コンバイン
【課題】コンバインにおいて、前処理部17駆動用の作業機HST16の異常停止等に起因して油圧が必要以上に増大することが防止する。
【解決手段】前処理部駆動用の作業機HST16の油圧経路で、圧油を油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16P側に戻す正転迂回経路に、油圧が正転迂回経路通過圧力を越えると通過を許容する正転規制バルブ72を設け、一方油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側への油圧経路に油圧を検知する油圧センサ73を設け、油圧センサ73からの情報によりエンジン1を停止させるエンジン停止手段を設け、エンジン停止圧力を正転迂回経路通過圧力より小さく設定した。
【解決手段】前処理部駆動用の作業機HST16の油圧経路で、圧油を油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16P側に戻す正転迂回経路に、油圧が正転迂回経路通過圧力を越えると通過を許容する正転規制バルブ72を設け、一方油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側への油圧経路に油圧を検知する油圧センサ73を設け、油圧センサ73からの情報によりエンジン1を停止させるエンジン停止手段を設け、エンジン停止圧力を正転迂回経路通過圧力より小さく設定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、穀稈搬送を含む前処理部への前処理伝動系に油圧無段変速装置を備えたコンバインにおける油圧無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来穀稈搬送を含む前処理部への前処理伝動系に油圧無段変速装置(HST)を備えたコンバインが知られており、上記HSTは閉回路で接続された1対の可変容量型油圧ポンプと油圧モータとを備えている。そして走行速度に対応せしめてHSTを変速し、前処理部の動作速度を走行速度にシンクロさせる構成となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前処理部のわら詰まり等による異常停止時には油圧モータが停止し(ロックされ)、油圧が上昇し、該油圧は通常の油圧より高い異常圧力となる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明は、エンジン(1)からの出力を走行伝動系と穀稈搬送を含む前処理部(17)への前処理伝動系とに分岐せしめ、走行伝動系に走行用の油圧伝動装置である走行HST(4)を、前処理伝動系に前処理部駆動用の油圧伝動装置である作業機HST(16)をそれぞれ設け、作業機HST(16)は可変容量型の油圧ポンプ(16P)と油圧モータ(16M)とを備え、作業機HST(16)の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を設けたコンバインにおいて、作業機HST(16)の油圧経路に、油圧モータ(16M)を正回転させる油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への圧油を、油圧モータ(16M)を迂回して油圧ポンプ(16P)側に戻す正転迂回経路を設け、該正転迂回経路内に、油圧モータ(16M)を正転させる正転圧油の油圧が予め設定された正転迂回経路通過圧力より小さい場合には正転迂回経路を閉状態として正転圧油の正転迂回経路の通過を規制する一方、正転圧油の油圧が正転迂回経路通過圧力を越えると正転迂回経路を開状態として正転圧油の正転迂回経路通過を許容する正転規制バルブ(72)を設け、更に正転圧油の油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への油圧経路に、前記正転圧油の油圧を検知する油圧センサ(73)を設け、該油圧センサ(73)からの情報により正転圧油の油圧が所定の圧力を越えるとエンジン(1)を停止せしめるエンジン停止手段を設けると共に、上記エンジン停止圧力を前記正転迂回経路通過圧力より小さく設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明によれば、前処理部17の異常停止等に起因して正転圧油の油圧が必要以上に増大することが防止され、作業機HST16等の油圧機器の寿命を短くしたり、油圧機器を破損したりすることが防止される。
また、エンジン停止圧力は正転迂回経路通過圧力より小さく設定されており、油圧モータ16Mのロック時にはまずエンジン停止機能によりエンジン1が停止されるが、故障等によりエンジン停止機能が作動しない場合に、迂回経路66を介して油圧モータ16Mの正転を規制して作業機HST16の作動を停止せしめる正転規制機能が作動する。
すなわちエンジン停止機能によりエンジン1が、又は正転規制機能により作業機HST16の出力が停止せしめられ、前処理部17や油圧機器等を容易に破損することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は本発明のコンバインにおける穀稈搬送伝動装置を採用したコンバインの伝動系統図であり、エンジン1の駆動軸(出力軸)1aには出力取り出し用の2つのプーリ2,3が取り付けられている。そしてエンジン1からの駆動力はプーリ2を介して走行伝動系として走行用の油圧伝動装置である走行HST4に、またプーリ3を介して作業機伝動系として扱胴6に駆動力を伝動せしめる扱胴入力軸7にそれぞれ分岐して出力されている。
【0007】
そして上記走行HST4を備えた走行伝動用のトランスミッション(走行トランスミッション)8から左右の走行装置用の駆動力が変速されて出力され、これにより左右の走行装置は変速駆動され、機体が変速走行せしめられる構造となっている。
【0008】
一方エンジン1側のプーリ3と扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ9との間には、駆動力伝動用のベルト11が巻き掛けられており、該ベルト11側にはテンションクラッチが脱穀クラッチ12として設けられている。つまり作業機伝動系にはエンジン1から脱穀クラッチ12を介して駆動力が断接自在に伝動されている。
【0009】
そして扱胴入力軸7に脱穀クラッチ12を介して入力される作業機伝動系の駆動力は、扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ13を介して作業機伝動用のトランスミッション(作業機トランスミッション)14に備えられる油圧伝動装置である作業機HST16(作業機HST16の入力プーリ15)に伝動せしめられており、作業機トランスミッション14からコンバインにおける前処理部17への伝動系と、脱穀フィードチェーン18への伝動系が分岐して出力されている。
【0010】
このとき作業機トランスミッション14には、前処理部17への駆動力出力用の前処理出力軸19と、脱穀フィードチェーン18への駆動力出力用のフィードチェーン出力軸21との2つの出力軸が設けられており、脱穀フィードチェーン18はフィードチェーン出力軸21の端部側に設けられたスプロケット22により駆動せしめられている。また扱胴6は扱胴入力軸7からベベルギヤ23を介して直接(トランスミッションを介さず)駆動力が入力されて駆動されている。
【0011】
すなわち作業機伝動系は脱穀部24への伝動系(扱胴6及び脱穀フィードチェーン18への駆動力の伝動)を含み、この脱穀部24への駆動力の伝動は作業機トランスミッション14への駆動力の伝動と共に、作業機伝動系における作業機トランスミッション14への伝動上流側に設けられた脱穀クラッチ12により断接せしめられる。
【0012】
一方前処理部17は、従来同様穀稈の刈取装置(カッタ)41と引起装置42とスターホイールや扱深搬送体43等の穀稈搬送装置等を備え、前処理部17への駆動力の伝動は、前処理部17側の駆動力の入力軸26に取り付けられたプーリ27と、前述の前処理出力軸19に取り付けられたプーリ28との間に巻き掛けられた伝動用のベルト29を介して行われる。
【0013】
なお前処理部17は、従来同様入力軸26に入力される駆動力により上記各機構が、該駆動力の回転数(速度)に応じた駆動速度によって駆動される構造となっている。また上記ベルト29側には前処理部17(入力軸26)への駆動力の伝動を断接するテンションクラッチが前処理クラッチ31として備えられている。
【0014】
以上により前処理クラッチ31の「切り」状態において、脱穀クラッチ12を「入り」作動させることによって、エンジン1から扱胴入力軸7に駆動力が入力され、前処理部17が停止した状態のまま、扱胴6及び脱穀フィードチェーン18が駆動され、さらに前処理クラッチ31を「入り」作動させることにより、前処理部17に駆動力が伝動され、前処理部17(上記各機構)が駆動される。
【0015】
このとき作業機トランスミッション14は図2,図3に示されるように作業機HST16と一体構成されており、作業機HST16により変速される構造となっている。そして前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21は作業機HST16より後段(下流)に設けられている。
【0016】
すなわち作業機トランスミッション14は、作業機HST16の出力軸16aに軸支されたギヤG1が前処理出力軸19に軸支されたギヤG2と噛合しているとともに、前処理出力軸19に軸支されたギヤG3と出力軸16aに自由回転自在に軸支されたギヤG4とが噛合しており、出力軸16aに自由回転自在に軸支され、ギヤG4と一体回転するスプロケットP1とフィードチェーン出力軸21に一体回転可能に軸支されたスプロケットP2とがチェーンCを介して伝動連結された構造となっている。
【0017】
このときフィードチェーン出力軸21とスプロケットP2との間にはトルクリミッタ機構20が介設されている。これにより前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21からの駆動力は共に作業機HST16より変速され、つまりフィードチェーン18及び前処理部17の駆動速度は作業機HST16によって同調して変速される。
【0018】
なお脱穀クラッチ12を「切り」作動させることによって扱胴入力軸7への駆動力が断たれるため、前処理部17,扱胴6,脱穀フィードチェーン18はいずれも停止して駆動されない。またフィードチェーン18側に高負荷(稈詰まり等)がかかるとトルクリミッタ機構20によりフィードチェーン出力軸21への作業機HST16側からの駆動が断たれ、作業機HST16側への過負荷が防止される。
【0019】
一方前述の走行トランスミッション8には、走行HST4にエンジン1側から駆動力が入力されており、走行HST4により変速される駆動力が走行トランスミッション8側に備えられた副変速機構32を介して副変速されて走行装置側に出力されるように構成されている。
【0020】
すなわち走行トランスミッション8側には走行HST4を操作して走行HST4からの出力を変速する主変速レバー33と副変速機構32を操作する副変速レバー(図示せず)とが取り付けられており、主変速レバー33及び副変速レバーの操作によって走行装置側への走行駆動力を変速して、機体の走行速度の変速を行う。
【0021】
このとき上記副変速機構32には副変速された駆動力(変速操作後の駆動力)を出力する副変速出力軸34が取り付けられており、該副変速出力軸34には走行回転センサ36が取り付けられ、副変速出力軸34の回転数(走行速度)を検出することが可能となっている。また作業機トランスミッション14の前処理出力軸19には、該前処理出力軸19の回転数(前処理部17の駆動速度)を検出する前処理回転センサ37が設けられている。
【0022】
さらに上記作業機HST16の変速用のトラニオン軸(図示せず)側には、図1に示されるようにトラニオン軸(作業機HST16の斜板角)を操作して作業機HST16の変速操作を行うアクチュエータ(モータ)39が作業機HST16と一体的に取り付けられている。また図4に示されるように上記両回転センサ36,37が制御装置であるマイコンユニット38に入力されているとともに、モータ39がマイコンユニット38の出力側に接続されている。
【0023】
そしてマイコンユニット38は、上記両回転センサ36,37からの情報に基づいて上記モータ39を制御し、前処理部17(前処理出力軸19)と脱穀フィードチェーン18(フィードチェーン出力軸21)の駆動速度を同調して、走行速度に連動対応(同期)させて前処理部17の駆動速度を自動変速するように構成されている。
【0024】
これは作業走行時には、走行速度に対応して所定の単位時間あたりの刈取穀稈の量が増減せしめられ、上記所定の単位時間あたりの前処理部17が処理するべき穀稈の処理量が変化するため、走行速度に応じて(同期させて)前処理部17(カッタ41,引起装置42,扱深搬送体43等)の駆動速度を変化させる必要があるためである。
【0025】
このため上記マイコンユニット38は走行回転センサ36からの走行速度情報により、前処理部17を当該走行速度に応じた処理量を確保する駆動速度で駆動するように前処理回転センサ37からの情報を監視して作業機HST16の変速をモータ39により制御し、図5のグラフに示されるように前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更する。すなわち前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段が、モータ39,マイコンユニット38,前処理回転センサ37,走行回転センサ36等から構成されている。
【0026】
そしてマイコンユニット38(速度連動手段)は、図5に示されるように、走行速度が所定の低速(速度維持制御開始速度)V1以上の場合は、走行速度に比例させて前処理の駆動速度を増加させ、走行速度が速度維持制御開始速度V1以下(0を含む)となる場合及び後進する際に、前処理部17の駆動を所定の低速速度(維持速度)V2を保って継続するように構成されている。
【0027】
なお上記速度連動手段は、前述のように走行速度が速度維持制御開始速度V1より小さくなると、前処理部17の駆動を維持速度V2で固定して継続するように構成されているが、V1がほぼ0又は0であるように設定しても良い。また維持速度V2はコンバインが刈取り搬送作業を行うことができる程度の速度となっている。
【0028】
そして作業機トランスミッション14は、前述の構造により前処理部17の駆動速度に対してフィードチェーン18が所定の速度比で駆動せしめられるように、前処理出力軸19とフィードチェーン出力軸21との駆動力(回転数)比が設定されている。
【0029】
なお上記構造により作業機HST16の出力回転方向は一方向(正回転)のみで良く、すなわち正回転の変速のみで上記機構を実現することができ、逆回転は不要である。むしろ作業機HST16が逆回転することにより、前処理部17及びフィードチェーン18が逆方向に作動するため、これを防止する必要があり、つまり作業機HST16の逆回転を規制する必要がある。
【0030】
このため作業機HST16は、以下に示されるような構造となっており、逆回転等の規制が行われている。すなわち図6に示されるように作業機HST16は、エンジン1側からの駆動力により回転せしめられて駆動される可変容量型の油圧ポンプ16Pと、該油圧ポンプ16Pに閉回路で接続された油圧モータ16Mと、該閉回路内にオイルを補給するチャージポンプ16Cとを備えており、チャージポンプ16Cが油圧ポンプ16Pと一体的に駆動されるように構成されている。
【0031】
また上記閉回路内には、油圧モータ16Mを正回転又は逆転させる油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側への正転圧油又は逆転圧油を油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16P側(油圧ポンプ16Pの入力側)に戻す迂回経路66が設けられており、該迂回経路66は正転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側へ送油する正転経路管67と、逆転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側へ送油する逆転経路管68との間に設けられている。
【0032】
なお正転経路管67を介して正転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16Mに送油すると、上記正転圧油によって油圧モータ16Mが正転せしめられて、油圧モータ16Mからの排油が逆転経路管68を介して油圧ポンプ16Pに戻され、また逆転経路管68を介して逆転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16Mに送油すると、上記逆転圧油によって油圧モータ16Mが逆転せしめられて、油圧モータ16Mからの排油が正転経路管67を介して油圧ポンプ16Pに戻され、油圧モータ16Mは以上のように回転駆動せしめられる。
【0033】
一方迂回経路66は逆転経路管68側に接続された逆転迂回経路管69と、正転経路管67側に接続された正転迂回経路管71との間に正転規制バルブ72が介設された構造となっており、逆転経路管68側から正転経路管67側には圧油を無条件に送油し、正転経路管67側から逆転経路管68側には圧油が所定の油圧以上となった場合にのみ正転規制バルブ72が開き圧油の送油を行うように構成されている。
【0034】
すなわち上記正転規制バルブ72は、チェックアンド高圧リリーフバルブとなっており、一方向の(逆転経路管68側から正転経路管67側への)圧油(逆転圧油)の送油を許容し、反対方向の(正転経路管67側から逆転経路管68側への)圧油(正転圧油)の送油は、正転圧油の油圧が所定の油圧(正転迂回経路通過圧力)以上の場合のみ許容する構造となっている。
【0035】
なお上記チャージポンプ16Cの出力は逆転迂回経路管69に接続されており、逆転経路管68側及び正転経路管67側にチャージポンプ16Cから補給オイルを送油することが可能となっている。
【0036】
上記構造により油圧モータ16Mが正転方向に駆動され、前処理部17及びフィードチェーン18が通常作動している場合は、図6に示されるように、油圧ポンプ16Pからの正転圧油は正転経路管67を介して油圧モータ16Mに送られ、正転駆動される油圧モータ16Mからの排油は逆転経路管68を介して油圧ポンプ16Pに戻される他、チャージポンプ16Cにより補給用オイルが逆転迂回経路管69を介して逆転経路管68に送られ、上記排油とともに油圧ポンプ16Pに送られる。
【0037】
一方誤って油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側に逆転経路管68を介して逆転圧油が送油された場合は、図7(a)に示されるように逆転経路管68を送油される逆転圧油は、油圧モータ16Mを回転させる際の油圧モータ16M側の抵抗により、油圧モータ16M側には送油されず逆転迂回経路管69から正転規制バルブ72と正転迂回経路管71を介して正転経路管67に送られ、正転経路管67を介して油圧ポンプ16Pに戻される。
【0038】
すなわち逆転圧油は迂回経路66を介して油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16Pに戻され、逆転圧油によって油圧モータ16Mが逆回転されることはなく、油圧モータ16Mの逆回転規制が行われる。これにより逆転圧油を油圧モータ16Mを迂回させて油圧ポンプ16P側に戻す逆転迂回経路に一方向クラッチ等を設けることなく、上記のような簡単な構成で油圧モータ16M(作業機HST16)の逆回転を規制することができる。また作業機HST16はいかなる状況においても逆回転が規制されるため、作業機HST16の停止(出力を0)も容易に行うことができる。
【0039】
一方前処理部17やフィードチェーン18のわら詰まり等による異常停止時には油圧モータ16Mが停止し(ロックされ)、正転経路管67内の正転圧油の油圧が上昇し、該油圧は通常(前処理部17やフィードチェーン18の作動時)の正転圧油の油圧より高い異常圧力となる。
【0040】
このため本実施形態においては前述の正転迂回経路通過圧力が上記異常圧力とほぼ同一値となるように設定されており、これにより正転規制バルブ72がトルクリミッタとして機能し、前処理部17やフィードチェーン18の異常停止時には、図7(b)に示されるように正転規制バルブ72が開状態となり、正転経路管67を送油される正転圧油は、油圧モータ16Mがロックされていることにより、正転迂回経路管71から正転規制バルブ72に送られ、正転規制バルブ72が開き逆転迂回経路管69から逆転経路管68に送られ、油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16Pに戻され、油圧モータ16Mの正回転が停止せしめられる。
【0041】
以上のように上記迂回経路66は、逆転圧油を逆転経路管68から正転経路管67に油圧モータ16Mを迂回して常時無条件に油圧ポンプ16Pの入力側に戻し、油圧モータ16Mの逆回転を規制する逆転迂回経路と、正転圧油を正転経路管67から逆転経路管68に油圧モータ16Mを迂回して正転圧油の油圧が正転迂回経路通過圧力を越えた場合に油圧ポンプ16Pの入力側に戻し、油圧モータ16Mの正回転を規制する正転迂回経路を兼用したものとなっている。
【0042】
すなわち本実施形態においては油圧モータ16Mを逆転駆動する必要がないため、迂回経路66(逆転迂回経路)に逆転圧油の油圧が所定の圧力を越えた場合にのみ逆転圧油の逆転迂回経路通過を許容して、逆転圧油を油圧モータ16Mを迂回させて油圧ポンプ16Pの入力側に戻す逆転規制バルブや、前述の一方向クラッチ等が不要であり、逆転迂回経路を逆転迂回経路管69等の単純な管等により構成することができ、作業機HST16の構造を単純にすることができる。
【0043】
また油圧モータ16Mの逆回転は常時無条件に規制されるため、確実に油圧モータ16Mの逆回転を規制することができる。一方前述のように正転規制バルブ72がトルクリミッタとして機能するため、前処理部17等の異常停止時に前処理部17等の駆動が停止されるため、前処理部17やフィードチェーン18等の破損が防止される他、前処理部17やフィードチェーン18のわら詰まり等を容易に取り除くこともできる。
【0044】
一方上記マイコンユニット38の制御には、エンジン1の作動を緊急停止せしめるエンジン停止手段(機能)が備えられており、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に、上記正転経路管67側に設けられて正転圧油の油圧を検知する圧力センサ(油圧センサ)73が接続され、エンジン停止手段が油圧センサ73からの情報により、正転圧油の油圧が所定のエンジン停止圧力を越えるとエンジン1を停止せしめるように構成されている。
【0045】
これにより前処理部17やフィードチェーン18の異常停止等に起因して正転圧油の油圧が必要以上に増大することが防止され、作業機HST16等の油圧機器の寿命を短くしたり、油圧機器を破損したりすることが防止される。なおエンジン停止圧力は正転迂回経路通過圧力より小さく設定されており、油圧モータ16Mのロック時にはまずエンジン停止機能によりエンジン1が停止されるが、故障等によりエンジン停止機能が作動しない場合に、迂回経路66を介して油圧モータ16Mの正転を規制して作業機HST16の作動を停止せしめる正転規制機能が作動する。
【0046】
すなわちエンジン停止機能によりエンジン1が、又は正転規制機能により作業機HST16の出力が停止せしめられ、前処理部17やフィードチェーン18側又は油圧機器等を容易に破損することはない。また場合によってはエンジン停止機能と作業機HST16側の上記正転規制機能のいずれか一方のみを備えたものとしても良い。
【0047】
以上に示される構造により前処理部17の駆動速度は走行速度にシンクロ(追従)して変化せしめられ、走行速度に対応して穀稈の刈り取り及び下流側への穀稈搬送を円滑に行い、さらにフィードチェーン18が前処理部17の駆動速度変化に追従して駆動速度が変化せしめられ、前処理部17の扱深さ搬送体43によって搬送される穀桿を円滑に受け継ぎ扱胴6側に搬送することができる。
【0048】
このとき前処理部17側とフィードチェーン18側とが同一のトランスミッション(作業機トランスミッション14)によって駆動され、駆動速度が常に同調していることによって、両者の駆動速度の誤差による穀稈の搬送乱れ等が防止される。
【0049】
一方作業機トランスミッション14は上記作業機HST16を用いて構成されているため、前処理部17と脱穀フィードチェーン18の入力側に共通の作業機HST16が配置されることとなり、作業機トランスミッション14側の構造がコンパクトになる他、走行装置だけでなく、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18のいずれも無段階変速されるため、走行速度との関係や刈取量の関係で生じる穀稈の搬送乱れを円滑に防止することができる。
【0050】
また前処理部17と脱穀フィードチェーン18の駆動力が、脱穀クラッチ12の下流側に配置された作業機トランスミッション14から同調して出力されると共に、扱胴6の駆動力も脱穀クラッチ12の下流側からとる構造となっているため、脱穀クラッチ12を「切り」状態とすることによって、前処理部17,脱穀フィードチェーン18,扱胴6等が停止し、脱穀部24停止時に前処理部17を停止させ又は駆動させないための牽制装置が不要となり、構造を簡略化できる。
【0051】
一方前処理クラッチ31が作業機トランスミッション14の伝動下流側(作業機トランスミッション14の前処理出力軸19と前処理部17の入力軸26との間)に配置されているため、脱穀クラッチ12が入り作動している状態においては、作業機HST16は駆動(回転)状態となっている。
【0052】
このため前処理クラッチ31「入」時には、作業機HST16における回転駆動力が入力されて油圧モータ16Mを回転せしめる油圧ポンプ16Pが既に回転しており、該油圧ポンプ16Pと共にチャージポンプ16C(油圧ポンプ16Pと油圧モータ16Mとの間で漏れるオイルの補充用のポンプ)が回転せしめられている。
【0053】
これにより前処理クラッチ31の入り作動時のチャージポンプ16C側への負荷が小さく、チャージポンプ16Cにおける高圧発生がなくなり、また既にチャージポンプ16Cが回転しているため、ピストンの焼き付き等のトラブルも防止でき油圧機器(HST)の耐久性も向上する。
【0054】
なお本実施形態の場合は、走行トランスミッション8及び作業機トランスミッション14が共にHSTを変速装置として使用したものとなっており、HST(作業機HST16)を電子制御により制御し、作業機トランスミッション14を自動変速する構造であるため、速度連動手段の走行速度に対する追従性が高く、且つ走行HST4又は作業機HST16に油温,圧力による容積効率の変化等が発生した場合においても、走行速度と前処理部17の駆動速度とが正確にシンクロする。
【0055】
さらに上記マイコンユニット38の制御には、前述のように走行速度が所定の低速V1以下及び後進する際に前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する駆動速度維持手段(機能)が備えられているため、例えば枕地近傍まで刈り取り作業を行い、主変速(走行HST4)により停止又は後進する際も、駆動速度維持機能によって、前処理部17,フィードチェーン18,扱胴6の駆動が継続する。
【0056】
すなわち上記速度維持機能は、上記のように機体の後進の際にも前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する後進速度維持手段の機能も備えており、これにより穀稈の刈り残し及び搬送残し等が防止され、稈こぼれ等の穀稈の刈取り搬送乱れ等を防止することができる。また前処理部17の駆動速度が必要以上に低下して刈り取り作業が十分行われずに株の引き抜きや押し切りが発生する等の不都合も防止される。
【0057】
一方上記マイコンユニット38の制御には、上記駆動速度維持機能を停止(キャンセル)する速度維持キャンセル手段(機能)が備えられており、切換手段となる、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続された強制掻き込み解除スイッチ53の操作(ON,OFF)により、速度維持キャンセル機能の作動及び非作動(駆動速度維持機能を作動)を設定することができるように構成されている。
【0058】
すなわち強制掻き込み解除スイッチ53をON(入り)操作することによって、速度維持キャンセル機能を作動させ、図8のグラフに示されるように、走行速度が0又は限りなく0に近い所定の低速(近停止速度)V3以下及び後進状態となると作業機HST16をニュートラルとして前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させることができる。
【0059】
これにより通常の刈り取り脱穀作業(条刈り)中は強制掻き込み解除スイッチ53をONとして速度維持キャンセル機能を作動させ、走行速度が0又は近停止速度V3以下及び後進状態となると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させるようにすることによって、例えば脱穀詰まり等が発生し、扱胴6が停止した場合等に、機体を停止させることによって前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させ、詰まりの除去等を容易に行うことができる。
【0060】
また前処理部17や脱穀フィードチェーン18等が停止しているため、あぜ際等における回向時には機体の後方側に排わら等が排出されず、回向に際して後進して排わらを踏みつける等の不都合は防止される。また未刈稈が不要に掻き込まれることも防止される。
【0061】
一方前述の前処理部17は従来同様上下昇降自在となっており、前処理部17側には前処理部17の高さを検出する前処理高さポテンションメータ44が取り付けられ、図4に示されるように上記マイコンユニット38にポテンションメータ44からの情報が入力されている。
【0062】
そしてマイコンユニット38には、上記ポテンショメータ44からの情報により、前処理部17が予め設定された所定の設定高さに上昇せしめられるとモータ39により作業機HST16を操作して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる自動停止手段(機能)が備えられている。
【0063】
これにより例えばあぜ際等における回向時に前処理部17を上昇させた場合に、前処理部17の所定高さへの上昇によって自動停止機能が作動し、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が停止されるため、排わら等の排出が行われない。このため旋回場所にわら等を落下させることが無く、回向時に機体が排わらを踏みつける等の不都合が防止される。このとき前述のように前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が同調して停止するため、搬送乱れや穀稈の詰まり等は防止される。
【0064】
なお前処理部17を上記上昇状態から下降させると、上記設定高さ以下に下降した場合は、自動停止機能が解除され、マイコンユニット38はモータ39を作動せしめ、再度前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を走行速度に同調させて駆動し、刈り取りや搬送等が再開される。
【0065】
またマイコンユニット38には図4に示されるようにリフトシャット解除スイッチ46も入力せしめられており、該リフトシャット解除スイッチ46がONの状態においては、自動停止機能の作動が停止せしめられ、これによりリフトシャット解除スイッチ46がONの場合は、前処理部17が前記設定高さに上昇せしめられても、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動は継続する。
【0066】
ただしマイコンユニット38側には、前処理部17に稈が入っているか否かを感知する扱深さ搬送体43側のメインセンサ47も入力されており、メインセンサ47からマイコンユニット38側への情報により、リフトシャット解除スイッチ46がONの場合であっても前処理部17が稈を流し終えると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる駆動停止手段(機能)が備えられている。
【0067】
すなわちマイコンユニット38は、駆動停止機能によって、前処理部17を上昇させた後にメインセンサ47がOFFとなり稈を流し終えたことを検知すると、モータ39を駆動して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめ、必要以上の駆動を防止する。
【0068】
一方プーリ2と走行HSTの入力プーリ48との間にはメインクラッチ51が設けられており、該メインクラッチ51を切り作動させることにより走行装置側(走行伝動系)への駆動力の伝動を断ち、機体を停止させることが可能となっている。
【0069】
このときメインクラッチ51を操作する走行用のクラッチペダル側にはクラッチペダルの踏み操作(メインクラッチ51の切り操作)を検知するセンサ(セーフティースイッチ)52が設けられており、該セーフティースイッチ52からの情報はマイコンユニット38に入力されている。そしてマイコンユニット38には、セーフティースイッチ52のON(クラッチペダルの踏み操作時)によりモータ39を駆動して作業機HST16の出力を0(ニュートラル)とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる作動停止手段(機能)も設けられている。
【0070】
なおクラッチペダルの踏み操作の際には、主変速レバー33も強制的にニュートラルに戻され、走行HST4も出力が0(ニュートラル)に切り換えられる。これによりオペレータは走行用のクラッチペダルを踏み込み、メインクラッチ51を切り作動させることにより機体を緊急停止させることができ、緊急停止の操作が容易であり、且つ確実に緊急停止することができる。
【0071】
ところで未刈穀稈が倒伏している状態での刈り取り作業は、引き起こしの性能上前処理部17の駆動速度を上昇させる必要がある。すなわち本コンバインの場合、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の比例係数を高くして、前述のように走行速度に対して速度連動手段により設定される前処理部17の駆動速度を早くする必要がある。
【0072】
このため本実施形態においては、マイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度を上昇させる速度上昇手段(機能)が備えられており、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている倒伏スイッチ58のON,OFFにより速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0073】
これにより本実施形態のコンバインにより倒伏穀稈の刈り取り脱穀作業を行う場合は、オペレータがマニュアル(手動)で倒伏スイッチ58をONすることによって、速度上昇機能を作動させ、図9に示されるように、図5と同様の駆動速度S1(図9の点線)に比較して、走行速度に対して前処理部17を高速S2(図9の実線)で駆動し、これにより倒伏穀稈の刈り取りを容易に且つ安定して行うことができる。なお倒伏スイッチ58をOFFにすると、前処理部17はS1の速度で駆動される。
【0074】
また前処理部17からフィードチェーン18側に搬送される穀稈が適正姿勢となる前処理部17の駆動速度は材料条件(稲の立毛角や稈剛性等)や圃場条件等により異なり、上記のようにいかなる条件の場合においても、速度連動手段や速度上昇機能により予め設定された駆動速度(標準速度)で前処理部17を駆動すると穂先又は株元先行等の穀稈搬送に乱れが発生する場合がある。
【0075】
この不都合を避けるため、本実施形態においてはマイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の速度比(上記比例係数)の変更を行い、前処理部17の駆動速度を上記標準速度に対して変更する速度変更手段(機能)を設け、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている前処理速度変更ダイヤルスイッチ59の切換により速度変更機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0076】
このとき前処理速度変更ダイヤルスイッチ59は図10に示されるように複数の切換ポジションを有したものとなっており、各ポジションに切り換えることにより、図11のグラフに示されるように標準速度に対して駆動速度が増減するように構成されている。すなわち前処理速度変更ダイヤルスイッチ59をポジション1に切り換えると図11の1の比例係数で駆動され、以下ポジション7まで同様に駆動される。
【0077】
これにより走行速度(標準速度)に対して前処理部17の駆動速度を上げると穂先が先行し、下げると株元が先行する(穂先が遅れる)こととなり、圃場条件により穂先又は株元先行等の穀稈搬送の乱れが発生した場合に、前処理速度変更ダイヤルスイッチ59を適当なポジションに切り換えることによって穀稈搬送の乱れを補正することができる。なお前処理速度変更ダイヤルスイッチ59としてバリアブル抵抗(ボリューム等)を使用して、駆動速度の増減を無段階に設定するように構成しても良い。
【0078】
またフィードチェーン18の前処理部17からの受け継ぎ部分に、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続してカメラ61を設け、該カメラ61により撮影される穀稈の姿勢に基づき速度変更機能を作動させ、前処理部17の駆動速度の調節によって穀稈の搬送姿勢を自動補正するように構成しても良い。
【0079】
なお本発明のコンバインを手扱ぎ作業に使用する場合、走行速度が0となるため、速度維持キャンセル機能を作動させている(強制掻き込み解除スイッチ53をON)と前処理部の駆動速度が0、速度維持キャンセル機能を非作動(強制掻き込み解除スイッチ53をOFF)としていると駆動速度維持機能が作動して前処理部の駆動速度がV2となる。
【0080】
つまり手扱ぎ作業の場合、フィードチェーン18の駆動速度が0又は比較的低速(V2)となり、作業ができないか又は悪化する。この不都合を避けるため本発明のマイコンユニット38には手扱ぎ速度上昇手段(機能)が備えられており、該手扱ぎ速度上昇機能により手扱ぎ作業時のフィードチェーン18の駆動速度を上昇させ、手扱ぎ作業を効率よく行うことができるように構成されている。
【0081】
すなわちマイコンユニット38には図4に示されるように手扱ぎ状態を検知する手扱ぎスイッチ56が接続されており、マイコンユニット38は該手扱ぎスイッチ56のON,OFFにより手扱ぎ速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0082】
ところで本実施形態においては、図12に示されるように従来同様フィードチェーン18の上方には、フィードチェーン18と共に穀稈を挾持する挾扼レール62と、該挾扼レール62の前端部62aにおいてフィードチェーン18に対して上下揺動自在に支持された穀稈押え杆63とが備えられており、該穀稈押え杆63は、フィードチェーン18に対して起立させる手扱ぎ作業位置Hと、フィードチェーン18に対して前端を倒伏させる通常作業位置Aとに姿勢切換えが自在となっている。
【0083】
そして本実施形態の場合、上記手扱ぎスイッチ56は挾扼レール62側に設けられており、穀稈押え杆63を起立姿勢(手扱ぎ作業位置H)に切り換えると、穀稈押え杆63の支持ユニット64によりONとなり、マイコンユニット38が手扱ぎ速度上昇機能を入り作動せしめる。
【0084】
また前述の前処理クラッチ31側には前処理クラッチ31の入り切りを操作するアクチュエータ(前処理クラッチモータ)が、図4に示されるようにマイコンユニット38の出力側に接続されて設けられており、該前処理クラッチモータ57の駆動により前処理クラッチ31の入り切りを前述の手動以外に自動で操作することができるように構成されている。
【0085】
これにより穀稈押え杆63を手扱ぎ作業位置Hに切り換え、上記手扱ぎスイッチ56がONとなると、マイコンユニット38は、手扱ぎ速度上昇機能を作動させ、図13に示されるように、走行速度が所定速度以下となったときの前処理部17の駆動速度を維持速度V2から手扱ぎ作業を効率よく行うことができる手扱ぎ維持速度V4に上昇させるとともに、前処理クラッチモータ57を駆動して前処理クラッチ31を切り作動させる。
【0086】
この場合は前処理部17の駆動が停止せしめられ状態で、フィードチェーン18が予め設定された手扱ぎ維持速度V4に対応する速度で駆動される。これにより手扱ぎ作業時に作業効率が低下することなく、手扱ぎ作業を効率よく行うことができる。
【0087】
なおマイコンユニット38は、速度維持キャンセル機能の作動に対して、強制掻き込み解除スイッチ53のON,OFFの他、手扱ぎスイッチ56のON,OFFもチェックしており、手扱ぎスイッチ56がONの場合は、たとえ強制掻き込み解除スイッチ53がONであっても速度維持キャンセル機能を作動させない速度維持キャンセル規制手段(機能)が備えられている。
【0088】
これにより手扱ぎ作業時には、手扱ぎスイッチ56がONとなるため速度維持キャンセル規制機能が作動して、速度維持キャンセル機能が作動(強制掻き込み解除スイッチ53がON)していた場合であっても、速度維持キャンセル機能が自動的に停止せしめられ、フィードチェーン18の駆動速度が0となる不都合は自動的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】コンバインの伝動線図である。
【図2】作業機トランスミッションの平断面図である。
【図3】作業機トランスミッションの正面図である。
【図4】マイコンユニット部分のブロック図である。
【図5】走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図6】作業機HSTの通常作動時の圧油の流れを示した油圧回路である。
【図7】(a),(b)は、作業機HSTの油圧ポンプから逆転圧油を送り出した場合と、油圧モータがロックした場合の圧油の流れを示した油圧回路である。
【図8】速度維持キャンセル機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図9】速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図10】前処理速度変更ダイヤルスイッチの平面図である。
【図11】速度変更機能を作動させた場合の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図12】フィードチェーンの前端部分の側面図である。
【図13】手扱ぎ速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0090】
1 エンジン
14 作業機トランスミッション(前処理変速機)
16 作業機HST(油圧無段変速装置)
16P 油圧ポンプ
16M 油圧モータ
17 前処理部
72 正転規制バルブ
73 油圧センサ
【技術分野】
【0001】
この発明は、穀稈搬送を含む前処理部への前処理伝動系に油圧無段変速装置を備えたコンバインにおける油圧無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来穀稈搬送を含む前処理部への前処理伝動系に油圧無段変速装置(HST)を備えたコンバインが知られており、上記HSTは閉回路で接続された1対の可変容量型油圧ポンプと油圧モータとを備えている。そして走行速度に対応せしめてHSTを変速し、前処理部の動作速度を走行速度にシンクロさせる構成となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前処理部のわら詰まり等による異常停止時には油圧モータが停止し(ロックされ)、油圧が上昇し、該油圧は通常の油圧より高い異常圧力となる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明は、エンジン(1)からの出力を走行伝動系と穀稈搬送を含む前処理部(17)への前処理伝動系とに分岐せしめ、走行伝動系に走行用の油圧伝動装置である走行HST(4)を、前処理伝動系に前処理部駆動用の油圧伝動装置である作業機HST(16)をそれぞれ設け、作業機HST(16)は可変容量型の油圧ポンプ(16P)と油圧モータ(16M)とを備え、作業機HST(16)の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を設けたコンバインにおいて、作業機HST(16)の油圧経路に、油圧モータ(16M)を正回転させる油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への圧油を、油圧モータ(16M)を迂回して油圧ポンプ(16P)側に戻す正転迂回経路を設け、該正転迂回経路内に、油圧モータ(16M)を正転させる正転圧油の油圧が予め設定された正転迂回経路通過圧力より小さい場合には正転迂回経路を閉状態として正転圧油の正転迂回経路の通過を規制する一方、正転圧油の油圧が正転迂回経路通過圧力を越えると正転迂回経路を開状態として正転圧油の正転迂回経路通過を許容する正転規制バルブ(72)を設け、更に正転圧油の油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への油圧経路に、前記正転圧油の油圧を検知する油圧センサ(73)を設け、該油圧センサ(73)からの情報により正転圧油の油圧が所定の圧力を越えるとエンジン(1)を停止せしめるエンジン停止手段を設けると共に、上記エンジン停止圧力を前記正転迂回経路通過圧力より小さく設定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明によれば、前処理部17の異常停止等に起因して正転圧油の油圧が必要以上に増大することが防止され、作業機HST16等の油圧機器の寿命を短くしたり、油圧機器を破損したりすることが防止される。
また、エンジン停止圧力は正転迂回経路通過圧力より小さく設定されており、油圧モータ16Mのロック時にはまずエンジン停止機能によりエンジン1が停止されるが、故障等によりエンジン停止機能が作動しない場合に、迂回経路66を介して油圧モータ16Mの正転を規制して作業機HST16の作動を停止せしめる正転規制機能が作動する。
すなわちエンジン停止機能によりエンジン1が、又は正転規制機能により作業機HST16の出力が停止せしめられ、前処理部17や油圧機器等を容易に破損することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は本発明のコンバインにおける穀稈搬送伝動装置を採用したコンバインの伝動系統図であり、エンジン1の駆動軸(出力軸)1aには出力取り出し用の2つのプーリ2,3が取り付けられている。そしてエンジン1からの駆動力はプーリ2を介して走行伝動系として走行用の油圧伝動装置である走行HST4に、またプーリ3を介して作業機伝動系として扱胴6に駆動力を伝動せしめる扱胴入力軸7にそれぞれ分岐して出力されている。
【0007】
そして上記走行HST4を備えた走行伝動用のトランスミッション(走行トランスミッション)8から左右の走行装置用の駆動力が変速されて出力され、これにより左右の走行装置は変速駆動され、機体が変速走行せしめられる構造となっている。
【0008】
一方エンジン1側のプーリ3と扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ9との間には、駆動力伝動用のベルト11が巻き掛けられており、該ベルト11側にはテンションクラッチが脱穀クラッチ12として設けられている。つまり作業機伝動系にはエンジン1から脱穀クラッチ12を介して駆動力が断接自在に伝動されている。
【0009】
そして扱胴入力軸7に脱穀クラッチ12を介して入力される作業機伝動系の駆動力は、扱胴入力軸7に取り付けられたプーリ13を介して作業機伝動用のトランスミッション(作業機トランスミッション)14に備えられる油圧伝動装置である作業機HST16(作業機HST16の入力プーリ15)に伝動せしめられており、作業機トランスミッション14からコンバインにおける前処理部17への伝動系と、脱穀フィードチェーン18への伝動系が分岐して出力されている。
【0010】
このとき作業機トランスミッション14には、前処理部17への駆動力出力用の前処理出力軸19と、脱穀フィードチェーン18への駆動力出力用のフィードチェーン出力軸21との2つの出力軸が設けられており、脱穀フィードチェーン18はフィードチェーン出力軸21の端部側に設けられたスプロケット22により駆動せしめられている。また扱胴6は扱胴入力軸7からベベルギヤ23を介して直接(トランスミッションを介さず)駆動力が入力されて駆動されている。
【0011】
すなわち作業機伝動系は脱穀部24への伝動系(扱胴6及び脱穀フィードチェーン18への駆動力の伝動)を含み、この脱穀部24への駆動力の伝動は作業機トランスミッション14への駆動力の伝動と共に、作業機伝動系における作業機トランスミッション14への伝動上流側に設けられた脱穀クラッチ12により断接せしめられる。
【0012】
一方前処理部17は、従来同様穀稈の刈取装置(カッタ)41と引起装置42とスターホイールや扱深搬送体43等の穀稈搬送装置等を備え、前処理部17への駆動力の伝動は、前処理部17側の駆動力の入力軸26に取り付けられたプーリ27と、前述の前処理出力軸19に取り付けられたプーリ28との間に巻き掛けられた伝動用のベルト29を介して行われる。
【0013】
なお前処理部17は、従来同様入力軸26に入力される駆動力により上記各機構が、該駆動力の回転数(速度)に応じた駆動速度によって駆動される構造となっている。また上記ベルト29側には前処理部17(入力軸26)への駆動力の伝動を断接するテンションクラッチが前処理クラッチ31として備えられている。
【0014】
以上により前処理クラッチ31の「切り」状態において、脱穀クラッチ12を「入り」作動させることによって、エンジン1から扱胴入力軸7に駆動力が入力され、前処理部17が停止した状態のまま、扱胴6及び脱穀フィードチェーン18が駆動され、さらに前処理クラッチ31を「入り」作動させることにより、前処理部17に駆動力が伝動され、前処理部17(上記各機構)が駆動される。
【0015】
このとき作業機トランスミッション14は図2,図3に示されるように作業機HST16と一体構成されており、作業機HST16により変速される構造となっている。そして前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21は作業機HST16より後段(下流)に設けられている。
【0016】
すなわち作業機トランスミッション14は、作業機HST16の出力軸16aに軸支されたギヤG1が前処理出力軸19に軸支されたギヤG2と噛合しているとともに、前処理出力軸19に軸支されたギヤG3と出力軸16aに自由回転自在に軸支されたギヤG4とが噛合しており、出力軸16aに自由回転自在に軸支され、ギヤG4と一体回転するスプロケットP1とフィードチェーン出力軸21に一体回転可能に軸支されたスプロケットP2とがチェーンCを介して伝動連結された構造となっている。
【0017】
このときフィードチェーン出力軸21とスプロケットP2との間にはトルクリミッタ機構20が介設されている。これにより前処理出力軸19及びフィードチェーン出力軸21からの駆動力は共に作業機HST16より変速され、つまりフィードチェーン18及び前処理部17の駆動速度は作業機HST16によって同調して変速される。
【0018】
なお脱穀クラッチ12を「切り」作動させることによって扱胴入力軸7への駆動力が断たれるため、前処理部17,扱胴6,脱穀フィードチェーン18はいずれも停止して駆動されない。またフィードチェーン18側に高負荷(稈詰まり等)がかかるとトルクリミッタ機構20によりフィードチェーン出力軸21への作業機HST16側からの駆動が断たれ、作業機HST16側への過負荷が防止される。
【0019】
一方前述の走行トランスミッション8には、走行HST4にエンジン1側から駆動力が入力されており、走行HST4により変速される駆動力が走行トランスミッション8側に備えられた副変速機構32を介して副変速されて走行装置側に出力されるように構成されている。
【0020】
すなわち走行トランスミッション8側には走行HST4を操作して走行HST4からの出力を変速する主変速レバー33と副変速機構32を操作する副変速レバー(図示せず)とが取り付けられており、主変速レバー33及び副変速レバーの操作によって走行装置側への走行駆動力を変速して、機体の走行速度の変速を行う。
【0021】
このとき上記副変速機構32には副変速された駆動力(変速操作後の駆動力)を出力する副変速出力軸34が取り付けられており、該副変速出力軸34には走行回転センサ36が取り付けられ、副変速出力軸34の回転数(走行速度)を検出することが可能となっている。また作業機トランスミッション14の前処理出力軸19には、該前処理出力軸19の回転数(前処理部17の駆動速度)を検出する前処理回転センサ37が設けられている。
【0022】
さらに上記作業機HST16の変速用のトラニオン軸(図示せず)側には、図1に示されるようにトラニオン軸(作業機HST16の斜板角)を操作して作業機HST16の変速操作を行うアクチュエータ(モータ)39が作業機HST16と一体的に取り付けられている。また図4に示されるように上記両回転センサ36,37が制御装置であるマイコンユニット38に入力されているとともに、モータ39がマイコンユニット38の出力側に接続されている。
【0023】
そしてマイコンユニット38は、上記両回転センサ36,37からの情報に基づいて上記モータ39を制御し、前処理部17(前処理出力軸19)と脱穀フィードチェーン18(フィードチェーン出力軸21)の駆動速度を同調して、走行速度に連動対応(同期)させて前処理部17の駆動速度を自動変速するように構成されている。
【0024】
これは作業走行時には、走行速度に対応して所定の単位時間あたりの刈取穀稈の量が増減せしめられ、上記所定の単位時間あたりの前処理部17が処理するべき穀稈の処理量が変化するため、走行速度に応じて(同期させて)前処理部17(カッタ41,引起装置42,扱深搬送体43等)の駆動速度を変化させる必要があるためである。
【0025】
このため上記マイコンユニット38は走行回転センサ36からの走行速度情報により、前処理部17を当該走行速度に応じた処理量を確保する駆動速度で駆動するように前処理回転センサ37からの情報を監視して作業機HST16の変速をモータ39により制御し、図5のグラフに示されるように前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更する。すなわち前処理部17の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段が、モータ39,マイコンユニット38,前処理回転センサ37,走行回転センサ36等から構成されている。
【0026】
そしてマイコンユニット38(速度連動手段)は、図5に示されるように、走行速度が所定の低速(速度維持制御開始速度)V1以上の場合は、走行速度に比例させて前処理の駆動速度を増加させ、走行速度が速度維持制御開始速度V1以下(0を含む)となる場合及び後進する際に、前処理部17の駆動を所定の低速速度(維持速度)V2を保って継続するように構成されている。
【0027】
なお上記速度連動手段は、前述のように走行速度が速度維持制御開始速度V1より小さくなると、前処理部17の駆動を維持速度V2で固定して継続するように構成されているが、V1がほぼ0又は0であるように設定しても良い。また維持速度V2はコンバインが刈取り搬送作業を行うことができる程度の速度となっている。
【0028】
そして作業機トランスミッション14は、前述の構造により前処理部17の駆動速度に対してフィードチェーン18が所定の速度比で駆動せしめられるように、前処理出力軸19とフィードチェーン出力軸21との駆動力(回転数)比が設定されている。
【0029】
なお上記構造により作業機HST16の出力回転方向は一方向(正回転)のみで良く、すなわち正回転の変速のみで上記機構を実現することができ、逆回転は不要である。むしろ作業機HST16が逆回転することにより、前処理部17及びフィードチェーン18が逆方向に作動するため、これを防止する必要があり、つまり作業機HST16の逆回転を規制する必要がある。
【0030】
このため作業機HST16は、以下に示されるような構造となっており、逆回転等の規制が行われている。すなわち図6に示されるように作業機HST16は、エンジン1側からの駆動力により回転せしめられて駆動される可変容量型の油圧ポンプ16Pと、該油圧ポンプ16Pに閉回路で接続された油圧モータ16Mと、該閉回路内にオイルを補給するチャージポンプ16Cとを備えており、チャージポンプ16Cが油圧ポンプ16Pと一体的に駆動されるように構成されている。
【0031】
また上記閉回路内には、油圧モータ16Mを正回転又は逆転させる油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側への正転圧油又は逆転圧油を油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16P側(油圧ポンプ16Pの入力側)に戻す迂回経路66が設けられており、該迂回経路66は正転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側へ送油する正転経路管67と、逆転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側へ送油する逆転経路管68との間に設けられている。
【0032】
なお正転経路管67を介して正転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16Mに送油すると、上記正転圧油によって油圧モータ16Mが正転せしめられて、油圧モータ16Mからの排油が逆転経路管68を介して油圧ポンプ16Pに戻され、また逆転経路管68を介して逆転圧油を油圧ポンプ16Pから油圧モータ16Mに送油すると、上記逆転圧油によって油圧モータ16Mが逆転せしめられて、油圧モータ16Mからの排油が正転経路管67を介して油圧ポンプ16Pに戻され、油圧モータ16Mは以上のように回転駆動せしめられる。
【0033】
一方迂回経路66は逆転経路管68側に接続された逆転迂回経路管69と、正転経路管67側に接続された正転迂回経路管71との間に正転規制バルブ72が介設された構造となっており、逆転経路管68側から正転経路管67側には圧油を無条件に送油し、正転経路管67側から逆転経路管68側には圧油が所定の油圧以上となった場合にのみ正転規制バルブ72が開き圧油の送油を行うように構成されている。
【0034】
すなわち上記正転規制バルブ72は、チェックアンド高圧リリーフバルブとなっており、一方向の(逆転経路管68側から正転経路管67側への)圧油(逆転圧油)の送油を許容し、反対方向の(正転経路管67側から逆転経路管68側への)圧油(正転圧油)の送油は、正転圧油の油圧が所定の油圧(正転迂回経路通過圧力)以上の場合のみ許容する構造となっている。
【0035】
なお上記チャージポンプ16Cの出力は逆転迂回経路管69に接続されており、逆転経路管68側及び正転経路管67側にチャージポンプ16Cから補給オイルを送油することが可能となっている。
【0036】
上記構造により油圧モータ16Mが正転方向に駆動され、前処理部17及びフィードチェーン18が通常作動している場合は、図6に示されるように、油圧ポンプ16Pからの正転圧油は正転経路管67を介して油圧モータ16Mに送られ、正転駆動される油圧モータ16Mからの排油は逆転経路管68を介して油圧ポンプ16Pに戻される他、チャージポンプ16Cにより補給用オイルが逆転迂回経路管69を介して逆転経路管68に送られ、上記排油とともに油圧ポンプ16Pに送られる。
【0037】
一方誤って油圧ポンプ16Pから油圧モータ16M側に逆転経路管68を介して逆転圧油が送油された場合は、図7(a)に示されるように逆転経路管68を送油される逆転圧油は、油圧モータ16Mを回転させる際の油圧モータ16M側の抵抗により、油圧モータ16M側には送油されず逆転迂回経路管69から正転規制バルブ72と正転迂回経路管71を介して正転経路管67に送られ、正転経路管67を介して油圧ポンプ16Pに戻される。
【0038】
すなわち逆転圧油は迂回経路66を介して油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16Pに戻され、逆転圧油によって油圧モータ16Mが逆回転されることはなく、油圧モータ16Mの逆回転規制が行われる。これにより逆転圧油を油圧モータ16Mを迂回させて油圧ポンプ16P側に戻す逆転迂回経路に一方向クラッチ等を設けることなく、上記のような簡単な構成で油圧モータ16M(作業機HST16)の逆回転を規制することができる。また作業機HST16はいかなる状況においても逆回転が規制されるため、作業機HST16の停止(出力を0)も容易に行うことができる。
【0039】
一方前処理部17やフィードチェーン18のわら詰まり等による異常停止時には油圧モータ16Mが停止し(ロックされ)、正転経路管67内の正転圧油の油圧が上昇し、該油圧は通常(前処理部17やフィードチェーン18の作動時)の正転圧油の油圧より高い異常圧力となる。
【0040】
このため本実施形態においては前述の正転迂回経路通過圧力が上記異常圧力とほぼ同一値となるように設定されており、これにより正転規制バルブ72がトルクリミッタとして機能し、前処理部17やフィードチェーン18の異常停止時には、図7(b)に示されるように正転規制バルブ72が開状態となり、正転経路管67を送油される正転圧油は、油圧モータ16Mがロックされていることにより、正転迂回経路管71から正転規制バルブ72に送られ、正転規制バルブ72が開き逆転迂回経路管69から逆転経路管68に送られ、油圧モータ16Mを迂回して油圧ポンプ16Pに戻され、油圧モータ16Mの正回転が停止せしめられる。
【0041】
以上のように上記迂回経路66は、逆転圧油を逆転経路管68から正転経路管67に油圧モータ16Mを迂回して常時無条件に油圧ポンプ16Pの入力側に戻し、油圧モータ16Mの逆回転を規制する逆転迂回経路と、正転圧油を正転経路管67から逆転経路管68に油圧モータ16Mを迂回して正転圧油の油圧が正転迂回経路通過圧力を越えた場合に油圧ポンプ16Pの入力側に戻し、油圧モータ16Mの正回転を規制する正転迂回経路を兼用したものとなっている。
【0042】
すなわち本実施形態においては油圧モータ16Mを逆転駆動する必要がないため、迂回経路66(逆転迂回経路)に逆転圧油の油圧が所定の圧力を越えた場合にのみ逆転圧油の逆転迂回経路通過を許容して、逆転圧油を油圧モータ16Mを迂回させて油圧ポンプ16Pの入力側に戻す逆転規制バルブや、前述の一方向クラッチ等が不要であり、逆転迂回経路を逆転迂回経路管69等の単純な管等により構成することができ、作業機HST16の構造を単純にすることができる。
【0043】
また油圧モータ16Mの逆回転は常時無条件に規制されるため、確実に油圧モータ16Mの逆回転を規制することができる。一方前述のように正転規制バルブ72がトルクリミッタとして機能するため、前処理部17等の異常停止時に前処理部17等の駆動が停止されるため、前処理部17やフィードチェーン18等の破損が防止される他、前処理部17やフィードチェーン18のわら詰まり等を容易に取り除くこともできる。
【0044】
一方上記マイコンユニット38の制御には、エンジン1の作動を緊急停止せしめるエンジン停止手段(機能)が備えられており、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に、上記正転経路管67側に設けられて正転圧油の油圧を検知する圧力センサ(油圧センサ)73が接続され、エンジン停止手段が油圧センサ73からの情報により、正転圧油の油圧が所定のエンジン停止圧力を越えるとエンジン1を停止せしめるように構成されている。
【0045】
これにより前処理部17やフィードチェーン18の異常停止等に起因して正転圧油の油圧が必要以上に増大することが防止され、作業機HST16等の油圧機器の寿命を短くしたり、油圧機器を破損したりすることが防止される。なおエンジン停止圧力は正転迂回経路通過圧力より小さく設定されており、油圧モータ16Mのロック時にはまずエンジン停止機能によりエンジン1が停止されるが、故障等によりエンジン停止機能が作動しない場合に、迂回経路66を介して油圧モータ16Mの正転を規制して作業機HST16の作動を停止せしめる正転規制機能が作動する。
【0046】
すなわちエンジン停止機能によりエンジン1が、又は正転規制機能により作業機HST16の出力が停止せしめられ、前処理部17やフィードチェーン18側又は油圧機器等を容易に破損することはない。また場合によってはエンジン停止機能と作業機HST16側の上記正転規制機能のいずれか一方のみを備えたものとしても良い。
【0047】
以上に示される構造により前処理部17の駆動速度は走行速度にシンクロ(追従)して変化せしめられ、走行速度に対応して穀稈の刈り取り及び下流側への穀稈搬送を円滑に行い、さらにフィードチェーン18が前処理部17の駆動速度変化に追従して駆動速度が変化せしめられ、前処理部17の扱深さ搬送体43によって搬送される穀桿を円滑に受け継ぎ扱胴6側に搬送することができる。
【0048】
このとき前処理部17側とフィードチェーン18側とが同一のトランスミッション(作業機トランスミッション14)によって駆動され、駆動速度が常に同調していることによって、両者の駆動速度の誤差による穀稈の搬送乱れ等が防止される。
【0049】
一方作業機トランスミッション14は上記作業機HST16を用いて構成されているため、前処理部17と脱穀フィードチェーン18の入力側に共通の作業機HST16が配置されることとなり、作業機トランスミッション14側の構造がコンパクトになる他、走行装置だけでなく、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18のいずれも無段階変速されるため、走行速度との関係や刈取量の関係で生じる穀稈の搬送乱れを円滑に防止することができる。
【0050】
また前処理部17と脱穀フィードチェーン18の駆動力が、脱穀クラッチ12の下流側に配置された作業機トランスミッション14から同調して出力されると共に、扱胴6の駆動力も脱穀クラッチ12の下流側からとる構造となっているため、脱穀クラッチ12を「切り」状態とすることによって、前処理部17,脱穀フィードチェーン18,扱胴6等が停止し、脱穀部24停止時に前処理部17を停止させ又は駆動させないための牽制装置が不要となり、構造を簡略化できる。
【0051】
一方前処理クラッチ31が作業機トランスミッション14の伝動下流側(作業機トランスミッション14の前処理出力軸19と前処理部17の入力軸26との間)に配置されているため、脱穀クラッチ12が入り作動している状態においては、作業機HST16は駆動(回転)状態となっている。
【0052】
このため前処理クラッチ31「入」時には、作業機HST16における回転駆動力が入力されて油圧モータ16Mを回転せしめる油圧ポンプ16Pが既に回転しており、該油圧ポンプ16Pと共にチャージポンプ16C(油圧ポンプ16Pと油圧モータ16Mとの間で漏れるオイルの補充用のポンプ)が回転せしめられている。
【0053】
これにより前処理クラッチ31の入り作動時のチャージポンプ16C側への負荷が小さく、チャージポンプ16Cにおける高圧発生がなくなり、また既にチャージポンプ16Cが回転しているため、ピストンの焼き付き等のトラブルも防止でき油圧機器(HST)の耐久性も向上する。
【0054】
なお本実施形態の場合は、走行トランスミッション8及び作業機トランスミッション14が共にHSTを変速装置として使用したものとなっており、HST(作業機HST16)を電子制御により制御し、作業機トランスミッション14を自動変速する構造であるため、速度連動手段の走行速度に対する追従性が高く、且つ走行HST4又は作業機HST16に油温,圧力による容積効率の変化等が発生した場合においても、走行速度と前処理部17の駆動速度とが正確にシンクロする。
【0055】
さらに上記マイコンユニット38の制御には、前述のように走行速度が所定の低速V1以下及び後進する際に前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する駆動速度維持手段(機能)が備えられているため、例えば枕地近傍まで刈り取り作業を行い、主変速(走行HST4)により停止又は後進する際も、駆動速度維持機能によって、前処理部17,フィードチェーン18,扱胴6の駆動が継続する。
【0056】
すなわち上記速度維持機能は、上記のように機体の後進の際にも前処理部17の駆動を速度V2を維持して継続する後進速度維持手段の機能も備えており、これにより穀稈の刈り残し及び搬送残し等が防止され、稈こぼれ等の穀稈の刈取り搬送乱れ等を防止することができる。また前処理部17の駆動速度が必要以上に低下して刈り取り作業が十分行われずに株の引き抜きや押し切りが発生する等の不都合も防止される。
【0057】
一方上記マイコンユニット38の制御には、上記駆動速度維持機能を停止(キャンセル)する速度維持キャンセル手段(機能)が備えられており、切換手段となる、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続された強制掻き込み解除スイッチ53の操作(ON,OFF)により、速度維持キャンセル機能の作動及び非作動(駆動速度維持機能を作動)を設定することができるように構成されている。
【0058】
すなわち強制掻き込み解除スイッチ53をON(入り)操作することによって、速度維持キャンセル機能を作動させ、図8のグラフに示されるように、走行速度が0又は限りなく0に近い所定の低速(近停止速度)V3以下及び後進状態となると作業機HST16をニュートラルとして前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させることができる。
【0059】
これにより通常の刈り取り脱穀作業(条刈り)中は強制掻き込み解除スイッチ53をONとして速度維持キャンセル機能を作動させ、走行速度が0又は近停止速度V3以下及び後進状態となると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させるようにすることによって、例えば脱穀詰まり等が発生し、扱胴6が停止した場合等に、機体を停止させることによって前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を停止させ、詰まりの除去等を容易に行うことができる。
【0060】
また前処理部17や脱穀フィードチェーン18等が停止しているため、あぜ際等における回向時には機体の後方側に排わら等が排出されず、回向に際して後進して排わらを踏みつける等の不都合は防止される。また未刈稈が不要に掻き込まれることも防止される。
【0061】
一方前述の前処理部17は従来同様上下昇降自在となっており、前処理部17側には前処理部17の高さを検出する前処理高さポテンションメータ44が取り付けられ、図4に示されるように上記マイコンユニット38にポテンションメータ44からの情報が入力されている。
【0062】
そしてマイコンユニット38には、上記ポテンショメータ44からの情報により、前処理部17が予め設定された所定の設定高さに上昇せしめられるとモータ39により作業機HST16を操作して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる自動停止手段(機能)が備えられている。
【0063】
これにより例えばあぜ際等における回向時に前処理部17を上昇させた場合に、前処理部17の所定高さへの上昇によって自動停止機能が作動し、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が停止されるため、排わら等の排出が行われない。このため旋回場所にわら等を落下させることが無く、回向時に機体が排わらを踏みつける等の不都合が防止される。このとき前述のように前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動が同調して停止するため、搬送乱れや穀稈の詰まり等は防止される。
【0064】
なお前処理部17を上記上昇状態から下降させると、上記設定高さ以下に下降した場合は、自動停止機能が解除され、マイコンユニット38はモータ39を作動せしめ、再度前処理部17及び脱穀フィードチェーン18を走行速度に同調させて駆動し、刈り取りや搬送等が再開される。
【0065】
またマイコンユニット38には図4に示されるようにリフトシャット解除スイッチ46も入力せしめられており、該リフトシャット解除スイッチ46がONの状態においては、自動停止機能の作動が停止せしめられ、これによりリフトシャット解除スイッチ46がONの場合は、前処理部17が前記設定高さに上昇せしめられても、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動は継続する。
【0066】
ただしマイコンユニット38側には、前処理部17に稈が入っているか否かを感知する扱深さ搬送体43側のメインセンサ47も入力されており、メインセンサ47からマイコンユニット38側への情報により、リフトシャット解除スイッチ46がONの場合であっても前処理部17が稈を流し終えると前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる駆動停止手段(機能)が備えられている。
【0067】
すなわちマイコンユニット38は、駆動停止機能によって、前処理部17を上昇させた後にメインセンサ47がOFFとなり稈を流し終えたことを検知すると、モータ39を駆動して作業機HST16の出力を0とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめ、必要以上の駆動を防止する。
【0068】
一方プーリ2と走行HSTの入力プーリ48との間にはメインクラッチ51が設けられており、該メインクラッチ51を切り作動させることにより走行装置側(走行伝動系)への駆動力の伝動を断ち、機体を停止させることが可能となっている。
【0069】
このときメインクラッチ51を操作する走行用のクラッチペダル側にはクラッチペダルの踏み操作(メインクラッチ51の切り操作)を検知するセンサ(セーフティースイッチ)52が設けられており、該セーフティースイッチ52からの情報はマイコンユニット38に入力されている。そしてマイコンユニット38には、セーフティースイッチ52のON(クラッチペダルの踏み操作時)によりモータ39を駆動して作業機HST16の出力を0(ニュートラル)とし、前処理部17及び脱穀フィードチェーン18の駆動を停止せしめる作動停止手段(機能)も設けられている。
【0070】
なおクラッチペダルの踏み操作の際には、主変速レバー33も強制的にニュートラルに戻され、走行HST4も出力が0(ニュートラル)に切り換えられる。これによりオペレータは走行用のクラッチペダルを踏み込み、メインクラッチ51を切り作動させることにより機体を緊急停止させることができ、緊急停止の操作が容易であり、且つ確実に緊急停止することができる。
【0071】
ところで未刈穀稈が倒伏している状態での刈り取り作業は、引き起こしの性能上前処理部17の駆動速度を上昇させる必要がある。すなわち本コンバインの場合、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の比例係数を高くして、前述のように走行速度に対して速度連動手段により設定される前処理部17の駆動速度を早くする必要がある。
【0072】
このため本実施形態においては、マイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度を上昇させる速度上昇手段(機能)が備えられており、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている倒伏スイッチ58のON,OFFにより速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0073】
これにより本実施形態のコンバインにより倒伏穀稈の刈り取り脱穀作業を行う場合は、オペレータがマニュアル(手動)で倒伏スイッチ58をONすることによって、速度上昇機能を作動させ、図9に示されるように、図5と同様の駆動速度S1(図9の点線)に比較して、走行速度に対して前処理部17を高速S2(図9の実線)で駆動し、これにより倒伏穀稈の刈り取りを容易に且つ安定して行うことができる。なお倒伏スイッチ58をOFFにすると、前処理部17はS1の速度で駆動される。
【0074】
また前処理部17からフィードチェーン18側に搬送される穀稈が適正姿勢となる前処理部17の駆動速度は材料条件(稲の立毛角や稈剛性等)や圃場条件等により異なり、上記のようにいかなる条件の場合においても、速度連動手段や速度上昇機能により予め設定された駆動速度(標準速度)で前処理部17を駆動すると穂先又は株元先行等の穀稈搬送に乱れが発生する場合がある。
【0075】
この不都合を避けるため、本実施形態においてはマイコンユニット38の制御に、走行速度に対する前処理部17の駆動速度の速度比(上記比例係数)の変更を行い、前処理部17の駆動速度を上記標準速度に対して変更する速度変更手段(機能)を設け、マイコンユニット38は、図4に示されるようにマイコンユニット38に接続されている前処理速度変更ダイヤルスイッチ59の切換により速度変更機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0076】
このとき前処理速度変更ダイヤルスイッチ59は図10に示されるように複数の切換ポジションを有したものとなっており、各ポジションに切り換えることにより、図11のグラフに示されるように標準速度に対して駆動速度が増減するように構成されている。すなわち前処理速度変更ダイヤルスイッチ59をポジション1に切り換えると図11の1の比例係数で駆動され、以下ポジション7まで同様に駆動される。
【0077】
これにより走行速度(標準速度)に対して前処理部17の駆動速度を上げると穂先が先行し、下げると株元が先行する(穂先が遅れる)こととなり、圃場条件により穂先又は株元先行等の穀稈搬送の乱れが発生した場合に、前処理速度変更ダイヤルスイッチ59を適当なポジションに切り換えることによって穀稈搬送の乱れを補正することができる。なお前処理速度変更ダイヤルスイッチ59としてバリアブル抵抗(ボリューム等)を使用して、駆動速度の増減を無段階に設定するように構成しても良い。
【0078】
またフィードチェーン18の前処理部17からの受け継ぎ部分に、図4に示されるようにマイコンユニット38の入力側に接続してカメラ61を設け、該カメラ61により撮影される穀稈の姿勢に基づき速度変更機能を作動させ、前処理部17の駆動速度の調節によって穀稈の搬送姿勢を自動補正するように構成しても良い。
【0079】
なお本発明のコンバインを手扱ぎ作業に使用する場合、走行速度が0となるため、速度維持キャンセル機能を作動させている(強制掻き込み解除スイッチ53をON)と前処理部の駆動速度が0、速度維持キャンセル機能を非作動(強制掻き込み解除スイッチ53をOFF)としていると駆動速度維持機能が作動して前処理部の駆動速度がV2となる。
【0080】
つまり手扱ぎ作業の場合、フィードチェーン18の駆動速度が0又は比較的低速(V2)となり、作業ができないか又は悪化する。この不都合を避けるため本発明のマイコンユニット38には手扱ぎ速度上昇手段(機能)が備えられており、該手扱ぎ速度上昇機能により手扱ぎ作業時のフィードチェーン18の駆動速度を上昇させ、手扱ぎ作業を効率よく行うことができるように構成されている。
【0081】
すなわちマイコンユニット38には図4に示されるように手扱ぎ状態を検知する手扱ぎスイッチ56が接続されており、マイコンユニット38は該手扱ぎスイッチ56のON,OFFにより手扱ぎ速度上昇機能の入り切りを設定するように構成されている。
【0082】
ところで本実施形態においては、図12に示されるように従来同様フィードチェーン18の上方には、フィードチェーン18と共に穀稈を挾持する挾扼レール62と、該挾扼レール62の前端部62aにおいてフィードチェーン18に対して上下揺動自在に支持された穀稈押え杆63とが備えられており、該穀稈押え杆63は、フィードチェーン18に対して起立させる手扱ぎ作業位置Hと、フィードチェーン18に対して前端を倒伏させる通常作業位置Aとに姿勢切換えが自在となっている。
【0083】
そして本実施形態の場合、上記手扱ぎスイッチ56は挾扼レール62側に設けられており、穀稈押え杆63を起立姿勢(手扱ぎ作業位置H)に切り換えると、穀稈押え杆63の支持ユニット64によりONとなり、マイコンユニット38が手扱ぎ速度上昇機能を入り作動せしめる。
【0084】
また前述の前処理クラッチ31側には前処理クラッチ31の入り切りを操作するアクチュエータ(前処理クラッチモータ)が、図4に示されるようにマイコンユニット38の出力側に接続されて設けられており、該前処理クラッチモータ57の駆動により前処理クラッチ31の入り切りを前述の手動以外に自動で操作することができるように構成されている。
【0085】
これにより穀稈押え杆63を手扱ぎ作業位置Hに切り換え、上記手扱ぎスイッチ56がONとなると、マイコンユニット38は、手扱ぎ速度上昇機能を作動させ、図13に示されるように、走行速度が所定速度以下となったときの前処理部17の駆動速度を維持速度V2から手扱ぎ作業を効率よく行うことができる手扱ぎ維持速度V4に上昇させるとともに、前処理クラッチモータ57を駆動して前処理クラッチ31を切り作動させる。
【0086】
この場合は前処理部17の駆動が停止せしめられ状態で、フィードチェーン18が予め設定された手扱ぎ維持速度V4に対応する速度で駆動される。これにより手扱ぎ作業時に作業効率が低下することなく、手扱ぎ作業を効率よく行うことができる。
【0087】
なおマイコンユニット38は、速度維持キャンセル機能の作動に対して、強制掻き込み解除スイッチ53のON,OFFの他、手扱ぎスイッチ56のON,OFFもチェックしており、手扱ぎスイッチ56がONの場合は、たとえ強制掻き込み解除スイッチ53がONであっても速度維持キャンセル機能を作動させない速度維持キャンセル規制手段(機能)が備えられている。
【0088】
これにより手扱ぎ作業時には、手扱ぎスイッチ56がONとなるため速度維持キャンセル規制機能が作動して、速度維持キャンセル機能が作動(強制掻き込み解除スイッチ53がON)していた場合であっても、速度維持キャンセル機能が自動的に停止せしめられ、フィードチェーン18の駆動速度が0となる不都合は自動的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】コンバインの伝動線図である。
【図2】作業機トランスミッションの平断面図である。
【図3】作業機トランスミッションの正面図である。
【図4】マイコンユニット部分のブロック図である。
【図5】走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図6】作業機HSTの通常作動時の圧油の流れを示した油圧回路である。
【図7】(a),(b)は、作業機HSTの油圧ポンプから逆転圧油を送り出した場合と、油圧モータがロックした場合の圧油の流れを示した油圧回路である。
【図8】速度維持キャンセル機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図9】速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図10】前処理速度変更ダイヤルスイッチの平面図である。
【図11】速度変更機能を作動させた場合の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【図12】フィードチェーンの前端部分の側面図である。
【図13】手扱ぎ速度上昇機能を作動させた状態の走行速度と前処理駆動速度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0090】
1 エンジン
14 作業機トランスミッション(前処理変速機)
16 作業機HST(油圧無段変速装置)
16P 油圧ポンプ
16M 油圧モータ
17 前処理部
72 正転規制バルブ
73 油圧センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)からの出力を走行伝動系と穀稈搬送を含む前処理部(17)への前処理伝動系とに分岐せしめ、走行伝動系に走行用の油圧伝動装置である走行HST(4)を、前処理伝動系に前処理部駆動用の油圧伝動装置である作業機HST(16)をそれぞれ設け、作業機HST(16)は可変容量型の油圧ポンプ(16P)と油圧モータ(16M)とを備え、作業機HST(16)の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を設けたコンバインにおいて、作業機HST(16)の油圧経路に、油圧モータ(16M)を正回転させる油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への圧油を、油圧モータ(16M)を迂回して油圧ポンプ(16P)側に戻す正転迂回経路を設け、該正転迂回経路内に、油圧モータ(16M)を正転させる正転圧油の油圧が予め設定された正転迂回経路通過圧力より小さい場合には正転迂回経路を閉状態として正転圧油の正転迂回経路の通過を規制する一方、正転圧油の油圧が正転迂回経路通過圧力を越えると正転迂回経路を開状態として正転圧油の正転迂回経路通過を許容する正転規制バルブ(72)を設け、更に正転圧油の油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への油圧経路に、前記正転圧油の油圧を検知する油圧センサ(73)を設け、該油圧センサ(73)からの情報により正転圧油の油圧が所定の圧力を越えるとエンジン(1)を停止せしめるエンジン停止手段を設けると共に、上記エンジン停止圧力を前記正転迂回経路通過圧力より小さく設定したことを特徴とするコンバイン。
【請求項1】
エンジン(1)からの出力を走行伝動系と穀稈搬送を含む前処理部(17)への前処理伝動系とに分岐せしめ、走行伝動系に走行用の油圧伝動装置である走行HST(4)を、前処理伝動系に前処理部駆動用の油圧伝動装置である作業機HST(16)をそれぞれ設け、作業機HST(16)は可変容量型の油圧ポンプ(16P)と油圧モータ(16M)とを備え、作業機HST(16)の駆動速度を走行速度に連動して変更せしめる速度連動手段を設けたコンバインにおいて、作業機HST(16)の油圧経路に、油圧モータ(16M)を正回転させる油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への圧油を、油圧モータ(16M)を迂回して油圧ポンプ(16P)側に戻す正転迂回経路を設け、該正転迂回経路内に、油圧モータ(16M)を正転させる正転圧油の油圧が予め設定された正転迂回経路通過圧力より小さい場合には正転迂回経路を閉状態として正転圧油の正転迂回経路の通過を規制する一方、正転圧油の油圧が正転迂回経路通過圧力を越えると正転迂回経路を開状態として正転圧油の正転迂回経路通過を許容する正転規制バルブ(72)を設け、更に正転圧油の油圧ポンプ(16P)から油圧モータ(16M)側への油圧経路に、前記正転圧油の油圧を検知する油圧センサ(73)を設け、該油圧センサ(73)からの情報により正転圧油の油圧が所定の圧力を越えるとエンジン(1)を停止せしめるエンジン停止手段を設けると共に、上記エンジン停止圧力を前記正転迂回経路通過圧力より小さく設定したことを特徴とするコンバイン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−22285(P2009−22285A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200358(P2008−200358)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【分割の表示】特願2001−112262(P2001−112262)の分割
【原出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【分割の表示】特願2001−112262(P2001−112262)の分割
【原出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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