していればよい。レゾルバロータ43aは、略円環状に形成されている。レゾルバロータ43aの外周の形状は、本実施の形態においては、例えば、楕円形状を有するが、特にこれに限定されるものではない。このレゾルバロータ43aは、クラッチドラム52の外側環状板部52eから後方に向けて突設され内筒部52aと同軸の環状突部52fの先端部に固定されている。レゾルバロータ43aの円状の貫通穴と環状突部52fの先端部とが連結されている。
【0047】
また、レゾルバステータ43bは、円環状に形成されており、レゾルバロータ43aの外周の面に対向するように設けられている。このレゾルバステータ43bは、隔壁部21a1の前面壁面から前方に向けて円筒状に突設された固定部21a4にねじ止めなどにより固定されている。レゾルバステータ43bには、励磁電流が流れる巻線(図示省略)と、出力信号を出力する出力巻線(図示省略)とが設けられている。
【0048】
レゾルバロータ43aは、ロータ42が固定されているクラッチドラム52に固定されている。そのため、ロータ42の回転に伴なって、レゾルバロータ43aも一体回転する。レゾルバステータ43bの励磁巻線に励磁電流が流れると、レゾルバステータ43bとレゾルバロータ43aとのエアギャップの変化に応じて、出力巻線から出力信号が出力される。この出力信号に応じて、レゾルバロータ43aの回転位置が検出される。なお、レゾルバの構造および作用については、周知の技術を用いればよいため、その詳細な説明は行なわない。
【0049】
さらに、クラッチ23について詳述する。クラッチ23(50)は、インプットシャフト51、クラッチドラム52、第1遊星歯車装置53、第2遊星歯車装置54、および回転規制装置55を含んで構成されている。
【0050】
インプットシャフト51は、ハウジング21に回転可能に支承されかつハイブリッド車M(車両)に搭載されたエンジン11で発生された駆動力を入力するものである。入力回転体としてのインプットシャフト51は、ダンパー(図示省略)を介してエンジン11のフライホイール(図示省略)に連結されている。
【0051】
インプットシャフト51は、カバーハウジング21bの中心に形成された貫通穴21b1に、軸受25を介して回転可能に支承されている。インプットシャフト51は、フランジ部51a1とフランジ部51a1の外周に円筒状に形成された円筒部51a2とから構成されたクラッチインナ51aを備えている。円筒部51a2の外周面には、インプットシャフト51の回転軸(回転軸C)と同軸に第1遊星歯車装置53の第1サンギヤS1が形成されている。
【0052】
出力回転体としてのクラッチドラム52は、インプットシャフト51と同軸にハウジング21に回転可能に支承されかつハイブリッド車Mの駆動輪Wrr,Wrlに駆動力を出力するものである。クラッチドラム52は、発電機としても使用可能である電動モータ22のロータ42が取り付けられている。
【0053】
クラッチドラム52は、アウトプットシャフト26に一体回転するように連結されている。具体的には、クラッチドラム52の内筒部52aの内周壁面とアウトプットシャフト26の外周壁面がスプライン嵌合するように構成されている。上述したように、クラッチドラム52は、本体ハウジング21aに回転可能に支承されているので、アウトプットシャフト26も本体ハウジング21aに回転可能に支承されている。
【0054】
また、アウトプットシャフト26の後端には、プレート27が一体回転するようにねじ止めなどにより固定されている。プレート27には、トランスミッション12のトルクコンバータ12aのポンプインペラ(図示省略)が一体回転するように取り付けられる。したがって、クラッチ23が係合状態にある時には、インプットシャフト51に入力されたエンジン11の駆動力がアウトプットシャフト26に伝達され、トランスミッション12などを介して駆動輪Wrr,Wrlに出力される。
【0055】
クラッチドラム52には、第2サンギヤS2が形成されている。具体的には、クラッチドラム52の中間筒部52cの外周面に、アウトプットシャフト26の回転軸(回転軸C)と同軸に第2遊星歯車装置54の第2サンギヤS2が形成されている。第2サンギヤS2は、第1サンギヤS1と同径かつ同一歯数に設定されている。
【0056】
第1遊星歯車装置53は、インプットシャフト51の円筒部51a2にその回転軸と同軸に形成された第1サンギヤS1(前述した)と、第1サンギヤS1に噛合する複数の第1ピニオンギヤP1と、第1ピニオンギヤP1を回転可能に支承する第1キャリアC1と、ハウジング21に固定され第1ピニオンギヤP1に噛合する第1リングギヤR1と、から構成されている。
【0057】
第2遊星歯車装置54は、クラッチドラム52にその回転軸に同軸に形成された第2サンギヤS2(前述した)と、第2サンギヤS2に噛合する第2ピニオンギヤP2と、第2ピニオンギヤP2を回転可能に支承するとともに第1キャリアC1と一体的に自転する第2キャリアC2と、第2ピニオンギヤP2に噛合するとともにハウジング21に解除可能に固定される第2リングギヤR2と、から構成されている。なお、第2ピニオンギヤP2は、第1ピニオンギヤP1と同径かつ同一歯数に設定されている。
【0058】
第1キャリアC1および第2キャリアC2は、それぞれ環状に形成されている。第1キャリアC1および第2キャリアC2は、第1ピニオンギヤP1および第2ピニオンギヤP2を回転可能にそれぞれ支承する複数のシャフト53aにより接続されており、回転軸Cを中心に一体的に回転(自転)する。シャフト53aの各一端は第1キャリアC1に固定され、シャフト53aの各他端は第2キャリアC2に固定されている。
【0059】
第1リングギヤR1は、環状に形成されており、第1リングギヤR1の内周に第1ピニオンギヤP1が噛合する歯が形成されている。第1リングギヤR1の外周に設けられたリングギヤ固定部53bが、カバーハウジング21bの内壁面に固定されている。これにより、第1リングギヤR1はハウジング21に固定されている。
【0060】
第2リングギヤR2は、環状に形成されており、第2リングギヤR2の内周に第2ピニオンギヤP2が噛合する歯が形成されている。第2リングギヤR2は、第1リングギヤR1と同軸となるように配置されている。第2リングギヤR2は、第1リングギヤR1と同一内径でありかつ同一歯数に設定されている。第2リングギヤR2は、回転規制装置55によりハウジング21に固定されていないときには、回転(自転)が規制されない。一方、第2リングギヤR2は、回転規制装置55によりハウジング21に固定されているときには、回転(自転)が規制される。すなわち、第2リングギヤR2は、ハウジング21に解除可能に固定されるものである。
【0061】
回転規制装置55は、第2リングギヤR2をハウジング21に解除可能に固定するための装置であり、第1リングギヤR1および第2リングギヤR2の外周に設けられている。具体的には、図2および図3に示すように、回転規制装置55は、第2リングギヤR2の外周に同軸に形成された第1ドグ歯列55aと、第1ドグ歯列55aと互いに噛合可能な第2ドグ歯列55bが内周に形成されているシンクロリング55cと、ハウジング21に固定されシンクロリング55cを噛合位置と噛合解除位置(図2に示す位置)との間を往復動させるためのソレノイド55dと、を含んで構成されている。
【0062】
シンクロリング55cは、環状に形成された本体55c1と、本体55c1の側面(本実施形態では後方側面)から軸方向に向けて延在するように設けられた第2ドグ歯列55bと、本体55c1の内周に本体55c1に対して軸方向に相対移動可能に設けられた同期係合部55c2とを備えている。
【0063】
本体55c1は、第1ドグ歯列55aと第2ドグ歯列55bとが噛合する噛合位置と該噛合が解除される噛合解除位置(図2に示す位置)との間を回転軸Cの延在方向に沿って移動可能(往復動可能)でありかつハウジング21に対して回転が規制されている。
【0064】
同期係合部55c2は、環状に形成されており、傾斜面55c3を有している。傾斜面55c3は、第2リングギヤR2の軸方向前部に形成された傾斜面R2aに対向して係脱可能に形成されている。同期係合部55c2は、軸方向後方に向けて付勢されている。同期係合部55c2は、非作動状態にあるときには、図2に示すように所定位置に位置決め固定されるように構成されている。このとき、傾斜面55c3と傾斜面R2aは隙間をおいて配置されている。また、作動状態にあるときには、傾斜面55c3と傾斜面R2aとが当接して位置決めされるようになっている。
【0065】
ソレノイド55dは、リングギヤ固定部53bに周方向に沿って間隔をあけて複数設けられている。ソレノイド55dは、リングギヤ固定部53bに形成された収納孔53b1に挿入固定されるケーシング55d1と、通電されると磁界を発生させるコイル55d2と、コイル55d2の内側に軸方向に沿って往復動可能に配設された可動子55d3と、一端が可動子55d3の端部に取り付け固定されるとともに他端がシンクロリング55cに取り付け固定されたピン55d4と、を含んで構成されている。
【0066】
コイル55d2は、ケーシング55d1内に収容されており、クラッチECU34からの制御指令によって通電・非通電されるようになっている。可動子55d3は鉄などの磁性体から形成されている。可動子55d3は、コイル55d2への非通電時には、例えば付勢部材(例えばばね部材;図示省略)の付勢力(図示左方向への付勢力)により非通電位置に位置決めされている。非通電位置は、図2に示すように、可動子55d3がその半分がコイル55d2内に挿入している位置であり、可動子55d3の底面がケーシング55d1内の底面に当接している状態である。可動子55d3は、コイル55d2への通電時には、付勢力に抗してコイル55d2に向けて吸引されて図示右方向へ移動され通電位置に位置決め固定される。通電位置は、上述した第1ドグ歯列55aと第2ドグ歯列55bが噛合する噛合位置に相当する位置である。
【0067】
このように構成された回転規制装置55によれば、コイル55d2が通電されると可動子55d3がコイルコイル55d2の内側に向けて吸引されることにより、シンクロリング55cが噛合位置に向けて移動される。最初に、同期係合部55c2に形成された傾斜面55c3と、第2リングギヤR2に形成された傾斜面R2aが当接する。
【0068】
その後、当接により同期係合部55c2はそれ以上移動されないで当接位置にて位置決め固定される。一方、シンクロリング55cの本体55c1は噛合位置に向けて移動されるため、後方向に付勢されている同期係合部55c2が第2リングギヤR2に圧着され、大きな摩擦力により第2リングギヤR2の回転が停止される。
【0069】
さらに、シンクロリング55cの本体55c1が噛合位置に向けて移動されると、第1ドグ歯列55aと第2ドグ歯列55bとが円滑に噛合する。すなわち、シンクロリング55cを第2リングギヤR2に同期させて係合(噛合)させる同期係合をさせることができる。この状態においては、シンクロリング55cと第2リングギヤR2とは係合しているので、第2リングギヤR2の回転を規制することができる。
【0070】
一方、係合状態にあるシンクロリング55cと第2リングギヤR2において、コイル55d2への通電が解除されると可動子55d3が例えば付勢力によってコイル55d2の外側に向けて移動されることにより、前述した工程と反対にシンクロリング55cが噛合解除位置に移動される。そして、第1ドグ歯列55aと第2ドグ歯列55bとの噛合を解除させることで第2リングギヤR2の回転を許容する。
【0071】
上述した説明から明らかなように、本実施形態に係るクラッチ(またはハイブリッドモータ駆動装置)においては、第2リングギヤR2がハウジング21に固定されていない場合には、クラッチ23は動力が伝達されていない状態(動力遮断状態)である(図2および図3に示す状態)。詳述すると、第1遊星歯車装置53においては、エンジン11から駆動力がインプットシャフト51に入力されている場合には、インプットシャフト51が駆動力に応じて回転するとともに第1サンギヤS1も回転する。第1リングギヤR1はハウジング21に固定されているため、第1サンギヤS1の回転に応じて第1ピニオンギヤP1が第1サンギヤS1周りを自転しながら公転する。すなわち、第1キャリアC1が自転する。このとき、第2遊星歯車装置54においては、第1キャリアC1とともに第2キャリアC2が自転する。すなわち、第2ピニオンP2が第1ピニオンギヤP1と一体的に公転する。しかし、第2リングギヤR2が固定されておらず自由に回転可能であるため、第2キャリアC2の自転すなわち第2ピニオンP2の公転が第2サンギヤS2ひいてはクラッチドラム52には伝達されていない(クラッチは解放されている)。
【0072】
一方、第2リングギヤR2がハウジング21に対して固定されている場合には、クラッチ23は動力が伝達される状態(動力伝達状態)である。詳述すると、第1遊星歯車装置53においては前述した動力遮断状態と同様である。第2遊星歯車装置54においては、第1キャリアC1の自転に伴って第2キャリアC2が自転するが、第2リングギヤR2は固定されているため、固定されている第2リングギヤR2の内周に沿って第2ピニオンギヤP2が公転する。このとき、第2ピニオンギヤP2は第2リングギヤR2に対する反力(反発力)により自転しており、この自転により第2サンギヤS2が回転される。よって、第2キャリアC2の自転すなわち第2ピニオンP2の公転が第2サンギヤS2ひいてはクラッチドラム52に伝達されている(クラッチは係合されている)。
【0073】
このように、第2リングギヤR2を固定するとクラッチ23は係合され、一方、第2リングギヤR2の固定を解放するとクラッチ23は解放される。したがって、このようなクラッチプレートを使用しないクラッチを採用することで、クラッチプレートの磨耗に起因するクラッチの応答性が遅くなることを防止することができる。これにより、使用時間の影響を受けることなく、クラッチのよりよい応答性を確保するクラッチを提供することができる。
【0074】
また、第2リングギヤR2をハウジング21に解除可能に固定するための回転規制装置55をさらに備え、回転規制装置55は、第2リングギヤR2の外周に同軸に形成された第1ドグ歯列55aと、第1ドグ歯列55aと互いに噛合可能な第2ドグ歯列55bが内周に形成されるとともに両ドグ歯列55a,55bが噛合する噛合位置と該噛合が解除される噛合解除位置との間を回転軸方向(回転軸Cの延在方向)に沿って移動可能でありかつハウジング21に対して回転が規制されているシンクロリング55cと、を備え、シンクロリング55cを噛合位置に向けて移動させて両ドグ歯列55a,55bを同期させて噛合させることで第2リングギヤR2の回転を規制し、一方、シンクロリング55cを噛合解除位置に向けて移動させて両ドグ歯列55a,55bを噛合解除させることで第2リングギヤR2の回転を許容する。これにより、シンクロリング55cを噛合位置に移動させ、第1ドグ歯列55aと第2ドグ歯列55bとを噛合させることで、ハウジング21に対して回転が規制されているシンクロリング55cにより第2リングギヤR2の回転を規制させることができる。また、シンクロリング55cによれば、第1ドグ歯列55aと第2ドグ歯列55bとの同期係合を確実に行うことができる。
【0075】
ところで、湿式クラッチにおいては、油液が遠心力の影響を受けるため、クラッチの係合・遮断動作にかかる時間のばらつきが大きくなり応答性が悪化するおそれがあった。また、ノーマルクローズ型の湿式クラッチにおいては、クラッチを解放状態に維持するためには(またノーマルオープン型のクラッチについては、クラッチを係合状態に維持するためには)、油圧を供給し続ける必要があり、エネルギーロスが大きくなるおそれがある。
【0076】
これに対して、回転規制装置55は、ハウジング21に固定されシンクロリング55cを噛合位置と噛合解除位置との間を往復動させるためのソレノイド55dをさらに備え、ソレノイド55dは、通電されると磁界を発生させるコイル55d2と、コイル55d2の内側に軸方向に沿って往復動可能に配設された可動子55d3と、一端が可動子55d3の端部に取り付けられるとともに他端がシンクロリング55cに取り付けられたピン55d4と、を含んで構成され、コイル55d2が通電されると可動子55d3がコイル55d2の内側に向けて吸引されることにより、シンクロリング55cが噛合位置に移動され、一方、コイルへ55d2の通電が解除されると可動子55d3がコイル55d2の外側に向けて移動されることにより、シンクロリング55cが噛合解除位置に移動される。
【0077】
これによれば、ソレノイド55dが通電されるとクラッチ23は遮断され、非通電されると係合される。よって、湿式クラッチのように遠心力に起因するクラッチの係合・遮断動作にかかる時間のばらつきを招くことはなく応答性を向上させることができる。
【0078】
また、ノーマルオープン型のクラッチについては、クラッチを係合状態に維持するために(ノーマルクローズ型のクラッチにおいては、クラッチを解放状態に維持するために)、湿式クラッチのように油圧を供給し続ける必要はなく、そのためのエネルギーロスを抑制することができる。
【0079】
また、上述したクラッチ23および電動モータ22を備えたハイブリッドモータ駆動装置は、上述した各作用・効果を得ることができる。
【0080】
なお、回転規制装置55は、バンドによって第2リングギヤR2の回転を規制するものでもよい。第2リングギヤR2の外周には摩擦面が形成され、第2リングギヤR2の外周に沿って全周に亘ってバンドが配設されている。バンドの締め付け・締め付け解除は例えば電動モータにより行うように構成すればよい。バンドは締め付けられると第2リングギヤR2の摩擦面と摩擦して第2リングギヤR2の回転を停止し停止状態を維持するように構成されている。
【0081】
上述した実施形態においては、クラッチ23を構成する第1および第2遊星歯車装置53,54は、いわゆるシングルピニオン型(サンギヤとリングギヤとの間の動力伝達経路をピニオンギヤ一段で構成するもの)であるが、いわゆるダブルピニオン型(サンギヤとリングギヤとの間の動力伝達経路をピニオンギヤ2段で構成するもの)で構成するようにしてもよい。
【0082】
シングルピニオン型で構成すると、部品点数を削減できるというメリットがあり、ダブルピニオン型で構成すると、ピニオンギヤ(ピニオンのシャフト)へかかる力を低減できるというメリットがある。
【0083】
また、上述したサンギヤ、ピニオンギヤおよびリングギヤの径・歯数は適宜設定を変えてもよい。
【符号の説明】
【0084】
11…エンジン、12…トランスミッション、13…プロペラシャフト、14…ディファレンシャルギア、15…インバータ、16…バッテリ、20…ハイブリッドモータ駆動装置、21…ハウジング、22…電動モータ(電動機)、23…クラッチ、31…エンジンECU、32…自動変速機ECU、33…モータECU、34…クラッチECU、35…ハイブリッドECU、41…ステータ、42…ロータ、43…回転位置検出センサ、51…インプットシャフト(入力回転体)、52…クラッチドラム(出力回転体)、53…第1遊星歯車装置、54…第2遊星歯車装置、55…回転規制装置、55a…第1ドグ歯列、55b…第2ドグ歯列、55c…シンクロリング、55d…ソレノイド、55d2…コイル、55d3…可動子、55d4…ピン、C1…第1キャリア、C2…第2キャリア、M…ハイブリッド車、P1…第1ピニオンギヤ、P2…第2ピニオンギヤ、R1…第1リングギヤ、R2…第2リングギヤ、S1…第1サンギヤ、S2…第2サンギヤ、Wrl,Wrr…駆動輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転可能に支承されかつ車両に搭載されたエンジンで発生された駆動力を入力する入力回転体と、前記入力回転体と同軸に前記ハウジングに回転可能に支承されかつ前記車両の駆動輪に前記駆動力を出力するとともに発電機としても使用可能である電動機のロータが取り付けられている出力回転体との間において動力を伝達あるいは遮断するクラッチであって、
前記入力回転体にその回転軸と同軸に形成された第1サンギヤと、前記第1サンギヤに噛合する第1ピニオンギヤと、前記第1ピニオンギヤを回転可能に支承する第1キャリアと、前記ハウジングに固定され前記第1ピニオンギヤに噛合する第1リングギヤと、からなる第1遊星歯車装置と、
前記出力回転体にその回転軸に同軸に形成された第2サンギヤと、前記第2サンギヤに噛合する第2ピニオンギヤと、前記第2ピニオンギヤを回転可能に支承するとともに前記第1キャリアと一体的に自転する第2キャリアと、前記第2ピニオンギヤに噛合するとともに前記ハウジングに解除可能に固定される第2リングギヤと、からなる第2遊星歯車装置と、
を備えて構成されたことを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
請求項1において、前記第2リングギヤを前記ハウジングに解除可能に固定するための回転規制装置をさらに備え、
前記回転規制装置は、前記第2リングギヤの外周に同軸に形成された第1ドグ歯列と、前記第1ドグ歯列と互いに噛合可能な第2ドグ歯列が内周に形成されるとともに前記両ドグ歯列が噛合する噛合位置と該噛合が解除される噛合解除位置との間を前記回転軸方向に沿って移動可能でありかつ前記ハウジングに対して回転が規制されているシンクロリングと、を備え、前記シンクロリングを前記噛合位置に向けて移動させて前記両ドグ歯列を同期させて噛合させることで前記第2リングギヤの回転を規制し、一方、前記シンクロリングを前記噛合解除位置に向けて移動させて前記両ドグ歯列を噛合解除させることで前記第2リングギヤの回転を許容することを特徴とするクラッチ。
【請求項3】
請求項2において、前記回転規制装置は、前記ハウジングに固定され前記シンクロリングを前記噛合位置と前記噛合解除位置との間を往復動させるためのソレノイドをさらに備え、
前記ソレノイドは、通電されると磁界を発生させるコイルと、前記コイルの内側に軸方向に沿って往復動可能に配設された可動子と、一端が前記可動子の端部に取り付けられるとともに他端が前記シンクロリングに取り付けられたピンと、を含んで構成され、前記コイルが通電されると前記可動子が前記コイルの内側に向けて吸引されることにより、前記シンクロリングが前記噛合位置に移動され、一方、前記コイルへの通電が解除されると前記可動子が前記コイルの外側に向けて移動されることにより、前記シンクロリングが前記噛合解除位置に移動されることを特徴とするクラッチ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のクラッチおよび電動機を備えたことを特徴とするハイブリッドモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−72856(P2012−72856A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218880(P2010−218880)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】