グラフェン含有プレートレットおよび電子デバイス、並びにグラフェンを剥離する方法
グラフェン含有プレートレットおよび表面からグラフェンを剥離する方法を記載する。該方法は、タンパク質で処理して剥離を促進することを含む。一実施形態において、該タンパク質はグラフェンの表面に接着し、そして製造したプレートレットはグラフェン層およびグラフェン層表面上のタンパク質層を含む。かようなプレートレットを有する電子デバイスもまた記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、グラフェン材料を製造する方法に関する。本発明はグラフェンを含有する材料にも関する。さらに、本発明はかようなグラフェン含有材料の応用にも関する。1つの特定の応用分野は電子デバイスである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンの特性および製造方法は、数年にわたる広範な研究がなされている。グラフェンは、例えば、高い電荷キャリア移動度などの特有の電気的特性を有しており、この特性は根本的に電子機器への応用に有望である。グラフェンは力学的特性も期待され、従ってその強度特性または潤滑特性に基づいていくつかの応用も提案されている。グラフェンの粒子は、通常グラフェンプレートレットといい、それらはたとえば他の材料または電子デバイスの一部としても使用されうる。
【0003】
グラフェン材料のいくつかの製造方法は従来提案されてきた。グラフェンは自然界ではグラファイト中に存在するので、グラファイトから剥離することによってグラフェンを製造する方法がいくつか提案されている。また、表面上へグラフェンを堆積する製造方法も提案されている。
【0004】
特許文献1は、マトリクス材に分散したナノスケールのグラフェンプレートレットを含むナノ複合材料を開示している。各プレートレットは1シートのグラファイト面または多数シートのグラファイト面を含む。該公報によれば、プレートレットは燃料電池およびバッテリー応用に有用であり、自動車の摩擦板および航空機のブレーキ部品にも使用することができる。
【0005】
特許文献2は、ナノスケールのグラフェンプレートレットの不織集合体を含むナノスケールのグラフェン品を開示している。該公報によれば、マイクロ電子デバイス中の温度管理、および、落雷に対する航空機外板における電流散逸に使用することができる。
【0006】
非特許文献1は、スタンプ上のピラーを用いてグラファイトから孤立したグラフェンを切断、剥離し、そして転写印刷を用いて、そのグラフェンをスタンプから基板上のデバイス活性領域に位置させる方法を開示している。該公報は、この印刷されたグラフェンから製造したトランジスタも開示している。
【0007】
特許文献3および特許文献4は、グラファイト層間化合物を提供し、これは層状グラファイトを含み、この層状グラファイトの層間空間には膨張可能な種が存在する。また、この方法はグラファイト層間化合物を剥離温度に浸して、層状グラファイトを少なくとも部分的に剥離する工程を含む。
【0008】
特許文献5は、層状物質(例えば、グラファイトおよび酸化グラファイトなど)を剥離して、ナノスケールプレートレットを製造する方法を開示する。この方法は、グラファイト粒子または酸化グラファイト粒子を界面活性剤または分散剤を含む液体媒質中に分散させて、懸濁液またはスラリーを得る工程と、この懸濁液またはスラリーに超音波を照射して(超音波処理)、分離されたナノスケールのプレートレットを製造する工程と、を含む。
【0009】
特許文献6は単結晶基板上にエピタキシャル成長させたグラフェン層を開示する。製造したデバイスは、グラフェンに対して十分に格子整合した単結晶領域を有する。グラフェン層は、例えば分子線エピタキシャル(MBE)によって格子整合領域上に堆積させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0158618(A1)号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0248275(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0206124(A1)号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/0258359(A1)号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0279756(A1)号明細書
【特許文献6】国際公開第2007/097938(A1)号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Liang,Xら,Graphenee Transistors Fabricated via Transfer-Printing in Device Active Areas on Large Wafer, Nano Letters, Vol.7, No.12, 3840-3844, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
様々なデバイスおよび材料中の成分としてグラフェンが大きな潜在性を有することを考慮して、新たな製造方法とそれに伴う利点に対する必要性は今後も高い。
【0013】
よって、本発明は、グラフェン含有プレートレットの新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、製造方法は、タンパク質での処理により、表面からのグラフェン層の剥離を促進する工程を含む。
【0015】
一実施形態では、前記タンパク質はグラフェンの表面の上でこの表面に付着する層を形成する。
【0016】
そして、本発明の他の一態様は、グラフェン層と、該グラフェン層の表面上のタンパク質層とを有するプレートレットを提供する。
【0017】
よって、本発明はグラフェン含有プレートレットの新たな製造方法と、全く新たなグラフェン含有プレートレットを提供する。
【0018】
本発明はまた、いくつかの特定の応用の観点から少なくとも、公知の方法およびプレートレットを超える特定の利点を提供できる、いくつかの実施形態を有する。
【0019】
例えば、本製造方法のいくつかの実施形態は、100℃より低い温度でも剥離が可能な程度まで、グラフェンの剥離を促進する。グラフェンは高温中では酸化または他のダメージに脆弱であるから、低い温度を用いた方法によれば、製造したグラフェンをより高品質とすることができる。より低い温度は操作職員に対してもより安全であり、製造装置の設計に対してそれほど厳しい要求も必要とされない。
【0020】
いくつかの実施形態は、グラフェン層表面上の安定なタンパク質層を提供する。これらの実施形態では、グラフェンはタンパク質によって支持または保護されており、これはいくつかの応用で有益である。
【0021】
実施形態において、グラフェン層の表面が機能性タンパク質を有しており、タンパク質は、例えば、プレートレットを所望の部位に配置するために、または、グラフェンを電気的に外部回路に接続するために使用できる。これらの実施形態のいくつかでは、特定かつ所望の位置にこのナノマテリアルを配置するために、生体分子認識の使用もできる。そして、プレートレットで電子デバイスの構造部分を形成する実施形態もある。
【0022】
ナノスケールプレートレットをナノコンポジット材料中のフィラー材として使用する応用では、フィラーのコストは非常に重要な要因になりうる。よって、カーボンナノ材料の効率的な加工・製造方法が必要である。このため、本製造工程はエネルギーにおいて効率的である、すなわち、製造工程が高温またはエネルギーの投入を必要としないため、有益である。また、本製造工程は水などの溶媒を用いて実行でき、結果、環境負荷を減少させ、コストを低減させることができることも有利である。また、本製造方法では、生物工学的手法によって製造するタンパク質のように、再生可能な自然資源から使用する材料を製造できることも利点である。本発明はまた、これらの必要性を満たすことができるこのような実施形態を提供する。
【0023】
本発明はまた、関連した利点を提供するいくつかの他の実施形態も有する。
【0024】
本発明およびこの利点のよりよい理解のために、例を用いて、また以下の図を参照して本発明を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態で用いられる1つのタンパク質、すなわちHFBIタンパク質の構造を示す。
【図2】一実施形態に従うグラフェン層の表面上に接着したタンパク質の概要図である。
【図3】一実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図4】別の実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図5】第3の実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図6】第4の実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図7】一実施形態に従うグラフェン片のTEM画像を示す。
【図8】図7のグラフェン片から測定した回析パターンを示す。
【図9】図7のグラフェン片から測定した回析ピークの強度を示す。
【図10】一つの実験における、タンパク質剥離グラフェン断片およびHOPGピラーを示す。
【図11】一実施形態による電気デバイスの模式横断面図を表す。
【図12】別の実施形態による電気デバイスの模式横断面図を表す。
【図13】更なる実施形態による電気デバイスの模式横断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(定義)
グラフェンとは、sp2結合炭素原子の1原子厚平面シートのみから実質的になる材料を一般的に指す。グラフェンには、炭素原子がハチの巣状の結晶格子に高密度に充填されている。
【0027】
グラフェンシートは、グラフェンと同様の意味を有するが、グラフェン材料のシート状の性質をいう場合、特に厚みを表す場合に使用される。
【0028】
グラフェン層は、グラフェンを含み、本件の応用に関係のあるグラフェンの機能的特性を示す材料である。よって、グラフェン層は少なくとも1グラフェンシートを有する。グラフェン層は、互いに重なり合って複数のグラフェンシートを含んでもよく、従っていくらかの原子層の厚みを有しても良い。
【0029】
グラフェンの層はグラフェン層と同じである。
【0030】
プレートレットは、一般的に、典型的に小さい寸法および小さい厚みの平面フィルム様の物である。寸法および厚みは、例えば、マイクロメーターまたはナノメーター程度である。
【0031】
タンパク質は、ペプチド結合により結合されたアミノ酸の鎖を含むポリペプチド分子である。
【0032】
(発明の実施形態)
実施形態によれば、グラフェン含有プレートレットは表面からグラフェン層を剥離することによって製造する。その表面は剥離すべきグラフェン層を含む任意の表面でよい。表面は、例えば、グラファイトの物体または粒子の表面でもよい。表面が高配向のグラファイト体の一部を形成する場合、その表面は剥離されるグラフェン層を繰り返し製造することができる。また、高配向のグラファイトではドメインサイズが一般的に大きいので、製造されるグラフェン含有プレートレットの寸法または範囲は比較的大きい。最高品質の高配向熱分解性グラファイト(HOPG)を使用する場合(ZYAグレード)、ドメインサイズは最大10μm2であり、従って、これに対応する寸法範囲のグラフェン含有プレートレットの製造ができる。
【0033】
表面は通常のグラファイトまたはグラファイト粉によって形成されても良い。かようなグラファイト粒子を用いる実施形態はより安価なプレートレットを提供でき、これはグラフェンのドメインサイズおよび質があまり重要でない場合の実施形態で使用できる。かような実施形態に期待する応用は、例えば補強材としてなど、複合材料中でのプレートレットの使用を含む。
【0034】
表面は、非炭素の表面で、その上に一層のグラフェン層または複数層のグラフェン層が堆積法によって製造された表面でもよい。CVD、ALD、MBEおよび当業界で公知の他の方法を使用できる。例えば、特許文献6は単結晶基板上にエピタキシャル成長させたグラフェン層を開示する。
【0035】
つまり、一層又は複数層のグラフェン層が剥離される表面は、少なくとも1原子厚のグラフェンシートを含むが、複数のグラフェンシートによって形成されてもよくまたはグラファイト体によって形成されてもよい。
【0036】
本実施形態において、剥離はタンパク質で処理することによって促進される。処理は、タンパク質と表面とを任意の好適な方法で接触させる工程を含んでもよい。
【0037】
タンパク質は、例えば菌類由来の天然のタンパク質でもよいし、または、グラフェン剥離の促進という所望の効果を得たタンパク質に機能的に等価で、修飾されまたは合成して製造された、任意のポリペプチドでもよい。タンパク質は融合タンパク質でもよい。タンパク質は、該タンパク質に付着した別の1つ以上の部分を有する、より大きい構造的ユニットを含んでもよい。
【0038】
タンパク質の証明された機能は、グラフェンとタンパク質との間の接着力に基づくと考えられる。しかしながら、その正確なメカニズムは未知であり、上記仮定は後の研究において正確ではないと証明される可能性はある。しかしながら、上記の仮説に基づくと、接着力によって、最外側の1枚以上のグラフェンシートをそれらが剥離される表面から分離できる傾向がある。タンパク質とグラフェン層の表面との相互作用によって、グラフェン表面上でのタンパク質の堅い結合がなくても、剥離が促進できると考えられる。タンパク質はまた、典型的に、グラフェンシートの厚みと比較して大きいため、グラフェンシートに効果的に力を与えることができる。かような力はタンパク質に作用し、そのためグラフェンにも作用するが、例えば、音響的または力学的なエネルギーによって誘導されうる。音響的または力学的なエネルギーの例として、超音波エネルギーや、液体流入中における振動および混合により引き起こるような動作に存在するエネルギーが挙げられる。従って、剥離を促進するため、超音波処理すなわち、表面に超音波を照射することができる。
【0039】
一実施形態によれば、タンパク質は、他のタンパク質部位よりも疎水性の部分を含有するタンパク質を含む。別の実施形態では、タンパク質はグラフェンの表面に接着することのできる疎水性部分を含有するタンパク質である。更なる一実施形態によれば、タンパク質は両親媒性のタンパク質を含む。かような疎水性および両親媒性タンパク質の例は、ハイドロフォビンを含む。またかような特性を示す他のタンパク質でもよい。かようなタンパク質はrodlin、chaplin、repellant、およびSapBを含み、これらは例えば、Elliot,M.およびTalbot,N.Jによる、Building filaments in the air: aerial morphogenesis in bacteria and Fungi, Current opinion in microbiology 2004,7:594-601、あるいはKershaw,MおよびTalbot,N.J.による、Hydrophobins and Repellents: Proteins with Fundamental Roles in Fungal Morphogenesis,Fungal Genetics and Biology, 23,18-33,1998などに記載されている。
【0040】
特定のいくつかの実施形態では、タンパク質はハイドロフォビンを含む。ハイドロフォビンの例として、HFBI、HFBII、HFBIII、SRHI、SC3、HGFI、および既述のポリペプチドの特性または配列に類似性を有する他のポリペプチドが挙げられる。ハイドロフォビンの例としては、従って、対応する特性を有する他の類似のポリペプチドも含む。
【0041】
ハイドロフォビンの一群は、Cys残基の含有率および順序によって、アミノ酸配列から同定されるハイドロフォビンであり、それはY-C(1)-X-C(2)-C(3)-X-C(4)-X-C(5)-XC(6)-C(7)-X-C(8)-Yの形態をとり、ここでXは1つ以上のアミノ酸残基の配列を意味するが、典型的には100未満のアミノ酸残基である。Yは、任意の数のアミノ酸残基からなる長さが様々な配列であってもよく、または全く配列がなくてもよいことを意味する。CはCys残基を意味し、C(2)およびC(3)は典型的に配列中で互いに連結し、C(6)およびC(7)も典型的に配列中で互いに直接連結する。
【0042】
一実施形態によれば、ハイドロフォビンは、例えば、既述のハイドロフォビンであるHFBI、HFBII、HFBIII、SRHI、SC3およびHGFIに、アミノ酸配列レベルで少なくとも40%の類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペピチドを含む。類似性のレベルはもちろんより高くてもよく、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、または少なくとも90%でもよい。
【0043】
ハイドロフォビン、その構造および特性の典型例は、LinderらによるHydrophobins:the protein-amphiphiles of filamentous fungi, FEMS Microbiology Reviews,29,877-896,2005に記載されている。
【0044】
本来は、ハイドロフォビンは、糸状菌によって製造される両親媒性タンパク質として発見された。しかしながら、組み換えDNA技術によって、バクテリア、始原細菌、酵母、植物細胞または他の高等真核生物などの、様々な他の生物中で製造することができる。ハイドロフォビンは生細胞を使用しなくても製造することができ、合成か無細胞製造法でも製造することができる。接着特性に加えて、これらのハイドロフォビンは、いくつかの実施形態において活用することができる有益な特性をさらに有する。例えば、このタイプのハイドロフォビンは、典型的にタンパク質膜を形成することができ、これは例えば剥離したグラフェンを支持するために使用することができる。形成されたタンパク質膜はいくつかの実施形態において弾性フィルムでもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質膜は、タンパク質の秩序ネットワークによって形成することができ、タンパク質の自己組織化方法によっても形成することができる。いくつかの実施形態において、かようなタンパク質の秩序ネットワークは単分子層であり、すわなち、実質的にタンパク質を一層のみ有する。
【0045】
いくつかのハイドロフォビンのフィルム形成特性およびそれらの表面への接着については、Szilvay,G.R.;Paananen,A;Laurikainen,K.;Vuorimaa,E.;Lemmetyinen,H.;Peltonen,J. Linder,M.B.による,Self-assembled hydrophobin protein films at the air-water interface: Structural and molecular engineering Biochemistry,2007,46,234-2354の刊行物に記載されている。
【0046】
図1は、一実施形態によって使用しうるHFBIタンパク質の構造を示す。
【0047】
図2は、グラフェンシート1と、最外側のグラフェンシート1の表面に接着したタンパク質2とを表す概略図である。
【0048】
実施形態のタンパク質は、少なくとも2つの機能部位を有する融合タンパク質を含んでもよい。機能部位の一つはグラフェンに接着する能力を有するように選択することができる一方、他の少なくとも一つの部位は他の所望の機能によって選択できる。かような他の所望の機能は例えば溶解性、電気的特性、力学的特性、化学的特性、および/または接着特性に関する。
【0049】
一実施形態によれば、融合タンパク質中の少なくとも1つの機能部位は、ハイドロフォビンまたはハイドロフォビン様の分子によって形成される。かような融合タンパク質の例として、溶解性、荷電性、疎水性、化学反応性、酵素作用性、伝導性または結合機能性などのいくつかの機能性がハイドロフォビンまたはハイドロフォビン様分子に加わっている分子が挙げられる。この機能群の追加は化学結合、酵素修飾、翻訳後の修飾、または組み換えDNA技術を用いることにより行うことができる。特定の実施形態において、NCysHFBIという融合タンパク質を用いることができる。このタンパク質変異形は更なるCys残基を有し、それに含まれるスルフヒドリル基を介して化学反応を起こす。
【0050】
応用の必要性によって、クラスIおよび/またはクラスIIハイドロフォビンを使用することができる。クラスIハイドロフォビンは典型的に不溶性の高凝集体を形成する一方、クラスIIメンバーの凝集体はより敏速に溶解する。この事実によって、各応用形態の必要に応じて適したタンパク質を選択することができる。
【0051】
クラスIIハイドロフォビンの例としては、Trichoderma reeseiから取得できる、HFBI、HFBIIおよびHFBIIIが含まれる。
【0052】
Trichoderma以外のハイドロフォビンの他の取得源として、例えば、Schizophyllum、Aspergillus、Fusarium、Cladosporium、およびAgaricusなどの全ての糸状菌を含む。さらなる取得源の例は、例えば、上記引用のLinderら(FEMS Microbiology reviews,2005)に記載されている。
【0053】
いくつかの実施形態では、タンパク質はグラフェン表面上に層を形成する。このように、グラフェンおよびタンパク質層を含むものを製造することができ、これは例えばグラフェンの支持体として使用できる。かようなものは、本明細書においてプレートレットと呼ぶ。
【0054】
タンパク質による表面処理は、例えば、タンパク質を含む溶液を製造して表面上にその溶液を塗ることにより行うことができる。表面は溶液中に浸す、または溶液と接触させることもできる。一実施形態では、溶液は水溶液であり、精製水またはpH若しくはイオン強度を制御するための物質を添加した水である。溶媒および非水性成分を溶液に加えることもできる。
【0055】
表面は、前記溶液なしでも、タンパク質によって処理することができる。例えば、まずタンパク質層を製造し、そして表面およびタンパク質層を互いに接触させる。かようなタンパク質層は、スタンプのような機械的物体の表面上に形成することができる。タンパク質層は流体と流体との界面でも形成することができ、例えば液体-液体、液体-固体、気体-固体または気体-液体の界面で形成することができる。例えば、まずタンパク質を含む液体を製造し、その後その液体と、空気または選択したプロセスガスなどの周囲の外気との界面でタンパク質を凝集させることができる。その後、タンパク質層はグラフェン表面と接触させ、または、タンパク質層をグラフェン表面に移すために使用する中間物質と接触させることができる。
【0056】
このように、方法の一実施形態は、タンパク質層を形成する工程と、形成したタンパク質層をグラフェンの表面と接触させて、表面上にタンパク質層を接着させる工程とを含む。この後必要に応じて、グラフェンが付着したタンパク質層を基板に対して押し付けて、基板上にグラフェンをスタンプすることができる。従って、形成したプレートレットを所望の標的位置に正確に載置することもでき、よって、例えばプレートレットをエレクトロニクスの応用に活用することができる。
【0057】
他の物体のスタンプによって、所望の形状でプレートレットを製造することもでき、その結果、所望のパターンのグラフェンを製造することができる。パターンは、グラフェンが剥離される表面自体をパターニングすることによって形成することもできる。
【0058】
上記記載の方法を用いて、グラフェン層と該グラフェン層の表面上のタンパク質層とを含むプレートレットを製造することができる。図3〜6は、かようなプレートレットの横断面を示す概要図である。
【0059】
図3のプレートレットは、グラフェン層3とグラフェン層3の表面上のタンパク質層4とからなる。グラフェン層3は、図2に示す複数のグラフェンシート1を含んでも良く、または1層のグラフェンシート1からなってもよい。タンパク質層4は少なくとも1層のタンパク質2を含む。かようなプレートレットは、上述のように例えば界面で剥離することによって形成することができる。
【0060】
図4のプレートレットは、グラフェン層3と、グラフェン層3の両主面上のタンパク質層4とを有する。タンパク質層4が十分に均一である場合、グラフェンはタンパク質層4によって実質的に十分保護されている。しかしながら、いくつかの実施形態において、タンパク質層4はグラフェン層3を露出させる穴または空隙を含んでもよい。かようなプレートレットは、例えば溶液中で剥離することによって生産され、この溶液中でグラフェン層3の他の主面がタンパク質と接触するようになる。
【0061】
図5のプレートレットは、互いに離間し、複数のタンパク質層4によって支持される複数のグラフェン層3の層構造を有する。かようなプレートレットは例えば、ハイドロフォビン、または、更なる機能を有するハイドロフォビン様タンパク質の結合により製造することができる。更なる機能は他のタンパク質と相互作用を形成することができるように選択し、他のタンパク質は例えば、他のハイドロフォビン、または、グラフェンシートに結合したハイドロフォビン様タンパク質である。このようにして、タンパク質を互いに結合させ、層状構造を形成する。
【0062】
図6のプレートレットは、タンパク質層4と、タンパク質層4の両主面上のグラフェン層3とを含む。かようなプレートレットは、例えば、ハイドロフォビンを結合し、または、更なる機能性を有するハイドロフォビン様タンパク質を結合することによって製造することができ、タンパク質の付着したグラフェンが複数層を形成する。後の段階で、露出したタンパク質層は除去することができる。
【0063】
上記からわかるように、タンパク質層4は、プレートレット中であっても必ずしも完全にグラフェン層3を覆う必要はない。従って、いくつかの実施形態ではなるべく多くの被覆が有利であるが、いくつかの他の実施形態ではタンパク質層4中にかなりの不規則性があってもよい。そして、上記からもわかるように、被覆度は製造方法のいくつかの実施形態において必ずしも重要ではない。これは、タンパク質が剥離を促進するためだけに使用されるが、支持機能は求められない場合である。
【0064】
いくつかの実施形態ではグラフェン層3が不規則でもよい。従って、プレートレット中のグラフェン層3は、厚みにおいてさまざまでもよく、いかなる個々のグラフェンシート1もまた均一な格子構造のより小さい領域を複数含んでも良い。
【0065】
プレートレットでは、グラフェン層の厚みは、例えば1〜10グラフェンシート1とすることができる。エレクトロニクス応用のほとんどにおいては、典型的な厚みは1〜5グラフェンシート1と考えられるが、既に述べたように、応用およびその要求は様々であり、プレートレットの特性はそれに従って適宜選択できる。
【0066】
プレートレットの特別な場合は、グラフェン層3が単層のグラフェンシート1からなるプレートレットである。かようなプレートレットは、図3〜6に示す任意の構成で製造することができる。
【0067】
一実施形態によれば、タンパク質層4はハイドロフォビンを含む。やはり、特別な場合はタンパク質層4が単層のハイドロフォビンであるプレートレットである。
【0068】
タンパク質層4は融合タンパク質を含んでもよく、または融合タンパク質によって単独で形成してもよい。さらに、単層のタンパク質層4は種々の融合タンパク質を含んでもよい。図4および図5のプレートレットで、タンパク質層4のうち一層のみが融合タンパク質を含んでもよい。
【0069】
タンパク質層4のタンパク質としては、製造方法の実施形態を説明するにあたり上述した、いかなるタンパク質も使用することができる。また、開示したタンパク質の組合せも、個々のプレートレットにおける単層のタンパク質層4中または複数のタンパク質層4中で、使用することができる。
【0070】
プレートレットの厚みは例えば50nmより小さくてもよい。個別のタンパク質層4の厚みは例えば1〜10nmの間の範囲でもよい。
【実施例】
【0071】
タンパク質の吸着によってグラファイトからグラフェンを剥離する種々の方法を、特にハイドロフォビンを用いて試験した。試験中、その方法が、例えば温度T<100℃および中性pH付近の穏やかな条件であっても、1〜10グラフェンシートの範囲の様々な厚みを有するグラフェンの薄い断片を分離する、新しい効果的な方法を提供することができることがわかった。
【0072】
試験した方法の1つは、野生型タンパク質または機能性融合タンパク質の存在下でのグラファイトの超音波処理によってグラフェンの安定的分散を形成する工程と、その生成物を用いて、ナノエレクトロニクス成分中で基板材料に付着可能な生体分子を自己集合させる工程と、を含む。
【0073】
また、タンパク質被膜間の機能性または他の相互作用を介して多層間を結合することによって、グラフェン材料のより大きな領域を形成することができる。
【0074】
ハイドロフォビンの親水性体中に埋め込まれた小さな疎水性のパッチが、親水性および疎水性材料の界面で自己集合を引き起こす。実施例の1つで使用する、クラスIIハイドロフォビンHFBIの構造は、図1に記載する。界面での自己集合の好ましい例は、水と空気との界面でのHFBIの集合であり、結晶格子を形成することを示す。この両親媒性の挙動の他に、疎水性のパッチが固体疎水性材料に結合する強い傾向がある。従って、この実施例に使用するハイドロフォビンの層は、必要に応じて移動され、基板上に結合される。ハイドロフォビンの特に興味深い別の特徴は、界面の単分子層の形態としてのタンパク質間の強い面内相互作用である。HFBIの強い単分子層膜は、厚みわずか数nmでもよいが、エレクトロニクスにおいて可能性のある材料として提案されており、エレクトロニクスに使用される従来型の物質と共に使用する場合に興味深い挙動を示す。
【0075】
ハイドロフィビンと疎水性表面との相互作用は巨視的表面、微視的表面、さらにナノスケールの表面上でさえ研究されている。タンパク質層の結晶性は全ての場合で検証できたわけではないが、疎水性表面への選択的結合の証拠は明らかであった。実験では、疎水性の自己集合は、微視的レベルでの表面領域をもち、ナノスケールの厚みを有する二次元材料として広がった。
【0076】
いくつかの試験に基づくと、ハイドロフォビンでの処理後にグラファイトのような疎水性材料の湿潤性が極端に変化することが、グラフェンの剥離を導く主要な要因のひとつと考えられた。溶液中のグラファイトからグラフェンを剥離する初期の試みにおいて、グラフェン-水界面での表面エネルギーは、溶媒によって低下し、または、第3相として系に界面活性剤を加えることによって低下させ、そして溶液へのグラフェンシートの分散を促進させた。しかしながら、グラフェン断片の表面での高配向タンパク質結晶の構造は、さらに分散を安定にすることができると考えられる。
【0077】
剥離した断片の安定化の他、断片の分離はグラフェンの剥離において役割を担うと考えられている。正確なメカニズムはまだわかっていないが、比較的小さいサイズのハイドロフォビン分子およびこのグラファイト面に対する高い親和性もまた関連要因であると思われる。グラフェン表面上に親水性タンパク質層を有することのエネルギー上の利点は非常に高く、それは、この利点がグラファイト中のグラフェンシートの積層を超えることが証明されたからである。グラフェンの剥離は、超音波処理によって促進され、それはグラフェンシートを破損すると考えられた。しかしながら、発明者らの経験上、グラフェンは数平方ミクロンの一片となり、電子デバイスの部品としては十分な大きさとなる。
【0078】
(図7〜9の実施例)
最高品質(ZYAグレード、10μm2までのドメインサイズ)の高配向の熱分解グラファイト(HOPG)もしくはキッシュグラファイトの小さい断片(<1mg)、pH8の10mMリン酸ナトリウム緩衝溶液中の0.02〜0.026mMタンパク質(HFBI野生型または融合タンパク質NCysHFBI)、または脱イオン水を含む0.5〜1.0mlの溶液に対して先端ソニケーター中で超音波を照射することによって、グラフェンの剥離を行った。プローブの大きさは26μmに設定した。溶液の温度は、超音波処置の間氷浴中に試料を保持することによって制御した。試料は合計で10分間超音波処理下にさらしたが、溶液の沸騰を防ぐため、超音波処理の小中止を約1分間隔でし続けた。従って、超音波処理温度は0〜100℃の間に保たれた。超音波処理の後、試料を500rpmで15分間遠心分離して、グラファイトのより重い断片の堆積を促進した。上澄みはさらなる分析に使用した。
【0079】
実施例において使用したHFBIおよびNCysHFBIの配列は次の通りである:
NCysHFBI
HFBI
【0080】
穴開きカーボングリッド上に未使用の上澄み20μlをピペットで2滴とって、透過型電子顕微鏡(TEM)用のグラフェンの試料を調製した。グラフェンシートの断片のTEM画像を図7に示す。試料はフィルター紙の上にのせ、フィルターに余分な溶液を吸収させた。グラフェン層と、その種々の部分から測定した回析パターンの例を、図8に示す。大きな折りたたまれたグラフェンの断片を種々の位置で測定した電子回析パターンから、単層のグラフェンシートの証拠が読み取れる。図9は、スポットi3で測定した回析ピークの強度を示し、これはミラー‐ブラヴェ指数{1100}および{2110}で表示できるピークを示す。{1100}と{2110}のピーク強度の比率は、1より大きい値であり、これは、計算によると、グラフェンの単層シートの電子回析と一致する。サイズ範囲が同じで同様の特性の部分が、サンプル上の全てに認められ、グラフェン剥離の効果的な方法であることを示した。また、複数層のグラフェンおよびグラファイトからなる部分が、ある程度存在した。
【0081】
ハイドロフォビン部分と、生体分子認識能または他の結合能を有する官能基を有する別の部分とを含む、機能性融合タンパク質を選択することにより、選択した機能性に親和性を有する表面上にグラフェンシートを集めることができる。この方法によれば、選択した機能の自己集合を活用して、例えばパターン化基板の上にグラフェンシートを移動させることができる。
【0082】
(図10の実施例)
キッシュグラファイトおよびHOPGピラーからのグラフェン剥離もまた、実験によって試験した。グラファイト片およびハイドロフォビンタンパク質を水溶液中で40分間、超音波浴(Branson,Bransonic 1510,周波数40kHz)で超音波照射して、グラフェンおよび薄いグラファイトシートの剥離を行った。使用したタンパク質は、野生型HFBIおよびその融合(NCysHBFI)2二両体およびHFBI-ZEであった。超純水(Millipore)に0.3〜1ml容積のタンパク質が溶解した、1.0〜3mg/ml溶液中で剥離を行った。化学的に精製したキッシュグラファイトは、タンパク質溶液中に入れて上記のように処理した顆粒として加えた。HOPGから製造した、リソグラフィー処理したウェーハを、マイクロピラーおよび支持グラファイトウェーハを含むプレートレットとして溶液中に浸し、超音波浴中にて超音波処理した。
【0083】
剥離後、剥離物質の遠心分離によって、過剰なタンパク質を溶液から除去した。まず、処理に影響されなかったグラファイトの大きい断片は、ミニ遠心機(National Labnet Co.,Mini centrifuge C-1200)で穏やかな遠心分離によって、分散した物質から分離した。この後、上澄みは室温で14000rpm(Eppendorf,Centrifuge 5417R)で5分間遠心分離し、その後溶液は未使用の超純水に置換した。この洗浄を反復して3回行った。
【0084】
銀エポキシ樹脂を有するSi基板に小さい断片上に切断した後に接着した高配向熱分解グラファイト(HOPG)(SPIサプライヤー、SPI-1グレード)から、HOPGマイクロピラーを調製した。PECVDで120nmの厚みのSi3N4層を200℃で堆積させた。ネガティブレジスト(Micro Resist Technology, ma-N1410)による光リソグラフィーおよび現像(ma-D533s)は、BHF溶液による窒化物層のウェットエッチング後に行った。レジストマスクは、アセトンおよびイソプロパノールで除去した。残留したSi3N4構造は、HOPGのO2ICPエッチパターニング中にハードマスクとなった。最終的に、窒化物マスクはHF緩衝溶液中で除去した。
【0085】
そして、試料はラマン研究用に調製した。まず、剥離したグラフェン溶液のpHを、pH3のマッキルヴェイン緩衝液10mMを加えて調整した。酸化シリコンウェーハの断片を溶液に17時間浸漬し、その間グラフェンの小さい断片が反対の電荷をもっているためシリコン酸化物に付着した。表面は超純水でリンスして、ラマン測定前に窒素で乾燥させた。
【0086】
これらの工程のあと、試料をラマン測定法によって測定した。図10は種々のグラファイトの物質からのラマン信号の比較を示す。図10aは、HOPG(実線)、薄く剥離したHOPGマイクロピラー(破線)および剥離したグラフェン断片(点線)から測定したラマンシフトスペクトルを示す。直線のバックグラウンドは、全てのスペクトルから差し引き、スペクトルはD’ピークの強度によって規格化した。
【0087】
図10bは剥離したグラフェン断片の光学顕微鏡画像であり、図10cは同じグラフェン断片から測定したD’ピークの強度マップである。図10dは剥離したHOPGピラーの光学顕微鏡画像であり、図10eは同じピラーから測定したD’ピークの強度マップである。
【0088】
図10の例では、532nmレーザーの共焦点ラマン顕微鏡法でのラマン測定のために、タンパク質剥離グラフェン断片およびHOPGピラーを、厚さ90nmのSiO2表面を有するSiウェーハ上に固定した。断片周辺のエリアスキャンを行い、対象の断片の寸法および構成を分析した。選択したスペクトルにピークフィットを行い、グラフェンD’ピークの組成、および、ラマンシフトスペクトルのグラフェンD’ピークとGピークとの強度比率に基づいて、グラフフェン断片の分類を行った(更なる情報のために参照:Graf Dら(2007)Spatially resolved Raman spectroscopy of single- and few- layer grapheme. Nano Lett 7:238-242)
【0089】
異なる厚みのグラフェンシートは、それらのラマンスペクトルで特有のはっきりした特長を有するので、特定の断片中の層の数が明らかになる(更なる情報のために参照:Ferrari AC, ら(2006)Raman spectrum of graphene and grapheme layers. Phys Rev Lett 97: 187401/1-187401/4)。図10は、異なる厚みのバルクグラファイトおよびグラフェン試料のラマンスペクトルの比較を示す。試料は、高配向の熱分解グラファイト(HOPG)、タンパク質剥離グラフェンシート、および数層のグラフェンからなるタンパク質剥離HOPGマイクロピラーである。図10bは光学画像であり、剥離したグラフェン断片および剥離した薄いHOPGマイクロピラー用のグラフェンスペクトラムD’ピークのラマン強度プロットを示す。HOPGマイクロピラーはラマンスペクトル中のHOPGと同じ特性を有する。剥離した小さな断片のラマンスペクトラムはグラファイトよりもグラフェンのラマンスペクトラムにより似ている。一番薄い剥離したグラフェン試料中のグラフェン層の数は、GピークとD’ピークとの相対強度およびGピークの位置を比較することによってラマンスペクトラムから決定した。結果は、観測したグラフェン断片が2層または単層のグラフェンであった。
【0090】
(電子デバイス)
上述のプレートレットはさまざまな態様で電子デバイスおよびセンサーに活用できる。図11から13は、3つのかような実施形態を示す。
【0091】
図11は、実施形態によるバイオFETの略横断面図である。図11のデバイスは基板10の上に製造され、基板は例えばシリコン基板としうる。図11の実施形態において、基板10はp型基板である。図11のデバイスは誘電体層13も含み、これは例えばSiO2としうる。誘電体層13は、プレートレットに対して良好な接着を呈するように選択することができる。誘電体層13の表面上で、デバイスは図3のプレートレットなどのプレートレットを含む。従って、誘電体層13の表面上にタンパク質層14があり、タンパク質層4の表面上にグラフェン層がある。例えば、タンパク質層4をグラファイトスタンプの表面またはグラフェンを含む他の表面上に形成し、その後既述の技術を用いて、タンパク質層4を該タンパク質層4の表面上のグラフェン層3と共に所望の部位にスタンプするかまたは移動させ、かような構造を作ることができる。ここで所望の部位とは、指定した場所での誘電体層13の表面であり、ターゲットエリアと呼ぶ。図11のデバイスで、グラフェン層3はバイオFETのチャネルを形成する。チャネルは、例えば蒸着によって好適な金属で作ることができるソース電極14およびドレイン電極15に接続する。
【0092】
図12の装置は、図11の装置に基づくが、グラフェン層3の表面上に機能性タンパク質11の更なる層を有する。かような機能性タンパク質11の層は、例えば、上述のように、適切な溶液中にデバイスを浸すことによって作ることができる。図12の装置は、基板10に接続したバイアス電圧の方法により適切にバイアスをかけることができる。そして、チャネル中の電流は、グラフェン層3表面上の機能性タンパク質11の層の偏光状態、または機能性タンパク質11の層の中での電荷の他の変化によって変化する。
【0093】
図13は、一実施形態によるバイオFETの略横断面図であり、ここで図12の構造は基板10の表面上に作られ、基板10は、デバイスの位置での非ドープまたは弱いn型シリコン基板中に製造したp型ウェル17を有する。図13の装置はまたウェル17に接続するゲート電極16を有する。ゲート電極16は例えば蒸着によって好適な金属で作ることができる。
【0094】
従って、上述の実施形態および実施例は顕著な利益を提供する。例えば、グラフェン剥離の迅速な1ステップ法を構築することができる。さらに、実施形態によれば、強い化学物質または高温を必要としないため、安全な方法を提供することができる。実施形態は、有害なナノ粉末も必要ではないため、溶液分散中の材料を安全かつ容易に取り扱うことができる。電子構造および特徴を妨げることなく、グラフェンを機能化させることができる実施形態もある。かような実施形態で、幅広い種類の機能性が得られる。さらに、生体分子認識およびシリコン技術を組合せることができる実施形態がある。また、生物的材料と電気的材料との界面を作製することができ、いくつかの実施形態により、所望の場所でタンパク質を自己集合させることにより用いられるデバイスを得ることもできる。
【0095】
上記の記載は発明を例示するのみであり、請求項に規定する保護範囲を制限するものではない。請求項はこれらの均等物を含むものであり、文字通りに解釈するものではない。
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、グラフェン材料を製造する方法に関する。本発明はグラフェンを含有する材料にも関する。さらに、本発明はかようなグラフェン含有材料の応用にも関する。1つの特定の応用分野は電子デバイスである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンの特性および製造方法は、数年にわたる広範な研究がなされている。グラフェンは、例えば、高い電荷キャリア移動度などの特有の電気的特性を有しており、この特性は根本的に電子機器への応用に有望である。グラフェンは力学的特性も期待され、従ってその強度特性または潤滑特性に基づいていくつかの応用も提案されている。グラフェンの粒子は、通常グラフェンプレートレットといい、それらはたとえば他の材料または電子デバイスの一部としても使用されうる。
【0003】
グラフェン材料のいくつかの製造方法は従来提案されてきた。グラフェンは自然界ではグラファイト中に存在するので、グラファイトから剥離することによってグラフェンを製造する方法がいくつか提案されている。また、表面上へグラフェンを堆積する製造方法も提案されている。
【0004】
特許文献1は、マトリクス材に分散したナノスケールのグラフェンプレートレットを含むナノ複合材料を開示している。各プレートレットは1シートのグラファイト面または多数シートのグラファイト面を含む。該公報によれば、プレートレットは燃料電池およびバッテリー応用に有用であり、自動車の摩擦板および航空機のブレーキ部品にも使用することができる。
【0005】
特許文献2は、ナノスケールのグラフェンプレートレットの不織集合体を含むナノスケールのグラフェン品を開示している。該公報によれば、マイクロ電子デバイス中の温度管理、および、落雷に対する航空機外板における電流散逸に使用することができる。
【0006】
非特許文献1は、スタンプ上のピラーを用いてグラファイトから孤立したグラフェンを切断、剥離し、そして転写印刷を用いて、そのグラフェンをスタンプから基板上のデバイス活性領域に位置させる方法を開示している。該公報は、この印刷されたグラフェンから製造したトランジスタも開示している。
【0007】
特許文献3および特許文献4は、グラファイト層間化合物を提供し、これは層状グラファイトを含み、この層状グラファイトの層間空間には膨張可能な種が存在する。また、この方法はグラファイト層間化合物を剥離温度に浸して、層状グラファイトを少なくとも部分的に剥離する工程を含む。
【0008】
特許文献5は、層状物質(例えば、グラファイトおよび酸化グラファイトなど)を剥離して、ナノスケールプレートレットを製造する方法を開示する。この方法は、グラファイト粒子または酸化グラファイト粒子を界面活性剤または分散剤を含む液体媒質中に分散させて、懸濁液またはスラリーを得る工程と、この懸濁液またはスラリーに超音波を照射して(超音波処理)、分離されたナノスケールのプレートレットを製造する工程と、を含む。
【0009】
特許文献6は単結晶基板上にエピタキシャル成長させたグラフェン層を開示する。製造したデバイスは、グラフェンに対して十分に格子整合した単結晶領域を有する。グラフェン層は、例えば分子線エピタキシャル(MBE)によって格子整合領域上に堆積させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0158618(A1)号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0248275(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0206124(A1)号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/0258359(A1)号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0279756(A1)号明細書
【特許文献6】国際公開第2007/097938(A1)号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Liang,Xら,Graphenee Transistors Fabricated via Transfer-Printing in Device Active Areas on Large Wafer, Nano Letters, Vol.7, No.12, 3840-3844, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
様々なデバイスおよび材料中の成分としてグラフェンが大きな潜在性を有することを考慮して、新たな製造方法とそれに伴う利点に対する必要性は今後も高い。
【0013】
よって、本発明は、グラフェン含有プレートレットの新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、製造方法は、タンパク質での処理により、表面からのグラフェン層の剥離を促進する工程を含む。
【0015】
一実施形態では、前記タンパク質はグラフェンの表面の上でこの表面に付着する層を形成する。
【0016】
そして、本発明の他の一態様は、グラフェン層と、該グラフェン層の表面上のタンパク質層とを有するプレートレットを提供する。
【0017】
よって、本発明はグラフェン含有プレートレットの新たな製造方法と、全く新たなグラフェン含有プレートレットを提供する。
【0018】
本発明はまた、いくつかの特定の応用の観点から少なくとも、公知の方法およびプレートレットを超える特定の利点を提供できる、いくつかの実施形態を有する。
【0019】
例えば、本製造方法のいくつかの実施形態は、100℃より低い温度でも剥離が可能な程度まで、グラフェンの剥離を促進する。グラフェンは高温中では酸化または他のダメージに脆弱であるから、低い温度を用いた方法によれば、製造したグラフェンをより高品質とすることができる。より低い温度は操作職員に対してもより安全であり、製造装置の設計に対してそれほど厳しい要求も必要とされない。
【0020】
いくつかの実施形態は、グラフェン層表面上の安定なタンパク質層を提供する。これらの実施形態では、グラフェンはタンパク質によって支持または保護されており、これはいくつかの応用で有益である。
【0021】
実施形態において、グラフェン層の表面が機能性タンパク質を有しており、タンパク質は、例えば、プレートレットを所望の部位に配置するために、または、グラフェンを電気的に外部回路に接続するために使用できる。これらの実施形態のいくつかでは、特定かつ所望の位置にこのナノマテリアルを配置するために、生体分子認識の使用もできる。そして、プレートレットで電子デバイスの構造部分を形成する実施形態もある。
【0022】
ナノスケールプレートレットをナノコンポジット材料中のフィラー材として使用する応用では、フィラーのコストは非常に重要な要因になりうる。よって、カーボンナノ材料の効率的な加工・製造方法が必要である。このため、本製造工程はエネルギーにおいて効率的である、すなわち、製造工程が高温またはエネルギーの投入を必要としないため、有益である。また、本製造工程は水などの溶媒を用いて実行でき、結果、環境負荷を減少させ、コストを低減させることができることも有利である。また、本製造方法では、生物工学的手法によって製造するタンパク質のように、再生可能な自然資源から使用する材料を製造できることも利点である。本発明はまた、これらの必要性を満たすことができるこのような実施形態を提供する。
【0023】
本発明はまた、関連した利点を提供するいくつかの他の実施形態も有する。
【0024】
本発明およびこの利点のよりよい理解のために、例を用いて、また以下の図を参照して本発明を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一実施形態で用いられる1つのタンパク質、すなわちHFBIタンパク質の構造を示す。
【図2】一実施形態に従うグラフェン層の表面上に接着したタンパク質の概要図である。
【図3】一実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図4】別の実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図5】第3の実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図6】第4の実施形態に従うプレートレットの横断面を表す概要図である。
【図7】一実施形態に従うグラフェン片のTEM画像を示す。
【図8】図7のグラフェン片から測定した回析パターンを示す。
【図9】図7のグラフェン片から測定した回析ピークの強度を示す。
【図10】一つの実験における、タンパク質剥離グラフェン断片およびHOPGピラーを示す。
【図11】一実施形態による電気デバイスの模式横断面図を表す。
【図12】別の実施形態による電気デバイスの模式横断面図を表す。
【図13】更なる実施形態による電気デバイスの模式横断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(定義)
グラフェンとは、sp2結合炭素原子の1原子厚平面シートのみから実質的になる材料を一般的に指す。グラフェンには、炭素原子がハチの巣状の結晶格子に高密度に充填されている。
【0027】
グラフェンシートは、グラフェンと同様の意味を有するが、グラフェン材料のシート状の性質をいう場合、特に厚みを表す場合に使用される。
【0028】
グラフェン層は、グラフェンを含み、本件の応用に関係のあるグラフェンの機能的特性を示す材料である。よって、グラフェン層は少なくとも1グラフェンシートを有する。グラフェン層は、互いに重なり合って複数のグラフェンシートを含んでもよく、従っていくらかの原子層の厚みを有しても良い。
【0029】
グラフェンの層はグラフェン層と同じである。
【0030】
プレートレットは、一般的に、典型的に小さい寸法および小さい厚みの平面フィルム様の物である。寸法および厚みは、例えば、マイクロメーターまたはナノメーター程度である。
【0031】
タンパク質は、ペプチド結合により結合されたアミノ酸の鎖を含むポリペプチド分子である。
【0032】
(発明の実施形態)
実施形態によれば、グラフェン含有プレートレットは表面からグラフェン層を剥離することによって製造する。その表面は剥離すべきグラフェン層を含む任意の表面でよい。表面は、例えば、グラファイトの物体または粒子の表面でもよい。表面が高配向のグラファイト体の一部を形成する場合、その表面は剥離されるグラフェン層を繰り返し製造することができる。また、高配向のグラファイトではドメインサイズが一般的に大きいので、製造されるグラフェン含有プレートレットの寸法または範囲は比較的大きい。最高品質の高配向熱分解性グラファイト(HOPG)を使用する場合(ZYAグレード)、ドメインサイズは最大10μm2であり、従って、これに対応する寸法範囲のグラフェン含有プレートレットの製造ができる。
【0033】
表面は通常のグラファイトまたはグラファイト粉によって形成されても良い。かようなグラファイト粒子を用いる実施形態はより安価なプレートレットを提供でき、これはグラフェンのドメインサイズおよび質があまり重要でない場合の実施形態で使用できる。かような実施形態に期待する応用は、例えば補強材としてなど、複合材料中でのプレートレットの使用を含む。
【0034】
表面は、非炭素の表面で、その上に一層のグラフェン層または複数層のグラフェン層が堆積法によって製造された表面でもよい。CVD、ALD、MBEおよび当業界で公知の他の方法を使用できる。例えば、特許文献6は単結晶基板上にエピタキシャル成長させたグラフェン層を開示する。
【0035】
つまり、一層又は複数層のグラフェン層が剥離される表面は、少なくとも1原子厚のグラフェンシートを含むが、複数のグラフェンシートによって形成されてもよくまたはグラファイト体によって形成されてもよい。
【0036】
本実施形態において、剥離はタンパク質で処理することによって促進される。処理は、タンパク質と表面とを任意の好適な方法で接触させる工程を含んでもよい。
【0037】
タンパク質は、例えば菌類由来の天然のタンパク質でもよいし、または、グラフェン剥離の促進という所望の効果を得たタンパク質に機能的に等価で、修飾されまたは合成して製造された、任意のポリペプチドでもよい。タンパク質は融合タンパク質でもよい。タンパク質は、該タンパク質に付着した別の1つ以上の部分を有する、より大きい構造的ユニットを含んでもよい。
【0038】
タンパク質の証明された機能は、グラフェンとタンパク質との間の接着力に基づくと考えられる。しかしながら、その正確なメカニズムは未知であり、上記仮定は後の研究において正確ではないと証明される可能性はある。しかしながら、上記の仮説に基づくと、接着力によって、最外側の1枚以上のグラフェンシートをそれらが剥離される表面から分離できる傾向がある。タンパク質とグラフェン層の表面との相互作用によって、グラフェン表面上でのタンパク質の堅い結合がなくても、剥離が促進できると考えられる。タンパク質はまた、典型的に、グラフェンシートの厚みと比較して大きいため、グラフェンシートに効果的に力を与えることができる。かような力はタンパク質に作用し、そのためグラフェンにも作用するが、例えば、音響的または力学的なエネルギーによって誘導されうる。音響的または力学的なエネルギーの例として、超音波エネルギーや、液体流入中における振動および混合により引き起こるような動作に存在するエネルギーが挙げられる。従って、剥離を促進するため、超音波処理すなわち、表面に超音波を照射することができる。
【0039】
一実施形態によれば、タンパク質は、他のタンパク質部位よりも疎水性の部分を含有するタンパク質を含む。別の実施形態では、タンパク質はグラフェンの表面に接着することのできる疎水性部分を含有するタンパク質である。更なる一実施形態によれば、タンパク質は両親媒性のタンパク質を含む。かような疎水性および両親媒性タンパク質の例は、ハイドロフォビンを含む。またかような特性を示す他のタンパク質でもよい。かようなタンパク質はrodlin、chaplin、repellant、およびSapBを含み、これらは例えば、Elliot,M.およびTalbot,N.Jによる、Building filaments in the air: aerial morphogenesis in bacteria and Fungi, Current opinion in microbiology 2004,7:594-601、あるいはKershaw,MおよびTalbot,N.J.による、Hydrophobins and Repellents: Proteins with Fundamental Roles in Fungal Morphogenesis,Fungal Genetics and Biology, 23,18-33,1998などに記載されている。
【0040】
特定のいくつかの実施形態では、タンパク質はハイドロフォビンを含む。ハイドロフォビンの例として、HFBI、HFBII、HFBIII、SRHI、SC3、HGFI、および既述のポリペプチドの特性または配列に類似性を有する他のポリペプチドが挙げられる。ハイドロフォビンの例としては、従って、対応する特性を有する他の類似のポリペプチドも含む。
【0041】
ハイドロフォビンの一群は、Cys残基の含有率および順序によって、アミノ酸配列から同定されるハイドロフォビンであり、それはY-C(1)-X-C(2)-C(3)-X-C(4)-X-C(5)-XC(6)-C(7)-X-C(8)-Yの形態をとり、ここでXは1つ以上のアミノ酸残基の配列を意味するが、典型的には100未満のアミノ酸残基である。Yは、任意の数のアミノ酸残基からなる長さが様々な配列であってもよく、または全く配列がなくてもよいことを意味する。CはCys残基を意味し、C(2)およびC(3)は典型的に配列中で互いに連結し、C(6)およびC(7)も典型的に配列中で互いに直接連結する。
【0042】
一実施形態によれば、ハイドロフォビンは、例えば、既述のハイドロフォビンであるHFBI、HFBII、HFBIII、SRHI、SC3およびHGFIに、アミノ酸配列レベルで少なくとも40%の類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペピチドを含む。類似性のレベルはもちろんより高くてもよく、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、または少なくとも90%でもよい。
【0043】
ハイドロフォビン、その構造および特性の典型例は、LinderらによるHydrophobins:the protein-amphiphiles of filamentous fungi, FEMS Microbiology Reviews,29,877-896,2005に記載されている。
【0044】
本来は、ハイドロフォビンは、糸状菌によって製造される両親媒性タンパク質として発見された。しかしながら、組み換えDNA技術によって、バクテリア、始原細菌、酵母、植物細胞または他の高等真核生物などの、様々な他の生物中で製造することができる。ハイドロフォビンは生細胞を使用しなくても製造することができ、合成か無細胞製造法でも製造することができる。接着特性に加えて、これらのハイドロフォビンは、いくつかの実施形態において活用することができる有益な特性をさらに有する。例えば、このタイプのハイドロフォビンは、典型的にタンパク質膜を形成することができ、これは例えば剥離したグラフェンを支持するために使用することができる。形成されたタンパク質膜はいくつかの実施形態において弾性フィルムでもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質膜は、タンパク質の秩序ネットワークによって形成することができ、タンパク質の自己組織化方法によっても形成することができる。いくつかの実施形態において、かようなタンパク質の秩序ネットワークは単分子層であり、すわなち、実質的にタンパク質を一層のみ有する。
【0045】
いくつかのハイドロフォビンのフィルム形成特性およびそれらの表面への接着については、Szilvay,G.R.;Paananen,A;Laurikainen,K.;Vuorimaa,E.;Lemmetyinen,H.;Peltonen,J. Linder,M.B.による,Self-assembled hydrophobin protein films at the air-water interface: Structural and molecular engineering Biochemistry,2007,46,234-2354の刊行物に記載されている。
【0046】
図1は、一実施形態によって使用しうるHFBIタンパク質の構造を示す。
【0047】
図2は、グラフェンシート1と、最外側のグラフェンシート1の表面に接着したタンパク質2とを表す概略図である。
【0048】
実施形態のタンパク質は、少なくとも2つの機能部位を有する融合タンパク質を含んでもよい。機能部位の一つはグラフェンに接着する能力を有するように選択することができる一方、他の少なくとも一つの部位は他の所望の機能によって選択できる。かような他の所望の機能は例えば溶解性、電気的特性、力学的特性、化学的特性、および/または接着特性に関する。
【0049】
一実施形態によれば、融合タンパク質中の少なくとも1つの機能部位は、ハイドロフォビンまたはハイドロフォビン様の分子によって形成される。かような融合タンパク質の例として、溶解性、荷電性、疎水性、化学反応性、酵素作用性、伝導性または結合機能性などのいくつかの機能性がハイドロフォビンまたはハイドロフォビン様分子に加わっている分子が挙げられる。この機能群の追加は化学結合、酵素修飾、翻訳後の修飾、または組み換えDNA技術を用いることにより行うことができる。特定の実施形態において、NCysHFBIという融合タンパク質を用いることができる。このタンパク質変異形は更なるCys残基を有し、それに含まれるスルフヒドリル基を介して化学反応を起こす。
【0050】
応用の必要性によって、クラスIおよび/またはクラスIIハイドロフォビンを使用することができる。クラスIハイドロフォビンは典型的に不溶性の高凝集体を形成する一方、クラスIIメンバーの凝集体はより敏速に溶解する。この事実によって、各応用形態の必要に応じて適したタンパク質を選択することができる。
【0051】
クラスIIハイドロフォビンの例としては、Trichoderma reeseiから取得できる、HFBI、HFBIIおよびHFBIIIが含まれる。
【0052】
Trichoderma以外のハイドロフォビンの他の取得源として、例えば、Schizophyllum、Aspergillus、Fusarium、Cladosporium、およびAgaricusなどの全ての糸状菌を含む。さらなる取得源の例は、例えば、上記引用のLinderら(FEMS Microbiology reviews,2005)に記載されている。
【0053】
いくつかの実施形態では、タンパク質はグラフェン表面上に層を形成する。このように、グラフェンおよびタンパク質層を含むものを製造することができ、これは例えばグラフェンの支持体として使用できる。かようなものは、本明細書においてプレートレットと呼ぶ。
【0054】
タンパク質による表面処理は、例えば、タンパク質を含む溶液を製造して表面上にその溶液を塗ることにより行うことができる。表面は溶液中に浸す、または溶液と接触させることもできる。一実施形態では、溶液は水溶液であり、精製水またはpH若しくはイオン強度を制御するための物質を添加した水である。溶媒および非水性成分を溶液に加えることもできる。
【0055】
表面は、前記溶液なしでも、タンパク質によって処理することができる。例えば、まずタンパク質層を製造し、そして表面およびタンパク質層を互いに接触させる。かようなタンパク質層は、スタンプのような機械的物体の表面上に形成することができる。タンパク質層は流体と流体との界面でも形成することができ、例えば液体-液体、液体-固体、気体-固体または気体-液体の界面で形成することができる。例えば、まずタンパク質を含む液体を製造し、その後その液体と、空気または選択したプロセスガスなどの周囲の外気との界面でタンパク質を凝集させることができる。その後、タンパク質層はグラフェン表面と接触させ、または、タンパク質層をグラフェン表面に移すために使用する中間物質と接触させることができる。
【0056】
このように、方法の一実施形態は、タンパク質層を形成する工程と、形成したタンパク質層をグラフェンの表面と接触させて、表面上にタンパク質層を接着させる工程とを含む。この後必要に応じて、グラフェンが付着したタンパク質層を基板に対して押し付けて、基板上にグラフェンをスタンプすることができる。従って、形成したプレートレットを所望の標的位置に正確に載置することもでき、よって、例えばプレートレットをエレクトロニクスの応用に活用することができる。
【0057】
他の物体のスタンプによって、所望の形状でプレートレットを製造することもでき、その結果、所望のパターンのグラフェンを製造することができる。パターンは、グラフェンが剥離される表面自体をパターニングすることによって形成することもできる。
【0058】
上記記載の方法を用いて、グラフェン層と該グラフェン層の表面上のタンパク質層とを含むプレートレットを製造することができる。図3〜6は、かようなプレートレットの横断面を示す概要図である。
【0059】
図3のプレートレットは、グラフェン層3とグラフェン層3の表面上のタンパク質層4とからなる。グラフェン層3は、図2に示す複数のグラフェンシート1を含んでも良く、または1層のグラフェンシート1からなってもよい。タンパク質層4は少なくとも1層のタンパク質2を含む。かようなプレートレットは、上述のように例えば界面で剥離することによって形成することができる。
【0060】
図4のプレートレットは、グラフェン層3と、グラフェン層3の両主面上のタンパク質層4とを有する。タンパク質層4が十分に均一である場合、グラフェンはタンパク質層4によって実質的に十分保護されている。しかしながら、いくつかの実施形態において、タンパク質層4はグラフェン層3を露出させる穴または空隙を含んでもよい。かようなプレートレットは、例えば溶液中で剥離することによって生産され、この溶液中でグラフェン層3の他の主面がタンパク質と接触するようになる。
【0061】
図5のプレートレットは、互いに離間し、複数のタンパク質層4によって支持される複数のグラフェン層3の層構造を有する。かようなプレートレットは例えば、ハイドロフォビン、または、更なる機能を有するハイドロフォビン様タンパク質の結合により製造することができる。更なる機能は他のタンパク質と相互作用を形成することができるように選択し、他のタンパク質は例えば、他のハイドロフォビン、または、グラフェンシートに結合したハイドロフォビン様タンパク質である。このようにして、タンパク質を互いに結合させ、層状構造を形成する。
【0062】
図6のプレートレットは、タンパク質層4と、タンパク質層4の両主面上のグラフェン層3とを含む。かようなプレートレットは、例えば、ハイドロフォビンを結合し、または、更なる機能性を有するハイドロフォビン様タンパク質を結合することによって製造することができ、タンパク質の付着したグラフェンが複数層を形成する。後の段階で、露出したタンパク質層は除去することができる。
【0063】
上記からわかるように、タンパク質層4は、プレートレット中であっても必ずしも完全にグラフェン層3を覆う必要はない。従って、いくつかの実施形態ではなるべく多くの被覆が有利であるが、いくつかの他の実施形態ではタンパク質層4中にかなりの不規則性があってもよい。そして、上記からもわかるように、被覆度は製造方法のいくつかの実施形態において必ずしも重要ではない。これは、タンパク質が剥離を促進するためだけに使用されるが、支持機能は求められない場合である。
【0064】
いくつかの実施形態ではグラフェン層3が不規則でもよい。従って、プレートレット中のグラフェン層3は、厚みにおいてさまざまでもよく、いかなる個々のグラフェンシート1もまた均一な格子構造のより小さい領域を複数含んでも良い。
【0065】
プレートレットでは、グラフェン層の厚みは、例えば1〜10グラフェンシート1とすることができる。エレクトロニクス応用のほとんどにおいては、典型的な厚みは1〜5グラフェンシート1と考えられるが、既に述べたように、応用およびその要求は様々であり、プレートレットの特性はそれに従って適宜選択できる。
【0066】
プレートレットの特別な場合は、グラフェン層3が単層のグラフェンシート1からなるプレートレットである。かようなプレートレットは、図3〜6に示す任意の構成で製造することができる。
【0067】
一実施形態によれば、タンパク質層4はハイドロフォビンを含む。やはり、特別な場合はタンパク質層4が単層のハイドロフォビンであるプレートレットである。
【0068】
タンパク質層4は融合タンパク質を含んでもよく、または融合タンパク質によって単独で形成してもよい。さらに、単層のタンパク質層4は種々の融合タンパク質を含んでもよい。図4および図5のプレートレットで、タンパク質層4のうち一層のみが融合タンパク質を含んでもよい。
【0069】
タンパク質層4のタンパク質としては、製造方法の実施形態を説明するにあたり上述した、いかなるタンパク質も使用することができる。また、開示したタンパク質の組合せも、個々のプレートレットにおける単層のタンパク質層4中または複数のタンパク質層4中で、使用することができる。
【0070】
プレートレットの厚みは例えば50nmより小さくてもよい。個別のタンパク質層4の厚みは例えば1〜10nmの間の範囲でもよい。
【実施例】
【0071】
タンパク質の吸着によってグラファイトからグラフェンを剥離する種々の方法を、特にハイドロフォビンを用いて試験した。試験中、その方法が、例えば温度T<100℃および中性pH付近の穏やかな条件であっても、1〜10グラフェンシートの範囲の様々な厚みを有するグラフェンの薄い断片を分離する、新しい効果的な方法を提供することができることがわかった。
【0072】
試験した方法の1つは、野生型タンパク質または機能性融合タンパク質の存在下でのグラファイトの超音波処理によってグラフェンの安定的分散を形成する工程と、その生成物を用いて、ナノエレクトロニクス成分中で基板材料に付着可能な生体分子を自己集合させる工程と、を含む。
【0073】
また、タンパク質被膜間の機能性または他の相互作用を介して多層間を結合することによって、グラフェン材料のより大きな領域を形成することができる。
【0074】
ハイドロフォビンの親水性体中に埋め込まれた小さな疎水性のパッチが、親水性および疎水性材料の界面で自己集合を引き起こす。実施例の1つで使用する、クラスIIハイドロフォビンHFBIの構造は、図1に記載する。界面での自己集合の好ましい例は、水と空気との界面でのHFBIの集合であり、結晶格子を形成することを示す。この両親媒性の挙動の他に、疎水性のパッチが固体疎水性材料に結合する強い傾向がある。従って、この実施例に使用するハイドロフォビンの層は、必要に応じて移動され、基板上に結合される。ハイドロフォビンの特に興味深い別の特徴は、界面の単分子層の形態としてのタンパク質間の強い面内相互作用である。HFBIの強い単分子層膜は、厚みわずか数nmでもよいが、エレクトロニクスにおいて可能性のある材料として提案されており、エレクトロニクスに使用される従来型の物質と共に使用する場合に興味深い挙動を示す。
【0075】
ハイドロフィビンと疎水性表面との相互作用は巨視的表面、微視的表面、さらにナノスケールの表面上でさえ研究されている。タンパク質層の結晶性は全ての場合で検証できたわけではないが、疎水性表面への選択的結合の証拠は明らかであった。実験では、疎水性の自己集合は、微視的レベルでの表面領域をもち、ナノスケールの厚みを有する二次元材料として広がった。
【0076】
いくつかの試験に基づくと、ハイドロフォビンでの処理後にグラファイトのような疎水性材料の湿潤性が極端に変化することが、グラフェンの剥離を導く主要な要因のひとつと考えられた。溶液中のグラファイトからグラフェンを剥離する初期の試みにおいて、グラフェン-水界面での表面エネルギーは、溶媒によって低下し、または、第3相として系に界面活性剤を加えることによって低下させ、そして溶液へのグラフェンシートの分散を促進させた。しかしながら、グラフェン断片の表面での高配向タンパク質結晶の構造は、さらに分散を安定にすることができると考えられる。
【0077】
剥離した断片の安定化の他、断片の分離はグラフェンの剥離において役割を担うと考えられている。正確なメカニズムはまだわかっていないが、比較的小さいサイズのハイドロフォビン分子およびこのグラファイト面に対する高い親和性もまた関連要因であると思われる。グラフェン表面上に親水性タンパク質層を有することのエネルギー上の利点は非常に高く、それは、この利点がグラファイト中のグラフェンシートの積層を超えることが証明されたからである。グラフェンの剥離は、超音波処理によって促進され、それはグラフェンシートを破損すると考えられた。しかしながら、発明者らの経験上、グラフェンは数平方ミクロンの一片となり、電子デバイスの部品としては十分な大きさとなる。
【0078】
(図7〜9の実施例)
最高品質(ZYAグレード、10μm2までのドメインサイズ)の高配向の熱分解グラファイト(HOPG)もしくはキッシュグラファイトの小さい断片(<1mg)、pH8の10mMリン酸ナトリウム緩衝溶液中の0.02〜0.026mMタンパク質(HFBI野生型または融合タンパク質NCysHFBI)、または脱イオン水を含む0.5〜1.0mlの溶液に対して先端ソニケーター中で超音波を照射することによって、グラフェンの剥離を行った。プローブの大きさは26μmに設定した。溶液の温度は、超音波処置の間氷浴中に試料を保持することによって制御した。試料は合計で10分間超音波処理下にさらしたが、溶液の沸騰を防ぐため、超音波処理の小中止を約1分間隔でし続けた。従って、超音波処理温度は0〜100℃の間に保たれた。超音波処理の後、試料を500rpmで15分間遠心分離して、グラファイトのより重い断片の堆積を促進した。上澄みはさらなる分析に使用した。
【0079】
実施例において使用したHFBIおよびNCysHFBIの配列は次の通りである:
NCysHFBI
HFBI
【0080】
穴開きカーボングリッド上に未使用の上澄み20μlをピペットで2滴とって、透過型電子顕微鏡(TEM)用のグラフェンの試料を調製した。グラフェンシートの断片のTEM画像を図7に示す。試料はフィルター紙の上にのせ、フィルターに余分な溶液を吸収させた。グラフェン層と、その種々の部分から測定した回析パターンの例を、図8に示す。大きな折りたたまれたグラフェンの断片を種々の位置で測定した電子回析パターンから、単層のグラフェンシートの証拠が読み取れる。図9は、スポットi3で測定した回析ピークの強度を示し、これはミラー‐ブラヴェ指数{1100}および{2110}で表示できるピークを示す。{1100}と{2110}のピーク強度の比率は、1より大きい値であり、これは、計算によると、グラフェンの単層シートの電子回析と一致する。サイズ範囲が同じで同様の特性の部分が、サンプル上の全てに認められ、グラフェン剥離の効果的な方法であることを示した。また、複数層のグラフェンおよびグラファイトからなる部分が、ある程度存在した。
【0081】
ハイドロフォビン部分と、生体分子認識能または他の結合能を有する官能基を有する別の部分とを含む、機能性融合タンパク質を選択することにより、選択した機能性に親和性を有する表面上にグラフェンシートを集めることができる。この方法によれば、選択した機能の自己集合を活用して、例えばパターン化基板の上にグラフェンシートを移動させることができる。
【0082】
(図10の実施例)
キッシュグラファイトおよびHOPGピラーからのグラフェン剥離もまた、実験によって試験した。グラファイト片およびハイドロフォビンタンパク質を水溶液中で40分間、超音波浴(Branson,Bransonic 1510,周波数40kHz)で超音波照射して、グラフェンおよび薄いグラファイトシートの剥離を行った。使用したタンパク質は、野生型HFBIおよびその融合(NCysHBFI)2二両体およびHFBI-ZEであった。超純水(Millipore)に0.3〜1ml容積のタンパク質が溶解した、1.0〜3mg/ml溶液中で剥離を行った。化学的に精製したキッシュグラファイトは、タンパク質溶液中に入れて上記のように処理した顆粒として加えた。HOPGから製造した、リソグラフィー処理したウェーハを、マイクロピラーおよび支持グラファイトウェーハを含むプレートレットとして溶液中に浸し、超音波浴中にて超音波処理した。
【0083】
剥離後、剥離物質の遠心分離によって、過剰なタンパク質を溶液から除去した。まず、処理に影響されなかったグラファイトの大きい断片は、ミニ遠心機(National Labnet Co.,Mini centrifuge C-1200)で穏やかな遠心分離によって、分散した物質から分離した。この後、上澄みは室温で14000rpm(Eppendorf,Centrifuge 5417R)で5分間遠心分離し、その後溶液は未使用の超純水に置換した。この洗浄を反復して3回行った。
【0084】
銀エポキシ樹脂を有するSi基板に小さい断片上に切断した後に接着した高配向熱分解グラファイト(HOPG)(SPIサプライヤー、SPI-1グレード)から、HOPGマイクロピラーを調製した。PECVDで120nmの厚みのSi3N4層を200℃で堆積させた。ネガティブレジスト(Micro Resist Technology, ma-N1410)による光リソグラフィーおよび現像(ma-D533s)は、BHF溶液による窒化物層のウェットエッチング後に行った。レジストマスクは、アセトンおよびイソプロパノールで除去した。残留したSi3N4構造は、HOPGのO2ICPエッチパターニング中にハードマスクとなった。最終的に、窒化物マスクはHF緩衝溶液中で除去した。
【0085】
そして、試料はラマン研究用に調製した。まず、剥離したグラフェン溶液のpHを、pH3のマッキルヴェイン緩衝液10mMを加えて調整した。酸化シリコンウェーハの断片を溶液に17時間浸漬し、その間グラフェンの小さい断片が反対の電荷をもっているためシリコン酸化物に付着した。表面は超純水でリンスして、ラマン測定前に窒素で乾燥させた。
【0086】
これらの工程のあと、試料をラマン測定法によって測定した。図10は種々のグラファイトの物質からのラマン信号の比較を示す。図10aは、HOPG(実線)、薄く剥離したHOPGマイクロピラー(破線)および剥離したグラフェン断片(点線)から測定したラマンシフトスペクトルを示す。直線のバックグラウンドは、全てのスペクトルから差し引き、スペクトルはD’ピークの強度によって規格化した。
【0087】
図10bは剥離したグラフェン断片の光学顕微鏡画像であり、図10cは同じグラフェン断片から測定したD’ピークの強度マップである。図10dは剥離したHOPGピラーの光学顕微鏡画像であり、図10eは同じピラーから測定したD’ピークの強度マップである。
【0088】
図10の例では、532nmレーザーの共焦点ラマン顕微鏡法でのラマン測定のために、タンパク質剥離グラフェン断片およびHOPGピラーを、厚さ90nmのSiO2表面を有するSiウェーハ上に固定した。断片周辺のエリアスキャンを行い、対象の断片の寸法および構成を分析した。選択したスペクトルにピークフィットを行い、グラフェンD’ピークの組成、および、ラマンシフトスペクトルのグラフェンD’ピークとGピークとの強度比率に基づいて、グラフフェン断片の分類を行った(更なる情報のために参照:Graf Dら(2007)Spatially resolved Raman spectroscopy of single- and few- layer grapheme. Nano Lett 7:238-242)
【0089】
異なる厚みのグラフェンシートは、それらのラマンスペクトルで特有のはっきりした特長を有するので、特定の断片中の層の数が明らかになる(更なる情報のために参照:Ferrari AC, ら(2006)Raman spectrum of graphene and grapheme layers. Phys Rev Lett 97: 187401/1-187401/4)。図10は、異なる厚みのバルクグラファイトおよびグラフェン試料のラマンスペクトルの比較を示す。試料は、高配向の熱分解グラファイト(HOPG)、タンパク質剥離グラフェンシート、および数層のグラフェンからなるタンパク質剥離HOPGマイクロピラーである。図10bは光学画像であり、剥離したグラフェン断片および剥離した薄いHOPGマイクロピラー用のグラフェンスペクトラムD’ピークのラマン強度プロットを示す。HOPGマイクロピラーはラマンスペクトル中のHOPGと同じ特性を有する。剥離した小さな断片のラマンスペクトラムはグラファイトよりもグラフェンのラマンスペクトラムにより似ている。一番薄い剥離したグラフェン試料中のグラフェン層の数は、GピークとD’ピークとの相対強度およびGピークの位置を比較することによってラマンスペクトラムから決定した。結果は、観測したグラフェン断片が2層または単層のグラフェンであった。
【0090】
(電子デバイス)
上述のプレートレットはさまざまな態様で電子デバイスおよびセンサーに活用できる。図11から13は、3つのかような実施形態を示す。
【0091】
図11は、実施形態によるバイオFETの略横断面図である。図11のデバイスは基板10の上に製造され、基板は例えばシリコン基板としうる。図11の実施形態において、基板10はp型基板である。図11のデバイスは誘電体層13も含み、これは例えばSiO2としうる。誘電体層13は、プレートレットに対して良好な接着を呈するように選択することができる。誘電体層13の表面上で、デバイスは図3のプレートレットなどのプレートレットを含む。従って、誘電体層13の表面上にタンパク質層14があり、タンパク質層4の表面上にグラフェン層がある。例えば、タンパク質層4をグラファイトスタンプの表面またはグラフェンを含む他の表面上に形成し、その後既述の技術を用いて、タンパク質層4を該タンパク質層4の表面上のグラフェン層3と共に所望の部位にスタンプするかまたは移動させ、かような構造を作ることができる。ここで所望の部位とは、指定した場所での誘電体層13の表面であり、ターゲットエリアと呼ぶ。図11のデバイスで、グラフェン層3はバイオFETのチャネルを形成する。チャネルは、例えば蒸着によって好適な金属で作ることができるソース電極14およびドレイン電極15に接続する。
【0092】
図12の装置は、図11の装置に基づくが、グラフェン層3の表面上に機能性タンパク質11の更なる層を有する。かような機能性タンパク質11の層は、例えば、上述のように、適切な溶液中にデバイスを浸すことによって作ることができる。図12の装置は、基板10に接続したバイアス電圧の方法により適切にバイアスをかけることができる。そして、チャネル中の電流は、グラフェン層3表面上の機能性タンパク質11の層の偏光状態、または機能性タンパク質11の層の中での電荷の他の変化によって変化する。
【0093】
図13は、一実施形態によるバイオFETの略横断面図であり、ここで図12の構造は基板10の表面上に作られ、基板10は、デバイスの位置での非ドープまたは弱いn型シリコン基板中に製造したp型ウェル17を有する。図13の装置はまたウェル17に接続するゲート電極16を有する。ゲート電極16は例えば蒸着によって好適な金属で作ることができる。
【0094】
従って、上述の実施形態および実施例は顕著な利益を提供する。例えば、グラフェン剥離の迅速な1ステップ法を構築することができる。さらに、実施形態によれば、強い化学物質または高温を必要としないため、安全な方法を提供することができる。実施形態は、有害なナノ粉末も必要ではないため、溶液分散中の材料を安全かつ容易に取り扱うことができる。電子構造および特徴を妨げることなく、グラフェンを機能化させることができる実施形態もある。かような実施形態で、幅広い種類の機能性が得られる。さらに、生体分子認識およびシリコン技術を組合せることができる実施形態がある。また、生物的材料と電気的材料との界面を作製することができ、いくつかの実施形態により、所望の場所でタンパク質を自己集合させることにより用いられるデバイスを得ることもできる。
【0095】
上記の記載は発明を例示するのみであり、請求項に規定する保護範囲を制限するものではない。請求項はこれらの均等物を含むものであり、文字通りに解釈するものではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面からグラフェン層を剥離してグラフェン含有プレートレットを製造する方法であって、タンパク質で処理をすることによって剥離を促進することを特徴とする、グラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質が両親媒性タンパク質を含む、請求項1に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質はハイドロフォビンを含む、請求項1または2に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項4】
前記タンパク質が融合タンパク質を含み、該融合たんぱく質は少なくとも2つの機能部位を含み、該機能部位の少なくとも1つはハイドロフォビンによって形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項5】
前記ハイドロフォビンはクラスIIハイドロフォビンである、請求項3または4に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項6】
前記ハイドロフォビンはTrichoderma reesei由来である、請求項3〜5のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項7】
前記タンパク質は、HFBIおよび融合タンパク質NCysHFBIの少なくとも1つを含む、請求項3〜6のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項8】
前記タンパク質は前記表面上に層を形成する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項9】
前記処理は、前記タンパク質を含む溶液中に前記表面を浸漬することを含む、請求項1〜8に記載のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項10】
前記処理は、
前記タンパク質の層を形成する工程と、
形成した前記タンパク質の層を前記表面に接触させて、前記表面に前記タンパク質の層を接着させる工程と、
基板に対して前記表面上の前記タンパク質の層を押し付けて、前記基板上に前記グラフェンをスタンプする工程と、を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項11】
前記表面に超音波を照射して剥離を促進する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項12】
前記表面は、高配向のグラファイト体の表面である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項13】
前記表面がパターン化された面を含み、所定形状のプレートレットを製造する、請求項1〜12のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項14】
前記タンパク質は、グラフェンと接着可能な疎水性部分をそれぞれ有する複数のタンパク質を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項15】
前記タンパク質は、互いに接着してタンパク質のネットワークを形成可能な複数のタンパク質を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項16】
グラフェン層を有するプレートレットであって、前記グラフェン層の表面上のタンパク質層を特徴とするプレートレット。
【請求項17】
前記グラフェン層の厚みが1〜10グラフェンシートである、請求項16に記載のプレートレット。
【請求項18】
前記グラフェン層が単層のグラフェンシートからなる、請求項16に記載のプレートレット。
【請求項19】
前記タンパク質層はハイドロフォビンを含む、請求項16〜18のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項20】
前記タンパク質層が融合タンパク質を含む、請求項16〜19のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項21】
前記融合タンパク質が第1機能部位および少なくとも1つの第2機能部位を含み、前記第1機能部位がハイドロフォビンによって形成される、請求項20に記載のプレートレット。
【請求項22】
前記タンパク質層がクラスIIハイドロフォビンを含む、請求項16〜21のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項23】
前記タンパク質層はTrichoderma reesei由来のハイドロフォビンを含む、請求項16〜22のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項24】
前記タンパク質層はHFBIおよび融合タンパク質NCysHFBIの少なくとも1つを含む、請求項16〜24のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項25】
前記タンパク質層はタンパク質の秩序性ネットワークによって形成される、請求項16〜24のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項26】
前記プレートレットの厚みは50nmより小さい、請求項16〜25のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項27】
2つのタンパク質層を含み、前記グラフェン層が前記2つのタンパク質層の間に位置する、請求項16〜26のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項28】
前記タンパク質層によって分離した2つのグラフェン層を含む、請求項16〜26のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項29】
互いに離間し、複数のタンパク質層に支持される複数のグラフェン層の層構造を含む、請求項16〜28のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項30】
請求項16〜29のいずれか1項に記載のプレートレットを含むことを特徴とする、電子デバイス。
【請求項31】
前記電子デバイスがトランジスタであり、前記グラフェン層が前記トランジスタのチャネルを形成する、請求項30に記載の電子デバイス。
【請求項32】
前記電子デバイスがトランジスタであり、前記タンパク質層が前記トランジスタのゲート誘導体を形成する、請求項30または31に記載の電子デバイス。
【請求項33】
前記電子デバイスがセンサーであり、前記センサーのセンサー部として少なくとも1つのタンパク質層を含む、請求項30〜32のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項34】
前記電子デバイスがトランジスタ型センサーであり、
前記グラフェン層の少なくとも一部を含むチャネルと、
前記グラフェン層の前記表面上に、前記チャネルの伝導性に影響することによって前記センサーのセンサー部として機能する少なくとも1つのタンパク質層と、を含む、請求項30に記載の電子デバイス。
【請求項1】
表面からグラフェン層を剥離してグラフェン含有プレートレットを製造する方法であって、タンパク質で処理をすることによって剥離を促進することを特徴とする、グラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質が両親媒性タンパク質を含む、請求項1に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項3】
前記タンパク質はハイドロフォビンを含む、請求項1または2に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項4】
前記タンパク質が融合タンパク質を含み、該融合たんぱく質は少なくとも2つの機能部位を含み、該機能部位の少なくとも1つはハイドロフォビンによって形成される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項5】
前記ハイドロフォビンはクラスIIハイドロフォビンである、請求項3または4に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項6】
前記ハイドロフォビンはTrichoderma reesei由来である、請求項3〜5のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項7】
前記タンパク質は、HFBIおよび融合タンパク質NCysHFBIの少なくとも1つを含む、請求項3〜6のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項8】
前記タンパク質は前記表面上に層を形成する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項9】
前記処理は、前記タンパク質を含む溶液中に前記表面を浸漬することを含む、請求項1〜8に記載のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項10】
前記処理は、
前記タンパク質の層を形成する工程と、
形成した前記タンパク質の層を前記表面に接触させて、前記表面に前記タンパク質の層を接着させる工程と、
基板に対して前記表面上の前記タンパク質の層を押し付けて、前記基板上に前記グラフェンをスタンプする工程と、を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項11】
前記表面に超音波を照射して剥離を促進する工程を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項12】
前記表面は、高配向のグラファイト体の表面である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項13】
前記表面がパターン化された面を含み、所定形状のプレートレットを製造する、請求項1〜12のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項14】
前記タンパク質は、グラフェンと接着可能な疎水性部分をそれぞれ有する複数のタンパク質を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項15】
前記タンパク質は、互いに接着してタンパク質のネットワークを形成可能な複数のタンパク質を含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載のグラフェン含有プレートレットの製造方法。
【請求項16】
グラフェン層を有するプレートレットであって、前記グラフェン層の表面上のタンパク質層を特徴とするプレートレット。
【請求項17】
前記グラフェン層の厚みが1〜10グラフェンシートである、請求項16に記載のプレートレット。
【請求項18】
前記グラフェン層が単層のグラフェンシートからなる、請求項16に記載のプレートレット。
【請求項19】
前記タンパク質層はハイドロフォビンを含む、請求項16〜18のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項20】
前記タンパク質層が融合タンパク質を含む、請求項16〜19のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項21】
前記融合タンパク質が第1機能部位および少なくとも1つの第2機能部位を含み、前記第1機能部位がハイドロフォビンによって形成される、請求項20に記載のプレートレット。
【請求項22】
前記タンパク質層がクラスIIハイドロフォビンを含む、請求項16〜21のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項23】
前記タンパク質層はTrichoderma reesei由来のハイドロフォビンを含む、請求項16〜22のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項24】
前記タンパク質層はHFBIおよび融合タンパク質NCysHFBIの少なくとも1つを含む、請求項16〜24のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項25】
前記タンパク質層はタンパク質の秩序性ネットワークによって形成される、請求項16〜24のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項26】
前記プレートレットの厚みは50nmより小さい、請求項16〜25のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項27】
2つのタンパク質層を含み、前記グラフェン層が前記2つのタンパク質層の間に位置する、請求項16〜26のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項28】
前記タンパク質層によって分離した2つのグラフェン層を含む、請求項16〜26のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項29】
互いに離間し、複数のタンパク質層に支持される複数のグラフェン層の層構造を含む、請求項16〜28のいずれか1項に記載のプレートレット。
【請求項30】
請求項16〜29のいずれか1項に記載のプレートレットを含むことを特徴とする、電子デバイス。
【請求項31】
前記電子デバイスがトランジスタであり、前記グラフェン層が前記トランジスタのチャネルを形成する、請求項30に記載の電子デバイス。
【請求項32】
前記電子デバイスがトランジスタであり、前記タンパク質層が前記トランジスタのゲート誘導体を形成する、請求項30または31に記載の電子デバイス。
【請求項33】
前記電子デバイスがセンサーであり、前記センサーのセンサー部として少なくとも1つのタンパク質層を含む、請求項30〜32のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項34】
前記電子デバイスがトランジスタ型センサーであり、
前記グラフェン層の少なくとも一部を含むチャネルと、
前記グラフェン層の前記表面上に、前記チャネルの伝導性に影響することによって前記センサーのセンサー部として機能する少なくとも1つのタンパク質層と、を含む、請求項30に記載の電子デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−518595(P2012−518595A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551507(P2011−551507)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050142
【国際公開番号】WO2010/097517
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511215207)テクノロジアン テュトキムスケスクス ヴェーテーテー (11)
【氏名又は名称原語表記】Teknologian tutkimuskeskus VTT
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050142
【国際公開番号】WO2010/097517
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511215207)テクノロジアン テュトキムスケスクス ヴェーテーテー (11)
【氏名又は名称原語表記】Teknologian tutkimuskeskus VTT
【Fターム(参考)】
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