説明

クラッチ

【課題】クラッチプレートの偏摩耗を防止するクラッチを提供する。
【解決手段】複数のドリブンプレート5aと複数のドライブプレート5bとからなるクラッチプレート5dと、クラッチドラムの内周面に係止されたスナップリング21に支承され、ピストン9の押圧により軸方向に変位するクラッチプレートの変位を規制するリテーニングプレート20とを備え、リテーニングプレートは、クラッチドラムの中心軸に対して直角に形成され、スナップリングに支承される環状の支持部20aと、この支持部の内側に接続し、クラッチプレートに接触し、コ型断面形状を備えた接触部20bとからなり、接触部がクラッチプレートに接触することを特徴とするクラッチである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ、特に自動変速機に用いるクラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のクラッチとして、クラッチドラム、一対の摩擦板、ピストン等からなる構造がある(特許文献1参照)。クラッチドラムは、その内周面にスプラインが形成されたスプライン部と、外周壁部、および外周壁部から径方向内方へ延びる縦壁部からなる。
【0003】
クラッチドラムの内側には、スプライン部に対向するスプラインを備えるクラッチハブが配置され、スプライン部およびスプラインにそれぞれ係合する一対の摩擦板が軸方向に交互に複数枚設けられる。一対の摩擦板は、金属プレートと、摩擦材が金属プレートに対面する面に接着された摩擦プレートから構成され、金属プレートがクラッチドラムのスプライン部に係合する。クラッチドラムの外周壁部内にはリング状のシリンダが形成され、外周壁部の内周面がピストンの摺動面となっている。
【0004】
ピストンはその外周面および内周面にそれぞれシールリングを備え、一対の摩擦板に向かって延びる押圧部を有している。そして、回転軸にスナップリングで位置決めされたスプリングホルダとの間にリターンスプリングが設けられて、押圧部が摩擦板から離れる方向に付勢されている。
【0005】
回転軸には油路が形成され、シリンダへ圧油を供給することによりピストンが一対の摩擦板を押圧するようになっている。
【0006】
ピストンにより押圧される一対の摩擦板の端面と反対側の端面は、クラッチドラムのスプライン部に係合するリテーニングプレートに付き当てられ、リテーニングプレートはスプライン部に形成された凹部に嵌められたスナップリングにより回転軸の軸方向の位置が規定される。
【特許文献1】実開平05−034324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リテーニングプレートの外周側はスナップリングに支持され、ピストンの押圧による変形が抑制される。しかしながら、内周側はスナップリングによる支持がなされないため、外周側に比して押圧力に対する剛性が低くなり、押圧方向に変位が生じる。このため、リテーニングプレートと、リテーニングプレートに接する摩擦板の面圧分布は、外周側が内周側に比して高くなり、摩擦プレートに接着された摩擦材は、外周側の摩耗が促進され、所謂偏摩耗が生じることになる。
【0008】
本発明は、こうした事実を鑑みてなされたものであり、リテーニングプレートの内周側の変形を抑制して摩擦材の偏摩耗を防止するクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、円筒状のクラッチドラムと、前記クラッチドラムと同軸に配置されるクラッチハブと、このクラッチドラムの内周面に前記クラッチドラムの中心軸の軸方向に移動可能に並設された複数のドライブプレートと、前記ドライブプレート間に摩擦係合可能に介挿され、前記クラッチハブに対して軸方向に移動可能に係合する複数のドリブンプレートとからなるクラッチプレートと、前記ドリブンプレート及びドライブプレートを相互に摩擦係合させるよう一方向から押圧するピストンと、前記クラッチドラムの内周面に係止されたスナップリングに支承され、前記ピストンの押圧により軸方向に変位する前記クラッチプレートの変位を規制するリテーニングプレートとを備え、前記リテーニングプレートは、前記クラッチドラムの中心軸に対して直角に形成され、前記スナップリングに支承される環状の支持部と、この支持部の内周側に接続し、前記クラッチプレートに接触する接触部とからなり、前記接触部は、前記支持部の内周側の端部から前記中心軸と同軸に前記スナップリング側に延出する円筒状の第1フランジ部と、この第1フランジ部の前記スナップリング側端部から前記中心軸に対して直角方向内周側に延出する壁部と、この壁部の内周側端部から前記中心軸と同軸に前記クラッチプレート側に延出する円筒状の第2フランジ部とから形成され、前記第2フランジ部の解放端部が前記クラッチプレートに接触し、前記リテーニングプレートに前記クラッチプレートが接触する位置と前記ピストンが前記クラッチプレートを押圧する位置とが、前記軸方向に対向することを特徴とするクラッチである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、クラッチプレートが接触するリテーニングプレートの接触部を第1フランジ部、壁部及び第2フランジ部とから構成されるコ型断面としたので、リテーニングプレートの剛性を維持しつつ、リテーニングプレートとクラッチプレートの接触位置をピストンがクラッチプレートを押圧する位置に対向する位置に設定することができ、摩擦材の圧力分布を均等にして、摩擦材の偏摩耗を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明のクラッチを適用した自動変速機の部分概略図である。
【0013】
この自動変速機は、エンジンの動力が伝達される入力軸1と、入力軸1の回転速度を変速し、図示しない出力軸に動力を伝達するVベルト式変速機構のプライマリプーリの固定プーリ2と、入力軸1と固定プーリ2との間に設置され、入力軸1から固定プーリ2に伝達される動力の回転方向を制御する前後進切換機構3とを備える。なお、本実施形態では、変速機構としてVベルト式無段変速機構を用いて説明するがこれに限られない。
【0014】
前後進切換機構3は、1組の遊星歯車機構4と、2つのクラッチ(フォワードクラッチ5とリバースクラッチ6)とから構成される。
【0015】
詳しく説明すると、遊星歯車機構4は、所謂ダブルピニオン型の遊星歯車機構であって、互いに噛合する第1ピニオン4p1と図示しない第2ピニオンを第1ピニオンシャフト4ps1及び図示しない第2ピニオンシャフトを介して回転自在に支持するキャリア4cを備え、このキャリア4cはスプライン結合により、入力軸1と同軸に形成されたフォワードクラッチドラム7の円筒状の外壁7aの内周面に連結される。またフォワードクラッチドラム7の内壁7bも入力軸1と同軸に円筒状に形成され、内壁7bは入力軸1の外周面にスプライン結合される。
【0016】
またフォワードクラッチドラム7の外壁7a内周面には、フォワードクラッチ5のドリブンプレート5aがスプライン結合により連結され、一方、両面に摩擦材5c(図2参照)が接着されたドライブプレート5bは遊星歯車機構4のサンギア4sに連結するフォワードクラッチハブ15に固定される。ここで、ドリブンプレート5aとドライブプレート5bは入力軸1の軸方向と平行方向に積層状に構成され、つまりフォワードクラッチ5は多板式クラッチとして構成され、ドリブンプレート5aとドライブプレート5bとを積層状にしたものをクラッチプレート5dという(図2参照)。なお、クラッチプレート5dの一端面は、フォワードクラッチドラム7の外壁7a内周面に設けられたスナップリング21により支承された中空円板状のリテーニングプレート20に接触して、その位置が規定される。なお、他端面は後述のピストン9により一端面側に押圧される。
【0017】
サンギア4sは、第1ピニオン4p1と噛合すると共に、固定プーリ2に固定されて固定プーリ2を回転する。また、フォワードクラッチハブ15とキャリア4cとの間にベアリング16が設置され、キャリア4cの軸方向の位置決めがなされると共に、フォワードクラッチハブ15とキャリア4c間の相対回転が許容される。
【0018】
遊星歯車機構4の図示しない第2ピニオンと噛合するリングギア4rは、リバースクラッチ6を介して自動変速機のケース8に固定される。リバースクラッチ6もフォワードクラッチ5と同様に、多板式クラッチとして構成される。
【0019】
フォワードクラッチドラム7の外壁7aと内壁7bの端部を繋ぐ側壁7cが形成され、これら壁により画成されるフォワードクラッチドラム7には、フォワードクラッチ5を軸方向と平行方向に押し付けるピストン9が設置される。ピストン9は、フォワードクラッチドラム7の側壁7cとの間に形成される油室10の油圧により軸方向に外壁7aの内周面に沿って移動し、フォワードクラッチ5の他端面を一端面側に押し付け、ドリブンプレート5aとドライブプレート5b間に摩擦力を発生させ、入力軸1に伝達されたエンジンの動力をサンギア4sに伝達する。油室10には入力軸1に形成された油路1aから作動油が供給される。
【0020】
フォワードクラッチドラム7に固定されるハブ11が設置され、このハブ11とピストン9と間にピストン9を軸方向に押圧するスプリング12が設置される。このようなスプリング12を設置したため、フォワードクラッチ5の非係合時には、油室10に作動油が供給されず、油室10の油圧が低下し、スプリング12の押圧力が油室10内の油圧を上回り、ピストン9がフォワードクラッチ5から離れる方向に移動し、フォワードクラッチ5の係合を中断する。
【0021】
リバースクラッチ6を押圧し、リバースクラッチ6のドリブンプレート6aとドライブプレート6b間に摩擦力を発生させるためのピストン13がケース8に設置され、ケース8とピストン13との間の図示しない油室に作動油が供給することでピストン13がリバースクラッチ6を押圧し、リバースクラッチ6を係合状態とする。なお、リバースクラッチ6を非係合状態とするスプリングは図示しない。また、リングギア4rとキャリア4cとの間にベアリング17が設置され、キャリア4cの軸方向の位置決めがなされると共に、リングギア4rとキャリア4c間の相対回転が許容される。
【0022】
このように構成される前後進切換機構3において、フォワードクラッチ5が締結され、リバースクラッチ6が非締結状態の場合には、入力軸1の回転は、フォワードクラッチドラム7から、フォワードクラッチ5、フォワードクラッチハブ15を介してサンギア4sに伝達され、サンギア4sが固定プーリ2を回転する。つまり、入力軸1の回転と固定プーリ2の回転とが同じ方向に回転することになる。
【0023】
対してリバースクラッチ6が締結され、フォワードクラッチ5が非締結状態の場合には、入力軸1の回転は、フォワードクラッチドラム7から、キャリア4r、第1、第2ピニオンからサンギア4sに伝達され、入力軸1の回転方向と逆方向にサンギア4sが回転し、サンギア4sは固定プーリ2を回転する。つまり、この場合には入力軸1の回転と固定プーリ2の回転とが逆方向に回転することになる。
【0024】
次に図2を用いて本発明のポイントであるリテーニングプレートの詳細構成について説明する。図2はフォワードクラッチ5に本発明のリテーニングプレートの構成を適用した図である。本発明は、リテーニングプレート20の内周側の断面形状をコ型断面にした点に特徴を有する。以下、具体的に説明する。
【0025】
リテーニングプレート20は環状に形成され、その断面形状は、スナップリング21に支持されるリング状の支持部20aと、その内周側に形成され、ドリブンプレート5aに軸方向に接触して、ピストン9の押圧によるドリブンプレート5aの軸方向の変位を規制する接触部20bとに大別される。
【0026】
接触部20bは、支持部20aの内周側端部に連接し、ドリブンプレート5aから離れる軸方向に延出する円筒状の第1フランジ部20cと、第1フランジ部20cの端部に接続し、内周側にリング状に延出する壁部20dと、この壁部20dに接続し、ドリブンプレート5a側に延出し、接触する円筒状の第2フランジ部20eとから構成され、このように接触部20bは、ドリブンプレート5a側に開口するコ型断面に形成される。なお、第1フランジ部20cは、その軸方向の位置がスナップリング21の端面21aと略同一の位置まで、つまりスナップリング21の厚さ分だけ延出する。また、軸方向から見て、ドリブンプレート5aに接触する接触部20bの先端部20fは、ピストン9と重なる位置に設定される。
【0027】
このように接触部20bの断面形状をコ型断面とすることで、接触部20bの剛性を確保しつつ、リテーニングプレート20がドリブンプレート5aに接触する位置をピストン9の押圧位置に対向する中心寄りに設定することができ、摩擦材の面圧分布を均一にし、偏摩耗を抑制することができる。
【0028】
さらに接触部20bの先端部20fは、円弧状の凸状に形成され、一方、この先端部20fが接触するドリブンプレート5aは、平面状に、好ましくは円弧状の凹溝が形成され、先端部20fが接触する。このような形状とすることで、先端部20fがドリブンプレート5aに接触する面積を拡大して、ドライブプレート5bの摩耗量を減少することができる。
【0029】
また本発明のリテーニングプレート20は、平らな鋼板をプレス成形によって製造することができ、安価で大量生産することが可能である。
【0030】
本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の自動変速機の部分構成図である。
【図2】フォワードクラッチの詳細構成を説明する図である。
【図3】従来のクラッチの構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
1 入力軸
2 固定プーリ
3 前後進切換機構
4 遊星歯車機構
4s サンギア
4r リングギア
4c キャリア
4ps ピニオンシャフト
4p1 第1ピニオンギア
4p2 第2ピニオンギア
5 フォワードクラッチ
5a ドリブンプレート
5b ドライブプレート
5c 摩擦材
5d クラッチプレート
6 リバースクラッチ
6a ドリブンプレート
6b ドライブプレート
7 フォワードクラッチドラム
8 ケース
15 フォワードクラッチハブ
20 リテーニングプレート
20a 支持部
20b 接触部
20c 第1フランジ部
20d 壁部
20e 第2フランジ部
20f 先端部
21 スナップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のクラッチドラムと、
前記クラッチドラムと同軸に配置されるクラッチハブと、
このクラッチドラムの内周面に前記クラッチドラムの中心軸の軸方向に移動可能に並設された複数のドライブプレートと、前記ドライブプレート間に摩擦係合可能に介挿され、前記クラッチハブに対して軸方向に移動可能に係合する複数のドリブンプレートとからなるクラッチプレートと、
前記ドリブンプレート及びドライブプレートを相互に摩擦係合させるよう一方向から押圧するピストンと、
前記クラッチドラムの内周面に係止されたスナップリングに支承され、前記ピストンの押圧により軸方向に変位する前記クラッチプレートの変位を規制するリテーニングプレートとを備え、
前記リテーニングプレートは、前記クラッチドラムの中心軸に対して直角に形成され、前記スナップリングに支承される環状の支持部と、この支持部の内周側に接続し、前記クラッチプレートに接触する接触部とからなり、
前記接触部は、前記支持部の内周側の端部から前記中心軸と同軸に前記スナップリング側に延出する円筒状の第1フランジ部と、この第1フランジ部の前記スナップリング側端部から前記中心軸に対して直角方向内周側に延出する壁部と、この壁部の内周側端部から前記中心軸と同軸に前記クラッチプレート側に延出する円筒状の第2フランジ部とから形成され、前記第2フランジ部の解放端部が前記クラッチプレートに接触し、
前記リテーニングプレートに前記クラッチプレートが接触する位置と前記ピストンが前記クラッチプレートを押圧する位置とが、前記軸方向に対向することを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
前記第2フランジ部の解放端部は円弧状の凸状に形成されるとともに、前記クラッチプレートの前記解放端部が接触する部位は円弧状の凹溝が形成されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−239913(P2007−239913A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64328(P2006−64328)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】