説明

コイル内蔵基板

【課題】コイルの磁気特性を改善し効率を向上することができるコイル内蔵基板を提供する。
【解決手段】積層方向から透視すると、第1のコイル要素32a〜32dが互いに重なり合う外コイル領域32の内周より内側において、第2のコイル要素34a〜34dが互いに重なり合う。空隙部40は、積層方向に透視すると第2のコイル要素34a〜34dが互いに重なり合う内コイル領域34の内周と外コイル領域32の外周との間に環状に延在し、コイル要素34b,34cの一部が露出するように形成される。第1及び第2のコイル要素32a〜32d,34a〜34dが有する一定の線幅をA、空隙部40の幅をBとすると、1.5≦B/A≦2.0である。空隙部40の個数は、第1のコイル要素32a〜32dと第2のコイル要素34a〜34dの合計個数の半分より少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル内蔵基板に関し、詳しくは、基板の内部にコイルを内蔵しているコイル内蔵基板に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック材料を含む絶縁層と内部導体層とを交互に積層し、一体化した積層体を焼成することにより作製されたコイル内蔵基板上に、半導体集積回路やコンデンサ、抵抗などの回路部品を搭載したモジュール部品が、携帯電話に用いられている。
【0003】
コイル内蔵基板について、基板内部に空隙を設けることが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、図8(a)の断面図及び図8(b)の拡大断面図に示すように、積層型電子部品の積層体110内においてコイル電極130間に空隙140を形成する場合に、空隙140の数をコイル電極130の層数の1/2以上とすること、及び、積層方向における空隙140の幅aと積層方向において互いに隣接するコイル電極130間の距離bとの比が、0<a/b≦1/2とすることが開示されている。0<a/bとするのは応力緩和効果を発現させるためであり、a/b≦1/2とするのは、クラック防止効果を発現させるためとされている。
【0005】
特許文献2には、大きさが異なる内コイルと外コイルとを交互に積層することにより同じ径のコイルが直線状に並んだ場合に比べて積層体表面の凹凸の形成を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−352018号公報
【特許文献2】国際公開第2009/081865号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のように、大きさが異なる内コイルと外コイルとを交互に積層することにより積層体表面の凹凸の形成を抑制した場合において、応力を低減し、コイルの磁気特性を向上することができる空隙の設け方が明らかになっていない。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑み、大きさが異なる内コイルと外コイルとを交互に積層するコイル内蔵基板において、応力を低減し、コイルの磁気特性を効果的に向上する空隙構造を明確にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成したコイル内蔵基板を提供する。
【0010】
コイル内蔵基板は、(a)セラミック材料を含む複数の絶縁層が積層された基板本体と、(b)互いに隣接する前記絶縁層同士の異なる組の当該絶縁層間にそれぞれ配置され、前記基板本体の前記絶縁層が積層される積層方向に延在する仮想中心軸のまわりに形成された複数のコイル要素と、(c)前記絶縁層を貫通して前記コイル要素同士を接続する層間接続導体と、(d)前記基板本体の内部に形成された少なくとも1つの空隙部とを備える。前記コイル要素は、一定の線幅を有する第1及び第2のコイル要素を含む。前記第1のコイル要素は、前記積層方向に透視すると互いに重なり合う。前記第2のコイル要素は、前記積層方向に透視すると前記第1のコイル要素が互いに重なり合う外コイル領域の内周より内側において該内周に接しかつ互いに重なり合う。前記空隙部は、前記積層方向に透視すると前記内コイル領域の内周と前記外コイル領域の外周との間において環状に延在するように、前記第1及び第2のコイル要素のうちの少なくとも一つの前記コイル要素及び当該コイル要素に接している一つの前記絶縁層と当該コイル要素に対向する他の一つの前記絶縁層との間に、当該コイル要素の一部が前記空隙部に露出するように形成される。前記第1及び第2のコイル要素の前記線幅をA、前記空隙部の幅をBとすると、1.5≦B/A≦2.0である。前記空隙部の個数は、前記第1のコイル要素と前記第2のコイル要素の合計個数の半分より少ない。
【0011】
上記構成において、積層方向に透視すると第1のコイル要素同士が重なり合う外コイル領域と、第2のコイル要素同士が重なり合う内コイル領域とは、互いに接している。外コイル領域と内コイル領域とが互いに重なり合わないため、積層方向に透視するとすべてのコイル要素が重なり合う場合に比べ、基板本体の表裏面の凹凸形成を抑制することができる。また、コイル要素と絶縁層との間に形成された空隙部により焼成収縮に伴う残留応力が緩和されるので、コイルの効率が向上する。
【0012】
積層方向に透視すると外コイル領域の外周より外側に空隙部が形成されている場合には、集合基板から個片を分割するため集合基板を折り曲げる際に、空隙部を起点とする亀裂が発生しやすい。しかし、本発明のように、空隙部が積層方向に透視すると外コイル領域の外周より内側に延在していると、亀裂が発生しにくいため、ブレイク不良やクラックが生じにくい。
【0013】
積層方向に透視すると内コイル領域の内周よりも内側に空隙部が形成されている場合には、コイルのL値が低下する。しかし、本発明のように、積層方向に透視すると内コイル領域の内周よりも外側に空隙部が延在していると、コイルのL値は低下しない。
【0014】
空隙部にコイル要素が露出していると、空隙部にコイル要素が露出していない場合よりも、コイル要素の残留応力がより緩和されるので、少ない個数の空隙部で、ブレイク不良やクラックが生じにくいようにすることができる。
【0015】
空隙部の幅Bは、第1及び第2のコイル要素の線幅Aの1.5倍以上であるため、積層方向に透視すると、空隙部は外コイル領域の半分以上と、内コイル領域の半分以上とに重なり合っている。そのため、第1のコイル要素と第2のコイル要素の両方について十分に残留応力を緩和し、コイルの効率を向上させることができる。
【0016】
空隙部の個数が、第1のコイル要素と第2のコイル要素の合計個数の半分より少ないと、例えば空隙部と第1及び第2のコイル要素を積層方向に交互に配置して、第1及び第2のコイル要素の残留応力を効率よく緩和することができる。
【0017】
好ましくは、前記基板本体の前記絶縁層は、(a)磁性体セラミック材料を含む第1及び第2の磁性体フェライト層と、(b)前記第1及び第2の磁性体フェライト層の間に、前記第1及び第2の磁性体フェライト層に隣接して配置された中間非磁性体フェライト層とを含む。
【0018】
この場合、第1及び第2の磁性体フェライト層の間に中間非磁性体フェライト層を設けることにより、直流重畳特性が向上する。
【0019】
好ましくは、前記基板本体の前記絶縁層は、(c)前記第1の磁性体フェライト層の前記中間非磁性体フェライト層とは反対側において前記第1の磁性体フェライト層に隣接して配置され、前記第1の磁性体フェライト層の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有する第1の非磁性体フェライト層と、(d)前記第2の磁性体フェライト層の前記中間非磁性体フェライト層とは反対側において前記第2の磁性体フェライト層に隣接して配置され、前記第2の磁性体フェライト層の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有する第2の非磁性体フェライト層とをさらに含む。
【0020】
第1及び第2の非磁性体フェライト層で第1及び第2の磁性体フェライト層を挟むことにより、基板本体の強度が向上する。第1及び第2の非磁性体フェライト層により磁界の広がりが抑制されるため、基板本体の表裏面及びその近傍に設けられる配線や端子電極に誘導されるノイズが低減される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、空隙を形成しても、ブレイク不良やクラックが生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】コイル内蔵基板の断面図である。(実施例1)
【図2】コイル内蔵基板の分解平面図である。(実施例1)
【図3】コイル内蔵基板の中間層の要部拡大図である。(実施例1)
【図4】空隙層数と変換効率のグラフである。(作製例1)
【図5】空隙外側はみ出し量と変換効率のグラフである。(作製例2)
【図6】空隙内側はみ出し量と変換効率のグラフである。(作製例3)
【図7】空隙導入位置と変換効率のグラフである。(作製例4)
【図8】積層型電子部品の(a)断面図、(b)拡大断面図である。(従来例1)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図7を参照しながら説明する。
【0024】
<実施例1> 実施例1のコイル内蔵基板10について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、コイル内蔵基板10の断面図である。図1に示すように、コイル内蔵基板10は、基板本体12の内部に、コイル30と、面内配線導体22と、層間接続導体24とが形成されている。コイル内蔵基板10は、複数個分の基板本体12となる部分を含む集合基板がブレイク溝に沿って切断され分割された個片である。
【0026】
基板本体12は、図1において上から順に、第1の非磁性体フェライト層16a、第1の磁性体フェライト層14a、中間非磁性体フェライト層16c、第2の磁性体フェライト層14b、第2の非磁性体フェライト層16bが積層されている。第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bは、磁性体セラミック材料、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニッケル及び酸化銅を主成分とする磁性体フェライトとセラミック材料を含む。第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bと中間非磁性体フェライト層16cとは、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛及び酸化銅を主成分とする非磁性体フェライトとセラミック材料を含む。基板本体12の各層14a,14b,16a,16b,16cは、1層又は積層された2層以上のセラミック材料を含む絶縁層からなる。第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16b及び中間非磁性体フェライト層16cの熱膨張係数は、第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bの熱膨張係数よりも小さい。
【0027】
コイル30は、第1のコイル要素32a〜32dと、第2のコイル要素34a〜34dを含む。各コイル要素32a〜32d,34a〜34dは、第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bと中間非磁性体フェライト層16cの内部に、一定の線幅で形成されている。
【0028】
第1のコイル要素32a〜32dと第2のコイル要素34a〜34dとは、互いに隣接する絶縁層同士の異なる組の当該絶縁層間にそれぞれ配置されている。第1のコイル要素32a〜32dと第2のコイル要素34a〜34dとは、積層方向に交互に形成されている。積層方向両端の第1のコイル要素32aと第2のコイル要素34dは、不図示の層間接続導体や面内配線導体を介して、ランド電極26a,26bや端子電極28に接続される。
【0029】
中間非磁性体フェライト層16cをなくした構成とすることもできるが、第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bの間に中間非磁性体フェライト層16cを形成すると、コイル30の直流重畳特性が向上する。
【0030】
第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bをなくした構成とすることもできるが、第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bの熱膨張係数よりも小さい第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bを設け、第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bで第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bを挟むことにより、基板本体12の強度が向上する。第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bにより磁界の広がりが抑制されるため、基板本体12の表裏面及びその近傍に設けられる配線や端子電極に誘導されるノイズが低減される。
【0031】
基板本体12の上面12aには、電子部品2,4を実装するためのランド電極26a,26bが形成されている。基板本体12の下面12bには、コイル内蔵基板10を他の回路基板等に実装するための端子電極28が形成されている。なお、基板本体12の上面12aに実装される部品がない場合には、ランド電極を無くすことができる。
【0032】
図2は、コイル内蔵基板10の分解平面図である。図2に示すように、コイル内蔵基板10は、積層されて基板本体12になる絶縁層12m,・・・,12p〜12t,・・・,12wに、実線の斜線を付した導体パターンが形成されている。また、絶縁層12p〜12tを貫通する層間接続導体24p〜24tが形成されている。なお、図2において、層間接続導体24p〜24t以外の絶縁層を貫通する層間接続導体は、図示を省略している。また、第1のコイル要素32aや第2のコイル34a,34dが形成された絶縁層などの図示を省略している。
【0033】
第1のコイル要素32a〜32dと第2のコイル要素34a〜34dは、層間接続導体を介して交互に接続される。例えば図2に示すように、絶縁層12q,12s上の第2のコイル要素34b,34cの一端34p,34s側と、絶縁層12p,12r上の第1のコイル要素32b,32cの一端32q,32t側とは、絶縁層12p,12rを貫通する層間接続導体24p,24rにより接続される。絶縁層12q,12s上の第2のコイル要素34b,34cの他端34q,34t側と、絶縁層12r,12t上の第1のコイル要素32c,32dの他端32s,32u側とは、絶縁層12q,12sを貫通する層間接続導体24q,24sにより接続される。
【0034】
図2に示すように、第1及び第2のコイル要素32a〜32d,34a〜34dは、基板本体12の絶縁層が積層される積層方向(図2において紙面垂直方向)に延在する仮想中心軸38のまわりを実質的に周方向に延在するように、略リング形状あるいは略C字状に形成されている。第1のコイル要素32a〜32dは、略同一形状であり、同心に配置され、積層方向に透視すると、角度をずらしながら互いに重なり合い、外径が相対的に大きい環状の外コイル領域32(図1参照)を形成する。
【0035】
第2のコイル要素34a〜34dも、略同一形状であり、同心に配置され、積層方向に透視すると、角度をずらしながら互いに重なり合い、外径が相対的に小さい環状の内コイル領域34(図1参照)を形成する。
【0036】
図1に示すように、積層方向に透視すると、第1のコイル要素32a〜32dが互いに重なり合う外コイル領域32の内周と、第2のコイル要素34a〜34dが互いに重なり合う内コイル領域34の外周とは接している。そのため、第1のコイル要素32a〜32dと第2のコイル要素34a〜34dとが積層方向に重なり合わないため、すべてのコイル要素が積層方向に重なり合う場合に比べ、基板本体12の上面12a及び下面12bの凹凸形成を抑制できる。
【0037】
基板本体12の内部には、第2のコイル要素34b,34cに沿って、積層方向に透視すると仮想中心軸38の周りを環状に延在する空隙部40が形成されている。空隙部40は、第2のコイル要素34b,34c及び第2のコイル要素34b,34cに接している一つの絶縁層と、第2のコイル要素34b,34cに対向する他の一つの絶縁層との間に連続して、第2のコイル要素34b,34cの下面全体が露出するように形成されている。
【0038】
空隙部40は、積層方向に透視すると内コイル領域34の内周から、内コイル領域34の外周を越えて、外コイル領域32内まで延在しており、空隙部40の外周側40qは、互いに対向する第1のコイル要素32bと32c、32cと32dの間の積層方向の中間位置に延在している。
【0039】
空隙部40により、第2のコイル要素34a〜34dのみならず第1のコイル要素32a〜34dの残留応力も緩和され、コイルの効率が向上する。すなわち、空隙部40は第2のコイル要素34b,34cを越えて第1のコイル要素32bと32c、32cと32dの間の絶縁層間にも形成されているため、空隙部が第1のコイル要素32bと32c、32cと32dの間の絶縁層間には形成されない場合に比べ、残留応力がより緩和され、コイルの効率がより向上する。
【0040】
積層方向に透視すると、外コイル領域32の外周より外側に空隙部が形成されている場合には、集合基板から個片を分割するため集合基板を折り曲げる際に、空隙部を起点とする亀裂が発生しやすい。そのため、空隙部40は、積層方向に透視すると外コイル領域の外周より内側に形成する。すなわち、第1のコイル要素32a〜32dと第2のコイル34a〜34dの線幅をA、空隙部の幅をBとすると、A/B≦2.0となるように、空隙部40が形成されている。
【0041】
空隙部40は、図2及び図3の要部拡大図に示すように、第2のコイル要素34b,34cに重なり、かつ第2のコイル要素34b,34cの外側にはみ出るように、環状に形成されたカーボンペースト等の空隙形成用材料36が、焼成時に消失することにより形成される。図3において、破線は、積層方向に透視した第1のコイル要素32bを示している。空隙形成用材料36は、第1のコイル要素32bの内周側半分以上の領域に重なるように形成される。
【0042】
次に、コイル内蔵基板10を、集合基板状態で作製する場合の製造工程について説明する。
【0043】
(1)まず、基板本体12の各層と図示しない拘束層とを形成するため、セラミック材料粉末を含み、シート状に成形された未焼結のセラミックグリーンシートを準備する。
【0044】
第1及び第2の磁性体フェライト層14a,14bを形成するためのセラミックグリーンシートには、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ニッケル及び酸化銅を主成分とする磁性体フェライトを用いる。第1及び第2の非磁性体フェライト層16a,16bと中間非磁性体フェライト層16cを形成するためのセラミックグリーンシートには、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛及び酸化銅を主成分とする非磁性体フェライトを用いる。
【0045】
図2に示すように、セラミックグリーンシートの各層12p〜12tの適宜位置にレーザー加工やパンチング加工等により貫通孔を加工し、この貫通孔に導体ペーストを印刷等により埋め込むことによって、層間接続導体24p〜24tを形成する。
【0046】
また、セラミックグリーンシートの各層12m,12p〜12t,12wの一方主面に、導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷するか、あるいは所定パターン形状の金属箔を転写する等によって、実線の斜線を付したコイル要素32a〜32d,34a〜34d、面内配線導体22、ランド電極26a,26b、端子電極28の導体パターンを形成する。
【0047】
なお、第2のコイル要素34b,34cを形成するセラミックグリーンシートの各層12q,12sについては、予め、焼成により焼失するカーボンペーストを印刷することにより、破線の斜線を付した環状の空隙形成用材料36を形成し、空隙形成用材料36の上に、導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷するか、あるいは所定パターン形状の金属箔を転写する等によって、第2のコイル要素34b,34cを形成する。上下を反転する場合には、セラミックグリーンシートの第2のコイル要素34b,34cを形成した後に、空隙形成用材料36を形成する。
【0048】
拘束層に用いる収縮抑制用グリーンシートは、シート状に成形された未焼結のグリーンシートである。収縮抑制用グリーンシートは、基板本体12の各層を形成するためのセラミックグリーンシートの焼成温度よりも高温で焼結するアルミナ等の無機材料粉末を含み、基板本体12の各層を形成するためのセラミックグリーンシートの焼成温度では実質的に焼結しない。
【0049】
(2)次いで、基板本体12の各層を形成する未焼結のセラミックグリーンシートを積層することにより積層体を形成し、積層体の積層方向両側に収縮抑制用グリーンシートを含む拘束層を配置して、複合積層体を作製する。積層方向に比較的小さい圧力を加え、積層体の各層と拘束層とを仮圧着する。
【0050】
複合積層体は、仮圧着した積層体を作製した後に、収縮抑制用グリーンシートを積層してさらに仮圧着することにより作製してもよいし、基板本体12の各層となるセラミックグリーンシートと収縮抑制用グリーンシートとを積層した後、一括して仮圧着することにより作製してもよい。
【0051】
拘束層は、基板本体12の各層を形成する未焼結のセラミックグリーンシートを積層した積層体に、収縮抑制用グリーンシートを作製するためのスラリーをスクリーン印刷により塗布することによって形成してもよい。支持体上に収縮抑制用グリーンシートを形成し、それを、基板本体12の各層を形成する未焼結のセラミックグリーンシートを積層した積層体上に転写することにより、形成してもよい。
【0052】
(3)次いで、複合積層体に比較的大きい圧力を加え、積層体に拘束層を本圧着する。
【0053】
(4)次いで、積層体に拘束層を本圧着した複合積層体を焼成する。焼成は、基板本体12になる積層体の各層を形成するセラミックグリーンシートに含まれるセラミック材料粉末を焼結させ、拘束層の収縮抑制用グリーンシートに含まれる無機材料粉末は焼結させない条件下で行う。すなわち、基板本体12になる積層体の各層を形成するセラミックグリーンシートの焼結温度よりは高く、かつ、拘束層の収縮抑制用グリーンシートの焼結温度よりは低い温度で、焼成する。
【0054】
焼成により、カーボンペーストが分解、揮発し、カーボンペーストが位置していた部分に空隙部40が形成される。
【0055】
(5)次いで、焼成後の複合積層体から拘束層を除去することによって、焼成済みの積層体、すなわちコイル内蔵基板10の集合基板を取り出し、レーザー加工やダイシング加工によりブレイク溝を形成する。必要に応じて、基板本体12の上面12aに形成されたランド電極26a,26bと、下面12bに形成された端子電極28にメッキを行う。
【0056】
(6)以上の工程により完成したコイル内蔵基板10の集合基板のランド電極26a,26bに、表面実装部品やICチップなどの部品2,4を実装した後、ブレイク溝に沿ってコイル内蔵基板10の集合基板を切断し、個片に分割する。
【0057】
次に、上記の方法で作製したコイル内蔵基板(DC−DCコンバータ)の作製例について、図4〜図7を参照しながら説明する。作製例では、第1及び第2のコイル要素32a〜32d,34a〜34dの線幅Aが200μm、第1のコイル要素32a〜32dの内径が1700μm、第2のコイル要素34a〜34dの内径が1300μm、基板本体12の厚みが600μmである。積層方向に透視すると、内コイル領域の外周と外コイル領域の内周とは接している。
【0058】
<作製例1> 図4は、空隙部の個数、すなわち空隙層数を変えた各3個の試料の変換効率を示すグラフである。縦軸は、負荷電流100mAに対する変換効率(%)である。空隙層数が0の試料は、空隙部が形成されていない。空隙層数が1の試料は、図1に示した第2のコイル要素34cに接する空隙部のみが形成されている。空隙層数が2の試料は、図1に示した第1のコイル要素32bに接する空隙部と、第2のコイル要素34cに接する空隙部が形成されている。第1のコイル要素32bに接する空隙部は、第1のコイル要素32bの内周半分に接し、第2のコイル要素34a,34bの間に形成されている。空隙層数が3の試料は、図1に示した第2のコイル要素32a,32b,32cに接する3つの空隙部が形成されている。いずれの空隙部も、内コイル領域の内周から、外コイル領域の中間位置まで、幅300μmで形成されている。
【0059】
図4から、少なくとも1つの空隙部を形成することにより、変換効率が向上することが分かる。
【0060】
<作製例2> 図5は、空隙部が内コイル領域の外周からにはみ出す量を変えた各3個の試料の変換効率を示すグラフである。図1に示した第2のコイル要素34cに沿う空隙部40のみを形成し、その空隙部40の外周側40qが内コイル領域34の外周よりも外側にはみ出る寸法Lを変えた。
【0061】
図5から、空隙部が内コイル領域の外周からにはみ出す量Lが100μm以上であれば、変換効率が向上することが分かる。空隙部の幅をBとすると、B=A+Lであるので、B/A≧1.5であると、変換効率が向上することが分かる。
【0062】
<作製例3> 図6は、空隙部が第2のコイル要素よりも内側にはみ出す量を変えた各3個の試料の変換効率とコイルL値を示すグラフである。空隙内側はみ出し量は、図1において鎖線で示したように、空隙部40の内周40xと内コイル領域32の内周34xとの間の長さXである。
【0063】
図6から、空隙部が第2のコイル要素よりも内側にはみ出すと、変換効率もコイルL値も低下することが分かる。したがって、空隙部は、内コイル領域の内周よりも外側に形成することが好ましい。
【0064】
<作製例4> 図7は、第1のコイル要素(外コイル層)に接する空隙部を形成した各3個の試料と、第2のコイル要素(内コイル層)に接する空隙部を形成した各3個の試料について、変換効率(%)を示すグラフである。前者の試料は、図1において下側3つの第1のコイル要素32b,32c,32dの下面のそれぞれの内側半分が露出し、積層方向から透視すると外コイル領域の内周と外周の間の中間位置から内コイル領域34の内周まで延在する3つの空隙部を有する。後者の試料は、図1において上側3つの第2のコイル要素32a,32b,32cの下面全体が露出し、積層方向から透視すると内コイル領域の内周から、外コイル領域の内周と外周の間の中間位置まで延在する3つの空隙部を有する。空隙部の長さは300μmである。
【0065】
図7から、空隙部に第1のコイル要素が露出する場合も、第2のコイル要素が露出する場合も、変換効率が向上することが分かる。また、空隙部に露出するコイル要素の面積が多いほど、変換効率が向上することが分かる。
【0066】
<まとめ> 以上に説明したように空隙部を形成すると、コイルの磁気特性を改善し効率を向上することができる。
【0067】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0068】
例えば、第1及び第2のコイル要素や空隙部の形状は、実施例に限定されない。第1及び第2のコイル要素や空隙部の個数は、実施例よりも多くても、少なくてもよい。第1及び第2のコイル要素は、積層方向に任意の順序で配置可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 コイル内蔵基板
12 基板本体
12a 上面
12b 下面
12m,12p〜12t,12w 絶縁層
14a 第1の磁性体フェライト層
14b 第2の磁性体フェライト層
16a 第1の非磁性体フェライト層
16b 第2の非磁性体フェライト層
16c 中間非磁性体フェライト層
22 面内配線導体
24,24p〜24t 層間接続導体
26a,26b ランド電極
28 端子電極
30 コイル
32 外コイル領域
32a〜32d 第1のコイル要素
34 内コイル領域
34a〜34d 第2のコイル要素
36 空隙形成用材料
38 仮想中心線
40 空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック材料を含む複数の絶縁層が積層された基板本体と、
互いに隣接する前記絶縁層同士の異なる組の当該絶縁層間にそれぞれ配置され、前記基板本体の前記絶縁層が積層される積層方向に延在する仮想中心軸のまわりに形成された複数のコイル要素と、
前記絶縁層を貫通して前記コイル要素同士を接続する層間接続導体と、
前記基板本体の内部に形成された少なくとも1つの空隙部と、
を備え、
前記コイル要素は、一定の線幅を有する第1及び第2のコイル要素を含み、
前記第1のコイル要素は、前記積層方向に透視すると互いに重なり合い、
前記第2のコイル要素は、前記積層方向に透視すると前記第1のコイル要素が互いに重なり合う外コイル領域の内周より内側において該内周に接しかつ互いに重なり合い、
前記空隙部は、前記積層方向に透視すると前記内コイル領域の内周と前記外コイル領域の外周との間において環状に延在するように、前記第1及び第2のコイル要素のうちの少なくとも一つの前記コイル要素及び当該コイル要素に接している一つの前記絶縁層と当該コイル要素に対向する他の一つの前記絶縁層との間に、当該コイル要素の一部が前記空隙部に露出するように形成され、
前記第1及び第2のコイル要素の前記線幅をA、前記空隙部の幅をBとすると、1.5≦B/A≦2.0であり、
前記空隙部の個数は、前記第1のコイル要素と前記第2のコイル要素の合計個数の半分より少ないことを特徴とする、コイル内蔵基板。
【請求項2】
前記基板本体の前記絶縁層は、
磁性体セラミック材料を含む第1及び第2の磁性体フェライト層と、
前記第1及び第2の磁性体フェライト層の間に、前記第1及び第2の磁性体フェライト層に隣接して配置された中間非磁性体フェライト層とを含むことを特徴とする、請求項1に記載のコイル内蔵基板。
【請求項3】
前記基板本体の前記絶縁層は、
前記第1の磁性体フェライト層の前記中間非磁性体フェライト層とは反対側において前記第1の磁性体フェライト層に隣接して配置され、前記第1の磁性体フェライト層の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有する第1の非磁性体フェライト層と、
前記第2の磁性体フェライト層の前記中間非磁性体フェライト層とは反対側において前記第2の磁性体フェライト層に隣接して配置され、前記第2の磁性体フェライト層の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有する第2の非磁性体フェライト層と、
をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載のコイル内蔵基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−129364(P2012−129364A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279598(P2010−279598)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】