説明

コーティング溶液、該溶液を用いた無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法、およびこの形成方法により得られる皮膜

【課題】常温で結晶化し、あらゆる物質上に、耐火性、耐蝕性、絶縁性などのセラミックス特性を有するセラミックス皮膜を形成でき、さらに高分子材料と結合し、有機化合物を生成し、高分子材料の耐熱性を飛躍的に改善することができるコーティング溶液を得ること。
【解決手段】周期律表4A族の金属アルコキシド、周期律表4B族(炭素を除く)の金属アルコキシド、周期律表3A族の金属アルコキシド、周期律表3B族の金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解物から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類と、アルカリ金属のアルカリ化合物および/またはアルカリ土類金属のアルカリ化合物を含むアルコール溶液を主成分とする、常温で結晶化し、セラミックス皮膜を形成する溶液を、2液性樹脂の主剤と硬化剤を個別に混合後、両溶液を混合して得られるコーティング溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体へ、特定の溶液を塗布することにより、常温で無機−有機ハイブリッド皮膜であるセラミックス皮膜を形成する「有機−無機ハイブリッド溶液」に関する。
物体に本発明の溶液を塗布した場合、常温で結晶化し、物質上にセラミックス皮膜を形成し、常温から、1,000℃以上の高温で、セラミックスの特性である耐蝕性、耐熱性、絶縁性を有し、さらに、有機物との結合により、有機化合物を生成し、有機物の耐熱性を改善することが可能である。常温で形成されるセラミックス皮膜は、新たな材料技術の基盤材料として産業に貢献できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックスは、成形、焼成などの工程を経て得られる非金属無機材料とされてきた。
近年、低温形成セラミックス皮膜の生成法としてSol−Gel(ゾル−ゲル)法が用いられている。しかし、ゾル−ゲル法においては、ゾルのライフタイムが非常に短く、さらにゲル生成後に加熱工程が加わるため、基材の収縮が伴い好ましくない。本発明の溶液は、常温で結晶化し、溶液のライフは数年にもおよび半永久的である。
情報産業の小型化、自動車の燃費向上のための軽量化、構造材料の耐久、耐蝕性など、300℃以上の耐熱性が要求されている。また、耐熱金属素材では、1,150℃以上の耐熱性を有する素材が要求されている。
さらに、新たな材料科学においては、界面の機能性が要求されており、本発明の常温で結晶化し、形成されるセラミックス皮膜は、材料に新たな機能を供給する手段になり得る。
【0003】
近年に至り、骨材と有機バインダーによって成形品素体を成形し、これに、アルコキシシラン類を含浸させて、次いで、これを乾燥させ高温焼成して、耐火物成形品を得る有機バインダーが提案されている(特許文献1)。
しかしながら、この方法では、高温焼成の工程を必要とし、工程が複雑となるという問題がある。
【0004】
さらに、骨材と有機バインダーによって成形品素体を成形し、成形品表面にアルコキシシランを塗布、含浸し、乾燥し、鋳物を鋳造する方法が提案されている(特許文献2)。
一方、特許文献3には、基板上に、ケイ素などのアルコキシドおよび/またはその部分重縮合物(A)を主体とする表面皮膜と、(A)と反応する官能基を持つウレタン樹脂などのバインダー樹脂(B)を主体とする下層皮膜を有する耐汚染性に優れた塗装膜が提案されているが、この塗装膜はあくまでも、二層からなるものであって、無機−有機複合ハイブリッド皮膜ではない。
また、特許文献4には、アルコキシシランの加水分解物とポリエステル樹脂とを含む液状配合物を金属表面に塗布し、次いで乾燥する、金属表面のコーティング方法が提案されている。しかしながら、このコーティング方法も、既にポリマー化されたポリエステル樹脂とアルコキシシランの加水分解物の有機溶剤系の溶液を用いるものであり、得られる皮膜は、アルコキシシランの縮合物とポリエステル樹脂との単なるブレンド物であって、無機−有機ハイブリッド皮膜ではない。
【特許文献1】特許第3139918号公報
【特許文献2】特開2002−143983号公報
【特許文献3】特開2006−82414号公報
【特許文献4】特開平7−68217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、以下の目的を達成するための、あらゆる物体上に常温で結晶化し、無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜を生成することができるコーティング溶液を提供することを目的とする。
(a)常温で結晶化し、無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜を形成できる。
(b)常温で結晶化し、無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜を形成する際、皮膜の表面張力を調整し、比較的高温(200℃)の物体にもセラミックス皮膜を形成できる。
(c)本発明の溶液を用い、空気混合アトマイズにより、超微粒子の無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜を形成できる。
(d)本発明の溶液により得られる無機−有機ハイブリッドの皮膜は、親水性であり、金属に塗布することにより、結露による錆、硫化水素雰囲気などによる腐食を防止でき、さらに、高温酸化を防止できる。
(e)物体に絶縁皮膜を形成することができる。
(f)金属材料に塗布し、300℃以上に耐える防食皮膜を形成する。
(g)化成処理したマグネシウム合金に塗布し、防錆皮膜を形成する。
(h)陽極酸化処理を行った金属に被覆し、高温防錆、耐熱皮膜を形成する。
(i)MCrAlYならびにMCoNiAlYなどの高温耐熱皮膜(TBC)を施した耐熱合金に塗布し、高温酸化、腐食を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、周期律表4A族の金属アルコキシド、周期律表4B族(炭素を除く)の金属アルコキシド、周期律表3A族の金属アルコキシド、周期律表3B族の金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解物の群から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類と、アルカリ金属のアルカリ化合物および/またはアルカリ土類金属のアルカリ化合物を含むアルコール溶液を主成分とする溶液中に、2液性樹脂の主剤と硬化剤とが、互いに反応することなく含有されていることを特徴とするコーティング溶液に関する。
ここで、本発明のコーティング溶液は、周期律表4A族の金属アルコキシド、周期律表4B族(炭素を除く)の金属アルコキシド、周期律表3A族の金属アルコキシド、周期律表3B族の金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解物の群から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類と、アルカリ金属のアルカリ化合物および/またはアルカリ土類金属のアルカリ化合物を含むアルコール溶液を主成分とする溶液を、2液性樹脂の主剤と硬化剤に個別に混合後、両溶液を混合して得られるものが好ましい。
また、本発明のコーティング溶液は、上記アルコール溶液を主成分とする溶液に、さらにシランカップリング剤が金属アルコキシド類に対し1〜10重量%添加されていてもよい。
さらに、本発明のコーティング溶液は、上記アルコール溶液を主成分とする溶液に、さらにジアルコキシランおよび/またはシリコーンオイルが合計で金属アルコキシド類に対し1〜5重量%添加されていてもよい。
さらに、本発明のコーティング溶液は、上記アルコール溶液を主成分とする溶液に、さらに無機質微粒子が金属アルコキシド類に対し1〜10重量%添加混合されていてもよい。
上記2液性樹脂は、主剤がポリオール化合物であり、硬化剤がポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
次に、本発明は、以上のコーティング溶液を、物体に塗布する、無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法に関する。
上記塗布手段としては、空気混合アトマイズであってもよい。
また、本発明の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法によれば、上記コーティングーティング溶液を物体に塗布したのち、有機アミン化合物または金属触媒を有機溶媒に希釈した溶液に浸漬することにより、あるいはNHガスまたはトリアルキルアミンガス雰囲気下において、溶液に分散した樹脂の付加重合を促進させてもよい。
上記有機アミン化合物としては、4−フェニルプロピルピリジンが好ましい。
また、物体としては、金属が挙げられる。
さらに、物体としては、化成処理を施した金属が挙げられる。
さらに、物体としては、燐酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウムを主成分とする化成処理を行ったマグネシウム合金が挙げられる。
さらに、物体としては、陽極酸化処理を行った金属が挙げられる。
さらに、物体としては、クロム拡散処理(MCrAlYまたはCoNiCrAlY)を行った金属が挙げられる。
さらに、物体としては、有機物であってもよい。
上記有機物としては、木材もしくは天然繊維、または有機系高分子材料が挙げられる。
次に、本発明は、以上のような無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法によって得られる皮膜に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜の形成において、常温で結晶化するため、溶液を塗布したあと、焼成するという工程が簡素化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜(以下「セラミックス皮膜」ともいう)を形成する溶液は、周期律表4A族の金属アルコキシド、周期律表4B族(炭素を除く)の金属アルコキシド、周期律表3A族の金属アルコキシド、周期律表3B族の金属アルコキシド、およびその部分加水分解物から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類と、アルカリ金属のアルカリ化合物および/またはアルカリ土類金属のアルカリ化合物を含むアルコール溶液を主成分とする溶液中に、2液性樹脂の主剤と硬化剤とが、互いに反応することなく、分散または溶解して含有されてなるものである。
本発明のコーティング溶液の好ましい態様としては、上記アルコール溶液を主成分とする溶液を、2液性樹脂の主剤と硬化剤に個別に混合後、両溶液を混合して得られるものが挙げられる。
このような混合方法によれば、2液性樹脂を構成する主剤(例えば、後記するポリオール化合物)と硬化剤(例えば、後記するポリイソシアネート化合物)が、それぞれの分子が溶媒となるアルコール類に取り囲まれて、互いに不活性な状態となって、溶液中に分散あるいは溶解して含有されており、主剤と硬化剤が互いに反応することなく、併存することになる。
本発明の溶液は、溶液内で化学反応をすることなく、金属素体、有機物素体、無機物素体などの物体に塗布、または、スプレー塗布すると、大気中の水分を吸って、金属アルコキシド類が触媒である上記アルカリ化合物により、加水分解・縮合が進むと同時に、溶媒であったアルコール類が大気中に揮発するにともない、主剤(ポリオール化合物)と硬化剤(ポリイソシアネート化合物)の重合が進み、常温で結晶化し、無機−有機ハイブリッドのセラミックス皮膜を形成する。
【0009】
本発明の常温で結晶化し、セラミックス皮膜を形成する溶液は、アルコール溶剤中に成分として、一般式R(OR)4-mまたはM(OR)(ただし、式中Mは周期律表4A族または炭素以外の4B族の金属を示し、Mは周期律表3A族または3B族の金属を示し、Rは互いに同じかあるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基または炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基であり、MがSiの場合にはm=0〜3の整数であって、MがSi以外の場合にはm=0である)で表されるアルコール可溶性の金属アルコキシドおよびその部分加水分解物から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類を金属酸化物換算で1〜50重量%と、下記一般式MOR´またはM(OR)(ただし、式中Mはアルカリ金属を示し、Mはアルカリ土類金属を示し、R´は水素または炭素数1〜6のアルキル基を示す。Rは、上記と同様である。)で表されるアルコール可溶性のアルカリ化合物を金属酸化物換算で0.5〜16重量%を含有するものである。
【0010】
本発明において、溶液の成分を構成する金属アルコキシドは、周期律表4A族または炭素以外の4B族の金属Mまたは周期律表3A族または3B族の金属Mの金属アルコキシドまたはそれらの部分加水分解物である。ここで、金属アルコキシドを形成する金属Mとしては、周期律表4A族金属としてTi、Zrなどを挙げることができ、また、炭素以外の周期律表4B族金属としてSi、Ge、Sn、Pbなどを挙げることができ、そしてMとしては、周期律表3A族金属としてSc、Yなどを挙げることができ、さらに、3B族金属としてB、Al、Gaなどを挙げることができる。
【0011】
また、上記金属アルコキシドを形成するRは、互いに同じかあるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基または炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基である。具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基などを、また、アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基などを、さらに、アルコキシアルキル基としては、メトキシエチル基、メトキシイソプロピル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基などを、またアリールオキシアルキル基としては、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、フェノキシプロピル基、フェノキシブチル基、トリロキシメチル基、トリロキシエチル基、トリロキシプロピル基、トリロキシブチル基などを挙げることができる。
【0012】
そして、このような金属アルコキシドの部分加水分解物としては、それが加水分解率0%以下であってアルコール溶剤に溶解すれば特に制限はなく、直鎖状部分加水分解物であっても、網目状部分加水分解物であっても、また、環状部分加水分解物であっても良い。
さらに、これら金属アルコキシドおよびその部分加水分解物からなる金属アルコキシド類は、その1種のみを単独で使用してもよく、また、2種以上の混合物として使用することもできる。
【0013】
本発明において、上記金属アルコキシド類として最も好ましいものは、一般式RSi(OR)4-m(ただし、式中Rは互いに同じかあるいは異なる炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜8のアリール基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基または炭素数7〜12のアリールオキシアルキル基であり、mは0〜3の整数である)で表される珪酸エステルおよびアルキル珪酸エステル、ならびにこれらの部分加水分解物から選ばれた1種または2種以上の珪酸エステル類である。
【0014】
具体的には、テトラアルコキシシランとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、エトキシトリメトキシシラン、メトキシトリイソプロポキシシラン、ジメトキシジイソプロポキシシラン、メトキシトリプトキシシランなどを挙げることができ、また、アルキルトリアルコキシシランとして、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリプトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシランなどを挙げることができる。

【0015】
また、ジアルキルジアルコキシシランとして、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシランなどを挙げることができ、また、トリアルキルアルコキシシランとして、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルイソプロポキシシランなどを挙げることができる。
【0016】
さらに、アリールオキシシランとして、テトラフェノキシシラン、テトラトリロキシシランなどを挙げることができ、また、アルキルアリールオキシシランとして、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン、ジエチルジフェノキシシラン、メチルトリトリロキシシランなどを挙げることができる。
【0017】
さらにまた、アルコキシアルキルシランとして、テトラメトキシメチルシラン、テトラメトキシエチルシラン、テトラメトキシイソプロピルシラン、テトラエトキシメチルシラン、テトラエトキシエチルシラン、テトラエトキシイソプロピルシランなどを挙げることができ、また、アリールオキシアルキルシランとして、テトラフェノキシメチルシラン、テトラフェノキシエチルシラン、テトラフェノキシプロピルシラン、テトラフェノキシイソプロピルシラン、テトラトリロキシエチルシランなどを挙げることができる。
【0018】
そして、その他の好ましい金属アルコキシド類としては、テトラブトキシチタン、テトラブトキシジルカン、トリイソプロポキシアルミンなどが挙げられる。
【0019】
本発明の溶液中における、これらの金属アルコキシド類の含有量については、金属酸化物換算(例えば、金属アルコキシド類が珪酸エステル類の場合はSiO2換算)で1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%の範囲であるのがよく、1重量%未満では、皮膜にした際にこの金属アルコキシド類由来の金属酸化物の含有量が不足し、セラミックス皮膜を形成する所望の強度を得ることができず、一方、50重量%を超えると、溶解度の点からアルカリ化合物の溶解量が0.5重量%未満になり、鉱化剤(Mineraizer)とならず常温でセラミックス皮膜が得られない。
【0020】
また、アルコール溶液中の他の成分であるアルカリ化合物については、金属Mとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができ、好ましくはナトリウム、カリウムを挙げることができる。金属Mとしては、Ca,Sr,Ba,Raを挙げることができる。また、このアルカリ金属アルコキシドを形成する置換基R´としては、水素またはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの炭素数1〜6のアルキル基、またはフェノキシ基、トリロキシ基、またはアルコキシアルキル基またはアリールオキシアルキル基などを挙げることができる。これらのアルカリ化合物は、その1種のみを単独で用いてもよく、また、2種以上の混合物として用いても良い。
【0021】
このように、本発明に用いられる溶液は、アルコール溶剤中にアルキルシリケートまたはアリルシリケートの部分加水分解物の中にアルカリ化合物、例えばナトリウムアルコラートまたはその水酸化物などを添加して使用することを特徴とする。ナトリウムアルコラートは、強アルカリであるが、アルキルシリケートまたはアリルシリケートなどの金属アルコキシド類を加水分解させることなく、均一に溶解させることができる。本発明の溶液の硬化機構は明らかではないが、以下のように推察される。

【0022】
すなわち、ナトリウムアルコラートとして例えばナトリウムエチラート(CONa)、アルキルシリケートとして例えばエチルシリケートが部分加水分解された分量をアルコールに混合すると、空気中で、Naの適量が、鉱化剤(Mineraizer)として働き、常温でセラミックス皮膜を形成し、SiO2は結晶化する。
【0023】
本発明の溶液中における、このアルカリ化合物の含有量については、金属酸化物換算(例えば、アルカリ化合物の金属がナトリウムの場合はNa2O換算)で0.5〜16重量%、好ましくは3〜4重量%の範囲である。0.5重量%未満では、シリカゲルとなり、このアルカリ金属アルコキシド由来の金属酸化物の含有量が不足し、所望のセラミックス皮膜を形成せず、一方、16重量%を超えると、不定形の水ガラスとなり、セラミックス皮膜を形成しない。
【0024】
さらに、上記溶液の成分の金属アルコキシド類およびアルカリ化合物を溶解するアルコール溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルメチルセロソルブ、フェニルエチルセロソルブなどを挙げることができる。
【0025】
一方、セラミックス皮膜を形成する溶液と混合する2液性樹脂には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル系樹脂、イミド樹脂、アミド樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。この中で、耐薬品性、対候性、経済性からウレタン樹脂が望ましい。
【0026】
本発明の2液性樹脂は、比較的膜厚の厚い膜を形成するために添加する。特に、皮膜にセラミックス成分を多く含有するためのキャリアの役目を目的とする。
本発明の溶液は、高分子材料と反応して有機化合物を生成し、基材の耐熱性を改善する。
【0027】
本発明の2液性樹脂は、好ましくは、主剤としてポリオール化合物、硬化剤としてポリイソシアネート化合物が挙げられる。本発明は、本発明の溶液に主剤であるポリオール化合物を5〜10重量%、硬化剤であるイソシアネート樹脂を5〜10重量%をあらかじめ個別に混合して溶液のアルコール成分により個々の付加重合を抑えた状態で、溶液のウレタン樹脂成分が5〜10重量%になるように調整することが望ましい。
【0028】
ここで、本発明に使用できるポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオールの3種に大きく分けられる。ポリエーテルポリオールとは分子内に2個以上の水酸基を持つ化合物にアルキレンオキシドを付加したものであり、例としてエチレングリコール、プロピレングリコール、1.4−ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、またはこれらのアルキレンオキシド付加物、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアカノールアミンまたはこれらのアルキレンオキシド付加物、エチレンジアミンなどのアルキレンオキシド付加物などがある。ここで、アルキレンオキシドとしては、プロピレンオキシド、エチレンオキシドなどが挙げられる。
【0029】
また、ポリイソシアネート化合物は、一般にポリウレタンフォームの形成に使用できるイソシアネートはすべて使用可能であるが、ジフェニルメタンジイソシアネート
および/またはポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、もしくはその変性物(以下MDIと言う。)を50重量%以上、特に90重量%以上含有したものを使用するのが望ましい。また、該MDI成分は2.2´−および2.4´−ジフェニルメタンジイシアネートを5〜20重量%、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート
を20〜70重量%含有したものが望ましく、ジフェニルメタンジイソシアネート またはポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート は、一部をウレタンで変性したものも使用できる。該MDI成分のイソシアネート
基含有量は18.8〜32.0重量%が望ましい。本発明で使用できるイソシアネート のうち残りの部分には、一般にウレタンフォーム製造に使われるものはすべて使用できる。例としてトリレンジイシアネートが挙げられる。
なお、溶液中には、触媒として、ウレタン化反応を促進する触媒を併用することもできる。この触媒の例としてトリエチレンジアミン、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N´,N´−テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどを用いることができる。
【0030】
本発明の溶液中に分散された2液性樹脂の主剤(ポリオール化合物)と硬化剤(ポリイソシアネート化合物)は、コーティング溶液が物体に被覆した時点で、ポリオール化合物およびポリイソシアネート化合物の末端保護剤となっていたアルコール溶剤の大気中への揮発にともない、該ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物がウレタン化反応により付加重合して、上記金属アルコキシド類に起因するポリシロキサンとウレタン樹脂からなる無機−有機系複合皮膜を形成する。
【0031】
なお、本発明の常温で結晶化し、セラミックス皮膜を形成する溶液に、ディップコート、スピンコーティング時の皮膜の密着性の向上と皮膜の亀裂を防止するため、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤としては、アミノシラン、ウレイドシラン、エポキシシランなどが挙げられる。ここで、シランカップリング剤を使用する場合には、2点架橋シラン(ジメチルエトキシシランなど)と3点シラン(トリメトキシシランなど)とにより架橋点をコントロールすることにより、塗布、重合時の収縮にともなう亀裂の発生を防止することが好ましい。該シランカップリング剤を水および/または有機溶剤に溶解または分散させて、本発明の溶液に添加して使用することが好ましい。
ここで本発明の溶液に使用される有機溶剤としては、アルコール溶剤などが挙げられる。溶液中にシランカップリング剤を添加することにより、本発明により得られるセラミックス皮膜は、高分子材料および/物質と反応して、溶液と物体の表面と塗布層を強固に付着させることができ、さらに、皮膜の亀裂を防止する。上記、シランカップリング剤の使用量は、本発明の溶液に対して、2点架橋シランと3点架橋シランを、上記金属アルコキシド類に対し、通常、合計で1〜10重量%程度、好ましくは3点架橋シランを1〜5重量%および2点架橋シランを1〜3重量%で制御することが好ましい。
【0032】
また、本発明のセラミックス皮膜を形成する溶液は、種々の目的で上記以外の添加物を添加することができ、例えば、ジアルコキシシランおよび/またはシリコーンオイルを添加することにより、表面張力の調整、皮膜の粘結性、含浸性の向上が可能となる。ジアルコキシシランとしては、3−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
ジアルコキシシランおよび/またはシリコーンオイルの添加量は、本発明の溶液の上記金属アルコキシド類に対して、好ましくは合計で1〜5重量%である。
【0033】
さらに、本発明のセラミックス皮膜を形成する溶液には、有機物、無機質微粒子(以下、「微粒子」ともいう)を添加することができる。
添加可能な、有機物としては、ポリエチレングリコール、無機物微粒子としては、ヒュームドシリカ、ZrO2、TiO2、Al2O3が好ましい。これらの添加量は、本発明の溶液の上記金属アルコキシド類に対し、添加物の比重と粒度によるが、1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。

【0034】
本発明のコーティング溶液は、常温で結晶化し、セラミックス皮膜を形成する溶液を物体へ塗布し、常温でセラミックス皮膜を得ることができるが、本発明の溶液を物体へ塗布する方法は、浸漬、刷毛塗り、スプレー塗布、スピンコートなどが挙げられる。本発明の溶液により形成された皮膜は、エンドキャップとして有機アミン化合物または金属触媒の有機溶媒溶液に浸漬することで、付加重合が促進される。また、NHガスまたはトリアルキルアミンガスなどの有機アミンガス雰囲気下で晒すことによっても付加重合が促進される。トリアルキルアミンガスとしては、トリメチルアミンガス、トリエチルアミンガスなどが挙げられる。
【0035】
硬化促進剤として使用する有機アミン化合物としては、4−フェニルプロピルピリジン、トリメチルアミンなどがあるが、4−フェニルプロピルピリジンが好ましい。
4−フェニルプロピルピリジンは、0.1%〜5%をベンゼン、トルエン、MEKなどの有機溶媒で希釈して使用する。
上記金属触媒としては、スズ系金属触媒である、DOTDL(ジオクチルスズジラウレート)が好ましく、10〜100ppmの濃度で有機溶媒に溶かして使用することが好ましい。
【0036】
また、本発明のコーティング溶液は、空気混合アトマイズにより超微粒化し、緻密で、丈夫な皮膜を形成することができる。
すなわち、本発明のコーティング溶液は、アルコール溶液であることから、スプレーによる圧搾空気アトマイズにより、超微粒状化する。従来のセラミックスは、粒径と空隙率が特性を左右する。緻密で小さく揃った粒子の焼結が要点である。
本発明では、アトマイゼーションにより物体上に微粒皮膜が形成される。溶液の微粒化は、液膜の破断と、破断した液膜の凝集により球状の液滴が形成することである。界面張力の小さなアルコール系の液膜は界面が不安定で、切断しやすく微粒化が容易である。液体を気体と混合させることにより、霧状の微細粒子が得られる。気体の割合が高いほど粒子径が細かくなる。好ましい気体の割合は、膜厚にもよるが、低圧で、0.05MPa以下が好ましい。常温でアトマイゼーションによって得られた超微粒子皮膜は、非常に緻密なセラミックス皮膜である。この皮膜は、あらゆる物質の表面に形成することができ、物質上にセラミックスの界面特性を付加することができ、新たな機能が期待できる。
【0037】
本発明のコーティング溶液は、あらゆる物体上に常温でセラミックス皮膜を形成することができる。
上記物体は、金属のほか、高分子材料、紙、木材などの有機物であっても良い。
金属としては、化成処理を施した金属であることが好ましく、化成処理を施した金属としては、燐酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウムを主成分とする化成処理を行ったマグネシウム合金が好ましい。また、陽極酸化処理を行った金属であるアルミニウム合金、クロム拡散処理(MCrAlYまたはCoNiCrAlY)を行った金属であるNi基合金でもよい。上記陽極酸化処理は多孔質であるが、本発明のコーティング溶液により緻密なセラミックス皮膜を形成することができる。クロム拡散処理は、Ni基合金に使用されるが、本発明のコーティング溶液により形成された皮膜は、1,420℃まで安定であり、高温における皮膜のAlの酸化を防ぐ。そのほか、燐酸処理された炭素鋼、ステンレス合金などが挙げられる。溶液を塗布する物体が金属である場合は、常温から1,000℃以上の温度でセラミックスの特性である耐熱性、耐蝕性、絶縁性を有する。
本発明のコーティング溶液を金属上に被覆した場合、300℃以上の耐熱性を有する耐食性皮膜を形成する。
【0038】
高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、エチレン−α−オレフィン系共重合体[EP(D)M]などが挙げられ、本発明の溶液を塗布することにより、耐熱強度が改善される。
【0039】
また、本発明において、コーティング溶液を塗布する物体としては、紙、木材などの有機物であっても良い。本発明のコーティング溶液による皮膜は親水性のため、結露の防止、帯電防止などの耐熱セラミックス皮膜を生成する。
【0040】
本発明のコーティング溶液を、これらの物体の表面に塗布する際の塗布量は、物体の表面の酸化膜および表面粗さにより、乾燥膜厚で、通常、20nm〜6μmであるが、好ましくは2μm〜6μm程度である。
厚塗りの場合には、物体へのコーティングを複数回行えばよい。
また、本発明のコーティング溶液を物体へ塗布したのちの乾燥条件は、通常、20〜30℃で60分以上、好ましくは25〜30℃で60分程度、常温乾燥する。
さらに、この常温乾燥後、必要に応じて、70〜80℃で30〜60分、好ましくは70℃で30分程度、高温乾燥してもよい。
【0041】
なお、このようにして得られる本発明の皮膜中には、本発明に用いられるアルカリ化合物に起因するアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属が残存しているので、水、あるいはエタノールアミン水溶液で洗浄することが好ましい。この洗浄により、例えばアルカリ金属がナトリウムの場合、水酸化ナトリウム水溶液あるいは炭酸ナトリウム水溶液として、皮膜からナトリウム原子を除去することができる。
【0042】
このようにして得られる皮膜中の組成は、通常、金属アルコキシド類がシリカ(SiO)換算で5〜20重量%、好ましくは10〜16重量%、ウレタン樹脂などの二液性樹脂を固形分換算で5〜10重量%(ただし、金属アルコキシド類+二液性樹脂=100重量%)である。
【0043】
このようにして得られる本発明の皮膜は、有機物からなる物体、例えば高分子材料の耐熱性を300℃以上に改善する。なお、この無機−有機ハイブリッド皮膜中の有機物(ウレタン樹脂)は、400℃で分解する。
また、本発明コーティング溶液から形成される皮膜は、常温で結晶化し、無機−有機ハイブリッドの皮膜(有機シラン化合物)を形成し、900℃以上の温度に曝されると、瞬時にしてトリジマイト結晶に転移し、1,460℃まで安定した耐熱性を示す。さらに、1,600℃以上の高熱にも耐えうる皮膜を形成することができる。従来、このように形成された皮膜は、特許3139918号公報に提案されているように、高温焼成し、セラミック化しないと耐熱性が得られないとされていた。しかし、本発明のコーティング溶液による皮膜が常温で結晶化することがTEM検査(反射光速電子線回析検査)で確認されており、常温でセラミックス皮膜が生成する。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例−1
テトラエトキシシラン(ワッカー社製、エチルシリケート40)200gを内容量2リットルの密閉可能な混合容器に分取し、これにi−プロピルアルコール100gを添加し、スターラーを用いて密閉状態で10分間撹拌し、次に25℃で30分間、このエチルシリケートの加水分解を行い、さらにその後、25℃で6時間密閉状態で保持し、加水分解率30%のエチルシリケート加水分解溶液を調製した。
次に、このエチルシリケート加水分解溶液に21重量%濃度のCONaのエタノール溶液35.1gとi−プロピルアルコール344.9gとを添加し、スターラーを用いて密閉状態で25℃で30分間撹拌し、溶液を調製した。この溶液をMX溶液と称する。このMX溶液は、SiO換算の固形分濃度が20重量%で、NaO換算で3重量%のアルコール(i−プロピルアルコール)溶液である。
【0045】
このMX溶液を二つに分け、二液性樹脂の主剤として、ポリオールとして、日本ポリウレタン社製のニッポラン5196(ポリカーボネート系ポリオール、溶剤として、メチルエチルケトンを30〜40重量%、シクロヘキサノン30〜40重量%含み、固形分濃度が30重量%、粘度が3,000Pcsのポリオール溶液)と、硬化剤として、同社製のコロネートHX(変性ポリイソシアネート、純度99%以上)を、固形分がそれぞれ5重量%になるように、MXに溶解した後、2液を混合して、本発明のコーティング溶液を調製した。
【0046】
次いで、この溶液中にサイズが10×200×1.6mmの鋼板を浸漬してコーティングを行い、常温(25℃)で30分間、乾燥・硬化を行い、次いで70℃で30分間、加熱処理して皮膜を硬化させ、さらに、水洗浄を行って、ナトリウムイオンを除去し、乾燥膜厚が2μm以上で300℃以上の耐熱性を有する耐食皮膜(無機−有機ハイブリッドの皮膜)を形成させることができた。
【0047】
実施例−2
サイズが10×200×1.6mmのマグネシウム合金を、防錆処理として、Dow Chemical Treatment #18 (燐酸アンモニウム450g、硫酸アンモニウム110g、およびアンモニア水60gからなる溶液)で化成処理し、実施例1で用いられたと同様の本発明の溶液に浸漬して、実施例1と同様にして、常温乾燥・硬化、加熱硬化、水洗浄を行って、乾燥膜厚が2μmの皮膜を形成させた。得られた皮膜は、30℃以下、塩水噴霧試験(5%)2時間、5回以上の繰り返しでも、完全な皮膜であることを確認した。
【0048】
実施例−3
本発明の無機−有機系ハイブリッドのコーティング溶液は、浸漬で2μm以上の膜厚が生成でき、固形分の調整により、素材に適正な膜厚制御が可能であり、得られるコーティング皮膜は、素材の表面性質により変化する。
サイズがいずれも、10×200×1.6mmの、鋼板、アルミニウム板、マグネシウム合金板、白板ガラスを用い、実施例1と同様の無機−有機ハイブリッド系溶液に浸漬し、実施例1と同様にして、それぞれの板に皮膜を形成させた。
これらのテストピースを用いて、実施例−2と同様にして、塩水による耐食試験を行った。
なお、皮膜の膜厚は、テストピースの溶液への浸漬回数や、溶液濃度により調整した。
また、耐食試験における評価は次のとおりである。
◎:良好
○:普通
△ :やや良好
×:膜のクラック
【0049】
【表1】

【0050】
表1から、本発明のコーティング溶液は、被塗工物体の素材によって、得られる効果が異なるものの、耐食性に優れることが分かる。
なお、ガラス板の場合は、皮膜の膜厚が20〜40nmにおいて、耐食性に優れるが、膜厚が2μm以上では耐食性が劣っている。この理由は、ガラスの表面粗度が微細であり、皮膜を要する表面積が少なく、過剰の皮膜は、乾燥時間の不足・縮重合により、クラックを誘引するものと考えられる。
一方、鋼板、アルミニウム板、マグネシウム合金板の場合は、膜厚が2〜6μmで耐食性に優れるが、20μm以上と厚い場合には、かえって耐食性が悪い。この理由は、膜厚が厚すぎて、収縮割れが生じるものと考えられる。また、膜厚がnmオーダーの場合も、耐食性が劣っているが、これは表面積に十分な量の皮膜が不足していることに起因するものと考えられる。
【0051】
実施例−4
実施例1で用いたと同様の鋼板製のテストピースを、実施例1と同様の本発明のコーティング溶液に浸漬し、実施例1と同じ条件で常温乾燥したのち、1時間以内の皮膜状態を観察した。結果を表2に示す。
【0052】
皮膜生成状況:
浸漬、乾燥後の皮膜の生成状況を観察した。
◎:良好
○:普通
×:不完全
皮膜表面:
白色は皮膜が少なく物体と皮膜に間隙が出来た状態、クリアは透明な状態であることを示す。
クラック:
常温乾燥後、1時間以内のクラックの発生の有無を観察した。
◎:良好
○:普通
ダレ:
皮膜表面に液ダレが発生していないか否かを観察した。
◎:良好
○:普通
△:ダレがでるが皮膜を形成
×:均一な皮膜を形成しない。
アルコール溶解:
常温乾燥後、1時間以内に、皮膜表面に常温でエタノールを噴霧し、皮膜の表面の乾燥状態を観察した。
◎:30分以内で不溶
○:60分以内で不溶
×:乾燥が不十分で表面が不安定
ナトリウム洗浄:
温乾燥後、1時間以内に、皮膜表面を常温の水で洗浄し、皮膜の表面を観察した。






【0053】
【表2】

【0054】
実施例6、比較例1〜2
実施例1で用いたと同様の本発明のコーティング溶液(実施例6)を用いて、実施例1で用いたと同様の鋼板に、実施例1と同様にして、乾燥膜厚が2〜6μmの皮膜を形成させて、皮膜生成、耐塩酸性、耐硫酸性、耐塩水性、皮膜状況を観察した。結果を表3に示す。
また、ウレタン樹脂(ポリオール+ポリイソシアネート、実施例6)の代わりに、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(比較例1)、ポリエチレングリコール(PEG#6000)(比較例2)を用いる以外は、実施例6と同様にして、皮膜を形成させた。結果を表3に示す。
【0055】
膜厚:
1回の塗布(浸漬)で形成される膜厚の数値範囲を示す。
皮膜生成:
常温で硬化し、皮膜が生成するものを「常温」と評価、250℃で加熱しないと、硬化して皮膜を形成しないものを「要加熱(250℃)」と評価した。
耐塩酸性:
塩酸/水(重量比)=1:1の塩酸水溶液を用いて、常温で浸漬した後、目視で耐塩酸性を評価した。
○は、耐塩酸性評価後の皮膜の表面に変化がないことを示し、「3層以上」とは、3回以上塗布(浸漬)した皮膜でないと、○の評価にならないことを示す。
耐硫酸性:
濃度5重量%の塩水を用いて、常温で浸漬した後、目視で耐硫酸性を評価した。
○は、耐塩酸性評価後の皮膜の表面に変化がないことを示し、「3層以上」とは、3回以上塗布(浸漬)した皮膜でないと、○の評価にならないことを示す。
耐塩水性:
濃度5重量%の塩水を用いて、常温で浸漬した後、目視で耐塩水性を評価した。
○は、耐塩水評価後の皮膜の表面に変化がないことを示し、「3層以上」とは、3回以上塗布(浸漬)した皮膜でないと、○の評価にならないことを示す。
皮膜状況:
浸漬し、常温で60分間乾燥後、目視により皮膜状況を観察した。








【0056】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0057】
新たな材料技術は、高分子材料では300℃以上の耐熱性、金属材料では1,150℃を限界とする耐酸化性の克服など、界面の機能が要求されている。本発明の常温で結晶化し、セラミックス皮膜を生成するコーティング溶液は、これまで、組成成分に頼ってきた金属の耐熱性、耐蝕性、合成樹脂の耐熱性、塗料の耐蝕プライマー、耐熱繊維、結露によるシックハウス建材など、従来の産業分野においても、化学的に整備されていない300℃〜700℃の温度域における機能の要求を満たすものである。従って、本発明の常温で結晶化し形成されるセラミックス皮膜は、界面を利用するあらたな材料技術を提供することができ、具体的には、自動車産業におけるアルコール燃料の使用に伴うアルミニウム合金の腐食、排気系部品の金属腐食、電子機器部品に於ける光学系、並びに絶縁材料の耐熱性、ガスタービンエンジン部品の高温耐酸化性皮膜などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表4A族の金属アルコキシド、周期律表4B族(炭素を除く)の金属アルコキシド、周期律表3A族の金属アルコキシド、周期律表3B族の金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解物の群から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類と、アルカリ金属のアルカリ化合物および/またはアルカリ土類金属のアルカリ化合物を含むアルコール溶液を主成分とする溶液中に、2液性樹脂の主剤と硬化剤とが、互いに反応することなく含有されていることを特徴とするコーティング溶液。
【請求項2】
周期律表4A族の金属アルコキシド、周期律表4B族(炭素を除く)の金属アルコキシド、周期律表3A族の金属アルコキシド、周期律表3B族の金属アルコキシド、およびこれらの部分加水分解物の群から選ばれた少なくとも1種の金属アルコキシド類と、アルカリ金属のアルカリ化合物および/またはアルカリ土類金属のアルカリ化合物を含むアルコール溶液を主成分とする溶液を、2液性樹脂の主剤と硬化剤に個別に混合後、両溶液を混合して得られる、請求項1記載のコーティング溶液。
【請求項3】
アルコール溶液を主成分とする溶液に、さらにシランカップリング剤が金属アルコキシド類に対して1〜10重量%添加された請求項1または2記載のコーティング溶液。
【請求項4】
アルコール溶液を主成分とする溶液に、さらにジアルコキシランおよび/またはシリコーンオイルが合計で金属アルコキシド類に対し1〜5重量%添加された請求項1〜3いずれかに記載のコーティング溶液。
【請求項5】
アルコール溶液を主成分とする溶液に、さらに無機質微粒子が金属アルコキシド類に対し1〜10重量%添加混合された請求項1〜4いずれかに記載のコーティング溶液。
【請求項6】
上記2液性樹脂の主剤がポリオール化合物であり、硬化剤がポリイソシアネート化合物である請求項1〜5いずれかに記載のコーティング溶液。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載されたコーティング溶液を、物体に塗布する、無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項8】
空気混合アトマイズにより、物体に塗布する請求項7記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1〜6いずれかに記載されたコーティング溶液を物体に塗布したのち、有機アミン化合物または金属触媒を有機溶媒に希釈した溶液に浸漬することにより、あるいはNHガスまたはトリアルキルアミンガス雰囲気下において、溶液に分散した樹脂の付加重合を促進させる、請求項7または8記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項10】
有機アミン化合物が4−フェニルプロピルピリジンである、請求項9記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項11】
物体が金属である請求項6〜10いずれかに記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項12】
物体が化成処理を施した金属である請求項11に記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項13】
物体が燐酸アンモニウムおよび硫酸アンモニウムを主成分とする化成処理を行ったマグネシウム合金である、請求項12に記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項14】
物体が陽極酸化処理を行った金属である請求項6〜11いずれかに記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項15】
物体がクロム拡散処理(MCrAlYまたはCoNiCrAlY)を行った金属である請求項6〜11いずれかに記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項16】
物体が有機物である請求項6〜10いずれかに記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項17】
物体が木材もしくは天然繊維、または有機系高分子材料である請求項16に記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法。
【請求項18】
請求項7〜17いずれかに記載の無機−有機ハイブリッド皮膜の形成方法によって得られる皮膜。

【公開番号】特開2008−150542(P2008−150542A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342151(P2006−342151)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(505041726)株式会社キャディック (4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】