説明

コイルの製造方法

【課題】1相当たり複数のコイルを備え、極性を考慮する必要がある場合でも複数のコイルを連続した1本の巻線で実現できるコイルの製造方法を提供する。
【解決手段】コア体310の外周に、1つの相が複数のコイルからなる2相以上のコイルを形成するコイルの製造方法であり、コア体の外周にはコイルの形成領域より長い範囲にわたって軸方向に延びる溝311が形成されている。各相に対応する巻線を巻回したボビン100U、100V、100Wを用意し巻き始め部分をコア体の一端側からコアの他端側に延ばす。この後、はじめに巻回を行なう相の巻線以外の巻線を収容したまま、所定範囲にわたって最初のコイルを形成する第1の工程と、はじめに巻回を行なう相の巻線を溝に収容する第2の工程と、次に巻回を行なう相の巻線以外の巻線を、その上に、所定範囲にわたって次のコイルを形成する第3の工程と、次のコイルに続いて巻線を溝に収容する第4の工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイルの製造方法に関し、特にリニアモータやソレノイド用のコイルに適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータには様々なタイプのものがあるが、大きな駆動力を必要としない場合には、永久磁石とコイルとの組み合わせで構成されることが多い。このような永久磁石とコイルとの組み合わせによるリニアモータは、例えば半導体製造装置の分野において精密用マイクロステージ、または精密位置決めステージの駆動源として適用されている。これは、リニアモータによる駆動機構は、これまで主流であったボールネジ駆動機構に比べて駆動速度が高いうえに位置決め精度が高く、また高い繰り返し位置決め精度、駆動時と停止時のオーバシュート、アンダーシュートが小さく、等速移動時の速度リップルが小さいというような多くの利点があるからである。
【0003】
図11を参照して、本発明者により提案されている三相リニアモータについて説明する。このリニアモータは特許文献1に開示されている。
【0004】
図11において、リニアモータは、電磁石用コイル(以下、コイルと略称する)を複数個連続的に配列したものを収容した軸体(以下、固定子と呼ぶ)10と、これらのコイルからの磁束との相互作用により固定子10の延在方向と同じ方向に走行可能とした可動磁石体(以下、可動子と呼ぶ)20とを含む。固定子10は、ベース30上に間隔をおいて固定された2つのブラケット31の間に架け渡されている。
【0005】
図12をも参照して、固定子10と可動子20の内部構造について説明する。固定子10は、中空軸状のセンターコア11と、センターコア11の周囲に装着された複数のコイル12と、複数のコイル12の外周側をカバーするように組み合わされたパイプ13とを含む。コイル12は制御ドライバー40のモータ接続端子に接続されたU相コイル、V相コイル、W相コイルを含み、これらの各コイルはセンターコア11の周囲にその磁極軸がセンターコア11の軸芯に平行になるようにして可動子20の走行範囲にわたって装着されている。
【0006】
可動子20は、パイプ13を囲むことができるような環状の複数の永久磁石21と、これら複数の永久磁石21を収容している磁石ケース22とを含む。複数の永久磁石21は、同じ長さ寸法を持ち、しかも隣接する磁極が互いに反対向きになり、かつ磁極軸がセンターコア11の軸芯に平行になるように直列的に組み合わされて磁石ケース22に収容されている。コイル12、永久磁石21のサイズは、推力、リニアモータ全体の大きさ等の条件により変わるが、すべての永久磁石21は軸方向の寸法が等しく、また三相リニアモータの場合軸方向の寸法がコイル12の磁極軸方向の寸法の3倍になるように作られる。なお、永久磁石は断面U形状の場合もある。
【0007】
パイプ13の内径はコイル12の外径よりやや大きく、外径が永久磁石21の内径よりやや小さくなるようにされている。このようにして、パイプ13の外面側と永久磁石21の内面側との間及びコイル12の外面側とパイプ13の内面側との間にはそれぞれ、ギャップができるようにされている。そして、センターコア11の中空部、場合によってはコイル12の外面側とパイプ13の内面側との間のギャップを気体や液体による冷却空間として利用する。パイプ13にはステンレス等の非磁性金属材料が用いられるが、他の材料、例えば樹脂材料でも良い。なお、パイプ13は省略される場合もある。
【0008】
可動子20は、パイプ13の外周に対してギャップを維持した状態、すなわちパイプ13に非接触状態で移動させる必要がある。これは、ガイドブロック23とガイドレール32により実現される。すなわち、磁石ケース22には2つのガイドブロック23が組み合わされ、これら2つのガイドブロック23が可動子20の走行方向に沿うようにベース30上に配置されたガイドレール32によりスライド案内されるようにしている。
【0009】
図11に戻って、ベース30上には可動子20の走行方向に沿ってリニアエンコーダ用のリニアスケール33が配置され、磁石ケース22にはリニアスケール33に対向するようにエンコーダヘッド24が設けられている。エンコーダヘッド24からの検出信号は可撓性の信号ケーブルを持つキャタピラ状のケーブルベヤ(図示省略)を介して制御ドライバー40に入力される。エンコーダヘッド24からの検出信号は可動子20の位置決め制御に利用されることは言うまでも無い。また、固定子10内の各コイル12は、ブラケット31を介して三相用の電力ケーブル35に接続され、電力ケーブル35は制御ドライバー40に接続されている。制御ドライバー40は、単相100Vの交流電源50に接続する場合、単相−三相変換器を内蔵し、U相、V相、W相の各相がU相コイル、V相コイル、W相コイルに接続される。但し、電源のU相、V相、W相がU相コイル、V相コイル、W相コイルに一対一の関係で接続されるとは限らない。電源とU相コイル、V相コイル、W相コイルとの接続には様々な形態がある。制御ドライバー40にはまた、制御データ入力手段及びデータ処理手段としてパーソナルコンピュータ等によるコンピュータ41が接続され、コンピュータ41から与えられるデータに基づき、エンコーダヘッド24からの検出信号を用いて可動子20の位置決め制御や速度制御をフルクローズドループ制御で実行する。
【0010】
図13は、3つのU相コイル、W相コイル、V相コイルを1組とする基本構成を3組、すなわち合計9個のコイルを備える場合の接続と制御ドライバー40を使用する場合の接続例を示す。ここでは、U相コイルについては第1のコイルU1の巻き始め端Sを制御ドライバー40のU端子に接続し、第1のコイルU1の巻き終り端Eを第2のコイルU2の巻き終り端Eに接続している。そして、第2のコイルU2の巻き始め端Sを第3のコイルU3の巻き始め端Sに接続し、第3のコイルU3の巻き終り端Eをコモン端子に接続している。同様に、W相コイルについては第1のコイルW1の巻き終り端Eを制御ドライバー40のW端子に接続し、第1のコイルW1の巻き始め端Sを第2のコイルW2の巻き始め端Sに接続している。そして、第2のコイルW2の巻き終り端Eを第3のコイルW3の巻き終り端Eに接続し、第3のコイルW3の巻き始め端Sをコモン端子に接続している。一方、V相コイルについては第1のコイルV1の巻き始め端Sを制御ドライバー40のV端子に接続し、第1のコイルV1の巻き終り端Eを第2のコイルV2の巻き終り端Eに接続している。そして、第2のコイルV2の巻き始め端Sを第3のコイルV3の巻き始め端Sに接続し、第3のコイルV3の巻き終り端Eをコモン端子に接続している。
【0011】
簡単に言えば、図13のように9個のコイルを備える場合には、2つの相については3つのコイルのうちの中間のコイルをその両側のコイルと巻き始め端S、巻き終り端Eを逆にして接続し、残りの1つの相については3つのコイルのうちの両側のコイルをそれらの間のコイルと巻き始め端S、巻き終り端Eを逆にして接続している。
【0012】
これを12個以上、すなわち4組以上の複数の組のコイルを有する場合について言えば、複数組における複数のU相コイル、複数のW相コイル、複数のV相コイルはそれぞれ相毎に直列接続されて制御ドライバー40にスター結線により接続される。しかも、2つの相における複数のコイルは奇数組における磁極に対して偶数組における磁極が反対向きになるように接続され、残りの1つの相における複数のコイルは奇数組における磁極が前記2つの相における複数のコイルの前記奇数組における磁極と反対向きであり、偶数組における磁極は前記2つの相における複数のコイルの前記偶数組における磁極と反対向きになるように接続される。
【0013】
上記のリニアモータは、小型化に適しており、コイルを固定し、永久磁石を可動としたことにより、コイルにおける発熱に対する冷却構造を簡単にすることができ、可動部に対して電力を供給する必要が無いので可撓性の電力ケーブルを引きずることが無くなり、引きずりに起因する断線トラブルが少なくなる等の様々な利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−291220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、図13に示すような三相リニアモータ用のコイルは以下のようにして作製される。
【0016】
図14をも参照して、センターコア11の外周に9個のコイルを装着する場合、3個のU相コイルU1〜U3、3個のV相コイルV1〜V3、3個のW相コイルW1〜W3がそれぞれ相順に配列されると共に、相毎に直列接続されてスター結線により制御ドライバー40に接続される。つまり、U相、V相、W相それぞれについて3組のコイルからなる場合、図13に関連して説明したように、2つの相(図13ではU相、V相)における3個のコイルは奇数組における磁極に対して偶数組における磁極が反対向きになるように接続され、残りの1つの相(図13ではW相)における3個のコイルは奇数組における磁極が前記2つの相における3個のコイルの前記奇数組における磁極と反対向きであり、偶数組における磁極は前記2つの相における3個のコイルの前記偶数組における磁極と反対向きになるように接続される。
【0017】
すなわち、図14に示すU相コイルU1〜U3、V相コイルV1〜V3、W相コイルW1〜W3のいずれも巻線形態、特に巻線の巻回方向はすべて同じであるので、磁極を反対向きにするためにはコイル毎に接続を変える必要がある。例えば、図13のU相コイルU1、U2について言えば、図14におけるU相コイルU1の巻き終わり端Eを、U相コイルU2の巻き始め端Sではなく巻き終わり端Eに半田付け接続する必要がある。
【0018】
つまり、これまでのリニアモータ用のコイルは、コイル毎に巻線の半田付け接続を必要としていた。
【0019】
本発明の課題は、1相当たり複数のコイルを備え、極性を考慮する必要がある場合であっても1相当たり複数のコイルを連続した1本の巻線で形成することのできるコイルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、軸状のコアの外周に、1つの相が複数のコイルからなる2相以上のコイルを形成する工程を含むコイルの製造方法であって、前記コアの外周にはコイルの形成領域より長い範囲にわたって軸方向に延びる溝が形成されており、各相に対応する巻線を相別に用意する工程と、各相の巻線の巻き始め部分を前記コアの一端側から前記溝に収容した状態にて前記コアの他端側に延ばす工程と、はじめに巻回を行なう相の巻線以外の巻線を前記溝に収容したままの状態で、その上に、前記はじめに巻回を行なう相の巻線を所定範囲にわたって巻回して最初のコイルを形成する第1の工程と、前記最初のコイル形成の終了後、前記最初のコイルに続いている前記はじめに巻回を行なう相の巻線を前記溝に収容する第2の工程と、次に巻回を行なう相の巻線以外の巻線を前記溝に収容したままの状態で、その上に、前記次に巻回を行う相の巻線を前記最初のコイルに隣接させて所定範囲にわたって巻回して次のコイルを形成する第3の工程と、前記次のコイル形成の終了後、前記次のコイルに続いている前記次に巻回を行なう相の巻線を前記溝に収容する第4の工程と、を含むことを特徴とするコイルの製造方法が提供される。
【0021】
本発明によるコイルの製造方法は以下の形態で実現されても良い。
【0022】
前記各相に対応する巻線を相別にボビンに巻回した状態で用意し、前記コアをその一端側で保持する保持部を有すると共に、前記相別のボビンを個別に装着する複数のボビン装着部を有するチャック部材を備え、該チャック部材の前記保持部で前記コアの一端側を保持すると共に、巻回を行なう相以外のボビンは前記ボビン装着部に装着した状態とする一方、巻回を行なう相のボビンは前記ボビン装着部から外して巻回を行なうべき領域に近い所定箇所にて当該巻回を行なう相の巻線が前記コアに略直角になるように保持した状態にして当該巻回を行なう相の巻線の巻回を行なう。
【0023】
前記コアを保持している前記チャック部材を前記コアの中心軸を中心として回転駆動することにより、前記巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうか、あるいは前記巻回を行なう相のボビンを、前記巻回を行なうべき領域に近い箇所にて前記コアの中心軸を中心として旋回させることにより、前記巻回を行なう相の巻線の巻回を行なう。
【0024】
前記コアにおける前記コイルの形成領域となる部位に絶縁性材料からなるボビン体を装着し、該ボビン体には、等間隔で設けられた複数の仕切りによって、形成されるべきコイル数に対応したコイル受け部を形成すると共に、前記コアに形成された前記溝を露出させるために、前記溝に対応する領域に切れ目を形成する。
【0025】
前記巻回を行なう相の巻線の巻回は、前記コイル受け部へのコイル形成の終了後、当該コイルに続いている前記巻回を行なう相の巻線が前記コイル受け部の軸方向の両端部のうち、前記チャック部材に近い側の端部に位置するように行なう。
【0026】
前記1つの相における複数のコイルのうちの少なくとも1つが前記第1の工程で形成されるコイルとは極性が逆である場合、前記少なくとも1つのコイルを形成するための巻線を巻回したボビンを、前記所定箇所に対して点対称の箇所にて前記少なくとも1つのコイルを形成するための巻線が前記コアに略直角になるように保持した状態にし、かつ巻線の巻回方向を前記第1の工程における巻線の巻回方向とは逆向きにして当該少なくとも1つのコイルを形成するための巻線の巻回を行なう。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、絶縁性材料からなる筒状のボビン体の外周に、1つの相が複数のコイルからなる第1、第2の相を含む2相以上のコイルを形成する工程を含むコイルの製造方法が提供される。
【0028】
第2の態様による製造方法は、各相に対応する巻線を相別に用意する工程と、一番目に巻回を行なう第1の相の巻線の巻き始め端を前記ボビン体の一端側に導出した状態にて該第1の相の巻線を前記ボビン体の周囲の第1の領域に巻回して第1の相の一番目のコイルを形成する第1の工程と、二番目に巻回を行なう第2の相の巻線の巻き始め端を前記ボビン体の一端側に導出すると共に該第2の相の巻線を前記一番目のコイルの外周に沿って配線渡りさせた状態にて、該第2の相の巻線を前記一番目のコイルに隣接した前記ボビン体の周囲の第2の領域に巻回して第2の相の一番目のコイルを形成する第2の工程と、を含む。特に、第2の態様による製造方法においては、以後、前記第1の相の巻線を巻回してN番目(Nは正の整数)のコイルを形成する場合、該第1の相の(N−1)番目のコイルの巻き終わり端部につながる当該第1の相の巻線を、前記第2の相の(N−1)番目のコイルの外周に沿って配線渡りさせた状態にて当該N番目のコイルを形成する一方、前記第2の相の巻線を巻回してN番目のコイルを形成する場合、該第2の相の(N−1)番目のコイルの巻き終わり端部につながる当該第2の相の巻線を、前記第1の相のN番目のコイルの外周に沿って配線渡りさせた状態にて当該第2の相のN番目のコイルを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るコイルの製造方法によれば、1相当たり複数のコイルからなる場合であってその中に極性の異なるコイルが存在するような場合であっても1本の巻き線で連続巻きの形態で複数のコイルを形成することができるので半田付けなどの2次的な接続を必要とせず、地絡、短絡の危険性を大幅に軽減できる。
【0030】
1相当たり複数のコイル間で物理的な結線(半田付けなど)を必要としないのでコイルユニットの小型化にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態において用意される構成部材について説明するための図である。
【図2】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第1の作業について説明するための図である。
【図3】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第2の作業について説明するための図である。
【図4】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第3の作業について説明するための図である。
【図5】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第4の作業について説明するための図である。
【図6】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第5の作業について説明するための図である。
【図7】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第6の作業について説明するための図である。
【図8】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第7の作業について説明するための図である。
【図9】本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態の第8の作業について説明するための図である。
【図10】本発明の第1の実施形態によるコイルの製造方法により9個のコイルの形成が終了した後の状態を示す図である。
【図11】本発明の適用が考えられる、本発明者により提案されているリニアモータとその周辺機器について説明するための図である。
【図12】図11に示されているリニアモータの内部構造を説明するための図である。
【図13】図11に示されているリニアモータにおける三相コイルの結線形態を説明するための図である。
【図14】図13に示されている三相コイルを構成している複数のコイルの配置形態を示した図である。
【図15】本発明が適用され得るリニアモータの主要部の断面図である。
【図16】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態において用意される構成部材について説明するための図である。
【図17】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第1の作業について説明するための図である。
【図18】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第2の作業について説明するための図である。
【図19】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第3の作業について説明するための図である。
【図20】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第4の作業について説明するための図である。
【図21】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第5の作業について説明するための図である。
【図22】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第6の作業について説明するための図である。
【図23】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第7の作業について説明するための図である。
【図24】本発明に係るコイルの製造方法の第2の実施形態の第8の作業について説明するための図である。
【図25】本発明の第2の実施形態によるコイルの製造方法により9個のコイルの形成が終了した後の状態を示す図である。
【図26】本発明の第2の実施形態の変形例として、曲率を持つ軌道を往復移動するリニアモータへの適用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1の実施形態)
以下に、図面を参照して、本発明に係るコイルの製造方法の第1の実施形態について作業順に説明する。
【0033】
第1の実施形態は、図13で説明したリニアモータ用の固定子10(三相コイル)を製造する場合に適用される例である。
【0034】
図1は、図13で説明したような、9個のコイルからなるリニアモータ用の三相コイルを製造するのに適した構成部材を示す。第1の実施形態においては、巻線が相別に予め巻回されている3つのサブボビン100U、100V、100Wと、これらのサブボビンを装着した状態で回転可能な円板状のボビンチャック200のほか、コイルユニット300が構成部材として用意されるが、3つのサブボビンとボビンチャック200は製造作業に必要な構成部材であり、コイルユニット300が三相コイルの一部となる。
【0035】
ボビンチャック200は、その一面側に、サブボビンを装着することのできるサブボビン装着部210を周方向に間隔をおいて複数個(ここでは6個)有すると共に、一面側の中心部にコイルユニット300の一端側を保持することのできる保持部220を有する。ここでは、サブボビン装着部210はサブボビンの中心部の貫通穴に挿し込むことでサブボビンを保持する軸体であり、保持部220はコイルユニット300の一端側を挿し込むことのできる筒状の受け部を持つ。図示は省略しているが、ボビンチャック200は、回転駆動機構により、その中心を軸として回転することができるようにテーブル等に設置される。このため、サブボビンはサブボビン装着部210に対して回転せず、かつサブボビン装着部210から簡単に脱落しないような構造で保持されるのが望ましい。一方、コイルユニット300も保持部220に対して回転せず、かつ保持部220から簡単に脱落しないような構造で保持されるのが望ましい。回転防止は、例えばキーとキー溝で実現できる。以下では、サブボビン100U、100V、100Wはそれぞれ、U相、V相、W相のコイルを形成するためのものであるとする。
【0036】
コイルユニット300は、図12で説明したセンターコア11となる、磁性材料による中空のコア体310と、コア体310の外周に装着、固定されたボビン体320からなる。ボビン体320は絶縁性の樹脂材料で作られ、図12では図示が省略されているが、9個のコイルをそれぞれ、コイル長を規定すると共に絶縁状態に区画して形成できるようにするために複数の鍔状の仕切り321が等間隔で設けられている。以下では、ボビン体320において隣り合う2つの仕切り321の間の部分をコイル受け部と呼ぶことがある。コア体310には、その外周にボビン体320よりも長い範囲にわたって中心軸に沿って延びる溝311が形成されている。後述する理由により、この溝311はボビン体320から露出させる必要があり、このために、ボビン体320にはコア体310の溝311に沿って切れ目322(図2)が形成されている。つまり、ボビン体320は、断面略C形状である。
【0037】
図2は、コイルの製造に伴う第1の作業を説明するための図であり、ボビンチャック200の保持部220にコイルユニット300のコア体310の一端部がセットされる。以下では、保持部220側のコイルユニット300の一端を根元側、コイルユニット300の反対端を先端側と呼ぶことがある。
【0038】
図3は、コイルの製造に伴う第2の作業を説明するための図であり、ボビンチャック200の隣り合う3つのサブボビン装着部210にそれぞれサブボビン100U、100V、100Wが装着される。この時、サブボビン100U、100V、100Wに巻かれている巻線110U、110V、110Wの一部を巻き始め部分として引き出して、それぞれを溝311内に収容した状態にて溝311の先端側まで延ばし、それぞれの先端部を粘着テープ等でコア体310に仮固定する。
【0039】
図4は、コイルの製造に伴う第3の作業を説明するための図であり、特に図13に示すU相コイルU1の形成を開始する作業を説明するための図である。この作業においては、まず、サブボビン100Uをサブボビン装着部210から取り外し、コイルユニット300の先端側から1番目のコイル受け部の先端寄りにおいて巻線110Uがコア体310の中心軸に略直角となるようにした状態でサブボビン100Uを保持する。この状態でのサブボビン100Uの保持は、図示しない保持機構で行なわれるが、サブボビン100Uは完全固定ではなく、中心軸方向やこれに直角な方向(コイルユニット300に接近、離反する方向)にある程度移動可能な状態にて保持される。
【0040】
図5は、コイルの製造に伴う第4の作業を説明するための図であり、図13に示すU相コイルU1のための巻線巻回作業を説明するための図である。この作業においては、ボビンチャック200が図示した矢印の方向(図5では、時計回り方向)に回転駆動される。これによってコイルユニット300が回転することにより、1番目のコイル受け部への巻線110Uの巻回が始まる。この時、溝311内にあるサブボビン100Vの巻線110V、サブボビン100Wの巻線110Wが回転によって溝311から脱落してしまわないように、巻線110V、110Wを粘着テープ等でコア体310に仮固定しておくことが望ましい。
【0041】
コイルユニット300の回転に連れて巻線110Uの巻回位置がずれてゆき、巻回位置がコイル受け部の反対端寄りまでずれると1層目の巻回が終了するが、コイルユニット300の回転は維持され、巻回位置が先端側に向けてずれてゆくことにより2層目の巻回が行なわれる。巻回位置がコイル受け部の先端寄りまでずれると2層目の巻回が終了し、続いて上述の1層目と同様の形態で3層目の巻回が始まる。
【0042】
図6は、コイルの製造に伴う第5の作業を説明するための図であり、U相コイルU1の巻線巻回作業終了後の作業を説明するための図である。所望の巻数のU相コイルU1の巻線巻回作業が終了したら、ボビンチャック200の回転は停止される。この時、コア体310の溝311が上方に位置していることが好ましい。これは、U相コイルU1の巻線巻回作業が終了したら、サブボビン100Uをボビンチャック200のサブボビン装着部210に戻す必要があり、その際、巻線110Uを溝311内に収容した状態とする必要があるからである。図6は、この状態を示している。
【0043】
U相コイルU1の形成終了後、U相コイルU1に続いている巻線110Uは、コイル受け部の軸方向の両端部のうち、ボビンチャック200に近い側の端部に位置している。これは、以下の理由による。
【0044】
巻線巻回作業が終了したら、巻線110Uを巻回終了後のU相コイルU1を乗り越えることなく、溝311内に収容させつつサブボビン100Uをサブボビン装着部210に戻す必要がある。このためには、巻線巻回作業終了時の巻線110Uの巻回位置がコイル受け部の軸方向の両端部のうち、ボビンチャック200に近い側の端部寄り(反対端寄り)になっている必要がある。これは、U相コイルU1の巻回層数を奇数にすることで実現できる。U相コイルU1の巻回層数を偶数にせざるを得ない事情がある場合には、巻線110Uの巻き始めの巻回位置を、コイル受け部の軸方向の両端部のうち、ボビンチャック200に近い側の端部寄りとすれば良いことは言うまでもない。
【0045】
以上の点は、V相コイル、W相コイルの巻線巻回作業においても同様である。
【0046】
図7は、コイルの製造に伴う第6の作業を説明するための図であり、特に、コイルの極性を逆にするために、巻線の巻回方向を上記のU相コイルU1の巻回作業時とは反対向きにして行う巻線巻回作業を説明するための図である。
【0047】
なお、1組目のコイルで巻線の巻回方向を反対向きにするのは、図13、図14で言えばW相コイルW1であり、順番では3回目の巻線巻回作業となる。しかし、説明を短くするために、ここでは、巻線の巻回方向を反対向きにするのは2回目であり、V相コイルV1であるものとして説明を進める。
【0048】
この作業においては、サブボビン100Vをサブボビン装着部210から取り外し、コイルユニット300の先端側から2番目のコイル受け部の先端側寄りにおいて前述のサブボビン100Uの保持位置とは点対称となる反対側で、かつ巻線110Vがコア体310の中心軸に略直角となるようにした状態でサブボビン100Vを保持する。この状態でのサブボビン100Vの保持も、図示しない保持機構で行なわれ、中心軸方向やこれに直角な方向(コイルユニット300に接近、離反する方向)にある程度移動可能な状態にて保持される。
【0049】
図8は、コイルの製造に伴う第7の作業を説明するための図であり、V相コイルV1のための巻線巻回作業を説明するための図である。この作業においては、ボビンチャック200が、U相コイルU1の巻回作業の時とは反対の図8に矢印で示す方向(図8では、反時計回り方向)に回転駆動される。これによってコイルユニット300がU相コイルU1の巻回作業の時とは反対向きに回転することにより、2番目のコイル受け部への巻線110Vの巻回が始まる。U相コイルU1の巻回作業時と同様、溝311内にあるサブボビン100Uの巻線110U、サブボビン100Wの巻線110Wが回転によって溝311から脱落してしまわないように、巻線110U、110Wを粘着テープ等でコア体310に仮固定しておくことが望ましい。
【0050】
コイルユニット300の回転に連れて巻線110Vの巻回位置がボビンチャック200側にずれてゆき、巻回位置が2番目のコイル受け部の反対端寄りまでずれると1層目の巻回が終了するが、コイルユニット300の回転は維持され、巻回位置が先端側に向けてずれてゆくことにより2層目の巻回が行なわれる。巻回位置が2番目のコイル受け部の先端寄りまでずれると2層目の巻回が終了し、続いて1層目と同様の形態で3層目の巻回が始まる。
【0051】
図9は、コイルの製造に伴う第8の作業を説明するための図であり、V相コイルV1の巻線巻回作業終了後の作業を説明するための図である。所望の巻数のV相コイルV1の巻線巻回作業が終了したら、ボビンチャック200の回転が停止される。この時、コア体310の溝311は上方に位置している。V相コイルV1の巻線巻回作業が終了したら、巻線110Vを巻回終了後のV相コイルV1を乗り越えることなく、溝311内に収容させつつサブボビン100Vをサブボビン装着部210に戻す。このため、V相コイルV1の巻回層数は、U相コイルU1の巻回層数と同じ奇数であることは言うまでもない。
【0052】
図10は、上記のような巻線巻回作業を繰り返すことにより、ボビン体320の9個のコイル受け部すべてにコイルが形成された状態を示す。図14に即して言えば、先端側から順にU1−V1−W1−U2−V2−W2−U3−V3−W3の配列となる。また、図13に即して言えば、1組目と3組目のW相コイルW1、W3と、2組目のU相コイルU2とV相コイルV2が、巻線の巻回方向を反対向きにして巻回されていることになる。
【0053】
これまでのリニアモータ用の三相コイルの製造方法では、すべてのコイルの巻線の巻回方向を同じにしていたため、極性を反対にする必要があるコイルについては、巻線を巻き始め部分と巻き終わり部分で切断し、隣り合うコイルの巻線との接続を変更したうえで半田付けする必要があった。
【0054】
これに対し、第1の実施形態によれば、極性を反対にする必要のあるコイルは、巻線の巻回方向を反対向きすることで実現しているので、途中でコイル間の接続の変更を行なう必要がない。つまり、U相について言えば、U相コイルU1、反対極性のU相コイルU2、U相コイルU3を、途中での巻線切断、接続変更を行なうことなく1本の連続した巻線で形成することができる。
【0055】
サブボビン100U、100V、100Wはすべてサブボビン装着部210に戻され、それぞれの巻線110U、110V、110Wの巻き終わり部分が溝311から導出されている。上述したように、巻線の巻き始め部分から巻き終わり部分までの間に半田付け接続箇所やコイルの外側に出ている部分は無い。
【0056】
この後、巻線110U、110V、110Wの巻き終わり部分は所定の長さの部位で切断され、コイルユニット300をボビンチャック200から取り外して図12で説明したような固定子を構成するために使用される。勿論、巻線を溝311内でコア体310に仮固定するために用いられた粘着テープ等は取り外されている。巻線110U、110V、110Wの巻き始め部分、巻き終わり部分は、スターあるいはデルタ接続のための結線や図11で説明した制御ドライバー40への接続に用いられる。
【0057】
なお、第1の実施形態ではボビンチャック200側を回転駆動するようにしているが、ボビンチャック200とコイルユニット300は固定状態とし、巻線の巻回を行なうためにコイル受け部に近い箇所で保持されているサブボビン側を、コイルユニット300を中心として旋回(回動)させることで巻線の巻回が行われても良い。
【0058】
(第1の実施形態の効果)
第1の実施形態によるコイルの製造方法によれば、1相当たり複数のコイルからなる場合であってその中に極性の異なるコイルが存在するような場合であっても1本の巻き線で連続巻きの形態で複数のコイルを形成することができるので半田付けなどの2次的な接続を必要とせず、地絡、短絡の危険性を大幅に軽減できる。
【0059】
図15(a)に示すように、配線の渡りがコイル内部で行われるので、コイル外径がほぼフラットになる。よってリニアモータを構成する際にコイルと永久磁石との間の距離を縮めることができる。これにより、効率的な磁気回路設計が可能となりリニアモータの効率向上が図られる。
【0060】
1相当たり複数のコイル間で物理的な結線(半田付けなど)を必要としないのでコイルユニットの小型化にも有効である。
【0061】
なお、コア体310が中空である場合、全体の軽量化を図ったり、コイルによる発熱を冷却する必要がある場合に冷却用媒体の通路として利用したりするのに適しているが、中空でなく棒状であっても良い。
【0062】
また、ボビン体320のコイル受け部の個数は、巻回するコイルの個数に一致させているが、以下のような形態にしても良い。コイル受け部の個数が、例えば6個のボビン体A、12個のボビン体B、・・・、n個のボビン体N、というように複数種類を用意し、コイルが6個以下の場合はボビン体A、7個から12個の場合はボビン体Bを用いるというような形態にすることで汎用性を持たせることができる。
【0063】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0064】
図15は、リニアモータの主要部の断面図であり、図15(a)は上記第1の実施形態により製造されたコイルを用いたリニアモータの主要部の断面を示す。複数のコイルの巻線の配線渡りがコア11の外周に形成された溝111を通して行なわれているので、コイルの外径側に突出部が無く、コイルの外周と環状の永久磁石の内周との間の距離を縮めることができることが理解できよう。図15(b)は、永久磁石として環状ではなく、断面U形状の永久磁石21’を用いたリニアモータの主要部の断面を示す。この場合、コイル12の外周と永久磁石21’の内面側との間には空隙を介して対向しないスペースができるので、複数のコイルの巻線の配線渡りはこのスペースを利用して行なうようにしても良い。つまり、図15(b)では、複数のコイルの巻線の渡りをコイル12の外周側で行なうようにしている。
【0065】
第2の実施形態は、図1に示す第1の実施形態と同様、図13に示したリニアモータ用の固定子(三相コイル)を製造する場合に適用される例である。
【0066】
図16は、図13で説明したような、9個のコイルからなるリニアモータ用の三相コイルを製造するのに適した構成部材を示す。第2の実施形態においても、巻線が相別に予め巻回されている3つのサブボビン100U、100V、100Wと、これらのサブボビンを装着した状態で回転可能な円板状のボビンチャック200のほか、コイルユニット300’が構成部材として用意される。3つのサブボビンとボビンチャック200は製造作業に必要な構成部材であり、コイルユニット300’が三相コイルの一部となる。
【0067】
3つのサブボビン100U、100V、100Wとボビンチャック200は、第1の実施形態において説明したものと同じで良いので、説明は省略する。
【0068】
コイルユニット300’は、図12で説明したセンターコア11となる、磁性材料による中空のコア体310’と、コア体310’の外周に装着、固定されたボビン体320’からなる。ボビン体320’は絶縁性の樹脂材料で作られ、9個のコイルをそれぞれ、コイル長を規定すると共に絶縁状態に区画して形成できるようにするために複数の鍔状の仕切り321が等間隔で設けられている。第2の実施形態でも、ボビン体320’において隣り合う2つの仕切り321の間の部分をコイル受け部と呼ぶ。
【0069】
第2の実施形態では、第1の実施形態においてコア体310の外周に形成した溝311は不要であるので、第1の実施形態においてボビン体320に形成した切れ目322も不要である。つまり、ボビン体320’は、断面が筒状のもので良い。
【0070】
図17は、コイル製造に伴う第1の作業を説明するための図であり、ボビンチャック200の保持部220にコイルユニット300’のコア体310’の一端部がセットされる。以下では、保持部220側のコア体310’(コイルユニット300’)の一端を根元側、コア体310’の反対端を先端側と呼ぶことがある。
【0071】
図18は、コイル製造に伴う第2の作業を説明するための図であり、ボビンチャック200の隣り合う3つのサブボビン装着部210にそれぞれサブボビン100U、100V、100Wが装着される。この時、サブボビン100U、100V、100Wのそれぞれに巻かれている巻線110U、110V、110Wの一部を巻き始め部分として引き出し、それぞれの先端部を粘着テープ等でコア体310’の根元側に仮固定する。
【0072】
図19は、コイル製造に伴う第3の作業を説明するための図であり、特に図13に示すU相コイルU1の形成を開始する作業を説明するための図である。この作業においては、まず、サブボビン100Uをサブボビン装着部210から取り外し、コイルユニット300’の根元側から1番目のコイル受け部の根元側寄りにおいて巻線110Uがコア体310’の中心軸に略直角となるようにした状態でサブボビン100Uを保持する。この状態でのサブボビン100Uの保持は、図示しない保持機構で行なわれるが、サブボビン100Uは完全固定ではなく、中心軸方向やこれに直角な方向(コイルユニット300’に接近、離反する方向)にある程度移動可能な状態にて保持される。
【0073】
図20は、コイル製造に伴う第4の作業を説明するための図であり、図13に示すU相コイルU1のための巻線巻回作業を説明するための図である。この作業においては、ボビンチャック200が図示した矢印の方向(図20では、時計回り方向)に回転駆動される。これによってコイルユニット300’が回転することにより、1番目のコイル受け部への巻線110Uの巻回が始まる。この時、サブボビン100Vの巻線110V、サブボビン100Wの巻線110Wは粘着テープ等でコア体310’の根元側に仮固定されているので、回転によってコア体310’から離れてしまうことはない。
【0074】
コイルユニット300’の回転に連れて巻線110Uの巻回位置がずれてゆき、巻回位置がコイル受け部の先端寄りまでずれると1層目の巻回が終了するが、コイルユニット300’の回転は維持され、巻回位置が反対端側(上記先端とは反対側の端部)に向けてずれてゆくことにより2層目の巻回が行なわれる。巻回位置がコイル受け部の反対端寄りまでずれると2層目の巻回が終了し、続いて上述の1層目と同様の形態で3層目の巻回が始まる。
【0075】
図21は、コイル製造に伴う第5の作業を説明するための図であり、U相コイルU1の巻線巻回作業終了後の作業を説明するための図である。所望の巻数のU相コイルU1の巻線巻回作業が終了したら、ボビンチャック200の回転は停止される。
【0076】
U相コイルU1の形成終了後、U相コイルU1に続いている巻線110Uは、コイル受け部の軸方向の両端部のうち、先端側、反対端側のどちらに位置していても良い。これは、以下の理由による。
【0077】
第1の実施形態では、コイル巻線の配線渡りをコイルの内側で行うために、巻線巻回作業が終了したら、巻線110Uを巻回終了後のU相コイルU1を乗り越えることなく、サブボビン100Uをサブボビン装着部210に戻す必要があった。これに対し、第2の実施形態では、コイル巻線の配線渡りをコイルの外周に沿わせるようにして行なうので、U相コイルU1に続いている巻線110Uが、コイル受け部の軸方向の両端部のうち、先端側、反対端側のどちらに位置していても良い。ちなみに、巻回層数が奇数の場合、U相コイルU1に続く巻線110Uの位置は先端側になり、巻回層数が偶数の場合、U相コイルU1に続く巻線110Uの位置は反対端側になることは言うまでもない。
【0078】
U相コイルU1の形成終了後、サブボビン100Uはボビンチャック200に戻される。この時、U相コイルU1に続く巻線110Uは、粘着テープ等でU相コイルU1の外周に仮固定しておくことが望ましい。
【0079】
以上の点は、V相コイル、W相コイルの巻線巻回作業においても同様である。
【0080】
図22は、コイル製造に伴う第6の作業を説明するための図であり、特に、コイルの極性を逆にするために、巻線の巻回方向を上記のU相コイルU1の巻回作業時とは反対向きにして行う巻線巻回作業を説明するための図である。
【0081】
なお、1組目のコイルで巻線の巻回方向を反対向きにするのは、図13、図14で言えばW相コイルW1であり、順番では3回目の巻線巻回作業となる。しかし、説明を短くするために、ここでも、巻線の巻回方向を反対向きにするのは2回目であり、V相コイルV1であるものとして説明を進める。
【0082】
この作業においては、サブボビン100Vをサブボビン装着部210から取り外し、コイルユニット300’の根元側から2番目のコイル受け部の反対端側において前述のサブボビン100Uの保持位置とは点対称となる反対側で、かつ巻線110Vがコア体310’の中心軸に略直角となるようにした状態でサブボビン100Vを保持する。この状態でのサブボビン100Vの保持も、図示しない保持機構で行なわれ、中心軸方向やこれに直角な方向(コイルユニット300’に接近、離反する方向)にある程度移動可能な状態にて保持される。
【0083】
なお、巻線110Vの巻き始め部分の先端は、コア体310’の根元側で粘着テープにより仮固定されているので、巻線110Vをコイルユニット300’の根元側から2番目のコイル受け部の反対端側まで導くための配線渡りは、U相コイルU1の外周に沿わせて中心軸に平行に行なう。そして、U相コイルU1の外周に沿わせた巻線110Vを粘着テープ等で仮固定するのが好ましい。
【0084】
図23は、コイルの製造に伴う第7の作業を説明するための図であり、V相コイルV1のための巻線巻回作業を説明するための図である。この作業においては、ボビンチャック200が、U相コイルU1の巻回作業の時とは反対の図23に矢印で示す方向(図23では、反時計回り方向)に回転駆動される。これによってコイルユニット300’がU相コイルU1の巻回作業の時とは反対向きに回転することにより、2番目のコイル受け部への巻線110Vの巻回が始まる。U相コイルU1の巻回作業時と同様、サブボビン100Uの巻線110U、サブボビン100Wの巻線110Wが回転によって脱落してしまわないように、巻線110U、110Wを粘着テープ等でコア体310’に仮固定しておくことが望ましい。
【0085】
コイルユニット300’の回転に連れて巻線110Vの巻回位置がコイルユニット300’の先端側にずれてゆき、巻回位置が2番目のコイル受け部の先端寄りまでずれると1層目の巻回が終了するが、コイルユニット300’の回転は維持され、巻回位置が反対端側に向けてずれてゆくことにより2層目の巻回が行なわれる。巻回位置が2番目のコイル受け部の反対端寄りまでずれると2層目の巻回が終了し、続いて1層目と同様の形態で3層目の巻回が始まる。
【0086】
図24は、コイルの製造に伴う第8の作業を説明するための図であり、V相コイルV1の巻線巻回作業終了後の作業を説明するための図である。所望の巻数のV相コイルV1の巻線巻回作業が終了したら、ボビンチャック200の回転が停止される。V相コイルV1の巻線巻回作業が終了したら、サブボビン100Vをサブボビン装着部210に戻す。なお、V相コイルV1に続く巻線110VはV相コイルV1の外周に粘着テープ等で仮固定するのが好ましい。
【0087】
図25は、上記のような巻線巻回作業を繰り返すことにより、ボビン体320’の9個のコイル受け部すべてにコイルが形成された状態を示す。図14に即して言えば、コア体310’の根元側から順にU1−V1−W1−U2−V2−W2−U3−V3−W3の配列となる。また、図13に即して言えば、1組目と3組目のW相コイルW1、W3と、2組目のU相コイルU2とV相コイルV2が、巻線の巻回方向を反対向きにして巻回されていることになる。
【0088】
図25では、ボビンチャック200からU相、V相、W相の各サブボビンが取り外されると共に巻線110U、110V、110Wはコア体310’の根元側に近い位置で切断され、直列接続された3個のU相コイル、3個のV相コイル、3個のW相コイルのそれぞれの巻線の一端側(反対端側)がコア体310’の根元側に導き出されている。巻線110U、110V、110Wの巻き始め部分、巻き終わり部分は、スターあるいはデルタ接続のための結線や図11で説明した制御ドライバー40への接続に用いられる。
【0089】
第2の実施形態では、U相コイルU1の外周においてV相コイル及びW相コイルを形成するためのそれぞれの巻線の配線渡りが行なわれ、V相コイルV1の外周においてU相コイルU2、W相コイルW1を形成するためのそれぞれの巻線の配線渡りが行なわれている。つまり、ある相のコイルの外周においては、他の2つの相のコイルを形成するための巻線の配線渡りが行なわれることになる。各コイル外周での配線渡りは、コア体310’の中心軸方向で直線状になるのが好ましい。
【0090】
これまでのリニアモータ用の三相コイルの製造方法では、すべてのコイルの巻線の巻回方向を同じにしていたため、極性を反対にする必要があるコイルについては、巻線を巻き始め部分と巻き終わり部分で切断し、隣り合うコイルの巻線との接続を変更したうえで半田付けする必要があった。
【0091】
これに対し、第2の実施形態によれば、極性を反対にする必要のあるコイルは、巻線の巻回方向を反対向きすることで実現しているので、途中でコイル間の接続の変更を行なう必要がない。つまり、U相について言えば、U相コイルU1、反対極性のU相コイルU2、U相コイルU3を、途中での巻線切断、接続変更を行なうことなく1本の連続した巻線で形成することができる。
【0092】
なお、第2の実施形態においても、ボビンチャック200とコイルユニット300’は固定状態とし、巻線の巻回を行なうためにコイル受け部に近い箇所で保持されているサブボビン側を、コイルユニット300’を中心として旋回(回動)させることで巻線の巻回が行われても良い。
【0093】
また、第2の実施形態においては、コア体310’とボビン体320’とを仮固定としておき、上記方法により所定数のコイル形成が終了したら、複数のコイルが形成されているボビン体320’をコア体310’から取り外すことができる。そして、取り外したコイル付きのボビン体320’を図26に示すように、比較的小さめの曲率を持つ棒状のコア体310”に装着、固定し直すことで、ある曲率を持つ軌道を往復移動するリニアモータとして適用することができる。この場合には、ボビン体320’は可撓性の絶縁性樹脂材料で作られるのが望ましい。一方、図12で説明した可動子20の内径側、つまり複数の環状あるいはU形状の永久磁石21の内径側も全体として上記曲率を持つように作られる。
【0094】
(第2の実施形態の効果)
以上説明した第2の実施形態によるコイルの製造方法によれば、1相当たり複数のコイルからなる場合であってその中に極性の異なるコイルが存在するような場合であっても1本の巻き線で連続巻きの形態で複数のコイルを形成することができるので半田付けなどの2次的な接続を必要とせず、地絡、短絡の危険性を大幅に軽減できる。
【0095】
図15(b)に示したように、配線の渡りがコイル外部で行われるので、コイル内径がほぼフラットになる。よって断面U形状のヨークと組み合わせてリニアモータを構成することでヨークと永久磁石との間の距離を縮めることができる。これにより、効率的な磁気回路設計が可能となりリニアモータの効率向上が図られる。
【0096】
1相当たり複数のコイル間で物理的な結線(半田付けなど)を必要としないのでコイルユニットの小型化にも有効である。
【0097】
以上の第1、第2の実施形態の説明は、図13に示したリニアモータ用の三相コイルに適用した実施形態であるが、本発明は、2相以上の多相コイルやソレノイドへの適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明による製造方法は、1つの相が複数のコイルからなり、しかもこれらの複数のコイルが連続または断続的に連なるような、リニアモータ用のコイルやソレノイド等のコイルの製造に有効である。
【0099】
また、本発明による製造方法は、2相以上の多相コイルに適用可能であり、結線もデルタ、スターなどに対応可能である。
【符号の説明】
【0100】
10 固定子
11 センターコア
12 コイル
13 パイプ
20 可動子
21 永久磁石
22 磁石ケース
23 ガイドブロック
24 エンコーダヘッド
30 ベース
31 ブラケット
32 ガイドレール
35 電力ケーブル
41 コンピュータ41
100U、100V、100W サブボビン
110U、110V、110W 巻線
200 ボビンチャック
210 サブボビン装着部
220 保持部
300、300’ コイルユニット
310、310’ コア体
311 溝
320、320’ ボビン体
321 仕切り
322 切れ目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のコアの外周に、1つの相が複数のコイルからなる2相以上のコイルを形成する工程を含むコイルの製造方法であって、
前記コアの外周にはコイルの形成領域より長い範囲にわたって軸方向に延びる溝が形成されており、
各相に対応する巻線を相別に用意する工程と、
各相の巻線の巻き始め部分を前記コアの一端側から前記溝に収容した状態にて前記コアの他端側に延ばす工程と、
はじめに巻回を行なう相の巻線以外の巻線を前記溝に収容したままの状態で、その上に、前記はじめに巻回を行なう相の巻線を所定範囲にわたって巻回して最初のコイルを形成する第1の工程と、
前記最初のコイル形成の終了後、前記最初のコイルに続いている前記はじめに巻回を行なう相の巻線を前記溝に収容する第2の工程と、
次に巻回を行なう相の巻線以外の巻線を前記溝に収容したままの状態で、その上に、前記次に巻回を行う相の巻線を前記最初のコイルに隣接させて所定範囲にわたって巻回して次のコイルを形成する第3の工程と、
前記次のコイル形成の終了後、前記次のコイルに続いている前記次に巻回を行なう相の巻線を前記溝に収容する第4の工程と、
を含むことを特徴とするコイルの製造方法。
【請求項2】
前記各相に対応する巻線は相別にボビンに巻回した状態で用意され、
前記コアをその一端側で保持する保持部を有すると共に、前記相別のボビンを個別に装着する複数のボビン装着部を有するチャック部材を備え、
該チャック部材の前記保持部で前記コアの一端側を保持すると共に、巻回を行なう相以外のボビンは前記ボビン装着部に装着した状態とする一方、巻回を行なう相のボビンは前記ボビン装着部から外して巻回を行なうべき領域に近い所定箇所にて当該巻回を行なう相の巻線が前記コアに略直角になるように保持した状態にして当該巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項3】
前記コアを保持している前記チャック部材を前記コアの中心軸を中心として回転駆動することにより、前記巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項2に記載のコイルの製造方法。
【請求項4】
前記巻回を行なう相のボビンを、前記巻回を行なうべき領域に近い箇所にて前記コアの中心軸を中心として旋回させることにより、前記巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項2に記載のコイルの製造方法。
【請求項5】
前記コアにおける前記コイルの形成領域となる部位には絶縁性材料からなるボビン体が装着されており、該ボビン体は、等間隔で設けられた複数の仕切りによって、形成されるべきコイル数に対応したコイル受け部が形成されていると共に、前記コアに形成された前記溝を露出させるために、前記溝に対応する領域に切れ目が形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のコイルの製造方法。
【請求項6】
前記巻回を行なう相の巻線の巻回は、前記コイル受け部へのコイル形成の終了後、当該コイルに続いている前記巻回を行なう相の巻線が前記コイル受け部の軸方向の両端部のうち、前記チャック部材に近い側の端部に位置するように行なわれることを特徴とする請求項5に記載のコイルの製造方法。
【請求項7】
前記1つの相における複数のコイルのうちの少なくとも1つが前記第1の工程で形成されるコイルとは極性が逆である場合、前記少なくとも1つのコイルを形成するための巻線を巻回したボビンを、前記所定箇所に対して点対称の箇所にて前記少なくとも1つのコイルを形成するための巻線が前記コアに略直角になるように保持した状態にし、かつ巻線の巻回方向を前記第1の工程における巻線の巻回方向とは逆向きにして当該少なくとも1つのコイルを形成するための巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項6に記載のコイルの製造方法。
【請求項8】
絶縁性材料からなる筒状のボビン体の外周に、1つの相が複数のコイルからなる第1、第2の相を含む2相以上のコイルを形成する工程を含むコイルの製造方法であって、
各相に対応する巻線を相別に用意する工程と、
一番目に巻回を行なう第1の相の巻線の巻き始め端を前記ボビン体の一端側に導出した状態にて該第1の相の巻線を前記ボビン体の周囲の第1の領域に巻回して第1の相の一番目のコイルを形成する第1の工程と、
二番目に巻回を行なう第2の相の巻線の巻き始め端を前記ボビン体の一端側に導出すると共に該第2の相の巻線を前記一番目のコイルの外周に沿って配線渡りさせた状態にて、該第2の相の巻線を前記一番目のコイルに隣接した前記ボビン体の周囲の第2の領域に巻回して第2の相の一番目のコイルを形成する第2の工程と、を含み、
以後、前記第1の相の巻線を巻回してN番目(Nは正の整数)のコイルを形成する場合、該第1の相の(N−1)番目のコイルの巻き終わり端部につながる当該第1の相の巻線を、前記第2の相の(N−1)番目のコイルの外周に沿って配線渡りさせた状態にて当該N番目のコイルを形成する一方、前記第2の相の巻線を巻回してN番目のコイルを形成する場合、該第2の相の(N−1)番目のコイルの巻き終わり端部につながる当該第2の相の巻線を、前記第1の相のN番目のコイルの外周に沿って配線渡りさせた状態にて当該第2の相のN番目のコイルを形成することを特徴とするコイルの製造方法。
【請求項9】
前記筒状のボビン体は軸状のコア体の外周に装着される一方、前記各相に対応する巻線は相別にボビンに巻回した状態で用意され、
前記コア体を、前記ボビン体の前記一端側と同じ方の一端側で保持する保持部を有すると共に、前記相別のボビンを個別に装着する複数のボビン装着部を有するチャック部材を備え、
該チャック部材の前記保持部で前記コア体の一端側を保持すると共に、巻回を行なう相以外のボビンは前記ボビン装着部に装着した状態とする一方、巻回を行なう相のボビンは前記ボビン装着部から外して巻回を行なうべき領域に近い所定箇所にて当該巻回を行なう相の巻線が前記コア体に略直角になるように保持した状態にして当該巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項8に記載のコイルの製造方法。
【請求項10】
前記コア体を保持している前記チャック部材を前記コア体の中心軸を中心として回転駆動することにより、前記巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項9に記載のコイルの製造方法。
【請求項11】
前記巻回を行なう相のボビンを、前記巻回を行なうべき領域に近い箇所にて前記コアの中心軸を中心として旋回させることにより、前記巻回を行なう相の巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項9に記載のコイルの製造方法。
【請求項12】
前記ボビン体は、等間隔で設けられた複数の仕切りによって、形成されるべきコイル数に対応したコイル受け部が形成されていることを特徴とする請求項10又は11に記載のコイルの製造方法。
【請求項13】
ある相における複数のコイルのうちの少なくとも1つが前記一番目のコイルとは極性が逆である場合、前記少なくとも1つのコイルを形成するための巻線を巻回したボビンを、前記所定箇所に対して点対称の箇所にて前記少なくとも1つのコイルを形成するための巻線が前記コア体に略直角になるように保持した状態にし、かつ巻線の巻回方向を前記一番目のコイルの巻線の巻回方向とは逆向きにして当該少なくとも1つのコイルを形成するための巻線の巻回を行なうことを特徴とする請求項9に記載のコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−188636(P2011−188636A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51703(P2010−51703)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベヤ
【出願人】(501021771)クロノファング株式会社 (3)
【Fターム(参考)】