説明

グリース組成物及び軸受

【課題】本発明は、耐水性、耐熱性、耐腐食性に優れ、高温かつ多量の水や水蒸気と接触するような環境で使用された場合でも、良好な潤滑を長期間維持することが可能なグリース組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、基油と、増ちょう剤と、防錆添加剤と、を含み、基油の少なくとも一部がイオン性液体である、グリース組成物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体及び防錆添加剤を含むグリース組成物と、当該組成物によって良好な潤滑性能が付与された鉄鋼圧延機用軸受並びに鉄道車両用軸受等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受用のグリース組成物として、水や水蒸気と接触する環境や、高温となる環境等、比較的苛酷な環境で使用されても長期間好適に機能する、耐久性等に優れた組成物が必要とされている。
【0003】
かかる環境で用いられる軸受として、例えば、圧延機用ロールネック軸受等の鉄鋼設備の圧延機に用いられる軸受が挙げられる。圧延機用の軸受けは、例えば、内輪が2個の複列内輪を備えると共に、外輪が1個の複列外輪と該複列外輪の両端側に間座を介して配置された2個の単列外輪とを備えており、内輪と外輪との間には4列の転動体が周方向に転動自在に配置されている。また、外輪の両端部には、環状シール部材がそのシールリップ部を内輪の外周面に接触させた状態で装着されていると共に、二個の複列内輪の突き合わせ端の内周側には中間シール部材が装着されている。
【0004】
このような圧延機用の軸受では、中間シール部材にベント機構用のスリットを形成することにより、温度変化によって軸受内部の空気が膨張収縮しても軸受内外の圧力差を自動的にバランスさせて軸受内部に水等が侵入しないようにされている。しかしながら、鉄鋼設備の圧延機には設備工程上、水を主成分とする圧延水が噴射され、また、温度も高い。そのため、圧延機周辺の湿度は極めて高く、上記のような対策を施しても軸受内に水が入り込んでくる可能性がある。更に、圧延機に使用される軸受は、高温環境で使用されるために軸受の温度が上昇し、これにより封入グリースが劣化して軸受寿命を短くするという問題もある。
【0005】
上記のような比較的苛酷な環境で使用される軸受としては、車軸用軸受や主電動機用軸受等、鉄道車両に用いられる軸受も挙げられる。従来、鉄道車両用車軸には、リチウム石鹸系の化合物を増ちょう剤とし、基油に鉱油を用いたグリース組成物が使用されている。一部の高速列車にはウレア化合物を増ちょう剤としたグリース組成物も使用されている。近年、鉄道車両においては、高速化に伴って車両の軽量化に寄与できる鉄道車両用車軸軸受が開発されたことに伴い、鉄道車両用車軸軸受グリース組成物の高性能化、及び潤滑剤の効果周期を延期するなどにより作業等を軽減するメンテナンスフリー化が図られると共に、電気機関車等の高軸重車両や降雪地走行車両を含めて汎用的に使用可能なグリース組成物が要求され、さらに耐久性の高いグリース組成物が必要とされるようになっている。しかしながら、これまでにこれらの諸特性を満たすグリース組成物は得られていない。
【0006】
このような軽量化、高速化、長寿命化、メンテナンスフリー化の要求は、在来線及び新幹線の主電動機でも同様にある。これらの主電動機においては、従来、電食の発生の有無と、直流電動機の場合はブラシの摩耗が寿命を決める要因であったが、交流電動機が主電動機の主流となり、軸受外輪外径に樹脂あるいは、セラミックスなどの絶縁物のコーティングを施すことが近年一般的に行われ、寿命を決める要因は軸受に封入するグリースになっている。主電動機の軸受形式は、駆動側軸受に円筒ころ軸受、反対側に玉軸受が使用され、封入グリースはリチウム複合石鹸を増ちょう剤とする鉱油系グリースが現在でも一般的である。車軸軸受の円すいころ軸受のようなすべり接触の問題は少ないが、絶縁物のコーティングにより、電動機の回転時に発生する熱が発散せず軸受温度を上昇させ、これが封入グリースの劣化を促進し軸受の寿命を短くしてしまう問題がある。また、鉄道車両では分岐器やレールの継ぎ目部等で生じる振動が転がり軸受にも伝達されるため、転動体と内外輪軌道との間で繰り返しに起因するフレッチング摩耗が発生しやすいが、従来の鉱油−リチウム石けん系グリースは、このフレッチング摩耗に対する耐久性(耐フレッチング性)が十分とはいえない。このため、今後要求が高まることが予測される高速・高荷重での運転に対応しきれないおそれがある。
【0007】
また、鉄道車両は降雪地や雨天時も走行するため、軸受内に水が混入する可能性もある。
【0008】
封入グリースに水分が混入すると、軸受寿命を大きく低下させることが知られており、例えば古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入がない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している(非特許文献1)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(非特許文献2)。
【0009】
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばれる金属剥離を引き起こすことによるものと考えられる。かかる剥離を抑制するために、封入グリースを改良したものが数多く提案されており、亜硝酸ナトリウム等の不動態酸化剤を添加したグリース(例えば特許文献1参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリース(例えば特許文献2参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリース(例えば特許文献3参照)などが提案されている。これらは、添加剤によって転がり軸受接触部に被膜を生成することにより、軸受材料への水素の浸入を防いでいるが、被膜が生成するまでの間に振動や速度変化による転動体の滑り等が起こると、転がり接触部で金属剥離が起こる場合がある。
【0010】
一方、封入グリース以外の対策として、軸受材料にステンレス鋼を用いたり(例えば特許文献4参照)、転動体をセラミックス製にする(例えば特許文献5参照)ことも提案されているが、これらの軸受は一般に高価となる。また、圧延機に用いられる軸受は水や水蒸気に曝されているため錆が発生しやすく、このような環境で使用される軸受では耐腐食性を有することも非常に重要である。耐腐食性についてもこれまで、上記と同様の方法により対策がなされているが、抑制効果が充分に得られていない。
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【特許文献4】特開平3−173747号公報
【特許文献5】特開平4−244624号公報
【非特許文献1】古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて, NSK Bearing Journal, No. 636. pp. 1-10, 1977
【非特許文献2】P. Schatzberg, I. M。Felsen : Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication, wear 12, pp. 331-342, 1968
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、耐水性、耐熱性、耐腐食性に優れ、高温かつ多量の水や水蒸気と接触するような環境で使用された場合でも、良好な潤滑を長期間維持することが可能なグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、防錆添加剤と、を含み、上記基油の少なくとも一部がイオン性液体であることを特徴とする。耐熱性に優れるイオン性液体と、防錆添加剤を配合することによって、長期間優れた潤滑性能を示すグリース組成物を得ることができる。
【0013】
上記防錆添加剤としては、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤、エステル系防錆添加剤等、耐水性に優れたものを用いることが好ましい。また、防錆添加剤は、0.1〜20重量%、好ましく波0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%の割合でグリース組成物に含まれているとよい。
【0014】
また、本発明に係るグリース組成物には、有機金属塩を添加することも好ましい。これにより、白色組織剥離の発生をより効果的に抑制することが可能となる。有機金属塩としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸系化合物、ジアルキルジチオリン酸系化合物、有機亜鉛化合物、アルキルサントゲン酸亜鉛等を挙げることができる。
【0015】
また、本発明は、内輪と、外輪と、該内輪及び該外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、前記内輪及び前記外輪の間に形成され、前記転動体が配設された空隙部内に、上記グリース組成物が封入されている、鉄鋼圧延機用軸受をも提供する。このような鉄鋼圧延機用軸受は、耐熱性、耐水性に優れ、高温かつ多量の水と接触する環境においても、良好な潤滑を長期間維持することが可能である。
【0016】
さらに、本発明は、内輪と、外輪と、該内輪及び該外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、前記内輪及び前記外輪の間に形成され、前記転動体が配設された空隙部内に、上記グリース組成物が封入されている、鉄道車両用軸受をも提供する。このような鉄道車両用軸受は、耐熱性、耐水性、耐フレッチング性に優れ、長期間使用可能な軸受である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のグリース組成物を軸受に適用すれば、耐熱性、耐水性等に優れ、長期間良好な潤滑性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のグリース組成物に関してより詳細に説明する。
【0019】
(基油)
本発明に使用される基油にはイオン性液体が含まれる。イオン性液体は、正負のイオンからなる液状の塩であり、正負のイオンがイオン結合で強く結びついているため、不燃、不揮発でありかつ優れた熱安定性を持っている。イオン性液体を構成するカチオンとしては、以下に示される脂肪族アミン系、脂環式アミン系、イミダゾリウム系、ピリジン系等を挙げることができる。またイオン性液体を構成するアニオン(X-)としては、BF4-、PF6-、[(CF3SO2)2N]-、Cl-、Br-等を挙げることができる。
【0020】
【化1】

式中Rはアルキル基またはアルコキシ基を表す。アルキル基の炭素数が多く分子量が大きい程、動粘度が大きくなる。40℃動粘度は、およそ12mm2/sから260mm2/s程度のものが知られ、イオン性液体を単独又は組合せることによって、適切な粘度の基油を得ることができる。また、融点が‐45℃以下のものも実在し、潤滑油使用範囲を十分満たしている。これらのイオン性液体は、単独又は2種以上混合して用いることができる。イオン性液体の含有量は、基油全量に対して1質量%以上、好ましくは10質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0021】
イオン性液体とともに使用される基油は特に限定されず、通常潤滑油の基油として使用されている油は全て使用することができる。具体例としては、鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油などが挙げられる。鉱油系潤滑油としては、鉱油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。この中で、炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、などのアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリーコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。天然油系潤滑基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはこれらの水素化物が挙げられる。
【0022】
(増ちょう剤)
増ちょう剤は、ゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Na等からなる金属石けん、Li、Na、Ba、Ca等から選択される複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、グリースの耐熱性を考慮するとウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。さらに好ましくは、ジウレア化合物を配合することが望ましい。上記ウレア化合物は増ちょう剤量としては、グリース全量に対して、5〜40重量%であることが好ましい。
【0023】
ここで、増ちょう剤の配合割合が5重量%未満であると、グリース状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40重量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0024】
(防錆添加剤−カルボン酸系防錆剤)
カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸、ナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられ、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等のコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、またはワックスやペトロラタムの酸化物等の酸化ワックスを挙げることができる。
【0025】
(防錆添加剤−カルボン酸塩系防錆剤)
カルボン酸塩系防錆剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体等の金属塩等が挙げられる。また、金属元素としてはコバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。
【0026】
(防錆添加剤−エステル系防錆剤)
エステル系防錆剤としては、多塩基カルボン酸及び多価アルコールの部分エステルであるソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類や、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類などがあげられる。
【0027】
上記カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤、エステル系防錆剤は、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
防錆剤の配合量は、グリース組成物全量に対して0.1〜20質量%である。防錆剤量が0.1質量%未満では、十分な防錆性能を付与できない。一方、20質量%を超える場合には、防錆剤の軸受部材表面への吸着量が多くなりすぎ、封入グリースに由来する酸化膜等の生成を阻害して白色組織剥離を発生する恐れがでてくる。防錆性能を確かにし、白色組織剥離を考慮すると、この防錆剤の配合量は、グリース組成物全量に対して0.25〜15質量%とすることが望ましい。
【0029】
(有機金属塩)
混入した水の影響による剥離を抑制するには、上記の防錆剤による作用に加えて、転がり接触部に酸化膜が形成しやすくなれば、より効果的となる。そこで、グリース組成物には、更に有機金属塩を添加することが好ましい。
【0030】
上記の防錆剤と併用して、白色組織剥離の発生をより効果的に抑制し得る有機金属塩として、下記一般式(1)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸(DTC)系化合物、並びに下記一般式(2)で表されるジアルキルジチオリン酸(DTP)系化合物を挙げることができる。
【0031】
【化2】

一般式(1)、(2)において、Mは金属種を示し、具体的にはSb、Bi、Sn、Ni、Te、Se、Fe、Cu、Mo、Znから選択される。また、R1、R2は、同一基であっても異なる基であってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基から選択される。R1、R2として特に好ましい基としては、1、1、3、3−テトラメチルブチル基、1、1、3、3−テトラメチルヘキシル基、1、1、3−トリメチルヘキシル基、1、3−ジメチルブチル基、1−メチルウンデカン基、1−メチルヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−ヘプチル基、4−メチルシクロヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソプロピル基、イソヘプチル基、イソペンチル基、ウンデシル基、エイコシル基、エチル基、オクタデシル基、オクチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、シクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、デジル基、テトラデシル基、ドコシル基、ドデシル基、トリデシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ノニル基、プロピル基、ヘキサデシル基、ヘキシル基、ヘニコシル基、ヘプタデシル基、ヘプチル基、ペンタデシル基、ペンチル基、メチル基、第三ブチルシクロヘキシル基、第三ブチル基、2−ヘキセニル基、2−メタリル基、アリル基、ウンデセニル基、オレイル基、デセニル基、ビニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプタデセニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、第三ブチルフェニル基、第二ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、第三オクチルフェニル基、イソノニルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルメチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1、1−ジメチルベンジル基、2−フェニルイソプロピル基、3−フェニルヘキシル基、ベンズヒドリル基、ビフェニル基等があり、またこれらの基はエーテル基を有していてもよい。
【0032】
有機金属塩としては、下記一般式(3)〜(5)で表される有機亜鉛化合物も好適である。
【0033】
【化3】

一般式(3)〜(5)において、R3、R4は、同一基であっても異なる基であってもよく、炭素数1〜18の炭化水素基及び水素原子から選択される。特に、R3、R4が共に水素原子である、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(一般式(3))、ベンゾアミドチオフェノール亜鉛(一般式(4))、メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛(一般式(5))を好適に使用することができる。
【0034】
更に、有機金属塩としては、下記一般式(6)で表されるアルキルキサントゲン酸亜鉛も好適である。
【0035】
【化4】

一般式(6)において、R5は炭素数1〜18の炭化水素基である。
【0036】
上記に挙げた有機金属塩は、各々単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。尚、混合使用する際の組み合わせは特に制限されない。また、有機金属塩の添加量は、単独使用、混合使用ともに、グリース組成物全量に対して0.1〜20質量%である。有機金属塩の添加量は、0.1質量%未満では酸化膜の形成促進に効果がなく、一方20質量%を超えても増分に見合う効果の向上が得られないばかりか、軸受材料との酸化反応を異常に促進して腐食や異常摩耗を発生させるおそれがある。有機金属塩の添加量は、0.5〜10質量%の範囲が特に好ましい。
【0037】
(その他の添加剤)
本発明のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等があげられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等があげられる。
【0039】
また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチル−フェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4、6−ジ(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1、3、5−トリアジン、4、4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどがあげられる。
【0040】
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等があげられる。
【0041】
さらに、有機モリブデン等の極圧剤や、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤などが使用される。
【0042】
なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではないが、通常はグリース組成物全体に対して0.1〜20重量%である。0.1重量%未満では添加剤の添加効果が乏しく、また、20重量%を超えて添加しても添加効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0043】
(製法)
本発明のグリース組成物を調整する方法には特に制約はない。しかし、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤、エステル系防錆剤は、得られたグリース組成物に所定量を配合することが好ましい。ただし、ニーダやロールミル等で、上記防錆剤を添加した後十分攪拌し、均一分散させる必要がある。この処理を行なうときは、加熱するものも有効である。なお、上記製法において、酸化防止剤等の添加剤は、上記防錆剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0044】
(鉄鋼圧延機用軸受)
図1に、本発明に係る鉄鋼圧延機用軸受の一例として、鉄鋼設備に使用される圧延機用ロールネック軸受の断面図を示す。図示されるように、圧延機用ロールネック軸受は、内輪が2個の複列内輪10と、単列外輪11、間座12及び13、ころ14、保持器15、及びシール部材16を備えている。
【0045】
(鉄道車両用軸受)
図2及び3に、本発明に係る鉄道車両用軸受の一例を示す。図2は、本発明に係る鉄道車両用軸受を適用した車輪支持部1を示す断面図であり、図3は円すいころ軸受の詳細図である。車両支持部1には、主電動機10、回転軸11、円すいころ軸受13、17及び18、車軸16、車輪19、玉軸受30、4点接触玉軸受31、円筒ころ軸受32、並びに複列円すいころ軸受33が備えられている。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0047】
表1、2に示すような各種グリース組成のグリースを使用し、以下のような条件で軸受耐久試験及び防錆試験を行なった。尚、表1、2において記号IL-1、IL-2で表されているイオン性液体はそれぞれ以下の通りである。
【0048】
【化5】

(軸受耐久試験及び防錆試験)
これらのグリース組成物を日本精工株式会社製の円すいころ軸受「HR30205(内径:25mm、外径:52mm、幅:16.25mm)」の内部空間に封入した。そして、この円すいころ軸受を、高温及び軸受内に水が混入した等の苛酷な環境下で使用されることを想定し、雰囲気温度:120℃、ラジアル荷重:98N、アキシアル荷重:1470N、回転速度:3500rpmにて、水を軸受内に1mass%封入し100時間連続回転させた。この結果、100時間後に剥離及び焼付きが生じなかったものを合格、100時間未満で剥離及び焼付きが生じたものは不合格とした。また、試験後軸受の錆発生の有無についても表1、2に併記した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

表1に示すように、基油の少なくとも一部にイオン性液体を含有し、添加剤としてカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤、エステル系防錆剤の少なくとも1種を使用したグリース組成物は、優れた耐久性及び防錆性を示す。以上の結果より、基油の少なくとも一部にイオン性液体を含有し、添加剤としてカルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤、エステル系防錆剤の少なくとも1種を使用したグリース組成物を上述した鉄鋼圧延機用軸受の潤滑剤として使用することで、高温及び水の混入する可能性のある環境で使用された場合であっても優れた潤滑性能を長期間維持できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る鉄鋼圧延機用軸受の一例である圧延機用ロールネック軸受の断面図である。
【図2】本発明に係る鉄道車両用軸受を適用した車両支持部を示す断面図である。
【図3】円すいころ軸受の詳細を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、防錆添加剤と、を含み、
前記基油の少なくとも一部がイオン性液体である、グリース組成物。
【請求項2】
前記防錆添加剤が、カルボン酸系防錆添加剤、カルボン酸塩系防錆添加剤及びエステル系防錆添加剤からなる群より選択される1以上の防錆添加剤を含む、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記防錆添加剤が、0.1〜20重量%の割合で含まれる、請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
さらに有機金属塩を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
内輪と、外輪と、該内輪及び該外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、
前記内輪及び前記外輪の間に形成され、前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1から4のいずれか1項に記載のグリース組成物が封入されている、鉄鋼圧延機用軸受。
【請求項6】
内輪と、外輪と、該内輪及び該外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、
前記内輪及び前記外輪の間に形成され、前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1から4のいずれか1項に記載のグリース組成物が封入されている、鉄道車両用軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−217609(P2007−217609A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41448(P2006−41448)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】