説明

コーティングロッドおよびそれを用いた塗布方法および装置

【課題】塗布端部からの気泡の混入を防止し、気泡混入に起因する塗布欠点の発生を防止可能なコーティングロッド、およびそれを用いた塗布方法および装置を提供する。
【解決手段】溝付きコーティングロッドにおいて、溝が形成された溝形成部は、溝深さがHnの通常溝部と、溝形成部のロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成され、溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下の浅溝部とを有し、かつ、溝形成部の一端から浅溝部の溝形成部中央部側の端までの距離Lsが20mm以上であることを特徴とするコーティングロッド、およびそれを用いた塗布方法および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するウェブの表面に塗布された塗液を、表面に溝を形成したロッドによって計量またはスムージングするコーティングロッド、およびそれを用いた塗布方法と塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行するウェブの表面に塗液を塗布する方法として、ファウンテン等の塗布ノズルで過剰に塗布した塗液をコーティングロッドで所定の塗布厚みに計量塗布する方法や、塗布ノズルから計量塗布した塗液をコーティングロッドでスムージング塗布する方法が知られている。また、塗布装置としては、ウェブの成形工程途中で塗布するインラインコーターと、成形後巻物にしたウェブを巻き出して塗布するオフコーターとがある。
【0003】
前記塗布方法においては、コーティングロッドの上流側と下流側にメニスカスと呼ばれる塗液の溜まり部が形成される。このとき、ウェブのばたつきや、コーティングロッド上流側の塗布状態の変動などにより、前記メニスカスに塗布端部から空気が混入して気泡となったり、ロッドの軸方向に沿って気泡がメニスカスの中を移動することがある。ロッドの下流側に形成されたメニスカス内を移動する気泡は、その表面張力によってメニスカスの形状を変形させるため、塗布面にスジ状の塗布欠点を発生させることがある。
【0004】
従来、ウェブの幅方向における塗布端部からの気泡の混入を防止する方法としては、塗布端部近傍においてウェブを局部的に押し込む方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、ウェブの剛性が大きい場合、例えばウェブが樹脂フィルムであってウェブの厚みが100μm以上の場合、ウェブを局部的に押さえ込むことが困難となり、目標とする効果を得られないことがある。また、ウェブ自身が軟弱な場合、押さえ込んだ部分に傷が生じたり、時には破れるといった問題が生じるおそれがある。
【特許文献1】特開2003−181357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、ウェブの傷つきや破れといったトラブルを生じることなく、かつ、簡単な構成で、塗布端部からの気泡の混入を防止し、気泡混入に起因する塗布欠点の発生を防止可能なコーティングロッド、およびそれを用いた塗布方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るコーティングロッドは、ロッド軸方向における所定範囲にわたって表面に溝が形成され、走行するウェブの表面に塗布された塗液を計量またはスムージングするコーティングロッドにおいて、前記溝が形成された溝形成部は、溝深さがHnの通常溝部と、前記溝形成部の前記ロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成された前記溝深さが0.8Hn以下でありロッド軸方向における幅が3mm以上である浅溝部とを有し、かつ、前記溝形成部の最寄りの一端から前記浅溝部の前記溝形成部中央部側の端までの距離Lsが20mm以上であることを特徴とするものからなる。
【0007】
上記通常溝部の溝深さHnは10μm以上300μm以下であり、好ましくは12μm以上150μ以下である。上記浅溝部の溝深さは0.8Hn以下であり、好ましくは0.5Hn以下である。上記距離Lsは20mm以上であり、好ましくは50mm以上である。
【0008】
また、本発明に係るコーティングロッドは、ロッド軸方向における所定範囲にわたって表面に溝が形成され、走行するウェブの表面に塗布された塗液を計量またはスムージングするコーティングロッドにおいて、前記溝が形成された溝形成部は、溝深さがHnの通常溝部と、前記溝形成部の前記ロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成された前記溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下でありロッド軸方向における幅が3mm以上である浅溝部とを有し、かつ、前記溝形成部の最寄りの一端から前記浅溝部の前記溝形成部中央部側の端までの距離Lsが20mm以上であることを特徴とするものからなっていてもよい。
【0009】
また、前記溝形成部の最寄りの一端から前記浅溝部の前記溝形成部中央部側の端までの距離Lsが通常溝部のロッド軸方向の幅の30%以下であることが好ましい。
【0010】
上記距離Lsの範囲は通常製品にならないため、製品ロスを考慮し、通常溝部のロッド軸方向の幅の30%以下であり、好ましくは10%以下である。前記浅溝部は、溝形成部のロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成されればよく、浅溝部は複数あってもよい。例えば、溝形成部のロッド軸方向における両端の近傍にそれぞれ形成されてもよい。なお、この場合、上記距離Lsは、溝形成部のそれぞれの浅溝部から最寄りの一端から測定することはいうまでもない。また、溝深さの加工精度は一般的に±5%以内程度であるため、浅溝部の溝深さを通常溝部の溝深さHnの10〜80%(0.1Hn以上0.8Hn以下)とすることは、加工誤差の範囲を排除し、意図的に浅く形成したものと言える。
【0011】
また、前記浅溝部の前記ロッド軸方向における幅が500mm以下であることが好ましい。より好ましくは、浅溝部の幅が100mm以下であり、さらに50mm以下が好ましい。浅溝部の形成により、後述の如く塗布端からの気泡混入防止効果が得られるが、この効果を実現できる浅溝部の有効幅は必ずしも明確になっていない。しかし浅溝部の幅が1〜2mm程度では、浅溝部を形成した効果が殆どないので、ある程度の幅が必要である。加工のしやすさから考えると3mm以上が好ましいことから、ここでは浅溝部の幅3mmを下限とした。幅が広すぎる方は、効果としては特に問題はないが、浅溝部では塗布厚みが薄くなるため通常製品にならず、製品ロスを考慮すると500mm以上設ける必要がないことから、ここでは浅溝部の幅500mmを上限とした。
【0012】
上記溝深さに関して、本発明では図5に示すような定義、測定方法を用いた。測定方法としては、接触式の変位計やレーザー光などを用いた非接触式の変位計41をコーティングロッド42の軸方向に相対的に移動させて、ロッド表面に形成された凹凸を測定した。溝形成部の一端から順次、ピークとボトムの差、H1、H2・・・Hnを測定した。溝深さは、近接5点の移動平均とした。すなわち、i番目の溝深さは、図におけるHi−2,Hi−1,Hi,Hi+1,Hi+2の平均値とした。
【0013】
通常溝部の定義については、所定の塗布厚みが得られる部分とした。良好な塗布品質を得るため、通常溝部の溝深さは均一であることが好ましい。一般的には、±5%以内の精度がある。また、浅溝部は、図6に示すように、溝深さが0.8Hn以下の部分を指し、図6に示した例では、ロッド軸方向の位置について、溝形成部、通常溝部、浅溝部、溝形成部の一端から浅溝部の溝形成部中央部側の端までの距離Lsの関係は、図示の如き位置関係となる。浅溝部は一般的に通常溝部の溝深さの精度が±5%程度であることから、溝深さが0.1Hnを越える点を起点と考えることもできる。
【0014】
このような本発明に係るコーティングロッドにおいては、次のように、塗布端部からの気泡の混入が防止される。塗液の塗布は、例えば図7に示すように、走行するウェブ51に対し、ファウンテン52から塗液53が所定の塗布幅にて塗布され、溝付きコーティングロッド54により計量またはスムージングされるが、このとき、前述したように、コーティングロッド54の上流側と下流側にメニスカス55、56が形成される。そして、下流側のメニスカス56に関しては、図8に示すように、例えばコーティングロッド54をウェブ51に対して順転して使用する場合、塗液53はコーティングロッド54の下流でウェブ側とロッド側に分岐し、曲率半径Rmのメニスカス56を形成する。これに類似の現象を生じるフォワードロールコーティングの理論によると、分岐点の圧力Pmは、塗液の表面張力をσとすると、Pm=−σ/Rmとなる。浅溝部のRmは通常溝部のRmよりも小さいため、浅溝部のメニスカスの圧力が通常溝部よりも低くなることになり、塗布端部から気泡が混入しようとする場合、気泡が通常溝部側へ進入しようとすることが抑制されるか、浅溝部から溝形成部の端側へと押し出されるようになり、塗布製品形成部である溝形成部の中央部側への気泡の混入が防止される。従来装置では、図9に示すように、塗布製品形成部に気泡57が混入することがあり、それに起因して塗布スジ58が発生するおそれがあったが、本発明ではこのようなおそれが除去されることになる。
【0015】
上記浅溝部については、その少なくとも一部の溝深さが、溝形成部の最寄りの一端に向かって漸減するように形成されていることが好ましい。つまり、メニスカスの圧力差によって気泡が製品形成部側へ流れるのを防止するという、上記のような本発明の原理から考えると、浅溝部の溝深さを塗布端に向かって漸減させ、圧力勾配を形成すれば、塗布端に向かって気泡を移動させることが可能であり、より好ましい。
【0016】
本発明に係る塗布方法は、上記のようなコーティングロッドを、走行するウェブの表面に塗布された塗液のロッド上流側におけるウェブの幅方向における塗布端を、ウェブの幅方向における前記浅溝部の範囲内またはそれよりも前記溝形成部の最寄りの一端側に位置させて用いることを特徴とする方法からなる。このような配置とすれば、上記の如く、メニスカスの圧力差によって気泡が製品形成部側へ流れるのを効果的に防止でき、気泡混入に伴う塗布欠点の発生を防止できる。
【0017】
また本発明に係るさらに好ましい塗布方法としては、上記方法のように配置したコーティングロッドのウェブの幅方向における前記浅溝部の範囲内において、ウェブに対し前記コーティングロッドの位置する側とは反対側のウェブ面から前記コーティングロッドの方向に、ウェブを局部的に押し込むことを特徴とする方法からなる。従来、塗布端部からの気泡の混入を防止する方法としては、特許文献1に記載の、塗布端部近傍においてウェブを局部的に押し込む方法が提案されている。この方法は、本発明に係るコーティングロッドと目的を同じくして手段が異なるものであるが、ウェブを局部的に押し込む位置を前記浅溝部の範囲内とすることで、相乗効果を得ることができる。

ウェブを局部的に押し込む方法としては、コーティングロッドの位置する側とは反対側のウェブ面側に設けられたローラを、エアシリンダやボールネジ等の昇降手段を用いてウェブに押し付けても良いし、コーティングロッドとは反対側のウェブ面側に設けられた気体噴射ノズルを用いてウェブに気体を吹き付けてもよい。これらの押し込み方法は、ウェブ押し込み量を調整可能であることが好ましい。また、ウェブをできるだけ局部的に押し込んだ方が気泡混入防止効果が高いので、ローラを用いる場合には狭幅のローラが好ましく、ローラ径がローラ軸方向の中央部で最大となるそろばん玉状のローラが最も好ましい。
【0018】
ウェブを局部的に押し込むことによる効果は、コーティングロッドの上流側または下流側に形成されるメニスカスの形状を局部的に変形させることによって得られるものである。従って、ウェブを局部的に押し込む位置は、ウェブ走行方向としては、コーティングロッドの上流側または下流側に形成されるメニスカスの直上、もしくは押し込みによるウェブの変形がメニスカスの形状に影響する程度に近傍であることが好ましい。コーティングロッドの上流側と下流側とでは下流側の方が塗布品質に与える影響が大きいため、上流側と下流側の両方に設けるか、下流側のみに設けることが好ましい。ロッド軸方向の押し込み位置は、前記浅溝部の範囲内であって、前記浅溝部の端部ちょうどであっても良く、また、前記浅溝部の範囲内に複数設けても良い。 なお、押し込み量は、通常溝部の下流側メニスカスへの気泡の混入の様子をみながら適宜設定すればよいが、通常、0.1〜5mm程度に設定する。押し込み量は、押し込み位置での押し込み前後のウェブの変位量を適当な変位計や写真等を利用して測定する。押し込み方法が図14の形態のように接触式である場合には押し込み手段の変位量で測定してもよい。
【0019】
また、本発明に係る塗布装置は、上記のようなコーティングロッドを有することを特徴とするものからなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るコーティングロッドおよびそれを用いた塗布方法および装置によれば、簡単な構造で、安価に、かつ、操作性を損なわない方法で気泡の混入を防止できる。気泡の混入に起因する塗布スジ欠点を低減できるため、製品の品質を向上することができる。また、欠点が発生しないため、収率が向上し、生産性を向上できるとともに、製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本実施形態の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態のコーティングロッドは、ロッド軸方向における所定範囲にわたって表面に溝が形成され、走行するウェブの表面に塗布された塗液を計量またはスムージングするコーティングロッドであり、溝が形成された溝形成部は、溝深さがHnの通常溝部と、溝形成部のロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成され、溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下でありロッド軸方向における幅が3mm以上の浅溝部とを有し、かつ、前記溝形成部の一端から前記浅溝部の溝形成部中央部側の端までの距離Lsが20mm以上であることを特徴とするものである。
【0023】
このようなコーティングロッドとして、例えば図1〜図4に示すような構成のものを挙げることができる。すなわち、図1に示すコーティングロッド1では、ロッド軸方向における中央部の所定範囲にわたって表面に溝が形成された溝形成部2を有しており、この溝形成部2のロッド軸方向において、ロッド中央3を含む中央部には溝深さがHnの通常溝部4が形成され、その両端部、つまり、溝形成部2のロッド軸方向における両端近傍に、溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下の浅溝部5が形成されている。本実施形態では、両浅溝部5の外側に、さらに溝深さがHnの通常溝部4が形成されている。なお、浅溝部5の外側に設けた通常溝部4は、浅溝部5より深い溝が形成されておればよい。この浅溝部5の外側の溝部は、これを設けない場合よりも後述の下流側塗布端の位置を中央側に寄せることができ、製品ロスを低減できるという効果を奏する(図10、図11参照)。そして、溝形成部2の両端から両浅溝部5の溝形成部中央部側の端までの距離Lsが、20mm以上とされている。
【0024】
図2に示すコーティングロッド11では、ロッド軸方向における中央部の所定範囲にわたって表面に溝が形成された溝形成部12を有しており、この溝形成部12のロッド軸方向において、ロッド中央13を含む中央部には溝深さがHnの通常溝部14が形成され、その両端部、つまり、溝形成部12のロッド軸方向における両端部に、溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下の浅溝部15が形成されている。本実施形態では、各浅溝部15は、溝形成部12の各端まで形成されている。そして、溝形成部12の両端(つまり、両浅溝部15の外端)から両浅溝部15の溝形成部中央部側の端までの距離Lsが、20mm以上とされている。したがって、本実施形態では、各浅溝部15のロッド軸方向における幅が、20mm以上とされている。
【0025】
図3に示すコーティングロッド21では、ロッド軸方向における中央部の所定範囲にわたって表面に溝が形成された溝形成部22を有しており、この溝形成部22のロッド軸方向において、ロッド中央23を含む中央部から一方の端までにわたって溝深さがHnの通常溝部24が形成され、その一端側、つまり、溝形成部22のロッド軸方向における一端近傍にのみ、溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下でありロッド軸方向における幅が3mm以上の浅溝部25が形成されている。本実施形態では、この浅溝部25の外側に、さらに溝深さがHnの通常溝部24が形成されている。そして、溝形成部22の一端から浅溝部25の溝形成部中央部側の端までの距離Lsが、20mm以上とされている。
【0026】
図4に示すコーティングロッド31では、ロッド軸方向における中央部の所定範囲にわたって表面に溝が形成された溝形成部32を有しており、この溝形成部32のロッド軸方向において、ロッド中央33を含む中央部から一方の端までにわたって溝深さがHnの通常溝部34が形成され、その一端側、つまり、溝形成部32のロッド軸方向における一端近傍にのみ、溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下の浅溝部35が形成されている。本実施形態では、浅溝部35は、溝形成部32の端まで形成されている。そして、溝形成部32の一端から浅溝部35の溝形成部中央部側の端までの距離Lsが、20mm以上とされている。したがって、本実施形態では、この浅溝部35のロッド軸方向における幅が、20mm以上とされている。
【0027】
このような本実施形態のコーティングロッドは、例えば次のように製造することができる。
・転造加工によって溝を形成する転造バーの場合、1本のロッドを溝深さの異なるダイスで複数回加工する。
・ロッドにワイヤーを巻き付けて溝を形成するワイヤーバーの場合、径の異なるワイヤーを巻く。
・レーザーでパターン加工する。
・バイトで切削する。
・溝を樹脂等の充填剤で埋める。
【0028】
また、本実施形態における塗液の塗布が適用される好適なウェブとしては、例えば、樹脂フィルム、金属帯、紙などを挙げることができる。また、本実施形態による効果がよく現れる塗布条件としては、例えば、ウェブの移動速度が100m/分以下で、塗布直後の塗布厚みが2μm以上50μm以下、より好ましくは3μm以上30μm以下の場合である。さらに、塗液としては、表面張力が70mN/m以下、より好ましくは60mN/m以下で、粘度が1000mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下のものを挙げることができる。また、コーティングロッドに対するウェブの巻き付け角度は5〜30度の範囲が好ましい。
【0029】
本実施形態のコーティングロッドは、ウェブの走行方向に対して順転で使用することが好ましく、その周速度がウェブの走行速度と等しいことがウェブに擦り傷を生じにくいため最も好ましい。コーティングロッドは駆動装置によって回転させても良いし、ウェブとの摩擦力によって回転させても良い。摩擦力によってロッドを回転させる場合は、ロッドの支持手段とロッドとの摩擦力が、ウェブとロッドとの摩擦力よりも小さいロッド支持手段を選定しなければならないが、駆動装置が不要であるため低コストで、装置構成が単純になるため操作および保守が簡易である。
【0030】
なお、本実施形態の塗布装置は、インラインコーターとしてもよく、オフコーターとしても構成できる。
【実施例】
【0031】
[実施例1]
図1または図3に対応する構成の図10に示したコーティングロッド61を用いた。コーティングロッド61には転造バーを用いた。バーの直径は12.7mm、全幅は1500mmである。通常溝部62の溝深さを20μm、溝ピッチを200μm、浅溝部63は溝深さを6μm、幅を10mmとした。浅溝部63のロッド中央寄りの端とそれに近い方の溝形成部の端との距離Lsは100mmとした。ウェブ64には厚み300μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを用いた。ウェブ64の移動速度は60m/分、ロッドはウェブと同速度、順転とした。コーティングロッド61に対するウェブ64の巻き付け角度は15度とした。
【0032】
ロッド上流側塗布端65を、Lsの範囲内における、浅溝部63の直ぐ外側の通常溝部62内の位置に設定した。塗液には、固形分濃度3重量%、表面張力50mN/m、粘度2mPa・sのアクリルエマルジョン塗料を用いた。66は上流側メニスカスを、67は下流側メニスカスを、68はロッド下流側塗布端を、それぞれ示している。
【0033】
上記の条件で塗布した結果、図10に示すように、塗布端から混入した気泡69は浅溝部63にしばらく滞留した後、ウェブ64の移動方向に排出された。その結果、40時間連続で塗布しても気泡69およびそれに起因する塗布スジ70が浅溝部63よりも内側に入ることはなかった。
【0034】
用いたコーティングロッド61の溝深さのプロファイルも図10中に示す。コーティングロッド61の溝深さはキーエンス社製のレーザー変位計(センサーヘッド:LT−9010M、コントローラ:LT−9500、XYステージ:KS−1100)を用いて測定した。XYステージに固定したVブロックにコーティングロッド61を載せて、ロッドの軸方向に移動させながら、溝形成部の一端から他端まで溝形状を測定し、5点の移動平均として溝深さを算出した。
[実施例2]
図2または図4に対応する構成の図11に示す溝深さのプロファイルを有するコーティングロッド71で塗布を実施した結果、実施例1と同様、塗布端から混入した気泡79は浅溝部73にしばらく滞留した後、ウェブ74の移動方向に排出された。その結果、40時間連続で塗布しても気泡79およびそれに起因する塗布スジ80が浅溝部よりも内側に入ることはなかった。実施例1と異なる条件は、浅溝部の幅を100mmとしたことである。図11において、72は通常溝部を、75はロッド上流側塗布端を、76は上流側メニスカスを、77は下流側メニスカスを、78はロッド下流側塗布端を、それぞれ示している。
[比較例1]
図12に示すように、従来の一般的なコーティングロッド81を用い、一般的な方法で塗布した。コーティングロッド81における溝形成部の大半は通常溝部82であるが、加工上、その端部に浅溝部83が形成される。但し、この浅溝部83のロッド軸方向における幅はごく僅かで、通常6mm以下であり、ここでは4mmのものを用いた。なお、浅溝部83はロッド軸方向における溝形成部の最端部に形成されるので、浅溝部の溝形成部中央部側の端までの距離Lsも4mmである。通常溝部82の溝深さは実施例1と同様に20μmとした。ウェブの厚み、ウェブの移動速度、塗液などの塗布条件は実施例1と同様とした。図示のとおり、塗液は通常溝部の範囲内に与えられるように塗布端の条件を設定した。塗布端から気泡が混入し、約10時間に1回の頻度で塗布スジ90が製品部に発生した。図12において、84はウェブを、85はロッド上流側塗布端を、86は上流側メニスカスを、87は下流側メニスカスを、88はロッド下流側塗布端を、それぞれ示している。
[比較例2]
図13に示すように、従来の一般的なコーティングロッド91を用い、ロッド上流側塗布端95の位置を溝形成部の外側(浅溝部93の外側)に設定して塗布を実施した。浅溝部のロッド軸方向の幅は比較例1と同様に4mmである。通常溝部92の溝深さは実施例1と同様に20μmとした。ウェブの厚み、ウェブの移動速度、塗液などの塗布条件は実施例1と同様とした。コーティングロッド91にはロッド上流側塗布端95の外側に溝が形成されていないために、ロッド下流側塗布端98が樹脂フィルム端(ウェブ94の端)まで広がり、塗布面の反対面に塗液が回り込んで、下流側の工程を汚染した。図13において、94はウェブを、96は上流側メニスカスを、97は下流側メニスカスを、それぞれ示している。
[実施例3]
実施例1において、図14に示すそろばん玉状のローラ99を浅溝部63の範囲内で下流側メニスカス67の直上となる位置に配置し、下流側メニスカス67が局部的に変形するように、ローラ99でウェブ64を局部的に押し込んで塗布した。なお、そろばん玉状のローラ99は、ローラ径がローラ軸方向の中央部で最大となるように形成されており、先端部は、曲率半径1mmの曲面に形成されているものを用いた。その結果、72時間連続で塗布しても気泡69およびそれに起因する塗布スジ70が浅溝部63よりも内側に入ることはなかった。
[比較例3]
比較例1において、実施例3と同じそろばん玉状のローラ99をロッド上流側塗布端85の直ぐ内側で下流側メニスカス87の直上となる位置に配置し、下流側メニスカス87が局部的に変形するように、ローラ99でウェブ84を局部的に押し込んで塗布した。ローラ99の押し込み力を実施例3と等しくした場合、約25時間に1回の頻度で塗布スジ90が製品部に発生した。これは、ウェブ84の曲げ剛性が大きいと、下流側メニスカス87の変形がなだらかになり、特許文献1で開示されている局部的な押し込みだけでは十分な効果が得られないことを意味している。そこで、ローラ99の押し込み力を大きくして、下流側メニスカス87の変形を大きくしたが、押し込んだ部分のウェブ84に傷を生じたため断念した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、走行ウェブに対し溝付きコーティングロッドを用いて計量またはスムージングを行うあらゆる塗液塗布に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るコーティングロッドの平面図である。
【図2】本発明の別の実施形態に係るコーティングロッドの平面図である。
【図3】本発明のさらに別の実施形態に係るコーティングロッドの平面図である。
【図4】本発明のさらに別の実施形態に係るコーティングロッドの平面図である。
【図5】コーティングロッドの溝測定の一例を示す概略構成図である。
【図6】コーティングロッドの溝測定結果の一例を示すグラフである。
【図7】コーティングロッドを用いた塗液塗布の一例を示す概略構成図である。
【図8】図7における下流側メニスカス部を示す拡大断面図である。
【図9】図7に示した部分に気泡が混入した場合の一例を示す概略構成図である。
【図10】実施例1での塗布の様子を示す概略平面図である。
【図11】実施例2での塗布の様子を示す概略平面図である。
【図12】比較例1での塗布の様子を示す概略平面図である。
【図13】比較例2での塗布の様子を示す概略平面図である。
【図14】ウェブを局部的に押し込む方法の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1、11、21、31、42、54、61、71、81、91 コーティングロッド
2、12、22、32 溝形成部
3、13、23、33 ロッド中央
4、14、24、34、62、72、82、92 通常溝部
5、15、25、35、63、73、83、93 浅溝部
41 変位計
51、64、74、84、94 ウェブ
52 ファウンテン
53 塗液
55、66、76、86、96 上流側メニスカス
56、67、77、87、97 下流側メニスカス
57、69、79、89 気泡
58、70、80、90 塗布スジ
65、75、85、95 上流側塗布端
68、78、88、98 下流側塗布端
99 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド軸方向における所定範囲にわたって表面に溝が形成され、走行するウェブの表面に塗布された塗液を計量またはスムージングするコーティングロッドにおいて、前記溝が形成された溝形成部は、溝深さがHnの通常溝部と、前記溝形成部の前記ロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成された前記溝深さが0.8Hn以下でありロッド軸方向における幅が3mm以上である浅溝部とを有し、かつ、前記溝形成部の最寄りの一端から前記浅溝部の前記溝形成部中央部側の端までの距離Lsが20mm以上であることを特徴とするコーティングロッド。
【請求項2】
ロッド軸方向における所定範囲にわたって表面に溝が形成され、走行するウェブの表面に塗布された塗液を計量またはスムージングするコーティングロッドにおいて、前記溝が形成された溝形成部は、溝深さがHnの通常溝部と、前記溝形成部の前記ロッド軸方向における少なくとも一端の近傍に形成された前記溝深さが0.1Hn以上0.8Hn以下でありロッド軸方向における幅が3mm以上である浅溝部とを有し、かつ、前記溝形成部の最寄りの一端から前記浅溝部の前記溝形成部中央部側の端までの距離Lsが20mm以上であることを特徴とするコーティングロッド。
【請求項3】
前記溝形成部の最寄りの一端から前記浅溝部の前記溝形成部中央部側の端までの距離Lsが通常溝部のロッド軸方向の幅の30%以下である、請求項1または2に記載のコーティングロッド。
【請求項4】
前記浅溝部の前記ロッド軸方向における幅が500mm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のコーティングロッド。
【請求項5】
前記浅溝部の少なくとも一部の溝深さが、前記溝形成部の前記最寄りの一端に向かって漸減するように形成されている、請求項1〜4のいずれかに記載のコーティングロッド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のコーティングロッドを、走行するウェブの表面に塗布された塗液のロッド上流側における前記ウェブの幅方向における塗布端が、前記ウェブの幅方向における前記浅溝部の範囲内またはそれよりも前記溝形成部の前記最寄りの一端側に位置させて用いることを特徴とする塗布方法。
【請求項7】
前記ウェブの幅方向における前記浅溝部の範囲内において、前記ウェブに対し前記コーティングロッドの位置する側とは反対側のウェブ面側から前記コーティングロッドの方向に、前記ウェブを局部的に押し込むことを特徴とする、請求項6に記載の塗布方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のコーティングロッドを有することを特徴とする塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−263722(P2006−263722A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49861(P2006−49861)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】