説明

クロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品、およびそれらの製造方法

【課題】アトピー性皮膚炎等に有効な、クロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品を提供することを課題とする。
【解決手段】紫外線を照射したクロレラ抽出物を含む、皮膚外用剤、浴用剤または化粧品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラ属は、単細胞で緑藻に分類され、河川、湖沼、水たまりなどに広く分布している。大きさは、種や発育段階によって異なるが、3〜10ミクロン程度で球形または球形に近い楕円形をしており、光学顕微鏡で観察できる。
クロレラには、葉緑素(クロロフィル)、蛋白質、ビタミン、ミネラル、食物繊維等がバランスよく含まれている。特にクロロフィルはクロレラの重要成分とされ、健康の維持・増進に有効であると考えられている。
クロレラが産生するクロロフィルの多様で且つ有用な作用に着目して、クロレラ抽出物を含有する食品、化粧品、皮膚外用剤等が、これまでに開発されている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2006−50933号公報
【特許文献2】特開平7−25741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでに、クロレラを利用した食品、化粧品、皮膚外用剤等は、多数開発されている。しかしながら、クロレラが有する多様で且つ有用な作用をより一層増強させ、より優れた食品、化粧品、皮膚外用剤等を開発することが望まれている。
【0004】
本発明は、上記のような実情を鑑みて、クロレラの多様で且つ有用な作用をより一層増強させたクロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品を提供する。
また、本発明は、上記クロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、紫外線を照射したクロレラ抽出物が、アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥、または火傷の処置および/または予防に対し、非常に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、紫外線を照射したクロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品に関する。好ましくは、皮膚外用剤は、痒み止めクリームである。また、クロレラは、好ましくは、クロレラ・ブルガリスE7株である。
【0007】
また、本発明は、アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥、または火傷の処置および/または予防に有用な紫外線を照射したクロレラ抽出物を含む、皮膚外用剤、浴用剤または化粧品に関する。
【0008】
さらに、本発明は、クロレラを培養する工程、培養したクロレラよりクロレラ抽出物を調製する工程、および、クロレラ抽出物に紫外線を照射する工程を含む、クロレラ抽出物含有の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品の製造方法に関する。
また、本発明の製造方法は、さらに、クロレラ抽出物のpHをアルカリ性として0−10℃で静置する工程を含んでいてもよい。場合によっては、本発明の製造方法は、さらに、クロレラ抽出物にマイクロウェーブを照射する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る、紫外線を照射したクロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品は、アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥、または火傷の処置および/または予防に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用されるクロレラは、緑色植物門(Chlorophyta)、緑藻網(Chlorophyceae)、クロロコッカス目(Chlorococcales)、オオシスティス科(Oocystaceae)、クロレラ属(Chlorella)に分類される、直径3〜10ミクロン程度の単細胞緑藻類であり、例えば、クロレラ・ブルガリス(C・vulgaris)、クロレラ・ピレノイドサ(C・pyrenoidosa)、クロレラ・エリプソイデイア(C・ellipsoidea)を含む。好ましくは、クロレラは、クロレラ・ブルガリスE7株(受託番号:FERM BP-10890)、M3株(受託番号:FERM P-20035)、M15株(受託番号:FERM P-20034)、M19株(受託番号:FERM P-20033)またはM34株(受託番号:FERM P-20066)である。
クロレラ・ブルガリスE7株、M3株、M15株、M19株およびM34株は、暗培養下において増殖能力およびクロロフィル含有量が高いクロレラ属の自然株である。
【0011】
クロレラの培養は、光合成により独立栄養(autotrophic)条件下で培養してもよく、暗所において糖類、酢酸等を炭素源として従属栄養(heterotrophic)条件下で培養してもよい。さらには、中間栄養(mixotrophic)条件下で培養してもよい。
【0012】
中間栄養条件とは、光合成により独立栄養で生育させる条件と、暗所において糖類、酢酸等を炭素源として従属栄養で生育させる条件を併用した条件である。詳細な培養条件(培地、培養期間等を含む)は、個々のクロレラの株により適宜設定される。
【0013】
クロレラ・ブルガリスE7株は本来暗所培養、またはmixotrophic培養に極めて適合した系統で、明所培養には不適な系統である。クロレラ・ブルガリスE7株は、通常の室内の条件の下でも発育が良く、また光合成も行うため、中間栄養条件下で培養できる。したがって、クロレラ・ブルガリスE7株の中間栄養条件下培養は、暗所培養に比べ培養液に加えるグルコースの量を減らすことができるという利点を有する。
【0014】
培養後、クロレラは培地より回収され、溶媒を用いて抽出される。溶媒は、例えば、水、熱水、アルコール(例えば、エタノール、メタノール等)、アセトン、またはそれらの混合物であり、好ましくは、熱水である。熱水の温度は、特に限定されないが、通常60−100℃、好ましくは、約80℃である。または、オートクレーブ等を用い、培養されたクロレラを含む水溶液の温度が、例えば100−150℃、好ましくは110−140℃、より好ましくは110℃、120℃または140℃となる条件で抽出を行ってもよい。あるいは、マイクロウェーブ処理により水の温度を上昇させることによって、熱水抽出工程を行ってもよい。なお、熱水抽出の処理時間は熱水の温度によって適宜設定され、特に限定されない。例えば、110℃の熱水で3分間抽出される。上記抽出により、少なくともいずれかのクロロフィルまたはクロロフィル類縁体が、培養したクロレラから抽出される。好ましくは、抽出物はクロリンe−6を含む。
【0015】
得られたクロレラ抽出物に紫外線を照射する。照射される紫外線は、可視光線より短く軟X線より長い不可視光線の電磁波であり、波長が10−400nmにあるものを含む。紫外線の照射条件に特に限定はなく、通常の紫外線照射装置を用いて、適切な波長、適切な温度で実施することができる。紫外線照射時間についても特に限定はないが、例えば、内寸850×450×500 mmの白色に塗装した鉄製容器中の天井部分に、市販の殺菌ランプ(東芝、殺菌ランプGL-15)2基を平行に固定して、クロレラ培養物を底面に置いて紫外線照射を行ったときは、紫外線照射時間は、1−8日でよく、好ましくは2−8日、最も好ましくは4−8日でよい。また、例えば、30℃、照度10,000Luxで紫外線照射を行ったときは、紫外線照射時間は、1−8日でよく、好ましくは2−8日、最も好ましくは4−8日でよい。紫外線照射により、クロレラ抽出物の、アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥または火傷の処置および/または予防に対する効果が増強される。例えば、紫外線照射により、肌感触の改善効果、とりわけ、アトピー性皮膚炎の患者を含む、皮膚過敏症を自覚している人の肌感触の改善効果が増強される。また、紫外線照射により、クロレラ培養物由来のクロロフィルおよび/またはクロロフィル類縁体の分解が抑制され安定化する。とりわけ、紫外線照射により、クロリンe−6の分解が抑制され安定化する。さらに、紫外線照射によりクロレラ抽出物は殺菌されるので、滅菌状態のクロレラ抽出物を提供できるという、有利な効果も奏する。
【0016】
本発明のクロレラ抽出物としては、培養したクロレラから抽出物を得、該抽出物のpHをアルカリ性とし、0−10℃にて静置したものを用いてもよい。クロレラ抽出物のpHは、適切な塩基、例えば、これに限定はされないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を添加して調節すればよい。適切な塩基の添加により、pHは7以上、好ましくは、pH8〜pH9に調整される。pHをアルカリに調整後、クロレラ抽出物は、0−10℃、好ましくは、2−5℃、より好ましくは4℃で静置され、静置時間は、通常1−10日間、例えば1、2、3、4、5、6または7日間である。上記工程により、クロレラ抽出物中のクロリンe−6含量が増加する。
【0017】
本発明において、クロレラ抽出物のpHをアルカリ性とし、これをさらに0−10℃にて静置したものを配合する場合、かかる処理をクロレラ抽出物へ紫外線を照射する前または後のいずれに行ったものでもよい。
または、クロレラ抽出物を得た後、紫外線を照射することなく、抽出物のpHをアルカリ性とし、これを0−10℃にて静置して得たものを、紫外線照射されたクロレラ抽出物と配合してもよい。
さらに、本発明においては、クロレラ抽出物に対し、任意にマイクロウェーブ照射を行ってもよい。クロレラ抽出物へのマイクロウェーブの照射は、かかる処理工程を単独で行ってもよいし、クロレラ抽出物への紫外線照射工程、およびアルカリ性に調整後0−10℃にて静置する工程の各工程の両方またはいずれかの前または後に行ってもよい。
なお、本発明において、マイクロウェーブとは、特に限定されないが、波長100マイクロメートル−1メートル、周波数300メガヘルツ−3テラヘルツの電磁波を含み、好ましくは周波数2-4GHzの電磁波であり、より好ましくは周波数2.45GHzの電磁波である。実験室レベルの調製量に対しては、マイクロウェーブ照射は、家庭用の電子レンジ(出力300−1000W、好ましくは500-1000W)によって提供されることができる。
マイクロウェーブ照射により、クロレラ抽出物の、アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥または火傷の処置および/または予防に対する効果が増強される。また、マイクロウェーブ照射によりクロレラ抽出物は殺菌されるので、滅菌状態のクロレラ抽出物を提供できるという、有利な効果も奏する。
【0018】
上記のように調製されたクロレラ抽出物は、周知の方法によって、皮膚外用剤、浴用剤または化粧品に配合されることができる。
【0019】
皮膚外用剤は、特に限定されないが、好ましくは、軟膏剤、クリーム剤またはローション剤である。
軟膏剤は、例えば、クロレラ抽出物と基剤とを加温攪拌し、加温分散させた後、攪拌下、室温に冷却して製造することができる。
クリーム剤は、例えば、まず、基剤を加熱攪拌下に製造し、これに、クロレラ抽出物またはクロレラ抽出物を含む溶液を加熱攪拌下に添加し、生じた乳化剤を室温に冷却して製造することができる。
ローション剤は、例えば、油性基剤または、加温融解した油性基剤と水性基剤の混合基剤に、クロレラ抽出物またはクロレラ抽出物を含む溶液を加熱攪拌下に添加し、次いで、水性基剤を添加して、生じた液体を室温に冷却して製造できる。
【0020】
上記の各外用剤に用いられる基剤としては、一般に外用製剤中に均一に融解、配合又は分散し得る基剤であればよく、特に限定はされないが、例えば、白色ワセリン、流動パラフィン、ミツロウ、ワセリン、ヒマシ油、シリコーン油、硬化ヒマシ油、天然ゴム、天然ゴムラテックス、1,3ペンタジエン共重合樹脂のような有機物;ポリブテン、合成ゴムSBR、シリコン、アクリル酸デンプン300、ポリアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸・アクリル酸n-ブチルコポリマー、カルボキシビニルポリマーのような高分子化合物;ステアリン酸のような脂肪酸類;エタノール、イソプロパノール、セタノール、ミリスチルアルコールのようなアルコール類;ミリスチン酸オクタドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチルのような脂肪酸エステル類;精製水などを挙げることができる。
【0021】
また、本発明の皮膚外用剤は、必要に応じて、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、クエン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等)、防腐剤(例えば、デヒドロ酢酸、サリチル酸、エデト酸二ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、チモール、ペンチレングリコール等)、湿潤剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヒアルロン酸、尿素等)、粘稠剤(例えば、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシプロピルセルロース等)、緩衝剤(例えば、クエン酸、乳酸、酒石酸、塩酸、ホウ酸、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、吸着剤(例えば、カオリン、ベントナイト、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウム等)、溶剤(例えば、エタノール、イソプロパノール、1、3-ブチレングリコール、n-オクタデシルアルコール、クロタミトン、トリ(カプリル酸・カプロン酸)グリセリル等)、安定化剤(例えば、メタリン酸ナトリウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンセトステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレエート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)等の添加剤を加えて製造される。
【0022】
浴用剤は、入浴するお湯に溶解させて使用する顆粒状の入浴剤等を含み、剤型、組成は任意である。顆粒入浴剤は、例えば、炭酸水素ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、ホウ砂にクロレラ抽出物の乾燥粉末を混合して、製造することができる。
【0023】
化粧品は、化粧水、乳液、ローション、オイル、パック等を含み、さらには、洗顔料や、シャンプー、リンス、整髪料等のスキンケア用製品も含む。
クロレラ抽出物は、適切な方法により、上記それぞれの化粧品に配合されることができる。
【0024】
なお、本発明に係る皮膚外用剤、浴用剤または化粧品は、クロレラ抽出物に加え、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲内で、医薬品類、医薬部外品類、化粧品類などの製剤に使用される成分や添加剤を配合して製造することができる。
【0025】
好ましくは、本発明に係る、紫外線を照射したクロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品は、痒み止めクリームである。
【0026】
本発明に係る皮膚外用剤、浴用剤または化粧品に含まれる、クロレラ抽出物の量は、用途により適宜設定されるが、通常0.01重量%から80重量%、好ましくは、0.1重量%から30重量%、より好ましくは、0.1重量%から10重量%、さらにより好ましくは、0.1重量%から5重量%の範囲で含まれる。
【0027】
本発明に係る皮膚外用剤、浴用剤または化粧品に含まれるクロレラ抽出物は、好適には、クロロフィルまたはクロロフィル類縁体を含み得る。クロロフィルは、植物や藻類、細菌に含まれる緑色のポルフィリン系色素で、酸素発生型の光合成を行う生物が有するクロロフィルおよび酸素非発生型の光合成を行う生物が有するバクテリオクロロフィルを含み、クロロフィルa(式1)、クロロフィルb(式1)、クロロフィルc、クロロフィルc、クロロフィルc、クロロフィルd、クロロフィルe、クロロフィルfおよびクロロフィルgを含む。また、クロロフィル類縁体は、クロリン以外の水溶性クロロフィル類、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属で鹸化されたクロロフィル、およびクロロフィリドを含む。
また、クロロフィルまたはクロロフィル類縁体のポルフィリンの中心にある金属は、Mg、Fe、Zn、Pd、Co、Ni、Hg、Er、It、Eu、Sn、Mnであり得る。さらに、上記金属を配位したクロロフィルまたはクロロフィル類縁体の塩類(例えば、銅クロロフィリンの塩類、鉄クロロフィリンの塩類)も、クロロフィルまたはクロロフィル類縁体に含まれ得る。
【化1】

【0028】
本発明に係る皮膚外用剤、浴用剤または化粧品に含まれるクロレラ抽出物は、好適には、クロロフィルまたはクロロフィル類縁体として、クロリンe−6(式2)を含む。
【化2】

【0029】
本発明に係る皮膚外用剤、浴用剤または化粧品は、好適には、アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥、または火傷の処置および/または予防に有効である。
【実施例】
【0030】
実施例1.痒み止めクリームおよび痒み止めローション等の製造
以下、実施例として、本発明に係る、痒み止めクリーム、および痒み止めローション等を製造した。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0031】
Glucose 3%、NaNO3 0.80%、MgSO4・7H2O 0.08%、CaCl2・2H2O 0.02%、FeSO4・7H2O 0.01%、K2HPO4 0.08%、KH2PO4 0.02%、Yeast extract 0.125%
上記成分を混合した培養液によりE7株の藻体を25℃、pH7〜8で3〜4日間、室内で、特別の照射を行うことなく、夜間は消灯し、中間栄養(mixotrophic)条件下で培養を行った。なお、中間栄養条件下の培養に代えて、暗所培養を行うことも可能であった。室温は25℃に保った。培養終了後培養液をオートクレーブにより滅菌した後、培養物を半分に分け、一方を2〜4日間紫外線照射し、もう半分をアルカリ性(pH8〜9)にして0−10℃の冷蔵庫に2〜4日静置した後、500Wのマイクロウェーブ(microwave)を30秒から2分までの時間照射した。これらを再混合した後、さらにこれを遠沈して上澄み液と沈殿物に分けた。沈殿物を適量の上澄み液と混合した。この液と表1に示す組成物を適量混合して痒み止めクリームを製造した。また、主として上記上澄み液を用い、これと保湿剤、防腐剤等を適量混合し、痒み止めローション(スプレー)(表2)を製造した。また、表3の成分を混合しアトピー用浴用石鹸(機械練り)を製造した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

また、以下の組成を配合することにより、乳液および浴用剤を製造した。
【0035】
(a)乳液
【表4】

【0036】
(b)浴用剤
【表5】

実施例2.痒み止めクリームの薬理試験および分析試験
【0037】
実施例1と同様にしてE7株を培養し、培養終了後培養液をオートクレーブにより滅菌し、培養物を得た。培養物を分け、紫外線照射を1、2、4または8日間実施したものを調製した。また、対照として、紫外線照射を実施しなかったものも調製した。その後、実施例1と同様にして、痒み止めクリームを製造した。なお、紫外線照射は、内寸850×450×500 mmの白色に塗装した鉄製容器中の天井部分に、市販の殺菌ランプ(東芝、殺菌ランプGL-15)2基を平行に固定して、クロレラ培養物を底面に置いて行った。
製造した痒み止めクリームについて、肌に塗布した24時間後における肌感触の改善による官能検査を実施した。官能検査は、任意に選んだ、40名の、アトピー性皮膚炎の患者を含む、皮膚過敏症を自覚している人に関して行い、紫外線照射を行わなかったクロレラ培養物を材用として使用した対照区を「普通」として、比較検討することで実施した。
【0038】
【表6】

【0039】
官能検査結果を百分率で表したものを表6に示すが、1日間の紫外線照射では、ほとんどの人(92 %)が「普通」と答えたのに対して、2日間照射では、「極めて良好」および「良好」の双方で7割(74 %)を占めた。更に、4日間の照射では、「極めて良好」および「良好」の双方で9割を越える(91 %)判定結果が得られたが、4日間以上の照射による改善は認められなかった。このことから、紫外線照射による、肌塗布後における感触の改善は、紫外線により、クロレラ培養物中に含まれる有効成分の分解酵素等の失活による有効成分保存、もしくは、不快因子の分解除去によることが示された。
【0040】
クロレラの培養終了後における紫外線照射工程の有効性を確認する目的で、クロロフィル類の比較定量分析を行った。培養したクロレラ細胞中に含まれる、光合成色素・クロロフィル(式1)は、クロレラ細胞の死滅に伴って、酵素・クロロフィラーゼによるフィトール鎖の脱離、ならびに細胞内の酸性化(マグネシウムデキレーティングサブスタンスによるよも云われている)による、中心金属マグネシウムの脱離によって、フェオフォルバイドに分解される。このフェオフォルバイドは、アルカリ性条件下において加熱すると、水溶性のクロリンe-6(式2)になる。クロリンe-6は水溶性であることから、抽出が容易であり、これを定量することで、クロロフィル類(クロロフィルおよびクロロフィル類縁体を含む)の総量とすることができる。
【0041】
実施例1に記載した方法と同様にE7株の培養を実施した。培養を終了した、クロレラ生細胞の培養液中懸濁物を、塩酸を用いてpH 7.0に調整し、60℃で15分間加熱、クロレラ細胞を死滅させた。これを流水中で冷却し、30℃で2時間静置(酵素・クロロフィラーゼによるフィトール鎖脱離)後、塩酸を加えてpH 4に調整した。さらに、30℃で2時間静置し、クロレラの色調が完全に、茶色に変化した(クロロフィルのフェオフォルバイド化)ことを確認後、水酸化ナトリウム溶液を加えてpH 10.0に調整し、沸騰湯浴上(90℃以上)で15分間加熱した。これを放冷後pH 7.0に調整し、濾液の吸収スペクトルを測定したところ、図1に示す、400 nm、500 nm、660 nmにピークを有する、特異的な吸収曲線が得られ、クロレラに含まれるクロロフィル類のすべてが、クロリンe-6に変化していることが確認された。
【0042】
前記処理によって得られた、クロレラ培養物処理液を、耐圧耐熱ガラス容器に5等分し、1.2気圧・121℃で、蒸気加圧滅菌を行った。放冷後、これに前述の官能試験と同じ条件で紫外線照射を行い、蛍光灯照射下、照度10,000 Lux、30℃に10日間置いた後の吸光度を比較した。なお吸光度は、一般にクロロフィル類の定量に用いられている、660 nm(Qy帯)の極大値の数値を測定し、蒸気加圧滅菌後、紫外線照射前(30℃、照度10,000 Lux下処理、未実施)の吸光度を100 %とした。
【0043】
【表7】

【0044】
表7に示すように、紫外線未照射に関しては、クロロフィル類の残存量が17 %に低下しているのに対して、1日間の照射で35 %、2日間では43 %、4日間では68 %、8日間では65 % であった。このことから、紫外線照射が、クロリンe-6の分解を阻止したことが判明した。紫外線によるクロリンe-6の分解阻止効果が、クロレラ培養物中の、人肌に有効な物質の含有量と、同一であるかは不明であるが、クロロフィル類(クロリンe-6を含む)量を調査することで、品質を安定化させ、工程を管理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】クロレラ培養物由来の濾液の吸収スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を照射したクロレラ抽出物を含む皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項2】
さらに、pHをアルカリ性にした後0−10℃にて静置したクロレラ抽出物を含む、請求項1に記載の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項3】
痒み止めクリームである、請求項1または請求項2に記載の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項4】
クロレラが、クロレラ・ブルガリスE7株である、請求項1−3のいずれかに記載の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項5】
クロロフィルおよび/またはクロロフィル類縁体を含む、請求項1−4のいずれかに記載の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項6】
アトピー性皮膚炎、湿疹、肌荒れ、痒み、肌の乾燥または火傷の処置用および/または予防用の、請求項1−5のいずれかに記載の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項7】
抽出物が、熱水抽出物である、請求項1−6のいずれかに記載の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品。
【請求項8】
クロレラを培養する工程、培養したクロレラよりクロレラ抽出物を調製する工程、および、クロレラ抽出物に紫外線を照射する工程を含む、クロレラ抽出物含有の皮膚外用剤、浴用剤または化粧品の製造方法。
【請求項9】
さらに、クロレラ抽出物のpHをアルカリ性として0−10℃で静置する工程を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
さらに、クロレラ抽出物にマイクロウェーブを照射する工程を含む請求項8または請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
クロレラが、クロレラ・ブルガリスE7株である、請求項8−10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
皮膚外用剤、浴用剤または化粧品が、かゆみ止めクリームである、請求項8−11のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−91349(P2009−91349A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170675(P2008−170675)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(507313386)株式会社大垣バイオ・テクノロジー研究センター (2)
【出願人】(507313401)ラビオン・インターナショナル・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Lovion International Inc.
【出願人】(595037618)株式会社アイワ (1)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】