説明

コーティング剤、調湿建材、壁紙及び接着剤

【課題】優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する多孔質の連続皮膜を形成できるコーティング剤を提供すること。
【解決手段】調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤であって、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、コーティング剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、コーティング剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲であることを特徴とするコーティング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿・ガス吸着性及び防汚性に優れた多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤、該コーティング剤を塗布してなる調湿建材及び壁紙、並びに接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅などの建築物の高気密化は、壁、窓又は収納内などに結露を生じさせ、この結露がアレルギー疾患を引き起こすカビ、ダニなどのアレルゲンの発生源となるため問題となっている。又、建築物の高気密化は、内装材又は家具などに使用されている化学物質から発生する揮発性有機化合物を室内に滞留させるため、いわゆる化学物質過敏症の一因にもなっている。
【0003】
これらの対策として、内装材の仕上げ層を形成するためのコーティング剤に調湿・ガス吸着性を有する無機多孔質材料を配合させる方法がある。例えば、特許文献1には、5〜95質量%の無機調湿材と、固形分で1〜25質量%の樹脂バインダーと、固形分で0.1〜15質量%の透湿性付与剤とを含有するコーティング剤が提案されている。しかしながら、上記コーティング剤は、配合されている樹脂量が少ないため、塗り壁として使用できるのみであり、形成される塗膜(皮膜)表面はざらつき、防汚性を有していなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−2407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、この防汚性を改善する方法として、コーティング剤中に含まれる樹脂量を多くし、連続した樹脂皮膜を形成させる方法が考えられるが、この場合、配合される無機多孔質材料の孔が塞がれてしまい、上記皮膜は調湿・ガス吸着性が不十分となる問題がある。更には、この問題を改善させるために、コーティング剤に配合する無機多孔質材料の平均粒径を小さくし、比表面積を大きくすることで、無機多孔質材料の有する調湿・ガス吸着性をより高くする方法も考えられる。しかし、この場合においても、配合させる樹脂で無機多孔質材料の孔が塞がれることには変わりはなく、又、無機多孔質材料のもつ高い吸湿性が影響して、形成される皮膜にクラックが生じてしまい、連続した皮膜を形成できない問題があった。
【0006】
ところで、内装材の仕上げ層が、上述した調湿・ガス吸着性能だけでなく、透湿性(通気性)を有していれば、内装材を構成する基材に調湿・ガス吸着性を有する材料を用いることで、より一層、調湿・ガス吸着性が高い内装材の作製が期待できる。
【0007】
従って、本発明の目的は、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する多孔質の連続皮膜を形成できるコーティング剤を提供することにある。又、本発明の目的は、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する調湿建材を提供することにある。又、本発明の目的は、優れた調湿・ガス吸着性、透湿性及び防汚性を有する壁紙を提供することにある。更には、本発明の目的は、調湿・ガス吸着性及び透湿性を有する接着層を形成できる接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討をした結果、以下の本発明により上記課題が解決されることを見出した。即ち、本発明は、調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤であって、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、コーティング剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、コーティング剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲であることを特徴とするコーティング剤である。又、本発明のコーティング剤は、前記樹脂エマルジョンを構成する樹脂の伸張率が、100〜2500%の範囲であることが好ましく、又、前記樹脂エマルジョン中の樹脂粒子の平均粒径が、0.05〜2.0μmの範囲であることが好ましい。
【0009】
又、本発明のコーティング剤は、前記透湿性付与剤が、水ガラス、水溶性樹脂及び水溶性糊剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、又、前記樹脂エマルジョンを構成する樹脂が、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、保護コロイド系アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びアクリルシリコーン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。又、本発明のコーティング剤は、更に、マイクロカプセル化した発泡剤を配合することができる。又、本発明のコーティング剤は、前記無機多孔質材料が、珪質頁岩、アロフェン、大谷石、セピオライト、シリカゲル及び活性白土からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、又、前記多孔質の連続皮膜の透湿性が、500g/m2・24hr以上であることが好ましい。
【0010】
又、本発明は、調湿性を有する基材表面に、コーティング剤を塗布して多孔質の連続皮膜を形成してなる調湿建材であって、上記コーティング剤が本発明のコーティング剤であることを特徴とする調湿建材である。又、本発明の調湿建材は、前記多孔質の連続皮膜の上に、更に、防汚性を有する樹脂層が積層されてなるものとすることができ、又、前記樹脂層が、多孔質皮膜形成組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンがα,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有するものであることが好ましい。
【0011】
又、本発明は、紙基材の上に、膜厚が200〜1500μmの範囲内の多孔質の連続皮膜が形成されてなる20g/m2以上の吸湿性能を示す壁紙であって、上記多孔質の連続皮膜が本発明のコーティング剤によって形成されてなることを特徴とする壁紙である。又、本発明の壁紙は、前記紙基材が、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径の無機多孔質材料を配合してなり、且つ、30g/m2以上の吸湿性能を示すことが好ましく、又、前記無機多孔質材料が、珪質頁岩であることが好ましい。又、本発明の壁紙は、透湿性が500g/m2・24hr以上であることが好ましい。
【0012】
又、本発明は、調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するための接着剤であって、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、接着剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、接着剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲であることを特徴とする接着剤である。本発明の接着剤は、更に、接着剤中5〜30質量%の割合で吸湿性樹脂を含有することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する多孔質の連続皮膜を形成できるコーティング剤を提供することができる。又、本発明によれば、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する調湿建材を提供することができる。又、本発明によれば、優れた調湿・ガス吸着性、透湿性及び防汚性を有する壁紙を提供することができる。更には、本発明によれば、調湿・ガス吸着性及び透湿性を有する接着層を形成できる接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<コーティング剤>
以下、本発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明のコーティング剤は、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、コーティング剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、コーティング剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50℃〜30℃の範囲であることを特徴とする。以下、各成分について説明する。
【0015】
本発明のコーティング剤を構成する無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであるため、非常に優れた調湿・ガス吸着性を有する。このため、上記多孔質材料を含有する本発明のコーティング剤によって形成された皮膜は、優れた調湿・ガス吸着性を有することが可能となる。又、上記多孔質材料の粒径は、非常に小さいものであるため、コーティング剤により形成される皮膜は、表面のざらつきが抑えられた汚れにくいものとなる。又、本発明者の検討によれば、上記特性を有した無機多孔質材料は、湿度60%以上の環境下において上記多孔質材料の空隙内に凝縮水を発生させ、その後、湿度60%未満の環境下となった際において、該凝縮水がナノ水蒸気として多量に雰囲気中に放出される性質を有する。このため、本発明のコーティング剤によって形成された皮膜は、健康面においても有効であるので、本発明のコーティング剤は、特に住環境で使用する材料として有用である。
【0016】
又、本発明において、上記多孔質材料は、上記したナノ水蒸気をより多く発生させる目的から、その最高吸湿率が、15%以上のものであることがより好ましく、更には、20%以上のものを使用することが特に好ましい。尚、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「最高吸湿率」は、対象物を100℃、相対湿度0%の恒温恒湿槽に入れ24時間保持した後に測定する対象物の質量と、その後、25℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に入れ48時間保持した後に再度測定する対象物の質量との質量増加率を示す。又、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「比表面積」とは、液体窒素温度下において窒素吸着させるBET法により測定した値を示す。
【0017】
又、本発明において、上記多孔質材料の含有量は、コーティング剤中に15〜65質量%の範囲内であることが必要である。上記含有量が15質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜の調湿・ガス吸着性が不十分となり、一方、上記含有量が、65質量%を超える場合は、上記皮膜にクラックが生じ易くなる。
【0018】
以上の構成をとることが可能な無機多孔質材料としては、例えば、珪質頁岩、アロフェン、イモゴライト、セピオライト、活性白土、大谷石又はシリカゲルなどを挙げることができ、これらは単独でも組み合せても用いることができる。好ましくは、品質のばらつきが少ない工業製品として生産可能なシリカゲル又は活性白土である。更には、調湿性が特に優れたシリカゲルとガス吸着性が優れた活性白土を併用することが、品質のばらつきがなく、優れた調湿性と優れたガス吸着性を併せもつこととなるため、特に好ましい。上記したこれらの無機多孔質材料は、要求される色彩によっても使い分けることもできる。例えば、白色が要求される場合は、シリカゲル、活性白土などを用いることができ、茶褐色が要求される場合には、珪質頁岩、アロフェンなどを用いることができる。
【0019】
又、本発明においては、上記した無機多孔質材料のうち、珪質頁岩を用いることも、特に好ましい実施形態の一つである。珪質頁岩とは、植物性プランクトンの化石である一般珪藻土(珪藻泥岩)が、地球の続性作用により変質してできた多孔質の変成岩である。この珪質頁岩は、調湿性が優れており、又、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などの酸性ガス、アンモニアなどの塩基性ガス、ホルマリンなどの揮発性有機化合物などの幅広い種類のガスを吸着する性質を有する。又、珪質頁岩は、上述したナノ水蒸気を多量に発生させることでも知られている。このような特性を有するためか、本発明者の検討によれば、本発明のコーティング剤は、無機多孔質材料として珪質頁岩を用いることで、従来の材料では達成することができない高いレベルで体内の酸性化抑制機能、アレルギー疾患抑制機能、化学物質過敏症抑制機能、静電気発生抑止機能など、様々な健康増進効果を発揮し得る内装材の作製が可能となる。又、珪質頁岩は、一般的に、黄土色であることから、シリカゲルや活性白土などの白色の無機多孔質材料と併用してコーティング剤を作製することにより、淡色の色彩の皮膜を形成させることもできる。又、高湿度域において優れた調湿性を有する珪質頁岩と、低湿度域においても優れた吸湿性を有するシリカゲルを併用することで広範囲の湿度領域に対応したコーティング剤の作製も可能である。
【0020】
次に、本発明のコーティング剤を構成する樹脂エマルジョンについて説明する。本発明において用いる樹脂エマルジョン中の樹脂のガラス転移温度は、−50〜30℃の範囲内であることを必要とする。この樹脂のガラス転移温度が、−50℃未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜の表面タックが強くなり過ぎてしまい、防汚性などに問題を生じる場合がある。一方、30℃を超える場合は、この皮膜に生じるクラックを防止することが困難となる。更に、上記樹脂のガラス転移温度は、−40〜10℃の範囲内であることがより好ましい。樹脂のガラス転移温度をこの範囲内に限定することで、形成される皮膜は、より適度な柔軟性を有した表面が滑らかなものとなる。つまり、コーティング剤中に、上述したような吸水量の非常に高い無機多孔質材料の粒子を多量に含有させた場合であっても、形成される皮膜は、よりクラックの発生が抑えられたものとなり、又、より防汚性に優れたものとなる。また、樹脂のガラス転移温度を−15〜10℃の範囲内に限定することも好ましい形態である。更には、樹脂のガラス転移温度の範囲を0℃以下に限定することが最も好ましい。つまり、本発明のコーティング剤は、無機多孔質材料を配合することから含有する水分量が多くなる。このため、皮膜形成時などにおいて、収縮歪など内部歪が大きくなり、変形追随性が不足し、クラックが生じやすくなるおそれがある。しかしながら、樹脂のガラス転移温度を0℃以下に限定することでクラックの発生を長期にわたってより確実に防止することが可能となる。
【0021】
上記樹脂エマルジョンの含有量は、コーティング剤中の樹脂量が30〜70質量%となる範囲内であることが必要である。上記樹脂量が、30質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜は、クラックが生じ易く、又、防汚性が悪いものとなる。一方、70質量%を超える場合は、上記皮膜の調湿・ガス吸着性能が不十分となる。尚、本発明の特許請求の範囲及び明細書において、単に「樹脂」という場合は、樹脂エマルジョン中に含まれる樹脂を示す。又、本発明のコーティング剤において、単に「樹脂量」という場合は、樹脂エマルジョンを構成する樹脂のコーティング剤中における量を示し、後述する「水溶性樹脂」や「吸湿性樹脂」の量は含まれない。
【0022】
又、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂は、その伸張率が100〜2500%の範囲であることが好ましい。更には、伸張率が500〜1800%の範囲であることが特に好ましい。上記樹脂の伸張率を、この特に好ましい範囲に限定することで、コーティング剤により形成される皮膜の耐クラック性と防汚性がより優れたものとなる。最も好ましい上記伸張率の範囲は、600〜1700%の範囲内である。尚、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「伸張率」は、JISK−6251に準拠した測定方法により求めた数値である。
【0023】
又、上記樹脂エマルジョン中の樹脂粒子の平均粒径は、0.05〜2.0μmの範囲であることが好ましい。上記樹脂粒子の平均粒径を、この範囲内に限定することで、本発明のコーティング剤は、その粘度が適度なものとなり、塗布適正に優れたものとなる。又、樹脂粒子間の密着性も良好となることから、形成される皮膜にクラックが生じるのをより有効に防止できる。最も好ましい上記樹脂粒子の平均粒径は、0.25〜1.8μmの範囲内である。
【0024】
上記樹脂の種類としては、特に制限はなく、例えば、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂(EVA系樹脂)、保護コロイド系アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂又はアクリルシリコーン系樹脂などを挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0025】
次に、本発明のコーティング剤を構成する透湿性付与剤について説明する。該透湿性付与剤とは、コーティング剤により形成される連続皮膜に透湿性(通気性)を付与するためのものであり、具体的には、上記皮膜を多孔質にし、該皮膜に透湿性(通気性)を付与する材料のことである。つまり、本発明のコーティング剤は、上記の透湿性付与剤を含有することで、形成される皮膜を多孔質の連続皮膜とすることが可能となる。このため、コーティング剤中に樹脂成分を多量に含んだ場合においても、無機多孔質材料の細孔が樹脂によって塞がれるのが抑制される。つまり、上記皮膜は、前記多孔質材料の調湿・ガス吸着効果を有効に発揮するものとなる。又、上記コーティング剤を塗布する基材を、調湿性を有するものとした本発明の好ましい実施形態の場合において、この基材が有する調湿効果も損なうことなく発揮させることができる。
【0026】
上記透湿性付与剤の含有量は、5〜40質量%(固形分)の範囲内である必要がある。上記含有量が5質量%未満の場合は、コーティング剤により形成される皮膜は、クラックが生じやすくなり、又、透湿性が不十分となる。一方、上記含有量が40質量%を超える場合は、上記皮膜は、内装材の仕上げ層として必要な耐性が不十分となる。
【0027】
上記透湿性付与剤としては、例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム若しくは珪酸セシウムなどのアルカリ金属珪酸塩を主成分とした水ガラス、ポリビニルアルコールやポリビニルアミンなどの水溶性樹脂、でんぷん糊やミルクカゼインなどの水溶性糊剤、シリコーンエマルジョン、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸アルミニウムなどを挙げることができる。これらは、単独又は組み合せて用いることができ、コーティング剤が使用される用途や要求される特性に応じて、その種類を適宜選択することができる。好ましくは、水ガラスを挙げることができる。更には、コーティング剤により形成される皮膜の耐水性が良好である珪酸リチウムを主成分とした水ガラスが特に好ましい。又、これらの透湿性付与剤は、固体状、水溶液又は水分散の形態で使用できる。
【0028】
このような構成をした本発明のコーティング剤は、特に、コーティング剤中における無機多孔質材料と、樹脂エマルジョンの樹脂量と、透湿性付与剤(固形分)との質量比が、1:0.8〜1.8:0.25〜0.75の範囲内であることが好ましい。これらの質量比を上記範囲内にすることで、調湿・ガス吸着性、防汚性、耐クラック性など全ての項目で非常に優れた効果を発揮する、よりバランスの取れた皮膜を形成することが可能となる。また、本発明のコーティング剤は、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、粘度調整剤、着色剤、抗菌剤などを配合することができる。又、水酸化アルミニウム又は炭酸カルシウムなどの充填剤なども配合することができる。更に、形成される皮膜の隠蔽性を向上させるために、酸化チタンなどの白色無機顔料を配合させてもよい。又、本発明のコーティング剤には、本発明の要旨を損なわない範囲内でカット繊維を配合させてもよい。これにより、形成される皮膜は、変形に対する追随性を有することが可能となり、クラックの発生をより有効に防止できる。用いるカット繊維の素材は、パルプ繊維又はビニロン繊維などの樹脂繊維などを挙げることができる。カット繊維は、用途又は目的に応じて、その種類や配合量を適宜選択できる。
【0029】
又、本発明のコーティング剤には、形成される皮膜の意匠性をより高めるために、マイクロカプセル化した発泡剤を含有させることができる。マイクロカプセル化した発泡剤は、本発明のコーティング剤のように、形成される皮膜が多孔質で通気性を有するものであっても、発泡ガスが皮膜外へ抜けてしまうのを抑えることができるので有効である。上記発泡剤は、従来公知の何れのものも用いることができ、例えば、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリルなどの重合体で殻壁(シェル)でマイクロカプセル化した平均粒径が5〜50μmのものを使用できる。特に、上記発泡剤は、その平均粒径が5〜20μmのものであることが好ましく、この場合、コーティング剤により形成される皮膜は、滑らかな凹凸を有した、より外観に優れたものとなる。又、上記発泡剤の配合量は、特に制限はないが、好ましくは、コーティング剤中の固形分に対して、1〜30質量%の範囲である。より好ましくは、2〜15質量%の範囲である。上記配合量を、2〜15質量%の範囲内にすることで、耐磨耗性などの耐性を維持しつつ、優れた外観を有する皮膜を形成させることができる。
【0030】
以上の構成をした本発明のコーティング剤は、紙、パーティクルボード、石膏ボード又は珪酸カルシウムボードなどの基材の表面上に塗布することにより、前記した特性の皮膜を形成する材料として用いることができる。コーティング剤の塗布方法は、特に制限はなく、例えば、高圧エアレス方式などのスプレーコート、ロールコート又はバーコートなどの方法を用いることができる。
【0031】
本発明のコーティング剤の塗布量は、特に制限はなく、薄膜〜厚膜まで幅広い膜厚に塗布することが可能である。本発明のコーティング剤を使用する用途や目的により最適な塗布量は異なるが、例えば、コーティング剤により形成される皮膜の厚さが、100〜1500μmとなる程度であることが好ましい。
【0032】
又、本発明のコーティング剤は、上記皮膜の最高吸湿率が5%以上であることが好ましい。この場合、20g/m2以上の吸湿性能を確保するために必要な皮膜の厚さを1000μm程度に抑えることができる。更には、上記最高吸湿率が10%以上であることが特に好ましい。この場合、20g/m2以上の吸湿性能を確保するために必要な皮膜の厚さを300μm程度に抑えることができ、壁紙用途などの薄い皮膜を形成する場合においても、十分な調湿効果を発揮できる。
【0033】
又、本発明のコーティング剤は、形成した皮膜の透湿性が、500g/m2・24hr以上となるように設計されたものであることが好ましい。上記透湿性が、上記範囲内であることにより、上記皮膜自体が有する調湿・ガス吸着性能だけでなく、基材が有する調湿・ガス吸着性能をより有効に発揮させることができる。尚、本発明の特許請求の範囲及び明細書における「透湿性」の値は、JISA1324のカップ法に準拠した測定方法により求めたものである。
【0034】
<調湿建材>
次に、本発明の調湿建材について説明する。本発明の調湿建材は、調湿性を有する基材表面に、コーティング剤を塗布して多孔質の連続皮膜を形成してなる調湿建材であって、上記コーティング剤が、上述した本発明のコーティング剤であることを特徴としている。このため、本発明の調湿建材は、上述したように、優れた調湿・ガス吸着性を有した、多孔質の連続皮膜を形成する本発明のコーティング剤を用いていることから、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有したものとなる。又、本発明の調湿建材における上記コーティング剤の塗布量及び塗布方法は上述した内容と同様である。
【0035】
上記調湿基材は、調湿性を有する基材であれば、特に制限はないが、例えば、無機多孔質材料を配合した石膏ボード、珪酸カルシウムボードなどの無機ボード、パーティクルボード、インシュレーションボードなどの木質板又は紙などが挙げられる。
【0036】
又、上記調湿建材は、前記多孔質の連続皮膜の上に、更に、防汚性を有する樹脂層が積層されてなることが好ましい。この樹脂層を形成する樹脂組成物としては、多孔質の連続皮膜を形成できるものであればよく、例えば、前記コーティング剤から前記多孔質材料を除いたもの或いは前記コーティング剤における前記多孔質材料の配合量を減らしたものなどを用いることができる。又、この樹脂組成物として、特開平3−106948号公報に開示された、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とする多孔質皮膜形成組成物であって、上記皮膜形成水性エマルジョンがα,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有する多孔質皮膜形成組成物を用いることもできる。特に、本発明の調湿建材は、この多孔質皮膜形成組成物を用いて防汚性を有する樹脂層を形成した場合、上述した調湿・ガス吸着性を維持しつつ、極めて優れた、耐水性、表面タックフリー性及び防汚性を得ることができる。
【0037】
<壁紙>
次に、上記した本発明の調湿建材が、壁紙である場合について以下詳細に説明する。本発明の壁紙は、紙基材の表面に、本発明のコーティング剤による皮膜を形成させてなるものである。特に、本発明の壁紙は、紙基材の上に、本発明のコーティング剤により、膜厚が200〜1500μmの範囲内の多孔質の連続皮膜が形成されてなる20g/m2以上の吸湿性能を示すものであることが好ましい。このような構成とすることで、本発明の壁紙は、調湿・ガス吸着性、透湿性及び防汚性がより優れたものとなる。尚、本発明の特許請求の範囲及び明細書内における「吸湿性」及び「吸湿性能」の値は、対象物を25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ48時間保持した後に測定した対象物の質量と、その後、25℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽に入れ24時間保持した後に測定した対象物の質量との質量差により求めた値(吸湿量)である。又、本発明の特許請求の範囲及び明細書内における「放湿性」の値は、吸湿性の測定終了後、更に、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ24時間保持した後に測定した対象物の質量を測定し、この質量と吸湿性測定終了時との質量差により求めた値(放湿量)である。
【0038】
このような本発明の壁紙に用いる紙基材としては、例えば、合成紙、和紙、エマルジョン紙、不燃紙、難燃紙、生分解性紙又はこれらから選択される複数種からなる複合紙などを用いることができる。又、紙基材の坪量は、特に制限はないが、50〜300g/m2の範囲内であることが好ましい。紙基材の坪量を上記範囲内とすることで、得られる壁紙は、壁紙に必要十分な物理的特性と、優れた透湿性を兼ね備えたものとなる。又、このような紙基材に変えて、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などからなる樹脂基材を用いて壁紙を作製することもできる。但し、この場合に得られる壁紙は、良好な調湿・ガス吸着性を有したものとなるが、透湿性は紙基材の場合と比べて著しく低いものとなる。
【0039】
又、本発明の壁紙において、紙基材の厚さは、特に限定はないが、5〜1000μmの範囲内であることが好ましい。紙基材の厚さを上記範囲内にすることで、得られる壁紙は、その製造時又は加工時において取扱性が良好なものとなり、又、壁紙としての特性も優れたものとなる。更に、壁紙の透湿性の観点からも紙基材の厚さを上記範囲内にすることが好ましい。
【0040】
このような紙基材の製造方法は、特に制限はないが、例えば、抄造法などの方法で作製することができる。又、本発明の壁紙においては、紙基材の製造の際、例えば、抄造させる段階において、紙基材中に、前記無機多孔質材料を配合させることが好ましい。更に、本発明の壁紙は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径の無機多孔質材料を紙基材中に配合してなることが好ましく、更には、30g/m2以上の吸湿性能を示すものであることが好ましい。この場合、紙基材自体の調湿・ガス吸着性も向上することから、より一層、調湿・ガス吸着性に優れた壁紙を得ることができる。紙基材中に配合させる無機多孔質材料の量は、特に制限はないが、紙基材の総質量に対して5〜30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0041】
紙基材に配合させる無機多孔質材料は、コーティング剤に含まれる無機多孔質材料と同様のものを用いることができる。好ましくは、珪質頁岩であり、この場合、上述したような珪質頁岩が有する効果を有効に得ることが可能となる。つまり、壁紙は、人間の身近な場所に、しかも大面積で使用されるものであることから、壁紙の表面皮膜中又は紙基材中に珪質頁岩を使用することで、珪質頁岩が有する上述の効果を効率良く得ることが可能となる。
【0042】
まず、本発明の壁紙は、このような紙基材の片面に、上述した本発明のコーティング剤によるコーティング層を形成することで作製できる。このコーティング層の形成方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ナイフコーター、パイプコーター、コンマコーター若しくはグラビアコーターなどを利用したコーティング法、スプレーなどを用いた噴霧、又はTダイなどによる押出法などの各種方法を用いることができる。又、コーティング剤を塗工した後の乾燥方法としては、特に制限はないが、例えば、熱風又は赤外線ヒーターなどの熱源などを用いる方法が挙げられる。
【0043】
又、本発明の壁紙において、形成させるコーティング層の厚さは、200〜1500μmの範囲内であることが好ましい。200μm未満の場合は、壁紙が有する調湿・ガス吸着性の効果が限られたものとなる。一方、1500μmを超える場合は、得られる壁紙が硬くなることから、壁紙を巻取り保存する際や、施工時において取扱性が悪くなる場合があり、又、巻取りの際など、壁紙に大きな負担が生じた場合には、コーティング層にクラックが生じる場合がある。
【0044】
本発明の壁紙は、使用する本発明のコーティング剤の中でも、マイクロカプセル化した発泡剤を含有させたものを用いることが好ましい。これにより、本発明の壁紙は、優れた意匠性を有したものとなる。この発泡剤は、例えば、コーティング剤を紙基材に塗布して乾燥させた後、発泡加熱炉などを用いて加熱発泡させる。更に、冷却エンボスロールなどを用いて、立体的な意匠性を有する壁紙を得ることができる。又、ケミカルエンボス法を用いて立体的な凹凸感を持たせてもよい。
【0045】
又、本発明の壁紙は、本発明の目的を損なわない範囲で、紙基材又はコーティング層の表面に絵柄印刷層を設けて絵柄による意匠性を付与することもできる。絵柄印刷層の印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、ロータリースクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法又は転写印刷法などを用いることができる。このような構成をした本発明の壁紙は、その透湿性が500g/m2・24hr以上であることが好ましい。壁紙の透湿性を500g/m2・24hr以上とすることで、壁紙を貼着させる基材が有する調湿性などの効果を、より有効に発揮させることが可能となる。
【0046】
<接着剤>
本発明の接着剤は、調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するための接着剤であって、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、接着剤中の樹脂量が30〜70質量%となる樹脂エマルジョンと、接着剤中の固形分が5〜40質量%となる透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50℃〜30℃の範囲であることを特徴とする。このため、本発明の接着剤により形成される接着層は、調湿・ガス吸着性を有するだけでなく、優れた透湿性(通気性)を有するものとなる。
【0047】
本発明の接着剤を構成する無機多孔質材料、樹脂エマルジョン及び透湿性付与剤は、先に述べた本発明のコーティング剤を構成するものと同様のものを用いることができる。又、本発明の接着剤は、必要に応じて、他の添加剤を配合することもできる。又、本発明の接着剤において、「樹脂量」とは、樹脂エマルジョンを構成する樹脂の接着剤中における量を示し、後述する「水溶性樹脂」や「吸湿性樹脂」の量は含まれない。
【0048】
上記接着剤の塗布方法は、特に制限はなく、従来公知である何れの方法も用いることができる。又、上記接着剤の塗布量も、特に制限はないが、使用される用途により適宜選択することができる。例えば、形成される膜厚が20〜2000μmとなる範囲内にすることができる。又、本発明の接着剤を、壁紙のラミネートに使用するラミネート用接着剤として用いる場合は、膜厚が20〜200μmの薄膜にすることが好ましい。ただし、この場合、膜厚が薄いことが原因で接着層自体が有する調湿・ガス吸着性は低くなるおそれがあるため、無機多孔質材料として吸湿性の高いシリカゲルを利用することが好ましい。又、無機多孔質材料とともに、吸湿性の高いノニオン型ポリアルキレンオキサイド系樹脂などの吸湿性樹脂を用いることもできる。該吸湿性樹脂の含有量は、接着剤中に5〜30質量%の範囲内で配合させることが好ましい。又、該吸湿性樹脂の粒度は、ラミネートさせる壁紙の表面に該吸湿性樹脂による凹凸が現れるのを低減するため100μm以下であることが好ましく、更には50μm以下であることがより好ましい。又、本発明の接着剤を、タイル若しくは調湿性タイルの接着に使用するタイル用接着剤として用いる場合は、膜厚が500〜2000μmの厚膜にすることが好ましい。この場合、接着層の蓄湿量を低減する必要性から、透湿性付与剤として、水ガラス又はでんぷん糊を用いることが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。
【0050】
<コーティング剤>
[コーティング剤の作製]
(実施例1)
ガラス転移温度が0℃のEVA系樹脂のエマルジョン50質量%(固形分)に、珪酸リチウムからなる水ガラス15質量%(固形分)、活性白土5質量%及びシリカゲル30質量%を配合し、攪拌することにより、本発明の実施例1であるコーティング剤を作製した。この際に使用した上記活性白土は、多孔の平均細孔半径が3.2nm、最高吸湿率が25%、比表面積が290m2/g、平均粒径が15μmのものであり、又、上記シリカゲルは、多孔の平均細孔半径が3nm、最高吸湿率が72%、比表面積が450m2/g、平均粒径が20μmのものである。尚、上記EVA系樹脂の伸張率は、800%であり、平均粒径は0.9μmであった。
【0051】
(実施例2)
実施例1における活性白土及びシリカゲルを、珪質頁岩(35質量%)に変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例2のコーティング剤を作製した。この際に使用した珪質頁岩は、多孔の平均細孔半径が3.8nm、最高吸湿率が22%、比表面積が121m2/g、平均粒径が10μmのものである。
【0052】
(実施例3)
実施例1における水ガラスを、ポリビニルアルコールに変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例3のコーティング剤を作製した。
【0053】
(実施例4)
実施例1における水ガラスを、でんぷん糊に変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例4のコーティング剤を作製した。
【0054】
[評価]
(試験体の作製)
得られた実施例1〜4のコーティング剤を、それぞれ、硝子板の上に塗布し、乾燥させて、200mm角、厚さ1mmの皮膜を形成させ、実施例1〜4の試験体を作製した。
【0055】
(試験方法)
試験体を以下の試験方法にて評価した。尚、評価基準において「◎」が「優」、「○」が「良」、「△」が「可」、「×」が「不可」を表し、「◎」、「○」及び「△」が実用レベルである。
【0056】
・耐クラック性試験:試験体に形成されている皮膜について、目視によりクラック発生の有無を確認した。評価基準は以下の通りである。
○:皮膜にクラックが確認されない。
△:皮膜にマイクロクラックが発生。
×:皮膜にマッドクラックが発生。
【0057】
・吸湿率試験:試験体を25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ48時間保持した後に測定する上記試験体の質量と、その後、25℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽に入れ24時間保持した後に測定する上記試験体の質量とにより質量増加率(吸湿率)を算出した。評価基準は以下の通りである。
◎:試験体の質量増加率が4.00%以上。
○:試験体の質量増加率が3.00%以上4.00%未満。
△:試験体の質量増加率が2.00%以上3.00%未満。
×:試験体の質量増加率が2.00%未満。
【0058】
・吸湿性試験:吸湿率試験において測定した試験体の質量により質量増加量(吸湿量)を算出した。
【0059】
・最高吸湿率試験:試験体を100℃、相対湿度0%の恒温恒湿槽に入れ、24時間保持した後に測定する上記試験体の質量と、その後、25℃、相対湿度95%の恒温恒湿槽に入れ、48時間保持した後に測定する上記試験体の質量とから質量増加率(最高吸湿率)を算出した。評価基準は以下の通りである。
◎:試験体の質量増加率が7.00%以上。
○:試験体の質量増加率が5.00%以上7.00%未満。
△:試験体の質量増加率が3.00%以上5.00%未満。
×:試験体の質量増加率が3.00%未満。
【0060】
・放湿率試験:試験体を25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で48時間養生した後、25℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽にて24時間保持した上記試験体の質量を測定し、その後25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ24時間保持した後に上記試験体の質量を再度測定した。上記試験体の質量減少率(放湿率)を算出した。評価基準は以下の通りである。
◎:試験体の質量減少率が4.00%以上。
○:試験体の質量減少率が3.00%以上4.00%未満。
△:試験体の質量減少率が2.00%以上3.00%未満。
×:試験体の質量減少率が2.00%未満。
【0061】
・ガス吸着性試験:試験体をホルムアルデヒドの濃度を80ppmに調整したデシケーター(容積:12.3L)の中に入れ、24時間後のデシケーター中のホルムアルデヒドの濃度を測定した。評価基準は以下の通りである。
○:デシケーター中のホルムアルデヒドの濃度が5ppm未満。
△:デシケーター中のホルムアルデヒドの濃度が5ppm以上10ppm未満。
×:デシケーター中のホルムアルデヒドの濃度が10ppm以上。
【0062】
・防汚性試験:試験体に水性マジック(黒色)で汚れを付着させ、24時間経過後に水にて拭き取り試験を行った。評価基準は以下の通りである。
○:拭き取り後に汚れがほとんど残っていない。
△:拭き取り後に汚れがわずかに残っている。
×:拭き取りしても汚れの多くが残っている。
【0063】

【0064】
以上の評価結果により、実施例1〜4のコーティング剤は、ガス吸着性及び防汚性が優れ、クラックのない連続皮膜を形成できることが確認された。又、これらのコーティング剤は、最高吸湿率試験及び吸湿率試験が優れていることから、吸湿性能が良好な皮膜を形成できることが確認された。更には、これらのコーティング剤は、吸湿性能に加え、皮膜の放湿性も良好であることから、優れた調湿性能を有することが確認された。
【0065】
[他の実施例及び比較例]
表2に示すように、実施例1における樹脂エマルジョン、水ガラス、活性白土及び/又はシリカゲルの配合量を変える以外は、実施例1と同様にして、実施例及び比較例のコーティング剤をそれぞれ作製し、上記と同様の試験方法にて耐クラック性試験、吸湿率試験及び最高吸湿率試験を行った。但し、耐クラック性試験の評価が「×」の場合は、他の試験は実施しなかった。又、以下の評価基準にて上記試験の総合評価をした。得られた評価結果を表2に示す。尚、表2に示す実施例及び比較例における活性白土とシリカゲルの配合量を表3にそれぞれ示す。
○:耐クラック性試験、吸湿率試験及び最高吸湿率試験の評価結果が全て「◎」又は「○」であった。
△:耐クラック性試験、吸湿率試験又は最高吸湿率試験の評価結果の何れかが「△」であった。
×:耐クラック性試験、吸湿率試験又は最高吸湿率試験の評価結果の何れかが「×」であった。
又、表2に示す実施例のコーティング剤について、上記と同様の方法で防汚性試験を行ったところ、いずれの試験体も、拭き取り後における汚れがほとんど残っていない状態であった。
【0066】

【0067】

【0068】
実施例1におけるEVA系樹脂のエマルジョンを、ガラス転移温度−50℃、−40℃、−30℃、−15℃、−10℃、−5℃又は10℃のアクリル系樹脂のエマルジョンにそれぞれ変更し、更に、表4〜10に示す樹脂エマルジョン、水ガラス、活性白土及びシリカゲルの配合量により、実施例及び比較例のコーティング剤を作製した。又、得られたコーティング剤について、それぞれ、上記と同様の方法で耐クラック性試験、吸湿率試験及び最高吸湿率試験を行い、又、上記と同様の方法にて総合評価を行った。評価結果を表4〜10に示す。尚、表4〜10の実施例及び比較例における活性白土とシリカゲルの配合量は表3の通りである。又、表4〜10に示す実施例のコーティング剤について、上記と同様の方法で防汚性試験を行ったところ、表4に示す実施例のコーティング剤で作製した試験体については、その一部において拭き取り後わずかに汚れが残ったが、表5〜10に示す実施例のコーティング剤で作製した試験体については、いずれも拭き取り後における汚れがほとんど残っていない状態であった。
【0069】

【0070】

【0071】

【0072】

【0073】

【0074】

【0075】

【0076】
[実施例5]
実施例1におけるEVA系樹脂のエマルジョンを、ガラス転移温度が30℃のEVA系樹脂のエマルジョンに変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例5のコーティング剤を作製した。得られた実施例5のコーティング剤について、実施例1と同様の方法で、耐クラック性試験、吸湿率試験、放湿率試験、ガス吸着性試験及び防汚性試験を行ったところ、耐クラック性試験において、マイクロクラックが発生したが、いずれの結果も実用上問題ないレベルであった。
【0077】
<調湿建材の作製>
200mm角の調湿性を有する石膏ボード(商品名:さわやか石膏ボード、チヨダウーテ(株)製)の側面と裏面をアルミ箔でシールした。次に、上記石膏ボードの表面上に、実施例1のコーティング剤を、乾燥後の皮膜の平均膜厚が1mmとなるように塗布、乾燥させて本発明の実施例である調湿建材を作製した。得られた調湿建材について、前記と同様の方法で、吸湿性試験を行ったところ、吸湿量は250g/m2であり、上記調湿建材は優れた吸湿性能を有することが確認された。又、上記調湿建材の吸湿量(250g/m2)は、実施例1のコーティング剤の形成皮膜の吸湿量(36.9g/m2)と比較して、213.1g/m2向上していることから、この値は、上記石膏ボードが上記皮膜を透湿して吸湿された吸湿量であると考えられる。従って、上記皮膜は優れた透湿性を有することが確認された。
【0078】
<壁紙の作製>
[壁紙用コーティング剤の調整]
実施例1〜3のコーティング剤に、それぞれ、マイクロカプセル化した発泡剤(商品名:マイクロスフェアー85SD、松本油脂(株)製)を、コーティング剤中の固形分に対して5質量%配合することにより、実施例6〜8の発泡剤入りコーティング剤を作製した。
【0079】
[壁紙の作製]
次に、紙基材として、多孔の平均細孔半径が3.8nm、最高吸湿率が22%、比表面積が121m2/g、平均粒径が10μmの珪質頁岩を20質量%配合してなる坪量が200g/m2のパルプ紙を用意した。この紙基材の表面上に、実施例6のコーティング剤をコンマコート法により塗布して約90℃で乾燥し、乾燥後の平均膜厚が1000μmのコーティング層を形成させた。次に、炉内温度約150℃の発泡加熱炉にてコーティング層を発泡させてから、発泡したコーティング層の表面に冷却エンボスロールを使用してエンボス模様を形成し、実施例9の壁紙を作製した。実施例7、8の発泡剤入りコーティング剤についても、実施例6のコーティング剤を用いて壁紙を作製した場合と全く同様にして壁紙を作製し、それぞれ、実施例10、11の壁紙とした。
【0080】
[壁紙の評価]
(実施例9)
実施例9の壁紙を前記と同様の方法にて吸湿性試験を行ったところ、吸湿量が61.9g/m2であり、優れた吸湿性能を有することが確認された。又、実施例9の壁紙について、前記と同様の方法で、耐クラック性試験、ガス吸着性試験及び防汚性試験を行ったところ、実用上、十分に使用できる評価結果が得られた。更に、実施例9の壁紙について、JISA1324のカップ法に準拠した方法で透湿性試験を行ったところ、750g/m2・24hrの結果が得られた。これにより、実施例9の壁紙は、優れた透湿性を有することが確認された。
【0081】
(実施例10、11)
実施例10、11の壁紙について、前記と同様の方法で、吸湿性試験及び透湿性試験を行ったところ、表11に示す評価結果が得られ、いずれも優れた吸湿性及び透湿性を有することが確認された。
【0082】

【0083】
<接着剤の作製>
実施例1のコーティング剤の粘度などを調整することにより、本発明の実施例12である接着剤を作製した。調湿性を有する石膏ボード(商品名:さわやか石膏ボード、チヨダウーテ(株)製)の側面及び裏面をアルミ箔でシールした後、石膏ボードの表面に得られた接着剤を平均膜厚が1000μmとなるように塗布し、その上に吸湿性が160g/m2である調湿タイル(エコカラット、(株)INAX製)を貼着して、化粧ボードを作製した。得られた化粧ボードを前記と同様の方法にて吸湿性試験を行ったところ、吸湿量が410g/m2であった。この調湿タイルの吸湿量と化粧ボードの吸湿量に加え、上記接着剤と同組成である前記コーティング剤により形成される皮膜の吸湿量は36.9g/m2であることから、上記接着剤により形成される接着剤層は、優れた吸湿性及び透湿性を有することが確認された。
【0084】
又、実施例1〜4のコーティング剤の粘度などを調整することで、壁紙と石膏ボードの接着に使用できる壁紙用接着剤を作製した。得られた壁紙用接着剤を、それぞれ、実施例13〜16とした。次に、実施例13〜16の接着剤を用いて、市販されている石膏ボードと壁紙を接着させたところ、実用上問題ないレベルの接着強度が確認された。次に、実施例13〜16の接着剤を、実施例1〜4のコーティング剤と全く同様の方法にて試験体を作製し、吸湿率試験、吸湿性試験、放湿率試験及びガス吸着性試験を行ったところ、実施例1〜4のコーティング剤とほとんど同様の評価結果が得られた。評価結果を表12に示す。更に、実施例13〜16の接着剤で形成した皮膜について、それぞれ、JISA1324のカップ法に準拠した方法で透湿性試験を行った。評価結果を表12に示す。
【0085】

【0086】
以上の評価結果より本発明の接着剤は、壁紙用の接着剤としても用いることができ、そして、優れた調湿・ガス吸着性、透湿性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する多孔質の連続皮膜を形成できるコーティング剤を提供することができる。又、本発明によれば、優れた調湿・ガス吸着性及び防汚性を有する調湿建材を提供することができる。又、本発明によれば、優れた調湿・ガス吸着性、防汚性及び透湿性を有する壁紙を提供することができる。従って、本発明のコーティング剤は、あらゆる種類の内装材の仕上げ層を形成する材料として好適に使用でき、該コーティング剤を塗布してなる調湿建材及び壁紙は、内装材として好適に使用できる。更には、本発明によれば、調湿・ガス吸着性及び透湿性を有する接着層を形成できる接着剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するためのコーティング剤であって、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、コーティング剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、コーティング剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲であることを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
前記樹脂エマルジョンを構成する樹脂の伸張率が、100〜2500%の範囲である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記樹脂エマルジョン中の樹脂粒子の平均粒径が、0.05〜2.0μmの範囲である請求項1又は2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
前記透湿性付与剤が、水ガラス、水溶性樹脂及び水溶性糊剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3の何れか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
前記樹脂エマルジョンを構成する樹脂が、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、保護コロイド系アクリル樹脂などのアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂及びアクリルシリコーン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4の何れか1項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
更に、マイクロカプセル化した発泡剤を配合してなる請求項1〜5の何れか1項に記載のコーティング剤。
【請求項7】
前記無機多孔質材料が、珪質頁岩、アロフェン、大谷石、セピオライト、シリカゲル及び活性白土からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6の何れか1項に記載のコーティング剤。
【請求項8】
前記多孔質の連続皮膜の透湿性が、500g/m2・24hr以上である請求項1〜7の何れか1項に記載のコーティング剤。
【請求項9】
調湿性を有する基材表面に、コーティング剤を塗布して多孔質の連続皮膜を形成してなる調湿建材であって、上記コーティング剤が請求項1〜8の何れか1項に記載のコーティング剤であることを特徴とする調湿建材。
【請求項10】
前記多孔質の連続皮膜の上に、更に、防汚性を有する樹脂層が積層されてなる請求項9に記載の調湿建材。
【請求項11】
前記樹脂層が、多孔質皮膜形成組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンがα,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有する請求項10に記載の調湿建材。
【請求項12】
紙基材の上に、膜厚が200〜1500μmの範囲内の多孔質の連続皮膜が形成されてなる20g/m2以上の吸湿性能を示す壁紙であって、上記多孔質の連続皮膜が請求項1〜8の何れか1項に記載のコーティング剤によって形成されてなることを特徴とする壁紙。
【請求項13】
前記紙基材が、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径の無機多孔質材料を配合してなり、且つ、30g/m2以上の吸湿性能を示す請求項12に記載の壁紙。
【請求項14】
前記無機多孔質材料が、珪質頁岩である請求項13に記載の壁紙。
【請求項15】
透湿性が500g/m2・24hr以上である請求項12〜14の何れか1項に記載の壁紙。
【請求項16】
調湿・ガス吸着性を有する多孔質の連続皮膜を形成するための接着剤であって、少なくとも、15〜65質量%の無機多孔質材料と、接着剤中における樹脂量が30〜70質量%となる量の樹脂エマルジョンと、接着剤中における固形分が5〜40質量%となる量の透湿性付与剤とが配合されてなり、上記無機多孔質材料は、多孔の平均細孔半径が2〜6nm、最高吸湿率が10%以上、比表面積が80m2/g以上の、50μm以下の平均粒径のものであり、且つ、上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂のガラス転移温度が−50〜30℃の範囲であることを特徴とする接着剤。
【請求項17】
更に、接着剤中5〜30質量%の割合で吸湿性樹脂を含有する請求項16に記載の接着剤。

【公開番号】特開2008−138167(P2008−138167A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181764(P2007−181764)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(506106866)株式会社自然素材研究所 (21)
【出願人】(000113148)ニチゴー・モビニール株式会社 (24)
【Fターム(参考)】