説明

コーティングされた工具およびその製法

本発明は、金属機械加工用の工具およびその製法に関し、該工具は、超硬合金、サーメット、セラミックス、または超硬質材料の基材、およびコーティングを含み、該コーティングは、内側アルミナ層および外側チタンホウ窒化物層を含み、ここで前記層が、アルミナ層以外の酸化物層を含む一以上の層によって分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティングされた工具に関係する。より具体的には、本発明は、チタン ホウ窒化物の層を含み、硬質かつ磨耗耐性を有する、コーティングされた金属機械加工用工具に関係する。
【背景技術】
【0002】
現代の高生産性の金属機械加工は、高い磨耗耐性、良好な靱性特性、および塑性変形に対する優れた耐性を伴う、信頼性のある工具を必要とする。この工具は、一般的に、例えば、超硬合金 または サーメットの工具 基材を含み、その上に好適なコーティングが適用される。このコーティングは、概して硬質で、磨耗耐性、および高温での安定性を有するが、工具の表面の違いによって、要求が異なることがよくある。一例として、レーキ面、すなわち、その上をチップが流れる面、の上のコーティングであれば、高い化学的安定性を有することが、いくつかの切削用途における金属切削工具にとって有利である。この面での条件は、この面に渡って材料が定常的に移動することおよび高温であることにより特徴づけられ、チップを介してコーティングが拡散することを引き起こし、結果として急速な化学磨耗をもたらす。アルミナは、その優れた化学安定性で知られ、そのため切削工具コーティングの成分として一般的に見受けられる。工具のフランク面、すなわちワークピースと接触する面では、その磨耗はより機械的な性質のものである。このような条件下では、高い磨耗耐性のコーティングが好ましく、例えば種々の窒化物、炭化物および炭窒化物、特にTiN, TiC および TiCNがある。
【0003】
工具の一つの面に層を選択的に付着して、工具の別々の面に特殊な要件に合せたコーティングを作ることは、望ましいことではあるが、今日の大規模付着技術では困難である。代わりに、いくつかの機能層をお互いの上に積層したものを含む、同一のコーティングが工具の全ての面に付着される。残念ながら、この付着技術上の限定をしても、耐磨耗性のチタン ホウ窒化物の層を含む、望ましい層の組み合わせはできない、アルミナなどの他の種類の層との適合性の問題があるからである。
【0004】
EP 1 365 045公報は、TiNおよびTiB2からなる混合相でできた、TiBN層、特にカッター本体用のもの、を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、この既存技術の問題を軽減するコーティングおよびその製法を提供することである。
【0006】
さらなる目的は、改善した磨耗耐性を有する、コーティングされた金属機械加工用工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、超硬合金, サーメット, セラミックスまたは超硬質材料、例えば立方晶窒化ホウ素、またはダイヤモンド、好ましくは超硬合金、の工具基材と、内側アルミナ層および外側 チタン ホウ窒化物層を含むコーティングとを含み、ここで前記層が、アルミナ層以外の酸化物層を含む一以上の層によって分離している、金属機械加工用工具を提供する。
【0008】
本発明は、超硬合金, サーメット, セラミックスまたは超硬質材料,好ましくは超硬合金の工具基材を用意し、および、化学気相蒸着 (CVD) または プラズマ補助 CVD (PACVD)を用いて、該基材上に、内側アルミナ層、アルミナ層以外の酸化物層、および外側 チタン ホウ窒化物層を含むコーティングを付着させる、ことを含む,工具の製法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明によりコーティングされた典型的な工具の、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す、ここで A) チタン ホウ窒化物層 B) チタン 酸化物層 C) アルミナ層、である。
【図2】図2は、アルミナ層 およびチタン ホウ窒化物層を含む、比較例のコーティングの上面SEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
内側アルミナ層および外側 チタン ホウ窒化物層を分離する酸化物層は、酸化ジルコニウム, 酸化バナジウム, 酸化チタン または 酸化ハフニウムが好適であり,酸化チタン および 酸化ジルコニウムが好ましく、酸化チタンが最も好ましく, 厚さ は0.1 から 2 μmが好適であり,0.5 から1.5 μmが好ましく、0.5 から1 μmがより好ましい。
【0011】
内側アルミナ層はα-Al2O3,のものが好適であり、厚さは0.5 から 25 μmが好適であり, 2 から19 μmが好ましく, 3 から15 μmがより好ましい。
【0012】
外側チタンホウ窒化物層は、TiB2 相 および TiN 相の混合物の複合材料であり、ここでTiB2:TiN 相 (atom-%)比は、1:3 から 4:1が好適であり, 1:2 から 4:1が好ましく, 1:1 から 4:1がより好ましく, 1:1 から 3:1が最も好ましい。この層の厚さは0.3 から10 μmが好適であり, 0.5 から7 μmが好ましく, 0.5 から6 μmがより好ましい。
【0013】
一実施態様では、厚さ 0.1-1 μmのTiN 層が、酸化物層 およびチタン ホウ窒化物層の間に存在し、好ましくは酸化物層に直接適用され、および好ましくはチタン ホウ窒化物層がTiN 層に直接適用される。
【0014】
一実施態様では、チタン ホウ窒化物 層が、コーティングの最外層であり、その厚さは0.3 から2 μmが好適であり, 0.5 から1.5 μmがより好ましい。この実施態様では、チタン ホウ窒化物 層が、磨耗検知層として優れた特性を有することが証明されている、すなわち、その層の輝く銀色によって、工具が既に使用されているかを検知し、特に金属切削工具のフランク面に適用される。
【0015】
一実施態様では、本発明によるこれらの層は、以下を含む層連続体の上部に適用される:
-第一の、0.1 から3 μm, 好ましくは0.3 から2 μm,最も好ましくは0.5 から1.5 μm厚さの、磨耗耐性の層連続体であって、一またはいくつかの個別の層を含み、その第一の層が、炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物または炭酸窒化物(carbooxynitride)の遷移金属化合物、好ましくはTiC, TiN, Ti(C,N), ZrN, HfNの一つであり,最も好ましくはTiNである、第一の層連続体、
-第二の、0.5 から 30 μm,好ましくは 3 から20 μm, 厚さの層連続体であって、窒化物、炭化物、または炭窒化物の遷移金属化合物、好ましくはTiN, TiC, Ti(C,N), Zr(C,N)、最も好ましくは柱状グレイン構造を伴うTi(C,N) または Zr(C,N)の、一以上の層を含む、第二の層連続体。この層連続体は、プレート状構造を有するTi(C,N,O)を含んでもよい。
【0016】
コーティングの合計厚さは、> 3.5 μmが好適であり、> 5 μmが好ましく、> 7 μmがより好ましく、また、30 μm未満が好適であり、20 μm未満が好ましい。
【0017】
工具は、旋盤、フライスおよびドリルのような、チップ形成機械加工用の金属切削工具であることが好ましい。したがって、その基材は、工具ホルダーにクランプするためにインサートの形状であることが好適であるが、むくドリルまたはフライス盤の形態であってもよい。
【0018】
この方法において、内側アルミナ層は、約900から1050 °Cの温度で付着した、α-Al2O3からできていることが好適であり、0.5 から25 μm, 好ましくは 2 から19 μm, より好ましくは 3 から15 μmの厚さまで付着することが好適である。
【0019】
付着させる酸化物層は、約800 から1050 °Cの温度で付着される、酸化ジルコニウム, 酸化バナジウム, 酸化チタン または 酸化ハフニウム, より好ましくは酸化チタン および 酸化ジルコニウム, 最も好ましくは酸化チタンからできていることが好適であり、かつ、0.1 から2 μm, 好ましくは 0.5 から1.5 μm, 最も好ましくは0.5 から1 μmの厚さまで付着することが好適である。
【0020】
外側 チタン ホウ窒化物 層は、TiB2 相 および TiN 相の混合物の複合材料であり、ガス混合物中でのBCl3:TiCl4分圧比として約 1:6 から2:1, 好ましくは 1:4 から2:1, より好ましくは 1:2 から2:1, 最も好ましくは1:2 から1.5:1を用いて、TiB2:TiN 相 比が1:3 から4:1の間, 好ましくは 1:2 から4:1の間,より好ましくは 1:1 から4:1の間, 最も好ましくは 1:1 から3:1の間に付着されることが好適である。
【0021】
外側 チタン ホウ窒化物 層は、約700 から900 °Cの温度で、厚さ0.3 から10 μm, 好ましくは 0.5 から7 μm, より好ましくは0.5 から6 μmまで付着されることが好適である。
【0022】
一実施態様では、本発明による層は、以下を含む層連続体の上部に適用される:
-第一の、0.1 から3 μm, 好ましくは0.3 から2 μm,最も好ましくは0.5 から1.5 μm厚さの、磨耗耐性の層連続体であって、一またはいくつかの個別の層を含み、その第一の層が、炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物または炭酸窒化物(carbooxynitride)の遷移金属化合物、好ましくはTiC, TiN, Ti(C,N), ZrN, HfNの一つであり,最も好ましくはTiNであり、約850 から 1000 °Cの温度で付着させた、第一の層連続体、
-第二の、0.5 から 30 μm,好ましくは 3 から20 μm, 厚さの層連続体であって、窒化物、炭化物、または炭窒化物の遷移金属化合物、好ましくはTiN, TiC, Ti(C,N), Zr(C,N)、最も好ましくは柱状グレイン構造を伴うTi(C,N) または Zr(C,N)の、一以上の層を含む、第二の層連続体。この層連続体は、プレート状構造を有するTi(C,N,O)を含んでもよい。この層連続体は、約800 から 1050 °Cの温度で付着される。
【実施例】
【0023】
例1
【0024】
試料A
旋盤用のISOタイプCNMG120408の、10 wt-%Co, 0.39 wt-%Cr および 残部 WCからなる超硬合金インサートを、洗浄し、以下のCVD コーティングプロセスにかけた。このインサートに、930 °Cで従来型のCVD技術を用いて、約0.5 μm厚さのTiN層をコーティングし、次いで885 °Cの温度でプロセスガスとしてTiCl4, H2, N2 および CH3CNを用いるMTCVD技術を用いて、約7 μm TiCxNy 層をコーティングした。同じコーティングサイクルにおける次のプロセス工程で、約0.5 μm厚さのTiCxOz の層をTiCl4, CO および H2を用いて1000 °Cで付着し、次に、2分間、2 vol-% CO2, 3.2 vol-% HCl および 94.8 vol-% H2の混合物で反応器をフラッシュ洗浄して、Al2O3プロセスを開始し(Al2O3-開始)、約7 μm 厚さのα-Al2O3 の層を付着させた。この付着プロセスの間のプロセス条件は以下のとおりである。
【0025】
【表1】

【0026】
試料B1(本発明)
試料Aのインサートを、Ti2O3 付着工程にかけ、そこでそのコーティングされる基材を930 °Cの温度に保持し、TiCl4およびCO2を含有する水素キャリアガスと接触させた。その核生成は、一連の流れの中で始まり、そこでは最初にH2 雰囲気に反応物質ガスCO2が入り、TiCl4が続く。以下のプロセスパラメータを用いて、CVDプロセスにより、チタン 酸化物層を、約0.75 μmの厚さまで付着させた。
【0027】
【表2】

【0028】
このインサートをチタン ホウ窒化物(以後、TiBNと示す)付着工程にかけ、そこでは、そのコーティングされる基材を850 °Cの温度に保持し、N2を含有する水素キャリアガスと接触させた。反応器へ最初に反応物質ガスTiCl4を入れ、BCl3を続けることにより、その核生成および成長を始めた。以下のプロセスパラメータで、TiBN 層を、約2 μmの厚さまで付着させた。
【0029】
【表3】

【0030】
マイクロアナライザーと結合させたWDS, Jeol JXA-8900 R-WD/EDを備えた走査型電気顕微鏡からなる、電子マイクロプローブ (EPMA)を用いて、10kV加速電圧を用いて、TiBN 層中のTiB2:TiN 相 (atom-%)比が約2:1であることを測定した。この比は、EPMA測定で得られた、これらの元素の原子濃度から計算した。
【0031】
試料B2(本発明)
試料Aのインサートを、ZrO2付着工程にかけ、そこでそのコーティングされる基材を1010 °Cの温度に保持し、ZrCl4を含有する水素キャリアガスと接触させた。その核生成は、一連の流れの中で始まり、そこでは最初に反応器にHClが入り、反応物質ガスCO2が続き、H2Sが続く。以下のプロセスパラメータを用いて、CVDプロセスにより、酸化ジルコニウム層を約2 μmの厚さまで付着させた。
【0032】
【表4】

【0033】
ZrO2付着工程に続いて、このインサートを試料B1インサートと同じTiBN付着プロセスにかけた(表3参照)。
【0034】
試料C(比較例)
試料Aのインサートを、表4のTiBN付着プロセスにかけ、約3 μm 厚さのTiBN 層をAl2O3 層上に直接付着させた。
【0035】
試料D(比較例)
試料Aのインサートを、表1の工程1の付着プロセスにかけ、そこでは従来型の約0.5 μmの厚さのTiN磨耗検知層をAl2O3 層上に直接付着させた。
【0036】
例2
試料B1, B2 および Cを、異なるコーティングへの付着という点で、評価し、表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
例3
試料B1およびDに、2.4 barの圧力で水とアルミナグレインの混合物を用いて、標準的なブラスト操作を行い、それによりそれぞれの最外のTiBNおよびTiN層をインサートのレーキ面で除去した。フランク面、すなわちブラスト材に晒されなかった面、の上の磨耗検知層の外観が、このブラスト操作の後で確認された(表6参照)。
【0039】
【表6】

【0040】
このように、本発明による磨耗耐性チタン ホウ窒化物層は、最外層として用いたときに、通常の製造工程、特にブラスト処理、で偶発的に生じる不具合に対する耐性が非常に高まり、結果としてより良好な生産歩留まりをもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金, サーメット, セラミックスまたは超硬質材料の工具基材と、内側アルミナ層 および外側 チタン ホウ窒化物層を含むコーティングとを含んでなり、前記層が、アルミナ層以外の酸化物層を含む一以上の層によって、分離されることを特徴とする、金属機械加工用工具。
【請求項2】
該チタン ホウ窒化物層が1:3 から 4:1のTiB2:TiN 相, atom-%比を有する、請求項1に記載の工具。
【請求項3】
該チタン ホウ窒化物層が1:1 から 4:1のTiB2:TiN 相, atom-%比を有する、請求項1に記載の工具。
【請求項4】
該チタン ホウ窒化物層が該コーティングの最外層である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の工具。
【請求項5】
該アルミナ層がα-Al2O3からできている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の工具。
【請求項6】
該酸化物層が酸化ジルコニウム, 酸化バナジウム, 酸化チタン または 酸化ハフニウムからできている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の工具。
【請求項7】
該酸化物層が0.1 から 2 μmの厚さを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の工具。
【請求項8】
該工具 基材が超硬合金からできている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の工具。
【請求項9】
該工具が切削工具インサートである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の工具。
【請求項10】
該工具が、むくドリル,フライス盤またはねじ切りタップである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の工具。
【請求項11】
超硬合金, サーメット, セラミックスまたは超硬質材料の工具 基材を用意すること、および、
化学気相蒸着 または プラズマ補助化学気相蒸着を用いて、内側アルミナ層, アルミナ層以外の酸化物層,および外側 チタン ホウ窒化物層を含むコーティングを該基材上に付着させること、
を含むことを特徴とする、金属機械加工用工具の製法。
【請求項12】
ガス混合物中でBCl3:TiCl4分圧比を1:6 から 2:1の範囲内にセットして、該チタン ホウ窒化物層を付着する、請求項11に記載の工具の製法。
【請求項13】
ガス混合物中でBCl3:TiCl4分圧比を1:2 から 2:1の範囲内で用いて、該チタン ホウ窒化物層を付着する、請求項11に記載の工具の製法。
【請求項14】
該付着した酸化物層が酸化ジルコニウム, 酸化バナジウム, 酸化チタン または 酸化ハフニウムでできている、請求項11〜13のいずれか1項に記載の工具の製法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−507625(P2012−507625A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534442(P2011−534442)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/SE2009/051129
【国際公開番号】WO2010/050877
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】