説明

コンパレータ並びにA/D変換器

【課題】高速変換に適したフラッシュ型ADコンバータに使用することができるダイナミック・コンパレータを提供する。
【解決手段】ダイナミック・コンパレータは静止電流が全く流れず、低消費電力動作に最適な回路構成である。リニア領域で動作するNチャネル・トランジスタ1、2、3、4は抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なうが、ラッチの時定数を微調整可能であるので、遅延時間のばらつき、素子(閾値電圧)のばらつきによるオフセットの影響によって劣化するビット・エラー・レートを改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A/D変換器の主要部品であるコンパレータ並びにA/D変換器に係り、特に、高速変換に適したフラッシュ型A/D変換器に使用されるコンパレータ並びにA/D変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
通信路から受信した伝送信号、センサから出力される検出信号、あるいは音声信号などを取り込んで、コンピュータなどでデジタル的な処理を行なうために、通常、アナログ信号をデジタル信号に変換する回路すなわちA/D変換器が使用される。A/D変換器は、アナログ信号のある周期毎の値をサンプリングして、取り出された値を量子化して有限個のレベル値の最も近い値に割り当て、2進コードや2進10進コード(BCSコード)などにコード化して出力する。一般に、量子化するレベル数が多いほど分解能(すなわち出力ビット数)は高く、サンプリング周波数(すなわち変換速度)が高いほど高速動作が可能である。
【0003】
A/D変換器の主要部品として、複数の入力信号に対し、その論理値の大小を比較して量子化を行なうコンパレータ(comparator)が挙げられる。A/D変換器の性能指標である変換速度、オフセット電圧、消費電力などは、コンパレータによって左右される。例えば、高速伝送が行なわれる通信システムでは、受信機において変換速度の速いA/D変換器が必要となる。「並列比較型」若しくは「フラッシュ型」と呼ばれるA/D変換器が高速変換に適していると言われているが、この種のA/D変換器では、分解能に対して2のべき乗の数のコンパレータが必要なため、回路規模や消費電力が大きくなる。
【0004】
フラッシュ型A/D変換器の高速化及び低消費電力化には、コンパレータの高速化及び低消費電力化などの性能改善が不可欠である。近年、半導体プロセスの微細化や回路トポロジの改良によって、コンパレータの高速化及び低消費電力化が実現しつつある。
【0005】
しかしながら、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)を用いたコンパレータでは、遅延時間のばらつきや閾値電圧のばらつきによるオフセットがA/D変換器のビット・エラー・レート(BER)の劣化を引き起こすという問題がある。とりわけ、ビット数増加などの回路の高精度化に伴い比較対象となるアナログ電圧の差が微小になることから、ばらつきの影響は大きくなっている。
【0006】
このため、ばらつきを補正するようにオフセットをキャンセルする機能を持つ増幅回路をカスケード接続して、入力電圧と参照基準電圧との差を充分に増幅してからコンパレータに入力し、デジタル・データに変換する方法などが提案されている(例えば、特許文献2を参照のこと)。また、カスケード接続の増幅回路は、キックバック・ノイズの低減にも大きく寄与している。この方法によれば、差電圧を充分に増幅するために増幅回路を2〜3段縦続接続するので、消費電力が大きくなる傾向がある。
【0007】
また、縦続接続する増幅回路の段数や個数を削減する方法として、インターポーレーション(補間)技術が提案されており(例えば、特許文献3を参照のこと)、消費電力を格段に減らすことができる。しかしながら、クロックに同期してアナログ入力信号の大小を比較し、論理レベルまで大きくするコンパレータの個数は減らすことができないため、コンパレータ単体で低消費電力化が求められる。
【0008】
高速変換に適したフラッシュ型A/D変換器に使用される主なコンパレータとして、高速コンパレータとダイナミック・コンパレータの2種類を挙げることができる。
【0009】
高速コンパレータは、入力増幅器とラッチで構成される理想的な切り換え回路である(例えば、特許文献4を参照のこと)。図10には、高速コンパレータの一構成例を示している。高速コンパレータは、高速動作用途として数多く用いられているが、直流バイアス電流が流れるために消費電力が大きい。
【0010】
一方、ダイナミック・コンパレータは(例えば、特許文献5、非特許文献1を参照のこと)、直流バイアス電流が流れないので、低消費電力動作ではあるが、高速コンパレータと比較すると変換速度が遅い。
【0011】
1GSps程度の変換速度において、高速コンパレータとダイナミック・コンパレータの消費電力を比較すると、ダイナミック・コンパレータの方が低消費電力となっており(例えば、非特許文献2を参照のこと)、1GSps程度の変換速度のトポロジにおいては高速コンパレータよりも優位とされている。
【0012】
図11には、静止電流が全く流れないダイナミック・コンパレータの構成例(従来技術)を示している。Pチャネル・トランジスタp10及びp11と、Nチャネル・トランジスタn5及びn6とをカスコード接続(襷掛け)した正帰還部をベースにして、リニア領域(抵抗領域)で動作するNチャネル・トランジスタn1及びn2、並びにNチャネル・トランジスタn3及びn4で構成される差動入力対をNチャネル・トランジスタn5及びn6のソースと接地間に挿入している。
【0013】
正帰還部において、Pチャネル・トランジスタp10とNチャネル・トランジスタn5、並びにPチャネル・トランジスタp11とNチャネル・トランジスタn6間に出力ノードVa+及びVa-がそれぞれ形成されており、Pチャネル・トランジスタp13とNチャネル・トランジスタn14、並びPチャネル・トランジスタp15とNチャネル・トランジスタn16からなる各インバータを介して正負反転して、出力電圧Vo+とVo-が取り出される。
【0014】
また、正帰還部において、トランジスタn5のドレインとトランジスタp10のドレインの間には、スイッチング用のNチャネル・トランジスタn7が配置され、同様に、トランジスタn6のドレインとトランジスタp11のドレインの間には、スイッチング用のNチャネル・トランジスタn8が配置されている。さらに、トランジスタp10のドレインと電源電圧Vccの間にはスイッチング用のPチャネル・トランジスタp9が配置され、同様に、トランジスタp11のドレインと電源電圧Vccの間にはスイッチング用のPチャネル・トランジスタp12が配置されている。そして、これらスイッチング用の各トランジスタn7、n8、p9、p12のゲートにはクロック信号CLKが入力されている。
【0015】
差動入力対をなすトランジスタn1及びn2のゲートにはそれぞれ非反転の参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+が入力され、また、他方の差動入力対をなすNチャネル・トランジスタn3及びn4のゲートにはそれぞれ反転された参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-が入力されている。
【0016】
トランジスタn1及びn2、並びにトランジスタn3及びn4からなる各差動入力対は、正帰還部にとっては、接地との間に挿入された抵抗体Rt1並びにRt2を構成する。単体のトランジスタが持つオン抵抗Ronは、Ron=1/kp(W/L)(VGS−Vth)であることが知られている(但し、kpは半導体プロセスなどで定まる定数、W及びLはそれぞれトランジスタのゲート幅及びゲート長、VGSはゲート電圧、Vthはトランジスタが活性化する閾値電圧である)(例えば、非特許文献3を参照のこと)。したがって、各トランジスタn1及びn3のゲート幅をW1とし、各トランジスタn2及びn4のゲート幅をW2とおくと、各抵抗体Rt1並びにRt2は下式(1)、(2)のように表される。
【0017】
【数1】

【0018】
【数2】

【0019】
したがって、下式(3)に示すように、抵抗値が等しい電圧入力が閾値電圧を与えるが、これはトランジスタのゲート幅W1/2と参照電圧Vref+/-の積で決定される。
【0020】
【数3】

【0021】
図示のダイナミック・コンパレータは、上記のリニア領域で動作するトランジスタn1、n2、n3、n4それぞれの抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なう。図12には、その動作原理図を示している。
【0022】
クロック信号CLKがロー・レベルのときには、トランジスタp9及びp12がオン、トランジスタn7及びn8はオフとなり、正帰還部が差動入力対から完全に遮断し、出力ノードのVa+とVa-は電源電圧Vccにプリチャージされ、これらの出力はハイ・レベルに固定される(Reset状態)。このとき、ダイナミック・コンパレータには電流は一切流れない。
【0023】
次いで、クロック信号CLKがハイ・レベルになると、トランジスタp9及びp12がオフになって、出力ノードVa+/-が電源電圧Vccから切り離されると同時に、トランジスタn7及びn8はオンとなって差動入力対へ電流が流れ始め、正帰還部は動作可能になる。
【0024】
ここで、Vin+の方がVin-よりも大きければ、トランジスタn1、n5、n7、p10からなるパスに流れる電流は、トランジスタn2、n6、n8、p11からなるパスよりも大きくなる。つまり、Va+の方がVa-よりプリチャージされた電荷を速くディスチャージする。正帰還部では、このようにしてできた差動入力対におけるドレイン電圧の電位差を正帰還増幅する。Va+がスイッチ用トランジスタn6の閾値電圧Vthを下回ると、トランジスタn6はオフし、この結果、Va-は電源電圧Vccまで増幅されるとともに、Va+は接地レベルまで増幅され、この状態が保持される(Compare&Latch状態)。相補トランジスタ13及び14、又は相補トランジスタp15及びn16からなるインバータは、Va+/-をVo+/-として反転出力する。また、Vin-の方がVin+よりも大きければ、Va+が電源電圧Vccまで増幅されるとともに、Va-が接地レベルまで増幅される。したがって、図13に示すように、半周期毎にプリチャージとラッチ・モードを切り換えながら、入力電圧Vin+/-と参照基準電圧Vref+/-との比較動作を行なう。
【0025】
このように、クロック信号CLKがハイ・レベルに転じた後、出力ノードのVa+とVa-の出力電圧が増幅されるまでの期間は電流が流れるが、ラッチが確定すると回路には静止電流が全く流れないので、一定電流を常に必要とする一般的な定電流型比較回路に比べ、消費電力を大幅に削減することができる。また、正帰還回路によって微小の差動電圧を増幅して、ほぼ電源電圧程度の振幅を持つデジタル・データを出力することができるから、別段に増幅回路を必要とせず、低電源電圧化並びに低消費電力化を実現できる。
【0026】
しかしながら、トランジスタn1、n2、n3、n4を抵抗として動作させているので(上式(1)〜(2)を参照のこと)、この抵抗値が低過ぎるとラッチの初期状態での感度が低下する一方、高過ぎるとラッチの時定数が大きくなり動作速度が劣化してしまうという問題が生じてしまう。
【0027】
例えば、図12に示したダイナミック・コンパレータにおいてVa-(Vo-)出力を用いる場合には、ラッチの時定数τはτ=Rt1×C(但し、Cは、トランジスタ5のソースと接地間の容量)となるが、Rt1が低すぎると低過ぎるとラッチの初期状態での感度が低下する一方、高過ぎるとラッチの時定数が大きくなり動作速度が劣化する。また、ダイナミック・コンパレータのVa+(Vo+)出力を用いる場合のラッチの時定数τはτ=Rt2×Cとなり、同様の問題がある。
【0028】
このため、リニア領域で動作するトランジスタn1、n2、n3、n4のゲート幅Wとゲート電圧VGSの設計には充分な注意が必要であり、高速動作や温度変動、遅延時間のばらつき、素子(閾値電圧)のばらつきによる特性補償が要求されるケースにおいては、回路設計が困難になる。
【0029】
【特許文献1】特開平7−183809号公報、段落0003、0009
【特許文献2】特開平11−214963号公報、段落0002
【特許文献3】特開2003−218698号公報、段落0007〜0008
【特許文献4】特開平8−56142号公報
【特許文献5】特開2006−87064号公報、段落0054〜0062、図5
【非特許文献1】“A 7b 450MSample/s 50mW CMOS ADC in 0.3mm2”(ISSCC2002 SESSION 10 HIGH−SPEED ADCs 10.3)
【非特許文献2】「高速フラッシュ型ADC用コンパレータに関する一検討」(ECT−05−43)
【非特許文献3】Behzad Razavi著(黒木忠広監訳)「アナログCMOS集積回路の設計」(丸善株式会社、p.22、平成16年12月10日第6刷発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、高速変換に適したフラッシュ型A/D変換器に使用することができる、優れたコンパレータを提供することにある。
【0031】
本発明のさらなる目的は、低消費電力動作が可能であるとともに変換速度が速い、優れたコンパレータを提供することにある。
【0032】
本発明のさらなる目的は、リニア領域で動作する各Nチャネル・トランジスタが抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を好適に行なうことにより低消費電力動作が可能であるとともに変換速度が速い、優れたダイナミック・コンパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、入力信号と所定の基準信号の大小関係を比較し、該比較結果を出力するコンパレータであって、
前記入力信号と前記基準信号をそれぞれ入力し、その電圧差に応じた差動信号を出力する差動入力部と、
所定のクロック半周期毎に、電源電圧のプリチャージと、プリチャージした電源電圧を前記差動信号に応じてディスチャージして前記入力信号と前記基準信号の比較結果を正帰還増幅して保持するラッチ・モードを繰り返し、該比較結果を出力する正帰還部と、
前記正帰還部が電源電圧をディスチャージする際の時定数を調整する時定数調整手段と、
を具備することを特徴とするコンパレータである。
【0034】
A/D変換器はコンパレータを主要部品として構成され、A/D変換器の高速化及び低消費電力化には、コンパレータの高速化及び低消費電力化などの性能改善が不可欠である。
【0035】
ダイナミック・コンパレータは、所定のクロック半周期毎に、電源電圧のプリチャージと、プリチャージした電源電圧を入力信号と基準信号との差動信号に応じてディスチャージしてその比較結果を正帰還増幅して保持するラッチ・モードを繰り返し、該比較結果を出力するように構成されており、ラッチが確定すると回路には静止電流が全く流れない、すなわち直流バイアス電流が流れないので低消費電力動作であり、1GSps程度の変換速度のトポロジにおいては高速コンパレータよりも優位とされている。しかしながら、差動入力部にリニア領域で動作するトランジスタを配置して、その抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なうことから、これらトランジスタの抵抗値が低過ぎるとラッチの初期状態での感度が低下する一方、高過ぎるとラッチの時定数が大きくなり動作速度が劣化してしまうという問題がある。
【0036】
これに対し、本発明を適用したダイナミック・コンパレータは、正帰還部において電源電圧をディスチャージする際のラッチの時定数を、時定数調整手段によって調整することができるので、温度変動や素子(閾値電圧)のばらつきによる影響で、ラッチ回路の時定数が変化して、コンパレータの高速動作が厳しくなってきた状態においても、安定した比較動作が可能となる。
【0037】
前記差動入力部は、それぞれリニア領域で動作し、前記入力信号及び前記基準信号をゲート電圧として入力する、並列接続されたトランジスタで構成される。そして、前記正帰還部は、前記のリニア領域で動作する並列接続された各トランジスタが持つ抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なうようになっている。
【0038】
前記時定数調整手段は、前記差動入力部を構成するトランジスタに並列接続されたリニア領域で動作する1以上のトランジスタを備えている。したがって、前記正帰還部におけるラッチの時定数調整に応じて該トランジスタにゲート電圧を印加することで、差動入力部における抵抗値の大きさを調整することができ、時定数を調整することが可能となる。
【0039】
本発明を適用したダイナミック・コンパレータは、例えばN入力で構成することができる。この場合、前記差動入力部は、ゲートに参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するNチャネル・トランジスタn1及びn2からなる第1の差動入力対と、ゲートに参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するNチャネル・トランジスタn3及びn4からなる第2の差動入力対で構成される。そして、各トランジスタn1、n2、n3、n4のソースが接地されている。
【0040】
また、前記正帰還部は、前記第1及び第2の差動入力対をそれぞれソースに接続したNチャネル・トランジスタn5及びn6と、それぞれソースに電源電圧Vccを接続したPチャネル・トランジスタp10及びp11とをカスコード接続して構成されている。さらに、トランジスタp10のドレインと電源電圧Vcc間並びにトランジスタp11のドレインと電源電圧Vcc間にそれぞれスイッチング用のPチャネル・トランジスタp9及びp12を挿入するとともに、トランジスタp10及びトランジスタn5のドレイン間並びにトランジスタp11及びトランジスタn6のドレイン間にそれぞれスイッチング用のNチャネル・トランジスタ7及び8を挿入し、各スイッチング用のトランジスタn7、n8、p9、p12のゲートにクロック信号CLKを入力している。そして、トランジスタp10とトランジスタn7の間に出力ノードVa+が形成されるとともにトランジスタp11とトランジスタn8の間に出力ノードVa-が形成されている。
【0041】
クロック信号CLKがロー・レベルのときには、正帰還部が差動入力部から完全に遮断して、電源電圧Vccがトランジスタp10及びp11の各々にプリチャージされる。続いて、クロック信号CLKがハイ・レベルに転じると、正帰還がかかり、リニア領域で動作するトランジスタn1、n2、n3、n4の抵抗値Rt1又はRt2の大きさに応じた時定数τによりラッチ動作が行なわれる。このようなプリチャージとラッチがクロック信号CLKの半周期毎に繰り返される。
【0042】
また、差動入力部を構成するトランジスタn1及びn2、並びにトランジスタn3及びn4と並列して、時定数調整手段として、リニア領域で動作するトランジスタn17及びn18がそれぞれ接続されている。そして、これらトランジスタn17及びn18のゲート電圧を制御することによって、差動入力部における抵抗値Rt1又はRt2が可変であるから、前記正帰還部におけるラッチの時定数τを調整することができる。
【0043】
したがって、温度変動や素子(閾値電圧)のばらつきによる影響で、ラッチ回路の時定数が変化して、コンパレータの高速動作が厳しくなってきた状態においても、トランジスタn17及びn18のリニア領域の動作によって、正帰還部におけるラッチの時定数τを補正して、安定した比較動作が可能となる。
【0044】
また、差動入力部に並列接続する時定数調整用のNチャネル・トランジスタの個数は1個に限定されず、複数個を並列接続してもよい。例えば、K個のNチャネル・トランジスタn17−1、…、n17−K及びNチャネル・トランジスタn18−1、…、n18−Kを各差動入力対に並列接続することで、2K段の微調整を行なうことが可能になる。
【0045】
このとき、K個の時定数調整用のNチャネル・トランジスタのゲート幅Wを均一にする必要はなく、個々のゲート幅Wに変化を持たせることでそれぞれのオン抵抗が相違するので、ラッチの時定数制御に使用するトランジスタの組み合わせにより、さらなるラッチの時定数τの微調整が可能になる。
【0046】
時定数制御に使用するトランジスタのマスク・パターンをフィンガー構造とし、ゲート幅を可変にすることで、マスク・パターンが同一となる。また、ラッチの時定数制御に未使用となるトランジスタは、ダミー・パターンとしての機能を持つ。例えば、半導体基板上で、時定数制御用のトランジスタを差動入力部のトランジスタに並行してレイアウトすることで、ダミー・パターンによって対称性を改善することができ、基板ノイズ伝播を軽減することができる。
【0047】
また、本発明に係るコンパレータは、N入力ではなくP入力でも構成することができる。この場合、前記差動入力部は、ゲートに参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するPチャネル・トランジスタp1及びp2からなる第1の差動入力対と、ゲートに参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するPチャネル・トランジスタp3及びp4からなる第2の差動入力対を備えている。そして、各トランジスタp1、p2、p3、p4のソースが電源電圧Vccに接続されている。
【0048】
また、前記正帰還部は、前記第1及び第2の差動入力対をそれぞれソースに接続したPチャネル・トランジスタp5及びp6と、それぞれソースを接地したNチャネル・トランジスタn10及びn11とをカスコード接続して構成されている。さらに、トランジスタn10のドレインと接地間並びにトランジスタn11のドレインと接地間にそれぞれスイッチング用のNチャネル・トランジスタn9及びn12を挿入するとともに、トランジスタn10及びトランジスタp5のドレイン間並びにトランジスタn11及びトランジスタp6のドレイン間にそれぞれスイッチング用のPチャネル・トランジスタp7及びp8を挿入し、各スイッチング用のトランジスタp7、p8、n9、n12のゲートにクロック信号CLKを入力している。そして、トランジスタn10とトランジスタp7の間に出力ノードVa+が形成されるとともにトランジスタn11とトランジスタp8の間に出力ノードVa-が形成されている。
【0049】
クロック信号CLKがハイ・レベルのときには、正帰還部が差動入力部から完全に遮断して、接地レベルがトランジスタn10及びn11の各々にプリチャージされる。続いて、クロック信号CLKがロー・レベルのときには、正帰還がかかり、リニア領域で動作するトランジスタp1、p2、p3、p4の抵抗値Rt1又はRt2の大きさに応じたラッチ動作が行なわれる。このようなプリチャージとラッチがクロック信号CLKの半周期毎に繰り返される。
【0050】
また、差動入力部を構成するトランジスタp1及びp2、並びにトランジスタp3及びp4と並列して、時定数調整手段として、リニア領域で動作するトランジスタp17及びp18がそれぞれ接続されている。そして、これらトランジスタp17及びp18のゲート電圧を制御することによって、差動入力対における抵抗値Rt1又はRt2が可変であるから、前記正帰還部におけるラッチの時定数τを調整することができる。
【0051】
したがって、温度変動や素子(閾値電圧)のばらつきによる影響で、正帰還部におけるラッチの時定数τが変化して、コンパレータの高速動作が厳しくなってきた状態においても、トランジスタp17及びp18のリニア領域の動作によって、正帰還部におけるラッチの時定数τを補正して、安定した比較動作が可能となる。
【0052】
また、ダイナミック・コンパレータがP入力で構成される場合も、上記のN入力で構成される場合と同様に、差動入力対に対して時定数調整用のPチャネル・トランジスタを複数段並列接続し、これらのリニア領域における動作を利用して、正帰還部におけるラッチの時定数τの微調整を行なうことができる。また、並列接続した各Pチャネル・トランジスタのゲート幅Wに変化を持たせることでそれぞれのオン抵抗が相違するので、時定数制御に使用するトランジスタの組み合わせにより、さらなるラッチの時定数τの微調整が可能になる。また、時定数制御に使用するトランジスタのマスク・パターンをフィンガー構造とし、ゲート幅を可変にすることで、マスク・パターンが同一となる。また、ラッチの時定数制御に未使用となるトランジスタは、ダミー・パターンとしての機能を持つ。
【0053】
また、本発明に係るダイナミック・コンパレータを用いてフラッシュ型のA/D変換器を構成することができる。このタイプのA/D変換器は、例えば、複数の基準電圧を生成する基準電圧生成部と、前記基準電圧生成部で生成される前記複数の基準電圧中の対応する基準電圧と入力信号電圧との差分を増幅して差動出力電圧に変換するプリアンプが複数配列された差動増幅部と、前記差動増幅部のプリアンプ毎に配列された各コンパレータにおいて対応するプリアンプの出力信号の大小関係を判定する電圧比較部と、前記電圧比較部の各コンパレータからの出力信号をエンコードしてデジタル・データを出力するエンコーダで構成される。そして、電圧比較部内の各コンパレータに本発明を適用することで、高速動作と低消費電力化を同時に実現することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、高速変換に適したフラッシュ型A/D変換器に使用することができる、優れたコンパレータを提供することができる。
【0055】
また、本発明によれば、低消費電力動作が可能であるとともに変換速度が速い、優れたコンパレータを提供することができる。
【0056】
本発明に係るダイナミック・コンパレータは、リニア領域で動作して抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なう各Nチャネル・トランジスタのラッチの時定数を微調整可能であるので、遅延時間のばらつき、素子(閾値電圧)のばらつきによるオフセットの影響によって劣化するビット・エラー・レートを改善することができる。したがって、本発明に係るダイナミック・コンパレータを用いて構成されるフラッシュ型のA/D変換器は、高速動作と低消費電力化を同時に実現することができる。
【0057】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0059】
図1には、本発明の一実施形態に係るダイナミック・コンパレータの回路構成を示している。
【0060】
図示のダイナミック・コンパレータは、基本的には、Pチャネル・トランジスタp10及びp11と、Nチャネル・トランジスタn5及びn6とをカスコード接続(襷掛け)した正帰還部をベースにして、リニア領域(抵抗領域)で動作するNチャネル・トランジスタn1及びn2、並びにNチャネル・トランジスタn3及びn4で構成される差動入力対をNチャネル・トランジスタn5及びn6のソースと接地間に挿入している。
【0061】
正帰還部において、Pチャネル・トランジスタp10とNチャネル・トランジスタn5、並びにPチャネル・トランジスタp11とNチャネル・トランジスタn6間に出力ノードVa+及びVa-がそれぞれ形成されており、Pチャネル・トランジスタp13とNチャネル・トランジスタn14、並びPチャネル・トランジスタp15とNチャネル・トランジスタn16からなる各インバータを介して正負反転して、出力電圧Vo+とVo-が取り出される。
【0062】
また、正帰還部において、Nチャネル・トランジスタn5のドレインとPチャネル・トランジスタp10のドレインの間には、スイッチング用のNチャネル・トランジスタn7が配置され、同様に、Nチャネル・トランジスタn6のドレインとPチャネル・トランジスタp11のドレインの間には、スイッチング用のNチャネル・トランジスタn8が配置されている。さらに、Pチャネル・トランジスタp10のドレインと電源電圧Vccの間にはスイッチング用のPチャネル・トランジスタp9が配置され、同様に、Pチャネル・トランジスタp11のドレインと電源電圧Vccの間にはスイッチング用のPチャネル・トランジスタp12が配置されている。そして、これらスイッチング用の各トランジスタn7、n8、p9、p12のゲートにはクロック信号CLKが入力されている。
【0063】
差動入力対をなすNチャネル・トランジスタn1及びn2のゲートにはそれぞれ非反転の参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+が入力され、また、他方の差動入力対をなすNチャネル・トランジスタn3及びn4のゲートにはそれぞれ反転された参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-が入力されている。
【0064】
また、差動入力部を構成するNチャネル・トランジスタn1及びn2、並びにNチャネル・トランジスタn3及びn4と並列して、Nチャネル・トランジスタn17及びn18がそれぞれ接続されている。これらトランジスタn17及びn18は、ゲート電圧Vcが印加されると、活性化してリニア領域で動作する。
【0065】
トランジスタn1及びn2、並びにトランジスタn3及びn4からなる各差動入力対、さらにゲート電圧Vc印加時におけるNチャネル・トランジスタn17並びにn18は、正帰還部にとっては、接地との間に挿入された抵抗体Rt1並びにRt2を構成する。すなわち、各トランジスタn1及びn3のゲート幅をW1とし、各トランジスタn2及びn4のゲート幅をW2、各トランジスタn17及びn18のゲート幅をW3とおくと、各抵抗体Rt1並びにRt2は下式(4)、(5)のように表される。
【0066】
【数4】

【0067】
【数5】

【0068】
図1に示したダイナミック・コンパレータは、上記のリニア領域で動作するトランジスタn1、n2、n3、n4、並びにn17、n18(但し、ゲート電圧Vcを印加したとき)それぞれの抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なう。図2には、その動作原理図を示している。
【0069】
クロック信号CLKがロー・レベルのときには、トランジスタp9及びp12がオン、トランジスタn7及びn8はオフとなり、ラッチ回路が差動入力対から完全に遮断し、出力ノードのVa+とVa-は電源電圧Vccにプリチャージされ、これらの出力はハイ・レベルに固定される(Reset状態)。このとき、ダイナミック・コンパレータには電流は一切流れない。
【0070】
次いで、クロック信号CLKがハイ・レベルになると、トランジスタp9及びp12がオフになって、出力ノードVa+/-が電源電圧Vccから切り離されると同時に、トランジスタn7及びn8はオンとなって差動入力対へ電流が流れ始め、正帰還部は動作可能になる。
【0071】
ここで、Vin+の方がVin-よりも大きければ、トランジスタn1、n5、n7、p10からなるパスに流れる電流は、トランジスタn2、n6、n8、p11からなるパスよりも大きくなる。つまり、Va+の方がVa-よりプリチャージされた電荷を速くディスチャージする。正帰還部では、このようにしてできた差動入力対におけるドレイン電圧の電位差を正帰還増幅する。Va+がスイッチ用トランジスタ6の閾値電圧Vthを下回ると、トランジスタn6はオフし、この結果、Va-は電源電圧Vccまで増幅されるとともに、Va+は接地レベルまで増幅され、この状態が保持される(Compare&Latch状態)。相補トランジスタp13及びn14、又は相補トランジスタp15及びn16からなるインバータは、Va+/-をVo+/-として反転出力する。また、Vin-の方がVin+よりも大きければ、Va+が電源電圧Vccまで増幅されるとともに、Va-が接地レベルまで増幅される。したがって、図3に示すように、半周期毎にプリチャージとラッチ・モードを切り換えながら、入力電圧Vin+/-と参照基準電圧Vref+/-との比較動作を行なう。
【0072】
このように、クロック信号CLKがハイ・レベルに転じた後、出力ノードのVa+とVa-の出力電圧が増幅されるまでの期間は電流が流れるが、ラッチが確定すると回路には静止電流が全く流れないので、一定電流を常に必要とする一般的な定電流型比較回路に比べ、消費電力を大幅に削減することができる。また、正帰還回路によって微小の差動電圧を増幅して、ほぼ電源電圧程度の振幅を持つデジタル・データを出力することができるから、別段に増幅回路を必要とせず、低電源電圧化並びに低消費電力化を実現できる。
【0073】
正帰還部では、抵抗値Rt1、若しくは抵抗値Rt2の大きさに応じたラッチ動作を行なう。例えば、Va-(Vo-)出力を用いる場合には、ラッチの時定数τはτ=Rt1×C(但し、Cは、トランジスタn5のソースと接地間の容量)となり、Va+(Vo+)出力を用いる場合のラッチの時定数τはτ=Rt2×Cとなる。このため、抵抗値Rt1並びにRt2が低過ぎるとラッチの初期状態での感度が低下する一方、高過ぎるとラッチの時定数が大きくなり動作速度が劣化してしまうという問題がある(前述)。
【0074】
これに対し、本実施形態に係るダイナミック・コンパレータでは、レジスタ設定などによってトランジスタn17及びn18のゲートに印加される制御電圧Vcに応じてリニア領域で動作すると、上式(4)及び(5)の右辺の第3項が変化して、抵抗値Rt1並びにRt2が変化させることができるので、正帰還部におけるラッチの時定数τの調整が可能となる。
【0075】
したがって、半周期毎にプリチャージとラッチ・モードを切り替えるという基本的な動作に加えて、トランジスタn17及びn18のオン/オフ操作により閾値が変化して、図3に示した動作チャートにおいて、出力波形を時間軸でTdだけ遅延させることが可能になる。温度変動や素子(閾値電圧)のばらつきによる影響で正帰還部におけるラッチの時定数が変化して、コンパレータの高速動作が厳しくなってきた状態に陥ったときには、ラッチの初期状態での感度とラッチの動作速度の双方を考慮して、トランジスタn17及びn18へのゲート電圧Vcの印加を決定するようにする。すなわち、トランジスタn17及びn18のリニア領域の動作によって、正帰還部におけるラッチの時定数τを補正して、安定した比較動作が可能となる。
【0076】
図4には、図1に示したダイナミック・コンパレータの変形例を示している。図1に示した回路構成では、各差動入力対にそれぞれ並列接続する時定数調整用のNチャネル・トランジスタの個数は1個であったが、図4に示す例では、K個のNチャネル・トランジスタn17−1、…、n17−K及びNチャネル・トランジスタn18−1、…、n18−Kを各差動入力対に並列接続し、したがって、これらのゲートに制御用電圧Vc1、…、VcKを入力することで、2K段の微調整を行なうことが可能になる。この場合の各抵抗体Rt1並びにRt2は下式(6)、(7)のように表される。
【0077】
【数6】

【0078】
【数7】

【0079】
上式において、δ(i)は、並列接続されたi番目(但し、iは1≦i≦Kの整数)の時定数調整用トランジスタn17−i及びn18−iにゲート電圧Vc-iが印加されるときには1であり、印加されないときには0である。したがって、リニア動作させる時定数調整用トランジスタn17−i及びn18−iの個数を変化させることによって抵抗値Rt1並びにRt2が微細に変化するので、正帰還部におけるラッチの時定数τの微調整が可能となる。
【0080】
リニア領域で動作するトランジスタが持つオン抵抗Ronは、トランジスタのゲート幅Wに反比例するとともに、ゲート長Lに比例する(例えば、非特許文献3を参照のこと)。ゲート長L及びゲート幅Wはトランジスタのマスク・パターンによって変更することが可能であるが、ゲート長Lに関しては拘束動作などを考慮して、半導体プロセスによって定まる最小値付近を使用することが多く、この場合にはゲート幅Wの可変によりオン抵抗Ronを可変にする。したがって、上述したように時定数調整用に複数のトランジスタを図4に示したように、Nチャネル・トランジスタn17−1、…、n17−K及びNチャネル・トランジスタn18−1、…、n18−Kを並列接続する場合には、図5に示すように、トランジスタ毎にゲート幅に変化を付けて、それぞれのオン抵抗が相違するように構成してもよい。これは、上式(6)及び(7)において、W3-i≠W3-j(但し、i≠j)であることに相当し、時定数調整に使用するトランジスタ17−1…の組み合わせによって抵抗値Rt1並びにRt2をより細かい粒度で設定することができ、さらなるラッチの時定数τの微調整が可能になる。
【0081】
また、時定数制御に使用するトランジスタのマスク・パターンを、図6に示すようにフィンガー構造とし、ゲート幅を可変にすることで、マスク・パターンが同一となる。
【0082】
また、ラッチの時定数制御に未使用となるトランジスタは、ダミー・パターンとしての機能を持つ。例えば、半導体基板上で、時定数制御用のトランジスタを差動入力部のトランジスタに並行してレイアウトすることで、ダミー・パターンによって対称性を改善することができ(図7を参照のこと)、基板ノイズ伝播を軽減することができる。
【0083】
また、本発明に係るコンパレータは、図1に示したようなN入力ではなく、P入力でも構成することができる。図8には、P入力のダイナミック・コンパレータの構成例を示している。
【0084】
図示のダイナミック・コンパレータは、基本的には、Nチャネル・トランジスタn10及びn11と、Pチャネル・トランジスタp5及びp6とをカスコード接続(襷掛け)した正帰還部をベースにして、リニア領域(抵抗領域)で動作するPチャネル・トランジスタp1及びp2、並びにPチャネル・トランジスタp3及びp4で構成される差動入力対をトランジスタp5及びp6のソースと接地間に挿入している。
【0085】
正帰還部において、トランジスタn10とトランジスタp7、並びにトランジスタn11とトランジスタp8間に出力ノードVa+及びVa-がそれぞれ形成されており、トランジスタp13とトランジスタn14、並びトランジスタp15とトランジスタn16からなる各インバータを介して正負反転して、出力電圧Vo+とVo-が取り出される。
【0086】
また、正帰還部において、トランジスタp5のドレインとトランジスタn10のドレインの間には、スイッチング用のPチャネル・トランジスタp7が配置され、同様に、トランジスタp6のドレインとトランジスタn11のドレインの間には、スイッチング用のPチャネル・トランジスタp8が配置されている。さらに、トランジスタn10のドレインと接地の間にはスイッチング用のNチャネル・トランジスタn9が配置され、同様に、トランジスタn11のドレインと接地の間にはスイッチング用のNチャネル・トランジスタn12が配置されている。そして、これらスイッチング用の各トランジスタp7、p8、n9、n12のゲートにはクロック信号CLKが入力されている。
【0087】
差動入力対をなすトランジスタp1及びp2のゲートにはそれぞれ非反転の参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+が入力され、また、他方の差動入力対をなすトランジスタp3及びp4のゲートにはそれぞれ反転された参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-が入力されている。
【0088】
また、差動入力対を構成するトランジスタp1及びp2、並びにトランジスタp3及びp4と並列して、時定数調整用のPチャネル・トランジスタp17及びp18がそれぞれ接続されている。これらトランジスタp17及びp18は、ゲート電圧Vcが印加されると、活性化してリニア領域で動作する。
【0089】
トランジスタp1及びp2、並びにトランジスタp3及びp4からなる各差動入力対、さらにゲート電圧Vc印加時におけるトランジスタp17並びにp18は、正帰還部にとっては、接地との間に挿入された抵抗体Rt1並びにRt2を構成する。各抵抗体Rt1並びにRt2は下式(8)、(9)のように表される。
【0090】
【数8】

【0091】
【数9】

【0092】
図8に示したダイナミック・コンパレータは、上記のリニア領域で動作するトランジスタp1、p2、p3、p4、並びにp17、p18(但し、ゲート電圧Vcを印加したとき)それぞれの抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行なう。
【0093】
クロック信号CLKがハイ・レベルのときには、トランジスタn9及びn12がオン、トランジスタp7及びp8はオフとなり、ラッチ回路が差動入力対から完全に遮断し、出力ノードのVa+とVa-は接地レベルにプリチャージされ、これらの出力はロー・レベルに固定される(Reset状態)。このとき、ダイナミック・コンパレータには電流は一切流れない。
【0094】
次いで、クロック信号CLKがロー・レベルになると、トランジスタn9及びn12がオフになって、出力ノードVa+/-が接地レベルから切り離されると同時に、トランジスタp7及びp8はオンとなって、差動入力対から電流が流れ始め、正帰還部は動作可能になる。
【0095】
ここで、Vin+の方がVin-よりも小さければ、トランジスタp1、p5、p7、n10からなるパスに流れる電流は、トランジスタp2、p6、p8、n11からなるパスよりも大きくなる。つまり、電力ノードVa+の方がVa-よりも速く電荷が流れ込む。正帰還部では、このようにしてできた差動入力対におけるドレイン電圧の電位差を正帰還増幅する。Va+がスイッチ用トランジスタp6の閾値電圧Vthを上回ると、トランジスタp6はオフし、この結果、Va+は電源電圧Vccまで増幅されるとともに、Va-は接地レベルまで増幅され、この状態が保持される(Compare&Latch状態)。相補トランジスタp13及びn14、又は相補トランジスタp15及びn16からなるインバータは、Va+/-をVo+/-として反転出力する。また、Vin-の方がVin+よりも小さければ、Va-が電源電圧Vccまで増幅されるとともに、Va+が接地レベルまで増幅される。したがって、半周期毎にプリチャージとラッチ・モードを切り換えながら、入力電圧Vin+/-と参照基準電圧Vref+/-との比較動作を行なう。
【0096】
このように、クロック信号CLKがロー・レベルに転じた後、出力ノードのVa+とVa-の出力電圧が増幅されるまでの期間は電流が流れるが、ラッチが確定すると回路には静止電流が全く流れないので、一定電流を常に必要とする一般的な定電流型比較回路に比べ、消費電力を大幅に削減することができる。また、正帰還回路によって微小の差動電圧を増幅して、ほぼ電源電圧程度の振幅を持つデジタル・データを出力することができるから、別段に増幅回路を必要とせず、低電源電圧化並びに低消費電力化を実現できる。
【0097】
正帰還部では、抵抗値Rt1、若しくは抵抗値Rt2の大きさに応じたラッチ動作を行なう。例えば、Va-(Vo-)出力を用いる場合には、ラッチの時定数τはτ=Rt1×C(但し、Cは、トランジスタp5のソースと接地間の容量)となり、Va+(Vo+)出力を用いる場合のラッチの時定数τはτ=Rt2×Cとなる。このため、抵抗値Rt1並びにRt2が低過ぎるとラッチの初期状態での感度が低下する一方、高過ぎるとラッチの時定数が大きくなり動作速度が劣化してしまうという問題がある(前述)。
【0098】
これに対し、本実施形態に係るダイナミック・コンパレータでは、レジスタ設定などによってトランジスタp17及びp18のゲートに印加される制御電圧Vcに応じてリニア領域で動作すると、上式(4)及び(5)の右辺の第3項が変化して、抵抗値Rt1並びにRt2が変化させることができるので、正帰還部におけるラッチの時定数τの調整が可能となる。
【0099】
したがって、半周期毎にプリチャージとラッチ・モードを切り替えるという基本的な動作に加えて、トランジスタp17及びp18のオン/オフ操作により閾値が変化して、図3に示した動作チャートにおいて、出力波形を時間軸でTdだけ遅延させることが可能になる。温度変動や素子(閾値電圧)のばらつきによる影響で、ラッチ回路の時定数が変化して、コンパレータの高速動作が厳しくなってきた状態においても、トランジスタp17及びp18のリニア領域の動作によって、正帰還部におけるラッチの時定数τを補正して、安定した比較動作が可能となる。
【0100】
図1又は図8に示したダイナミック・コンパレータを用いて、A/D変換器を構成することができる。図9には、このタイプのA/D変換器の構成例を示しているが、複数の基準電圧を生成する基準電圧生成部と、基準電圧生成部で生成される複数の基準電圧中の対応する基準電圧と入力信号電圧との差分を増幅して差動出力電圧に変換するプリアンプAMP1、AMP2、…、AMPnが複数配列された差動増幅部と、差動増幅部のプリアンプ毎に配列された各コンパレータCMP1、CMP2、…、CMPnにおいて対応するプリアンプの出力信号の大小関係を判定する電圧比較部と、電圧比較部の各コンパレータからの出力信号をエンコードしてデジタル・データを出力するエンコーダで構成される。
【0101】
基準電圧生成部は、(n+1)個の抵抗素子R0、R1、…、Rnのラダーネットワークからなる。分圧用の抵抗素子R0、R1、…、Rnは、電圧素子VrefHとVrefLの間に直列接続されており、隣接する抵抗素子間の接続点から、後段の各プリアンブルAMP1、AMP2、…、AMPnへの基準電圧が取り出される。
【0102】
各コンパレータCMP1、CMP2、…、CMPnは、図1又は図8に示したダイナミック・コンパレータで構成することができる。そして、各コンパレータには、前段の対応するプリアンプで増幅された差電圧信号が入力され、クロック信号CLKの半周期毎にプリチャージとラッチ・モードを切り換えながら比較動作を行ない、論理レベルまで大きくして出力する。
【0103】
エンコーダは、各コンパレータCMP1、CMP2、…、CMPnの出力信号をエンコードして、デジタル・データDoutを出力する。このデジタル・データDoutは、入力信号VINN及びVINPのレベルを基準電圧VrefHとVrefLに対してデジタル化した値を示す。
【0104】
なお、図9に示したA/D変換器は、複数のプリアンプ及びコンパレータを並列接続して構成されるフラッシュ型であり、一度の比較動作で1つの変換結果を出力することができ、高速用途のA/D変換を実現することができる。
【0105】
さらに、図1又は図8に示したダイナミック・コンパレータを用いて電圧比較部の各コンパレータCMP1、CMP2、…、CMPnを構成することで、遅延時間のばらつきや閾値電圧などのバラツキに起因するオフセットの影響によって劣化するビット・エラー・レートを改善することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0107】
本明細書では、本発明をフラッシュ型A/D変換器に使用されるダイナミック・コンパレータに適用した実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。リニア領域で動作させているトランジスタを用いて構成される各種の回路においても、時定数の微調整機構を同様に適用することができる。
【0108】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るダイナミック・コンパレータの回路構成を示した図である。
【図2】図2は、図1に示したダイナミック・コンパレータの動作原理図である。
【図3】図3は、図1に示したダイナミック・コンパレータの動作チャートを示した図である。
【図4】図4は、図1に示したダイナミック・コンパレータの変形例を示した図である。
【図5】図5は、トランジスタ毎にゲート幅を変えて時定数調整手段を構成した例を示した図である。
【図6】図6は、フィンガー構造のトランジスタのマスク・パターンを模式的に示した図である。
【図7】図7は、時定数制御用のトランジスタを差動入力部のトランジスタに並行してレイアウトした様子を示した図である。
【図8】P入力のダイナミック・コンパレータの構成例を示した図である。
【図9】図9は、A/D変換器の構成例を示した図である。
【図10】図10は、高速コンパレータの一構成例(従来技術)を示した図である。
【図11】図11は、ダイナミック・コンパレータの構成例(従来技術)を示した図である。
【図12】図12は、図11に示したダイナミック・コンパレータの動作原理図である。
【図13】図13は、図11に示したダイナミック・コンパレータの動作チャートを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号と所定の基準信号の大小関係を比較し、該比較結果を出力するコンパレータであって、
前記入力信号と前記基準信号をそれぞれ入力し、その電圧差に応じた差動信号を出力する差動入力部と、
所定のクロック半周期毎に、電源電圧のプリチャージと、プリチャージした電源電圧を前記差動信号に応じてディスチャージして前記入力信号と前記基準信号の比較結果を正帰還増幅して保持するラッチ・モードを繰り返し、該比較結果を出力する正帰還部と、
前記正帰還部が電源電圧をディスチャージする際の時定数を調整する時定数調整手段と、
を具備することを特徴とするコンパレータ。
【請求項2】
前記差動入力部は、それぞれリニア領域で動作し、前記入力信号及び前記基準信号をゲート電圧として入力する、並列接続されたトランジスタで構成され、
前記正帰還部は、前記のリニア領域で動作する並列接続された各トランジスタが持つ抵抗値の大きさに応じたラッチ動作を行ない、
前記時定数調整手段は、前記差動入力部を構成するトランジスタに並列接続されたリニア領域で動作するトランジスタと、前記正帰還部におけるラッチの時定数調整に応じて該トランジスタにゲート電圧を印加する制御手段で構成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のコンパレータ。
【請求項3】
前記差動入力部は、ゲートに参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するNチャネル・トランジスタn1及びn2からなる第1の差動入力対と、ゲートに参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するNチャネル・トランジスタn3及びn4からなる第2の差動入力対を備え、各トランジスタn1、n2、n3、n4のソースが接地されており、
前記正帰還部は、前記第1及び第2の差動入力対をそれぞれソースに接続したNチャネル・トランジスタn5及びn6と、それぞれソースに電源電圧Vccを接続したPチャネル・トランジスタp10及びp11とをカスコード接続して構成され、トランジスタp10のドレインと電源電圧Vcc間並びにトランジスタp11のドレインと電源電圧Vcc間にそれぞれスイッチング用のPチャネル・トランジスタp9及びp12を挿入するとともに、トランジスタp10及びトランジスタn5のドレイン間並びにトランジスタp11及びトランジスタn6のドレイン間にそれぞれスイッチング用のNチャネル・トランジスタn7及びn8を挿入し、各スイッチング用のトランジスタn7、n8、p9、p12のゲートにクロック信号CLKを入力し、トランジスタp10とトランジスタn7の間に出力ノードVa+が形成されるとともにトランジスタp11とトランジスタn8の間に出力ノードVa-が形成され、
前記時定数調整手段は、前記第1及び第2の差動入力対にそれぞれ並列接続された、リニア領域で動作するNチャネル・トランジスタn17及びn18を備え、該トランジスタn17及びn18のゲートに制御電圧を入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載のコンパレータ。
【請求項4】
前記時定数調整手段は、前記第1及び第2の差動入力対に並列接続されたK個のトランジスタn17−1、…、n17−K及びNチャネル・トランジスタn18−1、…、n18−Kを備える、
ことを特徴とする請求項3に記載のコンパレータ。
【請求項5】
前記時定数調整手段は、トランジスタn17−1、…、n17−K及びトランジスタn18−1、…、n18−Kのゲート幅に変化を持たせ、前記制御手段は、使用するトランジスタの組み合わせに応じて前記正帰還部におけるラッチの時定数を調整する、
ことを特徴とする請求項4に記載のコンパレータ。
【請求項6】
トランジスタn17−1、…、n17−K及びトランジスタn18−1、…、n18−Kのマスク・パターンをフィンガー構造とする、
ことを特徴とする請求項4に記載のコンパレータ。
【請求項7】
実装基板上において、前記差動入力部を構成するトランジスタn1、n2、n3、n4に対し、トランジスタn17−1、…、n17−K及びトランジスタn18−1、…、n18−Kが配置されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のコンパレータ。
【請求項8】
前記差動入力部は、ゲートに参照基準電圧Vref+と入力電圧Vin+がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するPチャネル・トランジスタp1及びp2からなる第1の差動入力対と、ゲートに参照基準電圧Vref-と入力電圧Vin-がそれぞれ入力された、リニア領域で動作するPチャネル・トランジスタp3及びp4からなる第2の差動入力対を備え、各トランジスタp1、p2、p3、p4のソースが電源電圧Vccに接続されており、
前記正帰還部は、前記第1及び第2の差動入力対をそれぞれソースに接続したPチャネル・トランジスタp5及びp6と、それぞれソースを接地したNチャネル・トランジスタn10及びn11とをカスコード接続して構成され、トランジスタn10のドレインと接地間並びにトランジスタn11のドレインと接地間にそれぞれスイッチング用のNチャネル・トランジスタn9及びn12を挿入するとともに、トランジスタn10及びトランジスタp5のドレイン間並びにトランジスタn11及びトランジスタp6のドレイン間にそれぞれスイッチング用のPチャネル・トランジスタp7及びp8を挿入し、各スイッチング用のトランジスタp7、p8、n9、n12のゲートにクロック信号CLKを入力し、トランジスタn10とトランジスタp7の間に出力ノードVa+が形成されるとともにトランジスタn11とトランジスタp8の間に出力ノードVa-が形成され、
前記時定数調整手段は、前記第1及び第2の差動入力対にそれぞれ並列接続された、リニア領域で動作するPチャネル・トランジスタp17及びp18を備え、Pチャネル・トランジスタp17及びp18のゲートに制御電圧を入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載のコンパレータ。
【請求項9】
複数の基準電圧を生成する基準電圧生成部と、
前記基準電圧生成部で生成される前記複数の基準電圧中の対応する基準電圧と入力信号電圧との差分を増幅して差動出力電圧に変換するプリアンプが複数配列された差動増幅部と、
前記差動増幅部のプリアンプ毎に請求項1に記載のコンパレータを複数配列して構成され、各コンパレータにおいて対応するプリアンプの出力信号の大小関係を判定する電圧比較部と、
前記電圧比較部の各コンパレータからの出力信号をエンコードしてデジタル・データを出力するエンコーダと、
を具備することを特徴とするA/D変換器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−318457(P2007−318457A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146003(P2006−146003)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】